(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174503
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241210BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0566
H01M4/38 Z
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092360
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 学
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ12
5H029HJ07
5H029HJ09
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050HA07
5H050HA09
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池のサイクル耐久後の容量の低下を一層抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層とを有する非水電解質二次電池において、前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が6.9≦y≦7.8を満たすように制御するとともに、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DOD
max[%]が89≦DOD
max≦99を満たすように用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、
前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層と、
を有し、
前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たし、かつ、
放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が、89≦DODmax≦99を満たすように用いられる、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電極活物質層に占める空孔体積の百分率をx[%]としたとき、xおよびyが、30.8≦x+y≦38.9を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、7.2≦y≦7.8を満たす、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記ゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、7.2≦y≦7.4を満たす、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が、89≦DODmax≦94を満たすように用いられる、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記電極活物質層が、前記電極活物質としてケイ素系負極活物質を含む負極活物質層である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記ケイ素系負極活物質がケイ素酸化物を含む、請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質層における前記ケイ素系負極活物質の含有量が0質量%を超えて5質量%以下である、請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、
前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層と、
を有し、
前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たす非水電解質二次電池の使用方法であって、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が89≦DODmax≦99を満たすように放電を行う、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の普及の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、二次電池の開発が鋭意行われている。車載電源への適用を指向した非水電解質二次電池は、高容量であり、優れたサイクル耐久性および出力特性(レート特性)を有することが求められる。
【0003】
従来、二次電池のサイクル耐久性を向上させるための技術として、特許文献1には、ケイ素酸化物と黒鉛との混合負極活物質を用いた非水電解質二次電池において、負極活物質層に含まれるケイ素の質量に対する非水電解質の質量比率を所定値以上に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されているような二次電池では、サイクル耐久後の容量の低下は依然として避けられず、いまだ改善の余地が存在することが判明した。
【0006】
そこで本発明は、非水電解質二次電池のサイクル耐久後の容量の低下を一層抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層を有する電極と電解液とを用いた非水電解質二次電池において、電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積百分率を所定の範囲内の値に制御するとともに、電池の放電時の放電深度(DOD)の最大値を所定の範囲内の値に制御して用いることが有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る非水電解質二次電池は、電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層とを有する。ここで、当該非水電解質二次電池は、前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たし、かつ、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が、89≦DODmax≦99を満たすように用いられる点に特徴がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水電解質二次電池のサイクル耐久後の容量の低下を一層抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である、積層型(扁平型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態は、電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層とを有し、前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たし、かつ、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が、89≦DODmax≦99を満たすように用いられる、非水電解質二次電池である。
【0012】
また、本発明の他の形態は、電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層とを有し、前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たす非水電解質二次電池の使用方法であって、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が89≦DODmax≦99を満たすように放電を行う使用方法である。
【0013】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)、相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である扁平型(積層型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の積層型二次電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、ラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11’の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解液を含有するセパレータからなる電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0016】
これにより、正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、
図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されるようにしてもよい。
【0017】
正極集電体11’および負極集電体12には、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極端子リードおよび負極端子リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11’および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0018】
以下、本形態に係る非水電解質二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0019】
[電極]
電極は、電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置された構成を有する。
【0020】
〔集電体〕
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はないが、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0021】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔、またはカーボン被覆アルミニウム箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0022】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0023】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0024】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0025】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属またはこれらの金属を含む合金もしくは金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0026】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5~80質量%程度である。
【0027】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
【0028】
〔電極活物質層〕
電極活物質層は、上記集電体の表面に配置され、電極活物質(正極活物質または負極活物質)およびゲル形成性ポリマーを含む。
【0029】
(正極活物質)
正極活物質は、充電時にリチウムイオン等のイオンを放出し、放電時にリチウムイオン等のイオンを吸蔵する機能を有する。本形態に係る非水電解質二次電池において、正極活物質の種類は特に制限されない。より高い容量を有するという観点からは、R3mの空間群からなるものであることが好ましい。空間群R3mに帰属される正極活物質は、リチウム原子層と遷移金属原子層が交互に積み重なった層状構造(層状岩塩型構造)を有する。したがって、このような正極活物質を用いることで、非水電解質二次電池の電池容量を向上させることができる。
【0030】
空間群R3mに帰属される正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(Ni-Mn-Co)O2、Li(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)またはLi(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NCA複合酸化物」とも称する)が用いられ、特に好ましくはNMC複合酸化物が用いられる。
【0031】
NMC複合酸化物およびNCA複合酸化物には、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Al、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、W、P、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、W、P、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、P、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mgである。ただし、NCA複合酸化物の遷移金属元素を置換しうる他の金属元素はAl以外のものである。
【0032】
正極活物質粒子としてのリチウム-遷移金属複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LixNiaMbNcO2(式中、x、a、b、c、dは、0.8≦x≦1.1、a+b+c=1、0.33≦a≦0.95、00.05≦b≦0.67、0≦c≦0.10を満たす。MはMnおよびCoからなる群から選択される1種以上の元素であり、NはAl、Sn、Nb、Ti、ZrおよびMgからなる群から選択される1種以上の元素である)で表される組成を有する。ここで、xはLiの原子比を表し、aはNiの原子比を表し、bはMの原子比を表し、cはNの原子比を表す。なお、各元素の組成は、例えば、プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。また、より高い放電容量を実現するという観点からは、一般式(1)において、0.80≦a≦0.95(すなわち、ハイニッケル複合酸化物)であることが好ましい。
【0033】
正極活物質の平均粒子径(D50)は、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。本明細書において、平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測されたものを採用する。
【0034】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、ケイ素系負極活物質およびスズ系負極活物質等の金属材料、リチウム合金系負極材料(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-ケイ素合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-アルミニウム-マンガン合金等)などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料、金属材料、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム合金系負極材料が、負極活物質として好ましく用いられる。
【0035】
好ましい実施形態において、負極活物質は、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含み、より好ましくはケイ素系負極活物質を含む。このように、電極活物質層が電極活物質としてケイ素系負極活物質を含む負極活物質層であることは、本形態に係る非水電解質二次電池の好ましい一実施形態である。
【0036】
ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体が用いられうる。また、高容量化の観点から、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。なお、負極活物質がケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含む(より好ましくはケイ素系負極活物質を含む)場合、負極活物質に占めるケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質(好ましくはケイ素系負極活物質、より好ましくはケイ素酸化物)の含有割合は、好ましくは0質量%を超えて5質量%以下である。一般にケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質は充放電プロセスにおける膨張収縮による体積変化が大きいが、このような量でこれらの負極活物質を含むことによりゲル形成性ポリマーがこれらの活物質の体積変化に十分に追従することが可能である。その結果、これらの活物質を用いることによる高容量化および高出力化といったメリットを十分に享受することが可能となる。なお、負極活物質がこれらの活物質を含む場合、負極活物質の主成分はグラファイト(黒鉛)等の炭素材料であることが好ましい。
【0037】
負極活物質の平均粒子径(D50)は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
【0038】
電極活物質層中、電極活物質の含有量(固形分換算)は、出力特性の観点から、好ましくは60~95質量%であり、より好ましくは80~95質量%である。
【0039】
(ゲル形成性ポリマー)
ゲル形成性ポリマーは、イオン伝導性ポリマーであり、電極活物質とともに構造体を形成して、イオン伝導の役割を担うことができる。また、ゲル形成性ポリマーは、電極活物質層においてバインダ(結着剤)としても機能する。このため、電極活物質層がゲル形成性ポリマーを含むことで、電極活物質層における電解液の保持性が高まり、電池のレート特性の向上に寄与する。ゲル形成性ポリマーとしては、出力特性の観点から、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HEP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリメチルメタクリレート、およびこれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
ゲル形成性ポリマーは、出力特性をより高めるとの観点から、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HEP)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくはポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HEP)を含む。ゲル形成性ポリマーがPVdF-HEPを含むと、非水電解質二次電池のサイクル耐久性がより一層向上しうる。
【0041】
なお、ゲル形成性ポリマーの物性について特に制限はないが、ゲル形成性ポリマーの引張破断強度(ASTM D638/23℃)は、好ましくは25~54[MPa]である。ゲル形成性ポリマーの引張破断強度が25[MPa]以上であれば、活物質との間で十分な接着強度を示すことができ、活物質の膨張収縮時の電極活物質層の崩壊を効果的に防止することができる。一方、ゲル形成性ポリマーの引張破断強度が54[MPa]以下であれば、活物質の膨張時におけるポリマーの破断が防止され、活物質の周囲に十分に接着した状態で電解液を保持することができる。また、ゲル形成性ポリマーの降伏引張伸び、降伏引張強度、破断引張伸び(いずれもASTM D638/23℃)および圧縮強度(ASTM D695/23℃)は、それぞれ5~15[%]、31~41[MPa]、30~200[%]および41~58[MPa]であることが好ましい。
【0042】
本形態に係る非水電解質二次電池において、電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]は、6.9≦y≦7.8を満たすことが必須であり、好ましくは7.2≦y≦7.8を満たし、より好ましくは7.2≦y≦7.4を満たす。yが6.9[%]未満であると、電極活物質層に含まれる構成成分の間の結着性が低下し、充放電の進行に伴う活物質の膨張収縮に起因して容量特性の低下が生じる虞がある。一方、yが7.8[%]を超えると、ゲル形成性ポリマーの存在自体が電極活物質層の電気抵抗の上昇を招き、サイクル耐久後の電池の容量の低下を十分に抑制することができない。なお、yの値は、電池を作製する際のゲル形成性ポリマーの仕込み量などにより制御することができる。また、電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率(y[%])は、後述する実施例の欄に記載の方法により算出するものとする。
【0043】
ゲル形成性ポリマーの電解液に対する吸液率(z)は、好ましくは15%超であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。ゲル形成性ポリマーの電解液に対する吸液率の上限は、特に制限されないが、好ましくは90%未満であり、より好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。ゲル形成性ポリマーの電解液に対する吸液率が15%超であると、ゲル形成性ポリマーが十分に電解液を保持することができるため、イオン伝導を担わせることができる。ゲル形成性ポリマーの電解液に対する吸液率が90%未満であると、電極活物質との構造体を十分に維持することができる。すなわち、本発明の一実施形態においては、ゲル形成性ポリマーの破断強度が25~54[MPa]であり、かつ、ゲル形成性ポリマーの電解液に対する吸液率(z)が15<z<90を満たすことが好ましい。このような構成とすることで、本発明の作用効果がより一層効果的に発現しうる。なお、電解液に対するゲル形成性ポリマーの吸液率は、後述する実施例の欄に記載の方法により算出するものとする。
【0044】
電極活物質層に占める空孔の体積の百分率x[%]は、特に制限されず、例えば15~45[%]であり、好ましくは20~40[%]であり、さらに好ましくは25~35[%]である。xは、電極活物質の粒子径、ゲル形成性ポリマーの仕込み量、電極活物質層の膜厚などにより調整することができる。また、後述するように、電極作製時のプレス処理の有無や当該プレス処理の条件などによっても調整することができる。なお、電極活物質層に占める空孔の体積の百分率(x[%])は、後述する実施例の欄に記載の方法により算出するものとする。
【0045】
また、本形態に係る非水電解質二次電池の好ましい実施形態においては、(x+y)の好ましい範囲が規定される。すなわち、上述したxおよびyは、30.8≦x+y≦38.9を満たすことが好ましく、34.4≦x+y≦36.2を満たすことがより好ましい。これらの構成を満足する非水電解質二次電池は、サイクル耐久後の容量の低下という本発明の作用効果をよりいっそう顕著に発現しうるため好ましい。
【0046】
(導電助剤)
電極活物質層は、導電助剤をさらに含むことができる。
【0047】
導電助剤は、電極活物質層中で電子伝導パス(導電通路)を形成する機能を有する。このような電子伝導パスが電極活物質層中に形成されると、電池の内部抵抗が低減し、高レートでの出力特性向上に寄与しうる。特に、導電助剤の少なくとも一部が、電極活物質層の2つの主面同士を電気的に接続する導電通路を形成している(本実施形態では、電極活物質層の電解質層側に接触する第1主面から集電体側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成している)ことが好ましい。このような形態を有することで、電極活物質層中の厚さ方向の電子移動抵抗がさらに低減されるため、電池の高レートでの出力特性をより一層向上しうる。なお、導電助剤の少なくとも一部が、電極活物質層の2つの主面同士を電気的に接続する導電通路を形成している(本実施形態では、電極活物質層の電解質層側に接触する第1主面から集電体側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成している)か否かは、SEMや光学顕微鏡を用いて電極活物質層の断面を観察することにより確認することができる。
【0048】
このような導電通路を確実に形成するという観点から、導電助剤は、繊維状の形態を有する導電性繊維であることが好ましい。具体的には、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を、導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。なかでも、導電性に優れ、軽量であることから炭素繊維が好ましい。
【0049】
ただし、繊維状の形態を有しない導電助剤が用いられてももちろんよい。例えば、粒子状(例えば、球状)の形態を有する導電助剤が用いられうる。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μm程度であることが好ましい。なお、「導電助剤の粒子径」は、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0050】
粒子状(例えば、球状)の形態を有する導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0051】
電極活物質層中における導電助剤の含有量は、電極活物質層の全固形分量(全ての部材の固形分量の合計)100質量%に対して、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがより好ましい。導電助剤の含有量が上記範囲であると、電極活物質層中で電子伝導パスを良好に形成できるとともに、電池のエネルギー密度が低下するのを抑えることができるという利点がある。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、電極活物質層は、電極活物質、ゲル形成性ポリマーおよび導電助剤からなる構造体を含む。これにより、電極活物質は、導電助剤と良好に接触でき、電極活物質が活性状態となるため、電子伝導をより向上することできる。また、電極活物質周辺に導電助剤が構造化されることにより、優れた導電性を担保することができるため、出力特性および容量特性を向上させることができる。さらに、電極活物質周辺に導電助剤が構造化されることで、空孔内のパーコレーションが形成される。よって、有効イオン伝導度をより向上することができる。加えて、このような構造体とすることで、電極活物質層を自立膜とすることができ、電極の強度をさらに増加することもできる。
【0053】
電極活物質層の厚さは、通常1~1000μm程度、好ましくは20~800μmであり、より好ましくは30~500μmであり、さらに好ましくは40~200μmである。電極活物質層の厚さが上述した下限値以上の値であれば、電池のエネルギー密度を十分に高めることができる。一方、電極活物質層の厚さが上述した上限値以下の値であれば、電極活物質層の構造を十分に維持することができる。
【0054】
本形態において、電極活物質層では、電極活物質およびゲル形成性ポリマー(さらには導電助剤)が構造化することで、機械的強度を向上させることができる。そのため、電極の膜厚を厚くしても、優れた出力特性を維持しつつ、電極の機械的強度を向上することができる。
【0055】
[電解質層]
電解質層は、電極を構成する電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる構成を有する。なお、セパレータが電極活物質層に「隣接して配置される」とは、セパレータが電極活物質層に直接隣接するように配置される場合に限られず、必要に応じてセパレータと電極活物質質層との間に他の層が介在した状態で配置される場合も含む概念である。
【0056】
電解液は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液層を構成する電解液は、非水溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。
【0057】
非水溶媒は、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。中でも、非水溶媒は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびブチレンカーボネート(BC)が好ましく、エチレンカーボネートを含むことが好ましい。添加される非水溶媒は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
リチウム塩としては、LiN(FSO2)2、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。なかでも、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、LiN(FSO2)2より好ましい。
【0059】
電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.1~3.0mol/Lであることが好ましく、0.8~2.2mol/Lであることがより好ましい。
【0060】
電解液は、上述した成分以外の添加剤をさらに混合してもよい。また、添加剤は電解液に含有させてもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、添加剤を添加する前の電解液100質量%に対して、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0061】
本形態に係る非水電解質二次電池では、電解質層にセパレータが用いられる。セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
【0062】
セパレータの形態としては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
【0063】
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
【0064】
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4~60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
【0065】
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5~200μmであり、特に好ましくは10~100μmである。
【0066】
また、セパレータは、多孔質基体に耐熱絶縁層が積層されたセパレータ(耐熱絶縁層付セパレータ)であってもよい。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。
【0067】
上述したように、本形態に係る非水電解質二次電池は、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が、89≦DODmax≦99を満たすように用いられる。ここで、「放電深度(DOD;Depth of Discharge)」とは、二次電池の放電状態を表す数値であり、定格容量に対する放電量の比を百分率[%]で表現したものである。したがって、放電過程のある時点におけるDODが90%である、とは、満充電量の90%分を放電した状態にあることを意味する。したがって、「DODmax[%]が89≦DODmax≦99を満たすように用いる」とは、電池の放電過程における放電深度(DOD)の最大値が89%以上99%以下となるように当該放電過程を実施することを意味する。また、電池は通常、充電過程および放電過程を繰り返すように使用されるが、1回の放電過程におけるDODの最大値が上記の範囲内の値であれば本発明の範囲内に含まれる。ただし、同一の電池に対して複数回の放電過程を実施するのであれば、そのうちの好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、いっそう好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上について、DODの最大値が上記の範囲内であると本発明の作用効果をより効果的に発現させることができる。なお、充放電サイクルの進行に伴う容量の低下をより一層抑制するという観点から、本形態に係る非水電解質二次電池は、89≦DODmax≦94を満たすように用いられることがより好ましい。
【0068】
本形態に係る非水電解質二次電池は、DODmaxを上記のように設定して用いられることで、サイクル耐久後の容量の低下を一層抑制することが可能となるという利点がある。ここで、負極を例に挙げて説明すると、放電過程における放電深度(DOD)が0%(すなわち満充電状態)のとき、負極活物質はリチウムイオン等のイオンを吸蔵して最大限に膨張した状態にある。このため、負極活物質は塑性変形して結晶構造が歪んだ状態にある。その状態から放電過程が進行して上記イオンが放出されるとこの歪みは解消され、負極活物質の結晶構造は安定な状態となる。その状態からさらに放電過程が進行して上記イオンが過剰に放出されると、負極活物質は過剰に収縮し、負極活物質がゲル形成性ポリマーその他の電極構成成分から剥離するなど、電極の構造が破壊される。その結果、充放電サイクルの進行に伴って容量が低下するものと考えられる。これに対し、本形態に係る非水電解質二次電池では、DODmaxを上記のように設定することで、このような電極構造の破壊に起因する充放電サイクル進行時の容量の低下が抑制されるものと考えられる。ただし、このメカニズムが本発明の技術的範囲に影響を及ぼすことはない。また、電極活物質層が正極活物質層である場合においても同様のメカニズムにより本発明の作用効果は奏されるが、上述した膨張収縮がより大きいという観点から、電極活物質層が負極活物質層である場合に本発明は特に有効である。
【0069】
以上のことから、本発明の他の形態によれば、電極活物質およびゲル形成性ポリマーを含む電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる電極と、前記電極活物質層に隣接するように配置されたセパレータに電解液が含浸されてなる電解質層とを有し、前記電極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率y[%]が、6.9≦y≦7.8を満たす非水電解質二次電池の使用方法であって、放電の際の放電深度(DOD)の最大値DODmax[%]が89≦DODmax≦99を満たすように放電を行う使用方法もまた、提供される。このようにして非水電解質二次電池を使用することにより、充放電サイクル進行時の容量の低下を抑制しつつ、長期間にわたって電池の使用を継続することができる。
【0070】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0071】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0072】
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、
図1に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができ、所望の電解液層厚みへと調整容易であることから、外装体はアルミネートラミネートがより好ましい。
【0073】
本形態に係る非水電解質二次電池は、優れたサイクル耐久性および出力特性(レート特性)を発揮することができる。したがって、本形態に係るリチウムイオン二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0074】
以上、リチウムイオン二次電池用正極材料の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0075】
例えば、本形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0076】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の非水電解質二次電池;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれかに記載の非水電解質二次電池;請求項5の特徴を有する請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池;請求項6の特徴を有する請求項1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池;請求項7の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の非水電解質二次電池;請求項8の特徴を有する請求項1~7のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【実施例0077】
以下、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。
【0078】
[実施例1]
<負極の作製>
負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径(D50)=19μm)87質量部およびSiO(平均粒子径(D50)=6.5μm)4.5質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標);平均粒子径(一次粒子径):0.023μm)0.5質量部とからなる粉体組成物を、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて2000rpmで1分間混合した。次いで、スラリー粘度調整溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の適量を上記粉体組成物に添加し、同装置を用いて2000rpmで2分間混合した。その後、ゲル形成性ポリマーであるポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)(Kyner Flex 2851、Arkema製、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位数の割合:2.4モル%)8質量部をNMPに溶解させた溶液をさらに添加し、数回に分けて同装置を用いて2000rpmで4分間混合して、負極スラリーを作製した。負極スラリーを平滑盤上に設置したCu箔(厚さ10μm)の上に、負極活物質質量(負極活物質の目付量)が10mg/cm2となるように、ドクターブレードを用いて均一に塗布し、80℃のホットプレート上で1時間乾燥させた。その後、得られた積層体を、ロールプレス機を用いてプレスした。その後、真空乾燥機に入れ、真空条件下、130℃にて8時間乾燥させて、本実施例の負極を作製した。
【0079】
なお、得られた負極における負極活物質層の厚さは67μmであった。また、以下の方法により負極活物質層に占める空孔体積の百分率(x[%])を算出したところ、27[%]であった。さらに、以下の方法により負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率(y[%])を算出したところ、7.4[%]であった。そして、以下の方法により負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの吸液率を算出したところ、45[%]であった。
【0080】
[負極活物質層に占める空孔体積の百分率(x[%])の算出]
(1)負極活物質層の単位面積当たりの重量を測定した。材料の配合比から、負極活物質層の単位面積当たりの各材料の重量を求めた。
(2)マイクロメーターを用いて、負極活物質層の厚さ[A]を測定した。
(3)(1)で求めた各材料の重量と、各材料の密度とを用いて、空孔率0%である場合の負極活物質層の厚さ[B]を算出した。
(4)測定した負極活物質層の厚さと算出した負極活物質層の厚さとの差(A-B)から負極活物質層の空孔体積を算出し、負極活物質層に占める空孔体積の百分率(x[%])を求めた。
【0081】
[負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率(y[%])の算出]
上記(1)で求めたゲル形成性ポリマーの重量と、ゲル形成性ポリマーの密度とを用いて、負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積を算出し、負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率(y[%])を求めた。
【0082】
[電解液に対するゲル形成性ポリマーの吸液率(z)の測定]
電解液に対するゲル形成性ポリマーの吸液率(z)は、電解液への浸漬前および浸漬後のゲル形成性ポリマーの重量を測定して、以下の式により算出した:
吸液率(%)=[(電解液浸漬後のゲル形成性ポリマーの重量-電解液浸漬前のゲル形成性ポリマーの重量)/電解液浸漬前のゲル形成性ポリマーの重量]×100
試料としては、各実験例において用いたゲル形成性ポリマーをN-メチル-2-ピロリドンに溶解して、キャスト膜を作製した。キャスト膜の電解液への浸漬は、25℃~50℃にて24時間行った。また、吸液率を求めるための電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比3:7)にLiPF6 1mol/Lを溶解させて得られた電解液を用いた。
【0083】
<リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製>
上記で作製した負極をφ15mmで打ち抜き、対極Li(φ16mm)と対向させ、この間にセパレータ(ポリオレフィン、厚さ:20μm)を2枚配置した。次いで、負極、セパレータおよび対極(Li金属)の積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、電極同士の絶縁性を保つためガスケットを装着し、電解液をシリンジにより注入し、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしめることにより密閉して、本実施例のリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、上記電解液としては、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比3:7)にLiPF6 1mol/Lを溶解させて得られた電解液を用いた。
【0084】
[実施例2~実施例23および比較例1~比較例11]
負極の負極活物質層に含まれるゲル形成性ポリマーの体積の百分率(y[%])、および負極活物質層に占める空孔体積の百分率(x[%])が下記の表1に示す値となるように、ゲル形成性ポリマー(PVdF-HFP)の配合量および負極作製時のプレス条件を調節したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、実施例2~実施例23および比較例1~比較例11のリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。上述した各実験例における負極活物質層のx、yおよびx+yの値を下記の表1に示す。
【0085】
[サイクル耐久性評価]
サイクル耐久性評価は、25℃に設定した恒温槽内に上記で作製したリチウムイオン二次電池(コインセル)を設置して実施した。具体的には、まず、初回充放電処理として、CCCVモード(カットオフ電圧0.01V)で0.05Cの放電レートで定電流放電を行った後、カットオフ電圧に達した後は定電圧放電(カットオフ電流0.01C)を行った。次いで、CCモードで0.05Cの充電レートでセル電圧2Vまで定電流充電を行った。
【0086】
その後、サイクル充放電処理として、CCモードで0.33Cの放電レートで定電流放電を行った。次いで、CCモードで0.33Cの充電レートでセル電圧2Vまで定電流充電を行った。この放電-充電の処理を1サイクルとして、100サイクルのサイクル充放電処理を行った。この際、各サイクルの定電流放電における放電深度(DOD)を下記の表1に示す値に設定した。そして、1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量との差分を放電容量低下量[mAh/g]として算出した。この放電容量低下量の測定結果を下記の表1に示す。
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表1に示す結果から、本発明に係る実施例の非水電解質二次電池は、yの値が所定の範囲内の値であり、DODも所定の範囲内の値に設定されていることで、比較例の電池と比較して、サイクル耐久後の容量の低下を抑制することができることがわかる。