(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174823
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】コンピュータ断層撮影イメージングシステムにおけるPCD出力モデルを決定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20241210BHJP
A61B 6/42 20240101ALI20241210BHJP
【FI】
A61B6/03 550F
A61B6/42 530P
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024084881
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】63/504,702
(32)【優先日】2023-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508280195
【氏名又は名称】ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】田口 克行
(72)【発明者】
【氏名】シャオホイ ジャン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法を提供する。
【解決手段】PCDは複数のピクセルを有する。本方法は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築することを含み、第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する。また、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信することと、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)システムで使用される光子計数検出器(Photon-Counting Detector:PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法であって、前記PCDは複数のピクセルを有し、前記方法は、
第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築するステップであって、前記第1のモデルパラメータセットは、前記PCD上の入射計数率に依存し、前記PCD内のピクセル位置に依存する、構築するステップと、
複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信するステップと、
前記受信された較正データに基づいて前記複数のモデルパラメータを推定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のモデルパラメータセットが、前記入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、前記PCD内の前記ピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、前記推定するステップが、
前記PCD出力モデルから導出された出力と前記受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、前記複数のモデルパラメータの初期値を推定するステップと、
前記複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミスマッチが最小化されるように、前記第1のサブパラメータセットを決定するステップと、
ピクセル間の変動が最小化されるように、前記第2のサブパラメータセットを決定するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のモデルパラメータセットが、
前記PCDの検出器デッドタイムセット、
前記PCDの電荷共有行列セット、および
前記PCDの閾値エネルギーベクトルセット
のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記構築するステップが、
前記構築されたPCD出力モデルとして、前記物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の入射計数率の下で、前記複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された検証データを受信するステップと、
前記受信された検証データに基づいて、前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルの性能を評価するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信するステップと、
前記受信された多数のパラメータに基づいて、前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルを使用して、前記PCDのシミュレーション出力を生成するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信するステップと、
前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルに基づいて、前記受信されたスキャンデータを補正する、または前記受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償するステップと、
前記補正されたスキャンデータに基づいて、前記イメージング対象の画像を再構成するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)システムで使用される光子計数検出器(Photon-Counting Detector:PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための装置であって、前記PCDは複数のピクセルを有し、前記装置は、
第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築し、前記第1のモデルパラメータセットは、前記PCD上の入射計数率に依存し、前記PCD内のピクセル位置に依存し、
複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信し、
前記受信された較正データに基づいて前記複数のモデルパラメータを推定する
ように構成された処理回路
を備える、装置。
【請求項9】
前記第1のモデルパラメータセットが、前記入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、前記PCD内の前記ピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、前記処理回路が、
前記PCD出力モデルから導出された前記出力と前記受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、前記複数のモデルパラメータの初期値を推定し、
前記複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミスマッチが最小化されるように、前記第1のサブパラメータセットを決定し、
ピクセル間の変動が最小化されるように、前記第2のサブパラメータセットを決定する
ように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第1のモデルパラメータセットが、
前記PCDの検出器デッドタイムセット、
前記PCDの電荷共有行列セット、および
前記PCDの閾値エネルギーベクトルセット
のうちの1つである、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記処理回路が、
前記構築されたPCD出力モデルとして、前記物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定する
ように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記処理回路が、
前記複数の入射計数率の下で、前記複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された検証データを受信し、
前記受信された検証データに基づいて、前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルの性能を評価する
ように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記処理回路が、
前記PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信し、
前記受信された多数のパラメータに基づいて、前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルを使用して、前記PCDのシミュレーション出力を生成する
ように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項14】
前記処理回路が、
前記CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信し、
前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルに基づいて、前記受信されたスキャンデータを補正する、または前記受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償し、
前記補正されたスキャンデータに基づいて、前記イメージング対象の画像を再構成する
ように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項15】
処理回路によって実行されると、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)システムで使用される光子計数検出器(Photon-Counting Detector:PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法を前記処理回路に実行させるプログラムを記憶した非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記PCDは複数のピクセルを有し、前記方法は、
第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築するステップであって、前記第1のモデルパラメータセットは、前記PCD上の入射計数率に依存し、前記PCD内のピクセル位置に依存する、構築するステップと、
複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信するステップと、
前記受信された較正データに基づいて前記複数のモデルパラメータを推定するステップと
を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記第1のモデルパラメータセットが、前記入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、前記PCD内の前記ピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、前記推定するステップが、
前記PCD出力モデルから導出された前記出力と前記受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、前記複数のモデルパラメータの初期値を推定するステップと、
前記複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミスマッチが最小化されるように、前記第1のサブパラメータセットを決定するステップと、
ピクセル間の変動が最小化されるように、前記第2のサブパラメータセットを決定するステップと
をさらに含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項17】
前記第1のモデルパラメータセットが、
前記PCDの検出器デッドタイムセット、
前記PCDの電荷共有行列セット、および
前記PCDの閾値エネルギーベクトルセット
のうちの1つである、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記構築するステップが、
前記構築されたPCD出力モデルとして、前記物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定するステップ
をさらに含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記方法が、
前記PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信するステップと、
前記受信された多数のパラメータに基づいて、前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルを使用して、前記PCDのシミュレーション出力を生成するステップと
をさらに含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記方法が、
前記CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信するステップと、
前記推定された複数のモデルパラメータを有する前記PCD出力モデルに基づいて、前記受信されたスキャンデータを補正する、または前記受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償するステップと、
前記補正されたスキャンデータに基づいて、前記イメージング対象の画像を再構成するステップと
をさらに含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、光子計数検出器(Photon-Counting Detector:PCD)に基づくX線コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)イメージングシステムに関する。具体的には、本出願は、CTイメージングシステムで使用されるPCDの出力を特徴付けるためのモデルの決定に関する。
【背景技術】
【0002】
PCDベースのCTは、そのエネルギー弁別能力により、従来のエネルギー積分型検出器CTに比べて多くの臨床的利点を提供する。しかし、異なるX線エネルギー準位に対するPCDの応答は線形ではなく、電荷共有(Charge Sharing:CS)およびパルスパイルアップ(Pulse Pileup:PP)などのいくつかの要因によってX線スペクトルが歪む。スペクトル歪みを補償または補正し、PCDの利点を十分に引き出すためには、PCD出力を特徴付けることが重要である。
【0003】
PCDデータを特徴付けるアプローチは、データベースまたはモデルベースであり、データベースのアプローチは、較正ベースまたはディープラーニングベースのいずれかである。較正プロセスを通じて、較正ベースの方法は、フォワードプロセス(すなわち、変数の集合(例えば、減衰物質の厚さ)から測定データの期待値を計算する)またはインバースプロセス(測定データから変数の集合を返す)のための多項式などの経験的関数のパラメータを推定する。ディープラーニングベースの方法は、較正ベースの方法よりもはるかに多くのパラメータを使用し、トレーニングデータからマッピング関数を割り出す。これらのデータベースのアプローチはシンプルで、較正またはトレーニングに使用されるスキャン条件が対象のスキャン条件と一致していれば、正確であり得る。しかし、多くの較正データまたはトレーニングデータが必要であり、テストされていない状態での精度が定かでないため、多大な労力を必要とする。
【0004】
対照的に、モデルベースの方法は、電荷共有およびパルスパイルアップを含む物理的検出プロセスを解析的に解釈し、減衰物質の厚さなどの上流の変数を予想されるPCDデータに関連付ける。これらの方法は、モデルのパラメータが推定され、モデルの挙動が検証されれば、テストされていない条件を扱うことができる。しかし、物理的なPCDのデータとよく一致するモデルを開発するのは非常に難しい。一握りのモデルが物理的なPCDに対して評価されているが、これらのモデルでさえ、電荷共有およびパルスパイルアップの両方が存在する場合、物理的なPCDの出力との視覚的なミスマッチを示している。モデルベースの方法における2つの課題は、モデルとデータのミスマッチが残ること、およびピクセル間の変動である。
【0005】
したがって、モデルとデータのミスマッチの問題を緩和し、より強化されたPCD出力モデルを作成するための方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の一実施形態は、コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法に関する。PCDは複数のピクセルを有する。本方法は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築することを含む。第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する。本方法はまた、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質(basis material)の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信することを含む。本方法はさらに、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定することを含む。
【0007】
本出願の別の実施形態は、コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための装置に関する。PCDは複数のピクセルを有する。本装置は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築するように構成された処理回路を含み、第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する。処理回路はさらに、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信するように構成される。また、処理回路は、受信した較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定するように構成されている。
【0008】
本出願のさらなる実施形態は、処理回路によって実行されると、コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法を処理回路に実行させるプログラムを記憶した非一時的コンピュータ可読媒体に関する。PCDは複数のピクセルを有する。本方法は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築することを含む。第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する。本方法はまた、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信することを含む。本方法はさらに、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本出願の一実施形態によるPCDモデル開発プロセス100のフローチャートを示す。
【
図2】本出願の一実施形態によるPCD出力モデルの較正プロセス200のフローチャートを示す。
【
図3】X線管から照射され、イメージング対象を透過したX線を検出するPCDの構造を示す。
【
図4A】モデルパラメータの推定(26データポイント)および検証(4データポイント)に使用した30データポイントの散布図を、水厚、アルミニウム厚、および管電流値にわたってプロットしたものを示す。
【
図4B】初期の120kVpのスペクトル、および最も減衰したスペクトルを示す。
【
図5A】測定された計数率、およびステップ1で得られたモデルパラメータを用いた修正カスケードPCDモデルからの計数率を示す。
【
図5B】ステップ3で得られたグローバル閾値関数、E
glob(a,c
b)のフィッティング結果を示す。
【
図6】10mA、水16cm、およびアルミニウム0.5cmのテストデータのうち、計数率が最も低い条件での測定されたPCDデータおよび3つのPCDモデルの出力を示す。
【
図7】100mAのブランクスキャンによる、最高計数率条件での測定されたPCDデータおよび3つのPCDモデルの出力を示す。
【
図8A】各ビン、4つのテストデータのそれぞれについて計算された3つのモデルの平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error:MAPE、左軸)、および測定データの変動係数(CV、破線、右軸)を示す。
【
図8B】各ビン、4つのテストデータのそれぞれについて計算された3つのモデルの平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error:MAPE、左軸)、および測定データの変動係数(CV、破線、右軸)を示す。
【
図8C】各ビン、4つのテストデータのそれぞれについて計算された3つのモデルの平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error:MAPE、左軸)、および測定データの変動係数(CV、破線、右軸)を示す。
【
図8D】各ビン、4つのテストデータのそれぞれについて計算された3つのモデルの平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error:MAPE、左軸)、および測定データの変動係数(CV、破線、右軸)を示す。
【
図9】全テストデータの入射計数率に関して計算された、3つのPCDモデルのMAPEを示す。
【
図10】本明細書に開示された技術を組み込むことができる光子計数CTスキャナシステムの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願の様々な態様を実施するための実施形態または実施例は、以下のセクションに記載され得る。構成要素および配置の具体例は、本出願を単純化するために以下で説明される。もちろん、これらは単なる例であり、限定することを意図したものではない。
【0011】
本明細書に記載された異なるステップの説明の順序は、わかりやすくするために提示されている。一般に、これらのステップは、任意の適切な順序で実行することができる。さらに、本明細書の異なる特徴、技術、構成などのそれぞれが、本出願の異なる場所で議論されることがあるが、概念のそれぞれは、互いに独立して、または互いに組み合わせて実行することができることが意図されている。したがって、本出願は、多くの異なる方法で具現化し、熟考することができる。
【0012】
さらに、本明細書で使用する場合、「a」、「an」などの単語は、特に明記しない限り、一般的に「1つ以上」の意味を持つ。
【0013】
前述の課題を克服するため、本出願では高精度PCD出力モデルの開発のための方法および装置を紹介する。計数率に依存する閾値エネルギー関数を組み込むことによって、この方法および装置は、カスケードモデルのグローバルなモデルとデータのミスマッチ、ならびにピクセル間の変動に効果的に対処する。結果として得られるPCD出力モデルは、物理的なPCD出力の正確な推定をもたらす。
【0014】
PCD出力モデルは、測定されたPCDデータとの優れた一致を示し、平均絶対パーセント誤差(MAPE)はすべてのテストデータで5%未満であり、大部分のデータセットで2%未満である。平均すると、すべてのビンにおけるMAPEは1.1~2.4%の範囲に及ぶ。このモデルは、ピクセル単位の精度が重要なアプリケーションに大きく貢献すると期待されている。
【0015】
図1は、本出願の一実施形態によるPCDモデル開発プロセス100のフローチャートを示す。ステップS110では、カスケードPCD出力モデルが構築される。モデルは、条件依存およびピクセル固有の第1のパラメータセットを含む、複数のモデルパラメータを含むことができる。ステップS120では、PCT出力モデルの複数のモデルパラメータは、較正データセットに基づく較正プロセスを通じて推定することができる。オプションとして、ステップS130では、推定されたパラメータを有するPCT出力モデルの性能を検証データセットに基づいて検証することができる。開発されたモデルは、PCDの出力をシミュレートするために使用することができ、PCDの挙動を正確に表現することができる。さらに、開発されたモデルは、測定されたPCD出力データのスペクトル歪みを補正または補償するために使用することができ、信頼性の高い正確な測定結果を保証する。
【0016】
図2は、本出願の一実施形態によるPCD出力モデルの較正プロセス200のフローチャートを示す。プロセスはステップS210から始まり、ここで較正データセットが取得される。これらのデータセットは、
図1のオプションのステップS130で使用される検証データセットとともに、基底物質と複数のX線管電流の様々な組み合わせにわたって実施されたテストから取得することができる。ステップS210では、受信した較正データに基づいて、複数のモデルパラメータの初期値を推定することができる。ステップS230では、第1のパラメータセットの条件依存サブパラメータセットを推定することができ、ステップS240では、第1のパラメータセットのピクセル固有のサブパラメータセットを推定することができる。
【0017】
図1および
図2に示す各プロセスの詳細は、以下のセクションに見出すことができる。
【0018】
I.カスケードPCD出力モデル
カスケードPCD出力モデルは、X線スペクトルを順次変化させ、最終的なスペクトルを出力する4つのプロセス、すなわち、(1)ベールの法則による減衰、(2)モンテカルロシミュレーションから推定することができる電荷共有効果、(3)パルスパイルアップ効果、および(4)エネルギービニングプロセスを記述する。
【0019】
図3は、X線管から照射され、イメージング対象を透過したX線を検出するPCDの構造を示す。X線スペクトルベクトルをnとし、その要素n
Eは、エネルギーE、E∈{1,2,…,E
max}keVにおける仮想的な1keV幅のエネルギーウィンドウ内の光子数を表す。カスケードPCDモデルの出力yは、X線管から照射されるスペクトルベクトルn
0から以下のように計算することができる。
【0020】
【0021】
ここでvは基底物質の厚さベクトル(mm)の集合を示し、τは検出器デッドタイム(秒)、E,thrは閾値エネルギーベクトル(keV)、Ethr=(Ethr,1,…,Ethr,B)Tであり、BはPCDのエネルギービンの数であり、上付き文字Tは転置を示す。初期スペクトルベクトルn0はn0=(k0×dA×l)/R2×S0のように計算することができ、ここで、S0はX線スペクトルの確率質量関数を意味し、k0はX線光子出力率(X線焦点から1mでの計数/s/mA/mm2)、dAは検出器ピクセル面積(mm2)、lは管電流(mA)、Rは線源から検出器までの距離(m)である。すべてのパラメータの中で、k0およびτは、元のモデルで較正によって推定する必要がある唯一のパラメータである。4つの演算子、ΨA、ΨCS、ΨPP、およびΨBについて以下に説明する。
【0022】
A.減衰演算子 ΨA
演算子ΨAは、ベールの法則を使用して、減衰後のスペクトルベクトルnAを次のように計算する。
【0023】
【0024】
ここでM(v(ベクトル量))は減衰行列、M(v(ベクトル量))=diag(exp(-μ1(ベクトル量)v(ベクトル量)),...,exp((-μmax(ベクトル量)v(ベクトル量)))であり、diagは対角演算子、μE(ベクトル量)v(ベクトル量)=μ1,Ev1+μ2,Ev2であり、ここで、μE(ベクトル量)は線形減衰係数ベクトル(mm-1)であり、その要素はX線エネルギーEにおける2つの基底物質の線形減衰係数である。
【0025】
B.電荷共有演算子ΨCS
演算子ΨCSは電荷共有後のスペクトルベクトルnCSを出力する。
【0026】
【0027】
ここでHはCSの効果をモデル化した二次元行列であり、Hの各列はPCDの特定のX線エネルギーで1回の計数入力が与えられた場合に予想されるX線スペクトルを表す。Hはモンテカルロシミュレーションによって求めることができる。
【0028】
モンテカルロシミュレーションは、(i)光電効果の相互作用、(ii)コンプトン散乱、および(iii)相互作用のない透過を含むことができる。相互作用後の蛍光X線放出も考慮することができる。Hは、一次相互作用、二次相互作用など、隣接するPCDからのスピルイン(spill-in)クロストークとスピルアウト(spill-out)クロストークの両方の影響を含むことができる。各列のHの和は、スピルインクロストークのために、1よりも大きくなる可能性があることに注意されたい。
【0029】
C.パルスパイルアップ演算子ΨPP
演算子ΨPPは、入力スペクトルベクトルnCSおよび検出器デッドタイムτに対して、パルスパイルアップ後のスペクトルnPPを返す。
【0030】
【0031】
これは次のように3つの確率の積で表すことができる。
【0032】
【0033】
ここで下付き文字Eは、スペクトルベクトルまたは関数出力のE番目の要素を指す。解析的でない検出モデルを使用することができ、Pr(rec|aτ)は次式で与えられるイベントが記録される確率である。
【0034】
【0035】
ここで、aは入射計数率、a=ΣE_{thr,n}
E_maxΨCS(ΨA(n0,v))である。Ethr、nはノイズカットオフの閾値エネルギーで、例えば10keVである。
【0036】
Pr(m|rec)は、記録されている関心のあるイベントが与えられた場合のm次パルスパイルアップイベントの確率であり、次式で与えられる。
【0037】
【0038】
最後に、Pr(E|m)はm次のパルスパイルアップイベントが与えられた場合の、記録されたエネルギーEの確率である。確率は最低次のパルスパイルアップ(m=0)から高次のものへと順次計算される。記録されたエネルギーは、三角パルスの和の最大パルス高さと仮定され、各三角パルスは、重み付けされたデッドタイムの幅およびX線エネルギーの高さを有する。
【0039】
D.エネルギービニング演算子ΨB
【0040】
演算子ΨBは、スペクトルベクトルを与えられた閾値エネルギーベクトルで積分することによって、以下のようにPCD出力を計算する。
【0041】
【0042】
II.グローバルモデルおよびローカルモデルパラメータ
【0043】
様々な計数率でのカスケードPCD出力モデルのテストを通して、モデルとデータのミスマッチに関して以下の観察結果が得られる。(1)エネルギービンデータのグローバルミスマッチは計数率が小さいほど小さく、計数率が大きくなるにつれて大きくなる、(2)全計数は、調査した総計数範囲において良い一致を示している、(3)低計数率でもピクセル間に大きな変動があり、計数率に依存したわずかな変化はあるものの、計数率に関係なくある程度一貫している。
【0044】
観察結果(1)~(2)は、上記のカスケードPCDモデルが考慮していない計数率に依存する効果の存在を示唆している。また、これらの観察結果は、計数率に依存する効果は、総計数率ではなく、最低閾値エネルギーを上回るスペクトル歪み効果に起因する可能性があることを示唆している。観察結果(3)は、ローカルミスマッチは、ほとんどが計数率に依存しない効果によって引き起こされることを示している。
【0045】
以上の観察結果から、この2種類のミスマッチの原因は互いに異なるものに違いないと結論づけることができる。グローバルミスマッチは、パルス列の計数率に依存するベースラインシフト(すなわち、ベースライン復元を採用しても残る効果)、単純にPPモデルとPCDによるPPの実際の効果のミスマッチ、または他の未知の非線形スペクトル効果のいずれかによって引き起こされる可能性がある。ローカルミスマッチは、CSモデルで使用されているHと実際のCSの効果とのミスマッチ、またはその他の未知の要因に起因している可能性がある。
【0046】
したがって、グローバルミスマッチとローカルミスマッチは、その原因だけでなく、この2つのミスマッチ間で将来起こりうる変化も異なる可能性があるため、別々に対処することが望ましい。
【0047】
上記のカスケードPCD出力モデルには、5つのパラメータセット、すなわち、S0、k0、H、τ、及びEthrがある。本出願の実装形態によれば、Ethrは条件に対して最適化することができる。Hおよび/またはτは、他の実装の条件に対して最適化することができるので、これは制限的なものではないことに留意されたい。
【0048】
A.グローバルミスマッチに対するグローバル閾値エネルギー
上述したように、閾値エネルギーEthrは計数率に依存する変数として選択することができ、非常に低い計数率で較正された値から逸脱する。閾値エネルギーのグローバルな変化は、指数関数を使用してモデル化することができる。なぜなら、様々な計数率に対するグローバルモデルとデータのミスマッチを最小化する最適な閾値エネルギーは、入射計数率の増加とともに単調に減少するからである。
【0049】
エネルギービンbの計数率に依存する閾値エネルギーは、次式によってモデル化することができる。
【0050】
【0051】
【0052】
C=(c1(ベクトル量),…, cB(ベクトル量))をすべてのビンのパラメータのセットとする。すべてのピクセルに対して同じCが使用された。
【0053】
B.ローカルなミスマッチに対するローカル閾値エネルギー
各ピクセルiの閾値エネルギーをモデル化するために、二次の多項式Elocalをグローバル閾値エネルギーに追加することができる。したがって、ビンbとピクセルiの閾値エネルギーEthrは、次式によって計算することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
Di=(d1,i(ベクトル量),…,dB,i(ベクトル量))を、ピクセルiの全ビンのパラメータセットとする。
【0057】
III.モデルパラメータ推定の例示的な手順
上述したように、修正カスケードPCD出力モデルには、7つのパラメータセット、すなわち、S0、k0、H、τ、Ethr,C及びDがある。S0およびHは、CTイメージングシステムの仕様から求めることができる。その他のモデルパラメータは、較正プロセスによって推定することができる。
【0058】
較正プロセスで使用されるPCDデータは、複数のX線管電流において異なる厚さの基底物質で取得することができる。例えば、PCDをX線管から約1m離して設置することができ、管電圧を120kVに設定することができ、管電流を10、25、50、100、200、および400mAに設定することができる。各データセットについて、1秒間に得られた1,200の投影を平均化して、ノイズの影響を減らすことができる。したがって、式(5)のΔtは1/1200秒である。
【0059】
異なる厚さの空気、水、およびアルミニウムスラブの組み合わせで、合計30のデータセットを取得することができる。これには、(25、50、100、200、および400mA)の5つのブランクスキャンデータセット、(1、6、および16cm)の水を用いた50mAの3つのデータセット、ならびに10mAまたは50mAのいずれかでの、それぞれ11の異なる厚さの組み合わせが含まれる。水厚とアルミニウム厚(cm、cm)の11の組み合わせは、(1、0)、(2、0)、(4、0)、(6、0)、(9、0)、(9、0.5)、(12、0)、(12、0.5)、(16、0)、(16、0.5)、および(16、1)であり得る。実効X線エネルギー範囲は[57.6,74.4]keVであり得る。
【0060】
図4Aは、モデルパラメータの推定(26データポイント)および検証(4データポイント)に使用した30データポイントの散布図を、水厚、アルミニウム厚、および管電流値にわたってプロットしたものを示す。
図4Bでは、初期の120kVpのスペクトル、およびデータの中で最も減衰したスペクトルが、実効X線エネルギーとともに示されている。これらの30のデータセットは、十分に広い範囲の計数率および減衰したスペクトルを提供することができる。
【0061】
モデル出力と測定データyb,i
m(a)の誤差を最小化することによってグローバルおよびローカルモデルパラメータ(すなわち閾値エネルギー)を推定しようとすると、最適化ステップのたびにすべてのデータのすべてのピクセルに対してモデル出力を計算する必要があるため、計算コストが高くなる。較正プロセスの計算効率を高めるために、代理戦略(surrogate strategy)を採用することができる。
【0062】
まず、測定されたエネルギービンの出力(すなわち光子数)との一致を最大化するPCD出力モデルの最適な閾値エネルギーを、各ビン、各ピクセル、および各データセットについて求めることができる。次いで、閾値エネルギーに対する計数率に依存する関数を使用して、閾値エネルギーの一致を最大化することによって関数のパラメータを推定することができる。
【0063】
本出願の一実施形態では、較正プロセスは、以下に説明する4つのステップを含むことができる。本出願における「トリミングされたピクセル(trimmed pixel)」という用語は、すべてのデータセットにわたる平均計数から3標準偏差以内のピクセルを指すことに留意されたい。
【0064】
ステップ1(k0、τ、およびEthr
(0)):3つのモデルパラメータ、k0、τ、および最低閾値エネルギーEthr
(0)は、PCD出力モデルybとトリミングされたピクセルの平均y(バー記号)b
mとの総計数の二乗和の差を最小化することによって推定することができる。
【0065】
【0066】
図5Aは、測定された計数率、およびステップ1で得られたモデルパラメータを用いた修正カスケードPCDモデルからの計数率を示す。測定された各計数率とそれに対応するエラーバーは、それぞれTにわたる全ビン計数の平均和と、各スキャン条件における標準偏差である。
【0067】
ステップ2(E´thr,b,i):=(E´thr,l,i´,…,E´thr,B,i)を、ピクセルiのBエネルギービンの閾値エネルギーのベクトルとする。最適なE´thr,B,iは、次式によって求めることができる。
【0068】
【0069】
ここで、E´*
thr,i(a)は共同で最適化され、一意である。
【0070】
ステップ3(グローバルC):式(10)のパラメータのセットcbは、グローバル閾値エネルギーEglob(a,cb)とピクセル上の最適閾値エネルギーの平均との各ビンの二乗差の和を最小化することによって決定することができる。
【0071】
【0072】
図5Bは、ステップ3で得られたグローバル閾値関数、E
glob(a,c
b)のフィッティング結果を示す。マークのそれぞれとそれに対応するエラーバーは、それぞれ、b番目のビンの最適エネルギー閾値の平均値と、Tにわたるの標準偏差を表す。
【0073】
ステップ4(ローカルDi):ピクセル固有の偏差は、トリミングされたピクセルの平均から、ΔEthr,b,i=E(バー記号)´*
thr,b(a)-E´*
thr,b(a)のように計算することができる。次いで、式中(13)のパラメータDiは、各検出器ピクセルiに対して、次式によって最適化される。
【0074】
【0075】
次の3つのモデルの性能を比較することができる。(a)デフォルトの閾値エネルギーと推定された他のモデルパラメータを用いたPCD出力モデル(以下「デフォルトモデル」と呼ぶ)、(b)式(10)を使用して閾値エネルギーをグローバルに最適化したPCDモデル(「グローバルモデル」と呼ぶ)、および(c)式(12)を使用して閾値エネルギーをグローバルおよびローカルに最適化したPCDモデル(「ローカルモデル」と呼ぶ)。
【0076】
図6は、10mA、水16cm、およびアルミニウム0.5cmのテストデータのうち、計数率が最も低い条件での測定されたPCDデータおよび3つのPCDモデルの出力を示す。各ビンの表示ウィンドウは、[μ
b-2.5σ
b,μ
b+2.5σ
b]とすることができ、ここでμ
bとσ
bは、それぞれ、ピクセル上の対応するビン測定値の平均と標準偏差である。各ビンの測定されたPCDデータの平均値を中心とした同じ表示ウィンドウ幅/レベルを、すべてのデータに対して使用することができる(すなわち、中程度の灰色は平均値を示す)。
【0077】
測定されたPCDデータ(一番右の列)は、6つのビンの間である程度一貫したパターンで、ピクセル間の大きな変動を示している。デフォルトモデルの値(一番左の列)は、測定データの平均値から逸脱しており、ビン1~2および6が大きく(明るい灰色)、ビン4が小さく(暗い色)なっている。ビン3および5は良好に見える。
【0078】
グローバルモデルの出力(左から2番目)は、PCD測定値の平均値とよく一致しているが、均一な色で見られるように、個々のピクセルの出力はモデル化されていない。
【0079】
対照的に、ローカルモデルは、測定値にピクセル間の大きな変動があるにもかかわらず、各ピクセル、各ビンについて、測定されたPCDデータと著しくよく似ている。
【0080】
図7は、100mAのブランクスキャンによる、最高計数率条件での測定されたPCDデータおよび3つのPCDモデルの出力を示し、イベントが記録される確率は0.51である。各ビンの表示ウィンドウは、[μ
b-2.5σ
b,μ
b+2.5σ
b]であり、ここでμ
bとσ
bは、それぞれ、ピクセル上の対応するビン測定値の平均と標準偏差である。
【0081】
図7からわかるように、測定されたPCDデータは、
図6よりも6つのビンの間で一貫性のないパターンで、ピクセル間の大きな変動を示している。デフォルトのモデルは、ビン1~2において高い値、およびビン6において低い値を有する。グローバルモデルは、6つのビンのすべてにおいて、測定データの平均値と非常によく一致している。ローカルモデルは、全ピクセル、全ビンにおいて、測定されたPCDデータと優れた一致を有する。ピクセル間の変動は、ローカルモデルによって正しく捉えることができる。
【0082】
モデルとデータの一致度は、MAPEを使用してPCD出力(計数)に関して評価することができ、MAPEは、各ビンに対して独立に、またはすべてのビンに対して、次式によってそれぞれ計算することができる。
【0083】
【0084】
【0085】
ここでn(T)はトリミングされたピクセルの数である。MAPEの標準誤差は、ブートストラップを使用することによって以下のように計算することができる。ブートストラップ再サンプリングは1,000回実行することができ、再サンプリングされたデータごとに上記のプロセスを実行し、1,000個のMAPE値を生成することができる。MAPEの標準誤差は、1000個のMAPE値における標準偏差を表す。計数の変動係数(Coefficient of Variation:CV)もまた、ビン測定値ごとに計算することができる。CVは、ピクセル間の変動に関してビン測定値の相対比較を可能にするからである。
【0086】
図8A~
図8Dは、各ビン、4つのテストデータのそれぞれについて計算された3つのモデルのMAPE(左軸)、および測定データのCV(破線、右軸)を示す。
【0087】
すべてのテストデータについて、デフォルトモデルはビン3~5(すなわち45~80keV範囲)で良好な一致(すなわち5~10%のMAPE)を示すが、ビン1~2(20~45keV)ではモデルとデータのミスマッチが有意(MAPE>30%)であった。ビン1~2および6のグローバルモデルのMAPEは、デフォルトモデルよりもかなり低い。しかし、ビン1では25~35%の範囲で依然として大きく、これは測定データに対して計算されたCVによって示された、ピクセル間の大幅な変動に起因している可能性がある。グローバルモデルのMAPEと測定データのCVには高い相関があるように見える。ローカルモデルのMAPEは、すべてのテストデータで5%未満、ほとんどのデータセットで2%未満である。
【0088】
図9は、全テストデータの入射計数率に関して計算され、aに対してプロットされた、3つのPCDモデルのMAPEを示す。3つのモデルは、入射計数率にほとんど依存しない、一貫した誤差率を有する。MAPEは、デフォルトモデルで44.1~45.2%、グローバルモデルで8.0~9.8%、ローカルモデルで1.1~2.4%である。
【0089】
図6~9に示す比較から、グローバルモデルは、グローバルなモデルとデータのミスマッチに有効であり、ローカルモデルは、ピクセル間の変動を解決するのに有効であることが明らかである。ローカルモデルの場合、すべてのテストデータで各ビンのMAPEは5%未満であり、すべてのビンを平均したMAPEは1.1~2.4%である。したがって、開発されたPCD出力モデルは、グローバルなモデルとデータのミスマッチと、ローカルなモデルとデータのミスマッチ、すなわちピクセル間の変動の両方に対処することができる。さらに、3つのモデルのMAPEは、異なる入射計数率およびX線ビームフィルトレーション(x-ray beam filtration)に対して一貫性がある。これは、4つのテストデータが異なる物質厚さで取得されたため、開発されたPCDモデルの性能がX線スペクトルの変化ならびに入射計数率の変化に対してロバストであることを示している。
【0090】
当業者であれば、CTイメージングにおける開発されたPCD法の様々な潜在的応用を想定することができる。このような応用の一例として、CTイメージングにおける特定条件下にてPCDの出力データを推定するためのシミュレータを挙げることができる。シミュレータのユーザは、X線管の設定、PCTの設定、イメージング物質の厚さなどを含むがこれらに限定されない様々なイメージングパラメータを入力して、シミュレートされたPCD出力を得ることができる。開発されたPCDモデルによって提供される各基本的な検出メカニズムに対する顕著な解釈は、このようなPCDシミュレータを作成する上で大いに役立つであろう。
【0091】
別の例示的な応用として、CTイメージングにおける電荷共有およびパルスパイルアップの影響を緩和するための補正または補償方法の開発がある。開発されたPCTモデルは、例えばCTイメージングシステムの物質弁別または再構成アルゴリズムに組み込むことができる。
【0092】
このアプリケーションの方法をCTシステムのデータ処理パイプラインと統合することによって、開発されたPCD出力モデルは、スペクトル歪みのない出力データの生成を支援することができる。したがって、PCD出力データ(または再構成画像)における電荷共有およびパルスパイルアップによる影響を補正または補償することができる。このアプローチは、画質の向上、コントラスト解像度の強化、およびノイズの低減につながる。このモデルの効率的なパラメータ推定および精度は、このモデルに基づくアルゴリズムにも実用的な利点をもたらす。
【0093】
モデル決定、補正および/または補償アルゴリズムは、
図10を参照して後述するように、光子計数CTスキャナシステムに実装することができる。
図10に示すX線CT装置1は、架台10と、寝台30と、医用イメージング処理装置の処理を実行するコンソール40とを含む。説明の便宜上、
図10は複数の架台10を示している。
【0094】
本実施形態では、非傾斜状態における回転フレーム13の回転軸、すなわち寝台30の天板33の長手方向を「Z軸方向」と定義し、Z軸方向と直交し、床面に対して水平な軸方向を「X軸方向」と定義し、Z軸方向と直交し、床面に対して垂直な軸方向を「Y軸方向」と定義する。
【0095】
例えば、架台10および寝台30はCT検査室に設置され、コンソール40はCT検査室に隣接する制御室に設置される。コンソール40は必ずしも制御室に設置されるわけではない。例えば、コンソール40は、架台10および寝台30とともに同じ部屋に設置することができる。いずれにしても、架台10、寝台30、およびコンソール40は、有線または無線で互いに通信可能に接続されている。
【0096】
架台10は、被検体(またはイメージング対象)Pに対してX線CTイメージングを行うための構成を有するスキャナである。架台10は、X線管11、X線検出器12、回転フレーム13、X線高電圧装置14、制御装置15、ウェッジフィルタ16、コリメータ17、およびデータ収集システム(Data Acquisition System:DAS)18を含む。
【0097】
X線管11は、X線高電圧装置14からの高電圧の印加およびフィラメント電流の供給に応じて、陰極(フィラメント)から陽極(ターゲット)へ熱電子を放出させることによってX線を発生させる真空管である。具体的には、熱電子がターゲットに衝突することによってX線が発生する。X線管11の例としては、回転陽極に熱電子を放出させることによってX線を発生させる回転陽極型のX線管が含まれる。X線管11で発生したX線は、例えばコリメータ17によってコーンビーム状に成形され、被検体Pに適用される。
【0098】
X線検出器12は、X線管11により照射され、被検体Pを透過したX線を検出し、X線量に応じた電気信号をDAS18へと出力する。X線検出器12は、例えば、X線管11の焦点を中心とする円弧に沿ってチャネル方向(X軸方向、すなわち列方向)に整列された複数のX線検出素子をそれぞれ含む複数のX線検出素子列を含む。X線検出器12は、チャネル方向に整列された複数のX線検出素子をそれぞれ含む複数のX線検出素子列がスライス方向(Z軸方向、すなわち列方向)に整列された、アレイ構造を有する。
【0099】
具体的には、X線検出器12は、例えば、入射X線を電気信号に変換する半導体素子を含む直接変換型検出器とすることができる。X線検出器12は、本実施形態によるPCDの一例であり、「PCD12」とも呼ばれる。
【0100】
回転フレーム13は、X線発生器およびX線検出器12を回転軸の周りに回転可能に支持する。具体的には、回転フレーム13は、X線管11がX線検出器12に対向するようにX線管11およびX線検出器12を支持し、後述する制御装置15の制御の下、X線管11およびX線検出器12を回転させる環状のフレームである。回転フレーム13は、アルミニウムなどの金属製の固定フレーム(図示せず)によって回転可能に支持されている。具体的には、回転フレーム13は、固定フレームの端部にベアリングを介して連結されている。回転フレーム13は、制御装置15のドライバから電力を受けながら、回転軸Zを中心に所定の角速度で回転する。
【0101】
X線管11およびX線検出器12に加えて、回転フレーム13には、X線高電圧装置14およびDAS18が含まれ、支持されている。このような回転フレーム13は、イメージング空間を構成するボア19を有するほぼ円筒形の筐体に収納されている。ボアはFOVにほぼ一致する。ボアの中心軸は回転フレーム13の回転軸Zに対応している。DAS18によって生成された検出データは、例えば、架台の非回転部分(固定フレームなど、
図10では図示省略)に配置された送信機(図示せず)から受信機(図示せず)に送信され、コンソール40に転送される。
【0102】
X線高電圧装置14は、変圧器、整流器などの電気回路を含み、X線管11に印加する高電圧およびX線管11に供給するフィラメント電流を発生する機能を有する高電圧発生器と、X線管11によって照射されるX線に応じて出力電圧を制御するように構成されたX線制御装置とを含む。高電圧発生器は、変圧器方式であっても、インバータ方式であってもよい。X線高電圧装置14は、後述する回転フレーム13に設けてもよいし、架台10の固定フレーム(図示せず)に設けてもよい。
【0103】
制御装置15は、CPU(Central Processing Unit)などを含む処理回路と、モータまたは駆動装置などのドライバとを含む。処理回路は、ハードウェア資源として、CPUまたはMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサと、読み出し専用メモリ(Read Only Memory:ROM)またはランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)などのメモリとを含む。制御装置15は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、または他の複合プログラマブルロジックデバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)もしくは単純プログラマブルロジックデバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)によって実現することができる。制御装置15は、コンソール40からの命令に従い、X線高電圧装置14およびDAS18などを制御する。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行することによって、上記の制御を行う。
【0104】
CPUは、本明細書で説明する機能を実行するコンピュータ読み取り可能な命令のセットを含むコンピュータプログラムを実行することができ、プログラムは、上述の非一過性の電子メモリおよび/もしくはハードディスクドライブ、CD、DVD、フラッシュドライブ、またはその他の既知の記憶媒体のいずれかに格納される。さらに、コンピュータ可読命令は、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、もしくはオペレーティングシステムの構成要素、またはそれらの組み合わせとして提供され、当業者に周知のプロセッサおよびオペレーティングシステムと連動して実行され得る。さらに、CPUは、命令を実行するために並行して協同的に動作する、複数のプロセッサとして実行することができる。
【0105】
また、制御装置15は、コンソール40または架台10に取り付けられた後述する入力インターフェース43からの入力信号に応じて、架台10および寝台30の動作制御を行う機能を有する。例えば、制御装置15は、入力信号に応じて、回転フレーム13を回転させる制御、架台10を傾斜させる制御、または寝台30および天板33を動作させる制御を行う。架台10を傾斜させる制御は、架台10に取り付けられた入力インターフェース43を介して入力された傾斜角度情報に基づいて、制御装置15が回転フレーム13をX軸方向と平行な軸周りに回転させることによって実行される。制御装置15は、架台10またはコンソール40のいずれかに設けることができる。制御装置15は、プログラムをメモリに格納するのではなく、プロセッサの回路にプログラムを直接組み込むことによって構成され得る。この場合、プロセッサは、回路に組み込まれたプログラムを読み出して実行することによって、上述の制御を実行する。
【0106】
ウェッジフィルタ16は、X線管11から照射されるX線の線量を調整するためのフィルタである。具体的には、ウェッジフィルタ16は、X線管11から照射されるX線を透過させ、X線管11から被検体Pに照射されるX線が所定の分布を示すようにX線を減衰させるフィルタである。例えば、ウェッジフィルタ16(またはボウタイフィルタ)は、アルミニウムを所定の目標角度および所定の厚みを有するように加工することによって得られるフィルタである。
【0107】
コリメータ17は、ウェッジフィルタ16を透過したX線の適用範囲を絞り込むための鉛板などであり、鉛板などを組み合わせて形成されたスリットを含む。コリメータ17は「X線絞り」と呼ばれる場合もある。
【0108】
DAS18は、X線検出器12によって検出されたX線の計数を示すデジタルデータ(「検出データ」とも呼ばれる)を、複数のエネルギー帯域(「エネルギービン」または単に「ビン」とも呼ばれる)ごとに生成する。検出データは、生成元のX線検出素子のチャネル番号および行番号、収集されたビュー(投影角度ともいう)を示すビュー番号、ならびにエネルギービン番号で識別される計数値のデータのセットである。DAS18は、例えば、検出データを生成することが可能な回路素子を実装した、特定用途向け集積回路(ASIC)によって実現される。検出データはコンソール40に転送される。
【0109】
寝台30は、その上に被検体Pを載せてスキャンし、被検体Pを移動させる装置であり、基台31、寝台駆動装置32、天板33、および支持フレーム34を含む。
【0110】
基台31は、支持フレーム34を鉛直方向に移動可能に支持する筐体である。
【0111】
寝台駆動装置32は、被検体Pが載置された天板33を天板33の長手方向に移動させるモータまたは駆動装置である。寝台駆動装置32は、コンソール40による制御または制御装置15による制御に従って天板33を移動させる。例えば、寝台駆動装置32は、天板33上に載置された被検体Pの体軸と回転フレーム13のボアの中心軸とが一致するように、天板33を被検体Pと直交する方向に移動させる。また、寝台駆動装置32は、架台10を使用して行われるX線CTイメージングに応じて、天板33を被検体Pの体軸方向に移動させ得る。寝台駆動装置32は、制御装置15からの駆動信号のデューティ比に応じた回転速度で駆動することによって発電する。寝台駆動装置32は、ダイレクトドライブモータまたはサーボモータなどのモータによって実現される。
【0112】
支持フレーム34の上面に設けられた天板33は、被検体Pが載置される板である。寝台駆動装置32は、天板33だけでなく、支持フレーム34も天板33の長手方向に移動させ得る。
【0113】
コンソール40は、メモリ41、ディスプレイ42、入力インターフェース43、および処理回路44を含む。メモリ41、ディスプレイ42、入力インターフェース43、および処理回路44間のデータ通信は、バスを介して行われる。コンソール40は架台10とは別体として説明されているが、架台10はコンソール40を含んでいてもよいし、コンソール40の各構成要素の一部を含んでいてもよい。
【0114】
メモリ41は、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)、または集積回路記憶装置などの記憶装置であり、各種の情報を記憶する。メモリ41は、例えば、投影データおよび再構成画像データを記憶する。メモリ41は、HDD、SSDなどに限らず、例えば、CD、DVD、もしくはフラッシュメモリなどの可搬性記憶媒体、またはランダムアクセスメモリ(RAM)などの半導体メモリとの間で各種の情報を読み書きするドライバであってもよい。メモリ41の記憶領域は、X線CT装置1内に設けられていてもよいし、ネットワークを介して接続された外部記憶装置に設けられていてもよい。例えば、メモリ41には、CT画像または表示画像のデータが記憶される。また、メモリ41には、本実施形態による制御プログラムが記憶される。
【0115】
ディスプレイ42は、各種の情報が表示する。例えば、ディスプレイ42は、処理回路44によって生成された医用画像(CT画像)および操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)などを出力する。ディスプレイ42としては、例えば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)、陰極線管(Cathode Ray Tube:CRT)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(Organic Electro Luminescence Display:OELD)、プラズマディスプレイ、または任意の他のディスプレイを適宜使用することができる。ディスプレイ42は架台10に設けられてもよい。ディスプレイ42は、デスクトップ型でもよいし、コンソール40と無線通信可能なタブレット端末によって構成されてもよい。
【0116】
入力インターフェース43は、操作者からの各種入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換し、その電気信号を処理回路44に出力する。例えば、入力インターフェース43は、操作者から、投影データを収集するための収集条件、CT画像を再構成するための再構成条件、CT画像から後処理画像を生成するための画像処理条件などを受け付ける。入力インターフェース43としては、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド、またはタッチパネルディスプレイを適宜使用することができる。本実施形態では、入力インターフェース43は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド、またはタッチパネルディスプレイなどの物理的な操作部品を必ずしも含むものではない。例えば、入力インターフェース43は、装置とは別体に設けられた外部入力装置からの入力操作に対応する電気信号を受信し、その電気信号を処理回路44へ出力する、電気信号処理回路も含む。入力インターフェース43は架台10に設けられてもよい。入力インターフェース43は、コンソール40と無線通信可能なタブレット端末によって構成されてもよい。
【0117】
処理回路44は、入力インターフェース43から出力される入力操作の電気信号に応じて、X線CT装置1の全体の動作を制御する。例えば、処理回路44は、ハードウェア資源として、CPU、MPU、またはグラフィック処理ユニット(Graphics Processing Unit:GPU)などのプロセッサ、およびROMまたはRAMなどのメモリを含む。メモリにロードされたプログラムを実行するプロセッサにより、処理回路44は、システム制御機能441、前処理機能442、再構成機能443、および表示制御機能444を実行する。機能のそれぞれ(システム制御機能441、前処理機能442、再構成機能443、および表示制御機能444)は、必ずしも単一の処理回路によって実現されるものではない。複数の独立したプロセッサを組み合わせることによって処理回路を構成し、プロセッサがそれぞれのプログラムを実行して機能を実現することができる。
【0118】
システム制御機能441は、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、処理回路44の各機能を制御する。具体的には、システム制御機能441は、メモリ41に格納された制御プログラムを読み出して処理回路44内のメモリにロードし、ロードされた制御プログラムに従ってX線CT装置1の各部を制御する。例えば、処理回路44は、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、処理回路44の各機能を実行する。例えば、システム制御機能441は、被検体Pの二次元の位置決め画像を取得し、スキャン範囲、イメージング条件などを決定する。位置決め画像は、「スキャノグラム」または「スカウト画像」とも呼ばれることがある。
【0119】
前処理機能442は、DAS18から出力された検出データに対して、対数変換処理、オフセット補正処理、チャネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正、ならびに、検出器較正、検出器非線形性、極性効果、ノイズバランス、および物質弁別の補正などの、前処理を行うことによって得られるデータを生成する。前処理前のデータ(検出データ)と前処理後のデータを総称して「投影データ」と呼ばれることがある。前処理機能442は、プリプロセッサの一例である。
【0120】
再構成機能443は、前処理機能442によって生成された投影データに対して、フィルタ逆投影法、逐次近似再構成法、確率的画像再構成法などを使用した再構成処理を行うことによって、CT画像データを生成する。再構成機能443は、再構成プロセッサの一例である。必要に応じてCT画像データに画像フィルタリング、スムージング、ボリュームレンダリング、または画像差分処理を適用することができる。表示制御機能444は、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、再構成機能443によって生成されたCT画像データを、所定の断面の断層画像データ、すなわち公知の方法による三次元画像データに変換する。三次元画像データの生成は、再構成機能443によって直接行うことができる。表示制御機能444は、表示制御装置の一例である。
【0121】
一実施態様では、X線管11は、広範なスペクトルのX線エネルギーを照射する単一線源であり、PCD12は、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化亜鉛カドミウム(CZT)、シリコン(Si)、ヨウ化水銀(HgI2)、およびヒ化ガリウム(GaAs)などの半導体をベースとする直接X線放射線検出器を使用することができる。上述したように、半導体ベースの直接X線検出器は、一般的にシンチレータ検出器などの間接検出器よりもはるかに速い時間応答を有する。直接検出器の高速な時間応答により、個々のX線検出イベントを分解することができるが、臨床X線アプリケーションで典型的な高X線束では、検出イベントのいくばくかのパイルアップが発生することがある。検出されたX線のエネルギーは、直接検出器によって生成された信号に比例し、検出イベントは、エネルギービンに整理され、スペクトルCTのためのスペクトル分解されたX線データを得ることができる。
【0122】
上記の教示に照らして、本明細書に提示された実施形態の多数の修正および変形が可能である。したがって、特許請求の範囲内において、本出願は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施され得ることを理解されたい。本発明は、今説明した実施例に限定されるものではない。特に、図示しなかった変形例において、図示した実施例の特徴を互いに組み合わせることが可能である。
【0123】
本開示の実施形態はまた、以下の付記に記載されるようであってもよい。
【0124】
(1) コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法であって、PCDは複数のピクセルを有し、方法は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築するステップであって、第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する、構築するステップと、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信するステップと、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定するステップとを含む方法。
【0125】
(2) 第1のモデルパラメータセットが、入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、PCD内のピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、推定するステップが、PCD出力モデルから導出された出力と受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、複数のモデルパラメータの初期値を推定するステップと、複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミスマッチが最小化されるように、第1のサブパラメータセットを決定するステップと、ピクセル間の変動が最小化されるように、第2のサブパラメータセットを決定するステップとをさらに含む、(1)に記載の方法。
【0126】
(3) 第1のモデルパラメータセットが、PCDの検出器デッドタイムセット、PCDの電荷共有行列セット、およびPCDの閾値エネルギーベクトルセットのうちの1つである、(1)に記載の方法。
【0127】
(4) 構築するステップが、構築されたPCD出力モデルとして、物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定するステップをさらに含む、(1)に記載の方法。
【0128】
(5) 複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された検証データを受信するステップと、受信された検証データに基づいて、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルの性能を評価するステップとをさらに含む、(1)に記載の方法。
【0129】
(6) PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信するステップと、受信された多数のパラメータに基づいて、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを使用して、PCDのシミュレーション出力を生成するステップとをさらに含む、(1)に記載の方法。
【0130】
(7) CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信するステップと、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルに基づいて、受信されたスキャンデータを補正する、または受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償するステップと、補正されたスキャンデータに基づいて、イメージング対象の画像を再構成するステップとをさらに含む、(1)に記載の方法。
【0131】
(8) コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための装置であって、PCDは複数のピクセルを有し、装置は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築し、第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存し、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信し、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定するように構成された処理回路を備える、装置。
【0132】
(9) 第1のモデルパラメータセットが、入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、PCD内のピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、処理回路が、PCD出力モデルから導出された出力と受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、複数のモデルパラメータの初期値を推定し、複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミスマッチが最小化されるように、第1のサブパラメータセットを決定し、ピクセル間の変動が最小化されるように、第2のサブパラメータセットを決定するように構成されている、(8)に記載の装置。
【0133】
(10) 第1のモデルパラメータセットが、PCDの検出器デッドタイムセット、PCDの電荷共有行列セット、およびPCDの閾値エネルギーベクトルセットのうちの1つである、(8)に記載の装置。
【0134】
(11) 処理回路が、構築されたPCD出力モデルとして、物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定するように構成されている、(8)に記載の装置。
【0135】
(12) 処理回路が、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された検証データを受信し、受信された検証データに基づいて、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルの性能を評価するように構成されている、(8)に記載の装置。
【0136】
(13) 処理回路が、PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信し、受信された多数のパラメータに基づいて、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを使用して、PCDのシミュレーション出力を生成するように構成されている、(8)に記載の装置。
【0137】
(14) 処理回路が、CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信し、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルに基づいて、受信されたスキャンデータを補正する、または受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償し、補正されたスキャンデータに基づいて、イメージング対象の画像を再構成するように構成されている、(8)に記載の装置。
【0138】
(15) 処理回路によって実行されると、コンピュータ断層撮影(CT)システムで使用される光子計数検出器(PCD)からの出力を特徴付けるモデルを決定するための方法を処理回路に実行させるプログラムを記憶した非一時的コンピュータ可読媒体であって、PCDは複数のピクセルを有し、方法は、第1のモデルパラメータセットを含む複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを構築するステップであって、第1のモデルパラメータセットは、PCD上の入射計数率に依存し、PCD内のピクセル位置に依存する、構築するステップと、複数の入射計数率の下で、複数の基底物質の組み合わせをスキャンすることによって取得された較正データを受信するステップと、受信された較正データに基づいて複数のモデルパラメータを推定するステップとを含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0139】
(16) 第1のモデルパラメータセットが、入射計数率に依存する第1のサブパラメータセットと、PCD内のピクセル位置に依存する第2のサブパラメータセットとを含み、推定するステップが、PCD出力モデルから導出された出力と受信された較正データとの間の総計数誤差が最小化されるように、複数のモデルパラメータの初期値を推定するステップと、複数のピクセルにわたるグローバルなモデルとデータミマッチが最小化されるように、第1のサブパラメータセットを決定するステップと、ピクセル間の変動が最小化されるように、第2のサブパラメータセットを決定するステップとをさらに含む、(15)に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0140】
(17) 第1のモデルパラメータセットが、PCDの検出器デッドタイムセット、PCDの電荷共有行列セット、およびPCDの閾値エネルギーベクトルセットのうちの1つである、(15)に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0141】
(18) 構築するステップが、構築されたPCD出力モデルとして、物質の減衰効果、電荷共有効果、パルスパイルアップ効果、およびエネルギービニング動作をそれぞれ特徴付けるサブモデルを有するカスケードモデルを決定するステップをさらに含む、(15)に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0142】
(19) 方法が、PCDの動作条件を指定する多数のパラメータを受信するステップと、受信された多数のパラメータに基づいて、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルを使用して、PCDのシミュレーション出力を生成するステップとをさらに含む、(15)に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0143】
(20) 方法が、CTシステムを使用してイメージング対象をスキャンすることによって取得されたスキャンデータを受信するステップと、推定された複数のモデルパラメータを有するPCD出力モデルに基づいて、受信されたスキャンデータを補正する、または受信されたスキャンデータに含まれるスペクトル歪みの影響を補償するステップと、補正されたスキャンデータに基づいて、イメージング対象の画像を再構成するステップとをさらに含む、(15)に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0144】
上記の教示に照らして、本明細書に提示された実施形態の多数の修正および変形が可能である。したがって、特許請求の範囲内において、本開示は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【外国語明細書】