(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174595
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】吸液性透明シート、該シートを含有する創傷被覆材
(51)【国際特許分類】
A61L 15/24 20060101AFI20241210BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20241210BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20241210BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61L15/24 100
A61L15/42 100
A61L15/60 100
A61L15/26 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092496
(22)【出願日】2023-06-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5月29日にhttps://www.exlan.co.jp/products/function/lineup/lslsheet/にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小見山 拓三
(72)【発明者】
【氏名】清水 治貴
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA06
4C081BB01
4C081BB02
4C081BB09
4C081CA111
4C081CA211
4C081CA271
4C081CB041
4C081CC01
4C081DA02
4C081DA12
4C081DC04
(57)【要約】
【課題】創傷被覆材は、従来のガーゼや消毒液を用いた治癒に比べ、創面の湿潤状態が維持され、細胞の活性化が阻害されないことから、創傷を効果的に治癒することができる。近年、吸液して透明となり、創傷部を被覆の外から観察できる創傷被覆材が報告されているが、吸液前には不透明であり、創傷部の位置を確認しながら創傷被覆材を貼る用途には適していない。
【解決手段】親水性重合体を含有する外層部と、アクリロニトリル系重合体を含有する内層部で構成された吸液性 芯鞘繊維からなる吸液性透明シートであって、前記芯鞘繊維の扁平度が1.10~4.50であり、前記吸液性透明シートの目付が25~180g/m2であり、かつ前記吸液性透明シートにおける前記芯鞘繊維の混率が25~100重量%であることを特徴とする、吸液性透明シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性重合体を含有する外層部と、アクリロニトリル系重合体を含有する内層部で構成された吸液性 芯鞘繊維からなる吸液性透明シートであって、前記芯鞘繊維の扁平度が1.10~4.50であり、ならびに前記吸液性透明シートの目付が25~180g/m2であり、かつ前記吸液性透明シートにおける前記芯鞘繊維の混率が25~100重量%であることを特徴とする、吸液性透明シート。
【請求項2】
吸液性透明シートの吸液倍率 が1.8~15倍であることを特徴とする、請求項1に記載の吸液性透明シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸液性透明シートを含有することを特徴とする、創傷被覆材。
【請求項4】
さらに透気性フィルムを含有することを特徴とする、請求項3に記載の創傷被覆材。
【請求項5】
透気性フィルムがウレタンフィルムまたはシリコンフィルムであることを特徴とする、請求項4に記載の創傷被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸液性透明シート、該シートを含有する創傷被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創傷被覆材とは、その名の通り熱傷や擦り傷、褥瘡などといった創傷部の表面(創面)を覆うように設置される衛生材料であり、創面の保護や乾燥防止(保湿性)、滲出液の吸収(吸液性)、細菌の感染抑制などの役割がある。従来の主流であった、創面をガーゼで覆い、消毒液で消毒する方法に比べ、創面の湿潤状態が維持されることで細胞の活性化が阻害されず、創傷を効果的に治癒することが可能であり、これまでにも様々な創傷被覆材が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1には、エステル化されたカルボキシル基含有多糖類と、天然アミノ酸に由来するα-アミノ基を2つ以上有する化合物から形成された水膨潤性高分子ゲルが報告されており、特許文献2では、カルボキシメチル基が部分的にプロトン化されたカルボキシメチルセルロース長繊維を含有する繊維シートが二層以上積層されてなり、該シート間が熱可塑性樹脂シートで熱溶着された積層シート状構造体が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4044291号公報
【特許文献2】特開2021-172014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の創傷被覆材には保湿性や吸液性のほかに、透明性が求められている場合がある。これは、創傷被覆材を用いて創傷部を治癒する際、治癒の経過を被覆の外から観察したいという要望に応えるためである。さらに、該透明性が吸液前から発現している場合、創傷部の位置を確認しながら創傷被覆材を貼ることができるため、貼り直しの手間や、貼り付けに失敗して別の未使用品を用意する無駄を削減することができる。前述した特許文献1に記載の水膨潤性高分子ゲルや特許文献2に記載の積層シート状構造体はいずれも優れた透明性を有しており、創傷部を被覆の外から観察できる一方、その透明性は吸液時に発現するため、創傷部の位置を確認しながら貼り付ける用途には適していない。
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、親水性重合体を含有する外層部と、アクリロニトリル系重合体を含有する内層部で構成された芯鞘繊維からなる吸液性シートにおいて、該芯鞘繊維断面の扁平度、吸液性シートに占める該繊維の重量割合、及び吸液性シートの目付を制御することで、優れた吸液性を得つつ、吸液前から透明性を発揮できるシート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有するものである。
(1)親水性重合体を含有する外層部と、アクリロニトリル系重合体を含有する内層部で構成された吸液性芯鞘繊維からなる吸液性透明シートであって、前記芯鞘繊維の扁平度が1.10~4.50であり、前記吸液性透明シートの目付が25~180g/m2であり、かつ前記吸液性透明シートにおける前記芯鞘繊維の混率が25~100重量%であることを特徴とする、吸液性透明シート。
(2)吸液性透明シートの吸液倍率が1.8~15倍であることを特徴とする、(1)に記載の吸液性透明シート。
(3)(1)または(2)に記載の吸液性透明シートを含有することを特徴とする、創傷被覆材。
(4)さらに透気性フィルムを含有することを特徴とする、(3)に記載の創傷被覆材。
(5)透気性フィルムがウレタンフィルムまたはシリコンフィルムであることを特徴とする、(4)に記載の創傷被覆材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸液性透明シートは、吸液性と透明性を兼ね備えていることから、創傷被覆材、特に創傷部の治癒経過を観察したい場合に好適に採用できる。また、該シートの透明性は吸液前でも発現しているため、創傷部の位置を確認しながら創傷被覆材を貼ることができ、貼り直しの手間や、貼り付けに失敗して別の未使用品を用意する無駄を削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明の吸液性透明シートにおける吸液性芯鞘繊維の混率は、下限として25重量%が好ましく、50重量%がより好ましい。混率が25重量%を下回る場合、吸液性シートの透明性、吸液性が不十分となる。また、上限としては特に制限はないが、理論上100重量%を超えることはなく、シートの加工性や吸液後の保形性の観点から、上限は80重量%が好ましい。
【0011】
また、吸液性透明シートの目付は、下限として25g/m2であることが好ましく、50g/m2がより好ましい。目付が25g/m2を下回る場合、シートの吸液性が不十分となる。また、上限としては180g/m2であることが好ましく、150g/m2であることがより好ましい。目付が180g/m2を上回る場合、透明性が不十分となり、創傷部の視認性が低下する恐れがある。
【0012】
本発明に採用する吸液性芯鞘繊維は、親水性重合体を含有する外層部と、アクリロニトリル系重合体を含有する内層部で構成されている。かかる吸液性芯鞘繊維としては、具体的にはアクリロニトリル系繊維の表面を加水分解することで表面に塩型カルボキシル基を有する吸液層、中心部にアクリロニトリル系繊維部を残した芯鞘構造を有するポリアクリロニトリル系吸液性繊維や、かかる吸液性繊維に共有結合による架橋構造を導入せしめた芯鞘構造を有する架橋ポリアクリロニトリル系吸液性繊維等を挙げることができる。
【0013】
特に上記の架橋ポリアクリロニトリル系吸液性繊維は、中心部にアクリロニトリル系繊維部が残るために繊維の物理的強度が強く加工時の取扱性が良好であるとともに膨潤時には繊維の長さ方向への変化が少ないため製品の寸法安定性が良好でありより好ましい。
【0014】
かかるポリアクリロニトリル系吸液性繊維における共有結合による架橋構造の導入は、上述した繊維表面の加水分解前であっても、加水分解と同時であっても、加水分解後であっても構わない。また、架橋構造の導入においてはアクリロニトリル系繊維が有するニトリル基を、あるいは加水分解により生成したカルボキシル基を利用することができる。ただし、加水分解により生成したカルボキシル基を利用する方法では、加水分解により繊維表面に生成するゲル部位のゲル強度が弱く、架橋構造を導入する前の段階でゲルが脱落する、あるいは架橋されなかった一部のカルボキシル基含有ポリマーが流出するといった問題が起こりやすい。これに対し、加水分解前あるいは加水分解中にニトリル基を利用して架橋構造を導入すると、加水分解後のゲル強度が高く、また架橋されないカルボキシル基含有ポリマーが減少するため、工業的な取扱、環境への影響に対しても有利である。このことから、加水分解前あるいは加水分解中にニトリル基を利用して架橋構造を導入する方法が好ましい。
【0015】
以下にニトリル基を利用して架橋構造を導入した架橋ポリアクリロニトリル系吸液性繊維の製造方法について詳述する。まず、原料となるアクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルを80重量%以上、好ましくは85重量%以上含む重合体が望ましい。共重合モノマーとしては塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸及びこれらの塩類:(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等のエチレン系不飽和スルホン酸及びこれらの塩類;(メタ)アクリルアミド、シアン化ビニリデン、メタアクリロニトリル等のビニル化合物類等が挙げられる。
【0016】
ここで、アクリロニトリル系重合体の分子量としては、一般の衣料用繊維として用いられる程度の分子量のものでも、高強度繊維等に用いられるような高分子量のものでもかまわないが、汎用の衣料用繊維を用いるほうがコスト的に有利であることから、20万以下の重量平均分子量のものが好適に利用できる。
【0017】
次に該アクリロニトリル系繊維を出発物質として使用し、ニトリル基を利用した架橋構造の導入を行い、目的とする吸液倍率を有する吸液性繊維を得る方法を詳細に説明する。この方法としてはニトリル基を利用した架橋処理後に加水分解処理を行う方法とニトリル基を利用した架橋と加水分解を同時処理する方法を挙げることができる。
【0018】
はじめにニトリル基を利用した架橋処理後に加水分解処理を行う方法について説明を行う。アクリロニトリル系繊維にニトリル基を利用した架橋構造を導入する方法としては架橋剤濃度0.1~10.0重量%の水溶液中、温度50~120℃で5~150分間処理する手段が工業的に好ましい。ここで架橋剤濃度、処理温度が下限値を切ると共有結合による架橋構造の導入量が不足し、逆に架橋剤濃度、処理温度が上限を超えると共有結合による架橋構造の導入量が多くなりすぎ、いずれの場合も本発明の吸液倍率の範囲にある吸液性繊維を得ることが難しい。
【0019】
架橋剤はニトリル基と化学反応し共有結合を形成しうる官能基を1分子中に2個以上有する多官能性化合物であれば特に限定はないが、例えばアミノ基、エポキシ基等の官能基を2個以上有する多官能性化合物が挙げられる。具体的には水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ジアミノエタン、炭酸グアニジン、1、3-ジアミノプロパン、エチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0020】
かくして得られた架橋アクリロニトリル系繊維を加水分解する手段は、アルカリ性金属化合物またはその水溶液を該繊維の乾燥重量に対し、アルカリ性金属化合物量が2.5~10.0mmol/g、好ましくは5.0~10.0mmol/gの範囲内になるように付着させた繊維を調整し、該繊維を80℃以上の温度で5~180分間加熱、好ましくは100~150℃の湿熱雰囲気下で10~120分間加熱する手段を採用することが望ましい。なお、かかる加水分解処理においては必要に応じて架橋剤を添加しておいてもよく、後述する架橋と加水分解を同時処理する方法をそのまま採用してもよい。
【0021】
ここで使用するアルカリ性金属化合物とは、アルカリ金属化合物の1.0重量%水溶液のpHが7.5以上を示す物質をいい、かかる物質の例としては、Na、K、Li等のアルカリ金属の水酸化物または炭酸、酢酸、ギ酸等の有機酸のNa、K、Li等のアルカリ金属塩をあげることができる。なお、アルカリ性金属化合物の水性溶液を作成する溶媒としては、工業的は水が好ましいが、アルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶媒と水との混合溶媒でも良い。
【0022】
続いてニトリル基を利用した架橋と加水分解を同時処理する方法について説明を行う。架橋剤とアルカリ性金属化合物とを共存させた水性溶液を、アクリロニトリル系繊維の乾燥重量に対し、アルカリ性金属化合物量が2.5~10.0mmol/g、好ましくは5.0~10.0mmol/gの範囲、架橋剤が0.1~1.5重量%、好ましくは0.5~1.0重量%の範囲内になるように付着させた繊維を調整し、該繊維を80℃以上の温度で5~180分間加熱、好ましくは100~150℃の湿熱雰囲気下で10~120分間加熱する手段を採用することが望ましい。
【0023】
上述の様にして加水分解された繊維が含有するカルボキシル基量は、下限として1.0mmol/gが好ましく、1.5mmol/gがより好ましい。カルボキシル基量が1.0mmol/gを下回る場合、満足する吸液性が得られないおそれがある。また、上限としては5.0mmol/gが好ましく、4.0mmol/gがより好ましい。カルボキシル基量が5.0mmol/gを上回る場合、繊維物性が悪く取扱いが困難となるおそれがある。
【0024】
かかる吸液性芯鞘繊維の吸液性透明シートとした際の扁平度、すなわち該繊維断面の短軸aに対する長軸bの比b/a、については、下限として好ましくは1.10、より好ましくは1.40であることが望ましい。扁平度が1.10を下回る場合、シートの透明性が低下してしまい、創傷部の様子を被覆の外部から観察しづらくなるおそれがある。このようになる詳細なメカニズムは不明だが、繊維断面が扁平形状である場合、断面が円状のものと比べシート内部の空隙が少なくなり、シートに入射した光が空隙中の空気等で屈折する頻度も減少するため、透明性が得られると考えられる。また、上限としては4.50が好ましく、2.30がより好ましい。扁平度が4.50を上回る場合、繊維物性が悪くなるおそれがある。
【0025】
かかる吸液性芯鞘繊維の扁平度を前述した所定の範囲とする方法については特に制限はなく、複合口金を用いた紡糸工程により扁平繊維を得る方法、カードウェブを作成したのち熱プレスして繊維断面を扁平形状に変形させる方法など、公知の方法を採用することができる。
【0026】
また、本発明の吸液性シートにおいて吸液性芯鞘繊維と混用することのできる繊維としては、特に限定はないが、コスト面から考えてポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、コットン、レーヨン、羊毛、ガラス繊維等の汎用繊維を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の吸液性透明シートは、0.9重量%食塩水を吸収した際の膨潤倍率(以下吸液倍率とする)が、下限として1.8倍であることが好ましく、3.0倍であることがより好ましい。吸液倍率が1.8倍を下回る場合、創傷被覆材として用いたときに滲出液を吸収しきれず、液漏れを起こすおそれがある。また、上限としては15倍が好ましく、12倍がより好ましい。吸液倍率が15倍を上回る場合、吸液時のゲル強度が低下し、保形性が失われるおそれがある。
【0028】
また、本発明の吸液性透明シートは、後述の視認性試験において、吸液前、吸液後の視認性がいずれも2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。視認性が2を下回る場合、透明性が不十分であり、創傷部を被覆の外から観察することが困難となる恐れがある。
【0029】
また、本発明の吸液性透明シートは、上述した吸液性芯鞘繊維が繊維状態を保持しつつ一様に圧着されている場合、該シートの吸液性を維持しつつその厚さを薄くすることが可能である。ここで圧着とは、加圧により塑性変形して接合している状態のことをいい、一様に圧着されているとは圧着されていない部分や他の箇所に比べて明らかに圧着の弱い部分がない状態をいう。なお、塑性変形させる観点から、圧着方法は加熱下で加圧する熱圧着が望ましい。
【0030】
上述してきた本発明の吸液性シートの製造方法としては特に制限はないが、前述した熱圧着でシートを作成する場合、上述の吸液性芯鞘繊維、または該繊維と他の繊維を混綿したものをカード機によって開繊ウェブとした後、該開繊ウェブを直接熱プレスする方法や、該開繊ウェブをニードルパンチ工程に通過させた後、次いで熱プレスする方法等が挙げられる。ここで、熱プレスには、一様に圧着する観点から、平滑なカレンダーロールや平板プレス機を用いることが望ましい。
【0031】
熱プレスの温度は、下限としては100℃が好ましく、120℃がより好ましい。熱プレスの温度が100℃を下回る場合、シートの密度が上がらず、薄型化が不十分となるおそれがある。また、上限としては200℃が好ましく、180℃がより好ましい。熱プレスの温度が200℃を超える場合、繊維の物性が低下し、シートの物性や吸液性能が低下する可能性があり好ましくない。
【0032】
熱プレスの圧力は、線圧としては150kgf/cmが下限として好ましく、200kgf/cmがより好ましい。圧力が150kgf/cmを下回る場合、シートの密度が上がらず、薄型化が不十分となる場合があり好ましくない。また、上限としては、2500kgf/cmが好ましく、2300kgf/cmがより好ましい。圧力が2500kgf/cmを上回る場合、吸液量や吸液速度性が遅くなる可能性があり好ましくない。
【0033】
上記のような熱プレスによって本発明の吸液性透明シートを作成した場合、高密度薄型化されているにも関わらず、吸液性芯鞘繊維の吸液性能が阻害されることなく発現される。これは、本発明の吸液性シートにおいて、前記吸液性芯鞘繊維が圧着されているのみで融着せずに繊維状態を保持している状態にあるためであると考えられる。
【0034】
該繊維が上述のような特性を有する理由は定かではないが、該繊維に含まれるアクリロニトリル系重合体はガラス転移点が低く、熱プレス温度で軟化を起こすため、熱プレス時においても繊維形状が破壊されることなく扁平状に変形すると考えられる。さらに、アクリロニトリル系重合体は溶融もしないため、熱プレス後においても繊維1本1本が独立した状態を保つと考えられる。
【0035】
本発明の吸液性透明シートは、優れた吸液性と透明性を兼ね備えていることから、創傷被覆材に好適に用いることができる。また、本発明の効果の一側面としては、吸液性芯鞘繊維を採用することにより、熱融着性繊維を用いずとも十分な強度を有するシートを成形が可能であることが挙げられ、実使用において非常に有利である。
【0036】
ここで、創傷被覆材に前記吸液性透明シートを用いる場合、前記吸液性透明シートのほかに別の材料を組み合わせてもよく、例えば創傷面に近い方から、前記吸液性透明シート、透気性フィルムをこの順で積層して創傷被覆材とした場合、前記フィルムが細菌や水分などといった外部からの汚染を防ぎつつ、吸液シートが吸収した水分を蒸散させ、被覆材内部に過度な湿気が留まることを抑止することができる。前記透気性フィルムは、創傷被覆材全体として吸液前でも透明性を損なわない程度に透明であることが望ましく、かかるフィルムとしては、例えばシリコンフィルムやウレタンフィルム等が挙げられる。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例中の部および百分率は、断りのない限り重量基準で示す。
【0038】
<吸液倍率の測定方法>
試料シート約0.5gを25℃の0.9%食塩水300ml中に30分間浸漬した後、遠心脱水(160G×5分、ただしGは重力加速度)して調整した試料の重量(Y1(g))を測定し、次に該試料を80℃の真空乾燥機中で恒量になるまで乾燥した試料シートの重量(Y2(g))を測定し、次式によって算出したものである。
吸液倍率(倍)=(Y1-Y2)/Y2
【0039】
<カルボキシル基量の測定方法>
試料繊維をpH2~3の硫酸水溶液に30分浸漬後、十分水洗し80℃乾燥機にて乾燥し、その後、試料繊維約0.4gを秤取り(X1(g))、これを100mlの脱イオン水に0.5gの塩化ナトリウムを溶解した液に入れて30分間攪拌する。続いて0.1mol/LのNaOHを30ml滴下した後に、フェノールフタレインを数滴滴下して赤色に着色するのを確認後、引き続き30分間攪拌する。その後、金網メッシュを使用して試料繊維と分散液を分離して分散液を回収する。分散液に0.1mol/LのHClを赤色が消失するまで滴下する(X2(ml))。次式に従ってカルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量(mmol/g)=(30-X2)×0.1/X1
【0040】
<扁平度の測定方法>
試料シートをカットしたのち、光学顕微鏡を用いてシート断面の写真を撮影し、該写真から50本の繊維の短軸(A)および長軸(B)を測定した。その後、各繊維について(B)/(A)を算出し、平均して扁平度とした。
【0041】
<目付の測定方法>
シートから10cm×10cmの試験片を採取し、105℃で2時間乾燥した後、重量(W[g])を測定し、次式によって算出する。
目付け[g/m2]=W/(0.1×0.1)
【0042】
<シート透過性(視認性)の測定方法>
シートから5cm×7.5cmの試料シートを作成し、該試料シートを赤色で「赤」、黒色で「黒」、白色で「白」、黄色で「黄」と印字(フォント:明朝体、サイズ:10.5P)された灰色のコピー用紙の上に置き、以下の評価基準で評価した。
1:文字が書かれていると分からず、何色かも分からない
2:何の文字が書かれているか分からず、色は何色か分からないが文字ごとの色の濃淡は分かる
3:何の文字が書かれているか分からず、色は何色か分かるがにじんで見える
4:文字は輪郭がぼやけているが何の文字か分かり、色は何色か分かる
5:文字も色もはっきり見える
その後、該試料シートを透明なチャック付き袋に入れ、そこに試料シートの重量に対して20倍の0.9%食塩水を加えて試料シートに吸液させた。吸液後、透明なチャック付き袋に入れた状態で前述のコピー用紙の上に置き、上記と同様の基準で評価した。
【0043】
<吸液性芯鞘繊維の作成>
繊度3.3dtex、繊維長51mmのアクリル繊維表面に35%の水酸化ナトリウム水溶液と0.1%のヒドラジン水溶液の混合水溶液をアクリル繊維重量の1.5倍の重量となるように付着させ108℃で15分間加水分解することで表面に塩型カルボキシル基を有する吸液層、中心部にアクリロニトリル系繊維部を残した芯鞘構造を有する吸液性芯鞘繊維(カルボキシル基量2.5mmol/g)を作成した。
【0044】
(実施例1)
前述の吸液性芯鞘繊維を用いてカード開繊機で目付50g/m2の開繊ウェブを作り、金属製の平滑なカレンダーロールを用いて150℃、198kgf/cmの条件にて熱プレスを行い、実施例1のシートを作成した。
【0045】
(実施例2)
プレス圧を264kgf/cmとするほかは実施例1と同様にし、実施例2のシートを作成した。
【0046】
(実施例3)
プレス圧を330kgf/cmとするほかは実施例1と同様にし、実施例3のシートを作成した。
【0047】
(実施例4)
プレス圧を1155kgf/cmとするほかは実施例1と同様にし、実施例4のシートを作成した。
【0048】
(実施例5)
プレス圧を2310kgf/cmとするほかは実施例1と同様にし、実施例5のシートを作成した。
【0049】
(実施例6)
開繊ウェブの目付を25g/m2とするほかは実施例5と同様にし、実施例6のシートを作成した。
【0050】
(実施例7)
開繊ウェブの目付を100g/m2とするほかは実施例5と同様にし、実施例7のシートを作成した。
【0051】
(実施例8)
前述の吸液性芯鞘繊維を30重量%、日本エクスラン工業(株)製のアクリル繊維K8を70重量%用いて開繊ウェブを作るほかは実施例4と同様にし、実施例7のシートを作成した。
【0052】
(実施例9)
前述の吸液性芯鞘繊維を50重量%、日本エクスラン工業(株)製のアクリル繊維K8を50重量%用いて開繊ウェブを作るほかは実施例4と同様にし、実施例7のシートを作成した。
【0053】
(比較例1)
熱プレスを行わないほかは実施例1と同様にして、比較例1のシートを作成した。
【0054】
(比較例2)
開繊ウェブの目付を200g/m2とするほかは実施例4と同様にし、比較例2のシートを作成した。
【0055】
表1に各実施例、比較例についての評価結果を示す。
【0056】