(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174732
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B21B 37/00 20060101AFI20241210BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20241210BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B21B37/00 300
G05B19/418 Z
C21D11/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092716
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 純一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健吾
(72)【発明者】
【氏名】塩川 一生
(72)【発明者】
【氏名】湊 研
【テーマコード(参考)】
3C100
4E124
4K038
【Fターム(参考)】
3C100AA03
3C100AA14
3C100AA22
3C100AA29
3C100AA70
3C100BB15
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3C100BB39
3C100EE10
4E124AA07
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4E124BB07
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4K038AA01
4K038BA01
4K038CA01
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4K038EA01
4K038FA03
(57)【要約】
【課題】上工程が実行された後、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置等を提供する。
【解決手段】本発明に係る操業条件決定装置100は、鋼材の上工程及び下工程における操業条件を入力とし、鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、鋼材の上工程における操業実績及び下工程における操業条件を、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される鋼材の材料特性値の確率分布と、注文情報に含まれる鋼材の材料特性値の仕様とによって算出される鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデルを逆解析することで、下工程における操業条件を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上工程及び下工程を有する製造工程を経て製造される鋼材について、前記上工程が実行された後、注文情報に応じた前記下工程における操業条件を決定する操業条件決定装置であって、
前記鋼材についての前記上工程及び前記下工程における操業条件を入力とし、前記鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、
対象鋼材についての前記上工程における操業実績及び前記下工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記注文情報に含まれる前記対象鋼材の材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件を決定する、
操業条件決定装置。
【請求項2】
前記下工程における搬送順が予め決定されている複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項3】
複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定した後、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順による制約条件を考慮した最適化問題を求解することで、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順を決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項4】
前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順を決定した後、搬送順が決定された複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される複数の前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、決定された前記搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを再度逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定する、
請求項3に記載の操業条件決定装置。
【請求項5】
複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される複数の前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件及び搬送順を一度に決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項6】
前記鋼材についての前記下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を入力とし、前記鋼材についての前記下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを更に備え、
前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を前記操業条件予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件の確率分布と、前記対象鋼材についての前記上工程における操業実績とを、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布に基づき算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記操業条件予測モデル及び前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件の範囲又は狙い値を決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項7】
前記材料特性値予測モデルは、ベイズ推定を用いたモデルである、
請求項1から6の何れかに記載の操業条件決定装置。
【請求項8】
前記材料特性値予測モデルは、分散不均一ガウス過程を用いたモデルである、
請求項1から6の何れかに記載の操業条件決定装置。
【請求項9】
上工程及び下工程を有する製造工程を経て製造される鋼材について、前記上工程が実行された後、注文情報に応じた前記下工程における操業条件を決定する操業条件決定方法であって、
前記鋼材についての前記上工程及び前記下工程における操業条件を入力とし、前記鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを用い、
対象鋼材についての前記上工程における操業実績及び前記下工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記注文情報に含まれる前記対象鋼材の材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件を決定する、
操業条件決定方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から6の何れかに記載の操業条件決定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上工程及び下工程を有する製造工程で製造される鋼材について、上工程が実行された後、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置、操業条件決定方法、及び操業条件決定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の鋼材は、製鋼工程等の上工程、及び、連続焼鈍工程等の下工程を有する製造工程を経て製造される。
ここで、製造後の鋼材の引張強度等の材料特性値が注文仕様を満足しない(鋼材の材料特性値が不合格となる)ことによる製品歩留まりの低下を抑制するには、上工程における操業実績が適切な操業条件(鋼材の材料特性値が合格となる確率が高い操業条件)からずれた場合に、鋼材の材料特性値が合格となる確率が高くなるように、上工程における操業実績を踏まえて、これから実行する下工程における操業条件を適切に決定する(本明細書では、これを「材料特性値FF(フィードフォワード)技術」と称する)ことが重要である。
【0003】
従来の材料特性値FF技術としては、テーブル方式や線形回帰モデルに基づく手法が用いられることが多く、制御端の数も限られていることから、鋼材の材料特性値が合格となる確率を十分に高めることができないという問題があった。
【0004】
最近では、材料特性値FF技術として、例えば、特許文献1に記載のように、ニューラルネットワークを始めとする機械学習によって構築された材料特性値予測モデルの出力が所望の値に漸近するように、下工程における操業条件を決定する技術も提案されている。具体的には、特許文献1に記載の技術は、確定した上工程における操業実績(特許文献1では、製造実績データ)を操業条件(特許文献1では、製造仕様)の固定値として用いた上で、操業条件から材料特性値を予測する材質特性値予測モデル(特許文献1では、予測モデル)を逆解析することで、材料特性値の予測値が所望の値に漸近するように、下工程における操業条件を決定する技術である。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、材料特性値の予測値として期待値のみを出力する材料特性値予測モデルを用いているため、この予測される期待値を信頼して下工程における操業条件を決定すると、材料特性値のバラツキが大きな操業条件の領域では、材料特性値が不合格になるリスクが高いという問題がある。
【0006】
なお、非特許文献1、2には、分散不均一ガウス過程(分散不均一を考慮したガウス過程回帰)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Alan D. Saul, James Hensman, Aki Vehtari, Neil D. Lawrence, "Chained Gaussian Processes", Proceedings of the 19th International Conference on Artificial Intelligence and Statistics, PMLR 51:1431-1440, 2016
【非特許文献2】「ヘテロスケダスティック尤度と多潜在GP」, [online], [令和4年12月20日検索], インターネット<URL:https://gpflow.github.io/GPflow/develop/notebooks/advanced/heteroskedastic.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、上工程及び下工程を有する製造工程で製造される鋼材について、上工程が実行された後、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、上工程及び下工程を有する製造工程を経て製造される鋼材について、前記上工程が実行された後、注文情報に応じた前記下工程における操業条件を決定する操業条件決定装置であって、前記鋼材についての前記上工程及び前記下工程における操業条件を入力とし、前記鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、対象鋼材についての前記上工程における操業実績及び前記下工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記注文情報に含まれる前記対象鋼材の材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件を決定する、操業条件決定装置を提供する。
【0011】
本発明において、「上工程」としては、例えば、製鋼工程、熱延工程及び冷延工程を挙げることができる。「下工程」としては、例えば、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程を挙げることができる。「製造工程」は、鋼材の厚みや表面状態、内部の金属組織を変化させるなど、製品として造り込む工程(熱延工程、冷延工程、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程等)までの工程を意味し、鋼材の切断や検査のみを行う精整工程を含まないものとしてもよい。
また、本発明において、「操業条件」は、製造工程において鋼材の品質に影響を与える条件であり、例えば、鋼材の製品サイズ(冷延圧延工程後の鋼材のサイズ)、製鋼工程における炭素(C)やマンガン(Mn)等の成分値、熱延工程における巻取温度、冷延工程における鋼材の幅(冷延幅)、連続焼鈍工程における加熱温度(加熱板温)、均熱温度(均熱板温)及び連続焼鈍炉内における鋼材の搬送速度(炉内速度)などを挙げることができる。
また、本発明において、「操業実績」は、操業条件の実績値であり、鋼材の品質に影響を与えるデータである。操業実績には、鋼材の製造工程で得られる測定値や設定値の他、これらを物理式等を用いて加工することで得られるデータも含まれ得る。
また、本発明において、「材料特性値」は、鋼材の有する機械特性を意味し、例えば、引張強度(TS)、降伏点(YP)、表面硬度、曲げ強度、靭性値、疲れ寿命を挙げることができる。
また、本発明において、「対象鋼材」は、下工程における操業条件を決定する対象となる鋼材を意味する。
さらに、本発明において、「注文情報に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様」としては、例えば、材料特性値の要求上限値、又は要求下限値、又はその両方を挙げることができる。
【0012】
本発明に係る操業条件決定装置は、鋼材の上工程及び下工程における操業条件を入力とし、鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備える。材料特性値予測モデルは、鋼材の材料特性値の確率分布、換言すれば、材料特性値の期待値とバラツキとを予測結果として出力するため、入力される鋼材の操業条件のうち、過去の操業実績が無い操業条件についても、材料特性値(特に、バラツキ)を精度良く予測できることが期待できる。また、材料特性値のコントロールが難しく、材料特性値にバラツキが生じ易い鋼材の操業条件についても、材料特性値の予測精度が高まることが期待できる。
本発明に係る操業条件決定装置では、対象鋼材についての上工程における操業実績及び下工程における操業条件を、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、注文情報に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様とによって、対象鋼材の材料特性値の合格確率が算出される。例えば、注文情報に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様が、材料特性値の要求上限値及び要求下限値である場合、材料特性値の確率分布全体の面積に対する、要求下限値から要求上限値までの範囲内に占める面積の比率が、合格確率として算出されることになる。
したがって、対象鋼材の材料特性値の合格確率が所定のしきい値以上となるように、この材料特性値予測モデルを逆解析すれば、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができ、対象鋼材の製品歩留まりの低下を抑制可能である。
【0013】
なお、本発明の材料特性値予測モデルは、例えば、過去に製造された鋼材の製造工程(上工程及び下工程)における操業実績を入力とし、当該過去に製造された鋼材から取得した試験片について測定した材料特性値を出力とする既知データを用いることで構築される。例えば、このような既知データを教師データとして用いる機械学習によって構築してもよい。
また、材料特性値予測モデルは、本発明に係る操業条件決定装置が構築してもよいし、他の装置で構築した材料特性値予測モデルを本発明に係る材料特性予測装置に記憶させてもよい。
【0014】
本発明に係る操業条件決定装置は、1つの対象鋼材毎に独立して、材料特性値の合格確率が所定のしきい値以上となるように、下工程における操業条件を決定する構成であってもよい。
しかしながら、例えば、下工程が連続焼鈍工程の場合、連続焼鈍工程は複数の鋼材を溶接して連続処理する工程であるため、複数の鋼材同士を溶接できるように、搬送順が隣り合う鋼材間のサイズの差(厚みの差や、幅の差)等が小さくなるように、鋼材の搬送順を決定する必要がある。また、搬送順が隣り合う鋼材間の加熱温度や均熱温度等の差が、実際に指示できる程度に小さくなるように、操業条件を決定する必要がある。
【0015】
上記の点に鑑みれば、本発明に係る操業条件決定装置において、第1の好ましい構成として、前記下工程における搬送順が予め決定されている複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定することが考えられる。
【0016】
第1の好ましい構成によれば、複数の対象鋼材同士の溶接性等を考慮して、下工程における複数の対象鋼材の搬送順が予め決定されている場合に、複数の対象鋼材の搬送順による制約条件下(例えば、隣り合う対象鋼材間の加熱温度や均熱温度等の差)で、複数の対象鋼材の材料特性値の合格確率の何れもが又は合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、下工程における操業条件を決定するため、下工程が複数の対象鋼材を連続処理する工程であっても、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができ、複数の対象鋼材の製品歩留まりの低下を抑制可能である。
【0017】
第1の好ましい構成では、下工程における複数の対象鋼材の搬送順が予め決定されているが、好ましい構成としてはこれに限るものではない。例えば、搬送順が未だ決定されていない複数の対象鋼材について、1つの対象鋼材毎に独立して下工程における操業条件を先に決定した後、複数の対象鋼材の搬送順による制約条件を考慮して、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定してもよい。
【0018】
すなわち、本発明に係る操業条件決定装置において、第2の好ましい構成として、複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定した後、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順による制約条件を考慮した最適化問題を求解することで、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順を決定することが考えられる。
【0019】
第2の好ましい構成によれば、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件が先に決定される。そして、この後、下工程における複数の対象鋼材の搬送順による制約条件(例えば、隣り合う対象鋼材間のサイズの差や、隣り合う対象鋼材間の加熱温度や均熱温度等の差)を考慮した最適化問題を求解することで、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定するため、下工程が複数の対象鋼材を連続処理する工程であっても、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができ、複数の対象鋼材の製品歩留まりの低下を抑制可能である。
【0020】
なお、第2の好ましい構成において、より好ましくは、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順を決定した後、搬送順が決定された複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される複数の前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、決定された前記搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを再度逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件を決定することが考えられる。
上記のより好ましい構成によれば、搬送順が決定された後に、この決定された搬送順による制約条件下で、材料特性値予測モデルを再度逆解析することで、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件を決定する(換言すれば、搬送順が決定された後には、第1の好ましい構成と同様に、下工程における操業条件を決定する)ため、より適切な操業条件が決定されることが期待できる。
【0021】
第1及び第2の好ましい構成は、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件及び搬送順の何れか一方を先に決定した後に、この決定された何れか一方を用いて何れか他方を決定する構成であるが、好ましい構成としてはこれに限るものではない。例えば、下工程における操業条件及び搬送順を一度に決定してもよい。
【0022】
すなわち、本発明に係る操業条件決定装置において、第3の好ましい構成として、複数の前記対象鋼材について、それぞれ算出される複数の前記合格確率の何れもが又は前記合格確率の相乗平均が所定のしきい値以上となるように、前記下工程における複数の前記対象鋼材の搬送順による制約条件下で、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件及び搬送順を一度に決定することが考えられる。
【0023】
第3の好ましい構成において、「一度に決定する」とは、下工程における操業条件及び搬送順の何れか一方を先に決定した後に、この決定された何れか一方を用いて何れか他方を決定するのではなく、両者を同タイミングで決定することを意味する。
第3の好ましい構成によれば、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件及び搬送順を一度に決定するため、より合格確率の高い操業条件及び搬送順を決定できるという利点を有する。
【0024】
本発明に係る操業条件決定装置において、前記材料特性値予測モデルは、例えば、ベイズ推定を用いたモデルとされる。また、前記材料特性値予測モデルは、例えば、分散不均一ガウス過程を用いたモデルとされる。
【0025】
上工程における操業実績を踏まえて、これから下工程を実行する際、下工程における操業条件を構成するパラメータを1つの値ではなく範囲で与えて材料特性値を予測したり(或いは、下工程における操業条件を構成するパラメータを狙い値で与えて材料特性値を予測したり)、予測した材料特性値が注文仕様を満足するように、適切な操業条件を構成するパラメータを1つの値ではなく範囲で決定する(或いは、狙い値で決定する)ニーズも高い。
上記のようなニーズに対応するには、本発明に係る操業条件決定装置が、前記鋼材についての前記下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を入力とし、前記鋼材についての前記下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを更に備え、前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を前記操業条件予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材についての前記下工程における操業条件の確率分布と、前記対象鋼材についての前記上工程における操業実績とを、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布に基づき算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記操業条件予測モデル及び前記前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件の範囲又は狙い値を決定することが好ましい。
【0026】
上記の好ましい構成において、「前記操業条件予測モデル及び前記材料特性値予測モデルを逆解析する」とは、操業条件予測モデルが表す関数と材料特性値予測モデルが表す関数との合成関数を逆解析することを意味する。
上記の好ましい構成は、材料特性値予測モデルに加えて、鋼材についての下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を入力とし、鋼材についての下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを備える。このため、対象鋼材についての下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を操業条件予測モデルに入力すれば、対象鋼材についての下工程における操業条件の確率分布が出力され、この対象鋼材についての下工程における操業条件の確率分布と、対象鋼材についての上工程における操業実績とを、材料特性値予測モデルに入力することで、対象鋼材の下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値に応じた対象鋼材の材料特性値の確率分布が出力されることになる。
したがって、この対象鋼材の材料特性値の確率分布に基づき(具体的には、対象鋼材の材料特性値の確率分布と、注文情報に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様とによって)算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、操業条件予測モデル及び材料特性値予測モデルを逆解析すれば、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件の範囲又は狙い値を決定することができ、前述のニーズに応えることが可能である。
【0027】
また、前記課題を解決するため、本発明は、上工程及び下工程を有する製造工程を経て製造される鋼材について、前記上工程が実行された後、注文情報に応じた前記下工程における操業条件を決定する操業条件決定方法であって、前記鋼材についての前記上工程及び前記下工程における操業条件を入力とし、前記鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを用い、対象鋼材についての前記上工程における操業実績及び前記下工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記注文情報に含まれる前記対象鋼材の材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記下工程における操業条件を決定する、操業条件決定方法としても提供される。
【0028】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、コンピュータを、前記操業条件決定装置として機能させるためのプログラムとしても提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上工程及び下工程を有する製造工程で製造される鋼材について、上工程が実行された後、注文情報に応じた下工程における適切な操業条件を決定することができる。これにより、鋼材の製品歩留まりの低下を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る操業条件決定装置の概要を模式的に説明する図である。
【
図2】第1実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図4】
図2に示す製造実績取得部1が取得する製造実績の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を従来の機械学習モデルの構築例と比較して説明する図である。
【
図6】
図2に示す注文情報取得部4が取得する注文情報及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。
【
図7】
図2に示す下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図9】
図8に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図10】
図8に示す注文情報取得部4が取得する注文情報、搬送順取得部10が取得する下工程における搬送順及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。
【
図11】
図8に示す下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
【
図12】第3実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図13】
図12に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図14】
図12に示す注文情報取得部4が取得する注文情報及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。
【
図15】
図12に示す下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
【
図16】第3実施形態で適用する最適化問題の概念図である。
【
図17】第4実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図18】
図17に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図19】
図17に示す下工程操業条件・搬送順出力部14から出力される内容の一例を示す図である。
【
図20】第5実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図21】
図20に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図22】
図20に示す下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[操業条件決定装置の概要]
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態(第1実施形態~第5実施形態)に係る操業条件決定装置について、鋼材が鋼板である場合を例に挙げて説明する。最初に、本実施形態に係る操業条件決定装置の概要について説明する。
【0032】
図1は、本実施形態に係る操業条件決定装置の概要を模式的に説明する図である。
本実施形態に係る操業条件決定装置は、上工程及び下工程を有する製造工程を経て製造される鋼材について、上工程が実行された後、注文情報に応じた下工程における操業条件を決定する装置である。具体的には、
図1(a)に示すように、本実施形態に係る操業条件決定装置は、鋼材の上工程及び下工程における操業条件を入力とし、鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備える。この材料特性値予測モデルを用いれば、材料特性値予測モデルから出力される鋼材の材料特性値の確率分布と、注文情報に含まれる鋼材の材料特性値の仕様(例えば、材料特性値の要求上限値及び要求下限値)とに基づき、材料特性値の確率分布全体の面積に対する、要求下限値から要求上限値までの範囲内に占める面積(
図1(a)に示すハッチングを施した領域の面積)の比率を、合格確率として算出できる。
そして、
図1(b)に示すように、本実施形態に係る操業条件決定装置は、上工程が実行された後の対象鋼材についての当該上工程における操業実績と、決定対象である下工程(すなわち、実行前の下工程)における操業条件とを材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、注文情報に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様(例えば、材料特性値の要求上限値及び要求下限値)とによって算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率(確率分布全体の面積に対する
図1(b)に示すハッチングを施した領域の面積)が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデルを逆解析する(最適化問題を求解する)ことで、下工程における操業条件を決定する。
【0033】
本実施形態では、上工程が製鋼工程、熱延工程及び冷延工程であり、下工程が連続焼鈍工程であり、下工程における操業条件として、鋼材の加熱温度(加熱板温)及び均熱温度(均熱板温)を決定する場合を例に挙げて説明する。
以下、下工程における操業条件の決定手順が互いに異なる第1実施形態~第5実施形態について、順に説明する。
【0034】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図3は、
図2に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、1つの対象鋼材毎に独立して、材料特性値(本明細書では、これを「機械試験値」とも称する)の合格確率が所定のしきい値以上となるように、下工程における操業条件を決定する構成である。
図2に示すように、第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、製造実績取得部1と、材料特性値予測モデル構築部2と、材料特性値予測モデル格納部3と、注文情報取得部4と、上工程操業実績取得部5と、材料特性値予測モデル取得部6と、制約条件設定部7と、下工程操業条件決定部8と、下工程操業条件出力部9と、を備える。
【0035】
操業条件決定装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の1つ又は複数のハードウェアプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の1つ又は複数のメモリを具備するコンピュータから構成され、メモリに格納される1つ又は複数のプログラムが1つ又は複数のハードウェアプロセッサにより実行されることで各種の演算を実行する。これにより、操業条件決定装置100は、製造実績取得部1、材料特性値予測モデル構築部2、材料特性値予測モデル格納部3、注文情報取得部4、上工程操業実績取得部5、材料特性値予測モデル取得部6、制約条件設定部7、下工程操業条件決定部8及び下工程操業条件出力部9として機能する。なお、操業条件決定装置100は、PLC(Programmable Logic Controller)であってもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェアによって実現してもよい。以下、操業条件決定装置100が備える各部1~9について、順に説明する。
【0036】
<製造実績取得部1>
製造実績取得部1は、
図3に示すステップST11を実行する。具体的には、製造実績取得部1は、過去に製造された鋼材(本明細書では、前述の「対象鋼材」と区別するために、これを「参照鋼材」とも称する)の製造工程(上工程及び下工程)における製造実績を所定のデータベース(図示せず)から取得する。製造実績は、参照鋼材の製造工程における操業実績と、参照鋼材から取得した試験片について測定した材料特性値(機械試験値)との組み合わせデータである。
図4は、製造実績取得部1が取得する製造実績の一例を示す図である。
図4に示す例では、1つの参照鋼材毎に、上工程における操業実績として、参照鋼材の製品サイズ(冷延圧延工程後の参照鋼材のサイズ)に含まれる製品厚、製鋼工程における炭素(C)やマンガン(Mn)の成分値等の操業実績、熱延工程における巻取温度等の操業実績、及び、冷延工程における冷延幅等の操業実績を取得する。また、下工程における操業実績として、連続焼鈍工程における加熱板温、均熱板温及び炉内速度を取得する。さらに、機械試験値として、引張強度(TS)及び降伏点(YP)を取得する。
【0037】
<材料特性値予測モデル構築部2>
材料特性値予測モデル構築部2は、
図3に示すステップST12を実行する。具体的には、材料特性値予測モデル構築部2は、
図4に示すような、参照鋼材の製造工程における操業実績を入力とし、参照鋼材から取得した試験片について測定した機械試験値を出力とする既知データを用いることで、材料特性値予測モデルを構築する。例えば、材料特性値予測モデル構築部2は、既知データを教師データとして用いた機械学習によって、材料特性値予測モデルを構築してもよい。第1実施形態では、過去の操業実績が無いことによる予測の不確実性を定量化するために、ベイズ推定の一種であるガウス過程回帰を用いた材料特性値予測モデルを構築するが、本発明はこれに限るものではない。例えば、材料特性値予測モデル構築部2は、既知データを用いた分位点回帰等の統計手法を利用して材料特性値予測モデルを構築してもよいし、ベイジアンニューラルネットワーク等のその他の機械学習によって材料特性値予測モデルを構築してもよい。
以下、第1実施形態で用いるガウス過程回帰の概要について説明する。なお、以下の各式において太字で表した変数は、ベクトル又は行列を意味する。
【0038】
以下の式(1)で表される入力x
iで構成され、以下の式(2)で表される入力xに対応する、以下の式(3)で表される出力のベクトルfが、平均値が0で、共分散行列が以下の式(4)で表されるKとするガウス分布N(0,K)に従うとき、出力fはガウス過程に従うといい、以下の式(5)のように記述する。
【数1】
上記の式(4)において、k(x
i,x
j)は、x
i=[x
i,1,・・・x
i,d,・・・x
i,D]と、x
j=[x
j,1,・・・x
j,d,・・・x
j,D]との距離を計算するカーネル関数であり、例えば、以下の式(6)に示すような動径基底関数等を用いて表される。
【数2】
上記の式(6)において、θ
1、θ
2,1,・・・θ
2,d,・・・θ
2,Dはハイパーパラメータであり、過去の操業実績から最適化して求めることができる。
このとき、入力xに対応する出力yが与えられたとき、新しいデータ点x
*の出力y
*の確率分布は、以下の式(7)に示すように推定することができる。
【数3】
【0039】
材料特性値予測モデルとして、上記の式(7)に示すような通常のガウス過程回帰を用いることも可能であるものの、通常のガウス過程回帰では、操業実績の違いによって機械試験値に生じるバラツキの変化を考慮できない。このため、第1実施形態では、以下の式(8)~式(12)で表される、期待値(平均値)と分散(標準偏差)とを個別に推定するガウス過程gP(0,K
1)、gP(0,K
2)を定義し、各ガウス過程の出力をパラメータとしたガウス分布を最終的な予測結果とする分散不均一ガウス過程(分散不均一を考慮したガウス過程)を用いている。
【数4】
上記の式(8)及び式(9)において、K
1、K
2は、前述の式(4)と同様の形式で表される共分散行列である。上記の式(10)及び式(12)において、loc(x)は出力の平均値を意味する。上記の式(11)及び式(12)において、scale(x)は出力の標準偏差を意味し、正の値となるように、exp関数を使用している。
分散不均一ガウス過程の詳細については、非特許文献1、2に記載されているため、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0040】
なお、上記の手法を発展させることで、例えば、以下に述べるようにして、出力変数間の共分散行列Σ(x)を推定することも可能である。
Dを説明変数(材料特性値予測モデルへの入力変数)の数、Mを目的変数(材料特性値予測モデルからの出力変数)の数、Nを実績データのレコード数とする。例えば、以下の式(13)で表される過去の出力の実績Yを、以下の式(14)で表される負荷行列Wを用いて式(15)に基づき無相関化した、以下の式(16)で表されるTを得る。
【数5】
ここでは、負荷行列Wは、Yを主成分分析することで計算したが、独立成分分析等の他の統計手法を用いて計算してもよい。
そして、以下の式(17)で表される過去の入力の実績Xから、Tの各列t
1,・・・t
Mの確率分布を予測する、以下の式(18)で表されるガウス過程回帰モデルNをM(m=1,2,・・・M)個構築する。
【数6】
【0041】
すなわち、新しい入力xに対応する、以下の式(19)で表される出力の平均値ベクトルμ
g(x)と、以下の式(20)で表される出力の標準偏差ベクトルσ
g(x)とを計算できる。これらの予測ベクトルに基づき、出力の平均値ベクトルμ(x)及び共分散行列Σ(x)を、それぞれ以下の式(21)及び式(22)によって計算可能である。
【数7】
上記の式(22)において、Σ
g(x)は、対角成分がσ
g(x)であり、それ以外の要素が0である正方行列である。
【0042】
第1実施形態の材料特性値予測モデル構築部2は、以上に説明した手法によって、材料特性値予測モデル(出力変数間の相関を考慮しない場合は、前述の式(12)で表されるモデルであり、出力変数間の相関を考慮する場合は、前述の式(18)、式(21)及び式(22)で表されるモデル)を構築する。材料特性値予測モデルは、鋼材の上工程及び下工程における操業条件を入力とし、鋼材の機械試験値の確率分布を出力とするモデルである。
【0043】
図5は、第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を従来の機械学習モデルの構築例と比較して説明する図である。具体的には、
図5では、図示の便宜上、操業条件を構成する複数のパラメータのうち、下工程(連続焼鈍工程)における鋼材の加熱板温のみをプロットし、機械試験値として引張強度(TS)を予測するモデルの構築例である。
図5(a)は従来の機械学習モデルの構築例を、
図5(b)は第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を示す。
図5に「×」でプロットしたデータが既知データである。
図5(a)に示す従来の機械学習モデルでは、入力される操業条件(加熱板温)に対して、機械試験値(TS)の平均値が予測結果として出力されることになる。このため、
図5(a)において破線で囲んだ領域のように、同じ操業条件でも機械試験値のバラツキが大きな領域では、機械試験値の予測精度が悪くなるという問題がある。
これに対して、
図5(b)に示す第1実施形態の材料特性値予測モデルは、予測結果として機械試験値の確率分布が出力される。具体的には、本実施形態の材料特性値予測モデルは、分散不均一ガウス過程を用いたモデルであり、予測結果として、平均値及び標準偏差が出力されることになる。
図5(b)に示すハッチングを施した領域が、平均値及び標準偏差から求まる正規分布の95%予測範囲(95%信頼区間)である。材料特性値予測モデルでは、矢印A1で示すように、機械試験値のバラツキが大きな領域(
図5(a)の破線で囲んだ領域に対応する領域)が、確率分布(95%予測範囲)に含まれることで、出力として反映されることになる。また、材料特性値予測モデルでは、矢印A2、A3で示すように、操業実績が無い領域(
図5(a)のハッチングを施した領域に対応する領域)でも、確率分布(95%予測範囲)が出力されるため、予測の不確実性が考慮されることになる。
【0044】
<材料特性値予測モデル格納部3>
材料特性値予測モデル格納部3は、
図3に示すステップST13を実行する。具体的には、材料特性値予測モデル格納部3は、材料特性値予測モデル構築部2で構築した材料特性値予測モデルを格納(記憶)する。
【0045】
<注文情報取得部4>
注文情報取得部4は、
図3に示すステップST14を実行する。具体的には、注文情報取得部4は、注文情報として、対象鋼材の製品サイズや、対象鋼材の機械試験値の仕様を所定のデータベース(図示せず)から取得する。第1実施形態の注文情報取得部4は、対象鋼材の製品サイズとして製品厚を、対象鋼材の機械試験値の仕様として機械試験値の要求上限値、又は要求下限値、又はその両方を取得する。
【0046】
<上工程操業実績取得部5>
上工程操業実績取得部5は、
図3に示すステップST15を実行する。具体的には、上工程操業実績取得部5は、対象鋼材の上工程が実行された後に得られる、対象鋼材の上工程における操業実績を所定のデータベース(図示せず)から取得する。具体的には、第1実施形態の上工程操業実績取得部5は、上工程における操業実績として、対象鋼材の製品サイズ(冷延圧延工程後の対象鋼材のサイズ)に含まれる製品厚、製鋼工程における炭素(C)やマンガン(Mn)の成分値等の操業実績、熱延工程における巻取温度等の操業実績、及び、冷延工程における冷延幅等の操業実績を取得する。
【0047】
図6は、注文情報取得部4が取得する注文情報及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。なお、
図6に示す例では、注文情報である製品厚が、そのまま上工程操業実績としても用いられる。冷延圧延工程後の対象鋼材の厚みは、注文情報である製品厚と誤差なく製造されるケースが多いためである。しかしながら、これに何ら限るものではなく、実際に冷延圧延工程後の対象鋼材の厚みを公知の厚み計を用いて測定し、その測定値を上工程操業実績として用いることも可能である。
【0048】
<材料特性値予測モデル取得部6>
材料特性値予測モデル取得部6は、
図3に示すステップST16を実行する。具体的には、材料特性値予測モデル取得部6は、材料特性値予測モデル格納部3に格納された材料特性値予測モデルを取得する。
【0049】
<制約条件設定部7>
制約条件設定部7は、
図3に示すステップST17を実行する。具体的には、制約条件設定部7は、後述の下工程操業条件決定部8で実行する逆解析の制約条件を必要に応じて設定する。第1実施形態の制約条件設定部7は、1つの対象鋼材毎に、決定対象である下工程における操業条件を構成するパラメータ(第1実施形態では、連続焼鈍工程における加熱板温及び均熱板温)の上限値、又は下限値、又はその両方を必要に応じて設定する。また、制約条件設定部7は、パラメータ間の制約条件を設定してもよい。
第1実施形態の制約条件設定部7は、例えば、加熱板温の上限値として、850℃を設定する。また、例えば、加熱板温と均熱板温との差が10℃以下であるという制約条件を設定する。連続焼鈍工程を構成する加熱工程及び均熱工程は、隣り合う設備で実行されるため、両工程間で急激な板温変化の生じる操業指示は不可能だからである。
【0050】
<下工程操業条件決定部8>
下工程操業条件決定部8は、
図3に示すステップST18を実行する。具体的には、下工程操業条件決定部8は、
図1を参照して概要を説明したように、対象鋼材の機械試験値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように(第1実施形態では、最大となるように)、材料特性値予測モデル取得部6で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を決定する。
以下、下工程操業条件決定部8が実行する逆解析の内容について、具体的に説明する。
【0051】
前述のように、材料特性値予測モデルを用いることで、以下の式(23)で表される操業条件xが与えられたときの、以下の式(24)で表される機械試験値y(引張強度y
ts、降伏点y
yp)の条件付き確率分布p(y|x)を出力できる(式(12)又は式(18))。
【数8】
そこで、下工程操業条件決定部8は、上工程における操業実績は操業条件として固定した上で、合格確率が最大となる操業条件xを探索して決定する。すなわち、下工程操業条件決定部8は、例えば、以下の式(25)~式(31)のように定式化される最適化問題P1を求解することで、下工程(連続焼鈍工程)における操業条件uを決定する(合格確率P(u)を最大化する操業条件uを決定する)。
【数9】
【0052】
上記の式(25)において、y
yp
upper、y
yp
lowerは、注文情報によって決まる降伏点(YP)の上限値、下限値である。y
ts
upper、y
ts
lowerは、注文情報によって決まる引張強度(TS)の上限値、下限値である。なお、注文情報にこれらの上限値及び下限値のうちの何れか一方が存在しない場合(
図6に示す例では、TSの上限値が存在しない)には、上限値については十分に大きな値を、下限値については十分に小さな値を設定すればよい。
上記の式(25)において、μ(x)、Σ(x)は、材料特性値予測モデルから出力される機械試験値yの確率分布p(y|x)の平均値ベクトル、共分散行列である。
上記の式(26)、式(27)、式(29)において、u
htは加熱板温である。
上記の式(26)、式(29)において、u
stは均熱板温である。
上記の式(30)において、ν
fsは炉内速度である。
上記の式(31)において、ν
tは注文厚、ν
Cは炭素の成分値、ν
Mnはマンガンの成分値、ν
CTは巻取温度、ν
wは冷延幅である。
上記の式(28)に示すν
prevは、上記の式(31)に示すように、上工程の操業実績を構成するパラメータ群である。上記の式(28)に示すν
caplは、上記の式(30)に示すように、下工程(連続焼鈍工程)において製品厚毎に予め固定して設定されるパラメータ群である。このため、ν
prev及びν
caplは、何れも定数として扱う。
上記の式(26)及び式(27)は、制約条件設定部7で設定される制約条件である。
【0053】
なお、各機械試験値(引張強度y
ts、降伏点y
yp)が互いに独立であると仮定した場合には、共分散行列Σ(x)を用いずに、以下の式(32)に示すように、各機械試験値の合格確率の相乗平均で表される合格確率P(u)を最大化する操業条件x(操業条件u)を探索して決定してもよい。
【数10】
上記の式(32)において、μ
s(x)、σ
s(x)は、材料特性値予測モデルから出力される各機械試験値の確率分布の平均値、標準偏差である。
後述の
図7に示す結果は、式(25)に代えて、式(32)で表される合格確率を最大化する操業条件を決定した結果である。
また、各機械試験値の相加平均を最大化する操業条件を探索して決定したり、合格確率が最小となる機械試験値の当該合格確率を最大化する操業条件を探索して決定することも可能である。
さらに、上記の説明では、最適化手法として、制約付き信頼領域法を用いているが、これに限るものではなく、差分進化法や粒子群最適化など、他の最適化手法を用いることも可能である。
【0054】
<下工程操業条件出力部9>
下工程操業条件出力部9は、
図3に示すステップST19を実行する。具体的には、下工程操業条件出力部9は、下工程操業条件決定部8が決定した下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を出力する。下工程操業条件出力部9は、決定した下工程における操業条件を出力するのみならず、決定した操業条件(上工程における操業実績を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される機械試験値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と注文情報とによって算出される機械試験値の合格確率も併せて出力することが好ましい。
図7は、下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
図7では、鋼材No.001の対象鋼材について、
図6に示す上工程における操業実績と、下工程操業条件決定部8が決定した加熱板温842℃、均熱板温837℃との条件で製造すると、降伏点(YP)及び引張強度(TS)の合格確率が0.998と高い値になることを示している。
【0055】
[第2実施形態]
前述の第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、1つの対象鋼材毎に独立して、材料特性値の合格確率が所定のしきい値以上となるように、下工程における操業条件を決定する構成である。しかしながら、下工程である連続焼鈍工程は複数の鋼材を溶接して連続処理する工程であるため、複数の鋼材同士を溶接できるように、搬送順が隣り合う鋼材間のサイズの差(板厚の差や、板幅の差)等が小さくなるように、鋼材の搬送順を決定する必要がある。また、搬送順が隣り合う鋼材間の加熱板温や均熱板温等の差が、実際に指示できる程度に小さくなるように、操業条件を決定する必要がある。
そこで、第2実施形態に係る操業条件決定装置(本発明の第1の好ましい構成に相当)は、下工程における搬送順が予め決定されている複数の対象鋼材について、算出される複数の対象鋼材の機械試験値の合格確率が、何れも所定のしきい値以上となるように、搬送順による制約条件下で、材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件を決定する構成である。
【0056】
図8は、第2実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図9は、
図8に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
図8に示すように、第2実施形態に係る操業条件決定装置100Aは、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様に、例えばコンピュータから構成され、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様の各部に加えて、搬送順取得部10を備える。
操業条件決定装置100Aが備える各部1~10のうち、製造実績取得部1、材料特性値予測モデル構築部2、材料特性値予測モデル格納部3及び材料特性値予測モデル取得部6の動作(
図9に示すステップST21、ST22、ST23、ST27)は、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
以下、注文情報取得部4、搬送順取得部10、上工程操業実績取得部5、制約条件設定部7、下工程操業条件決定部8及び下工程操業条件出力部9について、順に説明する。
【0057】
<注文情報取得部4>
注文情報取得部4は、
図9に示すステップST24を実行する。具体的には、注文情報取得部4は、注文情報として、複数の対象鋼材の製品サイズや、複数の対象鋼材の機械試験値の仕様を所定のデータベース(図示せず)から取得する。第2実施形態の注文情報取得部4は、複数の対象鋼材の製品サイズとして製品厚を、複数の対象鋼材の機械試験値の仕様として機械試験値の要求上限値、又は要求下限値、又はその両方を取得する。
【0058】
<搬送順取得部10>
搬送順取得部10は、
図9に示すステップST25を実行する。具体的には、予め決定された下工程における複数の鋼材の搬送順を所定のデータベース(図示せず)から取得する。
【0059】
<上工程操業実績取得部5>
上工程操業実績取得部5は、
図9に示すステップST26を実行する。具体的には、上工程操業実績取得部5は、複数の対象鋼材の上工程が実行された後に得られる、複数の対象鋼材の上工程における操業実績を所定のデータベース(図示せず)から取得する。具体的には、第2実施形態の上工程操業実績取得部5は、上工程における操業実績として、複数の対象鋼材の製品サイズ(冷延圧延工程後の対象鋼材のサイズ)に含まれる製品厚、製鋼工程における炭素(C)やマンガン(Mn)の成分値等の操業実績、熱延工程における巻取温度等の操業実績、及び、冷延工程における冷延幅等の操業実績を取得する。
【0060】
図10は、注文情報取得部4が取得する注文情報、搬送順取得部10が取得する下工程における搬送順及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。なお、
図10に示す例では、注文情報である製品厚が、そのまま上工程操業実績としても用いられる。
【0061】
<制約条件設定部7>
制約条件設定部7は、
図9に示すステップST28を実行する。具体的には、制約条件設定部7は、後述の下工程操業条件決定部8で実行する逆解析の制約条件を必要に応じて設定する。
第2実施形態の制約条件設定部7は、第1実施形態の制約条件設定部7と同様の1つの対象鋼材毎の制約条件に加えて、複数の対象鋼材の搬送順による制約条件を設定する。第2実施形態の制約条件設定部7は、例えば、加熱板温及び均熱板温の各対象鋼材間での変更が5℃以下であるという制約条件を更に設定する。
【0062】
<下工程操業条件決定部8>
下工程操業条件決定部8は、
図9に示すステップST29を実行する。具体的には、下工程操業条件決定部8は、複数の対象鋼材の機械試験値の合格確率が、何れも所定のしきい値以上となるように(第2実施形態では、複数の対象鋼材の機械試験値の合格確率の相乗平均が最大となるように)、材料特性値予測モデル取得部6で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を決定する。
【0063】
具体的には、下工程操業条件決定部8は、例えば、複数の対象鋼材が4つの対象鋼材である場合、例えば、以下の式(33)~式(41)のように定式化される最適化問題P2を求解することで、複数の対象鋼材についての下工程(連続焼鈍工程)における操業条件uを決定する(合格確率の相乗平均P(u[1],・・・u[4])を最大化する操業条件uを決定する)。
【数11】
上記の式(33)~式(41)に示す変数の意味は、第1実施形態で説明した最適化問題P1の同一の変数の意味と同一であるため、具体的な説明を省略するが、変数に付した[i]は、i番目(i∈I)に搬送される対象鋼材に関する変数であることを意味する。I={1,2,3,4}は搬送順の集合を意味する。
上記の式(34)及び式(35)は、制約条件設定部7で設定される、1つの対象鋼材毎の制約条件である。上記の式(36)及び式(37)は、制約条件設定部7で設定される、複数の対象鋼材の搬送順による制約条件である。
【0064】
なお、第1実施形態でも述べたのと同様に、各機械試験値が互いに独立であると仮定した場合には、共分散行列Σ(x[i])を用いずに、以下の式(42)に示すように、各機械試験値の合格確率の相乗平均で表される合格確率P(u)を最大化する操業条件x(操業条件u)を探索して決定してもよい。
【数12】
上記の式(42)において、μ
s(x[i])、σ
s(x[i])は、i番目の対象鋼材について、材料特性値予測モデルから出力される各機械試験値の確率分布の平均値、標準偏差である。なお、上記の式(42)では、複数の対象鋼材が4つの対象鋼材である場合を例に挙げているため、式(42)の最も右側に位置する指数が「1/4」になっているが、一般にK個の対象鋼材の場合には、当該指数は「1/K」となる。
後述の
図11に示す結果は、式(33)に代えて、式(42)で表される合格確率(各対象鋼材についての各機械試験値の合格確率の相乗平均)を最大化する操業条件を決定した結果である。
なお、上記の説明では、最適化手法として、制約付き信頼領域法を用いているが、これに限るものではなく、差分進化法や粒子群最適化など、他の最適化手法を用いることも可能である。
【0065】
<下工程操業条件出力部9>
下工程操業条件出力部9は、
図9に示すステップST29Aを実行する。具体的には、下工程操業条件出力部9は、下工程操業条件決定部8が決定した複数の対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を出力する。下工程操業条件出力部9は、決定した下工程における操業条件を出力するのみならず、決定した操業条件(上工程における操業実績を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される機械試験値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と注文情報とによって算出される機械試験値の合格確率も併せて出力することが好ましい。
図11は、下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
図11に示すように、加熱板温及び均熱板温の各対象鋼材間での変更が5℃以下であるという、搬送順による制約条件を満足しつつ、合格確率の高い下工程の操業条件を決定できていることが分かる。
【0066】
[第3実施形態]
前述の第2実施形態に係る操業条件決定装置100Aでは、下工程における複数の鋼材の搬送順が予め決定されているが、第3実施形態に係る操業条件決定装置(本発明の第2の好ましい構成に相当)は、搬送順が未だ決定されていない複数の対象鋼材について、1つの対象鋼材毎に独立して下工程における操業条件を先に決定した後、複数の対象鋼材の搬送順による制約条件を考慮して、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定する構成である。
【0067】
図12は、第3実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図13は、
図12に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
図12に示すように、第3実施形態に係る操業条件決定装置100Bは、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様に、例えばコンピュータから構成され、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様の各部に加えて、搬送順決定部11及び搬送順出力部12を備える。
操業条件決定装置100Bが備える各部1~12のうち、製造実績取得部1、材料特性値予測モデル構築部2、材料特性値予測モデル格納部3及び材料特性値予測モデル取得部6の動作(
図13に示すステップST31、ST32、ST33、ST36)は、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
また、注文情報取得部4及び上工程操業実績取得部5の動作(
図13に示すステップST34、ST35)は、第2実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略するが、例えば、
図14に示すような注文情報及び上工程における操業実績を取得する。
図14は、注文情報取得部4が取得する注文情報及び上工程操業実績取得部5が取得する上工程における操業実績の一例を示す図である。なお、
図14に示す例では、注文情報である製品厚が、そのまま上工程操業実績としても用いられる。
さらに、制約条件設定部7及び下工程操業条件決定部8の動作(
図13に示すステップST37、ST38)は、第1実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略するが、制約条件設定部7では、第1実施形態と同様に、1つの対象鋼材毎の制約条件を設定する。また、下工程操業条件決定部8では、第1実施形態と同様に、1つの対象鋼材毎に、対象鋼材の機械試験値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように(第3実施形態では、最大となるように)、材料特性値予測モデル取得部6で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を決定する。
以下、下工程操業条件出力部9、搬送順決定部11及び搬送順出力部12について、順に説明する。
【0068】
<下工程操業条件出力部9>
下工程操業条件出力部9は、
図13に示すステップST39を実行する。具体的には、下工程操業条件出力部9は、下工程操業条件決定部8が決定した複数の対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)を出力する。下工程操業条件出力部9は、決定した下工程における操業条件を出力するのみならず、決定した操業条件(上工程における操業実績を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される機械試験値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と注文情報とによって算出される機械試験値の合格確率も併せて出力することが好ましい。
図15は、下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
図15に示すように、鋼材No.001~004の何れの対象鋼材についても、合格確率の高い下工程の操業条件を決定できていることが分かる。しかしながら、仮に、下工程において鋼材No.001~004の順に搬送すると、第2実施形態で述べたような、加熱板温及び均熱板温の各対象鋼材間での変更が5℃以下であるという、搬送順による制約条件を満足しないことが分かる。
【0069】
<搬送順決定部11>
搬送順決定部11は、
図13に示すステップST39Aを実行する。具体的には、搬送順決定部11は、下工程における複数の対象鋼材の搬送順による制約条件を考慮して、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定する。搬送順による制約条件としては、隣り合う対象鋼材間のサイズ(製品厚、冷延幅)の差や、隣り合う対象鋼材間の加熱温度や均熱温度の差を挙げることができる。搬送順決定部11は、例えば、これらの差の重み付き線形和が最小となる搬送順を探索して決定する。すなわち、搬送順決定部11は、例えば、複数の対象鋼材が4つの対象鋼材である場合、例えば、以下の式(43)~式(49)のように定式化される最適化問題P3を求解することで、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定する(評価関数Jを最小化する搬送順kの鋼材Noであるz
kを決定する)。
【数13】
なお、式(45)に示す加熱板温u
ht[i]及び式(46)に示す均熱板温u
st[i]は、決定変数として下工程操業条件決定部8で決定した後、最適化問題P3では、固定の定数として扱う。
【0070】
最適化問題P3を求解する手法としては、例えば、2-opt最適化手法(2-optを用いた巡回セールスマン問題解法や遺伝的アルゴリズムなど)が挙げられる。
図16は、第3実施形態で適用する最適化問題の概念図である。
図16に示すように、搬送順を決定する対象鋼材(
図16において、斜めのハッチングを施した鋼材)間で製品厚、冷延幅及び温度(加熱板温、均熱板温)がスムーズに移行すると共に、必要に応じて対象鋼材前後の鋼材(
図16において、ドット状のハッチングを施した鋼材)ともスムーズに移行することを指向した2-opt最適化手法を用いて、対象鋼材の搬送順を決定することができる。例えば、W={w
1,w
2,w
3,w
4}={1,1,10000,10}の条件で2-opt最適化手法を適用すれば、Z={z
1,z
2,z
3,z
4}={1,4,2,3}となる。すなわち、対象鋼材の搬送順として、鋼材No.001→鋼材No.004→鋼材No.002→鋼材No.003の搬送順が決定される。
【0071】
<搬送順出力部12>
搬送順出力部12は、
図13に示すステップST39Bを実行する。具体的には、搬送順出力部12は、搬送順決定部11が決定した下工程における複数の対象鋼材の搬送順を出力する。
【0072】
なお、搬送順決定部11が下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定した後、第2実施形態と同様に、下工程操業条件決定部8が、搬送順が決定された複数の対象鋼材について、算出される複数の対象鋼材の材料特性値の合格確率が、何れも所定のしきい値以上となるように(最大となるように)、決定された搬送順による制約条件下で、材料特性値予測モデルを再度逆解析することで、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件を決定することも可能である。
【0073】
[第4実施形態]
前述の第3実施形態に係る操業条件決定装置100Bは、1つの対象鋼材毎に独立して下工程における操業条件を先に決定した後、下工程における複数の対象鋼材の搬送順を決定する構成であるが、第4実施形態に係る操業条件決定装置(本発明の第3の好ましい構成に相当)は、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件及び搬送順を一度に決定する構成である。
【0074】
図17は、第4実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図18は、
図17に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
図17に示すように、第4実施形態に係る操業条件決定装置100Cは、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様に、例えばコンピュータから構成され、第1実施形態に係る操業条件決定装置100の下工程操業条件決定部8及び下工程操業条件出力部9に代えて、下工程操業条件・搬送順決定部13及び下工程操業条件・搬送順出力部14を備える。
操業条件決定装置100Cが備える各部1~14のうち、製造実績取得部1、材料特性値予測モデル構築部2、材料特性値予測モデル格納部3及び材料特性値予測モデル取得部6の動作(
図18に示すステップST41、ST42、ST43、ST46)は、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
また、注文情報取得部4、上工程操業実績取得部5及び制約条件設定部7の動作(
図18に示すステップST44、ST45、ST47)は、第2実施形態と同じであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
以下、下工程操業条件・搬送順決定部13及び下工程操業条件・搬送順出力部14について、順に説明する。
【0075】
<下工程操業条件・搬送順決定部13>
下工程操業条件・搬送順決定部13は、
図18に示すステップST48を実行する。具体的には、下工程操業条件・搬送順決定部13は、複数の対象鋼材の機械試験値の合格確率が、何れも所定のしきい値以上となるように(第4実施形態では、複数の対象鋼材の機械試験値の合格確率の相乗平均が最大となるように)、下工程における複数の対象鋼材の搬送順による制約条件下で、材料特性値予測モデル取得部6で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、複数の対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)及び搬送順を一度に決定する。
【0076】
具体的には、下工程操業条件・搬送順決定部13は、例えば、複数の対象鋼材が4つの対象鋼材である場合、例えば、以下の式(50)~式(59)のように定式化される最適化問題P4を求解することで、複数の対象鋼材についての下工程(連続焼鈍工程)における操業条件u及び搬送順(搬送順kの鋼材Noであるz
k)を決定する(評価関数Jを最小化する操業条件及び搬送順を決定する)。
【数14】
最適化手法としては、遺伝的アルゴリズム、差分進化法、粒子群最適化などの非線形最適化手法を用いることが可能である。
なお、上記の式(50)では、複数の対象鋼材が4つの対象鋼材である場合を例に挙げているため、式(50)の最も右側に位置する指数が「1/4」になっているが、一般にK個の対象鋼材の場合には、当該指数は「1/K」となる。
【0077】
<下工程操業条件・搬送順出力部14>
下工程操業条件・搬送順出力部14は、
図18に示すステップST49を実行する。具体的には、下工程操業条件・搬送順出力部14は、下工程操業条件・搬送順決定部13が決定した複数の対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)及び搬送順を出力する。下工程操業条件・搬送順出力部14は、決定した下工程における操業条件及び搬送順を出力するのみならず、決定した操業条件(上工程における操業実績を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される機械試験値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と注文情報とによって算出される機械試験値の合格確率も併せて出力することが好ましい。
図19は、下工程操業条件・搬送順出力部14から出力される内容の一例を示す図である。
図19に示す例は、前述の式(54)において、W={w
1,w
2,w
3,w
4,w
5}={1,1,10000,10,500000}の条件で得られた結果である。
図19に示すように、加熱板温及び均熱板温の各対象鋼材間での変更が5℃以下であるという、搬送順による制約条件を満足しつつ、合格確率の高い下工程の操業条件を決定できていることが分かる。
【0078】
[第5実施形態]
前述の第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、注文情報に応じた下工程における操業条件を構成するパラメータを1つの値で決定する構成である。しかしながら、上工程における操業実績を踏まえて、これから下工程を実行する際に、下工程における操業条件を構成するパラメータを1つの値ではなく範囲で与えて材料特性値を予測したり(或いは、下工程における操業条件を構成するパラメータを狙い値で与えて材料特性値を予測したり)、予測した材料特性値が注文仕様を満足するように、適切な操業条件を構成するパラメータを1つの値ではなく範囲で決定する(或いは、狙い値で決定する)ニーズも高い。
そこで、第5実施形態に係る操業条件決定装置は、鋼材についての下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を入力とし、鋼材についての下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを更に備え、対象鋼材についての下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を操業条件予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材についての下工程における操業条件の確率分布と、対象鋼材についての上工程における操業実績とを、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布に基づき算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、操業条件予測モデル及び前記材料特性値予測モデルを逆解析する(操業条件予測モデルが表す関数と材料特性値予測モデルが表す関数との合成関数を逆解析する)ことで、下工程における操業条件の範囲又は狙い値を決定する構成である。
【0079】
図20は、第5実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図21は、
図20に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
図20に示すように、第5実施形態に係る操業条件決定装置100Dは、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様に、例えばコンピュータから構成され、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様の各部に加えて、操業条件予測モデル構築部15、操業条件予測モデル格納部16及び操業条件予測モデル取得部17を備える。
操業条件決定装置100Dが備える各部1~17のうち、材料特性値予測モデル構築部2、材料特性値予測モデル格納部3、注文情報取得部4、上工程操業実績取得部5及び材料特性値予測モデル取得部6の動作(
図21に示すステップST52、ST53、ST56、ST57、ST58)は、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
以下、製造実績取得部1、操業条件予測モデル構築部15、操業条件予測モデル格納部16、操業条件予測モデル取得部17、制約条件設定部7、下工程操業条件決定部8及び下工程操業条件出力部9について、順に説明する。
【0080】
<製造実績取得部1>
製造実績取得部1は、
図21に示すステップST51を実行する。具体的には、製造実績取得部1は、過去に製造された参照鋼材の製造工程(上工程及び下工程)における製造実績を所定のデータベース(図示せず)から取得する。第5実施形態では、第1実施形態で述べた参照鋼材の製造工程における操業実績と、参照鋼材から取得した試験片について測定した機械試験値に加えて、製造実績取得部1が取得する製造実績の中に、参照鋼材についての下工程における操業条件の範囲(指示範囲)又は操業条件の狙い値が含まれる。以下の表1は、下工程における操業条件の範囲(指示範囲)が含まれる製造実績の一例を部分的に示すものであり、以下の表2は、下工程における操業条件の狙い値が含まれる製造実績の一例を部分的に示すものである。
【表1】
【表2】
【0081】
<操業条件予測モデル構築部15>
操業条件予測モデル構築部15は、
図21に示すステップST54を実行する。具体的には、操業条件予測モデル構築部15は、鋼材についての下工程における操業条件の範囲(指示範囲)を入力とし、鋼材についての下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを構築する。
ここで、上工程における操業実績を構成するパラメータ群をν
caplとし、下工程(連続焼鈍工程)において製品厚毎に予め固定して設定されるパラメータ群をν
prevとし、下工程(連続焼鈍工程)における操業条件をu=[u
1,・・・u
M]とし、機械試験値をyとし、下工程における操業条件の指示範囲下限値をu
lo=[u
1
lo,・・・u
M
lo]とし、指示範囲上限値をu
up=[u
1
up,・・・u
M
up]としたとき、下工程における操業条件の範囲で条件付けされた機械試験値の確率分布p(y|x
lo,x
up)は、以下の式(60)で表される。
【数15】
上記の式(60)におけるp(u|u
lo,u
up)は、操業条件の範囲(指示範囲下限値u
lo、指示範囲上限値u
up)が与えられた場合の下工程における操業条件の確率分布であり、操業条件予測モデルに対応する。また、p(y|u,ν
prev,ν
capl)は、操業条件(材料特性値予測モデルの説明変数)x=[u,ν
prev,ν
capl]が与えられ場合の機械試験値の確率分布であり、材料特性値予測モデルに対応する。
【0082】
操業条件予測モデル構築部15は、例えば、前述の表1に示すような、参照鋼材についての連続焼鈍工程における加熱板温及び均熱板温の指示範囲下限値ulo=[uht
lo,ust
lo]、加熱板温及び均熱板温の指示範囲上限値uup=[uht
up,ust
up]を入力とし、当該参照鋼材についての加熱板温及び均熱板温の操業実績uht、ustを出力とする既知データを用いて、操業条件予測モデルp(u|ulo,uup)=p(uht,ust|uht
lo,uht
up,ust
lo,ust
up)を構築する。例えば、このような既知データを教師データとして用いる、機械学習によって構築してもよい。例えば、既知データを教師データとして用い、ガウス過程回帰等のベイズ推定によって、操業条件予測モデルを構築することが考えられる。
【0083】
また、操業条件予測モデル構築部15は、鋼材についての下工程における操業条件の狙い値を入力とし、鋼材についての下工程における操業条件の確率分布を出力とする操業条件予測モデルを構築してもよい。
前述と同様に、上工程における操業実績を構成するパラメータ群をν
caplとし、下工程(連続焼鈍工程)において製品厚毎に予め固定して設定されるパラメータ群をν
prevとし、下工程(連続焼鈍工程)における操業条件をu=[u
1,・・・u
M]とし、機械試験値をyとすると共に、下工程における操業条件の狙い値をu
aim=[u
1
aim,・・・u
M
aim]としたとき、下工程における操業条件の狙い値で条件付けされた機械試験値の確率分布p(y|x
lo,x
up)は、以下の式(61)で表される。
【数16】
上記の式(61)におけるp(u|u
aim)は、下工程における操業条件の狙い値u
aimが与えられた場合の下工程における操業条件の確率分布であり、操業条件予測モデルに対応する。p(y|u,ν
prev,ν
capl)は、前述と同様であり、材料特性値予測モデルに対応する。
【0084】
操業条件予測モデル構築部15は、例えば、前述の表2に示すような、参照鋼材についての連続焼鈍工程における加熱板温及び均熱板温の狙い値uaim=[uht
aim,ust
aim]を入力とし、当該参照鋼材についての加熱板温及び均熱板温の操業実績uht、ustを出力とする既知データを用いて、操業条件予測モデルp(u|uaim)=p(uht,ust|uht
aim,ust
aim)を構築する。例えば、このような既知データを教師データとして用いる、機械学習によって構築してもよい。例えば、既知データを教師データとして用い、ガウス過程回帰等のベイズ推定によって、操業条件予測モデルを構築することが考えられる。
【0085】
<操業条件予測モデル格納部16>
操業条件予測モデル格納部16は、
図21に示すステップST55を実行する。具体的には、操業条件予測モデル格納部16は、操業条件予測モデル構築部15で構築した操業条件予測モデルp(u
ht,u
st|u
ht
lo,u
ht
up,u
st
lo,u
st
up)又はp(u
ht,u
st|u
ht
aim,u
st
aim)を格納(記憶)する。
【0086】
<操業条件予測モデル取得部17>
操業条件予測モデル取得部17は、
図21に示すステップST59を実行する。具体的には、操業条件予測モデル取得部17は、操業条件予測モデル格納部16に格納された操業条件予測モデルp(u
ht,u
st|u
ht
lo,u
ht
up,u
st
lo,u
st
up)又はp(u
ht,u
st|u
ht
aim,u
st
aim)を取得する。
【0087】
<制約条件設定部7>
制約条件設定部7は、
図21に示すステップST60を実行する。具体的には、制約条件設定部7は、後述の下工程操業条件決定部8で実行する逆解析の制約条件を必要に応じて設定する。制約条件設定部7で設定する制約条件の例としては、以下の下工程操業条件決定部8の説明で記載した式(63)~式(67)が挙げられる。
【0088】
<下工程操業条件決定部8>
下工程操業条件決定部8は、
図21に示すステップST61を実行する。具体的には、下工程操業条件決定部8は、対象鋼材についての下工程における操業条件の範囲又は操業条件の狙い値を、操業条件予測モデル取得部17で取得した操業条件予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材についての下工程における操業条件の確率分布と、対象鋼材についての上工程における操業実績とを、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布に基づき算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、操業条件予測モデル及び材料特性値予測モデルを逆解析することで、下工程における操業条件の範囲又は狙い値を決定する。
【0089】
具体的には、下工程操業条件決定部8は、例えば、以下の式(62)~式(71)のように定式化される最適化問題P5を求解することで、下工程(連続焼鈍工程)における操業条件uの範囲(u
lo,u
up)を決定する(合格確率P(u
lo,u
up)を最大化する操業条件uを決定する)。
【数17】
上記の式(62)において、y
yp
upper、y
yp
lowerは、注文情報によって決まる降伏点(YP)の上限値、下限値である。y
ts
upper、y
ts
lowerは、注文情報によって決まる引張強度(TS)の上限値、下限値である。μ
s(x)、σ
s(x)は、材料特性値予測モデルから出力される機械試験値yの確率分布p(y|u,ν
prev,ν
capl)の平均値ベクトル、標準偏差ベクトルである。
なお、上記の式(62)は、対象鋼材についての下工程における操業条件の範囲を決定する場合を定式化しているが、操業条件の狙い値を決定する場合には、式(62)におけるp(u|u
lo,u
up)に代えて、p(u|u
aim)を用いればよい。
上記の説明では、最適化手法として、制約付き信頼領域法を用いているが、これに限るものではなく、差分進化法や粒子群最適化など、他の最適化手法を用いることも可能である。
【0090】
なお、第5実施形態では、材料特性値予測モデルが決定論モデル(確率分布を出力とするのではなく、期待値のみを出力するモデル)であったとしても、適切な下工程における操業条件の範囲を探索して決定することは可能である。この場合、前述の式(62)における∫N(y
s;μ
s(x),σ
s(x))p(u|u
lo,u
up)duを、以下の式(72)のように書き換えることができる。
【数18】
上記の式(72)において、f(u,ν
prev,ν
capl)=f(x)は、材料特性値予測モデルへの入力となる操業条件xに対する出力となる材料特性値yの期待値を予測するモデルであり、重回帰モデル、ランダムフォレスト回帰モデル、ニューラルネットワークなどの任意の回帰モデルを用いることができる。
【0091】
<下工程操業条件出力部9>
下工程操業条件出力部9は、
図21に示すステップST62を実行する。具体的には、下工程操業条件出力部9は、下工程操業条件決定部8が決定した対象鋼材についての下工程における操業条件(加熱板温及び均熱板温)の範囲又は狙い値を出力する。下工程操業条件出力部9は、決定した下工程における操業条件の範囲又は狙い値を出力するのみならず、決定した操業条件の範囲又は狙い値(上工程における操業実績を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される機械試験値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と注文情報とによって算出される機械試験値の合格確率も併せて出力することが好ましい。
図22は、下工程操業条件出力部9から出力される内容の一例を示す図である。
図22に示すように、下工程における操業条件の範囲として、連続焼鈍工程における加熱板温の下限値832℃、上限値852℃、均熱板温の下限値827℃、上限値847℃に決定すると、引張強度(TS)及び降伏点(YP)の合格確率が0.987と高い値になることを示している。ただし、第5実施形態では、第1実施形態と異なり、下工程における操業条件を構成するパラメータ(加熱板温及び均熱板温)を1つの値ではなく範囲で決定しており、操業条件のバラツキも考慮した上で合格確率を計算していることになるため、前述の
図6に示す結果に比べれば、合格確率が小さく計算されている。
【0092】
以上に説明した本実施形態では、材料特性値予測モデルを構築する機能と、材料特性値予測モデルを用いて鋼材の材料特性値の合格確率を算出する機能とを、同一の操業条件決定装置100(或いは、操業条件決定装置100A、100B、100C又は100D)に持たせているが、それぞれ異なる装置に持たせる構成にしてもよい。
また、第5実施形態では、操業条件予測モデルを構築する機能と、操業条件予測モデルを用いて下工程における操業条件の確率分布を算出する機能とを、同一の操業条件決定装置100Dに持たせているが、それぞれ異なる装置に持たせる構成にしてもよい。
【0093】
また、操業条件決定装置100(或いは、操業条件決定装置100A、100B、100C又は100D)は、複数のコンピュータを用いて実装されてもよい。例えば、クラウドサーバ等の装置を用いて操業条件決定装置100が実装されてもよい。また、操業条件決定装置100のハードウェアプロセッサやメモリが複数のコンピュータに分散して実装されてもよい。
【0094】
以上、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1・・・製造実績取得部
2・・・材料特性値予測モデル構築部
3・・・材料特性値予測モデル格納部
4・・・注文情報取得部
5・・・上工程操業実績取得部
6・・・材料特性値予測モデル取得部
7・・・制約条件設定部
8・・・下工程操業条件決定部
9・・・下工程操業条件出力部
10・・・搬送順取得部
11・・・搬送順決定部
12・・・搬送順出力部
13・・・下工程操業条件・搬送順決定部
14・・・下工程操業条件・搬送順出力部
15・・・操業条件予測モデル構築部
16・・・操業条件予測モデル格納部
17・・・操業条件予測モデル取得部
100、100A、100B、100C・・・操業条件決定装置