(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174577
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】溶接作業支援システムならびに溶接作業支援方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/00 20060101AFI20241210BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241210BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B23K37/00 A
B23K31/00 Z
B23K9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092471
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】緒方 真
(72)【発明者】
【氏名】大山 拓馬
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA04
(57)【要約】
【課題】プロジェクションマッピング技術を用いて、溶接個所の選定と、溶接位置、溶接条件等を溶接作業者に迅速かつ的確に提供する。
【解決手段】人手による溶接作業を行う際に、溶接作業支援システムは設計データに基づいて次の溶接部品110を選定し、溶接部品110の位置の表示と、溶接個所を太線81、82にて表示して指定する。また、溶接条件表示画面60を併せて表示する。さらに、溶接時の溶接機の設定を、その都度システムから自動設定することで、作業者150による溶接前の段取り時間を削減させる。溶接トーチ130の動きは、モーションキャプチャにより検出され、溶接トーチ130の動作と、溶接機の実績データを用いて、一溶接ごとに品質の自動判定が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象物に対して人手による溶接作業箇所を順次指示するプロセッサユニットと、プロセッサユニットによって指示される情報を前記溶接対象物に表示するプロジェクタと、を有し、溶接機を用いて人手による溶接対象物に対する溶接作業を支援する溶接作業支援システムであって、
作業情報を有する3D-CADデータを格納する記憶部を設け、
前記記憶部に格納された3D-CADデータを用いて前記溶接対象物に対する次の溶接作業箇所の溶接位置と溶接条件を指定する溶接条件演算部と、
前記指定された溶接位置を、前記プロジェクタによって表示される画像内の前記溶接対象物上に位置合わせした状態にて表示するプロジェクションマッピング演算部と、
前記溶接機に対して通信を行う通信ユニットと、を設け、
前記溶接条件演算部は、指定された前記溶接条件を、前記プロジェクタによって表示される同一画像内に前記溶接位置と共に表示させると共に、前記通信ユニットを介して前記溶接機に送信することで前記溶接機の溶接モードを自動設定させることを特徴とすることを特徴とする溶接作業支援システム。
【請求項2】
前記溶接機の稼働状況と、作業者によって操作される溶接トーチの位置情報に基づいて前記溶接作業が完了したか否を判定する溶接品質予測演算部を設け、
前記溶接品質予測演算部が溶接作業が完了したと判断したら、溶接結果を前記プロジェクタに表示すると共に、3D-CADデータから次の溶接作業箇所を選定することを特徴とする請求項1に記載の溶接作業支援システム。
【請求項3】
前記溶接トーチに位置検出用のマーカを取り付け、
前記マーカを用いて前記溶接トーチの移動軌跡を取得するモーションキャプチャ部を設け、
前記溶接品質予測演算部は、前記モーションキャプチャ部によって取得された前記移動軌跡と、前記溶接トーチに供給される電流及び電圧値の実績データを取得し、前記3D-CADデータ内の形状情報に基づいて溶接品質の合否を判定することを特徴とする請求項2に記載の溶接作業支援システム。
【請求項4】
前記プロジェクタによる表示領域は、前記溶接対象物の一部又は全部を含むように設定され、
前記溶接条件として前記溶接機に設定された溶接モードの詳細が表示されることを特徴とする請求項2に記載の溶接作業支援システム。
【請求項5】
作業情報を有する3D-CADデータを格納するための記憶部と、前記3D-CADデータを用いて溶接対象物に対して溶接作業指示を作成するプロセッサユニットと、前記溶接対象物の各部位に対してマッピングを行って画像を表示するプロジェクタを有し、前記プロセッサユニットによって作成される前記溶接作業指示を前記画像内に含めて表示することで、溶接機を用いて人手による溶接対象物に対する溶接作業を支援する溶接作業支援システムにおける溶接支援方法であって、
作業者の把持する溶接トーチに位置検出用のマーカを設けると共に、前記マーカの位置と動きを検出するキャプチャ装置を設け、
前記プロセッサユニットは、
(a)前記プロジェクションマッピングによって前記溶接対象物の次の溶接対象の指定と溶接作業の内容を表示し、
(b)前記溶接機と通信することによって前記溶接機に対して前記3D-CADデータに含まれる溶接条件に従って溶接モードを設定し、
(c)前記作業者による溶接作業が開始されたら、前記キャプチャ装置によって溶接時の溶接範囲を検出すると共に、前記溶接機から溶接時の溶接データを通信によって取得し、
(d)前記作業者による溶接作業が終了したら、取得された前記溶接範囲と前記溶接データに基づいて溶接品質を判定し、
(e)前記判定により良好である場合は、次の溶接対象に対して上記(a)~(d)のステップを繰り返し、
(f)前記判定により不適である場合は、前記プロジェクションマッピングによって溶接作業の修正を指示する、
ことを特徴とする溶接作業支援システムにおける溶接作業支援方法。
【請求項6】
前記プロジェクタによる表示領域は、前記溶接対象物上であって、前記溶接対象物の位置を含む範囲に設定されることを特徴とする請求項5に記載の溶接作業支援方法。
【請求項7】
作業者によって操作される溶接トーチの前記マーカを撮影可能な位置に、前記マーカの軌跡を取得するための入力手段が設けられることを特徴とする請求項6に記載の溶接作業支援方法。
【請求項8】
前記3D-CADデータには、使用される部品と、前記部品の組立て手順と、組立て時における溶接個所の情報が含まれ、前記プロセッサユニットは、前記部品の組立て手順に従って前記ステップ(a)の指定を行うことを特徴とする請求項7に記載の溶接作業支援方法。
【請求項9】
前記プロセッサユニットは、前記ステップ(a)における前記溶接作業の内容の表示のために、前記溶接個所の近傍に溶接条件表示画面を設定し、前記溶接条件表示画面内に前記溶接作業の詳細を表示することを特徴とする請求項8に記載の溶接作業支援方法。
【請求項10】
前記プロセッサユニットによる前記ステップ(d)における溶接品質の判定は、前記溶接機の実績稼働データと前記作業者の移動及び操作データと、上記3D-CADデータ内の形状情報に基づいておこなわれることを特徴とする請求項9に記載の溶接作業支援方法。
【請求項11】
前記プロセッサユニットは、溶接作業が不適と判断された場合に表示すべき修正作業内容マニュアルを予め記憶部に格納しておき、前記(f)のステップの溶接作業の修正指示には、前記修正作業内容マニュアルの該当箇所を表示することを特徴とする請求項10に記載の溶接作業支援方法。
【請求項12】
前記プロセッサユニットは、前記ステップ(a)で表示される次の溶接対象の指定において、前記溶接対象物への部品の取付け作業が伴う場合は、その取付け部品名と、取付け位置の指示情報を併せて表示することを特徴とする請求項11に記載の溶接作業支援方法。
【請求項13】
前記プロセッサユニットは、前記ステップ(d)にて判定された品質情報と、前記溶接作業の実績データを前記記憶装置に格納することにより記録することを特徴とする請求項11に記載の溶接作業支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手作業にて溶接を行う現場における溶接作業支援のためのシステムであり、溶接作業を人手で行う作業者に、作業前の溶接対象の指示と溶接指示情報を適切に提供すると共に、溶接後の品質確認を自動で行うようにした。
【0002】
流れ作業による大量生産の製造現場において、溶接を行う対象物に対して、溶接自動ロボットを用いて多数の溶接個所に自動で溶接することが広く行われている。自動車の生産ラインがこの一例であり、自動溶接ロボットの制御プログラムと連動させることによって、溶接時の溶接機の設定、各種センサによる溶接時の検出データの取得、検出された設定やデータと、溶接個所との対応付けを行っての記憶装置へのデータの保管などが行われている。自動溶接ロボットを用いた溶接作業では、溶接作業がプログラムによって自動で行われるため、溶接個所の漏れが生じる恐れが無く、正しい溶接施工が確実に実施される。また、溶接機データおよび溶接動作の記録を細かく取得することによって、品質の自動判断が容易になる。
【0003】
流れ作業対象とならないような大型の溶接対象物、例えば、鉄道車両や船舶等においては、溶接を行う作業者が、設計図面や作業指示書を確認しながら、溶接個所を特定し、溶接個所における溶接条件(図面に基づいた溶接機の電流や電圧設定等)を確認し、溶接条件に沿った作業を遂行する。溶接作業が完了した後には、目視による溶接状態の確認を行い、溶接状態の品質の確認を行う。この品質の確認の際は、溶接箇所のビード形状や溶け込み形状などの出来栄えを超音波検査等の検査機器を用いてさらに確認する場合もある。このように溶接作業を人手で行う場合は、設計図面や作業指示書の確認や、逐次の溶接機設定などの段取り作業に多くの時間が費やされるという課題があった。また、人手による溶接作業の対象は、大型のもの多いという実情があり、極めて多数の溶接個所が存在することが多く、溶接作業の品質は作業者の熟練度に依存する傾向にあるという問題があった。
【0004】
人手による作業を支援するために、設計図面の内容、寸法や作業条件の確認を、作業前の作業者に対してタイムリーに提供することによって、作業に要するリードタイムを短縮させる作業支援システムが知られている。例えば、特許文献1では、ワークの表面に向かって第1及び第2のマーカを投影し、ワークが目標形状に変形したときに第1のマーカと第2のマーカとがワークの表面上で一致するように、第1のプロジェクタ装置および第2のプロジェクタ装置それぞれが目標形状になる前のワークの表面に向かって第1および第2のマーカを投影することで、三次元測定機を使用することなく、ワークに対する作業内容の決定ができるようにして、作業者による作業時間が短くなるように支援する作業支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プロジェクションマッピング技術を用いて、溶接対象となる部品や溶接個所の選定と、溶接対象への溶接位置、溶接条件等の様々な情報を作業者に迅速かつ的確に提供することができる溶接作業支援システムを実現することにある。
本発明の他の目的は、人手による溶接個所の作業漏れを防ぎ、システムによって溶接品質を自動で評価し、作業者へ適切にフィードバックすることで、作業者による溶接状態確認の労力を削減すると共に高品質な作業を実現できるようにした溶接作業支援システムを実現することにある。
本発明のさらに他の目的は、手作業による溶接作業箇所を取得し、溶接状態の履歴と対応付けて記録することで、高品質かつトレーサビリティ性の高い作業管理を実現できる溶接作業支援システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、人手による溶接作業を行う際に、溶接作業支援システムは設計図(3D-CADデータ等)に基づく溶接対象を選定し、溶接対象の板厚・開先・周辺形状から適切な溶け込み深さを実現する溶接作業指示書を生成し、プロジェクションマッピングにて溶接対象物上に表示をする。この表示には、溶接部品の表示と、溶接個所の位置指定と、溶接作業の条件を含める。また、溶接する溶接個所に最適な溶接機の設定(溶接モード)を、溶接作業支援システムにて自動設定することで、作業者の段取り時間を大幅に削減させる。作業者は、手作業による高品質な溶接作業の実行に集中することができる。
【0008】
本発明の他の特徴によれば、作業者による溶接後においては、溶接作業支援システムから作業者に対して指示した情報と、作業者による溶接トーチの移動及び動作の履歴データと、溶接機から得られた溶接実績データを記憶装置内に記録する。また、記録されたデータを用いて、リアルタイムで溶接による溶け込み深さやビード形状等を推定し、溶接裏側の未溶着長さまで含めた溶接品質の良否を判定する。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、本発明の溶接作業支援システムは、作業情報を有する3D-CADデータを格納するための記憶部と、3D-CADデータを用いて溶接対象物に対して溶接作業指示を作成するプロセッサユニットと、溶接対象物の各部位に対して位置合わせした状態で画像を表示するプロジェクタを有し、プロセッサユニットによって作成される溶接作業指示を前記画像内に含めて表示するようにして、溶接機を用いて人手による溶接対象物に対する溶接作業を支援する。この際、作業者の把持する溶接トーチにマーカを設けると共に、溶接作業実行時のマーカの位置と動きを検出するキャプチャ装置を設ける。プロセッサユニットは、(a)プロジェクションマッピングによって溶接対象物の次の溶接対象の指定と溶接作業の内容を表示し、(b)溶接機と通信することによって溶接機に対して3D-CADデータに含まれる溶接条件に従って溶接モードを設定し、(c)作業者による溶接作業が開始されたら、キャプチャ装置によって溶接時の溶接範囲を検出すると共に、溶接機から溶接時の溶接データを通信によって取得し、(d)作業者による溶接作業が終了したら、取得された溶接範囲と溶接データに基づいて溶接品質を判定する。(e)判定により良好である場合は、次の溶接対象に対して上記(a)~(d)のステップを繰り返し、(f)判定により不適である場合は、プロジェクションマッピングによって溶接作業の修正を指示し、作業者による修正作業が完了した後に、次の溶接対象に対して上記(a)~(d)のステップを繰り返すようにした。
【0010】
本発明の他の特徴によれば、プロジェクタによる表示領域は、溶接対象物上であって、溶接対象の位置を含む範囲に設定される。また、溶接トーチに取り付けられたマーカを撮影可能な入力手段が設けられることにより、溶接作業支援システムにモーションキャプチャ機能が実現される。3D-CADデータは、溶接対象物の設計データであって、溶接作業に必要な部分をあらかじめ又は溶接作業支援システムの稼働中に適宜外部から取得される。3D-CADデータには、使用される部品と、部品の組立て手順と、組立て時における溶接個所の情報が含まれ、プロセッサユニットは、部品の組立て手順に従って前記ステップ(a)の指定及び表示を行う。この表示の際に、溶接個所の近傍に溶接条件表示画面を設定し、溶接条件表示画面内に溶接作業の詳細を表示すると良い。
【0011】
本発明のさらに他の特徴によれば、溶接作業支援システムの記憶装置に、溶接作業が不適と判断された場合に表示すべき修正作業内容マニュアルを予め格納しておき、(f)のステップの溶接作業の修正指示には、修正作業内容マニュアルの該当箇所を表示する。前記ステップ(d)における溶接品質の判定は、溶接機の実績稼働データと溶接トーチの操作データと、上記3D-CADデータ内の形状情報に基づいておこなわれる。また、前記ステップ(a)で表示される溶接対象の指定において、溶接対象物への部品の取付け作業が伴う場合は、その取付け部品名と、取付位置の指示情報を併せて表示する。さらに、ステップ(d)にて判定された品質と、溶接作業の実績データを記憶装置に格納することにより溶接作業の詳しい履歴を記録する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接の作業者は、プロジェクションマッピングにて鉄道車両等の溶接対象物(又はその周辺の作業面)に重ね合わせるようにして表示される作業指示情報(次の溶接対象物の指定、溶接条件、溶接位置等)に従って、対象とする溶接作業を表示された指示内容に従って作業すれば良いので、溶接作業前の段取り時間と、取り付け部品の確認や取り付け位置の決定、溶接個所の確認のために要する時間を大幅に削減できる。また、溶接作業時に溶接トーチの移動軌跡と、溶接機にて取得された溶接データを取得して記録すると共に、それらの記録を用いてプロセッサユニットによる品質確認を自動で行うので、作業後に要する確認時間も短縮でき、高品質な溶接を実現できる。さらには、溶接不良が発生した場合は、システムからのアラームと作業修正指示が発せられるので、溶接不良個所が未修繕のまま放置される恐れを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る溶接作業支援システム1の適用例を説明するための図である。
【
図2】作業者による溶接機120を使用した溶接作業状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施例に係る溶接作業支援システム1のブロック図である。
【
図4】
図3に示すプロジェクタ40にて表示される溶接作業指示書61の一例を示す図である。
【
図5】溶接対象物100と被溶接物110の溶接後の状態の一例を示す断面図である。
【
図6】
図3に示すプロジェクタ40にて表示される作業修正指示62の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例に係る溶接作業支援システム1の動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例の溶接作業支援システムを説明する。以下の実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを正確には表していない。このため、本発明は、必ずしも、図面にて表示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0015】
図1は本発明の実施例に係る溶接作業支援システム1の適用例を説明するための図である。本発明において溶接作業を行う溶接対象物100は、例えば鉄道車両であって、
図1では製造工程において溶接作業中の1両分の鉄道車両の、前後方向の一部だけを示している。ここでX方向は、鉄道車両の走行方向と同方向を示し、+X方向が進行方向一方側(例えば前側)である。また、+Z方向が鉛直方向上側であり、+Y方向が進行方向と直交方向の一方側(例えば右側)である。鉄道車両は、床面101、右側壁面102、左側壁面103、天井104が金属板にて形成されたセミモノコック構造であるが、本発明では溶接対象物100の形状は限定されずに、任意の対象に対する溶接作業に適用できる。溶接対象物100の右側壁面102には、長方形状に切り抜かれた複数の窓105が形成され、左側壁面103には長方形状に切り抜かれた複数の窓106が形成される。
【0016】
溶接作業は、作業者150が溶接トーチ130を操作しながら手動にて行う。例えば、金属材料による中空柱状の角材110を、金属板にて製造された床面101に位置づけて、熱源としてガスを用いた溶接トーチ130を使用しながらMIG溶接を行う。MIG溶接では、作業者150が、ハンドル部を有する溶接トーチ130を把持し、トーチ先端135(符号は後述の
図2参照)を角材110と床面101の溶接箇所(開先)に位置付けながら溶接作業をおこなう。鉄道車両等の溶接対象物100の製造工程では、角材110のような被溶接物を、人手で溶接対象(床面)に位置付けて、組立指示書の溶接作業の指示に従って作業を行う。本実施例では、作業者150に対する次の被溶接物100の指示、被溶接物100の固定位置の指示、被溶接物100への溶接個所の指示を、プロジェクションマッピング技術を用いて投影される映像にて表示する。
【0017】
「プロジェクションマッピング技術」とは、プロジェクタ40等の映写機器を用いて、立体物に対してコンピュータにて作成された映像を投影する技術である。本発明では、プロジェクタ40による投影先を、鉄道車両等の溶接対象物100とする。溶接対象物100に直接投影することができないような場合、例えば溶接対象物がマッピングエリア43に対して小さすぎるような場合には、溶接個所の近傍付近の作業エリアの床面や壁面等であって、溶接作業を行う際に作業者150が容易に視認できるところを投影先としても良い。尚、本発明では、「プロジェクションマッピング」の用語を厳密に定義するものではなく、コンピュータによって生成された可視光を用いた画像又は信号を、平面又は非平面の投影部位に表示するものであれば良い。溶接対象物100が鉄道車両の場合は、投影部位として専用のスクリーンではなく、鉄道車両の床面、壁面、天井等の部位にすると好ましい。
【0018】
多くのプロジェクションマッピング技術においては、美観を伴う映像を表示することを主目的にするが、本実施例ではコンピュータプログラムを用いて実現される溶接作業支援システム1から、作業者150に対する情報伝達手段として用いられる。本実施例で重要なことは、文字情報や映像情報を、溶接作業を行う作業者150が、適時に正しく認識できるようにすることである。また、映像にて表示される特定箇所(例えば溶接個所81、82)を、実際の溶接対象物100の実際の位置と一致させる様に表示することが重要である。
【0019】
プロジェクタ40は公知の機器であり、例えば、液晶画面上の映像を光源にて投影することで、表示対象物に映像を表示する。この機器は「液晶プロジェクター」として広く市販されている。ここでは、作業者150が溶接作業を行う部位を含むマッピングエリア43が、プロジェクタ40による投影範囲として設定される。目的とする溶接部位に対して映像を表示するために、プロジェクタ40は適切な位置(ここでは天井104の中央付近)に取り付けられる。
図1では、鎖線にてマッピングエリア43の一例を示している。マッピングエリア43は、左側壁面103の下側領域と、床面101の大部分をカバーする。プロジェクタ40を移動可能に構成するか、又は、複数台のプロジェクタ40を用いれば、マッピングエリア43の位置や大きさを変えることができるので、溶接対象物100の内側の任意の領域に対して映像の投影が可能となる。
【0020】
プロジェクタ40のマッピングエリア43内に、溶接作業を行う位置を示す溶接作業部位80が含まれることが重要である。また、マッピングエリア43と作業者150の作業位置を近接、または、重複させることが重要である。このような位置関係となるようにマッピングエリア43を設定することで、作業姿勢をとった際の作業者150の視界の範囲内に、溶接対象物100から作業者へ伝達させる多様な情報を効率良く表示することが可能となる。また、溶接対象物100上に表示されている映像の存在は、溶接作業を阻害しないので、映像を表示させたままの状態での溶接作業が可能である。
図1では図示していないが、作業者150は溶接作業時に、図示しない保護面を装着するので、プロジェクタ40による投影により、保護面を装着した状態でも溶接対象(角材110)を見えやすくする(映像を明るくする)ような表示制御も可能である。
【0021】
マッピングエリア43内には、次の作業内容が指示される。この指示は、溶接対象物100の適切な平面等に次の作業内容を表示するための次作業内容表示領域70を設定して、作業内容を表示する。ここでは、
図1のように作業姿勢の作業者150が、視線を溶接作業部位80からわずかに上げた位置を次作業内容表示領域70として設定している。ここで表示される作業の内容は、部品名の表示、溶接箇所の特定、溶接方法の説明、その他の情報である。次作業内容表示領域70において、「次溶接部」と作業内容71が文字にて表示される。これは、次の作業は、溶接であって、溶接部の位置は、その下に示される表示形態、即ち、赤色の太線72にて示されることを示している。作業者は、太線72と同じ態様(色、太さ等)にて表示された部分(ここでは太線81)を次作業の溶接位置であると理解できる。
【0022】
溶接作業部位80には、2つの溶接個所が太線81、82にて表示される。太線82は、太線81の部位の溶接の次の溶接個所を示している。このように、溶接作業部位80にて固定される角材110に複数の溶接個所(81、82)がある場合は、それらの溶接個所の一部または全部をまとめて表示しても良い。さらに、角材110の位置決めのための補助情報も矢印74のように表示される。矢印74の一端(この例では右側端部)が角材110の左側面の位置を示し、矢印74の他端(この例では左側端部)が左側壁面103の内側を示しており、矢印74が角材110の取り付け位置を決定するための情報となっている。
図1の例では矢印74は1つしか表示していないが、左側壁面102の内側からの距離を示す矢印、枠線、ガイド線等、様々な形式の情報を表示しても良い。作業者150は、矢印74に従って角材110を溶接対象物100に位置決めし、仮固定をしたのちに、赤い太線81にて投影されている開先部分に溶接トーチ130のトーチ先端を接触させて溶接を行う。
【0023】
以上説明したように、プロジェクタ40によって次の作業対象(次の溶接対象)が指示され、太線81のように溶接位置が特定され、次の次の溶接範囲が太線82によって表示される。ここでは、マッピングエリア43内に溶接作業部位80が含まれるように設定され、しかも、実際の溶接対象物100の各部位と位置合わせされた状態にて太線81、82が表示されるので、作業者は紙出力による設計図面や作業指示書を見ることなく、表示された画面上にて確認して溶接作業を実施できる。尚、本実施例ではマッピングエリア43内に溶接作業箇所が含まれるように表示するために、溶接作業支援システム1によって溶接作業を実行する溶接対象とその位置が事前に把握できることが重要である。また、溶接作業部位80における溶接の範囲は、作業部位を示す特定の画像(太線81)にて表示するため、溶接対象の詳細な部品データと、溶接を含む組み立て手順情報が必要である。これらのデータは、鉄道車両100の設計データ、例えば3D-CADを用いて作成されたものを利用すると良い。
【0024】
溶接を行う前には、溶接条件が適切に設定されている必要がある。溶接条件は、例えば、溶接電流、溶接電圧、溶接速度(溶接トーチ130の移動速度)である。本実施例の溶接作業支援システム1では、太線82にて示される次の溶接個所が識別された際に、その溶接作業に適する溶接条件がコンピュータプログラム(後述)によって自動で選定され、プロジェクタ40を用いて溶接作業部位80が指定される。
図1の例では、次の溶接部位を色付け表示(例えば赤線)された太線81によって、実際に溶接トーチ130の先端を押し当てる部位に表示する。また、プロジェクションマッピングの位置合わせ精度に応じて、太線81、82の幅を調整すると良い。精度が低めの場合は、太線81、82の幅を太くし、太線81、82の範囲内のどの位置にて実際の溶接を行うかは作業者の判断に任せると良い。
【0025】
溶接機120(後述の
図3参照)に対する溶接条件(電圧、電流等)は溶接作業支援システム1によって自動で設定される。その設定内容は、溶接作業部位80の近接であって、投影するのに便利な平面部分又は平面に近い部分に、溶接条件表示画面60として表示される。つまり、マッピングエリア43内にサブ画面領域(ウインドウ)を模すようにして溶接条件表示画面60を表示する。溶接条件表示画面60は所定の色を背景としたもので、そこには溶接電流、溶接電圧、溶接速度等の溶接条件が常時表示される。作業者150は、作業姿勢時の視線の左前方に表示された溶接条件表示画面60を確認することで、どの程度の電流、電圧で次の溶接を行うかを事前に認識することができる。尚、溶接作業支援システム1が溶接条件表示画面60に表示する内容は、任意であり、作業者に伝達させる様々な文字、写真、動画等の情報を表示することが可能である。例えば、作業者の熟練度に応じて溶接条件表示画面60内に作業手順を説明するマニュアルの一部を表示するように構成しても良い。
【0026】
作業者150は、太線81にて示される角材110の下側後辺と、太線81にて示される下側右辺部の溶接を行う。溶接個所が複数ある場合は、溶接作業支援システム1は溶接部位を色分けして表示し、例えば、次の溶接個所を赤い太線81にて示し、それ以降の溶接個所をグレーの太線82で示すように区別して表示すれば、作業者に対して溶接順序を正しく指示できる。尚、溶接順序の指示方法は、色分け表示だけに限られずに太線81、82付近に数字や文字による情報や、矢印アイコンなどの併用表示等、他の表示形態によっても良い。
【0027】
作業者は、トーチ先端135(後述の
図2参照)を、溶接する部位に押し当てて、溶接トーチ130を所定の方向に動かしながら、1箇所又は複数個所でMIG溶接を行う。太線81にて示される溶接箇所に対して溶接作業が完了すると、コンピュータプログラム(後述)によってトーチ先端135の移動軌跡と、その際の溶接機120からの溶接電圧、電流等の実績データが、溶接作業支援システム1に作業履歴として記録される。溶接作業支援システム1は、作業を完了した旨の情報83(文字又は図形等)を太線81の近傍に表示し、太線81を赤色表示から、作業を正常に完了した旨を示す薄い緑色に変更する。また、次の溶接個所である太線82をグレー表示から赤色表示に変更することで、作業者150に対して次の溶接個所を示す。この次の溶接個所の表示切替え時には、作業者の注意を促すために赤色の太線82を数回程度点滅させる表示方法としても良い。尚、溶接個所を示す表示の形態(形状、模様、色等)をどのようにするかは任意であり、溶接対象物100に合わせて適宜設定すれば良い。
【0028】
本実施例では、溶接作業支援システム1のコンピュータプログラム(後述)が、溶接作業の開始と終了を検知し、作業が終了した際に適切に溶接されたか否かの判定を行う。この判定には、溶接作業時における溶接トーチ130の移動軌跡と、スイッチレバー132(符号は後述の
図2参照)の操作状況と、スイッチレバー132がオンになった際の溶接電流等の実績データが、溶接作業支援システム1のコンピュータプログラム(後述)によって用いられる。溶接トーチ130の移動軌跡を正確に取得するために、公知のモーションキャプチャ技術が用いられる。鉄道車両100の上部の複数個所には、複数のカメラ51、52等が配置される。カメラ51、52は、光学式の入力装置であって、溶接トーチ130を含む動画を撮影し、デジタルイメージを
図3で後述するCPU11にリアルタイムで送信する。この映像を解析し、モーションキャプチャの位置送信ユニット53、54の位置関係から溶接トーチ130を剛体とみなすことでトーチ先端135(符号は
図2参照)の座標をリアルタイムで取得する。尚、本実施例ではモーションキャプチャの受信機として、カメラ51、52を用いているが、同等の位置検出機能を実現できるならばその他の機器で実現しても良い。
【0029】
図1では、カメラ51、52を鉄道車両100の右側壁面102の上部と、左側壁面103の上部に一時的に固定されているが、溶接作業が完了した後には取り外される。また、モーションキャプチャ機能を実現するためには、カメラ51、52の鉄道車両100に対する位置を、後述するモーションキャプチャ用のコンピュータプログラム(後述)にて正確に把握できていることが重要である。本実施例では溶接トーチ130には2つのマーカ136、137(符号は
図2参照)が設けられる。設けるマーカ136、137の数は、2個以上であれば任意である。また、プロジェクションマッピング表示の対象物への正確な位置合わせのために、鉄道車両100の複数個所に、シール材等によって一時的にマーカ部材を設けるようにしても良い。
【0030】
図2は、作業者150による溶接機120を使用した溶接作業状態を示す図である。ここでは
図1の床面の溶接作業と違って、作業者150が側壁面の溶接作業を行っている状態を示している。溶接機120は、電源装置を含む本体部を含み、本体部にはケーブル128が接続される。本発明ではトーチ溶接機の例を示しておりケーブル128の先端には溶接トーチ130が接続される。溶接トーチ130は、スイッチレバー132が設けられたハンドル部131と、トーチボディ133と、トーチボディ133に取り付けられるノズル134を含んで構成される。ノズル134の先端からは、図示しないワイヤ送給装置から供給される、溶接用のワイヤが送給される。溶接作業としてMIG溶接法を用いる場合は、ワイヤ先端部がトーチ先端135になり、溶接時に高温になる箇所である。
【0031】
溶接作業は、溶接開始点にトーチ先端135を位置づけ、図示しない遮光用の保護面(図示せず)を左手に持って顔を覆った後に、溶接開始点から、ノズル134を溶接終了点方向に動かしながら、溶接を行う。この際、ノズル134からワイヤが自動的に供給され、ワイヤが溶接対象にタッチしてスパークし、アークスタートとなる。アークスタートしたら、スイッチレバー132をオンにしたまま、ハンドル部131を移動させてノズル134を所定の方向に移動させれば連続した溶接となる。溶接が終了したらスイッチレバー132を離すことでアークが終了する。ノズル134の移動は、溶接物が薄い場合は早く直線的に行い、厚い場合はワイヤの先端で直径5~10mm程度の円をゆっくり描くようにして進めていく場合もある。これらの移動速度、移動方法等の各種の溶接条件は、溶接条件表示画面60(
図1参照)内に表示されるので、作業者150は作業直前にその内容を確認できる。尚、本発明における溶接作業支援システム1では、溶接の種類は任意であり、溶接トーチ130を使用するMIG溶接法だけでなく、その他の溶接法にも同様に適用できる。
【0032】
溶接トーチ130のハンドル部131には2つのマーカ136、137が設けられる。マーカ136、137は、溶接トーチ130におけるトーチ先端135の位置を正確に検出するための指標となるもので、溶接トーチ130のトーチ先端135の溶接対象物100に対する相対位置と、移動方向、移動速度を主に検出する。マーカ136、137として、例えば、視覚的に識別可能なマークや、光学的に発光可能な光源、光を反射する反射部材等を用いることができる。また、ハンドル部131に、加速度センサ等の移動状況を検出するためのセンサを更に設け、センサ情報を用いてモーションキャプチャを精度よく行うようにしても良い。
【0033】
図3は本発明の実施例に係る溶接作業支援システム1のブロック図である。溶接作業支援システム1は、
図1に示したプロジェクタ40と、カメラ51、52が接続されるモーションキャプチャ50と、PC(Personal Computer)10を含んで構成される。PC10は市販されている高性能の製品を用いることができ、CPU(Central Processing Unit)11と、一次記憶装置であるRAM(Random Access Memory)15と、二次記憶装置であるHDD(Hard Disk Drive)20と、通信ユニット25を含んで構成される。PC10のCPU11が、溶接作業支援のための複数のコンピュータプログラムと、溶接時の溶接状態の評価を行うための画像や溶接機の実績データ等を取得するためのコンピュータプログラムと、自動で取得された溶接状態と実績データ等を評価して、初層の溶け込み深さ等を評価し、未溶着の有無の間接的な確認や合否判定を行うコンピュータプログラム、等の様々なプログラムを実行する。
【0034】
作業対象となる溶接作業部位80に関する情報は、設計データである3D-CADデータ21から取得される。3D-CADデータ21には、形状や溶接仕様等の情報や作業手順が含まれた設計データであり、それらが設計用の別システム(図示せず)から読み出され、本実施例の遂行に必要な溶接条件部分が溶接条件決定DB22としてHDD20内に格納される。CPU11は、HDD20の溶接条件決定DB22のデータを参照して、溶接条件演算部14において、溶接条件、作業指示を作成する。これら、溶接条件演算部14の機能は、コンピュータプログラムにより実現される。尚、
図3には図示していないが、HDD20内には、CPU11が実行するための多数のコンピュータプログラムと、コンピュータプログラムの実行に必要なデータや、その他のデータベースが格納されている。
【0035】
溶接条件演算部14にて、溶接条件と作業指示データが作成されると、それらがプロジェクションマッピング演算部12に転送される。プロジェクションマッピング演算部12は、溶接個所を示す情報(
図1の太線81、太線82、補助情報74、寸法情報75等)、溶接条件を示す情報(
図1の溶接条件表示画面60)を作成し、プロジェクタ40を用いて溶接対象物(鉄道車両100)の該当領域(マッピングエリア43)への投影を行う。
図4はプロジェクタ40にて表示される溶接作業指示書61の一例を示す図である。溶接作業指示書61では、溶接の電流、電圧、溶接速度、溶接方向、溶接ピッチ、仮付けサイズ、溶接パス、開削形状、仕上げ方法、その他のCPU11によって選択された情報が、
図1で示した溶接条件表示画面60内に表示される。尚、溶接作業指示書61にどのような情報を表示するかは任意である。このように、プロジェクションマッピング技術を用いることによって、溶接対象物100又はその周囲の部位を、情報表示のためのスクリーンとして有効に活用できる。
【0036】
図3に戻る。プロジェクションマッピング演算部12は、CPU11によって実行されるコンピュータプログラムによって実現され、溶接作業部位の指示を、実際の溶接個所(
図1の80)と正確に一致するように表示させる。この一致を実現させるために、プロジェクタ40の表示画面リサイズ機能42を制御することにより、表示画面の位置、大きさなどを、全体として、又は、部分的に修正するようにして、鉄道車両100の各部位とプロジェクションマッピング表示の位置、特に、溶接作業部位80と位置決めのための補助情報74を表示する部分を、鉄道車両100の部位と正確に一致するように調整される。この調整のために、鉄道車両100内に調整用のマーカを一時的に設け、そのマーカの位置と、プロジェクタ40の表示位置を公知の方法によって自動調整するようにしても良い。
【0037】
溶接条件演算部14から得られた溶接条件は、CPU11の指示によって通信ユニット25内の溶接機通信部26を通して、溶接機120の溶接モード自動設定部122に転送され溶接機120の設定を自動で完了させる。上記の構成によって、作業者150は、マッピングエリア43内の表示内容から、次の溶接作業部位80の指示と、その作業内容の指示(
図1の次作業内容表示領域70参照)を受けることが可能となる。また、マッピングエリア43内に、溶接条件表示画面60内が設けられ、溶接条件が詳しく表示される。これらは、作業者が作業を行う姿勢下でも容易に視認できるので、作業者150が指示された内容に従って作業することが十分担保される。溶接作業部位80の太線81の溶接が、適切に行われた場合は、CPU11は、次の溶接作業箇所を指示して、溶接条件表示画面60(
図1参照)と次作業表示領域70(
図1参照)、補助情報(矢印74)等の表示を更新する。
【0038】
HDD20内の3D-CADデータ20と品質判別DB23は、CPU11の指示によって溶接箇所の判別に必要なデータが読み出され、RAM15の溶接品質判別データマスタ16に格納される。溶接作業後には、溶接機120によって実績を示すデータセット121が生成され、溶接機通信部26を通して、RAM15内の溶接機データ/MC(モーションキャプチャ)記憶部17に転送される。同様に.モーションキャプチャ50の位置送信ユニット(位置送信ユニット136)の座標53、位置送信ユニット(位置送信ユニット137)の座標54が、モーションキャプチャ通信部27を通して。RAM25内の溶接機データ/MC記憶部17に転送される。
【0039】
RAM15内に溶接機120からの設定データ等と、モーションキャプチャ50にて取得された座標情報が格納されたら、CPU11は、品質判定DB(データベース)23を、RAM15内の溶接品質判別データマスタ16に転送し、溶接機データ/MC記憶部17から送信される情報と合わせて溶接品質予測演算部13にて、溶接結果の判定を行う。この判定は、例えば溶接部位が欠落していないか、溶接長さは十分か、溶接ビードの形状等の出来栄えは合格か、等の品質に関してCPU11が自動で判定できる任意の内容を含む。この溶接結果の判定方法の一例を
図5を用いて説明する。
【0040】
図5は溶接対象物(床面101)と溶接部品(角材110)の溶接状態の一例を示す断面図である。作業者150が、溶接対象物100の床面101上を動きながら、溶接作業を行う作業環境において、様々な形状・板厚や開先において溶接を行う。ここでは、床面101の指定された位置に角材110が設置され、矢印111の方向にトーチ先端135を近づけて、床面101及び角材110の双方に接触させることによって、ビード112が形成される。
図5は、溶接後の溶接部位の鉛直断面形状を示したものである。ビード112と角材110の溶接部位が溶接深さ113と呼ばれ、ビード112と床面101との溶接部位が溶込み深さ115と呼ばれる。これら溶接深さ113と溶接部位が溶込み深さ115が、規定されたサイズよりも小さい場合は、十分な溶接強度を確保できない恐れが生ずる。本発明では、作業者150が直接視認できない部位、特に、ビード112の裏側の隠れる溶込み深さ115が未溶着長さ114の基準に対して十分な実績となっているかを、超音波検査を行うことなく、溶接作業支援システム1によって判定する。つまり、溶接時の溶接トーチ130の移動時において、CPU11が溶接実績のデータセットから作業対象箇所への適切な溶接の実施の完了と、溶け込み深さなどビード形状をAIモデルによって自動で判断することで、1溶接ごとに溶接裏側の未溶着長さまで含めたビード形状を評価する。
【0041】
図3に戻り、溶接結果の判定によって溶接を行った部位の溶接品質が「良」と判定されたら、CPU11のプロジェクションマッピング演算部12は、プロジェクタ40によるマッピングエリア43(
図1参照)内の溶接作業部位80を示す太線表示の色を“作業完了”を示す色に変更して表示し、作業者150が作業の終了を判別できるようにする。ここでは溶接作業部位80内の太線81を、作業前の赤色から、正常に作業完了をしたことを示す緑色に変更すると共に、その近傍に
図1の矢印83で示すように「済」という文字情報を表示する。また、太線81部分の溶接が完了した旨の情報と、施工完了溶接部に行った溶接作業の取得データ(モーションキャプチャ50による検出値、溶接機120から取得された溶接時間、熱量、モータ電流、溶接点数、ワイヤ消費量等の設定値)を、HDD20の作業記録DB(図示せず)に記録する。
【0042】
溶接品質予測演算部13による溶接結果の判定が「不適切」との判定であった場合は、CPU11のプロジェクションマッピング演算部12は、プロジェクタ40によるマッピングエリア43内の任意の位置に「不適切」である旨の警告表示と、その溶接部位の溶接を修正するための対応策を表示する。警告と対応策を表示する領域は任意であるが、ここでは作業者150の視線の直前部分である
図1の矢印75で示す寸法部分の表示エリアに、赤色の大きな点滅表示で「溶接不良!」等のアラーム文字や、アラーム発生を示すアイコン等を表示させると良い。また、作業完了が正常に終了したときの通知音と、不適切に終了したときの通知音をそれぞれ準備して、マッピングエリア43内に表示すると共に、音による警告を発するように構成しても良い。
【0043】
溶接不備の報知の後には、
図1に示す溶接条件表示画面60内に、修正指示や補足説明情報を表示すると良い。また、再溶接の箇所を示す太線や、その他の文字、図形、画像等の情報を作業者150に対して表示すると良い。この際、作業者150のリクエストによってマッピングエリア43内に動画表示エリアを設定して、そのエリア内に溶接不備の修正手順を示す動画によるマニュアルを表示するようにしても良い。再溶接の作業の完了は、作業者によって図示しない入力装置から作業が完了した旨を入力するように構成すれば良い。再溶接の作業時にも、モーションキャプチャ50による検出値と、溶接機120の作業データを取得できるので、CPU11はHDD20の作業記録DB(図示せず)に、再溶接の作業の詳細を記録すると良い。
【0044】
図6は、
図3に示すプロジェクタ40にて表示される作業修正指示62の画面の一例を示す図である。この作業修正指示62の画面は、例えば溶接条件表示画面60内において、
図4の溶接作業指示書61から切り替えて表示される。ここでは、溶接作業によって発生した事象63と、その対策64を表示する。
【0045】
以上説明したように、溶接作業支援システム1によって特定の溶接個所に対するように支援すると共に、溶接完了後の品質チェックが自動(又は半自動)で行われる。1か所の溶接の支援と品質チェックが完了すると、CPU11は3D-CADデータ21から次の溶接対象の情報を読み出して、次の溶接部位に対する上述の手順を繰り返す。
【0046】
図7は本実施例に係る溶接作業支援システム1の動作手順を示すフローチャートである。これらの各手順は、CPU11が各部の機能を達成するためのコンピュータプログラムを実行する。最初にCPU11は、作業対象物100の情報を、3D-CADデータ21から取得し、形状や溶接仕様等の情報を基に、取付順序ルールに基づき溶接対象の部品を選択する(ステップ201)。具体的には、3D-CADデータ21の取付順序ルールに従って、取り付け部品(角材110)を検索により抽出して、溶接作業部位80に表示する溶接対象として選択する。次に、CPU11は、この溶接条件と作業指示データをプロジェクションマッピング演算部12に転送し、プロジェクタ40を用いてワーク(溶接対象物100)上に部品(角材110)の設置位置を表示する(ステップ202)。
【0047】
プロジェクタ40は、表示画面リサイズ機能42を用いて、プロジェクタデータの表示内容を制御し、鉄道車両100内の溶接作業部位80付近の各部位の位置とマッピングの表示位置が正確に一致するように調整する。この位置合わせのための調整は、ワーク(溶接対象物100)を溶接作業場所に移動して設置し、プロジェクタ40とカメラ51、52をワーク(溶接対象物100)に対して移動しないように位置付けた後に1回だけ行えば済む。但し、溶接作業部位80が移動するたびに、位置合わせのための調整を行っても良い。プロジェクタ40による表示位置と、実際のワークの各部との位置合わせは、ワーク(溶接対象物100)上の複数個所にマーカを設置し、マーカ位置と表示位置のずれを表示画面側の大きさを調整することで対応する。ワーク(溶接対象物100)上の設けるマーカは、例えば発光手段や、反射部材などの公知の部材であって、位置合わせが終了した後にはマーカは取り外しても良い。
【0048】
次に、CPU11は、溶接条件決定DB23を用いて取付部品に紐づく溶接部を検索し、溶接順序ルールに基づいて溶接部を選択する(ステップ203)と共に、併せて溶接条件演算部14にて、選択された溶接部から板厚、開先、溶接等級などの情報を取得し、溶接条件、作業指示を含むWPS(Welding Procedure Specification:溶接施工要領書)を作成する(ステップ204)。
【0049】
次に、CPU11は溶接条件演算部14から得られたWPS及び関連作業指示をプロジェクションマッピングにて表示し(ステップ205)、溶接機通信部26を通して、溶接モード自動設定部122に転送し、溶接機120の設定を自動で完了させる(ステップ206)。作業者は、プロジェクションマッピングにて表示された指示箇所に対して溶接を実行する(ステップ207)。溶接作業後には、溶接機実績のデータセット121が溶接機120によって生成され、溶接機通信部26を介して、RAM15内の溶接機データ/MC記憶部17に転送される(ステップ208)。同様に.モーションキャプチャ50で得られた位置送信ユニット53、位置送信ユニット54の座標情報が、モーションキャプチャ通信部27を通してRAM15内の溶接機データ/MC記憶部17に転送される。次に、CPU11は、3D-CADデータ20から溶接情報・形状情報を取得し、その値と溶接機実績等のデータから、経験値に基づく溶接品質の予測式を用いることで、溶接後に目視で見えない裏側部分を含む溶接の出来栄えを判定する。次に、CPU11は、品質判定DB23をRAM15内の溶接品質判別データマスタ16に転送し、溶接機データ/MC記憶部17のデータと併せてCPU11の溶接品質予測演算部13で、溶接の出来栄えを判定する(ステップ209)。
【0050】
溶接品質予測演算部13における判定の結果、溶接結果が「良品」と判定されたら、プロジェクションマッピング演算部12へその旨を送信することで、プロジェクションマッピング演算部12は、次の溶接部位を選択し、その溶接部位をプロジェクションデータ表示部41にて次の溶接部位として表示するためにステップ204に戻る。一方、溶接品質予測演算部13における判定の結果、溶接結果が「不良」と判断されたら、プロジェクタ40へその旨を表示を行う。プロジェクションマッピング演算部12は、プロジェクションデータ表示部41において、エラーと判断された際に表示される対応策、例えば
図6に示した作業修正指示62を表示する。以上の手順により、すべての溶接部品、溶接部位に紐づく溶接作業が完了したか否かを判定し、完了していない場合はステップ201に戻り(ステップ210)、完了した場合は作業を終了する(ステップ211)。
【0051】
以上、本実施例による溶接作業支援システム1によって、溶接個所の確認、図面寸法や作業指示の確認が容易となり、作業要領もシステムによって適宜指示され、溶接機120の溶接モードは自動にて設定される。よって、手作業による溶接作業の段取時間が大幅に削減される。また、溶接作業中には、溶接個所等の情報を適宜提供すると共に、作業中に改善すべき指示を適宜提供することができる。さらに、溶接実行時の電流、電圧、使用したワイヤの長さ等を溶接機120を介して監視し、さらに、溶接トーチ130による溶接位置を正確に識別するので、溶接機120の稼働状況の実績データを併せることで高精度にて溶接品質の推定が可能となる。さらに、溶接作業後には、溶接状況の評価を作業者にフィードバックすることが可能となるので、作業ミス等による品質低下箇所の存在を防ぐことが可能となる。
【0052】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 溶接作業支援システム
10 PC
11 CPU
12 プロジェクションマッピング演算部
13 溶接品質予測演算部
14 溶接条件演算部
15 RAM
16 溶接品質判別データマスタ
17 溶接部データ/MC記憶部
20 HDD
21 3D-CADデータ
22 溶接条件決定DB
23 品質判定DB
25 通信ユニット
26 溶接機通信部
27 モーションキャプチャ通信部
40 プロジェクタ
41 プロジェクションデータ表示部
42 表示画面リサイズ機能
43 マッピングエリア
50 モーションキャプチャ
51、52 カメラ
53、54 位置送信ユニット
60 溶接条件表示画面
61 溶接機実績のデータセット
62 溶接モード自動設定部
70 次作業表示領域
74 補助情報
75 寸法情報
80 溶接作業部位
81、82 溶接個所を示す太線
84 完了情報
100 溶接対象物(鉄道車両)
101 床面
102 右側壁面
103 左側壁面
104 天井
105、106 窓
110 被溶接物(角材)
111 トーチ接近方向
112 ビード
113 溶接深さ
115 溶込み深さ
120 溶接機
121 データセット
122 溶接モード自動設定部
128 ケーブル
130 溶接トーチ
131 ハンドル部
132 スイッチレバー
133 トーチボディ
134 ノズル
135 トーチ先端
136、137 位置送信ユニット
150 作業者