(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174809
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20241210BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
C09D 11/324 20140101ALI20241210BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20241210BHJP
【FI】
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/175 131
B41J2/01 501
B41J2/175 121
C09D11/324
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071534
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023092624
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】西脇 裕子
(72)【発明者】
【氏名】永井 荘一
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】吉野 絵里子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056EC19
2C056EC64
2C056FA03
2C056FA04
2C056FA10
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2C056KB14
2C056KB37
2C056KC00
2C056KC05
2C056KC10
2C056KC11
2C056KC16
2C056KC22
2C056KC30
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB11
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2H186FB25
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2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD09
4J039BD02
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE28
4J039BE30
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】開閉可能なインク注入口を有する大容量のインク収容部を備えるインクジェット記録装置を使用する場合であっても、カラー画像に隣接するブラック画像の縁部の光学濃度の低下を抑制しながら、長期間にわたって高品位な画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】開閉可能なインク注入口を有する第1インク収容部と、第2インク収容部と、水性インクを吐出する記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法である。水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、及びカラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たす。
P1≦P2 ・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能なインク注入口を有する、前記インク注入口から水性インクを補充可能な第1インク収容部と、
前記第1インク収容部とチューブを介して接続される、前記水性インクを収容する第2インク収容部と、
前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、
前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、
前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
P1≦P2 ・・・(1)
【請求項2】
前記ブラックインク中の、前記アクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上1.3倍以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、前記ブラックインク中の前記アクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(2)の関係を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
P2<(P1+R1) ・・・(2)
【請求項4】
前記カーボンブラックの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P1(nm)、前記有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P2(nm)、及び前記アクリル樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50R1(nm)が、下記式(3)の関係を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
D50P1<D50P2<D50R1 ・・・(3)
【請求項5】
前記カーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)が、0.16mmol/g以上0.80mmol/g以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記アクリル樹脂粒子のアニオン性基の量AR1(mmol/g)、及び前記カーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)が、下記式(4)の関係を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
AR1<AP1 ・・・(4)
【請求項7】
前記カーボンブラックのBET比表面積が、350m2/g以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記カーボンブラックのDBP吸油量が、180mL/100g以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記カーボンブラックが、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記ブラックインクの表面張力γ1(mN/m)、及び前記カラーインクの表面張力γ2(mN/m)が、下記式(5)の関係を満たす請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
γ1>γ2 ・・・(5)
【請求項11】
開閉可能なインク注入口を有する、前記インク注入口から水性インクを補充可能な第1インク収容部と、
前記第1インク収容部とチューブを介して接続される、前記水性インクを収容する第2インク収容部と、
前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、
前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録装置。
P1≦P2 ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在宅でのリモートワークの増加により、インクジェット記録装置に対して、発色性に優れた画像を高い生産性で普通紙などの記録媒体に記録可能であることなどが要望されている。発色性に優れた画像を記録すべく、例えば、顔料を色材として含有する水性の顔料インクが広く用いられている。なかでも、カーボンブラックを色材として含有するブラックインクと、カラーの有機顔料を色材として含有するカラーインクが汎用されている。
【0003】
収容されたインクの残量が減少した際に、それ自体を交換する方式のインクタンクが知られている。また、高い生産性を実現すべく、大容量のメインタンクをインク収容部として設けたインクジェット記録装置が提案されている。このような大容量のメインタンクとしては、特許文献1で提案されているような交換方式のタンクではなく、インクの残量が減少した際にインクを注入する方式のタンクを用いることが検討されている。例えば、顔料インクを適用可能なインク注入方式のメインタンクを備えたインクジェット記録装置が提案されている(特許文献2)。
【0004】
インク注入方式のメインタンクには、例えば、インクボトルからインクを注入する方式が採用されている。すなわち、開閉可能なインク注入口がメインタンクに設けられており、インクを注入するタイミングや注入量を適宜調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-147984号公報
【特許文献2】特開2017-001391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献2で提案されているようなインク注入方式のタンクを搭載したインクジェット記録装置を使用し、カーボンブラックを含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクを記録媒体に付与して長期間にわたって画像を記録した。その結果、ブラックインクとカラーインクが隣接して付与されて記録されたブラック画像とカラー画像の境界部において、ブラック画像の縁部の光学濃度が低下する場合があることがわかった。さらに長期間にわたって画像を記録した後には、ブラック画像の縁部の光学濃度の低下がより顕著になることがわかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、開閉可能なインク注入口を有する大容量のインク収容部を備えるインクジェット記録装置を使用して画像を記録する際に生ずる課題を解決することにある。すなわち、このようなインクジェット記録装置を使用した場合であっても、カラー画像に隣接するブラック画像の縁部の光学濃度の低下を抑制しながら、長期間にわたって高品位な画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、開閉可能なインク注入口を有する、前記インク注入口から水性インクを補充可能な第1インク収容部と、前記第1インク収容部とチューブを介して接続される、前記水性インクを収容する第2インク収容部と、前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
P1≦P2 ・・・(1)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開閉可能なインク注入口を有する大容量のインク収容部を備えるインクジェット記録装置を使用して画像を記録する際に生ずる課題を解決することができる。すなわち、このようなインクジェット記録装置を使用した場合であっても、カラー画像に隣接するブラック画像の縁部の光学濃度の低下を抑制しながら、長期間にわたって高品位な画像を記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0012】
本発明者らは、まず、カーボンブラックを含有するがアクリル樹脂粒子を含有しないブラックインク、有機顔料を含有するカラーインク、及び開閉可能なインク注入口を有する第1インク収容部(メインタンク)を備えるインクジェット記録装置を用意した。そして、このインクジェット記録装置を使用してブラックインク及びカラーインクを吐出し、隣接して記録したブラック画像とカラー画像の境界部の光学濃度を観察した。その結果、境界部のブラック画像側の縁部において滲みが生じ、本来よりも薄い黒色になっていることがわかった。その後、カラーインクに比して顔料を多く含有するブラックインクを用いたところ、ブラック画像の縁部の黒色が薄くなる現象が生じにくくなることがわかった。
【0013】
第1インク収容部(メインタンク)及び第2インク収容部(サブタンク)を備えるインクジェット記録装置は、キャリッジ上にインク収容部(インクカートリッジ)を設けたインクジェット記録装置と比較して、インク収容部全体の容量の増大が容易である。また、開閉可能なインク注入口を有するメインタンクを搭載した装置を用いる場合、インクを注入するタイミングや注入量を適宜調整できるため、記録途中でのインク切れの懸念を最小限にすることができ、生産性を高めることができる。しかし、開閉可能な注入口を有する大容量のメインタンクを備えるインクジェット記録装置は、ボトルなどからインクを継ぎ足しつつ長期間にわたって使用される。このため、メインタンク内で顔料が沈降し、特にタンク内の下部ではインク中の顔料濃度が徐々に上昇する傾向にある。
【0014】
オフィスや家庭で使用される小型のインクジェット記録装置は、ウェブページやテキストなどの記録に用いられることが多く、カラーインクの使用量よりもブラックインクの使用量のほうが多くなりやすい。このため、カラーインク用のメインタンクよりもブラックインク用のメインタンクのほうを大きくすることが多い。但し、装置サイズの制約から、ブラックインクとカラーインクの補充頻度がほぼ同等になるまで、ブラックインク用のメインタンクを大きくするのは困難である。このため、ブラックインクの注入頻度は、カラーインクの注入頻度よりも必然的に高くなりやすい。すなわち、ブラックインクはメインタンクの注入口から頻繁に注入されるため、顔料が沈降しにくい。一方、カラーインクは注入頻度が低いために顔料の沈降が進みやすく、メインタンクの下部ではインク中の顔料濃度が上昇しやすい。このような状況の下、長期間にわたってインクジェット記録装置を使用して画像を記録すると、カラーインク用のメインタンクの下部ではインク中の顔料濃度が次第に上昇する。このような状態でブラック画像とカラー画像を隣接させて記録すると、境界部のブラック画像側の縁部で滲みが生じ、本来よりも薄い黒色になって光学濃度が低下することがわかった。これは、第1インク収容部(メインタンク)及び第2インク収容部(サブタンク)を備えたインクジェット記録装置を使用し、長期にわたって画像を記録することによって発生する新たな課題である。
【0015】
上記の課題は、メインタンクにインクの注入口を有するインクジェット記録装置を長期間にわたって使用する場合に、顔料の沈降の程度がブラックインクとカラーインクで大きく相違するために生ずる。メインタンクの下部におけるカラーインクの顔料濃度の上昇幅を超えるように、ブラックインク中の顔料の含有量を予め増加させておけば、ブラック画像の縁部において生ずる光学濃度の低下を抑制することはできる。但し、顔料の含有量を予め増加させたブラックインクを用いると、インクジェット記録装置の不使用時に記録ヘッドに顔料が固着しやすくなり、インクの正常な吐出が困難になりやすい。特に、ブラックインクの色材であるカーボンブラックは、カラーインクの色材である有機顔料と異なり、一次粒子が立体的に連なって二次粒子を形成した形状(いわゆる「ストラクチャ」)を有しており、比表面積が相対的に大きいために凝集しやすい。したがって、ブラック画像の縁部において生ずる光学濃度の低下を抑制するために、ブラックインクの顔料の含有量を単に増加させると、記録ヘッドで顔料の固着が発生しやすくなるといった別の課題が生じやすくなる。
【0016】
検討の結果、本発明者らは、以下の構成を採用することで、開閉可能なインク注入口を有するメインタンクを備えるインクジェット記録装置を使用する場合であっても、カラー画像と隣接するブラック画像の縁部の光学濃度の低下を抑制しうることを見出した。すなわち、ブラックインクにアクリル樹脂粒子を添加するとともに、ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、及びカラーインク中の有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことが有効であることを見出した。
P1≦P2 ・・・(1)
【0017】
本発明者らは、カーボンブラックを含有するがアクリル樹脂粒子を含有しないブラックインクで記録した画像と、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクで記録した画像を、それぞれ記録の直後に詳細に観察した。具体的には、液体成分が記録媒体にほぼ浸透した後、カーボンブラックのみの凝集体、及びカーボンブラックとアクリル樹脂粒子で形成された凝集体をそれぞれ観察して比較した。その結果、カーボンブラックのみの凝集体のほうが、カーボンブラックとアクリル樹脂粒子で形成された凝集体に比して、凝集体に保持されている液体成分が多く、湿潤度合いが高いことがわかった。上述の通り、有機顔料と異なり、カーボンブラックはストラクチャを有する。そして、水の蒸発及び記録媒体への液体成分の浸透により、ストラクチャを有するカーボンブラックの粒子同士が凝集し、さらに嵩高い凝集体が記録媒体上で形成される。このような嵩高い凝集体が形成されると、液体成分が記録媒体にほぼ浸透した後であっても、嵩高い凝集体に残存した液体成分によって湿潤度合いが高くなると推測される。このような凝集体を形成するブラックインクとカラーインクが隣接するように画像を記録すると、カラーインクがブラックインクへと滲み、ブラック画像の縁部の光学濃度が低下すると考えられる。
【0018】
これに対して、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクを用いた場合、カーボンブラックとともにアクリル樹脂粒子も凝集して、記録媒体上に凝集体が形成される。前述の通り、カーボンブラックはストラクチャを有するが、球状のアクリル樹脂粒子とともに凝集することで、嵩高いカーボンブラックの間にアクリル樹脂粒子が入り込み、嵩高さが緩和された凝集体が形成されると考えられる。そして、凝集体の嵩高さが緩和されることで、凝集体が液体成分を保持しにくくなり、カーボンブラックのみで形成された凝集体と比較して、記録媒体への液体成分の浸透速度も上昇する。以上のような理由により、アクリル樹脂粒子を添加したブラックインクを用いることで、カラー画像と隣接するブラック画像の縁部の光学濃度の低下が抑制されると考えられる。
【0019】
<インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、第1インク収容部と、第2インク収容部と、記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用する記録方法である。第1インク収容部は、開閉可能なインク注入口を有する、インク注入口からインクを補充可能な部材である。第2インク収容部は、第1インク収容部とチューブを介して接続される、インクを収容する部材である。記録ヘッドは、第2インク収容部と接続し、第2インク収容部から供給されるインクを吐出する吐出口が形成された部材である。本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。インクは、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含む。そして、ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、及びカラーインク中の有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たす。
P1≦P2 ・・・(1)
【0020】
また、本発明のインクジェット記録装置は、第1インク収容部と、第2インク収容部と、記録ヘッドと、を備える。第1インク収容部は、開閉可能なインク注入口を有する、インク注入口からインクを補充可能な部材である。第2インク収容部は、第1インク収容部とチューブを介して接続される、インクを収容する部材である。記録ヘッドは、第2インク収容部と接続し、第2インク収容部から供給されるインクを吐出する吐出口が形成された部材である。インクは、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含む。そして、ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、及びカラーインク中の有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たす。
P1≦P2 ・・・(1)
【0021】
(インクジェット記録装置)
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置は、X方向(主走査方向)に記録ヘッドを往復走査させて記録動作を行う、いわゆるシリアル方式のインクジェット記録装置である。記録媒体101は、搬送ローラ107によってY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送される。キャリッジ103に搭載された記録ユニット102は、記録媒体101の搬送方向であるY方向と直交する方向であるX方向(主走査方向)に往復走査される。記録媒体101のY方向への搬送と、記録ユニット102のX方向への往復走査と、により記録動作が行われる。記録ユニット102は、供給されるインクを吐出口から吐出するインクジェット方式の記録ヘッド203(
図2)と、第2インク収容部としてのサブタンク202(
図2)とで構成され、キャリッジ103に搭載される。キャリッジ103は、X方向に沿って配置されたガイドレール105に沿って移動可能に支持されており、ガイドレール105と並行に移動する無端ベルト106に固定されている。無端ベルト106はモータの駆動力によって往復運動し、それによってキャリッジ103がX方向に往復走査される。
【0022】
メインタンク収容部108の内部には、第1インク収容部としてのメインタンク201が収納される。メインタンク収容部108のメインタンク201と、記録ユニット102のサブタンク202とは、インク供給経路であるインク供給チューブ104によって接続される。インクは、メインタンク201からインク供給チューブ104を介してサブタンク202(
図2)に供給された後、記録ヘッド203の吐出口から吐出される。メインタンク201、インク供給チューブ104、及びサブタンク202は、いずれもインクの種類に対応した数で設けることができる。メインタンク201及びサブタンク202は、インク供給チューブ104によって、その他のインク収容部を介することなく接続されていることが好ましい。
【0023】
メインタンク201の上部には、インクジェット記録装置の外部からメインタンク201にインクを注入するためのインク注入口205が設けられている。インクジェット記録装置を初めて使用するときや、メインタンク内のインク量が減少したときなどに、インクジェット記録装置の内部に載置された状態のメインタンクに、インクボトルからインクを注入する。つまり、メインタンクはインクジェット記録装置の内部に据え置かれ、それ自体が交換されることはない。
【0024】
図2は、インク供給系の一例を概略的に示す模式図である。メインタンク201に収容されたインク(ハッチングで示す)は、インク供給チューブ104を介してサブタンク202に供給された後、記録ヘッド203へと供給される。メインタンク201には大気連通部としての気体導入チューブ204が接続される。記録が行われ、インクが消費されると、サブタンク202にメインタンク201からインクが供給され、メインタンク201内のインクが減少する。すると、その一端が大気に開放されている気体導入チューブ204からメインタンク201内に空気が導入されることによって、インク供給系において、インクを保持するための内部負圧が略一定に保たれる。
【0025】
メインタンク201は、記録可能枚数を多くすることで高い生産性を実現するために、インク最大収容量V1(mL)を多くすることが好ましい。具体的には、メインタンク201のインク最大収容量V1(mL)は、100mL以上300mL以下であることが好ましく、100mL以上200mL以下であることがさらに好ましい。また、メインタンク201の初期のインク充填量は、インク最大収容量を基準として、95%程度までとすることが好ましい。
【0026】
サブタンク202も、メインタンク201からのインク供給の頻度を低減したり、記録ヘッド203へのインク供給を安定に行ったりするためには、インク最大収容量V2(mL)を多くすることが好ましい。但し、例えば、
図1に示すようなシリアル方式として、キャリッジ103にサブタンク202を搭載する形態を想定すると、サブタンク202のインク最大収容量V2(mL)は多くし過ぎないことが好ましい。すなわち、あまりに多くのインクがサブタンク202に収容された場合、記録ユニット102の大型化を招き、キャリッジ103の移動速度が低下したり、キャリッジ103を移動させる無端ベルト106やモータの強度を高めたりする必要が生じる。したがって、サブタンク202のインク最大収容量V2(mL)は、1mL以上20mL以下であることが好ましく、2mL以上10mL以下であることがさらに好ましい。
【0027】
メインタンク201及びサブタンク202の筺体は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、及びこれらの混合物や改質物などの熱可塑性樹脂で形成されている。筺体の内部には、インクを保持するための負圧を発生しうるインク吸収体を配設してもよい。インク吸収体としては、ポリプロピレンやポリウレタンなどの繊維を圧縮したものが好ましい。また、インク吸収体を配設せず、筺体内部にインクを直接貯留する形態としてもよい。
【0028】
記録ユニット102は、記録ヘッド203と、サブタンク202とで構成される。記録ヘッド203が組み込まれたヘッドカートリッジである記録ユニット102にサブタンク202を装着するとともに、サブタンク202を装着した記録ユニット102をキャリッジ103に装着する形態としてもよい。さらに、サブタンク202と記録ヘッド203とで一体的に構成された記録ユニット102を、キャリッジ103に装着する形態としてもよい。なかでも、
図1及び2に示すように、サブタンク202を装着した記録ユニット102を、キャリッジ103にセットする形態を採用することが好ましい。
【0029】
インク供給チューブ104は、キャリッジ103に搭載された記録ユニット102を構成するサブタンク202に接続している。このため、インク供給チューブ104は、キャリッジ103の往復走査に追従して装置内を引き回される。したがって、インク供給チューブ104を構成する材料としては、キャリッジ103の頻繁な往復走査に耐えうる柔軟性を有するものを選択して用いる必要がある。このため、インク供給チューブ104は、樹脂材料で形成されている。
【0030】
メインタンク201に収容されたインクが減少した場合、第1バルブ206を作動させてインク供給チューブ104を閉塞した後、メインタンク201のインク注入口205を開放してメインタンク201にインクを注入する。第1バルブ206を作動させず、インク供給チューブ104を閉塞しない状態でインク注入口205を開けると、インクを保持するための負圧が損なわれ、記録ヘッド203の吐出口からインクが漏れてしまう。また、メインタンク201にインクを注入する際には、第2バルブ207を作動させて気体導入チューブ204を閉塞した後、インク注入口205を開けるようにすることができる。このような構成とすることによって、メインタンク201から気体導入チューブ204の方向へとインクが流れるのを堰き止めることができる。また、第1バルブ206及び第2バルブ207を連動して作動させることで、インクの漏れをより確実に抑制することができる。
【0031】
図2に示すメインタンク201の上部からインクを注入する形態はユーザビリティには優れるが、メインタンク201内にインクが長期間にわたって収容されることになるため、時間の経過とともに顔料が沈降しやすい。インクの注入により生ずる対流によって、メインタンク内の上部のインクは流動しうるが、下部に沈降した顔料を巻き上げてインクタンク内の顔料の濃度勾配を解消する程度に混合するには至らない。顔料の沈降抑制の観点では、メインタンクを交換可能なカートリッジの形態とすることも考えられる。このような形態では、顔料の沈降が生じたとしても、カートリッジを振ったり、交換したり、といった対策を取ることができるため、顔料の沈降による課題は生じにくい。
【0032】
また、産業印刷用途などをはじめとする大型のインクジェット記録装置では、印刷停止が生ずると出力の生産性への影響が大きいため、インクの沈降対策の機構を持つものがある。沈降対策機構としては、インク収容部内のインクを撹拌させる撹拌機構;インク流路を経由する循環経路内でインクを循環させるインク循環機構;及びインク収容部の上部と下部からインクを供給してインクを流動させる供給機構;などを挙げることができる。このような機構を備える記録装置では、本発明が解決しようとする課題が発生することはない。しかし、オフィスや家庭で使用する小型のインクジェット記録装置については、本体の小型化やコストに対する市場の要求が高い。これらの要求に対応するため、オフィスや家庭で使用する記録装置は、通常、沈降対策機構を備えておらず、本発明で想定するインクジェット記録装置も、このような沈降対策機構を備えていないものである。
【0033】
記録ヘッドのインク吐出方式としては、ピエゾ素子などにより発生させた力学的エネルギーをインクに付与して吐出する方式や、電気熱変換体(ヒーター)などにより発生させた熱エネルギーをインクに付与して吐出する方式などがある。いずれのインク吐出方式を採用してもよい。
【0034】
(記録工程)
本発明のインクジェット記録方法は、上記のインクジェット記録装置を使用して画像を記録する工程(記録工程)を有する。記録工程では、具体的には、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する。画像を記録する対象の記録媒体としては、どのようなものを用いてもよい。なかでも、普通紙や非コート紙などのコート層を有しない記録媒体、及び、光沢紙やアート紙などのコート層を有する記録媒体のような、浸透性を有する紙を用いることが好ましい。前述のインクジェット記録装置を用いること以外、記録工程は公知のものとすればよい。
【0035】
(水性インク)
本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。そして、使用するインクは、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含む。以下、インクを構成する成分などについて説明する。なお、ブラックインクとカラーインクを区別する必要がない場合、これらをまとめて、単に「インク」とも記す。
【0036】
[色材]
ブラックインクの色材としては、カーボンブラックを用いる。カーボンブラックは複数の一次粒子が立体的に連なって二次粒子を形成した「ストラクチャ」を有する。カーボンブラックは、記録媒体上で凝集した際にこのストラクチャによって嵩高い顔料層を形成し、光学濃度が上昇するため、ブラックインク用の色材として好適である。カーボンブラックのストラクチャの大きさを表す指標としては、カーボンブラックのDBP吸油量を挙げることができる。DBP吸油量が多いほどストラクチャが大きく、嵩高い構造を有するカーボンブラックである。ストラクチャが大きいカーボンブラックほど、凝集体の湿潤度合いが高まりやすい傾向にあり、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部における光学濃度の低下を抑制する効果が低下する場合がある。特に、長期間にわたって画像を記録した後では、光学濃度の低下を抑制する効果がより低下しやすい。このため、カーボンブラックのDBP吸油量は、180mL/100g以下であることが好ましい。カーボンブラックのDBP吸油量の下限については特に限定されないが、50mL/100g以上であることが好ましく、120mL/100g以上であることがさらに好ましい。
【0037】
カーボンブラックのBET比表面積は、350m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が大きいほど、一次粒子が小さいカーボンブラックであることを意味する。一次粒子が小さいカーボンブラックは、記録媒体上で急激に凝集してより嵩高い凝集体を形成しやすい。そして、嵩高い部分に含まれる液体成分は容易に抜けきらず、湿潤度合いが高くなり、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。カーボンブラックのBET比表面積の下限については特に限定されないが、150m2/g以上であることが好ましい。
【0038】
カラーインクの色材としては、有機顔料(以下、単に「顔料」とも記す)を用いる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イミダゾロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、及びペリノン顔料などを挙げることができる。調色などの目的のために染料を併用してもよい。
【0039】
ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び、カラーインク中の有機顔料の含有量P2(質量%)は、式(1):P1≦P2の関係を満たすことを要する。なかでも、式(1’):P1<P2の関係を満たすことがさらに好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂(樹脂分散剤)を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを挙げることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。
【0041】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述の樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。樹脂分散顔料を用いる場合、インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0042】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0043】
カーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)は、0.16mmol/g以上0.80mmol/g以下であることが好ましく、0.16mmol/g以上0.50mmol/g以下であることがさらに好ましい。カーボンブラックなどの顔料の粒子は、アニオン性基の電荷反発により水性媒体中に分散する一方で、記録媒体上では水の蒸発及び記録媒体への液体成分の浸透にともなって、凝集体を形成する。カーボンブラックのアニオン性基の量が0.16mmol/g未満であると、メインタンク内で顔料濃度が増加しやすい条件である場合に、記録媒体上でカーボンブラックが急激に凝集し、湿潤度合いの高い凝集体を形成しやすくなる。このため、長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。一方、カーボンブラックのアニオン性基の量が0.80mmol/g超であると、液体成分との親和性が高くなり、湿潤度合いの高い凝集体を形成しやすくなる。このため、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。
【0044】
カーボンブラックが自己分散顔料である場合におけるアニオン性基の量は、カーボンブラックの粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合したアニオン性基の量を意味する。また、カーボンブラックが樹脂分散顔料である場合におけるアニオン性基の量は、樹脂分散剤のアニオン性基の量を意味する。カーボンブラックのアニオン性基の量は、樹脂分散カーボンブラックであれば、カーボンブラックと樹脂分散剤との比率、樹脂分散剤の酸価などにより調整することができる。また、自己分散カーボンブラックであれば、アニオン性基の量により調整することができる。
【0045】
顔料及び後述する樹脂粒子のアニオン性基の量は、いずれも、コロイド滴定により測定することができる。後述する実施例においては、流動電位滴定ユニット(商品名「PCD-500」、京都電子工業製)を搭載した電位差自動滴定装置(商品名「AT-510」、京都電子工業製)を使用した。そして、電位差を利用したコロイド滴定によって顔料及び樹脂粒子のアニオン性基の量をそれぞれ測定した。より具体的には、顔料及び樹脂粒子を純水で約300倍(質量基準)にそれぞれ希釈した後、必要に応じて水酸化カリウムでpHを約10に調整し、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いて電位差滴定を行った。インクから適切な方法により抽出した顔料及び樹脂粒子を用いてアニオン性基の量を測定することも勿論可能である。勿論、測定条件や測定装置は上記に限られるものではない。
【0046】
顔料を分散するための水溶性樹脂(樹脂分散剤)に加えて、樹脂分散剤とは異なる水溶性樹脂を含有するインクについて、顔料のアニオン性基の量を確認する方法を説明する。インクを濃縮又は希釈して、固形分(顔料、水溶性樹脂、樹脂粒子など)の含有量が10質量%程度である液体を調製する。この液体について、12,000rpmで1時間、遠心分離する。これにより、水溶性有機溶剤や分散に寄与しない樹脂などを含む液層と、顔料とその分散に寄与する樹脂などを含む固層と、が分かれるので、それぞれを回収する。顔料を含む固層に主として含まれる水溶性樹脂が樹脂分散剤であり、液層に主として含まれる樹脂が顔料の分散に寄与しない水溶性樹脂である。
【0047】
ブラックインク中のカーボンブラックは、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料であることが好ましい。樹脂分散カーボンブラックは、自己分散カーボンブラックと比較して、形成される凝集体の嵩高い部分に残存する液体成分の量が多くなり、湿潤度合いが高くなることがある。このため、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。また、カラーインク中の有機顔料は、分散剤として樹脂(樹脂分散剤)を用いた樹脂分散顔料であることが好ましい。
【0048】
カーボンブラックの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P1及び有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P2は、それぞれ、10nm以上300nm以下であることが好ましい。また、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。カーボンブラック及び有機顔料の体積平均粒子径は、動的光散乱方式の粒子径測定装置を使用して測定することができる。また、有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50P2)は、カーボンブラックの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50P1)よりも大きいことが好ましい。カーボンブラック及び有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径は、後述する樹脂の判断方法と同様の方法を利用して測定することができる。この際の測定条件は、形状:非球形、屈折率:1.80(カーボンブラック)、1.51(有機顔料)、とすること以外は、樹脂の判断方法と同様のものとすることができる。
【0049】
[樹脂粒子]
ブラックインクは、アクリル樹脂で形成された樹脂粒子であるアクリル樹脂粒子を含有する。ワックス樹脂粒子などのアクリル樹脂粒子以外の樹脂粒子を用いても、カーボンブラックの間に入り込みにくいため、嵩高さが緩和された凝集体が形成されにくいと考えられる。このため、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果を得ることができない。
【0050】
本明細書における「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーに由来するユニットを有する樹脂をいう。水溶性アクリル樹脂は、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有する樹脂であることが好ましい。なお、以下の記載における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味する。
【0051】
本明細書における「樹脂粒子」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しない樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成した状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。一方、「水溶性樹脂」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しうる樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。「樹脂粒子」を「水分散性樹脂(水不溶性樹脂)」と言い換えることもできる。
【0052】
ある樹脂が「樹脂粒子」であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、判断対象の樹脂を含む液体(樹脂の含有量:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体をイオン交換水で10倍(体積基準)に希釈して試料を調製する。そして、試料中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されれば、その粒子は「樹脂粒子」(水分散性樹脂)であると判断する。一方、粒子径を有する粒子が測定されなければ、その樹脂は「樹脂粒子」ではない(「水溶性樹脂」である)と判断する。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59、密度:1.0とすることができる。勿論、測定条件は上記に限られるものではない。
【0053】
樹脂粒子は、単一のモノマーが重合した単重合体であってもよく、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。また、共重合体はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。なかでも、アニオン性基を有するモノマーとアニオン性基を有しないモノマーを用いて得られる樹脂粒子が好ましい。アニオン性基を有するモノマーとしては、α,β-不飽和カルボン酸及びその塩を挙げることができる。アニオン性基を有しないモノマーとしては、α,β-不飽和カルボン酸のエステル化合物や、アリール基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物を挙げることができる。これらのモノマーの具体例としては、後述する、インクに添加することができる樹脂を構成するユニットとなるモノマーと同様のものを挙げることができる。
【0054】
アクリル樹脂粒子のアニオン性基の量AR1(mmol/g)、及びカーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)は、下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。AR1(mmol/g)とAP1(mmol/g)が下記式(4)の関係を満たすことで、カーボンブラックとアクリル樹脂粒子で形成される凝集体の液体成分との親和性が低下する。これにより、記録媒体上におけるブラックインクの液体成分の流れが加速されると考えられ、記録の初期だけでなく、長期間にわたって記録した後にも、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果をさらに向上させることができる。
AR1<AP1 ・・・(4)
【0055】
ブラックインク中のアクリル樹脂粒子の含有量(質量%)は、ブラックインク全質量を基準として、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましい。アクリル樹脂粒子の含有量が0.5質量%未満であると、記録媒体上でカーボンブラックの凝集体の嵩高さを緩和することがやや困難になる場合があり、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。
【0056】
ブラックインク中、アクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)は、カーボンブラックの含有量P1(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上1.3倍以下であることが好ましい。上記の質量比率が0.2倍未満であると、記録媒体上でカーボンブラックの凝集体の嵩高さを緩和することがやや困難になる場合がある。一方、上記の質量比率が1.3倍超であると、アクリル樹脂粒子の量が相対的に過剰になるために凝集力が弱まり、カラーインクからブラックインクへと滲みやすくなる場合がある。このため、上記質量比率の範囲外であると、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。
【0057】
ブラックインク中のカーボンブラックの含有量P1(質量%)、ブラックインク中のアクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)、及びカラーインク中の有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。P1、R1、及びP2が下記式(2)の関係を満たすことで、記録の初期だけでなく、長期間にわたって記録した後にも、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果をさらに向上させることができる。
P2<(P1+R1) ・・・(2)
【0058】
アクリル樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50R1(nm)は、ブラックインクの吐出性の観点から、50nm以上300nm以下であることが好ましい。アクリル樹脂粒子の粒子径が、カーボンブラックの粒子径より小さいと、凝集体の嵩高さを緩和することが困難になる場合があり、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。アクリル樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径は、前述の樹脂の判断方法と同様の方法及び条件で測定することができる。
【0059】
インク収容部内では、粒子径が大きく比重の大きい粒子ほど沈降速度が大きいため、比重の小さい粒子ほど粒子径が大きいことが好ましい。カーボンブラックの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径を「D50P1(nm)」とする。また、有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径を「D50P2(nm)」とする。さらに、アクリル樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径を「D50R1(nm)」とする。この場合、D50P1、D50P2、及びD50R1が、下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。これにより、インク収容部での粒子の沈降速度の差をより小さくすることができ、記録の初期だけでなく、長期間にわたって記録した後にも、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果をさらに向上させることができる。
D50P1<D50P2<D50R1 ・・・(3)
【0060】
[樹脂]
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。この「樹脂の含有量」には、アクリル樹脂粒子の含有量が含まれる。
【0061】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよい。
【0062】
樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類などを挙げることができる。なかでも、記録ヘッドの吐出口からの吐出特性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂としては、アニオン性基を有するユニット及びアニオン性基を有しないユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。アクリル樹脂の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。アクリル樹脂は、上述の通り、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーに由来するユニットを有する樹脂である。
【0063】
重合によりアクリル樹脂を構成するユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基を有するモノマー及びアニオン性基を有しないモノマーを挙げることができる。通常、アニオン性基を有するモノマーは重合により親水性ユニットとなり、アニオン性基を有しないモノマーは重合により疎水性ユニットとなる。
【0064】
アニオン性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β-不飽和カルボン酸;これらの無水物や塩などを挙げることができる。α,β-不飽和カルボン酸の塩を構成するカチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、アンモニウムカチオン、及び有機アンモニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0065】
アニオン性基を有しないモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾールなどの、アリール基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物;エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n-、iso-、t-)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの、α,β-不飽和カルボン酸のエステル化合物などを挙げることができる。
【0066】
なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、アリール基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物及びα,β-不飽和カルボン酸のエステル化合物の少なくとも一方に由来する疎水性ユニットとを有するアクリル樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有するアクリル樹脂が好ましい。これらのアクリル樹脂は、顔料と相互作用しやすいため、水性媒体中に顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適である。
【0067】
ウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネートとポリオールを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0068】
[水性媒体]
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。インクは、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、15.0質量%以上25.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0069】
[界面活性剤]
インクは、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
[その他の成分]
インクには、さらに、必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0071】
[インクの物性]
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクである。したがって、信頼性の観点から、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましい。25℃におけるインクのpHは、7.0以上9.5以下であることが好ましく、8.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。
【0072】
ブラックインクの表面張力γ1(mN/m)、及びカラーインクの表面張力γ2(mN/m)は、下記式(5)の関係を満たすことが好ましい。これにより、記録媒体へのカラーインクの浸透性が高まり、カラーインクがブラックインクへとより滲みにくくなって、ブラック画像の縁部の光学濃度の低下をさらに抑制することができる。
γ1>γ2 ・・・(5)
【0073】
上記式(5)の関係を満たさないと、記録の初期及び長期間にわたって記録した後の、ブラック画像の縁部の光学濃度低下の抑制効果がやや低下する場合がある。特に、長期間にわたって記録した後には、光学濃度低下抑制の効果がより低下しやすい場合がある。インクの表面張力は、ウィルヘルミー法(プレート法)などの原理で測定される「静的表面張力」である。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0075】
<物性値の測定方法>
(アニオン性基の量)
顔料及び樹脂粒子のアニオン性基の量は、いずれも、流動電位滴定ユニット(商品名「PCD-500」、京都電子工業製)を搭載した電位差自動滴定装置を使用して測定した。具体的には、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いた電位差滴定により、アニオン性基の量をそれぞれ測定した。電位差自動滴定装置としては、商品名「AT-510」(京都電子工業製)を使用した。
【0076】
(平均粒子径(体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)))
カーボンブラック、有機顔料、及び樹脂粒子の平均粒子径(体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は、以下のようにして測定した。試料を含む液体を純水で希釈して、試料の含有量を約1.0%に調整した測定試料を得た。そして、粒度測定装置を使用して測定試料中の粒子の粒子径(D50)を測定した。この際の測定条件を以下に示す。粒度測定装置としては、動的光散乱法による粒度分布計(商品名「ナノトラックWAVEII-Q」、マイクロトラック・ベル製)を使用した。
[測定条件]
SetZero:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
形状:非球形(カーボンブラック及び有機顔料)、真球形(樹脂粒子)
屈折率:1.80(カーボンブラック)、1.51(有機顔料)、1.59(樹脂粒子)
密度:1.0
【0077】
(表面張力)
インクの静的表面張力は、ウィルヘルミー法を利用する自動表面張力計(商品名「DY-300」、協和界面科学製)を使用して測定した。
【0078】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1~11、13)
水5.5gに濃塩酸5.0gを溶かした溶液を5℃に冷却した状態とし、表1に示す量(g)の4-アミノフタル酸を添加した。この溶液の入った容器をアイスバスに入れ、撹拌して溶液の温度を10℃以下に保持しながら、5℃のイオン交換水9.0gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かして得た溶液を加えた。15分間撹拌後、表1に示す特性(BET比表面積及びDBP吸油量)のカーボンブラック6.0gを撹拌下で加え、さらに15分間撹拌してスラリーを得た。顔料分散液2及び3については、撹拌時間を制御して顔料の平均粒子径(D50)を調整した。得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過し、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させた。その後、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、カーボンブラックの粒子表面に-C6H3-(COOK)2基が結合した自己分散顔料を得た。適量の水を添加して顔料の含有量を調整し、顔料の含有量が15.0%である顔料分散液1~11、13を得た。
【0079】
(顔料分散液12、14~16、18~21)
酸価90mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン-アクリル酸共重合体を10%水酸化カリウム水溶液で中和し、樹脂分散剤の水溶液を調製した。表1に示す種類の顔料15.0部、表1に示す量(部)の樹脂分散剤、及び成分の合計量が100.0部となる残量のイオン交換水を混合して混合物を得た。サンドグラインダーを使用して得られた混合物を1時間分散した後、遠心分離処理して粗大粒子を除去した。顔料分散液18~21については、分散時間を制御して顔料の平均粒子径(D50)を調整した。さらに、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)で加圧ろ過して、樹脂分散剤によって分散された顔料を含有する顔料分散液12、14~16、18~21を得た。顔料分散液12、14~16、18~21中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は4.5%であった。
【0080】
(顔料分散液17)
自己分散顔料を含有する市販の顔料分散液(商品名「CAB-O-JET470Y」、キャボット製、顔料の含有量15.0%)を顔料分散液17とした。顔料分散液17中の自己分散顔料は、有機顔料(C.I.ピグメントイエロー74)の粒子表面にアニオン性基を含む原子団が結合したものである。
【0081】
【0082】
<樹脂粒子の合成>
(樹脂粒子1~9)
撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、表2に示す量の過硫酸カリウム及びイオン交換水を入れ、窒素ガスを導入した。また、表2に示す種類及び量のモノマーを混合して混合物を得た。得られた混合物を、4つ口フラスコ内に撹拌下で1時間かけて滴下した後、80℃で2時間反応させた。樹脂粒子3、4、及び7については、滴下時間を制御して樹脂粒子の平均粒子径(D50R1)を調整した。内容物を室温まで冷却した後、水酸化カリウム及び適量のイオン交換水を添加してpHを8.5に調整し、樹脂粒子の含有量が15.0%である樹脂粒子の水分散液を得た。表2中の略称を意味は以下に示す通りである。
・BMA:n-ブチルメタクリレート
・EMA:エチルメタクリレート
・St:スチレン
・MAA:メタクリル酸
・EGdMA:エチレングリコールジメタクリレート
・アクアロンKH-05:反応性界面活性剤(第一工業製薬製)の商品名
【0083】
【0084】
(樹脂粒子10)
特許文献1の「ポリカーボネート変性ウレタン樹脂エマルジョンAの調製」の記載に準じて、ウレタン樹脂粒子を合成した。撹拌機、還流冷却管、及び温度計を備えた反応容器を準備した。これに、ポリカーボネートジオール1,500g、ジメチロールプロピオン酸220g、及び溶媒(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)1,347gを添加し、窒素雰囲気下で60℃に加熱して、成分を溶解させた。ポリカーボネートジオールとしては、1,6-ヘキサンジオールとジメチルカーボネートの反応生成物を用いた。さらに、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート1,445g、及びジブチル錫ジラウリレート2.6gを加えて90℃に加熱し、5時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを合成した。80℃に冷却し、トリエチルアミン149gを添加して撹拌した後、混合物のうち4,340gを取り出した。水5,400g及びトリエチルアミン15gの混合溶液中に、強く撹拌しながら、取り出した混合物を加えた。次いで、氷1,500gを添加し、35%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液626gを加えて鎖延長反応を行った。その後、溶媒を留去し、適量の水を添加して、樹脂粒子の含有量が15.0%である樹脂粒子10(ポリカーボネート変性ウレタン樹脂で形成された樹脂粒子)の水分散液を得た。
【0085】
<インクの調製>
表3-1~3-3及び4に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが2.5μmであるポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行って各インクを調製した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
<濃縮インクの調製>
注入口を備える、大容量のメインタンク(第1インク収容部)を有する、いわゆる連続供給タイプのインクジェット記録装置は、インクカートリッジの交換が不要である点に利点がある。その一方で、メインインクの下部のインクでは、顔料の沈降に起因する顔料の含有量の増大により、記録される画像の品位が低下しやすくなる傾向にある。前述の通り、カラーインクは、ブラックインクに比して第1インク収容部内で滞留する時間が長くなる傾向にある。このため、カラーインクについては、ブラックインクよりも顔料の含有量が増加した、長期間にわたって使用した後の状態を想定して評価した。具体的には、ブラックインクについては、液体成分を蒸発させてインクを濃縮し、表3に示す組成から、固形分(顔料、樹脂分散剤、及び樹脂粒子)の含有量をそれぞれ20%増加させたものを用いて評価を行った。また、カラーインクについては、液体成分を蒸発させてインクを濃縮し、表4に示す組成から、固形分(顔料、樹脂分散剤、及び樹脂粒子)の含有量をそれぞれ30%増加させたものを用いて評価を行った。
【0091】
<インクジェット記録装置>
商品名「PIXUS TS5130S」(キヤノン製)を用い、表5に示す構成を有するように改造して、インクジェット記録装置1~3を用意した。
【0092】
インクジェット記録装置1は、
図1に示す構成を有し、インクの残量が減少した際には第1インク収容部の注入口からインクを補充するタイプのインクジェット記録装置である。ブラックインク用の第1インク収容部のインク最大収容量は100mLであり、第2インク収容部のインク最大収容量は30mLである。また、カラーインク用のインク最大収容量は58mLであり、第2インク収容部のインク最大収容量は10mLである。
【0093】
インクジェット記録装置2は、装置内に載置される第1インク収容部を有さず、キャリッジ上の第2インク収容部に注入口が設けられたタイプのインクジェット記録装置である。
【0094】
インクジェット記録装置3は、第1インク収容部(注入口なし)及び第2インク収容部を有し、インクの残量が減少した際には第1インク収容部を交換するタイプのインクジェット記録装置である。
【0095】
【0096】
<評価>
表6に示す種類のインクジェット記録装置、ブラックインク及びカラーインクを使用し、ブラック及びカラーのベタ画像(3cm×2cm)を記録媒体に隣接して記録した。記録媒体としては、普通紙(商品名「CS-680」、キヤノン製)を用いた。ベタ画像の記録条件は、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、ブラックインクは約22ng、カラーインクは約11ngをそれぞれ付与する条件とし、温度25℃、相対湿度50%の条件下で記録した。記録後、ベタ画像を、温度25℃、相対湿度50%の環境に1日置いた後、以下に示す評価を行った。本発明においては、以下に示す各項目の評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベルとし、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表6に示す。表6中、インクが「P2<(P1+R1)の関係」を満たす場合を「○」とし、満たさない場合を「×」とした。また、インクが「D50P1<D50P2<D50R1の関係」を満たす場合を「○」とし、満たさない場合を「×」とした。
【0097】
(ブラック画像の縁部における光学濃度(初期))
記録媒体の反射率(Rmax)及びブラック画像の反射率(Rmin)の測定値に基づくダイナミック閾値が、60%以下の領域(領域1)と、60%を超えて90%以下の領域(領域2)とを抽出した。領域1及び領域2の抽出は、商品名「パーソナル画像品質評価システムPIAS-II」(QEA製)を用いて行った。一方、光学顕微鏡(商品名「ZEISS SteREO Discovery V8」、ZEISS製、倍率:8倍、縮尺付き)を使用して、記録したベタ画像を画像データとして保存した。保存した画像データを画像処理ソフト(商品名「Adobe Photoshop CC」、アドビシステム製)で読み込んだ後、ソフトのスポイトツールを用いて、それぞれの領域の任意の30箇所におけるBk濃度(%)を読み取り、平均値を算出した。領域1におけるBk濃度(%)の平均値と、領域2におけるBk濃度(%)の平均値との差(Bk濃度差(%))を算出し、以下に示す評価基準にしたがってブラック画像の縁部における光学濃度の低下を評価した。
AA:Bk濃度差が8%以下であった。
A:Bk濃度差が8%を超えて14%以下であった。
B:Bk濃度差が14%を超えて20%以下であった。
C:Bk濃度差が20%を超えていた。
【0098】
(ブラック画像の縁部における光学濃度(長期記録後))
インクジェット記録装置1を用いた実施例及び比較例について、濃縮インクを用いたこと以外は、前述の「ブラック画像の縁部における光学濃度(初期)」と同様にして、ブラック画像の縁部における光学濃度(長期記録後)を評価した。なお、インクジェット記録装置2及び3は、顔料の沈降による課題が生じないため、長期記録後の評価は行わなかった。
【0099】
【0100】
なお、本実施形態の開示は、以下の方法及び構成を含む。
(方法1)開閉可能なインク注入口を有する、前記インク注入口から水性インクを補充可能な第1インク収容部と、
前記第1インク収容部とチューブを介して接続される、前記水性インクを収容する第2インク収容部と、
前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、
前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、
前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
P1≦P2 ・・・(1)
(方法2)前記ブラックインク中の、前記アクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上1.3倍以下である方法1に記載のインクジェット記録方法。
(方法3)前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、前記ブラックインク中の前記アクリル樹脂粒子の含有量R1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(2)の関係を満たす方法1又は2に記載のインクジェット記録方法。
P2<(P1+R1) ・・・(2)
(方法4)前記カーボンブラックの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P1(nm)、前記有機顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50P2(nm)、及び前記アクリル樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径D50R1(nm)が、下記式(3)の関係を満たす方法1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
D50P1<D50P2<D50R1 ・・・(3)
(方法5)前記カーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)が、0.16mmol/g以上0.80mmol/g以下である方法1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法6)前記アクリル樹脂粒子のアニオン性基の量AR1(mmol/g)、及び前記カーボンブラックのアニオン性基の量AP1(mmol/g)が、下記式(4)の関係を満たす方法1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
AR1<AP1 ・・・(4)
(方法7)前記カーボンブラックのBET比表面積が、350m2/g以下である方法1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法8)前記カーボンブラックのDBP吸油量が、180mL/100g以下である方法1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法9)前記カーボンブラックが、その粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散顔料である方法1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法10)前記ブラックインクの表面張力γ1(mN/m)、及び前記カラーインクの表面張力γ2(mN/m)が、下記式(5)の関係を満たす方法1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
γ1>γ2 ・・・(5)
(構成1)開閉可能なインク注入口を有する、前記インク注入口から水性インクを補充可能な第1インク収容部と、
前記第1インク収容部とチューブを介して接続される、前記水性インクを収容する第2インク収容部と、
前記第2インク収容部と接続し、前記第2インク収容部から供給される前記水性インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、カーボンブラック及びアクリル樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料を含有するカラーインクと、を含み、
前記ブラックインク中の前記カーボンブラックの含有量P1(質量%)、及び前記カラーインク中の前記有機顔料の含有量P2(質量%)が、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録装置。
P1≦P2 ・・・(1)