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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174705
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】複合基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20241210BHJP
   C30B 29/02 20060101ALI20241210BHJP
   C30B 1/02 20060101ALI20241210BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20241210BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20241210BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20241210BHJP
   H01L 21/368 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C01B32/184
C30B29/02
C30B1/02
C23C16/42
C01B32/956
C23C14/06 E
H01L21/205
H01L21/368 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092684
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(74)【代理人】
【識別番号】100135714
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 一生
(74)【代理人】
【識別番号】100167612
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 京樹
(72)【発明者】
【氏名】高村 誠
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K029
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB10
4G077BA02
4G077BE08
4G077CA03
4G077CA07
4G077DB04
4G077DB07
4G077ED05
4G077ED06
4G077HA12
4G077JA03
4G077JB06
4G077TA04
4G146AA01
4G146AB07
4G146BA11
4G146BB11
4G146BB15
4G146BC23
4G146BC27
4G146BC32A
4G146BC33A
4G146BC34A
4G146CB17
4G146MA14
4G146MB03
4G146MB05
4G146NA04
4G146NA12
4G146NB04
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA34
4K029BA56
4K029BB09
4K029BD01
4K029CA01
4K029FA06
4K030AA06
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4K030AA16
4K030BA37
4K030BB02
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4K030CA12
4K030FA10
4K030LA12
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC16
5F045AD14
5F045AD15
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045AE29
5F045AF02
5F045BB02
5F045BB12
5F053AA04
5F053DD19
5F053FF01
5F053GG10
5F053HH04
5F053PP03
5F053RR01
(57)【要約】
【課題】SiC単結晶基板1上に形成される炭素含有層の層数ばらつきが1層以下に低減した複合基板100(100A)を提供する。また、複合基板100(100A)の製造方法を提供する。
【解決手段】複合基板100(100A)は、オフ角を有するSiC単結晶基板1と、SiC単結晶基板1の表面に接して配置された、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、SiC単結晶基板1の最外表面がSi終端面1siの場合、SiC単結晶基板1の上方には、積層体が配置され、かつグラフェン層が1層又は2層配置され、SiC単結晶基板1の最外表面がC終端面1cの場合、SiC単結晶基板1の上方には、グラフェン層10が1層又は2層配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板上に炭素を含む薄膜を分子層レベルで制御可能な堆積方法を用いて堆積する工程と、
熱処理を施して前記薄膜から供給される炭素を用いて前記SiC単結晶基板上に、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層を形成させる工程と、を含み、
前記SiC単結晶基板上における、前記炭素含有層の層数ばらつきが1層以下である、複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜が、重量平均分子量が100以上1000以下の分子膜を含む、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜が、ラングミュアブロジェット膜又は自己組織化単分子膜である、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜の堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜の堆積は、ラングミュアブロジェット法又は蒸着重合法で行われる請求項4に記載の複合基板の製造方法。
【請求項6】
前記薄膜の厚みが0.3nm以上100nm以下である、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理が、300℃以上1000℃以下の、真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で施される第1の熱処理を含み、
前記第1の熱処理において前記薄膜を炭化する、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項8】
前記第1の熱処理の前に、昇温速度100℃/分以上18000℃/分以下であり、かつ、抵抗加熱、ランプアニール、及び高周波誘導加熱からなる群から選択されるいずれかにより熱処理を前記薄膜に施す、請求項7に記載の複合基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の熱処理は、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される、請求項7に記載の複合基板の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理が、前記第1の熱処理後において、1000℃以上2000℃以下の温度で施される第2の熱処理を含み、
前記第2の熱処理において前記薄膜を炭素含有層に形成させる、請求項7に記載の複合基板の製造方法。
【請求項11】
前記薄膜を炭素含有層に形成させた後、前記SiC単結晶基板上の炭素含有層を介して成長するエピタキシャル層を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項12】
前記エピタキシャル層の堆積が、物理気相成長法及び化学気相成長法からなる群から選択されるいずれかの方法で行われる、請求項11に記載の複合基板の製造方法。
【請求項13】
前記エピタキシャル層が、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成される、請求項11に記載の複合基板の製造方法。
【請求項14】
オフ角を有するSiC単結晶基板と、
前記SiC単結晶基板の表面に接して配置された、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、
前記SiC単結晶基板の最外表面がSi終端面の場合、前記SiC単結晶基板の上方には、前記積層体が配置され、かつ前記積層体の前記グラフェン層が1層又は2層であり、
前記SiC単結晶基板の最外表面がC終端面の場合、前記SiC単結晶基板の上方には、前記グラフェン層が1層又は2層配置された、複合基板。
【請求項15】
前記オフ角が、0.5°以上10°以下である、請求項14に記載の複合基板。
【請求項16】
前記SiC単結晶基板が、六方晶系結晶又は立方晶系結晶のいずれかの結晶構造を有する、請求項14に記載の複合基板。
【請求項17】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層の層数が、1層である、請求項14に記載の複合基板。
【請求項18】
前記炭素含有層に含まれるグラフェン層の上方に配置されたエピタキシャル層をさらに備え、
前記エピタキシャル層が、前記SiC単結晶基板が有する結晶系と同じ結晶系を有する、請求項14に記載の複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンの製造方法において、自然酸化によって形成されたシリコンカーバイド(SiC)単結晶基板の表面を覆う酸化被膜を除去し、SiC単結晶基板のSi面を露出させて、露出させたSiC単結晶基板を真空中あるいはアルゴン(Ar)等の不活性ガス中において加熱(熱分解)する方法が知られている。真空中あるいはアルゴン(Ar)等の不活性ガス中において加熱することにより、シリコン(Si)が昇華及び残存する炭素(C)が自己組織化し、SiC単結晶基板上にグラフェンが積層するように形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/023934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SiC単結晶基板が熱分解する際、ステップを起点としてグラフェン層などの炭素含有層が成長するが、その1層目が完全に被覆する前に2層目がSiC単結晶の表面に部分的に成長する。つまり、局所的にSiC単結晶基板の熱分解が発生し、炭素含有層の層数ばらつきが大きくなる恐れがある。
【0005】
本開示は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の層数ばらつきが1層以下に低減した複合基板を提供することを目的の一とする。また、当該複合基板の製造方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の複合基板は、オフ角を有するSiC単結晶基板と、SiC単結晶基板の表面に接して配置された、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、SiC単結晶基板の最外表面がSi終端面の場合、SiC単結晶基板の上方には、積層体が配置され、かつ積層体のグラフェン層が1層又は2層であり、SiC単結晶基板の最外表面がC終端面の場合、SiC単結晶基板の上方には、グラフェン層が1層又は2層配置されている。
【0007】
本開示の一態様の複合基板の製造方法は、SiC単結晶基板上に炭素を含む薄膜を分子層レベルで制御可能な堆積方法を用いて堆積する工程と、熱処理を施して薄膜から供給される炭素を用いてSiC単結晶基板上に、再構成表面層とグラフェン層を積層した積層体またはグラフェン層のいずれかを含む炭素含有層を形成させる工程と、を含み、SiC単結晶基板上における、炭素含有層の層数ばらつきが1層以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の層数ばらつきが1層以下に低減した複合基板及び複合基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施形態に係る複合基板の断面図を示す。
図2図2は変形例1に係る複合基板の断面図を示す。
図3図3は変形例2に係る複合基板の断面図を示す。
図4A図4Aは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その1)。
図4B図4Bは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その2)。
図4C図4Cは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その3)。
図4D図4Dは変形例2に係る複合基板の製造工程の一工程を示す断面図である(その4)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。図面は模式的なものである。また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。実施の形態は、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本実施形態に係る複合基板について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る複合基板100の断面図を示す。
【0013】
複合基板100は、オフ角を有するSiC単結晶基板1と、SiC単結晶基板1の基板の表面に接して配置された炭素含有層と、を備える。本実施形態では、SiC単結晶基板1の最外表面が炭素(C)終端面1cであり、C終端面1cと接している炭素含有層は、グラフェン層10が1層又は2層配置されている。
【0014】
本開示における「オフ角」とは、C軸方向(基板面内に垂直な方向、膜厚方向)から面内に沿って成長結晶をある角度で回転させカッティングするときの回転角θを指す。SiC単結晶基板1が有するオフ角は、0.5°以上10°以下であると好ましく、4°以上8°以下であるとより好ましい。
【0015】
SiC単結晶基板1は、六方晶(4H,6H)系結晶又は立方晶(3C)系結晶のいずれかの結晶構造を有してもよい。例えば、六方晶(4H)系結晶からなるSiC単結晶基板1は、窒素(N)ガス等の不活性ガスで満たしたグラファイトるつぼ内で原料のSiC粉末を昇華させ、原料粉末よりも低温に制御されたSiC種結晶に再結晶させることによって得られる(改良レーリー法(種付き昇華再結晶法))。このとき、SiC単結晶基板1の導電型を決定する不純物が添加されていてもよい。
【0016】
グラフェン層10は、1層の単層構造または2層に形成された積層構造を有する。炭素含有層であるグラフェン層10の層数が1層又は2層であるため、結果として、炭素含有層の層数ばらつきが1層以下である。なお、炭素含有層の層数は、例えば、ラマン分光法、TEM(Transmission Electron Microscope)などにより観察することができ、広範囲を観察する場合はラマンマッピングを用いることが好ましい。炭素含有層の層数ばらつきの観点から、グラフェン層10の層数が1層であることが好ましい。炭素含有層の層数ばらつきが1層以下であると、後に形成可能なエピタキシャル層の結晶成長が良好となる。
【0017】
一般的に、SiC単結晶基板上にグラフェン層等の炭素含有層を形成する場合、SiC単結晶基板を熱分解させることにより、SiC単結晶基板のSi原子が昇華し、残存する炭素(C)が自己組織化し、SiC単結晶基板上にグラフェン層が積層するように形成される。
【0018】
本実施形態では、炭素含有層の層数ばらつきを小さくするために、後述するようにSiC単結晶基板1からの炭素の供給に加えて、新たな炭素の供給源としてSiC単結晶基板1上に炭素を含む薄膜を分子層レベルで制御可能な堆積方法を用いて堆積する。その後、熱処理により薄膜を炭化し、グラフェン層10等の炭素含有層を形成する。本工程により、SiC単結晶基板のステップバンチングが発生する前に炭素含有層の成長を促進することができる。
【0019】
ここで、炭素含有層の形成の際、炭素供給をSiC単結晶基板のみに頼る場合は、局所的な熱分解スピードの違いによって、炭素含有層の面内ばらつきが大きくなる。そこで本実施形態のように、炭素含有層の形成の際に外部からも炭素を供給することによって、同じ1層を得る場合でも、SiC単結晶基板の熱分解による寄与が相対的に抑制されることで、炭素含有層のばらつきが改善する。また、結晶性の高い炭素含有層を形成することができるので、炭素含有層を含む複合基板を半導体装置等の材料として用いたときの半導体装置でのエピ膜成長ばらつきを低減することができる。
【0020】
本実施形態によれば、SiC単結晶基板上に形成される炭素含有層の層数ばらつきを低減した複合基板100を得ることができる。
【0021】
上述の複合基板100では、SiC単結晶基板1の最外表面がC終端面1cであったが、これに限られず、例えば、次に示すような様々な変形例であってもよい。
【0022】
<変形例1>
変形例1に係る複合基板100Aの構成を説明する。変形例1において図1に示す複合基板100と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0023】
図2は、変形例1に係る複合基板100Aの断面図である。変形例1に係る複合基板100Aが上述の図1に示す複合基板100と異なる点は、SiC単結晶基板1の最外表面がシリコン(Si)終端面1siであり、Si終端面1siに接している炭素含有層は、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体である点である。
【0024】
複合基板100Aにおいて、SiC単結晶基板1の最外表面がSi終端面1siであるため、SiC単結晶基板1表面にグラフェン層10を形成する際、SiC単結晶基板1表面に再構成表面層10aが形成され、再構成表面層10a上にグラフェン層10が形成される。再構成表面層10aは、グラフェン層10との格子不整合を緩和する役割を果たすものであり、バッファ層又はグラフェン層の第0層とも称する。
【0025】
変形例1においても、炭素含有層の形成の際に、SiC単結晶基板からに加えて、外部からも炭素を供給することによって、同じ1層を得る場合でも、SiC単結晶基板の熱分解による寄与が相対的に抑制されることで、炭素含有層のばらつきが改善する。
【0026】
<変形例2>
変形例2に係る複合基板100Bの構成を説明する。変形例2において図2に示す複合基板100Aと共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0027】
図3は、変形例2に係る複合基板100Bの断面図である。変形例2に係る複合基板100Bが上述の図2に示す複合基板100Aと異なる点は、グラフェン層10上に配置されたエピタキシャル層3を備える点である。
【0028】
複合基板100Bにおいて、オフ角を有するSiC単結晶基板1を用いることにより、SiC単結晶基板1の結晶タイプがグラフェン層10を介してエピタキシャル層3の結晶成長に反映される。このため、SiC単結晶基板1の結晶タイプと同じタイプの単結晶であるSiCのエピタキシャル層3を形成することができる。エピタキシャル層3の結晶成長の観点から、オフ角は、0.5°以上10°以下であると好ましく、4°以上8°以下であるとより好ましい。
【0029】
変形例2においても、炭素含有層の形成の際に、SiC単結晶基板からに加えて、外部からも炭素を供給することによって、同じ1層を得る場合でも、SiC単結晶基板の熱分解による寄与が相対的に抑制されることで、炭素含有層のばらつきが改善する。複合基板100Bは、上述した複合基板100と比較して、再構成表面層10aをさらに有する構成であるので、グラフェン層の層数を制御し易く、またグラフェン層の層数ばらつきも少ないので、エピタキシャル層3の結晶性を向上することができる。すなわち、グラフェン層に、SiC単結晶基板と同タイプの結晶を成長させることができる。
【0030】
(複合基板の製造方法)
次に、複合基板の製造方法の一例について説明する。ここでは、上述の複合基板100Bの製造方法を説明する。
【0031】
まず、図4Aに示すように、SiC単結晶基板1のSi終端面1siにおいて、フッ化水素酸を用いて、SiC単結晶基板1から自然酸化膜を除去する。SiC単結晶基板1は、例えば4°のオフ角を有する4H‐SiC基板を用いることができる。SiC単結晶基板1のサイズは特に限定されないが、例えば10mmのものを用いることができる。
【0032】
次に、図4Bに示すように、自然酸化膜を除去したSiC単結晶基板1上に炭素を含む薄膜30を堆積させる。薄膜30は分子層レベルで制御可能な堆積方法を用いて堆積する。薄膜30は、例えば、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法などを用いることができる。より具体的には、ラングミュアブロジェット法又は蒸着重合法を用いることができる。
【0033】
薄膜30は、ラングミュアブロジェット法を用いたラングミュアブロジェット膜又は自己組織化単分子膜であってもよい。また、薄膜30が、重量平均分子量が100以上1000以下の分子膜を含んでもよい。重量平均分子量が100以上1000以下の分子膜としては、例えば、飽和脂肪酸であるステアリン酸(C1735COOH)、パルミチン酸(C1531COOH)などが挙げられる。
【0034】
薄膜30は、グラフェン層等の炭素含有層を形成するための炭素の供給源として作用している。薄膜30の厚さは、炭素の供給源として作用できる程度であればよい。薄膜30の厚さは、例えば、0.3nm以上100nm以下であり、1nm以上90nm以下であってもよく、10nm以上80nm以下であってもよい。
【0035】
ここでは、ステアリン酸(C1735COOH)を1mMの濃度でヘキサン中に溶解させ、純水に溶解液を滴下した溶液に自然酸化膜を除去したSiC単結晶基板1を浸漬させ、垂直に引き上げ、乾燥させることにより、薄膜30である単分子膜をSiC単結晶基板1に被覆させる。乾燥時間としては、例えば60分間である。さらに高周波誘導加熱炉に単分子膜を被覆させたSiC単結晶基板1を載置し、真空引きを行う。真空引きは、例えば、1×10-3N/m以下になるまで行ってもよい。
【0036】
次に、図4Cに示すように、SiC単結晶基板1を第1の熱処理を施して薄膜30を炭化させて薄膜30Aを形成する。第1の熱処理は、例えば、300℃以上1000℃以下の、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスが挙げられる。
【0037】
ここでは、薄膜30である単分子膜をSiC単結晶基板1に被覆させた後、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いてパージを行い、大気圧まで到達した後に不活性ガス雰囲気下でSiC単結晶基板1を熱処理して単分子膜を炭化させて薄膜30Aを形成することができる。熱処理温度としては、例えば、400℃である。
【0038】
また、第1の熱処理の前にさらに熱処理を薄膜30に施してもよい。その熱処理としては、例えば、昇温速度100℃/分以上18000℃/分以下であってもよく、抵抗加熱、ランプアニール、及び高周波誘導加熱を用いることができる。その熱処理を薄膜30に施すことにより、第1の熱処理において、薄膜30を効率よく炭化させることができる。
【0039】
次に、図4Dに示すように、薄膜30Aが積層されたSiC単結晶基板1に第2の熱処理を施して、薄膜30Aから供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上に炭素含有層を形成する。炭素含有層は、SiC単結晶基板1のSi終端面1Siと接している再構成表面層10a及び再構成表面層10aと接しているグラフェン層10からなる積層体を含む。
【0040】
第2の熱処理は、例えば、1000℃以上2000℃以下の温度で施される。ここでは、熱処理として、1×10-4N/mの真空雰囲気下において薄膜30Aが積層されたSiC単結晶基板1を1600℃で5分間加熱することでSiC単結晶基板1表面に炭素含有層を形成する。このときの昇温速度は、例えば400℃/秒である。形成された炭素含有層は、例えば、再構成表面層10aのみと、再構成表面層10aとグラフェン層10からなる積層体との面積比率は80:20である。
【0041】
次に、図3に示すように、炭素含有層に含まれるグラフェン層10上にエピタキシャル層3を形成する。以上により、複合基板100Bが完成する。エピタキシャル層3の形成(堆積)方法は特に限定されないが、例えば、物理気相成長法及び化学気相成長法などを用いることができる。また、エピタキシャル層3は、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成することができる。
【0042】
エピタキシャル層3を形成するための原料ガスは特に限定されないが、例えば、プロパン(C)とシラン(SiH)との体積比率を1:3して用いることができる。なお、シラン(SiH)はSiの前駆体、プロパン(C)はCの前駆体としてそれぞれ用いることができる。また、原料ガスを運ぶためのキャリアガスとしてグラフェン層10のエッチングを抑制するアルゴンガスを用いてもよい。
【0043】
エピタキシャル層3の厚さは、特に限定されないが、例えば、500nmである。
【0044】
(その他の実施の形態)
上記のように、いくつかの実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含む。
【0045】
<実施形態の例>
本実施形態の例を以下に挙げる。本実施形態は以下の例に限定されない。
【0046】
〔付記1〕
SiC単結晶基板1上に炭素を含む薄膜30を分子層レベルで制御可能な堆積方法を用いて堆積する工程と、
熱処理を施して薄膜30から供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上に、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層を形成させる工程と、を含み、
SiC単結晶基板1上における、炭素含有層の層数ばらつきが1層以下である、複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0047】
〔付記2〕
薄膜30が、重量平均分子量が100以上1000以下の分子膜を含む、〔付記1〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0048】
〔付記3〕
薄膜30が、ラングミュアブロジェット膜又は自己組織化単分子膜である、〔付記1〕又は〔付記2〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0049】
〔付記4〕
薄膜30の堆積が、物理気相成長法、化学気相成長法、及び湿式堆積法からなる群から選択されるいずれかの方法により行われる、〔付記1〕~〔付記3〕いずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0050】
〔付記5〕
薄膜30の堆積は、ラングミュアブロジェット法又は蒸着重合法で行われる〔付記4〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0051】
〔付記6〕
薄膜30の厚みが0.3nm以上100nm以下である、〔付記1〕~〔付記5〕いずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0052】
〔付記1〕~〔付記6〕によれば、炭素含有層の形成の際に、SiC単結晶基板からに加えて、外部からも炭素を供給することによって、炭素含有層のばらつきが改善する。また、炭素含有層を含む複合基板100、100A、100Bを半導体装置等の材料として用いた場合には、半導体装置でのエピ膜成長ばらつきを低減することができる。
【0053】
〔付記7〕
熱処理が、300℃以上1000℃以下の、真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で施される第1の熱処理を含み、
第1の熱処理において薄膜30を炭化する、〔付記1〕~〔付記6〕いずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0054】
〔付記8〕
第1の熱処理の前に、昇温速度100℃/分以上18000℃/分以下であり、かつ、抵抗加熱、ランプアニール、及び高周波誘導加熱からなる群から選択されるいずれかにより熱処理を前記薄膜に施す、〔付記7〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0055】
〔付記9〕
第1の熱処理は、1×10-4N/m以下の真空雰囲気下又は1×10N/m以上1×10N/m以下の不活性ガス雰囲気下で施される、〔付記7〕又は〔付記8〕に記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0056】
〔付記10〕
熱処理が、第1の熱処理後において、1000℃以上2000℃以下の温度で施される第2の熱処理を含み、
第2の熱処理において薄膜30Aを炭素含有層に形成させる、〔付記7〕~〔付記9〕いずれかに記載の複合基板100、100A、100Bの製造方法。
【0057】
〔付記7〕~〔付記10〕によれば、熱処理条件を制御することにより、薄膜30を効率よく炭化させ、薄膜30から供給される炭素を用いてSiC単結晶基板1上に炭素含有層を形成することができる。
【0058】
〔付記11〕
薄膜30を炭素含有層に形成させた後、SiC単結晶基板1上の炭素含有層を介して成長するエピタキシャル層3を形成する工程をさらに含む、〔付記1〕~〔付記10〕いずれかに記載の複合基板100Bの製造方法。
【0059】
〔付記12〕
エピタキシャル層3の堆積が、物理気相成長法及び化学気相成長法からなる群から選択されるいずれかの方法で行われる、〔付記11〕に記載の複合基板100Bの製造方法。
【0060】
〔付記13〕
エピタキシャル層3が、基板温度1000℃以上2000℃以下で形成される、〔付記11〕又は〔付記12〕に記載の複合基板100Bの製造方法。
【0061】
〔付記11〕~〔付記13〕によれば、グラフェン層の層数ばらつきが少なく、エピタキシャル層3の結晶性を向上することができる。
【0062】
〔付記14〕
オフ角を有するSiC単結晶基板1と、
SiC単結晶基板1の表面に接して配置された、再構成表面層10aとグラフェン層10を積層した積層体またはグラフェン層10のいずれかを含む炭素含有層と、を備え、
SiC単結晶基板1の最外表面がSi終端面1siの場合、SiC単結晶基板1の上方には、積層体が配置され、かつ積層体のグラフェン層10が1層又は2層であり、
SiC単結晶基板1の最外表面がC終端面1cの場合、SiC単結晶基板1の上方には、グラフェン層10が1層又は2層配置された、複合基板100、100A、100B。
【0063】
〔付記15〕
オフ角が、0.5°以上10°以下である、〔付記14〕に記載の複合基板100、100A、100B。
【0064】
〔付記16〕
SiC単結晶基板1が、六方晶系結晶又は立方晶系結晶のいずれかの結晶構造、〔付記14〕又は〔付記15〕に記載の複合基板100、100A、100B。
【0065】
〔付記17〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10の層数が、1層である、〔付記14〕~〔付記16〕いずれかに記載の複合基板100、100A、100B。
【0066】
〔付記14〕~〔付記17〕によれば、炭素含有層の形成の際に、SiC単結晶基板からに加えて、外部からも炭素を供給することによって、炭素含有層のばらつきが改善する。また、炭素含有層を含む複合基板100、100A、100Bを半導体装置等の材料として用いた場合には、半導体装置でのエピ膜成長ばらつきを低減することができる。
【0067】
〔付記18〕
炭素含有層に含まれるグラフェン層10の上方に配置されたエピタキシャル層3をさらに備え、
エピタキシャル層3が、SiC単結晶基板1が有する結晶系と同じ結晶系を有する、〔付記14〕~〔付記17〕いずれかに記載の複合基板100B。
【0068】
〔付記18〕によれば、グラフェン層10により、エピタキシャル層3の結晶性を向上することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 SiC単結晶基板
1c C終端面
1si Si終端面
3 エピタキシャル層
10 グラフェン層
10a 再構成表面層
30、30A 薄膜
100、100A、100B 複合基板
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D