(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017468
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3208 20160101AFI20240201BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240201BHJP
【FI】
F16J15/3208
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120113
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
【テーマコード(参考)】
3J006
【Fターム(参考)】
3J006AE14
3J006AE29
3J006AE30
3J006AE32
3J006AE33
3J006AE40
3J006AE42
3J006AF01
3J006CA01
3J006CA02
(57)【要約】
【課題】弾性体の形成のために必要な弾性材料の使用量を削減しながらガータースプリングの脱落を抑制する。
【解決手段】密封装置30は、第1環状部41と第1環状部41の内側の第2環状部42とを含む補強環40と、補強環40に設置された弾性体50であって、内周面531にリップ端533が形成されたシールリップ53を含む環状の弾性体50と、シールリップ53の外周面532を内側に押圧する環状のガータースプリング60とを具備し、第1環状部41の外周面412は弾性体50から露出し、第2環状部42の内周面421とシールリップ53との間隔Gaは、ガータースプリング60の巻径Dを下回る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1環状部と前記第1環状部の内側の第2環状部とを含む補強環と、
前記補強環に設置された弾性体であって、内周面にリップ端が形成されたシールリップを含む環状の弾性体と、
前記シールリップの外周面を内側に押圧する環状のガータースプリングとを具備し、
前記第1環状部の外周面は前記弾性体から露出し、
前記第2環状部の内周面または前記内周面を被覆する被覆部と、前記シールリップとの間隔は、前記ガータースプリングの巻径を下回る
密封装置。
【請求項2】
前記補強環は、前記第1環状部において当該補強環の中心軸に沿う第1方向の端部から径方向の外側に突出する環状のフランジを含む
請求項1の密封装置。
【請求項3】
前記補強環は、前記第1環状部において前記中心軸に沿う前記第1方向とは反対の第2方向の端部と、前記第2環状部において前記第2方向の端部とを、相互に連結する連結部
を含む請求項2の密封装置。
【請求項4】
前記弾性体とは別種の材料により形成されて前記第1環状部の外周面を被覆する弾性膜
を具備する請求項1の密封装置。
【請求項5】
前記第2環状部の内周面と前記シールリップとの間隔は、前記ガータースプリングの巻径を下回る
請求項1の密封装置。
【請求項6】
前記第2環状部は、
前記シールリップに間隔をあけて対向する第1部分と、
前記ガータースプリングに対向する第2部分とを含み、
前記第2部分の内径は前記第1部分の内径を下回る
請求項1の密封装置。
【請求項7】
前記第2部分のうち前記ガータースプリングとの対向面は、前記ガータースプリングの断面形状に対応する凹面である
請求項6の密封装置。
【請求項8】
前記被覆部は、前記弾性体とは別種の材料により前記第2環状部の内周面に形成されて前記ガータースプリングに対向する
請求項1の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオイルシール等の密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウジングの開口の内周面と当該開口内の軸部材との間の環状の隙間を密封する各種の密封装置が従来から提案されている。例えば特許文献1には、環状の金属環と、金属環に一体に形成された弾性体と、弾性体を内側に押圧するガータースプリングとを具備するオイルシールが開示されている。弾性体は、軸部材の外周面に接触するシールリップと、金属環の外周面を被覆する外周ゴム部とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成においては、弾性体の外周ゴム部が金属環の外周面を被覆する。したがって、弾性体の形成に必要な弾性材料の使用量が大きいという課題がある。また、オイルシールの搬送または取付の段階において弾性体が変形することで、金属環とシールリップとの間隔をガータースプリングが通過して脱落する可能性がある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、弾性体の形成のために必要な弾性材料の使用量を削減しながらガータースプリングの脱落を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る密封装置は、第1環状部と前記第1環状部の内側の第2環状部とを含む補強環と、前記補強環に設置された弾性体であって、内周面にリップ端が形成されたシールリップを含む環状の弾性体と、前記シールリップの外周面を内側に押圧する環状のガータースプリングとを具備し、前記第1環状部の外周面は前記弾性体から露出し、前記第2環状部の内周面または前記内周面を被覆する被覆部と、前記シールリップとの間隔は、前記ガータースプリングの巻径を下回る。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、弾性体の形成のために必要な弾性材料の使用量を削減しながらガータースプリングの脱落を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る密封構造の断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る密封構造の断面図である。
【
図4】第3実施形態に係る密封構造の断面図である。
【
図5】第4実施形態に係る密封構造の断面図である。
【
図6】第5実施形態に係る密封構造の断面図である。
【
図7】第6実施形態に係る密封構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る密封構造100の構成を例示する断面図である。密封構造100は、例えば自動車等の各種の機械に採用される機構である。
図1に例示される通り、密封構造100は、ハウジング10と軸部材20と密封装置30とを具備する。なお、
図1において、ハウジング10および軸部材20は、便宜的に外形が鎖線で図示されている。
【0009】
ハウジング10は、表面11に開口12が形成された中空の構造体である。開口12は、断面形状が所定径の円形状である貫通孔である。軸部材20は、開口12に挿入される円柱状の構造体である。ハウジング10の開口12の内周面13と軸部材20の外周面21との間には環状の隙間Sが形成される。密封装置30は、隙間Sを密封する環状の構造体である。隙間Sは、密封装置30を挟んで空間S1と空間S2とに仕切られる。空間S1は大気に解放され、空間S2にはオイルが充填される。第1実施形態の密封装置30は、空間S2内にオイルを密封するオイルシールである。
【0010】
なお、以下の説明においては、密封装置30の中心軸Cを想定する。中心軸Cに沿う一方向をC1方向と表記し、C1方向とは反対の方向をC2方向と表記する。C1方向は「第1方向」の一例であり、C2方向は「第2方向」の一例である。空間S2は空間S1のC2方向に位置する。中心軸Cは、ハウジング10の開口12の中心軸、または軸部材20の中心軸とも換言される。軸部材20は中心軸Cを中心として回転可能である。
【0011】
また、中心軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周に沿う方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。径方向において中心軸Cに向かう方向を「内側」と表記し、中心軸Cとは反対に向かう方向を「外側」と表記する。
【0012】
図1に例示される通り、密封装置30は、補強環40と弾性体50とガータースプリング60とを具備する。補強環40と弾性体50とガータースプリング60との各々は、軸部材20を包囲する環状の部材である。
【0013】
補強環40は、弾性体50を補強する構造体である。補強環40は、例えば金属材料で形成された高剛性の金属環である。補強環40の材料としては、例えばステンレス鋼、SPCC(Steel Plate Cold Commercial)またはSPHC(Steel Plate Hot Commercial)等が例示される。
【0014】
第1実施形態の補強環40は、第1環状部41と第2環状部42と連結部43とを含む。第1環状部41と第2環状部42と連結部43とは一体に構成される。例えば金属製の板状部材をプレス加工することで補強環40が製造される。したがって、第1環状部41と第2環状部42と連結部43とにおいて板厚は実質的に共通する。ただし、別体で構成された複数の部分を相互に連結することで補強環40が構成されてもよい。
【0015】
第1環状部41および第2環状部42の各々は、円筒状の部分である。第2環状部42の外径は第1環状部41の内径を下回る。第2環状部42は第1環状部41の内側に位置する。具体的には、第1環状部41の内周面411と第2環状部42の外周面422とは、相互に間隔をあけて対向する。すなわち、第1環状部41と第2環状部42との間には環状の空間が形成される。第1環状部41と第2環状部42との間隔は、第1環状部41または第2環状部42の板厚を上回る。第2環状部42におけるC1方向の端部は、径方向の内側に湾曲する。
【0016】
連結部43は、第1環状部41と第2環状部42とを相互に連結する環状部分である。具体的には、連結部43は、第1環状部41におけるC2方向の端部と、第2環状部42におけるC2方向の端部とを相互に連結する。すなわち、連結部43は、第1環状部41におけるC2方向の端部から径方向の内側に突出する環状部分、または、第2環状部42におけるC2方向の端部から径方向の外側に突出する環状部分とも表現される。
【0017】
以上の通り、第1実施形態においては、第1環状部41におけるC2方向の端部と第2環状部42におけるC2方向の端部とが連結部43により相互に連結される。したがって、板状部材のプレス加工等の簡便な加工により補強環40を製造できる。
【0018】
弾性体50は、補強環40に設置された環状のシールである。弾性体50は、各種の弾性材料で形成される。例えばクロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(SR)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、ポリウレタンゴム(PUR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)またはフッ素ゴム(FKM)等の任意のゴム材料で形成される。ただし、第1実施形態における弾性体50はフッ素ゴムにより形成される。弾性体50は、例えばインサート成形により補強環40と一体に形成される。
【0019】
補強環40のうち第1環状部41および連結部43は、弾性体50から露出する。すなわち、第1環状部41および連結部43は弾性体50により被覆されていない。例えば第1環状部41の外周面412は、弾性体50から露出する。密封装置30がハウジング10に設置された状態において、第1環状部41の外周面412はハウジング10の開口12の内周面13に接触する。すなわち、密封装置30は、第1環状部41の外周面412が開口12の内周面13に隙間なく接触した状態で開口12内に固定される。
【0020】
以上の通り、第1実施形態においては第1環状部41の外周面412が弾性体50から露出する。したがって、第1環状部41の外周面412が弾性体50により被覆される形態と比較して、弾性体50の形成に必要な弾性材料の使用量を削減できる。第1実施形態において弾性体50の形成に使用されるフッ素ゴム(FKM)は、他の弾性材料と比較して高価である。したがって、弾性材料の使用量を削減できる第1実施形態によれば、弾性体50の製造コストを充分に削減できる。なお、第1実施形態においては、第2環状部42の外周面422も弾性体50から露出する。
【0021】
図1に例示される通り、弾性体50は、固定部51と被覆部52とシールリップ53とダストリップ54とを含む。固定部51と被覆部52とシールリップ53とダストリップ54とは、同種の弾性材料により一体に形成される。
【0022】
固定部51は、弾性体50のうち補強環40に固定される環状部分である。具体的には、固定部51は、第2環状部42におけるC1方向の端部の近傍を被覆する。被覆部52は、固定部51からC2方向に延在する円筒状の薄肉部分であり、第2環状部42の内周面421を被覆する。
【0023】
シールリップ53およびダストリップ54は、固定部51から突出する環状のリップである。シールリップ53はダストリップ54のC2方向に位置する。シールリップ53は、空間S2を密封する主リップであり、ダストリップ54は、空間S1から空間S2に対する塵埃の進入を防止する補助リップである。
【0024】
ダストリップ54は、先端部が基端部と比較して中心軸Cの近傍に位置するように中心軸Cに対して傾斜した方向に固定部51から突出する環状の突起である。ダストリップ54の先端部は、軸部材20の外周面21に接触する。すなわち、軸部材20が回転する状態では、ダストリップ54の先端部は軸部材20の外周面21に対して摺動する。
【0025】
シールリップ53は、固定部51からC2方向に延在する環状部分である。シールリップ53の内周面531は軸部材20の外周面21に対向する。シールリップ53の内周面531にはリップ端533が形成される。リップ端533は、内周面531を構成する傾斜面534と傾斜面535との交差により形成される周方向の突起である。傾斜面534は傾斜面535のC1方向に位置する。傾斜面534は、C1方向に向けて拡径するテーパ状の回転面である。傾斜面535は、C2方向に向けて拡径するテーパ状の回転面である。シールリップ53のリップ端533は軸部材20の外周面21に接触する。すなわち、軸部材20が回転する状態では、シールリップ53のリップ端533は軸部材20の外周面21に対して摺動する。
【0026】
シールリップ53の外周面532は、第2環状部42の内周面421(被覆部52の内周面)に対向する。シールリップ53の外周面532には取付溝536が形成される。取付溝536は、シールリップ53の全周にわたり周方向に連続する窪みであり、シールリップ53のリップ端533に対して径方向の外側に形成される。すなわち、中心軸Cの方向において取付溝536が形成された範囲内にリップ端533が位置する。取付溝536にはガータースプリング60が設置される。
【0027】
ガータースプリング60は、シールリップ53を径方向の内側に押圧する環状の弾性部材である。具体的には、ガータースプリング60は、両端部の連結により全体として環状に形成されたコイルバネである。取付溝536の内周面は、ガータースプリング60の外形に対応する凹面である。ガータースプリング60によりシールリップ53が内側に押圧されることで、軸部材20の外周面21とリップ端533との間に適切な接触圧が確保される。
【0028】
図1には、ガータースプリング60の巻径Dが図示されている。巻径Dは、ガータースプリング60を構成するコイルの直径を意味する。具体的には、巻径Dは、中心軸Cに沿う方向からみてガータースプリング60の外径と内径との差分である。取付溝536の内周面は、ガータースプリング60の巻径Dに近似または一致する内径の円弧面である。
【0029】
図1には、間隔Gaおよび間隔Gbが図示されている。間隔Gaは、第2環状部42の内周面421とシールリップ53との間隔である。具体的には、間隔Gaは、第2環状部42の内周面421とシールリップ53の先端部537との最短距離である。先端部537は、シールリップ53のうちガータースプリング60のC2方向に位置する端部である。また、間隔Gbは、弾性体50のうち第2環状部42を被覆する被覆部52とシールリップ53との間隔である。具体的には、間隔Gbは、被覆部52の内周面521とシールリップ53の先端部537との最短距離である。
【0030】
図1から理解される通り、被覆部52とシールリップ53との間隔Gbは、ガータースプリング60の巻径Dを下回る(Gb<D)。さらに、第2環状部42とシールリップ53との間隔Gaは、ガータースプリング60の巻径Dを下回る(Ga<D)。
【0031】
密封装置30の搬送または取付の段階において弾性体50が変形すると、取付溝536からガータースプリング60が離脱する可能性がある。取付溝536から離脱したガータースプリング60は、密封装置30から脱落する可能性がある。第1実施形態によれば、間隔Gaまたは間隔Gbがガータースプリング60の巻径Dを下回るから、取付溝536から離脱したガータースプリング60は、間隔Gaおよび間隔Gbを通過できない。したがって、ガータースプリング60の脱落を抑制できるという効果が実現される。第1実施形態の効果について以下に詳述する。
【0032】
図2は、補強環40が第2環状部42を含まない形態(以下「対比例」という)の説明図である。対比例においては、第1実施形態と同様に、補強環40のうち第1環状部41の外周面412が弾性体50から露出する。したがって、弾性体50の形成に必要な弾性材料の使用量を削減できる。
【0033】
対比例においては、第1環状部41の外周面412をハウジング10の開口12の内周面13に接触させるために第1環状部41の外径を充分に確保する必要がある。しかし、補強環40が第2環状部42を含まない対比例のもとで第1環状部41を拡径すると、補強環40とシールリップ53との間隔が拡大する。したがって、
図2に矢印で図示される通り、取付溝536からガータースプリング60が補強環40とシールリップ53との間を通過して、弾性体50から脱落する可能性がある。
【0034】
対比例とは対照的に、第1実施形態においては、第1環状部41の内側に第2環状部42が位置し、かつ、第2環状部42の内周面421(または被覆部52)とシールリップ53との間隔G(Ga,Gb)が、ガータースプリング60の巻径Dを下回る。したがって、取付溝536から離脱したガータースプリング60が、間隔Gの隙間を通過して脱落する可能性を低減できる。
【0035】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態によれば、弾性体50の形成に必要な弾性材料の使用量を削減しながらガータースプリング60の脱落を抑制できる。第1実施形態においては特に、第2環状部42の内周面421とシールリップ53との間隔Gaがガータースプリング60の巻径Dを下回る簡便な構成により、ガータースプリング60の脱落を抑制できる。
【0036】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0037】
図3は、第2実施形態における密封構造100の断面図である。第2実施形態の密封装置30においては、補強環40の構造が第1実施形態とは相違する。第2実施形態における補強環40以外の構成は第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0038】
図3に例示される通り、第2実施形態の補強環40は、第1実施形態と同様の要素(第1環状部41,第2環状部42,連結部43)に加えてフランジ44を含む。フランジ44は、第1環状部41におけるC1方向の端部から径方向の外側に突出する環状部分である。具体的には、フランジ44は、第1環状部41の外周面412から中心軸Cに直交する方向に向けて径方向の外側に突出する。
図3に例示される通り、フランジ44におけるC2方向の表面442は、ハウジング10において開口12が形成された表面11に接触する。
【0039】
第1環状部41と第2環状部42と連結部43とフランジ44とは一体に構成される。例えば、金属製の板状部材をプレス加工することで補強環40が製造される。したがって、第1環状部41と第2環状部42と連結部43とフランジ44とにおいて板厚は実質的に共通する。ただし、別体で構成された複数の部分を相互に連結することで補強環40が構成されてもよい。
【0040】
密封装置30をハウジング10に固定する工程においては、補強環40のフランジ44におけるC1方向の表面441を作業員または加工装置がC2方向に押圧することで、密封装置30が開口12内に挿入される。そして、フランジ44の表面442の全体がハウジング10の表面11に接触した状態で密封装置30がハウジング10に対して固定される。以上の通り、第2実施形態によれば、補強環40のフランジ44を押圧することで、密封装置30をハウジング10の開口12に容易かつ確実に挿入できる。すなわち、密封装置30を設置する作業の効率が向上する。また、フランジ44の表面442をハウジング10の表面11に密着させることで、ハウジング10の開口12の中心軸に対して密封装置30が傾斜した状態で固定される可能性を低減できる。
【0041】
C:第3実施形態
図4は、第3実施形態における密封構造100の断面図である。第3実施形態の密封装置30は、第2実施形態と同様の要素に加えて弾性膜70を具備する。第3実施形態における弾性膜70以外の構成は第2実施形態と同様である。したがって、第3実施形態においても第2実施形態と同様の効果が実現される。
【0042】
弾性膜70は、第1環状部41の外周面412を被覆する被膜である。弾性膜70は、弾性体50とは別種の弾性材料により形成される。例えばラテックス等の樹脂材料により弾性膜70が形成される。弾性膜70は弾性体50よりも柔軟である。また、弾性膜70の形成に使用される弾性材料は、弾性体50の形成に使用される弾性材料よりも安価である。
【0043】
以上に説明した通り、第3実施形態においては、第1環状部41の外周面412が弾性膜70により被覆される。すなわち、第1環状部41の外周面412とハウジング10の開口12の内周面13との間に弾性膜70が位置する。したがって、第1環状部41の外周面412とハウジング10の開口12の内周面13との間の密封性能を維持できる。また、例えばハウジング10の開口12の内周面13に凹状の損傷が形成された状態でも、弾性膜70が当該損傷に進入することで、補強環40とハウジング10との間の密封性能を維持できる。
【0044】
なお、密封装置30を開口12に挿入する工程において、当該開口12の内周面13により加圧されることで弾性膜70の一部が第1環状部41から剥離する可能性がある。弾性膜70のうち第1環状部41から剥離した部分(以下「剥離部分」という)はフランジ44の表面442に保持され、最終的にはフランジ44の表面442とハウジング10の表面11との間に挟持される。すなわち、剥離部分が密封構造100から落下する可能性が低減される。したがって、密封構造100が製造される環境の汚損が抑制される。また、剥離部分がフランジ44の表面442とハウジング10の表面11との間に保持される結果、補強環40(フランジ44)とハウジング10との間の密封性能を維持できるという利点もある。
【0045】
なお、以上の説明においては第2実施形態を基礎として弾性膜70を追加した形態を例示したが、第3実施形態においてフランジ44は省略されてもよい。すなわち、第1実施形態の構成に対して弾性膜70が追加されてもよい。
【0046】
D:第4実施形態
図5は、第4実施形態における密封構造100の断面図である。第4実施形態の密封装置30においては、補強環40の第2環状部42の構造が第3実施形態とは相違する。第4実施形態における第2環状部42以外の構成は第3実施形態と同様である。したがって、第4実施形態においても第3実施形態と同様の効果が実現される。
【0047】
第4実施形態の第2環状部42は、第1部分45と第2部分46とを含む。第2部分46は第1部分45に対してC2方向に位置する。第1部分45は、間隔をあけてシールリップ53に対向する円筒状の部分である。第2部分46は、間隔をあけてガータースプリング60に対向する円筒状の部分である。第2環状部42の内周面421は、第1部分45の内周面451と第2部分46の内周面461とにより構成される。以上の構成の補強環40は、第1実施形態から第3実施形態と同様に、金属製の板状部材に対するプレス加工により製造される。なお、第2部分46の内周面461がガータースプリング60に接触してもよい。
【0048】
第1部分45の内周面451と第2部分46の内周面461との間には段差が形成される。具体的には、第2部分46の内径d2は、第1部分45の内径d1を下回る(d2<d1)。したがって、第2部分46は第1部分45に対して径方向の内側に突出する。すなわち、第2部分46は、第1部分45と比較してガータースプリング60に向けて突出する。また、第2部分46の内周面461(すなわち第2環状部42の内周面421)とシールリップ53との間隔Gcは、ガータースプリング60の巻径Dを下回る(Gc<D)。
【0049】
以上の説明から理解される通り、第4実施形態においては、第2環状部42の第2部分46が第1部分45と比較して径方向の内側に突出する構成により、ガータースプリング60の脱落を抑制できる。
【0050】
なお、以上の説明においては第3実施形態を基礎として第4実施形態を説明したが、第2実施形態に例示したフランジ44と第3実施形態に例示した弾性膜70との一方または双方は、第4実施形態において省略されてもよい。
【0051】
E:第5実施形態
図6は、第5実施形態における密封構造100の断面図である。第5実施形態の密封装置30においては、補強環40の第2環状部42の構造が第4実施形態とは相違する。第5実施形態における第2環状部42以外の構成は第4実施形態と同様である。したがって、第5実施形態においても第4実施形態と同様の効果が実現される。
【0052】
図6に例示される通り、第2環状部42における第2部分46の内周面461はガータースプリング60に対向する。第2部分46の内周面461は、ガータースプリング60の断面形状に対応する凹面である。具体的には、第2部分46の内周面461は、ガータースプリング60の巻径Dに近似または一致する内径の円弧面である。なお、第2部分46の内周面461はガータースプリング60に接触してもよい。
【0053】
以上の説明から理解される通り、第5実施形態においては、シールリップ53の取付溝536の内周面と第2部分46の内周面461とによりガータースプリング60が包囲される。取付溝536の内周面と第2部分46の内周面461との間の円筒状の空間にガータースプリング60が収容されると表現されてもよい。第5実施形態によれば、ガータースプリング60の脱落を抑制できるという効果は格別に顕著である。
【0054】
なお、第2部分46の内周面461(すなわち第2環状部42の内周面421)とシールリップ53との間隔Gcがガータースプリング60の巻径Dを下回る構成(Gc<D)は、第4実施形態と同様である。
【0055】
また、以上の説明においては第3実施形態を基礎として第5実施形態を説明したが、第2実施形態に例示したフランジ44と第3実施形態に例示した弾性膜70との一方または双方は、第5実施形態において省略されてもよい。
【0056】
F:第6実施形態
図7は、第6実施形態における密封構造100の断面図である。第6実施形態の密封装置30は、第3実施形態に被覆部75を追加した構成である。第6実施形態における被覆部75以外の構成は第3実施形態と同様である。したがって、第6実施形態においても第3実施形態と同様の効果が実現される。
【0057】
被覆部75は、補強環40のうち第2環状部42の内周面421に形成される。被覆部75は、内周面421から径方向の内側に突出する環状部分であり、弾性体50とは別種の弾性材料により形成される。例えば、被覆部75は、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(SR)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、ポリウレタンゴム(PUR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)またはエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等の任意のゴム材料で形成される。被覆部75は、例えばインサート成形により補強環40と一体に形成される。
【0058】
図7から理解される通り、被覆部75は、間隔をあけてガータースプリング60に対向する。被覆部75の内周面751とシールリップ53との間隔Gdは、ガータースプリング60の巻径Dを下回る(Gd<D)。なお、被覆部75の内周面751はガータースプリング60に接触してもよい。
【0059】
以上の説明から理解される通り、第6実施形態においては、第2環状部42の内周面421に被覆部75が形成されることで、ガータースプリング60が通過し得る隙間が縮小される。したがって、第2環状部42の形状を複雑化せずにガータースプリング60の脱落を抑制できる。
【0060】
なお、以上の説明においては第3実施形態を基礎として第6実施形態を説明したが、第2実施形態に例示したフランジ44と第3実施形態に例示した弾性膜70との一方または双方は、第6実施形態において省略されてもよい。なお、被覆部75の内周面751は、ガータースプリング60の断面形状に対応する凹面でもよい。
【0061】
G:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0062】
(1)第1実施形態から第3実施形態においては、第2環状部42の内周面421が被覆部52により被覆された形態を例示したが、
図8に例示される通り、弾性体50の被覆部52は省略されてもよい。すなわち、第2環状部42の内周面421は弾性体50から露出してもよい。
【0063】
(2)
図9に例示される通り、ハウジング10の表面11に凹部14が形成されてもよい。凹部14は、中心軸Cを中心として円形状に形成された窪みである。凹部14の底面15に開口12が形成される。前述の第3実施形態においては、フランジ44の表面442がハウジング10の表面11に接触する形態を例示した。
図9の構成においては、フランジ44の表面442が凹部14の底面15に接触する。
【0064】
(3)前述の各形態においては、補強環40の第1環状部41と第2環状部42とが間隔をあけて対向する形態を例示したが、第1環状部41と第2環状部42との位置関係は以上の例示に限定されない。例えば
図10に例示される通り、第1環状部41の内周面411と第2環状部42の外周面422とが隙間なく密着する形態も想定される。
図10の例示から理解される通り、補強環40から連結部43は省略されてよい。
【0065】
(4)前述の各形態においては第1環状部41の外周面412に弾性膜70が形成された形態を例示したが、弾性膜70が形成される箇所は以上の例示に限定されない。例えば、片面に弾性膜70が形成された板状部材の加工により補強環40が形成されてもよい。すなわち、補強環40において第1環状部41の外周面412に連続する表面の全体に弾性膜70が形成されてもよい。例えばフランジ44の表面442に弾性膜70が形成されてもよい。補強環40の全面に弾性膜70が形成されてもよい。以上の説明から理解される通り、補強環40のうち少なくとも第1環状部41の外周面412が弾性膜70により被覆された形態が想定される。
【0066】
(5)前述の各形態における密封装置30は、前述の通り、例えばオイルシールとして利用される。オイルシールとしての密封装置30の用途は任意である。例えば、エンジン用オイルシール、デファレンシャル用オイルシール、変速機用オイルシール、モータ用オイルシール、またはハブベアリング用オイルシール等の任意の用途に、前述の各形態の密封装置30が利用される。また、密封装置30はオイルシール以外の用途にも利用される。例えばグリスまたは水等の各種の流体を密封する用途にも、前述の各形態の密封装置30が利用される。
【符号の説明】
【0067】
100…密封構造、10…ハウジング、12…開口、20…軸部材、30…密封装置、40…補強環、41…第1環状部、42…第2環状部、43…連結部、44…フランジ、45…第1部分、46…第2部分、50…弾性体、51…固定部、52…被覆部、53…シールリップ、54…ダストリップ、60…ガータースプリング、70…弾性膜、75…被覆部、533…リップ端、536…取付溝。