(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174506
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241210BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241210BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092363
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】崔 吉南
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA23
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止しうる手段を提供する。
【解決手段】正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子の表面に配置された、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーとを含むリチウムイオン二次電池用正極材料において、正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行うことによって得られるN1s光電子スペクトルにおいて、-N=、-NH-および-N
・+H-のそれぞれに対応するピークを分離したときの各ピークの面積をN1、N2およびN3としたときに、N3/(N1+N2+N3)として定義されるN3面積比が0.08以上であるものを用いる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面に配置された、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーと、
を含み、
正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行うことによって得られるN1s光電子スペクトルにおいて、-N=、-NH-および-N・+H-のそれぞれに対応するピークを分離したときの各ピークの面積をN1、N2およびN3としたときに、N3/(N1+N2+N3)として定義されるN3面積比が0.08以上である、リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記正極活物質粒子の全量100質量%に対する前記導電性ポリマーの質量比が1~15質量%である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記正極活物質粒子が、一般式(1):LixNiaMbNcO2(式中、x、a、b、c、dは、0.8≦x≦1.1、a+b+c=1、0.33≦a≦0.95、0.05≦b≦0.67、0≦c≦0.10を満たす。MはMnおよびCoからなる群から選択される1種以上の元素であり、NはAl、Sn、Nb、Ti、ZrおよびMgからなる群から選択される1種以上の元素である)で表される組成を有する、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記aが0.80≦a≦0.95を満たす、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記正極活物質粒子のBET比表面積SBET[m2/g]および前記正極活物質粒子の真比重ρ[g/cm3]から下記数式1:
[数式1]
Ls=6/(ρ×SBET)
に従って算出される換算粒子径Ls[μm]に対する、前記正極活物質粒子のD50平均粒子径LD50[μm]の比の値(LD50/Ls)が5以下である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の普及の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力が期待できるリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に注目が集まっている。
【0003】
ここで、特許文献1には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として有用なリチウムニッケル複合酸化物の充放電サイクル耐久性に悪影響を及ぼすことなく正極活物質の水分や二酸化炭素との反応の進行を防止する技術が開示されている。具体的に、特許文献1では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面を、ポリピロールやポリアニリン等の導電性ポリマーを0.1~5質量%程度用いて被覆することで正極活物質の水分や二酸化炭素との接触を防止することが提案されている。特許文献1によれば、このような構成とすることで、電池特性に悪影響を及ぼすことなく(充放電サイクル耐久性の低下を招かずに)正極活物質を大気雰囲気下で取り扱うことが可能となったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されているような導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合であっても、充放電サイクルの進行に伴って電池のレート特性が大幅に低下する場合があることが判明した。
【0006】
そこで本発明は、導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、導電性ポリマーとしてポリアニリンまたはポリピロールを用いるとともに、これらの導電性ポリマーの主鎖に含まれる窒素原子のうちラジカルカチオンとなっているものの割合を比較的多くして正極活物質粒子の表面に配置することで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一形態は、正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子の表面に配置された、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーとを含むリチウムイオン二次電池用正極材料である。そして、当該正極材料は、正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行うことによって得られるN1s光電子スペクトルにおいて、-N=、-NH-および-N・+H-のそれぞれに対応するピークを分離したときの各ピークの面積をN1、N2およびN3としたときに、N3/(N1+N2+N3)として定義されるN3面積比が0.08以上である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である、積層型(扁平型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池を模式的に表した断面図である。
【
図2】本発明の一形態に係る正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行った際の窒素(N1s)のスペクトルが、ピーク分離解析によって3種(N1(-N=)、N2(-NH-)、およびN3(-N
・+H-))のピークに分離可能であることを説明するためのグラフである。
【
図3】各実施例および各比較例の試験用セルについて測定したレート特性について、セルコンディショニング直後のレート特性の値に対する充放電サイクル直後のレート特性の値の百分率[%]をレート特性維持率として算出した結果(縦軸)を、N3面積比(横軸)に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態は、正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子の表面に配置された、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーとを含み、正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行うことによって得られるN1s光電子スペクトルにおいて、-N=、-NH-および-N・+H-のそれぞれに対応するピークを分離したときの各ピークの面積をN1、N2およびN3としたときに、N3/(N1+N2+N3)として定義されるN3面積比が0.08以上である、リチウムイオン二次電池用正極材料である。
【0012】
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)、相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態である扁平型(積層型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の積層型二次電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、ラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11’の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解液を含有するセパレータからなる電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層及び負極がこの順に積層されている。
【0015】
これにより、正極、電解質層及び負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、
図1とは正極及び負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面又は両面に負極活物質層が配置されるようにしてもよい。
【0016】
正極集電体11’および負極集電体12には、各電極(正極及び負極)と導通される正極集電板25及び負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極端子リードおよび負極端子リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11’及び負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0017】
以下、本実施形態に係る積層型二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0018】
[集電体]
集電体は、後述する正極活物質層や負極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0019】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。また、導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0020】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する正極活物質層や負極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成し、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成することとなる。
【0021】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。本実施形態において、正極活物質は、上述した本発明の一形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の形態で正極活物質層に含まれている。上述したように、本形態に係る正極材料は、正極活物質粒子と、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーとを含む。以下、本形態に係る正極材料の構成について説明する。
【0022】
(正極活物質)
正極活物質は、充電時にリチウムイオン等のイオンを放出し、放電時にリチウムイオン等のイオンを吸蔵する機能を有する。本形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料において、正極活物質の種類は特に制限されない。より高い容量を有するという観点からは、R3mの空間群からなるものであることが好ましい。空間群R3mに帰属される正極活物質は、リチウム原子層と遷移金属原子層が交互に積み重なった層状構造(層状岩塩型構造)を有する。したがって、このような正極活物質を用いることで、リチウムイオン二次電池の電池容量を向上させることができる。
【0023】
空間群R3mに帰属される正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(Ni-Mn-Co)O2、Li(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)またはLi(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NCA複合酸化物」とも称する)が用いられ、特に好ましくはNMC複合酸化物が用いられる。
【0024】
NMC複合酸化物およびNCA複合酸化物には、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Al、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、W、P、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、W、P、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mg、P、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくはAl、Sn、Nb、Ti、Zr、Mgである。ただし、NCA複合酸化物の遷移金属元素を置換しうる他の金属元素はAl以外のものである。
【0025】
正極活物質粒子としてのリチウム-遷移金属複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LixNiaMbNcO2(式中、x、a、b、c、dは、0.8≦x≦1.1、a+b+c=1、0.33≦a≦0.95、0.05≦b≦0.67、0≦c≦0.10を満たす。MはMnおよびCoからなる群から選択される1種以上の元素であり、NはAl、Sn、Nb、Ti、ZrおよびMgからなる群から選択される1種以上の元素である)で表される組成を有する。ここで、xはLiの原子比を表し、aはNiの原子比を表し、bはMの原子比を表し、cはNの原子比を表す。なお、各元素の組成は、例えば、プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0026】
より高い放電容量を実現するという観点からは、一般式(1)において、0.80≦a≦0.95(すなわち、ハイニッケル複合酸化物)であることが好ましい。ここで、上述したように、本発明者らは、特許文献1に開示されているような導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合であっても、充放電サイクルの進行に伴って電池のレート特性が大幅に低下する場合があることを見出した。そして、このような充放電サイクルの進行に伴うレート特性の低下は、上述したようなハイニッケル複合酸化物を用いた場合により顕著に生じることも見出した。この点に関し、従来の技術常識では、導電性ポリマーは柔軟性が高く、正極活物質粒子に対するファンデルワールス力によるアンカー効果も示すために、正極活物質粒子からの剥離が生じることはないと考えられていた。このような技術常識に反して上記のようなレート特性の耐久性の低下が生じたのは、充電時のセル電圧4.2V付近で生じるハイニッケル複合酸化物のH2→H3転移の結果、正極活物質粒子がc軸方向に著しく収縮し、導電性ポリマーの正極活物質粒子からの剥離が生じたことが原因ではないかと考えられる。以上のことから、本形態に係る正極材料は、ハイニッケル複合酸化物を正極活物質粒子として含む場合に特に有用である。
【0027】
本形態に係る正極材料においては、正極活物質粒子のラフネスファクターが3以下であることが好ましい。ここで、「ラフネスファクター」とは、正極活物質粒子の表面の平滑性の指標となるパラメータであり、特開2023-15591号公報に記載されている手法により、正極活物質粒子の「平均粒子径から算出される幾何比表面積」に対する「BET比表面積」の比の値(=BET比表面積/幾何比表面積)として算出される。ラフネスファクターが3以下に制御されていることにより、電池のサイクル耐久性やレート特性を向上させることができる。なお、ラフネスファクターの値は、好ましくは2.7以下であり、より好ましくは2.4以下である。一方、ラフネスファクターの下限値は、1以上である。
【0028】
本形態に係る正極材料において、正極活物質粒子は、Williamson-Hall法から算出される結晶子径をX(nm)、レーザー回折法から算出される平均粒子径(D50)をY(nm)とした際に、Y/X≦70を満たすことが好ましい。ここで、Y/Xは、正極活物質粒子を構成する結晶粒の数の指標であり、当該値が小さいほど、粒子を構成する結晶粒が少ないことを意味する。結晶子径X(nm)および平均粒子径(D50)は、特開2023-15591号公報に記載されている手法により測定される。Y/Xは、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは40以下である。一方、Y/Xの下限値は、1以上である。Y/Xが上記範囲内であると、電池のサイクル耐久性およびレート特性をより一層向上させることが可能となる。なお、正極活物質粒子の結晶子径(上記のX)の値は特に制限されないが、サイクル耐久性を向上させるという観点から、好ましくは1μm以上である。また、正極活物質粒子の平均粒子径(D50;上記のY)の値も特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは1.5~6μmであり、さらに好ましくは2~5μmである。
【0029】
さらに、正極活物質粒子のBET比表面積SBET[m2/g]および正極活物質粒子の真比重ρ[g/cm3]から下記数式1:
[数式1]
Ls=6/(ρ×SBET)
に従って算出される換算粒子径Ls[μm]に対する、正極活物質粒子の平均粒子径(上記のY)LD50[μm]の比の値(LD50/Ls)は、好ましくは5以下である。このパラメータが小さいほど正極活物質はよりモノリシックであることを示す。よって、この値を5以下とすることにより、正極活物質はよりモノリシックなものとなり、電池のサイクル耐久性や熱安定性を向上させることができる。なお、正極活物質粒子のBET比表面積は、JIS Z8830:2013(ISO 9277:2010)に記載の「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じて、静的容量法により窒素ガスを吸着ガスとして測定を行い、多点法により解析することにより測定することができる。
【0030】
(導電性ポリマー)
本形態に係る正極材料において、正極活物質粒子の表面には、ポリアニリンまたはポリピロールからなる導電性ポリマーが配置されている。ポリアニリンおよびポリピロールの双方が配置されていてもよい。そして、この導電性ポリマーは、正極活物質粒子の表面の好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上を被覆した状態で配置されている。ただし、ポリアニリンおよびポリピロール以外の導電性ポリマーが正極活物質粒子の表面にさらに配置されていてもよい。ただし、正極活物質粒子の表面に配置されている導電性ポリマーに占めるポリアニリンおよび/またはポリピロールの質量割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0031】
ポリアニリン(PANI)およびポリピロール(PPy)は、それぞれ下記の化学式で表される繰り返し構造を有し、導電性を示すポリマーである。
【0032】
【0033】
上記化学式に示されるように、ポリアニリン(PANI)およびポリピロール(PPy)は、いずれもその主鎖に窒素原子を有している。ここで、ポリアニリン(PANI)の主鎖に含まれる窒素原子を例に挙げて説明すると、この窒素原子は、以下の3つの状態で存在しうる。
【0034】
【0035】
上述した3つの状態のうち、N1は窒素原子がイミノ基-N=を構成している状態である。また、N2は窒素原子が第2級アミノ基(-NH-)を構成するとともに非共有電子対(ローンペア)を有している状態である。そして、N3は窒素原子が第2級アミノ基(-NH-)を構成するとともにラジカルカチオンとなっている状態であり、窒素原子上には3本の結合手とは別に正電荷および不対電子が存在している。本発明者らは、正極活物質粒子の表面に配置されるこれらの導電性ポリマーにおける窒素原子の状態について、N1~N3の合計に占めるN3の割合を所定値以上とすることで、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止しうる正極材料が提供されうることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0036】
上述したN3の割合の指標として、本明細書では、正極材料の表面に対してX線光電子分光分析(XPS)を行った際の窒素(N1s)の化学状態に対応するピーク面積を用いる。なお、具体的な測定方法は、後述する実施例の欄に記載されている。
【0037】
上記の測定により得られた窒素(N1s)のスペクトルは、
図2に示すように、3種(N1(-N=)、N2(-NH-)、およびN3(-N
・+H-))のピークに分離可能であり、ピーク分離解析によってそれぞれのピーク面積を算出することができる。このことを利用して、本発明では、各ピークのピーク面積(それぞれN1、N2およびN3とする)を用いて算出されるN3/(N1+N2+N3)の値をN3面積比として定義し、N3の割合の指標とする。なお、各ピークに対応する結合エネルギーは、それぞれ、398.5eV(N1)、399.4eV(N2)および400.4eV(N3)である。
【0038】
そして、本形態に係る正極材料は、上記N3面積比の値が0.08以上である点に特徴がある。このN3面積比の値は、好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.12以上であり、さらに好ましくは0.18以上であり、特に好ましくは0.21以上であり、最も好ましくは0.25以上である。なお、N3面積比の上限値について特に制限はないが、通常は0.35以下である。
【0039】
ここで、N3面積比の値を0.08以上とすることにより上述したような効果が奏されるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、N3面積比が0.08以上と大きい正極材料においては、導電性ポリマーに含まれる窒素原子の化学状態に占めるラジカルカチオン(N3)の割合が多いことから、正極活物質粒子の表面に存在する酸素原子の負電荷との間での静電的相互作用(引き合う力)も大きく、強固に接着されているものと考えられる。このため、正極活物質粒子の表面に配置(被覆)されている導電性ポリマーは、充放電サイクルの進行に伴う正極活物質粒子の膨張収縮によっても剥離しにくい。結果として、正極活物質粒子への電子伝導パスが長期間にわたって維持され、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止するのに寄与しているものと考えられる。ただし、このメカニズムの正誤が本発明の技術的範囲に影響することはない。
【0040】
なお、本形態に係る正極材料において、ポリアニリンおよびポリピロールの平均分子量については特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、ゲル透過クロマトグラフィーを用いた重量平均分子量(ポリスチレン換算)で1,000~1,000,000であり、好ましくは5,000~50,000であり、より好ましくは10,000~30,000である。また、本形態に係る正極材料において、正極活物質粒子の全量100質量%に対する、ポリアニリンおよび/またはポリピロールからなる導電性ポリマーの質量比は特に制限されないが、本発明の作用効果をより一層発現させるという観点からは、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~10質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。なお、導電性ポリマーがポリアニリンおよびポリピロールの双方を含む場合、この質量比の値はこれらの合計量から算出する。
【0041】
(正極材料の製造方法)
上記のような構成を有する正極材料は、例えば後述する実施例の欄に記載されているように、ポリアニリンまたはポリピロールと、正極活物質粒子とを混合して導電性ポリマーを正極活物質粒子の表面に配置することにより得ることができる。
【0042】
また、場合によっては、ポリアニリンまたはポリピロールあるいはその前駆体と、正極活物質粒子との混合物に対し、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で焼成処理を施すことによっても、導電性ポリマーが正極活物質粒子の表面に配置された正極材料を得ることができる。なお、上記導電性ポリマーの前駆体としては、例えば、ポリアニリンの前駆体としてポリアントラニル酸が挙げられる。また、焼成条件については、導電性ポリマーの原料や前駆体の種類によっても変化するため一義的に規定することはできないが、例えばポリアニリンまたはポリピロールと正極活物質粒子とを混合した状態で焼成する際には、100~150℃程度(好ましくは120~140℃)の温度で0.5~8時間程度(好ましくは1~5時間)の焼成条件とすることができる。また、ポリアントラニル酸等の前駆体と正極活物質粒子とを混合した状態で焼成する際には、220~340℃程度(好ましくは240~320℃)の温度で0.5~6時間程度(好ましくは1~5時間)の焼成条件とすることができる。この際、焼成条件をより厳しいもの(焼成温度が高い、および/または、焼成時間が長い)とすると、上述したN3面積比の値は小さくなる傾向にある。したがって、焼成条件については、より穏和なものを選択すれば、過度の試行錯誤なく、N3面積比が上記の規定を満たすような正極材料を製造することが可能である。
【0043】
正極活物質層に含まれる正極材料の含有量(2種以上を含む場合はその合計量)は、特に制限されないが、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、60~99質量%であることが好ましく、80~95質量%であることがより好ましい。
【0044】
正極活物質層は、正極活物質に加えて、導電助剤、バインダ等をさらに含みうる。
【0045】
(導電助剤)
導電助剤は、正極活物質層中で電子伝導パス(導電通路)を形成する機能を有する。このような電子伝導パスが正極活物質層中に形成されると、電池の内部抵抗が低減し、レート特性が向上しうる。
【0046】
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等の粒子状炭素材料、およびカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブおよび複層カーボンナノチューブ)、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維、電界紡糸法炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の繊維状炭素材料が挙げられる。導電助剤は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
正極活物質層に含まれうる導電助剤の含有量(2種以上を含む場合はその合計量)は、特に制限されないが、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0048】
(バインダ)
正極活物質層に用いられる任意成分のバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる:
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることが好ましい。
【0049】
正極活物質層に含まれうるバインダの含有量(2種以上を含む場合はその合計量)は、特に制限されないが、正極活物質層の全固形分に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0050】
正極活物質層の厚さは特に制限されず、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、通常1~1000μm程度、好ましくは20~800μmであり、より好ましくは30~500μmであり、さらに好ましくは40~200μmである。正極活物質層の厚さが大きいほど、十分な容量(エネルギー密度)を発揮するための正極活物質を保持することが可能となる。一方、正極活物質層の厚さが小さいほど、放電レート特性が向上しうる。
【0051】
[負極活物質層]
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオン等のイオンを放出し、充電時にリチウムイオン等のイオンを吸蔵する機能を有する。
【0052】
負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料(スズ、シリコン)、ケイ素含有合金系負極材料(例えば、Si60Sn10Ti30)、リチウム合金系負極材料(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-アルミニウム-マンガン合金等)などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、ケイ素含有合金系負極材料、炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム合金系負極材料が、負極活物質として好ましく用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0053】
負極活物質の平均粒子径(D50)は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好
ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
【0054】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、全固形分100質量%に対して、例えば60質量%以上100質量%未満であり、好ましくは80質量%以上99.5%以下であり、より好ましくは95質量%を超えて99.0質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以上98.5質量%以下である。負極活物質の含有量が上記範囲であれば、電池容量と出力特性とを両立させることができる。
【0055】
また、負極活物質層は、必要に応じて、正極活物質層について上述したものと同様の、導電助剤、バインダなどのその他の添加剤をさらに含む。
【0056】
負極活物質層の厚さは特に制限されず、正極活物質層について上述したものと同様の厚さが採用されうる。
【0057】
[電解質層]
電解質層は、電解液(液体電解質)を含む。電解質層は、セパレータに電解液が含浸されてなる構成を有することが好ましい。
【0058】
(電解液)
電解液は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液は、非水溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。好ましくは、電解液は、非水溶媒にリチウム塩を溶解させたものに含フッ素カーボネートがさらに添加されたものである。
【0059】
非水溶媒としては、リチウム塩を溶解しやすいものが好ましく、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などの鎖状カーボネート;これらの鎖状カーボネートの水素原子の一部がフッ素原子で置換された含フッ素鎖状カーボネート;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などの環状カーボネート;これらの環状カーボネートの水素原子の一部がフッ素原子で置換された含フッ素環状カーボネート;プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。
【0060】
なかでも、非水溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、鎖状カーボネートを含むことが好ましく、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0061】
リチウム塩としては、Li(FSO2)2N(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
【0062】
上記非水溶媒中のリチウム塩の濃度は、0.1~3.0mol/Lであることが好ましく、0.8~2.2mol/Lであることがより好ましい。
【0063】
また、電解液は、含フッ素環状カーボネート、含フッ素鎖状カーボネートなどの含フッ素カーボネートをさらに含むことが好ましい。このようにすることで電池を高電圧で動作
させた場合であっても優れた耐久性を有しうる。また、これらの含フッ素カーボネートは正極活物質の表面に保護膜を形成し、正極活物質の耐電圧性を高めることができる。この際、含フッ素カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロプロピレンカーボネートなどの含フッ素環状カーボネート;エチルトリフルオロメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネートなどの含フッ素鎖状カーボネートが好ましく用いられうる。含フッ素カーボネートの含有量は特に制限されない。好ましい実施形態において、電解液は、含フッ素カーボネート、特にはフルオロエチレンカーボネートを最終的に得られる電解液の全量に対して0.5~10質量%含む。これにより上記効果がより顕著に得られうる。なお、電解液が2種類以上の含フッ素カーボネートを含む場合はその合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0064】
電解液は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0065】
(セパレータ)
電解質層を構成するセパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
【0066】
セパレータの形態としては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
【0067】
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
【0068】
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。
【0069】
セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5~200μmであり、特に好ましくは10~100μmである。
【0070】
また、セパレータとして、多孔質基体に耐熱絶縁層が積層されたセパレータ(耐熱絶縁層付セパレータ)を用いることができる。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。耐熱絶縁層付セパレータは融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは200℃以上である耐熱性の高いものを用いる。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電池の製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
【0071】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0072】
本形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電サイクルの進行後であってもレート特性に優れるものである。したがって、本形態に係る正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0073】
以上、リチウムイオン二次電池用正極材料の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0074】
例えば、本形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0075】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の正極材料;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の正極材料;請求項4の特徴を有する請求項3に記載の正極材料;請求項5の特徴を有する請求項1~4のいずれかに記載の正極材料;請求項1~5のいずれかに記載の正極材料を含む請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極;請求項6に記載の正極を含む請求項7に記載のリチウムイオン二次電池。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0077】
《ポリアニリン(PANI)被覆正極材料の製造例》
[製造例1]
まず、正極活物質(1)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.80Mn0.10Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m、LD50=12.4μm、Ls=0.7μm、LD50/Ls=17.7)を準備した。
【0078】
一方、1質量%ポリアニリン(重量平均分子量<20,000)-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。この乾燥物を、製造例1のポリアニリン被覆正極材料とした(後処理は行っていない)。なお、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの添加量は5質量%とした。この正極材料は、後述する実施例1で用いるためのものである。
【0079】
[製造例2]
まず、正極活物質(2)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.08Co0.08O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m、LD50=4.6μm、Ls=1.8μm、LD50/Ls=2.5)を準備した。
【0080】
一方、1質量%ポリアニリン-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの添加量は10質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、130℃にて1時間焼成処理を施すことにより、製造例2のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する実施例2で用いるためのものである。
【0081】
[製造例3]
まず、正極活物質(3)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.90Mn0.04Co0.06O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m、LD50=5.8μm、Ls=1.4μm、LD50/Ls=4.2)を準備した。
【0082】
一方、1質量%ポリアニリン-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの添加量は2質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、130℃にて8時間焼成処理を施すことにより、製造例3のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する実施例3で用いるためのものである。
【0083】
[製造例4]
まず、正極活物質(1)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.80Mn0.10Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0084】
一方、1質量%ポリアニリン-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの添加量は6質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、180℃にて4時間焼成処理を施すことにより、製造例4のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する比較例2で用いるためのものである。
【0085】
[製造例5]
まず、正極活物質(2)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.08Co0.08O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0086】
一方、1質量%ポリアニリン-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの添加量は5質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、180℃にて8時間焼成処理を施すことにより、製造例5のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する比較例3で用いるためのものである。
【0087】
《アントラニル酸由来ポリアニリン(AA由来PANI)被覆正極材料の製造例》
[製造例6]
まず、正極活物質(1)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.80Mn0.10Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0088】
一方、アントラニル酸(2-アミノ安息香酸)の0.1M硫酸水溶液に0.1Mペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)水溶液を混合して室温で24時間置いた。その後、液中に析出した固形分を濾取し、イオン交換水で十分に洗浄して真空乾燥することにより、ポリアントラニル酸を得た。このポリアントラニル酸をNMPに溶解させ、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、ポリアントラニル酸と正極活物質との混合物からなる乾燥物を得た。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、250℃にて4時間焼成処理を施すことにより、製造例6のアントラニル酸由来ポリアニリン被覆正極材料を作製した。なお、ポリアントラニル酸の添加量は、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの配合量が15質量%となるように調整した。この正極材料は、後述する実施例5で用いるためのものである。
【0089】
[製造例7]
まず、正極活物質(4)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.06Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m、LD50=9.3μm、Ls=1.6μm、LD50/Ls=5.9)を準備した。
【0090】
一方、製造例6と同じ方法で調製したポリアントラニル酸をNMPに溶解させ、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、ポリアントラニル酸と正極活物質との混合物からなる乾燥物を得た。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、300℃にて2時間焼成処理を施すことにより、製造例7のアントラニル酸由来ポリアニリン被覆正極材料を作製した。なお、ポリアントラニル酸の添加量は、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの配合量が0.8質量%となるように調整した。この正極材料は、後述する実施例7で用いるためのものである。
【0091】
[製造例8]
まず、正極活物質(2)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.08Co0.08O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0092】
一方、製造例6と同じ方法で調製したポリアントラニル酸をNMPに溶解させ、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、ポリアントラニル酸と正極活物質との混合物からなる乾燥物を得た。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、400℃にて2時間焼成処理を施すことにより、製造例8のアントラニル酸由来ポリアニリン被覆正極材料を作製した。なお、ポリアントラニル酸の添加量は、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの配合量が15質量%となるように調整した。この正極材料は、後述する比較例6で用いるためのものである。
【0093】
[製造例9]
まず、正極活物質(3)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.90Mn0.04Co0.06O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0094】
一方、製造例6と同じ方法で調製したポリアントラニル酸をNMPに溶解させ、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、ポリアントラニル酸と正極活物質との混合物からなる乾燥物を得た。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、350℃にて8時間焼成処理を施すことにより、製造例9のアントラニル酸由来ポリアニリン被覆正極材料を作製した。なお、ポリアントラニル酸の添加量は、正極活物質100質量%に対するポリアニリンの配合量が0.8質量%となるように調整した。この正極材料は、後述する比較例7で用いるためのものである。
【0095】
《ポリピロール(PPy)被覆正極材料の製造例》
[製造例10]
まず、正極活物質(4)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.06Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0096】
一方、1質量%ポリピロール-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。この乾燥物を、製造例10のポリアニリン被覆正極材料とした(後処理は行っていない)。なお、正極活物質100質量%に対するポリピロールの添加量は6質量%とした。この正極材料は、後述する実施例4で用いるためのものである。
【0097】
[製造例11]
まず、正極活物質(2)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.08Co0.08O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0098】
一方、1質量%ポリピロール-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリピロールの添加量は0.8質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、130℃にて1時間焼成処理を施すことにより、製造例11のポリピロール被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する実施例6で用いるためのものである。
【0099】
[製造例12]
まず、正極活物質(1)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.80Mn0.10Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0100】
一方、1質量%ポリピロール-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリピロールの添加量は8質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、180℃にて4時間焼成処理を施すことにより、製造例12のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する比較例4で用いるためのものである。
【0101】
[製造例13]
まず、正極活物質(2)として、単結晶(モノリシック)NMC複合酸化物(LiNi0.84Mn0.08Co0.08O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0102】
一方、1質量%ポリピロール-NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を調製し、正極活物質と混合した後に、80℃にて6時間減圧乾燥してNMPを除去し、乾燥物を得た。なお、正極活物質100質量%に対するポリピロールの添加量は4質量%とした。次いで、上記乾燥物に対し、後処理として窒素雰囲気下、180℃にて8時間焼成処理を施すことにより、製造例13のポリアニリン被覆正極材料を作製した。この正極材料は、後述する比較例5で用いるためのものである。
【0103】
《正極材料の表面に対するX線光電子分光分析(XPS)》
上記の各製造例において得られた正極材料について、表面のX線光電子分光分析(XPS)を行い、正極材料の表面に存在するポリアニリンまたはポリピロールに含まれる窒素(N1s)の化学状態を分析した。なお、測定装置および測定条件は以下の通りである。
・X線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製 VersaProbe III)
・X線源:Monochromated-Al-Kα線 50W
・光電子取り出し角度:45°
・測定エリア:200μmφ。
【0104】
なお、上記の測定により得られた窒素(N1s)のスペクトルは3種(N1(-N=)、N2(-NH-)、およびN3(-N・+H-))のピークに分離可能であり、ピーク分離解析によってそれぞれのピーク面積を算出することができる。このことを利用して、各ピークのピーク面積(それぞれN1、N2およびN3とする)から、N3/(N1+N2+N3)として定義されるN3面積比を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0105】
《試験用セルの作製例》
[比較例1]
(正極の作製)
まず、正極活物質(1)として、多結晶NMC複合酸化物(LiNi0.80Mn0.10Co0.10O2、平均粒子径(D50):4000nm、結晶構造:空間群R3m)を準備した。
【0106】
次いで、上記で準備した正極活物質93質量部、導電助剤であるカーボンブラック3質量部、およびバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量部からなる固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量添加し、混合して、正極活物質スラリーを作製した。その後、得られた正極活物質スラリーを、集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)の片面にドクターブレードを用いて塗布し、塗膜を80℃のホットプレート上で1時間乾燥させた。その後、塗膜をプレスし、真空乾燥機に入れ、真空条件下、130℃にて8時間乾燥させて、集電体上に空孔率25%の正極活物質層(厚さ60μm)が形成された正極を得た。
【0107】
(試験用セルの作製)
作製した正極をφ15mmで打ち抜き、正極活物質層を対極となる金属リチウム箔(φ16mm)と対向させ、この間にポリプロピレン製のセパレータを配置した。次いで、正極、セパレータおよび対極の積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、電極同士の絶縁性を保つためガスケットを装着し、電解液をシリンジにより注入した。そして、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしめることにより密閉して、試験用セル(コインセル型のリチウムイオン二次電池)を作製した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比30:70)にLiPF6 1mol/Lを溶解させて得られた電解液を用いた。
【0108】
[実施例1~実施例7および比較例2~比較例7]
正極活物質(1)に代えて、下記の表1に示す製造例で作製された正極材料を用いたこと以外は、上述した比較例1と同じ方法により、各実施例および各比較例の試験用セルを作製した。
【0109】
《試験用セルの評価》
上記の各実施例および各比較例で作製した試験用セルについて、下記の手法により充放電サイクル前後のレート特性を評価した。なお、以下の充放電試験は、充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ-SD8)を用い、25℃に設定した定温恒温槽中で行った。
【0110】
恒温槽内に試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、初回充電として0.05Cで4.3Vまで定電流(CC)充電を行った後、0.1C定電流放電を2.5Vまで行った。続いて、セルコンディショニングとして、4.3V-0.1C定電流定電圧(CCCV)充電(カットオフ電流0.01C)、および0.1C定電流放電(カットオフ電圧2.5V)のセットを3回繰り返した。なお、放電-充電の間および充電-放電の間にはそれぞれ1時間の休止時間を設けた。
【0111】
その後、充放電サイクルとして、4.3V-0.33C-CCCV充電(カットオフ電流0.25C)、および2.5V-0.33C-CC放電のセットを100回繰り返した。
【0112】
上述したセルコンディショニングの直後、および充放電サイクルの直後に、レート特性の評価として、4.3V-0.1C-CCCV充電(カットオフ電流0.01C)による満充電状態から、0.1Cまたは2.0Cでの定電流(CC)放電(カットオフ電圧2.5V)を行い、それぞれの放電容量値(mAh/g)を測定した。そして、0.1C放電時の放電容量値に対する2.0C放電時の放電容量値の百分率[%]をレート特性として算出した。結果を下記の表1に示す。
【0113】
また、上記で算出したレート特性について、セルコンディショニング直後のレート特性の値に対する充放電サイクル直後のレート特性の値の百分率[%]をレート特性維持率として算出した。結果を下記の表1および
図3に示す。なお、レート特性維持率の値が大きいほど、充放電サイクルの進行後であってもレート特性が低下しにくいことを意味する。
【0114】
【0115】
表1に示す結果から、本発明によれば、導電性ポリマーによって被覆された構成を有する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、N3面積比を所定値以上の値に制御することによって、充放電サイクルの進行に伴う電池のレート特性の低下を防止することができることがわかる。