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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174685
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】複合基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20241210BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20241210BHJP
   C30B 29/02 20060101ALI20241210BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20241210BHJP
   C30B 1/02 20060101ALI20241210BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20241210BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20241210BHJP
   H01L 21/368 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C01B32/184
C30B25/20
C30B29/02
C23C16/42
C30B1/02
C01B32/956
H01L21/205
H01L21/368 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092648
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(74)【代理人】
【識別番号】100135714
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 一生
(74)【代理人】
【識別番号】100167612
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 京樹
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB10
4G077BA02
4G077BE08
4G077CA03
4G077CA07
4G077DB04
4G077DB07
4G077ED05
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4G077HA12
4G077JA03
4G077JB06
4G077TA04
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4G146AB07
4G146BA11
4G146BB06
4G146BB15
4G146BC03
4G146BC34A
4G146BC35A
4G146CB16
4G146CB17
4G146MA14
4G146MB03
4G146MB05
4G146NB04
4G146NB05
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA16
4K030BA37
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030FA10
4K030LA12
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC16
5F045AD14
5F045AD15
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045AE29
5F045AF02
5F045BB02
5F045BB12
5F045HA03
5F053AA04
5F053DD19
5F053FF01
5F053GG10
5F053HH04
5F053PP03
5F053RR01
(57)【要約】
【課題】SiC単結晶基1上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板100(100A)を提供する。また、複合基板100(100A)の製造方法を提供する。
【解決手段】複合基板100(100A)は、SiC単結晶基板1と、SiC単結晶基板1の表面に接して配置された、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、原子間力顕微鏡による観測において、2×2μmあたりにおける、SiC単結晶基板1と接している炭素含有層の表面粗さ(Ra)が、1.0nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板上に前記SiC単結晶基板の熱分解を抑制するキャップ膜を堆積させる工程と、
熱処理を施して前記キャップ膜を除去する工程と、
前記熱処理を施して、前記SiC単結晶基板上に、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層を形成する工程と、を含み、
前記キャップ膜の膜厚は、前記SiC単結晶基板の熱分解が開始する温度から前記グラフェン層が形成される温度までの少なくとも一部の温度領域において残存するように構成されている、複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記SiC単結晶基板上に炭素を含む薄膜を堆積させる工程をさらに含み、
前記キャップ膜は、前記薄膜上に堆積され、
前記熱処理を施して、前記キャップ膜が除去されて露出した前記薄膜から供給される炭素を用いて前記SiC単結晶基板上に前記炭素含有層を形成する、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜の堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、請求項2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜の厚みが0.3nm以上100nm以下である、請求項2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理において、前記キャップ膜を除去する工程に連続して前記SiC単結晶基板上の前記キャップ膜が除去された領域に前記炭素含有層を形成する、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項6】
前記キャップ膜は、酸化シリコンまたは窒化シリコンを含む膜である、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項7】
前記キャップ膜の堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項8】
前記キャップ膜の厚みが1nm以上500nm以下である、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理が、1200℃以上2500℃以下の温度で施される、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理は、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項11】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層上にエピタキシャル層を形成させる工程をさらに含む、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項12】
前記エピタキシャル層の堆積が、物理気相成長法及び化学気相成長法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、請求項11に記載の複合基板の製造方法。
【請求項13】
前記エピタキシャル層が、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成される、請求項11に記載の複合基板の製造方法。
【請求項14】
SiC単結晶基板と、
前記SiC単結晶基板の表面に接して配置された、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、
原子間力顕微鏡による観測において、2μm×2μm四方あたりにおける、前記SiC単結晶基板と接している前記炭素含有層の表面粗さ(Ra)が、1.0nm以下である複合基板。
【請求項15】
前記炭素含有層は、前記積層体を含み、
前記積層体の再構成表面層は、前記SiC単結晶基板のSi終端面に接している、請求項14に記載の複合基板。
【請求項16】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層は、前記SiC単結晶基板のC終端面又は前記再構成表面層に接している、請求項14に記載の複合基板。
【請求項17】
前記SiC単結晶基板は、0.5°以上10°以下のオフ角を有する、請求項14に記載の複合基板。
【請求項18】
前記SiC単結晶基板が、六方晶系結晶又は立方晶系結晶のいずれかの結晶構造を有する、請求項14に記載の複合基板。
【請求項19】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層の層数が、1層以上5層以下である、請求項14に記載の複合基板。
【請求項20】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層上に配置されたエピタキシャル層をさらに備える、請求項14に記載の複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンの製造方法において、自然酸化によって形成されたシリコンカーバイド(SiC)単結晶基板の表面を覆う酸化被膜を除去し、SiC単結晶基板のSi面を露出させて、露出させたSiC単結晶基板を真空中あるいはアルゴン(Ar)等の不活性ガス中において加熱(熱分解)する方法が知られている。真空中あるいはアルゴン(Ar)等の不活性ガス中において加熱することにより、シリコン(Si)が昇華及び残存する炭素(C)が自己組織化し、SiC単結晶基板上にグラフェンが積層するように形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/023934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SiC単結晶基板をグラフェン形成可能温度よりも低い温度で加熱した場合、SiC単結晶基板に対するステップバンチングが発生する。ステップバンチングの発生により、グラフェン上でリモートエピ成長を行う場合にエピ膜のモフォロジーが悪化しデバイス作製時に絶縁破壊が発生しやすくなる。また、アンカー効果によってエピ膜剥離が困難になる恐れがある。
【0005】
本開示は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板を提供することを目的の一とする。また、当該複合基板の製造方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の複合基板は、SiC単結晶基板と、SiC単結晶基板の表面に接して配置された、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、原子間力顕微鏡による観測において、2×2μmあたりにおける、SiC単結晶基板と接している炭素含有層の表面粗さ(Ra)が、1.0nm以下である。
【0007】
本開示の一態様の複合基板の製造方法は、SiC単結晶基板上にSiC単結晶基板の熱分解を抑制するキャップ膜を堆積させる工程と、熱処理を施して前記キャップ膜を除去する工程と、熱処理を施して、SiC単結晶基板上に、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層を形成する工程と、を含み、キャップ膜の膜厚は、SiC単結晶基板の熱分解が開始する温度からグラフェン層が形成される温度までの少なくとも一部の温度領域において残存するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板及び複合基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施形態に係る複合基板の断面図を示す。
図2図2は変形例1に係る複合基板の断面図を示す。
図3図3は変形例2に係る複合基板の断面図を示す。
図4A図4Aは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その1)。
図4B図4Bは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その2)。
図4C図4Cは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その3)。
図4D図4Dは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その4)。
図5図5は変形例2に係る複合基板の製造工程の他の一工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。図面は模式的なものである。また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。実施の形態は、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本実施形態に係る複合基板について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る複合基板100の断面図を示す。
【0013】
複合基板100は、SiC単結晶基板1と、SiC単結晶基板1の表面に接して配置された炭素含有層と、を備える。本実施形態では、SiC単結晶基板1の最外表面が炭素(C)終端面1cであり、C終端面1cと接している炭素含有層は、グラフェン層10である。
【0014】
SiC単結晶基板1は、六方晶(4H,6H)系結晶又は立方晶(3C)系結晶のいずれかの結晶構造を有してもよい。例えば、六方晶(4H)系結晶からなるSiC単結晶基板1は、窒素(N)ガス等の不活性ガスで満たしたグラファイトるつぼ内で原料のSiC粉末を昇華させ、原料粉末よりも低温に制御されたSiC種結晶に再結晶させることによって得られる(改良レーリー法(種付き昇華再結晶法))。このとき、SiC単結晶基板1の導電型を決定する不純物が添加されていてもよい。
【0015】
SiC単結晶基板1は、オフ角を有してもよい。本開示における「オフ角」とは、C軸方向(基板面内に垂直な方向、膜厚方向)から面内に沿って成長結晶をある角度で回転させカッティングするときの回転角θを指す。オフ角は、0.5°以上10°以下であると好ましく、4°以上8°以下であるとより好ましい。
【0016】
グラフェン層10は、1層の単層構造または数層以上に形成された積層構造を有する。ここで数層とは、2層以上のグラフェン層10を意味する。エピタキシャル層の結晶成長の観点から、グラフェン層10の層数が、1層以上5層以下であることが好ましい。
【0017】
一般的に、SiC単結晶基板上にグラフェン層等の炭素含有層を形成する場合、SiC単結晶基板を熱分解させることにより、SiC単結晶基板のSi原子が昇華し、残存する炭素(C)が自己組織化し、SiC単結晶基板上にグラフェン層が積層するように形成される。低温処理にてグラフェン層を形成することで、SiC単結晶基板のステップバンチングの発生を抑制することは可能であるが、6員環の形成数が多い結晶性の高いグラフェン層を形成するためには、高温処理にてグラフェン層を形成する必要がある。
【0018】
本実施形態では、結晶性の高いグラフェン層を形成しつつ、SiC単結晶基板のステップバンチングの発生を抑制するために、後述するようにSiC単結晶基板からの炭素の供給に加えて、新たな炭素の供給源としてSiC単結晶基板上に炭素を含む薄膜を堆積する。炭素を含む薄膜上にSiC単結晶基板の熱分解を抑制するキャップ膜を堆積し、その後、熱処理により薄膜を炭化し、グラフェン層等の炭素含有層を形成する。本工程により、SiC単結晶基板のステップバンチングが発生する前に炭素含有層の成長を促進することができる。
【0019】
ステップバンチングが抑制されたSiC単結晶基板は表面粗さ(Ra)が小さいため、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)も小さくなり、炭素含有層の形成面の平坦性が良好である。このため、結晶性の高い炭素含有層を形成することができる。なお、表面粗さ(Ra)は、例えば、JIS B 0601:2013又はISO 25178に準拠して求めることができる。
【0020】
炭素含有層の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡によって観測することができる。例えば、原子間力顕微鏡によって2×2μmを観測したときの炭素含有層の表面粗さ(Ra)は、1.0nm以下である。炭素含有層の表面粗さ(Ra)は、0.7nm以下であると好ましく、0.5nm以下であるとより好ましい。
【0021】
本実施形態によれば、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板を得ることができる。
【0022】
上述の複合基板100では、SiC単結晶基板1の最外表面がC終端面1cであったが、これに限られず、例えば、次に示すような様々な変形例であってもよい。
【0023】
<変形例1>
変形例1に係る複合基板100Aの構成を説明する。変形例1において図1に示す複合基板100と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0024】
図2は、変形例1に係る複合基板100Aの断面図である。変形例1に係る複合基板100Aが上述の図1に示す複合基板100と異なる点は、SiC単結晶基板1の最外表面がシリコン(Si)終端面1siであり、Si終端面1siに接している炭素含有層は、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体である点である。
【0025】
複合基板100Aにおいて、SiC単結晶基板1の最外表面がSi終端面1siであるため、SiC単結晶基板1表面にグラフェン層10を形成する際、SiC単結晶基板1表面に再構成表面層10aが形成され、再構成表面層10a上にグラフェン層10が形成される。再構成表面層10aは、グラフェン層10との格子不整合を緩和する役割を果たすものであり、バッファ層又はグラフェン層の第0層とも称する。
【0026】
変形例1においても、上述したように、SiC単結晶基板のステップバンチングが抑制されるため、SiC単結晶基板は表面粗さ(Ra)が小さくなり、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)も小さくなり、炭素含有層の形成面の平坦性が良好である。このため、結晶性の高い炭素含有層を形成することができる。
【0027】
<変形例2>
変形例2に係る複合基板100Bの構成を説明する。変形例2において図2に示す複合基板100Aと共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0028】
図3は、変形例2に係る複合基板100Bの断面図である。変形例2に係る複合基板100Bが上述の図2に示す複合基板100Aと異なる点は、グラフェン層10上に配置されたエピタキシャル層3を備える点である。
【0029】
複合基板100Bにおいて、オフ角を有するSiC単結晶基板1を用いることにより、SiC単結晶基板1の結晶タイプがグラフェン層10を介してエピタキシャル層3の結晶成長に反映される。このため、SiC単結晶基板1の結晶タイプと同じタイプの単結晶であるSiCのエピタキシャル層3を形成することができる。エピタキシャル層3の結晶成長の観点から、オフ角は、0.5°以上10°以下であると好ましく、4°以上8°以下であるとより好ましい。
【0030】
また、エピタキシャル層3の結晶成長の観点から、グラフェン層10の層数が、1層以上5層以下であることが好ましい。グラフェン層10の層数が1層以上5層以下であると、グラフェン層10自体が厚くなることを抑制でき、SiC単結晶基板1の結晶タイプをエピタキシャル層3の結晶成長に反映させることが可能となる。
【0031】
変形例2においても、上述したように、SiC単結晶基板のステップバンチングが抑制されるため、SiC単結晶基板は表面粗さ(Ra)が小さくなり、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の表面粗さ(Ra)も小さくなる。炭素含有層の形成面の平坦性が良好であるため、結晶性の高い炭素含有層を形成することができる。
【0032】
(複合基板の製造方法)
次に、複合基板の製造方法の一例について説明する。ここでは、上述の複合基板100Bの製造方法を説明する。
【0033】
まず、図4Aに示すように、SiC単結晶基板1のSi終端面1siにおいて、フッ化水素酸を用いて、SiC単結晶基板1から自然酸化膜を除去する。SiC単結晶基板1は、例えば4°のオフ角を有する4H‐SiC基板を用いることができる。SiC単結晶基板1のサイズは特に限定されないが、例えば10mmのものを用いることができる。
【0034】
次に、図4Bに示すように、自然酸化膜を除去したSiC単結晶基板1上に炭素を含む薄膜10Aを堆積させる。薄膜10Aの堆積方法は特に限定されないが、例えば、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法などを用いることができる。より具体的には、ラングミュアブロジェット法または蒸着重合法を用いることができる。
【0035】
ここでは、ステアリン酸(C1735COOH)を1mMの濃度でヘキサン中に溶解させ、純水に溶解液を滴下した溶液に自然酸化膜を除去したSiC単結晶基板1を浸漬させ、垂直に引き上げ、乾燥させることにより、単分子膜をSiC単結晶基板1に被覆させる。乾燥時間としては、例えば60分間である。さらに高周波誘導加熱炉に単分子膜を被覆させたSiC単結晶基板1を載置し、真空引きを行う。真空引きは、例えば、1×10-3N/m以下になるまで行ってもよい。その後、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いてパージを行い、大気圧まで到達した後に不活性ガス雰囲気下でSiC単結晶基板1を熱処理して単分子膜を炭化させて薄膜10Aを形成することができる。熱処理温度としては、例えば、400℃である。
【0036】
薄膜10Aは、グラフェン層等の炭素含有層を形成するための炭素の供給源として作用している。薄膜10Aの厚さは、炭素の供給源として作用できる程度であればよい。薄膜10Aの厚さは、例えば、0.3nm以上100nm以下であり、1nm以上90nm以下であってもよく、10nm以上80nm以下であってもよい。
【0037】
次に、図4Cに示すように、薄膜10A上にSiC単結晶基板1の熱分解を抑制するキャップ膜20を堆積させる。キャップ膜20は、後の工程において施される熱処理に対して、SiC単結晶基板1の熱分解が開始する温度(例えば、1200℃~1300℃)から炭素含有層に含まれるグラフェン層10が形成される温度(例えば、1600℃)までの少なくとも一部の温度領域において残存するように構成される。最終的には熱処理によってキャップ膜20は除去される。キャップ膜20は、酸化シリコンまたは窒化シリコンを含む膜を用いることができる。
【0038】
キャップ膜20の堆積方法は特に限定されないが、例えば、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法などを用いることができる。例えば、低温で成膜可能なECR(Electron Cyclotoron Resonance)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用い、前駆体としてシランを導入して10nmの酸化シリコン膜を形成することができる。
【0039】
また、キャップ膜20の厚さは、後の工程において施される熱処理に対して、SiC単結晶基板1の熱分解が開始する温度から炭素含有層に含まれるグラフェン層10が形成される温度までの少なくとも一部の温度領域において残存するように構成されていればよい。キャップ膜20の厚さは、例えば、1nm以上500nm以下であり、10nm以上450nm以下であってもよく、50nm以上400nm以下であってもよい。
【0040】
次に、図4Dに示すように、薄膜10A及びキャップ膜20が積層されたSiC単結晶基板1に熱処理を施して、キャップ膜20を除去し、さらに連続してキャップ膜20が除去されて露出した薄膜10Aから供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上のキャップ膜20が除去された領域に炭素含有層を形成する。炭素含有層は、SiC単結晶基板1のSi終端面と接している再構成表面層10a及び再構成表面層10aと接しているグラフェン層10からなる積層体を含む。
【0041】
熱処理は、例えば、1200℃以上2500℃以下の温度で施される。また、熱処理は、例えば、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスが挙げられる。ここでは、熱処理として、1×10-4N/mの真空雰囲気下において薄膜10A及びキャップ膜20が積層されたSiC単結晶基板1を1600℃で5分間加熱することでSiC単結晶基板1表面に炭素含有層を形成する。このときの昇温速度は、例えば400℃/秒である。
【0042】
次に、図3に示すように、炭素含有層に含まれるグラフェン層10上にエピタキシャル層3を形成する。以上により、複合基板100Bが完成する。エピタキシャル層3の形成(堆積)方法は特に限定されないが、例えば、物理気相成長法及び化学気相成長法などを用いることができる。また、エピタキシャル層3は、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成することができる。
【0043】
エピタキシャル層3の形成するための原料ガスは特に限定されないが、例えば、プロパン(C)とシラン(SiH)の体積比率を1:3として用いることができる。なお、シラン(SiH)はSiの前駆体、プロパン(C)はCの前駆体としてそれぞれ用いることができる。また、原料ガスを運ぶためのキャリアガスとしてグラフェン層10のエッチングを抑制するアルゴンガスを用いてもよい。
【0044】
エピタキシャル層3の厚さは、特に限定されないが、例えば、500nmである。
【0045】
上述した複合基板の製造方法では、グラフェン層等の炭素含有層を形成するための炭素の供給源として作用している薄膜10Aを用いているが、これに限られず、例えば、図5に示すように自然酸化膜を除去したSiC単結晶基板1上に直接キャップ膜20を堆積させてもよい。この場合、キャップ膜20の厚さを調整することで所望の温度までキャップ膜20を残存させ、その後の処理によりキャップ膜20が除去され、SiC単結晶基板1由来の炭素によって炭素含有層が形成される。なお、SiC単結晶基板1上に直接キャップ膜20を堆積させる製造方法では、炭素の供給源がSiC単結晶基板1のみであるため、薄膜10Aを用いる製造方法と比較して炭素含有層の被覆速度が遅くなる。
【0046】
(その他の実施の形態)
上記のように、いくつかの実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含む。
【0047】
<実施形態の例>
本実施形態の例を以下に挙げる。本実施形態は以下の例に限定されない。
【0048】
〔付記1〕
SiC単結晶基板1上にSiC単結晶基板1の熱分解を抑制するキャップ膜20を堆積させる工程と、
熱処理を施してキャップ膜20を除去する工程と、
熱処理を施して、SiC単結晶基板1上に、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層を形成する工程と、を含み、
キャップ膜20の膜厚は、SiC単結晶基板1の熱分解が開始する温度からグラフェン層10が形成される温度までの少なくとも一部の温度領域において残存するように構成されている、複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0049】
〔付記2〕
SiC単結晶基板1上に炭素を含む薄膜10Aを堆積させる工程をさらに含み、
キャップ膜20は、薄膜10A上に堆積され、
熱処理を施して、キャップ膜20が除去されて露出した薄膜10Aから供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上に炭素含有層を形成する、〔付記1〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0050】
〔付記1〕又は〔付記2〕によれば、SiC単結晶基板のステップバンチングが発生する前に炭素含有層の成長を促進することができ、SiC単結晶基板上に形成される結晶性の高いグラフェン層を含む炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板を得ることができる。
【0051】
〔付記3〕
薄膜10Aの堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、〔付記2〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0052】
〔付記4〕
薄膜10Aの厚みが0.3nm以上100nm以下である、〔付記2〕又は〔付記3〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0053】
〔付記3〕又は〔付記4〕によれば、グラフェン層等の炭素含有層を形成するための炭素の供給源として薄膜10Aを用いることができ、炭素含有層の被覆速度が速くすることができ、SiC単結晶基板のステップバンチングが発生する前に炭素含有層を素早く形成することができる。
【0054】
〔付記5〕
熱処理において、キャップ膜20を除去する工程に連続してSiC単結晶基板1上のキャップ膜20が除去された領域に炭素含有層を形成する、〔付記1〕~〔付記4〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0055】
〔付記6〕
キャップ膜20は、酸化シリコンまたは窒化シリコンを含む膜である、〔付記1〕~〔付記5〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0056】
〔付記7〕
キャップ膜20の堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、〔付記1〕~〔付記6〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0057】
〔付記8〕
キャップ膜20の厚みが1nm以上500nm以下である、〔付記1〕~〔付記7〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0058】
〔付記9〕
熱処理が、1200℃以上2500℃以下の温度で施される、〔付記1〕~〔付記8〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0059】
〔付記10〕
熱処理は、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される、〔付記1〕~〔付記9〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0060】
〔付記5〕~〔付記10〕によれば、キャップ膜20の構成及び熱処理条件を制御することにより、SiC単結晶基板1の熱分解が開始する温度から炭素含有層に含まれるグラフェン層10が形成される温度までの少なくとも一部の温度領域において残存するようにキャップ膜20が構成され、さらに連続してキャップ膜20が除去されて露出した薄膜10Aから供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上に炭素含有層を形成することができる。
【0061】
〔付記11〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10上にエピタキシャル層3を形成させる工程をさらに含む、〔付記1〕~〔付記10〕のいずれかに記載の複合基板100Bの製造方法。
【0062】
〔付記12〕
エピタキシャル層3の堆積が、物理気相成長法及び化学気相成長法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、〔付記11〕に記載の複合基板100Bの製造方法。
【0063】
〔付記13〕
エピタキシャル層3が、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成される、〔付記11〕又は〔付記12〕に記載の複合基板100Bの製造方法。
【0064】
〔付記11〕~〔付記13〕によれば、表面粗さ(Ra)の小さいエピタキシャル層3を形成することができ、エピタキシャル層3を複合基板100Bから容易に剥離することができる。
【0065】
〔付記14〕
SiC単結晶基板1と、
SiC単結晶基板1の表面に接して配置された、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、
原子間力顕微鏡による観測において、2×2μmあたりにおける、SiC単結晶基板1と接している炭素含有層の表面粗さ(Ra)が、1.0nm以下である複合基板100、100A、100B。
【0066】
〔付記15〕
炭素含有層は、積層体を含み、
積層体の再構成表面層10aは、SiC単結晶基板1のSi終端面1siに接している、〔付記14〕に記載の複合基板100A、100B。
【0067】
〔付記16〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10は、SiC単結晶基板1のC終端面1c又は再構成表面層10aに接している、〔付記14〕に記載の複合基板100、100A、100B。
【0068】
〔付記14〕~〔付記16〕によれば、SiC単結晶基板上に形成され、結晶性の高いグラフェン層を含む炭素含有層の表面粗さ(Ra)を低減した複合基板を得ることができる。
【0069】
〔付記17〕
SiC単結晶基板1は、0.5°以上10°以下のオフ角を有する、〔付記14〕~〔付記16〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100B。
【0070】
〔付記18〕
SiC単結晶基板1が、六方晶系結晶又は立方晶系結晶のいずれかの結晶構造を有する、〔付記14〕~〔付記17〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100B。
【0071】
〔付記19〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10の層数が、1層以上5層以下である、〔付記14〕~〔付記18〕のいずれかに記載の複合基板100、100A、100B。
【0072】
〔付記20〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10上に配置されたエピタキシャル層3をさらに備える、〔付記14〕~〔付記19〕のいずれかに記載の複合基板100B。
【0073】
〔付記17〕~〔付記20〕によれば、表面粗さ(Ra)の小さいエピタキシャル層3を形成することができ、エピタキシャル層3を複合基板100Bから容易に剥離することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 SiC単結晶基板
1c C終端面
1si Si終端面
3 エピタキシャル層
10 グラフェン層
10a 再構成表面層
10A 薄膜
100、100A、100B 複合基板
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5