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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174658
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】微小振動体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B81C 99/00 20100101AFI20241210BHJP
   G01C 19/5691 20120101ALI20241210BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241210BHJP
   C03B 23/035 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B81C99/00
G01C19/5691
B81B3/00
C03B23/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092596
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優輝
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 英昭
【テーマコード(参考)】
2F105
3C081
4G015
【Fターム(参考)】
2F105AA02
2F105BB15
2F105CC04
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA22
3C081BA26
3C081BA41
3C081BA53
3C081BA75
3C081CA14
3C081CA15
3C081CA20
3C081CA26
3C081CA28
3C081CA29
3C081CA32
3C081CA36
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA11
3C081DA27
3C081DA46
3C081EA02
4G015AA13
4G015AB01
(57)【要約】
【課題】三次元曲面を有する曲面部を備える微小振動体の製造方法において、曲面部の形状制御を容易にしつつ、型の表面凹凸が曲面部に転写されることを抑制する。
【解決手段】型100は、凹部110と前記凹部の中心から突き出した支柱部120とを有する。熱可塑性を有する加工材料10を型100の凹部110を覆うようにセットし、加工材料10を加熱するとともに、加工材料10により閉塞された凹部110を減圧する。 加工材料10を加熱しているとき、型100の排熱を行い、型100の温度を加工材料10の軟化点以下に維持する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元曲面を有する曲面部(21)と、前記曲面部から凹んだ有底筒状の接続部(22)とを備える微小振動体の製造方法であって、
凹部(110)と前記凹部の中心から突き出した支柱部(120)とを有する型(100)に、熱可塑性を有する加工材料(10)をセットすることと、
前記加工材料を加熱するとともに、前記加工材料により閉塞された前記凹部を減圧し、前記加工材料を前記凹部に沿って変形させることと、
前記加工材料を加熱しているときに、前記型を前記加工材料の軟化点以下の温度に維持することと、を含む微小振動体の製造方法。
【請求項2】
前記型は、前記凹部の内壁面(110a)の少なくとも一部が曲面を有する湾曲形状である、請求項1に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項3】
前記加工材料は、石英またはガラスである、請求項1に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項4】
前記型は、前記凹部の前記内壁面のうち湾曲部分に窪み部(140)および凸部(150)のうち少なくとも一方が形成されている、請求項2に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項5】
前記型は、前記凹部の前記内壁面が平面部(111)と曲面形状の湾曲部(112)とを有する、請求項2に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項6】
前記型は、前記支柱部のうち前記凹部の側の根元部(121)が湾曲面となっている、請求項1に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項7】
前記型を前記加工材料の軟化点以下に維持することにおいては、前記型のうち前記凹部とは反対側の下面(100b)に放熱部材(200)に配置し、前記放熱部材により前記型を冷却する、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の微小振動体の製造方法。
【請求項8】
前記型を前記加工材料の軟化点以下に維持することにおいては、前記型のうち前記加工材料がセットされる面を上面(100a)とし、前記上面とは反対側の面を下面(100b)とし、前記上面と前記下面とを繋ぐ面を側面(100c)として、前記側面から前記型を冷却する、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の微小振動体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元曲面を有する微小振動体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動運転のシステム開発が進められており、この種のシステムでは、高精度の自己位置の推定技術が必要である。例えば、いわゆるレベル3の自動運転向けに、GNSSとIMUとを備える自己位置推定システムの開発が進められている。GNSSとは、Global Navigation Satellite Systemの略称である。IMUは、Inertial Measurement Unitの略称であり、例えば、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサから構成される6軸の慣性センサである。将来的に、いわゆるレベル4以上の自動運転を実現するためには、現状よりもさらに高精度のIMUが求められる。
【0003】
このような慣性センサに用いられる微小振動体の製造方法としては、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の微小振動体の製造方法は、凹部および凹部の底面中心から突出する支柱部を有し、凹部内の真空減圧が可能な型と、石英板などのリフロー材料とを用意し、リフロー材料を凹部上にセットして火炎などで加熱しつつ、凹部内を減圧する。これにより、加熱により軟化したリフロー材料の一部が凹部内に引っ張られつつ、軟化部分の中心が支柱部に支えられた状態となり、三次元曲面を有する曲面部と、曲面部のなす半球部分の中心に向かって凹む有底筒状の接続部とを備える微小振動体を製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リフロー材料を局所的に加熱して軟化させる手段としては、特許文献1に記載の製造方法のように、ガスバーナーなどによる火炎を用いることが有力である。また、この製造方法は、軟化させたリフロー材料を凹部の壁面に接触させないで曲面部を形成するため、曲面部の出来栄えの自由度が高く、形状制御が難しいものの、曲面部の表面凹凸が小さく、振動特性のQ値の低下を抑制できる。
【0006】
しかしながら、ガスバーナーの火炎は、常に揺らいでいるため、リフロー材料を加熱する火炎の形状や大きさを細かく制御することが困難である。このため、上記の製造方法は、火炎の揺らぎによる加熱のバラツキが生じ、微小振動体の曲面部の形状制御が困難となる。また、軟化させたリフロー材料を凹部の壁面に接触させ、凹部の曲面形状に沿った形状に制御することも考えられるが、この方法は、曲面部の形状制御が容易であるものの、凹部の表面凹凸が曲面部に転写されてしまい、Q値が低下してしまう。
【0007】
本開示は、上記の点に鑑み、三次元曲面を有する曲面部を備える微小振動体の製造方法において、曲面部の形状制御を容易にしつつ、型の表面凹凸が曲面部に転写されることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの観点によれば、微小振動体の製造方法は、三次元曲面を有する曲面部(21)と、曲面部から凹んだ有底筒状の接続部(22)とを備える微小振動体の製造方法であって、凹部(110)と凹部の中心から突き出した支柱部(120)とを有する型(100)に、熱可塑性を有する加工材料(10)をセットすることと、加工材料を加熱するとともに、加工材料により閉塞された凹部を減圧し、加工材料を凹部に沿って変形させることと、加工材料を加熱しているときに、型を加工材料の軟化点以下の温度に維持することと、を含む。
【0009】
これにより、熱可塑性のある加工材料を型にセットして加熱軟化させつつ、加工材料で閉塞された型の凹部を減圧することで加工材料を凹部に沿って変形させ、三次元曲面が形成される。このとき、加熱中には型の温度を加工材料の軟化点以下に維持することで、軟化して変形した加工材料が型の凹部の内壁面に近づくほど加工材料から型への排熱が大きくなり、加工材料の軟化部分の変形が抑制され、凹部の内壁面に接しない状態となる。一方、凹部の内壁面に近づいていない部分は、加熱影響が排熱影響よりも大きいため、凹部の内壁面に近づくように変形を続けるが、内壁面との距離が近づくにつれて変形が抑制されることとなる。このため、加工材料を型の凹部に沿って変形させることが容易であるとともに、排熱による変形抑止がなされることで凹部の内壁面に接触せず、型の内壁面の表面凹凸が転写されることを抑制可能な微小振動体の製造方法となる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る微小振動体を備える慣性センサの一例を示す断面図である。
図2】実施形態に係る微小振動体を示す断面図である。
図3図1の慣性センサの斜視図である。
図4】微小振動体の製造工程の第1工程を示す図である。
図5図4に続く第2工程を示す図である。
図6】微小振動体の製造工程における熱伝導および排熱についての説明図である。
図7】加工材料と型との距離と熱量との関係を示す図である。
図8】比較例の微小振動体の製造工程を示す図であって、図5に相当する図である。
図9図5に相当する図であって、型の排熱の変形例を示す図である。
図10図5に相当する図であって、型の排熱の他の変形例を示す図である。
図11】微小振動体の製造に用いる型の他の一例を示す図である。
図12図11のXIIの領域の拡大断面図である。
図13】微小振動体の製造に用いる型の他の一例を示す図である。
図14】微小振動体の製造に用いる型の他の一例を示す図である。
図15】微小振動体の製造に用いる型の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(実施形態)
実施形態に係る微小振動体2を用いた慣性センサ1の一例について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、図3のI-I間の断面図に相当するものであり、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、別断面に位置する後述の第1電極部53および電極膜531の外郭が破線で示されている。図3では、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、慣性センサ1のうち後述する微小振動体2、下部基板4および上部基板5の一部を省略しつつ、微小振動体2の断面構成を部分的に示している。
【0015】
以下、説明の便宜上、図3に示すように、後述する実装基板3のなす平面方向の一方向を「x方向」と、同平面上において当該一方向に直交する他方向を「y方向」と、xy平面に対する法線方向を「z方向」と、それぞれ称する。図3以外の図中のx、y、z方向は、図3のx、y、z方向にそれぞれ対応するものである。また、本明細書における「上」とは、図中のz方向に沿った方向であって、矢印側を意味し、「下」とは上の反対側を意味する。さらに、本明細書では、z方向上側から慣性センサ1、微小振動体2あるいは実装基板3を見た状態を「上面視」と称することがある。
【0016】
〔慣性センサ〕
慣性センサ1は、例えば図1に示すように、微小振動体2と、実装基板3と、を備え、微小振動体2の一部が実装基板3に接合されてなる。慣性センサ1は、例えば、ワイングラスモードで振動可能な薄肉の微小振動体2の一部と実装基板3のうち複数の第1電極部53との間における静電容量の変化に基づいて、慣性センサ1に印加された角速度の検出が可能となっている。
【0017】
微小振動体2は、本実施形態では、例えば図1に示すように、略半球形状の三次元曲面の外形を含む曲面部21と、曲面部21のなす仮想半球の頂点側から当該半球の中心側に向かうように延設された接続部22とを備える。微小振動体2は、振動子あるいは共振器とも称されうる。接続部22は、有底筒状の凹部とされ、実装基板3等の他の部材と接続される接続部位である。微小振動体2は、例えば、椀状の三次元曲面とされた曲面部21を有するバードバス形状とされ、その振動のQ値が10以上となっている。
【0018】
微小振動体2は、本実施形態では、例えば、曲面部21および接続部22を有する基部が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスなどの添加物含有のガラス、金属ガラス、シリコン等によりなる熱可塑性のリフロー材料で構成される。なお、微小振動体2の基部は、後述する製造工程により曲面部21および接続部22が形成されるが、前述のリフロー材料の例に限定されない。微小振動体2は、例えば、曲面部21および接続部22の厚みが10μm~100μmのマイクロメートルオーダー、z方向の寸法が2.5mm、後述のリム211の表面2a側の外径が5mmといった具合のミリメートルオーダーのサイズとされる。微小振動体2の製造工程については、後述する。
【0019】
曲面部21のうち接続部22とは反対側の端部をリム211として、リム211は、例えば、略円筒形状とされる。略円筒形状とは、リム211の外側面および内側面の上端から下端までの径が同一の円筒形状だけでなく、当該上端から下端までの径が変動する筒形状も含む。言い換えると、曲面部21は、環状曲面形状の環状部とされたリム211を有する構成である。微小振動体2は、外径が大きいほうの面を表面2aとし、その反対面を裏面2bとして、実装基板3に搭載された際に、リム211が、表面2a側が実装基板3のうち複数の第1電極部53と距離を隔てて向き合っている。微小振動体2は、例えば図3に示すように、リム211と複数の第1電極部53との間隔が等間隔となるように搭載される。微小振動体2は、例えば、図2に示すように、リム211のうちz方向に面し、表面2aと裏面2bとを繋ぐ面を下面211aとして、下面211aが実装面22bよりもz方向下側に突き出た構成とされる。微小振動体2は、実装基板3への搭載時において、リム211を含む曲面部21が他の部材とは接触しない中空状態になる部位である。微小振動体2は、本実施形態では、実装基板3に搭載されたとき、中空状態のリム211がワイングラスモードで振動可能な三次元対称構造である。
【0020】
接続部22は、実装基板3等の他の部材と接続される接続部位であり、有底筒状の凹部となっている。接続部22のうち表面2a側の凹部底面22aは、例えば、微小振動体2を実装基板3に搭載する際の吸着搬送に利用されうる。接続部22のうち凹部底面22aとは反対側、すなわち裏面2b側の面は、実装基板3と向き合う実装面22bである。
【0021】
表面電極23は、例えば、限定するものではないが、下地側からクロムあるいはチタンで形成される密着層と、金や白金等の任意の導電性材料で形成される導電層との積層膜で構成される。表面電極23は、例えば、スパッタリング、蒸着、CVDやALD等の任意の成膜法により微小振動体2の表面2aおよび裏面2bに成膜される。CVDとは、Chemical Vapor Depositionの略称である。ALDとは、Atomic Layer Depositionの略称である。表面電極23は、例えば、少なくとも実装面22bおよびリム211の表面2aに成膜され、これらの部位が電気的に接続される構成となっている。表面電極23は、微小振動体2の表裏面の全域を覆うベタ形状であってもよいし、表裏面の一部を覆うパターン形状であってもよい。微小振動体2は、例えば、表面電極23のうち接続部22の実装面22bを覆う部分が、接合部材52を介して実装基板3に接続されている。
【0022】
実装基板3は、例えば図1に示すように、下部基板4と、上部基板5とを備え、これらが接合されてなる。例えば、実装基板3は、絶縁材料のホウケイ酸ガラスにより構成された下部基板4にエッチング加工および配線成膜を施した後、半導体材料のシリコンにより構成された上部基板5を下部基板4に陽極接合し、パターニングを行うことで得られる。実装基板3は、例えば、上部基板5の側に、複数の内枠部51と、内枠部51を囲むように互いに離れて配置された複数の第1電極部53と、複数の第1電極部53から離れてこれらを囲む第2電極部54とを備える。また、実装基板3は、例えば、下部基板4側に、例えば、内枠部51と複数の第1電極部53とを隔てつつ、複数の内枠部51を囲む円環形状の溝41と、溝41の内側と外側とを跨ぐ複数の配線42とを備える。
【0023】
溝41は、例えば、図3に示すように、内枠部51と複数の第1電極部53との間に設けられる溝であり、ウェットエッチングにより形成される。溝41は、微小振動体2のリム211の外径に対応する寸法とされ、微小振動体2を実装基板3に実装したときに、リム211を実装基板3に接触させないために設けられる。
【0024】
配線42は、例えばアルミニウム等の導電性材料により構成されるとともに、複数の第1電極部53の間を通過する配置とされ、複数の第1電極部53とは電気的に独立している。配線42は、例えば、複数設けられるとともに、下部基板4において溝41を跨ぎつつ、一端側が内枠部51に、他端が第2電極部54にそれぞれ接続されており、これらを電気的に接続している。これにより、実装基板3は、第2電極部54、配線42および内枠部51を介して、微小振動体2の表面電極23に電圧印加が可能となっている。
【0025】
内枠部51は、例えば、下部基板4に陽極接合された上部基板5にDRIEなどのドライエッチングを行うことで、複数の第1電極部53、第2電極部54とともに形成される。DRIEとは、Deep Reactive Ion Etchingの略称である。内枠部51は、例えば、上面視にて円環形状とされ、その囲まれた領域内に微小振動体2の接続部22を挿入することが可能な構成とされる。
【0026】
接合部材52は、例えば、金錫や焼結銀などの任意の導電性材料によりなり、微小振動体2の接続部22を実装基板3に固定するとともに、これらを電気的に接続する。
【0027】
複数の第1電極部53は、例えば、それぞれ上面に電極膜531が形成されるとともに、上面視にて、微小振動体2のリム211を所定距離で囲みつつ、xy平面上において1つの環を描くように等間隔で互いに離れて配置される。複数の第1電極部53は、例えば、電極膜531に図示しないワイヤが接続されており、図示しない外部の回路基板等により電位の制御が可能とされる。複数の第1電極部53は、微小振動体2のリム211とキャパシタを形成しており、リム211との間の静電容量の検出が可能となっている。複数の第1電極部53は、例えば、一部が静電容量を検出する検出電極とされ、他の一部が静電気力により微小振動体2を振動させる駆動電極とされる。
【0028】
第2電極部54は、例えば、上面視にて、内枠部51およびこの周囲に配置された複数の第1電極部53を囲む1つの枠体形状とされる。第2電極部54は、例えば、上面にアルミニウム等によりなる電極膜541を少なくとも1つ備え、電極膜541に図示しないワイヤが接続される。第2電極部54は、少なくとも配線42を介して微小振動体2の表面電極23に接続され、電圧を印加可能な構成であればよく、枠体形状以外の形状とされてもよいし、複数配置されてもよく、その形状や配置などについては適宜変更されうる。
【0029】
以上が、慣性センサ1の基本的な構成の一例である。なお、慣性センサ1は、上記の構成に限定されるものではなく、微小振動体2や実装基板3の一部の構成が変更されうる。例えば、微小振動体2は、リム211のうちz方向に面する下面211aと接続部22の実装面22bとが同一平面上に位置する構成であってもよいし、実装面22bが下面211aよりも突き出す構成であってもよい。例えば、微小振動体2がリム211よりも実装面22bのほうが突き出た構成である場合、実装基板3は、溝41を有しない構成とされうる。
【0030】
〔微小振動体の製造方法〕
次に、微小振動体2の製造方法、特に三次元曲面の形成方法について、図面を参照して説明する。
【0031】
図6では、後述する加熱装置300から加工材料10、型100および放熱部材200への熱の流れを分かり易くするため、熱の方向を太線の矢印で示している。これは、後述する図9図10についても同様である。
【0032】
例えば図4に示すように、微小振動体2の基部を構成する加工材料10と、曲面部21および接続部22を形成するための型100とを用意する。加工材料10は、例えば、厚み100μmの石英ガラスで構成される板材が用いられる。加工材料10は、型100の凹部110を塞ぐように配置される。
【0033】
型100は、例えば、凹部110と、凹部110の底部から突き出す円柱状の支柱部120と、凹部110に連通し、図示しない真空源による減圧を可能とする排気孔130とを備える。型100は、例えば、カーボンやボロンナイトライドなどの加工材料10よりも耐熱温度が高く、かつ軟化した加工材料10と反応せず、熱伝導率が所定以上の任意の材料で構成される。
【0034】
凹部110は、例えば、曲率半径が一定の半球形状とされた内壁面110aを有し、支柱部120の近傍に複数の排気孔130が形成されている。凹部110は、曲面部21を形成するために用いられ、加工材料10により閉塞された空間を構成し、排気孔130による減圧が可能となっている。凹部110は、例えば、上面100aに対する法線方向から見て、支柱部120を中心とする三次元対称な曲面形状となっており、内壁面110aが製造しようとする微小振動体2の曲面部21の設計に応じた湾曲形状とされる。
【0035】
支柱部120は、内壁面110aの底部中心から型100の厚み方向に沿って突き出しており、接続部22を形成するための部位である。型100のうち凹部110が形成され、加工材料10が配置される面を上面100aとし、その反対面を下面100bとし、上面100aと下面100bとを繋ぐ面を側面100cとして、型100は、下面100bが放熱部材200に当接している。
【0036】
放熱部材200は、例えば、水などの図示しない冷媒が流れる図示しない流路を有する構成とされ、型100が加工材料10の軟化点を超える温度とならないように放熱する部材である。放熱部材200は、例えば、加工材料10の加熱中に型100の熱を拡散し、排熱することで、加工材料10のうち熱により軟化した部分が凹部110の内壁面110aに接触することを抑制する。以下、説明の便宜上、加工材料10のうち加熱により軟化した部位を「軟化部位」と称する。
【0037】
次に、例えば図5に示すように、型100にセットされた加工材料10を加熱装置300により加熱する。加熱装置300は、例えば、バーナであり、火炎Fにより加工材料10のうち凹部110を覆う部分を局所的に加熱する。この加熱装置300の火炎Fからの入熱により、加工材料10には、その軟化点の温度を超えた軟化部位が生じる。そして、型100のうち凹部110と加工材料10とによりなる閉塞空間を減圧することで、加工材料10は、軟化部位が大気圧により押され、凹部110の内壁面110aおよび支柱部120に沿って変形する。このとき、加工材料10は、内壁面110a側に引っ張られて変形する曲面部位11と、支柱部120により支えられた支持部位12とを有する形状となる。加工材料10のうち曲面部位11が曲面部21となり、支持部位12が接続部22となる。また、加工材料10の軟化部位から型100に入熱され、型100の熱が放熱部材200に伝達して外部に排熱される。
【0038】
このとき、放熱部材200は、例えば図6に示すように、型100を冷却し、型100の温度が加工材料10の軟化点を超えないように維持する。これは、加工材料10の軟化部分が凹部110の内壁面110aに接触することを防ぎ、内壁面110aの表面凹凸が加工材料10に転写されないようにするためである。
【0039】
ここで、以下の(1)式に示すフーリエの熱伝達式によれば、2つの物体間において熱伝達する熱量は、当該2つの物体間の温度差に比例し、当該2つの物体間の距離が小さくなるほど大きくなる。
【0040】
【数1】
(1)式におけるQとは熱量(単位:W)、λとは熱伝達係数(単位:W/m2K)、Tとは温度差(単位:K)、xとは2つの物体間の距離(m)である。
【0041】
本発明者らの検討によれば、2つの物体、すなわち加工材料10および型100の温度が一定とすると、当該2つの物体間において熱伝達する熱量は、例えば図7に示すように、当該2つの物体間の距離と対数の関係となることが判明した。図7における縦軸の熱量は、加工材料10と型100との距離が1mmである場合における熱伝達の熱量を1としたときの相対的な熱伝達の熱量である。なお、図7では、加工材料10と型100との温度差が一定である場合において、加工材料10と型100との距離とこれらの熱伝達における熱量との関係を示している。
【0042】
つまり、型100が常に排熱され、加工材料10との温度差が所定以上とされていれば、加工材料10が凹部110の内壁面110aに接触する前に加工材料10から型100への排熱が非常に大きくなるため、加工材料10の熱変形が停止することとなる。
【0043】
具体的には、加工材料10は、凹部110の内壁面110aから遠い部分については、火炎Fからの入熱のほうが型100を介した排熱よりも大きいため、内壁面110aとの距離が所定以下となるまで熱変形を続け、内壁面110aに次第に近づく。このとき、火炎Fの揺らぎなどにより、加工材料10への入熱にバラツキが生じても、熱変形の時間を確保することで、加工材料10の熱変形のバラツキを抑制し、製造個体ごとの形状バラツキを低減することが可能となる。
【0044】
そして、加工材料10の軟化部位のうち凹部110の内壁面110aとの距離が所定以下となった部位、すなわち近接部位は、火炎Fからの距離が遠くなるとともに、内壁面110aに近づくほど型100への熱伝達が大きくなる。このため、加工材料10の近接部位は、火炎Fからの入熱よりも型100を介した排熱が大きくなる結果、軟化点よりも低い温度となり、熱変形が止まる。つまり、型100が放熱部材200により排熱され、常に加工材料10の軟化点以下の温度を保つことで、加工材料10の近接部位と内壁面110aとが非接触の状態が保たれ、内壁面110aの表面凹凸が加工材料10に転写されることがなくなる。
【0045】
よって、型100の排熱を行い、加工材料10の軟化点以下の温度を保つことで、凹部110の内壁面110aのなす曲面形状に概ね沿った対称な形状としつつも、内壁面110aの表面凹凸が転写されず、振動特性の高い微小振動体2を製造することができる。
【0046】
なお、加工材料10のうち凹部110から外側にはみ出した部分については加工されずに残るが、後工程で除去される。例えば、型100の凹部110を常圧に戻して、略半球形の曲面部21が形成された加工材料10を型100から取り外し、任意の硬化性樹脂材料によりなる封止材で加工材料10を封止する。その後、例えば、封止材ごとを加工後の加工材料10のうち不要な部分を研磨およびCMPにより除去した後、加熱や薬液等の任意の方法により封止材をすべて除去し、加工材料10の残部を取り出す。CMPとは、Chemical Mechanical Polishingの略称である。微小振動体2の基部は、例えば、上記のような製造プロセスにより製造されるが、曲面部位11および支持部位12の形成工程を除き、上記の製法例に限定されるものではなく、他の公知の方法を採用されても構わない。例えば、微小振動体2の基部は、曲面部位11および支持部位12が形成された加工材料10を封止せずに、曲面部位11よりも外側の不要部分をレーザ加工により除去されて形成されてもよい。その後、微小振動体2の基部に任意の成膜法によって表面電極23を成膜することで、曲面部21の三次元対称性が高く、かつ型100の表面凹凸が転写されてない微小振動体2を製造することができる。
【0047】
一方、例えば図8に示すように、略円柱形状の凹部410、と凹部410の底面中心から突き出す支柱部420と、凹部410に設けられた複数の排気孔430を有する比較例の型400を用い、型400の温度制御を行わない場合について検討する。この場合、加工材料10は、火炎Fからの入熱のバラツキが生じたとき、入熱が多い部分と入熱が少ない部分との熱変形に差が生まれ、曲面部位11の高さの差Hdが生じることで、非対称な形状となってしまう。このような非対称な形状の振動子は、Q値が低下してしまう。また、熱変形の時間を十分に確保した場合、加工材料10は、凹部410に沿って変形するが、型400の排熱がされないと、軟化部位が凹部410の壁面や底面に接触してしまい、凹部410の表面凹凸が転写されてしまう。この場合、得られる振動子は、対称な形状となるものの、表面凹凸が転写される結果、Q値が低下してしまう。
【0048】
本実施形態によれば、内壁面110aが三次元曲面を有する凹部110と、支柱部120とを備える型100を用い、型100を加工材料10の軟化点以下の温度に保つことで、曲面部位11の形状制御が容易、かつ内壁面110aとの接触を防ぐことができる。このため、三次元対称な曲面部21および接続部22を有し、曲面部21に振動のQ値の低下原因となるような表面凹凸が生じていない微小振動体2を製造することが可能な製造方法となる。
【0049】
(変形例)
(1)上記では、放熱部材200が図示しない冷媒を使用した冷却体とされた場合について説明したが、これに限定されるものではない。放熱部材200は、例えば図9に示すように、サイズをより大きくし、図示しない冷媒を使用しない構成であってもよい。つまり、放熱部材200は、少なくとも型100の下面10bに接触し、加工材料10から型100への排熱よりも、型100から放熱部材200への排熱が大きくなればよく、そのサイズや構成等については適宜変更されてもよい。本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
(2)上記では、放熱部材200を使用した型100の排熱について説明したが、放熱部材200を用いずに、型100の排熱を行ってもよい。例えば図10に示すように、型100を土台210に載置し、加工材料10の加熱時に型100の側面100cを空冷することにより、型100の熱を外部に逃がす冷却方法であってもよい。この場合、加工材料10から型100への排熱よりも、型100から外部への排熱が大きくなればよい。本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
(3)型100は、例えば図11に示すように、内壁面110aが楕円状、すなわち曲率半径が変化した湾曲面とされてもよい。この場合、例えば図12に示すように、加工材料10は、曲面部位11の熱変形が止まるときの内壁面110aとの距離Dが変化する。距離Dは、例えば、内壁面110aが略真円を描く湾曲形状の場合には100~200μm、内壁面110aが楕円状の場合には10μm、といった具合に変化する。つまり、型100は、内壁面110aの湾曲形状に応じて、加工材料10の曲面部位11の追従度合いが変わるものの、排熱の制御がなされることで、曲面部21をおおよそ内壁面110aの湾曲形状に沿った形状に制御することが容易となる。
【0052】
また、支柱部120のうち凹部110側に位置する根元部121は、例えば図11に示すように、湾曲した曲面形状とされることが好ましい。これにより、曲面部位11が支柱部120の根元部121に沿って変形し、得られる微小振動体2の基部の対称性をより向上させることが可能となる。
【0053】
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0054】
(4)型100は、例えば図13に示すように、内壁面110aが平面部111と、曲面形状の湾曲部112とを有する構成であってもよい。つまり、型100は、内壁面110aの少なくとも一部が曲面形状の部分を有する構成であればよく、一部が平面となっていても構わない。なお、この場合、例えば、内壁面110aは、上面100a側の端部の近傍が平面部111とされ、他の部位が湾曲部112とされるが、これに限定されるものではない。本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
(5)型100は、例えば図14に示すように、内壁面110aのうち湾曲部分が窪み部140を有し、内壁面110aの一部が他の部分よりも凹んだ構成であってもよい。このような構成とされた型100を用いる場合、加工材料10は、例えば、曲面部位11が窪み部140に向かって突出する突起部位13を有する形状となる。
【0056】
また、型100は、例えば図15に示すように、内壁面110aのうち湾曲部分が凸部150を有し、内壁面110aの一部が他の部分よりも突出した構成であってもよい。このような構成とされた型100を用いる場合、加工材料10は、例えば、曲面部位11が凸部150に沿って変形し、支持部位12に向かって凹んだ凹部位14を有する形状となる。
【0057】
さらに、上記では、内壁面110aが窪み部140または凸部150を有する例について説明したが、内壁面110aが窪み部140および凸部150の両方を有する形態であってよく、得たい振動子の設計に応じて適宜変更されうる。
【0058】
本変形例によれば、上記実施形態の効果に加えて、得られる振動子の共振周波数の制御が可能となる効果も得られる。
【0059】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0060】
なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
10…加工材料、21…曲面部、22…接続部、100…型、100a…上面
100b…下面、100c…側面、110…凹部、110a…内壁面、111…平面部
112…湾曲部、120…支柱部、121…根元部、140…窪み部、150…凸部
200…放熱部材
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