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特開2024-174832インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
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  • 特開-インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174832
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241210BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20241210BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241210BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/165 211
B41J2/01 501
B41M5/00 120
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087312
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023092623
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】永井 荘一
(72)【発明者】
【氏名】西脇 裕子
(72)【発明者】
【氏名】吉野 絵里子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC02
2C056JA13
2C056JC06
2H186BA08
2H186DA12
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039AD03
4J039AD09
4J039BC09
4J039BC56
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA15
4J039EA16
4J039EA17
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】小型化されたインクジェット記録装置を用いながらも、回復操作により生ずる廃インク量を低減することが可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤を含有する水性インクと、水性インクを収容するインク収容部と、複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する記録ヘッドと、複数の吐出口列を覆うキャップと、キャップを通じて水性インクを吸引する吸引手段と、を備えるインクジェット記録装置を使用して画像を記録するインクジェット記録方法である。水性インクは、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有し、マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤の含有量が、他のインク中のノニオン性界面活性剤の含有量のいずれよりも小さく、マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値が、他のインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及びアゾ顔料を含有するイエローインクを含む、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤をそれぞれ含有する水性インクと、
前記水性インクをそれぞれ収容するインク収容部と、
前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び前記複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する記録ヘッドと、
前記吐出口面を含む領域に当接して前記複数の吐出口列を覆うキャップと、
前記キャップを通じて前記複数の吐出口から前記水性インクを吸引する吸引手段と、
を備えるインクジェット記録装置を使用し、
前記複数の吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程と、
前記キャップを通じて前記複数の吐出口から前記水性インクを吸引する工程と、
を有するインクジェット記録方法であって、
前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、
前記水性インクが、さらに、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有し、
前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)のいずれよりも小さく、
前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さいことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記水性インクが、さらに、水溶性有機溶剤をそれぞれ含有し、
前記マゼンタインク中の前記水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値が、前記シアンインク中の前記水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値、及び前記イエローインク中の前記水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値のいずれよりも大きい請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記マゼンタインク中の前記キナクリドン顔料の含有量(質量%)に対する前記樹脂分散剤の含有量(質量%)の質量比率が、前記シアンインク中の前記フタロシアニン顔料の含有量(質量%)に対する前記樹脂分散剤の含有量(質量%)の質量比率、及び前記イエローインク中の前記アゾ顔料の含有量(質量%)に対する前記樹脂分散剤の含有量(質量%)の質量比率のいずれよりも高い請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記マゼンタインク中の前記キナクリドン顔料の含有量(質量%)が、前記シアンインク中の前記フタロシアニン顔料の含有量(質量%)、及び前記イエローインク中の前記アゾ顔料の含有量(質量%)のいずれよりも小さい請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記マゼンタインクを吐出する前記吐出口で構成される前記吐出口列が、前記シアンインクを吐出する前記吐出口で構成される前記吐出口列と、前記イエローインクを吐出する前記吐出口で構成される前記吐出口列に挟まれる位置に配列されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記吐出口に連通する液室、前記インク収容部と前記液室の間に配置されるフィルタ、及び前記フィルタと前記液室の間を前記水性インクが流通するインク流路を備え、
前記マゼンタインクに対応する前記インク流路が、前記シアンインクに対応する前記インク流路及び前記イエローインクに対応する前記インク流路のいずれよりも短い請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記インク収容部に比して容量が大きい第2インク収容部、及び前記第2インク収容部と前記インク収容部の間を前記水性インクが流通するチューブを備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及びアゾ顔料を含有するイエローインクを含む水性インクと、
前記水性インクをそれぞれ収容するインク収容部と、
前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び前記複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する記録ヘッドと、
前記吐出口面を含む領域に当接して前記複数の吐出口列を覆うキャップと、
前記キャップを通じて前記複数の吐出口から前記水性インクを吸引する吸引手段と、
を備えるインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、
前記水性インクは、さらに、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤及びノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有し、
前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)のいずれよりも小さく、
前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さいことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在宅でのリモートワークの増加により、家庭用のインクジェット記録装置の需要が高まっている。また、家庭用とするために、インクジェット記録装置に対してはさらなる小型化が求められている。インクジェット記録装置の小型化には、記録ヘッド及びインク収容部の小型化が不可欠である。例えば、インク収容部と記録ヘッドを一体にして小型化した記録ユニットを搭載したインクジェット記録装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1で提案されたインクジェット記録装置は、より小型に設計できる観点から、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式の記録ヘッドを採用している。また、複数色のインクをそれぞれ吐出する吐出口列を同一の記録素子基板に設けることで、記録ヘッドを小型化している。さらに、インク収容部に放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッドを貼り合わせて記録ユニットを小型化している。そして、インク収容部を熱可塑性樹脂で形成して記録ユニットを軽量化するとともに、キャリッジ部に求められる剛性を低減させて装置を小型化している。
【0004】
小型化されたインクジェット記録装置の家庭での利用用途として、ビジネス書類の出力が増加している。このような用途でも用いられるインクジェット記録装置には、各色のインクについて、堅牢性に優れた画像を記録しうることが要求されている。このことから、特許文献1に記載されているような染料インクではなく、顔料を色材として用いた顔料インクが用いられるようになってきている。カラーインクは記録される画像の発色性の観点から、シアンインクにはフタロシアニン顔料、マゼンタインクにはキナクリドン顔料、イエローインクにはアゾ顔料がそれぞれ用いられることが多い。また、インクの浸透性が低い記録媒体に連続記録する場合、記録媒体に記録した画像が次の記録媒体の裏面に転写される、いわゆる裏移りが発生することがある。このような裏移りを抑制すべく、ノニオン性界面活性剤を含有させて表面張力を低下させたインクが用いられている。
【0005】
顔料の主な分散方式としては、アニオン性基などの親水性基を有する樹脂(樹脂分散剤)を用いた樹脂分散顔料と、その粒子表面に直接又は原子団を介してアニオン性基などの親水性基を結合させた自己分散顔料を挙げることができる。光沢紙などの記録媒体に記録する画像の耐擦過性を向上させる観点では、樹脂分散顔料が用いられることが多い。顔料インクを吐出する記録ヘッドを使用せずに長期間放置すると、吐出口でインクが固着して正常に吐出できなくなる場合がある。このため、吐出口列をキャッピングした状態で吸引し、固着状態から回復させる手段(回復手段)を備えたインクジェット記録装置が用いられている。染料インクに比して、顔料インクは固着しやすく、強力な回復操作が必要である。各色のインクに対応する吐出口列を別々にキャッピングして吸引する態様ではなく、同一の記録素子基板に設けられた複数の吐出口列を同一のキャップで一括してキャッピングして吸引する態様とすることが、装置の小型化には有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-081152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上述のような構成を有する小型化に対応したインクジェット記録装置を使用し、シアン、マゼンタ、及びイエローの各色の顔料を樹脂分散剤で分散させた複数のインクを固着させてから吸引する固着回復性の評価を行った。その結果、シアンインク及びイエローインクの固着が容易に解消した一方で、マゼンタインクの固着が解消しにくい場合があることがわかった。前述の通り、回復操作では、各インクに対応する複数の吐出口列を同一のキャップで一括してキャッピングして吸引する。このため、マゼンタインクの固着を解消しようとして繰り返し吸引すると、シアンインク及びマゼンタインクの廃インク量が増加するといった課題が生ずることが判明した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、小型化されたインクジェット記録装置を用いながらも、回復操作により生ずる廃インク量を低減することが可能なインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及びアゾ顔料を含有するイエローインクを含む、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤をそれぞれ含有する水性インクと、前記水性インクをそれぞれ収容するインク収容部と、前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び前記複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する記録ヘッドと、前記吐出口面を含む領域に当接して前記複数の吐出口列を覆うキャップと、前記キャップを通じて前記複数の吐出口から前記水性インクを吸引する吸引手段と、を備えるインクジェット記録装置を使用し、前記複数の吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程と、前記キャップを通じて前記複数の吐出口から前記水性インクを吸引する工程と、を有するインクジェット記録方法であって、前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、前記水性インクが、さらに、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有し、前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)のいずれよりも小さく、前記マゼンタインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が、前記シアンインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値、及び前記イエローインク中の前記ノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さいことを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型化されたインクジェット記録装置を用いながらも、回復操作により生ずる廃インク量を低減することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)はカバー部材を開いた状態の斜視図である。
図2】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構造を模式的に示す斜視図である。
図3】記録ユニットの一例を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は分解した状態の斜視図である。
図4】吸引手段の一例を示す模式図である。
図5】インク収容部と記録ヘッドの接続状態の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0013】
本発明者らは、以下に示す(i)~(iv)の構成を備えるインクジェット記録装置を使用して、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクのベタ画像を10枚連続して記録した後、吐出口列をキャップで覆わずに10日間放置した。ベタ画像のサイズは6.0インチ×9.0インチとした。
(i)複数種のインクをそれぞれ収容するインク収容部
(ii)インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する記録ヘッド
(iii)吐出口面を含む領域に当接して複数の吐出口列を覆うキャップ
(iv)キャップを通じて複数の吐出口からインクを吸引する吸引手段
【0014】
シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクとしては、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、及びアゾ顔料をそれぞれ含有するものを用いた。各インクに用いた顔料は、いずれも、アニオン性基を有する樹脂分散剤によって分散させた樹脂分散顔料であった。また、ノニオン性界面活性剤(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)を0.6質量%となるように各インクに添加し、25℃において、最大泡圧法により測定される寿命時間10m秒における動的表面張力を42N/mに調整した。
【0015】
10日間放置する間に記録ヘッドのインク流路内のインク中の水が吐出口から蒸発し、吐出口近傍でインクが固着してインクの吐出性が低下した。その後、吐出口列をキャップで覆い、キャップを通じて複数の吐出口からインクを吸引する吸引操作を実施して固着回復を試みた。その結果、シアンインク及びイエローインクの固着が解消されたが、マゼンタインクの固着が解消されなかったことがわかった。吸引操作をさらに実施したところ、マゼンタインクの固着は解消したが、それまでにシアンインク及びイエローインクもさらに吸引されてしまい、廃インク量が増加した。すなわち、マゼンタインクの固着回復性と、シアンインク及びイエローインクの固着回復性との間に差があるため、廃インク量が増加した。
【0016】
上記のインクジェット記録装置に用いた記録ユニットは、装置の小型化に対応すべく、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるインク収容部に、放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされて構成されている。熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドを使用してベタ画像を連続して記録するといった、吐出が繰り返される状況が継続すると、記録ヘッドが昇温し、吐出口内のインクの温度も上昇する。また、上記の通り、記録ヘッドは熱可塑性樹脂で形成されたインク収容部に直接貼り付けてあるため、熱がこもりやすく、一旦昇温すると50℃程度の高温状態がしばらく継続することになる。
【0017】
樹脂分散顔料とノニオン性界面活性剤が共存するインクを高温状態で放置すると、顔料と樹脂分散剤の吸着部にノニオン性界面活性剤が作用し、樹脂分散剤が顔料から剥がれやすくなり、樹脂分散剤が吸着していない状態の顔料が増加する。キナクリドン顔料を構成する化合物(キナクリドン骨格)は平面構造を有するため、平面同士で引きつけ合う面積が大きい。さらに、複数のアミド基を有するために強固な水素結合性を示すために強くスタッキングし、顔料を構成するキナクリドン化合物同士の結着力が強い。このように、キナクリドン顔料は、フタロシアニン顔料及びアゾ顔料に比して顔料同士の結着力が強い。このため、樹脂分散剤が剥がれた顔料を含有するインク中の水が蒸発すると、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインクは、フタロシアニン顔料及びアゾ顔料をそれぞれ含有するシアンインク及びイエローインクに比して強固に固着すると考えられる。
【0018】
このような現象は、熱がこもりやすい記録ヘッドを用いた場合に特に顕著に起こると考えられる。しかし、記録ユニットに放熱板を設けると、記録ユニットが大型化するとともに、その質量が増加するため、記録ユニットを動かすキャリッジ部の剛性を高める必要があり、装置が大型化することになる。このため、インクジェット記録装置の小型化と、廃インクの低減との両立は困難であった。なお、顔料の粒子表面に直接又は原子団を介してアニオン性基が結合した自己分散顔料を含有するインクを用いた場合、ノニオン性界面活性剤によって樹脂分散剤が顔料から剥がされることがなく、インク間の固着回復性の差異は生じにくい。
【0019】
本発明者らは、マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤の含有量を、シアンインク及びイエローインク中のノニオン性界面活性剤の含有量に比して小さくすることで、マゼンタインクの固着回復性を高めることができるのではないかと考え、さらに検討した。具体的には、前述のノニオン性界面活性剤(アセチレノールE100)を、シアンインク及びイエローインクには0.6質量%、マゼンタインクには0.3質量%となるようにそれぞれ添加して検討した。その結果、インク毎の固着回復性の差異が小さくなり、廃インク量が大幅に低減することがわかった。しかし、マゼンタインクで記録した部分と、シアンインク及びイエローインクで記録した部分との境界部がにじむ、いわゆるブリーディングが顕著に発生することが判明した。最大泡圧法により測定される寿命時間10m秒における、シアンインク及びイエローインクの動的表面張力は、いずれも42mN/mであったのに対し、マゼンタインクの動的表面張力48mN/mであった。表面張力の異なる2つの液体が隣接する場合、表面張力の低い方から高い方へと液体が流れるマランゴニ対流が発生する。そして、表面張力の差が大きいほどマランゴニ対流が顕著に発生することが知られている。すなわち、マゼンタインクの表面張力と、シアンインク及びイエローインクの表面張力との差が大きすぎるために、ブリーディングが発生したと考えられる。
【0020】
次いで、本発明者らは、マゼンタインクに添加するノニオン性界面活性剤のHLB値を、シアンインク及びイエローインクに添加するノニオン性界面活性剤のHLB値よりも小さくすることについて検討した。HLB値としてはグリフィン法による値を考慮した。通常、HLB値の小さい界面活性剤の方が、表面張力を低下させる効果が高い。このため、インクの表面張力をある一定の値に調整しようとする場合には、HLB値の小さい界面活性剤を用いることで、界面活性剤の添加量を減少させることができる。具体的には、寿命時間10m秒における動的表面張力が42mN/mのインクを調製するのに必要なノニオン性界面活性剤の含有量について検討した。その結果、HLB値13.2のノニオン性界面活性剤の含有量が0.6質量%であるのに対し、HLB値10.7のノニオン性界面活性剤の含有量が0.3質量%であることがわかった。すなわち、HLB値の小さいノニオン性界面活性剤を用いると、ノニオン性界面活性剤の含有量を減少させ、樹脂分散剤が顔料から剥がれる現象を抑制することができる。
【0021】
本発明者らは、さらに、HLB値13.2のノニオン性界面活性剤の含有量が0.6質量%であるインクAと、HLB値10.7のノニオン性界面活性剤の含有量が0.3質量%であるインクBを調製した。そして、調製したこれらのインクをそれぞれ密閉容器に入れ、80℃で一晩放置した。放置後のインクを80,000rpmで5時間それぞれ遠心分離処理して得た上澄み液中の樹脂分散剤の含有量を測定した。上澄み液中の樹脂分散剤は、顔料から剥がれて遊離した分に相当する。その結果、インクAの上澄み液中の樹脂分散剤の量が、インクBの上澄み液中の樹脂分散剤の量よりも多いことがわかった。すなわち、インクA中の樹脂分散剤のほうが、インクB中の樹脂分散剤よりも、顔料から多く剥がれたことがわかった。
【0022】
以上の結果から、本発明者らは、HLB値が相対的に小さいノニオン性界面活性剤をマゼンタインクに含有させるとともに、HLB値が相対的に大きいノニオン性界面活性剤をシアンインク及びイエローインクに含有させることを見出し、本発明に至った。このように、HLB値の異なるノニオン性界面活性剤をインクに応じて使い分けることで、インク間の固着回復性の差を低減し、装置の小型化に対応しつつ廃インク量を低減することができる。
【0023】
<インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、インクと、インク収容部と、記録ヘッドと、キャップと、キャップを通じて複数の吐出口からインクを吸引する吸引手段と、を備えるインクジェット記録装置を使用する記録方法である。インクは、フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及びアゾ顔料を含有するイエローインクを含み、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤をそれぞれ含有する。インク収容部は、各色のインクをそれぞれ収容する部分であり、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。記録ヘッドは、インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する。キャップは、記録ヘッドの吐出口面を含む領域に当接して複数の吐出口列を覆う部材である。そして、本発明のインクジェット記録方法は、複数の吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程と、キャップを通じて複数の吐出口からインクを吸引する工程と、を有する。インクは、さらに、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有する。マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)は、シアンインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)、及びイエローインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)のいずれよりも小さい。そして、マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値は、シアンインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値、及びイエローインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さい。
【0024】
また、本発明のインクジェット記録装置は、インクと、インク収容部と、記録ヘッドと、キャップと、キャップを通じて複数の吐出口からインクを吸引する吸引手段と、を備える。インクは、フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及びアゾ顔料を含有するイエローインクを含み、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤をそれぞれ含有する。インク収容部は、各色のインクをそれぞれ収容する部分であり、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。記録ヘッドは、インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する複数の吐出口、及び複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する。キャップは、記録ヘッドの吐出口面を含む領域に当接して複数の吐出口列を覆う部材である。インクは、さらに、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有する。マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)は、シアンインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)、及びイエローインク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)のいずれよりも小さい。そして、マゼンタインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値は、シアンインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値、及びイエローインク中のノニオン性界面活性剤のHLB値のいずれよりも小さい。
【0025】
(インクジェット記録装置)
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)はカバー部材を開いた状態の斜視図である。図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、外装2と、外装2の上面に設けられたカバー部材3とを有する。カバー部材3は、上下方向に開閉可能な部材であり、上方向に開放することで、インクジェット記録装置1の内部を見ることができる。インクジェット記録装置1の形状は略直方体である。
【0026】
図2は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構造を模式的に示す斜視図である。図2に示す実施形態のインクジェット記録装置1は、外装の後方側に給紙トレイ4を備える。給紙トレイ4には、紙などの記録媒体が配置される。インクジェット記録装置1の内部には、記録ユニット8が配置されている。記録ユニット8の下部には記録ヘッドが設けられている。記録ユニット8は、図2中のy方向に往復移動しながら、記録ヘッドに形成された吐出口からインクを吐出する。給紙トレイ4に配置された記録媒体は、給紙ローラ5及び搬送ローラ6によって前方のx方向へと送られ、プラテン7に到達して支持される。プラテン7で支持された記録媒体は、記録ヘッドの吐出口が形成された面(吐出口面)と対向した位置に配置され、この状態で記録ヘッドから記録媒体にインクが吐出される。吐出されたインクは記録媒体に付着し、記録媒体に画像が記録される。インクジェット記録装置1には、さらに、記録ヘッドの吐出口面を含む領域に当接し、複数の吐出口で構成される複数の吐出口列をまとめて覆うキャップ9がホームポジションに設けられている。
【0027】
図3は、記録ユニットの一例を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は分解した状態の斜視図である。図3に示す記録ユニット8は、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるインク収容部10と、記録ヘッド11とを有する。インク収容部10には、放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッド11が貼り合わされている。インク収容部10は熱可塑性樹脂で形成された筐体であるために軽量である。さらに、インク収容部10には、放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッド11が貼り合わされているため、記録ユニット8全体が小型化及び軽量化されている。このような記録ユニット8を用いることで、インクジェット記録装置を小型化及び軽量化することができる。放熱板としては、アルミナなどの金属酸化物などの材質で形成されているものを挙げることができる。
【0028】
記録ヘッド11には、インクを吐出する複数の吐出口や、インクを吐出するための熱エネルギーを発生させるエネルギー発生素子などが設けられている。エネルギー発生素子などは、例えば、電気配線部材14を通じて供給される電力によって駆動させることができる。エネルギー発生素子は熱エネルギーを発生させる素子であり、発生させた熱エネルギーの作用によって吐出口からインクを吐出させることができる。
【0029】
記録ヘッド11は、複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する。複数の吐出口列を同一の記録素子基板に配列することで、一つの記録ユニットで複数のインクを吐出することが可能であり、インクジェット記録装置の全体を小型化することができる。複数の吐出口列は、記録ユニットの往復移動方向(主走査方向)と直交する方向(副走査方向)に配列されていることが好ましい。また、複数の吐出口によって吐出口列を構成することで、記録ユニットの移動時に記録可能な部分が広くなるため、記録速度を速くすることができる。
【0030】
インク収容部10内には、スポンジ状のインク吸収体12a~12cが収納されている。また、インク収容部10の重力方向下方には、フィルタ13a~13cがそれぞれ配置されている。スポンジ状のインク吸収体12a~12cの毛管力を利用して負圧を発生させることで、吐出口からインクが漏出しないようにすることができる。また、フィルタ13a~13cを配置することで、ごみなどの微細な異物が吐出口に侵入するのを防止することができる。
【0031】
図4は、吸引手段の一例を示す模式図である。図4に示すように、インクジェット記録装置は、記録ヘッド11の吐出口面を含む領域に当接して複数の吐出口列を覆うキャップ9を備える。キャップ9には、大気連通部として機能するチューブ17と、キャップ9内に溜まった、記録に用いられない廃インクを排出する廃インクチューブ18が接続されている。チューブ17の途中には、大気連通弁16が設けられている。記録ヘッド11の吐出口から排出された廃インクは、廃インク収容部19に貯められる。廃インクチューブ18の途中には吸引弁20が設けられており、ポンプ21を利用して不要な廃インクを排出するための吸引操作が実施される。
【0032】
吐出口に連通する流路内などでインクが乾燥及び固着して正常な吐出が困難になった場合などには、吸引操作を実施してインク収容部10から新たなインクを流通させることで、正常な吐出が困難な状態を解消することができる。通常、複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列されている場合は、同一のキャップで吸引操作を実施する。例えば、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクをそれぞれ吐出する吐出口列が同一の記録素子基板に配列されている場合、これらのインクを同一のキャップでまとめて吸引する。一般的に、固着を解消しやすいインクと解消しにくいインクが混在している場合、固着を解消しやすいインクを吐出する吐出口の固着は解消されているにも関わらず、固着を解消しにくいインクの吸引操作を継続する必要があり、廃インク量が増加してしまう。
【0033】
記録ヘッドは、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクのそれぞれに対応する複数の吐出口で構成される、これらのインクにそれぞれ対応する複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する。そして、マゼンタインクを吐出する吐出口で構成される吐出口列が、シアンインクを吐出する吐出口で構成される吐出口列と、イエローインクを吐出する吐出口で構成される吐出口列に挟まれる位置に配列されていることが好ましい。すなわち、マゼンタインクを吐出する吐出口で構成される吐出口列が中央に配置されていることが好ましい。複数の吐出口列を同一のキャップで覆って吸引操作を実施する場合、端部よりも中央部の負圧のほうが高くなる。すなわち、中央に配置された吐出口列が最も効率的に吸引される。このため、固着回復性に劣るマゼンタインクを吐出する吐出口で構成される吐出口列を中央に配置することで、固着回復性をより高めることができる。複数の吐出口列のそれぞれは、記録素子基板の所定の方向に沿って配列されていることが好ましく、複数の吐出口列が相互に平行に配列されていることがさらに好ましい。
【0034】
図5は、インク収容部と記録ヘッドの接続状態の例を示す模式図である。図5は、1のインクに対応する部分としての記録ユニット28であり、記録ヘッド11の吐出口に連通する液室22、インク収容部10と液室22の間に配置されるフィルタ13、及びフィルタ13と液室22の間をインクが流通するインク流路23を備える。マゼンタインクに対応するインク流路は、シアンインクに対応するインク流路及びイエローインクに対応するインク流路のいずれよりも短いことが好ましい。複数の吐出口列をキャップで覆って吸引すると、インク収容部から記録ヘッドへと、フィルタ、インク流路、及び液室を順次通過してインクが流れる。インク流路が短いと圧力損失が生じにくく、対応する吐出口に強い負圧がかかるため、固着回復の効率が良い。固着回復性に劣るマゼンタインクが流通するインク流路を、シアンインク及びイエローインクにそれぞれ対応するインク流路のいずれよりも短くすることで、インク間の固着回復性の差を少なくすることができる。
【0035】
インクジェット記録装置は、さらに、サブタンクなどのインク収容部(第1インク収容部)に比して容量が大きいメインタンクなどの第2インク収容部、及び第2インク収容部とインク収容部の間をインクが流通するチューブを備えることが好ましい。家庭でのリモートワークにおける使用態様などを考慮すると、装置の小型化とともに、インクカートリッジの交換頻度の低減も重要である。このため、メインタンクなどの第2インク収容部をさらに設けることで、装置本体の大型化を回避しつつ、インク交換頻度を低減することができる。以下、記録ヘッドに貼り合わされたサブタンクなどの第1インク収容部のみをインク収容部として設けたインクジェット記録装置を「第1の装置構成」とも記す。また、サブタンクに比して容量が大きいメインタンクなどの第2インク収容部をインク収容部としてさらに設けたインクジェット記録装置を「第2の装置構成」とも記す。
【0036】
第2の装置構成の場合、第1の装置構成に比してインク交換頻度が低減されるため、メインタンク内に静置状態のインクが保持される期間が長くなる。また、顔料インクの場合、静置状態で保持される期間が長くなると、顔料が沈降しやすくなる。インクの固着による吐出性の低下は、流路内でインクが乾燥し、顔料が凝集することに起因して生ずるので、顔料の含有量が大きいインクを用いる場合ほど顕著になる。そして、使用状況によるが、第2の装置構成の固着回復性は、第1の装置構成の固着回復性よりも劣ることが多い。さらに、インクごとに固着回復性に差がある場合は、その差が大きくなる。このため、一般的には、第2の装置構成は第1の装置構成に比して廃インク量がさらに多くなるといった課題が生じやすい。これに対して、本発明のインクジェット記録方法では、用いるインク間の固着回復性の差が小さいため、第2の装置構成とした場合であっても廃インク量を低減することが可能であり、インク交換頻度の低減と廃インク量の低減を両立することができる。
【0037】
(水性インク)
本発明のインクジェット記録方法は、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを含む、アニオン性基を有する、顔料を分散させるための樹脂分散剤をそれぞれ含有するインクを使用する。そして、記録ヘッドの複数の吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。インクはいずれも、色材として顔料を含有する顔料インクである。以下、インクを構成する成分などについて説明する。
【0038】
[色材]
インクの色材としては、水性のインク中に顔料を分散させる樹脂分散剤を用いた樹脂分散顔料を用いる。樹脂分散顔料を用いることで、記録される画像の堅牢性及び耐擦過性を高めることができる。また、発色性の観点から、シアンインクにはフタロシアニン顔料、マゼンタインクにはキナクリドン顔料、イエローインクにはアゾ顔料をそれぞれ用いる。シアンインクに用いるフタロシアニン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4などを挙げることができる。マゼンタインクに用いるキナクリドン顔料としては、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントバイオレット19などを挙げることができる。なお、マゼンタインクには、色味調整のためにC.I.ピグメントレッド254などのジケトピロロピロール顔料;C.I.ピグメントレッド150などのアゾ顔料;をさらに含有させることができる。イエローインクに用いるアゾ顔料としては、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー155などを挙げることができる。
【0039】
インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
マゼンタインク中のキナクリドン顔料の含有量(質量%)は、シアンインク中のフタロシアニン顔料の含有量(質量%)、及びイエローインク中のアゾ顔料の含有量(質量%)のいずれよりも小さいことが好ましい。複数のインクのうち、マゼンタインク中のキナクリドン顔料の含有量を最も小さくすることで、マゼンタインクの固着回復性がより向上するので、シアンインク及びイエローインクの固着回復性との差異をより小さくすることができる。ここで、マゼンタインクがジケトピロロピロール顔料やアゾ顔料をさらに含有する場合を想定する。このような場合であっても、マゼンタインク中のキナクリドン顔料の含有量(質量%)は、シアンインク中のフタロシアニン顔料の含有量(質量%)、及びイエローインク中のアゾ顔料の含有量(質量%)のいずれよりも小さいことが好ましい。ジケトピロロピロール顔料やアゾ顔料に付着した樹脂分散剤が剥がれたとしても、これらの顔料はキナクリドン顔料とは異なり、顔料を構成する化合物同士で強固に結着しにくい。
【0041】
[樹脂分散剤]
インク中に顔料を分散させる樹脂分散剤としては、アニオン性基を有する樹脂分散剤を用いる。アニオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及びホスホン酸基などを挙げることができる。樹脂分散剤は、顔料を分散させるアニオン性基とともに、顔料に吸着する疎水部を有することが好ましい。
【0042】
樹脂分散剤としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類などを挙げることができる。なかでも、記録ヘッドの吐出口からの吐出特性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。本明細書における「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーに由来するユニットを少なくとも有する樹脂を意味する。なお、以下の記載における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味する。アクリル樹脂としては、アニオン性基を有するユニット(親水部)及びアニオン性基を有しないユニット(疎水部)を構成ユニットとして有するものが好ましい。アクリル樹脂の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0043】
重合によりアクリル樹脂を構成するユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基を有するモノマー及びアニオン性基を有しないモノマーを挙げることができる。通常、アニオン性基を有するモノマーは重合により親水性ユニットとなり、アニオン性基を有しないモノマーは重合により疎水性ユニットとなる。
【0044】
アニオン性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有するモノマー;これらのモノマーの無水物や塩などを挙げることができる。アニオン性基を有するモノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、アンモニウムカチオン、及び有機アンモニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0045】
アニオン性基を有しないモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾールなどの芳香族基を有するモノマー;エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n-、iso-、t-)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0046】
インク中の樹脂分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.03質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
マゼンタインク中のキナクリドン顔料の含有量Pm(質量%)に対する樹脂分散剤の含有量Rm(質量%)の質量比率を「質量比率Rm/Pm」とする。また、シアンインク中のフタロシアニン顔料の含有量Pc(質量%)に対する樹脂分散剤の含有量Rc(質量%)の質量比率を「質量比率Rc/Pc」とする。さらに、イエローインク中のアゾ顔料の含有量Py(質量%)に対する樹脂分散剤の含有量Ry(質量%)の質量比率を「質量比率Ry/Py」とする。この場合、質量比率Rm/Pmは、質量比率Rc/Pc及び質量比率Ry/Pyのいずれよりも高いことが好ましい。顔料の含有量(質量%)に対する樹脂分散剤の含有量(質量%)の質量比率が高いほど顔料粒子の近傍に存在する樹脂分散剤が多い。このため、ノニオン性界面活性剤が作用したとしても、顔料の粒子表面に付着した樹脂分散剤の残存量は多くなり、インクの固着回復性は向上する。このため、質量比率Rm/Pmを、質量比率Rc/Pc及び質量比率Ry/Pyのいずれよりも高く設定することで、マゼンタインクの固着回復性と、シアンインク及びイエローインクの固着回復性との差異をより小さくすることができる。インク中の樹脂分散剤の含有量(質量%)は、顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上1.0倍以下であることが好ましい。
【0048】
[ノニオン性界面活性剤]
シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを含む水性インクは、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ含有する。ノニオン性界面活性剤のHLB値は、グリフィン法による値である。グリフィン法によるHLB値は、下記式(A)より算出することができる。グリフィン法により求められるHLB値は、界面活性剤の親水性や親油性の程度を表す物性値であり、0.0乃至20.0の値をとる。HLB値が小さいほど親油性が高く、HLB値が大きいほど親水性が高い。
HLB値
=20×(界面活性剤の親水性基の式量/界面活性剤の分子量) ・・・(A)
【0049】
水性インクへの溶解性の観点から、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、6.0以上であることが好ましい。また、表面張力を適度に低下させる観点から、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、17.0以下であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの炭化水素系界面活性剤;パーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物などのフッ素系界面活性剤;ポリジメチルシロキサン系化合物などのシリコーン系界面活性剤;などを挙げることができる。
【0050】
インク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
[水性媒体]
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。インクは、水溶性有機溶剤をそれぞれ含有することが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、40.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。水溶性有機溶剤は、25℃における蒸気圧が水よりも低いものが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、15.0質量%以上25.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
マゼンタインク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値は、シアンインク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値、及びイエローインク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値のいずれよりも大きいことが好ましい。比誘電率が高い水溶性有機溶剤は、親水性が高い。このため、比誘電率が高い水溶性有機溶剤を含有するインクは、吐出口付近でインク中の水が蒸発した場合であっても、顔料同士の強固な結着が抑制される。そして、マゼンタインク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値が、他のインク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値のいずれよりも大きいと、マゼンタインクの固着回復性と、他のインクの固着回復性との差異をより小さくすることができる。
【0053】
インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値は、例えば、比誘電率40.0の水溶性有機溶剤15.0質量%と、比誘電率20.0の水溶性有機溶剤10.0質量%とを含有するインクの場合、下記式(B)のように算出することができる。なお、インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値を算出する際には、水の比誘電率は考慮しない。これは、小型のインクジェット記録装置に用いられる水性インクに汎用の水溶性有機溶剤は水よりも蒸気圧の低いものが汎用であり、吐出口付近でインクが固着した場合、水の蒸発が十分に進んでおり、液媒体のほとんどが水溶性有機溶剤となっているためである。
(40.0×15.0+20.0×10.0)/(15.0+10.0)=32.0 ・・・(B)
【0054】
水溶性有機溶剤の比誘電率は、誘電率計(例えば、商品名「BI-870」、BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION製など)を使用し、周波数10kHzの条件で測定することができる。25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率は、50質量%水溶液の比誘電率を測定し、下記式(1)から算出した値とする。通常「水溶性有機溶剤」は液体であるが、本発明においては、便宜上、25℃(常温)で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。
εsol=2ε50%-εwater ・・・(1)
εsol:25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率
ε50%:25℃で固体の水溶性有機溶剤の50質量%水溶液の比誘電率
εwater:水の比誘電率
【0055】
水性インクに汎用であり、25℃で固体である水溶性有機溶剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。ここで、25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を、50質量%水溶液の比誘電率から求める理由は次の通りである。25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、水性インクの構成成分となり得るもののなかには、50質量%を超えるような高濃度の水溶液を調製することが困難なものがある。一方、10質量%以下であるような低濃度の水溶液では、水の比誘電率が支配的となり、当該水溶性有機溶剤の確からしい(実効的な)比誘電率の値を得ることができない。そこで、本発明者らが検討を行った結果、25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、インクに用いることが可能なほとんどのもので測定対象の水溶液を調製することができ、かつ、求められる比誘電率も本発明の効果と整合することが判明した。このような理由から、50質量%水溶液を利用することとした。25℃で固体の水溶性有機溶剤であって、水への溶解度が低いために50質量%水溶液を調製できないものについては、飽和濃度の水溶液を利用し、上記εsolを求める場合に準じて算出した比誘電率の値を便宜的に用いることとする。
【0056】
水溶性有機溶剤の具体例としては、以下に示すものなどを挙げることができる(括弧内の数値は25℃における比誘電率を表す)。メタノール(33.1)、エタノール(23.8)、n-プロパノール(12.0)、イソプロパノール(18.3)、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなどの炭素数1乃至4の1価アルコール類。1,2-プロパンジオール(28.8)、1,2-ブタンジオール(22.2)、1,3-ブタンジオール(30.0)、1,4-ブタンジオール(31.1)、1,5-ペンタンジオール(27.0)、1,2-ヘキサンジオール(14.8)、1,6-ヘキサンジオール(7.1)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(28.3)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(24.0)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(23.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(18.5)などの2価アルコール類。1,2,6-ヘキサントリオール(28.5)、グリセリン(42.3)、トリメチロールプロパン(33.7)、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類。エチレングリコール(40.4)、ジエチレングリコール(31.7)、トリエチレングリコール(22.7)、テトラエチレングリコール(20.8)、ジプロピレングリコール(19.7)、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコールなどのアルキレングリコール類。エチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(11.0)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(9.8)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(12.4)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(8.5)などのグリコールエーテル類。数平均分子量200のポリエチレングリコール(18.9)、同600のポリエチレングリコール(11.5)、同1,000のポリエチレングリコール(4.6)、ポリプロピレングリコールなどの数平均分子量200乃至1,000のポリアルキレングリコール類。2-ピロリドン(28.0)、N-メチル-2-ピロリドン(32.0)、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(37.6)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルモルホリン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(23.7)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(16.0)、尿素(110.3)、エチレン尿素(49.7)、トリエタノールアミン(31.9)などの含窒素化合物類。ジメチルスルホキシド(48.9)、ビス(2-ヒドロキシエチルスルホン)などの含硫黄化合物類。インクに含有させる水溶性有機溶剤としては、比誘電率が3.0以上であるもの、120.0以下であるもの、25℃での蒸気圧が水よりも低いものを用いることが好ましい。
【0057】
[その他の成分]
インクには、さらに、必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。これらの添加剤は比誘電率を算出する対象には含めない。
【0058】
[インクの物性]
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクである。したがって、信頼性の観点から、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの静的表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましい。25℃におけるインクのpHは、7.0以上9.5以下であることが好ましく、8.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。
【0059】
上述の通り、表面張力の異なる2つの液体が隣接する場合、表面張力の低い方から高い方へと液体が流れるマランゴニ対流が発生する。そして、表面張力の差が大きいほどマランゴニ対流が顕著に発生する。表面張力の差が大きい2種のインクが接触する場合、表面張力の低いインクから高いインクへと流れ込むため、ブリーディングが発生しやすい。ブリーディングは表面張力の差が小さいほど生じにくく、逆に、表面張力の差が大きいほど生じやすい。普通紙などの記録媒体においては、通常、インクが付着してから数10~数100ミリ秒で記録媒体に定着する。したがって、ブリーディング抑制の観点では、寿命時間10m秒における動的表面張力が支配的な物性であると言える。ブリーディングを有効に抑制するためには、各インクの寿命時間10m秒における動的表面張力の差(最大の差)は、0mN/m以上5mN/m以下であることが好ましく、0mN/m以上3mN/m以下であることがさらに好ましい。また、各インクの寿命時間10m秒における動的表面張力は、30mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、35mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましい。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0061】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
水溶性樹脂であるスチレン-アクリル酸共重合体(組成(モル)比=33:67)を酸価と等モルの水酸化カリウムで中和するとともに、イオン交換水に溶解させ、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である樹脂分散剤の水溶液を調製した。この水溶性樹脂の重量平均分子量は10,000であり、酸価は200mgKOH/gである。顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)15.0部、樹脂分散剤の水溶液22.5部、及び水62.5部の混合物をサンドグラインダーに入れ、1時間分散処理した後、遠心分離処理して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過した後、適量のイオン交換水を加えて顔料分散液1を得た。得られた顔料分散液1の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は3.0%であった。
【0062】
(顔料分散液2)
水溶性樹脂であるスチレン-アクリル酸共重合体(組成(モル)比=33:67)を酸価と等モルの水酸化カリウムで中和するとともに、イオン交換水に溶解させ、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である樹脂分散剤の水溶液を調製した。この水溶性樹脂の重量平均分子量は10,000であり、酸価は200mgKOH/gである。顔料(C.I.ピグメントブルー15)15.0部、樹脂分散剤の水溶液30.0部、及び水55.0部の混合物をサンドグラインダーに入れ、1時間分散処理した後、遠心分離処理して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過した後、適量のイオン交換水を加えて顔料分散液2を得た。得られた顔料分散液2の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は4.0%であった。
【0063】
(顔料分散液3)
C.I.ピグメントブルー15に代えて、C.I.ピグメントバイオレット19を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が4.0%である顔料分散液3を得た。
【0064】
(顔料分散液4)
C.I.ピグメントブルー15に代えて、C.I.ピグメントレッド202を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が4.0%である顔料分散液4を得た。
【0065】
(顔料分散液5)
C.I.ピグメントブルー15に代えて、C.I.ピグメントレッド150を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が4.0%の顔料分散液5を得た。
【0066】
(顔料分散液6)
C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントバイオレット19を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が3.0%の顔料分散液6を得た。
【0067】
(顔料分散液7)
C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が3.0%の顔料分散液7を得た。
【0068】
(顔料分散液8)
C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントイエロー128を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が3.0%の顔料分散液8を得た。
【0069】
(顔料分散液9)
C.I.ピグメントブルー15に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が4.0%である顔料分散液9を得た。
【0070】
(顔料分散液10)
特開2013-253230号公報の記載を参考にして、顔料(C.I.ピグメントブルー15:4)に、((4-アミノベンゾイルアミノ)-メタン-1,1-ジイル)ビスホスホン酸由来の「ホスホン酸基」を0.10mmol/g導入した。さらに、p-アミノベンゼンスルホン酸由来の「スルホン酸基」を0.15mmol/g導入して、自己分散顔料を調製した。その後、水酸化カリウム水溶液及び水を添加して、顔料の含有量が10.0%、pHが10である顔料分散液10を得た。
【0071】
(顔料分散液11)
C.I.ピグメントブルー15:4に代えて、C.I.ピグメントバイオレット19を用いたこと以外は、前述の顔料分散液10と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、pHが10である顔料分散液11を得た。
【0072】
(顔料分散液12)
C.I.ピグメントブルー15:4に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いたこと以外は、前述の顔料分散液10と同様の手順で、顔料の含有量が10.0%、pHが10である顔料分散液12を得た。
【0073】
<インクの調製>
表1-1~1-4に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。表1-1~1-4中、「アセチレノールE100」及び「アセチレノールE60」は、いずれも、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。また、表1-1~1-4中、「サーフィノール440」及び「サーフィノール465」は、いずれも、日信化学工業製のノニオン性界面活性剤の商品名である。また、表1-1~1-4中、「エマルゲン709」及び「エマルゲン103」は、いずれも、花王製のノニオン性界面活性剤の商品名である。表1-1~1-4中、ノニオン性界面活性剤に付した括弧内の数値はHLB値を示し、水溶性有機溶剤に付した括弧内の数値は比誘電率を示す。各インクの寿命時間10m秒における動的表面張力(γc、γm、及びγy)は、最大泡圧法による動的表面張力計(商品名「BUBLE PRESSURE TENSIOMETER BP-2」、KRUSS製)を使用し、25℃で測定した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
<インクジェット記録装置>
インクジェット記録装置として、商品名「PIXUS TS5330」(キヤノン製)を用意した。また、表2に示す記録ヘッド1~5を用意した。これらを用いて、以下の評価用のインクジェット記録装置を準備した。装置構成2の評価に用いるインクは、メインタンク内に静置状態のインクが保持される期間が長くなった状況を想定して、装置構成1の評価に用いるインクと比して、固形分(顔料及び樹脂分散剤)が30質量%分、濃縮された状況を模した組成とした。つまり、固形分の含有量をあらかじめ高く設定してある。
・装置構成1(第1の装置構成):上記の記録装置(PIXUS TS5330)に、表3-1及び3-2に示す種類の記録ヘッドを組み込んだもの。この装置は第2インク収容部(メインタンク)を有しない。
・装置構成2(第2の装置構成):上記の記録装置(PIXUS TS5330)に、第2インク収容部(メインタンク)、及び、第1インク収容部(サブタンク)としての表3-1及び3-2に示す種類の記録ヘッドを組み込んだもの。
【0079】
【0080】
<評価>
本発明においては、以下に示す各項目の評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベルとし、「C」及び「D」を許容できないレベルとした。評価結果を表3-1及び3-2に示す。
【0081】
(廃インク量)
表3-1及び3-2に示す種類のシアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクをインク収容部に充填し、記録ヘッドまでインクを満たした。本実施例においては、1/600インチ×1/600インチの単位領域にインク滴を4滴付与する条件で記録した画像の記録デューティを100%と定義する。各インクともに100%デューティとなるインクの付与量として、6.0インチ×9.0インチのベタ画像を10枚の記録媒体に連続して記録した後、記録ヘッドをキャップせずに10日間放置した。記録媒体としては、普通紙(商品名「CS-068」、キヤノン製)を使用した。10日間放置後、インクジェット記録装置から取り外した記録ヘッドの質量を測定した。記録ヘッドをインクジェット記録装置に取り付けた後、キャッピングしてから固着回復操作を行った。固着回復操作時の吸引条件は、各インクともに吸引量が0.1gとなる条件とした。固着回復操作を行った後、不吐出の有無が判断できるノズルチェックパターンを記録し、吐出性の低下の吐出口があった場合は固着回復操作を再度行い、すべての吐出口からのインクの吐出が確認されるまで繰り返した。その後、インクジェット記録装置から取り外した記録ヘッドの質量を測定し、固着回復操作前の質量との差を廃インク量として算出した測定した。そして、以下に示す評価基準にしたがって廃インク量を評価した。
AA:廃インク量が0.3g以下であった。
A:廃インク量が0.3gを超えて0.6g以下であった。
B:廃インク量が0.6gを超えて0.9g以下であった。
C:廃インク量が0.9gを超えて1.2g以下であった。
D:廃インク量が1.2gを超えていた。
【0082】
また、シアンインク及びイエローインクの回復までに要した回復操作の数「Ncy(回)」、マゼンタインクの回復までに要した回復操作の数「Nm(回)」、及び「Nm-Ncy(回)」を表3-1及び3-2に示す。固着回復操作を行う場合、固着したインクが抜けるまではインクが排出されないので、廃インク量は0である。このため、1回の固着回復操作で回復した場合の廃インクの量と、2回の固着回復操作で回復した場合の廃インクの量は、ほぼ同量となる。廃インク量が増加する要因は、固着回復操作の回数自体ではなく、シアンインク及びイエローインクが回復しているが、マゼンタインクが回復していないために、シアンインク及びイエローインクが余分に吸引される点にある。
【0083】
(耐ブリーディング性)
シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクのそれぞれのベタ画像が相互に隣接するパターンを、1パス記録で記録媒体(普通紙、商品名「CS-068」、キヤノン製)に1パスで記録した。ベタ画像の記録デューティはそれぞれ100%、サイズは1.0インチ×1.0インチとした。記録したパターンにおける各色のベタ画像の境界部を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐ブリーディング性を評価した。
A:いずれの境界においても滲みがなかった。
C:少なくともいずれかの境界において滲みがあった。
【0084】
【0085】
【0086】
(装置サイズ)
参考例1~3は放熱板を有する記録ヘッドを用いた例である。参考例2及び比較例1の組み合わせ、並びに、参考例2及び比較例4の組み合わせでは、それぞれ同種のインクを用いた。表3-1及び3-2より、参考例2及び3の廃インク量は、比較例1及び4と比べて少なかった。参考例2及び3の廃インク量は、実施例1と同種のインクを用いた参考例1と同等のランクであったため、記録ヘッドに放熱板を設ければ、廃インク量の増加が生じないことが示される。但し、参考例1~3では、放熱板を有する記録ヘッドを用いているため、記録ユニットが大型化するとともに、その質量を支えることのできる剛性を持つキャリッジとしたため、インクジェット記録装置が大型化した。
図1
図2
図3
図4
図5