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特開2024-174527ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法
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  • 特開-ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174527
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241210BHJP
   A21D 2/34 20060101ALI20241210BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20241210BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20241210BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A21D2/34
A21D13/00
A23L29/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092394
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】会田 渉
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE26
4B023LG06
4B023LK01
4B023LK04
4B023LK15
4B023LL04
4B023LP07
4B023LP20
4B032DB06
4B032DG02
4B032DK01
4B032DK07
4B032DK09
4B032DK18
4B032DK47
4B032DK49
4B032DP02
4B032DP08
4B032DP20
4B032DP40
4B035LC03
4B035LE01
4B035LG01
4B035LG08
4B035LG35
4B035LG43
4B035LK13
4B035LP01
4B035LP21
(57)【要約】
【課題】
オールインミックス法であっても、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケを感じる食感で、口どけも良好なものとできる、ケーキ用の改質小麦粉由来粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】
熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体とを混合することを含む、
ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体とを混合することを含む、
ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法。
【請求項2】
前記熱変性卵白含有液がコハク酸モノグリセライドを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱変性卵白含有液が、卵白と塩基性化合物とを含む混合液の加熱処理液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、ケーキ用改質小麦粉由来粉体。
【請求項5】
請求項4に記載のケーキ用改質小麦粉由来粉体を穀粉原料として得られたケーキ。
【請求項6】
小麦粉、卵白由来の固形分、コハク酸モノグリセライド、及び塩基性化合物を含み、
卵白由来の固形分の含有量が2.5~7.5質量%であり、コハク酸モノグリセライドの含有量が0.5~2.0質量%であり、
吸水速度法による吸水時間が20秒以上である、ケーキ用改質小麦粉。
【請求項7】
請求項6に記載のケーキ用改質小麦粉を用いたケーキ生地を焼成して得られるケーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、バターケーキ、あるいはパウンドケーキなどのケーキ類は、一般的に卵、砂糖、及び小麦粉を主原料とし、これにベーキングパウダーや油脂を加えて得られたケーキ生地を焼成して製造される。ケーキ生地の調製方法としては、卵の起泡性を利用した共立て法(全卵と砂糖を用いて泡立てておき、これに小麦粉を加えて生地を作る方法)や、別立て法(全卵を卵黄と卵白に分け、別々に砂糖を加えて泡立てた後、これらの双方を混合し、最後に小麦粉を加えて生地を作る方法)などが知られている。また工場等におけるケーキ類の製造では、ケーキ類を少ない工程数で大量生産する観点から、小麦粉を含む上記原料を混合し、さらに改質剤(起泡性乳化剤)を混合し、撹拌により起泡させてケーキ生地を得るオールインミックス法などが用いられている。
【0003】
オールインミックス法に用いる前記起泡性乳化剤として、例えば特許文献1には、(A)グリセリン飽和脂肪酸エステルと、(B)ショ糖飽和脂肪酸エステルと、(C)グリセリン不飽和脂肪酸エステル、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル、グリセリン有機酸不飽和脂肪酸エステル、ショ糖不飽和脂肪酸エステル及びソルビタン不飽和脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上と、を含有し、且つ油脂を実質的に含有しないことを特徴とするケーキ用乳化起泡剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-176139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、オールインミックス法は原料由来の液成分と小麦粉との接触時間が長く、得られるケーキは、内相の目が細かく、しっとりとした食感で、食した際にまとまりやすい。これに対し、上記オールインミックス法において、小麦粉のみを除いた原料を予め混合して起泡させ、ここに小麦粉を後から投入して(粉合わせして)さらに混合してケーキ生地とする「後粉法」が提案されている。後粉法により、得られるケーキは内相の目開きが良く、軽くバラケの良い食感で、口どけもよいものとなる。そのため、目的に応じてオールインミックス法と後粉法とを使い分け、所望の食感等を有するケーキが製造されている。なお、「バラケ」、「バラケ感」とは、口腔内でバラバラと心地よく崩壊してゆく感覚を意味する。
【0006】
一方で、上記後粉法は、小麦粉を後から混合する必要があるため、オールインミックス法に比べて製造効率に劣るという欠点がある。
【0007】
本発明は、オールインミックス法であっても、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケを感じる食感で、口どけも良好なものとできる、ケーキ用の改質小麦粉由来粉体の製造方法の提供に関する。また、本発明は、ケーキの製造に用いることにより、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケを感じる食感で、口どけも良好なものとすることができる、ケーキ用改質小麦粉由来粉体の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、熱変性卵白含有液(液体の状態で熱変性させた卵白を含有する液)と小麦粉とを混合することにより、小麦粉表面が改質されて吸水性を効果的に抑制できること、こうして得られた改質小麦粉を、小麦粉に代えてケーキの穀粉原料として用いることにより、オールインミックス法を適用しても、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケの良い食感で、口どけも良好なものとできることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体とを混合することを含む、ケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法を提供するものである。
また本発明は、小麦粉、卵白由来の固形分、コハク酸モノグリセライド、及び塩基性化合物を含み、卵白由来の固形分の含有量が2.5~7.5質量%であり、コハク酸モノグリセライドの含有量が0.5~2.0質量%であり、吸水速度法による吸水時間が20秒以上である、ケーキ用改質小麦粉を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法によれば、ケーキの製造に用いることにより、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケを感じる食感で、口どけも良好なものとできる、小麦粉由来の穀粉原料を得ることができる。また、本発明の改質小麦粉由来粉体は、ケーキの製造に用いることにより、得られるケーキを、内相の目開きが良く、軽くバラケを感じる食感で、口どけも良好なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、走査型電子顕微鏡によるスポンジケーキの断面の拡大図を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ケーキ用改質小麦粉由来粉体]
本発明のケーキ用改質小麦粉由来粉体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)は、熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体とを混合することを含む。
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0013】
<熱変性卵白含有液>
「熱変性卵白含有液」とは、卵白と塩基性化合物とを含む混合液(卵白含有液)を加熱して、卵白を熱変性させることにより得られるものである。通常、卵白を単体で加熱すると、約60℃からタンパク質の熱凝固が始まり、その後、加熱を続けることにより流動性が失われた凝固物(固体)となることが知られている。本発明では、この凝固物ではなく、熱変性卵白含有液を用いる。本発明の熱変性卵白含有液は、塩基性化合物の存在下で卵白を熱変性させることにより得ることができる。
【0014】
(卵白)
熱変性卵白含有液の調製に用いる卵白としては、例えば、生卵白、脱糖処理を施した卵白、特定の卵白タンパク質(例えばリゾチームなど)を除去した卵白、又はこれらの冷凍卵白、乾燥卵白、濃縮卵白等が挙げられ、これらの市販品を用いることもできる。市場から入手可能な卵白としては、例えば凍結卵白(製菓用)(キューピー株式会社製)が挙げられる。
本発明ないし本明細書において、前記「卵白と塩基性化合物とを含む混合液」における卵白とは液卵白を意味し、固形分濃度(水以外の成分の濃度)が10~14質量%程度(好ましくは11~13質量%)である液卵白を意味する。例えば本発明において乾燥卵白を用いる場合、上記固形分濃度となるように乾燥卵白に水を添加して得られるものを、前記「卵白と塩基性化合物とを含む混合液」における卵白として用いることができる。
混合液中の卵白の含有量は、卵白固形分(卵白由来の固形分)として2~7質量%であることが好ましく、3~6質量%であることがより好ましく、4~5質量%であることがさらに好ましい。この卵白固形分の量は、使用した卵白由来のタンパク質量とほぼ同義である。
【0015】
(塩基性化合物)
本発明に用いる塩基性化合物としては、食品に利用可能な塩基性化合物であれば特に制限なく用いることができる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸水素塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩、塩基性アミノ酸などが挙げられる。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の好ましい具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム等を挙げることができる。塩基性アミノ酸の好ましい具体例としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンが挙げられる。前記混合液が後述するコハク酸モノグリセライドを含有する場合、塩基性化合物は、コハク酸モノグリセライド(コハク酸モノアシルグリセロール)の中和物として混合されてもよい。この場合、コハク酸モノグリセライドは塩の状態で存在することになる。塩基性化合物の配合量は、コハク酸モノアシルグリセロールの中和に必要な量に対して過剰量とすることが好ましい。これにより、加熱処理による卵白の凝固、凝集を、より効果的に抑えることができる。前記混合液のpHは、加熱による卵白由来のタンパク質の凝固をより抑制する観点から、8~12であることが好ましく、8.3~11.5であることがより好ましく、8.5~10.0であることがさらに好ましく、8.5~9.0であることがさらに好ましい。
前記混合液中の前記塩基性化合物の含有量は、卵白が熱変性する際に凝固を所望のレベルに抑制できれば特に制限されない。例えば、混合液中の卵白固形分100質量部に対し、0.5~10質量部となるように前記塩基性化合物を混合することが好ましく、1~8質量部となるように混合することがより好ましく、1.5~6質量部となるように混合することがさらに好ましい。また、後述する、本発明の製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体における塩基性化合物の好ましい含有量の範囲を満たすように、前記混合液における塩基性化合物の混合量(配合量)を適宜設定することができる。
【0016】
(水)
前記混合液は、通常は水を含有する。混合液中の水の量は、前記卵白(液卵白)に対し、質量基準で0.5~3倍量とすることができ、1~3倍量とすることもできる。当該水の混合は、水として混合してもよく、また前記卵白と予め混合させて希釈卵白としてもよく、前記塩基性化合物(ないし塩)と混合して水溶液としてもよい。
【0017】
(コハク酸モノグリセライド)
前記熱変性卵白含有液は、コハク酸モノグリセライドを含むことが好ましい。熱変性卵白含有液がコハク酸モノグリセライドを含むことにより、本発明の製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体を用いて製造したケーキに、所望のより優れた食感、口どけ感等を付与することができる。
前記コハク酸モノグリセライドは、加熱処理後の前記熱変性卵白含有液に混合してもよく、また、加熱処理前の前記混合液に混合してもよく、加熱処理前の前記混合液に混合することが好ましい。前記混合液にコハク酸モノグリセライドを混合する場合、前記混合液中のコハク酸モノグリセライドの含有量は特に限定されず、前記混合液中の卵白固形分量100質量部に対し、5~50質量部であることが好ましく、7.5~45質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましく、15~30質量部であることがさらに好ましい。また、例えば本発明の製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体における、コハク酸モノグリセライドの含有量の範囲を満たすように、前記混合液におけるコハク酸モノグリセライドの混合量(配合量)を適宜設定することもできる。
【0018】
前記混合液の加熱処理は、卵白が熱凝固することなく熱変性する条件であればよく、例えば、加熱温度が70℃以上90℃以下であることが好ましく、75℃以上85℃以下であることがより好ましい。また、加熱時間は30分以上4時間以下であることが好ましく、30分以上2時間以下であることがより好ましい。
【0019】
前記熱変性卵白含有液は、温度が5~55℃の状態で、後述の小麦粉由来粉体と混合することが好ましい。また、すぐに使用しない場合には、温度5~15℃として保存することが好ましい。
【0020】
<小麦粉由来粉体>
「小麦粉由来粉体」とは、例えば小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉等)の他、小麦粉に由来する粉体が含まれるものとする。前記小麦粉に由来する粉体とは、例えば小麦澱粉が挙げられる。小麦粉由来粉体の種類は、本発明の製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体の使用用途に応じて適宜決定することができる。
【0021】
<熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体との混合>
熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体とを混合することにより、小麦粉由来粉体を熱変性卵白でコーティングすることができる。これにより、小麦粉由来粉体の表面が改質される。なお、本発明ないし本明細書において、前記「コーティング」とは、小麦粉由来粉体を被覆するように前記熱変性卵白が配されていてもよく、また小麦粉由来粉体表面の一部に前記熱変性卵白が結着(付着)していることも、前記「コーティング」に含まれるものとする。「結着」の形態は特に制限されず、物理・化学的吸着(疎水的相互作用、イオン性相互作用)、化学結合(水素結合、イオン結合、共有結合等)などを介した結着状態が挙げられる。
混合条件は特に限定されず、前記熱変性卵白含有液と前記小麦粉由来粉体とが均一に混ざり合うように混合できればよい。例えば、実施例に記載の条件で混合することができる。
【0022】
前記熱変性卵白含有液と前記小麦粉由来粉体の混合比は、質量基準で、30:70~70:30であることが好ましく、40:60~60:40であることがより好ましい。また、例えば本発明の製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体における、各成分の含有量の範囲が後述する範囲となるように、前記熱変性卵白含有液と前記小麦粉由来粉体との混合比を適宜設定することができる。
【0023】
熱変性卵白含有液と小麦粉由来粉体との混合により得られた混合物は、乾燥し、必要により粉砕することにより、ケーキ用改質小麦粉由来粉体を得ることができる。なお、当該乾燥は、前記熱変性卵白含有液と前記小麦粉由来粉体との混合後に行われても良く、混合と同時に行われてもよい。乾燥処理の条件は特に限定されず、自然乾燥、加熱乾燥(流動層による乾燥を含む)、凍結乾燥、噴霧乾燥等の乾燥方法を適用することができる。例えば、実施例に記載の条件で乾燥することができる。また乾燥物を粉砕処理に付す場合には、ブレンダーなどの粉砕機を用いて粉砕処理することができる。
ケーキ用改質小麦粉由来粉体の粒径(体積基準のメジアン径)は、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、該粒径は250μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0024】
[ケーキ用改質小麦粉由来粉体]
前記製造方法により得られるケーキ用改質小麦粉由来粉体(以下、「本発明の粉体」とも称す。)について説明する。
本発明の粉体は、その表面が熱変性卵白によりコーティングされた状態にある。
【0025】
本発明の粉体は、少なくとも小麦粉由来粉体、卵白固形分、及び塩基性化合物を含有し、少なくとも小麦粉由来粉体、卵白固形分、コハク酸モノグリセライド、及び塩基性化合物を含有することが好ましい。本発明の粉体中、卵白固形分の含有量が2.5~7.5質量%であり、コハク酸モノグリセライドを含む場合、本発明の粉体中のコハク酸モノグリセライドの含有量は0.5~2.0質量%であることが好ましい。各成分は、上記本発明の製造方法において説明した成分と同じである。
【0026】
本発明の粉体中、前記卵白固形分の含有量は、3.0~7.0質量%であることが好ましく、3.5~6.5質量%であることがより好ましく、4.0~6.0質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明の粉体中、前記コハク酸モノグリセライドの含有量は、0.6~1.7質量%であることが好ましく、0.7~1.4質量%であることがより好ましく、0.8~1.2質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明の粉体中、前記塩基性化合物の含有量は、0.05~0.20質量%であることが好ましく、0.06~0.18質量%であることがより好ましく、0.07~0.15質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明の粉体中、前記小麦粉由来粉体(好ましくは、小麦粉)の含有量は、85~96質量%であることが好ましく、87~95質量%であることがより好ましく、90~94質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の粉体は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、任意成分を含んでいてもよい。また、各種の添加剤を含有していてもよく、このような添加剤としては、例えば、液体担体、油性担体、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の粉体は、その表面が熱変性卵白によりコーティングされていることにより、吸水性が効果的に抑制されている。そのため、本発明の粉体に水分を含ませた際に粉体の澱粉糊化を抑制でき、またグルテンの形成を抑制することができる。その結果、例えば本発明の粉体を用いて、オールインミックス法により製造されたケーキは、目開きが良く、軽くバラケを感じる食感を有し、口どけも良好なものとすることができる。
本発明の粉体は、吸水速度法による吸水時間が20秒以上であり、25秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、40秒以上であることがさらに好ましく、50秒以上であることがさらに好ましく、60秒以上であることがさらに好ましい。当該吸水速度法による吸水時間は、以下の試験により決定される。
【0029】
(吸水性試験)
上記吸水速度法は、本発明の粉体により調製した試験片を用いること以外は、JIS L1907:2010に準拠して吸水性を決定するものである。
本発明の粉体を金型(φ13mm・深さ21mm)に充填し、圧力30MPa、圧縮率2.0倍で圧縮して、重さ0.65g、厚さ4mmの試験片とする。温度20℃、相対湿度60%の条件下において、試験片の上面に水を1滴(1.0μl)滴下する。水滴が試験片の表面に達したときから、その試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態になるまでの時間を1秒単位で測定する。当該測定時間を、「吸収速度法による吸水時間」とする。
【0030】
本発明の粉体は、ケーキの製造のための穀粉原料として用いられるものである。本発明の粉体は、ケーキの原料として、通常の穀物粉体(小麦粉等)に代えて広く用いることができる。本発明の粉体のケーキ製造における配合量は特に制限されず、目的に応じて適宜に調整される。
【0031】
上述した小麦粉由来粉体が小麦粉の場合において、本発明の粉体の好ましい形態を組成ないし特性により特定すると、次の通りである。
【0032】
小麦粉、卵白固形分、コハク酸モノグリセライド、及び塩基性化合物を含み、
卵白固形分の含有量が2.5~7.5質量%であり、コハク酸モノグリセライドの含有量が0.5~2.0質量%であり、
上記吸水速度法による吸水時間が20秒以上である、ケーキ用改質小麦粉。
【0033】
本発明ないし本明細書において「ケーキ」とは、膨らし粉(ベーキングパウダー)やメレンゲ、油脂、起泡性乳化剤等で構成される起泡剤などを含有させた生地を、撹拌、混捏して気泡を含ませ、次いで焼成して得られるものである。ケーキの具体例として、スポンジケーキ、バターケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スイスロール、ブッセ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、スナックケーキ、蒸しケーキ等が挙げられる。また、饅頭、ドーナッツ、ホットケーキ、どら焼き、今川焼き等の、本発明の効果を享受できる菓子類も、本発明におけるケーキに包含される。
本発明の粉体を用いたケーキ生地を焼成して得られるケーキ(以下、本発明のケーキとも称す。)は、本発明の粉体を穀粉原料としてケーキ生地に配合すること以外は、通常の方法で製造することができる。なお、本発明ないし本明細書において、ケーキの技術的特徴を構造、組成、特性により直接的に、適切に特定することが事実上困難である。そこで本発明では、従来技術による物との相違を明示して発明を明確化すべく、ケーキの発明において製造方法(プロセス)を特定するものである。
【0034】
前記ケーキ生地は、例えば、少なくとも本発明の粉体と、卵と、糖類と、乳化組成物とを混合して得ることができる。なお、本発明のケーキは、前記ケーキ生地の原料を全て混合して起泡させるオールインミックス法により製造することが好ましい。本発明のケーキに良好な食感と風味を付与する観点から、本発明のケーキは、少なくとも本発明の粉体と、該粉体100質量部に対して、卵50~300質量部と、糖類20~250質量部と、乳化剤3~100質量部とを混合して抱気させたケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成して製造されることが好ましい。より好ましくは、本発明の粉体100質量部に対して、卵を80~250質量部、糖類を50~180質量部、乳化組成物を5~50質量部の割合で混合し、抱気させたケーキ生地を焼成して製造される。
上記ケーキ生地は、さらに粉乳、ベーキングパウダー、砂糖、食用油、香料等の、ケーキ生地に配合される慣用添加物等を含むことができる。
【0035】
上記焼成の方法に特に制限はなく、通常には、ケーキ生地を所望の型(円筒、三角筒や四角筒等の角筒等)に入れ、オーブン等で焼き上げる(加熱する)工程である。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
-調製例1 改質小麦粉の調製-
卵白(商品名:凍結卵白(製菓用)、キューピー社製)200g、コハク酸モノグリセライド(商品名:ステップSS、花王社製)5g、炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム食品添加物用、富士フィルム和光純薬社製)0.75g、水294.25gをスリーワンモーター(商品名:FBL1200、新東科学社製、攪拌翼)により混合し、温度80℃で1時間加熱して熱変性卵白含有液を得た。得られた液を冷却し、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)500gに冷却後の液を投入して、卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ビーター:N-5B)にて2分間混合し、混合物を真空凍結乾燥機(商品名:ウルトラ50EL15、VirTis社製)により凍結乾燥して、その後製粉機(商品名:粉ひきさん、宝田工業社製)により粉砕し、実施例1の改質小麦粉とした。
なお、得られた改質小麦粉中の各成分の含有量(卵白については固形分量、以下も同様)は、下記表1に示す通りであった。
【0038】
-調製例2 ケーキの調製-
オールインミックス法により、スポンジケーキを製造した。卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ホイッパー:N-5D)に全卵(生鶏卵)を340g、低消泡性油脂(マリッシュスーパー、花王社製)を40g、日食ハイマルトースシラップMC-45(日本食品化工社製)を20g、水を60g、上白糖を220g、塩を2g、起泡性油脂(マリッシュゴールド、花王社製)を20g計量して添加し、低速にて30秒攪拌後、中速にて60秒撹拌した。次いで、上記改質小麦粉を200g、ベーキングパウダーを3g計量し、均一混合した後に添加し、低速にて30秒間撹拌後、中速で攪拌して起泡させることにより、比重が0.42g/cmのケーキ生地を調製した。
丸型スチール製(4号)のスポンジケーキ型に前記生地を130g量り取り、オーブンにて上火170℃、下火175℃で27分間焼成した。焼成したスポンジケーキを20℃で20分間放冷し、実施例1のスポンジケーキを得た。
【0039】
(実施例2~3)
改質小麦粉の成分組成が下記表1に記載の通りとなるように各成分の配合量を調整した以外は、上記実施例1の調製例1と同様にして改質小麦粉を得た。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0040】
(実施例4)
卵白(商品名:凍結卵白(製菓用)、キューピー社製)1200g、コハク酸モノグリセライド(商品名:ステップSS、花王社製)20g、炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム食品添加物用、富士フィルム和光純薬社製)3g、水777gをスリーワンモーター(商品名:FBL1200、新東科学社製、攪拌翼)により混合し、温度80℃で1時間加熱して熱変性卵白含有液を得た。得られた液を冷却し、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)2000gと共に、流動層乾燥装置(商品名:FL-5、フロイント産業社製)にて混合及び乾燥し、実施例4の改質小麦粉とした。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0041】
(実施例5~6)
改質小麦粉の成分組成が下記表1に記載の通りとなるように各成分の配合量を調整した以外は、上記実施例4と同様にして改質小麦粉を得た。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0042】
(実施例7~10)
加熱条件を下記表1に記載の通りとした以外は、上記実施例1と同様にして改質小麦粉を得た。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0043】
(比較例1)
卵白(商品名:凍結卵白(製菓用)、キューピー社製)200gと、水300gとを混合し、混合物(卵白希釈液)を温度80℃で1時間加熱し、得られた加熱物を冷却後、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)500gと混合し、混合物を凍結乾燥して粉砕し、比較例1の改質小麦粉とした。なお、得られた改質小麦粉中の各成分の含有量は、下記表1に示す通りであった。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0044】
(比較例2)
コハク酸モノグリセライド(商品名:ステップSS、花王社製)5g、炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム食品添加物用、富士フィルム和光純薬社製)0.75g、水494.25gをスリーワンモーター(商品名:FBL1200、新東科学社製)により混合し、温度80℃で1時間加熱し、加熱物を冷却後、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)500gと混合し、混合物を凍結乾燥して粉砕し、比較例2の改質小麦粉とした。なお、得られた改質小麦粉中の各成分の含有量は、下記表1に示す通りであった。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0045】
(比較例3)
卵白(商品名:凍結卵白(製菓用)、キューピー社製)200g、コハク酸モノグリセライド(商品名:ステップSS、花王社製)5g、炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム食品添加物用、富士フィルム和光純薬社製)0.75g、水294.25gを、スリーワンモーター(商品名:FBL1200、新東科学社製)により混合し温度80℃で1時間加熱して熱変性卵白含有液を得た。得られた液を冷却し、凍結乾燥して粉砕した熱変性卵白粉末の全量を、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)500gと混合して比較例3の改質小麦粉とした。なお、得られた改質小麦粉中の各成分の含有量は、下記表1に示す通りであった。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0046】
(比較例4)
改質小麦粉の成分組成が下記表1に記載の通りとなるように各成分の配合量を調整した以外は、上記比較例3と同様にして比較例4の改質小麦粉を得た。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0047】
(比較例5)
前記卵白と、コハク酸モノグリセライドと、炭酸ナトリウムと、水との混合液を加熱せずに20℃で小麦粉と混合して凍結乾燥に付した以外は、上記実施例1と同様にして比較例5の改質小麦粉を得た。
また、得られた改質小麦粉を用い、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0048】
(比較例6)
小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)500gと水500gを混合し実施例1と同様に凍結乾燥して粉砕し、比較例6の小麦粉とした。
また、改質小麦粉に代えて、比較例6の小麦粉を使用した以外は、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0049】
(比較例7)
小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)そのものを、比較例7の小麦粉とした。
また、改質小麦粉に代えて、比較例7の小麦粉を使用した以外は、上記実施例1の調製例2と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0050】
(参考例1)
小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)そのものを、参考例1の小麦粉とした。
後粉法により、スポンジケーキを製造した。卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ホイッパー:N-5D)に全卵(生鶏卵)を340g、低消泡性油脂(マリッシュスーパー、花王社製)を40g、日食ハイマルトースシラップMC-45(日本食品化工社製)を20g、水を60g、上白糖を220g、塩を2g、起泡性油脂(マリッシュゴールド、花王社製)を20g計量して添加し、低速にて30秒攪拌後、中速で攪拌して起泡させることにより、比重を0.36g/cmとした。次いで小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)を200g、ベーキングパウダーを3g計量し、均一混合した後に添加して、低速で30秒攪拌後、中速で10秒攪拌してスポンジケーキ用生地を調製した。最終的なケーキ生地の比重は0.42g/cmとした。
丸型スチール製(4号)のスポンジケーキ型に前記生地を130g量り取り、オーブンにて上火170℃、下火175℃で27分間焼成した。焼成したスポンジケーキを20℃で20分間冷却し、参考例1のスポンジケーキを得た。
【0051】
[試験例1] 吸水性試験
実施例5及び6、比較例3、4、6及び7の改質小麦粉又は小麦粉を、金型(φ13mm・深さ21mm)に充填し、圧力30MPa、圧縮率2.0倍で圧縮して、重さ0.65g、厚さ4mmの試験片を作製した。
得られた試験片を用い、温度20℃、相対湿度60%の条件下において、吸水速度法(JIS L1907:2010)に準拠して、各試験片の吸水性を試験した。具体的には、試験片の上面に水を1滴(1.0μl)滴下し、水滴が試験片の表面に達したときから、その試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態になるまでの時間をストップウォッチで1秒単位で測定した。得られた各測定時間を下記表1に併せて示す。
【0052】
[試験例2] 官能評価試験
得られた各スポンジケーキの内相と食感について、5名からなる専門パネルにより下記評価基準に基づき評価した。なお、参考例1のスポンジケーキの内相と食感の評価を「5」、比較例7のスポンジケーキの内相と食感の評価を「1」とし、評価1と5を均等に、段階的に分けて5段階評価とした。各パネリストの評価結果はすべて同じであった。結果を下記表1に併せて示す。
【0053】
<内相の評価基準>
5:粗い
4:やや粗い
3:普通
2:やや細かい
1:細かい
【0054】
<食感の評価基準>
5:咀嚼中にバラケ感をより感じやすく、非常に良好な口どけである。
4:咀嚼中にバラケ感を感じやすく、良好な口どけである。
3:咀嚼中にバラケ感を感じる。
2:咀嚼中にバラケ感を感じられず、やや飲み込みにくさが感じられる。
1:咀嚼中にダマになりやすく、飲み込みにくさが感じられる。
【0055】
[試験例3] 内相断面観察
実施例1、比較例7、参考例1の各スポンジケーキを中央で縦半分にカットし、その断面を走査型電子顕微鏡(商品名:JCM-6000、日本電子社製、倍率:20倍)により観察した。得られた画像データを、図1に示す。
図1に示す通り、比較例7のスポンジケーキの内相に比べて、実施例1及び参考例1のスポンジケーキの内相では、内相の目開きが良いことが示された。
【0056】
なお、下記表1及び2において、加熱対象が「(A)~(C)」とあるのは、(A)卵白と、(B)コハク酸モノグリセライドと、(C)炭酸ナトリウムとを含む卵白含有液を加熱したことを意味する。また、加熱対象が「(A)」とあるのは、(A)卵白を含み、(B)コハク酸モノグリセライドと(C)炭酸ナトリウムを含まない卵白含有液を加熱したことを意味する。また、加熱対象が「(B)、(C)」とあるのは、(A)卵白を含まず、(B)コハク酸モノグリセライドと(C)炭酸ナトリウムとを含む液を加熱したことを意味する。
【0057】
【表1-1】
【0058】
【表1-2】
【0059】
(改質小麦粉についての評価)
卵白含有液を処理に付した後、小麦粉と混合する前に凍結乾燥し、当該乾燥粉末と小麦粉とを混合して得られた改質小麦粉(比較例3及び4)は、吸水速度試験における吸水時間がいずれも10秒以下であった。また、小麦粉を凍結乾燥して得られた比較例6の小麦粉、及び小麦粉自体(比較例7)の吸水速度試験における吸水時間も、いずれも10秒以下であった。
これに対し、本発明の製造方法により得られた改質小麦粉(実施例5及び6)は、吸水速度試験における吸水時間がいずれも20秒以上であり、吸水性が抑えられた改質小麦粉であることが示された。
【0060】
(スポンジケーキについての評価)
卵白希釈液を加熱して小麦粉と混合して得られた改質小麦粉を用いて製造したスポンジケーキ(比較例1)は、内相がやや細かく、咀嚼中にバラケを感じられず、やや飲み込みにくさが感じられた。また、コハク酸モノグリセライド及び炭酸ナトリウムと水との混合液を加熱して小麦粉と混合して得られた改質小麦粉を用いて製造したスポンジケーキ(比較例2)は、内相が細かく、咀嚼中にダマになりやすく、飲み込みにくさが感じられた。また、卵白含有液を加熱処理に付した後、凍結乾燥し、当該乾燥粉末と小麦粉とを混合して得られた改質小麦粉を用いて製造したスポンジケーキ(比較例3及び4)は、内相が細かく、咀嚼中にダマになりやすく、飲み込みにくさが感じられた。また、卵白含有液を加熱せずに小麦粉と混合して得られた改質小麦粉を用いて製造したスポンジケーキ(比較例5)は、内相がやや細かく、咀嚼中にバラケを感じられず、やや飲み込みにくさが感じられた。さらに、改質させていない小麦粉を用いて製造したスポンジケーキ(比較例6及び7)は、いずれも内相が細かく、咀嚼中にダマになりやすく、飲み込みにくさが感じられた。
これに対し、本発明の改質小麦粉を用いて製造したスポンジケーキは、いずれも内相の評価が普通~粗いという評価であり、また咀嚼中にバラケが感じられほどよい口どけを感じるものから、バラケ感がより感じられ、良好な口どけや非常に良好な口どけを感じるものもあった。
【0061】
(実施例11)
-調製例3 改質小麦澱粉の調製-
卵白(商品名:凍結卵白(製菓用)、キューピー社製)200g、コハク酸モノグリセライド(商品名:ステップSS、花王社製)5g、炭酸ナトリウム(商品名:炭酸ナトリウム食品添加物用、富士フィルム和光純薬社製)0.75g、水294.25gを、スリーワンモーター(商品名:FBL1200、新東科学社製)により混合し、温度80℃で1時間加熱して熱変性卵白含有液を得た。得られた液を冷却し、小麦澱粉(商品名:宝船、長田産業社製)500gに冷却後の液を投入して、卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ビーター:N-5B)にて2分間混合し、混合物を真空凍結乾燥機(商品名:ウルトラ50EL15、VirTis社製)により凍結乾燥して、その後製粉機(商品名:粉ひきさん、宝田工業社製)により粉砕し、実施例11の改質小麦澱粉とした。
なお、得られた改質小麦澱粉中の各成分の含有量は、下記表2に示す通りであった。
【0062】
-調製例4 ケーキの調製-
オールインミックス法により、スポンジケーキを製造した。卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ホイッパー:N-5D)に全卵(生鶏卵)を400g、水を40g、上白糖を240g、起泡性油脂(マリッシュゴールド、花王社製)を24g計量して添加し、低速にて30秒攪拌後、中速にて60秒撹拌した。次いで、上記改質小麦澱粉を188g、加工澱粉(商品名:BINASOL90C、Tate & Lyle社製)を12g、ベーキングパウダーを4g計量し、均一混合した後に添加し、低速にて30秒間撹拌後、中速で攪拌して起泡させることにより、比重が0.54g/cmのケーキ生地を調製した。丸型スチール製(4号)のスポンジケーキ型に前記生地を130g量り取り、オーブンにて上火170℃、下火175℃で30分間焼成した。焼成したスポンジケーキを20℃で20分間放冷し、実施例11のスポンジケーキを得た。
【0063】
(比較例8)
小麦澱粉(商品名:宝船、長田産業社製)そのものを、比較例8の小麦澱粉として用いた。また、改質小麦澱粉に代えて、上記小麦澱粉を使用した以外は、上記実施例11と同様にしてスポンジケーキを得た。
【0064】
(参考例2)
後粉法により、スポンジケーキを製造した。卓上ミキサー(商品名:N-50、HOBART社製、ホイッパー:N―5D)に全卵(生鶏卵)を400g、水を40g、上白糖を240g、起泡性油脂(マリッシュゴールド、花王社製)を24g計量して添加し、低速にて30秒攪拌後、中速で攪拌して起泡させることにより、比重を0.48g/cmとした。次いで小麦澱粉(商品名:宝船、長田産業社製)を188g、加工澱粉(商品名:BINASOL90C、Tate & Lyle社製)を12g、ベーキングパウダーを4g計量し、均一混合した後に添加して、低速で30秒攪拌後、中速で10秒攪拌してスポンジケーキ用生地を調製した。最終的なケーキ生地の比重は0.54g/cmとした。
丸型スチール製(4号)のスポンジケーキ型に前記生地を130g量り取り、オーブンにて上火170℃、下火175℃で30分間焼成した。焼成したスポンジケーキを20℃で20分間冷却し、参考例2のスポンジケーキを得た。
【0065】
上記実施例11、比較例8、参考例2の各スポンジケーキについて、上記と同様にして内相及び食感を評価した。なお、参考例2のスポンジケーキの内相と食感の評価を「5」、比較例8のスポンジケーキの内相と食感の評価を「1」とし、評価1と5を均等に、段階的に分けて5段階評価とした。各パネリストの評価結果はすべて同じであった。結果を下記表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(スポンジケーキについての評価)
小麦澱粉を改質させることなく用いて製造したスポンジケーキ(比較例8)は、内相が細かく、咀嚼中にダマになりやすく、飲み込みにくさが感じられた。これに対し、本発明の改質小麦澱粉を用いて製造したスポンジケーキは、内相が粗く、また咀嚼中にバラケ感をより感じやすく、さらに非常に良好な口どけを感じるものであった。
図1