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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174725
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スパッタ検出方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20241210BHJP
   B23K 11/25 20060101ALI20241210BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K11/25 513
B23K11/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092709
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川邉 直雄
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】日置 亨
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 知子
(72)【発明者】
【氏名】江島 翔太
(72)【発明者】
【氏名】玉田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】小原 貴也
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AB02
4E165AB03
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA24
4E165CA25
4E165EA14
(57)【要約】
【課題】抵抗スポット溶接を行なう際にスパッタが発生したか否かを精度良く判定するスパッタ検出方法を提供すること。
【解決手段】スパッタ検出方法は、重ねられた複数の板状の溶接材料を抵抗スポット溶接する際に発生するスパッタを検出するスパッタ検出方法であって、溶接材料の溶接部を一対の電極の間に挟んで加圧しつつ一対の電極に通電することにより複数の板状の溶接材料を溶接する溶接工程と、一対の電極の間の加圧力及びストロークに基づいて溶接部の膨張量を算出する算出工程と、膨張量の時間変化を示す膨張量波形の傾きの大きさが予め設定した判定閾値を下回った場合に、スパッタが発生したと判定する判定工程と、を有し、判定工程では、判定の対象期間を少なくとも2つに分割した区間毎に異なる判定閾値を適用し、区間毎に対応する判定閾値と膨張量波形の傾きの大きさとを比較する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ねられた複数の板状の溶接材料を抵抗スポット溶接する際に発生するスパッタを検出するスパッタ検出方法であって、
前記溶接材料の溶接部を一対の電極の間に挟んで加圧しつつ前記一対の電極に通電することにより前記複数の板状の溶接材料を溶接する溶接工程と、
前記一対の電極の間の加圧力及びストロークに基づいて前記溶接部の膨張量を算出する算出工程と、
前記膨張量の時間変化を示す膨張量波形の傾きの大きさが予め設定した判定閾値を下回った場合に、前記スパッタが発生したと判定する判定工程と、を有し、
判定工程では、判定の対象期間を少なくとも2つに分割した区間毎に異なる判定閾値を適用し、前記区間毎に対応する前記判定閾値と前記膨張量波形の傾きの大きさとを比較するスパッタ検出方法。
【請求項2】
前記判定工程では、
前記対象期間を通電時間の開始時点から終了時点までの第1区間及び前記通電時間の終了時点から前記一対の電極を開放するまで保持する保持時間の終了時点までの第2区間の2つの区間に分割し、
前記第1区間に適用される前記判定閾値よりも小さい前記判定閾値を前記第2区間に適用する請求項1に記載のスパッタ検出方法。
【請求項3】
前記膨張量は、
E=S+a×F・・・(1)
により算出され、Eは膨張量であり、Sはストロークであり、aは歪量変換係数であり、Fは加圧力である、請求項1に記載のスパッタ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はスパッタ検出方法に関し、特に、重ねられた複数の板状の溶接材料を抵抗スポット溶接する際に発生するスパッタを検出するスパッタ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗スポット溶接では、重ねられた複数の板状の溶接材料の溶接部を一対の電極の間に挟んで加圧しつつ、一対の電極に通電することにより抵抗溶接を行なう。この抵抗溶接による発熱が過大になると、溶接部の一部が飛散するスパッタが発生する場合がある。スパッタが発生すると、溶接部やその周囲に溶接不良が生じる虞がある。そこで、抵抗スポット溶接において、電極変位量、電極間電圧または電極間抵抗の変化を検出してスパッタの発生を検出する方法が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、接合させた部材の接触部に溶接電流を流し、抵抗加熱すると共に、圧力を加えて接触部を溶着させる抵抗溶接方法において、通電中にスパッタの発生を検知した場合には、予め設定した溶接電流Iwに所定量の電流Iαを加算した電流(Iw+Iα)を溶接電流として再設定し、その電流(Iw+Iα)を予め設定した通電時間Tが満了するまで被溶接部材1,2に流す抵抗溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-105041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スパッタの発生を検出する方法として、例えば、電極変位量、電極間電圧又は電極間抵抗等の特徴の変化が判定閾値(所定値)を下回った(又は上回った)場合に、スパッタが発生していると判定することが考えられる。しかしながら、単一の判定閾値を用いてスパッタが発生したか否かの判定を行なうと、スパッタの発生に由来する特徴の変化がスパッタの発生とは異なる要因に由来する特徴の変化に重畳する場合に、変化量が大きくなることでスパッタが発生したか否かを誤判定する虞があるという問題があった。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、抵抗スポット溶接を行なう際にスパッタが発生したか否かを精度良く判定するスパッタ検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態にかかる抵抗スポット溶接のスパッタ検出方法は、スパッタ検出方法は、重ねられた複数の板状の溶接材料を抵抗スポット溶接する際に発生するスパッタを検出するスパッタ検出方法であって、溶接材料の溶接部を一対の電極の間に挟んで加圧しつつ一対の電極に通電することにより複数の板状の溶接材料を溶接する溶接工程と、一対の電極の間の加圧力及びストロークに基づいて溶接部109の膨張量を算出する算出工程と、膨張量の時間変化を示す膨張量波形の傾きの大きさが予め設定した判定閾値を下回った場合に、スパッタが発生したと判定する判定工程と、を有し、判定工程では、判定の対象期間を少なくとも2つに分割した区間毎に異なる判定閾値を適用し、区間毎に対応する判定閾値と膨張量波形の傾きの大きさとを比較する。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、抵抗スポット溶接を行なう際にスパッタが発生したか否かを精度良く判定するスパッタ検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】抵抗スポット溶接システムの概略図である。
図2】膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。
図3】実施の形態にかかるスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。
図4】比較例1のスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。
図5】比較例2のスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、本開示が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、抵抗スポット溶接システムの概略図である。図1を参照しながら、抵抗スポット溶接システム100を説明する。図1に示す抵抗スポット溶接システム100は、一対の電極である上部可動電極101及び下部固定電極を備える。上部可動電極101及び下部固定電極103の間には、溶接される金属板105及び金属板107の溶接部109が重ねて配置される。なお、可動電極及び固定電極は上下逆でもよい。金属板105及び金属板107は、複数の板状の溶接材料であり、上下に積み重ねられている。
【0012】
上部可動電極101が矢印で示すように上下に動くことで溶接部109を加圧する。金属板105及び金属板107が重ねられた方向から上部可動電極101及び下部固定電極103が溶接部109を挟む。上部可動電極101及び下部固定電極103は、溶接部109を加圧しつつ電流を流す。上部可動電極101及び下部固定電極103で挟まれた溶接部109に発生する抵抗熱により、金属板105及び金属板107が溶接される。溶接部109は、抵抗熱によって溶融された後に凝固してナゲットを形成する。図1では金属板は2枚として描かれているが、金属板は3枚以上でもよい。
【0013】
上部可動電極101がこの金属板105に接触してから押し込まれる量をストロークという。ストロークは、上部可動電極101で測定される。加圧力は、下部固定電極103で測定される。コンピュータなどの処理装置(図示せず)が、これら測定値を用いて溶接部109の膨張量を算出する。そして、処理装置は、算出された膨張量に基づいて、膨張量の時間変化を示す膨張量波形を生成する。
【0014】
図2は、膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。図2の左側は、通電時間の前半にスパッタが発生した場合及びスパッタが発生していない場合のそれぞれに関して膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示したグラフである。図2の右側は、通電時間の終了間際にスパッタが発生した場合及びスパッタが発生しなかった場合のそれぞれに関して膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示したグラフである。図2を参照しながら、スパッタが発生した場合及びスパッタが発生していない場合のそれぞれに関して膨張量及び膨張量波形の傾向を説明する。
【0015】
図2の各グラフにおいて。スパッタが発生した場合の膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化は、黒色実線で示している。図2の各グラフにおいて、スパッタが発生しなかった場合の膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化は灰色実線で示している。
【0016】
図2の上側に示す各グラフの縦軸は、ストローク及び加圧力の測定値から算出された溶接部109の膨張量を示している。溶接部109の膨張量は下記式(1)によって求められる。
E=S+a×F・・・(1)
ここで、Eは膨張量であり、Sはストロークであり、aは歪量変換係数であり、Fは加圧力である。歪量変換係数aは加圧力を歪量に変換する係数であり、任意の定数とすることができる。
【0017】
このように、上部可動電極101で測定されたストロークと、下部固定電極103で測定された加圧力と、を用いることで、それぞれ独立に求めるより精度よく膨張量を算出できる。そして、膨張量の時間変化を示す膨張量波形の傾きは、単位時間当たりの膨張量の変化量である。
【0018】
時点t0は、通電時間の開始時点を示している。時点t1は、通電時間の終了時点を示している。時点t1は、上部可動電極101及び下部固定電極103を開放するまで保持する保持時間の開始時点も示している。時点t2は、上部可動電極101及び下部固定電極103を開放するまで保持する保持時間の終了時点を示している。
【0019】
図2の左側に示すように、通電が開始されると、時点t0から時点t1までの区間にスパッタが発生し得る。膨張量は、スパッタが発生すると急激に変化(減少)する。そのため、膨張量波形の傾きから、スパッタを検出することが可能である。スパッタを検出するために、例えば、膨張量波形の傾きの大きさが予め設定した判定閾値を下回った場合に、スパッタが発生したと判定する方法が考えられる。
【0020】
図2の右側に示すように、通電の終了に伴って溶接材料の溶接部109が収縮することにより、通電時間の終了直後は溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化(減少)が生じる。そのため、膨張量及び膨張量波形の傾きは、灰色実線で示すように、時点t1付近から減少する。ここで、通電時間の終了間際にスパッタが発生した場合、溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化にスパッタの発生に由来する膨張量の変化が重畳する。これら2つの膨張量の変化が重畳すると、膨張量及び膨張量波形の傾きは、黒色実線で示すように時点t1から急激に変化(減少)する。そして、時点t1から時点t2までの区間における膨張量波形の傾きの最小値は、時点t0から時点t1までの区間における膨張量波形の傾きの最小値に比べて大幅に小さくなる。
【0021】
したがって、時点t0から時点t2までを含む膨張量波形の一周期を判定の対象期間とした場合、当該対象期間に単一の判定閾値を適用してスパッタが発生したか否かを判定すると、スパッタの検出精度が低下するという問題がある。このような問題が生じる例として、対象期間に単一の判定閾値を適用した比較例1、2のスパッタ検出方法を挙げて、具体的に説明する。
【0022】
図4は、比較例1のスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。図4に示す比較例1のスパッタ検出方法では、予め設定した判定閾値である-0.006mm/msを対象期間に適用している。比較例1のスパッタ検出方法は、膨張量波形の傾きの大きさが-0.006mm/msを下回った場合に、スパッタが発生したと判定することができる。なお、判定閾値である-0.006mm/msは、スパッタの発生に由来する膨張量の変化と溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化とが重畳したときの膨張量波形の傾きの最小値から所定の割合だけ大きい値である。
【0023】
図4の左側に黒色実線で示すように、比較例1のスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、時点t0から時点t1までの区間のうち通電時間の前半に発生したスパッタに由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きは、判定閾値以上である。また、図4の左側に灰色実線で示すように、時点t1から時点t2までの区間に発生した溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きも、判定閾値以上である。したがって、比較例1のスパッタ検出方法では、通電時間の終了直後に発生した溶接材料の収縮をスパッタとして誤判定することは抑制されるが、通電時間の前半に発生したスパッタを検出することができないという問題がある。
【0024】
一方、図4の右側に黒色実線で示すように、時点t0から時点t1までの区間のうち通電時間の終了間際に発生したスパッタに由来する膨張量の変化は、溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化に重畳する。そのため、比較例1のスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、時点t1から時点t2までの区間においてこれら2つの膨張量の変化が重畳した膨張量波形の傾きは、判定閾値を下回る。したがって、比較例1のスパッタ検出方法では、通電時間の終了間際に発生したスパッタを検出することができる。
【0025】
次に、図5は、比較例2のスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。図5に示す比較例2のスパッタ検出方法では、予め設定した判定閾値である-0.002mm/msを対象期間に適用している。比較例2のスパッタ検出方法は、膨張量波形の傾きが-0.002mm/msを下回った場合に、スパッタが発生したと判定することができる。なお、判定閾値である-0.002mm/msは、スパッタの発生に由来する膨張量の変化が生じたときの膨張量波形の傾きの最小値から所定の割合だけ大きい値である。
【0026】
図5の左側に黒色実線で示すように、比較例2のスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、時点t0から時点t1までの区間のうち通電時間の前半に発生したスパッタに由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きは、判定閾値を下回る。また、図5の左側に灰色実線で示すように、時点t1から時点t2までの区間に発生した溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きも、判定閾値を下回る。したがって、比較例2のスパッタ検出方法では、通電時間の前半に発生したスパッタを検出することはできるが、通電時間の終了直後に発生した溶接材料の収縮をスパッタとして誤判定してしまうという問題がある。
【0027】
一方、図5の右側に黒色実線で示すように、比較例2のスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、時点t0から時点t1までの区間のうち通電時間の終了間際に発生したスパッタに由来する膨張量の変化と時点t1から時点t2までの区間にに発生した溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化とが重畳した膨張量波形の傾きも、判定閾値を下回る。したがって、比較例2のスパッタ検出方法では、通電時間の終了間際に発生したスパッタを検出することができる。
【0028】
これに対し、本実施形態にかかるスパッタ検出方法は、重ねられた複数の板状の溶接材料を抵抗スポット溶接する際に発生するスパッタを検出するスパッタ検出方法であって、以下の溶接工程、算出工程、及び判定工程を有する。
【0029】
溶接工程は、溶接材料の溶接部109を一対の電極の間に挟んで加圧しつつ一対の電極に通電することにより複数の板状の溶接材料を溶接する。算出工程は、一対の電極の間の加圧力及びストロークに基づいて溶接部109の膨張量を算出する。判定工程は、膨張量の時間変化を示す膨張量波形の傾きの大きさが予め設定した判定閾値を下回った場合に、スパッタが発生したと判定する。そして、判定工程では、判定の対象期間を少なくとも2つに分割した区間毎に異なる複数の判定閾値を適用し、区間毎に対応する判定閾値と膨張量波形の傾きの大きさとを比較する。
【0030】
まず、溶接工程では、上記した抵抗スポット溶接システム100の上部可動電極101及び下部固定電極103の間で金属板105及び金属板107の溶接部109を加圧して挟み、上部可動電極101及び下部固定電極103に通電することにより金属板105及び金属板107の溶接を行なう。溶接工程では、通電を開始すると、上部可動電極101及び下部固定電極103の間に挟まれている溶接材料の溶接部109が膨張する。そして、通電が終了した後、上部可動電極101及び下部固定電極103を開放するまで保持する間に、溶接材料の溶接部109が収縮する。溶接工程では、溶接部109が凝固することにより、金属板105及び金属板107の間にナゲットが形成されて金属板105及び金属板107が溶接される。
【0031】
次に、算出工程では、ストローク及び加圧力の測定値から溶接部109の膨張量の時間変化を示す膨張量波形を算出する。溶接部109の膨張量は、上部可動電極101で測定されたストローク及び下部固定電極103で測定された加圧力を用いて、上記式(1)によって求めるとよい。図3は、実施の形態にかかるスパッタ検出方法を説明するための膨張量及び膨張量波形の傾きの時間変化を示す図である。
【0032】
図3を参照しながら、判定工程を具体的に説明する。図3に示すように、判定工程では、対象期間を通電時間の開始時点から終了時点までの第1区間、及び通電時間の終了時点から上部可動電極101及び下部固定電極103を開放するまで保持する保持時間の終了時点までの第2区間の2つの区間に分割するとよい。すなわち、対象期間は、時点t0から時点t2までの期間である。そして、第1区間は時点t0から時点t1までの区間であるとよく、第2区間は時点t1から時点t2までの区間であるとよい。これにより、通電時間の前半に発生するスパッタだけでなく、通電時間の終了間際に発生するスパッタも高い精度で検出することができる。
【0033】
そして、判定工程では、第1区間及び第2区間に、互いに異なる第1判定閾値及び第2判定閾値を判定閾値として適用する。詳細には、判定工程では、第1判定閾値を第1区間に適用し、第1判定閾値よりも小さい第2判定閾値を第2区間に適用する。図3に示す例では、第1判定閾値が-0.002mm/msであり、第2判定閾値が-0.006mm/msである。
【0034】
判定工程では、第1区間において、膨張量波形の傾きの大きさが-0.002mm/msを下回った場合に、スパッタが発生したと判定する。なお、第1判定閾値である-0.002mm/msは、例えば、スパッタの発生に由来する膨張量の変化が生じたときの膨張量波形の傾きの最小値から所定の割合だけ大きい値である。
【0035】
また、判定工程では、第2区間において、膨張量波形の傾きの大きさが-0.006mm/msを下回った場合に、スパッタが発生したと判定する。なお、第2判定閾値である-0.006mm/msは、例えば、スパッタの発生に由来する膨張量の変化と溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化とが重畳したときの膨張量波形の傾きの最小値から所定の割合だけ大きい値である。
【0036】
図3の左側に黒色実線で示すように、本実施形態にかかるスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、第1区間のうち通電時間の前半に発生したスパッタに由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きは、第1判定閾値を下回る。一方、図3の左側に灰色実線で示すように、第2区間に発生した溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化を示す膨張量波形の傾きは、第2判定閾値以上である。したがって、本実施形態にかかるスパッタ検出方法によれば、通電時間の終了直後に発生した溶接材料の収縮をスパッタとして誤判定することを抑制しつつ、通電時間の前半に発生したスパッタを検出することができる。
【0037】
さらに、図3の右側に黒色実線で示すように、本実施形態にかかるスパッタ検出方法によりスパッタの検出を行なった場合、第1区間のうち通電時間の終了間際に発生したスパッタに由来する膨張量の変化と第2区間に発生した溶接材料の収縮に由来する膨張量の変化とが重畳した膨張量波形の傾きは第2判定閾値を下回る。したがって、本実施形態にかかるスパッタ検出方法によれば、通電時間の終了間際に発生したスパッタも検出することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態にかかるスパッタ検出方法では、スパッタが発生するタイミングに応じて異なる値に設定された複数の判定閾値と膨張量波形の傾きとの比較に基づいてスパッタが発生したか否かを判定する。そのため、本実施形態にかかるスパッタ検出方法によれば、抵抗スポット溶接を行なう際にスパッタが発生したか否かを精度良く判定することができる。
【0039】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
100 抵抗スポット溶接システム
101 上部可動電極
103 下部固定電極
105 金属板
107 金属板
109 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5