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特開2024-174565高剛性アルミニウム基合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174565
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】高剛性アルミニウム基合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 49/06 20060101AFI20241210BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20241210BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20241210BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241210BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20241210BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241210BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241210BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20241210BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C22C49/06
C22C1/10 J
C22C1/05 C
B22F1/00 N
B22F1/12
B22F10/28
B22F10/34
C22C21/02
C22C21/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092456
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴨 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】前田 千芳利
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】梅田 隼史
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018AB04
4K018AC01
4K018BA08
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018KA01
4K020AA22
4K020AC01
4K020BB29
(57)【要約】
【課題】容易に機械加工することができる高剛性Al基合金、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるマトリックスと、該マトリックス中に分散しているホウ化チタンとを含む高剛性アルミニウム基合金であって、ホウ化チタンの含有量並びに平均粒径及びその相対標準偏差が特定されている、高剛性アルミニウム基合金及びその製造方法に関する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるマトリックスと、該マトリックス中に分散しているホウ化チタンとを含む高剛性アルミニウム基合金であって、
ホウ化チタンの含有量が、高剛性アルミニウム基合金の総体積に対して、10体積%~50体積%であり、
ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径が、1以下の相対標準偏差で0.01μm~10μmである
高剛性アルミニウム基合金。
【請求項2】
ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径が、0.8以下の相対標準偏差で0.01μm~5μmである、請求項1に記載の高剛性アルミニウム基合金。
【請求項3】
高剛性アルミニウム基合金を製造する方法であって、
(i)アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンの粉末とを含む原料を金属製容器中に収容する工程、ここで、ホウ化チタンの含有量は、高剛性アルミニウム基合金の総体積に対して、10体積%~50体積%であり、ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径は、0.01μm~10μmである、
(ii)(i)の工程で原料を収容した金属製容器を、絶縁スペーサを介して、撹拌機に設置して撹拌混合し、混合粉末を得る工程、及び
(iii)(ii)の工程で得た混合粉末を、積層造形法により処理して高剛性アルミニウム基合金を得る工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性アルミニウム基合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材、装置さらには車両などの軽量化を図るために、従来の鉄系部材を、Al系合金、Mg系合金などの軽金属部材に代替するための研究が行われている。この傾向は、単なるケースやハウジングに留まらず、耐摩耗性や摺動性が要求される機能部材にまで及んでおり、例えば、自動車用部材でいえば、内燃機関(レシプロエンジン)のシリンダライナーなどが挙げられる。
【0003】
このようなAl系合金において、高剛性化を意図して、高ヤング率であるホウ化物などの化合物粒子を分散させた研究開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、補強材であるセラミックス繊維及びセラミックス粒子の少なくとも一方で形成されたプリフォームに対し、基材であるアルミニウム合金を浸透させるアルミニウム基複合材料の製造方法において、前記アルミニウム合金には、マグネシウムを重量比で1重量%以上6重量%以下含有し、かつ、ホウ化チタンを体積比で3体積%以上20体積%以下含有しており、該アルミニウム合金を750℃以上850℃以下の温度で溶融すると共に、5MPa以上50MPa以下の圧力で前記プリフォームに浸透させることを特徴とするアルミニウム基複合材料の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、Al系マトリックスに、Feを含むTiB系粒子、又はFeとSiを含むTiB系粒子の少なくとも一方を分散させたことを特徴とする高強度Al合金が記載されている。
【0006】
特許文献3には、実質的に酸素と水分を含まない不活性雰囲気中で、溶融アルミニウムと溶融融剤とを結合させる工程からなることを特徴とする、セラミック強化アルミニウム合金金属マトリックス コンポジットの製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、アルミニウム系製品を製造する方法であって、(a)金属粉末を床に分散させることであって、該金属粉末が、セラミック金属粒子を含み、該セラミック金属粒子が、アルミニウム材料内に分散されているセラミック材料を含む、分散させることと、(b)前記金属粉末の一部分を、前記アルミニウム材料の液相線温度を超える温度まで、選択的に加熱することと、(c)溶融池を形成することと、(d)前記溶融池を、少なくとも1000℃/秒の冷却速度で冷却することと、(e)前記アルミニウム系製品が完成するまで、(a)~(d)の工程を繰り返すことと、を含み、前記アルミニウム系製品が、1種以上のセラミック相を含み、前記アルミニウム系製品が、アルミニウム系マトリックス内に分散されている1~30体積%の前記1種以上のセラミック相を含む、方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-115017号公報
【特許文献2】特開平7-268510号公報
【特許文献3】特表平11-502570号公報
【特許文献4】特表2018-512507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高剛性アルミニウム基合金(高剛性Al基合金)では、Al又はAl合金からなるマトリックス(Al系マトリックス)中に分散されている高硬度の粗大なホウ化物が、切削加工などの機械加工時に、切削工具を破壊してしまう可能性があった。
【0010】
したがって、本発明は、容易に機械加工することができる高剛性Al基合金、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
高剛性Al基合金中のホウ化物が粗大化してしまう要因としては、高剛性Al基合金のマトリックスを構成するAl又はAl合金の粉末と、粒径の小さなホウ化物、例えば10μm以下の平均粒径を有するホウ化チタン(TiB)の粉末とを混合して均質な混合物を得ることが困難であること、さらに、粉末混合物を融解(溶融)する際に、もともと微細であったホウ化チタン同士が、凝集・結合し、大きくなることなどが挙げられる。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、Al又はAl合金の粉末と粒径の小さなホウ化チタンとを含む原料を金属製容器に収容し、当該金属製容器を、絶縁スペーサを介して撹拌機に設置し、撹拌混合することで、原料が収容されている金属製容器中において、粒径の小さなTiB粒子をAl又はAl合金粒子表面に均一に吸着させることができることを見出した。これは、原料を収容した金属製容器と撹拌機とを絶縁的に接続することで、原料混合中、金属製容器内で生じた静電気が逃げ場を失い、当該静電気によって、TiB粒子とAl又はAl合金粒子との静電吸着が引き起こされるためである。さらに、本発明者らは、このように調製された混合粉末を、積層造形法により処理することで、Al系マトリックスと、該マトリックス中に均一に分散している微細なTiBとを含む高剛性Al基合金を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)アルミニウム又はアルミニウム合金からなるマトリックスと、該マトリックス中に分散しているホウ化チタンとを含む高剛性アルミニウム基合金であって、ホウ化チタンの含有量が、高剛性アルミニウム基合金の総体積に対して、10体積%~50体積%であり、ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径が、1以下の相対標準偏差で0.01μm~10μmである高剛性アルミニウム基合金。
(2)ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径が、0.8以下の相対標準偏差で0.01μm~5μmである、(1)に記載の高剛性アルミニウム基合金。
(3)高剛性アルミニウム基合金を製造する方法であって、(i)アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンの粉末とを含む原料を金属製容器中に収容する工程、ここで、ホウ化チタンの含有量は、高剛性アルミニウム基合金の総体積に対して、10体積%~50体積%であり、ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径は、0.01μm~10μmである、(ii)(i)の工程で原料を収容した金属製容器を、絶縁スペーサを介して、撹拌機に設置して撹拌混合し、混合粉末を得る工程、及び(iii)(ii)の工程で得た混合粉末を、積層造形法により処理して高剛性アルミニウム基合金を得る工程を含む方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、容易に機械加工することができる高剛性Al基合金、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の方法における(ii)の工程で金属製容器1を絶縁スペーサ2を介して撹拌機3に設置する様子の一例を示す模式図である。
図2】従来の方法により得られた混合粉末中のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(A)、従来の方法により得られた混合粉末を積層造形した場合のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(B)、並びに本発明の方法により得られた混合粉末中のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(C)を示す模式図である。
図3】PBF方式による積層造形法を実施するための装置の一例を示す模式図である。
図4】実施例1の(ii)の工程により得られた混合粉末をSEMにより観察した写真である。
図5】実施例1で得られたAl基合金(A)及び比較例1で得られたAl基合金(B)のSEM写真である。
図6】粒度分布(標準偏差)算出用の実施例1で得られたAl基合金(A)及び比較例1で得られたAl基合金(B)のSEM写真である。
図7】実施例1~5及び比較例2~4のAl基合金の被削性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の高剛性アルミニウム基合金及びその製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるマトリックスと、該マトリックス中に分散しているホウ化チタンとを含む高剛性アルミニウム基合金であって、ホウ化チタンの含有量並びに平均粒径及びその相対標準偏差が特定されている、高剛性アルミニウム基合金に関する。
【0018】
ここで、本発明の高剛性アルミニウム基合金(高剛性Al基合金)は、Al系マトリックス中に微細なホウ化チタンが均一に分散している構造を有している。
【0019】
本発明の高剛性Al基合金のマトリックスを構成するアルミニウム合金としては、ケイ素をアルミニウム合金の総質量に対して、通常4質量%~24質量%含むアルミニウム合金、アルミ基合金全般など、広範囲なものが使用可能である。
【0020】
本発明の高剛性Al基合金のAl系マトリックス中に均一に分散しているホウ化チタンは、化学式TiBで示される二ホウ化物である。
【0021】
本発明の高剛性Al基合金に含まれるホウ化チタンは、規則的な結晶構造を有し、構成原子が強固に結合した化合物であるため、その結合力が直接反映されるヤング率は、極めて高いものである。また、ホウ化チタンは、Al合金中において、熱力学的に安定であるため、異種原子の侵入・置換、あるいは他の複合化合物の形成など、ホウ化チタンとAl系マトリックスとの反応に起因する結晶学的な変化を起こすことがない。この結果、ホウ化チタンは、Al合金中でも強固な結合力を維持し、高ヤング率のまま変化せず、Al基合金の高剛性化に寄与する強化粒子として、その優れた特性を十分に発揮することができる。したがって、本発明のAl基合金は、極めて高いヤング率、例えば通常90GPa~160GPaのヤング率を有することができる。
【0022】
ホウ化チタンの平均粒径は、SEM画像による円相当平均粒径として、通常0.01μm~10μm、好ましくは0.01μm~5μmであり、より好ましくは0.01μm~1μmである。また、ホウ化チタンの粒径の相対標準偏差は、通常1以下、好ましくは0.8以下である。ここで、相対標準偏差(RSD)は、標準偏差を平均値で除した値(すなわち、粒径の標準偏差/平均粒径)である。なお、相対標準偏差の下限値は限定されず、これは、粒径は揃っていることが好ましいためである。
【0023】
ホウ化チタンのSEM画像による円相当平均粒径は、まず、測定の対象となる高剛性Al基合金のBSE-SEM画像(反射電子像)を3画像撮影し、次に、各画像において、ランダムに200個以上のホウ化チタンを選択し、続いて、選択した各ホウ化チタンについて面積を算出し、算出した面積から円相当径を算出し、算出した円相当径から加算平均値をとることで求めることができる。標準偏差σは、得られた円相当平均粒径に基づいて計算することができる。
【0024】
ホウ化チタンの平均粒径が小さすぎる、例えば0.01μm未満になると、転位の動きを阻害し、マクロ強度が高くなる。一方で、ホウ化チタンの平均粒径が大きすぎる、例えば10μm超になると、機械加工が困難になる。したがって、ホウ化チタンの平均粒径が前記範囲であることで、高剛性Al基合金の加工時において、高硬度のホウ化チタンの切断における切削工具にかかる応力が分散され、切削工具の破壊が低減され、高剛性を維持したまま被削性が向上する。
【0025】
さらに、ホウ化チタンの相対標準偏差が前記範囲である、すなわちホウ化チタンの粒度が揃うことで、高剛性Al基合金の加工時において、高硬度のホウ化チタンの切断における切削工具にかかる応力が分散され、切削工具の破壊が低減され、高剛性を維持したまま被削性が向上する。
【0026】
ホウ化チタンの含有量は、高剛性Al基合金の総体積に対して、通常10体積%~50体積%、好ましくは10体積%~30体積%である。
【0027】
本発明では、ホウ化チタンの含有量が前記範囲であっても、ホウ化チタンが、ホウ化物同士の凝集、合体の形成を生じることなく、高剛性Al基合金において、十分な機械特性、特に高剛性を発揮することができる。
【0028】
したがって、本発明の高剛性Al基合金は、ホウ化チタンを有することによる十分な機械特性、特に高剛性を示しつつ、さらに、該ホウ化チタンが微細であること及びAl系マトリックスの結晶粒が小さいことにより、切削工程において、切削工具を破壊することなく、容易に切削することができる。
【0029】
本発明の高剛性Al基合金は、ホウ化チタン以外にも、最終的に得られる高剛性Al基合金中に求められる成分に応じて、一種以上の他の元素、例えばケイ素、マグネシウムニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、炭素、マンガン、及びそれらの化合物、例えばホウ化物などを含んでいてもよい。
【0030】
さらに、本発明は、前記で説明した本発明の高剛性Al基合金の製造方法にも関する。すなわち、本発明は、高剛性アルミニウム基合金を製造する方法であって、(i)アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末と含有量及び平均粒径を特定したホウ化チタンの粉末とを含む原料を金属製容器中に収容する工程、(ii)(i)の工程で原料を収容した金属製容器を、絶縁スペーサを介して、撹拌機に設置して撹拌混合し、混合粉末を得る工程、及び(iii)(ii)の工程で得た混合粉末を、積層造形法により処理して高剛性アルミニウム基合金を得る工程を含む方法に関する。
【0031】
以下に(i)~(iii)の各工程について説明する。
【0032】
(i)の工程において、アルミニウム合金からなる粉末としては、前記に挙げたようなケイ素をアルミニウム合金の総質量に対して、通常4質量%~24質量%含むアルミニウム合金の粉末が挙げられる。
【0033】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末の平均粒径は、限定されないが、例えば、レーザー回折による測定方法として、通常15μm~100μm、好ましくは20μm~60μmである。
【0034】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末の平均粒径が前記範囲になることで、以下で説明する(ii)の工程において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンとの混合を容易に、均一に行うことができる。
【0035】
ホウ化チタンの粉末の平均粒径は、前記で説明したSEM画像による円相当平均粒径として、通常0.01μm~10μm、好ましくは0.01μm~5μmであり、ホウ化チタンの粉末の粒径の相対標準偏差は、通常1以下、好ましくは0.8以下である。
【0036】
ホウ化チタンの粉末の平均粒径が前記範囲になることで、以下で説明する(ii)の工程において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンとの混合を容易に、均一に行うことができる。また、ホウ化チタンの粉末の平均粒径は、前記又は以下で説明する(iii)の工程により得られる高剛性Al基合金中のホウ化チタンの平均粒径とほぼ同じであるため、最終的に得られる高剛性Al基合金は、前記で説明したホウ化チタンの粒径の効果である高剛性及び被削性を有する。
【0037】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンの粉末との割合は、前記で説明した高剛性Al基合金が得られるように、高剛性Al基合金の総体積に対して、通常10体積%~50体積%、好ましくは10体積%~30体積%になるように調整される。
【0038】
なお、原料には、最終的に得られる高剛性Al基合金中に求められる成分に応じて、一種以上の他の元素、例えばケイ素、マグネシウム、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、炭素、マンガンなどを含んでいてもよい。
【0039】
金属製容器としては、鉄製、ステンレス製などが挙げられる。
【0040】
各粉末、すなわち、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末、ホウ化チタンの粉末、及び場合により一種以上の他の元素を含む粉末の金属製容器への収容順序、収容温度、収容方法は、限定されず、当技術分野において公知の収容手段を使用することができる。例えば、原料が一種以上の他の元素を含む粉末を含む場合、20℃~40℃で、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末とホウ化チタンの粉末とを金属製容器に収容した後に一種以上の他の元素を含む粉末を収容してもよいし、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末と一種以上の他の元素を含む粉末とを金属製容器に収容した後にホウ化チタンの粉末を混合してもよいし、ホウ化チタンの粉末と一種以上の他の元素を含む粉末とを金属製容器に収容した後にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる粉末を収容してもよいし、全ての粉末を同時に金属製容器に収容してもよい。
【0041】
(ii)の工程において、絶縁スペーサは、電気を流さない物質からなる、金属製容器と撹拌機とを絶縁的に接続するための器具(スペーサ)である。絶縁スペーサとしては、限定されず、当技術分野において公知の絶縁スペーサを使用することができる。絶縁スペーサとしては、例えば、発泡スチロール、ゴム、プラスチック、例えばポリエチレン、ポリエステル、エポキシ、メラミン、フェノール、ポリウレタンなど、無機材料、例えばセラミック、ガラスなどからなるスペーサが挙げられる。
【0042】
撹拌機としては、限定されず、当技術分野において公知の撹拌機を使用することができる。撹拌機としては、例えば、V型混合機(V型混粉器)、ボールミル、振動ミルなどが挙げられる。
【0043】
図1に本発明の方法における(ii)の工程で金属製容器1を、絶縁スペーサ2を介して撹拌機3に設置する様子の一例を模式的に示す。
【0044】
撹拌条件としては、限定されず、例えば、通常18℃~26℃において、通常10分間~60分間、混合される。
【0045】
原料を収容した金属製容器を、絶縁スペーサを介して、撹拌機に設置して撹拌混合することで、原料が収容されている金属製容器中において、粒径の小さなTiB粒子をAl又はAl合金粒子表面に均一に吸着させることができる。これは、原料を収容した金属製容器と撹拌機とを絶縁的に接続することで、原料混合中、金属製容器内で生じた静電気が逃げ場を失い、当該静電気によって、TiB粒子とAl又はAl合金粒子との静電吸着が引き起こされるためである。
【0046】
図2に従来の方法(絶縁スペーサを使用しない混合方法)により得られた混合粉末中のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(A)、従来の方法により得られた混合粉末を積層造形した場合のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(B)、並びに本発明の方法により得られた混合粉末中のAl又はAl合金粒子4及びTiB粒子5の状態(C)を模式的に示す。
【0047】
図2のAより、従来の方法により得られた混合粉末中では、TiB粒子5は凝集しており、あるいは流動が悪くて粉敷きできず、TiB粒子5が凝集した状態のまま積層造形すると、Bに記載する通り、Al基合金中で、TiB粒子5は粗大化してしまう。一方で、図2のCより、本発明の方法により得られた混合粉末中では、TiB粒子5の含有量が大きくても、粒径の小さなTiB粒子5をAl又はAl合金粒子4表面に均一に吸着させることができる。Al又はAl合金粒子4表面に均一に吸着されたTiB粒子5は、積層造形しても粗大化しない。
【0048】
(iii)の工程において、積層造形法とは、原料となる合金粉末を一層ずつ敷き詰め、これに、3Dデータから変換されたスライスデータに基づき、レーザー又は電子ビームを照射して、特定の部位のみを溶解・固化し、これを繰り返して熱処理前合金を型なしで成形する方法である。
【0049】
積層造形法では、混合粉末の急速加熱、対流撹拌及び急速冷却が可能である。積層造形法では、積層造形時の冷却速度、すなわち、特定の部位が、レーザー又は電子ビームを照射して溶解した後凝固する冷却速度は、通常10,000K/秒以上である。なお、積層造形時の冷却速度を前記範囲にするためには、例えばアルゴンガス又は窒素ガスにより冷却することができる。
【0050】
積層造形法は、例えば、粉末床溶融結合方式(Powder Bed Fusion:PBF)を含む。
【0051】
PBFは、混合粉末を敷き詰め、造形する部分にレーザー又は電子ビームを照射し、溶融・凝固させ積層させて合金を成型する方法である。
【0052】
PBFでは、レーザー又は電子ビームが照射されることにより溶融された合金前駆体は、急速に、通常10,000K/秒以上の速度で冷却され、合金が製造され得る。
【0053】
図3に、PBF方式による積層造形法を実施するための装置の一例の模式図を示す。図3では、真空雰囲気下にするためのカバー12の中で、まず、原料容器に装填された混合粉末6が押し上げられ、押し上げられた部分の混合粉末6がブレード7により敷き詰められる。次に、ブレード7により敷き詰められた混合粉末6に、レーザー又は電子ビーム発生機8によりレーザー又は電子ビーム9が照射される。混合粉末6にレーザー又は電子ビーム9が照射されると、混合粉末6中の粉末同士が溶融結合してベースプレート11上にAl基合金10が形成される。これらの工程がベースプレート11を下げながら繰り返し実施(積層造形)されることにより、Al基合金10が成型される。
【0054】
積層造形法では、当技術分野で公知の装置を使用することができ、限定されるものではないが、例えばSLM Solutions社製280HLが挙げられる。
【0055】
本発明において、積層造形法を使用することにより、粉末溶融後の冷却速度を速くすることができる、つまりホウ化チタンの粒子(結晶)成長時間及びAl系マトリックスの結晶粒成長時間を短くすることができる。さらに、ホウ化チタンの粒子は、Al系マトリックスの結晶粒のピン止め(ピンディング)効果を有し、Al系マトリックスの微細化を引き起こす。したがって、材料の凝固までの時間短縮によるホウ化チタン及びAl系マトリックスの結晶粒微細化並びに微細ホウ化チタンのピン止め効果によるAl系マトリックスの結晶粒微細化の相乗効果の結果、高剛性及び高強度を両立させ、さらには強度に対する伸びもまた改善させた、結晶粒の小さなAl系マトリックス中に粒径が小さいホウ化物が形成された高剛性Al基合金を形成することができる。
【実施例0056】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0057】
I.原料混合工程の検討
実施例1
以下の(i)~(iii)の工程により、Al基合金を製造した。
【0058】
(i)ケイ素をアルミニウム合金の総質量に対して12質量%含むアルミニウム合金の粉末と、ホウ化チタンの粉末(平均粒径(SEM):0.1μm、Al基合金の総体積に対して20体積%)とをステンレス製容器中に収容した。
【0059】
(ii)(i)の工程で原料を収容したステンレス製容器を、絶縁スペーサを介して、振動ミル(容器設置箇所:ステンレス製)に設置して25℃で、30分間撹拌混合し、混合粉末を得た。
【0060】
(iii)(ii)の工程で得た混合粉末を、積層造形法により処理(溶融及び凝固)してAl基合金を得た。
積層条件
積層造形機:3Dシステム社製
調製条件:造形角度90°、プラットフォーム予熱200℃、積層厚さ30μm
造形体形状:10mm×10mm×10mm
レーザー出力:225W(出力75%)
レーザー走査:1200mm/s
【0061】
比較例1
実施例1において、絶縁スペーサを使用しなかった(すなわち、ステンレス製容器と振動ミルとは導電的に接続されている)以外は、実施例1と同様にして、Al基合金を得た。
【0062】
実施例1の(ii)の工程により得られた混合粉末をSEMにより観察した。図4に結果を示す。なお、図4のA及びBは、それぞれ倍率が異なる。図4より、実施例1の(ii)の工程により得られた混合粉末では、微細なホウ化チタン5がAl粒子表面上に均一に吸着できていることがわかった。実施例1において、原料を収容したステンレス製容器と振動ミルとを絶縁的に接続したことにより、微細なホウ化チタン5をAl粒子表面上に静電吸着により均一に吸着できることがわかった。
【0063】
実施例1及び比較例1で得られたAl基合金を、SEMにより観察した。図5に結果を示す。図5より、実施例1のAl基合金(図5A)では、ホウ化チタン5がAl系マトリックス中に均一に分散していたのに対し、比較例1のAl基合金(図5B)では、粗大なホウ化チタン5の粒子がAl系マトリックス中に存在することがわかった。
【0064】
続いて、実施例1及び比較例1で得られたAl基合金のSEM写真において、円相当平均粒径を算出した。表1及び2並びに図6(A:実施例1、B:比較例1)に結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1及び2並びに図6より、実施例1では、ホウ化チタンの平均粒径は、小さい標準偏差、すなわち、優れた(狭い)粒度分布を有することがわかった。
【0068】
また、実施例1のAl基合金のヤング率を測定したところ、Alが約70GPaのヤング率を有するのに対して、104GPaのヤング率を有することがわかった。
【0069】
したがって、本発明のAl基合金では、ホウ化チタンを20体積%含んでいたとしても、微細な状態のホウ化チタンを維持して、高剛性と機械加工性を両立できることがわかった。一方で、比較例1のAl基合金の場合、ホウ化チタンが凝集、粗大化しているため、機械加工ができず、破壊起点となることがわかった。
【0070】
II.ホウ化チタンの平均粒径の検討
実施例2~5
実施例1において、ホウ化チタンの平均粒径(SEM)を、0.01μm(実施例2)、1μm(実施例3)、5μm(実施例4)、又は10μm(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様にして、Al基合金を得た。
【0071】
比較例2~4
実施例1において、ホウ化チタンの平均粒径(SEM)を、0.001μm(比較例2)、25μm(比較例3)、又は30μm(比較例4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、Al基合金を得た。
【0072】
実施例1~5及び比較例2~4のAl基合金の被削性を評価した。図7に結果を示す。なお、被削性は、大きいほど良好である。
【0073】
図7より、ホウ化チタンの分散性を改善したAl基合金では、ホウ化チタンのSEMによる平均粒径を、0.01μm~10μm、好ましくは0.1μm~1μmにすることによって、被削性を向上できることがわかった。
【符号の説明】
【0074】
1.金属製容器、2.絶縁スペーサ、3.撹拌機、4.アルミニウム又はアルミニウム合金、5.ホウ化チタン、6.混合粉末、7.ブレード、8.レーザー又は電子ビーム発生機、9.レーザー又は電子ビーム、10.Al基合金、11.ベースプレート、12.カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7