(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174665
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】炭酸ガス固定化装置、炭酸ガスの固定化方法、コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/24 20060101AFI20241210BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20241210BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B28B11/24
C04B40/02
C01F11/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092609
(22)【出願日】2023-06-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発/CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】勝部 英一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊作
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕士
【テーマコード(参考)】
4G055
4G076
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G076AA16
4G076AB05
4G076BA30
4G076BC06
4G076BD10
4G076BE02
4G076BH01
4G076CA01
4G076DA30
4G112RA02
4G112RC00
(57)【要約】
【課題】メンテナンスの手間が低減されかつ炭酸ガスの固定速度を高めることが可能な、炭酸ガス固定化装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、炭酸ガス固定化液を収容する容器と、前記容器内に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給部を備える炭酸ガス固定化装置であって、前記容器は、容器本体と蓋部を備え、前記容器本体は、開口部を有し、前記蓋部は、前記開口部を気密に塞ぐように前記容器本体に装着され、前記容器は、前記容器の自転によって前記炭酸ガス固定化液からなる液相部と前記炭酸ガスを含む気相部とが混合可能に構成され、前記炭酸ガス供給部の前記容器内での開口端は、前記気相部に配置されている、装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス固定化液を収容する容器と、前記容器内に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給部を備える炭酸ガス固定化装置であって、
前記容器は、容器本体と蓋部を備え、
前記容器本体は、開口部を有し、
前記蓋部は、前記開口部を気密に塞ぐように前記容器本体に装着され、
前記容器は、前記容器の自転によって前記炭酸ガス固定化液からなる液相部と前記炭酸ガスを含む気相部とが混合可能に構成され、
前記炭酸ガス供給部の前記容器内での開口端は、前記気相部に配置されている、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
さらに、前記容器の内部と外部を連通させる外部連通部を備え、
前記外部連通部は、炭酸ガスの流量、及び/又は風向を測定可能な測定手段を備える、装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の装置であって、
前記蓋部には回転部と固定部とで構成されるロータリージョイントが設けられており、
前記炭酸ガス供給部と、前記外部連通部は、それぞれ、前記固定部に接続されている、装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の装置であって、
前記容器本体は、前記開口部の開口端から離れた位置にフランジ部を備え、
前記蓋部が前記フランジ部に密着することによって前記開口部が気密に塞がれる、装置。
【請求項5】
請求項2に記載の装置を用いた炭酸ガスの固定化方法であって、
前記容器内に前記炭酸ガス固定化液及び炭酸ガスを収容した状態で前記容器を自転させて前記炭酸ガス固定化液と前記炭酸ガスを混合する混合工程と、
前記測定手段で得られる炭酸ガスの流量、及び/又は容器に対するガスの出入りを示す風向で、前記気相部に供給する炭酸ガスの流量を制御する制御工程と、
を備える、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記制御工程において、固定しきれなかった炭酸ガスが前記外部連通部を通じて排出される場合、前記固定しきれなかった炭酸ガスは、前記炭酸ガス固定化液を貯留した貯留部に導入される、方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の方法であって、
前記炭酸ガス固定化液は、セメントを含む、方法。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の方法を用いたコンクリートの製造方法であって、
前記混合工程及び制御工程によって炭酸ガスが固定化された液相部が練混ぜ水の一部に用いられる、コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス固定化装置、炭酸ガスの固定化方法、及びコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セメント水和物と水との混合物に炭酸ガス(CO2)を吹き込むことによって、セメント水和物に炭酸ガスを固定化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、セメント水和物と水との混合物中に炭酸ガスを吹き込んでいるために、炭酸ガスの供給口に詰まりが生じやすく、メンテナンスに手間がかかる。また、炭酸ガスの固定速度は、特許文献1の方法で十分であるといえず、炭酸ガスの固定速度を高めることが望まれている。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、メンテナンスの手間が低減されかつ炭酸ガスの固定速度を高めることが可能な、炭酸ガス固定化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]炭酸ガス固定化液を収容する容器と、前記容器内に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給部を備える炭酸ガス固定化装置であって、前記容器は、容器本体と蓋部を備え、前記容器本体は、開口部を有し、前記蓋部は、前記開口部を気密に塞ぐように前記容器本体に装着され、前記容器は、前記容器の自転によって前記炭酸ガス固定化液からなる液相部と前記炭酸ガスを含む気相部とが混合可能に構成され、前記炭酸ガス供給部の前記容器内での開口端は、前記気相部に配置されている、装置。
[2][1]に記載の装置であって、さらに、前記容器の内部と外部を連通させる外部連通部を備え、前記外部連通部は、炭酸ガスの流量、及び/又は風向を測定可能な測定手段を備える、装置。
[3][1]又は[2]に記載の装置であって、前記蓋部には回転部と固定部とで構成されるロータリージョイントが設けられており、前記炭酸ガス供給部と、前記外部連通部は、それぞれ、前記固定部に接続されている、装置。
[4][1]又は[2]に記載の装置であって、前記容器本体は、前記開口部の開口端から離れた位置にフランジ部を備え、前記蓋部が前記フランジ部に密着することによって前記開口部が気密に塞がれる、装置。
[5][2]に記載の装置を用いた炭酸ガスの固定化方法であって、前記容器内に前記炭酸ガス固定化液及び炭酸ガスを収容した状態で前記容器を自転させて前記炭酸ガス固定化液と前記炭酸ガスを混合する混合工程と、前記測定手段で得られる炭酸ガスの流量、及び/又は容器に対するガスの出入りを示す風向で、前記気相部に供給する炭酸ガスの流量を制御する制御工程と、を備える、方法。
[6][5]に記載の方法であって、前記制御工程において、固定しきれなかった炭酸ガスが前記外部連通部を通じて排出される場合、前記固定しきれなかった炭酸ガスは、前記炭酸ガス固定化液を貯留した貯留部に導入される、方法。
[7][5]又は[6]に記載の方法であって、前記炭酸ガス固定化液は、セメントを含む、方法。
[8][5]又は[6]に記載の方法を用いたコンクリートの製造方法であって、前記混合工程及び制御工程によって炭酸ガスが固定化された液相部が練混ぜ水の一部に用いられる、コンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法では、炭酸ガスを気相中に供給することができるので、炭酸ガスの供給口に詰まりが生じにくく、メンテナンスの手間が低減される。また、後述の実施例・比較例で示すように、容器の自転によって炭酸ガス固定化液からなる液相部と炭酸ガスを含む気相部を混合させる方法は、撹拌羽根を用いた撹拌に比べて、炭酸ガスの固定速度が高い。従って、本発明によれば、メンテナンスの手間が低減されかつ炭酸ガスの固定速度を高めることが可能な炭酸ガス固定化装置が提供される。また、本発明の装置では、容器本体の開口部が蓋部で気密に塞がれるように構成されているので、容器内に供給する炭酸ガスの流量を制御しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の炭酸ガス固定化装置10の斜視図である。
【
図2】
図1の状態から蓋部5が容器本体4から離れた状態を示す、蓋部5近傍の拡大図である。
【
図3】
図2から蓋部5、ロータリージョイント9、及び各種配管を抜き出して拡大した図である。
【
図5】
図1の炭酸ガス固定化装置10の変形例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態のコンクリートの製造方法を説明するための説明図である。
【
図7】実施例1及び比較例1での炭酸ガス固定速度の経時変化を示すグラフである。
【
図8】実施例1及び比較例1での容器1内の炭酸ガス濃度と、炭酸ガス固定速度の関係を示すグラフである。
【
図9】試験2での、容器1内の炭酸ガス濃度と、外部連通管3aを通じたガスの流入出量が最小となる炭酸ガス供給速度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0010】
1.炭酸ガス固定化装置10
図1~
図4を用いて、本発明の一実施形態の炭酸ガス固定化装置10について説明する。
図1に示すように、炭酸ガス固定化装置10は、炭酸ガス固定化液を収容する容器1と、容器1内に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給部2と、容器1の内部と外部を連通させる外部連通部3と、容器1内の炭酸ガス濃度を測定する炭酸ガス濃度測定部8を備える。外部連通部3及び炭酸ガス濃度測定部8は、それぞれ、不要な場合には省略可能である。
【0011】
炭酸ガス固定化液は、炭酸ガスを固定化可能な固定化成分を含む液である。炭酸ガス固定化液は、一例では、アルカリ性水溶液であり、この場合、アルカリ性水溶液と炭酸ガスとの中和反応によって炭酸ガスを固定化できる。炭酸ガスの固定化は、好ましくは、固定化成分と炭酸ガスの反応により炭酸塩を生成させることによって行うことが好ましい。炭酸塩が炭酸カルシウムのように水に難溶性である場合、炭酸塩を析出させることができる。
【0012】
炭酸ガス固定化液は、一例では、セメントを含むセメント含有液である。セメントは、好ましくは、ポルトランドセメントを含む。ポルトランドセメントは、例えば、普通ポルトランドセメントであり、ケイ酸三カルシウム(略称はエーライトで組成は3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(略称はビーライトで組成は2CaO・SiO2)などのカルシウムシリケートを含む。カルシウムシリケート水和物と炭酸ガスの反応によって炭酸カルシウムが生成される。
【0013】
セメント含有液は、セメントと水を混合してセメントを水に分散させることによって得ることができる他、生コン製造設備を洗浄する過程で発生する洗浄水や戻りコン(工事現場で余り生コン工場へ戻ってきた生コン)などを水で溶解し、砂利・砂を取り除く分級処理によって得ることができる。洗浄水や戻りコンから得られるセメント含有液は、一般にスラッジ水と言われる。なお、スラッジ水の上澄み液はセメントを含んでいないが、セメント由来の溶解成分を含むため、セメント含有液と定義する。スラッジ水は、必要な処理を行うことによって、生コンクリートの製造に利用可能である。いずれの場合も、セメントやセメント由来の溶解成分と炭酸ガスを反応させて炭酸ガスを固定化することができる。また、炭酸カルシウムを析出させることによって、コンクリートを強化することもできる。
【0014】
容器1は自転可能に構成されており、容器1内に炭酸ガス固定化液と炭酸ガスが収容された状態で容器1を自転させることによって、炭酸ガス固定化液からなる液相部1cと炭酸ガスを含む気相部1dを混合して炭酸ガス固定化液に炭酸ガスを固定化することができる。このような方法によれば、炭酸ガス固定化液を撹拌しながら炭酸ガス固定化液内に炭酸ガスを吹き込むような方法に比べて、炭酸ガスの固定速度を高めることができる。また、炭酸ガスの供給口を炭酸ガス固定化液内に設ける必要がないので、炭酸ガス固定化液に含まれる固形分によって供給口が詰まることが抑制されて、メンテナンスの手間を低減させることができる。
【0015】
容器1は、好ましくは、回転軸1aを中心に自転するように構成されている。容器1を自転させるための駆動機構7は、好ましくは、回転軸1aを回転させるモータ7aと、容器1の側面を支持しながら回転することによって容器1を自転させるローラ7bの一方又は両方によって構成される。
【0016】
容器1内には、容器1の自転に伴って、回転軸1aを中心に回転する回転部材1bが設けられていることが好ましい。容器1の自転に伴って回転部材1bが回転することによって炭酸ガス固定化液と炭酸ガスの混合が促進される。回転部材1bは、例えば、回転軸1aに対して非垂直方向に延びるブレード1b1である。ブレード1b1によって炭酸ガス固定化液が掬い上げられた後に炭酸ガス固定化液が重力の作用で落下するという工程が繰り返されることによって炭酸ガス固定化液と炭酸ガスが効率的に混合される。ブレード1b1は、好ましくは、容器1の底面又は側面から突出するように設けられる。
【0017】
ブレード1b1は、一例では、螺旋状に設けられる。この場合、容器1の自転に伴うブレード1b1の回転によって炭酸ガス固定化液の搬送が可能になる。具体的には、炭酸ガス固定化液を容器1に注入する際には容器1を一方向に自転させることによって容器1の底部に向かって炭酸ガス固定化液を搬送し、炭酸ガス固定化液を容器1から排出する際には容器1を他方向に自転させることによって容器1の開口部4aに向かって炭酸ガス固定化液を搬送することができる。この場合、容器1の傾斜角度を変更することなく、容器1から炭酸ガス固定化液を排出することが可能になるので効率的である。一方、容器1を傾動可能にする傾動機構を設け、傾動機構によって容器1を傾動させることによって容器1内の炭酸ガス固定化液を排出するように構成してもよい。
【0018】
回転部材1bは、回転軸1aを中心に公転すると共に、別の回転軸を中心に自転するようなものであってもよい。この場合、回転部材1bの自転によって、炭酸ガス固定化液と炭酸ガスの混合が一層促進される。
【0019】
炭酸ガス供給部2は、容器1内に炭酸ガスを供給可能に構成される。炭酸ガス供給部2の容器1内での開口端2a4は、気相部1dに配置されている。
図3に示すように、炭酸ガス供給部2は、好ましくは、炭酸ガス供給管2aと、炭酸ガス供給源2bを備える。炭酸ガス供給管2aは、一端が炭酸ガス供給源2bに接続され、他端が容器1の内部に配置された配管である。炭酸ガス供給源2bから放出された炭酸ガスが炭酸ガス供給管2aを通じて容器1内に供給される。炭酸ガス供給源2bは、例えば炭酸ガスボンベである。炭酸ガスボンベ内の炭酸ガスは、例えば、炭酸ガスを発生させる設備(工場や発電所)で発生した炭酸ガスを回収したものであることが好ましい。このような炭酸ガスを用いることによって大気中への炭酸ガスの排出量を低減させることができる。
【0020】
炭酸ガス供給部2は、炭酸ガス供給管2aを流れる炭酸ガスの流量を測定可能なガス流量計2cを備えることが好ましい。この場合、炭酸ガスの供給速度の調整、供給量の把握が容易になる。
【0021】
外部連通部3は、容器1の内部と外部を連通させるように構成される。外部連通部3を設けることによって容器1の内部が減圧又は加圧されることを防ぐことができ、減圧又は加圧に伴う容器1の変形を抑制することができる。外部連通部3は、好ましくは、外部連通管3aを備える。外部連通管3aは、一端が容器1の内部に配置され、他端が容器1の外部に配置された配管である。外部連通部3は、外部連通管3aを設ける代わりに、容器1に設けた開口によって構成してもよい。
【0022】
外部連通部3は、炭酸ガスの流量、及び/又は風向を測定可能な測定手段3bを備えることが好ましい。外部連通部3を流れる炭酸ガスの流量及び/又は風向を把握することによって、容器1への炭酸ガスの供給流量が適正化どうかを判断することができる。測定手段3bは、外部連通部3を通じた排気流量のみを測定可能であってもよく、吸気流量のみを測定可能であってもよいが、排気流量と吸気流量の両方が測定可能であることが好ましい。測定手段3bは、排気流量と吸気流量の両方が測定可能な1台の機器で構成してもよく、排気流量を測定するための第1測定手段3b1と、吸気流量を測定するための第2測定手段3b2で構成してもよい。
【0023】
炭酸ガス濃度測定部8は、容器1内の炭酸ガス濃度を測定可能に構成されている。炭酸ガス濃度測定部8は、好ましくは、炭酸ガス濃度測定管8aを備え、炭酸ガス濃度測定管8aを通じて容器1から取り出された炭酸ガスを、容器1外に配置された炭酸ガス検出部8bで検出することによって、容器1内の炭酸ガス濃度を測定することができる。容器1内の炭酸ガス濃度を測定することによって、炭酸ガスの固定速度の計測や、炭酸ガス供給速度の調整を行いやすくなる。
【0024】
容器1は、好ましくは、容器本体4と蓋部5を備える。炭酸ガス固定化液は、容器本体4内に収容される。
図2に示すように、容器本体4は、開口部4aを有する。蓋部5は、開口部4aを気密に塞ぐように容器本体4に装着される。蓋部5が開口部4aを気密に塞ぐことによって、容器1内の炭酸ガスが外部連通部3を通じて流出する流量を精度良く測定することが可能になる。これによって、炭酸ガスの不要な流出を抑制したり、炭酸ガスの固定化量を精度良く算出したりすることが可能になる。また、本実施形態の装置では、1つの開口部4aを通じて炭酸ガス固定化液の投入及び搬出を行っているので、1つの開口部4aのみを蓋部5で塞ぐだけで、気密性を高めることが可能になっている。
【0025】
図2に示すように、容器本体4は、好ましくは、開口部4aの開口端4bから離れた位置にフランジ部4cを備え、蓋部5がフランジ部4cに密着することによって開口部4aが気密に塞がれる。蓋部5を開口端4bに密着させることによって開口部4aを気密に塞ぐこともできるが、炭酸ガス固定化液に固形分が含まれている場合には、容器本体4から内容物を取り出す際に開口端4bに固形分が付着しやすく、蓋部5と開口端4bの間に固形分が挟まると気密性が低下してしまう場合がある。一方、フランジ部4cは開口端4bから離れた位置にあるので、炭酸ガス固定化液に固形分がフランジ部4cに付着しにくく、気密性の低下が抑制される。なお、このような構成は、炭酸ガス固定化装置用の容器に限らず、気密性が必要な任意の容器に適用可能である。
【0026】
フランジ部4cは、蓋部5の開口端5a1に対向する部位に、ゴムなどの弾性体で構成されたシール部材4c1を備えることが好ましい。シール部材4c1は環状であることが好ましい。この場合、蓋部5(より詳しくは、筒部5aの開口端5a1)がシール部材4c1に押し付けられることによって気密性が高められる。蓋部5は、好ましくは、筒部5aと、上壁部5bを備える。上壁部5bは、筒部5aの一端を閉塞するように設けられる。
【0027】
蓋部5は、駆動機構6によって開閉可能に構成されることが好ましい。駆動機構6は、一例ではシリンダ機構6aである。シリンダ機構6aは、好ましくは、シリンダ6a1と、ピストンロッド6a2を備え、シリンダ6a1が容器本体4に固定され、ピストンロッド6a2が蓋部5に固定される。この場合、ピストンロッド6a2の突出量を変化させることによって、蓋部5を開閉することができる。また、ピストンロッド6a2の突出量を小さくする方向の力によって蓋部5をフランジ部4cに押し付けることができる。シリンダ6a1は、容器本体4に設けられたシリンダ固定部4dに固定することができる。なお、シリンダ6a1は、容器本体4以外の部位に固定してもよく、ピストンロッド6a2は、蓋部5以外の部位に固定してもよい。一例では、
図5に示す変形例のように、ピストンロッド6a2をロータリージョイント9に固定してもよい。また、シリンダ6a1は、ロータリージョイント9から見て、蓋部5とは反対側に配置してもよい。この場合、シリンダ6a1は、任意の固定箇所に固定させることができる。この場合、容器本体4が回転しても、シリンダ機構6aが回転しないという利点がある。また、このような構成でも、ピストンロッド6a2の突出量を変化させることによって、蓋部5を開閉することができる。具体的には、ピストンロッド6a2の突出量を小さくすることによって蓋部5を開き、ピストンロッド6a2の突出量を大きくすることによって蓋部5を容器本体4(好ましくはフランジ部4c)に押し付けることができる。
【0028】
図3及び
図4に示すように、炭酸ガス供給管2a、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aは、それぞれ、蓋部5(好ましくは上壁部5b)を貫通するように設けることが好ましい。炭酸ガス供給管2aは、容器1内の開口端2a4が、外部連通管3aの、容器1内の開口端3a4よりも、蓋部5の上壁部5bから離れた位置(言い換えると、容器本体4の底部に近い位置)に配置される。これによって、炭酸ガス供給管2aから供給された炭酸ガスが、炭酸ガス固定化液に固定化される前に外部連通管3aを通じて排出されることが抑制される。
【0029】
また、蓋部5には、回転部9aと固定部9bで構成されるロータリージョイント9が設けられていることが好ましい。回転部9aと固定部9bは、互いに相対回転可能である。回転部9aが蓋部5に固定される。炭酸ガス供給源2b、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aは、それぞれ、固定部9bに固定されている。炭酸ガス供給源2b、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aは、それぞれ、ロータリージョイント9内を通じて容器1内に繋がっている。言い換えると、炭酸ガス供給源2b、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aは、蓋部5に設けたロータリージョイント9で回転部2a1,3a1,8a1と固定部2a2,3a2,8a2に分割されている。
【0030】
各配管の回転部2a1,3a1,8a1は、それぞれの一端がロータリージョイント9の回転部9aに連結され、それぞれの他端が蓋部5を貫通して容器1内に配置される。一方、各配管の固定部2a2,3a2,8a2は、一端がロータリージョイント9の固定部9bに連結される。各配管の回転部2a1,3a1,8a1と、各配管の固定部2a2,3a2,8a2は、ロータリージョイント9内に設けられた流路2a3,3a3,8a3を通じて互いに導通されている。このため、回転部9aと固定部9bが相対回転しても、各配管の回転部2a1,3a1,8a1と固定部2a2,3a2,8a2の導通が維持される。炭酸ガス供給源2bの固定部2a2の他端は、炭酸ガス供給源2bに連結される。外部連通管3aの固定部3a2の他端は、炭酸ガス固定化液を貯留した貯留部(例:水槽23(
図6に図示)又はタンク)に接続される。炭酸ガス濃度測定管8aの固定部8a2の他端は、炭酸ガス検出部8bに連結される。
【0031】
2.炭酸ガスの固定化方法
本発明の一実施形態の炭酸ガスの固定化方法は、上記記載の炭酸ガス固定化装置10を用いて実施することができる。この方法は、容器1内に前記炭酸ガス固定化液及び炭酸ガスを収容した状態で前記容器を自転させて前記炭酸ガス固定化液と前記炭酸ガスを混合する混合工程と、測定手段3bで得られる炭酸ガスの流量、及び/又は容器1に対するガスの出入りを示す風向で、気相部1dに供給する炭酸ガスの流量を制御する制御工程を備える。この工程によって、炭酸ガスを炭酸ガス固定化液に固定化することができる。出入りするガスとしては、容器1から出るガス(例:炭酸ガス)や、容器1に入るガス(例:空気、空気と炭酸ガスの混合ガス)が挙げられる。
【0032】
前記制御工程では、炭酸ガスの流量は、外部連通部3を通じて流れる炭酸ガスの流量がゼロになるように制御されることが好ましい。炭酸ガスの供給速度が炭酸ガスの固定速度よりも高い場合、固定しきれなかった炭酸ガスが外部連通部3を通じて排出される。この場合、炭酸ガスの供給速度を下げることによって、炭酸ガスの排出を抑制することができる。一方、炭酸ガスの供給速度が炭酸ガスの固定速度よりも低い場合、容器1内が減圧状態になって外部連通部3を通じて外気が容器1内に導入される。この場合、炭酸ガスの供給速度を高めることによって、炭酸ガスの固定速度を高めることができる。従って、外部連通部3を通じて流れる炭酸ガスの流量がゼロになるように炭酸ガスの供給速度を制御することによって、炭酸ガスの外部への排出を抑制しつつ、炭酸ガスを効率的に固定化することが可能になる。
【0033】
前記制御工程において、固定しきれなかった炭酸ガスが外部連通部3を通じて排出される場合、固定しきれなかった炭酸ガスは、炭酸ガス固定化液を貯留した貯留部に導入し、前記炭酸ガス固定化液に固定化処理することができる。この場合、固定しきれなかった炭酸ガスの発生量に対して、十分な量の炭酸ガス固定化液を用いることで、大気中に放出することなく回収することが可能となる。
【0034】
3.コンクリートの製造方法
図6を用いて、本発明に係るコンクリートの製造方法を、炭酸ガス固定化液の一例としてセメント含有液であるセメントを分散させた水(セメント分散水20)を用いて説明する。ここで、セメント分散水20は、スラッジ水、水とセメントを合わせて作ったもの等をいう。
【0035】
図6の装置では、炭酸ガスを固定化する前のセメント分散水20bを水槽23に貯留し、水槽23中のセメント分散水20bを炭酸ガス固定化装置10に移送し、炭酸ガスを供給することで固定化を行う。外部連通管3aは、水槽23に連結されており、固定しきれなかった炭酸ガスを水槽23に供給して回収する構成となっている。
【0036】
本発明では、上記の混合工程及び制御工程によって炭酸ガスを供給して固定化したセメント分散水20(「液相部」の一例)がコンクリート製造時の練混ぜ水の一部として用いられる。セメント分散水を練混ぜ水に用いる過程で、水の他に含まれるセメントと固定化された炭酸ガスをコンクリートの材料に使用できる。本実施形態では、炭酸ガスを供給したセメント分散水20をセメント分散水槽15に貯留させ、必要量をミキサー12に供給するようにしているが、直接、炭酸ガス固定化装置10から炭酸ガスを供給したセメント分散水20をミキサー12に供給してもよい。
【0037】
図6では、炭酸ガス固定化装置10は1台としているが、2台以上が好ましく、実際には、バッチャープラント11のミキサー12の製造能力をもとに決定する。例えば、バッチャープラント11のミキサー12は、通常バッチ処理で稼働させるため、1バッチの練混ぜ量が2.3m
3のミキサー12が1時間に60~75バッチ稼働した場合、一般的に1m
3のコンクリートを作る際、使用する水は170L前後になるため1時間当たりの練混ぜ水の必要量は20~30m
3となる。
【0038】
本発明では、炭酸ガス固定化装置10の稼働もバッチ処理で、1バッチ当たりの炭酸ガスの固定化に要する時間が20分以上になるため、セメント分散水20の収容量が5m3の炭酸ガス固定化装置10を用いた場合、1台で処理できる量が1時間当たり、最大でも15m3となる。従って、このような条件では炭酸ガス固定化装置10を2台以上設置すれば良い。
【0039】
炭酸ガス固定化装置10によって、炭酸ガスが供給されたセメント分散水20はシュート16に投入され、ポンプを用いてセメント分散水槽15に移送される。炭酸ガス固定化装置10の設置台数が増えた場合は、シュート16を適宜拡張すれば良い。また、本発明では、セメント分散水槽15を設置することで、炭酸ガス固定化装置10とミキサー12の処理能力の差を調整し、バッチャープラント11でのコンクリート製造を円滑に行えるようにする。セメント分散水槽15はセメントの沈殿を防ぐための撹拌機17を備える。
【0040】
また、バッチャープラント11にバッファータンク19を設け、セメント分散水20はポンプを用いてバッファータンク19とセメント分散水槽15の間を循環させて置き、コンクリートの製造信号を受けた際に、バッファータンク19から練混ぜ水計量器13に移す。セメント分散水20をバッファータンク19とセメント分散水槽15の間を循環させることで、セメント分散水20を移送する配管内のスケール(固着物)の発生や成長が抑えられる。更に、バッファータンク19から練混ぜ水計量器13に移すことで、ポンプ能力に頼ることなくミキサー12に投入する練混ぜ水を短時間で計量できる。練混ぜ水計量器13に入ったセメント分散水20は、セメント分散水濃度計18で得られたセメント固形分濃度から計量した水量を割り出し、所定のコンクリート配合の水量になるよう、適宜、清水21を追加する。
【0041】
計量したセメント分散水20は、それに含まれるセメント量を差し引いた量の配合セメント、及び骨材と共にミキサー12で混練することで、炭酸ガスを取り込んだコンクリートが容易に製造できる。
【実施例0042】
1.試験1:攪拌方式の違いによる炭酸ガス固定速度の違いの検証試験
<概要>
試験1では、攪拌方式の違いによる炭酸ガス固定速度の違いを検証する試験を行った。
【0043】
<模擬スラッジ水の作製>
まず、普通ポルトランドセメント3.53kgと水20L(kg)を混合・撹拌して濃度が15質量%のサンプルを作成した。このサンプルは、スラッジ水に近い組成を有するものであり、以下、「模擬スラッジ水」と称する。
【0044】
<実施例1>
実施例1では、ポッドミキサである電動コンクリートミキサーまぜ太(アルミス製、型式AMZ-30Y、容器容積63L)に設けられた容器本体4内に模擬スラッジ水を投入した後に、開口部4aを密閉する蓋部5を装着して容器1を構成した。蓋部5には、ロータリージョイント9(CKD製、型式:RJF-6A-04)を固定した。
【0045】
ロータリージョイント9には、
図3で示すように、炭酸ガス供給管2a、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aをロータリージョイント9で分割するように接続した。炭酸ガス供給管2aは、容器1内の開口端2a4が模擬スラッジ水に浸からない位置になるように配置した。外部連通管3aは、ガスが自由に出入りすることができるようになっており、炭酸ガス供給管2aを通じて、容器1内の炭酸ガス濃度が80体積%になるまで炭酸ガスを投入したのち、炭酸ガスの投入を停止した。
【0046】
次に、容器1を30rpmで自転させることによって、模擬スラッジ水と炭酸ガスを混合しながら容器1内の炭酸ガス濃度の経時変化を測定した。
【0047】
<比較例1>
比較例1では、容量が40Lの容器本体4内に、実施例1と同様に作製した模擬スラッジ水を投入した後に、開口部4aを密閉する蓋部5を装着して容器1を構成した。蓋部5には、炭酸ガス供給管2a、外部連通管3a、及び炭酸ガス濃度測定管8aを固定すると共に、撹拌羽根(アズワン製、TUT-125)を装着した撹拌機(東京理化器械製、型式:ZZ-1200)を固定した。
【0048】
炭酸ガス供給管2aは、容器1内の開口端が模擬スラッジ水に浸からない位置になるように配置した。外部連通管3aは、ガスが自由に出入りすることができるようになっており、炭酸ガス供給管2aを通じて、容器1内の炭酸ガス濃度が80体積%になるまで炭酸ガスを供給したのち、炭酸ガスの供給を停止した。
【0049】
次に、撹拌機を450rpmで回転させることによって模擬スラッジ水と炭酸ガスを混合しながら容器1内の炭酸ガス濃度の経時変化を測定した。
【0050】
<実施例1と比較例1の対比>
実施例1・比較例1で測定した、容器1内の炭酸ガス濃度の経時変化を、炭酸ガスの固定速度に換算した結果を
図7に示す。
図7に示すように、実施例1は、比較例1よりも、炭酸ガスの固定速度が高かった。さらに、容器1内の炭酸ガス濃度と、炭酸ガスの固定速度の関係をプロットしたものを
図8に示す。
図8に示すように、実施例1・比較例1の何れでも、容器1内の炭酸ガス濃度と炭酸ガスの固定速度は、高い相関を示した。また、実施例1及び比較例1のグラフの傾きは、それぞれ、0.117及び0.031であった。この結果から、実施例1の自転容器は、比較例1の撹拌容器に比べて、約3.8倍の速度で炭酸ガスを固定したことが分かった。
【0051】
2.試験2:炭酸ガスの供給速度の制御方法の検討試験
試験2では、容器1内の炭酸ガス濃度が表1に示す種々の値になるまで炭酸ガスを供給し、その後、外部連通管3aを通じたガスの流入出量がゼロになるように炭酸ガスの供給を制御し、ガスの流入出速度がゼロになった時点での炭酸ガス供給速度を記録した。その結果を表1及び
図9に示す。表1中のガス流入出速度は、正の値である場合に炭酸ガスが流出していることを示す。
【表1】
【0052】
表1に示すように、初期状態での容器内の炭酸ガス濃度を10.0~90.0体積%の何れにした場合でも、炭酸ガス供給速度を調整することによって、ガス流入出速度を極めて小さい値にすることができることが分かった。また、初期状態での容器内の炭酸ガス濃度が高いほど、ガス流入出速度が最小であるときの炭酸ガス供給速度が高くなることが分かった。ガス流入出速度がゼロの場合、炭酸ガス供給速度が炭酸ガス固定速度に一致するので、上記結果により、初期状態での容器内の炭酸ガス濃度を高めることによって、炭酸ガスを系外に排出することがなく、炭酸ガス固定速度を高めることができることが分かった。