(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174670
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20241210BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092621
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 光由
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BD08
3B087CD04
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】乗員の着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させる。
【解決手段】車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション12と、乗員の背部を支持するシートバック16と、シートクッション12に対するシートバック16の位置を前後に移動させることで乗員の着座向きを前後に転換可能にシートバックをシートクッションに連結した転換機構20と、車両衝突時のサブマリン現象防止のためにシートクッション12内に設けられ、シートクッション12に対して変位可能に支持され、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じてシートクッション12に対する位置を変更可能とされたプレート26と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートクッションと、
前記乗員の背部を支持するシートバックと、
前記シートクッションに対する前記シートバックの位置を前後に移動させることで前記乗員の着座向きを前後に転換可能に前記シートバックを前記シートクッションに連結した転換機構と、
車両衝突時のサブマリン現象防止のために前記シートクッション内に設けられ、前記シートクッションに対して変位可能に支持され、前記シートクッションに対する前記シートバックの位置に応じて前記シートクッションに対する位置を変更可能とされたサブマリン防止部材と、
を備えた車両用シート。
【請求項2】
前記サブマリン防止部材は、前記転換機構と機械的に連結されており、前記シートバックの前記移動に連動して前記シートクッションに対して変位される請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記サブマリン防止部材は、シート左右方向に延在する1本の長尺部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記長尺部材がシート前後方向に変位される請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記サブマリン防止部材は、各々がシート左右方向に延在し、互いにシート前後方向に離間して配置された2本の長尺部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記2本の長尺部材が互いにシート上下方向の反対側へ変位される請求項2に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記サブマリン防止部材は、シート上下方向に板厚方向を沿わせて配置された板状部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記板状部材がシート左右方向に沿った軸線回りに回転される請求項2に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の着座向きを前後に転換可能な車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両用シート装置は、シートバックをシートクッションに対して前後に移動させ、乗員の着座向きを前後に転換させる転換機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、シートバックがシートクッションに対して前後に移動されるが、シートクッションの前後の向きは変更されない。このため、車両衝突時のサブマリン現象を防止するためのサブマリン防止部材がシートクッション内に設けられる場合、乗員の着座向きを後向きにした状態において、サブマリン防止部材が乗員の臀部と干渉し、座り心地が悪化する。また、後向きで着座している乗員に対して、サブマリン防止部材がサブマリン現象の防止効果を十分に発揮することができなくなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、乗員の着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、前記乗員の背部を支持するシートバックと、前記シートクッションに対する前記シートバックの位置を前後に移動させることで前記乗員の着座向きを前後に転換可能に前記シートバックを前記シートクッションに連結した転換機構と、車両衝突時のサブマリン現象防止のために前記シートクッション内に設けられ、前記シートクッションに対して変位可能に支持され、前記シートクッションに対する前記シートバックの位置に応じて前記シートクッションに対する位置を変更可能とされたサブマリン防止部材と、を備えている。
【0007】
第1の態様では、シートクッションに着座する乗員の背部がシートバックによって支持される。このシートバックをシートクッションに連結した転換機構は、シートクッションに対するシートバックの位置を前後に移動させることで、乗員の着座向きを前後に転換可能とされている。シートクッションには、車両衝突時のサブマリン現象防止のためにサブマリン防止部材が設けられている。このサブマリン防止部材は、シートクッションに対して変位可能に支持されており、シートクッションに対するシートバックの位置に応じてシートクッションに対する位置を変更可能とされている。これにより、シートクッションに対するシートバックの位置すなわち乗員の着座向きに応じてサブマリン防止部材を最適な位置に配置させることが可能となる。その結果、乗員の着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる。
【0008】
第2の態様の車両用シートは、第1の態様において、前記サブマリン防止部材は、前記転換機構と機械的に連結されており、前記シートバックの前記移動に連動して前記シートクッションに対して変位される。
【0009】
第2の態様では、シートクッション内に設けられたサブマリン防止部材が、転換機構と機械的に連結されている。このサブマリン防止部材は、シートクッションに対するシートバックの前後の移動に連動してシートクッションに対して変位される。これにより、シートクッションに対するサブマリン防止部材の位置を変更する手間を省くことができる。
【0010】
第3の態様の車両用シートは、第2の態様において、前記サブマリン防止部材は、シート左右方向に延在する1本の長尺部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記長尺部材がシート前後方向に変位される。
【0011】
第3の態様では、シート左右方向に延在する1本の長尺部材がシートクッション内に設けられている。この長尺部材は、転換機構と機械的に連結されており、シートクッションに対するシートバックの前後の移動に連動してシートクッションに対してシート前後方向に変位される。これにより、乗員の着座向きに応じて長尺部材を最適な位置に配置させることが可能となる。
【0012】
第4の態様の車両用シートは、第2の態様において、前記サブマリン防止部材は、各々がシート左右方向に延在し、互いにシート前後方向に離間して配置された2本の長尺部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記2本の長尺部材が互いにシート上下方向の反対側へ変位される。
【0013】
第4の態様では、各々がシート左右方向に延在し、互いにシート前後方向に離間して配置された2本の長尺部材がシートクッション内に設けられている。これらの長尺部材は、転換機構と機械的に連結されており、シートクッションに対するシートバックの前後の移動に連動して互いにシート上下方向の反対側へ変位される。これにより、乗員の着座向きに応じて2本の長尺部材を最適な位置に配置させることが可能となる。
【0014】
第5の態様の車両用シートは、第2の態様において、前記サブマリン防止部材は、シート上下方向に板厚方向を沿わせて配置された板状部材を含み、前記シートバックの前記移動に連動して前記板状部材がシート左右方向に沿った軸線回りに回転される。
【0015】
第5の態様では、シート上下方向に板厚方向を沿わせて配置された板状部材がシートクッション内に設けられている。この板状部材は、転換機構と機械的に連結されており、シートクッションに対するシートバックの前後の移動に連動してシート左右方向に沿った軸線回りに回転される。これにより、乗員の着座向きに応じて板状部材を最適な位置に配置させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、乗員の着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る車両用シートを示す側面図である。
【
図2】第1実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが通常位置に位置する状態を示す側面図である。
【
図3】第1実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが転換位置に位置する状態を示す側面図である。
【
図4】第2実施形態に係る車両用シートを示す側面図である。
【
図5】第2実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが通常位置に位置する状態を示す側面図である。
【
図6】第2実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが転換位置に位置する状態を示す側面図である。
【
図7】第3実施形態に係る車両用シートを示す側面図である。
【
図8】第3実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが通常位置に位置する状態を示す側面図である。
【
図9】第3実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックが転換位置に位置する状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施形態>
本発明の第1実施形態に係る車両用シート10について、
図1~
図3に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UPは、車両用シート10の前方向、上方向をそれぞれ示している。車両用シート10の前後左右上下の方向は、車両用シート10が搭載された車両の前後左右上下の方向と一致している。以下、単に前後左右上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両用シート10に対する方向を示すものとする。
【0019】
(構成)
図1に示されるように、車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション12と、乗員の背部を支持するシートバック16と、シートバック16をシートクッション12に連結した転換機構20と、シートクッション12内に設けられたプレート26とを備えている。
【0020】
シートクッション12は、骨格である図示しないクッションフレームと、クッションフレームに支持されたパッド材である図示しないクッションパッドと、クッションパッドの表面を覆う表皮材であるクッション表皮14とを備えている。このシートクッション12は、例えば周知のスライドレール機構を介して車体の床部(何れも図示省略)に連結されている。
【0021】
シートバック16は、骨格である図示しないバックフレームと、バックフレームに支持されたパッド材である図示しないバックパッドと、バックパッドの表面を覆う表皮材であるバック表皮18とを備えている。このシートバック16の下端部は、転換機構20を介してシートクッション12に連結されている。
【0022】
転換機構20は、平行リンクによって構成されているが、
図1では図面を見易くするため、転換機構20を1本のリンクで簡略的に図示している。転換機構20を構成するリンクの一端部は、シートバック16の下端部に対して左右方向に沿った軸線回りに回転可能に連結されている。転換機構20を構成するリンクの他端部は、シートクッション12の前後方向中央部に対して左右方向に沿った軸線回りに回転可能に連結されている。以下、転換機構20を「リンク20」と称する。
【0023】
このリンク20は、シートバック16をシートクッション12に対して
図1に実線で示される通常位置と
図1に二点鎖線で示される転換位置との間で前後に移動可能に連結している(
図1の矢印C参照)。この転換機構20は、シートクッション12に対するシートバック16の位置を前後に移動させることで、乗員の着座向きを前後に転換可能とされている。
【0024】
具体的には、シートバック16が通常位置に位置する状態(以下、「通常状態」という)では、シートクッション12の後端部に設けられた後側ストッパ22に対してシートバック16の下端部が前方側から接触し、シートバック16がシートクッション12の後端部から上方側へ延びる姿勢となる。この通常状態では、
図2に示されるように、シートクッション12に対して前向きに着座する乗員Pの背部がシートバック16によって支持される。
【0025】
シートバック16が転換位置に位置する状態(以下、「転換状態」という)では、シートクッション12の前端部に設けられた前側ストッパ24に対してシートバック16の下端部が後方側から接触し、シートバック16がシートクッション12の前端部から上方側へ延びる姿勢となる。この転換状態では、
図3に示されるように、シートクッション12に対して後向きに着座する乗員Pの背部がシートバック16によって支持される。
【0026】
シートクッション12内に設けられたプレート26は、車両衝突時のサブマリン現象を防止するためのサブマリン防止部材を構成している。このプレート26は、本発明における「板状部材」に相当するものであり、板状をなしている。このプレート26は、シートクッション12内の前後方向中央部において、上方方向に板厚方向を沿わせて配置されており、クッションパッド内に埋め込まれている。
【0027】
プレート26の前後方向中央部には、左右方向を軸線方向とする図示しない支軸が設けられている。この支軸の軸線方向両端部は、シートクッション12のクッションフレームが有する左右のサイドフレームによって回転可能に支持されている。左右のサイドフレームは、シートクッション12の左右の側部において前後方向に延在している。
【0028】
上記のように支軸がクッションフレームに支持されたプレート26は、シートクッション12に対して左右方向に沿った軸線回りに回転可能とされており、
図1に実線で示す後下り位置と
図1に二点鎖線で示す前下り位置との間で変位可能とされている。なお、クッションパッドは、プレート26の上記変位を許容するように形状が設定されている。
【0029】
プレート26の支軸の軸線方向一端部(ここでは左端部)には、ギヤ28が同軸的に固定されている。このギヤ28は、中間ギヤ30に噛合されており、中間ギヤ30は、リンクギヤ32に噛合されている。中間ギヤ30は、クッションフレームに対して左右方向に沿った軸線回りに回転可能に支持されている。リンクギヤ32は、リンク20の他端部に固定されており、クッションフレームに対して左右方向に沿った軸線回りに回転可能に支持されている。これにより、プレート26がギヤ28、中間ギヤ30及びリンクギヤ32を介してリンク20と機械的に連結されている。そして、シートクッション12に対するシートバック16の前後の移動に連動して、プレート26がシートクッション12に対して変位(ここでは回転)されるように構成されている。以下、具体的に説明する。
【0030】
シートバック16が通常位置に位置する通常状態では、プレート26が後下り位置(
図1に実線で示される位置)に配置されている。シートバック16が通常位置から転換位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20の他端部に固定されたリンクギヤ32が回転する(
図1の矢印R1参照)と共に、中間ギヤ30及びギヤ28が回転し(
図1の矢印R2、R3参照)、プレート26が後下り位置から前下り位置(
図1に二点鎖線で示される位置)へと回転される(
図1の矢印U及び矢印D参照)。これにより、シートバック16が転換位置に位置する転換状態では、プレート26が前下り位置に配置される。
【0031】
シートバック16が転換位置から通常位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20の他端部に固定されたリンクギヤ32が回転すると共に、中間ギヤ30及びギヤ28が回転し、プレート26が前下り位置から後下り位置へと回転される。このように、本実施形態では、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じてシートクッション12に対するプレート26の位置が変更されるように構成されている。
【0032】
図2に示されるように、通常状態の車両用シート10に前向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、後下り位置に位置するプレート26に対して後斜め上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに沿ってプレート26が配置されることにより、プレート26と臀部Bとの干渉(
図2に二点鎖線で示されるプレート26参照)が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が前面衝突をすると、臀部Bの前方斜め下方への移動がプレート26によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から前方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。なお、
図2及び
図3においてPEは、乗員Pの骨盤である。
【0033】
図3に示されるように、転換状態の車両用シート10に後向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、前下り位置に位置するプレート26に対して前斜め上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに沿ってプレート26が配置されることにより、プレート26と臀部Bとの干渉(
図3に二点鎖線で示されるプレート26参照)が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が後面衝突をすると、臀部Bの後方斜め下方への移動がプレート26によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から後方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。
【0034】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
上記構成の車両用シート10では、シートクッション12に着座する乗員Pの背部がシートバック16によって支持される。このシートバック16をシートクッション12に連結したリンク20は、シートクッション12に対するシートバック16の位置を前後に移動させることで、乗員Pの着座向きを前後に転換可能とされている。シートクッション12には、車両衝突時のサブマリン現象防止のためにプレート26が設けられている。
【0035】
上記のプレート26は、シートクッション12に対して回転可能に支持されており、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じてシートクッション12に対する位置を変更可能とされている。これにより、シートクッション12に対するシートバック16の位置すなわち乗員Pの着座向きに応じてプレート26を最適な位置に配置させることが可能となる。その結果、乗員Pの着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる。
【0036】
また、この車両用シート10では、シートクッション12内に設けられたプレート26がリンク20と機械的に連結されている。このプレート26は、シートクッション12に対するシートバック16の前後の移動に連動してシートクッション12に対して回転される。これにより、シートクッション12に対するプレート26の位置を変更する手間を省くことができる。
【0037】
また、この車両用シート10では、上記のプレート26がシートクッション12に対するシートバック16の前後の移動に連動して左右方向に沿った軸線回りに回転される。これにより、乗員Pの着座向きに応じてプレート26を最適な位置(すなわち
図2に実線で示される後下り位置及び
図3に実線で示される前下り位置)に配置させることができ、プレート26の変位量を少なく設定することができる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、第1実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0039】
<第2の実施形態>
図4には、本発明の第2実施形態に係る車両用シート40が側面図にて示されている。この車両用シート40では、第1実施形態におけるプレート26の代わりに、シートクッション12内に1本のパイプ42が設けられている。このパイプ42は、車両衝突時のサブマリン現象を防止するためのサブマリン防止部材を構成している。このパイプ42は、本発明における「長尺部材」に相当するものであり、円筒状をなしている。
【0040】
このパイプ42は、左右方向を軸線方向として配置されており、左右方向に延在している。パイプ42の軸線方向両端部は、シートクッション12のクッションフレームが有する左右のサイドフレームに形成された図示しない左右のスライド溝に挿入されている。左右のスライド溝は、前後方向を長手とする長尺状に形成されており、パイプ42は
図4に実線で示される前方位置と
図4に二点鎖線で示される後方位置との間でシートクッション12に対して変位(スライド)可能とされている(
図4の矢印S参照)。なお、シートクッション12のクッションパッドは、パイプ42のスライドを許容するように形状が設定されている。
【0041】
上記のパイプ42は、図示しない連結機構を介してリンク20と機械的に連結されている。この連結機構としては、例えばリンク機構などが挙げられる。リンク20と機械的に連結されたパイプ42は、シートクッション12に対するシートバック16の前後の移動に連動して、前後方向にスライド(変位)されるように構成されている。
【0042】
具体的には、シートバック16が通常位置に位置する通常状態では、パイプ42が前方位置(
図4に実線で示される位置)に配置されている。シートバック16が通常位置から転換位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20と機械的に連結されたパイプ42が前方位置から後方位置(
図4に二点鎖線で示される位置)へとスライドされる。これにより、シートバック16が転換位置に位置する転換状態では、パイプ42が後方位置に配置される。
【0043】
シートバック16が転換位置から通常位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20と機械的に連結されたパイプ42が後方位置から前方位置へとスライドされる。このように、本実施形態では、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じてシートクッション12に対するパイプ42の位置が変更されるように構成されている。
【0044】
図5に示されるように、通常状態の車両用シート10に前向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、前方位置に位置するパイプ42に対して後斜め上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに対してパイプ42が前方に離間して配置されることにより、パイプ42と臀部Bとの干渉が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が前面衝突をすると、臀部Bの前方斜め下方への移動がパイプ42によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から前方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。
【0045】
図6に示されるように、転換状態の車両用シート10に後向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、後方位置に位置するパイプ42に対して前斜め上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに対してパイプ42が後方に離間して配置されることにより、パイプ42と臀部Bとの干渉が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が後面衝突をすると、臀部Bの後方斜め下方への移動がパイプ42によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から後方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。
【0046】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態においても、第1実施形態と同様に、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じて、パイプ42の位置が最適な位置に変更される。その結果、乗員Pの着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる。また、この実施形態では、サブマリン防止部材が1本のパイプ42によって構成されているため、サブマリン防止部材の構成を簡素化することができる。
【0047】
<第3の実施形態>
図7には、本発明の第3実施形態に係る車両用シート50が側面図にて示されている。この車両用シート40では、第1実施形態におけるプレート26の代わりに、シートクッション12内に、互いに前後方向に離間して配置された2本のパイプ52、54が設けられている。これらのパイプ52、54は、車両衝突時のサブマリン現象を防止するためのサブマリン防止部材を構成している。これらのパイプ52、54は、本発明における「長尺部材」に相当するものであり、円筒状をなしている。
【0048】
一方のパイプ52は、左右方向を軸線方向としてシートクッション12の前部に配置されており、左右方向に延在している。他方のパイプ54は、左右方向を軸線方向としてシートクッション12の後部に配置されており、左右方向に延在している。パイプ52の軸線方向両端部は、シートクッション12のクッションフレームが有する左右のサイドフレームの前部に形成された図示しない上下のスライド溝に挿入されている。上下のスライド溝は、上下方向を長手とする長尺状に形成されており、パイプ52は
図7に実線で示される上方位置と
図7に二点鎖線で示される下方位置との間でシートクッション12に対して変位(スライド)可能とされている(
図7の矢印L1参照)。
【0049】
パイプ54の軸線方向両端部は、シートクッション12のクッションフレームが有する左右のサイドフレームの後部に形成された図示しない上下のスライド溝に挿入されている。上下のスライド溝は、上下方向を長手とする長尺状に形成されており、パイプ54は
図7に実線で示される下方位置と
図7に二点鎖線で示される上方位置との間でシートクッション12に対して変位(スライド)可能とされている(
図7の矢印L2参照)。なお、シートクッション12のクッションパッドは、パイプ52、54のスライドを許容するように形状が設定されている。
【0050】
上記のパイプ52、54は、図示しない連結機構を介してリンク20(
図7~
図9では図示省略)と機械的に連結されている。この連結機構としては、例えばリンク機構などが挙げられる。リンク20と機械的に連結されたパイプ52、54は、シートクッション12に対するシートバック16の前後の移動に連動して、互いに上下方向の反対側へスライド(変位)されるように構成されている。
【0051】
具体的には、シートバック16が通常位置に位置する通常状態では、パイプ52が上方位置に配置され、パイプ54が下方位置に配置されている。シートバック16が通常位置から転換位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20と機械的に連結されたパイプ52、54が互いに上下方向の反対側へスライドされる。これにより、シートバック16が転換位置に位置する転換状態では、パイプ52が下方位置に配置され、パイプ54が上方位置に配置される。
【0052】
シートバック16が転換位置から通常位置へ移動される際には、リンク20の一端部がシートバック16に対して回転すると共に、リンク20の他端部がシートクッション12に対して回転する。これにより、リンク20と機械的に連結されたパイプ52、54が互いに上下方向の反対側へスライドされる。このように、本実施形態では、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じてシートクッション12に対するパイプ52、54の位置が変更されるように構成されている。
【0053】
図8に示されるように、通常状態の車両用シート10に前向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、上方位置に位置するパイプ52に対して後斜め上方側に配置され、下方位置に位置するパイプ54に対して上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに対してパイプ52が前斜め上方側に離間して配置されると共にパイプ54が下方側に離間して配置されることにより、パイプ52、54と臀部Bとの干渉が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が前面衝突をすると、臀部Bの前方斜め下方への移動がパイプ52によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から前方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。
【0054】
図9に示されるように、通常状態の車両用シート10に後向きで着座する乗員Pは、図示しないシートベルトによって車両用シート10に拘束される。この乗員Pの臀部Bは、上方位置に位置するパイプ54に対して前斜め下方側に配置され、下方位置に位置するパイプ52に対して上方側に配置される。この状態では、乗員Pの臀部Bに対してパイプ54が後斜め上方側に離間して配置されると共にパイプ52が下方側に離間して配置されることにより、パイプ52、54と臀部Bとの干渉が防止され、乗員Pの快適性が確保される。また、この状態で車両が後面衝突をすると、臀部Bの後方斜め下方への移動がパイプ54によって制限される。その結果、乗員Pがシートベルトから抜けて車両用シート10から後方へ滑り落ちてしまうサブマリン現象が防止される。
【0055】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。この実施形態においても、第1実施形態と同様に、シートクッション12に対するシートバック16の位置に応じて、パイプ52、54の位置が最適な位置に変更される。その結果、乗員Pの着座向きにかかわらず、着座時の快適性とサブマリン現象防止性能とを両立させることができる。また、この実施形態では、サブマリン防止部材が前後に離間して配置された2本のパイプ52、54によって構成されているため、各パイプ52、54を前後に変位させる必要がなく、各パイプ52、54の変位量を少なく設定することができる。
【0056】
なお、上記各実施形態では、サブマリン防止部材であるプレート26、パイプ52、52、54が転換機構であるリンク20と機械的に連結され、シートバック16の移動に連動してシートクッション12に対して変位される構成にしたが、これに限るものではない。サブマリン防止部材が転換機構と機械的に連結されず、シートバックの移動に連動してシートクッションに対して変位されない構成、すなわちサブマリン防止部材とシートバックとがそれぞれ別々に移動(変位)される構成にしてもよい。また、サブマリン防止部材と転換機構とが電気的に連結される構成にしてもよい。その場合、例えばシートクッションに対するシートバックの位置を前後に移動させると、シートバックの位置がセンサによって検出され、シートクッションに対するサブマリン防止部材の位置がアクチュエータによって変更される構成となる。
【0057】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
10 車両用シート
12 シートクッション
16 シートバック
20 リンク(転換機構)
26 プレート(板状部材;サブマリン防止部材)
40 車両用シート
42 パイプ(長尺部材;サブマリン防止部材)
50 車両用シート
52 パイプ(長尺部材;サブマリン防止部材)
54 パイプ(長尺部材;サブマリン防止部材)
P 乗員