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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174528
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車載機器の温度調整装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/08 20060101AFI20241210BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20241210BHJP
   B60H 1/03 20060101ALI20241210BHJP
   B60H 1/06 20060101ALI20241210BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20241210BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20241210BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241210BHJP
   B60L 58/26 20190101ALI20241210BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241210BHJP
【FI】
B60H1/08 621B
B60H1/22 671
B60H1/03 Z
B60H1/06
B60H1/08 621C
B60W10/30 900
B60W20/00 ZHV
B60L3/00 N
B60L58/26
B60L50/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092398
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 竜大
【テーマコード(参考)】
3D202
3L211
5H125
【Fターム(参考)】
3D202BB43
3D202BB58
3D202CC61
3D202DD46
3D202EE00
3L211AA10
3L211BA34
3L211DA26
3L211DA28
3L211EA50
3L211EA76
3L211EA83
3L211FB05
3L211GA26
3L211GA43
3L211GA47
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125CD06
5H125CD08
5H125FF22
5H125FF23
5H125FF24
(57)【要約】
【課題】第1及び第2温調回路を循環する熱媒体を混合弁で混合して機器の温度調整に利用できる温度調整装置を提供する。
【解決手段】第1熱媒体を循環させて第1機器4を温度調整する第1温調回路2と、第2熱媒体を循環させて第2機器5を温度調整する第2温調回路3との間に、第1及び第2熱媒体を混合して混合熱媒体として各温調回路2,3に流出させる混合弁16を介装する。第2温調回路3へと流出する混合熱媒体の目標流出温度tgtToutを算出し、第1及び第2熱媒体の流入温度Tin1,Tin2及び混合熱媒体の流出温度Toutに基づき、混合熱媒体に含まれる第1熱媒体の割合を流量比Rとして算出し、流量比R及び混合弁16の開度θから開度補正係数Kを算出し、流入温度Tin1,Tin2及び目標流出温度tgtToutから目標流量比tgtRを算出し、開度補正係数K及び目標流量比tgtRから混合弁16の目標開度tgtθを算出して開度制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を第1熱媒体として循環させて第1車載機器の温度を調整する第1温調回路と、
前記熱媒体を第2熱媒体として循環させて第2車載機器の温度を調整する第2温調回路と、
前記第1温調回路から流入した前記第1熱媒体と前記第2温調回路から流入した前記第2熱媒体とを開度に応じた割合で混合し、混合熱媒体として前記第1温調回路と前記第2温調回路とにそれぞれ流出させる混合弁と、
前記混合弁の開度を検出する弁開度検出部と、
前記第1温調回路から前記混合弁に流入する前記第1熱媒体の温度を第1流入温度として検出する第1流入温度検出部と、
前記第2温調回路から前記混合弁に流入する前記第2熱媒体の温度を第2流入温度として検出する第2流入温度検出部と、
前記混合弁から前記第2温調回路に流出する前記混合熱媒体の温度を流出温度として検出する流出温度検出部と、
前記第2車載機器の温度調整を要する場合に、前記混合弁を開度制御して前記第1熱媒体と前記第2熱媒体とを混合させる混合制御部と、
を備え、
前記混合制御部は、
少なくとも前記第2車載機器の温度に基づき、前記流出温度の目標値を目標流出温度として算出する目標流出温度算出部と、
前記第1流入温度、前記第2流入温度及び前記流出温度に基づき、前記混合弁から前記第2温調回路に流出する前記混合熱媒体に含まれる前記第1熱媒体の割合を流量比として算出する流量比算出部と、
前記流量比及び前記混合弁の開度に基づき、前記流量比と前記開度との関係を規定する開度補正係数を算出する開度補正係数算出部と、
前記第1流入温度、前記第2流入温度及び前記目標流出温度に基づき、前記流量比の目標値を目標流量比として算出する目標流量比算出部と、
前記開度補正係数及び前記目標流量比に基づき、前記混合弁の目標開度を算出する目標開度算出部と、
前記目標開度に基づき前記混合弁を開度制御する弁駆動部と、
を有することを特徴とする車載機器の温度調整装置。
【請求項2】
前記目標流出温度算出部、前記流量比算出部、前記開度補正係数算出部、前記目標流量比算出部、前記目標開度算出部、及び前記弁駆動部は、所定の制御インターバルでそれぞれの処理を繰り返す
ことを特徴とする請求項1に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項3】
前記混合制御部は、
前記混合弁の開度制御に応じた前記第1熱媒体と前記第2熱媒体との混合状態が安定したか否かを判定する安定化判定部と、
前記流出温度と前記目標流出温度との偏差から求めた積分項と微分項との少なくとも何れか一方を含むフィードバック制御を実行するフィードバック制御部と、をさらに有し、
前記フィードバック制御部は、前記混合弁の開度制御を開始した後に前記安定化判定部により前記流出温度が安定した旨の判定が下されると、前記フィードバック制御を開始する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項4】
前記混合制御部は、前記流出温度が前記目標流出温度未満であり、且つ前記第1流入温度が前記目標流出温度以上である場合に、前記第2車載機器を暖機すべく前記混合弁を開度制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項5】
前記混合制御部は、前記流出温度が前記目標流出温度以上であり、且つ前記第1流入温度が前記目標流出温度未満である場合に、前記第2車載機器を冷却すべく前記混合弁を開度制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項6】
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか一方は、車両を走行させるためのパワートレインの温度を調整するパワートレイン冷却水回路であり、
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか他方は、走行用電池の温度を調整する電池冷却水回路である
ことを特徴とする請求項1に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項7】
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか一方は、車両の空調コアの温度を調整する空調コア冷却水回路であり、
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか他方は、走行用電池の温度を調整する電池冷却水回路である
ことを特徴とする請求項1に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項8】
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか一方は、車両の空調コアの温度を調整する空調コア冷却水回路であり、
前記第1温調回路と前記第2温調回路との何れか他方は、車両を走行させるためのパワートレインの温度を調整するパワートレイン冷却水回路である
ことを特徴とする請求項1に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項9】
前記パワートレインは、前記車両に走行用動力源として搭載されたエンジンである
ことを特徴とする請求項6または8に記載の車載機器の温度調整装置。
【請求項10】
前記パワートレインは、前記車両に走行用動力源として搭載された走行用モータ、前記走行用モータを駆動するためのインバータ及びDC-DCコンバータである
ことを特徴とする請求項6または8に記載の車載機器の温度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機器の温度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載機器の温度調整装置として、例えば特許文献1には、エンジン及びモータを走行用動力源としたハイブリッド車両が開示されており、エンジンの停止中において、モータを駆動する走行用電池の暖機のためにエンジン冷却水の熱を利用している。
【0003】
温度調整装置は、エンジンの冷却水回路と走行用電池の冷却水回路との間に切替弁を介装してなり、切替弁の切替に応じて互いの冷却水をやり取り可能としている。例えば電池温度が暖機開始温度よりも低くて暖機を要し、エンジン冷却水温度が下限温度以上且つ上限温度以下のときには、切替弁を開いて双方の冷却水回路を連通させている。これによりエンジン冷却水が走行用電池まで導かれ、その熱により走行用電池が暖機される。
【0004】
また、エンジン冷却水温度が上限温度よりも高いときには、エンジン冷却水回路に備えられたラジエータで放熱させることも可能ではあるが、エンジン冷却水の熱を無駄にしてしまう。そこで、この場合には、エンジン冷却水と電池冷却水とを所定の割合で混合するように切替弁を切替制御する。電池冷却水との混合により温度低下したエンジン冷却水が走行用電池に導かれ、その暖機に供される。このときには切替弁の開度のみならず、各冷却水回路で冷却水を循環させるポンプの回転速度等も制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6079417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、エンジン冷却水と電池冷却水とを混合する際の具体的な制御内容、即ち、切替弁の開度制御やポンプの回転制御等の内容が記載されていないため実施不能であった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、第1温調回路と第2温調回路とをそれぞれ循環する熱媒体を混合弁により適切に混合して車載機器の温度調整に有効利用することができる車載機器の温度調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車載機器の温度調整装置は、熱媒体を第1熱媒体として循環させて第1車載機器の温度を調整する第1温調回路と、熱媒体を第2熱媒体として循環させて第2車載機器の温度を調整する第2温調回路と、第1温調回路から流入した第1熱媒体と第2温調回路から流入した第2熱媒体とを開度に応じた割合で混合し、混合熱媒体として第1温調回路と第2温調回路とにそれぞれ流出させる混合弁と、混合弁の開度を検出する弁開度検出部と、第1温調回路から混合弁に流入する第1熱媒体の温度を第1流入温度として検出する第1流入温度検出部と、第2温調回路から混合弁に流入する第2熱媒体の温度を第2流入温度として検出する第2流入温度検出部と、混合弁から第2温調回路に流出する混合熱媒体の温度を流出温度として検出する流出温度検出部と、第2車載機器の温度調整を要する場合に、混合弁を開度制御して第1熱媒体と第2熱媒体とを混合させる混合制御部と、を備え、混合制御部が、少なくとも第2車載機器の温度に基づき、流出温度の目標値を目標流出温度として算出する目標流出温度算出部と、第1流入温度、第2流入温度及び流出温度に基づき、混合弁から第2温調回路に流出する混合熱媒体に含まれる第1熱媒体の割合を流量比として算出する流量比算出部と、流量比及び混合弁の開度に基づき、流量比と開度との関係を規定する開度補正係数を算出する開度補正係数算出部と、第1流入温度、第2流入温度及び目標流出温度に基づき、流量比の目標値を目標流量比として算出する目標流量比算出部と、開度補正係数及び目標流量比に基づき、混合弁の目標開度を算出する目標開度算出部と、目標開度に基づき混合弁を開度制御する弁駆動部と、を有することを特徴とする。
【0009】
その他の態様として、目標流出温度算出部、流量比算出部、開度補正係数算出部、目標流量比算出部、目標開度算出部、及び弁駆動部が、所定の制御インターバルでそれぞれの処理を繰り返すようにしてもよい。
【0010】
その他の態様として、混合制御部が、混合弁の開度制御に応じた第1熱媒体と第2熱媒体との混合状態が安定したか否かを判定する安定化判定部と、流出温度と目標流出温度との偏差から求めた積分項と微分項との少なくとも何れか一方を含むフィードバック制御を実行するフィードバック制御部と、をさらに有し、フィードバック制御部が、混合弁の開度制御を開始した後に安定化判定部により流出温度が安定した旨の判定が下されると、フィードバック制御を開始するようにしてもよい。
【0011】
その他の態様として、混合制御部が、流出温度が目標流出温度未満であり、且つ第1流入温度が目標流出温度以上である場合に、第2車載機器を暖機すべく混合弁を開度制御するようにしてもよい。
【0012】
その他の態様として、混合制御部が、流出温度が目標流出温度以上であり、且つ第1流入温度が目標流出温度未満である場合に、第2車載機器を冷却すべく混合弁を開度制御するようにしてもよい。
【0013】
その他の態様として、第1温調回路と第2温調回路との何れか一方が、車両を走行させるためのパワートレインの温度を調整するパワートレイン冷却水回路であり、第1温調回路と第2温調回路との何れか他方が、走行用電池の温度を調整する電池冷却水回路であってもよい。
【0014】
その他の態様として、第1温調回路と第2温調回路との何れか一方が、車両の空調コアの温度を調整する空調コア冷却水回路であり、第1温調回路と第2温調回路との何れか他方が、走行用電池の温度を調整する電池冷却水回路であってもよい。
その他の態様として、第1温調回路と第2温調回路との何れか一方が、車両の空調コアの温度を調整する空調コア冷却水回路であり、第1温調回路と第2温調回路との何れか他方が、車両を走行させるためのパワートレインの温度を調整するパワートレイン冷却水回路であってもよい。
【0015】
その他の態様として、パワートレインが、車両に走行用動力源として搭載されたエンジンであってもよい。
【0016】
その他の態様として、パワートレインが、車両に走行用動力源として搭載された走行用モータ、走行用モータを駆動するためのインバータ及びDC-DCコンバータであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車載機器の温度調整装置によれば、第1温調回路と第2温調回路とをそれぞれ循環する熱媒体を混合弁により適切に混合して車載機器の温度調整に有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の温度調整装置を示す回路図である。
図2】コントローラのエンジン温度制御部が実行するバイパス弁切換ルーチンを示すフローチャートである。
図3】コントローラの機能的な構成を示すブロック図である。
図4】コントローラの混合制御部が実行する混合弁開度制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5】コントローラの混合制御部が実行する流量比制御ルーチンを示すフローチャートである。
図6】流量比制御を単独で実行したときの流出温度の制御状況を示す試験結果である。
図7】流量比制御と並行してPID制御を実行したときの流出温度の制御状況を示す試験結果である。
図8】エンジン側流入温度及び電池側流入温度に関する試験条件を示すタイムチャートである。
図9】冷却水ポンプの回転速度に関する試験条件を示すタイムチャートである。
図10】一般的なPID制御による流出温度の制御状況を示す試験結果である。
図11】第2実施形態の温度調整装置を示す回路図である。
図12】第3実施形態の温度調整装置を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明をハイブリッド車両に搭載された車載機器の温度調整装置に具体化した第1実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の温度調整装置を示す回路図である。
図示しないハイブリッド車両(以下、単に車両と称する場合もある)は、走行用動力源としてエンジン及びモータを搭載している。ハイブリッド車両の基本的な構成は周知のため詳細は説明しないが、運転者のアクセル操作や車両の走行状態等に応じて走行用動力源を適宜切り換えながら走行する。エンジンは運転に伴って発熱すると共に、良好な排ガス性能及び燃費性能が得られる温度領域に保つ必要がある。また、モータを駆動する走行用電池も充放電に伴って発熱すると共に、良好な充放電性能が得られる温度領域に保つ必要がある。このため車両には図1に示す温度調整装置1が搭載され、そのエンジン冷却水回路2によりエンジン4が温度調整され、電池冷却水回路3により走行用電池5が温度調整される。
【0020】
以下に詳述すると、エンジン冷却水回路2の環状をなす流路6には、エンジン4、冷却水ポンプ7及びラジエータ8が介装され、冷却水ポンプ7から吐出された冷却水がエンジン冷却水として流路6を循環する。流路6にはラジエータ8を迂回するようにバイパス路9が形成され、バイパス路9の一端にはバイパス弁10が介装されている。バイパス弁10の切換に応じて冷却水はラジエータ8を流通または迂回し、流通時にはラジエータ8により冷却水が放熱される。このようなバイパス弁10の切換によりエンジン冷却水、ひいてはエンジン4が適切な温度領域に保たれる。
【0021】
また、電池冷却水回路3の環状をなす流路11には、走行用電池5に内蔵された電池用熱交換器12、冷却水ポンプ13及びPTCヒータ14が介装され、冷却水ポンプ13から吐出された冷却水が電池冷却水として流路11を循環する。PTCヒータ14の作動時には電池冷却水が適宜昇温され、このような電池冷却水が電池用熱交換器12を介して走行用電池5との間で熱交換されることにより、走行用電池5が適切な温度領域に保たれる。
【0022】
本実施形態においてエンジン冷却水回路2は、本発明の「第1温調回路」及び「パワートレイン冷却水回路」に相当し、電池冷却水回路3は、本発明の「第2温調回路」に相当し、エンジン4は、本発明の「第1車載機器」及び「パワートレイン」に相当し、走行用電池5は、本発明の「第2車載機器」に相当する。また、冷却水は、本発明の「熱媒体」に相当し、エンジン冷却水は、本発明の「第1熱媒体」に相当し、電池冷却水は、本発明の「第2熱媒体」に相当する。
【0023】
エンジン冷却水回路2と電池冷却水回路3とは混合弁16を介して接続され、これにより温度調整装置1が構成されている。エンジン冷却水回路2を循環するエンジン冷却水、及び電池冷却水回路3を循環する電池冷却水はそれぞれ混合弁16に流入し、その後に混合弁16からエンジン冷却水回路2及び電池冷却水回路3へと流出する。混合弁16の全閉時には、エンジン冷却水及び電池冷却水が混合することなく元の冷却水回路2,3へと流出し、混合弁16の全開時には、エンジン冷却水及び電池冷却水が混合することなく相手側の冷却水回路2,3へと流出する。そして、混合弁16が全閉と全開との間にある場合には、その開度に応じた割合でエンジン冷却水及び電池冷却水が混合した後、混合冷却水として各冷却水回路2,3へと流出する。但し、混合弁16の構成は上記に限るものではなく、開度に応じて冷却水を混合する機能を有するものであればよい。
【0024】
車両にはコントローラ17が搭載され、このコントローラ17はエンジン温度制御部18及び電池温度制御部19を備えている。エンジン温度制御部18は、バイパス弁10及び冷却水ポンプ7を制御してエンジン4を温度調整する機能を奏し、電池温度制御部19は、PTCヒータ14及び冷却水ポンプ13を制御して走行用電池5を温度調整する機能を奏する。何れの制御部18,19も周知の構成のため、詳細は説明しないが、エンジン温度制御部18によるバイパス弁10の制御の一例を説明する。
【0025】
エンジン温度制御部18は、図2に示すバイパス弁切換ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。なお、ルーチンの開始当初には、バイパス弁10がバイパス路側に切り換えられているものとする。まず、エンジン温度制御部18はステップS1で、車両のイグニションスイッチがON操作されているか否を判定し、No(否定)の判定を下したときにはルーチンを終了する。ステップS1の判定がYes(肯定)になるとステップS2に移行し、エンジン冷却水温が予め設定された上限温度以上であるか否かを判定する。なお、エンジン冷却水温としては、後述するエンジン側流入温度Tin1を適用してもよい。判定がNoのときにはステップS1に戻り、ステップS1,2の処理を繰り返す。従って、バイパス弁10がバイパス路9側に保持されることにより、エンジン冷却水はラジエータ8で冷却されることなくエンジン冷却水回路2を循環する。
【0026】
エンジン4からの受熱によりエンジン冷却水温が次第に上昇し、エンジン温度制御部18はステップS2の判定がYesになると、ステップS3に移行してバイパス弁10をラジエータ8側に開度制御する。このときのバイパス弁10は、例えば、エンジン冷却水温と上限温度との偏差が大であるほど、バイパス弁10のラジエータ8側の開口面積を増加させるように制御される。そして、ラジエータ8による放熱でエンジン冷却水温が次第に低下すると、それに応じてステップS3の処理によりバイパス弁10のラジエータ8側の開口面積が次第に減少し、ステップS2の判定がYesからNoに転じた時点では、バイパス弁10が当初のバイパス路9側への切換状態に戻される。このルーチンが繰り返されることで、エンジン4が適切な温度領域に保たれる。
【0027】
以上の制御に加えて、本実施形態のコントローラ17は混合弁16の開度を制御することにより、エンジン冷却水が有する熱を走行用電池5の暖機に利用している。以下、当該制御を混合弁16の開度制御と称し、当該制御はコントローラ17に備えられた混合制御部20により実行される。
【0028】
図3は、コントローラ17の機能的な構成を示すブロック図である。
図1,3に示すように、コントローラ17の入力側には、混合弁16の開度θを検出する弁開度センサ21、エンジン冷却水回路2から混合弁16に流入するエンジン冷却水の温度をエンジン側流入温度Tin1として検出するエンジン側流入温度センサ22、電池冷却水回路3から混合弁16に流入する電池冷却水の温度を電池側流入温度Tin2として検出する電池側流入温度センサ23、混合弁16から電池冷却水回路3へと流出する混合冷却水の温度を流出温度Toutとして検出する流出温度センサ24、外気温度Taを検出する外気温度センサ25、走行用電池5の温度Tbを検出する電池温度センサ26等の各種センサ類が接続されている。
【0029】
本実施形態において弁開度センサ21は、本発明の「弁開度検出部」に相当し、エンジン側流入温度Tin1を検出するエンジン側流入温度センサ22は、本発明の「第1流入温度を検出する第1流入温度検出部」に相当し、電池側流入温度Tin2を検出する電池側流入温度センサ23は、本発明の「第2流入温度を検出する第2流入温度検出部」に相当する。また、電池冷却水回路3へと流出する混合冷却水の流出温度Toutを検出する流出温度センサ24は、本発明の「混合熱媒体の流出温度を検出する流出温度検出部」に相当する。
【0030】
また、コントローラ17の出力側には、混合弁16、エンジン冷却水回路2の冷却水ポンプ7及びバイパス弁10、電池冷却水回路3の冷却水ポンプ13及びPTCヒータ14等の各種デバイス類が接続されている。上記したように冷却水ポンプ7及びバイパス弁10はエンジン温度制御部18により制御され、冷却水ポンプ13及びPTCヒータ14は電池温度制御部19により制御される。
【0031】
また、コントローラ17の混合制御部20は、目標流出温度算出部20a、流量比算出部20b、開度補正係数算出部20c、目標流量比算出部20d、基本目標開度算出部20e、安定化判定部20f、PID制御部20g、目標開度算出部20i、及び弁駆動部20jを有する。PID制御部20gは、本発明のフィードバック制御部に相当する。
【0032】
目標流出温度算出部20aは、外気温度センサ25により検出された外気温度Ta、及び電池温度センサ26により検出された電池温度Tbに基づき、走行用電池5を適切な温度領域に保持可能な流出温度Toutの目標値として目標流出温度tgtToutを算出する。この算出処理は、例えば、外気温度Ta及び電池温度Tbと目標流出温度tgtToutとの関係を規定した制御マップに基づき行われる。なお、必ずしも外気温度Ta及び電池温度Tbに基づく必要はなく、例えば、電池温度Tbに基づき目標流出温度tgtToutを算出してもよい。
流量比算出部20bは、エンジン側流入温度センサ22により検出されたエンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度センサ23により検出された電池側流入温度Tin2、及び流出温度センサ24により検出された流出温度Toutに基づき、次式(1)により、混合弁16から電池冷却水回路3へと流出する混合冷却水に含まれるエンジン冷却水の割合として流量比Rを算出する。
【数1】
【0033】
開度補正係数算出部20cは、流量比算出部20bにより算出された流量比R、及び弁開度センサ21により検出された混合弁16の開度θに基づき、次式(2)により、流量比Rと混合弁16の開度θとの関係を規定する開度補正係数Kを算出する。
【数2】
【0034】
目標流量比算出部20dは、エンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度Tin2、及び目標流出温度算出部20aにより算出された目標流出温度tgtToutに基づき、次式(3)により、目標流出温度tgtToutを達成するための流量比Rの目標値として目標流量比tgtRを算出する。
【数3】
【0035】
基本目標開度算出部20eは、開度補正係数算出部20cにより算出された開度補正係数K、及び目標流量比tgtRに基づき、次式(4)により、目標流出温度tgtToutを達成するための混合弁16の開度θの目標値として基本目標開度tgtθbaseを算出する。
tgtθbase=K×tgtR ……(4)
【0036】
安定化判定部20fは、混合弁16の開度θに応じたエンジン冷却水と電池冷却水との混合状態が安定したか否かを判定する。詳しくは、安定化判定部20fは、エンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度Tin2及び流出温度Toutがそれぞれ所定時間に亘って所定の変動幅内に収まったときに、混合状態が安定化した旨の判定を下す。なお、必ずしも各温度Tin1,Tin2,Toutに基づく必要はなく、例えば、流出温度Toutの変動状態が所定時間に亘って所定の変動幅内に収まったときに、混合状態が安定化した旨の判定を下してもよい。
【0037】
PID制御部20gは、安定化判定部20fにより各温度Tin1,Tin2,Toutが安定した旨の判定が下されると、流出温度Toutと目標流出温度tgtToutとの偏差として基本水温偏差を算出する。そして、基本水温偏差から求めた比例項P、積分項I及び微分項Dに基づき開度補正量Δθを算出する。
【0038】
目標開度算出部20iは、基本目標開度算出部20eにより算出された基本目標開度tgtθbaseに対し、PID制御部20gにより算出された開度補正量Δθを加算して目標開度tgtθを算出する。安定化判定部20fにより混合状態が安定した旨の判定が下されない場合には、PID制御部20gは水温偏差ΔTを算出せず、目標開度算出部20iは基本目標開度tgtθbaseを目標開度tgtθとする。従って、この場合には、水温偏差ΔTに基づくPID制御が中止される。
【0039】
弁駆動部20jは、目標開度tgtθと混合弁16の開度θとの偏差に基づき、開度θが目標開度tgtθとなるように混合弁16を駆動制御する。
なお、混合弁16の開度制御の他に、混合制御部20は、例えば特許文献1の技術と同じく混合弁16を全開に保持することで、エンジン冷却水を電池冷却水回路3へと流出させて走行用電池5を昇温する制御等も実行するが、本発明の要旨とは直接関係がないため、詳細な説明は省略する。
【0040】
以上のように構成されたコントローラ17の混合制御部20は、図4に示す混合弁開度制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。当該ルーチンは、エンジン4の運転及び停止に関わらず実行され、エンジン運転中の場合にはエンジン温度制御部18による制御と並行して実行される。また、当該ルーチンは、電池温度制御部19による制御と並行して実行される場合もある。なお、説明の便宜上、当該ルーチンを開始した当初の混合弁16は全閉状態に保たれているものとする。
【0041】
まず、混合制御部20はステップS11で、車両のイグニションスイッチがON操作されているか否を判定し、Noの判定を下したときにはルーチンを終了する。ステップS11の判定がYesになるとステップS12に移行し、流出温度Toutが目標流出温度tgtTout未満であるか否かを判定し、Noの判定を下したときには、走行用電池5の暖機が不要と見なしてステップS11に戻る。ステップS12の判定がYesになると、走行用電池5の暖機を要するとしてステップS13に移行し、エンジン側流入温度Tin1が目標流出温度tgtTout以上であるか否か、換言すると、走行用電池5を暖機可能な熱をエンジン冷却水が有しているか否かを判定する。判定がNoのときにはステップS14で流量比制御をOFFし、続くステップS15でPID制御をOFFしてステップS11に戻る。
【0042】
流量比制御は、主として目標流出温度算出部20a、流量比算出部20b、開度補正係数算出部20c、目標流量比算出部20d、基本目標開度算出部20e及び弁駆動部20jにより実行され、算出した基本目標開度tgtθbaseに基づき混合弁16を開度制御する処理であり、その詳細は後述する。また、PID制御は、主としてPID制御部20gにより実行され、水温偏差ΔTに基づくPID制御の処理である。従って、ステップS13の判定がNoの場合には、流量比制御及びPID制御が共に実行されず、混合弁16が全閉状態に保たれることにより、エンジン冷却水回路2及び電池冷却水回路3ではそれぞれ個別に冷却水が循環している。
【0043】
ステップS13の判定がYesになると、ステップS16に移行してPID制御がOFFになっているか否かを判定する。ルーチンの開始当初はステップS15でPID制御がOFFにされていることから、Yesの判定を下してステップS17に移行する。ステップS17では流量比制御がOFFになっているか否かを判定し、ステップS14で流量比制御がOFFにされていることから、Yesの判定を下してステップS18に移行して流量比制御をONにし、その後にステップS11に戻る。
【0044】
再びステップS17に移行すると、流量比制御がONされていることからNoの判定を下し、ステップS19でエンジン冷却水と電池冷却水との混合状態が安定したか否かを判定する。このステップS19の処理は、図3中の安定化判定部20fにより実行される。流量比制御が開始されると、混合弁16の開度θに応じてエンジン冷却水と電池冷却水との混合が開始され、開始当初は変動していた混合状態、換言すると流量比Rが次第に安定する。従って、流量比制御の開始当初で混合状態が安定する以前には、ステップS19でのNoの判定に基づき、ステップS11~13,16,17,19の処理を繰り返す。既に流量比制御はステップS18でONされているため、このときには流量比制御だけが継続して実行される。
【0045】
そして、エンジン冷却水と電池冷却水との混合状態が安定した時点で、ステップS19の判定がYesに転じてステップS20に移行する。ステップS20ではPID制御をONし、その後にステップS11に戻る。再びステップS16に移行すると、PID制御がONされていることからNoの判定を下し、ステップS11-13,16の処理を繰り返す。従って、混合状態が安定した以降は、流量比制御と並行してPID制御が継続して実行される。
【0046】
一方、ステップS18で流量比制御がONされている期間中には、混合制御部20は、図5に示す流量比制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、混合制御部20はステップS21で、図示しない制御マップにより、外気温度Ta及び電池温度Tbに基づき目標流出温度tgtToutを算出する。次いでステップS22で、エンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度Tin2及び流出温度Toutに基づき、上式(1)により流量比Rを算出する。さらにステップS23で、流量比R及び混合弁16の開度θに基づき、上式(2)により開度補正係数Kを算出する。ステップS24では、エンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度Tin2及び目標流出温度tgtToutに基づき、上式(3)により、目標流量比tgtRを算出する。ステップS25では、開度補正係数K及び目標流量比tgtRに基づき、上式(4)により、基本目標開度tgtθbaseを算出し、続くステップS26では、目標開度tgtθに基づき混合弁16を開度制御する。
【0047】
ステップS21の処理は、図3中の目標流出温度算出部20aにより実行され、ステップS22の処理は、図3中の流量比算出部20bにより実行され、ステップS23の処理は、図3中の開度補正係数算出部20cにより実行される。また、ステップS24の処理は、図3中の目標流量比算出部20dにより実行され、ステップS25の処理は、図3中の基本目標開度算出部20eにより実行され、ステップS26の処理は、図3中の弁駆動部20jにより実行される。
【0048】
エンジン冷却水と電池冷却水との混合状態が安定する以前には、PID制御がOFFされているため、ステップS25で算出された基本目標開度tgtθbaseが目標開度tgtθとされて、ステップS26の混合弁16の開度制御に適用される。混合状態が安定する以前にPID制御を開始すると、相互の制御の干渉により肝心の流量比制御が適切に実行されない可能性が生じる。このような事態を防止すべく、混合状態が安定するまでPID制御を待機させているのである。混合状態が安定した以降は、流量比制御と並行してPID制御が実行され、ステップS26では、基本目標開度tgtθbaseに対してPID制御に基づく開度補正量Δθを加算した目標開度tgtθが混合弁16の開度制御に適用される。
【0049】
そして、以上の制御により混合弁16の開度θが目標開度tgtθに調整され、電池冷却水回路3を循環する電池冷却水はエンジン冷却水と混合されて目標流出温度tgtToutに調整される。
【0050】
次いで、本実施形態の温度調整装置1による作用効果を説明する。
図6は、流量比制御を単独で実行したときの流出温度Toutの制御状況を示し、図7は、流量比制御と並行してPID制御を実行したときの流出温度Toutの制御状況を示している。試験条件としては、図8に示すように、エンジン側流入温度Tin1及び電池側流入温度Tin2をランダムに変動させた。また、図9に示すように、エンジン側及び電池側の冷却水ポンプ7,13の回転速度を互いに逆方向に周期的に変動させ、これによりエンジン冷却水及び電池冷却水の流量をそれぞれ変動させた。このような試験条件の下で、目標流出温度tgtToutを50℃に設定した上で、実際の流出温度Toutを計測した。
【0051】
図6及び図7では、流出温度Toutが50±2℃程度の範囲内にほぼ保持されており、高い精度で流出温度Toutを制御できることが分かる。また、図6では、流出温度Toutにハンチングが発生しているが、図7では抑制されていることが分かり、この試験結果は、主としてD制御による効果と見なせる。しかし、冷却水回路を含めた温度調整装置1の仕様によっては、流出温度Toutに定常偏差が発生することもあり、その場合にはI制御が定常偏差の抑制に効果的に機能する。このように温度調整装置1の仕様によっては、PID制御に代えてPD制御やPI制御を実行した場合でも十分な効果が得られるため、本発明の「フィードバック制御」はPID制御に限るものではなく、PD制御またはPI制御であってもよい。
【0052】
また、図10は、流量比制御を実行することなく、目標流出温度tgtToutと流出温度Toutとの偏差ΔTに基づき混合弁16の開度θをフィードバックする一般的なPID制御による流出温度Toutの制御状況を示しており、図6,7と同じく図8,9を試験条件としている。この場合には流出温度Toutに顕著なハンチングが生じており、流量変動に対するロバスト性が悪いことが分かる。そして、図10に示されたハンチングは、流量比制御のみを実行した図6のハンチングと比較しても顕著であることから、流量比制御を単独で実行した場合でも、一般的なPID制御に比較すれば良好な制御を実現できることが分かる。従って、PID制御を並行して実行することなく流量比制御のみを単独で実行してもよく、このような態様も本発明に含むものとする。
【0053】
流量比制御と並行してエンジン温度制御部18及び電池温度制御部19の制御が実行されると、エンジン冷却水と電池冷却水との温度が絶えず変動すると共に、それぞれの流量が冷却水ポンプ7,13の回転速度と共に絶えず変動する。図6,7の試験結果は、このような状況でも適切に流出温度Toutを制御できることの証左と見なせる。
【0054】
そして、特許文献1では、エンジン冷却水と電池冷却水とを混合する際の切替弁の開度制御やポンプの回転制御等の内容が不明であった。これに対して本実施形態では、以上の説明により混合弁16の開度制御の内容が明らかであると共に、例えば冷却水ポンプ7,13の回転制御をどのような内容とした場合でも、混合弁16の開度制御により適切に流出温度Toutを制御できることが分かる。結果として本実施形態の流量比制御によれば、エンジン冷却水と電池冷却水とを混合弁16で適切に混合して走行用電池5の暖機に有効利用することができる。
【0055】
一方、本実施形態の流量比制御の特徴を端的に表現すると、エンジン側流入温度Tin1、電池側流入温度Tin2及び流出温度Toutを検出して流量比Rを算出し、この流量比Rと混合弁16の開度θとに基づき開度補正係数Kを算出し、開度補正係数Kを指標として混合弁16を開度制御することにある。
【0056】
例えば、混合弁16を開度制御するための手法として、混合弁16に流入するエンジン冷却水、混合弁16に流入する電池冷却水、及び混合弁16から電池冷却水回路3へと流出する混合冷却水の各流量を検出し、これらの流量と混合弁16の開度θとの関係を指標として混合弁16を開度制御することが考えられる。しかしながら、温度センサ22~24に比較して流量センサは、重量が重い上にスペースを要することから車両への搭載性が悪く、しかも製造コストが高いため温度調整装置1のコストアップの要因になる。本実施形態によれば、流量センサに比較して軽量且つ小型の温度センサ22~24で検出した各温度Tin1,Tin2,Toutに基づき混合弁16を開度制御できることから、流量センサを用いた場合に比較して、車両への搭載性を向上できると共に、製造コストを低減することができる。
【0057】
また、例えばエンジン温度制御部18及び電池温度制御部19の制御に利用すべく、既に温度センサ22~24が車両に備えられていることもある。その場合には、既存の温度センサ22~24からの検出情報を利用することで、さらなるコスト低減を達成することができる。
【0058】
また、上記のように図10で例示した一般的なPID制御では、流量変動に対するロバスト性が悪いばかりでなく、エンジン冷却水や電池冷却水の流量変動等に応じてPID制御のゲインを切り換える必要がある。このため、多数のゲインを設定するための事前のキャリブレーションに膨大な手間を要するという問題がある。
【0059】
この問題点は、例えば、予め設定した制御マップに基づき混合弁16の目標開度tgtθを算出する手法でも同様に発生する。このような制御を成立させるには、例えば、エンジン冷却水、電池冷却水及び混合冷却水の各流量等の種々の要因を考慮した多数の制御マップを要するため、一般的なPID制御の場合と同じく事前のキャリブレーションに膨大な手間を要してしまう。
【0060】
これに対して本実施形態の流量比制御では、温度調整装置1を構成する冷却水回路2,3や混合弁16等の仕様を反映した値として各冷却水の温度Tin1,Tin2,Toutや開度θが検出され、それらの値から算出した開度補正係数Kに基づき混合弁16を開度制御している。従って、PID制御のゲインや制御マップを設定する必要がないことから事前のキャリブレーションも不要となり、さらに、温度調整装置1の仕様を変更した場合でも、ゲインや制御マップの再設定のためのキャリブレーションを必要としない。また、同一仕様の温度調整装置1の場合でも各部の製造誤差等による個体差が存在するが、開度補正係数Kには個体差も反映されるため、個体差に影響されずに混合弁16をより適切に開度制御できるという効果も得られる。
【0061】
一方、本実施形態の流量比制御はコントローラ17の制御インターバル毎に繰り返されるため、高い制御応答性を実現できる。上記のように流量比制御と並行してエンジン温度制御部18及び電池温度制御部19の制御が実行されると、これらの制御が実行されていない場合に比較して、エンジン冷却水と電池冷却水との温度及び流量の変動が著しくなる。しかし、図6,7の試験結果に基づき既述したように、このような状況でも各冷却水の温度や流量の変動に追従して適切に流出温度Toutを制御できる。制御インターバル毎の流量比制御により、各冷却水の温度や流量の変動に応じた流量比R、ひいては開度補正係数Kがリアルタイムで逐次算出されて、遅滞なく混合弁16の開度制御に反映されるためである。
【0062】
結果として、エンジン温度制御部18及び電池温度制御部19による制御の中止時のみならず、それぞれの制御の実行に伴って各冷却水の温度及び流量が変動している場合でも的確に流量比制御を実行することができる。この点は、エンジン冷却水が有する熱を走行用電池5の暖機に有効利用できる機会が増加することを意味する。これにより、例えばエンジン冷却水の熱の利用分だけPTCヒータ14の作動時間を短縮でき、電力源である車載バッテリの電力消費を節減することができる。
【0063】
但し、本発明は上記に限るものではなく、例えば、流量比制御を所定の時間をおいて定期的に実行してもよい。或いは、走行用電池5の暖機が要求される場合に、まず流量比制御を1回実行し、その後は流出温度Toutと目標流出温度tgtToutとの偏差が増加した場合に、必要に応じて流量比制御を実行するようしてもよい。これらの態様も本発明に含まれるものとする。
【0064】
また、制御インターバル毎の流量比制御により、直前の各冷却水の温度及び流量に基づき混合弁16の開度が逐次制御される。このため、混合弁16は必ずしも線形の開度特性を有する必要はなく、非線形の開度特性の混合弁16であっても良好な流出温度Toutの制御を達成でき、多くの形式の混合弁16を使用可能になるという効果も得られる。
【0065】
ところで、本実施形態では、本発明の「パワートレイン」をエンジン4とし、本発明の「パワートレイン冷却水回路」をエンジン冷却水回路2としたが、これに限るものではない。例えば本発明を、走行用動力源としてモータを搭載した電気自動車に適用した場合には、走行用モータ、インバータ及びDC-DCコンバータ等のような作動に伴って発熱する車載機器を本発明の「パワートレイン」とし、これらの車載機器を温度調整する冷却水回路として「パワートレイン冷却水回路」を構成してもよい。重複する説明はしないが、その場合でも本実施形態と同様に、パワートレイン冷却水が有する熱を走行用電池5の暖機に有効利用することができる。
【0066】
また、本実施形態では、エンジン冷却水が有する熱を利用して走行用電池5を暖機したが、これとは逆に、電池冷却水が有する熱を利用してエンジン4を暖機してもよい。この別例1の場合には、制御対象となる冷却水がエンジン冷却水になるため、流出温度センサ24をエンジン冷却水回路2側に移設して、混合弁16からエンジン冷却水回路2へと流出する混合冷却水の温度を流出温度Toutとして検出する。また、図5のステップS21では、エンジン温度等に基づき、エンジン4を適切な温度領域に保持可能な流出温度Toutの目標値として目標流出温度tgtToutを算出する。また、図4,5のフローチャートでは、エンジン側流入温度Tin1と電池側流入温度Tin2とを置き換える。例えば、図4のステップS13では、電池側流入温度Tin2が目標流出温度tgtTout以上であるか否かを判定する。これにより、電池冷却水が有する熱をエンジン4の暖機に有効利用することができる。
【0067】
この別例1においてエンジン冷却水回路2は、本発明の「第2温調回路」及び「パワートレイン冷却水回路」に相当し、電池冷却水回路3は、本発明の「第1温調回路」に相当し、エンジン4は、本発明の「第2車載機器」及び「パワートレイン」に相当し、走行用電池5は、本発明の「第1車載機器」に相当する。また、冷却水は、本発明の「熱媒体」に相当し、エンジン冷却水は、本発明の「第2熱媒体」に相当し、電池冷却水は、本発明の「第1熱媒体」に相当する。
【0068】
また、エンジン側流入温度Tin1を検出するエンジン側流入温度センサ22は、本発明の「第2流入温度を検出する第2流入温度検出部」に相当し、電池側流入温度Tin2を検出する電池側流入温度センサ23は、本発明の「第1流入温度を検出する第1流入温度検出部」に相当する。また、エンジン冷却水回路2へと流出する混合冷却水の流出温度Toutを検出する流出温度センサ24は、本発明の「混合熱媒体の流出温度を検出する流出温度検出部」に相当する。
【0069】
さらに、本実施形態及び別例1の制御を組み合わせることで、エンジン冷却水及び電池冷却水の熱を相互利用して走行用電池5及びエンジン4をそれぞれ暖機できるように構成してもよい。
【0070】
また、本実施形態では、エンジン冷却水が有する熱を利用して走行用電池5を昇温したが、走行用電池5は冷却を要することもあり、その場合にはエンジン冷却水が有する冷熱を利用して冷却してもよい。この別例2の場合には、図4のステップS12で流出温度Toutが目標流出温度tgtTout以上であるか否かを判定し、Yesのときには走行用電池5の冷却を要するとしてステップS13に移行し、エンジン側流入温度Tin1が目標流出温度tgtTout未満であるか否かを判定する。判定がYesの場合には、走行用電池5を冷却可能な冷熱をエンジン冷却水が有していると見なし、ステップS16以降の処理を実行して走行用電池5を冷却すればよい。なお、図5のフローチャート等は実施形態と同一である。また、別例2とは逆に、電池冷却水が有する冷熱を利用してエンジン4を冷却してもよい。
【0071】
[第2実施形態]
次いで、本発明を電気自動車に搭載された車載機器の温度調整装置31に具体化した第2実施形態を説明する。第1実施形態との主たる相違点は、エンジン冷却水回路2に代えて、車室内の温度調整用の空調コア冷却水回路32が備えられ、その冷却水が有する熱を利用して走行用電池5を暖機及び冷却することにある。そこで、第1実施形態と構成が共通する箇所には同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。以下の説明では、走行用電池5を暖機する際の熱を温熱と称し、冷却する際の熱を冷熱と称する。
【0072】
図11は、本実施形態の温度調整装置31を示す回路図である。
電池冷却水回路3の構成は第1実施形態と同一であるため、重複する説明は省略する。環状をなす空調コア冷却水回路32には、昇温用熱交換器33、冷却用熱交換器34、冷却水ポンプ35及び空調コア36が介装され、冷却水ポンプ35から吐出された冷却水が空調コア冷却水として空調コア冷却水回路32を循環する。図示はしないが、車両には空調用のヒートポンプシステムが搭載され、このヒートポンプシステムからの冷媒を利用して空調コア冷却水回路32を循環する空調コア冷却水を昇温または冷却し、空調コア36を介して車室内を暖房または冷房している。例えば暖房を要する場合には、断熱圧縮により温度上昇した冷媒を昇温用熱交換器33に流通させることで空調コア冷却水を昇温し、高温の空調コア36に車室内の空気を流通させて昇温する。また、冷房を要する場合には、断熱膨張により温度低下した冷媒を冷却用熱交換器34に流通させることで空調コア冷却水を冷却し、低温の空調コア36に車室内の空気を流通させて冷却する。
【0073】
このように構成された空調コア冷却水回路32が混合弁16を介して電池冷却水回路3と接続され、これにより温度調整装置31が構成されている。本実施形態において空調コア冷却水回路32は、本発明の「第1温調回路」に相当し、電池冷却水回路3は、本発明の「第2温調回路」に相当し、空調コア36は、本発明の「第1車載機器」に相当し、走行用電池5は、本発明の「第2車載機器」に相当する。また、冷却水は、本発明の「熱媒体」に相当し、空調コア冷却水は、本発明の「第1熱媒体」に相当し、電池冷却水は、本発明の「第2熱媒体」に相当する。
【0074】
また、第1実施形態のエンジン側流入温度センサ22に代えて空調コア側流入温度センサ37が設けられており、空調コア冷却水回路32から混合弁16に流入する空調コア冷却水の温度が空調コア側流入温度Tin3として検出される。従って、空調コア側流入温度センサ37は、本発明の「第1流入温度を検出する第1流入温度検出部」に相当し、電池側流入温度Tin2を検出する電池側流入温度センサ23は、本発明の「第2流入温度を検出する第2流入温度検出部」に相当する。また、電池冷却水回路3へと流出する混合冷却水の流出温度Toutを検出する流出温度センサ24は、本発明の「混合熱媒体の流出温度を検出する流出温度検出部」に相当する。
【0075】
図4、5のルーチンでは、エンジン側流入温度Tin1に代えて空調コア側流入温度Tin3が適用される。これにより、空調コア冷却水と電池冷却水とを混合弁16で適切に混合して、空調コア冷却水が有する温熱及び冷熱を走行用電池5の暖機及び冷却に有効利用でき、その他の作用効果についても、第1実施形態と同様に達成することができる。
【0076】
なお、本実施形態では、空調コア冷却水が有する温熱及び冷熱を利用して走行用電池5を暖機及び冷却したが、これとは逆に、電池冷却水が有する温熱及び冷熱を利用して空調コア冷却水を昇温及び冷却してもよい。この場合には、流出温度センサ24を空調コア冷却水回路32側に移設して、混合弁16から空調コア冷却水回路32へと流出する混合冷却水の温度を流出温度Toutとして検出する。電池冷却水の温熱及び冷熱を利用した分だけヒートポンプシステムの負担が軽減されるため、その電力源である車載バッテリの電力消費を節減することができる。
【0077】
[第3実施形態]
次いで、本発明をハイブリッド車両に搭載された車載機器の温度調整装置41に具体化した第3実施形態を説明する。温度調整装置41は、第1実施形態のエンジン冷却水回路2と第2実施形態の空調コア冷却水回路32とを組み合わせてなり、空調コア冷却水が有する熱を利用してエンジン4を暖機及び冷却する機能を奏する。そこで、構成が共通する箇所には同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0078】
図12は、本実施形態の温度調整装置41を示す回路図である。
エンジン冷却水回路2及び空調コア冷却水回路32の構成は第1及び第2実施形態と同一であるため、重複する説明は省略する。本実施形態において空調コア冷却水回路32は、本発明の「第1温調回路」に相当し、エンジン冷却水回路2は、本発明の「第2温調回路」及び「パワートレイン冷却水回路」に相当し、空調コア36は、本発明の「第1車載機器」に相当し、エンジン4は、本発明の「第2車載機器」及び「パワートレイン」に相当する。また、冷却水は、本発明の「熱媒体」に相当し、空調コア冷却水は、本発明の「第1熱媒体」に相当し、エンジン冷却水は、本発明の「第2熱媒体」に相当する。
【0079】
なお、既述したようにエンジン4に代えて、走行用モータ、インバータ及びDC-DCコンバータ等の車載機器を本発明の「パワートレイン」とし、これらの車載機器を温度調整する冷却水回路として「パワートレイン冷却水回路」を構成してもよい。
【0080】
そして、本実施形態では、流出温度センサ24がエンジン冷却水回路2側に設けられて、混合弁16からエンジン冷却水回路2へと流出する混合冷却水の温度が流出温度Toutとして検出される。このときの流出温度センサ24は、本発明の「混合熱媒体の流出温度を検出する流出温度検出部」に相当し、空調コア側流入温度Tin3を検出する空調コア側流入温度センサ37は、本発明の「第1流入温度を検出する第1流入温度検出部」に相当し、エンジン側流入温度Tin1を検出するエンジン側流入温度センサ22は、本発明の「第2流入温度を検出する第2流入温度検出部」に相当する。
【0081】
本実施形態によれば、空調コア冷却水とエンジン冷却水とを混合弁16で適切に混合して、空調コア冷却水が有する温熱及び冷熱をエンジン4の暖機及び冷却に有効利用でき、その他の作用効果についても、第1実施形態と同様に達成することができる。
【0082】
なお、本実施形態では、空調コア冷却水が有する温熱及び冷熱を利用してエンジン4を暖機及び冷却したが、これとは逆に、エンジン4が有する温熱及び冷熱を利用して空調コア冷却水を昇温及び冷却してもよい。この場合には、流出温度センサ24を空調コア冷却水回路32側に移設して、混合弁16から空調コア冷却水回路32へと流出する混合冷却水の温度を流出温度Toutとして検出する。エンジン冷却水の温熱及び冷熱を利用した分だけヒートポンプシステムの負担が軽減されるため、その電力源である車載バッテリの電力消費を節減することができる。
【0083】
本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1実施形態では、混合弁16を介してエンジン冷却水回路2と電池冷却水回路3とを接続し、第2実施形態では、混合弁16を介して空調コア冷却水回路32と電池冷却水回路3とを接続し、第3実施形態では、混合弁16を介して空調コア冷却水回路32とエンジン冷却水回路2とを接続したが、これに限るものではない。例えば、エンジン4、走行用電池5、空調コア36以外の車載機器の温度を調整する冷却水回路に適用してもよいし、冷却水以外の媒体を循環させる温調回路として構成してもよい。
また、例えば、3つの冷却水回路2,3,32を互いに混合弁16を介して接続してもよい。一例として図1において、電池冷却水回路3の右側に混合弁16を介して空調コア冷却水回路32を接続し、エンジン冷却水の場合と同様に、空調コア冷却水が有する温熱及び冷熱を利用して走行用電池5を暖機及び冷却可能としてもよいし、これ以外の冷却水回路の組み合わせとしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,31,41 温度調整装置
2 エンジン冷却水回路(第1温調回路または第2温調回路、パワートレイン冷却水回路)
3 電池冷却水回路(第1温調回路または第2温調回路)
4 エンジン(第1車載機器または第2車載機器、パワートレイン)
5 走行用電池(第1載機器または第2車載機器)
16 混合弁
20 混合制御部
20a 目標流出温度算出部
20b 流量比算出部
20c 開度補正係数算出部
20d 目標流量比算出部
20f 安定化判定部
20g PID制御部(フィードバック制御部)
20i 目標開度算出部
20j 弁駆動部
21 弁開度センサ(弁開度検出部)
22 エンジン側流入温度センサ(第1流入温度検出部)
23 電池側流入温度センサ(第2流入温度検出部)
24 流出温度センサ(流出温度検出部)
32 空調コア冷却水回路(第1温調回路または第2温調回路)
37 空調コア側流入温度センサ(第1流入温度検出部)
図1
図2
図3
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図5
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図12