(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174624
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両進行方向検出装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241210BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241210BHJP
B62D 103/00 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D103:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092540
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立入 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 皓俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC12
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA92
3D232DA93
3D232DB20
3D232DC01
3D232DD02
3D232EA04
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】独立転舵車両における、車両前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出する車両進行方向検出装置を提供する。
【解決手段】各タイヤが独立して転舵可能な車両において、制駆動アクチュエータ81-84が出力した各タイヤの制駆動力により加速度が発生する。第1加速度センサ35及び第2加速度センサ36は、路面に平行な平面において互いに交差する第1軸及び第2軸の加速度をそれぞれ検出する。車両進行方向検出装置20の走行指示部25は、転舵アクチュエータ71-74に対する目標タイヤ角δ
*1-δ
*4、及び、制駆動アクチュエータ81-84に対する目標制駆動力BD
*1-BD
*4を指示する。斜め移動角度算出部26は、車両の制駆動時に、第1加速度センサ35から取得した第1軸の加速度αx、及び、第2加速度センサ36から取得した第2軸の加速度αyに基づき、車両の前後軸に対する進行方向の角度である斜め移動角度θを算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三輪以上のタイヤ(91-94)を備え、各タイヤに対応する転舵アクチュエータ(71-74)が出力した転舵トルクにより各タイヤが独立して転舵可能であり、且つ、一つ以上の制駆動アクチュエータ(81-84、85-86、87)が出力した各タイヤの制駆動力が路面に伝わることにより加速度が発生し、路面に平行な平面において互いに交差する第1軸及び第2軸の加速度をそれぞれ検出する第1加速度センサ(35)及び第2加速度センサ(36)を備えた車両(100、105、107)において、車両の前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出する車両進行方向検出装置であって、
前記転舵アクチュエータに対する目標タイヤ角(δ*1-δ*4)、及び、前記制駆動アクチュエータに対する前記目標制駆動力(BD*1-BD*4)を指示する走行指示部(25)と、
車両の制駆動時に、前記第1加速度センサから取得した前記第1軸の加速度(αx)、及び、前記第2加速度センサから取得した前記第2軸の加速度(αy)に基づき、車両の前後軸に対する進行方向の角度である斜め移動角度(θ)を算出する斜め移動角度算出部(26)と、
を有する車両進行方向検出装置。
【請求項2】
タイヤ角センサ(671-674)が検出した各タイヤの検出タイヤ角(δs1-δs4)を取得し、前記斜め移動角度算出部が算出した前記斜め移動角度に応じて前記目標タイヤ角を補正した補正後の目標タイヤ角(δ**1-δ**4)を前記転舵アクチュエータに指示する目標タイヤ角補正部(27)をさらに有する請求項1に記載の車両進行方向検出装置。
【請求項3】
車両速度を検出する車両速度検出装置(40)、及び、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出装置(45)を備えた車両に搭載され、
前記斜め移動角度算出部は、前記車両速度検出装置から取得した車両速度、及び、前記ヨーレート検出装置から取得したヨーレートを用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する請求項1または2に記載の車両進行方向検出装置。
【請求項4】
道路勾配角度を検出する道路勾配角度検出装置(50)を備えた車両に搭載され、
前記斜め移動角度算出部は、前記道路勾配角度検出装置から取得した道路勾配角度(ψs、ψf)を用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する請求項1または2に記載の車両進行方向検出装置。
【請求項5】
路面に直交する第3軸の加速度を検出する第3加速度センサ(37)を備えた車両に搭載され、
前記斜め移動角度算出部は、前記第3加速度センサから取得した前記第3軸の加速度(αz)に基づき推定した道路勾配角度(ψs、ψf)を用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する請求項1または2に記載の車両進行方向検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両進行方向検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のすべり角を検出する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された車両のすべり角検出装置は、センサ部に設けられた角速度(ジャイロ)センサ及び加速度センサを用いて車両のすべり角を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、一般的な車両における直進又は旋回の検出は可能であるが、独立転舵車両に特有の、車両前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出することはできない。なお、本明細書において「車両」とは、公道の走行に関する法律上の区分にかかわらず、技術的視点から、車輪により地上を走行可能な移動体全般を含む。例えばグリーンスローモビリティやAGV(無人搬送車)等も「車両」に含まれる。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、独立転舵車両における、車両前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出する車両進行方向検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両進行方向検出装置が適用される車両(100、105、107)は、三輪以上のタイヤ(91-94)を備え、各タイヤに対応する転舵アクチュエータ(71-74)が出力した転舵トルクにより各タイヤが独立して転舵可能である。また、一つ以上の制駆動アクチュエータ(81-84、85-86、87)が出力した各タイヤの制駆動力が路面に伝わることにより加速度が発生する。「加速度」には、制動による減速時における負の加速度が含まれる。
【0008】
この車両は、路面に平行な平面において互いに交差する第1軸及び第2軸の加速度をそれぞれ検出する第1加速度センサ(35)及び第2加速度センサ(36)を備えている。車両進行方向検出装置は、車両の前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出する。
【0009】
車両進行方向検出装置は、走行指示部(25)と、斜め移動角度算出部(26)と、を有する。走行指示部は、転舵アクチュエータに対する目標タイヤ角(δ*1-δ*4)、及び、制駆動アクチュエータに対する目標制駆動力(BD*1-BD*4)を指示する。
【0010】
斜め移動角度算出部は、車両の制駆動時に、第1加速度センサから取得した第1軸の加速度(αx)、及び、第2加速度センサから取得した第2軸の加速度(αy)に基づき、車両の前後軸に対する進行方向の角度である斜め移動角度(θ)を算出する。
【0011】
本発明の車両進行方向検出装置は、独立転舵車両において、制駆動時に検出された二軸の加速度を用いて、斜め移動の進行方向を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の車両進行方向検出装置が搭載された車両のブロック図。
【
図2】独立転舵車両での(a)斜め移動、(b)横移動を示す図。
【
図3】第1実施形態の車両進行方向検出装置のブロック図。
【
図4】直進走行時及び斜め走行時において加速したときに発生する加速度を説明する図。
【
図5】車両速度、X軸加速度、Y軸加速度、斜め移動角度の関係を示す図。
【
図6】車両進行方向検出装置による処理を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態の車両進行方向検出装置のブロック図。
【
図9】第3実施形態の車両進行方向検出装置のブロック図。
【
図10】第4実施形態の車両進行方向検出装置のブロック図。
【
図11】横断勾配による加速度への影響を説明する車両背面視の図。
【
図12】縦断勾配による加速度への影響を説明する車両側面視の図。
【
図13】その他の実施形態での制駆動アクチュエータの配置構成を示す図。
【
図14】その他の実施形態での制駆動アクチュエータの構成構成を示す図。
【
図15】その他の実施形態での第1軸及び第2軸の設定例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
車両進行方向検出装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。以下の第1~第4実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の車両進行方向検出装置は、三輪以上のタイヤが独立して転舵可能な独立転舵車両、典型的には四輪独立転舵車両において、車両の前後軸に対する斜め移動の進行方向を検出する装置である。
【0014】
(第1実施形態)
図1を参照し、第1実施形態の車両進行方向検出装置20が搭載される独立転舵車両100の構成について説明する。
図1に示す車両100は、四輪のタイヤ91-94を備え、各タイヤ91-94が独立して転舵可能であり、且つ、独立して制駆動可能である。左前輪91に「FL」、右前輪92に「FR」、左後輪93に「RL」、右後輪94に「RR」と記す。以下の各要素の符号及び各記号における末尾の数字「1」-「4」は、それぞれ、FL、FR、RL、RRのタイヤ91-94に対応する。
【0015】
車両100には、各タイヤ91-94に対応して、転舵アクチュエータ71-74、制駆動アクチュエータ81-84、及び、実際のタイヤ角(以下「実タイヤ角」)を検出するタイヤ角センサ671-674が備えられている。図中、「アクチュエータ」を「Act」と記す。タイヤ角は、車両前後軸に平行な中立位置が0であり、例えば反時計回り方向を正、中立位置から時計回り方向を負として表される。
【0016】
例えば転舵アクチュエータ71-74は、巻線が巻回されたステータ及びロータを含む三相ブラスレスモータ等のモータ部と、巻線に通電される駆動電流を制御するモータ駆動装置とが一体に構成されている。転舵アクチュエータ71-74が出力した転舵トルクTst1-Tst4により各タイヤ91-94が独立して転舵可能である。
【0017】
例えば制駆動アクチュエータ81-84は、制動アクチュエータとしての電動ブレーキと、駆動アクチュエータとしてのインホイールモータとのセットで構成されている。制駆動アクチュエータ81-84が出力した各タイヤ91-94の制駆動力が路面に伝わることにより加速度が発生する。以下、「加速度」には、駆動による加速時における正の加速度に加え、制動による減速時における負の加速度が含まれる。
【0018】
タイヤ角センサ671-674は、実タイヤ角を直接検出するエンコーダ等で構成されてもよい。或いは、転舵アクチュエータ71-74の駆動電流とタイヤ角とに相関関係がある場合、電流センサが検出した転舵アクチュエータ71-74の駆動電流を、電流-トルク特性やトルク伝達係数に基づき検出タイヤ角δs1-δs4に換算してもよい。その場合、電流センサがタイヤ角センサ671-674として機能すると見做される。
【0019】
ここで、路面に平行な平面において互いに交差する「第1軸」及び「第2軸」を定義する。本実施形態では、車両100の前後軸(縦軸)であるX軸を第1軸とし、車両100の左右軸(横軸)であるY軸を第2軸とする。したがって本実施形態では、第1軸と第2軸とは互いに直交する。車両100は、「第1軸の加速度」であるX軸加速度αxを検出する第1加速度センサ35、及び、「第2軸の加速度」であるY軸加速度αyを検出する第2加速度センサ36を備えている。
【0020】
車両進行方向検出装置20は、運転者によるハンドル操作や自動運転車両の操舵信号による移動方向指示値が入力される。車両進行方向検出装置20は、移動方向指示値に基づき、転舵アクチュエータ71-74に対する目標タイヤ角δ*1-δ*4、及び、制駆動アクチュエータ81-84に対する目標制駆動力BD*1-BD*4を指示する。
【0021】
車両進行方向検出装置20は、車両100の制駆動時(すなわち駆動時又は制動時)に、加速度センサ35、36から取得した二軸の加速度αx、αyに基づき、車両100の前後軸に対する進行方向の角度である「斜め移動角度」を算出する。
【0022】
また車両進行方向検出装置20は、タイヤ角センサ671-674が検出した各タイヤ91-94の検出タイヤ角δs1-δs4を取得する。車両進行方向検出装置20は、斜め移動角度と検出タイヤ角δs1-δs4とから目標タイヤ角δ*1-δ*4を補正し、補正後の目標タイヤ角δ**1-δ**4を転舵アクチュエータ71-74に指示する。
【0023】
次に、車両進行方向検出装置20の詳細な構成を説明する前に、独立転舵車両100において斜め移動の進行方向を検出することの意義を説明する。従来、一般的な車両は左右対のタイヤがリンクを介して機械的に結合されており、ステアリングの操舵によってタイヤが転舵する。今後、ステアリングと左右対タイヤのリンクとが機械的に分離したステアバイワイヤや、左右前輪に加え、左右後輪も独立して転舵可能な四輪独立転舵車両に発展していくと考えられる。
【0024】
四輪独立転舵車両では、
図2(a)に示す斜め移動や、
図2(b)に示す横移動が可能である。斜め移動では、全てのタイヤ91-94が絶対値90deg未満の同じタイヤ角に転舵される。横移動では、全てのタイヤ91-94が絶対値90degに転舵される。例えば斜め移動は走行レーンの変更等に有効であり、横移動は縦列駐車等に有効である。以下の図で、独立転舵車両100の前側を流線形に図示する。車両の「前/後」及び「重心」の文字は
図2(a)のみに記載し、以後の図では省略する。
【0025】
独立転舵車両において斜め移動や横移動の走行を適切に行うためには、タイヤ角センサ671-674により実タイヤ角を正しく検出し、目標タイヤ角δ*1-δ*4に対してフィードバック制御する必要がある。しかし、タイヤ角センサ671-674の取り付け不良や転舵アクチュエータ71-74の調整不良により、検出タイヤ角δs1-δs4と実タイヤ角とが乖離する可能性がある。すると、直進走行しているつもりでも斜め移動したり、斜め移動の進行方向が意図した方向からずれたりする可能性がある。また、車両全体の平均的なタイヤ角に対し一部のタイヤ角がずれていると、走行ロスが増えたり、ヨー旋回等の不要な車両挙動が発生したりする。
【0026】
そこで本実施形態では、独立転舵車両100においてタイヤ角センサ671-674の検出誤差がある場合でも、車両前後軸に対する斜め移動の進行方向を正しく検出できるようにすることを目的とする。そのために本実施形態の車両進行方向検出装置20は、車両100が加速又は減速する制駆動時に、二軸の加速度センサ35、36が検出したX軸加速度αx及びY軸加速度αyに基づき、斜め移動の角度を算出する。
【0027】
図3~
図6を参照し、車両進行方向検出装置20の構成及び作用について説明する。
図3に示すように、第1実施形態の車両進行方向検出装置20は、走行指示部25、斜め移動角度算出部26、及び、オプション構成として目標タイヤ角補正部27を有する。第2~第4実施形態も車両進行方向検出装置20の基本的な構成は第1実施形態と同じであるが、他の付加装置をさらに備えた車両100に搭載され、付加装置から取得した情報を用いた処理が追加される。
【0028】
走行指示部25は、入力された移動方向指示値に基づき、転舵アクチュエータ71-74に対する目標タイヤ角δ*1-δ*4、及び、制駆動アクチュエータ81-84に対する目標制駆動力BD*1-BD*4を指示する。また走行指示部25は、斜め移動角度算出部26に、走行角度及び加減速の指示情報を通知する。目標タイヤ角δ*1-δ*4が走行角度の指示情報に反映され、目標制駆動力BD*1-BD*4が加減速の指示情報に反映される。
【0029】
斜め移動角度算出部26は、走行指示部25からの加減速指示情報により車両100の制駆動時であることを認識する。斜め移動角度算出部26は、車両100の制駆動時に、第1加速度センサ35からX軸加速度αxを取得し、第2加速度センサ36からY軸加速度αyを取得する。斜め移動角度算出部26は、取得した二軸の加速度αx、αyに基づき、斜め移動角度θを算出する。
【0030】
図4、
図5を参照し、直進走行時及び斜め走行時において加速したときに発生する加速度αx、αy、及び、斜め移動角度θの算出について説明する。車両加速度αは、X軸及びY軸を含むXY平面における車両進行方向の加速度である。X軸及びY軸の正負の設定に関し、X軸については前進方向を正として示す。一方、Y軸について右方向又は左方向のいずれを正とするかは、適宜選択してよいものとする。負方向の加速度を負の値で表すと減速動作と誤解されるおそれがあるため、都度、Y軸加速度αyが発生するY軸の方向を正方向と見做し、「αy≧0」として説明する。
【0031】
図4の上側に示す直進走行時に加速した場合、車両加速度αとX軸加速度αxとは、式(1.1)のように同じ値となる。斜め移動角度θは式(1.2)で算出される通り、0[m/s
2]となる。
【0032】
α=αx ・・・(1.1)
θ=cos-1(αx/α)=0 ・・・(1.2)
【0033】
このように、第1軸又は第2軸のうちの一軸が車両進行方向の加速度である場合、車両駆動トルクと質量との関係式や、車輪回転数の時間微分から加速度が算出されてもよい。
【0034】
一方、
図4の下側に示す斜め走行時に加速した場合、車両加速度αは式(1.3)で算出され、斜め移動角度θは式(1.4)で算出される。したがって、加速度センサ35、36により検出された二軸の加速度αx、αyに基づき、斜め移動角度θを算出し、直進走行であるか斜め走行であるかを判別可能である。
【0035】
α=√(αx2+αy2) ・・・(1.3)
θ=cos-1(αx/α) ・・・(1.4)
【0036】
図5において、破線は直進走行時、実線は斜め走行時に一定の車両加速度αで加速したときの、車両速度V、X軸加速度αx、Y軸加速度αy、及び、式(1.4)による斜め移動角度θのCAE解析結果を示す。車両加速度αは共通に1[m/s
2]であり、斜め走行時の走行角度指示値は5[deg]である。
【0037】
直進走行時に1[m/s2]の車両加速度αで加速した場合、X軸加速度αxは1[m/s2]、Y軸加速度αyは0[m/s2]である。一方、斜め走行時に1[m/s2]の車両加速度αで加速した場合、X軸加速度αxは0.996[m/s2]、Y軸加速度αyは0.09[m/s2]となる。式(1.4)により算出される斜め移動角度θは、走行角度指示値に等しく5[deg]となる。
【0038】
目標タイヤ角補正部27は、斜め移動角度算出部26が算出した斜め移動角度θを記憶する。また目標タイヤ角補正部27は、タイヤ角センサ671-674が検出した各タイヤ91-94の検出タイヤ角δs1-δs4を取得し、斜め移動角度θとのずれ(偏差)を算出する。目標タイヤ角補正部27は、斜め移動角度θと検出タイヤ角δs1-δs4とのずれに応じて、各タイヤ91-94の目標タイヤ角δ*1-δ*4を補正した補正後目標タイヤ角δ**1-δ**4を算出する。そして目標タイヤ角補正部27は、補正後目標タイヤ角δ**1-δ**4を転舵アクチュエータ71-74に指示する。このように、検出タイヤ角δs1-δs4のフィードバック制御により目標タイヤ角δ**1-δ**4が補正される。
【0039】
図6のフローチャートに、車両進行方向検出装置20による処理を示す。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。この処理は、車両100の走行開始から停止までの走行中、繰り返し実施される。
【0040】
S1で走行指示部25は、移動方向指示値に基づき、転舵アクチュエータ71-74に対する目標タイヤ角δ*1-δ*4、及び、制駆動アクチュエータ81-84に対する目標制駆動力BD*1-BD*4を指示する。S2では、転舵アクチュエータ71-74及び制駆動アクチュエータ81-84の動作に従って、指示された移動方向に車両100が走行する。
【0041】
S3では、走行指示部25からの目標制駆動力BD*1-BD*4による加減速指示の出力中であるか、すなわち、現在、制駆動時であるか判断される。加減速指示が出力されておらず、一定速度で走行中の場合、S3でNOと判断され、ルーチンは終了する。駆動による加速指示、又は、制動による減速指示が出力されている場合、S3でYESと判断され、S4に移行する。
【0042】
S4で斜め移動角度算出部26は、第1加速度センサ35からX軸加速度αxを取得し、第2加速度センサ36からY軸加速度αyを取得する。S5で斜め移動角度算出部26は、取得したX軸加速度αx及びY軸加速度αyに基づき、斜め移動角度θを算出する。
【0043】
S6で目標タイヤ角補正部27は、各タイヤ91-94の検出タイヤ角δs1-δs4を取得する。S7で目標タイヤ角補正部27は、斜め移動角度算出部26が算出した斜め移動角度θと検出タイヤ角δs1-δs4とのずれに応じて、各タイヤ91-94の目標タイヤ角δ*1-δ*4を補正した補正後目標タイヤ角δ**1-δ**4を算出する。S8で目標タイヤ角補正部27は、補正後目標タイヤ角δ**1-δ**4を転舵アクチュエータ71-74に指示する。
【0044】
以上のように車両進行方向検出装置20は、独立転舵車両100において、制駆動時に検出された二軸の加速度αx、αyを用いて斜め移動角度θを算出する。例えばタイヤ角センサ671-674の取り付け不良等により検出タイヤ角δs1-δs4が実タイヤ角とずれている場合であっても、斜め移動の進行方向を検出することができる。これにより、車両100の進行方向が意図した方向であるか否かを判定することができる。
【0045】
また、算出した斜め移動角度θを用いて目標タイヤ角δ*1-δ*4を補正し、転舵アクチュエータ71-74に指示することで、転舵アクチュエータ71-74のアライメントを機械的に調整することなく、車両100を意図した方向に移動させることができる。
【0046】
(第2実施形態)
図7、
図8を参照し、第2実施形態について説明する。
図7に示すように、車両進行方向検出装置20は、車両速度Vを検出する車両速度検出装置40、及び、車両のヨーレートγを検出するヨーレート検出装置45を備えた車両に搭載される。斜め移動角度算出部26は、車両速度検出装置40から取得した車両速度V、及び、ヨーレート検出装置45から取得したヨーレートγを用いて、X軸加速度αx及びY軸加速度αyを補正する。具体的には主にY軸加速度αyが補正される。
【0047】
図8に示す例では、右後輪94以外のタイヤ角δ1、δ2、δ3は右方向に同等に転舵されており、右後輪94のタイヤ角δ4のみ右方向に過剰に転舵されている。この場合、車両100は斜め移動しつつ、反時計回り方向に旋回する。このように車両全体の平均的なタイヤ角に対し一部のタイヤ角がずれていると旋回(ヨー運動)が発生し、その旋回による加速度αyawによって斜め移動角度θの誤差が生じる。
【0048】
図8において、ヨーレートγ(rad/s)は、車両速度V(m/s)及び旋回半径R(m)を用いて式(2.1)で表される。旋回による加速度αyaw(m/s
2)は、車両速度V(m/s)及びヨーレートγ(rad/s)を用いて式(2.2)で表される。例えば車両速度V=22.2m/s、旋回半径R=1000m、ヨーレートγ=0.022(rad/s)のとき、発生する加速度αyawは、0.49m/s
2となる。
【0049】
γ=V/R ・・・(2.1)
αyaw=Vγ=V2/R ・・・(2.2)
【0050】
第2実施形態では、車両速度V及びヨーレートγを用いて旋回による加速度αyawを算出し、加速度センサ35、36が検出した加速度αx、αyから旋回による加速度誤差を取り除く補正をすることで、斜め移動角度θの精度を高めることができる。
【0051】
(第3、第4実施形態)
図9~
図12を参照し、第3、第4実施形態について説明する。車両100が走行している道路が傾斜している場合、加速度センサ35、36で検出されるX軸加速度αx及びY軸加速度αyに、道路勾配により発生する加速度の成分が含まれるため、斜め移動角度θの誤差となる。
【0052】
そこで第3、第4実施形態では、斜め移動角度算出部26が道路勾配角度を用いてX軸加速度αx及びY軸加速度αyを補正する。つまり、加速度センサ35、36が検出した加速度αx、αyから道路勾配に起因する加速度の誤差を取り除く補正をすることで、斜め移動角度θの精度を高めることができる。第3、第4実施形態は、車両速度V及びヨーレートγを用いて加速度αx、αyを補正する第2実施形態と組み合わされてもよい。
【0053】
第3実施形態と第4実施形態とでは、斜め移動角度算出部26による道路勾配角度の取得の仕方が異なる。
図9に示す第3実施形態では、車両進行方向検出装置20は、道路勾配角度を検出する道路勾配角度検出装置50を備えた車両に搭載される。例えば道路勾配角度検出装置50は、路面勾配情報のある地図情報と座標検出センサ(GPS)とを用いて道路勾配角度を検出する。
【0054】
車両背面視の
図11において、車両100の前後軸に直交する断面での勾配角度を横断勾配角度ψsと表す。横断勾配による加速度αsは、重力加速度g(≒9.8m/s
2)を用いて式(3.1)で表される。例えば横断勾配角度ψsが1.17degのとき、横断勾配による加速度αsは0.2m/s
2となる。
【0055】
αs=g・sinψs ・・・(3.1)
【0056】
同様に車両側面視の
図12において、車両100の前後軸に沿った断面での勾配角度を縦断勾配角度ψfと表す。縦断勾配による加速度αfは、重力加速度gを用いて式(3.2)で表される。例えば縦断勾配角度ψfが6.84deg(勾配12%)のとき、縦断勾配による加速度αfは1.17m/s
2となる。
【0057】
αf=g・sinψf ・・・(3.2)
【0058】
斜め移動角度算出部26は、道路勾配角度検出装置50から取得した道路勾配角度ψs、ψfを用いて、道路勾配に起因する加速度の誤差を取り除くように、X軸加速度αx及びY軸加速度αyを補正する。
【0059】
図10に示す第4実施形態では、車両進行方向検出装置20は、路面に直交する第3軸の加速度を検出する第3加速度センサ37を備えた車両に搭載される。第3軸は、路面に平行な平面上の第1軸及び第2軸、すなわち、本実施形態におけるX軸及びY軸に直交する。第4実施形態では第3軸をZ軸、第3軸の加速度をZ軸加速度αzと表す。
【0060】
図11において「αz=g・cosψs」であり、「ψs=cos
-1(αz/g)」で算出されるため、式(3.1)を用いて横断勾配による加速度αsが算出される。或いは、式(4)により、Z軸加速度αzから横断勾配による加速度αsが算出されてもよい。
図12における縦断勾配による加速度αfの算出についても同様である。
【0061】
αs=√(g2-αz2) ・・・(4)
【0062】
斜め移動角度算出部26は、第3加速度センサ37から取得したZ軸加速度αzに基づき推定した道路勾配角度ψs、ψfを用いて、X軸加速度αx及びY軸加速度αyを補正する。
【0063】
(その他の実施形態)
(a)制駆動アクチュエータは、各タイヤ91-94に出力した制駆動力が路面に伝わることにより車両100に加速度を発生されるものであればよく、各タイヤ91-94に個別に設けられなくてもよい。つまり、各タイヤ91-94は独立転舵されるが、独立制駆動されなくてもよい。
【0064】
図13に示す独立転舵車両105は、左右前輪のタイヤ91、92に共通の制駆動力を出力する前輪制駆動アクチュエータ85、及び、左右後輪のタイヤ93、94に共通の制駆動力を出力する後輪制駆動アクチュエータ86を備えている。
図14に示す独立転舵車両107は、四輪全てのタイヤ91-94に共通の制駆動力を出力する四輪制駆動アクチュエータ87を備えている。例えば主機モータやエンジンは四輪の駆動アクチュエータに相当し、四輪にブレーキ油圧を分配する油圧発生装置は四輪の制動アクチュエータに相当する。
【0065】
これらの車両105、107にも車両進行方向検出装置20は同様に適用される。車両105に適用される場合、目標制駆動力BD*1とBD*2とが同じ値となり、目標制駆動力BD*3とBD*4とが同じ値となる。車両107に適用される場合、目標制駆動力BD*1-BD*4が同じ値となる。
【0066】
さらに、制動用のブレーキと駆動用のモータとは必ずしもセットで設けられなくてもよい。例えば制動用の電動ブレーキは各タイヤ個別に四つ設けられ、駆動用のモータは左右前輪用と左右後輪用との二つが設けられてもよい。
【0067】
(b)加速度検出装置により加速度が検出される「路面に平行な平面において互いに交差する第1軸及び第2軸」は、互いに直交するX軸及びY軸に限らない。
図15に示すように、第1軸及び第2軸として、非直交軸であるp軸及びq軸が設定されてもよい。p軸加速度αpとq軸加速度αqとの合成ベクトルである車両加速度αの位相が斜め移動角度θとして算出される。
【0068】
(c)斜め移動角度算出部26が算出した斜め移動角度θに基づき車両100の進行方向を補正するニーズがない場合、車両進行方向検出装置20は目標タイヤ角補正部27を備えなくてもよい。
【0069】
(d)
図1では、車両進行方向検出装置20は、転舵アクチュエータ71-74の上位の制御装置として図示されている。この構成に限らず、車両進行方向検出装置20と、各転舵アクチュエータ71-74の駆動装置とが一体に機能するようにしてもよい。例えば、四つの転舵アクチュエータ71-74の駆動装置が互いに情報通信することにより協調して車両進行方向検出装置20の機能を実現してもよい。
【0070】
(e)車両進行方向検出装置20が搭載される独立転舵車両は四輪車両に限らず、三輪車両や六輪車両等を含む「三輪以上のタイヤが独立して転舵可能な車両」であればよい。「車両」には、運転者によるハンドル操作や自動運転装置の操舵信号に従って公道を走行する車両以外に、特定の区域を低速で走行するグリーンスローモビリティやAGV(無人搬送車)等も含まれる。
【0071】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0072】
第2実施形態に対応する「車両速度を検出する車両速度検出装置(40)、及び、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出装置(45)を備えた車両に搭載され、前記斜め移動角度算出部は、前記車両速度検出装置から取得した車両速度、及び、前記ヨーレート検出装置から取得したヨーレートを用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する車両進行方向検出装置。」についての開示と、第3実施形態に対応する「道路勾配角度を検出する道路勾配角度検出装置(50)を備えた車両に搭載され、前記斜め移動角度算出部は、前記道路勾配角度検出装置から取得した道路勾配角度(ψs、ψf)を用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する車両進行方向検出装置。」についての開示とは組み合わされてもよい。
【0073】
第2実施形態に対応する「車両速度を検出する車両速度検出装置(40)、及び、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出装置(45)を備えた車両に搭載され、前記斜め移動角度算出部は、前記車両速度検出装置から取得した車両速度、及び、前記ヨーレート検出装置から取得したヨーレートを用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する車両進行方向検出装置。」についての開示と、第4実施形態に対応する「路面に直交する第3軸の加速度を検出する第3加速度センサ(37)を備えた車両に搭載され、前記斜め移動角度算出部は、前記第3加速度センサから取得した前記第3軸の加速度(αz)に基づき推定した道路勾配角度(ψs、ψf)を用いて、前記第1軸及び前記第2軸の加速度を補正する車両進行方向検出装置。」についての開示とは組み合わされてもよい。
【0074】
本開示に記載の各制御部(走行指示部、斜め移動角度算出部、目標タイヤ角補正部)及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の各制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の各制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0075】
20・・・車両進行方向検出装置、
25・・・走行指示部、
26・・・斜め移動角度算出部、 27・・・目標タイヤ角補正部、
35・・・第1加速度センサ、 36・・・第2加速度センサ、
71-74・・・転舵アクチュエータ、
81-84、85-86、87・・・制駆動アクチュエータ、
91-94・・・タイヤ、
100、105、107・・・(独立転舵)車両、
αx・・・X軸加速度(第1軸の加速度)、
αy・・・Y軸加速度(第2軸の加速度)。