(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174520
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】塗材、塗材の塗装方法及び塗膜構造
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241210BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241210BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241210BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241210BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
B05D3/00 F
B05D7/24 303B
B05D7/24 303A
B05D5/06 104C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092382
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 昭人
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB92Y
4D075CA13
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4D075EB16
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4D075EC03
4D075EC13
4D075EC21
4D075EC51
4D075EC53
4J038CG001
4J038HA486
4J038MA14
4J038NA01
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】落砂が少なく、所望の仕上がりを得易く、汚れが付き難く、安全性のある仕上がりを得ることができる塗材を提供する。
【解決手段】合成樹脂と骨材成分を主成分とする塗材であって、前記骨材成分が、非真球で鋭角部がなく、粒子径が45μm~2000μmの範囲であり、嵩比重が1.0~2.0の範囲であることを特徴とする塗材であることにより、落砂が少なく、所望の仕上がりを得易く、汚れが付き難く、安全性のある仕上がり面を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と骨材成分を主成分とする塗材であって、前記骨材成分が、非真球で鋭角部がなく、粒子径が45μm~2000μmの範囲であり、嵩比重が1.0~2.0の範囲であることを特徴とする塗材。
【請求項2】
前記骨材成分が透明なガラス粉砕物であり、この粉砕物より細かい着色成分を含む塗材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の塗材により形成された塗膜の厚みが、0.05mm~3.0mmの範囲で、その厚みの範囲内で、凹凸状を形成する塗材の塗装方法。
【請求項4】
被塗布物に着色層を形成させた後に請求項1又は請求項2に記載の塗材を塗布する塗材の塗装方法。
【請求項5】
着色層、請求項1又は請求項2に記載の塗材により形成された塗材層が積層されている塗膜構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造物の壁面などに用いられる骨材成分を含んだ塗材であり、その塗材を利用した塗装方法及び塗膜構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物などの構造物の壁面などの表面化粧に用いられる塗材として種々のものが用いられている。例えば合成樹脂と有色骨材とからなる石材調塗材があり、得られる塗膜の多彩感などの質感から多く用いられる。
また、ガラスや陶磁器などの粉砕物や加工物を用いた塗材などもあり、これらの塗材を用いて、構造物への表面化粧を行うことで、質感の良好な仕上がりを得ることができるものである。
【0003】
このガラスや陶磁器の粉砕物では、主にリサイクルにより得られたものを単純に粉砕し、その粒度などを調整したものであり、ガラスや陶磁器などの加工物では、ビーズ状の球形のものを用いることが多い。これは、その製造方法により効率的に製造されるからである。
その代表的なものとして、特開2001-106979号公報に記載の塗材を挙げることができる。
【0004】
これには、ベース塗料に平均粒子径0.3~0.5mmと平均粒子径1.0~2.0mmのガラスビーズが配合され調整されている塗材であって、この塗材により、意匠性に優れた外観を呈するとともに簡易な塗布作業が可能で均一な厚みの塗膜を実現できることが記載されている。
これは、二種類のガラスビーズの内、平均粒子径の大きいガラスビーズは上塗り材をコテ塗りした際、コテの表面がガラスビーズの滑らかな表面に接触して容易に移動できるため、極めて滑りがよく、塗布作業を簡便にできる。
【0005】
ガラスビーズ間において均一な塗膜を形成させるスペーサ効果を発揮して厚みの均一な塗膜の形成に役立つ。
粒子径の小さいガラスビーズは大きいガラスビーズ間を充填してその凝集を防止し、大きいガラスビーズを分散し前記のスペーサ効果を支援する作用をもたらす。また大きいガラスビーズ間を充填して乾燥による塗膜の歩減りを防止するため塗膜の均一性の確保に効果的な作用をもたらすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような塗材を用いた仕上がりは良好なものにはなるが、ガラスビーズを用いることで、塗材のバインダー成分である合成樹脂がガラスビーズの周りに付きづらく、塗布作業中に壁面などの被塗布物に付かなかったガラスビーズが作業者の足元に落ちる落砂が多くなり、その落砂した球形のガラスビーズにより、滑ることがある。
【0008】
また、落砂が多くなることで、所望の意匠を得ることができないことや手間取ることもある。
これは、ガラスなどのビーズ形状の表面積が小さく、その形状からバインダー成分が表面に付き難いためである。
【0009】
また、ガラスや陶磁器を粉砕したものである場合では、ビーズ状のものに比べ、その表面が角ばっているものが多く、その形状により、バインダー成分がその表面に付き易く、落砂が少なくなり、所望の意匠を得ることが容易なものとなる。
しかし、その粉砕物の形状が部分的又は全体的に鋭角な箇所がある場合では、その塗布作業中に粉砕物が作業者に刺さったりすることがある。また、その塗材により仕上げられた塗布面の表面に粉砕物の鋭角の部分が露出してしまうこともある。
【0010】
その場合、仕上げ面に鋭角の部分が引っ掛かり易くなることで汚れが溜まり易くなることや触った時に、粉砕物が刺さることがある。
本開示では、落砂が少なく、所望の仕上がりを得易く、汚れが付き難く、安全性のある仕上がりを得ることができる塗材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
合成樹脂と骨材成分を主成分とする塗材であって、前記骨材成分が、非真球で鋭角部がなく、粒子径が45μm~2000μmの範囲であり、嵩比重が1.0~2.0の範囲であることを特徴とする塗材である。
このことにより、落砂が少なく、所望の仕上がりを得易く、汚れが付き難く、安全性のある仕上がり面を得ることができる。
【0012】
前記骨材成分が透明なガラス粉砕物であり、この粉砕物より細かい着色成分を含むものであることにより、より良好な仕上げ面を得ることができる。
骨材成分を含んだ塗材により形成された塗膜の厚みが、0.05~3.00mmの範囲で、その厚みの範囲内で、凹凸状を形成することであることにより、落砂が少なく、所望の仕上がりを容易に得ることができ、その仕上げ面は、汚れが付き難く、安全性のあるものを得ることができる。
【0013】
被塗布物に着色層を形成させた後に骨材成分を含んだ塗材を塗布することにより、より良好な仕上げ面を得ることができる。
着色層、骨材成分を含んだ塗材により形成された塗材層が積層されているものにより、より良好な仕上げ面を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、合成樹脂と骨材成分を主成分とする塗材であって、前記骨材成分が、非真球で鋭角部がなく、粒子径が45μm~2000μmの範囲であり、嵩比重が1.0~2.0の範囲であることを特徴とする塗材である。
【0015】
本開示の塗材は、合成樹脂と骨材成分を主成分とするものであり、その合成樹脂成分は、後述する骨材成分やその他充填材や添加剤などを結合させ、塗膜を形成するものであり、被塗布物に対して、塗膜を密着させるための重要な成分である。
この合成樹脂は、硬化乾燥した後に透明なフィルムを形成することができるものであり、透明になることにより、骨材成分の色調や質感を塗膜中に表すことができ、意匠的に良好な塗膜を得ることが可能となる。
【0016】
この合成樹脂には、アクリル樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂などの樹脂を単独又は共重合したものが挙げられる。
また、これら樹脂を有機溶媒に溶解させたもの、エマルションとして水に分散させたもの又は弱溶剤に分散させたものが挙げられる。
【0017】
この中でも合成樹脂エマルションは、入手が容易で、得られたクリヤー塗料の扱いが容易で、粘性を水で調整することが可能なものであり、比較的厚膜な塗膜を得易いことなどから多くの場合に用いられるものである。
この合成樹脂エマルションは、乳化重合のような通常の重合技術で製造できる一般的なもので、前記記載の合成樹脂などより製造された合成樹脂エマルションなどがある。
【0018】
この塗材としての適性や物性、入手の容易性、クリヤー膜の耐候性などの耐久性からアクリル樹脂、スチレン樹脂より製造されたアクリル系合成樹脂エマルションやアクリル-スチレン系合成樹脂エマルションが好ましく用いられる。
より一層耐候性を向上させるためには、ウレタン系合成樹脂エマルション、シリコン系合成樹脂エマルション、フッ素系合成樹脂エマルション、アクリルシリコン系合成樹脂エマルションなどを用いることがある。
【0019】
合成樹脂エマルションは、乾燥性の良いものが好ましく、この塗材では、その膜厚が0.05mm~3.0mmの範囲が好ましく、その厚みの範囲内で、凹凸状を形成し比較的厚膜になることが多い。
そのため、乾燥性が劣るものであると、塗布後に降雨があった場合、その塗布されたものが未硬化又は未乾燥である場合、流れてしまうことがある。
【0020】
合成樹脂のガラス転移温度は、-10~40℃の範囲が好ましく、-10℃より低い場合には、形成される塗膜が汚れやすくなることがあり、40℃より高い場合には、塗膜が割れやすくなる場合があり、対象となる基材などに応じて、適したガラス転移温度の合成樹脂を選択することができる。
次に、本開示の重要な要素である骨材成分は、粒子径が45μm~2000μmの範囲であり、嵩比重が1.0~2.0の範囲のものである。
【0021】
また、その骨材成分の形状が非真球で鋭角部がないものである。これを使用することで、落砂が少なく、所望の仕上がりを得易く、汚れが付き難く、安全性のある仕上がり面を得ることができる。
この非真球で鋭角部がない骨材成分の具体的な形状のひとつとして、複数の頂点を結ぶ直線の辺とその辺に囲まれた面で構成された4面以上の多面体で、面の境界が直線で、隣り合う面による二面角が90°~180°の範囲である部分が骨材成分の表面の50%以上であるものがある。
【0022】
形状が非真球で鋭角部がない骨材成分は、ガラス製品や陶磁器製品を粉砕して、鋭利な角を削り取ることで得ることができる。
代表的な製造方法としては、ガラスや陶磁器などの製品を粉砕機により粉砕する。粉砕したものをふるい分けし、粒度を整え、不純物を取り除き、この粒度を整えたものを更に粉砕ビーズを使って、鋭利な角を削り取る。
【0023】
このようにして、本開示に用いられる骨材成分を得ることができる。この骨材成分は、鋭利な角が少ないため、安全に用いることができ、これを用いた塗材もその塗布作業中に粉砕物が作業者に刺さったりすることが無いものである。
また、それにより形成された塗膜は、汚れが溜まり難く、触った時に、粉砕物が刺さることが無いものとなる。
【0024】
この骨材成分がガラスや陶磁器からなるものであることで、光や酸素などにより変質することなく安定なものであり、これを利用した塗材による塗膜は、変色などが少ないものとすることができる。
この骨材成分の粒子径は、45μm~2000μmの範囲である。この範囲であることで、所望の仕上がりを得ることが容易なものとなる。
【0025】
粒子径が45μmより小さい場合では、粉砕ビーズを使って、鋭利な角を削り取る作業が行い難くなり、また、塗材に混ぜた際に流動性が悪くなる。2000μmより大きい場合では、骨材成分が大きすぎて所望の仕上がりを得ることが難しいこともある。
なお粒子径は、JIS Z8801-1:2019に規定される金属製網ふるいを用いて機械ふるい分けを行い得られる値である。
【0026】
この骨材成分の嵩比重は1.0~2.0の範囲であり、この範囲より小さい場合では、塗材の比重自体が小さくなり、塗装が行い難くなり、所望の仕上がりを得ることが難しいことがある。逆に、大きい場合では、落砂が多くなることがある。
なお嵩比重は、JIS A1104:2019に記載の単位容積質量の試験方法によって得られる値である。
【0027】
この塗材では、合成樹脂,骨材成分の他に添加剤や顔料成分などを加えることができる。この添加剤には、消泡剤,分散剤,湿潤剤,造膜助剤,防凍剤,増粘剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤等のように一般に塗料に配合されている各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
また、光安定剤,紫外線吸収剤や酸化防止剤など塗膜の耐候性能を向上させることができる添加剤を添加することが好ましく行われ、これらを1種又は2種以上用いられることもある。
【0028】
この光安定剤は、塗膜の劣化に影響を与える遊離ラジカルを捕捉するものであり、紫外線吸収剤は、有害な紫外線を吸収し、無害な熱又は運動エネルギーに変換するもので、酸化防止剤は、塗膜の熱酸化劣化を防止するものである。
本開示の着色成分には、有色骨材や着色顔料、染料などがあり、これらを加えることが好ましく行われ、形成された塗膜に色を付けることができる。
【0029】
この着色成分は、骨材成分より細かいものが好ましく用いられ、この着色成分を用いた場合では、骨材成分は透明なガラス粉砕物であることが好ましいものである。これにより、より良好な仕上げ面を得ることができる。
このように骨材成分が透明なガラス粉砕物で、着色成分を加えることで、塗膜の色調がよりはっきりと確認することができ、その色調が映える塗膜を得ることが可能となる。
【0030】
この着色成分の中でも有色骨材を用いることが好ましく、より良好な仕上がりを得ることができるものとなる。
この有色骨材は、透明感の高い骨材から隠蔽力の高い骨材、光沢の有る骨材から光沢のない骨材等が挙げられる。全く無色で透明な骨材は、色を有しないため、有色骨材ではない。
【0031】
有色骨材には、有色天然石を粉砕したものや陶磁器などを粉砕したセルベンなどがある。また、有色天然石や陶磁器等を粉砕したものに人工的に着色を施した着色骨材がある。
有色天然石の粉砕物には、花崗岩,蛇紋岩,黒曜石,蛍石,カナリヤ,白玉,寒水石,小桜,漆雪,美濃霞,蛇紋等の大理石粉砕粒、珪砂、天然細砂利などが挙げられる。
【0032】
さらに、シラスバルーン、パーライト、ガラス粉砕物を発泡させたものなどの軽量骨材も挙げることができる。又、上記成分の他に有色骨材として水酸化アルミニウムやハロゲン系、リン系、三酸化アンチモン系化合物などの難燃剤などの成分を加えることも可能である。
これらの有色骨材の中でも着色骨材が好ましく用いられる。この着色骨材は、寒水石や珪砂などを粉砕した骨材に着色を施したものが多く、天然石粉砕物に比べ色や粒度,粒径が安定しているため、それを用いることで塗材により形成される塗膜の色をより安定させることができる。
【0033】
また、塗料の塗布作業が安定的であり、塗料の安定性においても優れているものである。
特に、人工的に着色した珪砂や寒水石は、入手が容易であり、合成樹脂との混和性に優れているため、より好ましく用いられる。
【0034】
着色方法の多くは、珪砂や寒水石を容器に入れ、ミキサー等により撹拌を行いながら塗料、顔料、釉薬などをスプレー等により骨材全体に均一になるよう噴霧し、骨材を着色し、均一に着色された状態から振動乾燥機を用い、振動を与えながら、熱風等を用い、乾燥させて得るものが多い。
この有色骨材の粒子径は、骨材成分の粒子径より小さく、37μm~800μmの範囲のものが好ましい。37μmより細かい骨材の場合、その有色骨材の多彩感を損なうことになり、塗材の安定性、塗布作業の作業性などが劣る場合がある。
【0035】
また、形成される塗膜が収縮によりひび割れを起すことや、有色骨材による多彩感が乏しく意匠性に欠けることもある。
800μmより大きい骨材の場合、ガラス粉砕物である骨材成分とのバランスが悪くなり、意匠的に劣ることがある。
【0036】
この有色骨材と骨材成分の比率は、重量比で、2:1~1:5の範囲が好ましく、この範囲内であれば、骨材成分であるガラス粉砕物の透明感と有色骨材の色や多彩感が十分に表現された塗膜を得ることができる。
その他の着色成分には、着色顔料や染料などがあり、耐候性や添加量などの点で塗料では着色顔料が使われることが多い。
【0037】
この着色顔料としては、無機系顔料,有機系顔料及びその両方が用いられ、耐候性のよいものが好ましい。
着色顔料は、酸化チタン,カーボンブラック,黄色酸化鉄,弁柄,シアニンブルー,シアニングリーンなど一般的に塗料の着色に用いられるものを使用することができ、その扱い易さなどにより液状の着色顔料を使用することが多くある。
【0038】
着色顔料や染料などは、その添加量により大きく色が変わることが多く、その添加量は調整が難しいことが多いため、薄めた着色顔料や染料を使用することもある。
また、着色された塗料なども用いることができる。塗料を用いる場合は、所望の色がグレーやクリームなど淡色の場合など顔料による色の調整が難しいときが多い。
【0039】
この着色成分は、1又は2種以上の複数種用いることも可能であり、塗膜の色を安定させるために好ましく行われている。
本開示の塗材では、合成樹脂と、骨材成分と有色骨材を合わせた骨材との比率は、
その重量比で、1:0.8~1:10の範囲であることが好ましい。この重量比が1:0.8より骨材が少ない場合では、塗材の粘度にもよるが、保管中に骨材成分や有色骨材が分離することがある。
【0040】
1:10より骨材が多い場合では、合成樹脂分が少なく、塗膜が脆くなることがある。また、骨材成分や有色骨材が多くなり過ぎ、塗材の粘度が高くなる傾向になり、その混合が難しく、均一に混合された塗材を得ることができないことがある。
より好ましくは、合成樹脂と、骨材成分と有色骨材を合わせた骨材の重量の比が1:2~1:5の範囲である。この範囲であれば、保管中の分離が少なく、塗膜が脆くなることもないものである。
【0041】
このように構成される塗材は、各構成材料を混合分散することにより得ることができる。この混合分散の方法は特に制限されるものではなく、一般的なミキサーなどの混合機により行うことができる。
本開示の塗材は、通常の塗装方法である吹付塗装,塗装用ローラー,刷毛,コテなどの器具を用いて塗布され、塗膜が形成されるものである。
【0042】
吹付塗装は、大きな面積を速く塗装することができ、本開示の塗材を吹付塗装する場合の塗装ガンとしては、比較的粗い骨材が含有している塗材を塗装することができるリシンガンやタイルガン等が好ましい。
塗装用ローラーを用いた塗装は、所望の膜厚や凹凸状を容易に形成することができる。
【0043】
塗装用ローラーは、円筒状部材と繊維毛状やスポンジ状の塗料保持層により構成される塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着することにより塗装が可能な塗装用ローラーとなる。
本開示の塗材を塗装用ローラーで塗装する場合は、塗料保持層が20mm以上の長さの毛足を持つ長毛のウールローラーや、スポンジ状のスポンジローラーや砂骨ローラーを用いることで、比較的多くの塗布量を塗布することができるため好ましく用いられる。
【0044】
この塗材により形成される塗膜は、主成分である45μm~2000μmの範囲の骨材成分により、その厚みが0.05mm~3.0mmの範囲で、その厚みの範囲内で、凹凸状を形成させることが好ましい。
この凹凸状の塗膜は、被塗装物にボリューム感のある仕上がりを容易に得ることができ、その仕上げ面は、汚れが付き難く、安全性のあるものである。
【0045】
本開示の塗材は、好ましくは骨材成分が透明なガラス粉砕物であり、この粉砕物より細かい着色成分を含むものであることにより、より立体的で良好な仕上げ面を得ることができる。
これは、塗材による塗膜がその塗膜中に含まれる骨材成分であるガラス粉砕物により、塗膜の厚みによる隠蔽性の違いから立体感のある塗膜となるためである。
【0046】
つまり、塗膜が厚い部分には、ガラス粉砕物が多く集まり、薄い部分ではガラス粉砕物が少ない状態の塗膜となるため、塗膜の厚みにより塗膜の隠蔽率が変わり色合いが異なるものとなる。
本開示はさらに、被塗布物に着色層を形成させた後に、骨材成分を含んだ塗材を塗布することが好ましく行われる。これにより、より良好な仕上げ面を得ることができる。
【0047】
この着色層の形成は、被塗布物の既存のものをそのまま利用することも可能であり、着色されたシート状のものを貼ったり、塗料を塗布することで着色層を形成したりすることができ、その形成方法は、制限されるものではなく、本開示の塗材が塗布できるものであれば良い。
この中でも塗料を用いて着色層を形成することが多く、酸化鉄などの無機系顔料や有機系顔料の着色顔料で必要な色に調色できるものであり、被塗装面との密着が良好であり、塗材との密着も良好なものであれば良く、本開示の塗材による塗膜に薄い部分があるため、耐候性などの耐久性の優れたものが好ましい。
【0048】
この着色層を形成する塗料は、一般的に市販されているようなもので良く、合成樹脂を主成分とし、顔料や、消泡剤,分散剤,湿潤剤,造膜助剤,防凍剤,増粘剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤等のように一般に塗料に配合されている添加剤が使用されることが多い。
この合成樹脂には、乳化重合のような常用の重合技術で製造することができる一般的な合成樹脂エマルションが多く用いられ、これをバインダーとする水系塗料が良く使われ、密着性がより優れたもので、耐久性の優れたものとなる。
【0049】
また、白色顔料,フィラー成分のいずれか1種又は2種を含むことにより、比較的厚膜の着色層を形成することができ、下地の色や多少の凹凸などを隠すことができることで、仕上がりがより良好なものとなる。
この白色顔料は、酸化チタン,亜鉛華などがあり、主に下地の色を隠し、仕上がりを良好とするためのものであり、体質顔料には、炭酸カルシウム,珪藻土,カオリン,タルク,クレー,ベントナイト,ホワイトカーボン,水酸化アルミニウムや珪砂などが挙げられる。
【0050】
この体質顔料の平均粒子径は、150μm以下のものが用いられることが多く、炭酸カルシウム,珪藻土,水酸化アルミニウムや珪砂が容易に入手することができるため好ましく用いられる。
これら白色顔料,体質顔料などの顔料の含有量は、塗料の顔料体積濃度が、10~80%になる範囲が好ましく、30~70%の範囲がより好ましい。
【0051】
この顔料体積濃度が10%より少ない場合には、塗料により形成される塗膜の隠ぺい性が低下し、80%を超える場合には、塗膜の樹脂量が少なく、耐久性や仕上がりに影響を与えることがある。
そのため、この範囲内で必要に応じた顔料体積濃度を調整するが、30~70%の範囲に調整することで、より仕上がりが良好なものとなる。
【0052】
30%より少ない場合には、下地の凹凸などを目立たなく仕上げることが難しく、70%を超える場合には、その仕上がりが悪い場合がある。
また、この着色層を形成する塗料により、着色層を凹凸状に形成することも可能であり、それにより本開示の塗材の付着性を向上させることができる。
【0053】
この着色層が塗料により形成される場合では、通常の塗装方法である吹付塗装,塗装用ローラー,刷毛,コテなどの器具を用いて塗装し、着色層を形成する。
この中でも塗装用ローラーにより行われることが多く、着色層に凹凸を簡単に付けることができる。
【0054】
この塗装用ローラーは、上記同様で、塗料保持層が、20mm以上の長さの毛足を持つ長毛のウールローラーや、スポンジ状のスポンジローラーや砂骨ローラーを用いることで、比較的多くの塗布量を塗布することができ、容易に凹凸状の着色層を形成することができるため好ましく用いられるものである。
本開示の塗材は、被塗装面に塗装され、その被塗装面には、建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等の種々の対象物に塗布することが可能である。
【0055】
これらにより構成される本開示の塗材をより詳細な実施形態により詳細に説明する。まず、塗材を調整する。この塗材は、合成樹脂を含有するビヒクルを作製した後に骨材成分と混合して調整を行った。
ビヒクルは、合成樹脂として、ガラス転移温度が0℃,固形分が50%のアクリル系合成樹脂エマルションを用いた。添加剤として、造膜助剤,消泡剤,分散剤,湿潤剤,増粘剤を用いた。下記にビヒクル配合例を示す。
【0056】
ビヒクル配合例
アクリル系合成樹脂エマルション 420.0g
造膜助剤 50.0g
消泡剤 3.0g
分散剤 1.5g
湿潤剤 1.0g
増粘剤 1.5g
水 23.0g
合 計 500.0g
このビヒクルに対して、各種骨材成分を加えて塗材を調整した。その配合を表1に示す。
【0057】
【0058】
ガラス粉砕物A,Cは、透明なガラス製品を粉砕し、鋭利な角を削り取る処理をしたもので、手で握っても痛くなかった。ガラス粉砕物Bは、透明なガラス製品を粉砕したもので、鋭利な角を削り取る処理をしていないものであり、手で握ると痛かった。
これらのガラス粉砕物は、嵩比重は1.5で、ガラス粉砕物A,Bは、金属製網ふるいの目開きが10メッシュのふるいを通過し、70メッシュのふるいに残ったもので、ガラス粉砕物Cは、ふるいの目開きが10メッシュのふるいに残ったものだった。
【0059】
ガラスビーズは、塗料の充填材として使用される汎用のもので、形状は真球のため手で握っても痛くなかった。ガラスビーズAは、目開きが10メッシュのふるいを通過し、70メッシュのふるいに残ったもので、ガラスビーズBは、目開きが325メッシュを通過したものだった。
パーライトは、塗料の充填材として使用される汎用のもので、形状は球状のため手で握っても痛くなく、嵩比重が約0.1で、目開きが10メッシュのふるいを通過し、50メッシュのふるいに残ったものを使用した。
【0060】
寒水石は、塗料の充填材として使用される汎用のもので、ふるいの目開きが150メッシュを通過したものを使用した。
色砂は、珪砂にアクリル樹脂系エナメル塗料により着色したもので、目開きが70メッシュのふるいを通過し、200メッシュのふるいに残るものを使用した。
【0061】
表1に示した配合をディゾルバーで混合撹拌して塗材を作製した。塗材7の配合は、パーライトの嵩比重が小さいため、パーライトの嵩が増えて混ぜることができなかった。塗材6の配合は、ガラスビーズの粒径が小さいためか撹拌しにくく、できた塗材も流動性があまりないものだった。
【0062】
作製した塗材を被塗装面としてサイディングボードに砂骨ローラーを使用して2mm程度の塗膜厚になるように塗装し、作業性や仕上がりを確認した。なお、着色層として、顔料体積濃度が60%のアクリル樹脂系可とう型塗材を長毛のウールローラーで塗装した。
また、無色透明のアクリル樹脂系のプライマーを塗装した仕様も確認した。その結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
塗材の作業性を確認すると、塗材3,塗材4は骨材成分のガラス粉砕物がローラーに引っかかることがあり少し作業性が良くなかった。塗材5は、骨材成分のガラスビーズの落砂が多かった。
塗材6は、塗材の流動性が悪く塗りにくかった。塗材8は、骨材成分のパーライトの落砂が少しあった。
【0065】
仕上がりは目視で確認し、仕様1~仕様3と仕様5は良好な仕上がりとなった。特に着色層であるアクリル樹脂系可とう型塗材を塗布した仕様3は、着色層により凹凸状が形成され、よりボリューム感のある良好な仕上がりとなった。
仕様6は塗材4に使用されている骨材成分が大きいためか仕上がりが良くなかった。仕様4,仕様9は、塗材に使用している骨材成分にガラス粉砕物が入っていないためか、仕様3と比較すると塗膜に陰影がなくあまり仕上がりが良くなかった。
【0066】
塗膜の手触りは、骨材成分に鋭利な角を削り取る処理をしていないガラス粉砕物が入っている塗材3を使用した仕様5が、塗膜を触ると痛かった。
汚染性は、各仕様の塗膜を1年間屋外曝露して目視で塗膜の汚れを確認した。仕様5の塗膜が骨材成分に汚れが引っ掛かっていて他の塗膜と比較して汚れていた。