(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174574
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ミラベグロン製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/426 20060101AFI20241210BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/426
A61P13/10
A61K9/20
A61K9/30
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092467
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 彬子
(72)【発明者】
【氏名】生田 祥太郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC17
4C076DD69
4C076EE23
4C076EE31
4C076FF01
4C076FF21
4C076FF65
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086NA05
4C086ZA81
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】ミラベグロン製剤の保存安定性を向上させ、保存環境の湿度に依存する薬物溶出挙動の変化を抑制する。
【解決手段】ミラベグロンとイソマル水和物とを含む医薬組成物が提供される。医薬組成物はさらにハイドロゲルを形成する高分子物質を含み得、ハイドロゲルを形成する高分子物質は、ポリエチレンオキサイド、セルロースエーテル、またはそれらの組合せであり得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラベグロンと、イソマル水和物とを含む、医薬組成物。
【請求項2】
さらに、ハイドロゲルを形成する高分子物質を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、セルロースエーテル、またはそれらの組合せである、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与用である、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
錠剤の形態である、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
さらにフィルムコーティングを含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は医薬組成物に関し、特に、アドレナリンβ3受容体アゴニストであるミラベグロンの製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミラベグロンは、2-(2-アミノ-1,3-チアゾール-4-イル)-N-[4-(2-{[(2R)-2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル]アミノ}エチル)フェニル]アセトアミド、または(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドと表され、YM-178とも呼ばれる、アドレナリンβ3受容体アゴニスト活性を有する化合物である。ミラベグロンは例えば過活動膀胱の治療薬として使用され得る。
【0003】
特許文献1~3はミラベグロンを活性成分として含む放出制御医薬組成物を記載しており、特許文献4も、ミラベグロンを活性成分として含む製剤を記載している。特許文献1の組成物は、1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す「製剤内部に水を浸入させるための添加剤」として、少なくともポリエチレングリコールを含有し、ハイドロゲルを形成する高分子物質として、特定のポリエチレンオキサイドを少なくとも含有するものである。
【0004】
特許文献2の組成物は、同様の「製剤内部に水を浸入させるための添加剤」として、「ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、およびメグルミンからなる群より選択される一種以上」を含有し、ハイドロゲルを形成する高分子物質として「ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上」を含有するものである。
【0005】
特許文献3の組成物は、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤であり、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である。特許文献4の製剤は、ミラベグロンと、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンとを含むことを特徴とするものである。
【0006】
ミラベグロンを含む錠剤は、例えばベタニス(登録商標)、Myrbetriq(登録商標)、またはBetmiga(登録商標)という商品名で市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4688089号
【特許文献2】特許第5625855号
【特許文献3】特許第5849946号
【特許文献4】特開2017-048136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミラベグロン製剤の従来の製品は、薬物安定性の面で改善の余地があり、経時的に類縁物質(分解産物)が発生すること、および保管時の湿度によって錠剤の溶出挙動が変化し得ることが観察された。
【0009】
本開示の実施形態により、ミラベグロン製剤の保存安定性を向上することができ、保存環境の湿度に依存する薬物溶出挙動の変化を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
ミラベグロンと、イソマル水和物とを含む、医薬組成物。
[2]
さらに、ハイドロゲルを形成する高分子物質を含む、[1]に記載の医薬組成物。
[3]
前記ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、セルロースエーテル、またはそれらの組合せである、[2]記載の医薬組成物。
[4]
経口投与用である、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]
錠剤の形態である、[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]
さらにフィルムコーティングを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、高温保存前(「開始時」、左)および高温保存後(右)の製剤において検出された総類縁物質含量を、ミラベグロンに対する重量%として示して、比較例と実施例のあいだで比較している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一側面において本開示は、ミラベグロンと、イソマル水和物とを含む、医薬組成物を提供する。ミラベグロン自体は上述したように公知である。イソマル水和物も公知である。「イソマル(isomalt)」は日本語で「イソマルト」と表示または発音されることもある。イソマル水和物は、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール(GPS)および1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール(GPM)の混合物であり、水和水を含む。イソマル水和物はGPSおよびGPM二水和物の混合物と考えることもできる。混合物中のGPSとGPM(あるいはGMP二水和物)は、通常は等モルでありそれが好適であるが、両者のモル比は例えば9:1~1:9、8:2~2:8、7:3~3:7、または6:4~4:6の範囲内でもあり得る。好ましい一実施形態において、混合物中のGPSとGPM(あるいはGMP二水和物)のモル比は2:1~5:1の範囲内である。
【0013】
本実施形態の医薬組成物は典型的には固形製剤である。組成物中のミラベグロンの含有量は典型的には1~30質量%であり、好ましくは5~25質量%、より好ましくは7~20質量%である。組成物中で、ミラベグロン1質量部に対するイソマル水和物の質量部は例えば0.1~10、好ましくは0.3~3、より好ましくは0.5~2、特に好ましくは0.9~1.2である。つまり、ミラベグロンとイソマル水和物をほぼ当量含ませることが好ましい。組成物中のイソマル水和物含有量は典型的には1~40質量%であり、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~25質量%である。
【0014】
イソマル水和物は通常、室温で、0.1g/ml以上、例えば0.25~0.42g/mlの水溶性を有する。つまりイソマル水和物は1gを溶解する水の量が10ml以下(例えば4ml以下、または2.4ml以下)である溶解性を示す。このような基本的性質により、イソマル水和物は、製剤内部まで水を侵入させるための親水性添加物としての役割を少なくとも果たすことができる。しかしながら、ミラベグロンの安定化、およびその溶出挙動の安定化に対する影響を考慮すると、イソマル水和物は単なる親水性添加物にとどまらずさらなる特異な効果を提供できると見られる。
【0015】
好ましい実施形態による組成物は、さらに、ハイドロゲルを形成する高分子物質を含む。当業者に理解されるように、ハイドロゲルとは、ポリマーのネットワーク中に多量(例えばポリマーの少なくとも10重量%)の水が保持されることにより形成されるゲルである。ハイドロゲルを形成する高分子物質を、イソマル水和物と共に含有することにより、本実施形態の製剤は、消化管上部(具体的には、胃および小腸)に滞留中に内部まで水が侵入してほぼ完全にゲル化することができる。例えば、後述するゲル化試験において、3時間後、4時間後、または5時間後のゲル化率が好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。ハイドロゲルを形成することができるポリマーすなわち高分子物質は当業者に知られており、例えば特許文献2に記載されたものを使用することができる。特に好ましい実施形態において、ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、セルロースエーテル、またはそれらの組合せであり得る。
【0016】
当業者に知られているように、セルロースエーテルとは、セルロースのヒドロキシ基が修飾されてエーテル基を形成しているものである。セルロース本来のグルコース環上のヒドロキシ基は、隣接するヒドロキシ基との間に水素結合を生じて水和を阻害するが、これらヒドロキシ基の水素を炭化水素基に置換してエーテル基とすることにより水和が促進され、水溶性が得られることが理解されている。本実施形態で好適なセルロースエーテルの例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、およびそれらいずれかの組合せならびに薬学的に許容されるそれらの塩(例えばナトリウム塩またはカリウム塩)が挙げられる。
【0017】
ポリエチレンオキサイド(PEO)は、分子量が2万以下であるポリエチレングリコール(PEG)から区別される。本実施形態におけるハイドロゲルを形成する高分子物質、例えばポリエチレンオキサイドおよび/またはセルロースエーテルは、平均分子量が10万以上(セルロースエーテルについては2万以上)、または5%水溶液25℃での粘度が12mPa・s以上であり得る。本開示において平均分子量は、特に他の指定がない限り粘度平均分子量として表示される平均分子量であり得る。ハイドロゲルを形成する高分子物質の平均分子量は10万~700万(セルロースエーテルについては2万以上)、例えば10万~90万、100万~200万、または400万~700万であり得る。5%水溶液25℃での粘度は例えば30~17600mPa・sであり得る。それに加えて、またはそれに代えて、ハイドロゲルを形成する高分子物質の2%水溶液25℃での粘度が400~4000mPa・s、および/または1%水溶液25℃での粘度が1650~10000mPa・sであり得る。
【0018】
組成物中の、ハイドロゲルを形成する高分子物質の含有量は、例えば20~80質量%、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%であり得る。組成物中で、イソマル水和物1質量部に対する、ハイドロゲルを形成する高分子物質の質量部は例えば0.1~10、好ましくは0.5~5、より好ましくは1~3であり得る。好ましくはポリエチレンオキサイドおよびセルロースエーテルの両方が含有される。好ましい一例において、ポリエチレンオキサイドが10~30質量%、セルロースエーテルが10~50質量%含有され得る。
【0019】
特定の好ましい実施形態において、組成物は、ミラベグロンと、イソマル水和物と、ポリエチレンオキサイドと、セルロースエーテルとを含む。一実施形態において組成物は、1~30質量%のミラベグロン、5~35質量%のイソマル水和物、10~30質量%のポリエチレンオキサイド、および10~50質量%のセルロースエーテルを、合計が100質量%以下になる範囲内で含む。
【0020】
本実施形態の組成物は、上述した成分の他に、医薬分野の当業者に知られる担体、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、着色剤、甘味剤等のうちの1つ以上であり得る追加の成分を含んでもよく、本開示においてこれらの追加の成分を添加物と総称する。添加物の具体的な例には、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム、および抗酸化剤としてのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が含まれるが、これらに限定されない。ミラベグロン、イソマル水和物、およびハイドロゲルを形成する高分子物質の合計質量が、組成物全体質量の好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0021】
上述した成分が圧縮成形されると錠剤が調製され得る。ミラベグロン、イソマル水和物、およびハイドロゲルを形成する高分子物質を少なくとも含む混合物がいったん造粒され、そのうえで圧縮成形されていてもよい。造粒を経ると混合物の流動性が向上し、圧縮成形プロセスにおける錠剤あたりの重量バラつきが抑制されるため好ましい。本実施形態の錠剤は、上記で組成を記述してきた素錠に加えてさらに、素錠に対して外部にあるフィルムコーティングを含んでもよい。適切なフィルムコーティングの技術および組成は当業者によく知られている。特定の一例において、フィルムコーティングは、上述したいずれかのセルロースエーテル(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)およびポリエチレングリコールを含み、さらに上述した添加物のいずれかを含んでもよい。典型的にはフィルムコーティングの質量は組成物全体質量の1~5%を占める。
【0022】
本実施形態の製剤は、坐剤等として、すなわち非経口投与用の医薬組成物としても提供され得るが、経口投与用医薬組成物として提供されることがより好ましい。剤形は例えば錠剤、カプセル剤、または顆粒剤であり得る。制御放出プロファイルの安定化という利点を最大限活かすためには、錠剤の形態が特に好ましい。
【0023】
本実施形態の製剤は、好ましくは、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)において試験液900mL(例えばUSP buffer pH6.8、またはMcIlvaine緩衝液pH7.5)を用いてパドル回転数200rpmの条件で溶出試験を実施した場合の、試験開始30分後における薬物(すなわちミラベグロン)溶出率が85%未満である。本開示においてこの薬物溶出率条件を満たす製剤または組成物を「放出制御」製剤または組成物という。放出制御製剤または組成物について、上記条件によるミラベグロン溶出率は50%以下、または20%以下であり得る。
【0024】
一側面において本開示は、上述した組成物の製造方法を提供する。この方法は、ミラベグロン、イソマル水和物、およびハイドロゲルを形成する高分子物質を混合して混合物を提供すること、および該混合物を圧縮成形して錠剤を提供すること含む。ある実施形態では方法は、圧縮成形することの前に、該混合物を造粒することを含む。ある実施形態では方法は、圧縮成形して得られた素錠にフィルムコーティングを適用することを含む。
【0025】
本実施形態の好ましい製造方法すなわち製剤化方法をより詳しく記述すると、まず、ミラベグロン、イソマル水和物、およびハイドロゲルを形成する高分子物質を混合して、これらを少なくとも含む均質な混合物を提供する。その後、当業者に知られる方法で混合物の造粒を行うことが好ましい。例えば、上記混合物に(例えばエタノールを加えて)流動層造粒法により造粒を行うことができる。この造粒の段階で、ミラベグロン、イソマル水和物、およびハイドロゲルを形成する高分子物質のうちのいずれかを(例えば流動層造粒法の噴霧液に含ませて)さらに追加することもできる。圧縮成形前の段階(例えば、造粒後、圧縮成形前の段階)で、滑沢剤を加えることが好ましい。造粒されているまたはされていない混合物を、圧縮成形することにより、素錠として錠剤を得ることができる。その後、当業者に知られる方法により、素錠上にフィルムコーティング適用することができる。上述した添加物は、当業者の通常の知識に基づいて、また具体的な添加物の種類に応じて、混合、造粒、圧縮成形、およびフィルムコーティング適用のいずれかの段階において添加され得る。
【0026】
医薬組成物を錠剤として調製する他に、造粒されているまたはされていない混合物をカプセル封入してカプセル剤とする実施形態、または造粒された混合物を顆粒剤として提供する実施形態も企図される。
【0027】
錠剤のゲル化率は、特開2001-10951号に記載された方法に従って測定することができる。具体的には、本開示におけるゲル化率とは、以下のゲル化試験方法によって測定される値である。
試験液として日本薬局方12改正(以下、日局)崩壊試験法第2液(pH6.8)を用い、日局溶出試験法第2法(パドル法)によりパドル回転速度25rpmで試験を行う。各時間点ごとに錠剤を取り出し、ゲル層を剥離後、ゲル化していない部分の直径(長径)を測定してDobs値を得る。Dobsを下記数式1に代入してゲル化率(G)を算出する。ここで、Dobsは、試験時間経過後にゲル化していない残存部分の長径を意味し、Diniは試験開始前の製剤の長径を意味する。
[数式1]
ゲル化率(G, %)= (1- (Dobs)3/ (Dini)3) × 100
【0028】
本明細書において、「A~B」(あるいは「AからBまで」または「AとBの間」)という表現を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値AおよびBをそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示し、また、その最小値および/または最大値を除外した範囲も包含する。また、「A~B」という記載は、「A以上」または「A超」という範囲、および「B以下」または「B未満」という範囲も開示すると解される。複数の数値範囲が記載されている場合は、或る記載された数値範囲の上限値または下限値は、別の記載された数値範囲の上限値または下限値と組み合わせることができ、そのように組み合わされてできる数値範囲も本願において開示されていると解する。本明細書において、「Aを含む」または「Aを有する」という表現は、文脈に反しない限り、Aと合わせてA以外のものも含む対象物を意味しており、また、A以外のものを含まずAのみを含む対象物すなわちAからなる対象物の開示もその記載に包含され、その逆も然りであると解される。単数の対象物への言及は、複数の対象物が使用される実施形態の開示も包含していると解される。
【実施例0029】
50質量部のミラベグロン、50質量部のPEO(カラコン社、N60K、平均分子量200万)、80質量部のHPMC(信越化学工業社:TC-5 E、重量平均分子量2万)、および54.5質量部のイソマル水和物(beneo社、galenIQ(商標)801)を均質に混合して混合物を得た。流動層造粒機内で、12.5質量部のHPC(日本曹達社;HPC-SL、重量平均分子量10万)および0.5質量部のBHTを含むエタノール溶液を上記混合物に噴霧しながら造粒を行って造粒品を得た。この造粒品にさらに2.5質量部のステアリン酸マグネシウムを混合した後、圧縮成形して素錠としての錠剤を得た。この素錠に対して、常法に従って、5.6質量部のHPMC、1.0質量部のPEG、および1.4質量部の黄色三二酸化鉄からなるフィルムコーティングを適用して、実施例の製剤を得た。製剤1個あたりのミラベグロン含有量は50mgであり、総質量は258mgであり、そのうち素錠の質量が250mgであってフィルムコーティングの質量は8mgである。上記成分のうち、PEO、HPMC、およびHPCはハイドロゲルを形成する高分子物質である。比較例の製剤は、素錠部分に上記イソマル水和物とHPMCの組合せを欠く代わりにポリエチレングリコールを含むほかは、実施例の製剤と本質的に同様の、ミラベグロン50mg含有フィルムコーティング錠剤である。
【0030】
実施例および比較例それぞれの製剤の第1のサンプルは、60℃の加温を伴って3週間置かれるという高温保存(60℃, 3W)を経た。対応する第2のサンプルは、この高温保存を経る前すなわち「開始時」の製剤である。
図1は、開始時(左)および高温保存後(右)の製剤において検出された総類縁物質含量を、ミラベグロンに対する重量%として示している。類縁物質は、ミラベグロンそのものに対応する分解産物に相当し、その含量は、各製剤をHPLCにて分析して各々のピーク面積を自動積分法により測定することにより定量化した。
図1に示されているように、イソマル水和物を含有する実施例の製剤では、高温保存後に、類縁物質の蓄積の顕著な抑制が得られた。
【0031】
別の実験において、実施例および比較例それぞれの製剤の第1のサンプルは、25℃、75%RH(相対湿度)の環境に1ヶ月置かれるという高湿保存(75%RH, 1M)を経た。対応する第2のサンプルは、この高湿保存を経る前すなわち「開始時」の製剤である。これらのサンプルに対し、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)により、pH7.5McIlvaine緩衝液900mLを試験液として経時的に溶出試験を行った。結果を表1、2に示す。表1および表2は、それぞれ、パドル法のパドル回転速度を50rpmおよび200rpmとして試験した結果を示す。溶出試験実施中の異なる時点(分)における「開始時」サンプルと高湿保存後サンプルの溶出率および両者の差を示している。比較例の製剤は、高湿保存を経たサンプルと経ていないサンプルのあいだで、ミラベグロン溶出率の明らかな変化が生じた。つまり、高湿保存を経た後のサンプルは放出制御が部分的に失われミラベグロン溶出の速度が約6~7%速まる傾向が明らかであった。それに対し、実施例の製剤では、高湿保存を経た後であっても放出制御のプロファイルが実質的に維持された。
図1ならびに表1、2に示す結果は、イソマル水和物の含有による製剤中のミラベグロンの安定化およびその放出制御の安定化を例示するものである。
【0032】
【0033】