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特開2024-174596節足動物の飼育装置及び節足動物の飼育方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174596
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】節足動物の飼育装置及び節足動物の飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/033 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092497
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 聡志
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、飼育容器内での節足動物の密集を避け易くすると共に隠場を増やし、かつ採餌効率を高めた飼育容器を提供することや、その飼育容器を用いた節足動物の飼育方法を提供することにある。
【解決手段】上面が開口した容器本体と、前記開口に取り付けられる蓋体からなる飼育容器内に、上方に突出する複数の凸部と、隣接する前記凸部の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部を備えた第一の給餌シートが、略水平であって鉛直方向に3層以上、節足動物が隠れる隙間を保持して積層しており、かつ、最上層にある前記第一の給餌シートの上方に、平板形状の第二の給餌シートが配置していることを特徴とする、
節足動物の飼育装置を作製する。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した容器本体と、前記開口に取り付けられる蓋体からなる飼育容器内に、上方に突出する複数の凸部と、隣接する前記凸部の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部を備えた第一の給餌シートが、略水平であって鉛直方向に3層以上、節足動物が隠れる隙間を保持して積層しており、かつ、最上層にある前記第一の給餌シートの上方に、平板形状の第二の給餌シートが配置していることを特徴とする、
節足動物の飼育装置。
【請求項2】
前記第二の給餌シートが、節足動物が通る隙間を空けて鉛直方向に2層以上積層していることを特徴とする、請求項1に記載の節足動物の飼育装置。
【請求項3】
最上層の前記第二の給餌シートは上面が平滑であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の節足動物の飼育装置。
【請求項4】
前記蓋体の底面と、最上層にある前記第二の給餌シートの上面との距離が0.5~20cmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の節足動物の飼育装置。
【請求項5】
前記凸部の周縁部及び/又は頂部には、餌を保持するための微少な凹凸が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の節足動物の飼育装置。
【請求項6】
前記第一の給餌シート及び/又は第二の給餌シートの上面又は底面に、節足動物が隠れる隙間を形成するための脚が備えられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の節足動物の飼育装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の節足動物の飼育装置を用い、前記飼育装置の第一の給餌シートの前記餌受部及び第二の給餌シートに餌を配置し、節足動物を飼育する方法。
【請求項8】
前記第一の給餌シートの餌受部又は前記第二の給餌シートの上面に撒く餌の粒子において、少なくとも一部の第一又は第二給餌シートに撒く餌の粒子径と、他の第一又は第二給餌シートに撒く餌の粒子径が異なることを特徴とする、請求項7に記載の節足動物を飼育する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コオロギをはじめとする節足動物の飼育装置や、節足動物の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食用や飼料目的としてフタホシコオロギやヨーロッパイエコオロギ等のコオロギ類が着目されている。このコオロギ類を食用や飼料目的に育成するためには、飼育環境を改善して、より効率的な育成方法が必要とされている。
【0003】
従来のコオロギ類の飼育方法としては、たとえば、側壁が略垂直で、少なくとも内面に滑らかに形成するとともに、コオロギの成虫が跳躍脱出することができない深さとした上部開口構造の飼育容器の内に、適度に水分管理され、かつ砕土と砂とからなる産卵用媒体を容れた扁平植木鉢構造の産卵容器及び給水手段を収容配設して飼育する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
このほか、コオロギ類の生産規模拡大に伴い、深型の衣装ケースを飼育容器とし、床の半分に餌を撒き、床の残り半分に卵モールドを鉛直方向に置いて飼育する方法が行われている。
【0005】
また、飼育した生物を短時間で効率よく飼育ユニットから引き離して収集する工夫も行われている。たとえば、生物が止まることが可能な少なくとも一つの止まり部材と、飼育ケース内に設けられ、その止まり部材に沿って移動可能な引離部材と、を備えた飼育装置が開示されている(特許文献2、3参照)。
【0006】
さらに、コオロギ等の一部の節足動物は共食い生態を有することから、その共食いを防ぐための飼育装置も開発されている。たとえば、共食いの生態を有する生物を同じ齢毎に飼育する複数の飼育箱と、前記複数の飼育箱のうち前記生物が低齢の状態にある低齢飼育箱から前記低齢よりも高齢の状態にある高齢飼育箱へと前記低齢の前記生物を前記高齢の前記生物の生餌として供給するための生餌供給装置と、を備える飼育装置が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-191834号公報
【特許文献2】国際公開第2023-042404号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2021-192820号パンフレット
【特許文献4】特開2023-54497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のコオロギ等の節足動物の飼育方法では、飼育容器の床の約半分もの面積に餌を撒き、残りの床及び空間は節足動物が活動する場に用いられていたため、餌場面積も非常に狭く、かつ飼育空間の有効活用が難しかった。また、節足動物が活動する空間を広く確保するためには飼育容器自体が大容量となってしまい、飼育容器を置く部屋を広く確保する必要があった。
【0009】
そこで本発明の課題は、飼育容器内での節足動物の密集を避け易くすると共に隠場を増やし、かつ採餌効率を高めた飼育容器を提供することや、その飼育容器を用いた節足動物の飼育方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コオロギの生存においては、幼虫及び成虫が縄張り行動を行うために、1個体あたりの餌場面積に比例してよりよい飼育環境となると考えた。そこで、より効率的な大規模飼育を行うためには、1個体あたりの餌場面積を拡大することに注力した。こうした中で、本発明者らは、飼育容器内に給餌シートを略水平に積層すると共に、さらにその最上層の上方に平板形状の給餌シートを配置することで飼育容器内の餌場の面積を増大できることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕上面が開口した容器本体と、前記開口に取り付けられる蓋体からなる飼育容器内に、上方に突出する複数の凸部と、隣接する前記凸部の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部を備えた第一の給餌シートが、略水平であって鉛直方向に3層以上、節足動物が隠れる隙間を保持して積層しており、かつ、最上層にある前記第一の給餌シートの上方に、平板形状の第二の給餌シートが配置していることを特徴とする、
節足動物の飼育装置。
〔2〕前記第二の給餌シートが、節足動物が通る隙間を空けて鉛直方向に2層以上積層していることを特徴とする、上記〔1〕に記載の節足動物の飼育装置。
〔3〕最上層の前記第二の給餌シートは上面が平滑であることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の節足動物の飼育装置。
〔4〕前記蓋体の底面と、最上層にある前記第二の給餌シートの上面との距離が0.5~20cmであることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の節足動物の飼育装置。
〔5〕前記凸部の周縁部及び/又は頂部には、餌を保持するための微少な凹凸が形成されていることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の節足動物の飼育装置。
〔6〕前記第一の給餌シート及び/又は第二の給餌シートの上面又は底面に、節足動物が隠れる隙間を形成するための脚が備えられていることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の節足動物の飼育装置。
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の節足動物の飼育装置を用い、前記飼育装置の第一の給餌シートの前記餌受部及び第二の給餌シートに餌を配置し、節足動物を飼育する方法。
〔8〕前記第一の給餌シートの餌受部又は前記第二の給餌シートの上面に撒く餌の粒子において、少なくとも一部の第一又は第二給餌シートに撒く餌の粒子径と、他の第一又は第二給餌シートに撒く餌の粒子径が異なることを特徴とする、上記〔7〕に記載の節足動物を飼育する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の節足動物の飼育装置により、限られた飼育容器内で節足動物同士の密集を低減し、かつ採餌効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本件節足動物の飼育装置の全体の正面図である。
図2】蓋体を取り外した状態の本件節足動物の飼育装置の平面図である。
図3】第一の給餌シート及び第二の給餌シートの斜視図である。
図4】代表的な凸部を備えた第一の給餌シートの斜視図である。
図5】半円筒形状の凸部を備えた第一の給餌シートの斜視図である。
図6】四角柱形状の凸部が縦、横に均等に配置されている第一の給餌シートの斜視図である。
図7A】凸部において、餌を保持するための微少な凹凸が形成されている態様を示す図である。
図7B】凸部において、微少な凹凸が形成され、餌を保持している態様を示す図である。
図8】第一の給餌シートの底面に、脚が設けられてた態様を示す図である。
図9】第二の給餌シートにおいて、隙間の幅を変化させた態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の節足動物の飼育装置は、上面が開口した容器本体と、前記開口に取り付けられる蓋体からなる飼育容器内に、上方に突出する複数の凸部と、隣接する前記凸部の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部を備えた第一の給餌シートが、略水平であって鉛直方向に3層以上、節足動物が隠れる隙間を保持して積層しており、かつ、最上層にある前記第一の給餌シートの上方に、平板形状の第二の給餌シートが配置していることを特徴とする、節足動物の飼育装置であれば特に制限されず、以下、「本件節足動物の飼育装置」ともいう。また、本発明の節足動物の飼育方法は、上記本件節足動物の飼育装置を用い、前記飼育装置の前記餌受部及び第二の給餌シートに餌を配置し、節足動物を飼育する方法であれば特に制限されず、以下、「本件節足動物の飼育方法」ともいう。
【0015】
■飼育装置
まず、本件節足動物の飼育装置について、以下に説明する。
【0016】
(第一の給餌シート)
・凸部及び餌受部
第一の給餌シートは、上方に突出する複数の凸部を備えている。また、第一の給餌シートは、隣接する前記凸部の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部を備えている。上記凸部の形状としては、略円錐形状、略角錐形状、略円錐台形状、略角錐台形状、略釣鐘形状、略円柱形状、略四角柱形状、略逆円錐形状、略逆角錐形状、略筒形状、略半円筒形状等を挙げることができる。また、上記凸部は、水平方向に延伸するように配置されていてもよい。なお、餌場面積を広く確保する観点からは、凸部の頂部から下方に移行するにしたがって、徐々に幅広となるような湾曲面又は傾斜面となるように形成されていることが好ましい。また、この凸部は、底面が上方に隆起して形状されていてもよく、空洞になっていてもよい。
【0017】
隣接する凸部の間隔は、略同一でも不規則でもよいが、略同一で規則性を有するように配置されていることが好ましく、格子状に配置されててもよい。凸部間のピッチとしては、1~8cm、2~6cm、を挙げることができる。また、凸部の高さとしては、1~5cm、2~4cmを挙げることができる。また、凸部の周縁部に斜面を有している場合は、その斜面の水平方向に対する角度としては20~80度、30~70度を挙げることができる。
【0018】
前記凸部の周縁部及び/又は頂部には、餌を保持するための微少な凹凸が形成されていてもよい。この微少な凹凸によって、餌受部だけでなく、前記凸部の周縁部及び/又は頂部にも餌を保持することが可能となり、餌場面積を広げると共に採餌効率を高めることが可能となる。また、節足動物の糞は略球状であり転がりやすい。そのため、周縁部が傾斜を有している場合には、餌と糞が周縁部で混ざりにくくなると共に、餌受部における凸部の根元付近に糞が局所的に堆積しやすくなることから、相対的に他の餌受部における糞の蓄積を低減させることができる。その結果、節足動物が餌を摂取する際に糞と遭遇する確率が低下し、糞も摂取することを低減することが可能となる。
【0019】
・シートの材質及び大きさ
第一の給餌シートの材質としては、紙、プラスチック等を挙げることができる。また、第一の給餌シートは、平滑な材質であっても、スプレーなどで微細な粒子を表面に塗布して節足動物の脚の爪の引っかかりが可能としたものであってもよいが、節足動物の脚の爪の引っかかりが可能な材質であることが好ましい。また、第一の給餌シート一枚あたりの大きさは、飼育容器の底面の面積に対して、第一の給餌シートの凹凸を考慮せずにシートの縦×横の平面で換算した面積として100%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下を挙げることができる。
【0020】
・シートの積層
第一の給餌シートは、略水平であって上下に3層以上、好ましくは4層以上、さらに好ましくは5層以上、特に好ましくは6層以上、節足動物が隠れる隙間を保持して積層している。節足動物が隠れる隙間の幅としては、飼育する節足動物に応じて適宜調整できるが、若齢幼虫(生育1~15日)を飼育する場合には0.1~0.3cm、中齢幼虫(生育15~30日)を飼育する場合には0.2~0.5cm、老齢幼虫(生育30日~)を飼育する場合には0.5~1.0cmを挙げることができる。また、上記隙間の幅は、第一の給餌シート間で一定になっていても、段階的に広く若しくは狭くなっていても、ランダムであってもよい。たとえば、第一の給餌シートが6層ほど積層している場合に、下から1番目のシートと2番目の隙間を隙間a、下から2番目のシートと3番目の隙間を隙間bとして、順にa~eの5つの隙間があった場合に、それぞれの隙間の幅が同じであっても、aからeに、又はeからaに向けて段階的に広く、若しくは段階的に狭くなっても、aとbが同じ隙間の幅で、c、d、eがその幅より広く、若しくはその幅より狭くなってもよい。体が小さいサイズの節足動物にとっては、隠場として体が大きいサイズの節足動物の侵入が困難な隠場であることが好ましい。そのため、飼育する節足動物において体の大きさにばらつきがある場合には、隠場となる節足動物が隠れる隙間の幅を調整することで、飼育する節足動物の飼育環境を改善することが可能となる。なお、このように第一の給餌シートを積層することで、第一の給餌シートは給餌の場と共に隠場という2つの役目を果たすことになる。
【0021】
また、上記隙間を形成するために、第一の給餌シートが重ならないように配置してもよいが、第一の給餌シートの上面又は底面の少なくとも2ヶ所以上、好ましくは3ヶ所以上、より好ましくは4ヶ所以上、さらに好ましくは5ヶ所以上に、形成したい隙間の幅に合わせた脚を設けてもよい。脚の高さとしては、生育する節足動物の体幅に応じて適宜調整できるが、0.2~1.0cm、0.3~0.7cmを挙げることができ、形成したい隙間幅に応じてそれぞれのシートに設ける脚の長さが異なっていてもよい。また、第一の給餌シートを積層するにあたって、それぞれの凸部の頂部が鉛直方向に同じ位置になるように積層することが、第一の給餌シート同士の重なりを防ぐと共に隙間形成の観点から好ましい。
【0022】
(第二の給餌シート)
・シートの形状及び材質
第二の給餌シートは平板形状のシートである。この第二の給餌シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール等のプラスチック、紙、木材、金属等を挙げることができ、上面に餌を配置できる限り、柔軟であっても堅くてもよい。また、透過性を有している材質であっても、透過性を有さない材質であってもよい。この第二の給餌シートにおいて、少なくとも再上層の第二の給餌シート、好ましくは全ての層の第二の給餌シートは、上面が平滑であることが好ましい。上面が平滑であることによって、節足動物の脚の爪の引っ掛かりを抑制し、蓋を開けた際に節足動物が飼育容器から脱出するのを低減することが可能となるほか、節足動物を飼育容器から収穫する際に、節足動物が第二の給餌シートに付着したままとなることを抑制し、シートから節足動物を引き離す手段を用いずに容易に収穫することができる。さらに、第二の給餌シートが平滑であることで、シート全体に給餌しやすく、かつ餌の取り替えや糞の除去が容易となるほか、給餌回数や清掃回数を減らし、飼育のための手間を抑制することが可能となる。なお、第二の給餌シートの上面に粒子状の餌を配置してある場合であっても、粒子状の餌であれば節足動物の脚の爪の引っ掛かりが難しく、節足動物が飼育容器から脱出するのを低減することが可能となる。また、第二の給餌シートの大きさは、飼育容器の底面の面積に対して、シートの縦×横の平面で換算した面積として100%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下を挙げることができ、第二の給餌シートの面積と比較して同じでも、狭くても、広くてもよい。
【0023】
また、第二の給餌シートを用いることで、餌と糞の混合を最小限に抑えることができる。従来のように深い飼育容器を用い、床の上に餌をある程度厚く撒いて節足動物に摂食させた場合に、餌を食べきるまでに長い時間を要し、餌と糞が混在する時間も長くなる。一方、第二の給餌シートを用いれば、餌場面積が広がるため餌を薄く広く撒くことができ、餌を食べきるまでの時間を短縮し、餌と糞が混在する時間も短くなる。さらに、餌を豊富に提供することができ、餌不足に伴って発生する、飼育している節足動物同士の共食いを抑制することも可能となる。
【0024】
・シートの配置及び積層
第二の給餌シートは、第一の給餌シートの上方に配置される。第一の給餌シートの凸部の頂部に当接するように配置してもよく、第一の給餌シートの上面に設けられた脚を介して配置してもよい。
【0025】
第二の給餌シートは、餌場面積を広げる観点から、略水平であって上下に2層以上、好ましくは3層以上、さらに好ましくは4層以上、節足動物が通る隙間を保持して積層していることが好ましい。また、第二の給餌シートを積層する場合には、第二の給餌シートの上面又は底面の少なくとも2ヶ所以上、好ましくは3ヶ所以上、より好ましくは4ヶ所以上に脚を設けてもよい。脚の高さとしては、生育する節足動物の体幅に応じて適宜調整できるが、0.2~1.0cm、0.3~0.7cmを挙げることができ、形成したい隙間幅に応じてそれぞれのシートに設ける脚の長さが異なっていてもよい。
【0026】
(飼育容器)
飼育容器における上面が開口した容器本体は、底部と、底部から連設された胴部と、胴部の上部側に開口が設けられ、節足動物を飼育する空間部とを有する。この容器本体の形状としては、直方体、円柱等を挙げることができる。また、蓋体は、前記容器本体の開口に取り付けられる。この容器本体及び蓋体の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール等のプラスチック、紙、木材、金属等を挙げることができる。なお、空間効率を高めると共に棚等の設備投資を低減させる観点から、容器本体の高さは15~40cm、体積は10,000~20,000cmであることが好ましい。また、飼育容器の内壁、すなわち容器本体の胴部内面及び蓋体の底面は、平滑であることが、節足動物の脱出低減の観点から好ましい。
【0027】
蓋体は容器本体と着脱自在である。この蓋体には例えば10×10cmの通気窓を設けることができる。通気窓により、蓋体を閉めいても、棚を用いずに飼育容器を重ねることが可能となり、飼育部屋のスペースを有効活用することができる。なお、蓋体と共に、あるいは蓋体の代わりに容器本体の胴部(側面)に通気窓を設けてもよい。また、本件飼育容器内には、給水器を設置することができる。
【0028】
前記蓋体の底面と、最上層にある前記第二の給餌シートの上面との距離は、0.5~20cm、好ましくは0.5~10cmとすることができる。従来の節足動物の飼育においては、脱出防止のために蓋と節足動物が活動するシートとの距離を20cm以上確保することが一般的であった。しかしながら、本件節足動物の飼育装置では、第二の給餌シートを備えること等で、蓋体を開けても節足動物が飛んで脱出することを低減できることから、蓋体と前記第二の給餌シートの上面との距離を縮め、本件飼育容器の空間効率を高めることが可能となる。
【0029】
(給餌面積)
餌は、第一の給餌シート及び/又は第二の給餌シートに給餌することが可能である。餌は、第一の給餌シート及び/又は第二の給餌シートの上面全体に給餌してもよく、一部のシートのみ、又は各シートの一部の上面のみに給餌してもよい。また、第一の給餌シートの餌受部の他、第一の給餌シートの凸部の周縁部及び/又は頂部には、餌を保持するための微少な凹凸が形成されている場合には、その微少な凹凸にも給餌することができる。上記のように、本件節足動物の飼育装置では給餌面積が広くすることができ、節足動物が餌を食べる際の密集や縄張り争いを低減することができ、生存率向上につながる。
【0030】
(節足動物)
本明細書における節足動物としては、フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ等のコオロギ類や、レッドローチ、デュビア等のゴキブリ類を挙げることができる。
【0031】
■飼育方法
次に、本件節足動物の飼育方法について、以下に説明する。なお、本件節足動物の飼育方法に用いる本件節足動物の飼育装置は、上記のとおりである。
【0032】
(餌の種類及び配置)
餌としては、通常節足動物の餌として用いられる餌であれば特に制限されず、ふすま、ぬか、魚粉、大豆粉、等を挙げることができ、これらを混合して用いることもできる。また、必要に応じてタンパク質、ビタミン類、脂肪酸等を混合してもよい。餌の大きさとしては、飼育する節足動物の大きさにより適宜調整可能であるが、500~1,000μmサイズの篩処理した餌、あるいは粒径が100~500μmの餌を挙げることができる。なお、若齢幼虫は粗くサイズの大きい餌を摂食できないことから、若齢幼虫には網目の細かい500~700μmの篩で濾した細粉の餌、中・老齢幼虫には目の粗い700~1,000μmの篩で濾した餌を提供することもできる。さらに、若齢幼虫と中・老齢幼虫とが混ざって飼育しているときには、共食い防止の観点から、餌は網目の細かいの篩で濾した細粉の餌を撒く場所と目の粗い篩で濾した餌を撒くシート又はシート上の場所を分けてもよい。この場合、たとえば下層側には若齢幼虫が集まるように網目の細かいの篩で濾した細粉の餌を撒き、上層側には目の粗い篩で濾した餌を撒くようにしてもよく、逆に下層側には中・老齢幼虫が集まるように網目の粗い篩で濾した細粉の餌を撒き、上層側には目の細かい篩で濾した餌を撒くようにしてもよい。
【0033】
第一の給餌シート及び第二の給餌シートに給餌する餌の厚さは、0.1~0.5cm、0.2~0.3cmを挙げることができる。このうち最上層の第二の給餌シートに撒く餌は、節足動物が脱出するための足場とならないように、0.2cm以内とすることが好ましい。また、最上層の第二の給餌シートに撒く餌は、700μm以下の篩で濾した餌を用いることが好ましい。
【0034】
(節足動物の収穫)
飼育容器から節足動物を収穫する際には、蓋体を外し、節足動物を回収する容器に、本件飼育容器内の節足動物を落とすことによって収穫することができる。蓋体を外す前に、飼育容器全体を水平方向、又は鉛直方向に振り、第一の給餌シート及び第二の給餌シートから節足動物の脚の爪の引っかかりを低減するようにすることができる。特に、円滑な第二の給餌シートを用いている場合には、節足動物の脚の爪の引っかかりを低減する効果及び脱出抑制効果が高まり、節足動物の収穫が容易となる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0036】
本件節足動物の飼育装置の例及び使用状態について、図1~3により説明する。図1は本件節足動物の飼育装置1の全体の正面図(容器本体11のみ断面図)、図2は蓋体12を取り外した状態の本件節足動物の飼育装置1の平面図、図3は第一の給餌シート3(最上段のみ)及び第二の給餌シート4の斜視図である。
【0037】
容器本体11は、底部13と、底部から連設された胴部14とで胴部の上部側に開口が設けられ、節足動物を飼育する空間部15とを有する。容器本体11には、紙製の第一の給餌シート3a-cが鉛直方向に3層ほど、節足動物が隠れる隙間16を保持して積層している。蓋体12には、メッシュ素材で10×20cmの通気窓17が中心に備えられている。
【0038】
第一の給餌シート3a-cには凸部21が形成されており、隣接する凸部21の間に形成された餌を保持可能な窪みからなる餌受部22を備えている。また、第一の給餌シート3cの凸部21の頂部には、ポリエチレン製で平滑な第二の給餌シート4aが当接するように配置されている。その第二の給餌シート4aの上方に、シートの底面の4つの角及び中心の計5ヶ所に1.5cmの脚23を備えた第二の給餌シート4bが積層している。また、給水器24が容器本体11の底部13に配置されている。なお、本件節足動物の飼育装置と共に、使用状態を示すために、第一の給餌シート3a-c及び第二の給餌シート4a、4b上には、餌25が撒いてある(図1では省略)。蓋体12の底面と、最上層にある第二の給餌シート4bの上面との距離は5cmである。飼育装置内には、コオロギ26が飼育されている。
【0039】
上記飼育装置の例によって、床の一部の餌を撒いた場合よりも餌場面積を拡大すると共に、隠場も広く設けることができる。その結果、餌を摂取する際の密集を避けることと共に隠場面積を増やすことができ、共食いや摂食不足を低減することが可能となる。さらに、上層には平滑な第二の給餌シート4を備えており、餌場面積の拡大と共に、節足動物の脚の爪の引っかかりを低減して節足動物を収穫する際の脱出を抑制することが可能となる。
【0040】
次に、第一の給餌シート3に備える凸部21について、図4~7により説明する。図4は、代表的な凸部21を備えた第一の給餌シート3の斜視図であり、高さ3cm、底面の直径が4cmの円錐台形状の凸部21が、ピッチ間Pが5cmで所定の間隔を空けて格子状に配置されている。また図5は、高さ3cm、底面の短幅3cmの略半円筒形上の凸部21がシート面と平行に、すなわち水平方向に延伸しており、かつ底面と略半円筒形状の間には空洞27を有している凸部21を備えた第一の給餌シート3の斜視図である。さらに、図6は、高さ3cm、底面の幅3cmの四角柱形状の凸部21が縦、横に均等に配置されている第一の給餌シート3の斜視図である。
【0041】
図7Aは、図4に示す凸部21の部分拡大図で有り、凸部21の周縁において、餌を保持するための微少な凹凸28が凸部21の周縁部全体に形成されて、かつ頂部が平面上である態様、図7Bは、上記図7Aに示す凸部21の微少な凹凸28付近に餌が保持されている態様、部全体及び頂部に餌25が付着している態様を示している。
【0042】
図8は、第一の給餌シート3の底面に、5つの2cm長の脚23が設けられてた態様を示している。
【0043】
次に、図9は、第二の給餌シート4において、隙間の幅Lを変化させた態様を示している。4つの第二の給餌シート4によって隙間16a-cの3つの隙間が形成されている。このうち、上の2つの隙間16b、16cの幅L1は1cm、下の隙間16aの幅L2は0.7cmである。このように隙間16の幅Lを調整することで、図9では下の隙間16aには体が大きいコオロギ26bが入れず、コオロギ26aのみが入ることができる。即ち、下の隙間16aはコオロギ26bのみの隙間となるほか、コオロギ26bによって食べられる恐れなくコオロギ26aが摂食することが可能となる。なお、図9では第二の給餌シート4においての隙間の幅Lを変化させた態様を示しているが、同様に第一の給餌シート3においての隙間の幅Lを変化させてもよい。
【0044】
次に、上記飼育装置を用いて、隠場を増やすことが生存率の向上につながるかについて検討した。幅16cm、奥行き23cm、高さ7cmの飼育容器1に、凸部21を2つもつ第一の給餌シート3を設けた場合と、凸部21を6つもつ第一の給餌シート3を設けた場合に分け、それぞれ前記第一の給餌シート3の横に3cm2の平板を配置して餌を撒き、生存率を調べた。孵化後1日目のコオロギを25匹入れ、飼育を開始したところ、2齢となった孵化後20日目あたりから生存率に差が生じ始め、20日目においては凸部21が6つの場合は63%、凸部21が2つの場合は55%であった。さらに、30日目においては凸部21が6つの場合は52%、凸部21が2つの場合は42%であった。したがって、隠場面積が大きいほど、生存率が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0045】
1…飼育装置
2…第一のサーマルサイクラー
3、3a-c…第一の給餌シート
4、4a、b…第二の給餌シート
11…容器本体
12…蓋体
13…底部
14…胴部
15…空間部
16、16a-c…隙間
17…通気窓
21…凸部
22…餌受部
23…脚
24…給水器
25…餌
26、26a、26b…コオロギ
27…空洞
28…微少な凹凸
L、L1、L2…隙間の幅
P …ピッチ間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9