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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174594
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】水溶性フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20241210BHJP
   D01F 6/14 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 15/00 20240101ALI20241210BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D01F6/14 Z
G01N15/00 C
G01N1/02 D
G01N1/28 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092495
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 知明
【テーマコード(参考)】
2G052
4D019
4L035
【Fターム(参考)】
2G052AA01
2G052AA40
2G052AB27
2G052AC02
2G052AD02
2G052AD22
2G052AD46
2G052AD55
2G052BA05
2G052BA22
2G052EA03
2G052FD09
2G052GA09
2G052GA28
2G052GA29
2G052JA16
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC11
4D019BC15
4D019BC20
4D019BD01
4D019CB06
4D019DA03
4L035BB01
4L035BB21
4L035EE04
4L035FF05
4L035HH01
(57)【要約】
【課題】耐久性及び粒子捕集効率が高い水溶性フィルターを提供する。
【解決手段】微粒子を捕集する水溶性フィルターであって、ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備え、前記不織布の繊維の平均繊維径が20~300nmである、水溶性フィルター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を捕集する水溶性フィルターであって、
ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備え、
前記不織布の繊維の平均繊維径が20~300nmである、水溶性フィルター。
【請求項2】
前記不織布の目付が5~50g/m、厚みが10~150μmである、請求項1に記載の水溶性フィルター。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールの重量平均分子量が70,000~120,000である、請求項1に記載の水溶性フィルター。
【請求項4】
前記水溶性フィルター1質量部を水100質量部と混合し、80~90℃で撹拌した場合に、1時間以内に溶解する、請求項1に記載の水溶性フィルター。
【請求項5】
通気線速度0.6~0.9cm/s時の圧力損失が300Pa以下であり、かつ粒子径0.3μm以上10μm以下の微粒子の捕集効率が95%以上である、請求項1に記載の水溶性フィルター。
【請求項6】
微粒子の捕集及び分析用である、請求項1に記載の水溶性フィルター。
【請求項7】
エレクトロスピニング法を用いる、請求項1に記載の水溶性フィルターの製造方法。
【請求項8】
5~20w/v%のポリビニルアルコール溶液を調製する工程と、
前記溶液を用いてエレクトロスピニング法により不織布を形成する工程を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法。
【請求項10】
請求項1に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記フィルターに捕集された前記微粒子を、前記フィルター上に保持した状態で分析する工程と、
を含む、微粒子の分析方法。
【請求項11】
請求項1に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記微粒子を捕集した前記フィルターを溶媒に溶解させることにより、前記微粒子を含む溶解液又は分散液を取得する工程と、
前記溶解液又は分散液中の微粒子を分析する工程と、
を含む、微粒子の分析方法。
【請求項12】
請求項1に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記微粒子を捕集した前記フィルターを溶媒に溶解させることにより、前記微粒子を溶媒に溶解又は分散させる工程、
を含む、微粒子の溶媒への回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
大気粒子の有害性発現メカニズムを解明するためには、粒子を細胞や生物に直接曝露し、その有害性と粒子特性(サイズ、形状、化学組成、細菌叢等)との関連付けを調べる必要がある。
【0003】
しかし、化学分析の分野においては、一般的に、大気粒子を石英繊維や四フッ化エチレン(PTFE)等を素材とするフィルター(例えば、特許文献1等)に採取して分析を進める。一方、生物分析の分野においては、一般的に、大気粒子をゼラチン等を素材とする水溶性のフィルター(例えば、特許文献2等)に採取して分析を進める。
【0004】
このように、大気粒子の化学分析と生物分析とで、使用するフィルターが異なるために、化学分析と生物分析を横断的に行うことが困難であり、大気粒子の有害性発現メカニズムの解明が進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-202217号公報
【特許文献2】特表2001-523549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学分析と生物分析の両方を実施可能な、耐久性及び粒子捕集効率が高い水溶性フィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備える水溶性フィルターにおいて、高い耐久性及び高い粒子捕集効率が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明を含むものである。
[項1]
微粒子を捕集する水溶性フィルターであって、
ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備え、
前記不織布の繊維の平均繊維径が20~300nmである、水溶性フィルター。
[項2]
前記不織布の目付が5~50g/m、厚みが10~150μmである、項1に記載の水溶性フィルター。
[項3]
前記ポリビニルアルコールの重量平均分子量が70,000~120,000である、項1又は2に記載の水溶性フィルター。
[項4]
前記水溶性フィルター1質量部を水100質量部と混合し、80~90℃で撹拌した場合に、1時間以内に溶解する、項1~3のいずれか1項に記載の水溶性フィルター。
[項5]
通気線速度0.6~0.9cm/s時の圧力損失が300Pa以下であり、かつ粒子径0.3μm以上10μm以下の微粒子の捕集効率が95%以上である、項1~4のいずれか1項に記載の水溶性フィルター。
[項6]
微粒子の捕集及び分析用である、項1~5のいずれか1項に記載の水溶性フィルター。
[項7]
エレクトロスピニング法を用いる、項1~6のいずれか1項に記載の水溶性フィルターの製造方法。
[項8]
5~20w/v%のポリビニルアルコール溶液を調製する工程と、
前記溶液を用いてエレクトロスピニング法により不織布を形成する工程を含む、項7に記載の製造方法。
[項9]
項1~6のいずれか1項に記載の水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法。
[項10]
項1~6のいずれか1項に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記フィルターに捕集された前記微粒子を、前記フィルター上に保持した状態で分析する工程と、
を含む、微粒子の分析方法。
[項11]
項1~6のいずれか1項に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記微粒子を捕集した前記フィルターを溶媒に溶解させることにより、前記微粒子を含む溶解液又は分散液を取得する工程と、
前記溶解液又は分散液中の微粒子を分析する工程と、
を含む、微粒子の分析方法。
[項12]
項1~6のいずれか1項に記載の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程と、
前記微粒子を捕集した前記フィルターを溶媒に溶解させることにより、前記微粒子を溶媒に溶解又は分散させる工程、
を含む、微粒子の溶媒への回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性及び粒子捕集効率が高い水溶性フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エレクトロスピニング法の概略図を示す。
図2】実施例1の捕集効率及び圧力損失の測定の概略図を示す。
図3】実施例1における、フィルターの粒子捕集効率および圧力損失測定の装置の配置を示す。
図4】実施例1における、アルミ製フィルターホルダーにおけるフィルターの設置位置を示す。
図5】実施例2における耐久性確認試験の結果を示すグラフ。
図6】実施例2における耐久性確認試験後のフィルターの状態を示す写真。
図7】実施例4における粒子捕集の概略図を示す。
図8】実施例4における捕集粒子の成分分析結果を示すグラフ。
図9】実施例4におけるPTFEフィルターに対する水溶性フィルターV1の捕集質量比を示すグラフ。
図10】実施例5にて用いた粉塵捕集用装置の写真。
図11】実施例5にて用いた粉塵捕集用装置の配置の概略図を示す。
図12】実施例5におけるフィルターでの捕集部分の構成の概略図を示す。
図13】実施例5における捕集粒子の成分分析結果を示すグラフ。
図14】実施例6におけるWST-1アッセイの概要図を示す。
図15】実施例5における、粒子を捕集していない状態のフィルターのWST-1アッセイにおける細胞生存率を示すグラフ。水溶性フィルターは、細胞生存率に影響を与えていないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「水溶性」とは、水に溶解できるものを広く包含し、冷水(10℃以下)で溶解するものから、沸騰水(100℃程度)で溶解するものまで包含される。また、イオン化合物、タンパク質、他の添加剤等を含む水に溶解できるものも包含される。
【0011】
また、本明細書において、「微粒子」とは、5nm~100μm程度の粒子径範囲の、非生物粒子(例えば、砂塵、海塩粒子、機械的摩耗粉塵、エンジン排気粒子、光化学生成粒子等)、生物粒子(例えば、細菌、ウイルス、花粉等)等を広く包含する。
【0012】
本発明は、水溶性フィルターを提供する。本発明の水溶性フィルターは、ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備える。当該不織布の繊維の平均繊維径は100~300nmである。
【0013】
(ポリビニルアルコール)
本発明において用いられるポリビニルアルコールは、従来公知の方法に従い、ビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化することで製造することができる。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリアン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。ビニルエステルモノマーはこれらの1種又は2種以上であってよい。この中でも、ビニルエステルモノマーとしては、酢酸ビニルが好ましい。
【0014】
また、ビニルエステルモノマーの重合に際して、本発明の目的や効果を損なわない範囲内で、他の単量体と共重合させても良い。このような他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類もしくはその塩又はモノもしくはジアルキルエステル等;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体またはその塩;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(N-メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類;プロピルアリルエーテル等のアリルエーテル類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール等のヒドロキシ基含有のα-オレフィン類等が挙げられる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
これらの単量体の含有量は、好ましくは5モル%以下であり、より好ましくは2モル%未満であり、さらに好ましくは1モル%未満であり、0.5モル%未満であってもよい。
【0016】
また、本発明の目的や効果を損なわない範囲内で、ポリビニルアルコールに官能基を導入しても良い。官能基としては、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、スルホン酸基、アセトアセチル基等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるポリビニルアルコールの重合平均分子量は、70,000~120,000であることが好ましく、80,000~110,000であることがより好ましく、85,000~100,000であることが特に好ましい。上記範囲であることにより、水溶性が良好で、且つ、膜強度も高いフィルターが得られる。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて測定することができる。
【0018】
本発明で用いられるポリビニルアルコールのけん化度は、95モル%であることが好ましく、98モル%であることがより好ましく、99モル%であることが特に好ましい。上記範囲であることにより、水溶性が良好なフィルターが得られる。なお、けん化度は、JIS K 6726-1994に準じて測定することができる。
【0019】
また、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、水溶性フィルターを構成する不織布の繊維の原料として、ポリビニルアルコールに加えて、添加剤を添加しても良い。添加剤としては、例えば、可塑剤(例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール等)、着色剤(例えば、顔料、染料等)、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類等)、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン類等)、酸化防止剤(例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等)、帯電防止剤(例えば、アルキルスルホン酸塩等)、難燃剤(例えば、リン酸化合物、金属水酸化物等)、潤滑剤(例えば、ワックス、グリセリン高級脂肪酸エステル等)等が挙げられる。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
(水溶性フィルター)
本発明の水溶性フィルターは、上記ポリビニルアルコールを含有する繊維を含む不織布を備える。本発明の水溶性フィルターは、当該不織布のみから構成されていても良く、当該不織布以外の層を有していても良いが、当該不織布のみから構成されていることが好ましい。
【0021】
当該不織布の繊維の平均繊維径は、20~300nmであり、50~300nmが好ましく、80~250nmであることがより好ましく、100~200nmであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、捕集効率の高いフィルターが得られる。なお、本明細書において、「平均繊維径」は、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0022】
本発明に用いられる不織布の目付は5~50g/mであることが好ましく、7~40g/mであることがより好ましく、10~30g/mであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、捕集効率の高く、且つ、圧力損失が低いフィルターが得られる。なお、本明細書において、「目付」は、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0023】
本発明に用いられる不織布の厚みは、10~150μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましく、25~120μmであることがさらに好ましく、30~100μmであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、捕集効率の高く、且つ、圧力損失が低いフィルターが得られる。なお、本明細書において、「厚み」は、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0024】
本発明の水溶性フィルターを溶解処理する場合の水温は、目的に応じて適宜調整することができるが、水温が高いほど、溶解速度は高くなる。熱水を用いて溶解させる場合には、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。
【0025】
一実施形態において、本明細書の水溶性フィルターは、水溶性フィルター1質量部を水100質量部と混合し、80~90℃で撹拌した場合に、1時間以内に溶解することが好ましく、45分以内に溶解することがより好ましく、30分以内に溶解することが特に好ましい。上記条件で溶解できることにより、当該水溶性フィルターに捕集した微粒子を、容易に生物分析に供することができる。
【0026】
本発明の水溶性フィルターは、通気線速度0.6~0.9cm/sの際の、圧力損失が300Pa以下であることが好ましく、270Pa以下であることが好ましく、240Pa以下であることがより好ましく、210Pa以下であることが特に好ましい。なお、本明細書において、「圧力損失」とは、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0027】
本発明の水溶性フィルターは、通気線速度0.6~0.9cm/sの際の、粒子径0.3μm以上10μm以下の微粒子の捕集効率が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において「微粒子の捕集効率」とは、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0028】
本発明の水溶性フィルターは、通気線速度0.6~0.9cm/sの際の、粒子径0.3μm以上10μm以下の微粒子の捕集効率が90%未満に低下するまでの総捕集期間が、好ましくは捕集開始から24時間以上であり、より好ましくは48時間以上であり、さらに好ましくは96時間以上であり、特に好ましくは168時間以上である。このような水溶性フィルターは耐久性に優れる。
【0029】
(水溶性フィルターの製造方法)
本発明の水溶性フィルターの製造方法は、上記物性を満たすものであれば特に限定されないが、エレクトロスピニング法を用いて製造することが好ましい。エレクトロスピニング法を用いることにより、捕集効率の高いフィルターを容易に製造することができる。
【0030】
一実施形態において、本発明の水溶性フィルターは、以下の(i)及び(ii)の工程を含む方法により製造することができる。
(i)2~20w/v%のポリビニルアルコール溶液を調製する工程。
(ii)前記溶液を用いてエレクトロスピニング法により不織布を形成する工程。
【0031】
工程(i)において、ポリビニルアルコール溶液におけるポリビニルアルコールの濃度は、5~20w/v%であることが好ましく、7~15w/v%であることがより好ましく、10~12w/v%であることが特に好ましい。上記範囲であることにより、好ましい繊維径の繊維が得られ、捕集効率の高いフィルターが得られる。
【0032】
工程(i)において、ポリビニルアルコールを溶解させる溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸等を用いることができるが、少なくとも水を含むことが好ましい。水と他の溶媒を混合して用いても良い。水と他の溶媒を混合する場合、水と他の溶媒との比率は、7:3~10:0の範囲であることが好ましく、8:2~10:0の範囲であることがより好ましい。上記範囲であることにより、好ましい繊維径の繊維が得られ、捕集効率の高いフィルターが得られる。
【0033】
工程(i)において、ポリビニルアルコール溶液を調製する際に、超音波処理を行っても良い。超音波処理の時間は、特に限定されないが、例えば0.1~2時間程度が挙げられる。
【0034】
工程(ii)において、エレクトロスピニング法は、例えば以下のように行うことができる。上記ポリビニルアルコール溶液を紡糸ノズルから押し出し、その際に、紡糸ノズル側に高電圧を印加し、溶解液に電界を作用させることにより延伸してナノファイバー化し、対向電極側にナノファイバーを堆積させることにより行うことができる。なお、紡糸ノズル側ではなく対向電極側に電圧を印加し、紡糸ノズルとの間に電界を作用させてもよい。
【0035】
ポリビニルアルコール溶液の押し出し方向は、特に限定するものではないが、溶解液の滴下が生じにくいように、ノズルからの押し出し方向と重力の作用方向とが一致しないことが好ましく、水平方向に溶解液を押し出すことがより好ましい。
【0036】
ポリビニルアルコール溶液を押し出すノズルの内径は、0.1~5mmであることが好ましく、0.2~3mmであることがより好ましく、0.5~2mmであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、好ましい繊維径の繊維が得られ、捕集効率の高いフィルターが得られる。
【0037】
ポリビニルアルコール溶液の押し出し速度は、0.2~0.8mL/hであることが好ましく、0.3~0.7mL/hであることがより好ましく、0.4~0.6mL/hであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、液滴が形成されにくく、均一な繊維径の繊維が得られる。
【0038】
ノズル先端からコレクターまでの距離(収集距離)は、5~25cmであることが好ましく、10~20cmであることがより好ましく、12~18cmであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、好ましい目付の不織布が得られ、捕集効率の高いフィルターが得られる。
【0039】
印加電圧は、1~30kVであることが好ましく、5~25kVであることがより好ましく、10~20kVであることが特に好ましい。上記範囲であることにより、好ましい繊維径の繊維が得られ、捕集効率の高いフィルターが得られる。
【0040】
紡糸時間は、0.5~10時間であることが好ましく、1~7時間であることがより好ましく、1~3時間であることが特に好ましい。上記範囲であることにより、好ましい厚みの不織布が得られ、水溶性及び圧力損失が良好となる。
【0041】
エレクトロスピニング法を行う際の相対湿度は、10~70%であることが好ましく、20~65%であることがより好ましい。上記範囲であることにより、繊維の乾燥速度が良好になり、繊維を形成しやすくなる。
【0042】
ポリビニルアルコールのナノファイバーは、コレクター上に直接集積させても良く、コレクター上に基板等の集積体を設置して、その上に集積させても良い。集積体としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属製や炭素などからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料等が挙げられる。形状については、得られる不織布の用途等に応じて適宜設定されるものであり、特に限定されないが、例えば、平板状、円形状、環状等が挙げられる。
【0043】
(水溶性フィルターの用途等)
一実施形態において、本発明の水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法を提供する。微粒子の捕集方法については特に限定されないが、例えば、(i)捕集したい微粒子の存在する環境下にて、本発明の水溶性フィルターを設置することにより、環境中の微粒子を水溶性フィルターに付着させて捕集する方法、(ii)捕集したい微粒子の存在する環境下にて、本発明の水溶性フィルターをポンプ等に接続することにより、環境中の微粒子を水溶性フィルターに衝突させて捕集する方法、(iii)本発明の水溶性フィルターを電極板に張り付けた状態で、捕集したい微粒子の存在する環境下に設置することで、電気の力で環境中の微粒子を捕集する方法、(iv)捕集したい微粒子の存在する環境下にて、本発明の水溶性フィルターをポンプ等に接続することにより、環境中の微粒子を水溶性フィルターにてろ過することで捕集する方法、等が挙げられる。本発明の水溶性フィルターを用いることにより、通気線速度0.6~0.9cm/sにおいて、粒子径0.3μm以上10μm以下の微粒子を95%以上の捕集効率で捕集することができる。
【0044】
また、他の実施形態において、本発明の水溶性フィルターを用いた微粒子の分析方法を提供する。
【0045】
一態様において、微粒子の分析方法は、以下の工程(a1)及び(a2)を含む。
(a1)本発明の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程。
(a2)フィルターに捕集された微粒子を、フィルター上に保持した状態で分析する工程。
【0046】
工程(a1)は、水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法として上記した条件の捕集工程を含む。
【0047】
工程(a2)は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)、顕微鏡分析等のフィルター非破壊での微粒子分析を、微粒子をフィルター上に保持した状態で行う工程を含む。
【0048】
他の態様において、微粒子の分析方法は、以下の工程(b1)、(b2)及び(b3)を含む。
(b1)本発明の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程。
(b2)微粒子を捕集したフィルターを溶媒に溶解させることにより、微粒子を含む溶解液又は分散液を取得する工程。
(b3)溶解液又は分散液中の微粒子を分析する工程。
【0049】
工程(b1)は、水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法として上記した条件の捕集工程を含む。
【0050】
工程(b2)について、微粒子を捕集したフィルターを溶解させる溶媒は、水を含むことが好ましい。当該溶媒には、水以外に、他の有機溶剤(例えば、エタノール、DMSO等)や、培地成分(例えば、αMEM培地、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、最小必須培地(MEM)、GMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、DMEM/F12培地、StemPro-34SFM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、HTF培地等)、添加剤(例えば、成長因子、ポリアミン類、ミネラル、糖類、有機酸、アミノ酸、還元剤、ビタミン類、ステロイド、抗生物質、緩衝剤、栄養添加物等)、電解質(ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等)、無機酸(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等)、アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等を含んでいても良い。
【0051】
微粒子を捕集したフィルターの、上記溶媒に対する濃度は、工程(b3)における分析方法に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されないが、例えば、0.1~6w/v%であることが好ましく、0.2~4w/v%であることがより好ましい。
【0052】
微粒子を捕集したフィルターを上記溶媒に溶解させる際には、必要に応じて加熱しながら行っても良い。溶媒の温度が50~90℃、好ましくは70~90℃であると、フィルターを溶媒に溶解させる時間を短縮することができる。
【0053】
工程(b3)は、例えば、細胞曝露試験、微生物培養実験、核酸抽出実験、原子スペクトル分析(原子吸光分析(AAS)、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)等)、イオンクロマトグラフィー等の分析工程を含む。特に、細胞曝露試験等においては、本発明の水溶性フィルターは細胞毒性を有しないため、フィルターに捕集した微粒子の細胞毒性等を評価することができる。
【0054】
他の実施形態において、本発明の水溶性フィルターを用いた微粒子の溶媒への回収方法を提供する。
【0055】
一態様において、微粒子の溶媒への回収方法は、以下の工程(c1)及び(c2)を含む。
(c1)本発明の水溶性フィルターを用いて微粒子を捕集する工程。
(c2)微粒子を捕集したフィルターを溶媒に溶解させることにより、微粒子を溶媒に溶解又は分散させる工程。
【0056】
工程(c1)は、水溶性フィルターを用いる微粒子の捕集方法として上記した条件の捕集工程を含む。
【0057】
工程(c2)は、上記工程(b2)において記載の工程を含む。
【0058】
上記の通り、本発明の水溶性フィルターは、微粒子の捕集及び分析用途として、好適である。本発明の水溶性フィルターは、耐久性に優れ、且つ、水溶性であるため、本発明の水溶性フィルターに捕集した微粒子について、化学分析、生物分析を含めた、幅広い分析を行うことができる。
【実施例0059】
本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0060】
[評価項目及び評価方法]
(1)フィルターの膜厚測定
フィルターに導電処理としてオスミウムコートを施した後、環境制御走査型電子顕微鏡(ESEM、FEI社製、Inspect S50)を用いてフィルターの周縁を10か所測定し、平均値を算出して膜厚とした。
【0061】
(2)平均繊維径の測定
フィルターをハサミで8分の1程度の扇形に切断し、導電処理としてオスミウムコートを施した後、電界放射型分析走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子社製、JSM-7600F)で撮影し、10か所の繊維径をImageJにより測定し、平均値を算出して平均繊維径とした。
【0062】
(3)目付
フィルターをハサミで 20mm角に切断し、その重量を精密天秤(エー・アンド・デイ社製、BM-252)で3回測定し、平均値を算出して目付とした。
【0063】
<製造例1>水溶性フィルターV1の製造
ポリプロピレンのクリアファイルをコンパスカッターで外径46mm、内径40mmの環状に切り取り、枠を作製した。
【0064】
ポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich社製、重量平均分子量89,000~98,000、けん化度99.0~99.8mol%)1.1gを水:エタノール=9:1の溶媒10mLに加え、87℃30分間撹拌して溶解させた。
【0065】
上記溶液を用いて、エレクトロスピニング法により水溶性フィルターV1を作製した。エレクトロスピニング法の概略図を図1に示す。コレクター1に上記にて作製した枠を設置し、上記溶液を1.5mLシリンジ2に入れ、溶液押出速度0.5mL/h、シリンジノズルの径20ゲージ、収集距離(ノズル先端からコレクター1までの距離)15cm、印加電圧15.0kV、紡糸時間3時間でエレクトロスピニング法を実施した。
【0066】
得られた水溶性フィルターV1は膜厚49.4±13.1μm、繊維径162±49nm、目付19.4±8.4g/m2であった。
【0067】
<製造例2>水溶性フィルターV2の製造
紡糸時間を6時間にした以外は、製造例1と同様の方法にて水溶性フィルターV2を製造した。得られた水溶性フィルターV2は膜厚89.6±26.4μm、繊維径149±50nmであった。
【0068】
<製造例3>水溶性フィルターV3の製造
紡糸時間を9時間にした以外は、製造例1と同様の方法にて水溶性フィルターV3を製造した。得られた水溶性フィルターV3は膜厚126±10μm、繊維径217±89nmであった。
【0069】
<実施例1>捕集効率測定
水溶性フィルターV1について捕集効率及び圧力損失を測定した(n=15)。捕集効率及び圧力損失の測定の概略図を図2に示す。また、図3に装置の配置図を示し、図4にフィルターの設置位置の詳細を示す。
(実験装置)
・光散乱式粒子計数器:リオン社製、気中パーティクルカウンタKC-01E(流量 0.5 L/min, 粒径 0.3~10 μm, 20 sec count)
・流量制御用ミニポンプ:日東工器社製、VP0125(到達真空度 -33.3 kPa, 吐出空気量 7 L/min)
・マスフローコントローラー:コフロック社製、8500MC(流量 0.5 L/min(20℃ 1 atm))
・マスフローメーター:Bronkhost社製、Mass-Stream(流量 0.1~20 L/min)
・差圧計:山本電機製作所社製、Manostar WO81FN200D(最大差圧 200 Pa(必要に応じてレンジ変更))
・温湿度計:T&D社製、TR-72wb
・フィルターホルダー:東京ダイレック社製、MCIホルダー(フィルター径 47 mm、有効径 40.5 mm)
・導入粒子:実験室内空気中粒子
【0070】
(捕集効率及び圧力損失の測定手順)
(1)光散乱式粒子計数器2台の機差を3回測定した。
(2)測定対象であるフィルター(水溶性フィルターV1)を47 mmΦにカットしてホルダーにセットした。
(3)(2)の状態でのインレットにおける流量と差圧を測定した。
(4)光散乱式粒子計数器2台をスタートさせ、20 秒間の測定値を3回記録した。
(5)フィルターを交換して(2)~(4)を順次実施した。
(6)すべてのフィルターを試験した後に終了した。
【0071】
なお、通気線速度は以下の通りであった。
・フィルター有効面積 12.88 cm2 、40.5 mmΦ
・流量 0.5 L/min
・通気線速度 0.65 cm/s
なお、捕集効率は下記式に従って算出した。
【0072】
【数1】
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
水溶性フィルターV1は、いずれの粒子範囲においてもほぼ100%に近い、高い捕集効率を有することが明らかとなった。
【0075】
【表1】
【0076】
<実施例2>耐久性確認試験
水溶性フィルターV1、及びゼラチンフィルター(ザルトリウス社製、タイプ126)、PTFEフィルター(Cytiva社製、PM2.5 PTFE Membrane Filter 7592-104)について、耐久性の確認を行った。
【0077】
具体的には、それぞれのフィルターについて0.3~10μmの粒子径範囲の捕集効率(1日目)を測定した後、チャック付きポリ袋(生産日本社製、ユニパック)中で24時間保管し、その後、再び0.3~10μmの粒子径範囲の捕集効率(2日目)を測定した(n=3)。なお、捕集効率の測定については、実施例1と同様の方法により行った。通気線速度は0.52~0.65cm/s、フィルター面積は12.88cm2で実施した。結果を表2、図5に示す。
【0078】
測定2日目に、ゼラチンフィルターは破損が確認されたが、水溶性フィルターV1及びPTFEフィルターは測定2日目においても破損が確認されなかった(図6)。水溶性フィルターV1は、ゼラチンフィルターとは異なり、PTFEフィルターと同等の耐久性を有することが明らかになった。
【0079】
【表2】
【0080】
<実施例3>溶解性試験
水溶性フィルターV1 1枚を2分割し、一方を5 mLの水とともに10 mLの遠沈管に加え、もう一方を2.5 mLの水とともに10mLの遠沈管に加えた。その後、それぞれの遠沈管を湯浴に付けて振り混ぜ、目視で溶解が確認されたときの温度を記録した。なお、湯浴の温度は、60℃から始め、約4℃/minで昇温していった。また、水溶性フィルターV2、V3についても同様に行い、温度を記録した。結果を表3に示す。
【0081】
本結果より、水溶性フィルターV1~V3のいずれも水に溶解することが明らかとなった。これは、PTFEフィルターなどの不溶性フィルターとは大きく相違する点である。
【0082】
【表3】
【0083】
<実施例4>捕集した粉塵の化学分析
定流量マルチサンプラー(SilVy-5、Asian Journal of Atmospheric Environment, 2021, 15(1), 52-67)を使用し、図7の通り水溶性フィルターV1及びPTFEフィルターを配置して、屋外にて2022年11月17日16時~2022年11月24日11時の期間に流量12~13L/minで粒子を捕集した。その後、フィルターをエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF、リガク社製、EDXL300)で捕集した粒子の成分分析を行った。結果を図8図9に示す。なお、図8は、通気した空気の総体積における、水溶性フィルターに捕集された粒子中の元素量の平均値及びPTFEフィルターに捕集された粒子中の元素量の平均値を示す。また、図9は、水溶性フィルターに捕集された粒子中の元素量の平均値を、PTFEフィルターに捕集された粒子中の元素量の平均値と比べた結果である。
【0084】
この結果から、水溶性フィルターV1は、PTFEフィルターと同様の化学分析を行うことができること、及び、PTFEフィルターと同等程度の粒子捕集能力を有することが明らかとなった。
【0085】
<実施例5>捕集した粉塵の化学分析2
扇風機(ボルネード社製 サーキュレーター 293HD-JP)の吹き出し口から風下側に30cm程度離れた場所にてJIS試験用粉体1(11種関東ローム)を5分ごとに飛散させ、水溶性フィルターV1に20分間捕集した(図10)。装置の配置の概略図を図11に示す(空間体積8m3)。また、フィルターでの捕集部分の構成の概略を、図12に示す。なお、ポンプの流量は16 L/minで実施した。
【0086】
その後、フィルターをエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF、リガク社製、EDXL300)で捕集した粒子の成分分析を行った。結果を図13に示す。
【0087】
この結果からも、水溶性フィルターV1は、PTFEフィルターと同様の化学分析を行うことができること、及び、PTFEフィルターと同等程度の粒子捕集能力を有することが明らかとなった。
【0088】
<実施例6>水溶性フィルターの細胞曝露実験
水溶性フィルターV1が細胞生存率に影響を与えるか否かを確認するために、フィルター溶解液を用いて細胞曝露実験(WST-1アッセイ)を行った。WST-1アッセイの概要図を図14に示す。
【0089】
まず、96 wellプレートに2,500 cells/wellの濃度でA549細胞を播種し、72時間後に試料を曝露した。なお、フィルター溶解液に関して、溶液調製は以下のように行った。
【0090】
(1)水溶性フィルターV1 1枚を遠沈管に入れ、 培地 (Ham's F-12K (Kaighn's) Medium, Thermo Fisher Scientific) 2.5 mLを加えた。
(2)ボルテックスで15秒ほど振動を加えた。
(3)遠沈管を65℃の湯浴に加えて30分間加熱をしたのち、湯浴の温度を85℃に設定してさらに30分加熱し、水溶性フィルターV1を溶解させた。
(4)水溶性フィルターV1について、もう1枚についても(1)~(3)と同様の操作を行い、n=2でWST-1アッセイを行った。
【0091】
また、ブランク試料としては、培地のみを遠沈管に2.5mL入れ、上記と同様の手順で溶液調製を行ったものを用いた。コントロールには細胞培地のみを加えた。またこの時、細胞が播種されていない96 wellプレートも用意し、細胞を播種したプレートと同じ条件で試料を加えて、細胞があるプレートと同様にインキュベートした。
【0092】
曝露から24時間経過後、吸光度測定を行った。まず、WST-1試薬を細胞があるプレート、細胞がないプレート共に各wellに10μLずつ加えた。細胞がないプレートをブランクプレートとし、WST-1溶液を添加してから1時間後にPremix WST-1 Cell Proliferation Assay System(RaKaRa Bio)を用いて450nm/630nmで吸光度の測定を行った。細胞生存率の算出式は以下の通りである。
【0093】
【数2】
【0094】
得られた結果の有意差については統計ソフト「EZR」を使用し、Dunnett法を用いて検定を行った。コントロール群と他の試料群をそれぞれ比較し、P<0.05のとき有意差があると判断した。結果を図15に示す。
【0095】
この結果から、粒子を捕集していない状態の水溶性フィルターV1においては、細胞生存率へ影響はほぼないことが明らかになった。
【符号の説明】
【0096】
1 コレクター
2 シリンジ
3 ポンプ
4 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15