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  • 特開-化粧シート及び化粧材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174613
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20241210BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092526
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】氏居 真弓
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK01E
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK07E
4F100AK25D
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AL03
4F100AL07E
4F100AP00
4F100AT00A
4F100AT00E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10D
4F100CA00
4F100CA00A
4F100CA00B
4F100CA00E
4F100CA01A
4F100CA06A
4F100CA08A
4F100CA19A
4F100CA23A
4F100CB00B
4F100CB00C
4F100CB00E
4F100DE01E
4F100EH17
4F100EH17C
4F100EH17E
4F100EH46
4F100EH46D
4F100EJ42
4F100EJ42C
4F100EJ65E
4F100GB07
4F100HB00A
4F100HB00B
4F100HB01B
4F100HB31B
4F100JA06
4F100JA07
4F100JA11
4F100JB13D
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JB16E
4F100JK04
4F100JK09
4F100JK10
4F100JK12
4F100JK14
4F100JL09
4F100JL10A
4F100JN01C
4F100JN01E
4F100JN21
(57)【要約】
【課題】加工時の割れ等の発生を抑制することができ且つ耐傷性に優れた化粧シートを提供する。
【解決手段】化粧シート1は、着色熱可塑性樹脂層2と、絵柄模様層3と、透明熱可塑性樹脂層5と、熱硬化性樹脂を含む表面保護層6と、がこの順に積層され、透明熱可塑性樹脂層5は、3層以上の多層となるように透明のポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて押出し成形により形成された単層であり、透明熱可塑性樹脂層5の多層のうちの特定の一層のみにナノサイズの添加剤が添加され、具体的には、表面保護層6側の2層のうちの一方の層のみにナノサイズの添加剤が添加されて形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色熱可塑性樹脂層と、
絵柄模様層と、
透明熱可塑性樹脂層と、
熱硬化性樹脂を含む表面保護層と、がこの順に積層され、
前記透明熱可塑性樹脂層は、3層以上の多層となるように透明のポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて押出し成形により形成された単層であり、前記透明熱可塑性樹脂層の前記多層のうちの特定の一層のみにナノサイズの添加剤が添加されており、前記特定の一層は、前記表面保護層側の2層のうちの一方の層であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記絵柄模様層側に設けられた接着性樹脂層を含む3層を有する単層からなり、
前記3層のうち、前記接着性樹脂層を除く他の2層のうちのいずれか一方の層のみに前記ナノサイズの添加剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の化粧シートと、
前記着色熱可塑性樹脂層の、前記絵柄模様層とは逆側の面に、接着剤層を介して設けられた基材と、を備えることを特徴とする化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン系樹脂を使用した化粧シートが数多く提案されている。また、耐傷性を向上する目的で、化粧シートを構成する樹脂層に、ナノサイズの添加剤を添加した化粧シート等も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-168830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、耐傷性を有する化粧シートは、多様な場面で利用されており、その結果、様々な加工先で加工されることが増えている。耐傷性を有する化粧シートは、添加剤を添加することで表面硬度を高めたものである。そのため、加工先によっては、耐傷性を有する化粧シートを、適切に加工することができず、加工後の仕上がり品に、Vカットの割れ等が生じる可能性がある。そのため、加工時に割れ等が発生することなく容易に加工することができ、且つ耐傷性に優れた化粧シートが望まれていた。
【0005】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、加工時の割れ等の発生を抑制することができ且つ耐傷性に優れた化粧シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の一態様によれば、着色熱可塑性樹脂層と、絵柄模様層と、透明熱可塑性樹脂層と、熱硬化性樹脂を含む表面保護層と、がこの順に積層され、透明熱可塑性樹脂層は、3層以上の多層となるように透明のポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて押出し成形により形成された単層であり、透明熱可塑性樹脂層の多層のうちの特定の一層のみにナノサイズの添加剤が添加されており、特定の一層は、表面保護層側の2層のうちの一方の層である、化粧シートが提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、上記態様の化粧シートと、着色熱可塑性樹脂層の、絵柄模様層とは逆側の面に、接着剤層を介して設けられた基材と、を備える化粧材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、加工時の割れ等の発生を抑制することができ、且つ耐傷性に優れた化粧シートを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る化粧シートの構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に係る化粧材の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
〔化粧シートの構成〕
図1は、化粧シート1の構成の一例を模式的に示す断面図である。
化粧シート1は、木質系基材、無機質系基材、合成樹脂基材、金属系基材等々の基材へ貼り合わせるポリプロピレン系化粧シートであり、耐傷性や耐候性が求められる例えば建具用の化粧シートである。
化粧シート1は、基材シートとしての着色熱可塑性樹脂層2上に、絵柄模様層3、接着剤層4、透明熱可塑性樹脂層5、及び表面保護層6がこの順に積層されている。
【0012】
着色熱可塑性樹脂層2は、緩衝層として機能し、耐摩耗性を向上させるための層である。絵柄模様層3は、化粧シート1に所望の絵柄による意匠性を付与するための層である。接着剤層4は、絵柄模様層3と透明熱可塑性樹脂層5とを接着するための層である。透明熱可塑性樹脂層5は、化粧シート1に生じる傷を抑制するための層である。表面保護層6は、化粧シート1の最表層に設けられ、化粧シート1に対して、耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性等の機能を付与するために設けられる層である。
【0013】
次に、各層について詳細に説明する。
〔着色熱可塑性樹脂層〕
着色熱可塑性樹脂層2は、熱可塑性樹脂に、顔料、無機充填剤、安定剤等を添加した熱可塑性樹脂組成物をシート状に成形したものである。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂を使用することができる。なお、熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂に限定されるものはなく、ポリプロピレン樹脂等他の樹脂を用いることも可能である。
【0014】
着色熱可塑性樹脂層2の厚さは特に限定されず、製品特性に応じて設定できるが、通常50μm以上200μm以下の範囲内であれば好ましい。着色熱可塑性樹脂層2の厚さが上記数値範囲内であれば、化粧シートとして要求される隠蔽性を十分に発揮することができるとともに、基材としての強度を十分に有し、耐傷性の悪化を抑制することができる。
着色熱可塑性樹脂層2には、必要に応じて、添加剤が配合されてもよい。添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー等の充填剤、水酸化マグネシウム等の難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、後述する着色剤等が挙げられる。添加剤の配合量は、製品特性に応じて適宜設定できる。
【0015】
着色剤としては特に限定されず、顔料、染料等の公知の着色剤を使用できる。例えば、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料;イソインドリノン、ハンザイエローA、キナクリドン、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(染料も含む);アルミニウム、真鍮等の金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。基材シートの着色態様には、透明着色と不透明着色(隠蔽着色)があり、これらは任意に選択することができる。例えば、被着材(化粧シートを接着する基材)の地色を着色隠蔽する場合には、不透明着色を選択すればよい。一方、被着材の地模様を目視できるようにする場合には、透明着色を選択すればよい。
【0016】
着色熱可塑性樹脂層2の片面又は両面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。例えば、コロナ放電処理を行う場合には、着色熱可塑性樹脂層2の表面の表面張力が30dyne以上、好ましくは40dyne以上となるようにすればよい。表面処理は、各処理の常法に従って行えばよい。
【0017】
着色熱可塑性樹脂層2の片面又は両面には、必要に応じて、プライマー層(例えば、被着材の接着を容易とするための裏面プライマー層、絵柄模様層の形成を容易とするための表面プライマー層)を設けてもよい。プライマー層を設けることにより、隣接層(例えば、被着材)との層間密着力を高めることができる。裏面プライマー層(プライマー層7)の詳細については後述する。
【0018】
〔絵柄模様層〕
絵柄模様層3は、化粧シート1に所望の絵柄による意匠性を付与するものであり、絵柄の種類等は特に限定的ではない。例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。
絵柄模様層3の形成方法は特に限定されず、例えば、公知の着色剤(染料又は顔料)を結着剤樹脂とともに溶剤(又は分散媒)中に溶解(又は分散)させて得られる着色インキ、コーティング剤等を用いた印刷法等により形成すればよい。
【0019】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料;アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料;アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料;酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料;蛍光顔料;夜光顔料等が挙げられる。これらの着色剤は、単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの着色剤には、シリカ等のフィラー、有機ビーズ等の体質顔料、中和剤、界面活性剤等がさらに配合されていてもよい。
【0020】
結着剤樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0021】
溶剤(又は分散媒)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水等の無機溶剤等が挙げられる。これらの溶剤(又は分散媒)は、単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0022】
絵柄模様層3の形成に用いる印刷法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。また、全面ベタ状の絵柄模様層を形成する場合には、例えば、ロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、キスコート法、フローコート法、ディップコート法等の各種コーティング法が挙げられる。その他、手描き法、墨流し法、写真法、転写法、レーザービーム描画法、電子ビーム描画法、金属等の部分蒸着法、エッチング法等を用いたり、他の形成方法と組み合わせて用いたりしてもよい。
【0023】
絵柄模様層3の厚さは特に限定されず、製品特性に応じて適宜設定できるが、塗工時の層厚は1μm以上15μm以下であれば好ましい。また乾燥後の層厚は0.1μm以上10μm以下であれば好ましい。
絵柄模様層3には、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、分散剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0024】
〔接着剤層〕
接着剤層4は、透明性のものであれば特に限定されず、無色透明、着色透明、半透明等のいずれも含無。例えば、接着剤層4として、化粧シートの分野で公知の接着剤が使用できる。
化粧シートの分野で公知の接着剤としては、例えば、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂等の硬化性樹脂等が挙げられる。また、イソシアネートを硬化剤とする二液硬化型ポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂も適用し得る。
【0025】
接着剤層4は、例えば、接着剤を絵柄模様層3の上に塗布し、透明熱可塑性樹脂層5を構成する透明性ポリプロピレン系樹脂を塗工後、乾燥・硬化させることにより形成できる。乾燥温度・乾燥時間等の条件は特に限定されず、接着剤の種類に応じて適宜設定すればよい。接着剤の塗布方法は特に限定されず、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、ワイヤーバーコート、リバースコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、エアーナイフコート、キスコート、ブレードコート、スムースコート、コンマコート等の方法が採用できる。
接着剤層4の厚さは特に限定されないが、乾燥後の厚さが0.1μm以上30μm以下であれば好ましく、1μm以上20μm以下であればさらに好ましい。
接着剤層4を設けなくても、絵柄模様層3と透明熱可塑性樹脂層5とを接着することができれば、接着剤層4は必ずしも設けなくともよい。
【0026】
〔透明熱可塑性樹脂層〕
透明熱可塑性樹脂層5は、化粧シート1の支持体となるものであって、ポリプロピレン系の熱可塑性樹脂で形成される。透明熱可塑性樹脂層5の厚さは、15μm以上150μm以下であることが好ましい。透明熱可塑性樹脂層5の厚さが15μm以上150μm以下の範囲内であれば、耐衝撃性や耐キャスター性において十分な効果を得ることができる。或いは意匠性の面でも、透明熱可塑性樹脂層5の存在が絵柄模様層3と相俟ってより深みや奥行を安定させる効果を持つ。
【0027】
透明熱可塑性樹脂層5は、図1に示すように、絵柄模様層3側から順に、接着性樹脂層51、中間層52及び上層53が積層されてなる。これら接着性樹脂層51、中間層52及び上層53は、それぞれ透明のポリプロピレン製の樹脂を含む樹脂組成物で構成され、これら3層は、押出し成形により形成される。
なお、透明熱可塑性樹脂層5は、図1の図面上、接着性樹脂層51と中間層52と上層53とは別層を形成する様に表現しているが、実際は、これら接着性樹脂層51と中間層52と上層53とは連続的であり、界面は存在しない単層シートである。
【0028】
透明熱可塑性樹脂層5において、中間層52及び上層53のいずれか一方には、ナノサイズの添加剤が添加され、いずれか他方と接着性樹脂層51とには、ナノサイズの添加剤は添加されていない。すなわち、透明熱可塑性樹脂層5において、上層53のみ、または中間層52のみに、ナノサイズの添加剤が添加され、他の二つの層には、ナノサイズの添加剤は添加されていない。このように、透明熱可塑性樹脂層5において、上層53のみ、または中間層52のみにナノサイズの添加剤を添加し、他の二つの層には添加しないことにより、透明熱可塑性樹脂層5の一部の硬度のみを高くすることで、透明熱可塑性樹脂層5全体にナノサイズの添加剤を添加する場合に比較して、硬度を低減することができる。そのため、例えば、透明熱可塑性樹脂層5が硬くなり過ぎることに起因して、加工時に、クラック等が生じることを抑制している。また、透明熱可塑性樹脂層5を構成する3層のうち、より表面保護層6側に位置する2層のうちの一方にのみナノサイズの添加剤を添加しているため、クラック等が生じやすい表面寄りの硬度を調整することで、効率よく、硬度調整を行うことができる。
【0029】
なお、透明熱可塑性樹脂層5が4層以上の層を含む場合には、4層以上の層のうちの特定の一層のみに、ナノサイズの添加剤を添加することが好ましく、4層以上の層のうちの表面保護層6側に位置する2層のうちの一方を特定の一層とし、この特定の一層にのみナノサイズの添加剤を添加し、特定の一層を除く他の層には添加しないことが好ましい。
また、透明熱可塑性樹脂層5には、抗ウイルス剤を添加してもよい。抗ウイルス剤としては、例えば、銀イオンを担持させたタイショーテクノス株式会社製の銀系無機添加剤(ビオサイドTB-B100)を使用することができる。透明熱可塑性樹脂層5に抗ウイルス剤を添加することに限定されず、透明熱可塑性樹脂層5の表面保護層6側の面のみに抗ウイルス剤を塗布しても良い。他にも、必要に応じて、透明熱可塑性樹脂層5には、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、加工安定剤、等の各種添加剤を添加してもよい。
【0030】
〔上層〕
上層53は、透明ポリプロピレン樹脂からなる透明な熱樹脂で構成され、ナノサイズの添加剤が添加される場合には、透明ポリプロピレン樹脂と、ナノサイズの添加剤として、単層膜の外膜を具備するベシクルに、造核剤が内包された造核剤ベシクルを添加して形成された、透明な熱可塑性樹脂で構成される。
【0031】
なお、上層53に含まれる透明ポリプロピレン樹脂は、中間層52の透明ポリプロピレンと同一でなくてもよく、任意に選択することができる。
【0032】
〔ポリプロピレン樹脂〕
透明熱可塑性樹脂層5に用いるポリプロピレン樹脂は、柔軟性の高い、エチレンコンテンツを有するランダムポリプロピレン樹脂や、公知の非晶性ポリプロピレン樹脂をランダムポリプロピレン樹脂や結晶性の高いホモポリプロピレン樹脂に混合したものであってもよい。曲げ加工等の加工性をより重視する用途においては、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に対し、例えば、所定の範囲内でエチレンコンテンツを有するランダムポリプロピレン樹脂や公知の非晶性ポリプロピレン樹脂を混合することができる。
【0033】
また、本実施形態においては、透明熱可塑性樹脂層5に用いるポリプロピレン樹脂として、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上のプロピレン単重合体である高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を、全ポリプロピレン樹脂の質量に対して30質量%以上100質量%以下の範囲内で含むものを用いてもよい。高結晶性ホモポリプロピレン樹脂が30質量%未満の場合、結晶性が不足するため、十分な強度が得られないことがある。
【0034】
ここで、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、質量13の炭素C(核種)を用いた13C-NMR測定法(核磁気共鳴測定法)により、樹脂材料を所定の共鳴周波数にて共鳴させて得られる数値(電磁波吸収率)から算出されるものであり、樹脂材料中の原子配置、電子構造、分子の微細構造を規定するものである。そして、結晶性ポリプロピレン樹脂のペンタッド分率とは、13C-NMRにより求めたプロピレン単位が5個並んだ割合のことであって、結晶化度あるいは立体規則性の尺度として用いられる。ペンタッド分率は、主に表面の耐擦傷性を決定付ける重要な要因の一つであり、基本的にはペンタッド分率が高いほど結晶化度が高いことを表す。
【0035】
また、本実施形態のポリプロピレン樹脂として、例えば、自由末端長鎖分岐を付与したポリプロピレン樹脂(a)と、自由末端長鎖分岐を付与していないポリプロピレン樹脂(b)との混合物で、その混合物の質量平均分子量/数平均分子量として定義される分子量分布Mw/Mnが1以上5以下の範囲内にあり、かつ、そのポリプロピレン樹脂(a)とポリプロピレン樹脂(b)の混合樹脂の、沸騰ヘプタン可溶残分率として規定されるアイソタクチック指数が、1%以上90%以下の範囲内にあるものを用いてもよい。これにより、化粧シート1を、例えば後述する木質基材層21に貼り合わせた後の折り曲げ加工において、白化や割れを抑制することができる。
【0036】
ここで、分子量分布は、分子量Miの分子がNi個存在する場合に、数平均分子量Mn=Σ(Mi×Ni)/ΣNi、質量平均分子量Mw=Σ(Ni×Mi2)/Σ(Ni×Mi)の比、Mw/Mnとして定義される値である。1に近いほど分子量の分布が狭く、均一性が高くなる。この分子量分布が5以下になるようにすれば、分子量を必要十分な大きさに揃えることができ、白化や割れの抑制に寄与するようになる。一般的には、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。
【0037】
また、沸騰ヘプタン可溶残分率として規定されるアイソタクチック指数は、ポリプロピレン樹脂中の結晶化度を調べる指標として有用である。具体的には、試料を沸騰n-ヘプタンで一定時間抽出を行い、抽出されない部分の質量(%)を求めてアイソタクチックインデックスを算出する。詳しくは、円筒濾紙を110±5℃で2時間乾燥し、恒温恒湿の室内で2時間以上放置してから、円筒濾紙中に試料(粉体またはフレーク状)8g以上10g以下を入れ、秤量カップ、ピンセットを用いて精秤する。これをヘプタン約80ccの入った抽出器の上部にセットし、抽出器と冷却器を組み立てる。これをオイルバスまたは電機ヒーターで加熱し、12時間抽出する。加熱は、冷却器からの滴下数が1分間130滴以上であるように調節する。続いて、抽出残分の入った円筒濾紙を取り出し、真空乾燥器にいれて80℃、100mmHg以下の真空度で5時間乾燥する。乾燥後、恒温恒湿中に2時間放置した後、精秤し、(P/Po)×100によりアイソタクチック指数を算出する。ただし、Poは抽出前の試料質量(g)、Pは抽出後の試料質量(g)である。
【0038】
アイソタクチック指数を90%以下にすることで、ポリプロピレン結晶起因によるシート剛性を抑制することができる。アイソタクチック指数を下げる方法としては、例えば、非晶質ポリプロピレン成分(シンジオタクチックポリプロピレンやアダクチックポリプロピレン等)を一部に使う方法や、エチレンやα-オレフィン等のオレフィンモノマーを1種類以上ランダム共重合させる方法、各種ゴム成分(例えばエチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレンープロピレンージエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)等の成分)を添加する方法を用いることができる。
【0039】
また、ポリプロピレン樹脂(a)とポリプロピレン樹脂(b)との混合樹脂の溶融張力(2.0mm径のノズルキャピラリーレオメーターを用い、温度条件230℃、60mm/分で押し出し、2mm/分で引き取るときの張力)は、100mN以上500mN以下の範囲内にあることが望ましく、300mN以上400mN以下の範囲内にあることがより望ましい。500mNを超えると、溶融粘度が高くなりすぎて、安定した成膜ができなくなる。また100mN以下では、長鎖分岐成分が不十分となり、所望の性能を得難い。
【0040】
また、ポリプロピレン樹脂(a)とポリプロピレン樹脂(b)との混合物の、JIS-K6760にて規定される230℃におけるメルトフローレートが5g/10min以上50g/10min以下の範囲内にすることで、分子量をある一定値以上で、かつ安定的な製膜状態を保持することができる。より好適なメルトフローレートの範囲は、10g/10min以上30g/10min以下の範囲内であり、更に好ましくは10g/10min以上25g/10min以下の範囲内である。メルトフローレートが50g/10minを超えると、Tダイによる溶融押し出し時に、Tダイから溶融押し出しされた樹脂が、中央に集まろうとする効果(ネックイン)が大きくなり、Tダイから溶融押し出しされた樹脂の端部厚さが増大してしまう。端部の厚さ増大は冷却効率の低下と巾方向の厚さ安定性に影響を与えるため、安定した製膜がしづらくなる。また、5g/10minよりも低いと、溶融樹脂のドローレゾナンスが悪くなり、Tダイから出た直後の溶融樹脂の速度(初速)と冷却ロールに触れた直後の樹脂の速度とのギャップに溶融樹脂が対応できなくなってしまい、安定した製膜がしづらくなる。
【0041】
〔造核剤ベシクル〕
上層53に含まれるナノサイズの添加剤は、単層膜の外膜を具備するベシクルに内包された、造核剤ベシクルの形でポリプロピレン樹脂に添加されて使用される。上層53は、造核剤を含むため結晶化度を向上でき、化粧シート1の耐傷性、耐衝撃性、耐キャスター性等を向上することができる。なお、本実施形態において、上層53を構成する樹脂中の造核剤は、当該造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。
【0042】
ナノサイズの造核剤は、平均粒径が可視光の波長領域の1/2以下であることが好ましく、具体的には、可視光の波長領域が400nm以上750nm以下の範囲内であるので、平均粒径が375nm以下であることが好ましい。
【0043】
ナノサイズの造核剤は、粒径が極めて小さいため、単位体積当たりに存在する造核剤の数と表面積とが粒子直径の三乗に反比例して増加する。その結果、各造核剤粒子間の距離が近くなるため、ポリプロピレン樹脂に添加された一の造核剤粒子の表面から結晶成長が生じた際に、結晶が成長している端部が直ちに、一の造核剤粒子に隣接する他の造核剤粒子の表面から成長している結晶の端部と接触し、互いの結晶の端部が成長を阻害して各結晶の成長が止まる。このため、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を小さく、例えば、球晶サイズを小さくして1μm以下とすることができる。この結果、結晶化度の高い高硬度の着色ポリプロピレンフィルムとすることができると共に、曲げ加工時に生じる球晶間の応力集中が効率的に分散されるため、曲げ加工時の割れや白化を抑制した着色ポリプロピレンフィルムを実現することができる。
【0044】
ここで、造核剤を単純添加した場合は、ポリプロピレン樹脂中の造核剤が2次凝集することで粒径が大きくなると共に添加した造核剤量に対して結晶核の数が、造核剤ベシクルとして添加した場合よりも大幅に少なくなってしまうことがある。このため、ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径が大きくなってしまい、曲げ加工時の割れや白化が抑制できないことがある。よって、結晶化度を高めることによる弾性率向上と加工性が両立できないことがある。
【0045】
また、造核剤をナノ化する手法としては、例えば、造核剤に対して主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る固相法、造核剤や造核剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う液相法、造核剤や造核剤からなるガス・蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う気相法等の方法を適宜用いることができる。固相法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル等が挙げられる。また、液相法としては、例えば、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法等が挙げられる。更に、気相法としては、例えば、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法等が挙げられる。
【0046】
造核剤をナノ化する手法としては、超臨界逆相蒸発法が好ましい。超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素を用いて対象物質を内包したカプセル(ナノサイズのベシクル)を作製する方法である。超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)及び臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素とは、温度だけ又は圧力だけが臨界条件を越えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0047】
また、超臨界逆相蒸発法による具体的なナノ化処理としては、まず超臨界二酸化炭素と外膜形成物質としてのリン脂質と内包物質としての造核剤との混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって、超臨界二酸化炭素と水相のエマルジョンを生成させる。次に、減圧することで、二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が造核剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセル(ナノベシクル)を生成させる。この超臨界逆相蒸発法を用いることにより、造核剤粒子表面で外膜が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することができるので、より小径なカプセルを調製することができる。
【0048】
なお、造核剤ベシクルは、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法等によって調製することができる。その中でも特に超臨界逆相蒸発法が好ましい。
造核剤ベシクルを構成する外膜は例えば単層膜から構成される。またその外膜は、例えば、リン脂質等の生体脂質を含む物質から構成される。
【0049】
本実施形態では、外膜がリン脂質のような生体脂質を含む物質から構成される造核剤ベシクルを、造核剤リポソームと称する。
外膜を構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0050】
ベシクルの外膜となるその他の物質としては、例えば、ノニオン系界面活性剤や、これとコレステロール類もしくはトリアシルグリセロールの混合物等の分散剤が挙げられる。このうちノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ2-ビニルピリジン、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種又は2種以上を使用することができる。コレステロール類としては、例えば、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5、24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム又はコレカルシフェロール等を使用することができる。
【0051】
また、リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成するようにしてもよい。本実施形態の化粧シート1においては、造核剤ベシクルを、リン脂質を含む外膜を具備したラジカル捕捉剤リポソームとすることが好ましく、外膜をリン脂質で構成することによって、上層53の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を良好なものとすることができる。
【0052】
造核剤としては、樹脂が結晶化する際に結晶化の起点となる物質であれば特に限定するものではない。造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー及びタルク等が挙げられる。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルク等も用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
【0053】
上述のように、造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち透明熱可塑性樹脂層5中への造核剤の分散性を飛躍的に向上するという効果を奏する。一方、ベシクルに内包された造核剤を、完成された化粧シート1の状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。
【0054】
ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっており、作製された化粧シート1の状態においても、造核剤は透明熱可塑性樹脂層5に高分散されている。しかしながら、化粧シート1の作製工程において、通常、積層体は圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施され、これら処理によって、造核剤を内包するベシクルの外膜が破砕したり化学反応が生じたりする場合がある。このため、化粧シート1の処理工程によって、完成後の化粧シート1における造核剤の外膜が破砕したり化学反応の状態にばらつきが生じたりすることで、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高い。そして、造核剤が外膜で包含されていない場合、造核剤の物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか造核剤とは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。このように、本実施形態は、従来に比して、化粧シート1に対し、造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シート1の状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
【0055】
〔中間層〕
中間層52は、透明ポリプロピレン樹脂からなる熱可塑性樹脂で構成され、ナノサイズの添加剤が添加される場合には、透明ポリプロピレン樹脂と、ナノサイズの添加剤として、単層膜の外膜を具備するベシクルに、造核剤が内包された造核剤ベシクルを添加して形成された、透明な熱可塑性樹脂で構成される。
〔接着性樹脂層〕
接着性樹脂層51は、例えば、透明ポリプロピレン樹脂に酸変性を施したもの、すなわち酸変性樹脂で形成される。
【0056】
〔表面保護層〕
表面保護層6は、熱硬化型樹脂が使用でき、例えば、アクリル系樹脂組成物を用いて形成される。
表面保護層6の厚みは、例えば3μm以上15μm以下の範囲内に設定される。表面保護層6の厚みが、3μm未満の場合、耐傷性の向上効果が低く、表面保護層6を設ける意義が少なくなってしまうことがある。また、表面保護層6の厚みが15μmを超えると、曲げ加工時においてクラックや割れが生じてしまい、意匠上の問題や耐候性が悪化する可能性がある。
【0057】
表面保護層6には、必要に応じて、耐候剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、光散乱剤及び艶調整剤等の各種添加剤等を含有させてもよい。また、表面保護層6には、必要に応じて、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤等の機能性添加剤等を含有させてもよい。
【0058】
〔プライマー層〕
着色熱可塑性樹脂層2の絵柄模様層3とは反対側の面には、プライマー層7が形成されている。なお、プライマー層7は、必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
【0059】
プライマー層7としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、これらの混合物等を使用することができる。更に、ポリオールとイソシアネートによる2液タイプにすることで、着色熱可塑性樹脂層2とプライマー層7との密着性及びプライマー層7自体の凝集力が向上する。ポリオールとしては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。また、イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′ジフェニルメタンジイソシアネートといった芳香族系、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートといった脂肪族系が挙げられる。反応性の早さの点、耐熱性の点で芳香族系のポリオールが好ましい。
【0060】
プライマー層7の厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以下が好ましい。プライマー層7の厚さは1μm未満となると接着剤の溶剤種によっては溶解してしまい、プライマー層7が消失することから密着性が向上しないことがある。
【0061】
〔化粧材の構成〕
図2は、化粧材20の構成の一例を模式的に示す断面図である。
化粧材20は、化粧シート1を構成する着色熱可塑性樹脂層2と、木質基材層21とを、裏面接着剤層22を介して貼り合わせて形成されている。なお、着色熱可塑性樹脂層2のプライマー層7が設けられている場合にはプライマー層7と木質基材層21とが裏面接着剤層22を介して貼り合わされる。
【0062】
〔裏面接着剤層22〕
着色熱可塑性樹脂層2と木質基材層21との間には裏面接着剤層22が形成されている。裏面接着剤層22は、木質基材層21の上に、裏面接着剤層22を形成するための組成物を塗布して形成してもよいし、着色熱可塑性樹脂層2の上に、裏面接着剤層22を形成するための組成物を塗布して形成してもよい。裏面接着剤層22に含まれる接着剤は、着色熱可塑性樹脂層2に含まれる熱可塑性樹脂との組み合わせに応じて、例えば、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系等の中から任意に選択可能である。
【0063】
裏面接着剤層22を形成するための組成物の塗布量は、3g/m以上20g/m以下の範囲内であることが好ましい。裏面接着剤層22 形成するための組成物の塗布量が3g/m未満であると、着色熱可塑性樹脂層2と木質基材層21との間の密着性が全体的に不十分となる可能性がある。また、裏面接着剤層22を形成するための組成物の塗布量が20g/mを超えると、裏面接着剤層22を形成するための組成物の塗工が不均一となり、着色熱可塑性樹脂層2と木質基材層21との間の密着性が不均一になる可能性がある。
【0064】
〔木質基材層〕
木質基材層21の材料としては、例えば、木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板を採用することができる。
【0065】
〔化粧シート1の製造方法〕
以下、化粧シート1の製造方法について簡単に説明する。ここでは、上層53にナノサイズの添加剤を添加した場合について説明する。
【0066】
まず、着色熱可塑性樹脂層2の上に、例えば、印刷によって絵柄模様層3を形成する。
次に、上層53となる溶融した透明ポリプロピレン樹脂とナノサイズの添加剤とを含む樹脂組成物と、中間層52となる溶融した透明ポリプロピレン樹脂を含みナノサイズの添加剤を含まない樹脂組成物と、接着性樹脂層51となる溶融した透明ポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物とを多層押し出し機から押し出して形成した複数の層を、絵柄模様層3の上に積層することで、接着性樹脂層51と中間層52と上層53との積層構造からなる透明熱可塑性樹脂層5を絵柄模様層3の上に形成する。
【0067】
最後に、透明熱可塑性樹脂層5上に、例えば、ウレタン系樹脂に、硬化剤、紫外線吸収剤及び光安定剤を添加した樹脂組成物を塗布した後、その樹脂組成物を乾燥させて表面保護層6を形成する。こうして、本実施形態に係る化粧シート1を製造する。
なお、接着剤層4を含む化粧シート1を形成する場合には、絵柄模様層3と透明熱可塑性樹脂層5との間に接着剤層4を形成する工程を設ければよい。
【0068】
〔化粧材20の製造方法〕
以下、化粧材20の製造方法について簡単に説明する。
まず、上述した化粧シート1の着色熱可塑性樹脂層2側の面に、裏面接着剤層8となる接着剤を塗工する。次に、ラミネータを用いて、化粧シート1と木質基材層21とを貼り合せて化粧材20を製造する。
なお、化粧シート1にプライマー層7が設けられている場合には、プライマー層7の上に裏面接着剤層8を形成すればよい。
【0069】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態に係る化粧シート1は、着色熱可塑性樹脂層2と絵柄模様層3と透明熱可塑性樹脂層5と表面保護層6と、がこの順に積層されている。さらに、透明熱可塑性樹脂層5は、3層以上の多層となるように、透明のポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて押出し成形により形成された単層であり、透明熱可塑性樹脂層5の多層のうち、特定の一層のみにナノサイズの添加剤が添加され、具体的には、表面保護層側の2層のうちの一方の層のみに添加されている。
【0070】
このような構成であれば、透明熱可塑性樹脂層5全体にナノサイズの添加剤を添加した場合に比較して、透明熱可塑性樹脂層5の硬度は小さくなる。そのため、化粧シート1の表面は硬度を維持しつつ表面近傍の領域は柔らかくなり、化粧シート1としての柔軟性を高めることができ、加工時にクラック等が生じることを抑制することができる。その結果、化粧シート1やこの化粧シート1を備える化粧材20を加工する際に、クラック等が生じることを抑制することができる。
【0071】
また、例えば、接着性樹脂層51と中間層52と上層53との3層からなる透明熱可塑性樹脂層5の場合、より表面保護層6側の層である中間層52と上層53とのうちの一方にのみナノサイズの添加剤を添加することで、クラック等が生じやすい表面寄りの硬度を効率よく調整することができる。
【実施例0072】
以下に、本発明に係る化粧シート1の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
厚さ55μmのポリエチレン樹脂からなる着色シート(リケンテクノス株式会社製)を着色熱可塑性樹脂層2として用意した。
この着色シートの一方の面に、グラビア印刷により、ウレタンインキを用いて木目柄を印刷し、絵柄模様層3を形成した。ウレタンインキとして、グラビアインキ(東洋インキ株式会社製「ラミスター」)を用いた。
【0074】
続いて、多層押出機を用いて着色シートの他方の面に、加熱溶融したポリプロピレン樹脂を厚さ70μmのシート状に押し出し、押し出しラミネートにより耐傷性クリア層となる透明熱可塑性樹脂層5を形成した。樹脂の押出温度(RRT)は50℃とした。ポリプロピレン樹脂として、上層53となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、中間層52となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、接着性樹脂層51となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、を用いた。
【0075】
続いて、耐傷性クリア層の表面に熱硬化型樹脂(DICグラフィックス社製「アクリルウレタン樹脂」をコーティングして、厚さ6μm程度の表面保護層6を形成した。これにより、着色熱可塑性樹脂層2と、絵柄模様層3と、透明熱可塑性樹脂層5と、表面保護層6とが積層され、透明熱可塑性樹脂層5の、ナノサイズの添加剤が中間層52のみに添加され、上層53及び接着性樹脂層51には無添加である化粧シート1を形成した。
【0076】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂として、上層53となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、中間層52となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、接着性樹脂層51となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして化粧シート1を形成した。
【0077】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂として、上層となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、中間層となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、接着性樹脂層となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして化粧シートを形成した。
【0078】
(比較例2)
ポリプロピレン樹脂として、上層となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、中間層となる、ナノサイズの添加剤が添加されたポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、接着性樹脂層となる、ナノサイズの添加剤が無添加であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物と、を用い、樹脂の押出温度(RRT)を45℃としたこと以外は、上記実施例1と同様にして化粧シートを形成した。
【0079】
(評価方法及び評価基準)
上述のようにして作製した実施例及び比較例の化粧シートについて、性能評価を行った。評価方法及び評価基準は次の通りである。
(表面硬度)
化粧シートに対し、硬度の異なる鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した。その後、表面(表面保護層)に発生した損傷(抉れ)を確認して、鉛筆硬度による表面硬度を評価した。硬度が4B以上の鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面に損傷が発生した場合を「○」と評価し、硬度が4Bより低い鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面に損傷が発生した場合を「×」と評価した。
【0080】
(耐傷性)
化粧シートに対し、スチールウール摩耗試験を行った。具体的には、化粧シートをスチールウール(#0000)にて荷重200g/cm2、20回往復の耐傷性試験を実施し、目視にてキズや光沢度変化の有無を観察した。
光沢度変化が見られない場合又は光沢度変化が僅かに見える場合を「◎」、光沢度変化がはっきり見える場合を「△」、キズや大きな光沢度変化が見える場合を「×」とした。なお、評価結果が「○」及び「△」であれば、使用上問題がないため、合格とした。
(Vカット評価)
MDF(Medium Density Fiberboard)に貼り合わせた化粧シート(すなわち、化粧材)を用いて、Vカット加工適性(割れの有無)を確認して、曲げ加工適正を目視により評価した。そして、割れが目立たなかったものを「〇」(合格)と評価し、割れが目立つものを「×」と評価した。
【0081】
(コスト評価)
化粧シートを作成するに当たり、かかったコストを評価した。コストが現状と同等である場合を「△」、現状よりもコストダウンが図れた場合を「○」とした。
(評価結果)
各化粧シートの評価結果は、次の表1の通りである。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、中間層52のみにナノサイズの添加剤を添加した場合(実施例1)の鉛筆硬度はB、上層53のみにナノサイズの添加剤を添加した場合(実施例2)の鉛筆硬度は4Bであって鉛筆硬度は異なるものの、表面硬度は、上層53と中間層52の硬さによって変化するため、耐傷性及びVカット評価は共に良好となり、上層53及び中間層52のいずれか一方のみにナノサイズの添加剤を添加した場合であっても、上層53及び中間層52の両方にナノサイズの添加剤を添加した場合と同等の効果を得ることができ、且つコスト削減を図ることができた。
【0084】
一方、上層53及び中間層52共にナノサイズの添加剤を添加した場合、透明熱可塑性樹脂層5となるポリプロピレン樹脂の押出温度(RRT)が50℃であるときには(比較例1)、表面硬度は良好であったが、Vカット評価において割れが目立った。ポリプロピレン樹脂の押出温度(RRT)が45℃であるときには(比較例2)、Vカット評価において割れは目立たないものの、鉛筆硬度が「6B」であり耐傷性が不足していた。
【0085】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
着色熱可塑性樹脂層と、
絵柄模様層と、
透明熱可塑性樹脂層と、
熱硬化性樹脂を含む表面保護層と、がこの順に積層され、
前記透明熱可塑性樹脂層は、3層以上の多層となるように透明のポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いて押出し成形により形成された単層であり、前記透明熱可塑性樹脂層の前記多層のうちの特定の一層のみにナノサイズの添加剤が添加されており、前記特定の一層は、前記表面保護層側の2層のうちの一方の層であることを特徴とする化粧シート。
【0086】
(2)
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記絵柄模様層側に設けられた接着性樹脂層を含む3層を有する単層からなり、
前記3層のうち、前記接着性樹脂層を除く他の2層のうちのいずれか一方の層のみに前記ナノサイズの添加剤が添加されていることを特徴とする上記(1)に記載の化粧シート。
【0087】
(3)
上記(1)又は(2)に記載の化粧シートと、
前記着色熱可塑性樹脂層の、前記絵柄模様層とは逆側の面に、接着剤層を介して設けられた基材と、を備えることを特徴とする化粧材。
【符号の説明】
【0088】
1 化粧シート
2 着色熱可塑性樹脂層
3 絵柄模様層
4 接着剤層
5 透明熱可塑性樹脂層
6 表面保護層
20 化粧材
21 木質基材層
22 裏面接着剤層
51 接着性樹脂層
52 中間層
53 上層
図1
図2