(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174782
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241210BHJP
B62K 21/00 20060101ALI20241210BHJP
B62K 25/04 20060101ALI20241210BHJP
B62J 45/412 20200101ALI20241210BHJP
【FI】
B62D6/00
B62K21/00
B62K25/04
B62J45/412
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126193
(22)【出願日】2023-08-02
(62)【分割の表示】P 2023534175の分割
【原出願日】2023-06-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】塚原 孟
【テーマコード(参考)】
3D013
3D014
3D232
【Fターム(参考)】
3D013CA02
3D014DD02
3D014DE01
3D014DE22
3D014DF01
3D014DF22
3D232CC02
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA33
3D232DD05
3D232DD17
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC34
3D232FF03
3D232GG20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置等を提供する。
【解決手段】二輪車安定走行制御システム(190)は、実機の二輪車(300)と、実機の二輪車に取り付けられる、実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータ(310)を構成要素として含むパワーステアリング部(312)と、実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部(301、303、305、307、308、311、313)の出力に基づく測定処理を実施する測定部(350)と、二輪車に取り付けられ、かつ、測定部の出力に基づいて操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部(408)を有するパワーステアリング制御部(403)と、を有する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有する二輪車安定走行制御システム。
【請求項2】
前記測定部は、
前記実機の二輪車におけるリヤタイヤ速度、リヤタイヤ角速度、リヤ車体速度、リヤ車体角速度、フロントタイヤ速度、フロントタイヤ角速度、フロント車体速度、フロント車体角速度、前記実機の二輪車におけるハンドルのハンドル角速度、前記実機の二輪車におけるフロントサスペンションの伸長速度、及び、前記実機の二輪車におけるリヤサスペンションのサスペンション伸長速度を測定する、
請求項1に記載の二輪車安定走行制御システム。
【請求項3】
前記実機の二輪車に備わるフロントサスペンション、及びリヤサスペンションの各々は、バネと、ダンパーとを有すると共に、
前記フロントサスペンション及び前記リヤサスペンションの少なくとも一方において、前記ダンパーの減衰力を可変に制御する減衰力可変制御部、をさらに有し、
減衰力が可変に制御されるダンパーを構成要素として含むサスペンションを、減衰力可変サスペンションとする場合に、
前記減衰力可変制御部は、
前記減衰力可変サスペンションの構成要素であるバネが縮みきったときに減衰力値を更新すると共に、
前記測定部は、
前記減衰力可変サスペンションについてのサスペンション伸長速度の測定に際しては、
前記減衰力可変制御部における前記減衰力値の更新に同期させて、前記サスペンション伸長速度を測定する、
請求項1に記載の二輪車安定走行制御システム。
【請求項4】
前記実機の二輪車は、移動している前記実機の二輪車の車両に含まれるエンジン又はモータを、回転数に対してトルクが一定になるように定トルク制御する定トルク制御部を有し、
前記二輪車安定走行制御システムが動作しているときは、前記定トルク制御部による定トルク制御が実施される、
請求項1に記載の二輪車安定走行制御システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の二輪車安定走行制御システムにおける、前記パワーステアリング制御部として機能する二輪車安定走行制御装置。
【請求項6】
前記測定部の出力に基づき、前記操舵トルクの、目標値との誤差を検出する誤差検出部と、
検出された操舵トルクの誤差を抑制するように、前記操舵トルクアクチュエータ制御信号を生成する前記操舵トルク制御信号生成部と、
を有する、
請求項5に記載の二輪車安定走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車においても、四輪車の場合と同様に、パワーステアリングによる安定走行制御が検討されてきた。なお、以下の説明では、二輪車という場合、自動二輪車の他、電動アシスト自転車等も含まれ得る。
【0003】
また、以下の説明では、二輪車についても、四輪車の場合と同様に、パワーステアリングという用語を使用する。
【0004】
二輪車の安定走行制御には、種々の外乱による走行の乱れを自律的に抑制して安定走行を可能とする、いわゆる自動運転も含まれる。なお、走行の乱れを自律的に抑制した二輪車の安定走行制御を、本明細書では、自律安定走行制御、あるいは単に自動運転制御と称する場合がある。
【0005】
二輪車の運動を解析する場合、四輪車に比べて考慮するべき自由度が多く、また、搭乗者、すなわちライダーの姿勢やハンドル操作による影響が四輪車に比べて大きいため、二輪車の自動運転については、四輪車に比べて議論は遅れているといわれている。
【0006】
しかし、近年の四輪車における自動運転技術の進展に伴い、二輪車についても自動運転について議論されることが増えている。また、例えば、日常の買い物等に自動運転の二輪車を利用したり、自動運転の二輪車によって観光地を巡回したりするといった将来的ニーズも想定され得る。
【0007】
二輪車の安定走行アシスト制御、あるいは、自律安定走行制御についての従来技術としては、例えば以下のものがある。
【0008】
特許文献1には、ふらつくことなく、走行路に沿って安定した自動走行を可能とする自動二輪車を提供するために、自動二輪車のヨー運動量、及びロール運動量の目標値に基づいて、転舵手段による車輪の転舵量、及び揺動手段による車輪の揺動量を制御することが示されている。
【0009】
特許文献2には、二輪車の姿勢を制御するために、対象物に一体的にジャイロアクチュエータを配置し、そのジャイロアクチュエータの動作により、姿勢が傾いた対象物にトルクを作用させて対象物の姿勢を安定状態に制御する制御系を備える制御対象モデルが示されている。
【0010】
特許文献3には、実機の二輪車に自転車ロボットを搭乗させ、自転車ロボットの動作によって二輪車の転倒を防止する転倒防止装置が示されている。
【0011】
特許文献4には、二輪車に操舵トルクを加えることができるアクチュエータを設け、四輪車に類似したパワーステアリング動作によって二輪車の走行を支援する二輪車操舵支援システムが示されている。
【0012】
特許文献5には、停車時における車体の姿勢の安定性を高めること、及び、高速走行時における車体の姿勢の操縦を運転者が行い易いようにすることを実現するために、移動体に、前輪を操舵する駆動力を発生する操舵用アクチュエータと、前輪のトレール長を変化させる駆動力を発生するトレール長変更用アクチュエータと、を設けた構成が示されている。
【0013】
特許文献6には、リーン可能な車両、すなわち傾くことが可能な二輪車の走行支援を目的として、車両の運動状態を推定する状態推定器と、運動状態を示す外部データを受信する動的な車両モデルモジュールと、を有する車両の運転性能を高めるシステムを構築することが示されている。
【0014】
特許文献7には、状態方程式を用いた、四輪車の運動制御方法が示されている。この特許文献7の、請求項5や
図5には、状態方程式を用いて、車速の関数であるフィードバックゲインを求めることが示されている。
【0015】
また、仮想パワーの原理、及びハミルトンの運動方程式を利用した、多体系の運動をシミュレートするためのシステムおよび方法については、特許文献8に記載されている。
【0016】
また、仮想パワーの原理、及びケインの運動方程式を利用した、剛体多体系の運動方程式導出装置、及び剛体多体系の運動方程式導出方法については、例えば特許文献9に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004-338507号公報
【特許文献2】特開2015-158390号公報
【特許文献3】特許第4605227号公報
【特許文献4】特開2013-60187号公報
【特許文献5】特許第6081238号公報
【特許文献6】特開2019-119447号
【特許文献7】特開昭63-312271号公報
【特許文献8】国際公開第2006/012709号公報
【特許文献9】特開2014-078090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、パワーステアリングによる二輪車の自律安定走行制御について、種々、検討した。
なお、以下の説明において、パワーステアリングの手法として、例えば、ハンドル、及びハンドルを回転させる回転軸、言い換えればステアリング軸の少なくとも一方に、トーションバーアクチュエータ等によって操舵トルクを加える技術を想定する。ここで、ハンドル角やステアリング角等は、名称は異なるが、広義には、二輪車の操舵に関係する操舵角である点で共通する。
【0019】
例えば、ライダーが搭乗している二輪車が直線走行しているとき、実際には、ハンドルは小刻みに揺れている。ここで、車体全体の釣り合いが成立し、また車体全体と前輪系が同じロール角を有するとした場合、パワーステアリングによる操舵トルクの制御によって、外乱による操舵トルクの変動を打ち消すことができれば、ステアリング軸に関して、慣性モーメントとライダーがハンドルに加える操縦力とが釣り合い、ライダーは、自動運転の感覚を得ることができる。
【0020】
よって、適切なパワーステアリング技術を確立することで、二輪車を転倒させずに、自律安定走行させることが可能と考えられる。
【0021】
ここで、二輪車の自律安定走行制御技術は、市販される各種の一般的な二輪車車両に広く適用可能であること、すなわち汎用性がある制御技術であることが好ましい。
【0022】
また、自律安定走行制御を実現するためには、従来の安定走行アシスト制御よりも、さらに高精度の操舵トルク制御が必要となる。
【0023】
本発明者は、種々の検討の結果、汎用性があり、かつ自律安定走行を可能とするパワーステアリング技術を実現するためには、移動体としての車両の挙動のみならず、振動体としての車両の挙動も十分に考慮することが必要であるとの知見を得た。
【0024】
すなわち、二輪車に取り付けられている、フロントフォークと称されるフロントサスペンション、及びリヤサスペンションの各特性、すなわち、各サスペンションによる振動抑制効果を考慮して車両の振動を解析することが重要である。
【0025】
また、二輪車の自律安定走行制御システムの開発には、シミュレーション技術をソフトウェア開発に取り入れたモデルベース開発(Model Based Development : MBD)と称される開発手法が有効である。
【0026】
モデルベース開発においては、モデルが「動く仕様書」となり、解析処理等が、コンピュータを用いて実現されるシミュレータ上にて実施される。よって、可視化されたその動きを、開発者が実際に見て、種々の検証、検討をすることができる。
【0027】
しかし、二輪車を、単なる移動体ではなく、振動しながら移動する移動体に見立て、その複雑な動的挙動を、車両モデルを用いて詳細に解析することには大きな困難が伴う。
【0028】
例えば、サスペンションに備わるバネ、言い換えれば懸架バネの非線形性に起因して、二輪車の挙動を示す運動方程式は、時間に関して二次の項を含む関数となり、その解析が困難化する。
【0029】
例えば、現代制御理論では、システムの動的挙動を解析するに際し、システムの入力と出力とを関係付ける内部変数としての状態変数を導入し、状態方程式と呼ばれる1階の行列微分方程式で記述する手法が採用される。
【0030】
この状態方程式は線形の連立方程式であるため、時間に関して二次の項を含む関数で表現される運動方程式を、状態方程式に変換して解析することはできない。
【0031】
また、従来、二輪車の挙動は、一つの重心を有する単純化されたモデルに基づいて解析されていた。しかし、実際の二輪車は、フロント部分とリヤ部分に分けて設計されるのであり、一例を挙げれば、フロント車体、リヤ車体、フロントサスペンション、リヤサスペンションに区分して解析を実施することが好ましい。
【0032】
この場合、複雑な運動を行う物体の動的な挙動と性能を、シミュレーションを用いて解析する多体動力学(マルチボディダイナミクス(Multi-body Dynamics :MD))と称される手法が有効である。
【0033】
但し、従来技術では、多体動力学を用いて、サスペンションを含む二輪車の挙動を精度よく解析する手法は、確立されていない。
【0034】
上記の特許文献1は、特殊な形状をもつ二輪車をきわめて低速で移動させることを前提としており、この自動運転技術は汎用性を欠く。
【0035】
特許文献2は、二輪車にジャイロアクチュエータと称される特殊な装置を一体的に取り付けて姿勢制御を実施するものであり、この特許文献2の姿勢制御技術も汎用性を欠く。
【0036】
特許文献3は、二輪車ロボットを用いて、二輪車の安定走行に好適な傾斜角度等を実測するものであり、この技術のみでは、二輪車の自律安定走行は実現されない。
【0037】
特許文献4は、パワーステアリングを用いた二輪車の操舵支援システムを示すが、この特許文献4では、サスペンションの特性を考慮した二輪車の複雑な挙動の解析は実施されていない。
【0038】
特許文献5は、操舵用アクチュエータを用いて二輪車の操舵を制御するが、例えば
図1に示されるように、二輪車のモデルは1つの重心を有する単純なモデルであり、サスペンションの特性を考慮した二輪車の複雑な挙動の解析は実施されていない。
【0039】
特許文献6には、リーン可能な二輪車の運転性能を向上させるシステムが記載されているが、サスペンションの特性を考慮した二輪車の複雑な挙動の解析は実施されていない。
また、この特許文献6では、速度センサや、慣性センサ等、種々のセンサが使用されることが記載されているが、これらの多数のセンサをどのように用いて、自律安定走行を可能とする負帰還制御システムを構築するかについては、何ら記載がない。
【0040】
特許文献7の例えば
図5には、状態方程式を用いて四輪車の挙動を解析することが示されているが、四輪車のモデルは、1つの重心を有する単純化されたモデルであり、また、サスペンションの特性を考慮した二輪車の複雑な挙動の解析についても言及がない。よって、特許文献7は、本発明をなす上での参考にはならない。
【0041】
特許文献8には、多体系の運動をシミュレートするためのシステムおよび方法が示されているが、この特許文献8では、古典運動力学系の運動を記述するハミルトンの運動方程式による解析が実施されている。古典運動力学系の解析手法であるため、現代制御理論による解析のように、複雑な挙動を示す制御対象、例えば多入力/多出力の制御対象について解析することはできない。
【0042】
特許文献9には、仮想パワーの原理、及びケインの運動方程式を利用した、剛体多体系の運動方程式導出装置、及び剛体多体系の運動方程式導出方法が記載されているが、この特許文献9では、制御対象の構成要素がすべて剛体であることを前提としている。
よって、非剛体要素、例えば所定の運動に関して弾性体、あるいは可撓体とみなされる要素が含まれる運動系の解析には適用できない。
なお、所定の運動に関して弾性体、あるいは可撓体とみなされる要素が含まれる制御対象としては、例えば、剛体の車体系と、この剛体の車体系を支持すると共に、例えば上下方向の振動に関しては弾性体、あるいは可撓体とみなされ得るタイヤ系と、を含む二輪車システム等が想定され得る。
【0043】
本発明は、非線形の複雑な挙動を伴う二輪車について、二輪車の走行の安定性を、多面的に、かつ科学的に検証可能な、汎用性のある二輪車安定走行制御技術等、言い換えれば、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明者は、鋭意検討の結果、二輪車を、複数の重心を含み、かつサスペンションを含むモデルとしてモデル化し、各重心についての運動方程式を統合して二輪車の車両についての線形化された運動方程式を取得し、その線形の運動方程式を状態方程式に変換して安定性の解析を実施し、適切な操舵トルクの制御に必要なフィードバックゲインを所望の速度範囲内の各速度に対応して求めることで、実用性、かつ汎用性に優れる二輪車の安定走行制御システムを開発することができるとの知見を得た。
本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
【0045】
以下、本開示について説明する。
【0046】
本開示の1つの態様によれば、二輪車を、フロント車体の重心(2f)、リヤ車体の重心(2r)、フロントタイヤ本体(104f)及びフロントサスペンション(106f)を含むフロントタイヤ(FT)の重心(1f)、及び、リヤタイヤ本体(104r)及びリヤサスペンション(106r)を含むリヤタイヤ(RT)の重心(1r)を有するモデルにモデル化した車両モデルを取得する第1のステップ(S1)と、重心の各々に働く作用力の総計を示す作用項と、重心の各々に働く慣性力の総計を示す慣性項とが釣り合うことを条件として、車両モデル(MDL)についての線形の運動方程式を作成する第2のステップ(S2、S3)と、線形の運動方程式を状態方程式に変換する第3のステップ(S4)と、状態方程式の根軌跡による解析によって、所定の速度範囲内の速度における、車両モデルの走行を安定化させ得るフィードバックゲインを取得する第4のステップ(S5、S6)と、第4のステップにおいて取得されたフィードバックゲインによる負帰還制御を実施する二輪車安定走行制御システムのモデル(180)を作成する第5のステップ(S7)と、を含む、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法が提供される。
【0047】
本開示の他の態様によれば、上記1つの態様の二輪車安定走行制御システムのモデル化方法での第4のステップにおけるフィードバックゲインの取得用の信号処理を実施する信号処理装置(44)と、車両モデルの設計パラメータ、及び車両モデルの走行条件パラメータを、信号処理装置に入力する入力インタフェース(42)と、入力インタフェースから入力されるパラメータに対する、車両モデルの挙動の情報を出力する出力インタフェース(46)と、を有する、二輪車安定走行シミュレータ(40)が提供される。
【0048】
本開示の他の態様によれば、コンピュータを、上記他の態様の二輪車安定走行シミュレータとして動作させるプログラム(32)が提供される。
【0049】
本開示のさらに他の態様によれば、実機の二輪車(300)と、実機の二輪車に取り付けられる、二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータ(310)を構成要素として含むパワーステアリング部(312)と、実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部(301、303、305、307、308、311、313)の出力に基づく測定処理を実施する測定部(350)と、二輪車に取り付けられ、かつ、測定部の出力に基づいて操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部(408)を有するパワーステアリング制御部(403)と、を有する二輪車安定走行制御システム(190)が提供される。
【0050】
本開示のさらに他の態様によれば、上記の二輪車安定走行制御システムにおける、パワーステアリング制御部(403)として機能する二輪車安定走行制御装置(402)が提供される。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、非線形の複雑な挙動を伴う二輪車について、二輪車の走行の安定性を、多面的に、かつ科学的に検証可能な、汎用性のある二輪車安定走行制御技術等、言い換えれば、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】コンピュータシステム、及び二輪車安定走行シミュレータの構成の一例を示す図である。
【
図2】二輪車の車両モデルの基本構成例を示す図である。
【
図3】二輪車安定走行制御システムのモデル化方法の手順例、及び二輪車安定走行制御システムの構築に至る手順例を示す図である。
【
図4】二輪車の車両モデルの具体的な構成例、及び複数の重心の各々における速度、及び角速度をベクトルにより表示した例を示す図である。
【
図5】二輪車の車両モデルにおける各重心の速度、角速度、加速度、角加速度、作用力、及び作用トルクを示す図である。
【
図6】二輪車の車両モデルにおける一般化速度の定義例、及び、一般化速度での、ヤコビアンを用いた関数の線形化手法を示す図である。
【
図7】二輪車の車両モデルにおける、線形化された作用項を示す図である。
【
図8】二輪車の車両モデルにおける、線形化された慣性項を示す図である。
【
図9】二輪車の車両モデルについて、仮想パワーの原理を用いてケインの運動方程式を作成し、その運動方程式を状態方程式に変換し、根軌跡の解析によって適切なフィードバックゲインを求め、二輪車の安定走行制御システムのモデルを取得する手法の概要を示す図である。
【
図10】直進走行する二輪車に本発明を適用した場合における、二輪車の走行安定性についてのシミュレーション結果例を示す図である。
【
図11】二輪車の旋回時におけるハンドル角、及びロール角の例を示す図である。
【
図12】実機の二輪車を用いた、二輪車の安定走行制御システムの構成の一例を示す図である。
【
図13】実機の二輪車を用いた、二輪車の安定走行制御システムの構成の他の例を示す図である。
【
図14】ダンパーにおける減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定とを同期化する構成の一例を示す図である。
【
図15】ダンパーにおける減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定とを同期化する処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
【0054】
<実施例1>
図1を参照する。
図1は、コンピュータシステム、及び二輪車安定走行シミュレータの構成の一例を示す図である。なお、二輪車安定走行シミュレータは、単にシミュレータと記載する場合がある。
【0055】
図1のA-1において、コンピュータシステム10は、コンピュータ本体12と、モニタ14と、入力装置としてのキーボード16、及びマウス18と、4つのフォルダ21、23、26、28と、を有する。
【0056】
フォルダ21、23は、二輪車の車両モデルに対応する状態方程式を取得したり、その状態方程式を修正したりする場合に使用される第1のフォルダ20を構成する。
【0057】
フォルダ26、28は、二輪車安定走行制御システムの仕様書としてのモデルを、シミュレータ40によるシミュレーションにより作成したり、そのモデルを編集したりする場合に使用される第2のフォルダ25を構成する。
【0058】
コンピュータ本体12の記憶装置30には、コンピュータ、言い換えればコンピュータシステム10を、
図1のA-2に示される二輪車安定走行シミュレータ40として動作させるプログラム32、言い換えれば、二輪車安定走行制御システムの解析用シミュレーションプログラム32が記憶されている。
【0059】
フォルダ21には、二輪車安定走行制御システムに対応する状態方程式22が保存されている。フォルダ23には、状態方程式用のデータ24が保存されている。
【0060】
フォルダ26には、二輪車安定走行制御システムの仕様書としてのモデル27、すなわち、二輪車安定走行制御システムの仕様を記述したプログラムが保存されている。シミュレータ40による解析の結果として、二輪車安定走行制御システムの最終的な仕様が定まると、その最終的な仕様を記述したプログラムが、二輪車のモデルベース開発、あるいはモデルベース設計における、いわゆる「動く仕様書」となる。
【0061】
フォルダ28には、モデル27の編集ソフトウェア29が記憶されている。
【0062】
図1のA-2において、二輪車安定走行シミュレータ40は、状態方程式に基づくフィードバックゲイン解析用の信号処理装置44と、この信号処理装置44に、車両モデルの設計パラメータ、及び車両モデルの走行条件パラメータを入力する入力インタフェース42と、入力インタフェース42から入力されるパラメータに対する、車両モデルの挙動の情報を出力する出力インタフェース46と、を有する。
【0063】
次に、
図2を参照する。
図2は、二輪車の車両モデルの基本構成例を示す図である。なお、
図2において、X方向は前方向、あるいは進行方向、Y方向は横方向、Z方向は上下方向、あるいは高さ方向を示す。
【0064】
図2のA-1では、従来の、1つの重心を有する車両モデルの例が模式的に示されている。
図2のA-1において、二輪車の車両モデルは、前輪17、車体15、後輪19を有し、車両全体に対して1つの重心CGが設定されている。また、
図2のA-1の車両モデルは、凹凸のない平面の路面3を走行する。
【0065】
図2のA-2には、多体動力学(マルチボディダイナミクス)による解析手法に適した、複数の重心1f、2f、1r、2rを有する車両モデルMDLが示されている。なお、車両モデルMDLの、X軸周りの回転をロール、Y軸周りの回転をピッチ、Z軸周りの回転をヨーと称する。
【0066】
図2のA-2の二輪車の車両モデルMDLは、フロント部分とリヤ部分に大別される。フロント部分は、ハンドル121と、ハンドル121の回転軸としてのステアリング軸120と、フロント車体100と、フロントタイヤFTと、を含む。また、リヤ部分は、リヤ車体102と、リヤタイヤRTと、を含む。
【0067】
なお、フロントタイヤFTは、前輪、あるいは前輪部分と言い換えることができる。リヤダイヤRTは、後輪、あるいは後輪部分と言い換えることができる。
【0068】
フロントタイヤFTは、一対の、フロントフォークと称される、ダンパーとしての機能を有するフロントサスペンションFR1、FR2と、タイヤ本体104fを有する。なお、サスペンションは、一般に、ダンパー、及びバネを有するが、
図2のA-2の例では、フロントフォークの外観を示しており、バネは、フロントサスペンションFR1、FR2の内部に設けられている。
【0069】
また、以下の説明では、解析の容易化のために、一対のフロントサスペンションFR1、FR2により実現される緩衝特性が、仮想的な1つのフロントサスペンション106fにより実現されるものとして取り扱う。
【0070】
リヤタイヤRTについても同様である。すなわち、リヤタイヤRTは、一対の、リヤサスペンションRSU1、RSU2と、を有する。リヤサスペンションRSU1、RSU2の各々は、ダンパーDpと、懸架バネSpと、を有する。また、一対のリヤサスペンションRSU1、RSU2により実現される緩衝特性が、仮想的な1つのリヤサスペンション106rにより実現されるものとして取り扱う。
【0071】
フロントサスペンション106fを含むフロントタイヤFTの重心を1fと表記し、その重心の質量をm1fと表記する。
フロント車体100の重心を2fと表記し、その重心の質量をm2fと表記する。
リヤサスペンション106rを含むリヤタイヤRTの重心を1rと表記し、その重心の質量をm1rと表記する。
リヤ車体102の重心を2rと表記し、その重心の質量をm2rと表記する。
【0072】
また、車両モデルMDLは、凹凸のある路面4を走行するものとする。
【0073】
また、
図2のA-2の右下には、Z軸方向、すなわち上方向から見たハンドル121が示されている。二輪車がX方向に直進している場合におけるハンドル位置を基準として、ハンドル121がステアリング軸120周りに、例えば時計回りに所定角度だけ回転したとする。この場合、その所定角度をハンドル角θhdとする。
【0074】
次に、二輪車安定走行制御システムのモデルベース開発の方法について説明する。
図3を参照する。
図3は、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法の手順例、及び二輪車安定走行制御システムの構築に至る手順例を示す図である。
【0075】
ステップ1では、二輪車を、フロントサスペンション、リヤサスペンションを含むマルチボディモデルとしてモデル化する。この二輪車のモデルは、言い換えれば、複数の重心を有し、かつ剛体と、弾性体あるいは可撓体を含むモデルということができる。そのモデルの概要の一例は、
図2のA-2に示されている。なお、そのモデルの具体例については、
図4を用いて後述する。
【0076】
ステップS2では、車両の運動方程式を作成する。本発明の好ましい実施形態では、ケインの運動方程式を利用する。
【0077】
なお、ケインの運動方程式は、仮想パワーの原理に基づき、物体に働く作用力及び作用トルクと、慣性力及び慣性トルクとが釣り合う点に着目して導出される、一般化速度方向の仮想変位を想定した運動方程式である。
ケインの運動方程式では、部分速度と称される一種の単位ベクトルを用いて慣性項や非線形項を表現することができ、運動方程式の作成が容易化される。
【0078】
なお、一般化速度は、例えば、物体の任意の位置の速度あるいは角速度を、線形関数の和としてただ1通りに表すような、一般化座標における速度あるいは角速度である、と説明することができる。
【0079】
但し、ステップS2の段階では、運動方程式には、2次の非線形項が含まれている。
【0080】
ステップS3では、車両の運動方程式を線形化する。具体的には、例えば、ベクトルで表される関数に、微分演算子として機能するヤコビ行列、言い換えればヤコビアンを掛け算する処理により線形化を実現できる。ヤコビアンとしては、一般化速度でのヤコビアンを使用するのが好ましい。この点については後述する。なお、テイラー展開等を利用してもよい。
【0081】
ステップS4では、現代制御理論による解析を可能とするために、運動方程式を、状態方程式に変換する。
【0082】
ステップS5では、根軌跡による車両の安定性の解析を実施する。
ここで、根軌跡は、フィードバックゲインを変化させたときに、状態方程式の根が複素平面上で描く軌跡である。
【0083】
例えば、根軌跡が、複素平面の左半面の領域内に存在する場合のフィードバックゲイン値においては、フィードバック制御系は安定であると評価することができ、根軌跡が、複素平面の左半面の領域外となる場合は、そのフィードバックゲイン値において、フィードバック制御系は不安定であると評価することができる。
【0084】
ステップS6では、所望の速度範囲内で車両速度を変化させた場合における、各速度での、車両を安定化させ得るフィードバックゲイン値を取得する。
【0085】
ステップS6では、
図1のA-2で示したシミュレータ40を使用することで、種々の条件下での最適なフィードバックゲインを高速に求めることができる。
【0086】
シミュレータ40によるシミュレーションにおいては、エンジン又は電気モータの回転数を変更したとき、エンジン又は電気モータのトルクが回転数によらずトルクを一定に保つ定トルク制御が実施されるものとしてシミュレーションを実施するのが好ましい。これにより、運動方程式を線形化する際の条件が担保され、シミュレーション精度の低下が抑制され得る。この点については、後述する。
【0087】
なお、好ましい実施形態では、所望の速度範囲は、実機の二輪車の実際の走行速度を考慮して、例えば車速1m/s~60m/sと設定することができる。
【0088】
ステップS7では、二輪車安定走行制御システムの仕様書としてのモデルを取得する。ステップS6におけるシミュレータによる解析によって、所望の速度範囲内のすべての速度において、車両の安定性を確保可能なフィードバックゲインが得られた場合には、そのフィードバックゲインが得られる二輪車安定走行制御システムの状態が一義的に定まる。これが、いわゆる「動く仕様書」として称されるプログラム、言い換えれば、二輪車安定走行制御システムの仕様書としてのモデルとなる
【0089】
ステップS8では、制御対象の二輪車の実機、すなわち実車両に、例えば、センサ部、パワーステアリング部、操舵トルクアクチュエータの制御信号生成部を実装し、ステップS6にて取得されたフィードバックゲインを実現する負帰還制御システムとしての二輪車安定走行制御システムを構築する。構築される二輪車安定走行制御システムの例については、
図12、
図13を用いて後述する。
【0090】
次に、
図4を参照する。二輪車の車両モデルの具体的な構成例、及び複数の重心の各々における速度、及び角速度をベクトルにより表示した例を示す図である。
図4のA-1において、
図2のA-2と共通する部分には同じ符号を付している。この点は、
図5、
図6においても同様である。また、
図4のA-1では、説明の便宜上、ハンドルの図示は省略している。この点は、
図5、
図6においても同様である。
【0091】
先に説明したように、フロントタイヤFTの重心を1fとし、重心1fの質量をm1fとし、フロント車体100の重心を2fとし、重心2fの質量をm2fとし、リヤタイヤRTの重心を1rとし、重心1rの質量をm1rとし、リヤ車体102の重心を2rとし、重心2rの質量をm2rとする。
【0092】
図4のA-1において、フロント車体100、及びリヤ車体102は剛体として取り扱う。また、一般の実機の二輪車においては、タイヤ本体は、内側に存在する剛体とみなされるリムと、その外側に存在する、弾性変形が可能な空気入りチューブ等とで構成される。タイヤ本体のモデル化に際しては、タイヤ本体の、3次元の弾性変形が可能な特性を考慮して、便宜上、弾性体、あるいは可撓体として取り扱うことができる。
【0093】
よって、フロントタイヤFTに含まれるフロントタイヤ本体104f、及びリヤタイヤRTに含まれるリヤタイヤ本体104rは、弾性変形が可能であることを前提として、少なくとも、その一部が弾性体や可撓体であるものとしてモデル化される。
【0094】
好ましい実施形態では、このフロントタイヤ本体104f、リヤタイヤ本体104rは、マジックフォーミュラ式を用いてモデル化され得る。
【0095】
なお、マジックフォーミュラ式は、タイヤ試験機によって得られた実験データに基づいてタイヤの特性を示すパラメータの値を同定することで得られる式であり、タイヤの、路面からの力やトルク反力を三角関数等で表した式である。
【0096】
符号105fは、フロントタイヤ本体104fの弾性特性を表すバネを示す。
【0097】
フロントサスペンション106fは、バネ110f、言い換えれば懸架バネ110fと、フロントダンパー108fと、を含む。符号FUは、フロントサスペンション106fの上部の点を示す。なお、フロントダンパーは、単に、ダンパーという場合がある。
【0098】
符号105rは、リヤタイヤ本体104rの弾性特性を表すバネを示す。
【0099】
リヤサスペンション106rは、バネ110r、言い換えれば懸架バネ110rと、リヤダンパー108rと、を含む。なお、懸架バネ110rは、先に
図2のA-2に示したバネSpに相当する。リヤダンパーは、単に、ダンパーという場合がある。また、符号RUは、リヤサスペンション106rの上部の点を示す。
【0100】
また、ステアリング軸120と、リヤ車体軸122とが直交するように、ステアリング軸120のキャスター角θcasが決定される。
【0101】
これにより、ステアリング軸120の延在方向に生じる、フロントサスペンション106fの減衰特性を反映した振動成分のベクトルVSfと、リヤ車体軸122の延在方向に生じる、リヤサスペンション106rの減衰特性を反映した振動成分のベクトルVSrとが直交し、各ベクトルの内積をとると零になることから、各ベクトルは互いに干渉せず、独立しているものとして取り扱うことができる。よって、フロントサスペンション106fに起因する振動成分と、リヤサスペンション106rに起因する振動成分とを、独立に取り扱うことが可能であり、解析が容易化される。
【0102】
なお、
図4のA-1において、符号Aは、リヤタイヤRTと地面との接点を示し、符号Bは、フロントタイヤFTと地面との接点を示し、符号B’は、ステアリング軸120と地面との交点を示し、符号Cは、リヤ車体軸122とステアリング軸120との交点を示す。
【0103】
また、フロント車体100は、リヤ車体102から見て、軸CB’周りに回転し、フロントタイヤ本体104f、及びリヤタイヤ本体104rは各々、回転するものとして取り扱う。また、フロントタイヤ本体104f、及びリヤタイヤ本体104rは各々、上記の点A、点Bの一点にて地面と接するものとして取り扱う。
【0104】
図4のA-2を参照する。図中、vは速度、wは角速度を示す。これらの速度、角速度は、各重心1f、2f、1r、2fの各々に働くことから、どの重心に働く速度等であるかを区別できるようにするために、例えば、重心1fについての速度、角速度はv1f、w1fと表記している。他の重心についても同様の表記がなされている。
【0105】
また、u、v、wは、三次元空間における直交座標軸X、Y、Zの各々に対応する、一般化座標系における一般化速度の座標軸である。
【0106】
また、p、q、rは、三次元空間における直交座標軸X、Y、Zの各々に対応する、一般化座標系における一般化角速度の座標軸である。
図4のA-2では、重心m2rについての速度v2rについては、u、v、wの関数として表記し、角速度w2rについては、p、q、rの関数として表記している。
他の重心m2f、m1r、m1fについても同様であるが、但し、どの重心についての速度、角速度であるのかを区別できるようにするために、u、v、w、及び、p、q、rの各々に、各重心の符号を付加して示している。
また、モデルMDL全体としての速度、角速度についても同様であるが、4つの重心の速度、角速度と区別できるように、モデルMDLの速度、角速度については、u、v、w、及び、p、q、rの各々に、mdlという符号を付加して示している。
【0107】
また、各重心1f、2f、1r、2fは所定の束縛条件で束縛されて、一つの運動体としての挙動を示すことから、各重心に、
図4のA-2に示されるような速度、角速度が働いている状態は、すなわち、車両モデルMDLに、速度vmdl、角速度wmdlが働いているということであり、両者は等価である。
【0108】
例えば、「車両モデルMDLの速度」という表現を使用する場合、この「車両モデルMDLの速度」は、その車両モデルMDLに含まれる各重心1f、2f、1r、2rに働く速度v1f、v2f、v1r、v2rの各ベクトルの演算によって一義的に定まる。
【0109】
よって、「車両モデルMDLの速度」を観測する、あるいは測定する、ということは、つまり、「各重心についての速度」を観測する、あるいは測定する、ということと同義である。この点は、角速度についても同様である。
なお、コンピュータ上に構築される二輪車安定走行制御システムのモデルの解析等に関しては、「観測」という用語を使用し、実機の二輪車に適用される二輪車安定走行制御システムの解析等に関しては、「測定」という用語を使用する。
【0110】
例えば、後述する
図12、
図13においては、「実機の二輪車の車両の速度」を測定する場合には、「実機の二輪車の車両における各重心に対応する箇所の速度」を測定している。
【0111】
次に、
図5を参照する。
図5は、二輪車の車両モデルにおける各重心の速度、角速度、加速度、角加速度、作用力、及び作用トルクを示す図である。
図5において、
図4と共通する部分には同じ符号を付している。
【0112】
図5のA-1は、
図4のA-1の構成を簡略化して示している。
【0113】
図5のA-2では、各重心の質量m1r、m2r、m1f、m2fにおける速度、角速度を表形式で示している。
【0114】
図5のA-2における、速度v1r、v2r、v2f、v1fの各々は、先に説明したように、車両、あるいは車両モデルの速度に対応している。同様に、角速度w1r、w2r、w2f、w1fの各々は、先に説明したように、車両、あるいは車両モデルの角速度に対応している。
【0115】
また、速度v1rには、リヤサスペンションの伸長速度が反映されており、v1fには、フロントサスペンションの伸長速度が反映されている。また、w2fには、ハンドル角速度が反映されている。
【0116】
図5のA-3では、各重心の質量m1r、m2r、m1f、m2fにおける加速度、角加速度を表形式で示している。
【0117】
図5のA-4では、各重心の質量m1r、m2r、m1f、m2fにおける作用力、作用トルクを表形式で示している。T2r、T2fは、ハンドルトルクの入力を反映した作用トルクである。
【0118】
次に、
図6を参照する。
図6は、二輪車の車両モデルにおける一般化速度の定義例、及び、一般化速度での、ヤコビアンを用いた関数の線形化手法を示す図である。
【0119】
【0120】
図6のA-2は、
図6のA-1に示される、二輪車の車両モデルMDLに対する一般化速度の定義の一例を示す図である。
【0121】
図6のA-2に示されるように、車両モデルMDLの一般化速度は、車両の移動方向の速度に関与する複数の速度成分を含むように定義する。
【0122】
例えば、実機の車両が路面上で前進していることを想定すると、通常、車両に備わる速度計による速度の計測は、例えばタイヤの回転数に基づいてのみ行われる。
【0123】
しかし、車両の速度を、微視的に、より詳細に観測する場合には、車両に働く種々の力の成分を考慮しなければならない。
【0124】
例えば、ハンドルが切られることで生じるモーメントも、その一部は、車両を前進させることに関与している。また、例えば、サスペンションの伸長により生じる振動成分も、その一部は、車両を前進させることに関与している。
【0125】
このような観点から、
図6のA-2では、車両の移動方向における速度に関与する多様な速度成分を、できるだけ多く変数として取り込んで関数を作成し、その関数にて一般化速度を定義することで、より詳細な二輪車の車両の移動方向の挙動の解析が可能となる。
【0126】
図6のA-2では、リヤ車体の重心2rの質量m2rに働く、u、v、wの各軸についての速度v2r、及び、p、q、rの各軸についての角速度w2r、ハンドル角速度、リヤサスペンション伸長速度、フロントサスペンション伸長速度、リヤタイヤの角速度w1r、フロントタイヤの角速度w1fの各々をパラメータとして含む関数Genを定義する。この関数Genを、ここでは、車両モデルMDL、あるいは実機の車両の一般化速度と定義する。
【0127】
また、
図3のステップS3では、運動方程式の線形化が実施されることを先に説明した。この場合、ベクトルで表現される非線形項を含む関数に対して、微分演算子であるヤコビアンを掛けることで線形化がなされる。
【0128】
このとき、上記の車両モデルの一般化速度が、非常に短い時間においては変動せずに一定である、という条件の下で、関数にヤコビアンを掛ける演算が実施され、これにより、非線形の項を一次近似、言い換えれば線形近似することができる。
【0129】
したがって、運動方程式の線形化に際しては、線形近似の前提条件である、車両モデルの一般化速度が、非常に短い時間においては変動せずに一定であることを担保する必要がある。
【0130】
この点は、本発明を実機の二輪車に適用する場合も同様である。このためには、実機の車両のエンジンや電動モータのトルクを、回転数によらず一定に制御する定トルク制御を実施し、車両の移動方向の速度に関与する各成分の変動を、極力、小さくすることが有効である。これにより、二輪車の安定走行制御の精度の低下を抑制することができる。
【0131】
図6のA-3には、関数にヤコビアンを掛けることの表現の例が示されている。すなわち、上記の一般化速度にて、関数fにヤコビアンを掛ける操作をY(f,Gen)と表現する。
【0132】
次に、
図7を参照する。
図7は、二輪車の車両モデルにおける、線形化された作用項を示す図である。
【0133】
【0134】
図7のA-2では、各重心1r、2r、2f、1fの質量m1r、m2r、m2f、m1fに働く作用力、及び作用トルクを表形式で示している。
【0135】
図7のA-3は、
図5のA-2の表を再掲したものである。
【0136】
図7のA-4には、一例として、質量m1fについての作用項が、作用力F1rと、作用トルクT1rとの加算によって表すことができることが示されている。他の質量についても同様である。
【0137】
図7のA-5では、一例として、質量m1fについての、一般化速度での作用項を示す式が示されている。この式では、
図6のA-3で示した、関数にヤコビアンを掛ける操作を示す表現が採用されている。他の質量についても同様である。
【0138】
図7のA-6に示すように、各質量についての作用項を加算する、言い換えれば各ベクトルの内積をとることによって、車両モデルの線形化された作用項、言い換えれば車両の線形化された作用項を算出することができる。
【0139】
次に、
図8を参照する。二輪車の車両モデルにおける、線形化された慣性項を示す図である。
【0140】
図8のA-1は、
図5のA-3の表を再掲したものである。
【0141】
図8のA-2は、各重心1r、2r、1f、2fにおける加速度についての慣性力、言い換えれば、直線運動の慣性力を示している。直線運動の慣性力は、公知のニュートンの運動方程式に従い、ベクトルの内積を用いて表すことができる。
【0142】
図8のA-3は、
図5のA-2の表を再掲したものである。
【0143】
図8のA-4は、各重心1r、2r、1f、2fにおける角加速度についての慣性力、言い換えれば、回転運動の慣性力を示している。回転運動の慣性力は、公知のオイラーの運動方程式に従い、各重心の慣性モーメントテンソルと、ベクトルの外積を用いて表すことができる。
【0144】
図8のA-5は、車両モデルの慣性項、言い換えれば車両モデルの慣性項の算出方法を示している。先に
図6のA-2で示した一般化速度において、
図8のA-4で得られた各重心の角加速度についての慣性力を示す関数にヤコビアンを掛け、各重心の線形化された慣性力を算出し、このようにして得られた各重心の線形化された慣性力を加算する、すなわちベクトルの内積をとることで、車両モデルの線形化された慣性項、言い換えれば車両の線形化された慣性項を算出することができる。
【0145】
次に、
図9を参照する。
図9は、二輪車の車両モデルについて、仮想パワーの原理を用いてケインの運動方程式を作成し、その運動方程式を状態方程式に変換し、根軌跡の解析によって適切なフィードバックゲインを求め、二輪車の安定走行制御システムのモデルを取得する手法の概要を示す図である。
【0146】
図9のA-1は、仮想パワーの原理を用いたケインの運動方程式を示している。仮想パワーの原理によれば、物体に働く作用項と慣性項とが釣り合うため、この関係を用いてケインの運動方程式を作成することができる。
【0147】
ケインの運動方程式を解くことで、一般化速度方向の仮想変位に対する係数を一義的に定めることができる。ケインの運動方程式は線形の運動方程式であるため、一階の連立微分方程式である状態方程式に変換することができる。
【0148】
図9のA-2は、本発明で利用する状態方程式の形式を示している。
図9のA-2の状態方程式において、xは状態変数であり、uは入力であり、yは出力であり、A、Bは、システムの入力特性に関係する行列式であり、Cはシステムの出力特性に関係する行列式である。
【0149】
図9のA-3は、
図9のA-2に示される状態方程式を、ブロック線図にて表したものである。このブロック線図からわかるように、
図9のA-2に示される状態方程式は、フィードバックゲインAの帰還経路を有する帰還制御系を示している。ここで、フィードバックゲインを適切に調整することができれば、入力の変動を所定の時間内に収束させることが可能な負帰還制御系、言い換えれば、安定した制御性を有する負帰還制御システムを構築することができる。
【0150】
仮に、フィードバックゲインが適切ではない場合、入力が発散してしまうことになり、負帰還制御系を構築することはできない。
【0151】
図9のA-4は、適切なフィードバックゲインを取得するために、言い換えれば、制御安定性の解析に、根軌跡法が有効であることを示している。根軌跡は、フィードバックゲインを変化させたときに、状態方程式の根が複素平面上で描く軌跡である。例えば、根軌跡が、複素平面の左半面の領域内に存在する場合のフィードバックゲイン値においては、帰還制御系は安定であると評価することができ、根軌跡が、複素平面の左半面の領域外となる場合は、そのフィードバックゲイン値において、帰還制御系は不安定であると評価することができる。
【0152】
図9のA-4は、適切なフィードバックゲインを求める具体的な手法として、線形最適制御LQR(Linear Quadratic Regulation)を利用できることを示している。具体的には、状態変数の変動を速やかに収束させることのできる制御入力を得るために、リカッチ方程式の解を求める。
【0153】
本実施形態では、車両の速度を、1m/s~60m/sまで、例えば1m/s毎に変化させ、各速度についての最適なフィードバックゲインを求める。最適なフィードバックゲインが求まると、これを用いて、二輪車を安定走行させることが可能な二輪車安定走行システムのモデルを得ることができる。
【0154】
図9のA-5は、得られた二輪車安定走行システムのモデルの構成例を示している。
【0155】
二輪車安定走行システムのモデル180は、制御対象である二輪車システムのモデルMOD1と、二輪車システムのモデルMOD1に入力変数を入力する入力系のモデルMOD2と、二輪車システムのモデルMOD1から出力変数を出力する出力系のモデルMOD3と、出力変数に基づく、
図3のステップS6にて取得されたフィードバックゲインによるフィードバックによって、入力系のモデルMOD2における入力変数の値を変更するフィードバック系のモデルMOD4と、を有する。
【0156】
図9のA-5の例では、入力変数は二輪車の操舵トルクである。
【0157】
また、二輪車システムのモデルMOD1は、リヤサスペンション/フロントサスペンション有り、かつパワーステアリング有りのモデルである。
【0158】
言い換えると、二輪車システムのモデルMOD1は、リヤ車体、フロント車体の2つの剛体と、リヤサスペンションを含むリヤタイヤ、フロントサスペンションを含むフロントタイヤという、少なくともその一部が弾性体と見なし得る2つの弾性体と、を含む、2剛体/2弾性体のマルチボディモデルである。
【0159】
出力系のモデルMOD3は、具体的には、少なくとも車両速度、車両角速度、ハンドル角速度、サスペンション伸長速度を出力可能、言い換えれば観測可能である。より好ましくは、車両加速度、車両角加速度、ハンドル角を出力可能、言い換えれば観測可能とするのがよい。
【0160】
フィードバック系のモデルMOD4は、二輪車システムのモデルMOD1を、好ましくは自律安定走行させる負帰還制御系の、所定の速度範囲内の速度毎の最適なフィードバックゲイン、言い換えれば負帰還ループのループゲインを実現する機能を有する。
【0161】
このようにして、二輪車システムのモデルMOD1を制御対象とし、二輪車システムのモデルMOD1の入力に少なくとも、二輪車の操舵トルクuが含まれ、二輪車システムのモデルMOD1の出力yに少なくとも、車両モデルの速度、車両モデルの角速度、車両モデルに含まれるハンドルについてのハンドル角速度、フロントサスペンション及びリヤサスペンションの各々におけるサスペンション伸長速度が含まれ、かつ車両モデルの出力に基づいて、
図9のA-5の処理にて取得されたフィードバックゲインによる負帰還制御を実施して、二輪車システムのモデルMOD1の入力uとしての操舵トルクを制御する、負帰還制御系としての二輪車安定走行制御システムのモデル180を作成することができる。
【0162】
次に、
図10を参照する。
図10は、直進走行する二輪車に本発明を適用した場合における、二輪車の走行安定性についてのシミュレーション結果例を示す図である。
【0163】
先に説明したように、二輪車システムの制御安定性は、状態方程式の根軌跡によって解析することができる。根軌跡は、フィードバックゲインを変化させたときに、状態方程式の根が複素平面上で描く軌跡であり、根軌跡が、複素平面の左半面の安定領域内に存在する場合のフィードバックゲイン値においては、帰還制御系は安定であると評価することができ、根軌跡が、複素平面の左半面の領域外となる、すなわち不安定領域に入った場合は、そのフィードバックゲイン値において、帰還制御系は不安定であると評価することができる。
【0164】
図10において、模様を付していない領域Z1が、複素平面における安定領域であり、斜線を施して示されている領域Z2が、複素平面における不安定領域である。
【0165】
図10では、二輪車の車両モデルについて、車速を1m/sから60m/sまで変化させ、各車両速度に対応する根軌跡を求め、複素平面上に、その結果を描画している。
図10では、根軌跡は、離散的な点、または点が連続した線、にて表されている。
【0166】
なお、本発明者による事前の根軌跡に基づく解析によって、負帰還制御をまったく実施しない場合は、車速1m/s~7.2m/sの範囲、及び、14.2m/s~60m/sの範囲で、根軌跡が、不安定領域Z2に存在する事象が発生し、走行安定性が低下することがわかっている。
【0167】
図10からわかるように、本発明を適用した場合の根軌跡は、車速1m/sから60m/sの全範囲内で、安定領域Z1内にあり、不安定領域Z2に入ることがない。すなわち、全車速範囲内で、直進走行する二輪車の走行安定性を確保することができた。
【0168】
次に、
図11を参照する。
図11は、二輪車の旋回時におけるハンドル角、及びロール角の例を示す図である。
【0169】
二輪車が旋回する場合においても、
図2~
図9を用いて説明したのと同じ手法を用いて安定走行に必要なフィードバックゲインを求めることができる。但し、二輪車が旋回走行する場合に適用される状態方程式は、二輪車が直線走行する場合に適用される状態方程式とは同じではない。
【0170】
言い換えれば、二輪車が直線走行する場合に適用される状態方程式を、二輪車の旋回時の状態変化を考慮して変形したり、あるいは、新たな項を追加したりすることで、二輪車の旋回走行の状態を解析するのにふさわしい形式とする必要がある。
【0171】
図11では、状態方程式をどのように改変するのがよいのかを考察する。
図11のA-1は、
図2のA-2に示した二輪車のモデルが右旋回している状態を、Z軸方向から見た平面視により示している。なお、
図11のA-1では、説明の便宜上、二輪車モデルを簡略化して示している。
図11のA-1では、ハンドルの図示は省略している。
【0172】
また、
図11のA-2は、
図11のA-1の状態の二輪車のモデルの、X軸方向からみた正面図で示している。
【0173】
図11のA-1、A-2において、
図2のA-2と共通する部分には同じ符号を付している。
図11のA-2に示すように、二輪車の旋回時には、二輪車は、車体を傾けて旋回する。このときのロール角をθrolとする。
【0174】
自動二輪車を例に説明する。通常、自動二輪車には、ライダーが意識しなくても、車体を傾けた方向に自然にハンドル、すなわちステアリングが切れて曲がっていく、セルフステアリングという仕組みが備わっている。
【0175】
二輪車の旋回時には、セルフステアリングによってステアリングが内側に向き、タイヤのキャンバー角によって発生する内向きの横力、すなわちキャンバースラスト力によって、二輪車は無理なく曲がっていくことができる。ただし、旋回状態によっては、スリップアングルによる旋回力が働く場合もあり得る。
【0176】
図11のA-1において、二輪車は、ハンドル角θhdにて右に旋回しており、このとき、フロントタイヤFTには、遠心力とは反対の方向に、太線の矢印で示すような横力Lfが生じており、また、リヤタイヤFTには、遠心力とは反対の方向に、太線の矢印で示すような横力Lrが生じている。
【0177】
よって、二輪車の旋回時の走行安定性を解析する場合には、例えば、リヤタイヤFTに生じる横力Lf、及びフロントタイヤRTに働く横力Lrの影響を考慮し、また、旋回時に生じる遠心力や風力等も考慮して、4つの重心1f、1r、2f、2rの、速度、角速度、加速度、角加速度、作用力、及び作用トルクを決める必要がある。
【0178】
また、二輪車の旋回時には、例えばロール角θrol等も観測、あるいは測定する必要があり、考慮すべき変数が増えるため、状態方程式においては、項を追加したり、係数の値を、直線走行時の値とは違う値に更新したりする必要がある。
【0179】
二輪車の旋回走行の安定性解析に適した状態方程式が得られれば、先に
図2~
図9にて説明したのと同様の手法を用いて、安定走行に必要なフィードバックゲインを、所定の速度範囲内の全速度について求めることができる。よって、旋回時にも対応した、二輪車の安定走行制御システムのモデルを得ることができる。
【0180】
次に、
図12を参照する。
図12は、実機の二輪車を用いた、二輪車の安定走行制御システムの構成の一例を示す図である。
【0181】
実機の二輪車を用いた、二輪車の安定走行制御システム190は、二輪車本体300と、二輪車本体300に設けられる、リヤタイヤセンサ部301と、リヤサスペンションセンサ部303と、リヤ車体センサ部305と、フロント車体センサ部307と、ハンドルセンサ部308と、パワーステアリング部312と、フロントサスペンションセンサ部311と、フロントタイヤセンサ部313と、エンジン制御部315と、測定部350と、電子制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)400と、を有する。
【0182】
パワーステアリング部312は、操舵トルクセンサ309と、操舵トルクアクチュエータ310と、を有する。
【0183】
エンジン制御部315は、エンジン又は電動モータ319の出力、すなわちエンジン又は電動モータ319のトルクを一定に制御する定トルク制御部317を有する。
【0184】
エンジン又は電動モータ319のトルクは、先に説明した4つの各重心に働くモーメントに影響を及ぼす。エンジン又は電動モータのトルク、すなわちモーメントが、エンジンや電動モータ319の回転数の変化、すなわち二輪車の車速の変化に伴い変動すると、
図6のA-2に示した一般化速度にも影響を与え、運動方程式の線形化に伴う誤差が拡大して負帰還制御の制御精度の低下の一因になることから、定トルク制御を実施し、エンジン又は電動モータ319の出力を安定化させ、負帰還制御の制御精度の低下を抑制する。
【0185】
リヤタイヤセンサ部301は、リヤタイヤ速度、リヤタイヤ角速度を検出し、検出信号を測定部350に供給する。但し、6軸MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサ等を用いて、併せて、リヤタイヤ加速度、リヤタイヤ角加速度を検出してもよい。
【0186】
リヤサスペンションセンサ部303は、リヤサスペンション伸長速度を検出して、その検出信号を測定部350に供給する。
【0187】
リヤ車体センサ部305は、リヤ車体速度、リヤ車体角速度を検出して、その検出信号を測定部350に供給する。但し、例えば、6軸MEMSセンサ等を用いて、併せて、リヤ車体加速度、リヤ車体角加速度を検出してもよい。
【0188】
フロント車体センサ部307は、フロント車体速度、フロント車体角速度を検出して、その検出信号を測定部350に供給する。但し、例えば、6軸MEMSセンサ等を用いて、併せて、フロント車体加速度、フロント車体角加速度を検出してもよい。
【0189】
ハンドルセンサ部308は、ハンドル角と、ハンドル角速度を検出して、その検出信号を測定部350に供給する。但し、例えば、6軸MEMSセンサ等を用いて、併せて、ハンドル加速度、ハンドル角加速度を検出してもよい。
【0190】
パワーステアリング部312は、ステアリング軸の周辺に与えられる操舵トルク、例えば、ハンドルトルク、又はステアリング軸に関するステアリングトルクを操舵トルクセンサ309で検出し、その検出信号を測定部350に供給する。操舵トルクセンサ309としては、例えば、トーションバーセンサを使用することができる。
【0191】
また、パワーステアリング部312に含まれる操舵トルクアクチュエータ310は、例えば、トーションバーアクチュエータ、磁歪アクチュエータ等で構成することができる。
【0192】
操舵トルクアクチュエータ310は、ECU400に設けられる、後述する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部408が生成して出力する、操舵トルクアクチュエータ制御信号DCTにより操作されて、二輪車の転倒防止に必要なトルク、すなわち転倒防止用のモーメントを、ハンドルやステアリング軸等に与える。
【0193】
フロントサスペンションセンサ部311は、フロントサスペンション伸長速度を検出して、その検出信号を測定部350に供給する。
【0194】
フロントタイヤセンサ部313は、フロントタイヤ速度、フロントタイヤ角速度を検出し、検出信号を測定部350に供給する。但し、6軸MEMSセンサ等を用いて、併せて、フロントタイヤ加速度、フロントタイヤ角加速度を検出してもよい。
【0195】
測定部350は、例えば、入力される各種の検出信号を増幅した後、A/D変換してサンプリングし、得られたデジタル信号をECU400に供給する。
【0196】
また、
図12では、測定部350において、操舵トルク検出信号を除く各種の検出信号の入力に対応する出力をy(t)と表記し、操舵トルク検出信号の入力に対応する出力をs(t)と表記している。
【0197】
y(t)は、時間と共に変動する「各種のセンサ信号値」であり、s(t)は、時間と共に変動する、二輪車のステアリング軸周辺における「操舵トルク値」である。
【0198】
ECU400は、マイクロコンピュータ402と、このマイクロコンピュータ402に設けられるパワーステアリング制御部403と、を有する。マイクロコンピュータ402は、二輪車安定走行制御装置として機能する。
【0199】
パワーステアリング制御部403は、比較部407を備える誤差検出部406と、操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部408と、を有する。
【0200】
ここで、誤差検出部406に含まれる比較部407は、測定部350から送られてくる操舵トルク値S(t)を、負帰還制御の目標値sdと比較し、その差分を誤差e(t)として出力する。誤差e(t)は、sd-s(t)と表すことができる。
【0201】
操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部408は、一般化速度算出部410と、操舵トルクアクチュエータ制御信号算出部412と、を有する。
【0202】
図6のA-2で示したように、一般化速度GENは、二輪車の車両の、移動方向に関する複数の速度成分を含む関数で定義される。一般化速度算出部410は、測定部350から送られてくる各種のセンサ信号値y(t)に基づき、車両の現在の一般化速度を算出する。
【0203】
現在の一般化速度が算出されると、その算出された一般化速度に対応する最適なフィードバックゲインに対応する係数kが一義的に定まる。すなわち、先に説明したように、その一般化速度が、きわめて短い時間では変動せずに一定であるという条件の下で、車両の挙動を示す非線形の運動方程式が線形化される。すなわち、2次の関数を線形近似して一次方程式とし、状態方程式に変換して、状態方程式を解いて固有値を求めることで、その一般化速度におけるフィードバックゲインが定まる。このフィードバックゲインに対応する係数が、
図12に示される係数kである。
【0204】
係数kが定まると、操舵トルクアクチュエータ制御信号算出部412は、誤差e(t)(=(sd-s(t))に係数kを掛け算することで、操舵トルクアクチュエータ制御信号としての制御入力u(t)を得る。この制御入力u(t)は、二輪車安定走行制御システム190を負帰還制御系として機能させると共に、そのシステム190における入力である操舵トルクに生じた変動を、所定時間内に速やかに収束させることが可能な制御入力である。
【0205】
この制御入力u(t)が、パワーステアリング部312に含まれる操舵トルクアクチュエータ310に与えられ、これにより負帰還制御が実施され、二輪車の安定走行が実現される。
【0206】
<実施例2>
次に、
図13を参照する。
図13は、実機の二輪車を用いた、二輪車の安定走行制御システムの構成の他の例を示す図である。
図13において、
図12と共通する部分には同じ符号を付している。
【0207】
図13の例では、二輪車のフロントタイヤFTに含まれるフロントサスペンション106f、及び、リヤタイヤRTに含まれるリヤサスペンション106rの少なくとも一方において、減衰力が可変に制御されるものとする。
【0208】
言い換えれば、フロントサスペンション106fのダンパー、及び、リヤサスペンション106rのダンパーの少なくとも一方において、例えば、電子式減衰力可変制御が実施される。
【0209】
このとき、減衰力が可変に制御されるダンパーにおいては、サスペンションに含まれるバネが縮みきったときに減衰力値を更新すると共に、そのサスペンションの伸長速度の測定に関しては、上記の減衰力値の更新に同期させてサスペンション伸長速度を測定するという、減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定と、を同期させる制御が実施される。
【0210】
サスペンションにおけるダンパーの減衰力が可変に制御される態様としては、減衰力値が通常より低く設定される態様、あるいは、その逆に、減衰力値が通常よりも高く設定される態様、もしくは、バネの圧縮工程と伸長工程とで、発生する減衰力値を切り替える、工程別減衰力可変制御を実施する態様と、が考えられる。
【0211】
いずれの態様においても、減衰力値の更新に伴い、サスペンションの減衰特性が変化し、この減衰特性の変化は、二輪車の車両の全体の挙動に影響を与える可能性が高い。
【0212】
よって、サスペンションの減衰特性の更新に同期して、サスペンション伸長速度を正確に測定し、その減衰力特性の更新に伴うサスペンション伸長速度の変化を、二輪車の安定走行制御に的確に反映させることが好ましい。これにより、二輪車の安定走行制御の精度を、さらに向上させることができる。
【0213】
このような観点から、
図13の例では、リヤサスペンションセンサ部303、及びフロントサスペンションセンサ部311の各々から、測定部350に、減衰力値更新タイミングの通知信号TMを供給する。他の構成は、
図12の例と同じである。
【0214】
図13の例において、測定部350は、例えば、リヤサスペンション伸長速度、又はフロントサスペンション伸長速度の少なくとも一方の、A/D変換によるサンプリング期間、言い換えれば、サスペンション伸長速度の測定可能期間の開始タイミングを、減衰直値更新タイミングに同期させる。これにより、ダンパーの減衰力値の更新による減衰力特性の変化に対応した、サスペンション伸長速度を、的確に測定、観測することができる。
【0215】
以下、上記の同期制御について具体的に説明する。
図14を参照する。
図14は、ダンパーにおける減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定とを同期化する構成の一例を示す図である。
図14において、前掲の図と共通する部分には同じ符号を付している。
【0216】
また、
図14は、リヤサスペンションにおいて、同期制御を実現する場合の構成例を示している。なお、以下の説明は、フロントサスペンションについても同様に適用可能である。
【0217】
リヤサスペンションは、先に
図2のA-2に示したように、一対のリヤサスペンションRSU1、RSU2を有するものとし、各リヤサスペンションRSU1、RSU2は、同じ減衰力特性を有するものとし、かつ、共に、電子式減衰力可変制御が実施されるものとする。
【0218】
一対の各リヤサスペンションRSU1、RSU2は、バネ、言い換えれば懸架バネSpと、ダンパーDpと、を有する。
【0219】
なお、先に示した
図4のA-1の二輪車のモデルでは、ダンパーには108rという符号が付され、バネには110rという符号が付されているが、これは、モデル化されたリヤタイヤの特性を説明するために付与された、便宜上の符号である。先に説明した
図2のA-2では、より実機に近い形態でリヤサスペンションを説明しているため、ここでは、
図2のA-2における符号を使用することとし、バネにはSpの符号を付し、ダンパーにはDpの符号を付している。この点は
図15も同様である。
【0220】
ダンパーDpは、作動流体としての作動油が封入されたシリンダ450と、シリンダ450内に設けられる可動のピストン451と、ピストンロッド453と、ストロークセンサ360と、を有する。
【0221】
シリンダ450は、ピストン451によって、第1の油室454と、第2の油室455に区分されている。また、ピストン451には、オリフィス452が設けられている。
【0222】
また、このピストン451には、ピストンの移動速度、言い換えればサスペンション伸長速度を検出可能なサスペンション伸長速度センサ456が取り付けられている。このセンサ456は、先に説明したリヤサスペンションセンサ部303の構成要素である。
【0223】
また、ストロークセンサ360によって、ピストン451の移動方向と移動量を測定することができる。なお、ピストン451が第2の油室455側に移動する場合における、その移動方向をサスペンションの伸長方向、その反対方向をサスペンションの圧縮方向と称する。
【0224】
シリンダ450と、バネSpとの間には、作動流体としての作動油を流す流路470が設けられ、この流路470には、電子制御式の流量制御弁460が設けられている。
【0225】
この流量制御弁460における作動油の流量を制御して減衰力を可変に制御するために、減衰力可変制御部500が設けられている。
【0226】
減衰力可変制御部500は、減衰力値更新タイミング決定部502と、流量制御弁駆動部504と、を有する。
【0227】
減衰力値更新タイミング決定部502は、ストロークセンサ360の検出信号に基づき、バネSpが縮み切ったタイミングを検出する。言い換えれば、バネSpが圧縮状態から伸長状態に変化する場合の、その変化が生じるタイミングを検出する。
【0228】
減衰力値更新タイミング決定部502は、その検出タイミングにて、流量制御弁駆動部504に、減衰力更新値の情報SS1を通知し、流量制御弁駆動部504は、その通知を受けたタイミングにて制御信号SS2を出力し、流量制御弁460を制御して減衰力値を変更させる。
【0229】
バネSpが縮み切ったタイミングで減衰力値を更新するのは、バネSpが圧縮されて移動している途中、あるいは、バネSpが伸長している途中に減衰直値が更新されても、減衰力値の正確な切替が実現されないからである。よって、バネSpが縮み切った時点に同期して、減衰力値を更新することとしている。
【0230】
一方、測定部350には、サスペンション伸長速度センサ456から検出信号が供給され、また、減衰力値更新タイミング決定部502から、減衰力値の更新タイミングを示す信号SS3が供給される。
【0231】
測定部350は、先に説明したように内部にA/D変換器を有し、サスペンション伸長速度センサ456から供給されるサスペンション伸長速度の検出信号をサンプリングすることで、サスペンション伸長速度を測定する。但し、この測定方法は一例であり、これに限定されるものではなく、例えば、サスペンション伸長速度センサ456を直接に制御して、測定タイミングにおいて、サスペンション伸長速度センサ456の検出を可能とするといった測定方法であってもよい。
【0232】
その測定は、サスペンション伸長速度の測定可能期間内において実施される。この点は、
図15を用いて後述する。本実施例では、その測定可能期間の開始タイミングを、上記の減衰力値の更新タイミングと同期させる。
【0233】
その理由は、サスペンション伸長速度を測定している最中に減衰力値が更新された場合には、その減衰力の更新を反映した正確なサスペンション伸長速度の測定ができないからである。
【0234】
減衰力値の更新と、サスペンション伸長速度の測定とを同期させることで、その減衰力の更新を反映した正確なサスペンション伸長速度の測定が可能となる。
【0235】
測定部350は、サスペンション伸長速度の検出信号を、ECU400内のマイクロコンピュータ402に供給する。
【0236】
先に説明したように、二輪車安定走行制御装置としてのマイクロコンピュータ402には、パワーステアリング制御部403が設けられ、このパワーステアリング制御部403には、操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部408が設けられている。
【0237】
操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部408は、サスペンション伸長速度の正確な検出信号に基づいて、一般化速度の算出等のパワーステアリング制御に必要な処理を実施して操舵トルクアクチュエータ制御信号DTCを生成し、その操舵トルクアクチュエータ制御信号DTCを、パワーステアリング部312の操舵トルクアクチュエータ310に供給する。これにより、サスペンションの減衰力値の更新を考慮した、高精度のパワーステアリング制御が実現される。
【0238】
次に、
図15を参照する。
図15は、ダンパーにおける減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定とを同期化する処理の一例を示す図である。
図15において、
図14と共通する部分には同じ符号を付している。各部の動作は、
図14にて説明されているため、各部の動作の説明は省略する。
【0239】
図15において、バネSpは、時刻t0に伸長し切った状態であり、この時刻t0からバネSpの圧縮が開始される。時刻t1にバネSpは縮み切った状態となり、このタイミングで、サスペンション伸長速度の測定可能期間が開始される。時刻t2において、バネSpは、伸長し切った状態に復帰する。
【0240】
時刻t1~t2の期間Tが、サスペンション伸長速度測定可能期間となる。測定部350は、このサスペンション伸長速度測定可能期間Tの少なくとも一部の期間、あるいは、その期間T内の所定の時点において、サスペンション伸長速度を測定することができる。このようにして、ダンパーにおける減衰力値の更新と、サスペンションの伸長速度の測定とを同期させることが可能となる。
【0241】
測定部350は、時刻t3に、サスペンションの伸長速度の測定値、言い換えればサスペンションの伸長速度の検出信号を出力する。
【0242】
以上説明したように、本発明の1つの態様では、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法は、二輪車を、フロント車体の重心(2f)、リヤ車体の重心(2r)、フロントタイヤ本体(104f)及びフロントサスペンション(106f)を含むフロントタイヤ(FT)の重心(1f)、及び、リヤタイヤ本体(104r)及びリヤサスペンション(106r)を含むリヤタイヤ(RT)の重心(1r)を有するモデルにモデル化した車両モデルを取得する第1のステップ(S1)と、重心の各々に働く作用力の総計を示す作用項と、重心の各々に働く慣性力の総計を示す慣性項とが釣り合うことを条件として、車両モデル(MDL)についての線形の運動方程式を作成する第2のステップ(S2、S3)と、線形の運動方程式を状態方程式に変換する第3のステップ(S4)と、状態方程式の根軌跡による解析によって、所定の速度範囲内の速度における、車両モデルの走行を安定化させ得るフィードバックゲインを取得する第4のステップ(S5、S6)と、第4のステップにおいて取得されたフィードバックゲインによる負帰還制御を実施する二輪車安定走行制御システムのモデル(180)を作成する第5のステップ(S7)と、を含む。
【0243】
これにより、二輪車をマルチボディモデルとしてモデル化して、現代制御理論による根軌跡解析によって、負帰還制御系の適切なゲインを、所望の速度範囲内の任意の速度について求めることができる。
よって、例えば、二輪車の安定走行制御について、科学的、かつ客観的な解析や評価が可能となる。
また、例えば、自律安定走行する二輪車を、モデルベース開発の手法を用いて、効率的に設計することが可能となる。
【0244】
第1の態様に従属する第2の態様では、第5のステップにて作成される二輪車安定走行制御システムのモデル(180)は、制御対象である二輪車に対応する二輪車システムのモデル(MOD1)と、二輪車システムのモデルに入力変数を入力する入力系のモデル(MOD2)と、二輪車システムのモデルから出力変数を出力する出力系のモデル(MOD3)と、出力変数に基づく、前記第4のステップにて取得されたフィードバックゲインによるフィードバックによって、入力系のモデルにおける入力変数の値を変更するフィードバック系のモデル(MOD4)と、を有してもよい。
【0245】
第2の態様によれば、二輪車安定走行制御システムが、複数のモデルに区分されているため、モデルベース開発においては、各モデルを実機の部分に置き換えることで、容易に二輪車安定走行制御システムを設計することができる。
【0246】
第1又は第2の態様に従属する第3の態様では、二輪車安定走行制御システムのモデル(180)の作成に際しては、車両モデル(MDL)を制御対象とし、車両モデルの入力に少なくとも、車両モデルにおける操舵トルクが含まれ、車両モデルの出力に少なくとも、車両モデルの速度、車両モデルの角速度、車両モデルに含まれるハンドルについてのハンドル角速度、フロントサスペンション及びリヤサスペンションの各々におけるサスペンション伸長速度が含まれ、車両モデルの出力に基づいて、第4のステップにおいて取得されたフィードバックゲインによる負帰還制御を実施して、車両モデルの入力としての操舵トルクを制御してもよい。
【0247】
第3の態様によれば、サスペンションの特性等を十分に考慮して、二輪車のハンドやステアリング軸に働く操舵トルクを適切に発生させて、パワーステアリングの技術を用いて、二輪車の走行を安定化させることができる。
【0248】
第1乃至第3の何れか1つの態様に従属する第4の態様において、第2のステップにおいて、車両モデルについての線形の運動方程式を作成するに際し、車両モデルに対応する実機の二輪車に含まれるエンジン又はモータ(319)が、回転数が変動してもトルクが一定になるように定トルク制御される、という条件が適用されてもよい。
【0249】
第4の態様によれば、定トルク制御によって、二輪車のエンジンやモータの回転数の変化に対応して車体に生じるモーメント等を低減でき、よって、二輪車の安定走行制御性の解析の精度が向上する。
【0250】
第1乃至第4の何れか1つの態様に従属する第5の態様において、第2のステップにおいて、車両モデルについての線形の運動方程式を作成するに際し、車両モデルの回転を伴わない並進運動による、前記車両モデルの移動方向に生じる第1の速度成分、及び、車両モデルの回転運動による、車両モデルの移動方向に生じる第2の速度成分の各々を変数として含む関数にて、車両モデルの一般化速度を定義すると共に、非線形の運動方程式に含まれる非線形の作用項、及び慣性項の各々に、一般化速度でのヤコビ行列を掛け算することで、線形化された作用項、及び線形化された慣性項を算出し、線形化された作用項と、線形化された慣性項とが釣り合うことを条件として、線形の運動方程式を作成してもよい。
【0251】
第5の態様では、車両モデルの移動方向に生じる、並進運動に起因する速度成分、及び、回転運動に起因する速度成分を総合的に勘案して平均化速度を定義しているため、二輪車の複雑な挙動を、回転に伴う振動等を考慮して精度よく解析可能である。運動方程式の線形化に際しては、その平均化速度が一定であるという条件で線形化処理を実施するため、この線形化、つまり一次近似に伴い欠落する情報を最小限にとどめることができ、解析精度の低下を抑制可能である。
【0252】
第1乃至第5の何れか1つの態様に従属する第6の態様において、フロントサスペンション、及びリヤサスペンションの少なくとも一方に含まれるダンパー(Dp)は、減衰力が可変に制御されるものとし、減衰力が可変に制御されるダンパーを構成要素として含むサスペンション(RSU1、RSU2、FR1、FR2)を、減衰力可変サスペンションとする場合において、減衰力可変サスペンションについての、サスペンション伸長速度の観測に際しては、減衰力可変サスペンションの構成要素であるバネ(Sp)が縮みきったときに減衰力値を更新するものとし、かつ、減衰力値の更新に同期させて、サスペンション伸長速度を観測してもよい。
【0253】
第6の態様によれば、サスペンション伸長速度の観測に際し、サスペンションが減衰力可変サスペンションであるときは、その減衰力可変サスペンションに含まれるバネが縮みきったときに減衰力値を更新し、その更新に同期させてサスペンション伸長速度を観測するため、更新された減衰力値に対応した正確なサスペンション伸長速度の観測が可能となる。
本態様の技術を用いると、減衰力可変制御を実施する電子制御式サスペンションを備える二輪車についても、その減衰力値の変化を的確に反映させて、二輪車の複雑な挙動をより正確に観測、解析、評価等することができる。
また、二輪車の自律安定走行制御に必要な、パワーステアリング用の操舵トルクを的確に発生させることができる。
よって、広範な種類の二輪車の自律安定走行制御性等を評価、解析することができる。また、モデル化ベース開発の汎用性を大幅に向上させることができる。また、二輪車におけるパワーステアリング技術の精度を向上させることができる。
【0254】
第7の態様において、二輪車安定走行シミュレータ(40)は、第1の態様の二輪車安定走行制御システムのモデル化方法での第4のステップにおけるフィードバックゲインの取得用の信号処理を実施する信号処理装置(44)と、車両モデルの設計パラメータ、及び車両モデルの走行条件パラメータを、信号処理装置に入力する入力インタフェース(42)と、入力インタフェースから入力されるパラメータに対する、車両モデルの挙動の情報を出力する出力インタフェース(46)と、を有する。
【0255】
第7の態様によれば、従来、科学的な検証ができなかった、複雑な挙動を示す二輪車についての適切なフィードバックゲインの詳細な解析、評価が可能となる。よって、自動運転機能を有する二輪車の設計を迅速化することができる。
【0256】
第8の態様において、プログラムは、コンピュータを、第7の態様の二輪車安定走行シミュレータとして動作させる。
【0257】
第8の態様によれば、プログラムによって、シミュレータを構築することができ、実現が容易化される。
【0258】
第9の態様において、二輪車安定走行制御システム(190)は、実機の二輪車(300)と、実機の二輪車に取り付けられる、二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータ(310)を構成要素として含むパワーステアリング部(312)と、実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部(301、303、305、307、308、311、313)の出力に基づく測定処理を実施する測定部(350)と、二輪車に取り付けられ、かつ、測定部の出力に基づいて操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部(408)を有するパワーステアリング制御部(403)と、を有する。
【0259】
第9の態様によれば、モデルベース開発の手法を用いて、実機の二輪車を対象とした、高性能の二輪車安定走行制御システムを実現することができる。
【0260】
第9の態様に従属する第10の態様において、測定部(350)は、実機の二輪車、すなわち二輪車本体(300)におけるリヤタイヤ速度、リヤタイヤ角速度、リヤ車体速度、リヤ車体角速度、フロントタイヤ速度、フロントタイヤ角速度、フロント車体速度、フロント車体角速度、前記実機の二輪車におけるハンドルのハンドル角速度、実機の二輪車におけるフロントサスペンションの伸長速度、及び、実機の二輪車におけるリヤサスペンションのサスペンション伸長速度を測定してもよい。
【0261】
第9の態様によれば、サスペンションの特性等を十分に考慮して、二輪車のハンドやステアリング軸に働く操舵トルクを適切に発生させて、パワーステアリングの技術を用いて、二輪車の走行を安定化させることができる。
【0262】
第9、又は第10の態様に従属する第11の態様において、実機の二輪車、すなわち二輪車本体(300)に備わるフロントサスペンション(FR1、FR2)、及びリヤサスペンション(RSU1、RSU2)の各々は、バネ(Sp)と、ダンパー(Dp)とを有すると共に、フロントサスペンション及びリヤサスペンションの少なくとも一方において、ダンパーの減衰力を可変に制御する減衰力可変制御部(500)、をさらに有し、減衰力が可変に制御されるダンパーを構成要素として含むサスペンションを、減衰力可変サスペンションとする場合に、減衰力可変制御部(500)は、減衰力可変サスペンションの構成要素であるバネ(Sp)が縮みきったときに減衰力値を更新すると共に、測定部(350)は、減衰力可変サスペンションについてのサスペンション伸長速度の測定に際しては、減衰力可変制御部(500)における減衰力値の更新に同期させて、サスペンション伸長速度を測定してもよい。
【0263】
第11の態様によれば、サスペンション伸長速度の測定に際し、サスペンションが減衰力可変サスペンションであるときは、その減衰力可変サスペンションに含まれるバネが縮みきったときに減衰力値を更新し、その更新に同期させてサスペンション伸長速度を測定するため、更新された減衰力値に対応した正確なサスペンション伸長速度の測定が可能となる。
本態様の技術を用いると、減衰力可変制御を実施する電子制御式サスペンションを備える二輪車についても、その減衰力値の変化を的確に反映させて、二輪車の複雑な挙動をより正確に観測、解析、評価等することができる。
また、二輪車の自律安定走行制御に必要な、パワーステアリング用の操舵トルクを的確に発生させることができる。
よって、広範な種類の二輪車の自律安定走行制御性等を評価、解析することができる。また、モデル化ベース開発の汎用性を大幅に向上させることができる。また、二輪車におけるパワーステアリング技術の精度を向上させることができる。
【0264】
第9乃至第11の何れか1つの態様に従属する第12の態様において、実機の二輪車は、移動している実機の二輪車の車両に含まれるエンジン又はモータ(319)を、回転数に対してトルクが一定になるように定トルク制御する定トルク制御部(317)を有し、二輪車安定走行制御システムが動作しているときは、定トルク制御部(317)による定トルク制御が実施されてもよい。
【0265】
第12の態様によれば、定トルク制御によって、二輪車のエンジンやモータの回転数の変化に対応して車体に生じるモーメント等を低減でき、よって、二輪車の安定走行制御性の解析の精度が向上する。
【0266】
第13の態様において、二輪車安定走行制御装置(402)は、第9乃至第12の何れか1つの態様の二輪車安定走行制御システムにおける、パワーステアリング制御部(403)として機能する。
【0267】
第13の態様によれば、高精度な二輪車の安定走行制御を実施する上で必要となるデバイスである二輪車安定走行制御装置、すなわち、マイクロコンピュータや信号処理回路等を実現することができる。
【0268】
第13の態様に従属する第14の態様において、測定部(350)の出力に基づき、操舵トルクの、目標値との誤差を検出する誤差検出部(406)と、検出された操舵トルクの誤差を抑制するように、操舵トルクアクチュエータ制御信号(DTC)を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部(408)と、を有してもよい。
【0269】
第14の態様によれば、二輪車の操舵トルクに生じる誤差を、所望の時間内に速やかに収束させ得る負帰還制御系を構築する上で必要となる二輪車安定走行制御装置、すなわち、マイクロコンピュータや信号処理回路等を実現することができる。
【0270】
なお、上記の説明では、自動二輪車を例にとり説明したが、本発明は、自動三輪車や四輪車等にも適用可能であり、また、現在開発が進んでいる電動二輪車等にも適用可能であり、車両の種類は問わない。
【0271】
以上説明したように、本発明によれば、非線形の複雑な挙動を伴う二輪車について、二輪車の走行の安定性を、多面的に、かつ科学的に検証可能な、汎用性のある二輪車安定走行制御技術等、言い換えれば、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、及び二輪車安定走行制御装置等を提供することができる。
【0272】
発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0273】
本発明は、二輪車安定走行制御システムのモデル化方法、二輪車安定走行シミュレータ、プログラム、二輪車安定走行制御システム、二輪車安定走行制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0274】
1f,2f,1r,2r…重心、4…路面、10…コンピュータシステム、12…コンピュータ本体、14…モニタ、15…車体、16…キーボード、17…前輪、18…マウス、19…後輪、20…第1のフォルダ、21,23,26,28…フォルダ、22…二輪車安定走行制御システムに対応する状態方程式、24…状態方程式用のデータ、25…第2のフォルダ、27…二輪車安定走行制御システムの仕様書としてのモデル、28・・・フォルダ、30…記憶装置、32…二輪車安定走行制御システムの解析用シミュレーションプログラム(プログラム)、40…シミュレータ(二輪車安定走行シミュレータ)、44…状態方程式に基づくフィードバックゲイン解析用の信号処理装置、42…入力インタフェース、46…出力インタフェース、100…フロント車体、102…リヤ車体、104f,104r…タイヤ本体、105f…フロントタイヤ本体の弾性特性を表すバネ、105r…リヤタイヤ本体の弾性特性を表すバネ、106f…仮想的な1つのフロントサスペンション(フロントサスペンション)、106r…仮想的な1つのリヤサスペンション(リヤサスペンション)、108f…フロントダンパー、108r…リヤダンパー、110f,110r…バネ(懸架バネ)、120…ステアリング軸、121…ハンドル、122…リヤ車体軸、180…二輪車安定走行システムのモデル、190…二輪車安定走行制御システム、300…二輪車本体、301…リヤタイヤセンサ部、303…リヤサスペンションセンサ部、305…リヤ車体センサ部、307…フロント車体センサ部、308…ハンドルセンサ部、309…操舵トルクセンサ、310…操舵トルクアクチュエータ、311…フロントサスペンションセンサ部、312…パワーステアリング部、313…フロントタイヤセンサ部、315…エンジン制御部、317…定トルク制御部、319…エンジン又は電動モータ、350…測定部、360・・・ストロークセンサ、400…ECU、402…マイクロコンピュータ(二輪車安定走行制御制御)、403…パワーステアリング制御部、406…誤差検出部、407…比較部、408…操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部、410…一般化速度算出部、412…操舵トルクアクチュエータ制御信号算出部、450…シリンダ、451…ピストン、452…オリフィス、454…第1の油室、455…第2の油室、456…サスペンション伸長速度センサ、460…流量制御弁、500…減衰力可変制御部、502…減衰力値更新タイミング決定部、504…流量制御弁駆動部、Dp…ダンパー、FR1,FR2…ダンパーとしての機能を有するフロントサスペンション、FT…フロントタイヤ、FU…フロントサスペンションの上部の点、Lf,Lr…横力、m1f,m2f,m1r,m2r…重心の質量、MDL…車両モデル、MOD1…二輪車システムのモデル、MOD2…入力系のモデル、MOD3…出力系のモデル、MOD4…フィードバック系のモデル、RSU1,RSU2…リヤサスペンション、RT…リヤタイヤ、RU…リヤサスペンションの上部の点、Sp…バネ、T…サスペンション伸長速度測定可能期間、TM…減衰力値更新タイミングの通知信号、θcas…キャスター角、θhd…ハンドル角。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有し、
前記測定部は、
前記実機の二輪車におけるリヤタイヤ速度、リヤタイヤ角速度、リヤ車体速度、リヤ車体角速度、フロントタイヤ速度、フロントタイヤ角速度、フロント車体速度、フロント車体角速度、前記実機の二輪車におけるハンドルのハンドル角速度、前記実機の二輪車におけるフロントサスペンションの伸長速度、及び、前記実機の二輪車におけるリヤサスペンションのサスペンション伸長速度を測定する、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項2】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有し、
前記実機の二輪車に備わるフロントサスペンション、及びリヤサスペンションの各々は、バネと、ダンパーとを有すると共に、
前記フロントサスペンション及び前記リヤサスペンションの少なくとも一方において、前記ダンパーの減衰力を可変に制御する減衰力可変制御部、をさらに有し、
減衰力が可変に制御されるダンパーを構成要素として含むサスペンションを、減衰力可変サスペンションとする場合に、
前記減衰力可変制御部は、
前記減衰力可変サスペンションの構成要素であるバネが縮みきったときに減衰力値を更新すると共に、
前記測定部は、
前記減衰力可変サスペンションについてのサスペンション伸長速度の測定に際しては、
前記減衰力可変制御部における前記減衰力値の更新に同期させて、前記サスペンション伸長速度を測定する、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項3】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有し、
前記実機の二輪車は、移動している前記実機の二輪車の車両に含まれるエンジン又はモータを、回転数に対してトルクが一定になるように定トルク制御する定トルク制御部を有し、
前記二輪車安定走行制御システムが動作しているときは、前記定トルク制御部による定トルク制御が実施される、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の二輪車安定走行制御システムにおける、前記パワーステアリング制御部として機能する二輪車安定走行制御装置。
【請求項5】
前記測定部の出力に基づき、前記操舵トルクの、目標値との誤差を検出する誤差検出部と、
検出された操舵トルクの誤差を抑制するように、前記操舵トルクアクチュエータ制御信号を生成する前記操舵トルク制御信号生成部と、
を有する、
請求項4に記載の二輪車安定走行制御装置。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有し、
前記測定部は、
前記実機の二輪車におけるリヤタイヤ角速度、リヤ車体速度、リヤ車体角速度、フロントタイヤ角速度、フロント車体速度、フロント車体角速度、前記実機の二輪車におけるハンドルのハンドル角速度、前記実機の二輪車におけるフロントサスペンションの伸長速度、及び、前記実機の二輪車におけるリヤサスペンションのサスペンション伸長速度を測定する、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項2】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有し、
前記実機の二輪車に備わるフロントサスペンション、及びリヤサスペンションの各々は、バネと、ダンパーとを有すると共に、
前記フロントサスペンション及び前記リヤサスペンションの少なくとも一方において、前記ダンパーの減衰力を可変に制御する減衰力可変制御部、をさらに有し、
減衰力が可変に制御されるダンパーを構成要素として含むサスペンションを、減衰力可変サスペンションとする場合に、
前記減衰力可変制御部は、
前記減衰力可変サスペンションの構成要素であるバネが縮みきったときに減衰力値を更新すると共に、
前記測定部は、
前記減衰力可変サスペンションについてのサスペンション伸長速度の測定に際しては、
前記減衰力可変制御部における前記減衰力値の更新に同期させて、前記サスペンション伸長速度を測定する、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項3】
実機の二輪車と、
前記実機の二輪車に取り付けられる、前記実機の二輪車における操舵トルクを発生させる操舵トルクアクチュエータを構成要素として含むパワーステアリング部と、
前記実機の二輪車に取り付けられる複数のセンサ部の出力に基づく測定処理を実施する測定部と、
前記二輪車に取り付けられ、かつ、前記測定部の出力に基づいて前記操舵トルクアクチュエータの制御信号を生成する操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部を有するパワーステアリング制御部と、
を有する二輪車安定走行制御システムであって、
前記実機の二輪車は、移動している前記実機の二輪車の車両に含まれるエンジン又はモータを、回転数に対してトルクが一定になるように定トルク制御する定トルク制御部を有し、
前記二輪車安定走行制御システムが動作しているときは、前記定トルク制御部による定トルク制御が実施される、
二輪車安定走行制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の二輪車安定走行制御システムにおける、前記パワーステアリング制御部として機能する二輪車安定走行制御装置。
【請求項5】
前記測定部の出力に基づき、前記操舵トルクの、目標値との誤差を検出する誤差検出部と、
検出された操舵トルクの誤差を抑制するように、前記操舵トルクアクチュエータの前記制御信号を生成する前記操舵トルクアクチュエータ制御信号生成部と、
を有する、
請求項4に記載の二輪車安定走行制御装置。