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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017461
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】溝切装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 11/02 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E02B11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120105
(22)【出願日】2022-07-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】393000984
【氏名又は名称】株式会社オーレック
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】今村 健二
(72)【発明者】
【氏名】江藤 利宏
(72)【発明者】
【氏名】長友 拓郎
(57)【要約】
【課題】4WS管理機に取付可能で、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部の追従性が優れ、圃場端での転回時にも作業を中断することなく、圃場表面に連続した溝を形成可能な溝切装置を提供する。
【解決手段】溝切装置1は、4WS管理機の後輪81又は後輪81近傍に位置する後輪と相対移動する部材の何れかに取付可能な取付基部2、第1取付支点311を介して取付基部2に取り付けられ、後輪81後方に延伸した形状で且つ第1取付支点311を中心として上下方向に回動可能なアーム部3、第2取付支点35を介してアーム部3先部に取り付けられ、第2取付支点35を中心として左右方向に回動可能な構造で、アーム部3からの押圧力を以て地面に所定深さの溝を形成可能な形状の溝切刃部4と、取付基部2上方に伸長する棹状で、搭乗者の手元でアーム部3の回動位置を操作可能に設けた操作ハンドル部5と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪操舵型の管理機の後輪、又は、該後輪近傍に配設されて同後輪と相対移動する部材、のいずれかに取付可能な取付基部と、
該取付基部に第1取付支点を介して取り付けられ、管理機への取付状態において、後輪後方に延伸した形状であると共に、該第1取付支点を中心として地面に対し上下方向に回動可能なアーム部と、
該アーム部の先部に第2取付支点を介して取り付けられ、該第2取付支点を中心として管理機への取付状態において地面に対し左右方向に回動可能な構造であって、同アーム部から受ける押圧力を以て地面に所定深さの溝を形成可能な形状の溝切刃部と、
前記アーム部の回動位置を操作可能に設けられた操作部と、
を備える
溝切装置。
【請求項2】
前記アーム部がリンク構造部を含み、該リンク構造部は、前記アーム部が下方へ回動すると平行リンク状態となり、前記アーム部の上方に回動すると交差リンク状態となるように、リンク支点位置が移動可能な構造である
請求項1に記載の溝切装置。
【請求項3】
前記リンク構造部が、伸縮によって牽引力を発揮する付勢部材を有しており、
該付勢部材は、交差リンク状態で収縮して前記アーム部を引き上げる方向に付勢し、且つ、平行リンク状態で伸長して前記アーム部を介し前記溝切刃部を押し下げる方向に付勢する態様で取り付けられている
請求項2に記載の溝切装置。
【請求項4】
前記操作部が、管理機への取付状態において前記取付基部の上方に伸長する棹状であり、管理機に搭乗した搭乗者の手元で前記アーム部の回動位置を操作可能に設けられた操作ハンドル部である
請求項1又は2に記載の溝切装置。
【請求項5】
前記操作ハンドル部が、第1棹部、第2棹部、該第2棹部と前記第1棹部との接続部分に配設された第1回動支点部、接続部材、第2棹部回動規制部、及び、操作レバー部を有し、前記第2棹部が、略鉛直状態においては前記アーム部が回動上限位置で停止すると共に、略平行状態においては前記アーム部が回動下限位置で停止する構造であり、
前記第1棹部は、前記取付基部に基端が接続されており、
前記第2棹部は、前記第1回動支点部を介して前記第1棹部と接続され、その先端が管理機の搭乗者の手元近傍に至る所定長さに設けられており、
前記第1回動支点部は、管理機への取付状態において、地面に対して前記第2棹部が略平行乃至略鉛直となる角度の範囲で回動可能に設けられており、
前記接続部材は、一端が前記アーム部に取り付けられると共に、他端が前記第2棹部に取り付けられ、同第2棹部の動きに同アーム部が追従するように設けられており、
前記第2棹部回動規制部は、前記第1回動支点部、前記第1棹部と前記第2棹部の間、或いは、同第2棹部と前記取付基部の間、のいずれかの箇所において、前記第2棹部の回動を規制可能に配設されており、
前記操作レバー部は、前記第2棹部の先部に設けられたレバー部分、及び、該レバー部分と該第2棹部回動規制部との間を接続する接続部分を含み、同第2棹部の回動範囲を操作可能に設けられている
請求項4に記載の溝切装置。
【請求項6】
前記第2棹部が、管理機への取付状態において略水平方向に回動可能な構造であると共に、付勢部材を有し、該付勢部材によって管理機への取付状態において前記第2棹部の先部が管理機の機体外方に向くように設けられている
請求項5に記載の溝切装置。
【請求項7】
管理機後輪の径方向半分を内側に収容可能で、且つ、同後輪のトレッド部に非接触となる上面視U字形の隙間が形成された本体部分、及び、該本体部分において前記隙間に沿った端縁のうちの少なくとも後輪のサイドウォール部に近接する箇所に配設され、該サイドウォール部に付着する土を排除可能な可撓性素材製のスクレーパー部分、を有する土落とし部を更に備える
請求項1、請求項2、請求項4のいずれかに記載の溝切装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝切装置に関する。詳しくは、四輪操舵型の管理機に取り付けることができ、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部の追従性が優れ、圃場端において転回する際にも作業を中断することなく、圃場表面に連続した溝を形成することができる溝切装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水田(圃場)では溝切作業が行われているが、溝切作業は重労働である。このような課題を解決する手段として、管理機や田植機に取り付けて同作業を行うアタッチメントが提案されており、例えば、非特許文献1に記載された乗用田植機用溝切機(商品名。以下「溝切機」という)が提案されている。
【0003】
非特許文献1記載の溝切機は、車体後部の幅方向に掛け渡したパイプの両端近傍に溝切刃を設けた構造であり、これを乗用田植機に取り付けて作業を行うことで圃場への溝切りを行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】株式会社美善 製品紹介 乾田や排水(溝切り・溝掘り) 乗用田植機用溝切機PDS-2/PDS-1LR インターネット<URL:https://www.kk-bizen.jp/product_introduction/drypaddy_drainage/groove_cutter/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1記載の溝切機は、取付対象となる管理機や田植機の車輪幅によっては、溝を形成する際に左右どちらかの車輪が稲を踏み潰す可能性があり、無理に取り付けても稲を潰すというデメリットがあり、デメリット解消のために車輪幅を加工する手間や費用が掛かるものであった。
【0006】
ところで、非特許文献1において溝切機は、四輪車体であって前輪のみで操舵する(以下「二輪操舵型」という)管理機に取り付けられているが、四輪且つ二輪操舵型の管理機は、圃場端において転回する際に、内輪差により稲を踏む面積が多くなるため、田植え後の圃場走行においては四輪操舵型の車体である方が本来好ましい。
【0007】
しかしながら、四輪操舵型の管理機等に非特許文献1記載の溝切機を取り付けた場合、溝切刃の支点を固定して取り付けると、後輪と溝切刃の軌跡に大きな差が生じ(図12参照)、これに起因して稲が潰れる、又は、溝切刃が地面から浮いてしまって溝が形成できない(換言すると、走行した後の車輪で形成された跡(浅い溝)を溝切刃で塗り均すことができない)という課題がある。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みて創案されたものであり、四輪操舵型の管理機に取り付けることができ、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部の追従性が優れ、圃場端において転回する際にも作業を中断することなく、圃場表面に連続した溝を形成することができる、溝切装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の溝切装置は、四輪操舵型の管理機の後輪、又は、該後輪近傍に配設されて同後輪と相対移動する部材、のいずれかに取付可能な取付基部と、該取付基部に第1取付支点を介して取り付けられ、管理機への取付状態において、後輪後方に延伸した形状であると共に、該第1取付支点を中心として地面に対し上下方向に回動可能なアーム部と、該アーム部の先部に第2取付支点を介して取り付けられ、該第2取付支点を中心として管理機への取付状態において地面に対し左右方向に回動可能な構造であって、同アーム部から受ける押圧力を以て地面に所定深さの溝を形成可能な形状の溝切刃部と、前記アーム部の回動位置を操作可能に設けられた操作部と、を備える。
【0010】
本発明の溝切装置は、四輪操舵型の管理機の後輪近傍に取り付けられるものである。取付基部は、これを備えることにより、溝切装置を管理機の走行車輪の後輪又は後輪近傍に配設されて後輪と相対移動する部材(後輪と同部材をまとめて以下「後輪等」という)に取り付けることができる。
【0011】
この「後輪」は、後輪の両方のみならず、後輪の片方のみに取り付ける態様を除外するものではない。同様に、「後輪近傍に配設されて後輪と相対移動する部材」についても、両方の後輪近傍に配設されて後輪と相対移動する部材(即ち、一対2つの部材)のみならず、片方の後輪近傍に配設されて後輪と相対移動する部材(即ち、1つの部材)のみに取り付ける態様を除外するものではない。
【0012】
アーム部は、これを備えることにより、管理機への取付状態において、管理機の進行方向に対して後輪後方へ延伸した位置に、後輪と所定間隔を空けて溝切刃部を配設することができる。これにより、作業時において管理機が進行することで、後輪の後方に溝が形成され、形成された溝が車輪等で潰されることがない。また、溝切刃部と後輪との間に間隔が空いているので、溝切刃部と後輪との接触を原因とする破損事故が生じない。
【0013】
そして、アーム部は、管理機への取付状態において、第1取付支点を中心として地面に対し上下方向に回動可能に設けられている。これにより、不使用時(例えば、作業場所への移動時であり、以下「非作業時」ということもある)においては、アーム部を介して溝切刃部が地面に触れないように持ち上げることができるので、溝切刃部を引きずることがなく、移動中の安全が確保され、且つ、溝切刃部の磨損を防ぐことができる。一方、使用時(以下「非作業時」ということもある)においては、アーム部を介して溝切刃部が地面に触れるように押し下げることができるので、溝切作業を実施することができる。
【0014】
溝切刃部は、これを備えることにより、アーム部から受ける押圧力を以て、管理機の後輪の後方の地面に所定深さの溝を形成することができる。そして、溝切刃部は、アーム部の先部に第2取付支点を介して取り付けられ、第2取付支点を中心として管理機への取付状態において地面に対し左右方向に回動可能な構造であることにより、管理機が圃場端に至り転回した場合でも、管理機の後輪に追従して同管理機の後輪の後方の地面に所定深さの溝を形成し続けることができる。
【0015】
操作部は、これを備えることにより、アーム部の回動位置を操作することができ、つまりは溝切刃部の上下位置を操作することができる。なお、操作部の態様としては、例えば、後述する操作ハンドル部が挙げられるが、これに限定するものではなく、例えば、その他の機械的手段、電気的手段、磁気的手段であってもよく、アーム部の回動位置を操作可能なものであれば特に限定されない。
【0016】
このように、本発明の溝切装置によれば、既存の四輪操舵型の管理機に取り付けることができ、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部の追従性が優れ、圃場端において転回する際にも作業を中断することなく、圃場表面に連続した溝を形成することができる。
【0017】
また、前述の溝切装置は、アーム部がリンク構造部を含み、リンク構造部は、アーム部が下方へ回動すると平行リンク状態となり、アーム部の上方に回動すると交差リンク状態となるように、リンク支点位置が移動可能な構造であるものであってもよい。
【0018】
アーム部が前述したリンク構造部を含むことにより、アーム部が下方に回動して平行リンク状態になる(即ち、溝切刃部が下降して圃場に接触する)と、溝切刃部が下がって圃場表面の起伏に追従する姿勢で支持され、溝切作業を行うことができる。
【0019】
ところで、管理機を圃場以外で移動させる際(特に管理機を高い位置から圃場内に進入させる際)には、溝切刃部が畦等に当たって破損しないように溝切刃部を持ち上げる(上方に回動させる)必要がある。しかしながら、本発明者らが本発明の運用試験を行ったところ、リンク構造部が平行リンクのみからなる構造である場合、平行リンク状態のまま溝切刃部を必要な高さ(溝切刃部が畦等に当たらない高さ)に上昇させると、操作ハンドル部にかなりの回動範囲(ストローク)を設けないと管理機の車体と干渉することが判明した。そこで、本発明者は、リンク構造部について、作業時においてはアーム部が下方へ回動すると平行リンク状態となり、アーム部の上方に回動すると交差リンク状態となる構造を想到した。
【0020】
これにより、操作ハンドル部により溝切刃部を上昇させる過程において、アーム部が上方に回動する際にリンク支点位置も移動し、溝切刃部はその後端が上方向に移動する。つまり、前述のリンク構造部によれば、溝切刃部の操作に際して、操作ハンドル部の回動範囲が少なくて済む構造となり、管理機を圃場以外で移動させる際(特に管理機を高い位置から圃場内に進入させる際)に、溝切刃部の上下方向の回動角度を十分に確保することができる。
【0021】
また、前述の溝切装置は、リンク構造部が、伸縮によって牽引力を発揮する付勢部材を有しており、付勢部材は、交差リンク状態で収縮してアーム部を引き上げる方向に付勢し、且つ、平行リンク状態で伸長してアーム部を介し溝切刃部を押し下げる方向に付勢する態様で取り付けられているものであってもよい。
【0022】
本態様のリンク構造部は、前述の付勢部材を有することにより、溝切刃部を引き上げる操作を行った際に生じる交差リンク状態で付勢部材が収縮し、アーム部を引き上げた状態を保持することができる。つまり、本態様のリンク構造部は、溝切刃部を引き上げた状態の非作業時において、溝切刃部が自然に降下することを抑止し、安全性が向上したものとなっている。
【0023】
そして、リンク構造部は、前述の付勢部材を有することにより、溝切刃部を引き下げる操作を行った際に生じる平行リンク状態で付勢部材が伸長し、アーム部を引き下げた状態を保持することができる。つまり、本態様のリンク構造部は、溝切刃部を引き下げた状態の作業時において、溝切刃部に対する付勢力を発揮し(換言すると、溝切刃部に対して荷重を加え)、作業中の溝切刃部が圃場表面から自然に浮き上がって溝が形成されない状態になることを抑制し、作業効率が向上したものとなっている。なお、本態様のリンク構造部は、溝切刃部が軽量な構造である場合に特に有効である。
【0024】
また、前述の溝切装置は、操作部が、管理機への取付状態において取付基部の上方に伸長する棹状であり、管理機に搭乗した搭乗者の手元でアーム部の回動位置を操作可能に設けられた操作ハンドル部であってもよい。
【0025】
本態様の操作部は、前述した構造の操作ハンドル部であることにより、管理機に搭乗した搭乗者の手元でアーム部の回動位置を操作することができる。つまり、作業者(搭乗者)は、管理機に搭乗した状態で溝切刃部の上下位置を操作することができ、降車することなく作業を行うことができるので、利便性及び作業効率が更に向上している。
【0026】
また、前述の溝切装置は、操作ハンドル部が、第1棹部、第2棹部、第2棹部と第1棹部との接続部分に配設された第1回動支点部、接続部材、第2棹部回動規制部、及び、操作レバー部を有し、第2棹部が、略鉛直状態においてはアーム部が回動上限位置で停止すると共に、略平行状態においてはアーム部が回動下限位置で停止する構造であり、第1棹部は、取付基部に基端が接続されており、第2棹部は、第1回動支点部を介して第1棹部と接続され、その先端が管理機の搭乗者の手元近傍に至る所定長さに設けられており、第1回動支点部は、管理機への取付状態において、地面に対して第2棹部が略平行乃至略鉛直となる角度の範囲で回動可能に設けられており、接続部材は、一端がアーム部に取り付けられると共に、他端が第2棹部に取り付けられ、同第2棹部の動きにアーム部が追従するように設けられており、第2棹部回動規制部は、第1回動支点部、第1棹部と第2棹部の間、或いは、第2棹部と取付基部の間、のいずれかの箇所において、第2棹部の回動を規制可能に配設されており、操作レバー部は、第2棹部の先部に設けられたレバー部分、及び、レバー部分と第2棹部回動規制部との間を接続する接続部分を含み、第2棹部の回動範囲を操作可能に設けられているものであってもよい。
【0027】
本態様の操作ハンドル部は、前述した各構成部分を有することにより、アーム部及びこれに取り付けられた溝切刃部を操作しやすいものとなっている。詳しくは、操作ハンドル部は、操作レバー部のレバー部分を握るか緩めることで第2棹部回動規制部の規制が解除され、第2棹部を上下動させることにより、接続部材を介してアーム部を上下動させる操作を行う。アーム部の上下動に伴って溝切刃部も上下動するため、つまりは、第2棹部の上下動によって溝切刃部を上下させる操作を行うことができる。
【0028】
そして、操作ハンドル部は、第2棹部回動規制部を介して操作不要時における第2棹部の自由な回動を規制することができ、これにより、思いがけない溝切刃部や溝切装置の破損事故を予防することができる。
【0029】
なお、操作ハンドル部は、第2棹部材が、略鉛直状態でアーム部が回動上限位置で停止し、略平行状態でアーム部が回動下限位置で停止する。これにより、溝切刃部を直接視認しなくても溝切刃部の状態(上下いずれかに位置しているか)を把握することができる。例えば、溝切刃部が、搭乗席に居る作業者から見て管理機の車体や後輪の陰になっていても、溝切刃部の状態が把握できるので、思いがけない溝切刃部や溝切装置の破損事故を予防することもできる。
【0030】
また、前述の溝切装置は、第2棹部が、管理機への取付状態において略水平方向に回動可能な構造であると共に、付勢部材を有し、付勢部材によって管理機への取付状態において第2棹部の先部が管理機の機体外方に向くように設けられているものであってもよい。
【0031】
本態様の操作ハンドル部は、第2棹部が前述した構成であることにより、非操作時においては付勢部材によって第2棹部の先部が管理機の外側に向き、操作時には搭乗者が第2棹部の先部を引き寄せて管理機内側に向けて使用する。つまり、搭乗者が操作ハンドル部(第2棹部)から手を離せば、自ずと第2棹部は管理機の外側に向く。これにより、管理機が転回する際に、手を離した状態の操作ハンドル部が搭乗者の足に接触して思いがけない怪我を負うことを抑制することができる。
【0032】
また、前述の溝切装置は、管理機後輪の径方向半分を内側に収容可能で、且つ、同後輪のトレッド部に非接触となる上面視U字形の隙間が形成された本体部分、及び、本体部分において隙間に沿った端縁のうちの少なくとも後輪のサイドウォール部に近接する箇所に配設され、サイドウォール部に付着する土を排除可能な可撓性素材製のスクレーパー部分、を有する土落とし部を更に備えるものであってもよい。
【0033】
土落とし部は、前述の本体部分を有することにより、その隙間に管理機後輪の径方向半分を内側に収容することができる。このとき、隙間は後輪のトレッド部に接触しないので、後輪の回転を阻害しない。そして、土落とし部は、前述のスクレーパー部分を有することにより、後輪のサイドウォール部に付着した土を排除することができる。また、スクレーパー部分は、可撓性素材製であるため、付着した土が固めであるか又は量が多い等の理由からスクレーパー部分に強い負荷が加わったとしても、形状復帰し、破損又は塑性変形しにくいものとなっている。
【発明の効果】
【0034】
本発明の溝切装置によれば、四輪操舵型の管理機に取り付けることができ、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部の追従性が優れ、圃場端において転回する際にも作業を中断することなく、圃場表面に連続した溝を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の溝切装置を取り付けた管理機であり、(a)は機体進行方向視の左側面図であり、(b)は上面図である。
図2】溝切装置を前方左側から見た斜視図である。
図3】溝切装置の前方右側から見た斜視図である。
図4】管理機の右後輪に溝切装置を取り付けた状態を左側から示す斜視図である。
図5】管理機の右後輪に溝切装置を取り付けた状態を右側から示す斜視図である。
図6】非作業時の溝切装置を示す右側面視説明図である。
図7】作業時の溝切装置を示す右側面視説明図である。
図8】溝切装置の溝切刃部を示し、(a)は上面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は後方視の説明図である。
図9】溝切装置のアーム部の動作の説明図である。
図10】溝切装置の使用状態を示し、(a)は転回時の説明図であり、(b)は(a)の拡大説明図である。
図11】溝切装置の使用状態を示し、(a)は操作ハンドル部の動作の説明図であり、(b)は転回時における操作ハンドル部の位置の説明図である。
図12】四輪操舵型の管理機等に非特許文献1記載の溝切機を取り付け、転回する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1図11を参照して、本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。また、図面各図における符号は、煩雑さを軽減し理解を容易にする範囲内で付しており、同一符号が付される複数の同等物についてはその一部にのみ符号を付す場合がある。なお、図1図11の一部の図面中に示す矢印に係る符号は説明上の方向を示し、符号Fは「前方向」を、Bは「後方向」を、Rは「右方向」を、Lは「左方向」を、Uは「上方向」を、Dは「下方向」を、それぞれ意味している。
【0037】
溝切装置1は、四輪操舵型の管理機(以下「4WS管理機8」という)の後輪81に取付可能なものであって(図1参照)、取付基部2、アーム部3、溝切刃部4、操作ハンドル部5、及び、土落とし部6を備える(図2~3参照)。各部については以下詳述する。
【0038】
なお、本実施形態では、溝切装置1は、4WS管理機8の後輪81の左右各々に取り付けられており、左の後輪と右の後輪に取り付けられる溝切装置1の各々は、4WS管理機8の車体80を挟んで面対称な構造である(図1(b)参照)。また、図2以降に示す溝切装置1は、進行方向に対して4WS管理機8の右の後輪81に取り付ける(取り付けた)ものであり、左の後輪81に取り付けた溝切装置1は、右の後輪81に取り付ける溝切装置1と同じ構造であるため、その説明を省略する。
【0039】
取付基部2は、4WS管理機8に取付可能なものであって、本実施形態では4WS管理機8の車体80と後輪81の間に配設されている(図1(b)参照)。なお、4WS管理機8は、車体80と後輪81の間に、駆動軸を保護する駆動軸保護体82が設けられ(図1(b)参照)、駆動軸保護体82は、車体80から車体80側方へ突き出た水平部分821と、水平部分の端部から垂下し後輪81の車軸に接続された垂下部分822を有する(図4参照)。水平部分821と垂下部分822の接続箇所は回動可能に設けられ、後輪81が操舵可能な構造となっている。なお、駆動軸保護体82は、前述した「後輪近傍に配設されて同後輪と相対移動する部材」に相当する。
【0040】
取付基部2は、端面視クランク状に折曲した形状の基部本体21、及び、基部本体21に取り付けられた接続ステー部分214を有する(図2~3参照)。基部本体21は、側面部分211、上面部分212、及び、下面部分213により構成される(図3参照)。
【0041】
側面部分211は、4WS管理機8への取付状態において地面に対して鉛直となる部分である。側面部分211は、溝切刃部5方向となる箇所に、溝切刃部4方向へ膨出した円弧形のガイド溝215が形成されている(図2~3参照)。
【0042】
上面部分212は、側面部分211上端と接続された平坦面であり、後述する第1棹部51の基部、及び、第2棹部回動規制部55の基部、の各々が、上面部分212に形成された取付穴(符号省略)に嵌挿する態様で取り付けられている(図2~3参照)。下面部分213は、側面部分211下端と接続された平坦面であり、後述する土落とし部6が取り付けられている(図2~3参照)。
【0043】
接続ステー部分214は、側面部分211における溝切刃部4の反対方向に取り付けられている(図2~3参照)。上面部分212及び接続ステー部分214は、接続部材(本実施形態ではボルト)を以て駆動軸保護体82と取り付けられている(図4参照)。
【0044】
アーム部3は、取付基部2と溝切刃部4の間に配設され、管理機8への取付状態において後輪81後方に延伸した形状であり(図1(b)、図4~5参照)、地面に対し上下方向に回動可能な構造である(図6~7参照)。本実施形態におけるアーム部3は、第1アーム部分31、第2アーム部分32及び付勢部材33、リンク部材34を有するリンク構造である。第1アーム部分31、第2アーム部分32、リンク部材34は、各々板状である(図2~7参照)。
【0045】
第1アーム部分31は、その基端にピン構造である第1取付支点311が設けられ、第1取付支点311は管理機8への取付状態において、取付基部2の側面部分211における4WS管理機8の車体80前方側に回動可能に軸支されている(図2参照)。第1アーム部分31は、その先端にピン構造であるジョイント312が設けられ、ジョイント312を介して第2アーム部分32の基端と接続され且つ回動可能に軸支されている。
【0046】
第2アーム部分32は、ジョイント312と反対となる先端側にジョイント322が設けられ、ジョイント312からジョイント322に向かう軸方向の途中から下方に曲がった形状である。そして、第2アーム部分32は、ジョイント312近傍から第2アーム部分32の軸方向と交差する下方へ突出した短尺な形状の付勢部材取付部323が設けられている(図2図6参照)。そして、第2アーム部分32は、その先端に第2取付支点部35が設けられている。
【0047】
本実施形態では、第2取付支点部35は、横軸部分351、アーム取付部分352、及び、溝切刃取付部分353を有する。横軸部分351は、端面視略コの字形状で装置の幅方向水平に設けられた短尺材であり、その一端側(図2図3における左端)に板状のアーム取付部分352が設けられ、その他端近傍(図2図3における右側)に溝切刃取付部分353が設けられている。
【0048】
溝切刃取付部分353は、装置後方に向けて開口した端面視略コの字形状であって、その背部がリンチピン354を使用して横軸部分352に着脱可能に取着されている。また、溝切刃取付部分353は、その開口部分に後述する溝切刃アーム43の基端が嵌合し、溝切刃取付部分353の縦方向に設けられた取付軸355を介して、溝切刃アーム43(とこれに接続された溝切刃部4)が左右方向に回動可能に軸支されている。
【0049】
更に、取付軸355は、その下方に、アーム角度が0度の(換言すると、各アームが平行且つ同一方向に向いた態様の)トーションバネ356が取り付けられている。トーションバネ356は、各アームの間に溝切刃アーム43を挟む態様で取り付けられている。
【0050】
本実施形態において、付勢部材33は、引張コイルバネであって、一端が付勢部材取付部323に係止され、他端が第2アーム部分32のジョイント322近傍に係止されている。また、付勢部材33は、ジョイント322側に荷重調整用のアジャスターボルト331を有している(図2図6参照)。
【0051】
リンク部材34は、その基端が、管理機8への取付状態において、取付基部2の側面部分211における4WS管理機8の車体80後方側で、ガイド溝215よりも更に車体80後方側縁部に近い位置に、回動可能に軸支されている。また、リンク部材34は、その先端が、アーム取付部分352に回動可能に軸支されている(図2~4、図6~7参照)。
【0052】
溝切刃部4は、アーム部3先部に第2取付支点部35を介して取り付けられ、第2取付支点部35を中心として4WS管理機8への取付状態において地面に対し左右方向に回動可能な構造である(図2~5参照)。そして、溝切刃本体41は、アーム部3から受ける押圧力を以て地面に所定深さの溝を形成可能な形状である(図6~7参照)。溝切刃部4は、溝切刃本体41、溝切刃側取付部42、及び、溝切刃アーム43を有する(図2~5参照)。
【0053】
溝切刃本体41は、4WS管理機8への取付状態における上面視で、基端側(第2取付支点部35側)を基準として先部方向へ徐々に幅広になる形状(換言すると、略台形状又は略二等辺三角形状)であり(図8(a)参照)、且つ、4WS管理機8への取付状態における後方から見た端面視で、下方へ突出した略V字形状である(溝切刃本体41は、その全体外形が舳先状とも換言できる)。また、溝切刃本体41は、左右の各側板部411、各側板部411の上端に設けられた上面部412、及び、底面部413を有する(図8参照)。
【0054】
左右の各側板部411は、左右対称であり、各々の下端部分が直線状に接合し略V字形状をなしている。上面部412は、側板部411の上端から外方向へ鍔状に張り出し、且つ、先部縁が上方に立ち上がった形状である。底面部413は、左右の各側板部411の下方、且つ、溝切刃本体41後方となる部分に設けられ、溝切刃本体41の軸方向中心線に向かって下り傾斜する形状である(図8(a)~(c)参照)。
【0055】
なお、各側板部411は、上面部412と底面部413の間(深さ方向)であって中間位置よりも上面部412寄りの箇所である境界線414を境にして、溝切刃本体41の軸方向中心線に向かって面を絞り、傾斜角度が相違する形状となっている。そして、各側板部411は、境界線414よりも上側が浅く傾斜し、下側が上側よりも深く傾斜した形状となっている(図8(c)参照)。
【0056】
溝切刃側取付部42は、4WS管理機8への取付状態における上面視で、後方に向かって幅広となる略台形の板体であり、左右の両縁が上面部412に固着されている(換言すると、溝切刃側取付部42は、溝切刃本体41上方(左右の各側板部411の間)の空間を架け渡す態様で取り付けられている)。
【0057】
溝切刃アーム43は、軸方向途中から溝切刃本体41方向へ下り傾斜した略鉤形であり、基端が前述した第2取付支点部35の溝切刃取付部分353に接続され、先端が溝切刃側取付部42の幅方向中間に固着されている。
【0058】
操作ハンドル部5は、4WS管理機8への取付状態において取付基部2の上方に伸長する棹状であり、4WS管理機8に搭乗した搭乗者の手元でアーム部3の回動位置を操作可能に設けられている。
【0059】
更に詳しくは、操作ハンドル部5は、第1棹部51、第2棹部52、第1回動支点部53、接続部材54、第2棹部回動規制部55、及び、操作レバー部56を有する。そして、操作ハンドル部5は、第2棹部52が、略鉛直状態においてはアーム部3が回動上限位置で停止すると共に、略平行状態においてはアーム部3が回動下限位置で停止する構造である(図6~7参照)。
【0060】
第1棹部51は、4WS管理機8への取付状態において略直立した所定長さの棒状であり、その基端近傍が取付基部2に接続されている。第2棹部52は、第1回動支点部53を介して第1棹部51と接続され、その先端が4WS管理機8の搭乗者の手元近傍に至る長さに設けられている。第1回動支点部53は、4WS管理機8への取付状態において、地面に対して第2棹部52が略平行乃至略鉛直となる角度の範囲で回動可能に設けられている。
【0061】
本実施形態において、第2棹部52は、基部構成材521、先部構成材522、第2回動支点部523、及び、把持部分524を有する(図2~7参照)。
【0062】
基部構成材521は、第2棹部52全長の略半分の長さに設けられた棒状であり、基端が第1回動支点部53に接続され、先端が第2回動支点部523に接続されている(換言すると、第2回動支点部523は、基部構成材521と先部構成材522の間に配設され、これを介して両部材を接続している)。
【0063】
先部構成材522は、第2棹部52全長の略半分の長さに設けられた棒状であり、基端が第2回動支点部523に接続され、先端が把持部分524で自由端である。
【0064】
第2回動支点部523は、4WS管理機8への取付状態において、先部構成材522が略水平方向に回動可能となるように軸支している。更に、第2回動支点部523は、内側に付勢部材(図示省略。本実施形態ではバネ)を有し、4WS管理機8への取付状態において、先部構成材522の先部が、付勢部材の付勢力によって4WS管理機8の機体外方(換言すると、機体の右側)に向くように設けられている。
【0065】
接続部材54は、長尺で直線的な板状である第1接続材541、及び、短尺な円弧形の板状である第2接続材542を含み、第1接続材541と第2接続材542が連動する構造である(図3参照)。
【0066】
第1接続材541は、長手方向の上端が基部構成材521(第2棹部)に回動可能に軸着され、長手方向の下端が第1アーム部分31(アーム部3)に回動可能に軸着されている。
【0067】
更に詳しくは、第1接続材541下端の軸着部分は、取付基部2を挟む態様でガイド溝215に挿通され、第1アーム部分31のジョイント312と同軸で軸着されている(図2~3参照)。つまり、第1接続材541下端は、ガイド溝215に沿ってスライド可能に取り付けられており、第2棹部52の動きにアーム部3が追従するように設けられている(図6~7参照)。
【0068】
第2接続材542は、長手方向の一端が、取付基部2を挟む態様で、第1取付支点311と同軸で回動可能に軸着され、長手方向の他端が、第1接続材541下端と重なると共に、第1接続材541下端と同軸で回動可能に軸着されている。更に、第2接続材542の他端側の軸は、取付基部2を挟む態様で、ガイド溝215に挿通され、第1アーム部分31のジョイント312と同軸で軸着されている(図2~3参照)。
【0069】
第2棹部回動規制部55は、第2棹部52と取付基部2の間において、第2棹部52の回動を規制可能に配設されている。本実施形態において、第2棹部回動規制部55はガススプリングであり、上端が基部構成材521の第1回動支点部53近傍に回動可能に取り付けられ、下端が取付基部2に取り付けられている。
【0070】
操作レバー部56は、把持部分524(第2棹部52の先部)に設けられ、レバー部分561と接続部分562を含む構造である。接続部分562は、レバー部分561と第2棹部回動規制部55との間を接続する部材(本実施形態ではワイヤー)である(図2図4~7参照)。
【0071】
操作レバー部56は、レバー部分561を把持部分524に近づける(つまり、レバー部分561を握る)と、第2棹部回動規制部55の規制が解除されて第1回動支点部53の動作がフリーになり、第1回動支点部53を介して第2棹部52を上下方向に回動させる操作が可能な構造となっている。なお、操作レバー部56は、レバー部分561を把持部分524に遠ざける(つまり、レバー部分561を離す)と、第2棹部回動規制部55が作動し、第1回動支点部53の動作が規制される構造である。
【0072】
土落とし部6は、本体部分61及びスクレーパー部分62を有する。本体部分61は、4WS管理機8の後輪81の径方向半分を内側に収容可能で、且つ、後輪81のトレッド部に非接触となる上面視U字形の隙間が形成された形状である(図2~3、図5参照)。本体部分61は、一端側が取付基部2の下面部分213に取り付けられ(図3参照)、他端側の先端が後輪81の車軸に取り付けられている(図5参照)。
【0073】
スクレーパー部分62は、可撓性素材製(本実施形態ではゴム製)であり、本体部分61において隙間に沿った端縁のうちの少なくとも後輪のサイドウォール部に近接する箇所に配設され、サイドウォール部に付着する土を排除可能に設けられている。
【0074】
本実施形態において、溝切刃本体41は後方から見た端面視で略V字形状であるが、これに限定するものではなく、溝を形成可能な突出又は膨出した形状であれば、例えば、略受け箱形状、略U字形状等であってもよい。
【0075】
本実施形態において、第2棹部回動規制部55は、第2棹部と取付基部の間の箇所に配設されているが、これに限定するものではなく、例えば、第1回動支点部、或いは、第1棹部と第2棹部の間となる箇所に配設された態様であってもよい。
【0076】
(作 用)
図1図11を参照して、溝切装置1の作用効果について説明する。
【0077】
(前準備)
まず、溝切作業前に、溝切装置1を、4WS管理機8の左右の後輪81近傍に取り付ける。溝切装置1は、主に取付基部2を以て4WS管理機8に取り付けることができ、より詳しくは、4WS管理機8の車体80と後輪81の間に配設される(図1(b)参照)。これにより、溝を形成する機能を有していない一般的な4WS管理機8に対し、圃場において圃場表面G1から溝底部G2に至る深さの溝を形成する、溝切機能を付加することができる(図1参照)。なお、溝切装置1の取付時には、土落とし部6の本体部分61の隙間内に、後輪81の径方向半分が収容されるようにして取り付ける。
【0078】
(圃場への進入前後)
前述の前準備にて溝切装置1を取り付けた4WS管理機8を運転し、圃場へ進入する。このとき、一般的に圃場は道路側よりも低い位置にあり、また、隣接する圃場へ移動する際にも、圃場よりも高い畝を越えることになる。このため、溝切刃の高さが固定されているか又は溝切刃の持ち上げ高さが十分ではない態様の従来機では、圃場と道路等の段差に溝切刃が引っ掛かり、これに起因して、溝切刃又は溝切刃を支持する部分が破損したり、車体が転倒したりするおそれがある。一方、ヒッチ等を使用して溝切刃及び溝切刃を支持する部分を高く上げることができる機体の場合は、圃場と道路等の段差に溝切刃が引っ掛かる等して破損する可能性は低減するが、ヒッチ等を含む溝切装置全体の重量が大きく、これを高く上げることで重心が高くなって車体が不安定となり、段差を昇降する際の揺れで車体が転倒するおそれがある。
【0079】
しかしながら、溝切装置1は、アーム部3自体を略水平まで上げることができ、且つ、溝切刃部4のみを更に上向きに持ち上げた状態にすることができ、溝切装置1を取り付けた4WS管理機8は同状態で圃場へ進入させる。この4WS管理機8は、溝切刃部4を十分な高さに持ち上げることができるので、圃場と道路等の段差に溝切刃部4が引っ掛かりにくく、また、溝切装置1が比較的軽量であるため、重心が低めで車体が安定し、段差を昇降する際の揺れで車体が転倒する可能性を低減している。
【0080】
ところで、圃場での溝切作業を終えた後の車体を圃場から出す際にも、前述した従来機では圃場側地面や圃場と道路等の段差に溝切刃が接触したり車体が転倒したりするおそれがある。しかしながら、溝切装置1を備える4WS管理機8であれば、前述した作用効果を奏するアーム部3及び溝切刃部4を持ち上げた状態で圃場から出すことができるので、圃場と道路等の段差に溝切刃部4が引っ掛かりにくく、また、段差を昇降する際の揺れで車体が転倒する可能性が低減される。
【0081】
(溝切作業)
圃場に4WS管理機8を進入させ、溝切作業を開始する。4WS管理機8に搭乗した搭乗者(作業者)は、その手元で操作ハンドル部5を介してアーム部3の回動位置を操作し、溝切刃部4を下降させる(図1参照)。つまり、搭乗者は、降車することなく作業を行うことができ、利便性及び作業効率が良い。
【0082】
なお、操作ハンドル部5は、第2棹部52が、略鉛直状態でアーム部3が回動上限位置で停止し(図6参照)、略平行状態でアーム部3が回動下限位置で停止する(図7参照)構造である。これにより、溝切刃部4を直接視認しなくても溝切刃部4の状態(上下いずれかに位置しているか)を把握することができる。これにより、乗車する搭乗者から見て、溝切刃部4が車体80や後輪81の陰になっていても、溝切刃部4の状態が把握でき、思いがけない溝切刃部4や溝切装置1の破損事故を予防することもできる。
【0083】
また、操作ハンドル部5は、第2棹部52が前述した構成であることにより、非操作時においては付勢部材によって先部構成材522(第2棹部52の先部)が車体80の外側へ自ずと向く。そして、操作時には搭乗者が先部構成材522を引き寄せて車体80側に向けて使用する。溝切刃部4を下げる操作を行った後に、搭乗者が第2棹部52から手を離せば、自ずと第2棹部52は管理機の外側に向く(図10図11(a)参照)。これにより、作業中に4WS管理機8が転回する際、搭乗者が手を離した状態の操作ハンドル部5が搭乗者の足に接触して思いがけない怪我を負うことを抑制する(図10図11(b)参照)。
【0084】
更にまた、操作ハンドル部5は、前述した各構成部分を有することにより、アーム部3及びこれに取り付けられた溝切刃部4を操作しやすいものとなっている。詳しくは、搭乗者は、操作レバー部56のレバー部分361を握るか緩めることで第2棹部回動規制部55の規制を解除し、第2棹部52を上下動させることで、接続部材54を介してアーム部3を上下動させる。アーム部3の上下動に伴って溝切刃部4も上下動することから、第2棹部52の上下動によって溝切刃部4を上下させる操作を行うことができる。
【0085】
そして、操作ハンドル部5は、第2棹部回動規制部55を介して操作不要時における第2棹部52の自由な上下方向の回動を規制することができ、これにより、思いがけない溝切刃部や溝切装置の破損事故を予防することができる。
【0086】
アーム部3は、前述した構成を有することにより、4WS管理機8の進行方向に対して後輪81後方へ延伸した位置に、後輪81と所定間隔を空けて溝切刃部4が配設される。これにより、圃場で4WS管理機8が進行すると後輪81の後方に溝が形成され、形成した溝が車輪等で潰されることがない。また、溝切刃部4と後輪81との間に間隔が空くので、溝切刃部4と後輪81との接触を原因とする破損事故が生じない。
【0087】
そして、作業場所への移動時等の非作業時には、アーム部3は第1取付支点311を中心として地面に対し上方向に回動させる。これにより、アーム部3を介して溝切刃部4が地面に触れないように持ち上げることができて溝切刃部4を引きずることがないため、移動中の安全が確保され、且つ、溝切刃部4の磨損を防ぐことができる。一方、作業時には、アーム部3は第1取付支点311を中心として地面に対し下方向に回動させる。これにより、アーム部3を介して溝切刃部4が地面に触れるように押し下げ、アーム部3から受ける押圧力を以て、後輪81後方の地面に所定深さの溝を形成する溝切作業を実施することができる。
【0088】
また、アーム部3が前述したリンク構造部を含むことによって、リンク支点位置が移動し、アーム部の上方に回動すると交差リンク状態(図6のジョイント312-ジョイント322の間の線及びリンク部材34の基端-先端の間の線の配置を参照)となり、アーム部が下方へ回動すると平行リンク状態(図7のジョイント312-ジョイント322の間の線及びリンク部材34の基端-先端の間の線の配置を参照)となる。
【0089】
アーム部3が下方に回動して平行リンク状態になると、溝切刃部4が下降して圃場表面G1に接触し、圃場表面G1の起伏に追従する姿勢で支持され、溝切作業を行うことができる。
【0090】
更に、アーム部3は、リンク構造部に設けた付勢部材33が、引き下げる操作を行った際に生じる平行リンク状態において伸長して牽引力を発揮し(図9の矢印線を参照)、アーム部3を引き下げた状態を保持することができる。
【0091】
このとき、前述したリンク構造部によって、引き下げた状態の溝切刃部4に対して荷重が加わり、作業中の溝切刃部4が圃場表面G1から自然に浮き上がる(溝が形成されない状態になる)ことを抑制し、作業効率が向上する。また、前述したアーム部3の構造は、比較的軽量な構造である溝切刃部4において、特に有効である。なお、付勢部材33は、アジャスターボルト33によって荷重調整することで、溝切刃部4に加える押圧力を調整することができる。
る。
【0092】
アーム部3が上方に回動して交差リンク状態になると、溝切刃部4が上昇して圃場表面G1から離脱する。更に、アーム部3は、リンク構造部に設けた付勢部材33が、引き下げる操作を行った際に生じる交差リンク状態において収縮してアーム部3を引き上げた状態を保持することができる。これにより、アーム部3は、溝切刃部4を引き上げた状態の非作業時において、溝切刃部4が自然に降下することを抑止し、安全性が向上する。
【0093】
更にまた、アーム部3が前述したリンク構造部を含むことによって、操作ハンドル部5により溝切刃部4を上昇させる過程において、アーム部3が上方に回動する際にリンク支点位置も移動し、溝切刃部4はその後端が上方向に移動する(図6参照)。つまり、前述のリンク構造部によれば、溝切刃部4の操作に際して、第2棹部52(操作ハンドル部5)の回動範囲(レバーストローク)が少なくて済む構造となり、4WS管理機8を圃場以外で移動させる際(特に4WS管理機8を高い位置から圃場内に進入させる際)に、溝切刃部4の上下方向の回動角度を十分に確保することができる。
【0094】
溝切刃部4は、アーム部3から受ける押圧力を以て、4WS管理機8の後輪81後方の圃場に所定深さの溝を形成することができる。そして、溝切刃部4は、アーム部3先部に第2取付支点部35を介して取り付けられていることにより、第2取付支点35を中心として車体80の左右方向に回動することができる。
【0095】
これにより、4WS管理機8が圃場端に至り、折り返すために転回した場合でも、後輪81に追従し、後輪81後方の圃場表面G1に所定深さの溝を形成し続けることができる(図10参照)。なお、4WS管理機8の直進時においては、取付軸355に設けたトーションバネ356が、その各アームの間に溝切刃アーム43を挟む態様で取り付けられているので、溝切刃部4を中立位置に保つ(換言すると、溝切刃部4が土の抵抗で左右に過剰に振られないようにする)ことができる。
【0096】
溝切刃部4の溝切刃本体41は、略V字形状である側板部411が溝の側面に当接して表面を均しながら溝の側面を形成し、底面部413が溝底部G2(溝の底面)を形成する(図1(a)参照)。上面部412は、溝形成の際に圃場表面に押し上げられた土を左右へ拡散する。これにより、作業後に整った形の溝が形成される。
【0097】
ところで、溝切刃は、圃場表面に埋没させた状態で前進させることにより溝を形成するものであり、V字形である断面形状の角度が浅いほど幅の広い溝を形成することができ、特に水分量が多く、形成した溝が崩れやすい圃場では、溝切刃の断面形状の角度が浅いことが好ましい。その反面、角度が浅いと抗力(土中から浮き上がる力)が増すので、より大きな推進力や荷重が必要となる。
【0098】
本発明者は、上記の点を鑑み、溝切刃本体41の各側板部411を、境界線414よりも上側が浅く傾斜し、下側が上側よりも深く傾斜した形状とした。これにより、溝切刃本体41は、溝切作業において、各側板部411の境界線414よりも上側の部分を以て泥面である圃場表面近くのみの法面角度を浅く幅広にして溝を崩れにくく形成すると共に、境界線414の境界線414よりも下側を以て比較的少ない荷重であっても抗力を低減させることができる。
【0099】
なお、溝切作業の際に、土圧で溝切刃本体41が撓むことがあるが、溝切刃側取付部42が側板部411同士の間隔を保持して補強し、撓みや変形を抑制する。また、底面部413は、圃場表面に最初に接する場所であると共に、溝切作業の端緒となる箇所であるが、前述の形状であることにより、溝切刃本体41が土中への進入する際の抵抗が少なくて済み、溝切刃本体41の破損や摩耗を抑制することができる。
【0100】
土落とし部6は、前述した態様で取り付けられていることによって後輪81のトレッド部に接触しないので、4WS管理機8の走行時において後輪81の回転を阻害しない。そして、土落とし部6は、スクレーパー部分62を有することにより、後輪81のサイドウォール部に付着した土を排除することができる。また、スクレーパー部分62は、可撓性素材製であるため、仮に、付着した土が固めであるか又は量が多い等の理由からスクレーパー部分62に強い負荷が加わったとしても、形状復帰して破損又は塑性変形しにくい。
【0101】
ところで、溝切作業は、成形した溝が崩れにくいように、一度圃場の表面を乾燥させてから行われるが、圃場の土は水分を含み、粘性を有したものとなっている。このため、作業時に非特許文献1記載の溝切機のような機体で圃場を走行すると、後輪を含む走行輪の全体に泥が張り付きやすく、このような状態で溝切作業を行うと、走行輪に付着して持ち上げられた泥の塊が稲の上に落ちたり、成形後の溝内に落ちたりする可能性がある。
【0102】
しかしながら、溝切装置1を備える4WS管理機8での作業によれば、溝形成前に土落とし部6が後輪81のサイドウォール部に付着した土を排除するため、後輪81に付着した土に起因して、泥の塊が稲の上に落ちたり、成形後の溝内に落ちたりすることがない。
【0103】
このように、溝切装置1によれば、既存の四輪操舵型の管理機に取り付けることができ、直線走行時及び転回時を含めて溝切刃部4の追従性が優れ、圃場端において転回する際にも作業を中断することなく、圃場表面G1に連続した溝を形成することができる。
【0104】
本明細書および特許請求の範囲で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書および特許請求の範囲に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。また、第一、第二等の言葉は、等級や重要度を意味するものではなく、一つの要素を他の要素から区別するために使用したものである。
【符号の説明】
【0105】
1 溝切装置
2 取付基部
21 基部本体
211 側面部分
212 上面部分
213 下面部分
214 接続ステー部分
215 ガイド溝
3 アーム部
31 第1アーム部分
311 第1取付支点
312 ジョイント
32 第2アーム部分
322 ジョイント
323 付勢部材取付部
33 付勢部材
331 アジャスターボルト
34 リンク部材
35 第2取付支点部
351 横軸部分
352 アーム取付部分
353 溝切刃取付部分
354 リンチピン
355 取付軸
356 トーションバネ
4 溝切刃部
41 溝切刃本体
411 側板部
412 上面部
413 底面部
414 境界線
42 溝切刃側取付部
43 溝切刃アーム
5 操作ハンドル部
51 第1棹部
52 第2棹部
521 基部構成材
522 先部構成材
523 第2回動支点部
524 把持部分
53 第1回動支点部
54 接続部材
541 第1接続材
542 第2接続材
55 第2棹部回動規制部
56 操作レバー部
561 レバー部分
562 接続部分
6 土落とし部
61 本体部分
62 スクレーパー部分
8 4WS管理機
80 車体
81 後輪
82 駆動軸保護体
821 水平部分
822 垂下部分
G1 圃場表面
G2 溝底部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12