(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174673
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】高分子固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241210BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241210BHJP
H01M 8/1041 20160101ALI20241210BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20241210BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241210BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20241210BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20241210BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20241210BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241210BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0565
H01M8/1041
C08G18/48
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B13/08 301
H01M10/052
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092628
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石溪 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 英起
(72)【発明者】
【氏名】植村 友一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 優斗
【テーマコード(参考)】
4J034
4K021
5G301
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034CB07
4J034DA01
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4J034DG02
4J034DG03
4J034DG04
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA07
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4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034QB06
4J034QC08
4J034QD03
4J034RA14
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB36
4K021DC01
4K021DC03
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ01
5H029AJ11
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5H029AK07
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5H126AA05
5H126BB06
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ00
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】高い弾性、伸縮性、電解液保持性、難燃性(低引火点)及び高イオン電導性を同時に実現する高分子固体電解質を提供すること。
【解決手段】ウレタン樹脂と電解液とを含む高分子固体電解質であって、前記ウレタン樹脂が、ポリアルキレンオキサイド(A-1)、水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)及びイソシアネート(B)を含む組成物の反応物であり、前記ウレタン樹脂の架橋密度が5~21mmol/kgであり、前記電解液が、電解質と電解液溶媒(C)とからなり、前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)のSP値と前記電解液溶媒(C)のSP値との差の絶対値が4.0以下であることを特徴とする高分子固体電解質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂と電解液とを含む高分子固体電解質であって、
前記ウレタン樹脂が、ポリアルキレンオキサイド(A-1)、水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)及びイソシアネート(B)を含む組成物の反応物であり、
前記ウレタン樹脂の架橋密度が5~21mmol/kgであり、
前記電解液が、電解質と電解液溶媒(C)とからなり、
前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)のSP値と前記電解液溶媒(C)のSP値との差の絶対値が4.0以下であることを特徴とする高分子固体電解質。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)が2種以上のポリアルキレンオキサイドからなり、前記イソシアネート(B)がポリメリックジフェニルメタンジイソシアネートである請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
前記電解質が、スルホニルイミド系電解質である請求項1又は2に記載の高分子固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
なかでも、有機溶媒が揮発する可能性が低く、充放電時の副反応である有機溶媒の分解反応が進行することによって電池内部にガスが発生して電池を膨脹させる問題のない電池として、高分子固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池が検討されている。
例えば、特許文献1には、電池内部での化学的・電気化学的安定性に優れた材料であるポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体とカーボネート系電解液とを組み合わせたゲル電解質が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いたゲル電解質は、電解質の伸縮性、弾性が十分ではなく、繰り返しの充放電に伴う電極の膨張収縮に追随できないため、長期使用時に電池容量の著しい低下が見られるという課題があった。また、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体とカーボネート系電解液との馴染みが悪いために電解液の液保持性が悪く、カーボネート系電解液の揮発性が高いこともあり電池の安全性の観点でも改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、高い弾性、伸縮性、電解液保持性、難燃性(低引火点)及び高イオン電導性を同時に実現する高分子固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、ウレタン樹脂と電解液とを含む高分子固体電解質であって、前記ウレタン樹脂が、ポリアルキレンオキサイド(A-1)、水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)及びイソシアネート(B)を含む組成物の反応物であり、前記ウレタン樹脂の架橋密度が5~21mmol/kgであり、前記電解液が、電解質と電解液溶媒(C)からなり、前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)のSP値と前記電解液溶媒(C)のSP値との差の絶対値が4.0以下であることを特徴とする高分子固体電解質、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い弾性、伸縮性、電解液保持性、難燃性(低引火点)及び高イオン電導性を同時に実現する高分子固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、高分子固体電解質の伸縮性評価(ヒステリシスロスの測定)の測定結果を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の高分子固体電解質は、ウレタン樹脂と電解液とを含み、前記ウレタン樹脂は、ポリアルキレンオキサイド(A-1)、水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)及びイソシアネート(B)を含む組成物の反応物である。
【0011】
本発明におけるポリアルキレンオキサイド(A-1)は、炭素数2~4であるアルキレンオキサイドの付加反応により得られ、一般式H(OA)nOHで表され、Aは炭素数2~4の直鎖又は分岐のアルキル基であり、数平均分子量(Mn)が200以上20,000以下のものが好ましく、600以上10,000以下のものがより好ましく、600以上8,000以下のものが更に好ましい。ポリアルキレンオキサイド(A-1)の数平均分子量が上記数値範囲であると、得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性が向上する。
【0012】
前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)としては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール及びそのブロック体が好ましい。
ポリエチレングリコールとしては、一般式H(OCH2-CH2)nOHのポリエチレングリコールが挙げられ、ここでnは得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性の観点から、好ましくは3~450であり、さらに好ましくは4~100である。例えば、「三洋化成工業(株)社製:PEG-200、PEG-1000、PEG-1540、PEG-2000、PG20000」等を用いることができ商業的に入手可能である。得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性の観点から、数平均分子量200~1,000であるポリエチレングリコールが好ましく、更に好ましくは数平均分子量200~500であるポリエチレングリコールである。
【0013】
ポリプロピレングリコールとしては、一般式H(OCH2-CH(CH3))nOHのポリプロピレングリコールが挙げられ、ここでnは得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性の観点から、好ましくは3~100であり、さらに好ましくは5~100である。例えば、「三洋化成工業(株)社製:PPG-200、PPG-400、PPG-600、PPG-4000」等を用いることができ商業的に入手可能である。得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性の観点から、数平均分子量600~10,000であるポリプロピレングリコールが好ましく、更に好ましくは数平均分子量600~5,000であるポリプロピレングリコールである。
【0014】
ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのブロック体としては、例えば、「三洋化成工業(株)社製:PE-68」等を用いることができ商業的に入手可能である。
【0015】
ポリアルキレンオキサイド(A-1)の数平均分子量は、下記の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定される。
【0016】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの条件>
装置本体:HLC-8420(東ソー(株)製)
カラム:東ソー(株)製TSKgel Super H4000、H3000、H2000
検出器:RI(Refractive Index)
溶離液:THF
溶離液流量:0.6ml/分
カラム温度:40℃
試料濃度:0.25重量%
注入量:10μl
標準物質:東ソー(株)製TSK STANDARD POLYSTYRENE
データ処理ソフト:EcoSEC Elite-WS解析(東ソー(株)製)
【0017】
本発明においてポリアルキレンオキサイド(A-1)は、得られる高分子固体電解質の粘弾性、伸縮性の観点から、例えば、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとを併用するように、2種以上のポリアルキレンオキサイドを含むことが好ましい。
【0018】
本発明における水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)としては、アルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物が挙げられ、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン及びジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるイソシアネート(B)としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)2~18の脂肪族イソシアネート(b1)、炭素数8~15の芳香脂肪族イソシアネート(b2)、炭素数6~20の芳香族イソシアネート(b3)、これらのイソシアヌレート基、ウレトイミン基、アロファネート基、ビウレット基、カルボジイミド基及び/又はウレトジオン基を有するイソシアネート変性体(b4)等が挙げられる。イソシアネート(B)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
炭素数2~18の脂肪族イソシアネート(b1)としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、2,6-ジイソシアナトエチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
炭素数8~15の芳香脂肪族イソシアネート(b2)としては、m-又はp-キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジエチルベンゼンジイソシアネート及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0022】
炭素数6~20の芳香族イソシアネート(b3)としては、1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン及び1,5-ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0023】
イソシアヌレート基、ウレトイミン基、アロファネート基、ビウレット基、カルボジイミド基及び/又はウレトジオン基を有するイソシアネート変性体(b4)としては、MDIのウレトイミン基を有する変成体、HDIのビウレット基を有する変性体及びHDIのイソシアヌレート基を有する変性体等が挙げられる。
【0024】
前記イソシアネート(B)としては、得られる高分子固体電解質の弾性及び伸縮性の観点からMDIが好ましく、さらに好ましくはポリメリックMDIである。ポリメリックMDIは、種々な異性体含有率のモノメリックMDIと数種の構造の多核体の混合物である。
【0025】
本発明におけるウレタン樹脂の架橋密度は、5~21mmol/kgである。
前記ウレタン樹脂の架橋密度が5mmol/kg未満であると高分子固体電解質の粘弾性、液保持性が悪化し、前記ウレタン樹脂の架橋密度が21mmol/kgを超えると高分子固体電解質の伸縮性、液保持性が悪化する。
前記ウレタン樹脂の架橋密度は、前記水酸基を3個以上有するポリオール(A-2)の仕込み量で調整することができる。
【0026】
本願における架橋密度は以下の式によって算出される。
V = Mp / Wp ・・・(1)
V: 架橋密度(mmol/kg)
Mp:前記(A-2)のモル数
Wp:Wg - Wl
Wg:高分子固体電解質の重量(kg)
Wl:高分子固体電解質に含まれる電解液の重量(電解質+電解液溶媒)
【0027】
本発明における電解液は、電解質と電解液溶媒(C)とからなる。
電解質としては、リチウム塩としてリチウムイオン電池に用いられる公知のものを使用することができ、LiCF3SO3、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiFSi、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2及びLiN(C2F5SO2)2及びLiC2F3NO4S2(LiTFSI)等のスルホニルイミド系電解質、LiC(CF3SO2)3等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。
熱安定性や耐加水分解性の観点から、電解質はスルホニルイミド系電解質であることが好ましい。
【0028】
電解液溶媒(C)は、引火点が100℃以上であることが好ましい。
電解液溶媒(C)の引火点が100℃以上であると、高分子固体電解質の安全性(難燃性)が向上する。
電解液溶媒(C)としては、複数の溶媒を混合して使用してもよく、混合後の電解液溶媒の引火点が100℃であれば、引火点が100℃未満の溶媒を含んでもよい。
電解液溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラグライム及びスルホラン等が挙げられる。
【0029】
本明細書において、電解液溶媒及び電解液の引火点は、JIS K 2265-1-2007で規定されるタグ密閉法により測定される温度である。
【0030】
本発明において、前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)のSP値と前記電解液溶媒(C)のSP値との差の絶対値は4.0以下である。
前記SP値の差の絶対値が4.0を超えると高分子固体電解質の電解液保持性、安全性(難燃性)が悪化する。
前記(A-1)及び前記(C)はいずれも2種以上の混合物であってもよいが、その場合SP値は以下の方法で算出した値の加重平均とする。
【0031】
本願においてSP値(溶解度パラメータ)[単位は(cal/cm3)1/2]は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,February,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)の152頁(Table.5)に記載の数値(原子又は官能基の25℃における蒸発熱及びモル体積)を用いて、同153頁の数式(28)に記載の方法で算出される値である。具体的には、Fedors法のパラメータである下記表1に記載のΔei及びΔviの数値から、分子構造内の原子及び原子団の種類に対応した数値を用いて、下記数式(2)に当てはめることで算出することができる。
SP値=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2 ・・・(2)
上記数式におけるΣΔei(単位はcal/モル)は凝集エネルギー密度(単位はcal/モル)であり、ΣΔviは分子容(単位はcm3/モル)である。
【0032】
【0033】
電解液とのなじみやすさの観点から、前記ポリアルキレンオキサイド(A-1)のSP値は、好ましくは8~11である。また、イオン伝導性及びマトリックスポリマーとのなじみやすさの観点から、前記電解液溶媒(C)のSP値は、好ましくは8~14である。
【0034】
本発明の高分子固体電解質は、前記構成要素以外に、通常の高分子化合物に使用される添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で含有していてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、及び耐光安定剤などの安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラーや有機フィラーなどの充填剤;滑剤;離型剤;可塑剤;帯電防止剤などが挙げられる。
【0035】
本発明の高分子固体電解質は、高分子固体電解質を構成する全成分を混合した後、50℃~100℃に加熱して硬化させることにより製造することができる。
【実施例0036】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0037】
<電解液の作製>
温度19℃、露点-60℃dpの環境下にて1日乾燥させた反応容器に、撹拌子及びトリプロピレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)12.7重量部を加えマグネチックスターラーで撹拌した。そこにリチウム(ビスフルオロスルホニル)イミド(キシダ化学(株)製)7.55重量部及びエチレンカーボネート(東京化成工業(株)製)8.2重量部を加えて溶解、均一化させて電解液を作製した。
【0038】
(実施例1)
作製した電解液69.9重量部に数平均分子量250の3官能性プロピレンオキシド付加物(三洋化成工業(株)製、サンニックスGP-250)0.4重量部、数平均分子量600の2官能性ポリプロピレンオキシド(三洋化成工業(株)製、サンニックスPPG-600)1.2重量部、及び数平均分子量4000の2官能性ポリプロピレンオキシド(三洋化成工業(株)製、サンニックスPPG-4000)25.3重量部を加えた。次いでビスマス系金属触媒(日東化成(株)製、ネオスタンU-600)0.2重量部を加えて10分間撹拌し透明均一なポリアルコール液を得た。
作製したポリアルコール液にポリメリックMDI(東ソー(株)製、ミリオネートMR-200)3.0重量部を加えて5分撹拌し薄黄色の液体を得た。得られた薄黄色の液体を、ベルジャーにて19℃、30分間、減圧脱泡して高分子電解質前駆体を作製した。
作製した高分子電解質前駆体を5cm×10cm角のPPトレーに静かに流し込みトレー底全体に前駆体を行き渡らせた後、平行の取れた恒温槽にて80℃、3時間で温調をおこなった。温調完了後、PPトレーから剥がして薄黄色の透明な高分子固体電解質を得た。厚み計で測定した高分子固体電解質の厚みは500μmだった。
【0039】
(実施例2~12,比較例1~4)
表2及び3に示すように、各種構成種及び重量割合を変更した以外は、実施例1と同様に、実施例2~12及び比較例1~4に係る高分子固体電解質を作製した。
【0040】
【0041】
【0042】
表1及び2に記載の略称の詳細は以下の通り。
PPG-4000:ポリプロピレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PPG-600:ポリプロピレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PEG-200:ポリエチレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PEG-20000:ポリエチレングリコール[三洋化成工業株式会社製]
PE-68:「ニューポールPE-68」[三洋化成工業株式会社製]
GP-250:「サンニックスGP-250」、3官能性プロピレンオキシド付加物[三洋化成工業株式会社製]
TMP:トリメチロールプロパン[東京化成工業株式会社製]
PG3:トリプロピレングリコールジメチルエーテル[富士フイルム和光純薬株式会社製]
G4:テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)[キシダ化学株式会社製]
SL:スルホラン[富士フイルム和光純薬株式会社製]
DEC:ジエチルカーボネート[東京化成工業株式会社製]
EC:エチレンカーボネート[東京化成工業株式会社製]
【0043】
<弾性率評価>
得られた高分子固体電解質を直径8mmの円形に打ち抜き弾性率評価用サンプルを作製した。サンプルをレオメーター(アントンパール社製「MCR-802」)の直径8mmのパラレルプレートで挟みこみ、25℃で温調した状態での垂直抗力が1.0Nになるようプレートのギャップを調整した。弾性率は回転ひずみ2%の条件で1Hzのせん断での貯蔵弾性率(G’)を測定した。結果を表4及び5に示した。
【0044】
<イオン伝導度評価>
得られた高分子固体電解質を直径18mmの円形に打ち抜きイオン伝導度評価用サンプルを作製した。サンプルは直径16mmの円形状に打ち抜いたLi金属(本条金属(株)製、Li-Foil:厚み0.5mm)2枚で挟みさらにステンレス金属極を外側に配した。インピーダンス測定はBioLogic社の電気化学測定装置「VSP-300」を用いて25℃に温調した恒温槽内で7MHz~1Hzの周波数域でおこなった。得られたNyquistプロットにおける高周波数側の半円をサンプルのバルク抵抗Rとし、サンプルの厚みd、Li金属との対向面積Aからイオン伝導度δを次式で算出した。結果を表4及び5に示した。
δ=d/(R×A)
【0045】
<電解液保持率の測定>
得られた高分子固体電解質を20mm×20mm角に切り出し電解液保持率評価用サンプルを作製した。サンプルの両面に30mm×30mm角に切り出したPPセパレータ(「セルガード#3501」)を3枚ずつ配置し、さらに厚さ10mm、60mm×100mm角のステンレス板で挟んだ。さらに、上側のステンレス板の上に、サンプルへの荷重が4kgになるように錘を配置して25℃にて48時間の温調をおこなった。温調完了後セパレータ6枚を取り出し、評価前の重量W0と評価後の重量W1、及びサンプルの初期重量S0から、電解液保持率を次式で算出した。結果を表4及び5に示した。
電解液保持率=(1-((W1-W0)/S0))×100(%)
【0046】
<ヒステリシスロスの測定:伸縮性評価>
得られた高分子電解質を2号ダンベル型に打ち抜きヒステリシスロス評価用のサンプルを作成した。ヒステリシスロスはオートグラフ((株)島津製作所製「AG-X」)のコントロールモードを使用して標線20mmから引張速度20mm/minでストローク10mmになるまで引張し、その後20mm/minでストロークを0mmに戻した際に得られた荷重-ストロークカーブから、ヒステリシスロスを次式で計算した。結果を表4及び5に示した。
ヒステリシスロス=面積(oabcd)/面積(oabeo)×100(%)
なお、面積(oabcd)は1サイクルで損失したエネルギー量を表し、面積(oabeo)は引張に要したエネルギーの総量を表す。ヒステリシスロスが小さいということは、損失が小さく伸ばした分と同じだけ縮むことができるということであり、電極の膨張収縮に追随しやすいということを示す。
【0047】
<電極の作製>
高分子固体電解質前駆体5.4重量部、黒鉛(日本黒鉛工業(株))2.9重量部、酸化ケイ素(信越化学工業(株)製「KSC-1265」)11.7重量部及びジメチルホルムアミド(三和油化工業(株)製)80.0重量部を200mLのディスポーザブルカップに加えて撹拌機(シンキー(株)製、あわとり練太郎)用カップにディスポーザブルカップをセットした。その後撹拌機本体にセットし、撹拌速度2000rpmで1分間の混錬をおこないスラリーを得た。得られたスラリーを厚さ50μmのCu箔に塗布し、60℃にて30分のDMFの留去を行った。温調完了後、面プレス機を用いて20kgの荷重をかけて1分間のプレスをおこないシリコン電極を得た。直径18mmに数枚打ち抜いて秤量した平均活物質層重量目付は15mg/cm2だった。
得られたシリコン電極の表面にさらに高分子電解質前駆体5.0重量部を塗工し、80℃で3時間の温調をおこない絶縁層を備えたシリコン電極を得た。
【0048】
<評価用リチウムイオン電池の作製>
得られた絶縁層を備えたシリコン電極を直径18mmに打ち抜き円形状の電極を得た。次いで直径16mmに打ち抜いたLi金属を電極の絶縁層上に配置した。これをコインセル(宝泉(株)製、)に格納し評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0049】
<充放電試験>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法により作製した充放電試験用電池の初回性能の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電した後4.2Vを維持した状態で電流値が0.0025Cになるまで充電した。10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
【0050】
上記充放電を50回繰り返した。この時の初回充電時の電池容量(初期放電容量)と50サイクル目充電時の電池容量(50サイクル後放電容量)を用いて、下記式から放電容量維持率を算出した。結果を表4及び5に示す。なお、数値が大きいほど、電池の劣化が少ないことを示す。
放電容量維持率(%)=[50サイクル目の放電容量]/ [1サイクル目の放電容量]×100
【0051】
【0052】
本発明の高分子固体電解質は、燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いられる。特に車載用電源や家庭用電源としての固体高分子型燃料電池の固体電解質として好適に用いられる。