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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174502
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】イオン検出器及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/20 20060101AFI20241210BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01J43/20
H01J49/02 500
H01J49/02 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092359
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛志
(57)【要約】
【課題】小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができるイオン検出器を提供する。
【解決手段】イオン検出器1は、イオンPが入射することで電子Eを放出するコンバージョン領域3aを有するコンバージョンダイノード3と、電子Eが入射する電子入射面42bを有する電子増倍部4と、コンバージョン領域3aから電子入射面42bに進行する電子Eを通過させるアパーチャ5aを有するアパーチャ電極5と、を備える。コンバージョン領域3aは、電子Eを放出する空間側に凸状の領域である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンが入射することで電子を放出するコンバージョン領域を有するコンバージョンダイノードと、
前記電子が入射する電子入射面を有する電子増倍部と、
前記コンバージョン領域から前記電子入射面に進行する前記電子を通過させるアパーチャを有するアパーチャ電極と、を備え、
前記コンバージョン領域は、前記電子を放出する空間側に凸状の領域である、イオン検出器。
【請求項2】
前記コンバージョン領域は、前記アパーチャ電極の前記アパーチャを挟んで前記電子増倍部の前記電子入射面と向かい合っている、請求項1に記載のイオン検出器。
【請求項3】
前記コンバージョン領域は、前記アパーチャの中心線に垂直な方向から見た場合に、前記中心線に関して線対称な凸状の領域である、請求項2に記載のイオン検出器。
【請求項4】
前記コンバージョン領域は、前記凸状の領域が前記アパーチャの中心線と交差する方向に延在するように形成されている、請求項3に記載のイオン検出器。
【請求項5】
前記コンバージョンダイノードへ入射する前記イオンを導入するイオン入射口を有する仕切り部を更に備え、
前記イオン入射口は、前記イオン入射口の中心線が前記アパーチャの中心線及び前記コンバージョン領域の延在方向と交差するように配置されており、
前記電子増倍部の前記電子入射面は、前記コンバージョン領域の延在方向に沿って延在している、請求項4に記載のイオン検出器。
【請求項6】
前記仕切り部は、前記アパーチャ電極とともに、前記コンバージョンダイノードを包囲する包囲空間を形成する、請求項5に記載のイオン検出器。
【請求項7】
前記コンバージョン領域は、曲面状の領域である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項8】
前記コンバージョン領域の頂点に接する第1仮想面と前記コンバージョン領域における前記頂点以外の点に接する第2仮想面とが成す角度は、0度よりも大きく且つ60度以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項9】
前記コンバージョンダイノードに第1電位を付与し、前記電子増倍部の前記電子入射面に第2電位を付与し、前記アパーチャ電極に第3電位を付与する電位付与部と、を更に備え、
前記第2電位は、前記第1電位よりも高く、
前記第3電位は、前記第1電位以上であり且つ前記第2電位未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項10】
前記第1電位と前記第3電位との差は、前記第2電位と前記第3電位との差よりも小さい、請求項9に記載のイオン検出器。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン検出器を用いた、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン検出器及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン検出器として、イオンが入射することで電子を放出するコンバージョンダイノードと、コンバージョンダイノードから放出された電子を増倍する電子増倍部と、コンバージョンダイノードから放出された電子を電子増倍部の電子入射面に集束させるアパーチャ電極と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-086403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなイオン検出器では、イオンから電子への変換効率を高めるためにコンバージョンダイノードにその絶対値が大きい電位を付与する場合があるが、その場合、耐電圧性を確保する必要性から、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の距離を小さくすることが困難である。そこで、コンバージョンダイノードに付与する電位に、アパーチャ電極に付与する電位を近づけることでコンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の電位差を小さくし、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との距離を小さくすることが考えられる。しかし、その場合、コンバージョンダイノードから放出された電子が、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の電位差によって形成される電界だけでなく、コンバージョンダイノードと電子入射面との間の電位差によって形成される電界の影響も受けやすくなり、コンバージョンダイノードから放出された電子が、電子入射面の手前で集束されて、発散した状態で電子入射面に入射するおそれがある。その結果、電子入射面に入射する電子の量が減り、イオンの検出効率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができるイオン検出器及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオン検出器は、[1]「イオンが入射することで電子を放出するコンバージョン領域を有するコンバージョンダイノードと、前記電子が入射する電子入射面を有する電子増倍部と、前記コンバージョン領域から前記電子入射面に進行する前記電子を通過させるアパーチャを有するアパーチャ電極と、を備え、前記コンバージョン領域は、前記電子を放出する空間側に凸状の領域である、イオン検出器」である。
【0007】
上記[1]に記載のイオン検出器では、コンバージョンダイノードが、電子を放出する空間側に凸状の領域であるコンバージョン領域を有している。これにより、コンバージョン領域に電子が入射すると、コンバージョン領域から電子が発散して放出される。したがって、コンバージョンダイノードにその絶対値が大きい電位を付与する場合であってもコンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の距離を小さくできるとともに、コンバージョン領域から放出された電子を適切に電子入射面に集束させることが可能な電界を形成することができる。よって、上記[1]に記載のイオン検出器によれば、小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができる。
【0008】
本発明のイオン検出器は、[2]「前記コンバージョン領域は、前記アパーチャ電極の前記アパーチャを挟んで前記電子増倍部の前記電子入射面と向かい合っている、上記[1]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[2]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に集束させることが可能な電界を容易に且つ確実に形成することができる。したがって、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に確実に入射させることができる。
【0009】
本発明のイオン検出器は、[3]「前記コンバージョン領域は、前記アパーチャの中心線に垂直な方向から見た場合に、前記中心線に関して線対称な凸状の領域である、上記[2]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[3]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に集束させることが可能な電界をより容易に且つより確実に形成することができる。したがって、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に、より確実に入射させることができる。
【0010】
本発明のイオン検出器は、[4]「前記コンバージョン領域は、前記凸状の領域が前記アパーチャの中心線と交差する方向に延在するように形成されている、上記[3]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[4]に記載のイオン検出器によれば、放出された電子を電子入射面により確実に入射させることができるコンバージョン領域が、アパーチャの中心線と交差する方向に延在することで、イオンの検出効率のより一層の向上を図ることができる。
【0011】
本発明のイオン検出器は、[5]「前記コンバージョンダイノードへ入射する前記イオンを導入するイオン入射口を有する仕切り部を更に備え、前記イオン入射口は、前記イオン入射口の中心線が前記アパーチャの中心線及び前記コンバージョン領域の延在方向と交差するように配置されており、前記電子増倍部の前記電子入射面は、前記コンバージョン領域の延在方向に沿って延在している、上記[4]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[5]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョン領域から放出された電子の電子入射面への入射条件を当該延在方向において均一にする、且つ、電子増倍部の電子入射面における電子増倍条件を当該延在方向において均一にすることで、イオンの検出精度を向上させることができる。
【0012】
本発明のイオン検出器は、[6]「前記仕切り部は、前記アパーチャ電極とともに、前記コンバージョンダイノードを包囲する包囲空間を形成する、上記[5]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[6]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョンダイノードの周囲の電界を安定させ、コンバージョンダイノードにおけるイオンから電子への変換を安定して行うことができる。
【0013】
本発明のイオン検出器は、[7]「前記コンバージョン領域は、曲面状の領域である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載のイオン検出器」であってもよい。当該[7]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョン領域から放出される電子の発散状態を所望の発散状態にすることができる。したがって、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に確実に入射させることができる。
【0014】
本発明のイオン検出器は、[8]「前記コンバージョン領域の頂点に接する第1仮想面と前記コンバージョン領域における前記頂点以外の点に接する第2仮想面とが成す角度は、0度よりも大きく且つ60度以下である、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載のイオン検出器」であってもよい。当該[8]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョン領域から放出された電子が過度に発散することを抑制することができる。したがって、コンバージョン領域から放出された電子を電子入射面に確実に入射させることができる。
【0015】
本発明のイオン検出器は、[9]「前記コンバージョンダイノードに第1電位を付与し、前記電子増倍部の前記電子入射面に第2電位を付与し、前記アパーチャ電極に第3電位を付与する電位付与部と、を更に備え、前記第2電位は、前記第1電位よりも高く、前記第3電位は、前記第1電位以上であり且つ前記第2電位未満である、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載のイオン検出器」であってもよい。当該[9]に記載のイオン検出器によれば、電位付与部を用いることにより、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の距離を小さくできるとともに、コンバージョン領域から放出された電子を適切に電子入射面に集束させることが可能な電界を具体的に形成することができる。
【0016】
本発明のイオン検出器は、[10]「前記第1電位と前記第3電位との差は、前記第2電位と前記第3電位との差よりも小さい、上記[9]に記載のイオン検出器」であってもよい。当該[10]に記載のイオン検出器によれば、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の電位差を更に小さくし、コンバージョンダイノードとアパーチャ電極との間の距離を更に小さくすることができる。
【0017】
本発明の分析装置は、[11]「上記[1]~[10]のいずれか一つに記載のイオン検出器を用いた、分析装置」であってもよい。当該[11]に記載の分析装置によれば、小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができるイオン検出器及び分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態のイオン検出器の構成図である。
図2図1に示されるイオン検出器が備えるコンバージョンダイノードの斜視図である。
図3】イオン検出器において形成される電界分布の例を示す図である。
図4】変形例のコンバージョンダイノードの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1に示されるように、イオン検出器1は、仕切り部2、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4、アパーチャ電極5及び電位付与部6を備えている。イオン検出器1は、質量分析装置(分析装置)200におけるイオン検出器収容筐体(図示省略)の内部に収容されており、真空空間内に配置されている。仕切り部2の材料は、例えばステンレス鋼等の金属である。仕切り部2は、X軸方向を厚さ方向とする板状の部材である。仕切り部2の壁部21には、イオン入射口21aが形成されている。イオン入射口21aは、X軸方向に平行な中心線A1を有している。X軸方向から見た場合におけるイオン入射口21aの形状は、例えば円形状である。以下、X軸方向に垂直な一方向をY軸方向といい、X軸方向及びY軸方向の両方向に垂直な方向をZ軸方向という。なお、イオン入射口21aは、イオン入射口21aの中心線A1が後述するアパーチャ5aの中心線A2及び後述するコンバージョン領域3aの延在方向と交差するように配置されており、本実施形態においては、イオン入射口21aの中心線A1、アパーチャ5aの中心線A2及びコンバージョン領域3aの延在方向は全て垂直に交わっており、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に相当する。
【0022】
本実施形態では、イオン検出器1は、質量分析装置200の一部として用いられている。質量分析装置200では、例えば光イオン化用の重水素ランプによって試料が照射されることで、試料がイオン化される。質量分析装置200は、例えば四重極を用いることで、生成されたイオンから測定対象であるイオンPを選別する。測定対象であるイオンPは、イオン入射口21aを介して、イオン検出器1内に導入される。イオン検出器1は、入射したイオンPを検出する。イオン検出器1は、イオンPが正イオンであっても負イオンであっても検出は可能だが、本実施形態では、イオンPを、正イオンとして記載する。また、イオン検出器収容筐体(図示省略)の電位を、グランド電位として記載する。
【0023】
コンバージョンダイノード3は、コンバージョン領域3aを含む表面を有している。コンバージョン領域3aは、イオンPが入射することで電子Eを放出する。コンバージョンダイノード3の材料は、例えばステンレス鋼等の金属である。コンバージョンダイノード3は、支持部材(図示省略)によって支持されている。コンバージョンダイノード3は、中心線A1に対してY軸方向における一方の側に配置されている。コンバージョン領域3aは、中心線A1を含んでおり且つZ軸方向に垂直な平面α上において、Y軸方向における他方の側(中心線A1側)に向いている。コンバージョン領域3aは、後述するアパーチャ5aの中心線A2(平面αに含まれており且つY軸方向に平行な中心線A2)に一致した中心線を有している。コンバージョン領域3aは、X軸方向から見た場合に、イオン入射口21aと重なっておらず、壁部21と重なっている。これにより、質量分析装置200において発生し、且つノイズとなり得る迷光がコンバージョンダイノード3に入射することを抑制することができる。
【0024】
コンバージョンダイノード3には、電位付与部6によって第1電位が付与される。第1電位は、イオンPの極性と逆極性の電位であり、本実施形態では負の電位である。一例として、第1電位は、-10kVである。これにより、入射したイオンPは、イオン入射口21aの中心線A1からY軸方向における一方側に徐々に離れつつ、コンバージョン領域3aに向かって進行する。そして、イオンPが例えば10keVのエネルギーでコンバージョン領域3aに入射することで、コンバージョン領域3aから電子Eが放出される。放出される電子Eの量は、コンバージョン領域3aに入射するイオンPのエネルギーが高いほど多くなる。つまり、第1電位の絶対値を高くするほど、イオンPから電子Eへの変換効率を高くすることができる。
【0025】
電子増倍部4は、中心線A1に対してY軸方向における他方の側(コンバージョンダイノード3とは反対側)に配置されている。本実施形態では、電子増倍部4は、金属製の壁部41、複数のダイノード42、及びアノード43を有している。電子増倍部4は、支持部材(図示省略)によって支持されている。壁部41には、電子Eを通過させる電子通過口41aが形成されている。電子通過口41aは、Y軸方向においてコンバージョン領域3aと向かい合っており、中心線A2に一致した中心線を有している。Y軸方向から見た場合における電子通過口41aの形状は、例えば円形状である。複数のダイノード42、及びアノード43は、平面α上において並んでいる。各ダイノード42及びアノード43の材料は、例えばステンレス鋼等の金属である。複数のダイノード42のうち、第1段ダイノード42aは、Y軸方向において電子通過口41aと向かい合っており、電子入射面42bを有している。なお、電子増倍部4における電子入射面42bとは、電子増倍部4において、コンバージョンダイノード3のコンバージョン領域3aから放出された電子Eが一番最初に入射する部位である。電子増倍部4では、電子通過口41aを通過した電子Eが第1段ダイノード42aの電子入射面42bに入射することで、第1段ダイノード42aから二次電子(図示省略)が放出される。当該二次電子は、後段の各ダイノード42によって増倍され、アノード43に入射する。アノード43は、当該二次電子をパルス信号として出力するように構成されている。また、第1段ダイノード42aの電子入射面42bは、後述するコンバージョン領域3aの延在方向、つまり本実施形態におけるZ軸方向に沿って延在している。つまり、第1段ダイノード42aの電子入射面42bは、コンバージョン領域3aと対向するように延在しており、コンバージョン領域3aの凸状の領域に対して、凹状の領域を有するように形成されている。
【0026】
第1段ダイノード42aには、電位付与部6によって第2電位が付与される。つまり、電子入射面42bには、電位付与部6によって第2電位が付与される。第2電位は、コンバージョンダイノード3の第1電位よりも高い。一例として、第2電位は、-2kVである。第1段ダイノード42a以外の各ダイノード42には、第1段ダイノード42aから放出された二次電子が後段の各ダイノード42に順次進行するように、電位付与部6によって所定の電位が付与される。アノード43は、グランド電位に設定される。イオン検出器1では、電子増倍部4の壁部41には、電位付与部6によって第2電位が付与される。
【0027】
アパーチャ電極5は、コンバージョンダイノード3と電子増倍部4との間に配置されている。より具体的には、アパーチャ電極5は、中心線A1に対してY軸方向における他方の側(コンバージョンダイノード3とは反対側)に配置されている。本実施形態では、アパーチャ電極5は、Y軸方向を厚さ方向とする板状の電極であり、コンバージョンダイノード3が配置された空間と電子増倍部4が配置された空間とを仕切るように、Y軸方向に垂直な平面に沿って延在している。アパーチャ電極5の材料は、例えばステンレス鋼等の金属である。アパーチャ電極5には、コンバージョン領域3aから第1段ダイノード42aに進行する電子Eを通過させるアパーチャ5aが形成されている。アパーチャ5aは、平面α上において、コンバージョン領域3a及び第1段ダイノード42aのそれぞれと向かい合っており、平面αに含まれており且つY軸方向に平行な中心線A2を有している。Y軸方向から見た場合におけるアパーチャ5aの形状は、例えば円形状である。
【0028】
アパーチャ電極5には、電位付与部6によって第3電位が付与される。第3電位は、コンバージョンダイノード3の第1電位以上であり且つ第1段ダイノード42aの第2電位未満である。一例として、第3電位は、-9.5kVである。
【0029】
電位付与部6は、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれに所定の電位を付与する。電位付与部6は、配線等によって、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれと電気的に接続されている。上述したように、電位付与部6は、第1電位(例えば-10kV)をコンバージョンダイノード3に付与し、第1電位よりも高い第2電位(例えば-2kV)を電子増倍部4の第1段ダイノード42aに付与し、第1電位以上であり且つ第2電位未満である第3電位(例えば-9.5kV)をアパーチャ電極5に付与する。本実施形態では、電位付与部6は、第1電位(例えば-10kV)と第3電位(例えば-9.5kV)との差が、第2電位(例えば-2kV)と第3電位(例えば-9.5kV)との差よりも小さくなるように、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれに所定の電位を付与する。電位付与部6は、イオン検出器収容筐体(図示省略)内に配置されていてもよいし、イオン検出器収容筐体(図示省略)外に配置されていていてもよい。一例として、電位付与部6は、複数の電位を供給可能な電源部であって、例えば、複数の高圧発生部及びその制御部を備えた電源部でもよいし、単一の昇圧部と抵抗分割からなる高圧発生部及びその制御部を備えた電源部等によって構成されていてもよい。
【0030】
本実施形態では、コンバージョン領域3aは、アパーチャ5a及び電子通過口41aを挟んで第1段ダイノード42aの電子入射面42bと向かい合っている。コンバージョン領域3a、アパーチャ5a、電子通過口41a、複数のダイノード42、及びアノード43は、平面α上において並んでいる。アパーチャ5aの中心線A2は、イオン入射口21aの中心線A1と交差しており、本実施形態においては直交している。コンバージョン領域3aの中心線及び電子通過口41aの中心線のそれぞれは、アパーチャ5aの中心線A2と一致している。換言すれば、アパーチャ5a、コンバージョン領域3a及び電子通過口41aは、同一の中心線A2を有している。Y軸方向から見た場合に、アパーチャ5aの外縁は、コンバージョン領域3aの外縁の内側に位置している。Y軸方向から見た場合に、電子通過口41aの外縁は、アパーチャ5aの外縁の内側に位置している。
【0031】
以上のように構成されたイオン検出器1では、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれに、電位付与部6によって所定の電位が付与される。この状態で、イオンPがイオン入射口21aから入射し、形成された電界によってイオンPがコンバージョンダイノード3のコンバージョン領域3aに向かって進行する。そして、イオンPがコンバージョン領域3aに入射すると、コンバージョン領域3aから電子Eが放出される。コンバージョン領域3aから放出された電子Eは、アパーチャ電極5のアパーチャ5a、及び電子増倍部4の電子通過口41aを通過して、第1段ダイノード42aの電子入射面42bに入射する。第1段ダイノード42aの電子入射面42bに電子Eが入射すると、第1段ダイノード42aの電子入射面42bから二次電子(図示省略)が放出される。当該二次電子は、後段の各ダイノード42によって増倍され、アノード43に入射する。そして、アノード43が当該二次電子をパルス信号として出力することで、イオン検出器1はイオンPを検出する。アパーチャ電極5は、ノイズとなり得る電子又はイオンが電子増倍部4に入射することを抑制する。
【0032】
図1及び図2に示されるように、コンバージョン領域3aは、電子Eを放出する空間側に凸状の領域である。イオン検出器1では、コンバージョン領域3aは、平面αに垂直なZ軸方向(アパーチャ5aの中心線A2に垂直な方向)から見た場合に、中心線A2に関して線対称な凸状の領域である。つまり、コンバージョン領域3aの頂点は、Z軸方向から見た場合、中心線A2上に位置している。また、コンバージョン領域3aは、凸状の領域が平面αに垂直なZ軸方向(アパーチャ5aの中心線A2と交差する方向、本実施形態においては垂直に交差する方向)に延在するように形成されている。コンバージョン領域3aは、滑らかな曲面状の領域であり、Z軸方向に沿って同一の断面形状を維持している。つまり、本実施形態におけるコンバージョンダイノード3では、コンバージョン領域3aが、電子Eを放出する空間側に向かって緩やかに突出する円弧状部がイオン入射口21aの中心線A1とアパーチャ5aの中心線A2とに垂直な方向に連続的に延在して形成された形状を有している。コンバージョンダイノード3は、コンバージョン領域3aの反対側の面とコンバージョン領域3aとを接続する端面が平坦な面から形成された電極であり、当該端面のいずれかに電位付与部6との電気的接続部を有する。コンバージョン領域3aの頂点に接する第1仮想面K1とコンバージョン領域3aにおける頂点以外の点に接する第2仮想面K2とが成す角度は、例えば0度よりも大きく且つ60度以下である。
【0033】
以上説明したように、イオン検出器1では、コンバージョンダイノード3が、電子Eを放出する空間側に凸状の領域であるコンバージョン領域3aを有している。これにより、コンバージョン領域3aに電子Eが入射すると、コンバージョン領域3aから電子Eが発散して放出される。したがって、コンバージョンダイノード3にその絶対値が大きい電位を付与する場合であってもコンバージョンダイノード3とアパーチャ電極5との間の距離を小さくできるとともに、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに集束させることが可能な電界を形成することができる。よって、イオン検出器1によれば、小型化とイオンの検出効率の向上との両立を図ることができる。
【0034】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aが、アパーチャ電極5のアパーチャ5aを挟んで電子増倍部4の電子入射面42bと向かい合っている。これにより、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに集束させることが可能な電界を容易且つ確実に形成することができる。したがって、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに確実に入射させることができる。
【0035】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aが、アパーチャ5aの中心線A2に垂直なZ軸方向から見た場合に、中心線A2に関して線対称な凸状の領域である。これにより、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに集束させることが可能な電界をより容易且つより確実に形成することができる。したがって、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに、より確実に入射させることができる。
【0036】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aは、凸状の領域がアパーチャ5aの中心線A2と交差する方向に延在するように形成されている。これにより、放出された電子Eを電子入射面42bにより確実に入射させることができるコンバージョン領域3aが、アパーチャ5aの中心線A2と交差する方向に延在する。言い換えれば、アパーチャ5aの中心線A2と交差する方向に沿ったコンバージョン領域3aの面積が大きくなる。したがって、イオンの検出効率のより一層の向上を図ることができる。
【0037】
イオン検出器1は、コンバージョンダイノード3へ入射するイオンPを導入するイオン入射口21aを有する仕切り部2を備え、イオン入射口21aは、イオン入射口21aの中心線A1がアパーチャ5aの中心線A2及びコンバージョン領域3aの延在方向と交差するように配置されており、電子増倍部4の電子入射面42bは、コンバージョン領域3aの延在方向に沿って延在している。これにより、コンバージョン領域3aから放出された電子Eの電子入射面42bへの入射条件を当該延在方向において均一にする、且つ、電子増倍部4の電子入射面42bにおける電子増倍条件を当該延在方向において均一にすることで、イオンの検出精度を向上させることができる。
【0038】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aが、滑らかな曲面状の領域である。これにより、コンバージョン領域3aから放出される電子Eの発散状態を所望の発散状態にすることができる。したがって、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに確実に入射させることができる。
【0039】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aの頂点に接する第1仮想面K1とコンバージョン領域3aにおける頂点以外の点に接する第2仮想面K2とが成す角度が、0度よりも大きく且つ60度以下である。これにより、コンバージョン領域3aから放出された電子Eが過度に発散することを抑制することができる。したがって、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを電子入射面42bに確実に入射させることができる。
【0040】
イオン検出器1は、コンバージョンダイノード3に第1電位を付与し、電子増倍部4の電子入射面42bに第2電位を付与し、アパーチャ電極5に第3電位を付与する電位付与部6と、を備え、第2電位は、第1電位よりも高く、第3電位は、第1電位以上であり且つ第2電位未満である。電位付与部6を用いることにより、コンバージョンダイノード3とアパーチャ電極5との間の距離を小さくできるとともに、コンバージョン領域3aから放出された電子Eを適切に電子入射面42bに集束させることが可能な電界を具体的に形成することができる。
【0041】
イオン検出器1では、第1電位と第3電位との差が、第2電位と第3電位との差よりも小さい。これにより、コンバージョンダイノード3とアパーチャ電極5との間の電位差を更に小さくし、コンバージョンダイノード3とアパーチャ電極5との間の距離を更に小さくすることができる。
【0042】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3a、アパーチャ5a、及び複数のダイノード42が、平面α上において並んでおり、コンバージョン領域3aが、平面αに垂直なZ軸方向から見た場合に凸状の領域である。これにより、平面αに沿って電子Eの軌道が形成されるため、イオン検出器1の各部の設計を容易化することができる。
【0043】
図3の(a),(b)を参照して、上述したコンバージョン領域3aの形状の利点について説明する。図3の(a)では、上述したイオン検出器1とは異なるイオン検出器101において形成される電界分布が等電位線により示されている。イオン検出器101は、コンバージョンダイノード103が有するコンバージョン領域103aの形状がコンバージョン領域3aの形状と異なっている点でイオン検出器1と相違している。コンバージョン領域103aは、電子Eを放出する空間とは逆側に凹状の領域であり、従来の一般的なコンバージョンダイノードに採用される形状である。イオン検出器101では、コンバージョン領域103aは、平面αに垂直なZ軸方向(アパーチャ5aの中心線A2に垂直な方向)から見た場合に、中心線A2(図1参照)に関して線対称な凹状の領域である。図3の(b)では、上述したイオン検出器1において形成される電界分布が等電位線により示されている。なお、上述したように、コンバージョンダイノード3及びコンバージョンダイノード103の第1電位は-10kVであり、第1段ダイノード42aの第2電位は-2kVであり、アパーチャ電極5の第3電位は-9.5kVである。このような電位を各部材に付与することで、イオン検出器1では、コンバージョン領域3aから放出された電子Eが第1段ダイノード42aに進行するような電界が形成されており、イオン検出器101では、コンバージョン領域103aから放出された電子Eが第1段ダイノード42aに進行するような電界が形成されている。
【0044】
図3の(a)に示されるように、コンバージョン領域103aから放出された電子Eは、まずコンバージョン領域103aの近傍に形成された電界EF1の影響を受けてアパーチャ5aに進行する。次に、電子Eは、アパーチャ5aの近傍に形成された電界EF2であって、アパーチャ5aからコンバージョン領域103aに向かって広がっている電界EF2の影響を受けて集束する。つまり、Z軸方向から見た場合に、電子Eがアパーチャ5aの中心線A2(図1参照)上に集束する。コンバージョン領域103aとアパーチャ電極5との間の距離が小さい場合、電界EF2の電子Eへの影響が大きくなるため、電子Eが集束されやすくなる。これにより、イオン検出器101では、電子Eが第1段ダイノード42aの手前で集束されて、発散した状態で第1段ダイノード42aの電子入射面42bに入射する。
【0045】
図3の(b)に示されるように、イオン検出器1では、電子Eは、まずコンバージョン領域3aから発散する方向に放出される。これは、コンバージョン領域3aが凸状の領域であり、且つ、電子Eがコンバージョン領域3aに垂直な方向に沿って放出されやすいためである。加えて、放出された電子Eは、コンバージョン領域3aの近傍に形成された電界EF3の影響を受けてより発散する。つまり、イオン検出器1では、電子Eは、コンバージョン領域3aの形状により発散すると共に、電界EF3の影響を受けて発散する。次に、電子Eは、アパーチャ5aの近傍に形成された電界EF4であって、アパーチャ5aからコンバージョン領域3aに向かって広がっている電界EF4の影響を受けて集束する。イオン検出器1では、電子Eが発散しているため、電界EF4の電子Eへの影響が大きい場合であっても、電子Eの集束点F2を第1段ダイノード42aに近づけることができる。これにより、イオン検出器1では、イオン検出器101における集束点F1と比べ、電子Eの集束点F2が第1段ダイノード42aに近づいている。その結果、イオン検出器1では、電子Eが集束した状態で第1段ダイノード42aの電子入射面42bに入射するため、イオン検出器101の場合と比べ、第1段ダイノード42aの電子入射面42bに入射する電子Eの量が増加する。なお、集束点F2は、第1段ダイノード42aの電子入射面42b上に位置していてもよい。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。イオン検出器1では、コンバージョンダイノード3のコンバージョン領域3aは、滑らかな曲面状の領域であり、Z軸方向に沿って同一の断面形状を維持していたが、コンバージョン領域3aは、電子Eを放出する空間側に凸状の領域であればよい。一例として、コンバージョン領域3aは、滑らかな曲面状の代わりに多角形状でもよいし、図4に示されるように、半球面状の領域であってもよい。他の例として、コンバージョンダイノード3が角錐状の部分を含み、且つ、コンバージョン領域3aは、当該角錐状の部分の表面であってもよい。
【0047】
イオン検出器1では、仕切り部2は、アパーチャ電極5とともに、コンバージョンダイノード3を包囲する包囲空間を形成してもよい。一例として、仕切り部2の形状は箱状であってもよい。この場合、コンバージョンダイノード3の周囲の電界を安定させ、コンバージョンダイノード3におけるイオンから電子への変換を安定して行うことができる。
【0048】
イオン検出器1では、一つの電位付与部6が、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれに所定の電位を付与するが、複数の電位付与部6のそれぞれが、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5の少なくとも一つに所定の電位を付与してもよい。
【0049】
イオン検出器1では、第1仮想面K1と第2仮想面K2とが成す角度が、0度よりも大きく且つ60度以下であったが、第1仮想面K1と第2仮想面K2とが成す角度は、60度を超えていてもよい。
【0050】
イオン検出器1では、電子増倍部4は、ダイノード構造を有する構造であったが、電子増倍部4は、チャンネル型電子増倍部、マイクロチャンネルプレート、半導体検出器であってもよい。また、電子増倍部4は、マイクロチャンネルプレートと半導体検出器とを組み合わせたものや、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせたものであってもよい。
【0051】
イオン検出器1では、コンバージョン領域3aは、アパーチャ電極5のアパーチャ5aを挟んで電子増倍部4の電子入射面42bと向かい合っていなくてもよい。一例として、コンバージョン領域3aは、平面α上において、X軸方向における一方の側(中心線A2側)に向いていてもよい。Y軸方向から見た場合に、アパーチャ5aの外縁は、コンバージョン領域3aの外縁の外側に位置していてもよい。
【0052】
イオン検出器1では、電位付与部6が、第1電位(例えば-10kV)をコンバージョンダイノード3に付与し、第2電位(例えば-2kV)を電子増倍部4の第1段ダイノード42aに付与し、第3電位(例えば-9.5kV)をアパーチャ電極5に付与するが、第1電位、第2電位及び第3電位の値は、上記値に限定されない。他の例として、例えばイオンPとして負イオンを検出する場合には、電位付与部6は、第1電位(例えば+10kV)をコンバージョンダイノード3に付与し、第2電位(例えば+11kV)を電子増倍部4の第1段ダイノード42aに付与し、第3電位(例えば+10.5kV)をアパーチャ電極5に付与してもよい。つまり、電位付与部6は、第1電位と第3電位との差が、第2電位と第3電位との差以上になるように、コンバージョンダイノード3、電子増倍部4及びアパーチャ電極5のそれぞれに所定の電位を付与してもよい。
【0053】
イオン検出器1は、TOF(Time of Flight)を用いる質量分析装置の一部として用いられてもよく、プラズマをイオン源として利用する質量分析装置の一部として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…イオン検出器、2…仕切り部、3…コンバージョンダイノード、3a…コンバージョン領域、4…電子増倍部、5…アパーチャ電極、5a…アパーチャ、6…電位付与部、21a…イオン入射口、42b…電子入射面、200…質量分析装置(分析装置)、A1,A2…中心線、E…電子、K1…第1仮想面、K2…第2仮想面、P…イオン。
図1
図2
図3
図4