(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017451
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】合成樹脂レザー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240201BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20240201BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B33/00
D06N3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120092
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 直人
(72)【発明者】
【氏名】中屋 真
(72)【発明者】
【氏名】浅田 頼崇
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055DA02
4F055FA08
4F055HA06
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK15
4F100AK15B
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD06
4F100DD06B
4F100EJ40
4F100EJ40B
4F100GB33
4F100JK07
4F100JK07B
4F100JK09
4F100JK14
4F100JK14B
(57)【要約】 (修正有)
【課題】天然皮革のようなサラサラとした良触感で且つ耐圧性に優れた合成樹脂レザーを提供する。
【解決手段】基材1と、基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層2と、を備え、表皮層の表面には、多数の微小突起21がそれぞれ断続的で且つ規則的に設けられ、多数の微小突起は、表皮層の表面から略同じ高さで形成される多数の頂面部21aと、表皮層の表面から多数の頂面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の柱部21bと、を有することを特徴とする合成樹脂レザー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層と、を備え、
前記表皮層の表面には、多数の微小突起がそれぞれ断続的で且つ規則的に設けられ、
前記多数の微小突起は、前記表皮層の前記表面から略同じ高さで形成される多数の頂面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の頂面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の柱部と、を有することを特徴とする合成樹脂レザー。
【請求項2】
前記多数の微小突起は、前記多数の頂面部が平面状となる角柱状、又は前記多数の頂面部が曲面状となる半球状に形成されることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂レザー。
【請求項3】
前記多数の微小突起は、大きさと高さと相互間隔との比率が、2.0~4.3:2.0~10.0:2.5~10.0で、且つ前記大きさよりも前記相互間隔が長くなるように設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の合成樹脂レザー。
【請求項4】
基材に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層を設ける積層工程と、
前記表皮層の表面全体に亘って多数の微小突起をそれぞれ断続的で且つ規則的に設ける絞付け工程を含み、
前記絞付け工程では、前記多数の微小突起として、前記表皮層の前記表面から略同じ高さで形成される多数の頂面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の頂面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の柱部と、をエンボス加工することを特徴とする合成樹脂レザーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用内装材、椅子やソファなどの張地、靴の胛被材、手帳等の文具やスマートフォンケースなどの表皮材として用いられる合成樹脂レザー、及び、その物を生産する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成樹脂レザーとして、基布上の塩化ビニル樹脂を主成分とする表皮層に対し、皮革様の微細な凹凸模様である絞(シボ)模様が彫刻されているエンボスロールを、表面が加熱されている状態で押し当てることにより、表面に絞模様を形成した合成樹脂表皮材及びその製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
また、シート材の表面に対し、型押しロール等によるエンボス加工で凹凸を付与した後、サンドペーパー、ブラシなどによって起毛処理が施されたヌバック調外観を有する皮革様シートおよびその製造方法がある(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-111024号公報
【特許文献2】特開平08-060557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような特許文献1では、エンボス加工による微細な凹凸模様において凸部が弾性変形不能で且つ連続的に配置されており、使用者の手先や指先などで微細な凹凸模様を触れても凸部の先端が全く動かないため、全体的に平面的なフラット感や、ゴムのようなベタベタとしたゴム感を強く受けて、天然皮革のようなサラサラとした触感が得られず、天然皮革と比べると違和感を覚えるという問題があった。
特許文献2では、サンドペーパーなどによる細かい起毛加工面が、使用者の手先や指先などの接触などで過度に変形するため、耐圧や耐摩耗性による形状保持性が悪く、特に高い耐圧性や耐摩耗性を必要とする座面に用いることが困難であり、用途が限られるという問題があった。
このような状況下で、天然皮革と同様な良触感で且つ耐圧性や耐摩耗性に優れた合成樹脂レザーが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために本発明に係る合成樹脂レザーは、基材と、前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層と、を備え、前記表皮層の表面には、多数の微小突起がそれぞれ断続的で且つ規則的に設けられ、前記多数の微小突起は、前記表皮層の前記表面から略同じ高さで形成される多数の頂面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の頂面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の柱部と、を有することを特徴とする。
また、このような課題を解決するために本発明に係る合成樹脂レザーの製造方法は、基材に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層を設ける積層工程と、前記表皮層の表面全体に亘って多数の微小突起をそれぞれ断続的で且つ規則的に設ける絞付け工程を含み、前記絞付け工程では、前記多数の微小突起として、前記表皮層の前記表面から略同じ高さで形成される多数の頂面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の頂面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の柱部と、をエンボス加工することを特徴とする。
ここで、「略同じ高さ」とは頂面部のほとんどが全く同じ(同一)高さであるという意味であり、頂面部の全部が同一高さであることや、頂面部の一部が僅かに高さの異なることも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態(第一実施形態)に係る合成樹脂レザー及びその製造方法の全体構成を示す説明図であり、(a)が要部を部分拡大した縦断正面図、(b)が合成樹脂レザーの製造方法を縮小した側面図である。
【
図2】微小突起の一例を示す説明図であり、(a)が配列状態の拡大写真、(b)がより拡大した写真である。
【
図3】微小突起の変形例を示す説明図であり、(a)が配列状態の拡大写真、(b)がより拡大した写真である。
【
図4】本発明の実施形態(第二実施形態)に係る合成樹脂レザーの説明図(要部を部分拡大した縦断正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAは、自動車などの車両用内装材、椅子やソファなどの張地、靴の胛被材、手帳等の文具やスマートフォンケースなどの表皮材として用いられる合成皮革や人工皮革である。このような合成皮革や人工皮革の中には、
図1~
図4に示すように、基材1に設けられる表皮層2に対し、エンボス加工によって微細な絞(シボ)模様を付けた合成樹脂レザーAがある。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAは、
図1(a)や
図4に示されるように、裏側の基材1と、表側の表皮層2と、を主要な構成要素として備えている。
さらに、基材1と表皮層2との間に設けられる下地層3を備えることが好ましい。
【0008】
基材1は、織物や編物或いは不織布などの生地であり、後述する表皮層2の柔軟性を失うことなく、強度及び適度な厚みを与えるものが好ましい。
基材1の材料としては、ポリエステル繊維,レーヨン,ポリ塩化ビニル(PVC),ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂からなる繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、綿、レーヨン、これらの混紡糸などが用いられる。
また、基材1として軟質発泡体シートを用いることや、生地と軟質発泡体シートが一体的に積層されたものを用いることが可能である。
【0009】
基材1の表側面1aには、下地層3を積層して形成することが好ましい。
下地層3は、基材1の表側面1aと後述する表皮層2の裏面2bとを接着させる接着剤層であり、ポリ塩化ビニルペースト、エチレン-酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、二液型ポリウレタン接着剤などが用いられる。
さらに、下地層3は、基材1の表側面1aに接着剤が塗布されることや、表皮層2の裏面2bに接着剤が塗布されることで、基材1の表側面1aと表皮層2の裏面2bとの間に積層することが好ましい。
また、その他の例として図示しないが、基材1の表側面1aと表皮層2の裏面2bとの間には、ポリプロピレンフォームなどの軟質発泡体シートを介在させることも可能である。
【0010】
表皮層2は、軟質ポリ塩化ビニル(PVC),熱可塑性ポリウレタン,アクリル系軟質樹脂,共重合ポリエステル,部分架橋ポリオレフィンエラストマーなどの弾性変形可能で柔軟性がある低硬度の熱可塑性樹脂からなり、特に軟質ポリ塩化ビニルを主成分とすることが好ましい。
表皮層2の表面2aには、多数の微小突起21がそれぞれ断続的(不連続的)に分離して設けられ、多数の微小突起21は、表皮層2の表面2aに沿って規則的に配置される。
微小突起21は、エンボス版を用いたエンボス加工により、表皮層2の表面2aの全体に亘って絞付けされたミクロンサイズのマイクロドットである。エンボス版としては、エンボスロールEを用いることが好ましく、エンボスロールEの表皮層2の表面2aと対向する版面には、レーザー加工,エッチング加工,ミル加工,サンドブラストなどのうちいずれ一つ又は複数の加工を組み合わせることで、エンボスパターンE1が彫刻される。エンボスパターンE1としては、少なくとも多数の微小突起21と対応する多数の微細凹部(図示しない)が、版面の略全体に亘り断続的で且つ規則的に設けられる。さらに、その他のエンボスパターンE1として特定な模様などの図柄用凹部(図示しない)を組み合わせて彫刻することも可能である。
さらに、微小突起21は、表皮層2の表面2aから略同じ高さで形成される頂面部21aと、表皮層2の表面2aから頂面部21aに亘って弾性変形可能に形成される柱部21bと、を有する。
微小突起21は、角柱状や半球状(ヘルメット型)に形成され、角柱状の場合には
図1(a)及び
図2(a)(b)に示されるように、頂面部21aが平面状となり、半球状の場合には
図3(a)(b)に示されるように、頂面部21aが曲面状となる。
【0011】
多数の微小突起21のサイズは、ミクロン単位であるため、微小突起21の有無を肉眼で認識することが困難であり、
図2(a)(b)や
図3(a)(b)に示されるように、顕微鏡などで拡大しないと認識できない。
図2(a)及び
図3(a)に示す3D測定レーザー顕微鏡などのデジタル顕微鏡の3D表示機能による立体画像では、多数の微小突起21のサイズを確認するため、50μmピッチのXY軸スケールが表示されるとともに、高低差を示す高さカラー表示が用いられ、さらに
図2(b)及び
図3(b)では、多数の微小突起21のより詳細な構造を読み取れるように一部が部分拡大されて表示している。
そして、天然皮革と同等なサラサラした良触感と、優れた耐圧性や耐摩耗性とを同時に得るには、多数の微小突起21において各微小突起21の大きさ,各微小突起21の高さ,隣り合う微小突起21の相互間隔を、所定のサイズバランスに設定する必要がある。
微小突起21の大きさとは、柱部21bにおいて表皮層2側の平均直径rに相当する。各微小突起21の高さとは、表皮層2の表面2aから頂面部21aまでの平均高さhに相当する。隣り合う微小突起21の相互間隔とは、隣り合う柱部21b同士の平均中心間隔sに相当する。
【0012】
詳しく説明すると、微小突起21の大きさ(平均直径r)は、40μm~85μm、好ましくは45μm~80μm、さらに好ましくは50μm~75μmに設定される。微小突起21の平均直径rが40μm未満の場合には、頂面部21a及び柱部21bが小径になり過ぎて、微小突起21を除いた表皮層2の表面2aの露出面積が相対的に増大し、且つ柱部21bが必要以上に弾性変形や潰れ変形し易くなって好ましくない。逆に微小突起21の平均直径rが85μmよりも大きい場合には、柱部21bが大径になり過ぎて、頂面部21aに使用者の手先や指先などが接触しても柱部21bが弾性変形し難くなって好ましくない。
微小突起21の高さ(平均高さh)は、40μm~200μm、好ましくは50μm~165μm、さらに好ましくは60μm~130μmに設定される。微小突起21の平均高さhが40μm未満の場合には、頂面部21a及び柱部21bが低く(相対的に太短く)なり過ぎて、頂面部21aが表皮層2の表面2aと限りなく接近し、且つ柱部21bが弾性変形し難くなって好ましくない。逆に微小突起21の平均高さhが200μmよりも高い場合には、頂面部21a及び柱部21bが高く(相対的に細長く)なり過ぎて、荷重で柱部21bの折曲変形が発生し易くなって好ましくない。
隣り合う微小突起21の相互間隔(平均中心間隔s)は、50μm~200μm、好ましくは60μm~165μm、さらに好ましくは70μm~130μmに設定される。微小突起21の平均中心間隔sが50μm未満の場合には、頂面部21a及び柱部21b同士が相互に接近過ぎて、表皮層2の表面2aに対する微小突起21の密度が高くなるため、頂面部21aに使用者の手先や指先などが接触しても柱部21bが弾性変形し難くなって好ましくない。逆に微小突起21の平均中心間隔sが200μmよりも大きい場合には、頂面部21a及び柱部21b同士が相互に離れ過ぎて、表皮層2の表面2aに対する微小突起21の密度が低くなるため、微小突起21を除いた表皮層2の表面2aの露出面積が相対的に増大し、且つ柱部21bが必要以上に弾性変形や潰れ変形し易くなって好ましくない。
つまり、多数の微小突起21においてそれぞれの大きさ(平均直径r)と高さ(平均高さh)と相互間隔(平均中心間隔s)の関係は、次のような「平均直径r:平均高さh:平均中心間隔s」の比率であり、且つ平均直径rよりも平均中心間隔sを長くしたサイズバランスとすることが好ましい。
「平均直径r:平均高さh:平均中心間隔s=40μm~85μm:40μm~200μm:50μm~200μm=約2.0~4.3:約2.0~10.0:約2.5~10.0」
このようなサイズバランスであれば、天然皮革と同等なサラサラした良触感と、優れた耐圧性とが達成可能になる。
【0013】
次に、本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAの具体例(第一実施形態~第二実施形態)について説明する。
図1(a),
図2(a)(b)及び
図3(a)(b)に示される第一実施形態の合成樹脂レザーA1は、表皮層2の表面2aに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凹部による絞付けで、多数の微小突起21のみが千鳥状にそれぞれ所定間隔又は等間隔を空けて配列されている。
また、その他の例として図示しないが、多数の微小突起21を格子状(碁盤目状)にそれぞれ所定間隔又は等間隔毎に配列することなどの変更が可能である。
図4に示される第二実施形態の合成樹脂レザーA2は、表皮層2の表面2aに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凹部と図柄用凹部による絞付けで、多数の微小突起21の規則的な配置に加えて、例えば雲柄などの意匠面22が配置されている。この場合には、第一実施形態よりも意匠性の向上が図れる。
また、その他の例として図示しないが、意匠面22の高さを所望の模様とするために図示例以外の形状に変更することも可能である。
さらに必要に応じて、表皮層2の表面2aには、多数の微小突起21を被覆するように表面処理層(図示しない)が形成されることで、優れた耐摩耗性や光沢の調整などを図ることも可能である。表面処理層の材料としては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂などが用いられ、表皮層2の表面2aに対して均等厚みで塗布することにより、表面処理層が形成される。表面処理層の厚みは、1μm~30μm、好ましくは10μm~15μmである。
【0014】
[製造方法]
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAを生産するための製造方法は、
図1(b)に示されるように、基材1に表皮層2を設ける積層工程と、表皮層2の表面2a全体に亘って多数の微小突起21を規則的に設ける絞付け工程と、を主要な工程として含んでいる。
積層工程では、カレンダー成形、押出し成形などによって、基材1の表側面1aに対して表皮層2の裏面2bが下地層3を介して接着される。
絞付け工程では、表皮層2の表面2aに対してエンボスロールEによるシボ加工で多数の微小突起21や意匠面22などが、表面2aの全体に亘りそれぞれ断続的で且つ規則的に付けられる。
また、表皮層2の表面2aに多数の微小突起21を被覆する表面処理層が形成される場合には、少なくとも絞付け工程よりも前の時点で、表皮層2の表面2aに表面処理層の材料となるウレタン樹脂などを塗工することが好ましい。
【0015】
合成樹脂レザーAの製造方法の具体例として
図1(b)に示される場合には、積層工程の後に絞付け工程を行っている。
詳しくは、カレンダー成形機Cで所定の厚さに圧延された表皮層2の裏面2bに対し、下地層3を介して基材1の表側面1aが積層され、これら積層体Bの表面側をヒータHで加熱する。これに続いて、エンボスロールEとタッチロールTとの間に積層体Bを挟み込んで、表皮層2の表面2aに多数の微小突起21を転写している。
この場合には、事前の積層工程で、表皮層2の厚みに下地層3や基材1の厚みが加えられて全体的に厚くなるため、エンボスロールEによるシボ加工(多数の微小突起21)を深く転写できて好ましい。
また、その他の例として図示しないが、カレンダー成形機Cによる表皮層2の圧延加工と、下地層3を介した基材1の積層加工を別々に行うことや、表皮層2の表面2aに対する多数の微小突起21の転写後に、下地層3を介した基材1の積層を行うなどの変更が可能である。
【0016】
このような本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーA及びその製造方法によると、弾性変形可能な表皮層2の表面2aに亘りそれぞれ断続的で且つ規則的に設けられた多数の微小突起21を、使用者の手先や指先などが触ることにより、手先や指先などの接触でいくつかの柱部21bが弾性変形して頂面部21aが動く(微動する)。これに続いて、多数の微小突起21から手先や指先などが離れることにより、接触で弾性変形した柱部21bや動いた(微動した)頂面部21aが接触前の形状に復元する。このため、表皮層2の表面2aが微動可能な多数の微小突起21で全体的に立体的となり、且つベタベタとしなくなって、天然皮革と同じ程度にサラサラな風合いに仕上がる。また、このような多数の微小突起21に対する手先や指先などの接触を繰り返しても、柱部21bの弾性変形や頂面部21aの動き(微動)が無理なく繰り返されるため、塑性変形が生じ難くなる。
したがって、天然皮革のようなサラサラとした良触感で且つ耐圧性に優れた合成樹脂レザーAを提供することができる。
その結果、エンボス加工による微細な凹凸模様において凸部が弾性変形不能で且つ連続的に配置される従来のものに比べ、全体的に平面的なフラット感や、ゴムのようなベタベタとしたゴム感が無くなって、スムース調ファブリック(椅子やソファなどの張り地)などのような良触感を得ることができる。また、サンドペーパーなどによる細かい起毛加工面を有する従来のものに比べ、使用者の手先や指先などの接触などで過度に変形せず、特に高い耐圧性を必要とする座面に用いることが可能となる。
このため、品質の向上が図れて天然皮革と比べても違和感を覚えず、天然皮革の代替品として多くの分野に利用できて利便性に優れる。
【0017】
特に、多数の微小突起21は、
図1(a)及び
図2(a)(b)に示されるように、多数の頂面部21aを平面状となる角柱状、又は
図3(a)(b)に示されるように、多数の頂面部21aを曲面状となる半球状に形成することが好ましい。
この場合には、弾性変形可能な合成樹脂からなる多数の頂面部21aに対して、手先や指先などが面接触となるため、接触が繰り返されても、局所的な塑性変形がより生じ難くなる。
したがって、多数の微小突起21(頂面部21aの耐圧性を更に向上させることができる。
その結果、長期使用に伴う劣化を防止できる。これにより、商品寿命が延びてコストの低減化が図れる。
【0018】
さらに、多数の微小突起21は、大きさ(平均直径r)と高さ(平均高さh)と相互間隔(平均中心間隔s)との比率を、40μm~85μm(約2.0~4.3):40μm~200μm(約2.0~10.0):50μm~200μm(約2.5~10.0)とし、且つ大きさ(平均直径r)よりも相互間隔(平均中心間隔s)を長く設定することが好ましい。
この場合には、使用者が手先や指先などで多数の微小突起21を触ることによる柱部21bの弾性変形と頂面部21aの動き(微動)や、多数の微小突起21から手先や指先などが離れることによる柱部21bの復元変形と頂面部21aの復元微動が、スムーズに実施される配置バランスとなる。
したがって、天然皮革のようなサラサラとした良触感と耐圧性を確実に達成することができる。
その結果、天然皮革の代替品として理想的な合成樹脂レザーAが得られる。
【実施例0019】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1~6及び比較例1~7]
表1に示す実施例1~6と表2に示す比較例1~7は、それらに記載された大きさ(平均直径),高さ(平均高さ),相互間隔(平均中心間隔)の微小突起と対応する微細凹部を多数彫刻したエンボス版(エンボスロール)が作製され、このエンボスロールを用いたエンボス加工により、軟質ポリ塩化ビニルが主成分の表皮層の表面に対して、多数の微小突起を表皮層の表面に転写した合成樹脂レザーである。そして、同じサイズの評価試料をそれぞれ作製した。
実施例1~6及び比較例1~6では、
図1(a),
図2(a)(b)に示されるように、表皮層の表面に対し、平面状の頂面部を有する角柱状の微小突起が多数それぞれ断続的で且つ規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列され、且つ表皮層の裏面に下地層を介して下地層が積層されたものであり、共通の構成にしている。比較例7は、多数の微小突起をそれぞれ不規則(ランダム)に配列したところが、実施例1~6及び比較例1~6と異なっている。
これに加えて、表皮層の表面に多数の微小突起を被覆するように表面処理層が形成された実施例1~6及び比較例1~6の各評価試料もそれぞれ作製した。
【0020】
実施例1~6では、微小突起の大きさ(平均直径)が40~85μm、微小突起の高さ(平均高さ)が40~200μm、微小突起の相互間隔(平均中心間隔)が50~200μmになっている。
詳しくは、実施例1の微小突起では、平均直径を40μm、平均高さを120μm、平均中心間隔を125μmにしている。
実施例2の微小突起では、平均直径を85μm、平均高さを120μm、平均中心間隔を125μmにしている。
実施例3の微小突起では、平均直径を62.5μm、平均高さを40μm、平均中心間隔を125μmにしている。
実施例4の微小突起では、平均直径を62.5μm、平均高さを200μm、平均中心間隔を125μmにしている。
実施例5の微小突起では、平均直径を62.5μm、平均高さを120μm、平均中心間隔を50μmにしている。
実施例6の微小突起では、平均直径を62.5μm、平均高さを120μm、平均中心間隔を200μmにしている。
【0021】
一方、比較例1~7では、実施例1~6の微小突起に対して平均直径,平均高さ,平均中心間隔のいずれかが範囲外になっている。
詳しく説明すると、比較例1の微小突起では、平均直径が30μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例2の微小突起では、平均直径が95μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例3の微小突起では、平均高さが30μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例4の微小突起では、平均高さが210μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例5の微小突起では、平均中心間隔が40μmであるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例6の微小突起では、平均中心間隔が210μmであるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例7の微小突起では、平均直径を62.5μm、平均高さを120μm、平均中心間隔が125μmであるものの、配列が規則的ではなくランダムであるところが異なっている。
【0022】
[評価基準]
表1及び表2に示される評価結果(触感,耐圧性,耐摩耗性)は、以下の指標に基づくものである。
「触感」の評価は、実施例1~6及び比較例1~7において、表面の肌触りを確認するための試験である。指先で触れた際の触感試験を行い、その試験結果を四段階で評価した。
この「触感」の評価結果において、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面に近いサラサラとした状態を「サラサラ」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりもフラット感があるツルツルした状態を「ツルツル」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりもゴム感があるベタベタした状態を「ベタベタ」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりも砂目感があるザラザラした状態を「ザラザラ」、のように評価した。
「耐圧性」の評価は、実施例1~6及び比較例1~7において、微小突起の劣化(復元力)の有無を確認するための試験である。各評価試料の上に30cm×30cmの平滑な鉄板を載せ、さらに荷重60.0Kgが均等にかかるようにして30分静置し、鉄板と荷重を取り外して5分後の表面状態を確認した。その試験結果を三段階で評価した。
この「耐圧性」の評価結果において、○:微小突起の劣化が全く無い、△:微小突起の劣化がほとんど無い、×:微小突起の劣化が有る、のように評価した。
「耐摩耗性」の評価は、表皮層の表面に表面処理層が形成された実施例1~6及び比較例1~7において、表皮層の表面及び微小突起に摩耗(ケズレ)の有無を確認するための試験である。JIS L 0823(染色堅牢度試験用摩擦試験機)に規定する学振形摩擦試験機を用い、荷重0.5KgでJIS L3102の6号綿帆布による摩擦試験を30,000回往復実施した。なお、表面処理材が塗布された各評価試料に対して、幅10mmで厚み5mmのウレタンフォームを貼り付けたものを用いた。その試験結果を三段階で評価した。
この「耐摩耗性」の評価結果において、○:30,000回往復で摩耗が目立たない、△:20,000回往復で摩耗が有り、×:20,000回往復で表皮層の破れが有り、のように評価した。
「総合評価」とは、前述した「触感」「耐圧性」「耐摩耗性」の評価結果に基づいて総合的に三段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、触感,耐圧性,耐摩耗性の全てが優れたものを「◎:最適」、触感,耐圧性,耐摩耗性のいずれかで若干劣るものの許容範囲に収まるものを「○:良」、触感,耐圧性,耐摩耗性のいずれかで劣って許容範囲から外れるものを「×:不向き」、のように評価した。
【0023】
【0024】
【0025】
[評価結果]
実施例1~6及び比較例1~7を比較すると、実施例1~6は、触感,耐圧性,耐摩耗性の全てにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1~6は、天然皮革のようなサラサラとした良触感で且つ耐摩耗性や耐圧性に優れた合成樹脂レザーであることが実証できた。
この中で実施例6は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均中心間隔が比較的に長くて、使用者の手先や指先などとの接触により頂面部や柱部が弾性変形し易くなるため、耐圧性と耐摩耗性で若干劣る評価結果になったが、許容範囲内であった。
このため、特に実施例1-5は、最適な総合評価が得られ、より天然皮革に近い合成樹脂レザーであることが実証できた。
【0026】
しかし、これに対して、比較例1~7は、触感,耐圧性,耐摩耗性のいずれかで不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均直径が小さくなり過ぎて、使用者の手先や指先などとの接触により弾性変形するため、触感が「サラサラ」して良好な評価結果になったものの、荷重により柱部が潰れ変形し易くなるため、耐圧性で不良な評価結果になると同時に、使用者の手先や指先などとの接触によって頂面部や柱部が必要以上に弾性変形するため、耐摩耗性でも不良な評価結果になった。
比較例2は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均直径が大きくなり過ぎて、使用者の手先や指先などが頂面部に触れても柱部が弾性変形し難いため、触感が「ザラザラ」して不良な評価結果になった。
比較例3は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均高さが低く(相対的に太短く)なり過ぎて、頂面部が表皮層の表面と限りなく接近した場合には、使用者の手先や指先などが表皮層の表面にも触れるため、触感が「ベタベタ」して不良な評価結果になった。また、頂面部が表皮層の表面と限りなく接近しない場合には、使用者の手先や指先などが頂面部に触れても柱部が弾性変形し難いため、触感が「ツルツル」して不良な評価結果になった。
比較例4は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均高さが高く(相対的に細長く)なり過ぎて、荷重により柱部が潰れ変形し易くなるため、耐圧性で不良な評価結果になると同時に、使用者の手先や指先などとの接触により頂面部や柱部が必要以上に弾性変形するため、耐摩耗性でも不良な評価結果になった。
比較例5は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均中心間隔が短くなり過ぎて、表皮層の表面に対する微小突起の密度が高く、使用者の手先や指先などが頂面部に触れても柱部が弾性変形し難いため、触感が「ツルツル」して不良な評価結果になった。
比較例6は、微小突起(頂面部及び柱部)の平均中心間隔が長くなり過ぎて、表皮層の表面に対する微小突起の密度が低く、断続的に接触されるため、触感が「ザラザラ」して不良な評価結果になった。これに加え、荷重により柱部が潰れ変形し易くなるため、耐圧性で不良な評価結果になると同時に、使用者の手先や指先などとの接触によって頂面部や柱部が必要以上に弾性変形するため、耐摩耗性でも不良な評価結果になった。
比較例7は、微小突起の配列が不規則(ランダム)であるから、微小突起が配列されない箇所では表皮層の表面に対する微小突起の粗密感もランダムとなるため、一部の触感が「ザラザラ」して不良な評価結果になった。
【0027】
なお、前示の実施例1~6及び比較例1~6では、表皮層の表面に対し、平面状の頂面部を有する角柱状の微小突起が多数それぞれ断続的で且つ規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列された評価試料で評価したが、これに限定されず、曲面状の頂面部を有する半球状の微小突起が多数それぞれ規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列された評価試料や、角柱状又は半球状の微小突起が多数それぞれ規則的(格子状に等間隔毎)に配列された評価試料であっても、実施例1~6と同様な評価結果が得られた。