(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174504
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ダンパー装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/02 20060101AFI20241210BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
F16F9/02
F16F9/32 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092361
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100098202
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信彦
(72)【発明者】
【氏名】下▲崎▼ 啓
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA05
3J069DD03
3J069EE02
3J069EE10
(57)【要約】
【課題】ダンパー装置を構成するシール部材がシリンダー体の内壁にできるだけ同じ態様で摺接するようにする。
【解決手段】ピストン体2は、一方空間5側からシール部材4のベース部4aに向き合う第一保持部2aと、シール部材4のリップ部4bの内側に位置して他方空間6側からベース部4aに向き合う第二保持部2bとを備えている。シール部材4におけるシリンダー体1の幅広側面部1cに向き合う二箇所の長手部分4cを構成するベース部4aの間に、ピストン体2が一方空間5側に移動するときにベース部4aよりもピストン体2の移動中心軸x側において第一保持部2aに接するように形成されてシール部材4の長手部分4cの姿勢を維持する規制部4fを備えさせている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の幅広側面部と一対の幅狭側面部とを有する扁平筒状のシリンダー体と、前記シリンダー体内に移動可能に納められたピストン体と、前記シリンダー体と前記ピストン体との間をシールするシール部材とを備え、前記ピストン体の移動又は相対的な移動により制動力を生じさせるダンパー装置であって、
前記シール部材は、弾性を有し、前記ピストン体を取り巻く周回状をなすと共に、前記ピストン体によって区分される前記シリンダー体内の一方空間側に位置するベース部と、このベース部から前記シリンダー体内の他方空間側に延び出すリップ部とを有し、前記リップ部において前記シリンダー体の内壁に摺接するようになっており、
前記ピストン体は、前記一方空間側から前記シール部材の前記ベース部に向き合う前記シール部材の第一保持部と、前記シール部材の前記リップ部の内側に位置して前記他方空間側から前記ベース部に向き合う前記シール部材の第二保持部とを備えており、
前記シール部材における前記シリンダー体の前記幅広側面部に向き合う二箇所の長手部分を構成する前記ベース部の間に、前記ピストン体が前記一方空間側に移動するときに前記ベース部よりも前記ピストン体の移動中心軸側において前記第一保持部に接するように形成されて前記シール部材の前記長手部分の姿勢を維持する規制部を備えさせてなる、ダンパー装置。
【請求項2】
前記シール部材の二箇所の前記長手部分にそれぞれ、前記ピストン体の前記移動中心軸側に突き出す前記規制部となる張り出し部を形成させてなる、請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
前記張り出し部は前記第一保持部に向き合う第一面と、前記第二保持部に向き合う第二面とを有すると共に、前記第二面を、前記張り出し部の先端部に近づくに連れて前記張り出し部の厚さを漸減させるように傾斜させてなる、請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項4】
前記シール部材の二箇所の前記長手部分間に前記規制部となる架設部を形成させてなる、請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項5】
前記ピストン体を、前記第一保持部を備えた第一部分と、前記第二保持部を備えた第二部分とを、両者間で前記シール部材を挟持するようにして組み合わせた構成としてなる、請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項6】
前記ピストン体の前記第一部分における前記第一保持部及び前記シール部材の前記ベース部のいずれか一方に溝が形成されていると共に、これらの他方に前記溝に納まるリブを形成させてなる、請求項5に記載のダンパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストン体の移動又は相対的な移動により制動力を生じさせるダンパー装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
扁平筒状のシリンダーと、このシリンダー内に移動可能に収められたピストンと、このピストンを取り巻くようにこのピストンに備えられて、シリンダーとピストンとの間をシールするシールリングとを備えたダンパー装置として、特許文献1に示されるものがある。
【0003】
ここで、かかるシールリングには、ピストンを挟んだ一方側に形成される空間と、他方側に形成される空間との間にピストンの移動によって圧力差が生じると、このシールリングを変形させる力が作用される。
【0004】
しかるに、かかるシールリングはシリンダーの断面形状に倣った扁平のリング状を呈するため、その長軸側、つまり、シールリングにおけるシリンダーの幅広側の壁部に接する部分において変形を生じ易い。
【0005】
この種のダンパー装置は、典型的には、制動対象の動きをゆっくりとしたもの、高級感をもったもの、節度をもったもの、ないしは、突飛なものにしないようにするために用いられるものであるところ、前記シールリングの変形が制御できないと、ダンパー装置から生じる制動力が安定せず、例えば、制動対象を急停止させたり、多段階に停止させてしまったり、あるいはまた、制動対象に制動力を作用させるべき場面で制動力を喪失させてしまうなどの不具合を招来することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、この種のダンパー装置から所期の制動力が常時もたらされるように、これを構成するシール部材がシリンダー体の内壁に常時できるだけ同じ態様で摺接する構造を付与できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、ダンパー装置を、 一対の幅広側面部と一対の幅狭側面部とを有する扁平筒状のシリンダー体と、前記シリンダー体内に移動可能に納められたピストン体と、前記シリンダー体と前記ピストン体との間をシールするシール部材とを備え、前記ピストン体の移動又は相対的な移動により制動力を生じさせるダンパー装置であって、
前記シール部材は、弾性を有し、前記ピストン体を取り巻く周回状をなすと共に、前記ピストン体によって区分される前記シリンダー体内の一方空間側に位置するベース部と、このベース部から前記シリンダー体内の他方空間側に延び出すリップ部とを有し、前記リップ部において前記シリンダー体の内壁に摺接するようになっており、
前記ピストン体は、前記一方空間側から前記シール部材の前記ベース部に向き合う前記シール部材の第一保持部と、前記シール部材の前記リップ部の内側に位置して前記他方空間側から前記ベース部に向き合う前記シール部材の第二保持部とを備えており、
前記シール部材における前記シリンダー体の前記幅広側面部に向き合う二箇所の長手部分を構成する前記ベース部の間に、前記ピストン体が前記一方空間側に移動するときに前記ベース部よりも前記ピストン体の移動中心軸側において前記第一保持部に接するように形成されて前記シール部材の前記長手部分の姿勢を維持する規制部を備えさせてなる、ものとした。
【0009】
前記ピストン体に対し一方空間を縮小させる向きへの移動又は相対的な移動を生じさせる力が作用されて前記一方空間側が高圧になった場合、シール部材のリップ部には前記中心軸に向けた力が作用され、シール部材のベース部には前記リップ部に作用される力によってシリンダー体の幅広側面部の内壁に近づく向きの力が作用される。
シール部材の長手部分に前記規制部を設けてない場合、前記のようにベース部に作用される力によって長手部分は変形し易く、長手部分の変形が制御できないと前記制動力も制御できないこととなる。
対し、前記構成によれば、前記規制部により、前記のようにリップ部に力が作用されたときに前記ベース部に作用される力を、規制部を第一保持部に押し当てることで受けさせることができ、これにより、シール部材の長手部分の予期できない変形を抑制することができる。
【0010】
前記シール部材の二箇所の前記長手部分にそれぞれ、前記ピストン体の前記移動中心軸側に突き出す前記規制部となる張り出し部を形成させるようにすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0011】
また、前記張り出し部を、前記第一保持部に向き合う第一面と、前記第二保持部に向き合う第二面とを有すると共に、前記第一面と前記第二面との間に、前記第二面に近づくに連れて前記張り出し部の厚さを漸減させるように傾斜した傾斜面を備えたものとすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0012】
また、前記シール部材の二箇所の前記長手部分間に前記規制部となる架設部を形成させるようにすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0013】
また、前記ピストン体を、前記第一保持部を備えた第一部分と、前記第二保持部を備えた第二部分とを、両者間で前記シール部材を挟持するようにして組み合わせた構成とすることが、この発明の態様の一つとされる。
この場合さらに、前記ピストン体の前記第一部分における前記第一保持部及び前記シール部材の前記ベース部のいずれか一方に溝を形成すると共に、これらの他方に前記溝に納まるリブを形成するようにすることが、この発明の態様の一つとされる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、前記シール部材の規制部によって、シール部材がシリンダー体の内壁に常時できるだけ同じ態様で摺接するようにでき、この種のダンパー装置から所期の制動力が常時もたらされるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、この発明の一実施の形態にかかるダンパー装置(第一例)の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、
図4の要部拡大断面図であり、ピストン体は一方空間を縮小する向きに移動している。
【
図7】
図7は、
図4の要部拡大断面図であり、ピストン体は一方空間を拡大する向きに移動している。
【
図8】
図8は、
図5の要部拡大断面図であり、a図はピストン体が一方空間を縮小する向きに移動しているときのオリフィス形成箇所の様子を、b図はピストン体が一方空間を拡大する向きに移動しているときのオリフィス形成箇所の様子を、それぞれ示している。
【
図9】
図9は、前記第一例を構成するシール部材の斜視図である。
【
図13】
図13は、前記第一例を構成するピストン体とシール部材の斜視図である。
【
図14】
図14は、前記ピストン体にシール部材を組み合わせた状態の斜視図である。
【
図17】
図17は、この発明の一実施の形態にかかるダンパー装置(第二例)を構成するピストン体の要部側面構成図である。
【
図18】
図18は、前記第二例のピストン体の分解斜視構成図である。
【
図19】
図19は、前記第二例のピストン体の分解斜視構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図20に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について、説明する。この実施の形態にかかるダンパー装置は、これを構成するピストン体2の移動又は相対的な移動に制動力を生じさせるものであって、典型的には、制動対象となる可動部など(図示は省略する)を備える物品に組み合わされて、かかる制動対象の移動に対し前記制動力を作用させてかかる制動対象の移動を、ゆっくりとしたもの、高級感をもったもの、節度をもったもの、ないしは、突飛なものにしないように、するために用いられるものである。
【0017】
かかるダンパー装置は、ロッド体3を備えたピストン体2と、このピストン体2を納めるシリンダー体1とからなる。典型的には、かかるダンパー装置は、ロッド体3及びシリンダー体1のいずれか一方を前記制動対象側に直接あるいは間接に連係させ、これらの他方をかかる制動対象を移動可能に支持する側に直接あるいは間接に連係させることで、かかる制動対象を備えた物品に組み合わされる。
【0018】
図示の例では、前記シリンダー体1は、一端1aを開放させ、かつ、他端1bを閉塞させた筒状を呈している。図示は省略するが、シリンダー体1は両端を共に開放させた筒状体の一端を別部品によって塞いだ構成としても構わない。かかるシリンダー体1は、厚さを顕著に小さくした扁平筒状を呈している。
より具体的には、かかるシリンダー体1は、二箇所の幅広側面部1cと二箇所の幅狭側面部1dとを備えている。シリンダー体1をその中心軸x(
図4、
図5参照/すなわち、ピストン体2の移動中心軸)に直交する向きに断面にした状態において、左右の幅狭側面部1dは、前記中心軸x側を湾曲内側とするように湾曲されており、シリンダー体1の断面内郭形状は長円状(二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなる形状)となっている。 シリンダー体1の閉された他端1bの外側には、前記連係のための接続部1eが形成されている。
【0019】
また、シリンダー体1の閉塞された他端1bには、オリフィス1fが形成されている。図示の例では、オリフィス1fに軸1hを移動可能に挿入した制動力調整部材1gがシリンダー体1の他端1bの外側に形成された保持部1iに保持されている。
図1、
図2、
図8中、符号1jで示すのは、この制動力調整部材1gの軸1hのオリフィス1fへの進入量を減じさせる向きに常時この制動力調整部材1gを付勢するコイルバネである。
【0020】
また、図示の例では、前記ロッド体3には、ピストン体2の移動方向に沿った長穴3aが形成されている。そして、図示の例では、シリンダー体1内に前記ピストン体2及びロッド体3の少なくともピストン体2側に位置される箇所を納めた状態から、シリンダー体1の開放された一端2a側において一対の幅広側面部1cに形成された貫通穴1k及び前記長穴3aにピン1mを挿通することで、シリンダー体1とピストン体2側との組み合わせ状態を維持すると共に、ピストン体2側の移動をガイドするようになっている。
ピストン体2に組み合わされる後述のシール部材4は、後述のリップ部4bを弾性変形させた状態でシリンダー体1内に納められ、このリップ部4bの延び出し端4eを前記中心軸xを巡るいずれの位置においてもシリンダー体1の内壁1nに接しさせるようになっている。
このシール部材4によって、シリンダー体1内の空間は、閉塞された他端2b側の一方空間5と、開放された一端2a側の他方空間6に区分される。
【0021】
一方空間5を拡大する向きのピストン体2の移動(
図7)は前記オリフィス1fを通じた外部から一方空間5側への流体(図示の例では気体)の移動により許容されるようになっている(
図8のb図)。
【0022】
一方、図示の例では、一方空間5を縮小する向きのピストン体2の移動(
図6)時は、一方空間5側が高圧となることから、シリンダー体1の内壁1nから後述のシール部材4のリップ部4bが離れる向きのシール部材4の弾性変形が招来され、シリンダー体1の内壁1nとリップ部4bとの間からの流体の移動によってこの向きのピストン体2の移動が許容されるようになっている。図示の例では、一方空間5を縮小する向きのピストン体2の移動(
図6)時は、さらに、シール部材4の後述のベース部4aとピストン体2の後述の第一保持部2aとの間に作られる隙間cと、ピストン体2の後述の第二保持部2bを形成する箇所に設けられた通路fとを通じて一方空間5側から他方空間6側に向けた流体の移動も許容されるようになっている。
【0023】
ロッド体3は、ロッド主体3bと、このロッド主体3bのシリンダー体1内に位置する内端に一体化されたロッド頭部3cとを備えている。
ロッド頭部3cは、前記中心軸xに直交する向きの断面外郭形状を、前記シリンダー体1の断面内郭形状に倣った長円状とする内側部分3d及び外側部分3eを有する。
ロッド主体3bは、その一端をロッド頭部3cの外側部分3eの中央に一体化させている。また、ロッド主体3bにおけるシリンダー体1外に位置される外端には前記連係のための接続部3fが形成されている。
【0024】
図示の例では、ロッド頭部3cの内側部分3d側の中央には、ピストン体2の嵌合部2cに対する被嵌合部3gが形成されている。
図示の例では、嵌合部2cは頸部2dとこの頸部2dを介してピストン体2の後述の第二保持部2bの第一保持部2aに向き合う側と反対の背面部の中央に一体化された嵌合頭部2eとからなる。
一方、被嵌合部3gは、前記頸部2dを通過させる割欠き3hと、内側部分3dと外側部分3eとの間に形成された嵌合頭部2eのはめ込み空所3iとからなる。
図1ないし
図16に示される第一例では、ピストン体2に後述のように扁平筒状をなすシール部材4を組み合わせた状態から、ロッド頭部3cの割欠き3hを利用して嵌合頭部2eをはめ込み空所3iに納めることで、ピストン体2とロッド体3とが一体化されるようになっている。
【0025】
ピストン体2は、第一保持部2aと、第二保持部2bと、両者をつなぐ中間部2fとを備えている。
ピストン体2は、シリンダー体1の幅広側面部1cにおいてその内壁1nに向き合う長手側と、シリンダー体1の幅狭側面部1dにおいてその内壁1nに向き合う短手側とを持つ。
【0026】
第一保持部2aおよび第二保持部2bはそれぞれ、これらの外郭を、シリンダー体1の前記断面内郭形状に倣った仮想の長円(図示は省略する。)に内接させるようにして、形成されている。
中間部2fは、シリンダー体1の中心軸xを巡る全周に亘り、その外郭を第一保持部2a及び第二保持部2bの外郭よりも前記中心軸x側に位置させるように形成されており、ピストン体2は中間部2fにおいてくびれた形態となっている。
【0027】
第一保持部2aは、前記一方空間5側から前記シール部材4の後述のベース部4aに向き合う。第一保持部2aは、シリンダー体1の前記断面内郭形状と相補となる外郭形状を持っている。図示の例では、第一保持部2aは、長円状の輪郭形状を持った板状を呈している。第一保持部2aは、その外縁とシリンダー体1との内壁1nとの間に、前記中心軸xを巡るいずれの位置においても前記流体(この実施の形態では気体)を通過させるクリアランス(
図6及び
図7参照)を作る大きさを持つように構成される。
【0028】
中間部2fは、後述のシール部材4のベース部4aの内面が倣う仮想の長円(図示は省略する。)上に実質的に位置される凸部分2gと、この凸部分2gよりも前記中心軸x側に位置される凹部分2hとを有している。図示の例では、中間部2fにおける前記短手側が凸部分2gとなり、前記長手側が凹部分2hとなっている。
【0029】
第二保持部2bは、前記シール部材4の後述のリップ部4bの内側に位置して前記他方空間6側から前記ベース部4aに向き合う。第二保持部2bの外郭は、シリンダー体1の中心軸xを巡る全周に亘り、第一保持部2aの外郭よりも前記中心軸x側に位置している。図示の例では、第二保持部2bにおける前記長手側は、隣り合うリブ2i間に隙間を空けて設けられた複数のリブ2iによって構成されており、前記中間部2fの凹部分2hとこのリブ2i間の隙間が前記通路fとして機能するようになっている。
【0030】
前記シール部材4は、弾性を有し、前記ピストン体2を取り巻く周回状をなす。シール部材4は、典型的には、ゴムないしはゴム状弾性を備えたプラスチックから構成される。
また、シール部材4は、扁平なリング状を呈し、二箇所の長手部分4cと二箇所の短手部分4dとを有する。
シール部材4における、前記中心軸xに沿った向きでの断面形状は、後述の規制部4fの形成箇所以外の箇所では、前記中心軸xをめぐるいずれの位置においてもを実質的に同一の形状となっている。この規制部4fは後述のように一定の範囲でベース部4aの内側部4aaから中心軸x側に突き出しており、
図15においては規制部4fの形成されていない位置でのベース部の4a内側部4aaを点線で示している。この点線より中心軸x側が規制部4fとなる。
【0031】
シール部材4は、前記ピストン体2によって区分される前記シリンダー体1内の一方空間5側に位置するベース部4aと、このベース部4aから前記シリンダー体1内の他方空間6側に延び出すリップ部4bとを有し、前記リップ部4bにおいて前記シリンダー体1の内壁1nに摺接するようになっている。
【0032】
ベース部4aは、シリンダー体1の前記断面内郭形状としての長円と相似形のこれより形を小さくする長円に倣った外面及び内面を備えている。
すなわち、ベース部4aは、二箇所の長手部分4cと二箇所の短手部分4dとを有する。
【0033】
ベース部4aの内側部4aaは、前記中心軸xを巡るいずれの位置においても、ピストン体2の第一保持部2aの外郭、及び、第二保持部2bの外郭よりも前記中心軸x側に位置されるようになっている。
従って、シール部材4は、その内側に第一保持部2a及び第二保持部2bのいずれか一方の側からピストン体2を通過させるように弾性変形された後、シール部材4の内側にピストン体2の中間部2fが位置された状態でこの弾性変形を解くことにより、ピストン体2のくびれ部分、つまり中間部2fに嵌められる。
図示の例では、シール部材4の二箇所の短手部分4dにおいては、シール部材4はそのベース部4aの内側部4aaを、ピストン体2の中間部2fの凸部分2gに接しさせた状態で、ピストン体2に嵌められている。
一方、シール部材4の二箇所の長手部分4cにおいては、シール部材4のベース部4aの内側部4aaと、ピストン体2の中間部2fの凹部分2hの内奥壁との間には後述の規制部を突き出させるための間隔y(
図15参照)が形成されるようになっている。
【0034】
ベース部4aの外側部4abはシリンダー体1の内壁1nに向き合った面となっている。ベース部4aの内側部4aaは前記中心軸xに実質的に沿った向きの面となっている。また、ベース部4aは前記一方空間5側において前記外側部4abと内側部4aaの間に亘る前記中心軸xに実質的に直交する前端面4acと、前記他方空間6側において前記外側部4abと内側部4aaとの間に亘る前記中心軸xに実質的に直交する後端面4adとを有する。
この前端面4acと後端面4adとの間の距離は、第一保持部2aと第二保持部2bとの間の距離よりも僅かに小さくなっている。
前記のようにピストン体2に嵌められたシール部材4は、ベース部4aの前端面4acを第一保持部2aに向き合わせ、ベース部4aの後端面4adを第二保持部2bに向き合わせて、ピストン体2に保持される(
図6、
図7参照)。
【0035】
リップ部4bは、ベース部4aの外側部4abと後端面4adとの間の後隅部4aeから他方空間6側に突き出すように形成され、ベース部4aと一体をなしている。リップ部4bは、前記中心軸xを巡るいずれの位置においても前記中心軸xに沿った向きでの断面形状を実質的に同一の形状とするように構成されている。
リップ部4bは、ベース部4aの外側部4abに連続するリップ外面と、ベース部4aの内側部4aaとの間をベース部4aの後端面4adとするリップ内面とを有し、前記中心軸xに直交する向きの厚さをベース部4aより小さくしてベース部4aよりも弾性変形し易い構造となっている。
【0036】
ベース部4aの外側部4abは後隅部4aeに近づくに連れてベース部4aの外径を大きくする向きに傾斜している。このベース部4aの外側部4abと同じように傾斜した態様でリップ部4bは、その延び出し端4eに近づくに連れて前記シール部材4の外径を漸増させるように形成されている。
ベース部4aの外側部4abとリップ部4bのリップ外面とは、両者間にくびれなどを作ることなく、連続している。
すなわち、リップ部4bは、前記後隅部4aeから他方空間6側に延びるスカート状を呈している。
シール部材4は、リップ部4bの延び出し端4eで最も外径を大きくし、シリンダー体1の内壁1nに対してはベース部4aでは接せず、リップ部4bの延び出し端4e側においてシリンダー体1の内壁1nに接するようになっている。
【0037】
また、シール部材4には、前記シリンダー体1の前記幅広側面部1cに向き合う二箇所の長手部分4cを構成するベース部4aの間に、前記ピストン体2が前記一方空間5側に移動するときに前記ベース部4aよりも前記ピストン体2の移動中心軸x側において前記第一保持部2aに接するように形成されて前記シール部材4の前記長手部分4cの姿勢を維持する規制部4fが設けられている。
【0038】
図1ないし
図16に示される第一例では、かかる規制部4fは、前記シール部材4の二箇所の前記長手部分4cにそれぞれ形成された前記ピストン体2の前記移動中心軸x側に突き出す張り出し部4gによって形成されている。
【0039】
第一例では、張り出し部4gは、長さと幅とを備えた凸片状を呈している。すなわち、張り出し部4gは、長手部分4cの長さ方向に沿って続く長さと、ベース部4aの内側部4aaから前記中心軸x側に向けて突き出す幅とを備えている。
また、張り出し部4gは、ベース部4aの前端面4acに連続した第一面4gaと、ベース部4aの後端面4adに連続した第二面4gbとを備えている。
これによって、張り出し部4gは前記ベース部4aよりも中心軸x側において、前記第一保持部2aに向き合う第一面4gaと、前記第二保持部2bに向き合う第二面4gbとを有している。
また、張り出し部4gは、二箇所の短手部分4dの一方とこの短手部分4d側に向けられた張り出し部4gの一端部4gcとの間、および、二箇所の短手部分4dの他方とこの短手部分4d側に向けられた張り出し部4gの他端部4gcとの間にそれぞれ、張り出し部4gの全長の半分程度の距離の間隔z(
図9及び
図10参照)を開けるようにして、長手部分4cを構成するベース部4aの内側部4aa側に形成されている。
また、二箇所の長手部分4cの一方に形成された張り出し部4gにおける前記中心軸x側に位置される先端部と、二箇所の長手部分4cの他方に形成された張り出し部4gにおける前記中心軸x側に位置される先端部との間には、中間部2fの凹部分2hが納まる間隔が形成されるようになっている。
なお、図示の例では、前記張り出し部4gの一端部4gc及び他端部4gcはそれぞれ、張り出し部4gの先端部4gdに近づくに連れて、張り出し部4gの長さを減じる向きに傾斜している。
【0040】
図6に示されるように、前記ピストン体2に対し一方空間5を縮小させる向きへの移動又は相対的な移動を生じさせる力が作用されると、シール部材4のベース部4aの後端面4adが第二保持部2bに接し、ベース部4aの前端面4acと第一保持部2aとの間に隙間cが生じ、この隙間cと前記中間部2fの凹部分2hと前記第二保持部2bのリブ2i間の通路fとを流路とした流体の移動が許容される。それと共に、一方空間5側が高圧になることから、シール部材4のリップ部4bには前記中心軸xに向けた力P1が作用され、リップ部4bとシリンダー体1の内壁1nとの間からの流体の移動も許容される。これにより、一方空間5を縮小させる向きへのピストン体2の移動が許容され、この移動に伴って一定の制動力が発生する。
このとき、シール部材4のベース部4aには前記リップ部4bに作用される力P1によってシリンダー体1の幅広側面部1cの内壁1nに近づく向きの力P2が作用される。
シール部材4の長手部分4cに前記規制部4fを設けてない場合、前記のようにベース部4aに作用される力P2によって長手部分4cは変形し易く、長手部分4cの変形が制御できないと前記制動力も制御できないこととなる。
対し、この実施の形態にあっては、前記規制部4fにより、前記のようにリップ部4bに力P1が作用されたときに前記ベース部4aに作用される力P2を、規制部4fを第一保持部2aに押し当てることで受けさせることができ、これにより、シール部材4の長手部分4cの予期できない変形を抑制することができる。すなわち、かかる規制部4fの機能により、変形しやすいシール部材4の長手部分4cの姿勢はピストン体2の移動または相対的な移動の全過程において所期の姿勢に安定的に維持される。
【0041】
一方、
図7に示されるように、前記ピストン体2に対し一方空間5を拡大させる向きへの移動又は相対的な移動を生じさせる力が作用されると、シール部材4のベース部4aの前端面4acが第一保持部2aに接し、それと共に、他方空間6側が高圧になることから、シール部材4のリップ部4bにはシリンダー体1の内壁1nに押しつけられる向きの力P3が作用され、一方空間5への流体の移動は前記オリフィス1fを通じたものに限定される。これにより、一方空間5を拡大させる向きへのピストン体2の移動によってこれを縮小させるときの制動力よりも大きな一定の制動力が発生する。
【0042】
前記規制部4fはシール部材4の長手部分4cに形成され、短手部分4dに形成されていない。これにより、前記のようにピストン体2にシール部材4を弾性変形させて嵌め付けるに際し、シール部材4の短手部分4dを変形中心としてシール部材4の二箇所の長手部分4c間の距離を広げてこの間にピストン体2を受け入れさせやすく、この嵌め付け作業の円滑化を図ることができる。
【0043】
また、第一例にあっては、前記張り出し部4gの前記第二面4gbは、前記張り出し部4gの先端部4gdに近づくに連れて前記張り出し部4gの厚さを漸減させるように傾斜した構成となっている。
図示の例では、張り出し部4gは、前記第一面4gaを前記中心軸xに直交する面部とし、その突き出し端となる先端部4gdを前記中心軸xに沿う向きの面部とすると共に、前記第二面4gbを張り出し部4gの全長に亘って前記のように傾斜させた形態となっている。
この第二面4gbの傾斜により、ピストン体2の第二保持部2b側からピストン体2の中間部2fをシール部材4を弾性変形させながらこのシール部材4内に受け入れさせるようにして行うシール部材4のピストン体2に対する前記嵌め付け作業において、張り出し部4gが第二保持部2bを乗り越えた後のシール部材4の弾性復帰によって張り出し部4gを第一保持部2aと第二保持部2bとの間にスムースに入り込ませることができるようになっている。
【0044】
(第二例)
図17ないし
図20は、前記ピストン体2を、前記第一保持部2aを備えた第一部分7と、前記第二保持部2bを備えた第二部分8とを、両者間で前記シール部材4を挟持するようにして組み合わせた構成としてなる、第二例を示している。第二部分8はロッド体3の内端に一体化されている。
この第二例のその余の構成は前記第一例と同一又は実質的に同一であるので、その説明は省略する。
【0045】
第一部分7は、扁平筒状をなるシリンダー体1の中心軸xに直交する向きの断面内郭形状と相補となる長円状の輪郭を備えた板体から構成されている。
第二部分8は、ロッド頭部における一方空間5側に位置される面部によって構成されている。この面部も前記シリンダー体1の断面内郭形状と相補となる長円状の輪郭を備えている。
図示の例では、第一部分7には、他方空間6側に向けられた面部から他方空間6側に向けて突き出す脚体7aが備えられている。脚体7aは、第一部分7の長軸方向中程の位置を挟んだ両側にそれぞれ設けられている。
また、第二部分8には、その長軸方向中程の位置を挟んだ両側にそれぞれ、前記脚体7aを受け入れる受入部8aが形成されている。
また、前記脚体7aの先端には爪部7bが形成され、前記受入部8aの内部には弾性片8bが形成されており、受入部8aへの脚体7aの差し込みは弾性片8bの弾性変形により許容されると共に、受入部8aに脚体7aを差し込みきった位置での弾性片8bの弾性復帰により脚体7aの爪部7bに弾性片8bの先端が係合されるようになっている。
図示の例では、爪部7bは脚体7aにおける前記中心軸xの側と反対の側に形成されている。一方、弾性片8bは受入部8aの入り口側に基部を持ち、受入部8aの奥に向かうにつれて中心軸xとの距離を漸減させるように延びた形態となっている。受入部8aへ脚体7aを導入すると爪部7bが弾性片8bに接して中心軸xから離れる向きに弾性片8bが変形されて受入部8aへの脚体7aの導入が許容される。受入部8aに脚体7aを前記差し込みきると弾性片8bが中心軸xに近づく向きに弾性復帰し、弾性片8bが受入部8aの入り口と爪部7bとの間に入り込み、受入部8aからの脚体7aの抜け出しが阻止される。
【0046】
第二例を構成するシール部材4は、その二箇所の前記長手部分4c間に前記規制部4fとなる架設部4hを形成させた構成となっている。
架設部4hは、前記二箇所の長手部分4cを構成するベース部4aの内側部4aa間に亘る幅を持ち、二箇所のベース部4a間に架設されている。
また、架設部4hは、シール部材4の長手部分4cの長さに沿う向きの長さを持ち、架設部4hにおけるシール部材4の二箇所の短手部分4dの一方側に向けられた一端部4haとこの一方の短手部分4dとの間、および、架設部4hにおけるシール部材4の二箇所の短手部分4dの他方側に向けられた他端部4haとこの他方の短手部分4dとの間にそれぞれ間隔zを形成させた状態で、二箇所ベース部4a間のその余の領域を塞いだ形態となっている。
図示の例では、架設部4hと短手部分4dとの間の間隔zを利用して、前記脚体7aが受入部8a部に導入可能となっており、これにより、前記第一保持部2aを備えた第一部分7と、前記第二保持部2bを備えた第二部分8とを、両者間で前記シール部材4を挟持するようにして組み合わせることが可能となっている。
【0047】
前記ピストン体2の前記第一部分7における前記第一保持部2a及び前記シール部材4の前記ベース部4aのいずれか一方に溝が形成されていると共に、これらの他方に前記溝に納まる突条を形成させるようにすれば、ピストン体2に対するシール部材4の組み合わせ状態を安定化させることができる。
図示の例では、第一保持部2aとシール部材4とにそれぞれ、溝9と突条10とを形成させている。いずれの溝9及び突条10も、前記中心軸xを周回するように形成されており、前記長円に沿うように形成されている。
第一保持部2aでは、内側に突条10があり、これに隣接した外側を溝9とするようになっている。シール部材4は、ベース部4aの前端面4acにおいて、内側に溝9があり、これに隣接した外側を突条10とするようになっている。そして、前記のようにシール部材4を挟んで第一部分7と第二部分8とを組み合わせた状態において、第一保持部2aの突条10がシール部材4のベース部4aの溝9に入り込み、かつ、第一保持部2aの溝9にシール部材4のベース部4aの突条10が入り込むようになっている。
【0048】
なお、当然のことながら、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成し得るすべての実施形態を含むものである。
【符号の説明】
【0049】
1 シリンダー体
1c 幅広側面部
2 ピストン体
2a 第一保持部
2b 第二保持部
4 シール部材
4a ベース部
4b リップ部
4c 長手部分
4f 規制部
x 中心軸