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特開2024-174535形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法、および形状記憶された羊毛繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174535
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法、および形状記憶された羊毛繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/285 20060101AFI20241210BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20241210BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20241210BHJP
   D06M 11/50 20060101ALI20241210BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
D06M13/285
D06M13/11
D06M15/55
D06M11/50
D06M101:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092406
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000231224
【氏名又は名称】日本蚕毛染色株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平本 健
(72)【発明者】
【氏名】福岡 万彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 侑也
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA03
4L031AB01
4L031AB21
4L031AB31
4L031BA17
4L031CA02
4L033BA08
4L033BA36
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】形状記憶された羊毛繊維製品を連続的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法を提供する。
【解決手段】形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、水溶性有機ホスフィン化合物を含む還元処理剤を用いて処理することにより、第2前駆製品を得る還元工程と、前記第2前駆製品に対し、エポキシ化合物を含む架橋処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品を得る架橋工程と、前記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤を用いて処理することにより、第4前駆製品を得る酸化工程と、前記第4前駆製品に対し、湯洗および乾燥を行うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る仕上げ工程と、を含み、前記還元工程、前記架橋工程、前記酸化工程、前記仕上げ工程をこの順で連続的に行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、水溶性有機ホスフィン化合物を含む還元処理剤を用いて処理することにより、第2前駆製品を得る還元工程と、
前記第2前駆製品に対し、エポキシ化合物を含む架橋処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品を得る架橋工程と、
前記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤を用いて処理することにより、第4前駆製品を得る酸化工程と、
前記第4前駆製品に対し、湯洗および乾燥を行うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る仕上げ工程と、を含み、
前記還元工程、前記架橋工程、前記酸化工程、前記仕上げ工程をこの順で連続的に行う、形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項2】
前記還元工程、前記架橋工程、前記酸化工程、および前記仕上げ工程の処理時間は、いずれも10分未満である、請求項1に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項3】
前記酸化工程において、前記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方または少なくともいずれかは、その総量として前記第3前駆製品の質量に対し、0.001質量%以上0.5質量%以下用いる、請求項1または請求項2に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ化合物の質量は、前記過硫酸塩および前記過硫酸水素塩の質量の和の10倍以上50倍以下である、請求項1または請求項2に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項5】
前記羊毛繊維は、13.5μm以上33μm以下の繊維径を有する紡績糸、または羊毛TOPである、請求項1または請求項2に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項6】
前記羊毛繊維が前記紡績糸である場合、前記紡績糸を筒編とし、前記筒編を5以上20以下並列に並べて前記還元工程、前記架橋工程、および前記酸化工程を実行し、
前記羊毛繊維が前記羊毛TOPである場合、前記羊毛TOPを6以上40以下並列に並べて前記還元工程、前記架橋工程、および前記酸化工程を実行する、請求項5に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項7】
前記羊毛繊維が前記羊毛TOPである場合、前記羊毛TOPを折り畳んだ状態で前記還元工程を実行する、請求項5に記載の形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法。
【請求項8】
羊毛繊維を含む形状記憶された羊毛繊維製品であって、
前記羊毛繊維は、その表皮のエッジが溶解されておらず、かつ前記表皮が樹脂により被覆されておらず、
前記羊毛繊維製品15gを平面に対して垂直に投影することによって前記平面に形成される像は、225cm2以上の面積を有する、形状記憶された羊毛繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法、および形状記憶された羊毛繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
羊毛繊維製品は、柔らかな風合い、肌触り、保湿性などに優れるため、セーター、マフラー、手袋、肌着、靴下などとして様々な衣料用途に利用されている。しかしながら羊毛繊維製品は、洗濯などによって羊毛繊維が収縮するフエルト収縮と呼ばれる現象、上記製品の表面に突き出た毛羽が互いに摩擦などによって絡まって玉状の塊となるピリングと呼ばれる現象等が起こり、使用に伴って品質の劣化を招くことが知られている。
【0003】
このような品質劣化を抑制するため、従来から羊毛繊維に対し、スケールまたはキューティクルと呼ばれる鱗片状の表皮のエッジを塩素で溶解し、残存した表皮を樹脂で被覆するクロイハーコセット法が適用される場合がある。これによりフエルト収縮に対する一定の効果が示されている。さらに特開平06-346369号公報(特許文献1)は、水溶性有機ホスフィン化合物を有効成分とする羊毛繊維の防縮処理方法および防縮処理剤を開示している。上記特許文献1では、水溶性有機ホスフィン化合物を有効成分とする薬剤を用いて羊毛繊維製品を処理することにより、ピリングの発生を防ぐことができるとされている。若生幸毅、「形状記憶ウール」、繊維学会誌、49巻(1993)7号、p.249-251(非特許文献1)は、羊毛、獣毛に含まれるシスチンのジスルフィド結合をチオグリコール酸等の還元剤により開裂し、切断された分子間鎖にコラーゲンタンパク誘導体等を吸着させ、その後過酸化水素等の酸化剤により上記ジスルフィド結合を再結合した記憶形状ウールについて教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-346369号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】若生幸毅、「形状記憶ウール」、繊維学会誌、49巻(1993)7号、p.249-251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
羊毛繊維の柔らかな風合い、肌触り、良好な保湿性は、羊毛繊維自体の縮れた外観等に基づく性質であると考えられる。一方、クロイハーコセット法は、上記のように表皮のエッジを塩素で溶解し、残存した表皮を樹脂で被覆するので、羊毛繊維を脆化させ、かつ縮れを無くす方向に作用するため、製品の柔らかな風合い、肌触り等を損なうという欠点がある。上記特許文献1に開示された羊毛繊維製品は、羊毛、獣毛の水溶性有機ホスフィン化合物により開裂したシスチンのジスルフィド結合を、エポキシ化合物に基づくエーテル結合のみを利用して上記シスチン同士を架橋しているため、柔らかな風合い、肌触り等を持続的に得るのには十分でない可能性がある。また非連続的な製造方法であるため、効率的に羊毛繊維製品を得ることが難しい。非特許文献1にて教示された記憶形状ウールは、本発明者らの再現実験によれば、羊毛製品の柔らかな風合い、肌触り等を得るのには十分でないと評価された。したがって、柔らかな風合い、肌触り、良好な保湿性を持続的に得ることができる羊毛繊維製品を、連続して効率的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は実現されておらず、その開発が切望されている。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明は、形状記憶された羊毛繊維製品を連続的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法、および形状記憶された羊毛繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、柔らかな風合い、肌触り等を持続することができ、かつ連続して効率的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品を創作する過程で、羊毛繊維に対し特別な圧力を加えることなく還元剤を適用し、上記羊毛繊維を処理することに注目した。これにより羊毛繊維製品を連続して効率的に得ることができることを知見した。さらに還元剤によって処理された羊毛繊維をエポキシ化合物で架橋した上で、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤で酸化処理することにより、シスチンの開裂したジスルフィド結合を直接再結合させることができることを知見した。これらの知見に基づき、上記羊毛繊維から羊毛繊維製品を連続的に得たところ、形状記憶されることにより、柔らかな風合い、肌触り等を持続的に得ることができる羊毛繊維製品に到達し、本発明を完成させた。本発明は、具体的には以下のとおりである。
【0009】
〔1〕 本発明に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、水溶性有機ホスフィン化合物を含む還元処理剤を用いて処理することにより、第2前駆製品を得る還元工程と、上記第2前駆製品に対し、エポキシ化合物を含む架橋処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品を得る架橋工程と、上記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤を用いて処理することにより、第4前駆製品を得る酸化工程と、上記第4前駆製品に対し、湯洗および乾燥を行うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る仕上げ工程と、を含み、上記還元工程、上記架橋工程、上記酸化工程、上記仕上げ工程をこの順で連続的に行う。
〔2〕 上記還元工程、上記架橋工程、上記酸化工程、および上記仕上げ工程の処理時間は、いずれも10分未満であることが好ましい。
〔3〕 上記酸化工程において、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方は、その総量として上記第3前駆製品の質量に対し、0.001質量%以上0.5質量%以下用いることが好ましい。
〔4〕 上記エポキシ化合物の質量は、上記過硫酸塩および上記過硫酸水素塩の質量の和の10倍以上50倍以下であることが好ましい。
〔5〕 上記羊毛繊維は、13.5μm以上33μm以下の繊維径を有する紡績糸、または羊毛TOPであることが好ましい。
〔6〕 上記羊毛繊維が上記紡績糸である場合、上記紡績糸を筒編とし、上記筒編を5以上20以下並列に並べて上記還元工程、上記架橋工程、および上記酸化工程を実行し、上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合、上記羊毛TOPを6以上40以下並列に並べて上記還元工程、上記架橋工程、および上記酸化工程を実行することが好ましい。
〔7〕 上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合、上記羊毛TOPを折り畳んだ状態で上記還元工程を実行することが好ましい。
〔8〕 本発明に係る形状記憶された羊毛繊維製品は、羊毛繊維を含む形状記憶された羊毛繊維製品であって、上記羊毛繊維は、その表皮のエッジが溶解されておらず、かつ上記表皮が樹脂により被覆されておらず、上記羊毛繊維製品15gを平面に対して垂直に投影することによって上記平面に形成された像は、225cm2以上の面積を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、形状記憶された羊毛繊維製品を連続的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法、および形状記憶された羊毛繊維製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、クロイハーコセット法が適用された羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジを走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図面代用写真である。
図3図3は、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジを走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図面代用写真である。
図4図4は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Aの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
図5図5は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Bの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
図6図6は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Cの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
図7図7は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Dの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
図8図8は、試料1の形状記憶された羊毛TOPにより作製された編地の柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Cの羊毛TOPにより作製された各編地を並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)について、さらに詳細に説明する。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じであることに留意すべきである。
【0013】
〔形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法〕
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、水溶性有機ホスフィン化合物を含む還元処理剤を用いて処理することにより、第2前駆製品を得る還元工程と、上記第2前駆製品に対し、エポキシ化合物を含む架橋処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品を得る架橋工程と、上記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤を用いて処理することにより、第4前駆製品を得る酸化工程と、上記第4前駆製品に対し、湯洗および乾燥を行うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る仕上げ工程と、を含む。上記連続的製造方法は、上記還元工程、上記架橋工程、上記酸化工程、上記仕上げ工程をこの順で連続的に行う。このような特徴を有する形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法により、柔らかな風合い等を持続的に得ることができる形状記憶された羊毛繊維製品を、連続して効率的に得ることができる。とりわけ上記還元工程、上記架橋工程、上記酸化工程、および上記仕上げ工程の処理時間は、いずれも10分未満であることが好ましい。これにより上記形状記憶された羊毛繊維製品をより効率的に得ることができる。
【0014】
本明細書において「羊毛」とは、羊から得られる毛糸の総称をいう。上記「羊毛」は、あらかじめ染色されたものであってもよい。本明細書において「羊毛繊維」とは、上記羊毛を構成する繊維の一本一本をいう。「羊毛繊維製品」とは、上記羊毛繊維の不織布であるフエルト、または上記羊毛繊維が製織、製編または縫製されることにより得られる製品をいう。「羊毛繊維製品」は、具体的には上記フエルトの形態、または織物、編物および縫物のいずれかの形態の衣料品などをいい、より詳細にはセーター、ベスト、カーディガン、マフラー、スカーフ、ストール、手袋、靴下、下着、肌着などが例示される。但し、本明細書において「羊毛繊維製品」の範疇には、羊毛のTOP、紡績糸、梳毛、および紡毛も含まれる。また「羊毛繊維製品」には、本発明の効果を逸脱しない限り、上記羊毛と合成繊維とからなる「混紡」により製織され、あるいは製編され、もしくは縫製された製品が含まれるものとする。上記「TOP」とは、繊維の束の状態にて適宜の色に染められ後、紡績されてなる糸をいう。
【0015】
本明細書において「第1前駆製品」とは、本発明に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法が実行される前の状態の羊毛繊維製品をいう。より詳細には、クロイハーコセット法が適用されていないTOP自体、紡績糸自体、梳毛糸自体、または紡毛糸自体であるか、あるいは上記TOP、上記紡績糸、上記梳毛糸、上記紡毛糸およびその他の羊毛の紡績糸からなる群より選ばれる1種を単独で、または2種以上を併用して従来公知の方法により製織され、あるいは製編され、もしくは縫製されることにより製造される繊維製品であって、かつ本発明に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法が実行される前の羊毛繊維製品をいう。「第2前駆製品」とは、上記還元工程により得られる製品をいい、特に当該製品中の羊毛繊維の表皮において一部または全部のシスチンのジスルフィド結合が開裂された繊維製品を意味する。「第3前駆製品」とは、上記架橋工程により得られる製品をいい、特に当該製品中の羊毛繊維の表皮においてジスルフィド結合が開裂したシスチンの一部がエポキシ化合物により相互に架橋された繊維製品を意味する。「第4前駆製品」とは、上記酸化工程により得られる製品をいい、特に当該製品中の羊毛繊維の表皮において開裂していたシスチンのジスルフィド結合の一部または全部が再結合した繊維製品を意味する。以下、図1を参照し、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法に含まれる各工程を、工程順に説明する。図1は、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0016】
<還元工程>
図1に示すように、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、水溶性有機ホスフィン化合物を含む還元処理剤を用いて処理することにより第2前駆製品を得る還元工程S10を含む。還元工程S10は、羊毛繊維を含む第1前駆製品に対し、羊毛繊維の表皮に含まれるシスチンのジスルフィド結合を開裂する目的で、水溶性有機ホスフィン化合物を用いて還元処理する工程である。還元工程S10においては、具体的には、水溶性有機ホスフィン化合物を含む20~100℃の水浴中に第1前駆製品を1分以上10分未満浸漬し、水溶性有機ホスフィン化合物を第1前駆製品に作用させることが好ましい。これにより、羊毛繊維の鱗片状の表皮におけるシスチンのジスルフィド結合の開裂を促すことができると考えられる。さらに水溶性有機ホスフィン化合物を第1前駆製品に作用させることにより、上記羊毛繊維の表皮における塩結合(イオン結合)および水素結合の開裂を促すこともできる。水溶性有機ホスフィン化合物は、羊毛繊維の鱗片状の表皮を膨潤させる作用も併せ持つ場合がある。これらの作用によって第1前駆製品を第2前駆製品とし、後述する酸化工程において酸化処理剤が作用する状態を整えることができる。
【0017】
上記羊毛繊維は、13.5μm以上33μm以下の繊維径を有する紡績糸、または羊毛TOPであることが好ましい。上記羊毛繊維が上述の範囲の繊維径を有する紡績糸、または羊毛TOPであることにより、形状記憶された羊毛繊維製品をより歩留良く得ることができる。上記羊毛繊維が紡績糸である場合、その繊維径は、15~25μmであることが好ましい。上記羊毛繊維が羊毛TOPである場合、その繊維径は、15~25μmであることが好ましい。
【0018】
上記羊毛繊維が上記紡績糸である場合、上記紡績糸を筒編とし、上記筒編を5以上20以下並列に並べて還元工程S10を実行することが好ましい。上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合、上記羊毛TOPを6以上40以下並列に並べて還元工程S10を実行することが好ましい。さらに上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合、上記羊毛TOPを折り畳んだ状態で還元工程S10を実行することが好ましい。これにより、還元工程S10に用いる水、および薬剤の量を少なくすることができる。さらに第1前駆製品の時間当たりの処理量を増やすことができる。還元工程S10では、具体的には、上記紡績糸または上記羊毛TOPとした羊毛繊維を含む第1前駆製品が、上述のように複数本並列に並べられた状態で、従来公知のローラ等を用いて上記還元処理剤が溶解した水浴中に導入され、次いで上記水浴中にて還元処理されることが好ましい。
【0019】
水浴中に添加する水溶性有機ホスフィン化合物の質量は、第1前駆製品の繊維質量に対し、リンの原子量換算で0.1~3%owf(%owfは、繊維質量に対する百分率を表す)とすることが好ましく、0.3~1%owfとすることがさらに好ましい。水溶性有機ホスフィン化合物は、目安として上記水浴中の濃度が水1リットルあたり5~20gであることが好ましい。この目安とした濃度の範囲であれば、水溶性有機ホスフィン化合物は、上述したリンの原子量換算で示した添加質量の範囲と重複するため、羊毛繊維の鱗片状の表皮におけるシスチンのジスルフィド結合の開裂を容易に促すことができる。水溶性有機ホスフィン化合物の水浴中の濃度が水1リットルあたり5g未満となると、水溶性有機ホスフィン化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。水溶性有機ホスフィン化合物の水浴中の濃度が水1リットルあたり20gを超える場合、経済的に非効率となる傾向がある。水溶性有機ホスフィン化合物を含む水浴と第1前駆製品との使用割合(浴比)は、第1前駆製品の質量に対し、水浴を1~20倍量とすることが好ましく、2~10倍量とすることがさらに好ましく、3~7倍量とすることが最も好ましい。
【0020】
さらに第1前駆製品に対して還元処理剤を作用させる水浴の温度は、30~90℃であることが好ましく、60~80℃であることがより好ましい。還元処理剤を作用させる時間は1分以上10分未満であることが好ましい。上記水浴の温度が20℃以下である場合、水溶性有機ホスフィン化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。水浴の温度が100℃を超える場合、高温のために還元工程S10の管理が困難となる傾向がある。還元処理剤を作用させる時間が1分未満となる場合、水溶性有機ホスフィン化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。還元処理剤を作用させる時間が10分以上である場合、還元工程S10が効率的に実行されない傾向がある。上記水浴の温度が上述した範囲内であれば、その温度が低いほど(たとえば30℃)、還元処理剤を作用させる時間を長くする(たとえば9分50秒程度)ことが好ましく、その温度が高いほど(たとえば80℃)、還元処理剤を作用させる時間を短くする(たとえば1~5分)ことが好ましい。
【0021】
水溶性有機ホスフィン化合物としては、水溶性を有し、かつ常温で固体もしくは液体であれば、これに分類される化合物を特に制限することなく用いることができる。水溶性有機ホスフィン化合物は、分子内のリン原子に結合する有機基として、親水性基、たとえば水酸基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシルアミノ基、ヒドロキシメチル基等を含有することにより、全体として水溶性を示すことができる。
【0022】
水溶性有機ホスフィン化合物としては、ジメチルヒドロキシメチルホスフィン、ジメチルヒドロキシエチルホスフィン、エチルビス(ヒドロキシエチル)ホスフィン、エチルビス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシエチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシオクチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシシクロヘキシル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシブチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシフェニル)ホスフィン等が挙げられる。さらに上述した水溶性有機ホスフィン化合物のエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシド付加物等のアルキレンオキシド付加物であってもよい。アルキレンオキシド付加物の付加モル数は特に制約されないが、通常1~20、好ましくは1~10である。水溶性有機ホスフィン化合物は、上述した化合物からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。水溶性有機ホスフィン化合物としては、たとえばトリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン(製品名:「ヒシコーリン P-540(PP-40)」、日本化学工業株式会社製)を好ましく用いることができる。
【0023】
還元工程S10により得られた第2前駆製品は、還元処理剤が溶解した水浴中から取り出され、脱水等が行われた後、従来公知のローラ等を用いて架橋処理剤が溶解した水浴中に導入され、後述する架橋工程が実行されることが好ましい。これにより羊毛繊維製品(具体的には、第2前駆製品)を、還元工程S10を行う水浴から架橋工程を行う水浴へと搬送し、もって連続的な処理を行うことができる。
【0024】
<架橋工程>
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、上記第2前駆製品に対し、エポキシ化合物を含む架橋処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品を得る架橋工程S20を含む。架橋工程S20は、エポキシ化合物を用い、第2前駆製品に含まれる羊毛繊維の表皮におけるジスルフィド結合が開裂したシスチンの一部を相互に架橋することを目的とする。これにより後述する酸化工程でのジスルフィド結合の再結合を促進させることができ、もって形状記憶という性能を付与された第4前駆製品を得やすくすることができる。具体的には架橋工程S20においては、還元工程S10により得た第2前駆製品を、エポキシ化合物を含む架橋処理剤が溶解した10~60℃の水浴中に1分以上10分未満浸漬し、上記架橋処理剤を第2前駆製品に作用させることが好ましい。架橋工程S20により得られる上記第3前駆製品から、後述する酸化工程および仕上げ工程を経ることによって形状記憶された羊毛繊維製品を得ることができる。
【0025】
ここで上記羊毛繊維が上記紡績糸である場合、還元工程S10に引き続き、上記紡績糸を筒編とし、上記筒編を5以上20以下並列に並べて架橋工程S20を実行することが好ましい。上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合も、還元工程S10に引き続き、上記羊毛TOPを6以上40以下並列に並べて架橋工程S20を実行することが好ましい。これにより、架橋工程S20に用いる水および薬剤の量を少なくすることができる。さらに第2前駆製品の時間当たりの処理量を増やすことができる。架橋工程S20では、具体的には、上記紡績糸または上記羊毛TOPとした羊毛繊維を含む第2前駆製品が、上述のように複数本並列に並べられた状態で、従来公知のローラ等を用いて上記架橋処理剤が溶解した水浴中に導入され、次いで上記水浴中にて架橋処理されることが好ましい。
【0026】
架橋工程S20において、上記第2前駆製品の質量に対し、0.1質量%以上10質量%以下の上記エポキシ化合物を用いることが好ましい。上記エポキシ化合物の使用量は、上記第2前駆製品の質量に対し、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。これにより上記第2前駆製品に対する架橋処理を効率的に進めることができる。
【0027】
架橋工程S20において、水浴中に添加するエポキシ化合物の質量は、具体的には、第2前駆製品の繊維質量に対し、酸素の原子量換算で0.5~15%owfとすることが好ましく、1~8%owfとすることがさらに好ましい。エポキシ化合物は、目安として上記水浴中の濃度が水1リットルあたり1~10gであることが好ましく、水1リットルあたり2~8gであることがより好ましく、水1リットルあたり3~6gであることが最も好ましい。この目安とした濃度の範囲であれば、上記エポキシ化合物は、上述した酸素の原子量換算で示した添加質量の範囲と重複するため、羊毛繊維の表皮におけるジスルフィド結合が開裂したシスチンの架橋を容易に促すことができる。上記エポキシ化合物の水浴中の濃度が水1リットルあたり1g未満となると、上記エポキシ化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。上記エポキシ化合物の水浴中の濃度が水1リットルあたり10gを超える場合、経済的に非効率となる傾向がある。エポキシ化合物を含む水浴と第2前駆製品との使用割合(浴比)は、第2前駆製品の質量に対し、水浴を1~20倍量とすることが好ましく、2~10倍量とすることがさらに好ましく、3~7倍量とすることが最も好ましい。
【0028】
さらに第2前駆製品に対して架橋処理剤を作用させる水浴の温度は、10~60℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。上記架橋処理剤を作用させる時間は1分以上10分未満であることが好ましい。上記水浴の温度が10℃以下である場合、上記エポキシ化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。水浴の温度が60℃を超える場合、架橋工程S20が経済的に非効率となる傾向がある。架橋処理剤を作用させる時間が1分未満となる場合、エポキシ化合物の作用が十分に発揮されない傾向がある。架橋処理剤を作用させる時間が10分を超える場合、架橋工程S20が経済的に非効率となる傾向がある。上記水浴の温度が上述した範囲内であれば、その温度が低いほど(たとえば20℃)、架橋処理剤を作用させる時間は長くする(たとえば9分50秒程度)ことが好ましく、その温度が高いほど(たとえば60℃)、架橋処理剤を作用させる時間は短くする(たとえば1~5分)ことが好ましい。
【0029】
上記エポキシ化合物としては、モノエポキシ化合物および多価エポキシ化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上を用いることができる。より詳細には、単官能性グリシジルエーテル化合物または2官能性以上の多官能性グリシジルエーテル化合物を用いることができる。特に、2官能性ジグリシジルエーテル化合物が好ましく、具体的にはエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテルが好ましい。さらに、グリセロールトリグリシジルエーテル、2,2-ビス(ブロモメチル)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ラウリルアルコールエチレンオキシド付加型グリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどを用いることもできる。上記エポキシ化合物は、上述した化合物からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0030】
上記エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル(製品名:「エポライト40E」、共栄社化学株式会社製、または製品名:「デナコールEX810」、ナガセケムテックス株式会社製)を用いることが最も好ましい。架橋工程S20により得られる第3前駆製品は、架橋処理剤が溶解した水浴中から取り出され、脱水された後、従来公知のローラ等を用いて酸化処理剤が溶解した水浴中に導入され、後述する酸化工程が実行されることが好ましい。これにより羊毛繊維製品(具体的には、第3前駆製品)を、架橋工程S20を行う水浴から酸化工程を行う水浴へと搬送し、もって連続的な処理を行うことができる。
【0031】
<酸化工程>
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、上記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤を用いて処理することにより第4前駆製品を得る酸化工程S30を含む。酸化工程S30によれば、上記第3前駆製品に対し、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の酸化処理剤を用いて処理することにより、第3前駆製品に含まれる羊毛繊維の表皮における開裂したシスチンのジスルフィド結合の一部または全部を再結合することができ、もって形状記憶という性能を付与された第4前駆製品を得ることができる。具体的には酸化工程S30においては、架橋工程S20により得た第3前駆製品を、過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を含む酸化処理剤が溶解した10~60℃の水浴中に1分以上10分未満浸漬し、上記酸化処理剤を第3前駆製品に作用させることが好ましい。酸化工程S30により得られる第4前駆製品から、後述する仕上げ工程を経ることによって形状記憶された羊毛繊維製品を得ることができる。
【0032】
ここで上記羊毛繊維が上記紡績糸である場合、還元工程S10および架橋工程S20に引き続き、上記紡績糸を筒編とし、上記筒編を5以上20以下並列に並べて酸化工程S30を実行することが好ましい。上記羊毛繊維が上記羊毛TOPである場合も、還元工程S10および架橋工程S20に引き続き、上記羊毛TOPを6以上40以下並列に並べて酸化工程S30を実行することが好ましい。これにより、酸化工程S30に用いる水および薬剤の量を少なくすることができる。さらに第3前駆製品の時間当たりの処理量を増やすことができる。酸化工程S30では、具体的には、上記紡績糸または上記羊毛TOPとした羊毛繊維を含む第3前駆製品が、上述のように複数本並列に並べられた状態で、従来公知のローラ等を用いて上記酸化処理剤が溶解した水浴中に導入され、次いで上記水浴中にて酸化処理されることが好ましい。
【0033】
酸化工程S30において、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方は、その総量として上記第3前駆製品の質量に対し、0.001質量%以上0.5質量%以下用いることが好ましい。上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の総量は、上記第3前駆製品の質量に対し、0.01質量%以上0.1質量%であることがより好ましい。とりわけ上記エポキシ化合物の質量は、酸化処理剤を構成する上記過硫酸塩および上記過硫酸水素塩の質量の和の10倍以上50倍以下であることが好ましい。上記エポキシ化合物の質量は、上記過硫酸塩および上記過硫酸水素塩の質量の和の20倍以上30倍以下であることがより好ましい。
【0034】
酸化工程S30において、水浴中に添加する上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の質量は、具体的には、第3前駆製品の繊維質量に対し、酸素の原子量換算で0.0105~5.26%owfとすることが好ましく、0.105~0.526%owfとすることがさらに好ましい。上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方または少なくともいずれかの質量は、目安として上記水浴中の濃度が水1リットルあたり0.02~10gであることが好ましく、水1リットルあたり0.1~5gであることがより好ましく、水1リットルあたり0.2~1gであることが最も好ましい。この目安とした濃度の範囲であれば、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方は、上述した酸素の原子量換算で示した添加質量の範囲と重複するため、羊毛繊維の表皮におけるシスチンのジスルフィド結合の再結合を容易に促すことができる。上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の水浴中の濃度が水1リットルあたり0.1g未満となると、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の作用が十分に発揮されない傾向がある。上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の水浴中の濃度が水1リットルあたり10gを超える場合、経済的に非効率となる傾向がある。酸化処理剤を含む水浴と第3前駆製品との使用割合(浴比)は、第3前駆製品の質量に対し、水浴を1~20倍量とすることが好ましく、2~10倍量とすることがさらに好ましく、3~7倍量とすることが最も好ましい。
【0035】
さらに第3前駆製品に対して酸化処理剤を作用させる水浴の温度は、10~60℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。上記酸化処理剤を作用させる時間は1分以上10分未満であることが好ましい。上記水浴の温度が10℃以下である場合、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の作用が十分に発揮されない傾向がある。水浴の温度が60℃を超える場合、酸化工程S30が経済的に非効率となる傾向がある。酸化処理剤を作用させる時間が1分未満となる場合、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方の作用が十分に発揮されない傾向がある。酸化処理剤を作用させる時間が10分を超える場合、酸化工程S30が経済的に非効率となる傾向がある。上記水浴の温度が上述した範囲内であれば、その温度が低いほど(たとえば20℃)、酸化処理剤を作用させる時間は長くする(たとえば9分50秒程度)ことが好ましく、その温度が高いほど(たとえば60℃)、酸化処理剤を作用させる時間は短くする(たとえば1~5分)ことが好ましい。
【0036】
上記酸化処理剤を構成する過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方としては、羊毛繊維の鱗片状の表皮に含まれるシスチンの開裂したジスルフィド結合を効果的に再結合する観点から、たとえばペルオキシ一硫酸塩およびペルオキソ二硫酸水素塩の両方またはいずれか一方を用いることができる。本実施形態においては、入手の容易性および経済性の観点から、上記酸化処理剤構成する過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方としては、ペルオキシ一硫酸カリウム(製品名:「オキソン」、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いることが最も好ましい。
【0037】
酸化工程S30により得られた第4前駆製品は、酸化処理剤が溶解した水浴中から取り出され、脱水された後、従来公知のローラ等を用いてお湯(40~100℃)で満たされた水浴中に連続的に導入される。これにより、後述する仕上げ工程が実行可能な状態となる。
【0038】
<界面活性剤、pH調整剤など>
ここで還元工程S10に用いる水浴、架橋工程S20に用いる水浴、および酸化工程S30で用いる水浴に対し、それぞれ必要に応じて界面活性剤、pH調整剤などを添加することができる。界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系およびカチオン系の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の水浴中の濃度は、0.1~1質量%とすることができ、0.2~0.5質量%とすることが好ましい。pH調整剤としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、塩酸、硫酸などの酸性化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの塩基性化合物を用いることができる。還元工程S10および酸化工程S30にて用いる水浴のpHは、2~6とすることが好ましく、3~5とすることがより好ましい。架橋工程S20にて用いる水浴のpHは、8~12とすることが好ましく、9~11とすることがより好ましい。
【0039】
<仕上げ工程>
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、上記第4前駆製品に対し、湯洗および乾燥を行うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る仕上げ工程S40を含む。仕上げ工程S40は、羊毛繊維製品を流通可能な状態とする目的で、形状記憶という性能を付与された第4前駆製品を湯洗し、かつ乾燥する工程である。ここで上記連続的製造方法において、還元工程S10、架橋工程S20、酸化工程S30、および仕上げ工程S40は、この順で連続的に行われる。
【0040】
仕上げ工程S40においては、具体的には、形状記憶という性能を付与された第4前駆製品を20~100℃、好ましくは30~50℃の水浴中に1分以上10分未満浸漬し、上記第4前駆製品中に残存する架橋処理剤、酸化処理剤、還元処理剤、およびその他の化合物を洗い流すことができる。さらに従来公知の高温の乾燥雰囲気(たとえば、従来公知のドラム式乾燥機等)を用い、湯洗いした第4前駆製品を70~90℃の温度で乾燥させる。以上により、形状記憶されることによって柔らかな風合い、肌触り等を持続的に得ることができる羊毛繊維製品を製造することができる。
【0041】
<その他の工程>
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法は、還元工程S10、架橋工程S20、酸化工程S30、および仕上げ工程S40に加え、必要に応じてその他の工程を含むことができる。たとえば上記製造方法は、還元工程S10の前に行う工程として、第1前駆製品に対して界面活性剤を用いて精練する工程(精練工程)を含むことができる。
【0042】
この精練工程は、たとえばノニオン系界面活性剤を含む20~100℃の水浴中に5~30分間、第1前駆製品を浸漬することにより行うことができる。これにより第1前駆製品に含まれていた塵、埃などの粒状物を取り除くことができる。
【0043】
上記製造方法は、還元工程S10の後であって架橋工程S20に行う前の工程として、第2前駆製品中の還元処理剤を洗い流すためのリンス工程を含むことができる。上記リンス工程においては、第2前駆製品を40~100℃、好ましくは40~80℃の水浴中に1分以上10分未満浸漬し、上記第2前駆製品中に残存する還元処理剤、およびその他の化合物を洗い流すことができる。さらに上記製造方法は、架橋工程S20の後であって酸化工程S30に行う前の工程として、第3前駆製品中の架橋処理剤を洗い流すための第2リンス工程を含むことができる。上記第2リンス工程においては、第3前駆製品を10~60℃、好ましくは30~50℃の水浴中に1分以上10分未満浸漬し、上記第3前駆製品中に残存するエポキシ化合物、およびその他の化合物を洗い流すことができる。
【0044】
上記製造方法は、酸化工程S30の後であって、仕上げ工程S40に行う前の工程として、第4前駆製品を、酢酸または上記オキソンの両方またはいずれかを含む水溶液を用いて処理する工程(固定化工程)を含むことができる。上記固定化工程においては、具体的には、酢酸または上記オキソンの両方またはいずれかを含む水溶液中に第4前駆製品を1~10分程度浸漬することにより、上記処理を行うことができる。これにより羊毛繊維中の再結合されたシスチンのジスルフィド結合を強固に固定化することができ、もって形状記憶されることによって柔らかな風合い等を持続的に得ることができる羊毛繊維製品をより歩留まり良く製造することができる。上記固定化工程における酢酸および過酸化水素のぞれぞれの濃度は、上記の固定化を目的にした適宜の濃度に調整することができる。
【0045】
さらに上記製造方法は、酸化工程S30の後であって、仕上げ工程S40に行う前の工程として、第4前駆製品に対し、柔らかな風合いを増加させる目的で、油剤を付着させる工程(風合い向上工程)を含むことができる。上記風合い向上工程においては、具体的には、柔らかな風合いを付与することのできる従来公知の添加物(油剤、シリコンその他の添加物)を含む溶液中に第4前駆製品を1~10分程度浸漬することにより、上記処理を行うことができる。これにより第4前駆製品の柔らかな風合いを増強することができ、もって形状記憶されることによって柔らかな風合い等を持続的に得ることができる羊毛繊維製品をより歩留まり良く製造することができる。
【0046】
<作用効果>
以上から、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法によれば、形状記憶されることによって柔らかな風合い等を持続的に得ることができる羊毛繊維製品を連続して効率的に得ることができる。
【0047】
〔形状記憶された羊毛繊維製品〕
本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品は、羊毛繊維を含む形状記憶された羊毛繊維製品である。上記羊毛繊維は、その表皮のエッジが溶解されておらず、かつ上記表皮の表面が樹脂により被覆されていない。上記羊毛繊維製品15gを平面に対して垂直に投影することによって上記平面に形成された像は、225cm2以上の面積を有する。このような羊毛繊維製品は、記憶形状されることによって、柔らかな風合い等を持続的に得ることができる。
【0048】
<羊毛繊維の表皮>
上記形状記憶された羊毛繊維製品は、上述のように羊毛繊維を含む形状記憶された羊毛繊維製品である。上記羊毛繊維は、その表皮のエッジが溶解されておらず、かつ上記表皮の表面が樹脂により被覆されていない。ここで羊毛繊維の表皮の「エッジ」とは、羊毛繊維におけるキューティクルまたはスケールと呼ばれる鱗片状の表皮において繊維軸から外側に開いた先端部分をいう。さらに、表皮の表面が「樹脂により被覆されていない」とは、鱗片状の表皮の一部または全部が、化学糊または成形剤などとして従来公知のビニル系ポリマー、その他のポリマー、または平滑剤であるシリコンなどにより被覆されていないことをいう。
【0049】
図2は、クロイハーコセット法が適用された羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジを走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図面代用写真である。図3は、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジを走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図面代用写真である。クロイハーコセット法などの従来の処理を行って羊毛繊維製品を得た場合、羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジは、図2に示すように、塩素処理によって溶解され、かつ上記表皮を繊維軸に沿った向きに揃えるために、上記表皮が上述したポリマー(樹脂)によって繊維軸に固定される。これにより上記羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維は脆化し、もって羊毛繊維製品の柔らかな風合いが損なわれていた。
【0050】
これに対し本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品は、その製造工程において上述の処理が行われないことにより、図3に示すように、羊毛繊維の表皮のエッジが溶解されず、かつ上記表皮の表面が樹脂により被覆されない。これにより上記処理に起因した風合いの欠損が起こらなくなる。羊毛繊維製品において羊毛繊維の表皮のエッジが溶解されず、かつ上記表皮の表面が樹脂により被覆されないことは、羊毛繊維製品に対し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000~2000倍の倍率(図3の倍率は1500倍)で羊毛繊維の表皮部分を観察することによりそれぞれ特定することができる。
【0051】
<柔らかな風合い、および肌触り>
上記形状記憶された羊毛繊維製品において、上記羊毛繊維製品15gを平面に対して垂直に投影することによって上記平面に形成された像は、225cm2以上の面積を有する。これにより上記形状記憶された羊毛繊維製品は、従来の羊毛繊維製品に比して質量当たりの体積(広がり)が大きいことが明らかとなり、もって柔らかな風合い等を備えることが理解される。
【0052】
上記「像」の面積の測定方法は、次のとおりである。まず上述した形状記憶された羊毛繊維製品の連続的製造方法に従うことにより、形状記憶された羊毛繊維製品を得る。さらに上記羊毛繊維製品から15gの測定用試料を採取して得るとともに、上記測定用試料を縦1cm×横1cmの正方形が並んだ市販の方眼紙上に載置する。次に、測定者が上記方眼紙上の測定用試料を、少なくとも上記方眼紙から30cm以上離れた位置から、上記方眼紙に対して垂直な方向に視する。これにより測定者の眼には、上記測定用試料の大きさだけ上記正方形が遮蔽された上記方眼紙が写ることとなる。最後に、上記方眼紙において上記測定用試料によって遮蔽された部分の上記正方形の面積(以下、「遮蔽部の面積」とも記す)を求め、当該遮蔽部の面積の値を上記「像」の面積の値として求めることができる。上記遮蔽部の面積は、具体的には、上記測定用試料によってすべてが遮蔽された上記正方形の面積と、上記測定用試料によって一部のみが遮蔽された上記正方形の面積との和より求めることができる。一部のみが遮蔽された上記正方形の面積としては、その遮蔽された部分が0.25cm2、0.5cm2、0.75cm2のいずれであるかを目分量により判断して算出するものとする。
【0053】
上記「像」は、230cm2以上の面積を有することが好ましい。上記「像」は、240cm2以上の面積を有することがより好ましい。上記「像」の面積の上限は、特に制限されないが、たとえば400cm2であることが現実的である。上記「像」の面積が225cm2以上であることにより、上記形状記憶された羊毛繊維製品は、従来の羊毛繊維製品に比して質量当たりの体積(広がり)が大きいことが明らかとなり、もって柔らかな風合い、肌触り等を備えることが理解される。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
実施例1
〔羊毛繊維製品(羊毛TOP)の製造〕
<試料1>
(還元工程)
羊毛繊維を含む第1前駆製品としての市販のメリノウールTOP(繊維径:19.5μm)を、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン(製品名:「ヒシコーリン P-540(PP-40)」、日本化学工業株式会社製)を水1リットルあたり13g、68質量%の酢酸を水1リットルあたり3g含み、かつ80℃とした水浴中に8分間浸漬することにより第2前駆製品を得た。当該第2前駆製品を上記水浴から引き上げ、2本のローラで50質量%脱水した。
【0056】
(架橋工程)
脱水された上記第2前駆製品を、エポキシ化合物としてのエチレングリコールジグリシジルエーテル(製品名:「デナコールEX810」、ナガセケムテックス株式会社製)を水1リットルあたり5g、ソーダ灰を水1リットルあたり6g含み、かつ40℃とした水浴中に5分間浸漬することにより第3前駆製品を得た。当該第3前駆製品を上記水浴から引き上げ、2本のローラで50質量%脱水した。
【0057】
(酸化工程)
脱水された上記第3前駆製品を、上記過硫酸塩および過硫酸水素塩の両方またはいずれか一方としてのペルオキシ一硫酸カリウム(製品名:「オキソン」、富士フイルム和光純薬株式会社製)を水1リットルあたり0.2g、68質量%の酢酸を水1リットルあたり3g、キレート剤(製品名:「キレストNTB」、キレスト株式会社製)を水1リットルあたり0.5g含み、かつ40℃とした水浴中に5分間浸漬することにより第4前駆製品を得た。当該第4前駆製品を上記水浴から引き上げ、2本のローラで50質量%脱水した。さらに、この第4前駆製品に対し、油剤であるウーステッドオイル(丸菱油化工業株式会社製)および大原シリコンO(大原パラヂウム化学株式会社製)を適宜用いて、風合い向上工程を行った。
【0058】
(仕上げ工程)
上記第4前駆製品に対し、30℃で10分間水洗し、その後ドラム式乾燥機にて乾燥させることにより試料1の記憶形状された羊毛TOPを得た。
【0059】
<試料2>
酸化工程においてペルオキシ一硫酸カリウム(製品名:「オキソン」、富士フイルム和光純薬株式会社製)の使用量を水1リットルあたり10gに変更したこと以外、試料1の製造方法と同じ要領により試料2の記憶形状された羊毛TOPを得た。
【0060】
<試料3>
酸化工程においてペルオキシ一硫酸カリウム(製品名:「オキソン」、富士フイルム和光純薬株式会社製)の使用量を水1リットルあたり0.02gに変更したこと以外、試料1の製造方法と同じ要領により試料3の記憶形状された羊毛TOPを得た。
【0061】
<試料A>
上述した市販のメリノウールTOP(繊維径:19.5μm)を、試料Aの羊毛TOPとして得た。
【0062】
<試料B>
上述した市販のメリノウールTOP(繊維径:19.5μm)に対し、従来公知のクロイハーコ法を適用し、その後、試料1と同じ仕上げ工程を行うことにより試料Bの羊毛TOPを得た。
【0063】
<試料C>
上述した市販のメリノウールTOP(繊維径:19.5μm)に対し、上記特許文献1に開示された方法に従うことにより、試料Cの羊毛TOPを得た。
【0064】
<試料D>
上述した市販のメリノウールTOP(繊維径:19.5μm)に対し、上記非特許文献1に開示された方法に従うことにより、試料Dの羊毛TOPを得た。
【0065】
〔評価〕
<試料1~試料3における表皮の評価>
まず試料1~試料3に対し、記憶形状された羊毛TOPにおける羊毛繊維の表皮を対象として走査型電子顕微鏡を用い、1500倍の倍率で観察した。その結果、試料1~試料3の記憶形状された羊毛TOPは、これを構成する羊毛繊維の表皮のエッジが溶解されておらず、かつ上記表皮が樹脂により被覆されていないことを確認した。図3は、本実施形態に係る形状記憶された羊毛繊維製品に含まれる羊毛繊維の表皮のエッジを走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図面代用写真であり、具体的には、試料1の記憶形状された羊毛TOPを構成する羊毛繊維の表皮の電子顕微鏡像である。
【0066】
<試料1と試料A~試料Dとの柔らかな風合いの対比>
試料1および試料A、試料1および試料B、試料1および試料C、ならびに試料1および試料Dをそれぞれ対比することによって、各試料の柔らかな風合いを評価した。具体的には、上述した測定方法を用い、各試料15gを平面に対して垂直に投影することによって上記平面に形成される像の面積を評価した。結果を、表1に示す。さらに試料1および試料A、試料1および試料B、試料1および試料C、ならびに試料1および試料Dをそれぞれ並べて撮影した画像を図4図7に示す。図4は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Aの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。図5は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Bの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。図6は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Cの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。図7は、試料1の形状記憶された羊毛TOPの柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Dの羊毛TOPを並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例2
試料Cの羊毛TOPに対し、従来公知の方法で染色し、紡績糸、製編することにより、試料Cの編地(紡績2/36、撚り数510/285、横編ニット14ゲージ)を得た。試料1の記憶形状された羊毛TOPに対しても、試料Cの編地を得るのと同じ要領によって試料1の記憶形状された編地(紡績2/36、撚り数510/285、横編ニット14ゲージ)を得た。これらの外観を図8に示す。図8は、試料1の形状記憶された羊毛TOPにより作製された編地の柔らかな風合いを説明するため、試料1および試料Cの羊毛TOPにより作製された各編地を並べて撮影した画像を示す図面代用写真である。図8によれば、試料1の記憶形状された編地は、試料Cの編地に比べ、その外観から柔らかな風合いを備えていることが理解される。
【0069】
<考察>
上記評価によれば、試料1は、これを構成する羊毛繊維の表皮のエッジが溶解されておらず、かつ上記表皮が樹脂により被覆されていないことが理解される。さらに試料1は、試料A~試料Dに比して柔らかな風合いを備えることが理解される。また試料1は、連続的な製造方法によって得ることができる。試料2および試料3は、試料1と同等の特性を有することも推定できる。以上から、試料1~試料3は、形状記憶されることにより、柔らかな風合い等を持続的に得ることができる。さらに試料1~試料3は、連続的な製造方法により得ることができる。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
S10 還元工程、S20 架橋工程、S30 酸化工程、S40 仕上げ工程、1 記憶形状された羊毛TOP、101,102,103,104 羊毛TOP、2 記憶形状された編地、203 編地。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8