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特開2024-17483短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017483
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/082 20060101AFI20240201BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20240201BHJP
   H02H 3/093 20060101ALI20240201BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H03K17/082
H03K17/08 C
H02H3/093 A
H02J1/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120141
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中神 孝志
(72)【発明者】
【氏名】吉野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 亮
【テーマコード(参考)】
5G004
5G165
5J055
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004BA03
5G165BB04
5G165KA05
5G165LA02
5G165NA01
5G165NA05
5G165NA06
5J055AX34
5J055AX53
5J055AX64
5J055AX66
5J055BX16
5J055CX07
5J055DX13
5J055DX22
5J055EX04
5J055EY01
5J055EY03
5J055EY10
5J055EY12
5J055EY29
5J055EZ01
5J055FX05
5J055FX13
5J055FX20
5J055GX01
5J055GX02
5J055GX05
(57)【要約】
【課題】半導体スイッチ素子を増やすことなく、適切なタイミングで半導体スイッチ素子を短絡電流から保護する。
【解決手段】短絡保護回路は、一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧する分圧回路と、分圧回路の抵抗素子間に一端が接続し、他端が保護対象の半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続し、一端から他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子と、分圧回路の他端に接続するRC並列回路と、半導体スイッチ素子がON状態の場合に、RC並列回路のキャパシタ素子の電圧に基づいて導線に短絡電流が流れていることを検出すると、半導体スイッチ素子をOFF状態にする駆動部と、を備え、半導体整流素子の浮遊容量は、短絡電流が導線に流れた際に、RC並列回路のキャパシタ素子の分圧回路に接続する一端の電圧が当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるという条件を満たす浮遊容量である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧する分圧回路と、
前記分圧回路の抵抗素子間に一端が接続し、他端が保護対象の半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続する半導体整流素子であって前記一端から前記他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子と、
前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路と、
前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路に備えられるキャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする駆動部と、を備え、
前記半導体整流素子の浮遊容量は、
前記短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たす浮遊容量である、
短絡保護回路。
【請求項2】
前記分圧回路は、前記電源に一端で直接接続する抵抗素子を備えており、
前記半導体整流素子の前記一端は、前記抵抗素子の他端に接続しており、
前記抵抗素子の抵抗値をRとし、前記電源電圧の電圧値をVCCとし、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の静電容量をCとし、前記半導体スイッチ素子の前記電流流入側の端子と、前記半導体スイッチ素子の電流流出側の端子との間の電圧変化をdVds/dtとし、前記半導体整流素子の浮遊容量をCd1とした場合、
前記Cd1は、
1/{(3×dVds/dt×R)/VCC-1/C}>Cd1
の条件式を満たす、
請求項1に記載の短絡保護回路。
【請求項3】
前記条件式において前記R以外の変数を予め定めた固定値とし、前記Rを調整して前記条件式を満たす前記Rを選択する、
請求項2に記載の短絡保護回路。
【請求項4】
前記半導体整流素子は、半導体ダイオードであり、
前記条件式において前記Cd1以外の変数を予め定めた固定値とし、前記半導体ダイオードのPN接合面の面積を調整して、前記条件式を満たす前記Cd1を選択する、
請求項2に記載の短絡保護回路。
【請求項5】
前記半導体整流素子は、直列に接続した複数の半導体ダイオードで構成されており、
前記条件式において前記Cd1以外の変数を予め定めた固定値とし、直列に接続した前記半導体ダイオードの個数を調整して、前記条件式を満たす前記Cd1を選択する、
請求項2に記載の短絡保護回路。
【請求項6】
半導体スイッチ素子と、
一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧する分圧回路と、
前記分圧回路の抵抗素子間に一端が接続し、他端が前記半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続する半導体整流素子であって前記一端から前記他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子と、
前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路と、
前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路に備えられるキャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする駆動部と、を備え、
前記半導体整流素子の浮遊容量は、
前記短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるという条件を満たす浮遊容量である、
半導体装置。
【請求項7】
分圧回路が、一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧し、
前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路が備えるキャパシタ素子が、供給される電流に基づいて充電を行い、
一端から他端の方向が整流方向である半導体整流素子であって、前記分圧回路の抵抗素子間に前記一端が接続し、前記他端が保護対象の半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続し、短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たす浮遊容量を有する半導体整流素子が、自らの前記一端の電圧が、自らの前記他端の電圧よりも高い場合に、前記整流方向に電流を導通させ、
駆動部が、前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に前記短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする、
短絡保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パワー半導体であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の過電流を検出抵抗(特許文献1の図1の過電流検出抵抗7)によって検出して、パワー半導体を過電流から保護する保護回路が開示されている。ただし、当該保護回路を用いて電流値が大きい短絡電流に対する保護を行おうとしても、検出抵抗が大きな電流値の短絡電流に耐えることができないという問題がある。そのため、例えば、高出力の電力変換器などの短絡保護のために、特許文献1に開示されている保護回路を用いることができない。
【0003】
これに対して、電流値が大きい短絡電流が発生しても短絡保護を行うことができる短絡保護回路として、例えば、非特許文献1の42ページのFigure5-11(b)に示されるDESAT(Desaturation fault detection)方式の短絡保護回路が一般的に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07-297695号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“SiC パワーデバイス・モジュール アプリケーションノート Rev.003“、[Online]、2020年8月、ローム株式会社、[2022年6月24日検索]、インターネット<https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/applinote/discrete/sic/common/sic_appli-j.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9は、一般的なDESAT方式の短絡保護回路を示す回路図である。図9では、保護対象の半導体スイッチ素子101の一例として、Nチャネルのエンハンスメント型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を示している。例えば、導線108に接続する図示しない他の半導体スイッチ素子などの回路素子が故障した状態になっている場合に、半導体スイッチ素子101がON状態になると、大きな電流値の短絡電流Iが導線108に流れることになる。
【0007】
図10は、短絡電流Iが導線108に流れ始めた際の過渡的な状態における短絡電流Iの変化を示すグラフ201と、半導体スイッチ素子101のドレイン・ソース間電圧Vds(以下、DS間電圧Vdsという)変化を示すグラフ202と、駆動部107(DESAT方式の短絡保護回路を内蔵したゲートドライブ回路)のDESAT端子111の電圧であるDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフ203とを示す図である。図10において、横軸は、経過時間を示す時間軸であり、単位は、[μ秒]である。左側の縦軸は、グラフ201を対象とする場合、電流の大きさを示す軸になり、この場合、単位は「A」になる。また、左側の縦軸は、グラフ202を対象とする場合、電圧の大きさを示す軸になり、この場合、単位は「V」になる。右側の縦軸は、グラフ203に対する電圧の大きさを示す軸であり、単位は、「V」である。
【0008】
半導体スイッチ素子101がON状態になって、短絡電流Iが導線108に流れ始めると、グラフ201に示すように、短絡電流Iが増加し始める。短絡電流Iが増加し始めると、導線108に存在する寄生インダクタンス成分Lによって、L・dI/dtの電圧降下が発生する。そのため、グラフ202に示すように、符号211で示す区間においてDS間電圧Vdsが減少する。このDS間電圧Vdsの減少のために、グラフ203に示すように、符号212で示す区間においてDESAT電圧VDESATが低下する。その後、電源109から抵抗102,103を介して供給される電流によって、DESAT回路の外付け部品のブランキングコンデンサ105(キャパシタ素子)に電荷が蓄積されて充電されると、DESAT電圧VDESATが増加する。駆動部107は、DESAT端子111において検出する電圧が、符号213の破線で示す閾値のレベルに到達すると、半導体スイッチ素子101をOFF状態にする。これにより、グラフ201に示すように、短絡電流Iは、減少して0[A]になり、半導体スイッチ素子101を短絡電流Iから保護することができる。
【0009】
DS間電圧Vdsの減少のために、DESAT電圧VDESATが低下する現象は、例えば、半導体スイッチ素子101として、SiC(Silicon Carbide)の高速スイッチングパワー半導体を適用する場合に、高速スイッチングに対応するために、ブランキングコンデンサ105の静電容量を小さくする場合などに見られる現象である。DESAT方式による短絡保護を行う際の設計において想定しているDESAT電圧VDESATの変化は、図10において点線で示すグラフ204のように、短絡電流Iが流れたとしても、DESAT電圧VDESATが低下しない変化である。DESAT電圧VDESATが低下しない場合、グラフ204に示すように、DESAT電圧VDESATが閾値に到達するまでの時間も短くなる。グラフ203に示す変化をした場合と、グラフ204に示す変化をした場合とにおけるDESAT電圧VDESATが閾値に到達するまでの時間差は、符号214で示すように数十ナノ秒程度である。
【0010】
しかしながら、この数十ナノ秒程度の時間差により、駆動部107は、本来、短絡保護を開始することができるタイミングで短絡保護を開始することができず、半導体スイッチ素子101に対して短絡電流Iが流れる時間も増加するという問題がある。この問題を解決するために、例えば、半導体スイッチ素子101を並列化するという対応策が採用されることもある。しかし、この対応策を採用すると、半導体スイッチ素子101の個数が増加して高コストになり、更に、基板の面積増加や出力低下によって出力密度が低下してしまうという問題がある。
【0011】
本開示は、上記課題を解決すべくなされたものであって、半導体スイッチ素子を増やすことなく、適切なタイミングで半導体スイッチ素子を短絡電流から保護することができる短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示に係る短絡保護回路は、一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧する分圧回路と、前記分圧回路の抵抗素子間に一端が接続し、他端が保護対象の半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続する半導体整流素子であって前記一端から前記他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子と、前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路と、前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路に備えられるキャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする駆動部と、を備え、前記半導体整流素子の浮遊容量は、前記短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たす浮遊容量である。
【0013】
本開示に係る半導体装置は、半導体スイッチ素子と、一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧する分圧回路と、前記分圧回路の抵抗素子間に一端が接続し、他端が前記半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続する半導体整流素子であって前記一端から前記他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子と、前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路と、前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路に備えられるキャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする駆動部と、を備え、前記半導体整流素子の浮遊容量は、前記短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるという条件を満たす浮遊容量である。
【0014】
本開示に係る短絡保護方法は、分圧回路が、一端において接続する電源から供給される電源電圧を分圧し、前記分圧回路の他端に接続するRC並列回路が備えるキャパシタ素子が、供給される電流に基づいて充電を行い、一端から他端の方向が整流方向である半導体整流素子であって、前記分圧回路の抵抗素子間に前記一端が接続し、前記他端が保護対象の半導体スイッチ素子の電流流入側の端子に接続する導線の経路上に接続し、短絡電流が前記導線に流れた際に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の前記分圧回路に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子の他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たす浮遊容量を有する半導体整流素子が、自らの前記一端の電圧が、自らの前記他端の電圧よりも高い場合に、前記整流方向に電流を導通させ、駆動部が、前記半導体スイッチ素子がON状態の場合に、前記RC並列回路の前記キャパシタ素子の電圧に基づいて前記導線に前記短絡電流が流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子をOFF状態にする。
【発明の効果】
【0015】
本開示の短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法によれば、半導体スイッチ素子を増やすことなく、適切なタイミングで半導体スイッチ素子を短絡電流から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の実施形態に係る半導体装置の構成例を示す回路図である。
図2】本開示の実施形態に係る通常状態における半導体装置の動作例を示す図(その1)である。
図3】本開示の実施形態に係る通常状態における半導体装置の動作例を示す図(その2)である。
図4】本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の動作例を示す図である。
図5】本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の過渡的な期間における動作例を示す図である。
図6】本開示の実施形態に係るコンピュータシミュレーションにより算出した異なる浮遊容量ごとのDESAT電圧の変化を示す図である。
図7】本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の過渡的な期間におけるキャパシタ素子に起因して生じる電流の経路を示す図である。
図8】一般的な半導体ダイオードにおける浮遊容量を説明する図である。
図9】DESAT方式による短絡保護を説明するための図である。
図10】DESAT方式による短絡保護が行われる際の短絡電流、DESAT電圧、DS間電圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(半導体装置の構成例)
以下、本開示の実施形態に係る短絡保護回路、半導体装置、及び短絡保護方法について、図1図8を参照して説明する。図1は、本開示の実施形態に係る半導体装置の構成例を示す回路図である。図2図3は、本開示の実施形態に係る通常状態における半導体装置の動作例を示す図である。図4は、本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の動作例を示す図である。図5は、本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の過渡的な期間における動作例を示す図である。図6は、本開示の実施形態に係るコンピュータシミュレーションにより算出した異なる浮遊容量ごとのDESAT電圧の変化を示す図である。図7は、本開示の実施形態に係る短絡電流が流れる場合の半導体装置の過渡的な期間におけるキャパシタ素子に起因して生じる電流の経路を示す図である。図8は、一般的な半導体ダイオードにおける浮遊容量を説明する図である。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0018】
図1は、本開示の実施形態に係る半導体装置1の構成例を示す回路図である。半導体装置1は、例えば、電力変換器やインバータなどに適用される装置であり、インバータに適用される場合、半導体装置1に備えられる半導体スイッチ素子11が、インバータの1つのアームに対応することになる。半導体装置1は、半導体スイッチ素子11、分圧回路12、電源13、半導体整流素子14、RC(Resister Capacitor)並列回路15、駆動部16、及び抵抗素子17を備える。
【0019】
半導体スイッチ素子11は、短絡電流からの保護対象になる回路素子であり、例えば、SiCなどの高速スイッチングパワー半導体である。図1では、一例として、Nチャネルのエンハンスメント型のMOSFETを示している。半導体スイッチ素子11において、ドレイン端子は、電流流入側端子であり、導線61に接続する。ソース端子は、電流流出側端子であり、導線62に接続する。ゲート端子は、半導体スイッチ素子11をON状態にする電圧が印加される端子であり、いわゆるゲート抵抗である抵抗素子17を介して駆動部16のOUT端子54に接続する。
【0020】
分圧回路12は、直列に接続する抵抗素子21と、抵抗素子22とを備える。分圧回路12は、一端、より詳細には、抵抗素子21の一端が電源13に接続する。分圧回路12は、電源13から供給されるVCCの電圧値の電源電圧を分圧する。以下、抵抗素子21の抵抗値をRで示し、抵抗素子22の抵抗値をRで示す。
【0021】
半導体整流素子14は、例えば、半導体ダイオードであり、アノード側が分圧回路12の抵抗素子21と抵抗素子22との間の接続点66に接続し、カソード側が導線61の経路上に存在する接続点65において導線61に接続する。
【0022】
RC並列回路15は、並列に接続するキャパシタ素子31と、抵抗素子32と備える。ここで、キャパシタ素子31は、例えば、DESAT回路の外付け部品のブランキングコンデンサである。RC並列回路15は、一端、より詳細には、キャパシタ素子31及び抵抗素子32の一端において、分圧回路12の他端である抵抗素子22と、駆動部16のDESAT端子52とに接続する。RC並列回路15の他端、より詳細には、キャパシタ素子31及び抵抗素子32の他端は、導線62に接続する。以下、キャパシタ素子31の静電容量をCで示し、抵抗素子32の抵抗値をRで示す。
【0023】
駆動部16は、例えば、DESAT方式の短絡保護回路を内蔵したゲートドライブ回路であり、駆動処理部41、半導体ダイオード42,43、スイッチ44、IN端子51、DESAT端子52、GND端子53、及びOUT端子54を備える。半導体ダイオード42は、アノード側がDESAT端子52に接続し、カソード側がIN端子51に接続する。半導体ダイオード43は、アノード側がGND端子53に接続し、カソード側がDESAT端子52に接続する。スイッチ44は、DESAT端子52と、GND端子53とに接続する。IN端子51は、電源13に接続する。GND端子53は、導線62に接続する。導線62は、電源13のGNDに接続されている。
【0024】
駆動処理部41は、例えば、ゲートドライバIC(Integrated Circuit)である。駆動処理部41がOUT端子54に対して電圧を印加することにより、抵抗素子17を介して半導体スイッチ素子11のゲート端子に電圧が印加される。ゲート端子に電圧が印加されると、半導体スイッチ素子11がON状態になり、ドレイン端子とソース端子との間が導通する。これに対して、駆動処理部41がOUT端子54に対する電圧の印加を停止することにより、半導体スイッチ素子11がOFF状態になり、ドレイン端子とソース端子との間の導通が遮断されることになる。駆動処理部41は、OUT端子54に対して電圧を印加しない場合、スイッチ44を接続状態にする。この場合、DESAT端子52とGND端子53とがスイッチ44を介して短絡される状態になる。駆動処理部41は、OUT端子54に対して電圧を印加する場合、スイッチ44を開放状態にする。この場合、DESAT端子52とGND端子53とがスイッチ44を介して短絡されない状態になる。
【0025】
駆動処理部41は、DESAT端子52において検出する電圧が、予め定められる閾値以上になると、OUT端子54に対する電圧の印加を停止して、半導体スイッチ素子11をOFF状態にする短絡保護の処理を行う。
【0026】
(通常状態における半導体装置の動作例)
図2及び図3を参照しつつ、通常状態における半導体装置1の動作について説明する。ここで、通常状態とは、導線61に流れる電流の電流値が定格の電流値を満たす状態のことをいう。図2は、駆動部16の駆動処理部41が、OUT端子54に対して電圧を印加していない状態を示しており、半導体スイッチ素子11は、OFF状態である。駆動処理部41は、OUT端子54に対して電圧を印加しない場合、スイッチ44を接続状態にするため、DESAT端子52とGND端子53とが、スイッチ44を介して短絡される状態になる。この場合、電源13から分圧回路12を介して供給される電流は、DESAT端子52、スイッチ44、GND端子53を介して、電源13のGNDに接続されている導線62に流出することになる。したがって、RC並列回路15のキャパシタ素子31は充電されず、DESAT端子52の電圧は、「0V」になるため、駆動処理部41は、短絡保護の処理を行わない。
【0027】
図3は、駆動部16の駆動処理部41が、OUT端子54に対して電圧を印加している状態を示しており、半導体スイッチ素子11は、ON状態になる。駆動処理部41は、OUT端子54に対して電圧を印加する場合、スイッチ44を開放状態にするため、DESAT端子52とGND端子53とが、スイッチ44を介して短絡されない状態になる。半導体スイッチ素子11が、ON状態になると、定格の電流値を満たす電流値の電流Iが、導線61に供給される。電流Iは、半導体スイッチ素子11のドレイン端子とソース端子の間を流れ、これにより、接続点65において、数ボルト未満のDS間電圧Vdsが生じることになる。分圧回路12の抵抗素子21の抵抗値Rと、抵抗素子22の抵抗値Rとは、電源13の電源電圧VCCを分圧して生じる接続点66の電圧が、電流Iが流れる際に生じるDS間電圧Vdsよりも高くなるように設計されている。そのため、電源13から供給される電流Iは、半導体整流素子14と、導線61とを介して、半導体スイッチ素子11に流れていくことになる。
【0028】
ところで、半導体スイッチ素子11のゲート端子に電圧が印加されると、直ちにドレイン端子とソース端子の間に電流Iが流れるわけではなく、ドレイン端子とソース端子の間に電流Iが流れ始めて図3の状態になるまでの過渡的な期間が存在する。この過渡的な期間では、スイッチ44が開放されている状態であって、かつ接続点66の電圧よりも接続点65の電圧が高くなる状態になる。そのため、キャパシタ素子31には、電源13から分圧回路12を介して電流が供給されて充電されることになる。ただし、抵抗素子21の抵抗値R、抵抗素子22の抵抗値R、抵抗素子32の抵抗値R、キャパシタ素子31の静電容量Cは、この過渡的な期間の間に、キャパシタ素子31が充電されたとしても、DESAT端子52の電圧が、閾値未満になるように予め設計されている。そのため、通常状態における動作では、過渡的な期間を含めて、駆動処理部41は、短絡保護の処理を行うことはない。
【0029】
(短絡電流が流れる場合の半導体装置の動作例)
図4及び図5を参照しつつ、短絡電流が流れる場合の半導体装置1の動作について説明すると共に、図10を参照して説明したDESAT電圧VDESATが、符号212で示す区間において低下するメカニズムについて説明する。
【0030】
例えば、半導体装置1の半導体スイッチ素子11が、インバータの下側のアームとして適用されているとする。また、導線61には、図示しない上側のアームの半導体スイッチ素子が接続しており、当該半導体スイッチ素子が故障状態してドレイン端子とソース端子との間が短絡状態になっているとする。この場合において、駆動処理部41が、OUT端子54に電圧を印加すると、半導体スイッチ素子11がON状態になり、短絡電流Iが導線61に流れ始める。
【0031】
短絡電流Iの大きさは、通常状態の場合に導線61を流れる電流Iの大きさの数倍、または、十倍ぐらいの大きさである。半導体スイッチ素子11のDS間電圧Vdsは、ドレイン端子とソース端子との間に流れる電流の電流値が大きくなると増加する。そのため、半導体スイッチ素子11のDS間電圧Vdsの電圧は、短絡電流Iが導線61に流れる場合、通常状態の電流Iが導線61に流れる場合よりも大きくなる。短絡電流Iが導線61に流れる場合、接続点65の電圧が、接続点66の電圧よりも高くなるように、分圧回路12及びRC並列回路15は予め設計されている。したがって、短絡電流Iが導線61に流れた場合、電源13から抵抗素子21を介して供給される電流Iは、半導体整流素子14には流れず、抵抗素子22を経由してRC並列回路15に流れることになる。
【0032】
RC並列回路15に供給された電流Iがキャパシタ素子31に供給されると、キャパシタ素子31が充電され、DESAT端子52の電圧が増加する。駆動処理部41は、DESAT端子52の電圧が、閾値以上になると、OUT端子54に対する電圧の印加を停止して、半導体スイッチ素子11をOFF状態にする。これにより、半導体スイッチ素子11が、短絡電流Iから保護されることになる。
【0033】
図5は、半導体スイッチ素子11がON状態になり、導線61に短絡電流Iが流れ始めて、図4に示す状態に到るまでの間の過渡的な期間における半導体装置1の状態を示す図である。半導体スイッチ素子11がON状態になっても、直ちにドレイン端子とソース端子の間に短絡電流Iが流れない。そのため、半導体スイッチ素子11のDS間電圧Vdsは、半導体スイッチ素子11がOFF状態の場合におけるDS間電圧Vds、すなわちDC電圧に維持される。短絡電流Iが増加していくと、接続点65から半導体スイッチ素子11のドレイン端子の間の導線61に存在する寄生インダクタンス成分LのためにL・dI/dtの電圧降下が発生する。そのため、DS間電圧Vdsは、図10のグラフ202に示すように、符号211で示す区間において減少していく。
【0034】
DS間電圧Vdsが減少すると、接続点65と、接続点66との間の電圧、すなわち半導体整流素子14の両端の電圧も変化する。この電圧変化をdVds/dtとする。この場合、半導体整流素子14において、半導体整流素子14の浮遊容量Cd1に応じたCd1・dVds/dtの電流値の電流であって、アノード側からカソード側に流れる電流が生じることになる。図5において、当該電流が流れる方向を示すと、破線の矢印で示す電流Iとして示すことができる。ただし、電流Iの電流値は、dVds/dtの電圧変化に応じてキャパシタ素子31において生じる電流も含まれるため、半導体整流素子14において生じる電流の電流値であるCd1・dVds/dtに一致しない。
【0035】
したがって、図5に示すように、キャパシタ素子31には、電源13から分圧回路12を介して供給される電流Iと、電流Iの方向とは逆方向の電流Iとが、供給されることになる。ここで、電流Iの電流値をIで表し、電流Iの電流値をIで表した場合に、I<Iになると、キャパシタ素子31の導線62に接続する側の端子が、正極になって充電される。そのため、図10の符号212で示す区間においてDESAT端子52の電圧が低下する現象が生じることになる。
【0036】
(半導体整流素子の浮遊容量Cd1の条件)
図10の符号212で示す区間においてDESAT端子52の電圧が低下する現象が生じないようにするためには、短絡電流Iが流れ始めて、図4に示す状態に到るまでの間の過渡的な期間において、常時、I>Iの状態になっている必要がある。
【0037】
図6は、予め定めるシミュレーション条件下で、5種類の浮遊容量Cd1の半導体整流素子14の各々を半導体装置1に適用して、導線61に短絡電流Iを流した場合のDESAT電圧VDESATの変化をコンピュータシミュレーションにより生成したグラフである。ここで、予め定めるシミュレーション条件とは、VCC=17V、R=4.7kΩ、R=130kΩ、C=10pF、dVds/dt=400V/μ秒とする条件である。
【0038】
図6において、横軸は、経過時間を示す時間軸であり、単位は、[μ秒]である。縦軸は、DESAT電圧VDESATの大きさを示す軸であり、単位は[V]である。グラフ81は、浮遊容量Cd1が「0.1pF」の半導体整流素子14を適用した場合のDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフである。グラフ82は、浮遊容量Cd1が「5.1pF」の半導体整流素子14を適用した場合のDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフである。グラフ83は、浮遊容量Cd1が「10.1pF」の半導体整流素子14を適用した場合のDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフである。グラフ84は、浮遊容量Cd1が「20.1pF」の半導体整流素子14を適用した場合のDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフである。
【0039】
グラフ85は、浮遊容量Cd1を「20.1pF」よりも十分に大きな値にした半導体整流素子14を適用した場合のDESAT電圧VDESATの変化を示すグラフであり、この場合、DESAT電圧VDESATは、駆動部16の半導体ダイオード43の順方向電圧によってクランプされる。すなわち、DESAT電圧VDESATは、半導体ダイオード43の順方向電圧以下にはならず、0.75~1.25μ秒の付近の区間において、半導体ダイオード43の順方向電圧に一致する値を維持することになる。図6のグラフから分かるように、半導体整流素子14の浮遊容量Cd1を、例えば、「0.1pF」から「5.1pF」の間の値にすることにより、短絡電流Iが導線61に流れたとしても、DESAT電圧VDESATが0V以下にならず、I>Iの状態に維持することができることが分かる。
【0040】
(浮遊容量Cd1の条件)
図7を参照しつつ、短絡電流Iが流れたとしてもI>Iの状態を維持する半導体整流素子14の浮遊容量Cd1の条件について説明する。ここでは、当該条件を特定するために、電流I及び電流Iの電流値が最大値になる状態を想定する。図7では、半導体装置1の回路構成に対して、電気回路における重ね合わせの理に基づいて、電源13が接地する経路を補っており、これにより、電源13が、導線62に接続しているとみなすことができる。図7において、電流Iの経路を示すと、キャパシタ素子31の充電に関与する電流IBC1が流れる経路と、キャパシタ素子31の充電に関与しない電流IBR1が流れる経路とに分けて示すことができる。電流IBC1は、破線と点線の矢印で示す経路を流れ、電流IBR1は、一点鎖線と点線の矢印で示す経路を流れることになる。つまり、点線の矢印で示す経路は、電流IBC1と、電流IBR1とが重畳している経路になる。なお、図7は、電流I及び電流Iの電流値が最大値になる状態を表す図である。電流I及び電流Iの電流値が最大値になる状態とは、RC並列回路15に供給される電流が、抵抗素子32には流れず、全てキャパシタ素子31の充電に用いられる状態である。そのため、図7では、抵抗素子32を経由する電流Iの経路を示していない。
【0041】
<電流Iについて>
キャパシタ素子31を正の電圧で充電する電流Iの最大値IAmaxは、次式(1)で表される。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、キャパシタ素子31を正の電圧で充電するとは、DESAT端子52に接続するキャパシタ素子31の端子の電圧が、GND端子53に接続するキャパシタ素子31の端子の電圧よりも高い状態で、キャパシタ素子31を充電することをいう。これに対して、キャパシタ素子31を負の電圧で充電するとは、DESAT端子52に接続するキャパシタ素子31の端子の電圧が、GND端子53に接続するキャパシタ素子31の端子の電圧よりも低い状態で、キャパシタ素子31を充電することをいう。
【0044】
例えば、式(1)に対して、上記したシミュレーション条件の数値を代入するとIAmax≒126μAになる。
【0045】
<電流Iについて>
DS間電圧Vdsの変化、すなわちdVds/dtによってキャパシタ素子31を負の電圧に充電する電流Iの最大値IBmaxを、以下のようにして算出することができる。半導体整流素子14の浮遊容量Cd1と、キャパシタ素子31の静電容量Cとの直列合成容量Cは、次式(2)で表される。
【0046】
【数2】
【0047】
したがって、dVds/dtの電圧変化によって発生する電流Iの最大値IBmaxは、次式(3)で表される。
【0048】
【数3】
【0049】
上記したキャパシタ素子31の充電に関与する電流IBC1の最大値であるIBC1maxと、キャパシタ素子31の充電に関与しない電流IBR1の最大値であるIBR1maxとを、電流Iの最大値IBmaxを用いて表すと、それぞれ次式(4),(5)として表すことができる。
【0050】
【数4】
【0051】
【数5】
【0052】
式(4)に対して、上記したシミュレーション条件の数値を代入し、更に、Cd1=20pFを代入するとIBC1maxは、約90μAになる。また、Cd1=4pFを代入するとIBC1maxは、約40μAになり、Cd1=5.1pFを代入するとIBC1maxは、約47μAになる。図6を参照して説明したように、「0.1pF」から「5.1pF」の間の値にすることにより、短絡電流Iが導線61に流れたとしても、DESAT電圧VDESATが0V以下にならず、キャパシタ素子31が正の電圧で充電されることになる。
【0053】
上記したように、式(1)にシミュレーション条件の数値を代入して算出した電流Iの最大値IAmaxは、約126μAである。126μAは、Cd1=4pFの場合のIBC1maxの値である40μAの3.2倍の電流値であり、Cd1=5.1pFの場合のIBC1maxの値である47μAの2.7倍の電流値である。したがって、シミュレーションの結果より、キャパシタ素子31に供給される電流Iの最大値IAmaxが、電流Iとは逆向きにキャパシタ素子31に供給される電流IBC1の最大値IBC1maxの3倍程度の大きさになっていれば、キャパシタ素子31が正の電圧で充電されると推測される。
【0054】
そこで、IAmax×1/3>IBC1maxという条件式を定義し、当該条件式に、式(1)と、式(3)と、式(4)とを適用すると、次式(6)が得られることになる。
【0055】
【数6】
【0056】
+R>0であることから、式(6)を、次式(7)に変形することができる。
【0057】
【数7】
【0058】
dVds/dtは、図10の符号211で示す区間のDS間電圧Vdsの傾きであるため、符号はマイナスである。ただし、ここでは、定義したIAmax×1/3>IBC1maxという条件式から分かるように電流の向きは考慮せず、電流の大きさのみを考慮しているため、dVds/dtは、絶対値として考えることができる。したがって、dVds/dt>0であり、R>0であることから、式(7)を、式(2)を踏まえて、次式(8)に変形することができる。
【0059】
【数8】
【0060】
>0、Cd1>0であることから、(1/C+1/Cd1)>0になるので、式(8)を、次式(9)に変形することができる。
【0061】
【数9】
【0062】
式(9)において、1/Cを右辺に移項すると、次式(10)になる。
【0063】
【数10】
【0064】
式(10)の右辺が、正である場合、式(10)を次式(11)に変形することができる。
【0065】
【数11】
【0066】
式(11)に対して、例えば、シミュレーション条件の数値を代入すると、Cd1<4.313pFになる。Cd1<4.313pFは、5.1pFよりも小さい条件を示しており、図6に示すコンピュータシミュレーションにも合致していることが分かる。
【0067】
したがって、式(11)満たすように設計された半導体装置1を用いることにより、短絡電流Iが導線61に流れた際に、I>Iの条件、言い換えると、キャパシタ素子31の分圧回路12に接続する一端の電圧が、キャパシタ素子31の導線62に接続する他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たすことができる。そのため、短絡電流Iが、導線61に流れたとしても、図10の符号212で示す区間においてDESAT電圧VDESATは、低下せず、図10の符号204で示す変化を示すことになる。これにより、半導体スイッチ素子11を増やすことなく、適切なタイミングで半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護することができることになる。
【0068】
なお、式(11)において、dVds/dtは、直接、回路素子の値を示す値ではないが、dVds/dtは、上記したように、導線61に短絡電流Iが流れることによって生じる寄生インダクタンス成分Lによる電圧降下、すなわちL・dI/dtである。dVds/dtの変化は、図10の符号221で示す区間のグラフ202の変化に示されるように、直線で近似することができる値であり、この値は、シミュレーションや手計算により予め算出することができる値である。
【0069】
導線61の寄生インダクタンス成分Lは、接続点65から半導体スイッチ素子11のドレイン端子の間の導線61の長さや直径に基づいて算出される値であり、回路構成に依存する値であるため、任意に定めることができる値ではない。また、短絡電流Iの変化率であるdI/dtも任意に定めることができる値ではない。そのため、dVds/dtは、回路設計において任意に定めることができず、幾つかの候補値から選択する値になる。また、電源13の電源電圧VCCは、一般的に定格値が用いられることが多い値である。また、キャパシタ素子31の静電容量Cは、半導体スイッチ素子11として、SiCの高速スイッチングパワー半導体を適用するなどした場合、高速スイッチングに対応する静電容量にする必要があるため、任意に定めることができる値ではない。したがって、式(11)において、任意に定めることができるのは、抵抗素子21の抵抗値Rと、半導体整流素子14の浮遊容量Cd1との2つの値になる。
【0070】
(式(11)を満たす半導体装置の回路設計手法)
式(11)を満たすように、半導体装置1の回路設計を行う回路設計手法として、以下の2通りの手法が考えられる。第1の回路設計手法は、式(11)に含まれる抵抗素子21の抵抗値R以外の値を予め定めておき、その上で、抵抗素子21の抵抗値Rを調整して、式(11)を満たす抵抗値Rを選択する手法である。式(11)から分かるように、例えば、抵抗値Rを減少させると、式(11)の左辺の分母も小さくなるので、式(11)の左辺の値が大きくなる。そのため、Cd1の値の許容範囲が広くなり、半導体整流素子14の選択肢の幅が広くなることになる。
【0071】
すなわち、第1の回路設計手法は、式(11)を満たすような抵抗値Rを有する抵抗素子21を選択する手法であり、抵抗素子21の置き換えのみで、新たに部品を追加する手法ではない。したがって、第1の回路設計手法によれば、新たに部品を追加することなく、短絡電流Iが、導線61に流れたとしても、遅延なく適切なタイミングで半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護することができる。ただし、抵抗値Rを減少させると、電流Iが増加するので、抵抗素子21,22,32の消費電力が増加する。そのため、第1の回路設計手法では、定格電力を確保するために、回路素子のサイズを大きくする必要がある。回路素子のサイズを大きくすると、半導体装置1の基板も大きくする必要があるため、半導体装置1のサイズも大きくなり、出力密度が低下してしまうというディメリットがある。
【0072】
第2の回路設計手法は、式(11)に含まれる半導体整流素子14の浮遊容量Cd1以外の値を予め定めておき、浮遊容量Cd1を調整して、式(11)を満たす浮遊容量Cd1を選択する手法である。浮遊容量Cd1を調整する手段として、以下の2通りの手段がある。浮遊容量Cd1を調整する第1の手段は、半導体整流素子14として半導体ダイオードが適用される場合、半導体ダイオードのPN接合面の面積の大きさを調整する手段である。図8(a)に示すように、P型半導体91と、N型半導体92とを接合した場合に、P型半導体91と、N型半導体92との間に空乏層93が生成される。図8(b)に示すように空乏層93は、P型半導体91の接合面94と、N型半導体92の接合面に挟まれたキャパシタとみなすことができ、当該キャパシタの静電容量が、浮遊容量Cd1になる。そのため、浮遊容量Cd1は、次式(12)に基づいて算出される値になる。
【0073】
【数12】
【0074】
式(12)において、εは、空乏層93の誘電率であり、dは、接合面94,95の間の長さである。Sは、接合面94,95の面積、すなわち、いわゆるチップ面積である。したがって、例えば、式(11)を満たすために、浮遊容量Cd1を小さくする場合、接合面94,95のチップ面積Sを小さくすればよいことになる。
【0075】
すなわち、第2の回路設計手法の第1の手段は、式(11)を満たすような浮遊容量Cd1を有する半導体整流素子14を選択する手法であり、半導体整流素子14の置き換えのみで、新たに部品を追加する手法ではない。したがって、第2の回路設計手法の第1の手段によれば、新たに部品を追加することなく、また、第1の回路設計手法のディメリットである半導体装置1のサイズの増加や、出力密度の低下を伴うことなく、短絡電流Iが、導線61に流れたとしても、遅延なく適切なタイミングで半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護することができる。ただし、一般的な半導体ダイオードの場合、チップ面積Sを小さくすると、半導体ダイオードのサイズも小さくなるため、アノード端子と、カソード端子との間の端子間距離が短くなる。そのため、絶縁距離を確保することができず、半導体ダイオードの絶縁耐圧が低下するというディメリットがある。
【0076】
浮遊容量Cd1を調整する第2の手段は、半導体整流素子14を直列に接続した複数の半導体ダイオードで構成し、直列に接続する半導体ダイオードの個数を調整する手段である。例えば、同一の浮遊容量を有する半導体ダイオードをn個直列に接続することにより、当該半導体ダイオードを1つ用いる場合よりも、浮遊容量の大きさを1/nにすることができる。このように、複数の半導体ダイオードを直列に接続したものを半導体整流素子14とする場合、半導体ダイオードの絶縁耐圧を維持しつつ、浮遊容量Cd1を減らすことが可能になる。
【0077】
すなわち、第2の回路設計手法の第2の手段によれば、第2の回路設計手法の第1の手段における半導体ダイオードの絶縁耐圧が低下するというディメリットを克服しつつ、短絡電流Iが、導線61に流れたとしても、遅延なく適切なタイミングで半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護することができる。ただし、半導体整流素子14を直列に接続した複数の半導体ダイオードで構成するため、部品の数が増えてしまうというディメリットがある。
【0078】
(その他の補足的な構成例)
上記の実施形態において、半導体スイッチ素子11は、例えば、Nチャネルのエンハンスメント型のMOSFETとしている。これに対して、半導体スイッチ素子11として、Nチャネルのデプレッション型のMOSFETを適用してもよい。また、半導体スイッチ素子11として、Pチャネルのエンハンスメント型のMOSFETや、Pチャネルのデプレッション型のMOSFETを適用してもよい。また、半導体スイッチ素子11として、MOSFETに替えて、IGBTなどのバイポーラトランジスタを適用するようにしてもよい。なお、上記した「電流流入側端子」及び「電流流出側端子」の各々に対応する端子は、半導体スイッチ素子11として適用される回路素子の種類に応じて変わることになる。例えば、Pチャネルのエンハンスメント、または、デプレッション型のMOSFETが、半導体スイッチ素子11として適用される場合、「電流流入側端子」が示す端子は、ソース端子となり、「電流流出側端子」が示す端子は、ドレイン端子になる。
【0079】
上記の実施形態において、分圧回路12は、抵抗素子21と、抵抗素子22という2つの抵抗素子を備えている。これに対して、分圧回路12は、3つ以上の抵抗素子を備える分圧回路であってもよい。分圧回路12が、3つ以上の抵抗素子を備える場合、半導体整流素子14と接続する接続点66は、分圧回路12が備える複数の抵抗素子の間のいずれかに位置する。この場合に、電源13から接続点66の間に、複数の抵抗素子が存在するときには、当該複数の抵抗素子の合成抵抗値が、抵抗値Rになり、残りの抵抗素子の合成抵抗値が、抵抗値Rになる。
【0080】
上記の実施形態において、半導体装置1の導線62は、電源13のGNDに接続されている。これに対して、例えば、半導体装置1の半導体スイッチ素子11が、インバータの上側のアームに適用される場合、導線62には、一定の電圧が印加され、電源13の電源電圧VCCも、当該一定の電圧分、増加することになり、半導体装置1の動作電圧が、当該一定の電圧分、増加することになる。
【0081】
上記の実施形態において、半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護する短絡保護回路を明示的に示していないが、例えば、半導体装置1が、電力変換器やインバータに適用されている場合、以下の部分が、短絡保護回路に相当することになる。すなわち、半導体装置1の駆動処理部41から電力変換器やインバータの処理を行う構成を除き、更に、半導体装置1から半導体スイッチ素子11、抵抗素子17を除いた部分が、半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護する短絡保護回路に相当することになる。
【0082】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0083】
<付記>
各実施形態に記載の半導体装置1に含まれる短絡保護回路は、例えば以下のように把握される。
【0084】
(1)第1の態様に係る短絡保護回路は、一端において接続する電源13から供給される電源電圧VCCを分圧する分圧回路12と、前記分圧回路12の抵抗素子21,22間に一端が接続し、他端が保護対象の半導体スイッチ素子11の電流流入側の端子に接続する導線61の経路上に接続する半導体整流素子14であって前記一端から前記他端の方向が整流方向になるように接続する半導体整流素子14と、前記分圧回路12の他端に接続するRC並列回路15と、前記半導体スイッチ素子11がON状態の場合に、前記RC並列回路15に備えられるキャパシタ素子31の電圧に基づいて前記導線61に短絡電流Iが流れていることを検出すると、前記半導体スイッチ素子11をOFF状態にする駆動部16と、を備え、前記半導体整流素子14の浮遊容量Cd1は、前記短絡電流Iが前記導線61に流れた際に、前記RC並列回路15の前記キャパシタ素子31の前記分圧回路12に接続する一端の電圧が、当該キャパシタ素子31の他端の電圧よりも高くなるようにするという条件を満たす浮遊容量Cd1である。本態様、及び以下の各態様によれば、半導体スイッチ素子11を増やすことなく、適切なタイミングで半導体スイッチ素子11を短絡電流Iから保護することができる
【0085】
(2)第2の態様に係る短絡保護回路は、(1)の短絡保護回路であって、前記分圧回路12は、前記電源13に一端で直接接続する抵抗素子21を備えており、前記半導体整流素子14の前記一端は、前記抵抗素子21の他端に接続しており、前記抵抗素子21の抵抗値をRとし、前記電源電圧13の電圧値をVCCとし、前記RC並列回路15の前記キャパシタ素子31の静電容量をCとし、前記半導体スイッチ素子11の前記電流流入側の端子と、前記半導体スイッチ素子11の電流流出側の端子との間の電圧変化をdVds/dtとし、前記半導体整流素子14の浮遊容量をCd1とした場合、前記Cd1は、1/{(3×dVds/dt×R)/VCC-1/C}>Cd1の条件式を満たす。
【0086】
(3)第3の態様に係る短絡保護回路は、(2)の短絡保護回路であって、前記条件式において前記R以外の変数を予め定めた固定値とし、前記Rを調整して前記条件式を満たす前記Rを選択する。
【0087】
(4)第4の態様に係る短絡保護回路は、(2)の短絡保護回路であって、前記半導体整流素子14は、半導体ダイオードであり、前記条件式において前記Cd1以外の変数を予め定めた固定値とし、前記半導体ダイオードのPN接合面の面積を調整して、前記条件式を満たす前記Cd1を選択する。
【0088】
(5)第5の態様に係る短絡保護回路は、(2)の短絡保護回路であって、前記半導体整流素子14は、直列に接続した複数の半導体ダイオードで構成されており、前記条件式において前記Cd1以外の変数を予め定めた固定値とし、直列に接続した前記半導体ダイオードの個数を調整して、前記条件式を満たす前記Cd1を選択する。
【符号の説明】
【0089】
1 半導体装置
11 半導体スイッチ素子
12 分圧回路
13 電源
14 半導体整流素子
15 RC並列回路
16 駆動部
17,21,22,32 抵抗素子
31 キャパシタ素子
41 駆動処理部
42,43 半導体ダイオード
44 スイッチ
51 IN端子
52 DESAT端子
53 GND端子
54 OUT端子
61,62 導線
65,66 接続点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10