IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本コンクリート工業株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社トーヨーアサノの特許一覧

特開2024-174618外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法
<>
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図1
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図2
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図3
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図4
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図5
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図6
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図7
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図8
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図9
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図10
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図11
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図12
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図13
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図14
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図15
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図16
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図17
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図18
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図19
  • 特開-外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174618
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/50 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
E02D5/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092533
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597058664
【氏名又は名称】株式会社トーヨーアサノ
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】千種 信之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕
(72)【発明者】
【氏名】松江 繁尚
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041BA13
2D041CA03
2D041DB03
2D041FA04
2D041FA07
(57)【要約】
【課題】杭先端部と根固め部との一体性を向上させることが可能な外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法を提供する。
【解決手段】杭体1は、ストレート形状の杭孔5に沈設される外掘り根固め工法用の杭体である。杭体1は、円筒形コンクリート製の杭本体2と、杭本体2の支持層根入れ部分の外周面に設けられた杭本体2の外径より小径の溝底部を有する複数の溝部3と、を備える。溝部3は、隅部にテーパ部3aを有し、杭径Dに応じた個数のすべてが支持層8中に根入れされる杭本体2の先端部から杭径Dと等しい長さの範囲内にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレート形状の杭孔に沈設される外掘り根固め工法用の杭体であって、
円筒形コンクリート製の杭本体と、
この杭本体の支持層根入れ部分の外周面に設けられた杭本体の外径より小径の溝底部を有する複数の溝部と、を備え、
これらの溝部は、隅部にテーパ部を有し、杭径に応じた個数のすべてが支持層中に根入れされる杭本体の先端部から杭径と等しい長さの範囲内にある
ことを特徴とする外掘り根固め工法用の杭体。
【請求項2】
すべての溝部は、同一形状および同一寸法に設けられ、杭径に応じて個数が設定されている
ことを特徴とする請求項1記載の外掘り根固め工法用の杭体。
【請求項3】
杭本体のコンクリートの長期許容せん断応力度が1.65以上、短期許容せん断応力度が2.48以上である
ことを特徴とする請求項1記載の外掘り根固め工法用の杭体。
【請求項4】
ストレート形状の杭孔を形成する工程と、
杭孔の支持層部分に根固め液を注入する工程と、
杭孔にさらに杭周固定液を注入する工程と、
請求項1乃至3いずれか一記載の杭体を杭孔に沈設する工程と、
根固め液および杭周固定液を固化させて杭体外周に根固め部および杭周固定部を形成する工程と、
を備えることを特徴とする外掘り根固め工法。
【請求項5】
根固め部外径が、杭径の1.33倍以上1.35倍以下であり、杭体の先端部から下方の根固め部の高さが、杭径の1.2倍である
ことを特徴とする請求項4記載の外掘り根固め工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外掘り根固め工法は、地盤に全長に亘り同径のストレート形状の杭孔を掘削し、その杭孔に根固め液、杭周固定液を順次注入し、既製杭を沈設して根固め液および杭周固定液を固化させ、杭外周に根固め部および杭周固定部を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-183510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の外掘り根固め工法の場合、杭先端部に鉛直荷重が作用すると、その荷重が、杭を介して杭の内面及び外面からの付着力さらには杭下端面の支圧力で根固め部に伝達される。そして、その荷重は、根固め部内の杭周面と底面とから根固め部に伝達され、杭と根固め部とが一体化して挙動し、根固め部の周面と底面から支持地盤に伝達される。
【0005】
したがって、鉛直荷重を支持地盤に効果的に伝えるために、杭先端部と根固め部との一体性を向上させることが望まれる。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、杭先端部と根固め部との一体性を向上させることが可能な外掘り根固め工法用の杭体及び外掘り根固め工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の外掘り根固め工法用の杭体は、ストレート形状の杭孔に沈設される外掘り根固め工法用の杭体であって、円筒形コンクリート製の杭本体と、この杭本体の支持層根入れ部分の外周面に設けられた杭本体の外径より小径の溝底部を有する複数の溝部と、を備え、これらの溝部は、隅部にテーパ部を有し、杭径に応じた個数のすべてが支持層中に根入れされる杭本体の先端部から杭径と等しい長さの範囲内にあるものである。
【0008】
請求項2記載の外掘り根固め工法用の杭体は、請求項1記載の外掘り根固め工法用の杭体において、すべての溝部は、同一形状および同一寸法に設けられ、杭径に応じて個数が設定されているものである。
【0009】
請求項3記載の外掘り根固め工法用の杭体は、請求項1記載の外掘り根固め工法用の杭体において、杭本体のコンクリートの長期許容せん断応力度が1.65以上、短期許容せん断応力度が2.48以上であるものである。
【0010】
請求項4記載の外掘り根固め工法は、ストレート形状の杭孔を形成する工程と、杭孔の支持層部分に根固め液を注入する工程と、杭孔にさらに杭周固定液を注入する工程と、請求項1乃至3いずれか一記載の杭体を杭孔に沈設する工程と、根固め液および杭周固定液を固化させて杭体外周に根固め部および杭周固定部を形成する工程と、を備える請求項1ないし3いずれか一記載の外掘り根固め工法用の杭体において、ものである。
【0011】
請求項5記載の外掘り根固め工法は、請求項4記載の外掘り根固め工法において、根固め部外径が、杭径の1.33倍以上1.35倍以下であり、杭体の先端部から下方の根固め部の高さが、杭径の1.2倍であるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、杭先端部と根固め部との一体性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態の外掘り根固め工法用の杭体の杭施工時の断面図である。
図2】同上杭体の一例の一部を拡大した側面図である。
図3】同上杭体の他の例の一部を拡大した側面図である。
図4】同上杭体における溝部の外周面積As1と、溝部間に挟まれた杭本体の外周面積As2との関係を示す側面図である。
図5】同上杭体における溝部の外周面積As1と、溝部間に挟まれた杭本体の外周面積As2との関係を示す断面図である。
図6】同上杭体の例を示す半断面図であり、(a)は杭径φ300mmの例を示し、(b)は杭径φ350mmの例を示し、(c)は杭径φ400mmの例を示し、(d)は杭径φ450mmの例を示す。
図7】同上杭体の例を示す半断面図であり、(a)は杭径φ500mmの例を示し、(b)は杭径φ600mmの例を示し、(c)は杭径φ700mmの例を示す。
図8】同上杭体の例を示す半断面図であり、(a)は杭径φ800mmの例を示し、(b)は杭径φ900mmの例を示し、(c)は杭径φ1000mmの例を示す。
図9】同上杭体の例を示す半断面図であり、(a)は杭径φ1100mmの例を示し、(b)は杭径φ1200mmの例を示す。
図10】同上外掘り根固め工法を(a)ないし(e)の順に示す説明断面図である。
図11】溝部を有さない試験体Aの断面図である。
図12】溝深さ3mmの2つの溝部を有する試験体Bの断面図である。
図13】溝深さ7mmの2つの溝部を有する試験体Cの断面図である。
図14】試験体を載荷試験する際の要領を示す説明図である。
図15】試験体A-1の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
図16】試験体A-2の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
図17】試験体B-1の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
図18】試験体B-2の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
図19】試験体C-1の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
図20】試験体C-2の付着強度と杭頭変位量との関係を示す試験結果の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示す1は、杭体である。杭体1は、外掘り拡大根固め工法で施工された断面を示す。杭体1は、既製コンクリート杭であり、鉄筋円筒形コンクリート製の杭本体2の先端部の支持層根入れ部分の外周面に、杭本体2の外径より小径の溝底部を有する複数の溝部(凹溝部)3が形成されて構成されている。杭本体2の先端部には、一時的に杭外周面の摩擦力を低減して杭挿入施工を容易にするため、鋼管沓4が取り付けられている。この杭体1は、全長に亘りストレート形状の杭孔5に設置され、杭先端部に形成される根固め部(根固め球根部)6と杭周に形成される杭周固定部7とにより、基礎杭構造を構成している。
【0016】
そして、本工法において、杭先端部に鉛直荷重が作用した場合、根固め部6内の杭周面と底面から根固め部6に伝達され、杭本体2と根固め部6とが一体化して挙動し、根固め部6周面と底面とから支持地盤に伝達される。杭先端支持力は、杭先端部に作用する軸力(P)とし、根固め部6下端部の地盤の耐力(P)と根固め部6の周面摩擦力(Pfb)とによって支持するものとする。すなわち、P=P+Pfb・・・(式1)である。
【0017】
本工法において、地中の支持層8に根入れされる根固め部6の摩擦力度は地盤強度が高いため、大きな摩擦力度が得られるので、根固め部6と杭体1との摩擦力度を大きくし、杭体1の支持層8に根入れされる先端部と根固め部6との一体性を向上させることで、支持層8と根固め部6との摩擦力度を杭体1の支持力に有効に利用することができる。
【0018】
杭本体2の厚さtについては、「JIS A 5373:2010 プレキャストプレストレストコンクリート製品 推奨仕様E-1」に規定される厚さ以上のものを使用する。
【0019】
杭径Dとしては、例えばφ300mm~φ1200mmのものが好適に用いられる。杭径Dに対し、根固め部6の外径Doは1.33倍を標準とし、それ以上の10mm単位に丸めた値とする。本実施の形態における杭径Dと根固め部6の外径Doとの関係の例を表1に示す。これらの例では、杭径Dに対し、根固め部6の外径Doは1.33倍~1.35倍となっている。なお、表中において、Diは杭内径、H1は杭先端から下方の必要根固め部高さを示す。
【0020】
【表1】
【0021】
本実施の形態では、杭孔5が全長に亘り同径のストレート形状に形成されているため、根固め部6の外径Doは、杭孔5の径と等しい。
【0022】
溝部3は、根固め部6との一体性を向上させるために形成される。本実施の形態では、溝部3には、隅部としての上隅部及び下隅部に、溝底部と杭本体2の外周面とを連ねるテーパ部3aがそれぞれ形成されている。テーパ部3aを設けることで、杭挿入時の土砂の付着を少なくする効果が期待できるとともに、テーパ部3aを設けることで、杭挿入時に、地中障害物の溝部3への引掛かりを小さくし、溝部3の破壊を避ける効果が期待できる。
【0023】
これらの溝部3の設定位置は、支持層8中に杭先端部が根入れされる部分とし、杭先端部から杭径D区間の杭外周面に形成される。本実施の形態での支持層8への根入れ長さは杭径D以上である。溝部3の間隔は、杭径Dに応じて、杭体1に作用する鉛直荷重により生じるせん断力に対して、各溝部3内に形成された根固め材(モルタル)との一体性を確保できるように設定され、例えば150mm~300mmの間隔となっている。さらに、溝部3の形状は、杭径Dが小さい場合、例えば溝深さを3mmとし、杭径Dが大きい場合、例えば溝深さを7mmとする。図2に示すように、本実施の形態では、杭径φ300mm及びφ350mmの杭体1の場合、溝深さを3mmとし、図3に示すように、杭径φ400mm~φ1200mmの杭体1の場合、溝深さが7mmとする。また、溝幅は溝深さの8倍~20倍とする。
【0024】
さらに、図1に示す溝部3の条数及びせん断強度から、支持層8に根入れされた溝部3が負担できる摩擦力及び摩擦力度が決定される。すなわち、支持層8に根入れされた溝部3が負担できる摩擦力及び摩擦力度に基づき、溝部3の条数及びせん断強度が設定される。
【0025】
溝部3の条数は、溝部3のせん断試験の結果に基づき、杭径Dに応じて設定される。本実施の形態では、杭径φ300mm~φ600mmの杭体1の場合、溝部3を2つとし、杭径φ700mm~φ900mmの杭体1の場合、溝部3を3つとし、杭径φ1000mm~φ1200mmの杭体1の場合、溝部3を4つとする。
【0026】
また、本実施の形態の溝部3のせん断強度は、根固め部6の理論圧縮強度を考慮して設定される。ここで、杭先端部付近の地盤の平均N値と杭先端閉塞断面積(A=π・D/4、Dは杭径)とから求まる軸力(=α・N・A)がα算定位置9に作用し、杭本体2が根固め部6に定着されている区間の摩擦力(Pfa)により、減衰した軸力(=杭先端部の支圧耐力(P))が杭先端部に作用する。この減衰した軸力が根固め部6に伝達され、杭先端部より下方の根固め部6が支圧状態となる。このことから、杭先端部(α算定位置9)に作用する支圧強度(F)に対して必要な根固め部6の理論圧縮強度を求める。
【0027】
杭先端部に作用する支圧強度(F)は、杭先端部に作用する支圧耐力(P)を支圧面積(A)で除した値(=P/A)となる。支圧面積は、杭先端閉塞断面積(A)に等しい。また、根固め部6の理論圧縮強度(F)については、支圧試験結果から、支圧強度(F)、支圧面積(A)、支承面積(A)、および、根固め部6の圧縮強度の関係より求める。支圧試験については、平成18年3月22日一般財団法人日本建築センター評定BCJ基評-FD0069-03(MRXX工法)において行われた「VI章 5.既性能評価で実施した基礎試験 5.3 支圧試験」より得られた結果を用いる。すなわち、試験体の支圧面積を一定とし、支承面積を変化させたときに支圧強度の違いを検討した結果、支承面積/支圧面積比が増加するにしたがい、支圧強度が増加する傾向にあることから、試験結果より、回帰式および95%信頼限界の下限式を求めた。この結果から得られている以下の式を採用する。
【0028】
/F=(Ak/A0.29 よって、F=F/(A/A0.29
【0029】
支持力係数α=417から、杭先端部付近の地盤の平均N値(=60)における杭先端部(α算定位置9)に作用する軸力を求め、根固め部6に定着されている杭の摩擦力を差し引いた値が杭先端部の支承耐力となる。この値から求めた支圧強度は17.2N/mmとなり、上記の式から根固め部6の理論圧縮強度を算出すると、表2に示す通り、14.5~14.6N/mmとなる。
【0030】
【表2】
【0031】
なお、支持力係数αについては、日本建築学会「杭の鉛直支持力小委員会報告書」2008年8月の、「第2章 先端支持力 2.5杭の施工法及び先端形状に着目した先端面支持力の分析 2.5.2埋込み杭(高支持力杭)」において、「埋込み杭の根固め部先端におけるα値は、杭径にもよるが、150~200が妥当な値と考えられる」と評価されていることから、上記の式1に基づき、支持力係数α=417に相当する軸力を与えた場合に杭先端部付近の地盤の平均N値が60のときの杭先端部の地盤の支持力係数α(=P/(N・A)、Aは根固め部6の断面積(=π・Do/4))を杭径別に求め(表3参照)、それらの値が上記の妥当な値の範囲に含まれていることに基づき採用している。根固め部6の周面摩擦力度(τ)については、6.5N(2007年度日本建築学会大会(九州)構造部門(基礎構造)パネルディスカッション・基調講演資料より)を採用した。
【0032】
【表3】
【0033】
そこで、この理論圧縮強度から、根固め部6の設定圧縮強度を、例えば14.60N/mmとし、溝部3のせん断試験の結果より、溝部3のせん断強度と材齢7日供試体モルタル強度との比率が0.26~0.29であることから、溝部3のせん断強度は3.79(=14.60×0.26)N/mmとする。
【0034】
これらの条件により、支持層8に根入れされた溝部部分が負担できる摩擦力及び摩擦力度の例を表4に示す。本実施の形態では、支持層8に根入れされた部分が負担できる摩擦力度の上限は、0.76N/mm~1.52N/mmである。
【0035】
【表4】
【0036】
また、図4及び図5に示すように、溝部3の外周面積As1より、上下の溝部3,3間に挟まれた杭本体2の外周面積As2は大きく形成されている。すなわち、杭体コンクリートのせん断強度を安全側に考慮し、根固め材(モルタル)のせん断強度と同一とすると、杭本体2が溝部3での負担軸力に対して安全であるためには、杭本体2の外周面積As2が、溝部3の外周面積As1以上であれば、杭本体2のせん断抵抗面積が、溝部3内の根固め材のせん断抵抗面積より大となるので、杭本体2がせん断応力τで破損することはない。本実施の形態における各杭径Dと外周面積As1、外周面積As2及びそれらの比率つまり面積比の例を表5に示す。これらの例では、面積比は1.53~4.11であり、杭体1がせん断力で破損することがない。
【0037】
【表5】
【0038】
さらに、杭体1に極限鉛直荷重が作用するとき、溝部3に充填された根固め部6を介して溝部3の上部のコンクリート部分(溝部3の上部のテーパ部3aから、その溝部3の上部に並ぶ溝部3の下部のテーパ部3aに亘る部分(図4および図5に示すAs2の範囲))に作用する最大せん断力Pmaxは、溝部3のせん断強度τと溝部3の外周面積As1との積で求められる。このとき、溝部3の上部のコンクリート部分に発生するせん断応力度τmaxは、最大せん断力Pmaxを外周面積As2で除することで求められることから、溝部3のせん断強度τを外周面積As2と外周面積As1との面積比で除する(τmax=τ/(As2/As1))ことで求められる。このせん断応力度τmaxは、極限鉛直荷重作用時における最大値であり、短期許容軸力作用時においてもこれを超えるせん断応力度が杭体1に発生することはないことから、安全側として、溝部3の上部のコンクリート部分が必要な短期許容せん断応力度τa2を、このせん断応力度τmaxに設定する。
【0039】
また、国土交通省告示第1113第8第1項第五号より、溝部3の上部のコンクリート部分の長期許容せん断応力度τa1と短期許容せん断応力度τa2との比は1:1.5である。
【0040】
本実施の形態の表3に示す例における杭径300mmのものの条件に基づき、コンクリートの許容せん断応力度は、長期許容せん断応力度τa1が1.65N/mm以上、短期許容せん断応力度τa2が2.48N/mm以上のものを使用する。例えば、杭本体2に用いるコンクリートの設計基準強度(F)を105N/mmとし、国土交通省告示第1113第8第1項第5号より、溝部3の上部のコンクリート部分の許容せん断応力度(長期許容せん断応力度τc1、短期許容せん断応力度τc2)は、
τc1=1.2N/mm
τc2=1.8N/mm
となる。よって、溝部3の上部のコンクリート部分に作用する長期および短期のせん断力Qと溝部3の上部のコンクリート部分の許容せん断応力Qとを比較すると、
(長期)
Q=τa1・As1=1.65×56549=93306(N)
=τc1・As2=1.2×86821=104185(N)
(短期)
Q=τa2・As1=2.48×56549=140242(N)
=τc2・As2=1.8×86821=156277(N)
より、いずれもQ<Qとなる。したがって、上記の許容せん断応力度のコンクリートを使用することで、溝部3の上部のコンクリート部分が破損することがない。
【0041】
上記の検討を踏まえた本実施の形態での杭体1の例を図6乃至図9に示す。図6(a)は、杭径φ300mmの杭体1の例、図6(b)は、杭径φ350mmの杭体1の例、図6(c)は、杭径φ400mmの杭体1の例、図6(d)は、杭径φ450mmの杭体1の例を示す。図7(a)は、杭径φ500mmの杭体1の例、図7(b)は、杭径φ600mmの杭体1の例、図7(c)は、杭径φ700mmの杭体1の例を示す。図8(a)は、杭径φ800mmの杭体1の例、図8(b)は、杭径φ900mmの杭体1の例、図8(c)は、杭径φ1000mmの杭体1の例を示す。図9(a)は、杭径φ1100mmの杭体1の例、図9(b)は、杭径φ1200mmの杭体1の例を示す。
【0042】
これらの例に示されるように、溝部3は、杭体1毎に同一形状および寸法のものが複数設けられ、杭径Dに応じて個数が増減される。溝部3の溝幅は、溝部3内の根固め材(モルタル)のせん断強度を考慮して一定に設定し、また、溝部3の溝深さは、杭本体2の鉄筋までのかぶり量を考慮して一定に設定する。このように、溝部3の形状(寸法)を同一形状とすることで、杭製造(型枠)コストの低減を図る。
【0043】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0044】
本実施の形態の外掘り根固め工法では、まず、図10(a)に示すように、ストレート形状の杭孔5を掘削形成する。このとき、オーガ(掘削攪拌装置)10による掘削心を杭心に合わせ、水等を注入しながら必要に応じてオーガ10を上下反復し、支持地盤の根固め下端まで掘削する。
【0045】
次いで、図10(b)に示すように、杭孔5の支持層8部分に根固め液11を注入する。例えば根固め部下端にて根固め液11を所定注入量の半量から全量注入した後、オーガ10を上方区間内、例えば杭径Dに対し1.7倍の範囲で所定回数、例えば2回上下反復し、根固め液11を全量注入後、必要に応じて根固め部6全長でオーガ10を上下反復する。
【0046】
さらに、図10(c)に示すように、杭孔5にさらに杭周固定液12を注入する。このとき、例えば、注入範囲下端深度から上端深度まで杭周固定液12を注入しながらオーガ10を引き上げ、注入範囲で1回以上、オーガ10を上下反復する。その後、杭孔5からオーガ10を引き上げる。
【0047】
その後、図10(d)に示すように、杭体1を杭孔5に建て込み、所定深度に沈設する。
【0048】
そして、根固め液11および杭周固定液12を固化させて、図10(e)に示すように杭体1の外周に根固め部6および杭周固定部7を形成する。
【0049】
このように沈設された杭体1に対し、図1に示すように杭先端部(α算定位置9)に鉛直荷重が作用した場合、根固め部6内の杭周面と底面から根固め部6に伝達され、杭体1と根固め部6とが一体化して挙動し、根固め部6の底面から支持地盤に伝達される。
【0050】
このとき、根固め部6の底面の全断面積が有効に作用するには、根固め部6の外径Doと杭径Dとの比率(幅比)と、根固め部6の高さH1と杭径Dとの比率(高さ比)と、が関係する。本実施の形態の杭体1の例における幅比及び高さ比の例を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
本実施の形態では、幅比が標準で1.33であり、高さ比を1.20とすることで、根固め部6の底面の全断面積を有効に作用させることができる。
【0053】
また、溝部3により、杭本体2と根固め部6との一体性が確保される。
【0054】
そこで、杭本体2に鉛直荷重が作用したときに、杭本体2の支持層根入れ部分の外周面に設けられた溝部3にて一体化された根固め部6を介して、せん断力を支持層8に効果的に伝えることができる。
【0055】
溝部3の隅部にテーパ部3aを設けることで、杭挿入時に、溝部3の隅部に付着する土砂を少なくすることができるとともに、地中障害物から溝部3の隅部に作用する抵抗を小さくすることができ、溝部3の破壊を防止でき、さらに、テーパ部3aを設けることで、杭設置時の支圧面積を大きく取れるので、その分、支圧力すなわち負担応力度を小さくすることができるとともに、杭製造時の脱型による溝部3の破損を防止でき、脱型を容易にできる。
【0056】
杭径が変化しても溝部3の形状および寸法を変化させずに、その個数を増減することで、共通の溝部成形用の型枠を用いることができ、杭製造コストを低減できる。
【0057】
杭本体2のコンクリートの長期許容せん断応力度を1.65以上、短期許容せん断応力度を2.48以上とすることで、溝部3の上部のコンクリートがせん断力によって破損することを防止できる。
【0058】
溝部3,3間の杭本体2の外周面積が、溝部2の外周面積より大きく形成されたので、杭本体2の溝部3,3間のせん断抵抗面積が溝部3内に形成される根固め部6のせん断抵抗面積より大きくなり、杭本体2の溝部3,3間のせん断破壊を防止できる。
【0059】
根固め部外径Doが、杭径Dの1.33倍以上1.35倍以下であり、杭体1の先端部から下方の根固め部6の高さを杭径Dの1.2倍であるため、杭先端部に作用した鉛直荷重を、根固め部6の底面の全断面積を有効に作用させて支持地盤に伝達できる。
【0060】
次に、図11乃至図20を参照しながら、杭先端部の溝部3のせん断試験について説明する。
【0061】
(1) 試験目的
杭先端部における荷重伝達は、杭体1を介して杭内面及び杭外面からの付着力さらに杭下端面の支圧力で根固め部6に伝達される。ここで、根固め部6と杭外周面の付着強度を増加させる目的で、杭先端外周面に溝部3を配置して杭体1と根固め部6との付着強度調査をする。
【0062】
(2) 試験概要
(a) 実施内容
試験体は、杭本体2の外径φ200mm、長さ300mmを基本に、外周面に根固め部6を形成し、押抜き試験を行なった。試験体は、溝部3を2つとし、溝部3の形状を深さ3mm、7mmの2種類に設定し、これに溝部3を有さないストレート形状の試験体を加えた、合計3種類のコンクリート試験体で実施した。
【0063】
(b)試験体の種類
溝部3と根固め部6との付着強度調査の試験体A,B,Cを表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
(3) 試験体の製作
(a)付着強度調査の試験体
試験体の断面形状は、図11に示す溝部を有さないモルタル試験体A-1,A-2と、図12に示す2つの溝部3を有する溝深さ3mmの試験体B-1,B-2と、図13に示す2つの溝部3を有する溝深さ7mmの試験体C-1,C-2とを製作する。
【0066】
(b)試験体の製作
杭体1の型枠 ;遠心供試体用(φ200mm~300mm)
根固め部6型枠 ;塩ビ管(内径φ286mm~250mm、厚さ16.2mm)
杭体1のコンクリート配合;圧縮強度がσ=105N/mmの配合
根固め部6のモルタル配合;表8
【0067】
【表8】
【0068】
養生方法は、気中養生とした。製作時に強度調査用の供試体(φ50mm~100mm)を各3体ずつ製作し、せん断試験の同日に強度確認を行った。
【0069】
(4) 試験方法
試験方法は、図14に示すように、受圧治具15と加圧治具16との間に試験体を挟んで加圧する押抜き試験方法を採用した。
【0070】
試験機 ;500tアムスラ
変位量測定器 ;高感度変位計(ストローク50mm)
載荷方法 ;連続載荷
測定項目 ;荷重、くい頭変位量
(5) 付着試験の試験結果のまとめ
試験結果を表9に示す。また、付着強度と変位量の関係を、図15乃至図20に示す。
【0071】
【表9】
【0072】
(a)溝がない試験体A-1,A-2は、直線的な変位で破壊に至る。溝付きの試験体B-1,B-2,C-1,C-2は、直線的な変位後に荷重が一時的に低下するが、変位が進むと再度荷重が上がり最大値を示した。
【0073】
(b)根固め部6に対する杭外周面の付着強度は、溝部3がない試験体A-1,A-2のモルタル供試体平均圧縮強度12.08N/mmの場合、平均付着強度が0.77N/mmであった。また、溝深さが3mmの試験体B-1,B-2のモルタル供試体平均圧縮強度12.33N/mmの場合、平均付着強度が2.06N/mmであり、溝深さが7mmの試験体C-1,C-2のモルタル供試体平均圧縮強度12.35N/mmの場合、平均付着強度が2.01N/mmであり、溝深さによる大きな付着強度の差異は確認されなかった。
【0074】
(6) 根固め部6内の杭周面摩擦力度(τft)と根固め部圧縮強度(σ)との関係について
上記の付着試験結果より、根固め部6内の杭周面摩擦力度(τft)と根固め部圧縮強度(σ)との関係を算定する。
【0075】
溝部3の負担せん断力は、溝部3を除く範囲の付着面積での付着力を試験荷重から差し引いて求める。この溝部3を除く範囲の表面積における算定は、溝部3のない試験体Aにおける試験結果からの平均付着強度を採用して求める。よって、溝部3範囲のせん断応力度(τ)は、この負担せん断力を溝部3の表面積で除して求めるものとする。算定式は下式となる。
【0076】
τ=P-(L0-L1)×π×D×τst/(π×D×L1)
ここで、Pは試験荷重(kN)、Dは杭径(mm)、L0は根固め部6と接する長さ(mm)、L1は溝部3の長さ(mm)、τstは溝部面積を除くせん断応力度(N/mm)である。なお、試験体A-1,A-2の平均せん断応力度τst=0.77N/mmである。
【0077】
実験結果による溝部3が負担するせん断応力度は、溝深さ3mmの試験体B-1,B-2では3.70N/mm、3.20N/mm、溝深さ7mmの試験体C-1,C-2では、3.72N/mm、2.98N/mmであり、溝部3のせん断応力度の平均値(τ)は3.40N/mmとなる。
【0078】
また、供試体モルタル強度の平均値は12.25N/mmであるから、α算定位置9(杭先端部より上方1.5D)以深の根固め部6内の杭周摩擦力度(τft)と根固め部圧縮強度(σ)との関係は、表10及び表11で表され、τft/σの最大値は0.120、最小値は0.091となった。
【0079】
【表10】
【0080】
【表11】
【符号の説明】
【0081】
1 杭体
2 杭本体
3 溝部
3a テーパ部
5 杭孔
6 根固め部
7 杭周固定部
8 支持層
11 根固め液
12 杭周固定液
D 杭径
Do 外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20