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特開2024-174821マルチセル型電解槽の状態を監視する方法、装置、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174821
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】マルチセル型電解槽の状態を監視する方法、装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/023 20210101AFI20241210BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C25B15/023
G05B23/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083998
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】23177286
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】マルテイン クラマー
(72)【発明者】
【氏名】ポール クルーニン
【テーマコード(参考)】
3C223
4K021
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223EB01
3C223FF42
4K021AA01
4K021AB01
(57)【要約】
【課題】マルチセル型電解槽の状態を監視するための改良された方法、装置、コンピュータプログラム、及びシステムを提供する。
【解決手段】本発明の例は、マルチセル型電解槽の状態を監視する方法、装置、コンピュータプログラム、及びシステムに関するものである。この方法は、センサ情報を取得するステップ(110)を含み、センサ情報は、少なくとも、マルチセル型電解槽の個別のセルの測定温度についての情報を含む。この方法は、センサ情報に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に、マルチセル型電解槽のセルの予想温度値を予測するステップ(130)を含む。この方法は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差が温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップ(170)を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチセル型電解槽の状態を監視する方法であって、
センサ情報を取得するステップ(110)であって、該センサ情報は、少なくとも、前記マルチセル型電解槽の個別のセルの測定温度についての情報を含むステップと、
前記センサ情報に基づいて、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、前記マルチセル型電解槽の当該セルの予想温度値を予測するステップ(130)と、
前記セルの前記予想温度値と、当該セルの前記測定温度との偏差が、温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップ(170)と
を含む方法。
【請求項2】
前記センサ情報が、前記マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及び前記マルチセル型電解槽の前記セルの個別のセル電圧についての情報を含み、前記セルの前記予想温度値を、前記セルの前記セル電圧に基づいて、かつ前記マルチセル型電解槽の前記スタック電流に基づいて予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の当該セルに隣接する1つ以上のセルの測定温度に基づいて予測する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の前記セルの前記測定温度の平均値に基づいて予測する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の1つ以上の基準セルに基づいて予測する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、前記センサ情報に基づいて前記1つ以上の基準セルを選択するステップ(120)を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記セルの前記予想温度値が、当該セルの予想温度を時間、電圧、または電流で積分または微分した値に相当し、前記セルの前記予想温度値と、当該セルの測定温度との偏差を、当該セルの前記予想温度を積分または微分した値と、当該セルの前記測定温度を積分または微分した対応する値との差に決定する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、前記セルの前記予想温度値と、当該セルの前記測定温度との偏差がスパイクを呈する場合に、火炎の疑いの通知を提供するステップ(170)を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記センサ情報が、前記マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及び前記マルチセル型電解槽の前記セルの個別のセル電圧についての情報を含み、前記方法が、前記センサ情報に基づいて、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、前記マルチセル型電解槽の当該セルの予想電圧値を予測するステップ(140)、または前記マルチセル型電解槽の前記セルの予想電圧値を入力として取得するステップを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記予想電圧値が、予想電圧、及び負荷変動に応答して前記予想電圧に達するための予想時間を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記予想電圧値が、マルチパラメータ回帰式に基づき、該マルチパラメータ回帰式は、電極における不所望な反応をモデル化する第1パラメータと、膜の断裂、ピンホール、及び劣化のうちの少なくとも1つをモデル化する第2パラメータと、前記電極の劣化をモデル化する第3パラメータとを含み、前記方法が、前記セルの前記予想電圧値と、当該セルの測定電圧との偏差を決定するステップ(150)と、前記マルチパラメータ回帰式を用いて、前記第1パラメータ、前記第2パラメータ、及び前記第3パラメータの、前記偏差への寄与分を識別するステップとを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルの前記予想電圧値が、当該セルの予想電圧を時間、温度、または電流で積分または微分した値に相当し、前記セルの前記予想電圧値と、当該セルの測定電圧との偏差を、当該セルの前記予想電圧を積分または微分した値と、当該セルの前記測定電圧を積分または微分した対応する値との差に決定する、請求項9~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、及び/または1つ以上の基準セルについて、前記センサ情報に基づいて当該セルの以前の電圧値を決定するステップ(160)と、該以前の電圧値を、前記センサ情報に含まれる現在の電圧測定値と比較するステップとを含む、請求項9~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記マルチセル型電解槽の前記セルの前記測定温度についての情報を、光ファイバ温度センサから、またはカメラベースの温度センサから取得する、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
コンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムが、コンピュータ、プロセッサ、またはプログラマブルなハードウェア構成要素上で実行されると、請求項1~14のいずれかに記載の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【請求項16】
マルチセル型電解槽の状態を監視する装置(50)であって、
1つ以上のセンサからセンサ情報を取得するためのインタフェース回路(52)と、
請求項1~14のいずれかに記載の方法を実行するように構成された処理回路(54)と
を具えている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の例は、マルチセル型電解槽の状態を監視する方法、装置、コンピュータプログラム、及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解槽は、電気を用いて、さもなければ非自然発生の化学反応を促進する、例えば水のような化合物を、電気分解により、その構成元素に分割する装置である。例えば、水素電解槽及び塩素アルカリ電解槽は、それぞれ水素及び塩素/ナトリウムの生産にとって重要なツールである。大規模な用途向けには、電解槽は多数の個別の電解槽セルを用いることが多く、これらのセルは水平スタック(積層)の形に配列されることが多い。
【0003】
個別の電解槽セル内の温度は重要な計量である、というのは、温度は電解槽の全体効率にとって重要であると考えられるからである。それに加えて、温度は個別のセルの問題を示すことができ、セルの問題を生じさせ得るし、これらの問題は効率の低下に関係し得るし、あるいは、これらの問題はセルの劣化によって生じ得るし、セルの劣化に至らせ得る。更に、水素電解槽セルの場合には、漏洩により、外部的な無炎燃焼が発生することがあり、こうした無炎燃焼は検出することが困難である。しかし、電解槽セル内の環境が腐食性であることにより、セルの温度は測定されないか不十分にしか測定されないことが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチセル型電解槽の状態を監視するための改良された概念に対する要望が存在し得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
独立請求項の主題が、この要望に応える。
【0006】
本発明の種々の例は、正常動作中には、マルチセル型電解槽の個別のセルの温度を、例えばセルの物理特性及び化学特性についての知識、及びスタック電流及び個別のセル電圧のような他のプロセス・パラメータについての情報を用いて予測することが、通常は可能であるという発見に基づく。健全なセルの通常動作の場合には、温度の予測はそもそも正確であるのに対し、予測温度をセルの測定温度と比較することによって、セル内の故障及び劣化を識別する目的で、温度の予測を用いることができる。この測定温度は、例えば、光ファイバ温度センサを用いて取得することができる。予想温度と測定温度との偏差を用いて、異常を識別することができる。この場合、通知を提供してマルチセル型電解槽のオペレータに異常を警告する。電解槽が正常に動作しているものと考えられる場合、測定値及び予測値をグラフ形式で提供して、電解槽が期待通りに動作していることをオペレータが視覚的にチェックすることを可能にすることができる。提案する概念は、多様な種類の電解槽に適用され、これらの電解槽は、単極セルを有する電解槽及び双極セルを有する電解槽、並びにセルが直列形態に配列された電解槽、及びセルが並列に、例えば並列スタック(積層)の形に配列された電解槽を含む。
【0007】
本発明の一部の態様は、マルチセル型電解槽の状態を監視する方法に関するものである。この方法は、センサ情報を取得するステップを含む。センサ情報は、少なくとも、マルチセル型電解槽の個別のセルの測定温度についての情報を含む。この方法は、センサ情報に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に、マルチセル型電解槽の当該セルの予想温度値を予測するステップを含む。この方法は、あるセルの予想温度と、このセルの測定温度との偏差が温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップを含む。このようにして、電解槽のオペレータは、例えばセルの劣化により、あるいは水素漏洩によって発生する無炎燃焼のような事象により、電解槽が期待通りに動作していない場合に、通知を受ける。
【0008】
セルの温度を予測する異なる方法が存在する。1つの選択肢は、それぞれのセルのセル電圧から、及びスタック電流から、例えば、エネルギー収支(バランス)ベースのモデルのようなモデルによって、予想温度を導出することである。例えば、センサ情報は、マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及びマルチセル型電解槽のセルの個別のセル電圧についての情報を含むことができる。セルの予想温度値は、このセルのセル電圧に基づいて、かつマルチセル型電解槽のスタック電流に基づいて予測することができる。特に、セルの予想温度値は、このセルのセル電圧に基づく、かつマルチセル型電解槽のスタック電流に基づくエネルギー収支に基づいて予測することができる。このようにして、セルの物理特性及び化学特性に基づくモデルを用いて、セルの温度を予測する。
【0009】
その代わりに、他のセルの温度を基準として用いることができる。例えば、セルの予想温度値は、マルチセル型電解槽の1つ以上の隣接するセルの測定温度に基づいて予測することができる。隣接するセルは同様な様式で動作することが期待され、このため、偏差がセルの劣化または故障を示す。
【0010】
その代わりに、あるいはそれに加えて、他の複数のセルにわたる(例えば、電解槽の全部のセルにわたる、あるいは選択したセルのグループ全体にわたる)平均値を用いて、セルの温度を予測することができる。例えば、セルの予想温度値は、マルチセル型電解槽の複数のセルの測定温度の平均または平均値に基づいて予測することができる。このことは、予想温度値に対する単一の温度の影響を低減することができる。
【0011】
一部の例では、セルの予想温度値を、マルチセル型電解槽の1つ以上の基準セルに基づいて予測することができる。このようにして、健全な(例えば、新品の)セル(のみ)を用いて、予想温度を決定することができ、このことは、基準からの偏差により当該セルの経年を示すセルを識別することを促進する。
【0012】
一般に、1つ以上の基準セルは、ユーザが、例えばどのセルを最後に交換したかに基づいて選定することができる。その代わりに、1つ以上の基準セルは、自動化されたプロセスを用いて選択することができる。例えば、上記方法は、センサ情報に基づいて1つ以上の基準セルを選択するステップを更に含むことができる。このようにして、1つ以上の基準セルを選択するために、ユーザの相互作用を必要としない。
【0013】
偶発的な不正常な測定値における誤警報を回避するために、あるいは、長期にわたる小さい偏差の発生を検出するために、温度測定値を直接用いる代わりに(あるいはそれに加えて)、温度を積分または微分した値を計算して、予測温度を積分または微分した値と比較することができる。例えば、あるセルの予想温度値は、このセルの予想温度を時間、電圧、または電流で積分または微分した値に相当することができる。あるセルの予想温度と、このセルの測定温度との偏差は、このセルの予想温度を積分または微分した値と、このセルの測定温度を積分または微分した対応する値との差に決定することができる。
【0014】
水素電解槽を動作させる際の大きな関心事は、いわゆる無炎燃焼の発生であり、無炎燃焼は目に見えないので検出することが困難である。しかし、無炎燃焼は、セルの測定温度中のスパイク(瞬時の上下動)を検出することによって検出することができる。従って、上記方法は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差がスパイクを呈する場合に、火炎の疑いについての通知を提供するステップを含むことができる。
【0015】
マルチセル型電解槽において監視される他の重要なパラメータは、個別のセルのセル電圧、即ち、当該セルの陰極(カソード)と陽極(アノード)との間の電位差である。温度の監視と同様に、予想電圧値を用いて、測定したセルの電圧値と比較して、セルが期待通りに挙動しているか否かを判定することができる。例えば、センサ情報は、マルチセル型電解槽のセルの個別のセル電圧についての情報を含むことができる。上記通知は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度値との偏差が温度偏差条件と一致する場合に、かつ、このセルのセル電圧と予想電圧値との偏差が電圧偏差条件と一致する場合に、提供することができる。温度偏差に加えて、電圧偏差も、セルの劣化または故障を示すことができる。
【0016】
予想電圧値を取得する種々の方法が存在する。一部の例では、電圧値を、スタック電流及び/または他のパラメータから推定することができる。例えば、センサ情報は、マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及びマルチセル型電解槽のセルの個別のセル電圧についての情報を含むことができる。上記方法は、センサ情報に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に、マルチセル型電解槽のセルの予想電圧値を予測するステップを含むことができる。その代わりに、予想電圧値はユーザが定義することができる。換言すれば、上記方法は、マルチセル型電解槽のセルの予想電圧値を入力として取得するステップを含むことができる。
【0017】
以上に概説したように、電圧偏差条件と一致する電圧偏差も、セルの劣化または故障を示すことができる。従って、上記方法は、あるセルの予想電圧値と、このセルの測定電圧との偏差が電圧偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップを含むことができる。このことは、温度偏差ベースの通知とは別個に(例えば、温度偏差ベースの通知に加えて)行うことができる。
【0018】
一般に、個別のセル電圧は、セルの状態、及びセルを駆動するために用いている電流に依存する。セルの状態を更に評価するために、負荷変動に対するセルの応答、及び特に負荷変動に反応するために要する時間を監視することができる。従って、予想電圧値は、予想電圧、及び負荷変動に応答して予想される電圧に達するための予想時間を含むことができる。
【0019】
セルの状態は時間と共に変化する、というのは、セルによって実行される電気分解が個別のセルの膜の劣化を生じさせるからである。結果的なセル電圧は、セルの状態に依存し、マルチ(多重)パラメータ回帰式を用いてモデル化することができる。例えば、予想電圧値は、マルチパラメータ回帰式に基づくことができる。マルチパラメータ回帰式は、電極における不所望な反応をモデル化する第1パラメータと、膜の断裂、ピンホール、及び劣化のうちの少なくとも1つをモデル化する第2パラメータと、電極の劣化をモデル化する第3パラメータとを含むことができる。上記方法は、あるセルの予想電圧値と、このセルの測定電圧との偏差を決定するステップを含むことができる。上記方法は、第1、第2、及び第3パラメータの、偏差に対する寄与分を、マルチパラメータ回帰モデルを用いて識別するステップを含むことができる。この式は3つのパラメータを有し、その1つは電流と独立し、1つは電流に線形依存し、1つは電流に対数的に依存する。電流を変化させることによって、セルの予想電圧に対する異なるパラメータの影響を識別することができ、このことは、セルの交換または保守が必要であるか否か、及びその時期についての見識を改善する。
【0020】
温度値に関連して前に説明したように、予想電圧値及び測定電圧値も、必ずしも単一の電圧に相当しない。その代わりに、それぞれの電圧を積分することができ、あるいは微分した値を計算することができる。例えば、セルの予想電圧値は、予想電圧を時間、温度、または電流で積分または微分した値に相当することができる。あるセルの予想電圧値と、このセルの測定電圧との偏差は、このセルの予想電圧を積分または微分した値と、このセルの測定電圧を積分または微分した対応する値との差に決定することができる。このことは、偶発的な不正常な測定値における誤警報を回避すること、あるいは長期にわたる小さい偏差の発生を検出することを促進することができる。
【0021】
他の重要な要因は、時間と共に生じるセル電圧の進展である。例えば、上記方法は、マルチセル型電解槽のセル毎に、及び/または1つ以上の基準セルについて、センサ情報に基づいてセルの以前の電圧値を決定するステップと、以前の電圧値を、センサ情報に含まれる現在の電圧測定値と比較するステップとを含むことができる。このようにして、それぞれのセルの劣化の影響を測定することができる。
【0022】
一部の場合には、通知を提供して、危機的な、あるいは危機的になり得るセル状態またはインシデント(異常事象)をオペレータに警告する必要がある。通知に加えて、測定値及び/または計算値を可視化することができ、これにより電解槽のオペレータは自身の結論を引き出すことができる。例えば、上記方法は、センサ情報、それぞれのセルの予測温度値、それぞれのセルの予測電圧値、及びそれぞれのセルの以前の電圧値のうちの少なくとも1つの視覚表現を提供するステップを更に含むことができる。
【0023】
以上に概説したように、セルの温度を測定するための1つの選択肢は、光ファイバ温度センサを用いる。従って、マルチセル型電解槽のセルの測定温度についての情報は、光ファイバ温度センサから取得することができる。光ファイバ温度センサを用いて、単一(または少数)の光ファイバケーブルを用いてセルの温度を測定することができ、このことは温度を測定するための労力を低減することができる。
【0024】
その代わりに、マルチセル型電解槽のセルの測定温度についての情報は、カメラベースの温度センサから取得することができる。この方法は、より大きな計算量を必要とし得る、というのは、温度を画像データから導出しなければならないからである。
【0025】
本発明の1つの態様は、当該コンピュータプログラムが、コンピュータ上、プロセッサ上、またはプログラマブル(プログラム可能)なハードウェア構成要素上で実行された際に、上記の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムに関するものである。
【0026】
本発明の一部の態様は、マルチセル型電解槽の状態を監視する対応する装置に関するものである。この装置は、1つ以上のセンサからセンサ情報を取得するためのインタフェース回路と、上記の方法を実行するように構成された処理回路とを具えている。
【0027】
以下では、装置及び/または方法のいくつかの例を、ほんの一例として、添付した図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1aは、マルチセル型電解槽の状態を監視する方法の一例のフローチャートである。図1bは、マルチセル型電解槽の状態を監視する装置、及びこうした装置を具えたシステムの一例の概略図である。
図2図2a及び2bは、マルチセル型電解槽のセルのプロセス値の測定及び処理の例のフローチャートである。
図3】光ファイバケーブルによって取り巻かれた電解槽セルの一例の概略図である。
図4】織り込まれた光ファイバケーブルを有する電解槽セルの一例の概略図である。
図5】データ処理システムの一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
ここで、いくつかの例を、同封した図面を参照しながら、より詳細に説明する。しかし、他の可能な例は、詳細に説明するこれらの実施形態の特徴に限定されない。他の例は、特徴並びに等価物の修正、及び特徴の代案を含むことができる。更に、特定例を説明するために本明細書中に用いる用語は、更に可能な例を限定すべきものではない。
【0030】
図面の説明全体を通して、同一または同様の参照番号は、同一または同様の要素及び/または特徴を参照し、これらの要素及び/または特徴は、同一にすることができ、あるいは同一または同様の機能を提供しつつ修正した形式で実現することができる。図面中の線の太さ、層の厚さ、及び/または面積の大きさは、明確にするために誇張していることもある。
【0031】
「または」を用いて2つの要素AとBを組み合わせる際には、このことは、個別の場合において明示的に他のように規定しない限り、全ての可能な組合せ、即ちAのみ、Bのみ、並びにAとBを開示するものとして理解すべきである。同じ組合せについての他の言い回し、「AとBの少なくとも一方」または「A及び/またはB」を用いることがある。このことは3つ以上の要素の組合せにも同等に当てはまる。
【0032】
「ある」、「1つの」及び「上記」のような単数形式を用いる場合、及び単一要素のみの使用を明示的にせよ暗示的にせよ強制として規定していない場合、追加的な例は、複数の要素を用いて同じ機能を実現することもできる。以下で、ある機能を複数の要素を用いて実現するように記述する場合、追加的な例は、単一の要素または単一の処理エンティティ(実体)を用いて同じ機能を実現することができる。「含む」、「含んでいる」、「具える」及び/または「具えている」とは、使用時に、指定した特徴、個数、ステップ、動作、プロセス、要素、構成要素、及び/またはそのグループを記述し、但し1つ以上の他の特徴、個数、ステップ、動作、プロセス、要素、構成要素、及び/またはそのグループの存在または追加を排除しないことが、更に理解される。
【0033】
本発明の種々の例は、マルチセル型電解槽の状態を監視する方法、装置、及びコンピュータプログラムに関するものである。任意で、この装置はシステムの一部とすることができ、このシステムは、センサ情報を提供するための1つ以上のセンサまたは処理エンティティを含むことができる。一部の例では、システムがマルチセル型電解槽自体を具えることができる。
【0034】
図1aは、(図1bに示す)マルチセル型電解槽100の状態を監視する方法の一例のフローチャートである。この方法は、センサ情報を取得するステップ110を含む。センサ情報は、少なくとも、マルチセル型電解槽100の個別のセルの測定温度についての情報を含む。この方法は、センサ情報に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に、マルチセル型電解槽の当該セルの予想温度値を予測するステップ130を含む。この方法は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差が温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップ170を含む。
【0035】
以下では、本明細書中に含まれる、あるいは本明細書中で参照する種々の構成要素についての短い紹介を与える。図1bに、マルチセル型電解槽の状態を監視する装置、及びこうした装置を具えたシステムの概略図を示す。装置50は、1つ以上のセンサから情報を取得するためのインタフェース回路52、及び図1aの方法を実行するように構成された処理回路54を具えている。任意で、装置50は、基準値、以前の測定値、等のような情報を一時的または永久的に記憶するための記憶回路56を更に具えている。処理回路54は、インタフェース回路52、及び任意の記憶回路56に結合されている。処理回路54は、(例えば、温度処理エンティティ10または光ファイバ温度センサ20、セル電圧測定エンティティ30、及び/またはスタック電流測定エンティティ40と情報を交換するための)インタフェース回路52及び/または(情報を記憶するための)任意の記憶回路56と共に、装置50の機能を提供する。例えば、装置50は、処理回路54が機械可読命令を実行することによって、その機能を提供することができ、機械可読命令は記憶回路56に記憶することができる。
【0036】
上記方法及び装置50、及び対応するコンピュータプログラムを用いて、マルチセル型電解槽100の状態を監視する。以下では、マルチセル型電解槽の状態の監視は、電解槽の個別のセルの温度の監視、及びこれに続く電解槽の個別のセルのセル電圧の監視に焦点を当てる。個別のセルの温度及びセル電圧は、共に、電解槽の負荷に依存し、電解槽の負荷は、電解槽のセルに供給されるスタック電流、即ち、セルのスタック全体に供給される電流によって決まる。従って、センサ情報110は、少なくとも、個別のセルの測定温度についての情報を含む。それに加えて、センサ情報110は、マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及びマルチセル型電解槽のセルの個別のセル電圧についての情報を含むことができ、これらの情報を用いてマルチセル型電解槽を監視することもできる。センサ情報110の構成要素は、システムの異なるセンサまたは処理エンティティから取得する(例えば、受信する、要求する)ことができる。例えば、測定温度についての情報は、(図1bに示す光ファイバ温度センサ20のような)温度センサから取得することができる。個別のセル電圧についての情報は、セル電圧測定を実行または処理する処理回路30から取得することができる。スタック電流についての情報は、スタック電流測定を実行または処理する処理回路40から取得することができる。一般に、スタック電流測定を実行または処理する処理エンティティ40は、電解槽100の制御システムの一部である。
【0037】
スタック電流及微セル電圧は捕捉することが相当容易であるのに対し、個別の温度を捕捉するには一層の労力を必要とし得る。以下では、2つの異なる方法を説明する。
【0038】
第1の方法では、光ファイバ温度センサを用いて、個別のセルの温度についての情報を提供する。換言すれば、マルチセル型電解槽のセルの測定温度についての情報は、光ファイバ温度センサから取得することができる。この方法を、図1b、3、4及び5に示して以下に説明する。以下では、光ファイバ温度センサの測定値を、処理エンティティ10によって処理して、装置50に提供するものと仮定する。しかし、処理エンティティ10によって行われる処理は、代わりに、装置50または光ファイバ温度センサ20によって実行することができる。例えば、処理エンティティ10は、装置50と同様に実現することができ、光ファイバ温度センサ及び装置50と通信するためのインタフェース、計算を実行するための処理回路、及び対応付け(マッピング)のような情報を記憶するための記憶回路を含む。
【0039】
一般に、光ファイバ温度センサを用いて温度センサ情報を提供することができ、温度センサ情報は、光ファイバ温度センサが用いる(図1bに示す)光ファイバケーブル25の複数の区間で測定した温度値を含む。温度センサデータを用いて、複数の区間で測定した温度値に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に少なくとも1つの温度を計算することができる。
【0040】
第1の方法は、光ファイバ温度測定値を用いることに基づく。一般に、こうした光ファイバ温度測定値は、温度が光ファイバケーブル25に与える影響に基づく。例えば、温度に応じて、光または音の反射または散乱は、光ファイバケーブルの異なる区間において異なり得る。こうした光ファイバ温度センサを実現するための種々の技術が存在する。例えば、光ファイバ温度センサは、ファイバブラッグ(fiber Bragg)グレーティング(格子)センサ、即ち、ブラッグ波長における温度依存性の変化を検出することに基づくセンサとすることができる。その代わりに、光ファイバ温度センサは、ラマン(Raman)散乱系温度センサとすることができ、ラマン散乱系センサは光学フォノン上の非弾性散乱の温度依存性に基づく。その代わりに、光ファイバ温度センサは、(内因性または外因性の)干渉型光ファイバ温度センサ、即ち、光共振器の長さの温度依存性の変化に基づく温度センサとすることができる。その代わりに、光ファイバ温度センサは、(音響フォノンの温度依存性散乱に基づく)ブリルアン散乱系分布型温度センサとすることができる。しかし、提案する概念は光ファイバ温度センサの特定の実現に限定されない。
【0041】
光ファイバ温度センサは、ユーザ定義の、あるいはシステムが事前に定めた区間における温度の測定を可能にすることを、共通して有する。例えば、提案する概念を実現するために用いる光ファイバ温度センサの一例では、光ファイバ温度センサが1メートルの増分の測定値を提供し、即ち、複数キロメートルの長さの光ファイバケーブルにおける1メートル毎に別個の温度値を提供する。一部の例では、温度値の測定値を1メートル毎の特定点で取得するのに対し、他の例では、光ファイバケーブルの1メートルの伸長または特定の伸長全体にわたる平均温度値を測定する。次に、電解槽のセルに光ファイバケーブルを配置する方法に応じて、これらの温度値を用いて個別のセルの温度を計算することができる。従って、このプロセスは、光ファイバ温度センサからの温度値を有する温度センサ情報を取得することから始まる。温度センサ情報は、複数の温度値、即ち区間毎に1つの温度値を含む。例えば、複数の区間は、例えば光ファイバ温度センサ20によって規定される等距離の区間(例えば、前述した1メートルの区間)とすることができる。その代わりに、複数の区間は、マルチセル型電解槽のセルの幾何学的形状、及び光ファイバケーブル25をセル(またはセル内)に配置するために用いるパターンに合わせて調整される特注(カスタム)の区間とすることができる。今度は、温度値を用いて個別のセルについて温度を計算することができる。この目的で、電解槽のどのセルにおけるどの温度値を取得するかについての情報を用いることができる。以下では、この情報を、光ファイバケーブルの区間とマルチセル型電解槽のセルとの対応付けとして表す。例えば、複数の区間をマルチセル型電解槽のセルに対応付けることができる。例えば、区間(または、1つの区間が2つのセル間であるか、セルの所に配置されていない場合には、区間の部分集合)を、セルのうちの1つに対応付けることができる。従って、各セルは、当該セルに対応付けられた少なくとも1つの(好適には複数の)区間を有することができ、次に、この対応付けを用いて、当該セルの温度を計算することができる。この対応付けを用いて、どの温度値を用いて、あるセルの少なくとも1つの温度を計算するかについての選択を実行することができる。換言すれば、マルチセル型電解槽のセルへの、複数の区間の対応付けに基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に1つ以上の温度値を選択することができる。選択した温度値を用いて、セルの少なくとも1つの温度を計算することができる。例えば、一部の場合には、複数の区間に基づいて、従って、当該セルに対応付けられた複数の温度値に基づいて、例えば、これらの温度値の平均値または中央値(メジアン)を用いて、セル毎に単一の温度を計算することができる。その代わりに、複数の区間に基づいて、従って、当該セルに対応付けられた複数の温度値に基づいて、セル毎に複数の温度を計算することができる。セルの異なる区分における無炎燃焼を検出するためには、セル毎に複数の温度を計算することが好ましい。
【0042】
区間とセルとの対応付けは、光ファイバケーブルをそれぞれのセルまたはセル内に配置する方法に依存する。一般に、2つの一般的な配置の選択肢を区別することができ-これらは、セルの外側(例えば、セルの外殻または外面に取り付ける、あるいはセルと絶縁材との間に取り付ける)か、セル内に統合するかである。例えば、光ファイバケーブルを、マルチセル型電解槽の外殻または外面に取り付けることができる。この方法は、既存の電解槽に後で設置すること、または第三者の電解槽と共に用いることに、より適している。その代わりに、光ファイバケーブルを、マルチセル型電解槽のセル内、セルの壁面内、加熱パイプ内、または冷却パイプ内に統合することができる。このことはより労力を必要とする。しかし、より近くに近接することにより、測定値を、セルの外部からの測定値よりも正確にすることができる。いずれの場合にも、光ファイバケーブルは、マルチセル型電解槽の複数のセルをカバーすることができる。例えば、マルチセル型電解槽の全部のセルで温度を測定するために、単一の光ファイバケーブルで十分であり得る。その代わりに、複数の光ファイバケーブルを用いることができ、複数の区間は、複数の光ファイバケーブルの全体に延びる。この場合、区間とセルとの対応付けに関しては、複雑性がやや増加することがある。
【0043】
区間とセルとの対応付けは、電解セルの幾何学的形状、及び光ファイバケーブルをセルまたはセル内に配置するために用いるパターンに依存する。図3及び4に、光ファイバケーブルを配置するための2つの選択肢を示す。図3(及び図1b)には、電解槽のセルを取り巻く光ファイバケーブルを示す。換言すれば、光ファイバケーブルを、複数のセルの外周で(例えば、セルの壁面と絶縁材との間で)連続してそれぞれのセルを取り巻くパターンに配置することができる。例えば、図1bに示すように、電解槽のセルを、水平スタック(またはその代わりに、垂直スタック)の形に配列することができる。光ファイバケーブルは、当該光ファイバケーブルがスタックの個々のセルを実質的に取り巻くパターンに、例えば、各セルが少なくとも1回取り巻かれる(例えば、包囲される、包み込まれる)ように配置することができる。一部の例では、各セルを、セル毎に複数回、例えば、セル毎に複数の小面積を取り巻いて、セル毎に異なる位置上の平均温度を決定することができ、あるいは当該セルの二次元温度プロファイルを決定することができる。例えば、(例えば、大部分は直線を有する、あるいは、大部分は曲線(図示せず)を有する)螺旋パターンまたはスネール(巻貝)パターンを用いることができる。螺旋パターンまたはスネールパターンをセル毎に複数回反復することができ、同一の(または同様な)パターンを他のセルにも用いる。その代わりに、あるいはそれに加えて、蛇行パターン/ジグザグパターンをセル毎に複数回反復することができ、同一の(または同様な)パターンを他のセルにも用いる。例えば、電解槽の直径が例えば1メートル未満(例えば、光ファイバ温度センサの測定精度未満)である場合、あるいは、電解槽の外面上の異なる領域の温度を測定する必要がある場合、配線を付加し、ここでは、同じセル上の外壁からより遠い次のスポットへ移動する前に、(例えば20cmにわたって上下にジグザグにすることによって、あるいは、螺旋/スネールパターンを用いることによって)例えば個別の電解槽セルの1つの部分は配線を円形にして2、3回包囲またはカバーすることができる。より一般的な意味では、光ファイバケーブルをあるパターン(即ち、セルを取り巻くパターン、または蛇行パターン)に配置し、こうしたパターンは、当該パターン内で複数回反復される螺旋/スネール・サブパターンまたは蛇行/ジグザグ・サブパターンのようなサブパターンを含む。サブパターンの各々は、複数のセルのうちのちょうど1つに配置することができる(即ち、1つのサブパターンが複数のセルをカバーしないことがある)。各セルは、例えば、一連のサブパターンをそれぞれのセルの周囲に沿って反復することによって、サブパターンの複数回の反復によってカバーすることができる。従って、区間とセルとの対応付けは、こうした円形のパターン、または円形とサブパターンの反復との組合せのパターンに基づくことができ、例えば、電解槽のどのセルにどの区間を配置するかの知識に基づくことができる。このことは、三次元コンピュータ支援設計の描画を用いて計算することができ、あるいは、光ファイバケーブル上の外面マーキングを用いて手作業で決定することができる。
【0044】
その代わりに、図4及び5に示すように、織り込みまたは蛇行パターンを用いることができる。換言すれば、光ファイバケーブルを蛇行パターンに配置することができ、これにより、光ファイバケーブルはマルチセル型電解槽の一連のセルに沿って反復して延在し、後戻りして、一連のセルに沿って逆向きに延在し、再度後戻りして、再度一連のセルに沿って延在する。蛇行パターンを用いて、光ファイバケーブルが各セルを複数回通過する。セルのサイズ、及び区間のサイズに依存して、光ファイバケーブルがセルを通過する毎に(または通過する回数の部分集合毎に)温度値をセルに対応付けることができる。円形パターンに関連して示す例と同様に、螺旋/織り込みパターンを、より小さい螺旋/スネールパターンと、あるいはより小さい蛇行/ジグザグパターンと組み合わせて、個別の電解槽セルの1つの部分を複数回カバーすることができる。従って、ここでも、区間とセルとの対応付けは、こうした蛇行または織り込みパターンに基づくことができ、例えば、電解槽のどのセルにどの区間を配置するかの知識に基づくことができる。このことは、三次元コンピュータ支援設計の描画を用いて計算することができ、あるいは、光ファイバケーブル上の外面マーキングを用いて手作業で決定することができる。
【0045】
円形パターンに関連して概説したように、一部の例では、例えば、複数のサブパターンを用いて、セル毎に複数の温度値を取得することができ、これにより、それぞれのセルの二次元温度プロファイルを生成することができる。例えば、上記方法は、温度値に基づいて、かつ複数の区間と、マルチセル型電解槽のセルとの対応付けに基づいて、個別のセルの二次元温度プロファイルを生成することを含むことができる。この場合、複数の区間と複数のセルとの対応付けは、複数の区間と、マルチセル型電解槽の各セル上の複数の点、例えば、電解槽の各セル上の、点の二次元グリッド(格子)における複数の点との対応付けを含むことができる。
【0046】
第2の方法では、マルチセル型電解槽のセルの測定温度についての情報を、カメラベースの温度センサ、例えば赤外線カメラセンサから取得することができる。この場合、カメラベースの温度センサによって提供される(赤外線)画像データの画素(ピクセル)を、例えば処理エンティティ10または装置50によって、マルチセル型電解槽のセルに対応付けることができる。従って、センサ情報は、(赤外線)画像データ、あるいは赤外線画像データから導出したセル温度を含むことができる。
【0047】
センサ情報は個別のセルの測定温度、及び任意で、スタック電流及び/または個別のセル電流についての情報を含み、次にセンサ情報を用いて、マルチセル型電解槽のセルの温度値を予測する。特に、電解槽の複数のセルのセル毎に、別個の温度値を予測する。この予測は種々の方法を用いて行う。例えば、セルの物理特性及び化学特性を、セル電圧及びスタック電流と一緒に用いて、セルの温度を予測することができる。換言すれば、セルの予想温度値は、(センサ情報に基づく)セルのセル電圧に基づいて、かつマルチセル型電解槽のスタック電流に基づいて予測することができる。特に、このことは、セルのエネルギー収支を調べることによって行うことができる。換言すれば、セルの予想温度値は、セルのセル電圧に基づく、かつマルチセル型電解槽のスタック電流に基づくエネルギー収支に基づいて予測することができる。例えば、電気化学モデル及び熱モデルを用いて、水素予測及び酸素予測、電解によって生じる温度上昇を計算して、個別のセルの温度を予測することができる。一部の例では、セルのセル電圧に基づいて、かつマルチセル型電解槽のスタック電流に基づいてセルの予想温度値を予測する際に、電極における不所望な反応、膜の断裂、ピンホール、劣化、及び電極の劣化に関する(既知の、あるいは測定した)セルの状態を考慮に入れることができる。
【0048】
その代わりに、あるいはそれに加えて、他のセルの温度を用いて、あるセルの温度を予測することができる。例えば、マルチセル型電解槽は単一のスタック電流によって駆動されるので、全部のセルが同様な温度を有し、経年または外部からの影響による少量の変動を伴うものと予期される。従って、予想温度は、1つ以上の他のセルの(測定)温度に基づいて予測することができる。例えば、セルの予想温度値は、マルチセル型電解槽の1つ以上の隣接するセルの、即ち、温度を予測するセルに直接隣接して配置された1つ以上のセルの測定温度に基づいて予測することができる。例えば、単一のセルを用いて、隣接するセルの温度を予測することができる。その代わりに、2つの隣接するセルが利用可能である場合、両方を用いることができる。その代わりに、例えば、最近交換されたので、あるいは「健全な」温度(または「健全な」セル電圧)を有するものと示されているので、健全であるものと知られている(あるいは仮定される)1つ以上のセルを基準セルとして用いることができる。換言すれば、セルの予想温度値は、マルチセル型電解槽の1つ以上の基準セルに基づいて予測することができる。1つ以上の基準セルは、ユーザ定義の基準セルとすることができ、あるいは当該セルの経年に基づいて(直近に追加されたセルを基準セルとして用いる)、または当該セルについて決定されたセンサ情報に基づいて自動的に決定することができる。例えば、図1aに更に示すように、上記方法は、センサ情報に基づいて、例えば選択基準により、1つ以上の基準セルを選択するステップ120を更に含むことができる。例えば、1つ以上の基準セルを選択した後に、上記方法は、予想温度値と測定温度値との偏差を決定するステップ135、予想電圧値と測定電圧値との偏差を決定するステップ150、及び/または以前の電圧値を現在の電圧測定値と比較するステップ165に(直接)進むことができる。例えば、選択基準は、測定温度(または測定電圧)とユーザ定義の基準温度(またはユーザ定義の基準電圧)との差、測定温度(または測定電圧)と、全部のセルにわたる平均温度(または平均電圧)との差、あるいは測定温度(または測定電圧)と、全部のセルにわたる最低測定温度(または最低測定電圧)との差に関係することができる。いずれの場合にも、セルの温度の予測は、単一の他の温度測定値に基づかず、入手可能であれば複数の他の温度測定値に基づくことができる。例えば、セルの予想温度値は、マルチセル型電解槽の複数のセルの(例えば、全部のセルの、他の全部のセルの、基準セルの、または隣接するセルの)測定温度の平均または平均値に基づいて予測することができる。
【0049】
前の説明では、「温度値」が、温度に相当する、例えば、測定温度または予測温度に相当するものと仮定した。一部の場合には、測定値中のスプリアス変動をフィルタ処理で除去するために、温度を、時間(または電流、または電圧)で積分することができ、それぞれの積分値を互いに比較することができる。換言すれば、あるセルの予想温度値は、このセルの予想温度を時間で積分した値に相当することができ、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差は、このセルの予想温度の積分値と、このセルの測定温度の対応する積分値との差に決定される。このようにして、(無効な測定値のような)スプリアス事象をならし(平均化し)つつ、長時間にわたって持続する温度の小差を識別することができる。同様に、それぞれの温度曲線の一次または二次導関数をとって、異なるセル間のトレンドの差を識別することができる。換言すれば、あるセルの予想温度値は、このセルの予想温度を微分した値(例えば、一次または二次導関数)に相当することができ、あるセルの予想温度と、このセルの測定温度との偏差は、このセルの予想温度を微分した値と、このセルの測定温度を微分した対応する値との差に決定される。こうした比較の例は、図5に関連して説明する「第5モデル」に関連して説明する。
【0050】
提案する概念では、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差が温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供する。通知を提供するステップ170の根拠として、上記方法は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差を決定して、温度偏差条件を評価するステップ135を含む。偏差を決定するステップは、それぞれの温度値、例えば温度、あるいは温度を時間(または電流、または電圧)で積分または微分した値を比較することを含む。次に、比較の結果を、温度偏差条件に関して評価する。一部の場合には、温度偏差条件を閾値とすることができ、(温度偏差条件次第で)閾値を超える場合、あるいは超えない場合に通知を提供する。一部の場合には、温度偏差条件が、許容可能な偏差の範囲、及び/または通知を提供するに至る偏差の1つ以上の範囲を含むことができる。温度偏差条件を満たす場合、通知を提供する。例えば、通知を提供するステップは、表示装置により視覚表示を提供することを含むことができ、及び/または、通知を提供するステップは、通知パケットを、制御システムに、あるいは1つ以上のクライアント装置に提供することを含むことができ、通知パケットは通知を含む。例えば、通知は、電解槽のオペレータ/ユーザ向けの警報を含むことができる。
【0051】
以下では、偏差、温度偏差条件、及び通知を提供するための他のトリガに関するいくつかの例を挙げる。例えば、以下の例の少なくとも一部は、図5に関連してより詳細に説明し、ここでは、種々の「モデル」を導入し、これらのモデルは、通知及び/または異なる値の視覚表現の根拠として用いる。本発明の関係では、モデルは数学関数またはコンピュータのタスクであり、これらは1つ以上の入力値を受け取り、(温度値(または電圧値)の予測、及び任意で、偏差条件の比較及び評価のような)計算を含む。換言すれば、図5に関連して導入されるモデルは、信号情報を処理するためのアルゴリズム、コンピュータのタスク、または数学関数である。
【0052】
例えば、第1モデルでは、個別のセル電圧、個別のセル温度及びスタック電流を測定しグラフにプロットして、電解槽のオペレータが手作業で評価する。従って、上記方法は、センサ情報のうちの少なくとも1つ、それぞれのセルの予測温度値、それぞれのセルの予測電圧値、及びそれぞれのセルの以前の電圧値の視覚表現を提供するステップ175を含むことができる。
【0053】
第2モデル及び第3モデルでは、個別のセル電圧を互いに、例えば1つ以上の隣接するセルと、1つ以上の基準セルと、あるいは隣接するセル、基準セル、または全部のセルの平均または平均値温度と比較する。
【0054】
第11モデルでは、H2漏洩(及び目に見えない、あり得る無炎燃焼)を検出するために、測定されたあらゆる高温スパイクをH2火炎と考えて警報を発生することができる。換言すれば、上記方法は、あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差がスパイクを呈する場合に、火炎の疑いについての通知を提供するステップ170を含むことができる。この関係では、スパイクは、所定の時間間隔全体にわたる測定温度の変化が閾値よりも大きいこと、例えば1分間に10℃よりも大きいことである。
【0055】
セルの温度値に加えて、セル電圧は、セルの健全性の他の主要な指標である。従って、予想電圧値はセル毎に決定することができ、測定したセル電圧値を予想電圧値と比較して、電圧偏差を決定することができる。この予想電圧値は、予想温度値の決定と同様に決定することができる。従って、上記方法は、センサ情報に基づいて、マルチセル型電解槽のセル毎に、マルチセル型電解槽の予想電圧値を予測するステップ140を含むことができる。例えば、予想電圧値は、電解槽のスタック電流に基づいて、かつ上述した式V=A+B・I+C・log(I)に基づいて決定することができ、ここにAは電極における不所望な反応を表し、Bは、膜の断裂、ピンホール、劣化を表し、Cは電極の劣化を表す。その代わりに、あるいはそれに加えて、予想電圧値は、1つ以上の他のセルの電圧値、例えば、1つ以上の隣接するセルの電圧値、1つ以上の基準セルの電圧値、同様な経年を有する1つ以上のセルの電圧値、または全部のセルの電圧値に基づいて決定することができる。2つ以上の他のセル間の平均電圧値または電圧の中央値を、この目的に用いることができる。個別のセルの電圧を決定することの代案として、電圧値をユーザが規定することができる。換言すれば、上記方法は、マルチセル型電解槽のセルの予想電圧値を(電解槽のオペレータ/ユーザによる)入力として取得するステップ145を含むことができる。温度値と同様に、電圧値は、単一の電圧に、あるいは電圧を時間、電流、または温度で積分または微分した値に相当することができる。例えば、あるセルの予想電圧値は、このセルの予想電圧を時間(あるいは電流または温度)で積分または微分した値に相当することができる。換言すれば、あるセルの予想電圧値は、このセルの予想電圧を時間、温度、または電流で積分または微分した値に相当することができる。従って、あるセルの予想電圧値と、このセルの測定電圧との偏差は、このセルの予想電圧を積分または微分した値と、このセルの測定電圧を積分または微分した対応する値との差に決定することができる。
【0056】
例えば、あるセルのセル電圧と、このセルの予想電圧値との偏差が電圧偏差条件と一致する場合にも、ステップ170で通知を提供することができる。例えば、第4モデルでは、個別のセル電圧の所定閾値未満への急速な降下を検出することができ、このため、急速な降下は膜の問題を示し、(このセルの予想電圧値に対する、あるいは以前の測定電圧値に対する)急速な降下を検出した場合に、通知を提供することができる。この関係では、電圧の急速な降下は、所定の時間間隔にわたる測定電圧の、閾値よりも大きい、例えば1分間に1Vよりも大きい変化である。個別のセル電圧のこうした急速な降下は、このセルの、または基準セルの、予想電圧値に対して、あるいは以前の測定電圧に対して判定することができる。従って、図1aに更に示すように、上記方法は、マルチセル型電解槽のセル毎に、及び/または1つ以上の基準セルについて、センサ情報に基づいて当該セルの以前の電圧値を決定するステップ160と、以前の電圧値を、センサ情報に含まれる(同じセルの、あるいは以前の電圧値を基準セルについて決定する場合には任意のセルの)現在の電圧測定値と比較するステップ165を含むことができる。例えば、(例えば、所定の時間間隔に応じて)現在の電圧値と予想電圧値との間で、あるいは現在の電圧値と以前の電圧値との間で急速な降下を検出した場合に、通知を提供することができる。
【0057】
第5及び第6モデルでは、それぞれの電圧を、時間及び電流のそれぞれで積分及び微分した値を用いる。換言すれば、あるセルの予想電圧値と、このセルの測定電圧との偏差は、このセルの予想電圧を積分または微分した値と、このセルの測定電圧を積分または微分した対応する値との差に決定することができる。例えば、積分値の電圧偏差が、所定期間にわたる所定の平均(許容)電圧偏差、例えば1日当たり10mVよりも大きい場合に、通知を提供することができる。このようにして、ある時間にわたる小さい偏差が可視になり、個別の1回の偏差が誤警報を生じさせない。電圧を微分した値に関しては、異なるセル間、あるいはあるセルと基準セルとの間の電圧偏差の異常を検出することができ、そして通知を提供することができる。このことを用いて、セル間の動的挙動の異常を検出することができる。
【0058】
電解槽は、シャットダウン(動作停止)段階及びスタートアップ(起動)段階のような異なる状態及び段階を有する動的なシステムである。シャットダウンは0%の電流として定義することができ、スタートアップは60分間未満に0%から20%まで上昇する電流として定義することができる。個別のセルが、こうした状態に応答して電圧安定期(即ち安定状態)に達するために要する時間は、個別のセルの状態(及び特に経年に関係する影響)を特定するための特別な関心事である。従って、一部の例では、予想電圧値が、予想電圧、及び負荷変動に応答して予想電圧に達するための予想時間を含むことができる。第7モデルに関連して説明するように、単一のセルが完全なスタートアップまたは完全なシャットダウンに至るために要する時間を決定することができ、この時間は、セル効率(より長い時間は、より高い効率に等しい)の指標を提供する。一旦、スタートアップまたはシャットダウンを検出すると、個別のセル毎に、電圧を測定している間に、電圧レベルが所定の電圧レベルに達するためにセルが要する時間tを決定することができる。この電圧レベルは単純な閾値として定義することができ、第1導関数は0であり、あるいは第2導関数は0である。この時間tは、負荷変動に応答して予想電圧に達するための予想時間と比較することができる。予想時間は、1つ以上の基準セルが同じ遷移に要する時間から導出することができ、あるいは予想時間はユーザ定義とすることができる。あるセルが負荷変動に応答して予想電圧に達するために要する時間と予想時間との偏差が、対応する電圧偏差基準と一致する場合、通知を提供することができる。このプロセスの詳細は、図5に関連して説明する第9モデルに関連して説明する。
【0059】
多数の場合に、それぞれのセルが時間と共にどのように劣化するかを知ることが有用である。また、この目的で、上記方法は、マルチセル型電解槽のセル毎に、センサ情報に基づいて当該セルの以前の電圧値を決定して、以前の電圧値を、センサ情報に含まれる現在の電圧測定値と比較するステップ160を含むことができる。この差を用いて、図5に関連して説明する第12モデルに関連して説明するように、ある時間にわたる劣化を測定することができる。同様に、現在の電圧測定値と、ユーザ定義/オペレータ定義の、または基準セルに由来する基準電圧との差を計算して、個別のセルと所望の基準電圧との偏差を決定することができる。
【0060】
以上で概説したように、セル電圧は主に2つの因子-セルの状態及びスタック電流に依存する。このことは、上述したマルチパラメータ回帰式/等式:V=A+B・I+C・log(I)によって反映され、ここにVはセル電圧を表し、Aは電極における不所望な反応を表し、Bは膜の断裂、ピンホール、劣化を表し、Cは電極の劣化を表す。一旦、パラメータA、B及びCが既知になる(あるいは、少なくとも推定される)と、この電圧を用いて、異なるセルの予想電圧値を計算することができる。換言すれば、予想電圧値はマルチパラメータ回帰式に基づくことができ、このマルチパラメータ回帰式は、電極における不所望な反応をモデル化する第1パラメータ、膜の断裂、ピンホール、及び劣化のうちの少なくとも1つをモデル化する第2パラメータ、及び電極の劣化をモデル化する第3パラメータを含む。この式/等式から明らかであるように、これらのパラメータのうちの1つは電流Iと独立であるのに対し、1つは線形従属し、1つは対数的に従属する。電流を変化させることによって、これらのパラメータの個別の寄与分を決定することができる。例えば、上記方法は、あるセルの予想電圧と、このセルの測定電圧との偏差を決定するステップ150と、上記のマルチパラメータ回帰式を用いて、例えば電流/負荷を変化させて、第1、第2、及び第3パラメータの、この偏差への寄与分を、電流の変化に対するセルの応答に基づいて計算することによって、第1、第2、及び第3パラメータの、この偏差への寄与分を識別するステップとを含むことができる。こうしたパラメータ化、及びこのことを長時間にわたって監視することの結果は、パラメータの変化を観測することができることであり、電解槽のセルに発生する劣化または故障の種類を突き止めることを可能にする。このプロセスのより詳細は、図5に関連して説明する第8モデルに関連して説明する。
【0061】
一部の例では、温度偏差及び電圧偏差を、共に、通知を提供することをトリガするための共通のトリガとして用いることができる。あるセルの予想温度値と、このセルの測定温度との偏差が温度偏差条件と一致する場合、かつ、このセルのセル電圧と予想電圧値とが電圧偏差条件と一致する場合に、通知を提供することができる。
【0062】
本発明は、主に水素電解槽及び塩素アルカリ電解槽に関するものであるが、提案する概念は特定種類の電解槽に限定されない。例えば、提案する概念は、PEM(Proton Exchange Membrane:プロトン交換膜)電解槽、アルカリ電解槽、固体酸化物形電解系電解槽、またはアニオン交換膜水電解系電解槽のような、異なる種類の(水素)電解槽用に用いることができる。提案する概念は、単極セルを有する電解槽及び双極セルを有する電解槽、並びにセルが直列構成に配列された電解槽及びセルが並列に、例えば並列スタックの形に配列された電解槽を含む多様な種類の電解槽に適用される。単極電解槽は、「タンク型」電解槽としても知られ、多孔質セパレータ(例えば、膜)を用いて正電極と負電極とを分離した状態に保つ。これらの電極は互いに並列にリンクされ、単一の電解浴中に配置されてセルを形成する。セルを直列に接続することによって、マルチセル型電解槽を作り上げることができる。双極電解槽は、金属シートまたは双極(バイポール)を用いて、隣接するセルを直列に接続する。例えば、双極の一方の側には負電極の電気触媒をコーティングすることができるのに対し、他方の側には次のセルの正電極の電気触媒をコーティングすることができる。双極セルの場合には、全電圧はセル電圧の組合せであり、単極の、タンク型設計よりも高電圧かつ低電流で動作するモジュールを生じさせる。大型のマルチセル型電解槽を形成するためには、(各々が複数のセルを具えた)複数のモジュールを並列に接続して電流を増加させる。一般に、電解槽は、電気を用いて、さもなければ非自然発生の化学反応を促進する。本発明の関係では、電解槽は、水のような化合物を、電気分解により、水素及び酸素のようなその構成元素に分割する装置である。
【0063】
インタフェース回路12は、モジュール内、モジュール間、あるいは異なるエンティティのモジュール間で情報を受信及び/または送信するための入力及び/または出力に相当することができ、この情報は、指定したコード(符号)に応じたデジタル(ビット)値とすることができる。例えば、インタフェース回路12は、情報を受信及び/または送信するように構成されたインタフェース回路を具えることができる。
【0064】
例えば、処理回路14は、1つ以上の処理ユニット、1つ以上の処理装置、プロセッサ、コンピュータ、または相応に適合するソフトウェアにより動作可能なプログラマブルなハードウェア構成要素のような処理用のあらゆる手段を用いて実現することができる。換言すれば、処理回路14の説明した機能は、ソフトウェアでも実現することができ、従って、このソフトウェアは1つ以上のプログラマブルなハードウェア構成要素上で実行される。こうしたハードウェア構成要素は、汎用プロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)、マイクロコントローラ、等を具えることができる。
【0065】
例えば、記憶装置16は、磁気または光記憶媒体、例えばハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM:Random Access Memory)、プログラマブル読出し専用メモリ(PROM:Programmable Read Only Memory)、消去可能プログラマブル読出し専用メモリ(EPROM:Erasable PROM)、電気的消去可能プログラマブル読出し専用メモリ(EEPROM:Electrically Erasable PROM)、またはネットワーク記憶装置のようなコンピュータ可読媒体のグループの少なくとも1つの要素を具えることができる。
【0066】
マルチセル型電解槽の状態を監視するシステムの、及び方法、装置、及びコンピュータシステムの、より詳細及び態様を、提案する概念、あるいは以上または以下(例えば、図2a~5)に説明する1つ以上の例に関連して説明する。マルチセル型電解槽の状態を監視するシステム、及び方法、装置、及びコンピュータシステムは、提案する概念のうちの1つ以上、あるいは以上または以下に説明する1つ以上の例に相当する1つ以上の追加的な任意の特徴を具えることができる。
【0067】
本発明の種々の例は、V(セル電圧)、C(スタック電流)、及びT(温度)に基づく、個別の電解槽セルの性能監視に関するものである。
【0068】
本発明は、(様々な種類の)塩素アルカリ、H2電解槽、または他の種類の電解槽のような電解槽の監視に関するものである。実現の一例では、以下のハードウェアを用いて、プロセス関係のデータ(電流、個別のセル電圧、及び個別のセルの外面温度)を捕捉することができる。例えば、電流測定は、(電解槽内の)ローカル制御システムにより実行することができる(電流は一般に制御システムによって測定及び/または制御される)。代案として、スタック電流を測定するための別個のシステムを用いることができる。セル電圧測定システムを用いて、個別のセル電圧を正確に測定することができる。光ファイバ温度測定に基づく温度測定装置を用いて、個別の電解槽セルの外面温度を十分な精度で測定することができる。光ファイバ温度センサの光ファイバケーブルは、種々の方法で、例えば縦方向に、横方向に、等で配置すること、例えば巻き付けることができる。代案として、光ファイバ系温度測定装置を、赤外線カメラ、または個別のセル温度を測定する他の何らかの温度測定装置に置き換えることができる。追加的な代案は、セル内部温度を測定することである。しかし、このことは、セルの内部の腐食性の環境に起因して複雑である。
【0069】
捕捉したデータは監視サーバーによって受信することができ、監視サーバー上で電解槽性能監視システムが実行される。このことを、例えば図2a、2b、3、4及び5に示す。
【0070】
図2a及び2bに、マルチセル型電解槽のセルのプロセス値を測定及び処理する流れの例のフローチャートを示す。この流れは、光ファイバケーブルまたは他の手段による(温度測定値の)データ捕捉210、及びデータの、温度値への変換220を含む。この流れは、個別のセル電圧の捕捉230、及びスタック電流の捕捉240を更に含む。ブロック250では、温度、セル電圧、及びスタック電流データを処理する。例えば、図2bに示すように、処理250は、個別のセル温度及び電圧を、モデル化したセル温度及び電圧と比較するステップ(250a)、個別のセル温度を最適なセル温度と比較するステップ(250b)、個別のセル温度及び電圧を長時間にわたって監視するステップ(250c)、及び火炎を示し得る高温スパイクについてチェックするステップ(250d)を含むことができる。次に、適切なフォローアップ動作を行うことができる(ステップ260)。
【0071】
図3に、マルチセル型電解槽300の電解槽セルの一例の概略図を示し、これらの電解槽セルは、個別のセル温度を測定するために使用する光ファイバケーブル25によって取り巻かれている。電解槽セルの各々は、(異なるパターンで示す)陰極(カソード)及び陽極(アノード)を具え、セル電圧(V1...Vn)を、各セルの陰極と陽極との間で測定する。それに加えて、電流測定プローブ40aを用いて、マルチセル型電解槽のスタック電流を測定する。電流測定プローブ40aは、電解槽の制御システムの一部とすることができる。図4では、光ファイバケーブル25を、セルを取り巻く代わりに織り込みまたは蛇行パターンに配置する。図4に、織り込まれた光ファイバケーブルを有する電解槽セルの一例の概略図を示す。
【0072】
温度値、セル電圧、及びスタック電流は、1つ以上の処理ユニットまたは処理エンティティによって評価することができる。図5に、こうした処理ユニットまたは処理エンティティを具えたデータ処理システムの一例の概略図を示す。図5では、マルチセル型電解槽500のプロセス値を処理ユニット10、処理ユニット30、及び処理ユニット40によって捕捉し、処理ユニット10は(光ファイバケーブル25により測定した)測定値を温度値に変換し、処理ユニット30は個別のセル電圧を捕捉し、処理ユニット40はスタック電流を捕捉する。温度、電圧、及びスタック電流は、処理エンティティ50(例えば、パーソナルコンピュータまたはサーバー)によって、図1a及び/または1bに関連して提示する概念により、及び/または以下の概念またはモデルにより処理する。
【0073】
電解槽の性能の監視は、(火炎を防止または検出するための、あるいは爆発を防止するための)全体的安全性、エネルギーコスト(最適な動作温度において最低であるのに対し、動作不良のセルは動作させ続けるために費用がかかる)、及び保守が必要である(または必要でない)か否か、あるいは保守が必要である(または必要でない)時点についての全体的評価を行うため、といった種々の理由で有益であり得る。これらの目的には、特に、個別の電解槽セルベースの監視を用いて応えることができる。
【0074】
監視エンティティ(例えば、監視サーバー)上では、アルゴリズム及び機能が動作し、これらは、連続ベースで、個別の電解槽セルの性能、保守の必要性、及び安全性を監視することができる。本発明の種々の例は、電解槽用の(物理特性及び文献に基づく)電気化学的モデルと、連続して測定したセル電圧、温度、及びスタック電流の値との組合せに基づく。
【0075】
個別のセルにおける電気化学的プロセスは、基本的に以下の式によって記述することができ、この式は特定の性能指標を記述する係数も含む:
V=A+B・I+C・log(I)
ここに、Aは電極における不所望な反応であり、Bは膜の断裂、ピンホール、劣化を表し、Cは電極の劣化を表す。この等式は、セル温度が主要要素の1つである熱収支によって拡張することができる。
【0076】
セル電圧、スタック電流、及びセル温度を測定することによって、モデル化された値(例えば、予想温度/電圧値)と測定値との比較を行って、異常を検出することができる。しかし、より詳細な形態では、測定した個別のセル電圧または温度の特定の差、及び/またはセルの全体性能も決定することができる。提案する概念では、測定したデータ、及び以下に説明するモデルに基づいて、個別のセル性能及び特定のセルの故障メカニズムを導出することができる。
【0077】
以下では、複数のモデルを説明し、そのうちの1つ以上はシステム全体が用いることができる。例えば、以下のモデルのうちの1つ以上は、図1aの方法またはコンピュータプログラムの一部として用いることができ、及び/または図1bの装置によって計算することができる。本発明の関係では、モデルがコンピュータのタスクであり、これらは、計算または通知の図式的表現のような異なる種類の出力を有することができる。例えば、第1モデルでは、個別のセル電圧、個別のセル温度、及びスタック電流を測定してグラフ形式にプロットして、電解槽のオペレータが手作業で評価することができる。第2モデルでは、個別のセル温度を互いに比較することができる。健全として規定されているものに対して比較的大きな偏差を有するセルは、警報を発せられる(即ち、警報の通知が提供される)。このことは、各セル及びその温度のテーブル(表)(または他の種類のデータ構造)を作成し更新することによって実現される。第3モデルでは、個別のセル温度を、隣接するセルとの間で比較することができる。一般に、動作不良のセルは、予期されるのとは異なる温度を生じさせる。結果はテーブルまたはグラフ形式で提示することができ、疑わしいセルを検出することを容易にする。
【0078】
第4モデルでは、個別のセル電圧の所定閾値未満への急速な降下を検出し、このため、急速な降下は膜の問題を示し、セル温度の増加と組み合わせて警報を発せられる。こうした挙動は監視することができ、こうした挙動が発生した場合に、フォローアップの警報を発生することができる。
【0079】
第5モデルでは、複数のセルを、健全モードで挙動するものとして知られている基準セルとして規定する。電圧は、特定期間(例えば、1、2日)にわたって測定/監視することができる。電圧は時間で積分することができ、積分値は、特定のタイムフレーム(時間枠)用の基準値として指定することができる。今度は、積分値を基準値として用いることができる。個別のセル毎に、セル電圧を測定し、同様なタイムフレーム、例えば1~2日にわたって積分することができる。次に、個別のセルの積分値を基準値と比較することができる。その差が、所定期間にわたる所定の平均(許容)偏差、例えば1日当たり10mVよりも大きい場合に、警報を生じさせることができる。このようにして、長時間にわたる小さい偏差が可視になり、個別の1回の偏差が誤警報を生じさせない。基準セルの値をチェックするために、ユーザ定義の基準値をシステムに入力することができ、上記の方法と同様な計算方法を用いることができる。次に、このことを用いて、計算した基準値を、上述したのと同様な方法でチェックすることができる。限定された基準値の集合を選択することの利点は、全部の測定値の積分値を求めることに比べて、可能性のあるセルの健全性と比較した個別のセルの健全性の、より良好な全体指標が実現されることにある。電圧と同様に、温度についても同じことを行うことができ、時間以外のパラメータによる更に他の積分値、例えば電圧を電流で積分した値を考えることができる。このモデルは長時間にわたって異常を検出する。
【0080】
第6モデルでは、第5モデルに沿って、時間で積分することの代案として、特に負荷変動(電流変化)の場合に、電圧および温度変化を微分した値を、スタック電流の関数として用いることができ(あるいは、他のパラメータを用いて微分した値を抽出することができ)、個別のセルを基準セルと比較する。異常を発見した際に異常の警報を発することができる。このことを用いて、セル間の動的挙動の異常を検出することができる。
【0081】
第7モデルでは、単一のセルが完全なスタートアップまたは完全なシャットダウンに至るために要する時間を決定し、この時間はセル効率の指標を提供する(より長い時間はより高い効率に等しい)。個別の時間どうしを比較して、動作不良のセル、平均的に動作するセル、及び良好に動作するセルを定めることができる。このことは、各電解槽セルの個別のセル電圧を測定し、制御信号を収集することによって実現することができ、この制御信号は、電解槽に供給される電流を、スタートアップまたはシャットダウン動作検出の基準として制御する。シャットダウンは0%の電流として定義することができ、スタートアップは、60分間未満に0%から20%まで上昇する電流として定義することができる。一旦、スタートアップまたはシャットダウンを検出すると、個別のセル毎に、電圧を測定する間に、電圧レベルが所定の電圧レベルに達するためにセルが要する時間tを決定することができる。この電圧レベルは単純な閾値として定義することができ、第1導関数は0であり、あるいは第2導関数は0である。単一のセル毎に導出することができる、選択したタイムフレームについて、収集したポイントを時間で積分することができ、これにより、加重平均値が、所定の電圧レベルに達するための平均時間の指標を与える。セル毎に、結果をプロットすることができ、セルを複数のグループ、例えば(低いtの数値にリンクされる)動作不良のセル、(平均的なtの数値にリンクされる)平均的に動作するセル、及び(最高のtの数値にリンクされる)高度に動作するセルにグループ分けすることができる。健全に動作する基準セル(例えば、新品のセル)を用いて、相対的な結果を理想的状況と比較することができる。
【0082】
第8モデルでは、マルチパラメータ回帰式を用いて、故障に特有のパラメータを回帰式(モデル)に割り当てる方法で、健全なセルを、スタートアップ、全負荷に至るゾーン、シャットダウンゾーン、及び(通常動作である間に電流が変化する)負荷変動ゾーン、の形にモデル化することができる。次に、個別のセルを回帰によりモデル化することもでき、個別のパラメータどうしを比較して特定の故障を示すことができ、測定される入力は、セル電圧、スタック電流、及びセル温度である。個別のセルが適切に動作しているか否か、あるいは経年が発生し始めているか否かを検証するために、各セルを、多数の所定のパラメータ(モデル7参照)について構築された電流-電圧曲線に当てはめることができる。この曲線は、特定のセルの特性が係数の形式で存在するように構築することができる。1つ以上の特性に閾値を置くことによって、所定の基準値を参照して、セルの状態について結論を引き出すことができる。更に、個別のセルの個別のパラメータどうしを比較して、セル性能の差を表すことができる。この当てはめプロセスは、4つのゾーン-スタートアップゾーン(0~20%の電流)、全負荷に至るゾーン(20~100%)、シャットダウンゾーン(電流が0に設定される)、及び負荷変動ゾーン(電流が変化する)で行うことができる。電解槽ユニットの全体にわたって同様な方法をとって、動作中に役立つ電解槽の特性を決定することができる。
【0083】
第9モデルでは、健全モードで挙動することが知られている複数のセルを基準セルとして規定することができる。このようにして、「最良に」動作するセルを、他のセルに対する基準として設定することができる。これらの基準セルの平均値を計算して、特定瞬時用に計算した基準値として割り当てることができる。この基準値は、時刻tについて計算した基準値として用いることができる。ユーザ/オペレータは、基準電圧をシステムに入力することによって、理論的な基準電圧を定義することができる。この基準電圧をユーザ入力として用いて、長時間にわたる、(基準セルの測定したセル電圧に基づいて計算した)第1基準値と、(ユーザから入力された)第2基準値との偏差を検出することができる。個別のセル毎に、セル電圧を、基準セルの測定と同様なタイムフレーム内で測定することができる。両者の結果を比較することができ、その差が特定の平均偏差、例えば10mVよりも大きい場合に、警報を生じさせることができる。基準計算の品質を検証するために、基準値を計算する毎に、計算した基準値をユーザ定義の基準値と比較することができる。偏差が特定レベルを上回る場合、基準セルの新たな集合を上記アルゴリズムに割り当てることができる。スタートアップ及びシャットダウンの場合、プロセス条件を含むように上記アルゴリズムを適合させて、誤警報が生じることを防止することができる。
【0084】
第10モデルでは、エネルギー収支を用いて、入力としてのスタック電流及びセル電圧に基づいて、セル温度を予測することができる。このセル温度は、測定したセル外面温度と比較することができる。異常は警報で知らせることができる。
【0085】
第11モデルでは、H2漏洩(及び目に見えない、あり得る無炎燃焼)を検出するために、測定されたあらゆる高温スパイクをH2火炎と考えて警報を発することができる。
【0086】
第12モデルでは、初期のモデル設定と比較した、時間と共に生じる劣化を分析して警報を発することができる。上記で導入した等式V=A+B/I+C・log(I)を用いて、予期される状況をモデル化することができる。この等式を個別の部分(例えば、A、B、C)に分離して、劣化の原因を特定することができる。
【0087】
水素生産プラントの場合には、セル温度は、効率とセル全体の寿命とのバランスをとるために、予測及び監視にとって有用である。第13モデルは、提供された式に基づいて作成することができ、この式は個別のセル温度及びセル電圧を予測する。予測した電圧及び温度を測定値と比較することによって、最適化ルーチンを用いて、電解槽の動作温度を更に反復して改善または最適化することができ、こうしてランニングコスト(運用経費)対製造歩留まりを向上させることができる。
【0088】
個別のセル電圧及びセル温度を測定することによって、スタック電流を入力として、連続して測定したデータに基づいて、個別の電解槽セルの性能について比較を行うことができる。セル電圧、スタック電流、及びセル温度を測定することによって、セル性能のモデル化用の3つの主要なパラメータが測定値として利用可能になり、従って、これらのパラメータを用いて予測値を測定値に対して検証して、セルの問題を検出するための正確な方法を提供することができる。これらのモデル及び測定データに基づいて、異常、例えば膜、電極における不所望な反応、または電極の劣化の原因を突き止めることができる。
【0089】
セル温度は、セル全体の性能における、特に水素生産にとって重要な要素である。モデル化を用いてセル温度を予測する場合には、モデルと個別のセル温度との間で検証を実行して、長時間にわたって監視することができる。偏差は、セルの劣化を示すことができ、あるいは不所望な動作温度を示し、オンラインで監視することができ、そして適切なフォローアップをとることができる。セル温度をモデル化しない場合には、測定したセル温度を用いてセル性能を改善することができる。更に、セル温度は長時間にわたって監視することができる。個別のセルのセル温度の変化は、セルの問題の指標であり、フォローアップ動作のためのフラグを立てることができる。漏洩の場合には、無炎燃焼が発生することがある。こうした場合には温度スパイクを測定することができる。警報を発生して、例えば電解槽をシャットダウンして、必要な行動をとるように権限のある人に情報提供することができる。
【0090】
以前の例では、個別のセル温度を、光ファイバ温度センサを用いて測定するものと仮定した。例えば表面温度を測定するカメラにより、セルの外面温度を測定する他の方法が存在する。カメラは一般に限られた視野角を有するので、複数のカメラ、あるいは移動または回転メカニズムを組み込んだカメラを用いることができる。カメラによって捕捉したデータは、光ファイバケーブルに比べて異なるフォーマットである。従って、特定の測定点の正確な位置は、正確に決定するための何らかのデータ処理を必要とする。更に、測定はずっと多数のデータを含むことがあり、これらのデータは、温度の変化をより詳細に検出する高性能のアルゴリズムに供給することができる。こうした詳細を処理して、例えば計算値と比較することができる。水素火炎を検出するためには、こうしたカメラはそうするための適正な特性を必要とすることがある。
【0091】
一部の例では、ロボットを用いて、ロボット上に配置された装置、例えば、赤外線カメラまたは温度プローブ、あるいは画像捕捉装置による温度測定値のような同様な及び/または他の電解槽データを捕捉して、例えば、管の特定の着色を検出することができ、これらの管を通して、最終生成物が電解槽セルから放出される。追加的なデータを、更なる処理用に、説明した(かつ強調した)モデルまたは新たなモデルに入力することができる。
【0092】
本発明の種々の例は、光ファイバケーブルまたは他の方法を用いた個別のセルの温度測定、個別のセルの電圧測定、及びスタック電流測定を用いる。処理ユニットを用いて、測定した温度を、個別のセル温度と比較するために用いることができるフォーマットに変換することができる。セル温度間で測定値を比較するモデルを有する処理ユニットを用いて、異常を検出することができる。個別のセル電圧及び温度を予測するためのモデル、及びこれらを測定値と比較するためのモデルを含む処理ユニットを用いることができる。上記のユニットのうちの1つ以上を更に含む処理ユニットを用いることができる。温度スパイクに基づいて火炎を検出する処理ユニットを用いることができる。例えば、上述した処理ユニットは、単一の処理ユニットとして、あるいは分離された処理ユニットとして実現することができる。任意で、画像ベースの温度測定のような、セル温度を検出する他の手段を用いることができる。任意で、ロボットによって捕捉したセル性能パラメータ、例えばセル温度、生産された製品を包含する透明パイプラインの画像のような、他の関連するセル性能パラメータを検出する他の手段を用いることができる。電解槽の内部に発生する問題の場合には、こうしたパイプラインは色を変更することができる。
【0093】
以前の例のうちの特定の1つに関して説明した態様及び特徴を、追加的な例のうちの1つ以上と組み合わせて、こうした追加的な例の同一または同様な特徴を置き換えることができ、あるいはこれらの特徴をこうした追加的な例に追加的に導入することができる。
【0094】
本発明の例は、更に、(コンピュータ)プログラムとすること、あるいはプログラムに関することができ、こうしたプログラムは、当該プログラムがコンピュータ、プロセッサ、または他のプログラマブルなハードウェア構成要素上で実行された際に、上記の方法のうちの1つ以上を実行するためのプログラムコードを含む。従って、上述した方法における異なる方法のステップ、動作、またはプロセスは、プログラムされたコンピュータ、プロセッサ、または他のプログラマブルなハードウェア構成要素によって実行することもできる。本発明の例は、デジタルデータ記憶媒体のようなプログラム記憶装置をカバーすることもでき、これらのプログラム記憶装置は機械可読、プロセッサ可読、またはコンピュータ可読であり、機械で実行可能な、プロセッサで実行可能な、またはコンピュータで実行可能なプログラム及び命令を符号化及び/または含有する。プログラム記憶装置は、例えば、デジタル記憶装置、磁気ディスク及び磁気テープのような磁気記憶媒体、ハードディスクドライブ、または光学的に読取り可能なデジタルデータ記憶媒体を含むことができ、あるいはこれらの装置または媒体とすることができる。他の例は、上述した方法のステップを実行するようにプログラムされたコンピュータ、プロセッサ、制御ユニット、(フィールド)プログラマブル・ロジックアレイ((F)PGA:(Field) Programmable Logic Array)、(フィールド)プログラマブル・ゲートアレイ((F)PGA:(Field) Programmable Gate Array)、グラフィックス・プロセッサ・ユニット(GPU:Graphics Processor Unit)、特定用途向け集積回路(ASIC:Application-Specific Integrated Circuit)、集積回路(IC:Integrated Circuit)またはシステム・オン・チップ(SoC:System-on-a-Chip)システムを含むこともできる。
【0095】
詳細な説明または特許請求の範囲中に開示するいくつかのステップ、プロセス、動作、または機能の開示は、個別の場合において明示的断りのない限り、あるいは技術的理由で必要でない限り、これらの動作は記載した順序に必然的に依存することを暗に意味するものと解釈すべきでないことが、更に理解される。従って、前の説明は、いくつかのステップまたは機能の実行を特定の順序に限定しない。更に、別な例では、単一のステップ、機能、プロセス、または動作が、いくつかのサブステップ、副次的機能、サブプロセス、または副次的動作を含むこと、及び/または、単一のステップ、機能、プロセス、または動作を、いくつかのサブステップ、副次的機能、サブプロセス、または副次的動作に分割することができる。
【0096】
いくつかの態様を1つの装置またはシステムに関して説明している場合、これらの態様は、対応する方法の説明としても理解すべきである。例えば、こうした装置またはシステムのあるブロック、装置、または機能的態様は、対応する方法の方法ステップのような特徴に対応することができる。従って、方法に関して説明した態様は、対応する装置または対応するシステムの、対応するブロック、対応する要素、特性、または機能的特徴の説明としても理解すべきである。
【0097】
これにより、以下の特許請求の範囲は詳細な説明に含まれ、各請求項は、単独で、独立した例として存在する。また、特許請求の範囲では、従属請求項は1つ以上の他の請求項との特定の組合せを参照するが、他の例は、従属請求項と、他のあらゆる従属または独立請求項の主題との組合せを含むこともできる。これにより、こうした組合せは、個別の場合において特定の組合せを意図していないことを明示的に記載していない限り、明示的に提案される。更に、ある請求項の特徴は、たとえその請求項が他のいずれかの独立請求項に従属するものとして直接的に規定されていなくても、当該他の独立請求項にも含まれるべきである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチセル型電解槽の状態を監視する方法であって、
センサ情報を取得するステップ(110)であって、該センサ情報は、少なくとも、前記マルチセル型電解槽の個別のセルの測定温度についての情報を含むステップと、
前記センサ情報に基づいて、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、前記マルチセル型電解槽の当該セルの予想温度値を予測するステップ(130)と、
前記セルの前記予想温度値と、当該セルの前記測定温度との偏差が、温度偏差条件と一致する場合に、通知を提供するステップ(170)と
を含む方法。
【請求項2】
前記センサ情報が、前記マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及び前記マルチセル型電解槽の前記セルの個別のセル電圧についての情報を含み、前記セルの前記予想温度値を、前記セルの前記セル電圧に基づいて、かつ前記マルチセル型電解槽の前記スタック電流に基づいて予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の当該セルに隣接する1つ以上のセルの測定温度に基づいて予測する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の前記セルの前記測定温度の平均値に基づいて予測する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記セルの前記予想温度値を、前記マルチセル型電解槽の1つ以上の基準セルに基づいて予測する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、前記センサ情報に基づいて前記1つ以上の基準セルを選択するステップ(120)を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記セルの前記予想温度値が、当該セルの予想温度を時間、電圧、または電流で積分
または微分した値に相当し、前記セルの前記予想温度値と、当該セルの測定温度との偏差を、当該セルの前記予想温度を積分または微分した値と、当該セルの前記測定温度を積分または微分した対応する値との差に決定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、前記セルの前記予想温度値と、当該セルの前記測定温度との偏差がスパイクを呈する場合に、火炎の疑いの通知を提供するステップ(170)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記センサ情報が、前記マルチセル型電解槽のスタック電流についての情報、及び前記マルチセル型電解槽の前記セルの個別のセル電圧についての情報を含み、前記方法が、前記センサ情報に基づいて、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、前記マルチセル型電解槽の当該セルの予想電圧値を予測するステップ(140)、または前記マルチセル型電解槽の前記セルの予想電圧値を入力として取得するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記予想電圧値が、予想電圧、及び負荷変動に応答して前記予想電圧に達するための予想時間を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記予想電圧値が、マルチパラメータ回帰式に基づき、該マルチパラメータ回帰式は、電極における不所望な反応をモデル化する第1パラメータと、膜の断裂、ピンホール、及び劣化のうちの少なくとも1つをモデル化する第2パラメータと、前記電極の劣化をモデル化する第3パラメータとを含み、前記方法が、前記セルの前記予想電圧値と、当該セルの測定電圧との偏差を決定するステップ(150)と、前記マルチパラメータ回帰式を用いて、前記第1パラメータ、前記第2パラメータ、及び前記第3パラメータの、前記偏差への寄与分を識別するステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記セルの前記予想電圧値が、当該セルの予想電圧を時間、温度、または電流で積分または微分した値に相当し、前記セルの前記予想電圧値と、当該セルの測定電圧との偏差を、当該セルの前記予想電圧を積分または微分した値と、当該セルの前記測定電圧を積分または微分した対応する値との差に決定する、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記マルチセル型電解槽の前記セル毎に、及び/または1つ以上の基準セルについて、前記センサ情報に基づいて当該セルの以前の電圧値を決定するステップ(160)と、該以前の電圧値を、前記センサ情報に含まれる現在の電圧測定値と比較するステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記マルチセル型電解槽の前記セルの前記測定温度についての情報を、光ファイバ温度センサから、またはカメラベースの温度センサから取得する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
コンピュータプログラムであって、該コンピュータプログラムが、コンピュータ、プロセッサ、またはプログラマブルなハードウェア構成要素上で実行されると、請求項1または2に記載の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【請求項16】
マルチセル型電解槽の状態を監視する装置(50)であって、
1つ以上のセンサからセンサ情報を取得するためのインタフェース回路(52)と、
請求項1または2に記載の方法を実行するように構成された処理回路(54)と
を具えている装置。
【外国語明細書】