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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174655
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】LiDAR送受信機
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20241210BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20241210BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20241210BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01S17/34
G01S17/931
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092593
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守口 智博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA10
2F112CA05
2F112CA12
2F112DA09
2F112DA15
2F112DA17
2F112DA21
2F112DA25
2F112DA28
2F112DA32
2F112EA20
2F112GA01
5J084AA04
5J084AA05
5J084AA07
5J084AB01
5J084AB07
5J084AC02
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA38
5J084BA49
5J084BA50
5J084BA51
5J084BB01
5J084BB15
5J084BB16
5J084BB26
5J084BB28
5J084CA08
(57)【要約】
【課題】FMCW-LiDARにおいて光源と光検出器を分離する技術において、光学系の構成が複雑化するのを抑制しつつIQ信号を取得できるようにする。
【解決手段】LiDAR送受信機は、光源1と、波長板23と、偏光ビームスプリッタ22と、第1光検出器3aと、第2光検出器3bと、を備えると共に、コート24を備える。コート24は、出射光Lpの経路における偏光ビームスプリッタ22とターゲットTRの間に配置され、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第1位相差と、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第2位相差とを異ならせるようなターゲット反射光Ltrまたは参照光Lrの進行方向に沿った厚みを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準波長の光に対して周波数変調された出射光(Lp)を出射する光源(1)と、
前記出射光を、前記出射光の経路に沿って前記光源からターゲット(TG)に向かう側である第1の側に通過させることで偏光方向を変化させ、前記出射光の一部が前記ターゲットで反射した後のターゲット反射光(Ltr)と前記出射光の他の一部が前記ターゲットに当たる前に反射した後の参照光(Lr)とを含む干渉光(Lb)を、前記第1の側とは反対の第2の側に通過させることで前記干渉光(Lb)の偏光方向を変化させる波長板(23)と、
前記出射光の経路における前記光源と前記波長板の間に配置され、前記出射光の偏光状態に従って前記出射光を前記波長板に出射すると共に、前記干渉光の偏光状態に従って前記干渉光を前記光源に戻る向きとは異なる向きに出す偏光ビームスプリッタ(22)と、
前記干渉光に含まれる第1ビームを、前記第1ビームが前記偏光ビームスプリッタから出た後で検出する第1光検出器(3a)と、
前記干渉光に含まれる第2ビームを、前記第2ビームが前記偏光ビームスプリッタから出た後で検出する第2光検出器(3b)と、を備え、
前記第1ビームと前記第2ビームは、互いにずれた位置を並進し、
当該LiDAR送受信機は、前記出射光の経路における前記偏光ビームスプリッタと前記ターゲットの間に配置され、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記参照光との位相差である第1位相差と、前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光と前記参照光との位相差である第2位相差とを異ならせるような前記ターゲット反射光または前記参照光の進行方向に沿った厚みを有する厚み形成部品(23、24、25、30)を含む、LiDAR送受信機。
【請求項2】
前記参照光が前記厚み形成部品を透過する際に前記参照光のうち前記第1ビームを構成する部分と前記第2ビームを構成する部分との間に光路長の差が生じること、および前記ターゲット反射光が前記厚み形成部品を透過する際に前記ターゲット反射光のうち前記第1ビームを構成する部分と前記第2ビームを構成する部分との間に光路長の差が生じることの、いずれか一方または両方が実現するよう、前記厚み形成部品の前記厚みが構成されている、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項3】
前記厚み形成部品は、前記波長板の前記第1の側の面に取り付けられたコート(24)を含み、
前記コートの前記第1の側の面において前記出射光の前記他の一部が反射することで前記参照光が生じ、
前記第1ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記コートの厚みと前記第2ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記コートの厚みとが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項4】
前記厚み形成部品は前記波長板を含み、
前記波長板の前記第1の側の面において前記出射光の前記他の一部が反射することで前記参照光が生じ、
前記第1ビームを構成する前記参照光が前記波長板を通るときの光路長と前記第2ビームを構成する前記参照光が前記波長板を通るときの光路長とが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項5】
前記波長板は、板状の基材(231)と、前記基材の前記第2の側の面に形成されて通過する光を複屈折させる複屈折部(232)と、を有し、
前記基材の前記第1の側の面において前記出射光の前記他の一部が反射することで前記参照光が生じ、
前記第1ビームを構成する前記参照光が前記基材を通るときの光路長と前記第2ビームを構成する前記参照光が前記基材を通るときの光路長とが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項4に記載のLiDAR送受信機。
【請求項6】
前記厚み形成部品は、前記波長板と空間を隔てて前記波長板の前記第1の側に設けられる表面反射光学素子(30、24)を含み、
前記表面反射光学素子の前記第1の側の面において前記出射光の前記他の一部が反射することで前記参照光が生じ、
前記第1ビームを構成する前記参照光が前記表面反射光学素子を通るときの光路長と前記第2ビームを構成する前記参照光が前記表面反射光学素子を通るときの光路長とが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項7】
前記表面反射光学素子は、基材(30)と、前記基材の前記第1の側の面および前記第2側の面の一方または両方を被覆するコート(24)と、を有し、
前記コートの前記第1の側の面において前記出射光の前記他の一部が反射することで前記参照光が生じ、
前記第1ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記コートの厚みと前記第2ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記コートの厚みとが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項6に記載のLiDAR送受信機。
【請求項8】
前記第1ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記表面反射光学素子の厚みと前記第2ビームを構成する前記参照光が通る位置の前記表面反射光学素子の厚みとが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項6に記載のLiDAR送受信機。
【請求項9】
前記コートは、前記第1ビームが通る経路と前記第2ビームが通る経路のうち前記第1ビームが通る経路にのみ配置され、
前記コートの厚みをt1とし、前記コートの屈折率をn1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとし、空気の屈折率をnairとすると、m×λ/4=(n1+nair)×t1の関係が満足される、請求項3または7に記載のLiDAR送受信機。
【請求項10】
前記基材のうち、前記第1ビームが通る位置の厚みをts1とし、前記第2ビームが通る位置の厚みをts2とし、前記基材の屈折率をns1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとし、空気の屈折率をnairとすると、m×λ/4=(ns1+nair)×|ts1-ts2|の関係が満足される、請求項5に記載のLiDAR送受信機。
【請求項11】
前記表面反射光学素子のうち、前記第1ビームが通る位置の厚みをts1とし、前記第2ビームが通る位置の厚みをts2とし、前記表面反射光学素子の屈折率をns1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとし、空気の屈折率をnairとすると、m×λ/4=(ns1+nair)×|ts1-ts2|の関係が満足される、請求項8に記載のLiDAR送受信機。
【請求項12】
前記厚み形成部品は、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光との位相差を低減するように、前記ターゲット反射光が通って前記参照光が通らない位置に配置される光路長補償素子(25)を含む、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項13】
前記厚み形成部品は、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光との位相差を解消するように、前記第2ビームを構成する前記ターゲット反射光が通って前記第2ビームを構成する前記参照光が通らない位置に配置される光路長補償素子(25)を含み、
前記コートは、前記干渉光の前記第1ビームが通る経路と前記第2ビームが通る経路のうち前記第1ビームが通る経路にのみ配置され、
前記コートの厚みをt1とし、前記コートの屈折率をn1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとすると、m×λ/4=2×n1×t1の関係が満足される、請求項3または7に記載のLiDAR送受信機。
【請求項14】
前記厚み形成部品は、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光との位相差を解消するように、前記第2ビームを構成する前記ターゲット反射光が通って前記第2ビームを構成する前記参照光が通らない位置に配置される光路長補償素子(25)を含み、
前記基材のうち、前記第1ビームが通る位置の厚みをts1とし、前記第2ビームが通る位置の厚みをts2とし、前記基材の屈折率をns1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとすると、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|の関係が満足される、請求項5に記載のLiDAR送受信機。
【請求項15】
前記厚み形成部品は、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光との位相差を解消するように、前記第2ビームを構成する前記ターゲット反射光が通って前記第2ビームを構成する前記参照光が通らない位置に配置される光路長補償素子(25)を含み、
前記表面反射光学素子のうち、前記第1ビームが通る位置の厚みをts1とし、前記第2ビームが通る位置の厚みをts2とし、前記表面反射光学素子の屈折率をns1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとすると、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|の関係が満足される、請求項8に記載のLiDAR送受信機。
【請求項16】
前記厚み形成部品は、前記波長板の第1の側に設けられる位相差発生素子(30、24)を備え、
前記出射光の前記他の一部は、前記位相差発生素子よりも第2の側で反射して前記参照光を生じ、
前記ターゲット反射光が前記位相差発生素子を通る際、前記ターゲット反射光のうち前記第1ビームを構成する部分と前記第2ビームを構成する部分との間に位相差が生じることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項17】
前記位相差発生素子は、基材(30)と、前記基材の前記第1の側の面および前記第2側の面の一方または両方を被覆するコート(24)と、を有し、
前記第1ビームを構成する前記ターゲット反射光が通る位置の前記コートの厚みと前記第2ビームを構成する前記ターゲット反射光が通る位置の前記コートの厚みとが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項16に記載のLiDAR送受信機。
【請求項18】
前記第1ビームを構成する前記ターゲット反射光が通る位置の前記位相差発生素子の厚みと前記第2ビームを構成する前記ターゲット反射光が通る位置の前記位相差発生素子の厚みとが異なることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項16に記載のLiDAR送受信機。
【請求項19】
前記位相差発生素子は、前記第1ビームが通る経路と前記第2ビームが通る経路のうち前記第1ビームが通る経路にのみ配置されることにより、前記第1位相差と前記第2位相差とが異なる、請求項18に記載のLiDAR送受信機。
【請求項20】
前記コートは、前記第1ビームが通る経路と前記第2ビームが通る経路のうち前記第1ビームが通る経路にのみ配置され、
前記コートの厚みをt1とし、前記コートの屈折率をn1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとし、空気の屈折率をnairとすると、m×λ/4=(n1-nair)×t1の関係が満足される、請求項17に記載のLiDAR送受信機。
【請求項21】
前記位相差発生素子のうち、前記第1ビームが通る位置の厚みをts1とし、前記第2ビームが通る位置の厚みをts2とし、前記位相差発生素子の屈折率をns1とし、奇数をmとし、前記基準波長をλとし、空気の屈折率をnairとすると、m×λ/4=(ns1-nair)×|ts1-ts2|の関係が満足される、請求項18または19に記載のLiDAR送受信機。
【請求項22】
前記波長板はλ/4波長板であり、前記偏光ビームスプリッタの前記第1の側にある、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項23】
前記光路長補償素子は、前記波長板の第1の側に配置されると共に、前記ターゲット反射光が平行光となっている位置に配置されている、請求項12に記載のLiDAR送受信機。
【請求項24】
前記表面反射光学素子は、前記波長板の第1の側に配置されると共に、前記ターゲット反射光が平行光となっている位置に配置されている、請求項6ないし8のいずれか1つに記載のLiDAR送受信機。
【請求項25】
前記位相差発生素子は、前記波長板の第1の側に配置されると共に、前記ターゲット反射光が平行光となっている位置に配置されている、請求項16ないし19のいずれか1つに記載のLiDAR送受信機。
【請求項26】
前記光源と前記偏光ビームスプリッタとの間には単一のレンズもしくは組レンズから構成されるコリメータ(12)が配置されている請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項27】
前記偏光ビームスプリッタと光検出器の間には単一のレンズもしくは組レンズから構成される受光レンズ(27)が配置されている請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【請求項28】
前記受光レンズは、前記第1光検出器および前記第2光検出器を構成する光検出素子の数と同数のレンズを有しているか、あるいは、前記第1光検出器および前記第2光検出器を構成する光検出素子の数と同数のレンズ形状を有する単一のレンズアレイを有する、請求項27に記載のLiDAR送受信機。
【請求項29】
前記偏光ビームスプリッタの前記第1の側に、前記出射光および前記ターゲット反射光のビーム径の拡大または縮小を行う組レンズ(28、29)を備えた、請求項1に記載のLiDAR送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、LiDAR送受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光源から周波数が連続変調された出射光が出射され、その出射光がターゲットで反射して生じたターゲット反射光と出射光に由来する参照光とを干渉させ、得られた干渉光に基づいてターゲットを検出するFMCW-LiDARの技術が知られている。このFMCW-LiDARに適用可能な送受信機として、偏光ビームスプリッタと波長板を用いて光源から光検出器を分離できる送受信機が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-505179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、上記技術において、光検出器で受信する干渉光からIQ信号を取得するようにすると、干渉光の瞬時周波数や瞬時位相情報を得ることができると考えた。しかし、上記文献では、IQ信号を取得する構成が開示されておらず、そのような構成を単純に実現しようとすると、偏光ビームスプリッタの数や波長板の数が膨大になり、光学系の構成が非常に複雑になってしまう。
【0005】
本開示は上記点に鑑み、FMCW-LiDARにおいて光源と光検出器を分離する技術において、光学系の構成が複雑化するのを抑制しつつIQ信号を取得できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、
基準波長の光に対して周波数変調された出射光(Lp)を出射する光源(1)と、
前記出射光を、前記出射光の経路に沿って前記光源からターゲット(TG)に向かう側である第1の側に通過させることで偏光方向を変化させ、前記出射光の一部が前記ターゲットで反射した後のターゲット反射光(Ltr)と前記出射光の他の一部が前記ターゲットに当たる前に反射した後の参照光(Lr)とを含む干渉光(Lb)を、前記第1の側とは反対の第2の側に通過させることで前記干渉光(Lb)の偏光方向を変化させる波長板(23)と、
前記出射光の経路における前記光源と前記波長板の間に配置され、前記出射光の偏光状態に従って前記出射光を前記波長板に出射すると共に、前記干渉光の偏光状態に従って前記干渉光を前記光源に戻る向きとは異なる向きに出す偏光ビームスプリッタ(22)と、
前記干渉光に含まれる第1ビームを、前記第1ビームが前記偏光ビームスプリッタから出た後で検出する第1光検出器(3a)と、
前記干渉光に含まれる第2ビームを、前記第2ビームが前記偏光ビームスプリッタから出た後で検出する第2光検出器(3b)と、を備えたLiDAR送受信機であり、
前記第1ビームと前記第2ビームは、互いにずれた位置を並進し、
前記出射光の経路における前記偏光ビームスプリッタと前記ターゲットの間に配置され、前記第1ビームにおける前記ターゲット反射光と前記参照光との位相差である第1位相差と、前記第2ビームにおける前記ターゲット反射光と前記参照光との位相差である第2位相差とを異ならせるような前記ターゲット反射光または前記参照光の進行方向に沿った厚みを有する厚み形成部品(23、24、25、30)を、当該LiDAR送受信機が含む。
【0007】
このように、光学系において、厚み形成部品のターゲット反射光または参照光の進行方向に沿った厚みが調整されることで、IQ信号の取得に必要な第1位相差と第2位相差の違いが設けられる。これにより、光学系の部品点数が抑えられ、ひいては、光学系の複雑化が抑えられる。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るLiDAR送受信機の構成図である。
図2】光学系の詳細を示す図である。
図3】波長板、コート、光路長補償素子の構成を示す図である。
図4】第2実施形態における光学系の詳細を示す図である。
図5】波長板および光路長補償素子の構成を示す図である。
図6】第3実施形態における光学系の詳細を示す図である。
図7】第4実施形態における波長板の構成を示す図である。
図8】第5実施形態における光学系の詳細を示す図である。
図9】表面反射光学素子の詳細を示す図である。
図10】第6実施形態における表面反射光学素子の詳細を示す図である。
図11】第7実施形態における光学系の詳細を示す図である。
図12】波長板および位相差発生素子の構成を示す図である。
図13】第8実施形態における波長板および位相差発生素子の構成を示す図である。
図14】第9実施形態における波長板および位相差発生素子の構成を示す図である。
図15】第10実施形態における光学系の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るLiDAR送受信機は、FMCW-LiDAR方式を用いてターゲットTGの位置、形状、速度等を特定する。特定される位置および速度は、それぞれ、ターゲットTGのLiDAR送受信機に対する相対位置および相対速度である。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。
【0011】
このLiDAR送受信機は、例えば、車両に搭載されて車両の周囲の物体(例えば先行車両、人、障害物)の位置、形状、速度等を特定するために用いられてもよいし、他の用途に用いられてもよい。
【0012】
このLiDAR送受信機は、光源1、光学系2、第1光検出器3a、第2光検出器3b、処理回路4を有する。光源1は、レーザ発振器11と、変調器12とを有する。レーザ発振器11は、所定の基準周波数(例えば、1550nm、1300nm)のレーザ光を生成して出力する。レーザ発振器11は、例えばレーザダイオードが用いられるが、それ以外のものが用いられてもよい。
【0013】
変調器12は、レーザ発振器11が出力した基準周波数のレーザ光に対して所定の変調振幅(例えば0.001nm幅、例えば0.005nm幅)の周波数変調を行うことで、周波数が増減変化するレーザ光である出射光Lpを光学系2に出射する。周波数の変化は、例えば、周波数が所定のチャープ率で増加した後所定のチャープ率で減少する三角波の態様であってもよいし、他の変化態様であってもよい。
【0014】
光学系2は、光源1から出射された出射光Lpの一部をターゲットTGに導く光路を形成する空間干渉光学系である。また光学系2は、出射光Lpの当該一部がターゲットTGで反射した後のターゲット反射光Ltrと、出射光Lpの他の一部がターゲットTGに当たる前に光学系2内で反射して生じた参照光Lrとを合成し、合成後の干渉光Lbのうち第1ビームLb1を第1光検出器3aに出力し第2ビームLb2を第2光検出器3bに出力する。
【0015】
第1光検出器3aは、受けた第1ビームLb1に応じた電気信号としてI信号を生成し、生成したI信号を処理回路4に出力する受光素子である。第2光検出器3bは、受けた第2ビームLb2に応じた電気信号としてQ信号を生成し、生成したQ信号を処理回路4に出力する受光素子である。I信号内に含まれるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差は、Q信号内に含まれるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差に対して、90°ずれている。なお、ずれ角は、厳密な90°に限らず、I信号とQ信号が取得できる程度には、90°から乖離していてもよい。
【0016】
処理回路4は、第1光検出器3aから出力されたI信号と第2光検出器3bから出力されたQ信号とに基づいて、ターゲットTGの位置、形状、速度等を算出する。処理回路4は、例えば、IQ信号(すなわち、I信号およびQ信号)からターゲットTGの位置、形状、速度等を算出する処理が記述されたソフトウェアを記憶するメモリを有する。また処理回路4は、当該メモリから当該ソフトウェアを読み出して実行するCPU等を備えたマイクロコンピュータで構成されている。あるいは、処理回路4は、IQ信号からターゲットTGの位置、形状、速度等を算出する処理を実行するよう回路構成された専用の電子回路であってもよい。
【0017】
処理回路は、上記のような処理において、IQ信号をビート信号として用いることで、FMCW方式によりターゲットTGの位置、形状、速度等を算出する。この際、I信号とQ信号の両方が得られると、受信した干渉光Lbの瞬時位相がわかるので、距離算出、速度算出の精度が向上する。
【0018】
以下、光学系2の構成について説明する。図2に示すように、光学系2は、コリメータ21、偏光ビームスプリッタ22、波長板23、コート24、光路長補償素子25、ビームスキャナ26、受光レンズ27を有している。本実施形態では、コート24、光路長補償素子25が、厚み形成部品を構成する。
【0019】
コリメータ21は、光源1から出た出射光Lpを平行光のビームに集束させる単一のレンズもしくは組レンズから構成される。偏光ビームスプリッタ22は、出射光Lpの経路に沿ったコリメータ21のターゲットTG側、すなわち第1の側に配置されている。以下、出射光Lpの経路に沿ったターゲットTG側を第1の側と呼び、その反対側すなわち光源1側を第2の側と呼ぶ。
【0020】
偏光ビームスプリッタ22は、コリメータ21からの出射光Lpを通過させると共に、波長板23からの干渉光Lbを光源1の方向とは異なる受光レンズ27の方向に反射する光学部材である。干渉光Lbは波長板23の作用により偏光方向が出射光Lpと異なっており、偏光ビームスプリッタ22は、この偏光方向の違いを利用して上記のような光の進行方向を実現する。
【0021】
波長板23は、偏光ビームスプリッタ22に対して第1の側に配置されている。波長板23は、波長板23を通る光の2つの直交する偏光成分間の位相をずらすことによって、当該光の偏光状態を変化させる光学部材である。より具体的には、波長板23は、λ/4波長板で構成される。
【0022】
コート24は、コート24を通る光の光路長を調整するための光学膜である。コート24は、空気とは異なる屈折率を有し、波長板23に対して第1の側に配置されている。
【0023】
より具体的には、コート24は、図2図3に示すように、波長板23の第1の側の面のうち、第1ビームLb1が通る経路にある面23aの全体を覆うように、面23aに塗布されて形成される。また、コート24は、波長板23の第1の側の面のうち、第2ビームLb2が通る経路にある面23bは覆わないように形成される。
【0024】
ここで、干渉光Lb、第1ビームLb1、第2ビームLb2について説明する。出射光Lpのうち、光学系2からターゲットTGに向かう部分以外の他の一部は、光学系2内で波長板23またはコート24で反射されて、偏光ビームスプリッタ22に向かう参照光Lrとなる。
【0025】
コート24および波長板23から偏光ビームスプリッタ22、受光レンズ27を経て第1光検出器3a、第2光検出器3bへ向かう経路においては、参照光Lrとターゲット反射光Ltrが合成されて干渉光Lbのビームが形成される。そして、干渉光Lbの一部が第1ビームLb1であり、他の一部が第2ビームLb2である。また、参照光Lrと合成される前のターゲット反射光Ltrも、後に第1ビームLb1中の参照光Lrと合成されるものは、第1ビームLb1を構成し、後に第2ビームLb2中の参照光Lrと合成されるものは、第2ビームLb2を構成する。
【0026】
なお、各図において、出射光Lpは実線で表され、ターゲット反射光Ltrは破線で表され、参照光Lrは一点鎖線で表される。また、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrの光軸中心は、二点鎖線で表される。出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrは、経路が部分的に共通している。
【0027】
図2図3に示すように、第1ビームLb1と第2ビームLb2は、互いにずれた位置を互いに平行に並進する。第1ビームLb1と第2ビームLb2の位置のずれは、干渉光Lbの進行方向に交差する方向へのずれである。より具体的には、当該ずれは、干渉光Lbの進行方向に直交する方向へのずれである。
【0028】
ここで、参照光Lrのうち第1ビームLb1を構成する部分は、出射光Lpが波長板23およびコート24の内部を通ってコート24の第1の側の面24aにおいて反射することにより生じる。また、参照光Lrのうち第2ビームLb2を構成する部分は、出射光Lpが波長板23の内部を通って波長板23の面23bにおいて反射することにより生じる。
【0029】
波長板23の第2の側の面、波長板23とコート24の界面、光路長補償素子25の第1の側の面、および光路長補償素子25の第2の側の面には、光の反射を抑える処理(例えば、ARコート処理)が施されている。
【0030】
また、コート24は、波長板23の第1の側の面のうち、面23aに隣り合うと共に第1ビームLb1も第2ビームLb2も通らない経路に該当する面23cを覆う様に形成される。これは、第1ビームLb1の通る位置が少しずれた場合への対策である。
【0031】
また、コート24の、第1ビームLb1の進行方向に沿った厚みt1、およびコート24の屈折率n1は、上述の基準周波数に対応する波長を基準波長λとすると、m×λ/4=2×n1×t1を満たす。ここで、mは奇数である。コート24の厚みt1は、反射防止膜や誘電体多層膜といた蒸着技術により、高精度に制御できる。ただし、この式は厳密に満たされる場合に限らず、IQ信号が取得できる程度には、厳密に満たされる状態から乖離していてもよい。このことは、他の実施形態も含め、本明細書の全体において示す厚みと屈折率に関する条件について、同様である。
【0032】
光路長補償素子25は、波長板23に対して第1の側に配置され、光路長補償素子25を通る光の光路長を変化させるために空気とは異なる屈折率を有する光学部材である。光路長補償素子25は、波長板23に接触していてもよいし、波長板23との間に空隙があってもよい。
【0033】
光路長補償素子25の、そこを通るターゲット反射光Ltrの進行方向に沿った厚みtc、および光路長補償素子25の屈折率ncは、(n1-nair)×t1=(nc-nair)×tcを満たす。ここで、nairは空気の屈折率である。このようにするのは、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrと第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrとを同一位相とするためである。ただし、この式は厳密に満たされる場合に限らず、IQ信号が取得できる程度には、厳密に満たされる状態から乖離していてもよい。このことは、他の実施形態も含め、本明細書の全体において示す厚みと屈折率に関する条件について、同様である。
【0034】
図2図3に示すように、光路長補償素子25は、第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る経路に配置される。また、光路長補償素子25は、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrが通る経路から避けて配置される。
【0035】
ビームスキャナ26は、波長板23、コート24、光路長補償素子25に対して第1の側に配置される。ビームスキャナ26は、波長板23、コート24、光路長補償素子25を通ってビームスキャナ26に入射した出射光Lpを反射する。そしてビームスキャナ26は、反射後の出射光Lpの向きを操作して所定の走査パターンに従ってターゲットTGを含む検知対象範囲をビーム走査可能な走査ミラーである。ビームスキャナ26は、例えば、1つまたは2つ以上のガルバノメータによって回転可能であってもよいし、多面体ミラーを回転させてもよいし、他の構成で実現されてもよい。
【0036】
またビームスキャナ26は、出射光LpがターゲットTGで反射することで生じるターゲット反射光Ltrを反射して平行光のビームとして波長板23、コート24、光路長補償素子25の側に戻す。
【0037】
受光レンズ27は、偏光ビームスプリッタ22からの光の一部を集光して第1光検出器3aに入射させ、他の一部を集光して第2光検出器3bに入射させる単一のレンズもしくは組レンズから構成される。受光レンズ27は、第1光検出器3aへの集光用のレンズ、第2光検出器3bへの集光用のレンズという独立した2つのレンズで構成されていてもよいし、これら2つのレンズの機能を実現するよう2つのレンズ形状を有する単一のレンズアレイで構成されていてもよい。
【0038】
以上のような構成のLiDAR送受信機の作動について、以下説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpが出力される。この出射光Lpは、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。
【0039】
この出射光Lpは、図3に示すように、所定の第1方向を偏光方向Y1とする直線偏光となるよう光源1にて調整されており、偏光ビームスプリッタ22は、そのような偏光状態の出射光Lpを透過させる。したがって、出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23に入る。出射光Lpは、波長板23を通ることで、偏光状態が第1方向への直線偏光から円偏光に変化する。
【0040】
第1ビームLb1の領域を通った出射光Lpは波長板23を通った後、コート24に入る。コート24に入った出射光Lpの一部は、コート24を透過してビームスキャナ26に向かう。コート24に入った出射光Lpの他の一部は、コート24の第1の側の面24aで反射して第2の側に進む参照光Lrとなる。
【0041】
第2ビームLb2の領域を通った出射光Lpの一部は、波長板23を通った後、光路長補償素子25を透過してビームスキャナ26に向かう。また、第2ビームLb2の領域において出射光Lpの他の一部は、波長板23の第1の側の面23bで反射して第2の側に進む参照光Lrとなる。
【0042】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、ビームスキャナ26で反射されてターゲットTGに向かい、更にターゲットTGで反射してビームスキャナ26に戻る方向に進むターゲット反射光Ltrとなる。ターゲット反射光Ltrは、出射光Lpと同様に円偏光であるが、その回転方向は出射光Lpとは逆回りになる。ビームスキャナ26の走査により、出射光Lpは広がった領域におけるターゲットTGの各部で順次反射する。
【0043】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、光路長補償素子25をバイパスしてコート24に入る。コート24に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpがコート24の面24aで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1となる。第1ビームLb1は、コート24を透過した後、波長板23を透過する。
【0044】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、光路長補償素子25を透過してコート24をバイパスして波長板23に入る。波長板23に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが波長板23の面24bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第2ビームLb2となり、波長板23を透過する。
【0045】
波長板23を透過した第1ビームLb1、第2ビームLb2は、波長板23によって偏光状態が円偏波から直線偏波に変化する。この直線偏波の偏光方向Y2は、図3に示すように、上述の第1方向に対して交差する(例えば直交する)第2方向となっている。したがって、第1ビームLb1、第2ビームLb2は偏光ビームスプリッタ22で、光源1の方向とは異なる受光レンズ27の方向に反射される。そして、第1ビームLb1、第2ビームLb2は、受光レンズ27において、それぞれ第1光検出器3a、第2光検出器3bに集光される。
【0046】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差が2×n1×t1=m×λ/4となる。これは、図3に示すように、第1ビームLb1の参照光Lrの光路は、コート24内を往復する分だけ、第2ビームLb2の参照光Lrの光路よりも長いからである。なお、参照光Lrの光路は、出射光Lpであったときの光路も含む。
【0047】
第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がない。これは、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrがコート24を通過することによる光路長の変化が、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrが通る光路長補償素子25によって、補償されるからである。
【0048】
このように、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差(すなわち、第1位相差)は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差(すなわち、第2位相差)に対して、π/2ずれる。すなわち、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrが第1ビームLb1と第2ビームLb2に2分岐され、参照光Lrのみ、第1ビームLb1と第2ビームLb2でπ/2の位相差を持つ。そして、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が構成される。
【0049】
ここで第1ビームLb1と第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrの信号強度を時間tの関数で表した値をE(t)とする。また、第1ビームLb1における参照光Lrの信号強度を時間tの関数で表した値をEr_I(t)とし、第2ビームLb2における参照光Lrの信号強度を時間tの関数で表した値をEr_Q(t)とすると、以下の式が成立する
【0050】
【数1】
ここで、As、Arは定数であり、f(t)、f(t)は時間tの関数である。2つの参照光Lr間にπ/2の位相差があるため、下式のように、2つの干渉光であるI信号|E(t)|とQ信号|E(t)|が生成される。これらは、位相がπ/2ずれているため、コサインとサインの関係となる
【0051】
【数2】
このようなIQ信号を活用することで、処理回路4は、三角関数の性質より、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、上述の通り、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0052】
[1]以上説明した通り、本実施形態においては、出射光Lpの経路における偏光ビームスプリッタ22とターゲットTGの間に配置され、第1位相差と第2位相差とを異ならせるようなターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの進行方向に沿った厚みを有する厚み形成部品を含む。そして、本実施形態では、厚み形成部品は、コート24である。
【0053】
このように、光学系2において、厚み形成部品のターゲット反射光Ltrまたは参照光Lrの進行方向に沿った厚みが、屈折率との関係に応じて調整されることで、IQ信号の取得に必要な第1位相差と第2位相差の違いが設けられる。これにより、光学系の部品点数が抑えられ、ひいては、光学系の複雑化が抑えられる。
【0054】
[2]具体的には、参照光Lrがコート24を透過する際に参照光Lrのうち第1ビームLb1を構成する部分と第2ビームLb2を構成する部分との間に光路長の差が生じる。このように、参照光Lrの光路長を調整することで、第1位相差と第2位相差の違いを作ることができる。
【0055】
[3]また、コート24の第1の側の面24aにおいて出射光Lpの他の一部が反射することで第1ビームLb1を構成する参照光Lrが生じる。そして、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みと第2ビームを構成する参照光Lrが通る位置のコートの厚みとが異なる。
【0056】
具体的には、本実施形態では、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みt1は0より大きく、第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みは0である。すなわち、第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置にはコート24は存在しない。
【0057】
これにより、コート24が、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第1位相差と、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第2位相差とを異ならせる。このように、波長板23を被覆するコート24という簡易な構成で、IQ信号を取得することができる。
【0058】
[4]また、光路長補償素子25は、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrとの位相差を低減および解消するように、ターゲット反射光Ltrが通って参照光Lrが通らない位置に配置される。具体的には、第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置に配置される。このようにすることで、第1ビームLb1、第2ビームLb2間におけるターゲット反射光Ltrの位相差を、参照光Lrとは独立に、調整できる。
【0059】
[20]また、光路長補償素子25は、波長板23の第1の側に配置されると共に、ターゲット反射光Ltrが平行光となっている位置に配置されている。このような位置において、安定的にターゲット反射光Ltrの位相差を調整できる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図4図5を用いて説明する。図4に示すように、本実施形態は、第1実施形態に対して、光路長補償素子25が省略され、かつ、コート24の構成が異なっている。本実施形態のコート24は、厚みt1および屈折率n1の一方または両方が、第1実施形態と異なっているが、その他の構成(例えば波長板23に対する配置)は第1実施形態と同じである。
【0061】
第1実施形態で光路長補償素子25を設けたのは、第1ビームLb1、第2ビームLb2における波長板23へのコート24の有無により発生するターゲット反射光Ltrの位相差に応じて、所望のIQ信号を得るためである。
【0062】
出射光Lpも、コート24の有無に起因してターゲット反射光Ltrと同様に位相差が発生する。しかし、出射光LpがターゲットTGで反射および拡散され再び光学系2へ戻ってきた時のターゲット反射光Ltrは、コート24の厚み分だけ時間遅延した光と遅延していない光の2種類の光が混合されている。コート24の厚みが基準波長λ程度(例えば基準波長λの10倍以下)であれば、時間遅延およびそれに起因する距離差は非常に小さく、第1光検出器3a、第2光検出器3b、処理回路4の測定分解能よりも十分に小さく無視できる。したがって、ターゲットTGに向かう出射光Lpの位相差の影響は無視できる。
【0063】
適切なIQ信号を生成するためには、I信号とQ信号で位相差π/2が必要となる。ただし、厳密なπ/2のみならず、IQ信号を得ることができる範囲においてπ/2から乖離していてもよい。このことは、本実施形態に限らず、本明細書の全体において同様である。第1実施形態では、それを実現するために位相が異なる2つの参照光Lrを生成する例について説明した。しかし、IQ信号を生成するためには、ターゲット反射光Ltrの間に位相差π/2を設けてもよいし、更に言えば、参照光Lrとターゲット反射光Ltrのトータルで位相差π/2があってもよい。
【0064】
すなわち、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差が、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれるようにすれば、適切なIQ信号を生成することができる。
【0065】
このことに基づいて、本実施形態では、コート24の厚みt1、コート24の屈折率n1は、m×λ/4=(n1+nair)×t1を満足するように設定されている。これは、図5に示すように、第1ビームLb1において参照光Lrはコート24を2回通過し、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrはコート24を1回だけ通過するからである。
【0066】
すなわち、コート24に起因して、第1ビームLb1では、第2ビームLb2に対して、参照光Lrは光路差が2×n1×t1だけ異なり、ターゲット反射光Ltrは光路差が(n1-nair)×t1だけ異なる。したがって、コート24の存在だけで、参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差を、第1ビームLb1と第2ビームLb2の間で(n1+nair)×t1だけ、異ならせることができる。具体的には、本実施形態では、参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差が、第1ビームLb1と第2ビームLb2の間で、m×λ/4だけ異なる。なお、本実施形態では、コート24が厚み形成部品を構成する。
【0067】
以下、本実施形態におけるLiDAR送受信機の作動について説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第1実施形態と同じである。
【0068】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23に入る。出射光Lpは第1ビームLb1の領域では、波長板23を通った後、コート24に入り、一部がコート24を透過してビームスキャナ26に向かい、他の一部がコート24の面24aで反射して参照光Lrとなる。出射光Lpは、第2ビームLb2の領域では、一部が波長板23を通った後ビームスキャナ26に向かい、他の一部は、波長板23の面23bで反射して参照光Lrとなる。
【0069】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第1実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0070】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、コート24に入り、参照光Lrと合成されて干渉光Lbの第1ビームLb1となる。ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、コート24をバイパスして波長板23に入り、参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第2ビームLb2となる。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第1実施形態と同じである。
【0071】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。上述の通り、参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差が、第1ビームLb1と第2ビームLb2の間で、m×λ/4だけ異なる。すなわち、第1位相差と第2位相差と、m×λ/4だけ異なる。
【0072】
したがって、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。このようにして、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0073】
このようなIQ信号を活用することで、第1実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0074】
[1]以上の通り、コート24は、第1ビームLb1が通る経路と第2ビームLb2が通る経路のうち第1ビームLb1が通る経路にのみ配置される。その他の経路において配置されてもよいし、配置されなくてもよい。そして、コート24の厚みをt1とし、コート24の屈折率をn1とし、奇数をmとし、基準波長をλとすると、m×λ/4=n1×t1の関係が満足される。このようにすることで、第1実施形態のような光路長補償素子25がなくても、IQ信号を取得することができる。なお、本実施形態と第1実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0075】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について、図6を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、追加レンズ28、29が設けられている。その他の構成は第1実施形態と同じである。追加レンズ28、29は、全体として、出射光Lpとターゲット反射光Ltrのビーム径を拡大または縮小するための組レンズを構成する。
【0076】
追加レンズ28、29は、波長板23、コート24、光路長補償素子25のいずれに対しても第1の側に配置され、かつ、波長板23、コート24、光路長補償素子25とビームスキャナ26との間に配置される。また、追加レンズ29は、追加レンズ28とビームスキャナ26の間に配置される。
【0077】
このようにすることで、波長板23、コート24、光路長補償素子25を通過した後の出射光Lpは、追加レンズ28で集光された後、追加レンズ29で再度平行光となり、ビームスキャナ26に進む。追加レンズ29を通過した後の出射光Lpのビーム径は、追加レンズ28に入る直前の出射光Lpのビーム径よりも大きい。
【0078】
また、ビームスキャナ26で反射された後のターゲット反射光Ltrは、追加レンズ29で集光された後、追加レンズ28で再度平行光となり、波長板23、コート24、光路長補償素子25に進む。追加レンズ28を通過した後のターゲット反射光Ltrのビーム径は、追加レンズ29に入る直前のターゲット反射光Ltrのビーム径よりも小さい。
【0079】
なお、本実施形態のような追加レンズ28、29の追加は、第2実施形態に対して行ってもよい。本実施形態と第1、第2実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0080】
(第4実施形態)
次に第4実施形態について、図7を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、コート24が排除され、波長板23の構成が変更されている。具体的には、波長板23は、基材231と、複屈折部232とを有している。基材231は、出射光Lpに対向するように配置された板形状の透明なガラス等の部材である。
【0081】
複屈折部232は、基材231の第2の側の面23dに蒸着等によって形成される薄膜であり、複屈折部232を通過する光を複屈折させることで、波長板23のλ/4波長板としての機能を実現する。複屈折部232は、有機材料から構成されていても無機材料から構成されていてもよい。
【0082】
本実施形態においては、基材231と複屈折部232との界面にも、光の反射を抑える処理(例えば、ARコート処理)が施されている。また、本実施形態においては、出射光Lpの一部が基材231の第1の側の面23aで反射することで第1ビームLb1を構成する参照光Lrが生じ、出射光Lpの一部が基材231の第1の側の面23bで反射することで第2ビームLb2を構成する参照光Lrが生じる。基材231の第1の側の面のうち、面23aは、第1ビームLb1が通る領域にあり、面23bは、第2ビームLb2が通る位置にある。
【0083】
以下、基材231の構成について更に説明する。基材231の屈折率ns1は、空気の屈折率とは異なっている。また、基材231の、第1ビームLb1を通る位置における第1ビームLb1の進行方向に沿った厚みts1は、第2ビームLb2を通る位置における第2ビームLb2の進行方向に沿った厚みts2と、異なっている。具体的には、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|という関係が満たされる。また、光路長補償素子25の、そこを通るターゲット反射光Ltrの進行方向に沿った厚みtc、および光路長補償素子25の屈折率ncは、(ns1-nair)×|ts1-ts2|=(nc-nair)×tcを満たす。本実施形態においては、厚みts1は厚みts2よりも大きい。
【0084】
以上のような構成のLiDAR送受信機の作動について、以下説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第1実施形態と同じである。
【0085】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して更に波長板23に入る。波長板23に入った出射光Lpの一部は、波長板23を透過して第1の側に向かう。波長板23に入った出射光Lpの他の一部は、基材231の第1の側の面23a、23bで反射して第2の側に進む参照光Lrとなる。
【0086】
具体的には、第1ビームLb1の領域を通る出射光Lpの一部は、波長板23を透過してビームスキャナ26に向かう。第1ビームLb1の領域を通った出射光Lpの他の一部は、波長板23の第1の側の面23aで反射して第2の側に進む参照光Lrとなる。
【0087】
第2ビームLb2の領域を通った出射光Lpの一部は、波長板23を通った後、光路長補償素子25を透過してビームスキャナ26に向かう。また、第2ビームLb2の領域において出射光Lpの他の一部は、波長板23の第1の側の面23bで反射して第2の側に進む参照光Lrとなる。
【0088】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第1実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射される。更にターゲット反射光Ltrは、第1ビームLb1となる部分は光路長補償素子25をバイパスして波長板23に入り、第2ビームLb2となる部分は光路長補償素子25を透過して波長板23に入る。
【0089】
波長板23に入ったターゲット反射光Ltrは、参照光Lrと干渉して、第1ビームLb1、第2ビームLb2を含む干渉光Lbを構成する。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第1実施形態と同じである。
【0090】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がm×λ/4となる。
【0091】
これは、参照光Lrの光路は、波長板23の基材231内を往復するが、第1ビームLb1の領域と第2ビームLb2の領域とでは、基材231の厚みがts1-ts2だけ違うので、光路長も2×ns1×|ts1-ts2|だけ異なるからである。
【0092】
第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がない。これは、基材231の厚みの違いによる光路長の差を、光路長補償素子25が補償するからである。
【0093】
このように、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。すなわち、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrが第1ビームLb1と第2ビームLb2に2分岐され、参照光Lrのみ、第1ビームLb1と第2ビームLb2でπ/2の位相差を持つ。そして、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0094】
このようなIQ信号を活用することで、第1実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する
【0095】
[1]以上のように、波長板23の第1の側の面23a、23bにおいて出射光Lpの他の一部が反射することで参照光Lrが生じる。そして、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが波長板23を通るときの光路長と第2ビームLb2を構成する参照光Lrが波長板23を通るときの光路長とが異なることで、第1位相差と第2位相差が異なる。このように、波長板23自体の光路長の違いを利用してIQ信号を得ることができる。
【0096】
なお、第1実施形態に対する本実施形態のような変更は、第2実施形態にも適用することができる。ただしその場合は、光路長補償素子25が無いので、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|という関係ではなく、m×λ/4=(ns1+nair)×|ts1-ts2|という関係が満たされる。
【0097】
また、第1実施形態に対する本実施形態のような変更は、第3実施形態にも適用することができる。本実施形態と第1~第3実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0098】
(第5実施形態)
次に第5実施形態について、図8図9を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、基材30が追加され、コート24の配置が変更されている。本実施形態においては、基材30とコート24が、表面反射光学素子を構成する。また、本実施形態では、表面反射光学素子と光路長補償素子25が、厚み形成部品を構成する。
【0099】
基材30は、波長板23に対して空隙を隔てて第1の側に配置されると共に、光路長補償素子25、ビームスキャナ26に対し第2の側に配置される、ガラス等の透明板である。
【0100】
コート24は、図9に示すように、基材30の第1の側の面のうち、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrが通る経路に該当する面30aの全体を覆うように面30aに塗布されて形成される。また、コート24は、基材30の第1の側の面のうち、第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る経路に該当する面30bは覆わないように形成される。
【0101】
ここで、参照光Lrのうち第1ビームLb1を構成する部分は、出射光Lpが波長板23、基材30およびコート24を通ってコート24の第1の側の面24aにおいて反射することにより生じる。また、参照光Lrのうち第2ビームLb2を構成する部分は、出射光Lpが波長板23、基材30を通って基材の第1の側の面30bにおいて反射することにより生じる。
【0102】
波長板23の第1側の面、波長板23の第2の側の面、基材30の第2の側の面、基材30とコート24の界面、光路長補償素子25の第1、第2の側の面には、光の反射を抑える処理(例えば、ARコート処理)が施されている。
【0103】
また、コート24の、第1ビームLb1の進行方向に沿った厚みt1、およびコート24の屈折率n1は、第1実施形態と同じである。コート24の厚みt1は、反射防止膜や誘電体多層膜といた蒸着技術により、高精度に制御できる。
【0104】
以下、本実施形態におけるLiDAR送受信機の作動について説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第1実施形態と同じである。
【0105】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23を透過し、更に基材30に入る。出射光Lpは第1ビームLb1の領域では、基材30を通った後、コート24に入り、一部がコート24を透過してビームスキャナ26に向かい、他の一部がコート24の面24aで反射して参照光Lrとなる。出射光Lpは、第2ビームLb2の領域では、一部が基材30を通った後で光路長補償素子25を透過してビームスキャナ26に向かい、他の一部は、基材30の面30bで反射して参照光Lrとなる。
【0106】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第1実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0107】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、光路長補償素子25をバイパスしてコート24に入る。コート24に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpがコート24の面24aで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1となる。第1ビームLb1は、コート24を透過した後、基材30および波長板23を透過する。
【0108】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、光路長補償素子25を透過してコート24をバイパスして基材30に入る。基材30に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが基材30の面30bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第2ビームLb2となり、基材30および波長板23を透過する。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第1実施形態と同じである。
【0109】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がm×λ/4となる。これは、図9に示すように、第1ビームLb1の参照光Lrの光路は、コート24内を往復する分だけ、第2ビームLb2の参照光Lrの光路よりも長いからである。
【0110】
第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がない。これは、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrがコート24を通過することによる光路長の変化が、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrが通る光路長補償素子25によって、補償されるからである。
【0111】
このように、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。すなわち、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrが第1ビームLb1と第2ビームLb2に2分岐され、参照光Lrのみ、第1ビームLb1と第2ビームLb2でπ/2の位相差を持つ。そして、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0112】
このようなIQ信号を活用することで、第1実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0113】
なお、本実施形態の他の例として、コート24は、基材30の第1の側ではなく第2の側に配置されていてもよい。この場合も、出射光Lpの一部がコート24の第1の側の面で反射することで参照光Lrが生じる。あるいは、コート24は、基材30の第1の側と第2の側の両方に配置されていてもよい。この場合は、出射光Lpの一部が基材30の第1の側にあるコート24の第1の側の面で反射することで参照光Lrが生じる。
【0114】
[1]以上説明した通り、波長板23と空隙を隔てて波長板23の第1の側に設けられる表面反射光学素子の第1の側の面である面24a、面30bにおいて、出射光Lpが反射することで参照光Lrが生じる。また、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが表面反射光学素子を通るときの光路長と第2ビームLb2を構成する参照光Lrが表面反射光学素子を通るときの光路長とが異なることにより、第1位相差と第2位相差が異なる。このように、波長板23から離れた位置に参照光Lrを生じる表面反射光学素子を配し、それに位相差を調整する機能も持たせることでも、簡易な構成でIQ信号を取得することができる。
【0115】
[2]また、表面反射光学素子は、基材30と、基材30の第1の側の面および第2側の面の一方または両方を被覆するコート24とを有する。そしてコート24の第1の側の面24aでの反射により参照光Lrが生じる。そして、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みと第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みとが異なることにより、第1位相差と第2位相差が異なる。
【0116】
具体的には、本実施形態では、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みt1はゼロより大きく、第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置のコート24の厚みは0である。すなわち、第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置にはコート24は存在しない。
【0117】
これにより、コート24が、第1ビームLb1おけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第1位相差と、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差である第2位相差とを異ならせる。このように、波長板23を被覆するコート24という簡易な構成で、IQ信号を取得することができる。
【0118】
[3]また、表面反射光学素子は、波長板23の第1の側に配置されると共に、ターゲット反射光Ltrが平行光となっている位置に配置されている。このような位置で、表面反射光学素子は、ターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相を調整することができる。
【0119】
なお、第1実施形態に対する本実施形態のような変更は、第2実施形態にも適用することができる。ただしその場合は、光路長補償素子25が無いので、コート24の屈折率n1および厚みt1は、第2実施形態と同じになる。また、本実施形態と第1、第2実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0120】
(第6実施形態)
次に第6実施形態について、図10を用いて説明する。本実施形態は、第5実施形態に対して、コート24が廃され、基材30の構成が変更されている。
【0121】
具体的には、基材30の屈折率ns1は、空気の屈折率とは異なっている。また、基材30の、第1ビームLb1を通る位置における第1ビームLb1の進行方向に沿った厚みts1は、第2ビームLb2を通る位置における第2ビームLb2の進行方向に沿った厚みts2と、異なっている。具体的には、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|という関係が満たされる。また、光路長補償素子25の、そこを通るターゲット反射光Ltrの進行方向に沿った厚みtc、および光路長補償素子25の屈折率ncは、(ns1-nair)×|ts1-ts2|=(nc-nair)×tcを満たす。本実施形態においては、厚みts1は厚みts2よりも大きい。
【0122】
以上のような構成のLiDAR送受信機の作動について、以下説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第5実施形態と同じである。
【0123】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23を透過し、更に基材30に入る。出射光Lpは第1ビームLb1の領域では、基材30に入った後、基材30の第1の側の面のうち第1ビームLb1が通る経路にある面30aを一部が透過してビームスキャナ26に向かい、他の一部が面30aで反射して参照光Lrとなる。出射光Lpは、第2ビームLb2の領域では、基材30に入った後、基材30の第1の側の面のうち第2ビームLb2が通る経路にある面30bを一部が透過して更に光路長補償素子25を透過してビームスキャナ26に向かう。そして他の一部が面30bで反射して参照光Lrとなる。
【0124】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第5実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0125】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、光路長補償素子25をバイパスして基材30に入る。基材30に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが基材30の面30aで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1となる。第1ビームLb1は、基材30および波長板23を透過する。
【0126】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、光路長補償素子25を透過して基材30に入る。基材30に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが基材30の面30bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第2ビームLb2となり、基材30および波長板23を透過する。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第5実施形態と同じである。
【0127】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がm×λ/4となる。
【0128】
これは、図10に示すように、参照光Lrの光路は、基材30内を往復するが、第1ビームLb1の領域と第2ビームLb2の領域とでは、基材30の厚みがts1-ts2だけ違うので、光路長も2×ns1×|ts1-ts2|だけ異なるからである。
【0129】
第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrは、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がない。これは、基材30の厚みの違いによる光路長の差を、光路長補償素子25が補償するからである。
【0130】
このように、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。すなわち、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrが第1ビームLb1と第2ビームLb2に2分岐され、参照光Lrのみ、第1ビームLb1と第2ビームLb2でπ/2の位相差を持つ。そして、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が構成される。
【0131】
このようなIQ信号を活用することで、第5実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0132】
[1]また、本実施形態では、参照光Lrが厚み形成部品である表面反射光学素子を透過する際に参照光Lrのうち第1ビームLb1を構成する部分と第2ビームLb2を構成する部分との間に光路長の差が生じる。
【0133】
[2]また、第1ビームLb1を構成する参照光Lrが通る位置の表面反射光学素子の厚みts1と第2ビームLb2を構成する参照光Lrが通る位置の表面反射光学素子の厚みts2とが異なることにより、第1位相差と第2位相差が異なる。
【0134】
なお、本実施形態に対して第2実施形態のように光路長補償素子25を廃するような変更がされてもよい。ただしその場合は、m×λ/4=2×ns1×|ts1-ts2|という関係ではなく、m×λ/4=(ns1+nair)×|ts1-ts2|という関係が満たされるように、基材30が構成される。
【0135】
(第7実施形態)
次に第7実施形態について、図11図12を用いて説明する。本実施形態は、第5実施形態に対して、出射光Lpが反射して参照光Lrが生成される位置が異なっている。更に、第5実施形態に対して、光路長補償素子25が廃されている。そして、本実施形態においては、基材30とコート24が、表面反射光学素子でなく位相差発生素子を構成する。また、本実施形態では、位相差発生素子が、厚み形成部品に対応する。また、本実施形態のコート24は、厚みt1および屈折率n1の一方または両方が、第1実施形態と異なっている。
【0136】
まず、本実施形態においては、出射光Lpは、波長板23の第1の側の面23a、23bにおいて反射され、それにより、参照光Lrが生じる。このために、本実施形態においては、波長板23の第2の側の面、基材30の第1、第2の側の面、コート24の第1、第2の側の面において、光の反射を抑える処理(例えば、ARコート処理)が施されている。
【0137】
また、本実施形態では、コート24の厚みt1、コート24の屈折率n1は、m×λ/4=(n1-nair)×t1を満足するように設定されている。これは、図12に示すように、ターゲット反射光Ltrのうち第1ビームLb1を構成する部分は、コート24を1回通過し、ターゲット反射光Ltrのうち第2ビームLb2を構成する部分は、コート24を通過しないからである。なお、本実施形態においては、第1ビームLb1を構成する参照光Lrも第2ビームLb2を構成する参照光Lrもコート24を通らないので、これら2つの参照光の間の光路差は生じない。
【0138】
以下、本実施形態におけるLiDAR送受信機の作動について説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第5実施形態と同じである。
【0139】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23に入り、一部が波長板23を透過して、基材30とコート24で構成される表面反射光学素子の側に進み、他の一部が波長板23の第1の側の面23a、23bで反射して参照光Lrとなる。更に出射光Lpは、位相差発生素子を透過してビームスキャナ26に向かう。
【0140】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第5実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0141】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、コート24と基材30を通過して、波長板23に入る。ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、コート24をバイパスして基材30を通過して、波長板23に入る。
【0142】
波長板23に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが面23a、23bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1、第2ビームLb2となる。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第5実施形態と同じである。
【0143】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrとの間には、位相差がない。しかし、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrとの間には、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差が(n1-nair)×t1=m×λ/4となる。これは、図12に示すように、第1ビームLb1のターゲット反射光Ltrの光路は、コート24内を通過する分だけ、第2ビームLb2のターゲット反射光Ltrの光路と異なっているからである。
【0144】
この結果、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。これにより、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0145】
このようなIQ信号を活用することで、第5実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0146】
[1]以上の通り、位相差発生素子は、基材30およびコート24を備える。そして、出射光Lpの他の一部は、位相差発生素子よりも第2の側で反射して参照光Lrを生じる。具体的には、波長板23の第1の側の面23a、23bにおける反射により参照光Lrが生じる。
【0147】
そして、ターゲット反射光Ltrが位相差発生素子を通る際、ターゲット反射光Ltrのうち第1ビームLb1を構成する部分と第2ビームLb2を構成する部分との間に位相差が生じる。これにより、第1位相差と第2位相差が異なる。このように、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrとの位相差を第1ビームLb1、第2ビームLb2間で異ならせるための部材である位相差発生素子と、参照光Lrを生じさせる部材である波長板23と分離することも可能である。
【0148】
[2]また、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置のコート24の厚みと第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置のコート24の厚みとが異なることにより、第1位相差と第2位相差が異なる。このように、コート24の厚みを調整することで、簡易にIQ信号を得ることが可能である。
【0149】
[3]また、位相差発生素子は、波長板23の第1の側に配置されると共に、ターゲット反射光Ltrが平行光となっている位置に配置されている。このような位置において、位相差発生素子は、ターゲット反射光Ltrの位相を安定的に調整できる。
【0150】
なお、本実施形態の他の例として、コート24は、基材30の第1の側ではなく第2の側に配置されていてもよい。あるいは、コート24は、基材30の第1の側と第2の側の両方に配置されていてもよい。
【0151】
また、本実施形態の他の例として、波長板23が反射により参照光Lrを生じさせるのではなく、波長板23と位相差発生素子の間に、反射により参照光Lrを生じさせる部材が配置されていてもよい。
【0152】
また、本実施形態の他の例として、出射光Lpは、波長板23の第1の側の面で反射するのではなく、波長板23の第1の側の面と位相差発生素子の間で反射して参照光Lrを生じるようになっていてもよい。例えば、波長板23と位相差発生素子の間に、出射光Lpの一部を透過すると共に他の一部を反射して参照光Lrを生じさせる部材が配置されてもよい。すなわち、参照光Lrは、位相差発生素子よりも第2の側で反射して参照光を生じるようになっていればよい。なお、本実施形態と第1~第5実施形態で同様の構成からは、同様の効果を得ることができる。
【0153】
(第8実施形態)
次に第8実施形態について図13を用いて説明する。本実施形態では、第7実施形態に対して、コート24が廃され、基材30の構成が変更されている。
【0154】
具体的には、基材30の屈折率ns1は、空気の屈折率とは異なっている。また、基材30の、第1ビームLb1を通る位置における第1ビームLb1の進行方向に沿った厚みts1は、第2ビームLb2を通る位置における第2ビームLb2の進行方向に沿った厚みts2と、異なっている。具体的には、m×λ/4=(ns1-nair)×|ts1-ts2|という関係が満たされる。本実施形態においては、厚みts1は厚みts2よりも大きい。
以下、本実施形態におけるLiDAR送受信機の作動について説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第7実施形態と同じである。
【0155】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23に入り、一部が波長板23を透過して、基材30で構成される位相差発生素子の側に進み、他の一部が波長板23の第1の側の面23a、23bで反射して参照光Lrとなる。更に出射光Lpは、位相差発生素子を透過してビームスキャナ26に向かう。
【0156】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第7実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0157】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、基材30の厚みts1の部分を通過して、波長板23に入る。ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、基材30の厚みts2の部分を通過して、波長板23に入る。
【0158】
波長板23に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが面23a、23bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1、第2ビームLb2となる。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第7実施形態と同じである。
【0159】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrとの間には、位相差がない。しかし、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrとの間には、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差がm×λ/4できる。これは、図13に示すように、第1ビームLb1のターゲット反射光Ltrの光路は、第2ビームLb2のターゲット反射光Ltrの光路よりも、基材30内を通過する光路長が(n1-nair)×(ts1-ts2)だけ長いからである。
【0160】
この結果、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。これにより、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0161】
このようなIQ信号を活用することで、第7実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0162】
[1]また、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置の基材30の厚みと第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置の基材30の厚みとが異なる。このように位相差発生素子の基材30が第1位相差と第2位相差とを異ならせることにより、簡易にIQ信号を取得することができる。なお、本実施形態と第7実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0163】
(第9実施形態)
次に第9実施形態について、図14を用いて説明する。本実施形態は、第8実施形態に対して、位相差発生素子を構成する基材30の構成が異なっている。具体的には、基材30は、第1ビームLb1を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置に配置されると共に、第2ビームLb2を構成するターゲット反射光Ltrが通る位置を避けて配置される。
【0164】
本実施形態の基材30は、ターゲット反射光Ltrの進行方向に沿った厚みが一様である。具体的には、基材30の当該厚みをts1とし、基材30の屈折率をns1とし、奇数をmとし、基準波長をλとすると、m×λ/4=(ns1-nair)×ts1の関係が満足される。
【0165】
以下、本実施形態におけるLiDAR送受信機の作動について説明する。上述の通り、光源1から、基準周波数に対して増減変化する周波数を有する出射光Lpを出力する。この出射光は、コリメータ21で平行光のビームに集束された後、偏光ビームスプリッタ22に入る。本実施形態において、出射光Lp、ターゲット反射光Ltr、参照光Lrにおける偏光状態は、第8実施形態と同じである。
【0166】
出射光Lpは、偏光ビームスプリッタ22を透過して波長板23に入り、一部が波長板23を透過して第1の側に進み、他の一部が波長板23の第1の側の面23a、23bで反射して参照光Lrとなる。更に出射光Lpは、一部が基材30を透過し、別の一部が基材30をバイパスした後、ビームスキャナ26に向かう。
【0167】
ビームスキャナ26に向かった出射光Lpは、第8実施形態と同様にビームスキャナ26で反射してターゲットTGに向かい、ターゲットTGで反射してターゲット反射光Ltrとしてビームスキャナ26で反射する。
【0168】
ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第1ビームLb1を構成する部分は、基材30を通過して、波長板23に入る。ビームスキャナ26で反射したターゲット反射光Ltrのうち、第2ビームLb2を構成する部分は、基材30をバイパスして、波長板23に入る。
【0169】
波長板23に入ったターゲット反射光Ltrは、出射光Lpが面23a、23bで反射して生じた参照光Lrと合成されて、干渉光Lbの第1ビームLb1、第2ビームLb2となる。第1ビームLb1、第2ビームLb2のその後の経路は第8実施形態と同じである。
【0170】
ここで、第1ビームLb1、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrおよび参照光Lrの位相について説明する。第1ビームLb1における参照光Lrと、第2ビームLb2における参照光Lrとの間には、位相差がない。しかし、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと、第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrとの間には、偏光ビームスプリッタ22に向けて波長板23を出るまでの光路差が(ns1-nair)×ts1=m×λ/4できる。これは、図14に示すように、第1ビームLb1のターゲット反射光Ltrの光路は、基材30を通る分だけ、第2ビームLb2のターゲット反射光Ltrの光路よりも、基材30内を通過する光路長が(ns1-nair)×ts1だけ長いからである。
【0171】
この結果、第1ビームLb1を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差は、第2ビームLb2を構成する参照光Lrとターゲット反射光Ltrとの位相差に対して、π/2ずれる。これにより、それぞれの参照光Lrが同じビーム内のターゲット反射光Ltrと干渉し、I信号に対応する第1ビームLb1とQ信号に対応する第2ビームLb2が生成される。
【0172】
このようなIQ信号を活用することで、第8実施形態と同様、処理回路4は、ある瞬間における瞬時位相を回転方向も含め特定することができ、瞬時周波数も計算可能となる。したがって、距離算出、相対速度算出の精度が向上する。
【0173】
[16]以上のように、位相差発生素子は、第1ビームLb1が通る経路と第2ビームLb2が通る経路のうち第1ビームLb1が通る経路にのみ配置されることにより、第1位相差と第2位相差が異なる。このように、位相差発生素子の厚みおよび配置を調整することで、簡易にIQ信号を取得することができる。なお、本実施形態と第8実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0174】
(第10実施形態)
次に第10実施形態について、図15を用いて説明する。本実施形態は、第7実施形態に対して、追加レンズ28、29が設けられている。その他の構成は第7実施形態と同じである。追加レンズ28、29は、全体として、出射光Lpとターゲット反射光Ltrのビーム径を拡大または縮小するための組レンズを構成する。
【0175】
追加レンズ28、29は、波長板23に対して第1の側に配置され、かつ、基材30およびコート24から構成される位相差発生素子と波長板23との間に配置される。また、追加レンズ29は、追加レンズ28と位相差発生素子の間に配置される。
【0176】
このようにすることで、波長板23を通過した後の出射光Lpは、追加レンズ28で集光された後、追加レンズ29で再度平行光となり、位相差発生素子に進む。追加レンズ29を通過した後の出射光Lpのビーム径は、追加レンズ28に入る直前の出射光Lpのビーム径よりも大きい。
【0177】
また、ビームスキャナ26で反射された後のターゲット反射光Ltrは、位相差発生素子を透過して追加レンズ29で集光された後、追加レンズ28で再度平行光となり、波長板23に進む。追加レンズ28を通過した後のターゲット反射光Ltrのビーム径は、追加レンズ29に入る直前のターゲット反射光Ltrのビーム径よりも小さい。
【0178】
なお、本実施形態のような追加レンズ28、29の追加は、第8、第9実施形態に対して行ってもよい。本実施形態と第7~第9実施形態で同じ構成からは、同じ効果を得ることができる。
【0179】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。また、本発明は、上記各実施形態に対する以下のような変形例および均等範囲の変形例も許容される。なお、以下の変形例は、それぞれ独立に、上記実施形態に適用および不適用を選択できる。すなわち、以下の変形例のうち任意の組み合わせを、上記実施形態に適用することができる。
【0180】
(変形例1)
上記実施形態では、光学系2がコリメータ21およびビームスキャナ26を有しているが、これらのいずれも、必須の要素というわけではない。光源1から出射光Lpが平行光として出射される場合は、コリメータ21は不要である。また、検出対象を走査する必要がない場合は、ビームスキャナ26は不要である。
【0181】
(変形例2)
上記実施形態では、I信号とQ信号のそれぞれを個別の光検出器で受光するため、第1光検出器3aと第2光検出器3bが用いられる。そして、第1光検出器3a、第2光検出器3bの各々は、単体構成となっている。すなわち、それぞれ単一の光検出素子で構成されている。しかし、第1光検出器3a、第2光検出器3bの各々は、複数構成となっていてもよい。例えば、バランスドフォトディテクタを用いる場合は、I信号およびQ信号のそれぞれに対して2個の光検出素子が必要となるので、その場合は第1光検出器3aも第2光検出器3bも2個の光検出素子から構成される。
【0182】
この場合も、受光レンズ27は、第1光検出器3aおよび第2光検出器3bを構成する光検出素子の数と同数のレンズを有する。あるいは、受光レンズ27は、第1光検出器3aおよび第2光検出器3bを構成する光検出素子の数と同数のレンズ形状を有する単一のレンズアレイであってもよい。
【0183】
(変形例3)
上記実施形態では、光源1は1個のレーザ発振器を有しているが、他の例として、複数のレーザ発振器を有していてもよい。複数のレーザ発振器を有する場合、各レーザ発振器の基準波長は同じであっても異なっていてもよい。それら複数のレーザ発振器で生成された光は光導波路を用いて単一の導波路に結合された後に出射されてもよい。このとき、複数のレーザ発振器は同時に発光させてもよいし、時間的に異なるタイミングで発光させてもよい。
【0184】
また、複数のレーザ発振器の各波長が同一か否かに限らず、各レーザ発振器を空間的に異なる位置に設置されてもよい。あるいは、複数のレーザ発振器を並べて配置する代わりに、複数のレーザ発振器をそれぞれ別の光導波路へ接続し、接続した複数の光導波路を異なる位置に設置してもよい。またあるいは、複数ではなく単一のレーザ発振器からの出射光を光導波路へ結合させ、その光を複数の導波路へ分岐し複数の光源として扱ってもよい。
【0185】
(変形例4)
上記実施形態では、光路長補償素子25は、第1ビームLb1におけるターゲット反射光Ltrと第2ビームLb2におけるターゲット反射光Ltrとの位相差を解消するために用いられているが、解消するのではなく、位相差を(例えば1/2、1/3、2/3に)、光路長補償素子25が無い場合よりも、低減するだけでもよい。全体としてIQ信号が得られるよう、ターゲット反射光Ltrと参照光Lrの位相差が第1ビームLb1と第2ビームLb2とで異なるようになっていれば良い。
【0186】
(変形例5)
上記各実施形態における厚み形成部材の厚みおよび屈折率は、別記した以外は厚み形成部材の内部で一様であるが、他の例として、必ずしも一様である必要は無い。一様でない場合は、内部を厚み方向に通る光の光路長を調整する観点における実効的な厚みおよび屈折率を表す。
【符号の説明】
【0187】
1 光源
3a 第1光検出器
3b 第2光検出器
22 偏光ビームスプリッタ
23 波長板
24 コート
25 光路長補償素子
30 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15