(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174507
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】参照電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/30 311C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092364
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(71)【出願人】
【識別番号】502240607
【氏名又は名称】株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今若 直人
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】池崎 秀和
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 和博
(57)【要約】
【課題】電極電位についての塩化物イオン濃度変化に対する安定性が良好で、経時的安定性にも優れ、製造も容易な、さらなる参照電極を提供する。
【解決手段】基材、前記基材上に形成された導電性金属/金属塩層、前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層、前記多孔質層上に形成された防水性絶縁層、
を有する参照電極である。前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、前記多孔質層が電解質及び透水性セルロースを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、
前記基材上に形成された導電性金属/金属塩層、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層、
前記多孔質層上に形成された防水性絶縁層、
を有する参照電極であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極。
【請求項2】
前記透水性セルロースが、結晶セルロース及びパルプからなる群から選択される、請求項1に記載の参照電極。
【請求項3】
前記透水性セルロースが、前記多孔質層の全重量を基準として、10~90重量%である、請求項1に記載の参照電極。
【請求項4】
前記多孔質層がセルロースナノファイバーを更に含む、請求項1に記載の参照電極。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーが、前記多孔質層の全重量を基準として、1~80重量%である、請求項4に記載の参照電極。
【請求項6】
前記導電性金属/金属塩層が、Ag/AgCl、Ag/AgBr、Ag/AgI、Ag/AgSCNからなる群から選択される材料から形成されている、請求項1に記載の参照電極。
【請求項7】
前記電解質が、KCl、KBr、KI、KSCN、NaCl、NaBr、NaI、及びNaSCNからなる群から選択される、請求項1に記載の参照電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の参照電極を備えたセンサ。
【請求項9】
基材を準備する工程、
前記基材上に導電性金属/金属塩層を形成する工程、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層を形成する工程、
前記多孔質層上に防水性絶縁層を形成する工程、
を有する参照電極の製造方法であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極の製造方法。
【請求項10】
前記透水性セルロースが、結晶セルロース及びパルプからなる群から選択される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記透水性セルロースが、前記多孔質層の全重量を基準として、10~90重量%である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記多孔質層がセルロースナノファイバーを更に含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記セルロースナノファイバーが、前記多孔質層の全重量を基準として、1~80重量%である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記導電性金属/金属塩層が、Ag/AgCl、Ag/AgBr、Ag/AgI、Ag/AgSCNからなる群から選択される材料から形成されている、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
前記電解質が、KCl、KBr、KI、KSCN、NaCl、NaBr、NaI、及びNaSCNからなる群から選択される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項16】
多孔質層用分散液を乾燥させて前記多孔質層を形成する工程を更に含み、前記乾燥が50~90℃で行われる、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位差測定に用いられる参照電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、各種電気化学測定における電極電位は、基準となる電極と、着目している電極との間の電位差として測定される。後者の着目している電極として用いられるのが作用極であり、前者の基準となる電極として用いられるのが参照電極である。参照電極での反応は可逆的であり、その電位が被測定溶液の組成変化及び時間経過に対して安定であることが求められている。
【0003】
代表的な参照電極には、標準水素電極、パラジウム-水素電極、カロメル電極等もあるが、作製及び使用が容易な点で、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極が広く用いられている。
【0004】
従来型の銀/塩化銀電極では、飽和KCl溶液を内部液とした支持管内に、内部電極である銀/塩化銀電極を配置している。そして、支持管の先端には液絡部(一般的には多孔性セラミック材料で構成)が設けられ、被測定溶液(サンプル液ともいう)との電気的接続を保つとともに、内部液/被測定溶液の出入りを抑制することで、塩化物イオン濃度を実質的に一定に保っている。
【0005】
更に、近年、構造及び材料がシンプルなため、作製が容易かつ低コストである平板型参照電極が広く用いられ、特に使い捨て用途に好適である。平板上に印刷法を用いて作製できるので、作用極や対極等と共に1枚の平板状に参照電極を印刷することで、電気化学測定を簡便に行うことができるセンサチップに用いることができる。また、味覚センサチップ等のケミカルセンサチップないしバイオセンサチップなどの電極にも用いることができる。かかる参照電極においても塩化物イオン濃度を一定に保つべく種々の試みがなされている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、表面を有する水不透過性非導電性基材と、基材の表面上に配置された導電性金属/金属塩層と、基材の表面上に配置されて導電性金属/金属塩層の少なくとも一部と接触する水溶性アルカリ金属塩層と、アルカリ金属塩層の一部及び導電性金属/金属塩層の一部を覆う水不透過性バリア層を組み合わせて含む参照電極が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、絶縁性支持基板上に、Ag/AgX塩混合物を含む電極層と、防水性絶縁層と、がこの順に積層された参照電極であって、電極層の少なくとも一部に、多孔質電極領域が含まれており、多孔質電極領域を、電極外部と流体連通可能とするための開口部が備えられている、参照電極が記載されている。
【0008】
特許文献3には、第一導電体と、第一導電体との間で電荷交換可能な電解液を湿潤材に保持した湿潤層と、湿潤層に保持された電解液が外部イオンと電荷交換することを防止する電荷交換防止層と、湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止する電解液漏洩防止層と、を有する化学感覚能センサ用参照電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0191429号明細書
【特許文献2】特開2019-20342号公報
【特許文献3】特開2007-57459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の参照電極では、アルカリ金属塩層に溶媒としてアセトフェノン(bp:202℃)、ベンジルアルコール(bp:205.3℃)が用いられている。この参照電極は、溶媒揮発のために高温乾燥/真空乾燥を必要としていると考えられるが、高温乾燥には高温に耐え得る基材を用いる必要があり、例えばプラスチック基板は不向きである。またアルカリ金属塩層にはポリエチレンオキサイド(PEO)が残存しているため、参照電極の経日安定性に懸念がある。
【0011】
特許文献2の参照電極では、浸漬処理により多孔質電極領域を形成している。特許文献2において、ある特定の条件では、Ag/AgCl層の不導体化及びKCl含有には1晩の浸漬が必要な場合があり、製造工程に長時間を要している。また参照電極の浸漬のため作用極を製造する位置が制限される場合があり、製造工程上の課題となっている。また、多孔質前駆体電極領域によりKCl域を形成する場合、特にAg/AgCl/KClペーストの分散材がPEOの場合には、高温焼成する必要があり、特にプラスチック基板には不向きである。
【0012】
特許文献3の化学感覚能センサ用参照電極では、KClを含有する湿潤層が半固体であるため、参照電極の経日安定性に懸念がある。
【0013】
以上のように、いくつかの参照電極が提案されてはいるものの、電極電位についての塩化物イオン濃度変化に対する安定性が良好で、経時的安定性にも優れ、製造も容易な、さらなる参照電極が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題を解決するための手段の第1の例は、
基材、
前記基材上に形成された導電性金属/金属塩層、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層、
前記多孔質層上に形成された防水性絶縁層、
を有する参照電極であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極である。
【0015】
或いは、本発明の課題を解決するための手段の第2の例は、
基材を準備する工程、
前記基材上に導電性金属/金属塩層を形成する工程、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層を形成する工程、
前記多孔質層上に防水性絶縁層を形成する工程、
を有する参照電極の製造方法であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極の製造方法である。
【0016】
ここで、前記透水性セルロースが、結晶セルロース及びパルプからなる群から選択されることが好ましい。
【0017】
また、前記透水性セルロースが、前記多孔質層の全重量を基準として、10~90重量%であることが好ましい。
【0018】
更に、前記多孔質層がセルロースナノファイバーを更に含むことが好ましい。
【0019】
更に、前記セルロースナノファイバーが、前記多孔質層の全重量を基準として、1~90重量%であることが好ましい。
【0020】
更に、前記導電性金属/金属塩層が、Ag/AgCl、Ag/AgBr、Ag/AgI、Ag/AgSCNからなる群から選択される材料から形成されていることが好ましい。
【0021】
更に、前記電解質が、KCl、KBr、KI、KSCN、NaCl、NaBr、NaI、NaSCNなどのアルカリ金属と陰イオンとの組み合わせから選択されることが好ましい。
【0022】
上記第2の例において、多孔質層用分散液を乾燥させて前記多孔質層を形成する工程を更に含み、前記乾燥が50~90℃で行われることが好ましい。
【0023】
或いは、本発明の課題を解決するための手段の第3の例は、上記第1の例の参照電極を備えたセンサである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電極電位についての塩化物イオン濃度変化に対する安定性が良好で、経時的安定性にも優れ、製造も容易な、参照電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明による参照電極の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明による参照電極の一例を示す概略平面図である。
【
図3】
図3は、本発明による参照電極を備えたセンサの一例を示す概略平面図である。
【
図4】
図4は、セルロースナノファイバー(CNF)の集合体へ水が浸透しない様子を示す図である。
【
図5】
図5は、結晶セルロース(CC)の集合体への水の浸透経路のイメージ図である。
【
図6】
図6は、多孔質層への水の浸透経路のイメージ図である。
【
図7】
図7は、試験に用いた少量測定に適した治具を示す概略斜視図である。
【
図8】
図8は、参照電極の電位と経過時間との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、周囲電極の電位と経過時間との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、市販の参照電極の電位と経過時間との関係を参考として示す図である。
【
図11】
図11は、結晶セルロース(CC)の電子顕微鏡写真である。
【
図12】
図12はセルロースナノファイバー(CNF)分散液の乾燥品の電子顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、本実施例で得られた多孔質層表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態の例を説明する。なお、本発明は以下の形態の例に何ら限定されるものではなく、その発明の技術思想を逸脱しない範囲において、種々異なる形態で実施し得る。
【0027】
本発明を実施するための第1の形態は、
基材、
前記基材上に形成された導電性金属/金属塩層、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層、
前記多孔質層上に形成された防水性絶縁層、
を有する参照電極であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極である。
【0028】
図1は、本発明による参照電極の一例を示す概略断面図である。
図2は、本発明による参照電極の一例を示す概略平面図である。
【0029】
図1、2に示すように、本実施形態における参照電極10は、基材12、基材12上に形成された導電性金属/金属塩層14、導電性金属/金属塩層14を覆う多孔質層16、多孔質層16上に形成された防水性絶縁層18、を有し、防水性絶縁層18に、参照電極10の外部と多孔質層16との間で流体連通可能とするための開口部20が形成されており、多孔質層16が、電解質及び透水性セルロースを含む。
【0030】
<参照電極>
参照電極は、種々のタイプの参照電極を広く用いることができる。参照電極は、構造及び材料がシンプルなため、使い捨て用途に好適である。例えば作用極や対極等と共に1枚の平板状に参照電極を印刷した平板型参照電極とすることで、電気化学測定を簡便に行うことができるセンサチップとして用いることができる。或いは、味覚センサチップ等のケミカルセンサチップないしバイオセンサチップなどの電極にも用いることができる。
【0031】
<基材>
基材は、電極層である導電性金属/金属塩層を支持する。基材は、絶縁体で、かつ被測定溶液(サンプル液などとも言う)等に浸漬し、測定するのに十分な強度を提供できるものであればよい。基材は、当該技術において慣用される任意の材料、たとえばガラス、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)などのプラスチック、合成ゴム、セラミックス、または耐水処理した紙や木材等を用いて作成することができる。基材は典型的には平坦な基板であるが、他の曲面形状等も可能である。基材が平坦な基板である場合、その典型的な厚みとしては、50~2000μmを挙げることができる。
【0032】
<導電性金属/金属塩層>
導電性金属/金属塩層は、電極層として機能し、導電性金属と金属塩とを含む層である。導電性金属/金属塩層中の導電性金属は、アルミニウム、クロム、銅、銀、白金、金等の金属や炭素であってもよいが、これらに限定されない。導電性金属/金属塩層中の導電性金属は、好ましくは銀である。導電性金属/金属塩層中の金属塩を構成する金属は、アルミニウム、クロム、銅、銀、白金、金等の金属や炭素であってもよいが、これらに限定されない。導電性金属/金属塩層中の金属塩を構成する金属は、好ましくは銀である。導電性金属/金属塩層中の金属塩を構成する塩は、Cl-、Br-、I-やSCN-であってもよいが、これらに限定されない。導電性金属/金属塩層中の金属塩を構成する塩は、好ましくはCl-である。導電性金属/金属塩層は、好ましくは銀/塩化銀(Ag/AgCl)層である。
【0033】
導電性金属/金属塩層の形成には、例えば導電性金属/金属塩ペーストを用いることができ、当該ペースト中の導電性金属と金属塩の好ましい重量配合比率は、電位安定性と電気抵抗の観点から、95:5~5:95が好ましく、90:10~20:80がより好ましい。
【0034】
また、導電性金属/金属塩ペーストには、ポリエチレングリコール等の水溶性分散剤を添加してもよい。かかる添加により、より円滑に印刷を行うことができる。かかる水溶性分散剤はペーストの塗布を容易にするために必要十分な量で添加すれば足りるが、塗布後の加熱乾燥による気化・分解等により電極層から除くことが好ましい。
【0035】
導電性金属/金属塩層の厚みとしては、被測定溶液の浸透性の観点から、好ましくは0.1~200μmとすることができる。
【0036】
<多孔質層>
多孔質層は、導電性金属/金属塩層を覆う層である。本形態において、多孔質層は、電解質及び透水性セルロースを含む。
【0037】
多孔質層は、典型的には従来型の銀/塩化銀内部電極にいう液絡に相当する部材として作用する(流体連通制御機能)。参照電極を被測定溶液に接触させた際、多孔質層に含まれる電解質により、内部溶液としての電解質水溶液(好ましくは飽和水溶液)が形成される。
【0038】
多孔質層は、典型的には、透水性セルロースから、加熱・乾燥等により水を除いて得ることのできる空隙を有する構造を有する層である。また多孔質層は、KClなどの電解質を透水性セルロースの存在下で溶解後、乾燥することにより形成された結晶の空隙からも形成され得る。なお、多孔質層には多少の水が残存していてもよい。
【0039】
<電解質>
電解質は、プラスイオンである金属イオンとマイナスイオンからなる。金属イオンは、例えばアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンであり、K、Naなどである。マイナスイオンは、例えばCl-、Br-、I-及びSCN-であり、好ましくはCl-イオンである。好ましくは、電解質は、KCl、KBr、KI、KSCN、NaCl、NaBr、NaI、NaSCNなどのアルカリ金属と陰イオンとの組み合わせから選択される。これらの電解質のうち、KClが陽イオンと陰イオンの輸率がほぼ等しい点で最も好ましい。かかる電解質の水溶液が、電位測定の際に、電極表面に安定的にマイナスイオンを供給する供給源となっている。電解質の含有割合としては、多孔質層の空隙の体積に相当する水に対する室温における溶解度以上が好ましい。
【0040】
好ましくは、電解質は、多孔質層の全重量を基準として、10~90重量%である。電解質が10重量%以上であると多孔質層内の飽和電解質溶液形成のため好ましく、90重量%以下であるとその後の工程の防水性絶縁層印刷や、測定時に浸水により溶解した電解質の拡散抑制のため好ましい。より好ましくは、電解質は、多孔質層の全重量を基準として、20~60重量%である。なお電解質の量は透水性セルロースの量に関連して適宜決定される。
【0041】
参照電極に被測定溶液が接触すると、多孔質層に、被測定溶液の水を媒質とする電解質水溶液が速やかに形成される。すなわち、多孔質層の構造の隙間に水が入り込み、水が電解質を溶解することにより電解質水溶液が速やかに形成される。電解質は多量に存在することから、かかる多孔質層中の電解質水溶液は過飽和、飽和ないし飽和に近い状態となり、電位安定化に寄与する。
【0042】
<透水性セルロース>
透水性セルロースは、毛管現象により水を浸透できる性質を有するセルロースである。本願において「透水性」は、セルロースが水を通す性質を有することをいう。透水性セルロースとして上記の性質を有するセルロースを任意に用いることができるが、例えば結晶セルロース、パルプなどを用いることが好ましい。なお、パルプを用いる場合は、多孔質層用分散液中での溶液の均一な分散性を得るために更なる任意の添加剤を用いることが好ましい。
【0043】
透水性セルロースの繊維径や粒子径は、上記の性質を有するセルロースであれば特に制限されない。透水性かどうかは、例えばセルロースのサイズによると考えてもよい。例えば、非透水性セルロース(CNF)は、繊維が細く、繊維間の隙間が非常に狭いため透水することは困難である(不可能である又は時間がかかる)が(
図4参照)、ある程度の太さの繊維径(例えば100nm以上、図示省略)のセルロース繊維またはある程度の大きさの粒子径(例えば100nm以上、
図5参照)をもつセルロース粒子であれば、繊維間、粒子間に隙間ができ、水を通すことができると考えられる。例えば、透水性セルロースは、繊維径が100nm以上のセルロースを少なくとも50%含んでいればよい(パルプを想定)。この場合、繊維径は例えば電子顕微鏡による観察で測定することができる。或いは、例えば、透水性セルロースは、粒子径が100nm以上のセルロースを少なくとも50%含んでいればよい(結晶セルロースを想定)。この場合、粒子径は例えばモード径である。透水性セルロースの繊維の長さは、好ましくは1~1000μm、より好ましくは1~500μmである。透水性セルロースは乾燥した後も同程度の孔径の細孔を有する。
【0044】
好ましくは、透水性セルロースは、多孔質層の全重量を基準として、10~90重量%である。透水性セルロースが10重量%以上であると、相対的に電解質の添加量を減らすことができるので、測定中の電解質拡散量が少なくなるため周辺電極に影響を及ぼさなくなるため好ましい。90重量%以下であると、相対的に電解質の添加量が増え、浸水時の飽和電解質溶液形成しやすくなり、濃度維持しやすくなるため好ましい。より好ましくは、透水性セルロースは、多孔質層の全重量を基準として、30~70重量%である。
【0045】
<結晶セルロース>
好ましくは、透水性セルロースは結晶セルロース(CC)である。結晶セルロースは、セルロースナノクリスタルの集合体(2次、3次粒子)である。結晶セルロースの特徴として、水浸透があり(毛管構成)、電解質(KCl)量を抑制(流出抑制)できることが挙げられる。なお、本願では、セルロース分子鎖を30~40本集合したものをミクロフィブリル、さらにそれが集合したものをセルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノファイバーのうち短いものをセルロースナノクリスタル、セルロースナノクリスタルの集合体の2次粒子、3次粒子を結晶セルロース、もとには戻らないが前記から組み立てられたものをパルプとしている。参考までに、以下にサイズで分類されたナノセルロースの分類表1を示す。
【0046】
【0047】
<防水性絶縁層>
多孔質層上に防水性絶縁層が形成される。防水性絶縁層は、絶縁の機能を有する防水性の層である。防水性絶縁層は、多孔質層と外部溶液との間の流体連通に制限を加え、導電性金属/金属塩層表面のマイナスイオン濃度の安定化に寄与する。防水性絶縁層は、後述する開口部により、参照電極の外部と多孔質層との間で流体連通可能である。好ましくは、開口部を除く防水性絶縁層が多孔質層を完全に覆っていると、多孔質内の成分が開口部以外から漏出することを防止でき、周囲の電極への電解質の悪影響を回避できる。
【0048】
防水性絶縁層を形成するための適切な材料として、従来公知の任意の防水性材料を使用することができる。防水性絶縁層として、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリビニルアルコール等のプラスチックや、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、のような合成樹脂等を用いることができる。防水性絶縁層は紫外線等のエネルギー線によるエネルギー線硬化樹脂または熱硬化樹脂であってもよい。
【0049】
<開口部>
防水性絶縁層に、参照電極の外部と多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成される。
【0050】
防水性絶縁層に開口部を設けて、多孔質層の一部を開口部から外部に曝露させることができる。このような開口部は、防水性絶縁層の中央部あるいは導電性金属/金属塩層の側面(導電性金属/金属塩層の周縁側端)に設けることができる。導電性金属/金属塩層の側面に開口部を配置する態様では、たとえば多孔質層が参照電極の側面にまで達して、かつこの側面の少なくとも一部を防水性絶縁層等で覆わないことで形成できる。
【0051】
開口部の大きさは、被測定溶液が速やかに多孔質層に入り込み、もって速やかに測定可能状態になるように適切な大きさを選択することができる。かかる観点からは、開口部の平面形状は任意の形状でよいが、少なくとも0.1mm以上の円相当径を有することが好ましい。ここで、円相当径とは、開口部の平面形状の面積に相当する面積を有する真円の直径のことをいう。
【0052】
開口部を介した、参照電極の外部と多孔質層との間の被測定溶液の流体連通は、電気的接続を保つには十分でありながら、多孔質層中の内部溶液がわずかずつしか流出しないことで、測定に必要な十分な時間、電極表面上のマイナスイオン(典型的には塩化物イオン)濃度を実質的に一定に保つことができる。
【0053】
<非透水性セルロース>
任意で、多孔質層は、非透水性セルロースを更に含む。本願において「非透水性」は、セルロースが水を通す性質を有さないことをいう。非透水性セルロースは、毛管現象による水の浸透のないセルロースである。すなわち、非透水性セルロースは、極めて細かい繊維のため水が浸透する隙間を有さないセルロースである。非透水性セルロースは、長さが好ましくは1μm未満のセルロース粒子を含む。非透水性セルロースとして上記の性質を有するセルロースを任意に用いることができるが、好ましくはセルロースナノファイバー(CNF)を用いることができる。
【0054】
<セルロースナノファイバー>
任意で、多孔質層は、非透水性セルロースとしてのセルロースナノファイバー(CNF)を更に含む。セルロースナノファイバーは、植物繊維を機械的に解繊してナノサイズ(直径数~数十ナノメートル)にしたものを意味する。本願におけるセルロースナノファイバーは、様々な態様のものを含む。例えば、セルロースナノファイバーは、結晶部、准結晶部、非晶部からなるセルロースミクロフィブリル(シングルナノファイバー)単独または、縦に引き裂かれたもの、もつれたもの、または網目状の構造を持つその集合体とすることができ、好ましくは幅が3~100nm、アスペクト比が10以上、長さが100μmまでのものとすることができる。
【0055】
好ましくは、セルロースナノファイバーは、多孔質層の全重量を基準として、1~80重量%である。セルロースナノファイバーが1重量%以上であると多孔質層用分散液の乾燥時の電解質の結晶成長抑制や、多孔質層用分散液の結晶セルロース分散補助のため好ましく、80重量%以下であると測定溶液の水浸透性向上のため好ましい。より好ましくは、セルロースナノファイバーは、多孔質層の全重量を基準として、1~30重量%である。
【0056】
CNFの機能としては、水浸透なし、結晶セルロースの分散補助、電解質の結晶成長制御が挙げられる。そのため、CNFの分散液は、多孔質層用分散液の水分散性向上と、乾燥時の電解質(KCl)結晶成長抑制のために添加することができる。CNFを添加することにより、多孔質層用分散液中に結晶セルロース(透水性セルロース)をより均一に分散させることができる。またCNFを添加することにより、乾燥時の電解質(KCl)の結晶成長による凹凸(絶縁層印刷に悪影響)を抑制できる。
【0057】
図6は、多孔質層への水の浸透経路のイメージ図である。符号1は、透水性セルロース(結晶セルロース(CC))間の粒間への毛管現象により水が浸透していることを示す。符号2は、電解質(典型的にはKCl)の溶解により形成された空隙に水が浸透していることを示す。水が浸透する時間スケール(早い)を考慮すると、水の浸透は、結晶セルロース(数10μm粒子)粒間を流路とした浸透が(CC内空隙よりも)多いと考えられる。なお、CNFを含む多孔質層用分散液を乾燥させると、KClの結晶成長が抑制されKCl結晶が低凹凸となり、その後の工程である絶縁層印刷が容易になる。
【0058】
<参照電極の製造方法>
本発明を実施するための第2の形態は、
基材を準備する工程、
前記基材上に導電性金属/金属塩層を形成する工程、
前記導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層を形成する工程、
前記多孔質層上に防水性絶縁層を形成する工程、
を有する参照電極の製造方法であって、
前記防水性絶縁層に、前記参照電極の外部と前記多孔質層との間で流体連通可能とするための開口部が形成されており、
前記多孔質層が、電解質及び透水性セルロースを含む、参照電極の製造方法である。
【0059】
本発明を実施するための第2の形態の参照電極の製造方法の説明では、第1の形態の参照電極の構成要素の説明を適宜援用できるため、重複する構成要素についての更なる説明を省略する。
【0060】
基材を準備する工程においては、先に説明された基材を適宜準備する。
【0061】
基材上に導電性金属/金属塩層を形成する工程において、基材上への導電性金属/金属塩層の形成は、当該分野で一般的に用いられている方法を用いることができる。例えば、導電性金属/金属塩ペーストをスクリーン印刷法等により、基材上に塗布して乾燥し、導電性金属/金属塩層を基材上に形成することができる。また、スパッタリングまたは蒸着法により、導電性金属/金属塩層を形成してもよい。好ましくは、導電性金属/金属塩層を形成するためには、印刷技術を用い簡便に作製することが可能である。
【0062】
導電性金属/金属塩層を覆う多孔質層を形成する工程において、多孔質層の形成には滴下法を用いることができる。滴下法は、具体的には、オートディスペンサによる自動滴下により行うことができる。
【0063】
多孔質層を形成するために、例えばまず電解質、透水性セルロース、水、エタノールを含む多孔質層用分散液を調製する。多孔質層用分散液の全重量を基準として、電解質は1~10重量%、透水性セルロースは1~10重量%、水は50~90重量%、エタノールは0~20重量%であることが好ましい。
【0064】
調整した多孔質層用分散液を、滴下法により基材上の導電性金属/金属塩層上に滴下することができる。なお、印刷法等を用いて多孔質層用分散液を塗布して乾燥することで多孔質層を作製することも可能である。
【0065】
多孔質層用分散液の乾燥は、50~90℃で行うことが好ましい。50℃以上とすると電解質の結晶成長が抑制されるため好ましく、90℃以下とすると沸とうによる偏差が抑制されるため好ましい。通常、50~90℃程度の温度で約30分~1時間程度、加熱すればよい。これにより、多孔質層用分散液中に含まれていた水を取り除くことができる。
【0066】
多孔質層上に防水性絶縁層を形成する工程において、多孔質層上にエネルギー線硬化型樹脂保護層材料をスクリーン印刷し、露光して、防水性絶縁層を形成してもよい。
【0067】
なお、開口部の形成については、たとえば形成する防水性絶縁層の印刷パターンを予め開口部が同時に形成されるようにすることで簡便に形成でき、安定生産の観点からも好ましい。あるいは防水性絶縁層の一部を除去することで開口部を設けてもよい。
【0068】
本発明者らによる鋭意検討の結果、透水性セルロースを電解質とともに多孔質層として形成し、この多孔質層を防水性絶縁層で保持すれば、透水性セルロースの粒間と電解質の粒間により細孔が形成保持され、電解質の流出も制御された参照電極を形成できることを見出した。
【実施例0069】
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例においては、
図3に示す参照電極Aを備えたセンサ22を作製した。
図3は、本発明による参照電極を備えたセンサの一例を示す概略平面図である。
図3において、センサ22には、参照電極Aと周囲電極Bが設けられている。
【0070】
<参照電極の製造>
基材(東レ製ルミラーフィルム、厚さ250μm、約100mm×150mmの平坦な基板]にAg/AgClペースト(ビー・エー・エス(株)製、重量比30~50:15~25)を
図3に示すパターンで印刷して、150℃のオーブンで16時間乾燥させることにより、Ag/AgCl層を形成した。Ag/AgCl層の膜厚は、およそ10~50μm程度であった。なお、印刷には、マイクロテック(株)社製スクリーン印刷機MT-320TVを用いた。
【0071】
次に滴下法により多孔質層を形成した。多孔質層用分散液として、4gのセルロースナノファイバーBiNFis WMa―10002、0.5gのCellulose microcrystalline powder(結晶セルロース、径1~50μm、長さ10~200μm)、0.4gのKCl(電解質)、及び4gの水、1gのエタノールの混合物を用いた。多孔質層用分散液の配合比を表2に示す。
【0072】
【0073】
多孔質層用分散液を滴下法によりAg/AgCl層上に滴下した。その後、80℃のオーブンで40分間乾燥させた。
【0074】
次に防水性絶縁層としてUV硬化型ソルダーレジスト(互応化学工業(株)製)を用いて、防水性絶縁層を印刷し、UV照射により硬化させた。防水性絶縁層の厚みは、およそ20~80μm程度であった。ここで、開口部の直径は1mmとなっている。
【0075】
なお、周囲電極は溶出確認用として作成したが、その詳細な説明は省略する。
【0076】
得られた参照電極の電位を測定した。試験には
図7に示す少量測定に適した治具を用いた。
図7は、試験に用いた少量測定に適した治具を示す概略斜視図である。具体的には、
図3のセンサを、
図7の治具において市販のガラス参照電極を基準電極として試験を行った。
【0077】
試験結果を
図8、9に示す。
図8は、参照電極の電位と経過時間との関係を示す図である。
図9は、周囲電極の電位と経過時間との関係を示す図である。なお、市販の参照電極の電位を参考として
図10に示す。
図10は、市販の参照電極の電位と経過時間との関係を参考として示す図である。
【0078】
図8に示すように、測定液の環境(3mM KCl)によらず、飽和KCl溶液相当の電位(市販のガラス参照電極と同等電位)が得られた。
【0079】
また周囲電極(Ag/AgCl)の電位も調べた(
図9)。周囲の電極に、(溶出した)KClの影響はない。
【0080】
図11は、結晶セルロース(CC)の電子顕微鏡写真である。
図12はセルロースナノファイバー(CNF)分散液の乾燥品の電子顕微鏡写真である。
図13は、本実施例で得られた多孔質層表面の電子顕微鏡写真である。
図13に示すように、セルロースナノファイバーが電解質KClを覆っており、KClの結晶成長が抑制されていることが分かる。
【0081】
なお、本実施例においては、多孔質層の形成の際にセルロースナノファイバーが用いられているが、セルロースナノファイバーを用いずに結晶セルロースと電解質を用いて参照電極を作成してもよい。
【0082】
なお、本発明は図面に示された実施例の構成に限定されない。実施例の個々の数値範囲及び条件は、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更及び修正が可能である。