(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174609
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】パルプの漂白方法
(51)【国際特許分類】
D21C 9/12 20060101AFI20241210BHJP
D21C 9/14 20060101ALI20241210BHJP
D21C 9/10 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D21C9/12
D21C9/14
D21C9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092519
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
(72)【発明者】
【氏名】川頭 勇太
(72)【発明者】
【氏名】松本 渡
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA11
4L055AC09
4L055AD04
4L055AD06
4L055AD17
4L055AD20
4L055AF09
4L055BB12
4L055BB13
4L055BB16
4L055BB22
4L055EA02
4L055EA11
4L055EA31
4L055FA05
(57)【要約】
【課題】 次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白において、漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制可能な方法を提供する。
【解決手段】 一態様として、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む漂白方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む漂白方法。
【請求項2】
前記漂白処理に先立ち、前記漂白前処理を行ったパルプスラリーにアルカリ剤を添加してパルプスラリーのpHを調整することをさらに含む、請求項1記載の漂白方法。
【請求項3】
前記パルプスラリーは、古紙パルプ及び/又は脱リグニン後の未漂白パルプを含む、請求項1記載の漂白方法。
【請求項4】
前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の漂白方法。
【請求項5】
漂白パルプの耐色性改善方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む改善方法。
【請求項6】
パルプ原料の製造方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む製造方法。
【請求項7】
前記パルプ原料は、製紙用パルプ原料である、請求項6記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法、漂白パルプの耐色性改善方法、及びパルプ原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工程は、一般には、木材等の原料からパルプ原料を得るためのパルプ化工程と、パルプ化工程で得られたパルプ原料に機械的処理や薬品等の添加などを行う紙料調成工程と、パルプのシート化を行う抄紙工程とを含む。
【0003】
パルプ化工程(パルプ製造工程)には、大きく分けて3種類ある。薬品を用いて化学的にパルプを取り出す方法(化学パルプ)と、木材を機械的にすりつぶしてパルプを得る方法(機械パルプ)と、古紙を原料とする方法(古紙パルプ)とである。中でも、日本では、化学パルプ及び古紙パルプが広く使用されている。
【0004】
化学パルプの一種であるクラフトパルプは、一般に、木材チップを苛性ソーダ及び硫化ソーダの混合液で蒸解する蒸解工程、パルプとリグニンとを含む黒液を分離する未晒パルプ洗浄工程、酸素とアルカリとによってパルプからリグニンを除去する酸素脱リグニン工程、及び漂白工程を経て調製される。また、古紙パルプは、一般に、古紙を水と混合しながら機械力で離解する離解工程、原料である古紙に含まれる異物を除去する除塵工程、脱墨剤を加えてインキ成分を除去する脱墨工程、パルプの脱水を行う脱水工程、及び脱水したパルプを漂白する漂白工程を経て調製される。
【0005】
クラフトパルプ及び古紙パルプの漂白方法としては、塩素を用いた方法、過酸化水素を用いた方法、二酸化塩素を用いた方法、及び次亜塩素酸塩を用いた方法といった様々な方法がある(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-240188号公報
【特許文献2】特開2007-162148号公報
【特許文献3】特表2009-544857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
管理の容易さや要求白色度(明度)の高さから、パルプ化工程(パルプ製造工程)におけるパルプの漂白方法として、次亜塩素酸塩を用いた漂白が行われている。パルプ化工程で生産されたパルプ原料は、シート状に加工してパルプシートとして一旦貯蔵される場合があるが、本発明者らは、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされた漂白パルプ(パルプ原料)は、白色度(明度)が経時的に低下するという問題を見出した。そこで、本開示は、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白において、漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様として、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む漂白方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様として、漂白パルプの耐色性改善方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む改善方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様として、パルプ原料の製造方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされた漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例及び比較例において得られた漂白パルプのISO白色度の経時的な変化を示すグラフの一例である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例において得られた漂白パルプの退色度(ΔBr)を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白処理に先立ち、パルプスラリーを結合塩素及び/又は結合臭素で前処理することによって、得られた漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制できる、ということを見出した。さらに、結合塩素及び/又は結合臭素による前処理を行うことによって、得られる漂白パルプの白色度を向上させることができ、漂白に使用する次亜塩素酸塩の量を低減できうる、ということを見出した。
【0014】
本開示における白色度とは、ISO白色度のことをいい、実施例に記載の方法により測定できる。
【0015】
本開示における「経時的な白色度の低下の抑制」としては、一実施形態において、次亜塩素酸塩による漂白処理直後に作成したパルプシートの白色度(白色度(1))と、次亜塩素酸塩による漂白処理(次亜塩素酸塩との接触)から14日間経過後の白色度(白色度(2))との差(退色度:ΔBr=白色度(1)-白色度(2))が、0.6以下、0.55以下又は0.5以下であることが挙げられる。
また、本開示における「経時的な白色度の低下の抑制」としては、一実施形態において、上記退色度(ΔBr=白色度(1)-白色度(2))が、漂白処理直後のパルプシートの白色度(白色度A)の1.5%以下、1.4%以下、1.3%以下、1.2%以下又は1.1%以下であることが挙げられる。
【0016】
本開示におけるパルプとしては、一又は複数の実施形態において、木材パルプ、非木材パルプ、古紙パルプ(DIP)及びブロークパルプ等が挙げられる。木材パルプとしては、一又は複数の実施形態において、クラフトパルプ(KP)及びサルファイトパルプ(SP)等の化学パルプ、並びに、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプが挙げられる。
【0017】
本開示において「次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリー」とは、次亜塩素酸塩による漂白処理を行う前のパルプを含有するパルプスラリーをいう。次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーは、一又は複数の実施形態において、脱墨パルプ及び/又は脱リグニン後の未漂白パルプを含んでいてもよく、また、次亜塩素酸塩以外の薬剤による漂白処理がなされたパルプを含んでいてもよい。未漂白(未晒)パルプとしては、一又は複数の実施形態において、未晒化学パルプ、及び未晒機械パルプ等が挙げられる。
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーとしては、一又は複数の実施形態において、木材チップを、苛性ソーダと硫化ソーダとの混合液、又は亜硫酸塩の水溶液(亜硫酸溶液)で蒸解する蒸解工程、パルプとリグニンとを含む黒液を分離する未晒パルプ洗浄工程、及び酸素とアルカリとによってパルプからリグニンを除去する酸素脱リグニン工程による処理が行われたパルプスラリーが挙げられる。次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーとしては、一又は複数の実施形態において、古紙原料を水と混合しながら機械力で離解する離解工程、古紙原料に含まれる異物を除去する除塵工程、脱墨剤を加えてインキ成分を除去する脱墨工程、及びパルプの脱水を行う脱水工程による処理が行われたパルプスラリーが挙げられる。
【0018】
本開示において「漂白パルプ」とは、次亜塩素酸塩を用いた漂白処理が行われたパルプをいう。漂白パルプとしては、一又は複数の実施形態において、脱墨処理を行った脱墨パルプ、並びに未晒化学パルプ及び未晒機械パルプ等の未漂白(未晒)パルプを、次亜塩素酸塩による漂白処理が行われたパルプをいう。本開示における漂白パルプは、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩以外の薬剤を用いた漂白処理が行われているものも含みうる。
【0019】
本開示における「パルプ原料」とは、パルプ化工程で得られた古紙パルプ及び/又は晒パルプをいう。晒パルプとしては、一又は複数の実施形態において、晒クラフトパルプ及び晒サルファイトパルプ等の晒化学パルプ、並びに晒サーモメカニカルパルプ及び晒ケモサーモメカニカルパルプ等の晒機械パルプ等が挙げられる。パルプ原料は、一又は複数の実施形態において、紙力増強剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、内添サイズ剤、助剤、染料、及び蛍光増白剤等の薬剤が添加されていてもよい。
パルプ原料は、一又は複数の実施形態において、製紙用パルプであってもよく、溶解用パルプであってもよい。パルプ原料は、一又は複数の実施形態において、シート状であってもよいし、綿状であってもよい。パルプ原料の特に限定されない一又は複数の実施形態において、製紙用パルプシート等が挙げられる。古紙を含む原料から得られた古紙パルプ原料は、一又は複数の実施形態において、板紙や石膏ボードの原料として使用されうる。
【0020】
[結合塩素及び結合臭素]
本開示において「結合塩素」とは、安定化塩素とも言い、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、及びN-クロロスルファマート等が挙げられる。
本開示において「結合臭素」とは、安定化臭素とも言い、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、及びN-ブロモスルファマート等が挙げられる。
【0021】
本開示において「モノクロラミン」とは、NH2Clで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを塩素原子で置き換えた化合物)をいう。本開示において「モノブロマミン」とは、NH2Brで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを臭素原子で置き換えた化合物)をいう。モノクロラミン及びモノブロマミンは、OCl-(Br-)+NH4
+→NH2Cl(Br)+H2Oのような反応で生成される。一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とを混合することによりモノクロラミンを生成できる。
次亜塩素酸塩としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸マグネシウム等が挙げられる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及び硝酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、全残留塩素量と窒素とのモル比として、1:1~1:2、1:1.1~1:2、1:1.2~1:2、又は1:1.2~1:1.6である。
【0022】
[漂白方法]
本開示は、一態様において、次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む漂白方法に関する。本開示の漂白方法によれば、一又は複数の実施形態において、得られた漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制することができうる。また、本開示の漂白方法によれば、一又は複数の実施形態において、得られる漂白パルプの白色度を向上させることができ、漂白に使用する次亜塩素酸塩の量を低減できるという効果を奏し得る。
【0023】
漂白処理がなされるパルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)は、一又は複数の実施形態において、0.5重量%~30重量%である。パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)は、一又は複数の実施形態において、0.8重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、11重量%以上、12重量%以上、13重量%以上、14重量%以上、又は15重量%以上である。パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)は、一又は複数の実施形態において、29重量%以下、28重量%以下、27重量%以下、26重量%以下、又は25重量%以下である。
【0024】
本開示の漂白方法は、結合塩素及び/又は結合臭素によるパルプスラリーの漂白前処理を含む。結合塩素及び/又は結合臭素の添加率(複数の薬剤を使用する場合はその合計、以下同じ)は、有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)あたり、0.075kg/T~1.5kg/Tである。結合塩素及び/又は結合臭素の添加率は、経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、0.15kg/T以上、0.2kg/T以上又は0.3kg/T以上である。本開示における単位「T」は絶乾重量トンを意味し、絶乾固形分濃度に基づき算出された実重量をいう。
【0025】
結合塩素及び/又は結合臭素による前処理時間、すなわち、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされる前のパルプスラリーに結合塩素及び/又は結合臭素を添加してから、次亜塩素酸塩による漂白処理を行うまでの時間は、一又は複数の実施形態において、1分間以上、1.5分間以上、又は2分間以上である。前処理時間の上限は特に限定されず、一又は複数の実施形態において、60分間以下である。よって、前処理時間は、一又は複数の実施形態において、1分間~60分間であり、下限は上記から選択できる。
【0026】
結合塩素及び/又は結合臭素による前処理の温度は、一又は複数の実施形態において、30℃~80℃である。処理温度は、経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、30℃以上、35℃以上、又は40℃以上である。また、同様の点から、一又は複数の実施形態において、80℃以下、70℃以下、又は60℃以下である。
【0027】
結合塩素及び/又は結合臭素を存在させる時又はさせた後、或いは、結合塩素及び/又は結合臭素の添加時又は添加後のパルプスラリーのpHは、一又は複数の実施形態において、pH8~11である。経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、pH8.5以上、pH9以上又はpH9.5以上が好ましい。pHは、実施例の記載の方法により測定できる。
【0028】
本開示の漂白方法は、漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加し、次亜塩素酸塩による漂白処理を行うことを含む。漂白前処理を行ったパルプスラリーは、結合塩素及び/又は結合臭素を含有する。漂白前処理を行ったパルプスラリーは、一又は複数の実施形態において、結合塩素及び/又は結合臭素(複数の薬剤を使用する場合はその合計)を、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)あたり、0.075kg/T~1.5kg/Tで含有する。漂白前処理を行ったパルプスラリーにおける結合塩素及び/又は結合臭素の含有量は、経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、0.15kg/T以上、0.2kg/T以上又は0.3kg/T以上である。
【0029】
次亜塩素酸塩の添加率は、有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)あたり、4kg/T~30kg/Tである。次亜塩素酸塩の添加率は、経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、10kg/T以上、15kg/T以上、又は20kg/T以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、29kg/T以下、27kg/T以下、26kg/T以下、25kg/T以下、又は24kg/T以下である。
【0030】
漂白処理時におけるパルプスラリーのpHは、一又は複数の実施形態において、pH8~11であり、得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、pH8.5以上、pH9以上又はpH9.5以上が好ましい。漂白処理時における処理温度は、一又は複数の実施形態において、30℃~80℃であり、好ましくは40℃~70℃である。漂白処理時間は、一又は複数の実施形態において、30分~360分であり、好ましくは60分~180分である。
【0031】
本開示の漂白方法は、経時的な白色度の低下をさらに抑制でき、かつ得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩による漂白処理に先立ち、漂白前処理を行ったパルプスラリーに、アルカリ剤を添加してpHを調整することをさらに含んでいてもよい。pHは、一又は複数の実施形態において、pH8~11であり、得られる漂白パルプの白色度をさらに向上できる点から、pH8.5以上、pH9以上又はpH9.5以上が好ましい。アルカリ剤としては、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
[耐色性改善方法]
本開示はその他の態様において、漂白パルプの耐色性改善方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む改善方法に関する。本開示の耐色性改善方法によれば、一又は複数の実施形態において、得られた漂白パルプの経時的な白色度(明度)の低下を抑制でき、漂白パルプの褪色性を改善し、耐色性を向上させることができうる。
【0033】
本開示の耐色性改善方法における漂白前処理及び漂白処理は、本開示の漂白方法と同様に行うことができる。
【0034】
[パルプ原料の製造方法]
本開示はさらにその他の態様において、パルプ原料の製造方法であって、次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うことを含む製造方法に関する。本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、経時的な白色度(明度)の低下が抑制されたパルプ原料を製造することができる。
【0035】
本開示のパルプ原料の製造方法における漂白前処理及び漂白処理は、本開示の漂白方法と同様に行うことができる。
【0036】
本開示のパルプ原料の製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記漂白前処理に先立ち、木材チップを苛性ソーダと硫化ソーダとの混合液又は亜硫酸塩の水溶液(亜硫酸溶液)で蒸解する蒸解工程、パルプとリグニンを含む黒液を分離する未晒パルプ洗浄工程、及び酸素とアルカリによってパルプからリグニンを除去する酸素脱リグニン工程を含んでいてもよい。本開示のパルプ原料の製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記漂白前処理に先立ち、古紙原料を水と混合しながら機械力で離解する離解工程、古紙原料に含まれる異物を除去する除塵工程、脱墨剤を加えてインキ成分を除去する脱墨工程、及びパルプの脱水を行う脱水工程を含んでいてもよい。
【0037】
本開示のパルプ原料の製造方法は、一又は複数の実施形態において、漂白処理がなされたパルプに、薬品の添加、及び/又は叩解等といった物理的な加工を行う調成工程をさらに含んでいてもよい。添加する薬剤としては、一又は複数の実施形態において、紙力増強剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、内添サイズ剤、助剤、染料、及び蛍光増白剤等が挙げられる。
【0038】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 次亜塩素酸塩を用いたパルプの漂白方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む漂白方法。
[2] 前記漂白処理に先立ち、前記漂白前処理を行ったパルプスラリーにアルカリ剤を添加してパルプスラリーのpHを調整することをさらに含む、[1]記載の漂白方法。
[3] 前記パルプスラリーは、古紙パルプ及び/又は脱リグニン後の未漂白パルプを含む、[1]又は[2]に記載の漂白方法。
[4] 前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、[1]から[3]のいずれかに記載の漂白方法。
[5] 漂白パルプの耐色性改善方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む改善方法。
[6] パルプ原料の製造方法であって、
次亜塩素酸塩による漂白処理がなされるパルプスラリーに、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一方を含む水溶液を添加して漂白前処理を行うこと、及び
前記漂白前処理を行ったパルプスラリーに、次亜塩素酸塩を含む水溶液を添加して漂白処理を行うこと、を含む製造方法。
[7] 前記パルプ原料は、製紙用パルプ原料である、[6]記載の製造方法。
【0039】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0040】
[原料の調製]
新聞古紙を離解して、パルプサンプルを調製した。具体的には、市販新聞紙を3×3cmに切断し、固形分濃度1%となるよう大阪市の水道水を加え、卓上離解機(商品名:標準型パルプ離解機、熊谷理機工業社製)にて2000rpmの回転数で離解処理を10分間行った。離解処理後のパルプスラリーを100メッシュの篩にて水分を除去し、パルプサンプルを調製した。なお、離解処理には、薬剤の添加はおこなわなかった。
【0041】
[NH2Cl反応液の調製]
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:120g/L(キシダ化学株式会社製))を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、そこに、30%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム(キシダ化学株式会社製)30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)を、残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように加えて混合することにより調製した。
【0042】
[有効塩素の測定方法]
有効塩素はDP残留塩素計DP-3F(笠原理化工業株式会社製)を用いてDPD試薬発色による吸光光度法を測定し、全塩素濃度を測定した。
【0043】
[pHの測定方法]
pHの測定はガラス電極法により測定した。測定装置は、卓上型pHメーター(Navi:HORIBA社製)を使用し、約25℃のパルプスラリーのpHをオートモードにて測定した。
【0044】
[実施例1]
(1)パルプサンプルを絶乾2.5gずつ小分けにした。
(2)パルプ濃度(固形分濃度)が15%になるよう、白水を添加してパルプスラリーを調製した。
(3)下記表1に示す濃度(有効塩素換算濃度)となるようにNH2Cl反応液を添加し、25℃にて2分間混合した。NH2Cl反応液添加時(又は添加後)のパルプスラリーのpHは、7.1であった。
(4)水酸化ナトリウム溶液を添加し、pH10に調整した。
(5)次亜塩素酸ナトリウム溶液を下記表1に示す濃度(有効塩素換算濃度)になるよう添加し、2分間混合した。
(6)40℃にて6時間又は14日間静置した。
(7)水道水2Lで洗浄後、丸型シートマシンにてハンドシートを作成した(坪量 100g/m2)。
(8)ハンドシートを恒温恒湿室にて一晩調湿後、ISO白色度を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0045】
[比較例1]
(3)を行わなかった以外は、上記実施例1と同様にハンドシートを作成し、ISO白色度を測定した。
【0046】
[比較例2]
(3)を行わず、かつ(5)においてNH2Cl反応液と次亜塩素酸ナトリウム溶液とを同時に添加した以外は、上記実施例1と同様にハンドシートを作成し、ISO白色度を測定した。
【0047】
[比較例3]
(3)を行わず、かつ(5)における次亜塩素酸ナトリウム溶液の添加濃度を24kg/T(有効塩素換算濃度)とした以外は、上記実施例1と同様にハンドシートを作成し、ISO白色度を測定した。
【0048】
[比較例4]
(3)を行わず、かつ(5)における次亜塩素酸ナトリウム溶液の添加濃度を26.4kg/T(有効塩素換算濃度)とした以外は、上記実施例1と同様にハンドシートを作成し、ISO白色度を測定した。
【0049】
[比較例4]
(3)及び(5)において薬剤を添加しなかった以外は上記実施例1と同様にハンドシートを作成し、ISO白色度を測定した。
【0050】
[ISO白色度の測定]
分光白色時計・色差計PF7000(日本電色工業株式会社)によりISO白色度を測定した。下記式に基づき14日間経過後の退色度(ΔBr)を算出し、その結果を表1並びに
図1及び2に示す。
(ΔBr)=[ISO白色度(6時間後)]-[ISO白色度(14日間後)]
【0051】
【0052】
表1及び
図2に示すように、次亜塩素酸ナトリウムによる処理に先立ちNH
2Cl反応液(モノクロラミン)による前処理を行った実施例1によれば、比較例1-4と比べて、退色度(ΔBr)を半分程度またそれ以上抑制することができた。つまり、NH
2Cl反応液(モノクロラミン)による前処理により、次亜塩素酸塩漂白による、経時的な白色度の低下を大幅に抑制できたといえる。
さらに、処理直後(6時間後)に調製したハンドシートのISO白色度を比較したところ、NH
2Cl反応液(モノクロラミン)による前処理を行った実施例1は、NH
2Cl反応液(モノクロラミン)と次亜塩素酸ナトリウムと同時に添加した比較例2よりも高かった。具体的には、実施例1は、ブランクと比べて白色度が1.59ポイントも向上し、比較例2と比べて30%も高かった。
加えて、実施例1のISO白色度は、実施例1よりも次亜塩素酸ナトリウムの添加濃度が10%又は20%程度高い、比較例3及び4のISO白色度と同程度であった。したがって、NH
2Cl反応液(モノクロラミン)による前処理を行うことで、次亜塩素酸ナトリウムの使用量を低減できることが確認できた。