(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174521
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液
(51)【国際特許分類】
C08F 214/26 20060101AFI20241210BHJP
C09K 23/42 20220101ALI20241210BHJP
【FI】
C08F214/26
C09K23/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092383
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 厳
(72)【発明者】
【氏名】宮前 宏平
(72)【発明者】
【氏名】小鍋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】麦沢 正輝
【テーマコード(参考)】
4D077
4J100
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AA03
4D077AA05
4D077AB03
4D077AC05
4D077BA07
4D077BA20
4D077DC72X
4D077DD03X
4D077DD09X
4J100AC22Q
4J100AC26P
4J100AC27Q
4J100AC43Q
4J100AE39Q
4J100CA03
4J100CA04
4J100DA11
4J100DA12
4J100EA06
4J100EA09
4J100EA11
4J100GC07
4J100GC22
4J100JA01
4J100JA11
(57)【要約】
【課題】長期間静置された後の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液中の固形分である非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体粒子の再分散性に優れ、環境性能にも優れた非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液を提供する。
【解決手段】非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液であって、前記共重合体の再分散沈降率が60%以下であり、水性分散液の質量に対しパーフルオロオクタン酸及びその塩が10ppb未満であり、非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液であって、下記式にて示される共重合体の再分散沈降率が60%以下であり、前記水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であり、前記非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上であることを特徴とする非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
再分散沈降率(%)=X3/X2 × 100
式中、
X2:前記共重合体と同濃度のテトラフルオロエチレン重合体の水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の、下記式にて示される再分散後の固形分沈降割合(%)
X3:前記共重合体の水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の、下記式にて示される再分散後の固形分沈降割合(%)
再分散後の固形分沈降割合(%)
=(再分散後の固形分沈降量)/(遠心分離前の固形分質量)×100
【請求項2】
前記共重合体の累積体積百分率が50%の時の粒径(d50)が180nm以下である請求項1に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項3】
前記非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレンと、(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及びヘキサフルオロプロピレンから選択される少なくとも1種のコモノマーとの非溶融流動性の共重合体である請求項1または2に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項4】
前記非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレンとの非溶融流動性の共重合体である請求項3に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項5】
前記(パーフルオロアルキル)エチレン中のパーフルオロアルキル基が、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基である請求項3に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項6】
前記(パーフルオロアルキル)エチレンが、(パーフルオロブチル)エチレンである請求項5に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項7】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)中のパーフルオロアルキル基が炭素数1~10のパーフルオロアルキル基である請求項3に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項8】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)から選択される少なくとも1種である請求項7に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項9】
前記コモノマーが、テトラフルオロエチレンに対し0.01~1.00質量%の量で含有されている請求項3に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項10】
前記コモノマーが、テトラフルオロエチレンに対し0.01~0.50質量%の量で含有されている請求項3に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項11】
前記共重合体の比重(SSG)が、2.27以下である請求項1または2に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【請求項12】
前記パーフルオロオクタン酸及びその塩の前記水性分散液中の含有量が、1ppb未満である請求項1または2に記載の非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再分散性に優れた非溶融流動性のテトラフルオロエチレン共重合体の水性分散液に関し、より詳細には、非溶融流動性のテトラフルオロエチレン(以下、TFEという)共重合体の水性分散液から成り、該TFE共重合体の再分散沈降率が60%以下であり、パーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であり、非溶融流動性のTFE共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上である非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水性分散液は、優れた絶縁性、剥離性、良好な耐候性及び難燃性などの特性により、そのままで、或いは濃縮して、プリント基板等の電子材料用途、塗料用原料用途、電池用結着剤(バインダー)用途、各種プラスチックの添加剤用途、紡糸してPTFE繊維とする用途等、各種用途に用いられている。また、PTFE水性分散液を用いた塗料は、化学装置及びガラス生地の塗装に用いられ、例えば、搬送用ベルト、膜構造建築物の屋根材(テント膜)、パッキン等に用いられている。
【0003】
下記特許文献1には、TFEのホモポリマー(TFE重合体)に対して1.0質量%以上の炭化水素系アニオン界面活性剤を含有する安定性のよい水性エマルジョンが提案されている。この特許文献1によれば、TFE重合体の粒子は、下記特許文献2及び3に開示されている乳化重合法、即ちTFEを水溶性重合開始剤及びフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤(以下、含フッ素乳化剤という)を乳化剤として含む水性媒体中に圧入、重合させることにより、水性エマルジョンの形態で製造されるが、安定性を増すためにさらに乳化安定剤が添加されている。
【0004】
更に、下記特許文献4には、含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるTFE重合体水性分散液、及び該TFE重合体が、2~8個の炭素原子を有するフッ素化されたオレフィン及び1~6個の炭素原子を有するアルキル部分を持つフッ素化されたビニルアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種のモノマーを含むことが記載されている。また、TFE重合体水性分散液を陰イオン交換体と接触させることにより、TFE重合体水性分散液からフッ素含有乳化剤を除去する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法に用いられる非溶融流動性のTFE重合体水性分散液は、長期間静置された場合には沈降し易く、一度沈降したTFE重合体は強固に固まり再分散し難いという問題がある。更に、TFE重合体水性分散液中のTFE重合体濃度の低下を引き起こすなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-20700号公報
【特許文献2】特表2010―509441号公報
【特許文献3】特表2010-509442号公報
【特許文献4】特表2002-532583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち本発明は、長期間静置された後の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の固形分である非溶融流動性のTFE共重合体粒子の再分散性に優れ、且つ、環境性能にも優れた非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液であって、下記式(1)で示される共重合体の再分散沈降率が60%以下であり、前記水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であり、非溶融流動性のTFE共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上である非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液を提供する。
【0009】
再分散沈降率(%)=X3/X2 × 100・・・(1)
式中、
X2:前記共重合体と同濃度のTFE重合体の水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の、下記式(2)にて示される再分散後の固形分沈降割合(%)
X3:前記共重合体の水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の、下記式(2)にて示される再分散後の固形分沈降割合(%)
再分散後の固形分沈降割合(%)
=(再分散後の固形分沈降/(遠心分離前の固形分質量)×100・・・(2)
【0010】
前記共重合体の累積体積百分率が50%の時の粒径(d50)が180nm以下であることは、本発明の好適な態様である。
【0011】
前記非溶融流動性のTFE共重合体が、TFEと、(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及びヘキサフルオロプロピレンから選択される少なくとも1種のコモノマーとの非溶融流動性の共重合体であることは、本発明の好適な態様である。
【0012】
前記(パーフルオロアルキル)エチレン中のパーフルオロアルキル基が、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることは、本発明の好適な態様である。
【0013】
前記(パーフルオロアルキル)エチレンが、(パーフルオロブチル)エチレンであることは、本発明の好適な態様である。
【0014】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)中のパーフルオロアルキル基が炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることは、本発明の好適な態様である。
【0015】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)から選択される少なくとも1種であることは、本発明の好適な態様である。
【0016】
前記コモノマーが、TFEに対して0.01~1.00質量%の量で含有されていることは、本発明の好適な態様である。
【0017】
前記コモノマーが、TFEに対して0.01~0.50質量%の量で含有されていることは、本発明の好適な態様である。
【0018】
前記共重合体の比重(SSG)が2.27以下であることは、本発明の好適な態様である。
【0019】
前記パーフルオロオクタン酸及びその塩が、前記水性分散液の質量に対し1ppb未満であることは、本発明の好適な態様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、長期間静置後であっても非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の固形分である非溶融流動性のTFE共重合体粒子の再分散性に優れると共に、環境性能に優れた非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例2の一次粒子のSEM画像を示す図である。
【
図2】比較例1の一次粒子のSEM画像を示す図である。
【
図3】実施例1及び比較例1の遠心分離沈降試験及び遠心分離沈降再分散試験の結果を示す図である。
【
図4】実施例1及び比較例1の静置沈降試験及び静置沈降再分散試験の結果を示す図である。
【
図5】実施例1及び比較例1の静置90日後の写真である。
【
図6】実施例2及び比較例1を7か月静置後、容器を逆さにした時の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液は、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液であって、上記式(1)にて示される共重合体の再分散沈降率が60%以下であり、水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であり、非溶融流動性のTFE共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上であることが重要な特徴である。
前述した通り、非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の固形分であるTFE重合体粒子は沈降し易いため、TFE重合体の水性分散液が長期間静置された場合には、TFE重合体粒子が沈降し、沈降したTFE重合体粒子が強固に固まり攪拌等で再分散させることが困難であるが、本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液においては、上記非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液の再分散沈降率が60%以下であり、非溶融流動性のTFE共重合体粒子の短径:長径の比が0.7以上であることにより、沈降した非溶融流動性のTFE共重合体粒子が強固に固まることを抑制し、再分散性を顕著に向上することが可能となる。更に、難分解性のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であることから、環境性能にも優れている。
【0023】
本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液が、再分散性に優れていることは、後述する実施例の遠心分離沈降試験、遠心分離再分散試験、静置沈降試験、及び静置沈降再分散試験の結果からも明らかである。
【0024】
(再分散沈降率)
遠心分離沈降試験及び遠心分離沈降再分散試験の結果を表す
図3からも明らかなように、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液の再分散沈降率が60%以下である本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液は、再分散沈降率が60%を超えるTFE重合体の水性分散液に比して沈降量が低減されている。
また後述する実施例1~4に示すように、本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液は、上記式(1)で示す再分散沈降率が60%以下、好ましくは50%以下、好適には30%以下であることにより、良好に再分散できることが明らかである。更に、本発明の非溶融流動性のTFE共重合体は、沈降し易い棒状粒子が少ないため、沈降安定性に優れると考えられる。
【0025】
上記式(1)で示される再分散沈降率が60%を超える場合には、沈降した非溶融流動性のTFE共重合体粒子が強固に固まり、再分散が困難になる。また固形分である非溶融流動性のTFE共重合体粒子が沈降した結果、非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中に分散している非溶融流動性のTFE共重合体粒子が減少するため好ましくない。更に、強固に固まった非溶融流動性のTFE共重合体は廃棄しなければならず、有用な資源である非溶融流動性のTFE共重合体の多くを無駄にしてしまうと共に、廃棄コストが発生する等、経済性の点からも好ましくない。
【0026】
(非溶融流動性のTFE共重合体)
本発明に用いる非溶融流動性のTFE共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)と、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、(パーフルオロアルキル)エチレン、及びヘキサフルオロプロピレンから選択される少なくとも1種のコモノマーとの非溶融流動性の共重合体であることが好ましい。
【0027】
前記(パーフルオロアルキル)エチレンは、(パーフルオロアルキル)エチレン中のパーフルオロアルキル基が、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、より好ましくは(パーフルオロエチル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレン、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレンから選択される少なくとも1種である。更に好ましくは(パーフルオロブチル)エチレンである。
【0028】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)中のパーフルオロアルキル基が、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、より好ましくは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)から選択される少なくとも1種である。更に好ましくは、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)である。
【0029】
本発明に用いる非溶融流動性のTFE共重合体中の前記コモノマーは、TFEに対して0.01~1.00質量%、好ましくは0.01~0.50質量%、より好ましくは0.01~0.30質量%の量で含有されている。前記コモノマーの含有量が0.01~1.00質量%の場合には、沈降し易い棒状粒子が少ないため水性分散液の安定性が向上する。一方、前記コモノマーの含有量が1.00質量%を超える場合には、熱安定性が低下するため好ましくない。また、前記コモノマーの含有量が0.01質量%未満の場合には、再分散沈降率に劣るため好ましくない。
【0030】
本発明に用いる非溶融流動性TFE共重合体の融点は320~350℃であり、好ましくは334~342℃である。融点が、320℃未満の場合には、非溶融流動性中のコモノマー含有量が多くなりフィブリル化し難くなるため、好ましくない。
本発明に用いる非溶融流動性TFE共重合体は、融点以上の温度において溶融成形性を示さない共重合体であって、ASTM D1238(372℃、荷重5kg)に準拠して、融点より高い温度でMFRを測定できない共重合体であることが好ましい。この様な非溶融流動性のTFE共重合体は、溶融流動性を有し溶融成形が可能なTFE共重合体とは異なる共重合体である。
【0031】
また、非溶融流動性のTFE共重合体の比重(SSG)は2.27以下、好ましくは2.22以下、より好ましくは2.20以下であることが望ましい。SSGはその値が大きいほど分子量が小さく、小さいほど分子量は大きくなるため、SSGの値が小さい、すなわち、高分子量になるほど機械的特性が向上する。一方、SSGの値が大きく(2.27を超える)、すなわち、分子量が小さくなるほど、耐薬品性、耐熱性に劣るため好ましくない。
【0032】
本発明の非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液は、高分子量の非溶融流動性のTFE共重合体の微粒子(コロイド粒子)が分散した水性分散液である。
非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液中の上記コロイド粒子は、累積体積百分率が50%の時の粒径(d50)が180nm以下、好ましくは50~180nm、より好ましくは50~150nmのコロイド粒子であることが望ましい。d50が50nmより小さい場合には、上記範囲にある場合に比して、一次粒子同士が凝集し易くなるおそれがあり、一方d50が180nmを超える場合には、コロイド粒子の沈降安定性(分散安定性)が低くなるため、好ましくない。
【0033】
本発明の非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液中の非溶融流動性のTFE共重合体の微粒子(コロイド粒子または一次粒子)は、その短径(最小直径):長径(最大直径)の比(短径/長径)が0.7以上であることが好ましい。この短径(最小直径):長径(最大直径)の比(短径/長径)が1に近づくほど一次粒子が真円に近いことを示し、一次粒子の再分散性が向上するため好ましく、0.7未満の場合には、一次粒子の形状が棒状になり再分散性が劣るため、好ましくない。
【0034】
本発明において、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液中の非溶融流動性のTFE共重合体の濃度は特に限定されないが、10~80質量%、好ましくは15~80質量%、より好ましくは20~80質量%の範囲にある。
非溶融流動性のTFE共重合体の分散効果を高めるためには、非溶融流動性のTFE共重合体濃度は低いほど好ましく、非溶融流動性のTFE共重合体濃度が高いと沈降安定性(分散安定性)が損なわれるおそれがあるため好ましくない。その一方、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液を輸送する際には、その濃度が高いほど輸送コストが節約できる。従って、本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の非溶融流動性のTFE共重合体濃度は、10質量%以上、特に20~80質量%の範囲であることが好ましい。
また、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液は、異なるコモノマーを用いた非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液を混合して用いることも出来る。
更に、非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の非溶融流動性のTFE共重合体の分散効果を高めるため、水または各種溶液で希釈して使用することも可能である。
【0035】
本発明において、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量は、水性分散液の質量に対し10ppb未満、好ましくは1ppb未満、より好ましくは0ppbであることが望ましい。パーフルオロオクタン酸及びその塩は、難分解性で環境への影響が懸念されるため、その含有率は可及的に低いことが望まれている。
非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の濃度は、ポリエチレン容器に入れた非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液10mlを-20℃の冷凍庫に入れて凍らせ、非溶融流動性のTFE共重合体を凝集させて水と分離した後、ポリエチレン容器の中身を全てソックスレーの抽出器に移し、約80mlのメタノールで7時間抽出し、メスアップしたサンプル液を液体クロマトグラフで測定することにより算出することが出来る。
【0036】
パーフルオロオクタン酸及びその塩の含有率が10ppb未満である非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液を調製する方法は特に制限がないが、以下の方法を例示できる。
例えば、前述した特許文献3及び特許文献4に開示されているように、重合時に重合剤としてパーフルオロオクタン酸及びその塩を使用せず、フルオロモノエーテル酸(C3F7-O-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩及びフルオロポリエーテル酸(C3F7-O-[CF(CF3)CF2O]n-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を用いてTFE共重合体を重合する方法が挙げられる。
【0037】
本発明においては、非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液中の非溶融流動性のTFE共重合体が、TFEと上記コモノマーとの非溶融流動性のTFE共重合体であって、再分散沈降率が60%以下であることにより、優れた再分散沈降率を得ることが可能になる。また非溶融流動性TFE共重合体水性分散液中のパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が10ppb未満であることにより、優れた環境性能をも有している。
【0038】
本発明に用いる非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液は、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液の安定性を高めるため、更に乳化安定剤を含んでいてもよい。乳化安定剤としては、炭化水素系アニオン系界面活性剤が好ましい。この界面活性剤は本質的に土中成分であるカルシウム、アルミニウム及び鉄分と水に不溶性又は難溶性の塩を形成するため、界面活性剤に起因する河川、湖沼及び地下水汚染を回避することが出来る。
【0039】
このような炭化水素系アニオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などがあるが、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルエチレンスルホン酸(ポリオキシエチレンのnは1~6、アルキルの炭素数は8~11)、アルキルベンゼンスルホン酸(アルキルの炭素数は10~12)、ジアルキルスルホコハク酸エステル(アルキルの炭素数は8~10)などのNa,K,Li及びNH4 塩は、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液に高い機械的安定性の付与が可能であり、高速攪拌等により非溶融流動性のTFE共重合体粒子が凝集すること等が防止されるため、好ましいものとして例示することができる。
【0040】
更に、本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液は、長期間の静置後であっても、非溶融流動性のTFE共重合体が強固に固まることが無く、すなわち、再分散性に優れている(再分散沈降率が低い)ため、廃棄コストの削減が可能になる等、経済性の点からも好ましい。
【実施例0041】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0042】
[1]累積体積百分率50%における粒径(d50)
非溶融流動性のTFE共重合体粒子の粒径(d50)、またはTFE重合体粒子の粒径(d50)は、マイクロトラックUPA150 Model No.9340(日機装社製)を用いて測定した。
【0043】
[2]標準比重(SSG)
ASTM D-4894により測定した。
乳化重合により得られる非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液を、純水を用いて15質量%濃度に調整した。その後ポリエチレン容器に上記濃度に調整された非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液を約750ml入れ、手で激しく振蕩して固形分を凝集させ分離した。分離した固形分を150℃で2時間乾燥した。乾燥した固形分(樹脂粉末)12.0gを直径2.85cmの円筒形型中に入れてならし、30秒後に最終圧力が350kg/cm2となるよう圧力を次第に増加し、350kg/cm2の最終圧力で2分間保持した。このようにして得られた予備成形体(1サンプルに対して2個作成)を空気炉中で290℃から2℃/minで380℃まで昇温して380℃にて30分間保持、1℃/minで294℃まで降温、294℃で1分間保持した後、空気炉中から取り出し室温(23±1℃)で冷却して標準試料とした。室温(23±1℃)における同体積の水の質量に対する標準試料の質量比を標準比重とした。この場合、2個の試料の標準比重の平均値を求めて標準比重とした。
この標準比重は平均分子量の目安となり、一般に標準比重が低い程分子量は大きい。
【0044】
[3]コモノマー含有量
[3―1]コモノマー含有量((パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)の含有量)
上記[2]と同一の方法にて、非溶融流動性のTFE・PFBE共重合体水性分散液から得られた乾燥した固形分(樹脂粉末)0.8±0.050gを直径2.85cmの円筒形型中に入れアルミ箔の間でならし、30秒後に最終圧力が496kg/cm2になるように圧力を次第に増加し、この最終圧力をかけたまま2分間保ち、測定用の試料を得た。同様にPFBE含有量(質量%)が既知の樹脂粉末(PFBE含有量が0質量%と0.03質量%の2点)についても測定試料を作成した。これらの試料の赤外線スペクトルを測定し、以下の式(3)により吸光度比Xを求めた。
吸光度比X=(C-B)/(A-B)・・・(3)
A:936cm-1ピーク高さ(吸光度)
B:887cm-1ピーク高さ(吸光度)
C:875cm-1ピーク高さ(吸光度)
PFBE含有量(質量%)が既知の試料2点のPFBE含有量(質量%)と吸光度比Xから検量線を作成し、当該試料の吸光度比Xから当該試料のPFBE含有量(質量%)を求めた。
【0045】
[3―2]コモノマー含有量(パーフルオロプロピルビニルエーテル)(PPVE)の含有量)
上記[2]と同一の方法にて、非溶融流動性のTFE・PPVE共重合体水性分散液から得られた乾燥した固形分(樹脂粉末)1.75±0.005gを直径2.85cmの円筒形型中に入れアルミ箔の間でならし、30秒間圧力をかけて次第に増加させて最後の圧力が1470kg/cm2になるようにし、この最終圧力をかけたまま2分間保ち、測定用の試料1を得た。同様にPPVEの含有量(質量%)が既知の樹脂粉末(PPVE含有量が0質量%と0.75質量%の2点)についても測定試料を作成した。これらの試料の赤外線スペクトルを測定し、以下の式(4)、(5)により吸光度比および吸光度比X1を求めた。
吸光度比X1=(試料1の吸光度比/既知の樹脂粉末の吸光度比)・・・(4)
吸光度比=B1/A1・・・(5)
A1:936cm-1ピーク高さ(吸光度)
B1:994cm-1ピーク高さ(吸光度)
PPVE含有量(質量%)が既知の試料2点のPPVE含有量(質量%)と吸光度比X1から検量線を作成し、当該試料の吸光度比X1から当該試料のPPVE含有量(質量%)を求めた。
【0046】
[3―3]コモノマー含有量(ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)の含有量)
上記[2]と同一の方法にて、非溶融流動性のTFE・HFP共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液から得られた乾燥した固形分(樹脂粉末)のサンプル1.75±0.005gを直径2.85cmの円筒形型中に入れアルミ箔の間でならし、30秒間圧力をかけて次第に増加させて最後の圧力が1470kg/cm2になるようにし、この最終圧力をかけたまま2分間保ち、測定用の試料を得た。同様にHFP含有量(質量%)が既知の樹脂粉末(HFP含有量が0.06質量%、0.08質量%、0.12質量%の3点)についても測定試料を作成する。これらの試料の赤外線スペクトルを測定し、以下の式(6),(7)により吸光度比および吸光度比X2を求めた。
吸光度比X2=(試料の吸光度比/既知試料の吸光度比)X 0.42
・・・(6)
吸光度比=B2/A2・・・(7)
A2:936cm-1ピーク高さ(吸光度)
B2:983cm-1ピーク高さ(吸光度)
HFP含有量(質量%)が既知の試料3点のHFP含有量(質量%)と吸光度比X2から検量線を作成し、当該試料の吸光度比X2から当該試料のHFP含有量(質量%)を求めた。
【0047】
[3―4]コモノマー含有量(パーフルオロエチルビニルエーテル)(PEVE)の含有量)
上記[2]と同一の方法にて、非溶融流動性のTFE・PEVE共重合体水性分散液から得られた乾燥した固形分(樹脂粉末)を用いた赤外線スペクトルの測定は、既知の赤外線スペクトルを有するPEVE粉末を用いた検量線の外挿値となり測定不可のため、下記式に従い、投入した全てのPEVE(4.4g)が重合に消費されたと仮定し、PEVE投入量を固形分質量(1189.4g)で除した値を、コモノマー含有量の最大値(%)として算出した結果、1質量%未満であった。
PEVE含有量(質量%)(最大値)=
PEVE投入量(4.4g)/固形分(1189.4g)×100
【0048】
[4]固形分質量%
6g未満の非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液を、風袋質量計量済みのアルミ皿に計り取り、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液の質量(乾燥前質量)を計量(小数点以下4桁まで計量)した。その後、105℃の乾燥機中で2時間静置し水分を除去し、380℃の恒温オープンで20分間焼成し室温まで冷却した後、その質量(乾燥後質量)を計量し、下記式(8)にて固形分質量%を算出した。
固形分質量%=[(乾燥後質量-アルミ皿の風袋質量)/乾燥前質量]×100
・・・(8)
【0049】
[5]融点
上記[2]と同一の方法にて、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液、またはTFE重合体水性分散液から得られた乾燥した固形分(樹脂粉末)を、測定用スーパークリーンアルミニウム製サンプルパン(株式会社パーキンエルマージャパン製)に10.0±0.3mg入れた後カバーを乗せ、標準クリンパープレスを用いて密閉し測定用サンプルを作成した。その測定用サンプルを入力補償型示差走査熱量測定装置Diamond DSC(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用い、空のスーパークリーンアルミニウム製サンプルパンを基準物質とし、200℃から370℃まで10℃毎分で昇温しながら熱量を測定した。測定の結果、観測された吸熱ピークが最大となる点の温度を測定用サンプル(樹脂粉末)の融点とした。
【0050】
[6]遠心分離沈降試験
表1に示す組成の非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液またはTFE重合体水性分散液15gを、遠沈管(コーニング株式会社製、15ml遠沈管)に入れ、遠心分離機(クボタ株式会社製、テーブルトップ冷却遠心機5500、アングルローター RA508)を用い、温度20℃、回転数3000rpmにて30分間遠心分離を行った。遠心分離後の遠沈管から遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その質量(遠沈管の質量と遠沈管の底に沈降した固形分質量の合計)を測定し、そこから遠沈管の質量を減じた質量を固形分沈降量として、下記式(10)から固形分沈降割合、及び下記式(9)から沈降率を算出した。
【0051】
沈降率(%)=X1/X0 × 100・・・(9)
式中、
X0:比較例1に示すTFE重合体水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去した際の下記式(10)で示される固形分沈降割合(%)である。
X1:実施例に示す非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去した際の下記式(10)で示される固形分沈降割合(%)である
固形分沈降割合(%)=(固形分沈降量)/(遠心分離前の固形分質量)
×100・・・(10)
【0052】
[7]遠心分離再分散試験
上記[6]において液部分を除去した遠沈管の質量を測定し、該遠沈管に10gの純水を加え、遠沈管の底に沈降した固形分を、38kHzにて1分間超音波分散した後、遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分及び再分散した固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その重量(遠沈管の質量と遠沈管の底に沈降した固形分質量の合計)を測定し、そこから遠沈管の質量を減じた質量を再分散後の固形分沈降量として、下記式(2’)から再分散後の固形分沈降割合、及び下記式(1’)から再分散沈降率を算出した。
【0053】
再分散沈降率(%)=X3/X2 × 100・・・(1’)
式中、
X2:比較例1に示すTFE重合体の水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の下記式(2’)で示される固形分沈降割合(%)である。
X3:実施例に示す非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液15gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の下記式(2’)で示される固形分沈降割合(%)である。
再分散後の固形分沈降割合(%)=(再分散後の固形分沈降量)/
(遠心分離前の固形分質量)×100・・・(2’)
【0054】
[8]静置沈降試験
表2に示すように、15gの非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液またはTFE重合体水性分散液を遠沈管に入れ、遠沈管の口を閉じた後に、30日間及び60日間、90日間、各々室温にて静置した。30日間または60日間、90日間静置後、遠沈管の口を開け、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その質量(遠沈管の質量と遠沈管の底に沈降した固形分質量の合計)を測定し、そこから遠沈管の質量を減じた質量を静置後の固形分沈降量として、下記式(12)から固形分沈降割合、及び下記式(11)から沈降率を算出した。
【0055】
沈降率(%)=X5/X4 × 100・・・(11)
式中、
X4:比較例1に示すTFE重合体水性分散液15gを、遠沈管の口を閉じた後に、30日間及び60日間、90日間、各々室温にて静置した後、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去した際の下記式(12)で示される固形分沈降割合(%)である。
X5:実施例に示す非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液15gを、遠沈管の口を閉じた後に、30日間及び60日間、90日間、各々室温にて静置した後、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去した後、静置後の固形分沈降量(質量)を測定し、下記式(12)で示される固形分沈降割合(%)である。
固形分沈降割合(%)=(静置後の固形分沈降量)/(静置前の固形分質量)
×100・・・(12)
【0056】
[9]静置沈降再分散試験
上記[8]において静置した試験管の質量を測定し、該遠沈管に10gの純水を加え、遠沈管の底に沈降した固形分を、38kHzにて1分間超音波分散した後、遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分及び再分散した固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その質量(遠沈管の質量と遠沈管の底に沈降した固形分量の合計)を測定し、そこから遠沈管の質量を減じた質量を再分散後の固形分沈降量として、下記式(14)から再分散固形分沈降割合、及び下記式(13)から再分散沈降率を算出した。
【0057】
再分散沈降率(%)=X7/X6 × 100・・・(13)
式中、
X6:比較例1に示すTFE重合体水性分散液15gを、遠沈管の口を閉じた後に、30日間及び60日間、90日間、各々室温にて静置した後、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去した後、再分散させた際の下記式(14)で示される固形分沈降割合(%)である。
X7:実施例に示す非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液15gを、遠沈管の口を閉じた後に、30日間及び60日間、90日間、各々室温にて静置した後、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び沈降していない固形分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去した後、再分散させた際の下記式(14)で示される固形分沈降割合(%)である。
再分散後の固形分沈降割合(%)=(再分散後の固形分沈降量)/
(遠心分離前の固形分質量)×100・・・(14)
【0058】
[10]一次粒子の短径/長径の比
重合により得られた非溶融流動性のTFE共重合体の一次粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率×20Kにて得られたSEM画像より無作為に粒子を10点選択し、粒子の最大直径(A)と最小直径(B)をmm単位で測定し、最小直径(B)/最大直径(A)の比を算出した。10点分の最小直径(B)/最大直径(A)の比の平均値を、対象一次粒子の最小直径(B)/最大直径(A)の比とした。この最小直径(B)/最大直径(A)の比が、1に近づくほど一次粒子が真円に近いことを示す。尚、屈曲した棒状や紐状のものは円形、楕円形として上記の計算ができないので無作為の抽出から除外した。
【0059】
(実施例1)
(非溶融流動性のTFE共重合体の重合)
攪拌翼及び温度調節用ジャケットを備えた、内容量が4リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、パラフィンワックスを60g、脱イオン水を2087 ml、フルオロモノエーテル酸(式C3F7-O-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を12.03g、フルオロポリエーテル酸(C3F7-O-[CF(CF3)CF2O]n-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を1.0g、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを0.01g仕込み、80℃に加温しながら窒素ガスで3回系内を置換し酸素を除いた後、真空引きを行った。その後、PFBEを4.4g、フルオロモノエーテル酸のアンモニウム塩を0.2g、及び脱イオン水を199.8ml仕込んだ後、テトラフルオロエチレン(TFE)を供給して、内圧を1.90-1.98MPaにし、110rpmで攪拌しながら、内温を80℃に保った。
【0060】
次に、400mlの水に0.12gの過硫酸アンモニウムを溶かした水溶液から、水溶液100mlをポンプで注入した。過硫酸アンモニウム水溶液の注入が終了した後、内圧を2.0MPaに保つように引き続きTFEを供給した。TFEの消費が1106.79gになった時点で、攪拌を停止した。オートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、真空引きを行い、窒素ガスで常圧に戻した後で内容物を取り出し反応を終了し、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液を得た。
【0061】
得られた非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液について、累積体積百分率50%における粒径(d50)、一次粒子の短径/長径の比、SSG、PFBE含有量、固形分質量、融点、並びにパーフルオロオクタン酸及びその塩の量を測定した。また、遠心分離沈降試験、遠心分離沈降再分散試験を行った。結果を表1に及び
図3に示す。
【0062】
(実施例2~4)
(非溶融流動性のTFE共重合体の重合)
攪拌翼及び温度調節用ジャケットを備えた、内容量が4リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、パラフィンワックスを60g、脱イオン水を2087 ml、フルオロモノエーテル酸(式C3F7-O-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を12.03g、フルオロポリエーテル酸(C3F7-O-[CF(CF3)CF2O]n-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を1.0g、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを0.01g仕込み、80℃に加温しながら窒素ガスで3回系内を置換し酸素を除いた後、真空引きを行った。その後、コモノマー(HFP、PPVE、PEVEの何れか)を、表1に記載する量ポンプで注入した。その後、テトラフルオロエチレン(TFE)を供給して、内圧を1.90-1.98MPaにし、110rpmで攪拌しながら、内温を80℃に保った。
【0063】
次に、400mlの水に0.12gの過硫酸アンモニウムを溶かした水溶液から、水溶液100mlをポンプで注入した。過硫酸アンモニウム水溶液の注入が終了した後、内圧を2.0MPaに保つように引き続きTFEを供給した。TFEの消費が1106.79gになった時点で、攪拌を停止した。オートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、真空引きを行い、窒素ガスで常圧に戻した後で内容物を取り出し反応を終了し、非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液を得た。
【0064】
得られた非溶融流動性のTFE共重合体水性分散液について、累積体積百分率50%における粒径(d50)、粒子の短径/長径の比、SSG、PFBE含有量、固形分質量、融点、並びにパーフルオロオクタン酸及びその塩の量を測定した。また、遠心分離沈降試験、遠心分離沈降再分散試験を行った。結果を表1に示す。また、実施例2の一次粒子のSEM画像を
図1に示す。
【0065】
(比較例1)
TFE重合体水性分散液(テフロン(登録商標)PTFEディスパージョン 312-JR、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製)について、累積体積百分率50%における粒径(d50)、一次粒子の短径/長径の比、SSG、固形分質量、並びにパーフルオロオクタン酸及びその塩の量を測定した。また、遠心分離沈降試験、遠心分離沈降再分散試験を行った。更に、実施例1と同様にして物性分析した。結果を表1に示す。また、比較例1の一次粒子のSEM画像を
図2に示す。
【0066】
さらに、実施例1及び比較例1について、静置沈降試験、静置沈降再分散試験を行った。結果を表2及び
図4に示す。また、実施例1及び比較例1について静置90日後の写真を
図5に示す。
【0067】
併せて、実施例2及び比較例1について7か月静置後、容器を逆さにした時の写真を
図6に示す。実施例2に沈殿物は確認されなかったが、比較例1ではTFE重合体の沈殿物(白色沈殿物)を確認した。
【0068】
【0069】
本発明の非溶融流動性のTFE共重合体の水性分散液は、優れた表面特性、耐熱性、耐薬品性、及び電気特性などを有することから、かかる特性を利用し、金属などへの塗装剤、繊維及び織布などへの含浸剤、またポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂に防炎性を付与するための添加剤などの各種プラスチックス類への配合剤等として好適に用いられる。