(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174834
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】無機コーティング膜及びコーティング液
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241210BHJP
C09D 183/16 20060101ALI20241210BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20241210BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20241210BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20241210BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D183/16
C09D183/04
C09D183/02
B32B3/24 Z
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087590
(22)【出願日】2024-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2023092659
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516218384
【氏名又は名称】ハドラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義孝
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】池田 正範
(72)【発明者】
【氏名】安藤 務
(72)【発明者】
【氏名】俵 千鶴子
(72)【発明者】
【氏名】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】野々下 大輝
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AB01B
4F100AG00B
4F100AH06A
4F100AK01B
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DJ00A
4F100DJ02A
4F100EH46A
4F100GB31
4F100JB01
4F100JB02
4F100JK09
4F100JK13
4F100JK16
4F100JM02
4J038DL021
4J038DL031
4J038DL171
4J038KA06
4J038MA09
4J038NA27
4J038PA01
(57)【要約】
【課題】被覆対象となる物品に対する被覆量を低減させることができ、廉価に使用することができるとともに、被覆対象となる物品の表面に被覆した場合において無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる無機コーティング膜を提供する。
【解決手段】無機コーティング膜13は、硬化した状態でガラスが主成分となり、被覆対象となる物品11の面12を被覆する。無機コーティング膜13の内部には、平均粒径D
90が1μm未満のナノバブルが所定の濃度で分散混在(分散溶存)している。無機コーティング膜13では、ナノバブルの平均粒径D
90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D
50が1nm以上500nm未満の範囲、無機コーティング膜13におけるナノバブル含有率が10~95vol.%の範囲にあり、無機コーティング膜13の1mm
2当たりのナノバブルの総数が10
7~10
12個/1mm
2の範囲にある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化した状態でガラスが主成分となり、被覆対象となる物品の面を被覆する無機コーティング膜において、
前記無機コーティング膜の内部には、独立した微細な多数の球状スペースが分散混在していることを特徴とする無機コーティング膜。
【請求項2】
前記球状スペースが、ナノバブルによって形成され、前記ナノバブルの平均粒径D90が、1μm未満であり、前記平均粒径D90のナノバブルが、前記無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在している請求項1に記載の無機コーティング膜。
【請求項3】
前記ナノバブルの平均粒径D50が、1nm以上500nm未満の範囲にあり、前記平均粒径D50のナノバブルが、前記無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在している請求項2に記載の無機コーティング膜。
【請求項4】
前記無機コーティング膜における前記ナノバブルの含有率が、10~95vol.%の範囲にある請求項3に記載の無機コーティング膜。
【請求項5】
前記ナノバブルを形成する気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスである請求項4に記載の無機コーティング膜。
【請求項6】
硬化した状態でガラスを主成分とする無機コーティング膜を被覆対象となる物品の面に形成するコーティング液において、
前記コーティング液が、ポリシラザン、シロキサンのうちの少なくとも一つからなる液状のケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とを所定の配合割合で混合することから作られ、前記コーティング液の内部には、独立した微細な多数の球状スペースが分散混入していることを特徴とするコーティング液。
【請求項7】
前記球状スペースが、ナノバブルによって形成され、前記ナノバブルの平均粒径D90が、1μm未満であり、前記平均粒径D90のナノバブルが、前記コーティング液の内部に所定の濃度で分散混入している請求項6に記載のコーティング液。
【請求項8】
前記ナノバブルが、負に帯電した状態で前記コーティング液の内部に分散混入し、前記ナノバブルの平均粒径D50が、1nm以上500nm未満の範囲にあり、前記平均粒径D50のナノバブルが、前記コーティング液の内部に所定の濃度で分散混在している請求項7に記載のコーティング液。
【請求項9】
前記コーティング液における前記ナノバブルの含有率が、10~95vol.%の範囲にある請求項8に記載のコーティング液。
【請求項10】
前記ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対する前記ケイ素材料の配合割合が、30~60wt%の範囲、前記ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対する前記アルキルシリケート縮合物の配合割合が、10~15wt%の範囲、前記ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対する前記不活性有機溶剤の配合割合が、30~60wt%の範囲にあり、前記ナノバブルが分散混入するコーティング液の20℃における粘度が、0.98~1.008mPa・sの範囲にあり、前記ナノバブルが分散混入する20℃のコーティング液の内部における前記ナノバブルの上昇速度が、0・000015~0.00005mm/minの範囲にある請求項9に記載のコーティング液。
【請求項11】
前記ナノバブルを形成する気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスである請求項10に記載のコーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆対象となる物品の面を被覆する無機コーティング膜及びその無機コーティング膜を形成するコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリシラザンを20~60wt%、アルキルシリケート縮合物を5~15wt%、有機溶剤を0~80wt%の割合で含有し、有機ポリシラザンにおけるメチル基の含有率が50%以上であるコーティング液が開示されている(特許文献1参照)。このコーティング液は、有機ポリシラザンが水分と反応することで、シロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造の被覆層が形成されるとともに、アルキルシリケート縮合物が架橋剤として作用し、被覆層に架橋構造が形成されることにより、コーティング膜の弾性率を低下させ、一定以上の膜厚であっても柔軟性を維持することができる。そのため、被覆対象となる物品の変形に対してコーティング膜を追従させることができ、クラックや剥離の発生が防止され、耐衝撃性と耐腐蝕性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ポリシラザンを含むコーティング液は、高価であるため、被覆対象となる物品の面(表面、裏面)に対するコーティング液のコーティング量(被覆量)を低減させ、コーティング液を廉価に使用することが望まれる。しかし、被覆対象となる物品の面を所定の膜厚で被覆することでコーティング膜がその効果を発現する以上、コーティングされたコーティング液が硬化した後のコーティング膜に所定厚みの膜厚が確保される必要があり、無条件にそのコーティング量を少なくすることができない。又、コーティング液をコーティングする物品の比表面積が大きい場合であってその全体にコーティング液をコーティングした場合、コーティング液が硬化したコーティング膜の膜厚が小さいとはいえ、コーティング膜を含む物品の重量が増加する。例えば、コーティング液をコーティングする物品が自動車である場合、コーティング膜を含む自動車の重量が増加してその燃費が低下したり、加速性能が低下する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、被覆対象となる物品に対する被覆量を低減させることができ、物品の面を廉価に被覆することができる無機コーティング膜を提供することにある。本発明の他の目的は、被覆対象となる物品の面をコーティングした場合において無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる無機コーティング膜を提供することにある。本発明の他の目的は、被覆対象となる物品に対するコーティング量を低減させることができ、廉価に使用することができるコーティング液を提供することにある。本発明の他の目的は、被覆対象となる物品の面にコーティングした場合において無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができるコーティング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の第1の前提は、硬化した状態でガラスが主成分となり、被覆対象となる物品の面を被覆する無機コーティング膜である。
【0007】
前記第1の前提における本発明の第1の特徴として、無機コーティング膜の内部には、独立した微細な多数の球状スペースが分散混在していることにある。
【0008】
前記第1の特徴を有する本発明の一例としては、球状スペースが、ナノバブルによって形成され、ナノバブルの平均粒径D90が、1μm未満であり、その平均粒径D90のナノバブルが、無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在している。
【0009】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、ナノバブルの平均粒径D50が、1nm以上500nm未満の範囲にあり、その平均粒径D50のナノバブルが、無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在している。
【0010】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、無機コーティング膜におけるナノバブルの含有率が、10~95vol.%の範囲にある。
【0011】
前記第1の特徴を有する本発明0の他の一例としては、ナノバブルを形成する気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスである。
【0012】
前記課題を解決するための本発明の第2の前提は、硬化した状態でガラスを主成分とする無機コーティング膜を被覆対象となる物品の面に形成するコーティング液である。
【0013】
前記第2の前提における本発明の第2の特徴としては、コーティング液が、ポリシラザン、シロキサンのうちの少なくとも一つからなる液状のケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とを所定の配合割合で混合することから作られ、独立した微細な多数の球状スペースがコーティング液の内部に分散混入していることにある。
【0014】
前記第2の特徴を有する本発明の一例としては、球状スペースが、ナノバブルによって形成され、ナノバブルの平均粒径D90が、1μm未満であり、その平均粒径D90のナノバブルが、コーティング液の内部に所定の濃度で分散混入している。
【0015】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、ナノバブルが、負に帯電した状態でコーティング液の内部に分散混入し、ナノバブルの平均粒径D50が、1nm以上500nm未満の範囲にあり、その平均粒径D50のナノバブルが、コーティング液の内部に所定の濃度で分散混在している。
【0016】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、コーティング液におけるナノバブルの含有率が、10~95vol.%の範囲にある。
【0017】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対するケイ素材料の配合割合が、30~60wt%の範囲、ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が、10~15wt%の範囲、ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が、30~60wt%の範囲にあり、ナノバブルが分散混入するコーティング液の20℃における粘度が、0.98~1.008mPa・sの範囲にあり、ナノバブルが分散混入する20℃のコーティング液の内部におけるナノバブルの上昇速度が、0・000015~0.00005mm/minの範囲にある。
【0018】
前記第1の特徴を有する本発明の他の一例としては、ナノバブルを形成する気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る無機コーティング膜によれば、その内部に独立した微細な多数の球状スペースが分散混在(分散溶存)しているから、微細な多数の球状スペースによって無機コーティング膜の単位面積当たりにおける無機コーティング膜自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面(表面、裏面)を被覆したときの無機コーティング膜自体の被覆量が減り、物品に対する無機コーティング膜の被覆量を低減させることができるとともに、無機コーティング膜に球状スペースが分散混在していない場合と比較し、その被覆量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング膜の単価が低下し、無機コーティング膜によって物品の面を廉価に被覆することができる。無機コーティング膜は、それに球状スペースが分散混在(分散溶存)していない場合と比較して単位面積当たりの質量が減少するから、それが被覆対象となる物品の面を被覆した場合において無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる。例えば、無機コーティング膜を被覆した物品が自動車である場合、無機コーティング膜を含む自動車の重量の増加を最小限にすることができ、自動車の燃費や加速性能の低下を防ぐことができる。無機コーティング膜は、ガラスが主成分となった状態で硬化するから、優れた耐衝撃性及び耐腐蝕性を有し、物品の面に対する被覆状態を長期間維持することができ、無機コーティング膜によって物品の面を保護することができる。
【0020】
球状スペースがナノバブルによって形成され、ナノバブルの平均粒径D90が1μm未満であり、その平均粒径D90のナノバブルが無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在(分散溶存)している無機コーティング膜は、その内部に平均粒径D90が1μm未満のナノバブルが所定の濃度で分散混在することで、超微細気泡であるナノバブルによって無機コーティング膜の単位面積当たりにおける無機コーティング膜自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面を被覆したときの無機コーティング膜自体の被覆量が減り、物品に対する無機コーティング膜の被覆量を低減させることができるとともに、無機コーティング膜にナノバブルが分散混在していない場合と比較し、その被覆量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング膜の単価が低下し、無機コーティング膜によって物品の面を廉価に被覆することができる。無機コーティング膜は、それにナノバブルが分散混在(分散溶存)していない場合と比較して単位面積当たりの質量が減少するから、それが被覆対象となる物品の面を被覆した場合において無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる。無機コーティング膜は、それに超微細気泡であるナノバブルが分散混在(分散溶存)していたとしても、ガラスが主成分となった状態で硬化するから、優れた耐衝撃性及び耐腐蝕性を有し、物品の面に対する被覆状態を長期間維持することができ、無機コーティング膜によって物品の面を確実に保護することができる。
【0021】
ナノバブルの平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲にあり、その平均粒径D50のナノバブルが無機コーティング膜の内部に所定の濃度で分散混在している無機コーティング膜は、平均粒径D50が1nm以上500nm未満のナノバブルが無機コーティング膜の内部に所定の濃度で多量に分散混在しているから、超微細気泡であるナノバブルによって無機コーティング膜における単位面積当たりの無機コーティング膜自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面を無機コーティング膜が被覆する場合における無機コーティング膜自体の被覆量を確実に低減させることができるとともに、その被覆量が減ることで物品の面の単位面積当たりの無機コーティング膜の単価が低下し、無機コーティング膜によって物品の面を廉価に被覆することができる。
【0022】
無機コーティング膜におけるナノバブルの含有率が10~95vol.%の範囲にある無機コーティング膜は、ナノバブルが分散混在する無機コーティング膜におけるそのナノバブルの含有率が前記範囲にあるから、超微細気泡のナノバブルが無機コーティング膜の内部に所定の濃度で多量に分散混在し、超微細気泡であるナノバブルによって無機コーティング膜における単位面積当たりの無機コーティング膜自体の割合を確実に少なくすることができ、被覆対象となる物品の面を無機コーティング膜が被覆する場合における無機コーティング膜自体の被覆量を確実に低減させることができるとともに、その被覆量が減ることで物品の面の単位面積当たりの無機コーティング膜の単価が低下し、無機コーティング膜によって物品の面を廉価に被覆することができる。
【0023】
ナノバブルを形成する気体が空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスである無機コーティング膜は、例示の気体やそれら気体の混合ガスから作られる超微細気泡の多量のナノバブル(球状スペース)が無機コーティング膜の内部に分散混在(分散溶存)することで、超微細気泡であるナノバブル(球状スペース)によって無機コーティング膜の単位面積当たりにおける無機コーティング膜自体の割合を確実に少なくすることができ、無機コーティング膜が被覆対象となる物品の面を被覆したときの無機コーティング膜自体の被覆量が減り、物品に対する無機コーティング膜の被覆量を低減させることができるとともに、その被覆量が減ることで物品の面の単位面積当たりの無機コーティング膜の単価が低下し、無機コーティング膜によって物品の面を廉価に被覆することができる。
【0024】
本発明に係るコーティング液によれば、ポリシラザン、シロキサンのうちの少なくとも一つからなる液状のケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とを所定の配合割合で混合したコーティング液の内部に、独立した微細な多数の球状スペースが分散混入(分散溶解)しているから、それら微細な多数の球状スペースによってコーティング液の単位体積当たりにおけるコーティング液自体の割合を少なくすることができ、無機コーティング膜を作るコーティング液を被覆対象となる物品の面にコーティングしたときのコーティング液自体のコーティング量が減り、物品に対するコーティング液のコーティング量を低減させることができるとともに、コーティング液に球状スペースが分散混入していない場合と比較し、そのコーティング量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング液の単価が低下し、コーティング液を廉価に使用することができる。コーティング液は、それに球状スペースが分散混入(分散溶解)していない場合と比較して単位体積当たりの質量が減少するから、それを被覆対象となる物品の面にコーティングした場合においてコーティング液から形成(成膜)された無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる。例えば、コーティング液をコーティングする物品が自動車である場合、コーティング液から作られた無機コーティング膜を含む自動車の重量の増加を最小限にすることができ、自動車の燃費や加速性能の低下を防ぐことができる。コーティング液は、ポリシラザンやシロキサンが水分と反応してシロキサン結合による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた有機複合構造の被覆層を形成するとともに、アルキルシリケート縮合物が架橋剤として作用し、被覆層に架橋構造が形成されるから、コーティング液から作られた無機コーティング膜の弾性率を低下させることができ、コーティング液から作られた無機コーティング膜が一定以上の膜厚であっても柔軟性を維持することができる。コーティング液は、被覆対象となる物品の変形に対してコーティング液から作られた無機コーティング膜を追従させることができ、無機コーティング膜におけるクラックや剥離の発生を防止することができるとともに、被覆対象となる物品の面に高い耐衝撃性及び高い耐腐蝕性を有する無機コーティング膜を作ることができる。コーティング液は、それから作られた無機コーティング膜がガラスが主成分となった状態で硬化するから、無機コーティング膜が優れた耐衝撃性及び耐腐蝕性を有して物品の面に対する被覆状態を長期間維持することができ、無機コーティング膜によって物品の面を保護することができる。
【0025】
球状スペースがナノバブルによって形成され、ナノバブルの平均粒径D90が1μm未満であり、その平均粒径D90のナノバブルがコーティング液の内部に所定の濃度で分散混入(分散溶解)しているコーティング液は、その内部に平均粒径D90が1μm未満のナノバブルが所定の濃度で分散混入することで、ナノバブルによってコーティング液の単位体積当たりにおけるコーティング液自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面にコーティングしたときのコーティング液自体のコーティング量が減り、物品に対するコーティング液のコーティング量を低減させることができるとともに、コーティング液にナノバブルが分散混入していない場合と比較し、そのコーティング量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング液の単価が低下し、コーティング液を廉価に使用することができる。コーティング液は、それにナノバブルが分散混入していない場合と比較して単位体積当たりの質量が減少するから、それを被覆対象となる物品の面にコーティングした場合においてコーティング液から形成された無機コーティング膜を含む物品の重量の増加を最小限にすることができる。コーティング液は、それから作られた無機コーティング膜に超微細気泡であるナノバブルが分散混在(分散溶存)していたとしても、コーティング液がガラスが主成分となった状態で硬化するから、コーティング液から作られた無機コーティング膜が優れた耐衝撃性及び耐腐蝕性を有して物品の面に対する被覆状態を長期間維持することができ、無機コーティング膜によって物品の面を確実に保護することができる。
【0026】
ナノバブルが負に帯電した状態でコーティング液の内部に分散混入し、ナノバブルの平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲にあり、その平均粒径D50のナノバブルがコーティング液の内部に所定の濃度で分散混在しているコーティング液は、ナノバブルが負に帯電していることで、コーティング液の内部に分散混入したナノバブルどうしが反発しあい、ナノバブルどうしが結合(合一)することはなく、ナノバブルどうしが結合することによるナノバブルの大気泡化を防ぐことができ、無機コーティング膜を作るコーティング液における超微細気泡のナノバブルの分散混入状態を維持することができる。コーティング液は、ナノバブルどうしが結合することなく超微細気泡のナノバブルがコーティング液中に分散混入(分散溶解)しているから、ナノバブルがコーティング液から揮発し難く、ナノバブルをコーティング液中に長期間留まらせることができる。コーティング液は、その内部に前記範囲の平均粒径D50のナノバブルが所定の濃度で多量に分散混入(分散溶解)しているから、超微細気泡であるナノバブルによってコーティング液における単位体積当たりのコーティング液自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面に無機コーティング膜を作るコーティング液をコーティングする場合におけるコーティング液自体のコーティング量を確実に低減させることができる。
【0027】
コーティング液におけるナノバブルの含有率が10~95vol.%の範囲にあるコーティング液は、コーティング液におけるナノバブルの含有率が前記範囲にあり、超微細気泡のナノバブルがコーティング液の内部に所定の濃度で多量に分散混入し、超微細気泡であるナノバブルによってコーティング液における単位体積当たりのコーティング液自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品の面にコーティング液をコーティングする場合におけるコーティング液自体のコーティング量を確実に低減させることができるとともに、そのコーティング量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング液の単価が低下し、無機コーティング膜を作るコーティング液を廉価に使用することができる。
【0028】
ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対するケイ素材料の配合割合が30~60wt%の範囲、ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が10~15wt%の範囲、ナノバブルを混入する前のコーティング液の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が30~60wt%の範囲にあり、ナノバブルが分散混入するコーティング液の20℃における粘度が0.98~1.008mPa・sの範囲にあり、ナノバブルが分散混入する20℃のコーティング液の内部におけるナノバブルの上昇速度が0・000015~0.00005mm/minの範囲にあるコーティング液は、ナノバブルが分散混入(分散溶解)するコーティング液の20℃における粘度が前記範囲にあり、ナノバブルが分散混入する20℃のコーティング液中におけるナノバブルの上昇速度が範囲にあるから、ナノバブルがコーティング液から揮発し難く、ナノバブルをコーティング液中に長期間留まらせることができ、被覆対象となる物品に無機コーティング膜を作るコーティング液をコーティングする場合におけるコーティング液自体のコーティング量を確実に低減させることができる。コーティング液は、ケイ素材料の配合割合が前記範囲にあるから、コーティング液から作られた無機コーティング膜が所定の膜厚に形成され、被覆対象となる物品の面に高い耐衝撃性及び高い耐腐蝕性を有する無機コーティング膜を作ることができる。コーティング液は、アルキルシリケート縮合物の配合割合が前記範囲にあるから、コーティング液から作られる無機コーティング膜の形成速度を正確にコントロールすることができる。
【0029】
ナノバブルを形成する気体が空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスであるコーティング液は、例示の気体やそれら気体の混合ガスから作られる超微細気泡の多量のナノバブル(球状スペース)がコーティング液の内部に分散混入(分散溶解)することで、超微細気泡であるナノバブル(球状スペース)によってコーティング液の単位体積当たりにおけるコーティング液自体の割合を少なくすることができ、無機コーティング膜を作るコーティング液を被覆対象となる物品の面にコーティングしたときのコーティング液自体のコーティング量が減り、物品に対するコーティング液のコーティング量を低減させることができるとともに、そのコーティング量が減ることで物品の面の単位面積当たりのコーティング液の単価が低下し、コーティング液を廉価に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】コーティング液にナノバブルを混入させるナノバブル発生装置の一例を示す構成図。
【
図2】コーティング液をコーティングした物品の表面にコーティング液から無機コーティング膜が形成されるメカニズムを時系列で説明する断面図。
【
図3】無機コーティング膜の構造の一例を示すイメージ図。
【
図4】無機コーティング膜の内部に混在(溶存)するナノバブルのイメージを図示した図。
【
図5】無機コーティング膜の膜厚と耐衝撃性及び耐腐食性との相関関係を示す図。
【
図6】サンプルA~サンプルEのコーティング液及びサンプルA~サンプルEのコーティング液から作られた無機コーティング膜の配合割合、空孔率、ナノバブルの総数、ナノバブルの粒径を示す図。
【
図7】サンプルF~サンプルHのコーティング液及びサンプルF~サンプルHのコーティング液から作られた無機コーティング膜の配合割合、空孔率、ナノバブルの総数、ナノバブルの粒径を示す図。
【
図8】サンプルA~サンプルEのコーティング液から作られた無機コーティング膜の柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価を示す図。
【
図9】サンプルF~サンプルHのコーティング液から作られた無機コーティング膜の柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
添付の図面を参照し、本発明に係るコーティング液及び無機コーティング膜の詳細を説明すると、以下のとおりである。
図1は、コーティング液10にナノバブル14を混入させるナノバブル発生装置20の一例を示す構成図であり、
図2の(a)~(c)は、コーティング液10をコーティング(塗布)した物品11の面12(表面、裏面)にコーティング液10から無機コーティング膜13が形成されるメカニズムを時系列で説明する断面図である。
図3は、無機コーティング膜13の構造の一例を示すイメージ図であり、
図4は、無機コーティング膜13の内部に分散混在(分散溶存)するナノバブル14のイメージを図示した図である。
図5は、無機コーティング膜13の膜厚と耐衝撃性及び耐腐食性との相関関係を示す図である。
図4では、ナノバブル14を目視可能なイメージとして図示しているが、実際にはナノバブル14を目視することはできない。
【0032】
(コーティング液10)
コーティング液10は、被覆対象となる物品11の面12(表面、裏面)にコーティング(塗布)する。硬化したコーティング液10が物品11の面12を被覆する無機コーティング膜13を形成する。コーティング液10の原料としては、ポリシラザン(無機ポリシラザン、有機ポリシラザン)、シロキサンのうちの少なくとも一つからなる液状の有機ケイ素材料(ケイ素材料)とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とが使用されている。コーティング液10の内部(コーティング液中)には、後記する平均粒径D90が1μm未満のナノバブル14(ウルトラファインバブル)(独立した微細な多数の球状スペース)が所定の濃度で分散混入(分散溶解)している。
【0033】
ポリシラザン及びシロキサン(高分子シラン)は、それらのうちのいずれか一方が使用される場合、又は、それらの双方を混合した混合液が使用される場合がある。有機ケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とが所定の配合割合で混合・攪拌されることから、コーティング液10が作られる。コーティング液10では、ポリシラザン及びシロキサンの少なくとも一方からなる有機ケイ素材料とアルキルシリケート縮合物とが不活性有機溶剤によって希釈されている。
【0034】
無機ポリシラザンには、Si-N系のペルヒドロポリシラザン(パーヒドロポリシラザン)が使用されている。尚、ポリシラザンとしては、Si-C-N系のオルガノポリシラザン、Si-C系のポリカルボシランを使用することができ、更に、SiC-O系、Si-B-C-N系、Si-Ti-N系のそれを使用することもできる。又、オルガノポリシロキサンを使用することもできる。
【0035】
有機ポリシラザンとしては、メチルポリシラザン、ジメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザン等の変性ポリシラザンを使用することもできる。又、ポリシラザンと化学的に反応して架橋構造を生成するヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基、シリル基等の反応基を有する炭化水素化合物、環状飽和炭化水素化合物、環状不飽和炭化水素化合物、飽和複素環化合物、不飽和複素環化合物、シリコーン化合物等の化合物で化学的に架橋された架橋ポリシラザンを使用することもできる。
【0036】
その他として、ポリボロシラザン、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン、共重合シラザン、ポリシラザンにセラミックス化を促進するための触媒的化合物を付加又は添加した低温セラミックス化ポリシラザン、ケイ素アルコキシド付加ポリシラザン、グリシドール付加ポリシラザン、アセチルアセトナト錯体付加ポリシラザン、金属カルボン酸塩付加ポリシラザン、上記種々のポリシラザン又は変性物にアミン類及び/又は酸類を添加したポリシラザン組成物を使用することもできる。
【0037】
ポリシラザンは、1種類の単独ポリシラザン、又は、各種ポリシラザンから選択された2種類以上のポリシラザン混合物、或いは、2種以上のポリシラザン構造からなるポリシラザン共重合体を使用することができ、1分子中にケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも1つ以上含む。コーティング液10を形成するポリシラザンは、溶剤への溶解性や塗布時の作業性の観点から重量平均分子量が100~100,000,000、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは2,000~500,000の範囲にある。重量平均分子量が100以上であると揮発性が低く、溶剤の揮発及び硬化工程時にポリシラザンそのものが揮発することで塗膜の膜質が劣化する場合がある。
【0038】
無機ポリシラザンとしては、一般式(化1)で表される。
【0039】
【化1】
無機ポリシラザンは、構造単位を有する直鎖状構造を包含し、690~2,000の分子量を有し、一分子中に3~10個のSiH
3基を有し、化学分析による元素比率がSi:59~61、N:31~34及びH:6.5~7.5の各重量%であるペルヒドロポリシラザン、ポリスチレン換算平均分子量が3,000~20,000の範囲にあるペルヒドロポリシラザンを挙げることができる。
【0040】
ペルヒドロポリシラザンは、分子内に鎖状部分と環状部分を含み、下記の化学式(化2)で表される。
【0041】
【化2】
尚、ペルヒドロポリシラザンの構造の一例は、下記の化学式(化3)で表される。
【0042】
【化3】
ペルヒドロポリシラザン化合物群の他の一例は、下記の一般式(化4)で表され、Si-N結合と官能基(R
1~R
3)を有し、-(SiR
1R
2-NR
3)-ユニットから形成されるポリマーであり、Siと直接結びつく官能基R
1,R
2の少なくともいずれかが炭素(C)を有するアルキル基等の有機官能基から形成される有機のポリマーである。
【0043】
【化4】
尚、ペルヒドロポリシラザンは、炭素原子が3つの水素原子によって置換された構造を持つ有機化合物の官能基(R
1~R
3)の1つであるメチル基(CH
3)の含有率が50%以上である。又、ペルヒドロポリシラザンは、1種類の-(SiR
1R
2-NR
3)-ユニットから形成されるポリマーのみならず、官能基(R
1~R
3)の組成が異なる複数種類の-(SiR
1R
2-NR
3)-ユニットから形成されるポリマーであってもよい。更に、ペルヒドロポリシラザンは、鎖状又は環状或いは架橋構造を有するポリマーであってもよく、それらの構造を複合的に有するポリマーであってもよい。R
1、R
2、R
3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シク ロ アルキル基、アリール基、又は、それらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基 、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わす。但し、R
1、R
2、R
3の少なくとも1つは水素原子である。
【0044】
一例としてのペルヒドロポリシラザン(A)は、下記の一般式(化5)で表される-(SiH(CH3)-NH)-ユニット、-(Si(CH3)2-NH)-ユニット、-(SiR1(CH3)-NR3)-ユニットを含むポリマーである。-(SiR1(CH3)-NR3)-ユニットにおける官能基R1は、H又はCH3であり、Nと直接結びつく官能基R3が反応を促進させる有機官能基となっている。コーティング液10にペルヒドロポリシラザン(A)が含まれることで、コーティング液10を物品11の面12にコーティングした後の反応を促進させ、物品11の面12に早期に有機/無機ハイブリッドコーティング膜13を形成することができる。
【0045】
【化5】
他の一例としてのペルヒドロポリシラザン(B)は、下記の一般式(化6)で表される-(SiH(CH
3)-NH)-ユニット、-(SiR
1(CH
3)-NH)-ユニットを含むポリマーであり、-(SiR
1(CH
3)-NH)-ユニットの官能基R
1が高耐熱を実現させる有機官能基となっている。コーティング液10にペルヒドロポリシラザン(B)が含まれることで、物品11の面12を被覆した有機/無機ハイブリッドコーティング膜13の耐熱性を高めることができる。
【0046】
【化6】
コーティング液10に含まれるペルヒドロポリシラザンは、含有するポリマーの構造が異なる複数種類のペルヒドロポリシラザンが混合されたものであってもよい。例えば、ペルヒドロポリシラザン(A)とペルヒドロポリシラザン(B)とが混合されたペルヒドロポリシラザンであってもよい。それらのペルヒドロポリシラザン(A)及びペルヒドロポリシラザン(B)の混合実験によれば、ペルヒドロポリシラザン(A)が50質量%とペルヒドロポリシラザン(B)が50質量%との配合割合により、ペルヒドロポリシラザン(A)単体と同等以上の防錆性を示すとともに、ペルヒドロポリシラザン(B)単体と比較して硬化時間(有機/無機ハイブリッドコーティング膜13の生成時間)の短縮が確認された。
【0047】
オルガノポリシラザンは、上記一般式(化4)においてR1及びR2に水素原子、R3に有機基を有する。-(R2SiHNH)-を繰り返し単位として、重合度が3~5の環状構造を有するポリシラザン、(R3SiHNH)x〔(R2SiH)1.5N〕1-X(0.4<X<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するポリシラザン、上記一般式(化4)においてR1に水素原子、R2、R3に有機基を有するポリシラザン、R1及びR2に有機基、R3に水素原子を有し-(R1R2SiNR3)-を繰り返し単位として、主に重合度が3~5の環状構造を有しているポリシラザンがある。
【0048】
例えば上記一般式(化4)以外の架橋構造を分子内に有するオルガノポリシラザンが下記の一般式(化7)で表される。
【0049】
【化7】
又、例えばR
1SiX
3(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザンR
1Si(NH)
x、R
1SiX
3及びR
2
2SiX
2の共アンモニア分解によって得られる構造のポリシラザンが下記の一般式(化8)で表される。
【0050】
【化8】
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、平均単位式(A):(R
1
3SiO
1/2)
a(R
1
2SiO
2/2)
b(R
1SiO
3/2)
c(SiO
4/2)
dを有するポリマーがある。平均単位式(A)のうちのR
1は、それぞれ独立な一価の有機基であり、好ましくは、一価のエチレン性不飽和基、一価の炭化水素基(但し、エチレン性不飽和基を除く)、又は、一価の置換炭化水素基(但し、エチレン性不飽和基を除く)である。R
1の炭素数は、好ましくは1以上8以下、より好ましくは1以上6以下である。一価の置換炭化水素基は、炭化水素基を基本骨格とし、例えば、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、イソチオシアネート基、ニトロ基及びカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む。R
1は、好ましくは一価のエチレン性不飽和基又は一価の炭化水素基であり、より好ましくは一価のエチレン性不飽和基である。
【0051】
一価のエチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基の炭素数は、好ましくは2以上8以下、より好ましくは2以上6以下、更に好ましくは2以上3以下である。一価のエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、すなわち式(B):-R12-OC(=O)-CR11=CH2で表される基もある。具体的には、アクリロイルオキシプロピル基、メタクリロイルオキシプロピル基がある。式(B)のうちのR11は水素原子又はメチル基であり、R12はアルカンジイル基であり、好ましくは炭素数1以上5以下のアルカンジイル基である。尚、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルを総称する意味で用いられ、(メタ)アクリロイルは、アクリロイル及びメタクリロイルを総称する意味で用いられる。
【0052】
一価のエチレン性不飽和基では、アルケニル基が好ましく、ビニル基及びアリル基が好ましく、ビニル基がより好ましい。一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基及びキシリル基等のアリール基;並びにベンジル基及びフェネチル基等のアラルキル基がある。一価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上8以下、より好ましくは1以上5以下、更に好ましくは1以上3以下である。
【0053】
一価の置換炭化水素基としては、例えば、3-メルカプトプロピル基(-(CH2)3-SH)及び3-アミノプロピル基(-(CH2)3-NH2)がある。R1は、微粒子化の観点から、好ましくは、それぞれ独立にアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは、それぞれ独立に炭素数1以上3以下のアルキル基、ビニル基又はアリル基であり、更に好ましくは、メチル基又はビニル基である。
【0054】
平均単位式(A)を有するオルガノポリシロキサン1分子中において、少なくとも一部のR1は、一価のエチレン性不飽和基、アリール基又はアラルキル基等の官能基(L)を含む基であり、好ましくは一価のエチレン性不飽和基であり、より好ましくはアルケニル基である。一価のエチレン性不飽和基、アリール基又はアラルキル基の合計割合は、オルガノポリシロキサン1分子中の全R1を基準として、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。一価のエチレン性不飽和基、アリール基又はアラルキル基は、金属イオンに配位可能な非イオン性官能基を含む疎水性基である。
【0055】
平均単位式(A)におけるa、b、c、dは、それぞれ各構成単位(R1
3SiO1/2)、(R1
2SiO2/2)、(R1SiO3/2)及び(SiO4/2)のモル分率の平均値を表す。各構成単位のモル分率の和である、a、b、c、dの合計は、1である。aは、R1
3SiO1/2(M単位)で表されるシロキサン単位のモル分率である。aは、0以上0.5以下であり、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。
【0056】
bは、R1
2SiO2/2(D単位)で表されるシロキサン単位のモル分率である。bは、0以上0.5以下であり、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。cは、R1SiO3/2(T単位)で表されるシロキサン単位のモル分率である。cは、0.3以上1以下であり、好ましくは0.4以上、0.5以上又は0.6以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。
【0057】
dは、SiO4/2(Q単位)で表されるシロキサン単位のモル分率である。dは、0以上0.7以下であり、好ましくは0.6以下、0.5以下又は0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。分岐した構成単位の総和を示すc及びdの合計は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。
【0058】
オルガノポリシロキサンは、平均単位式(A)における構成単位(R1
3SiO1/2)を有する場合、その構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。平均単位式(A)における構成単位(R1
2SiO2/2)及び(R1SiO3/2)についても同様である。オルガノポリシロキサンは、前記各構成単位におけるR1の少なくとも一部がR2Oに置き換えられた構成単位を有していてもよい。平均単位式(A)のうちのR2は、水素原子又はアルキル基である。R2Oは、オルガノポリシロキサン骨格中に含まれるケイ素原子に結合したヒドロキシ基又はアルコキシ基を意味する。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上3以下である。
【0059】
上記各構成単位における上記R1の少なくとも一部がR2Oに置き換えられた構成単位の量は、前記構成単位のモル分率の和である、a、b、c、dの合計1に対して、好ましくは0以上0.10以下であり、より好ましくは0以上0.05以下、更に好ましくは0以上0.03以下である。前記構成単位におけるアルコキシ基は、例えば、後述するアルコキシシランに含まれる加水分解性基であるアルコキシ基であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したものである。本構成単位におけるヒドロキシ基は、例えば、アルコキシ基が加水分解後、重縮合せずに分子内に残存したヒドロキシ基である。
【0060】
オルガノポリシロキサンは、好ましくはシルセスキオキサンである。シルセスキオキサンとは、主鎖骨格がSi-O結合からなり、主構成単位として(R1SiO3/2)単位を含み、前記cが0.7以上であるオルガノポリシロキサンである。シルセスキオキサンの構造としては、例えば、ランダム構造、完全カゴ型構造、不完全カゴ型構造、ハシゴ型構造が挙げられるが、これらの中でも、製造容易性という観点から、ランダム構造を有するシルセスキオキサンが好ましい。
【0061】
前記構成単位(R1
3SiO1/2)を形成するアルコキシシランとしては、R1
3Si(OR2)で表される化合物が挙げられる。その具体例として、例えば、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン及びエトキシジメチルフェニルシラン;並びにメトキシトリメチルシラン及びエトキシトリメチルシランがある。
【0062】
前記構成単位(R1
2SiO2/2)を形成するアルコキシシランとしては、R1
2Si(OR2)2で表される化合物が挙げられる。その具体例として、例えば、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン及びジメトキシベンジルメチルシラン;並びにジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン及びジプロポキシジエチルシランがある。
【0063】
前記構成単位(R1SiO3/2)を形成するアルコキシシランとしては、R1Si(OR2)3で表される化合物が挙げられる。その具体例として、例えば、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシアリルシラン、トリエトキシアリルシラン、(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン及び(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン;並びにメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン及びブチルトリメトキシシランがある。前記構成単位(SiO4/2)を形成するアルコキシシランとしては、Si(OR2)4で表される化合物が挙げられる。その具体例として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラプロポキシシランがある。
【0064】
コーティング液10に含まれるシロキサンは、鎖状骨格を有する鎖状シロキサン、環状骨格を有する環状シロキサンのうちのいずれか1種類又はそれらを2種類以上混合した混合液であってもよい。環状シロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(C6H18O3Si4)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(C6H24O4Si4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(C10H30O5Si5)の中から選択される1種類又はそれらを2種類以上混合した混合液を使用することができる。ポリシラザン及びシロキサンの数平均分子量は、3000~150000g /molの範囲にある。
【0065】
アルキルシリケート縮合物は、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート、エチルポリシリケートの中から選択される1種類又はそれらを2種類以上混合した縮合物(混合液)である。不活性有機溶剤は、有機ポリシラザン及びシロキサン並びにアルキルシリケート縮合物に対して不活性であり、ジブチルエーテル、テレピン油、ベンゼン、トルエンの中から選択される。
【0066】
コーティング液10は、ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザンやオルガノポリシラザン、オルガノポリシロキサン等)やシロキサンの数平均分子量が前記範囲にあるから、ポリシラザン及び/又はポリシロキサンを含むコーティング液10が所定の粘度を保持することができ、そのコーティング液10から初期する膜厚の無機コーティング膜13を作ることができる。コーティング液10は、所定の粘度を保持した状態で被覆対象となる物品11の面12にコーティングされるから、微小な孔や網目が形成された物品11の面12にコーティングしたとしても、コーティング液10が物品11の内部に滲入することはなく、物品11の面12に略均一の膜厚の無機コーティング膜13を作ることができる。
【0067】
コーティング液10では、ナノバブルを混入する以前のコーティング液の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が30~60質量%の範囲、ナノバブルを混入する以前のコーティング液の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が10~15質量%の範囲、ナノバブルを混入する以前のコーティング液の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が30~60質量%の範囲にある。有機ケイ素材料(ポリシラザン、シロキサン)の配合割合が30質量%未満では、有機ケイ素材料の含有量が少なく、物品11の面12に優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する所定の膜厚の無機コーティング膜13を形成することができない。有機ケイ素材料(ポリシラザン、シロキサン)の配合割合が60質量%を超過すると、コーティング液10の粘度が増加し、後記するナノバブル14をコーティング液10の内部に所定の濃度で分散混入(分散溶解)させることができない。コーティング液10は、ナノバブルを混入する以前の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン、シロキサン)の配合割合が前記範囲にあるから、ナノバブルを混入した後のコーティング液10を使用し、ナノバブル14が所定の密度で分散混在(溶解)するとともに、優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する適正な膜厚の無機コーティング膜13を作ることができる。
【0068】
アルキルシリケート縮合物の配合割合が10質量%未満では、アルキルシリケート縮合物の架橋剤として作用が弱く、無機コーティング膜13に十分な架橋構造が形成されない。アルキルシリケート縮合物の配合割合が15質量%を超過すると、無機コーティング膜13に不要な架橋構造が形成され、無機コーティング膜13の柔軟性が必要以上に大きくなる。コーティング液10は、ナノバブルを混入する以前の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が前記範囲にあるから、ナノバブルを混入した後のコーティング液10を使用し、適正な架橋構造及び適正な柔軟性を有するとともにナノバブルが所定の密度で分散混在した無機コーティング膜13を作ることができる。
【0069】
不活性有機溶剤の配合割合が30質量%未満では、コーティング液10の粘度が高くなり、ナノバブル14をコーティング液10の内部に所定の濃度で分散混入(分散溶解)させることができない。不活性有機溶剤の配合割合が60質量%を超過すると、コーティング液10の粘度が必要以上に低くなり、物品11の面12に優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する所定の膜厚の無機コーティング膜13を形成することができない。コーティング液10は、ナノバブルを混入する以前のコーティング液の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が前記範囲にあるから、ナノバブルを混入した後のコーティング液10を使用し、ナノバブル14が所定の密度で分散混在(分散溶解)するとともに、優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する適正な粘度の無機コーティング膜13を作ることができる。
【0070】
コーティング液10は、ナノバブルを混入する以前のコーティング液の全質量に対して有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)を30~60質量%の範囲で含有し、アルキルシリケート縮合物を10~15質量%の範囲で含有しているから、コーティング液10から作られる無機コーティング膜13の形成速度を適正に制御することができる。具体的にアルキルシリケート縮合物の加水分解は、ポリシラザン及び/又はシロキサンの縮合よりも速く進行するから、アルキルシリケート縮合物の加水分解に一部の水分(H2O)が先に消費されることにより、ポリシラザン及び/又はシロキサンの縮合反応の進行を遅らせることができ、無機コーティング膜13の形成速度を制御することができる。又、アルキルシリケート縮合物の加水分解が先に起こるため、無機コーティング膜13に架橋構造を確実に形成して柔軟性を付与することができる。
【0071】
又、有機溶剤が有機ポリシラザンやシロキサン、アルキルシリケート縮合物に対して不活性なジブチルエーテル、テレピン油、ベンゼン、トルエンのいずれかから選択されるから、特に有機ポリシラザン及び/又はシロキサンの縮合反応が急激に進行することがなく、無機コーティング膜13の形成速度を適正に制御することができる。無機コーティング膜13の形成速度を制御することができるコーティング液10は、物品11の面12に対するコーティング作業を容易に行うことができる。
【0072】
(ナノバブル混入装置15)
ナノバブル混入装置15の一例は、
図1に示すように、所定容積を有するコーティング液貯水タンク16と、気体給気タンク17と、給水ポンプ18及び給気ポンプ19と、静止型流体混合装置20(ナノバブル発生装置)と、所定容積を有してナノバブル14が分散混入したコーティング液10を収容するコーティング液収容槽21と、冷却装置(図示せず)と、コントローラ(図示せず)とから形成されている。ナノバブル混入装置15には、電源(図示せず)から電力が供給されている。コーティング液貯水タンク16には、既述のポリシラザン、シロキサンのうちの少なくとも一方からなる液体状の有機ケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とを所定の配合割合で混同・攪拌したコーティング液10(ナノバブル14を分散混入する前のコーティング液10)が貯水されている。
【0073】
コーティング液貯水タンク16には、レベル計(図示せず)が設置されている。レベル計は、信号線を介してコントローラに接続され、コーティング液貯水タンク16に貯水されたコーティング液10のレベル(貯水量)を計測し、計測した測定レベルをコントローラに送信する。コーティング液貯水タンク16は、給水管路22(給水パイプ)を介して給水ポンプ18に連結されている。給水管路22には、図示はしていないが、流量計、逆止弁、給水電磁弁が設置されている。流量計は、信号線を介してコントローラに接続され、給水管路22を流動するコーティング液10の流量を計測し、計測した測定流量をコントローラに送信する。給水電磁弁は、その制御部が信号線を介してコントローラに接続され、その発停(開閉)がコントローラによって制御される。
【0074】
気体給気タンク17には、コーティング液10に分散混入させる気体が所定の圧力で収容されている。コーティング液10に分散混入させる気体としては、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガスが使用される。気体給気タンク17は、給気管路23(給気パイプ)を介して混合管路24(混合パイプ)に連結されている。給気管路23には、図示はしていないが、気圧計、逆止弁、給気電磁弁が設置されている。気圧計は、信号線を介してコントローラに接続され、気体給気タンク17に収容された気体の気圧を計測し、計測した測定気圧をコントローラに送信する。給気電磁弁は、その制御部が信号線を介してコントローラに接続され、その発停(開閉)がコントローラによって制御される。給気管路23には、給気ポンプ19が設置されている。給気ポンプ19は、その制御部が信号線を介してコントローラに接続されている。給気ポンプ19は、その発停や出力がコントローラによって制御される。
【0075】
給水ポンプ18は、給水管路22に設置され、その制御部が信号線を介してコントローラに接続されている。給水ポンプ18は、その発停や出力がコントローラによって制御される。給水ポンプ18は、混合管路24を介して静止型流体混合装置20に連結されている。静止型流体混合装置20は、供給管路25を介して所定容積のコーティング液収容槽21に連結されている。コーティング液収容槽21には、レベル計(図示せず)が設置されている。レベル計は、信号線を介してコントローラに接続され、コーティング液収容槽21に収容されたナノバブル14が分散混入されたコーティング液10のレベル(貯水量)を計測し、計測した測定レベルをコントローラに送信する。
【0076】
静止型流体混合装置20(ナノバブル発生装置)は、流入口と流出口とを備えた円筒ユニット26と、円筒ユニット26の内部に配置された複数のハニカム構造エレメント(撹拌翼)(図示せず)とから形成されている。それらハニカム構造エレメントは、円筒ユニット26の内部に直列に連結された状態で配置されている。静止型流体混合装置20(ナノバブル発生装置)は、ハニカム構造エレメントの内部にコーティング液10及び気体を高速回転によって生じる遠心力で通過させることにより、気体をナノレベルに超微細化してナノバブル14を生成しつつ、生成したナノバブル14をコーティング液10に満遍なく均一に混入(溶解)し、ナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)したコーティング液10を作る。尚、静止型流体混合装置20では、コーティング液10及び気体がハニカム構造エレメントの内部を何度も通過することによって気体の超微細化(ナノレベル化)及び超微細化した気体のコーティング液10への混入(溶解)が進む。冷却装置は、冷媒(例えば、ハイドロフルオロカーボン)の循環によって静止型流体混合装置20の円筒ユニット26を設定温度に冷却する。冷却装置は、その制御部が信号線を介してコントローラに接続されている。冷却装置は、その発停や出力がコントローラによって制御される。
【0077】
コントローラは、中央処理部(CPU又はMPU)とメモリ(メインメモリおよびキャッシュメモリ)とを有して独立したオペレーティングシステム(OS)によって動作する物理的なコンピュータであり、大容量記憶領域を実装している。コントローラには、キーボードやマウス等の入力装置、ディスプレイやプリンタ等の出力装置がインターフェイスを介して接続されている。コントローラの中央処理部は、オペレーティングシステム(OS)による制御に基づいて、メモリに記憶されたナノバブル混入アプリケーションを起動し、そのアプリケーションに従ってコーティング液10にナノバブル14を分散混入(分散溶解)する混入操作を実施する。
【0078】
ナノバブル混入装置15のスイッチをONにすると、コーティング液貯水タンク16に貯水されたコーティング液10にナノバブル14を混入する混入操作が開始される。尚、コーティング液貯水タンク16には所定量のコーティング液10が注水されているとともに、気体給気タンク17には所定の圧力で気体(空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン、クリプトン、ラドン、水素、酸素、オゾン、メタン、エチレン、プロパン、ブタン、アセチレン、エタノール、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化炭素のうちのいずれか又はそれらを2種類以上混合した混合ガス)が収容されている。ナノバブル混入装置15のスイッチがONになると、コントローラは、給水ポンプ18の制御部に給水信号を送信するとともに給気ポンプ19の制御部に給気信号を送信し、冷却装置の制御部に冷却信号を送信する。更に、コントローラは、給水電磁弁の制御部に開信号を送信するとともに給気電磁弁の制御部に開信号を送信し、レベル計、流量計、気圧計に測定信号を送信する。
【0079】
給水信号を受信した給水ポンプ18の制御部は、給水ポンプ18を所定の出力(設定出力)で起動し、給気信号を受信した給気ポンプ19の制御部は、給気ポンプ19を所定の出力(設定出力)で起動する。冷却信号を受信した冷却装置の制御部は、冷却装置を所定の出力(設定出力)で起動する。開信号を受信した給水電磁弁の制御部は、給水電磁弁を開放し、開信号を受信した給気電磁弁の制御部は、給気電磁弁を開放する。測定信号を受信したレベル計は、コーティング液貯水タンク16に貯水されたコーティング液10のレベル計測を開始し、測定信号を受信した流量計は、給水管路22を流動するコーティング液10の流量計測を開始する。測定信号を受信した気圧計は、給気管路23を流動する気体の気圧計測を開始する。
【0080】
コーティング液貯水タンク16に貯水されたコーティング液10は、給水ポンプ18の起動によってコーティング液貯水タンク16から強制的に静止型流体混合装置20に給水される(コーティング液給水工程)。コーティング液10は、給水管路22から給水ポンプ18を通って混合管路24に流入し、混合管路24を通って静止型流体混合装置20に流入する。気体給気タンク17に収容された気体は、給気ポンプ19の起動によって気体給気タンク17から強制的に静止型流体混合装置20に給気される(気体給気工程)。気体は、給気管路23から給気ポンプ19を通って混合管路24に流入し、混合管路24においてコーティング液10に混合された後、コーティング液10とともに静止型流体混合装置20に流入する。混合管路24では、給水ポンプ18によって給水されたコーティング液と給気ポンプ19によって給気された気体とが混合され、気体混合コーティング液が作られる(混合工程)。気体混合コーティング液は、静止型流体混合装置20に流入する。
【0081】
コーティング液貯水タンク16のレベル計が計測した測定レベルを受信したコントローラは、測定レベルが注水レベルに低下した場合、注水メッセージをディスプレイに出力(表示)する。注水メッセージによってコーティング液貯水タンク16へのコーティング液10の注水要を知ることができる。流量計が計測した測定流量を受信したコントローラは、測定流量が目標流量になるように給水ポンプ18の出力を調整する。気圧計が計測した測定気圧を受信したコントローラは、測定気圧が目標気圧になるように給気ポンプ19の出力を調整する。
【0082】
冷却装置は、ナノバブル混入装置15の起動中に冷媒を利用して静止型流体混合装置20の円筒ユニット26を連続的に冷却する(冷却工程)。冷却装置によって円筒ユニット26の温度が設定温度(例えば、10~20℃)に保持される。静止型流体混合装置20では、その流入口から気体が混合された気体混合コーティング液10が流入し、気体混合コーティング液10が複数のハニカム構造エレメント(撹拌翼)によって連続相の流体及び分散相の流体になり、気体混合コーティング液10の連続相及び分散相の流体がハニカム構造エレメントを蛇行しながら流動する。その時に受けるせん断力によって分散相としての流体(気体)が微細化されて微細化混合流体が生成される。
【0083】
次に、生成された微細化混合流体の流動が整流化された後、整流化された微細化混合流体が後流側に配置されたハニカム構造エレメントを蛇行しながら流動し、その時に受けるせん断力によって分散相としての微細化混合流体(気体)が更に微細化される。最終的にコーティング液10に混合された気体がナノレベルに超微細化され、ナノレベルの気泡(ナノバブル)がコーティング液10に分散混入(分散溶解)し、その内部に平均粒径D90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上500nmの範囲、より好ましくは、平均粒径D50が1nm以上300nm未満の範囲のナノバブル14(独立した微細な多数の球状スペース)が所定の濃度で満遍なく均一に分散混入したナノバブル含有コーティング液10が作られる(ナノバブル含有コーティング液製造工程)。
【0084】
尚、ナノバブル14のコーティング液への混入時に、コーティング液とナノバブル14との摩擦によってナノバブルが分散混入された円筒ユニット26内のナノバブル含有コーティング液10の温度が上昇するが、冷却装置によって円筒ユニット26が冷却されることで、円筒ユニット26内のナノバブル含有コーティング液10が10~20℃の温度に保持される。ナノバブル14が分散混入(分散溶解)したコーティング液10は、供給管路25を通ってコーティング液収容槽21に収容される。コーティング液収容槽21のレベル計が計測した測定レベルを受信したコントローラは、その測定レベルをディスプレイに出力(表示)する。ディスプレイに出力された測定レベルによってナノバブル14が分散混入したコーティング液10の貯水量を知ることができる。
【0085】
コーティング液10に対するナノバブル14の分散混入方式(ナノバブル発生方式)については、旋回液流式、スタティックミキサー式、エジャクター式ベンチュリー式、加圧溶解式のコーティング液10の流動を伴う方式のいずれかを使用することもでき、細孔式、回転式、超音波式、蒸気凝縮式、電気分解式のコーティング液10の流動を伴わない方式のいずれかを使用することもできる。
【0086】
コーティング液10は、ポリシラザン及びシロキサンのうちの少なくとも一方からなる液状の有機ケイ素材料とアルキルシリケート縮合物と不活性有機溶剤とを所定の配合割合で混合したコーティング液10の内部に、ナノバブル14(独立した微細な多数の球状スペース)が分散混入(分散溶解)しているから、それらナノバブル14(球状スペース)によってコーティング液10(ナノバブル14が分散混入(分散溶解)されたコーティング液10)の単位体積当たりにおけるコーティング液10自体の割合を少なくすることができ、コーティング液10(ナノバブル14が分散混入(分散溶解)されたコーティング液10)を被覆対象となる物品11の面12にコーティングしたときのコーティング液10自体のコーティング量が減り、物品11に対するコーティング液10のコーティング量を低減させることができるとともに、コーティング液10にナノバブル14が分散混入していない場合と比較し、そのコーティング量が減ることで物品11の面12の単位面積当たりのコーティング液10の単価が低下し、コーティング液10を廉価に(コーティング)使用することができる。
【0087】
コーティング液10は、それにナノバブル14(球状スペース)が分散混入(分散溶解)していない場合と比較して単位体積当たりの質量が減少するから、それを被覆対象となる物品11の面12にコーティングした場合においてコーティング液10から形成された無機コーティング膜13を含む物品11の重量の増加を最小限にすることができる。例えば、コーティング液10をコーティングする物品11が自動車である場合、コーティング液10から作られた無機コーティング膜13を含む自動車の重量の増加を最小限にすることができ、自動車の燃費や加速性能の低下を防ぐことができる。
【0088】
コーティング液10の内部に分散混入するナノバブル14は、平均粒径D90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上300nm未満の範囲にある。コーティング液10の内部におけるナノバブル14の最大粒度分布50nm以上500nm未満の範囲、好ましくは、10nm以上300nm未満の範囲にある。ナノバブル14が分散混入するコーティング液10におけるナノバブル14の含有率は、10~95vol.%の範囲、好ましくは、30~95vol.%の範囲、より好ましくは、50~90vol.%の範囲にある。コーティング液10の1ml当たりのナノバブル14の総数は、107~1012個の範囲にある。コーティング液10中のナノバブル14の粒径及び粒度分布、空孔率、ナノバブル14の総数は、ナノ粒子トラッキング解析法(NTA)によって測定した。ナノ粒子トラッキング解析法では、コーティング液10中のナノバブル14の粒度分布、粒子数濃度、凝集状態を高い分解能で測定することができる。
【0089】
ナノ粒子トラッキング解析法では、サンプルチャンバーにナノバブル14が分散混入したコーティング液10を収容し、そのサンプルチャンバーにレーザー光を照射する。ナノ粒子トラッキング解析法は、レーザー光を照射された各ナノバブル14の90°の散乱光を高感度のCMOSカメラで検出する。検出された粒子のブラウン運動がカメラ画像上の輝点の動きとして観察されてトラッキングされる。この動きを追跡することによって拡散計数を求め、ストークス・アインシュタイン式によりナノバブル14の粒子サイズを決定する。粒子部分布(濃度)は、容量が既知であるカメラ視野内の全ての粒子カウントから1ml当たりのナノバブル14の粒子数を求め、コーティング液10におけるナノバブルの含有率を求めるとともに、コーティング液10の1ml当たりのナノバブル14の総数を算出する。ナノ粒子トラッキング解析法では、セルに一定電圧をかけたときの電気泳動度を測定することで粒子のゼータ電位を決定する。
【0090】
ナノバブル混入装置15によってナノバブル14が分散混入したコーティング液10は、水素イオンH+濃度と水酸化物イオンOH-濃度が略等しい酸塩基性に関する性質が略中性又はアルカリ性である。コーティング液10の内部に分散混入するナノバブル14は、高い気泡内圧を有する球体の状態でコーティング液10に混入し、負に帯電している。
【0091】
ナノバブル14は、コーティング液10中において直径が1μm未満でレイノルズ数Reが略1になって球形気泡となる。ナノバブル14の形状(球体)は、アトムプローブ電界イオン顕微鏡(Atom Probe Field Ion Microscope, APFIM)によって観察した。アトムプローブ電界イオン顕微鏡は、電界イオン顕微鏡(FIM)に飛行時間型質量分析器を取付けたものであり、電界イオン顕微鏡によって個々のナノバブル14を観察し、飛行時間質量分析によってそれらナノバブル14を同定する。グラフィックワークステーションにおいて三次元的に表示することにより、コーティング液10中のナノバブル14の形状(球体)を略ナノスケールのレベルの分解能で再現する。
【0092】
コーティング液10の内部に混入しているナノバブル14は、コーティング液10の内部における上昇速度が遅い。ナノバブル14の上昇速度は、コーティング液10の液物性に依存するが、水中では直径が約100μmでレイノルズ数Reが略1になり、球形気泡となる。直径dの球形気泡の上昇速度Uは、Stokesの式:U=pgd2/18μに従う。ここで、pは、液密度、gは、重力加速度、μは、液粘度である。
【0093】
コーティング液10の内部に混入(溶解)しているナノバブル14は、その気泡内圧(気泡内圧力)が高い(自己加圧効果)。気泡内圧力は、表面張力σの影響でYoung-Laplaceの式:ΔP =4σ/dによって気泡周囲の圧力よりΔPだけ高くなる。コーティング液10中における気泡の直径dと気泡内圧力との関係としては、気泡が小さくなるほど気泡内部の圧力が高くなる(1μmで3.87「atm」、100nmで29.7「atm」、水の表面張力σ:72.8mN/m(20℃)、気泡周囲の圧力は1「atm」とする)。 従って、気泡が収縮すると気体溶解成分の分圧、すなわち溶解の推進力が増大し、気体をナノサイズにすることで気体がコーティング液10に溶解し易くなり、多量のナノバブル14がコーティング液10に溶解する。
【0094】
コーティング液10の内部に混入(溶解)しているナノバブル14は、その気液界面積が大きい。単位体積当たりの気液界面積A/Vは、式:A/V=6dで表される。気泡径dの減少とともにA/Vが増大し、コーティング液10中における気体の混入量(溶解量)に大きく寄与している。ナノバブル14の気体は、その混入量(溶解量)が極めて大きい。コーティング液10の内部への気泡の物質移動速度N「mol/s」は、式:N=KGA(p-p*)によって求められる。ここで、KGは、気相基準総括物質移動係数「mol/m2sPa」、Aは、気泡の表面積[m2]、pは、気泡内の溶解成分の分圧「Pa」、p*は、液相中の溶解成分と平衡な気相分圧「Pa」を示す。
【0095】
気泡内の気体がコーティング液10の内部に溶解(混入)する場合、気液界面をはさんで気体境膜と液境膜からなる2重境膜説から、総括物質移動抵抗1/KL又は1/KGHは、液相抵抗1/kLと気相抵抗1/kGHとの和として電気抵抗のオームの法則のように式:1/KL=1/KGH=1/kL+1/kGHとなる。ここで、KLは、液相基準総括物質移動係数、Hは、ヘンリー 定数(p=HC)、式:1/KL=1/KGH=1/kL+1/kGHにおいて気体側物質移動抵抗1/kGHが略無視できるとすれば、液相基準総括物質移動係数KLと液側物質移動係数kLとが略等しくなる。
【0096】
球形気泡でレイノルズ数Re<1、上昇速度が前記Stokesの式:U=pgd2/18μで表される場合の液側物質移動係数kLは、式:kL=DL/d[l+(1+dU/DL)1/3]で表される。ここで、DLは、液相中の気体の拡散係数、dは、気泡径、Uは、気泡の上昇速度である。例えば、式:kL=DL+dl+[(1+dU/DL)1/3]によって気泡径と酸素MB-水系の液側物質移動係数kLとの関係を求めると、気泡径dが100μmのときのkLは1.817・10-4「m/s」、気泡径dが10μmのときのkLは5.37・10-4「m/s」、気泡径dが1μmのときのkLは5.20・10-3「m/s」である。尚、コーティング液10の内部の酸素の拡散係数DLは2.60・10-9「m2/s」を用いた。
【0097】
前記気泡径dに対するkLの値及び前記気泡径dに対する気泡内圧力「atm」を用いて式:N=KGA(p-p*)によって物質移動速度Nを求め、整理した結果、気泡径dが10μmにおいて、上昇速度Uが3.26・10-3「m/min」、圧力差ΔPが2.91・104、気泡個数比が1.0・106、面積比が100、物質移動速度比が6.15・104「mol/s」及び1.0・108「mol/mm」であり、気泡径dが100nmにおいて、上昇速度Uが3.15・10-7「m/min」、圧力差ΔPが2.91・106、気泡個数比が1.0・1012、面積比が1.0・104、物質移動速度比が5.95・1010「mol/s」及び1.0・1018「mol/mm」である。
【0098】
直径1mmの球形気泡を直径10μmの気泡に分割させると、個数が106個に増加し、直径1mmの気泡の表面積を1とした場合に表面積が100倍になる。直径1mmの球形気泡を直径100nmの気泡に分割させると、個数が1012個に増加し、直径1mmの気泡の表面積を1とした場合に表面積が104倍になる。従って、直径1mmの気泡の単位時間当たりの物質移動速度(溶解速度)を1としたときに直径10μmの気泡では、その物質移動速度(溶解速度)が6・104倍になり、直径1mmの気泡の単位時間当たりの物質移動速度(溶解速度)を1としたときに直径100nmの気泡では、その物質移動速度(溶解速度)が6・1010倍になる。このように,計算上は気泡がナノサイズになることで、表面積及び気泡内分圧の増加、上昇速度の低下によってコーティング液10に対する物質移動速度(溶解速度)が急激に増加する。
【0099】
電気泳動実験装置を使用し、ナノバブル14の表面電位を測定した。容器内で発生させたナノバブル14は、電気泳動セル(暑さ1mm、高さ23.0mm、幅75.0mm)に導入された電極の電場方向を1s毎に切り替えることにより、負に帯電したナノバブル14がジグザグ運動をする。上昇速度の測定によって前記Stokes式で気泡径を、水平方向の速度によってSmoluchowskiの式:ζ=μu/εを用いて気泡のゼータ電位を求めた。ここで、ζは、ゼータ電位「V」、μは、コーティング液10の粘度「kg/ms」、uは、気泡の移動度「m2/sV」、εは、コーティング液10の誘電率「s2C2/kgm3」である。
【0100】
ナノバブル14は、その粒径(気泡径)によらず-30~-40「mV」で負に帯電している。コーティング液10のクラスター構造がコーティング液10の分子と電離した+イオンと-イオンとから形成され、その構造中に+イオン及び-イオンが収まり易いが、特に-イオンが界面に集積し易く、そのため負に帯電している。ナノバブル14が負に帯電することで、コーティング液10中のナノバブル14どうしが反発しあい、静電的な反発によってそれらナノバブル14どうしが結合(合一)することはない。
【0101】
コーティング液10は、その内部に混入(溶解)するナノバブル14が負に帯電していることで、コーティング液10の内部に分散混入したナノバブル14どうしが反発しあい、ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14どうしが結合することによるナノバブルの大気泡化を防ぐことができ、コーティング液10における超微細気泡のナノバブル14の分散混入状態を維持することができる。コーティング液10は、ナノバブル14どうしが結合(合一)することなく、超微細気泡のナノバブル14がコーティング液10中に分散混入(分散溶解)しているから、ナノバブル14がコーティング液10から揮発し難く、ナノバブル14をコーティング液10中に長期間留まらせることができる。
【0102】
コーティング液10は、ナノバブル14が柱状に結合した状態ではなく、高い気泡内圧を有する球体の状態でコーティング液10の内部に所定の濃度で多量に分散混入(分散溶解)しているとともに、平均粒径D90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲、より好ましくは、平均粒径D50が1nm以上300nm未満の範囲のナノバブル14がコーティング液10の内部に所定の濃度(高濃度)で多量に分散混入し、コーティング液10におけるナノバブル14の含有率が10~95vol.%の範囲の範囲、好ましくは、30~95vol.%の範囲、より好ましくは、50~95vol.%の範囲にあり、コーティング液10の1ml当たりのナノバブル14の総数が107~1012個/1mlの範囲にあるから、超微細気泡であるナノバブル14によってコーティング液10(ナノバブル14が混入(溶存)されたコーティング液10)における単位体積当たりのコーティング液10自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品11の面12にコーティング液10(ナノバブル14が混入(溶存)されたコーティング液10)をコーティングする場合におけるコーティング液10自体のコーティング量を確実に低減させることができる。
【0103】
コーティング液10は、ナノバブル14が柱状に結合した状態ではなく、高い気泡内圧を有する球体の状態でコーティング液10の内部に所定の濃度で多量に分散混入(分散溶解)しているとともに、平均粒径D90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲、より好ましくは、平均粒径D50が1nm以上300nm未満の範囲のナノバブル14がコーティング液10の内部に所定の濃度(高濃度)で多量に分散混入し、コーティング液10におけるナノバブル14の含有率が10~95vol.%の範囲の範囲、好ましくは、30~95vol.%の範囲、より好ましくは、50~95vol.%の範囲にあり、コーティング液10の1ml当たりのナノバブル14の総数が107~1012個/1mlの範囲にあるから、超微細気泡であるナノバブル14によってコーティング液10(ナノバブル14が混入(溶存)されたコーティング液10)における単位体積当たりのコーティング液10自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品11の面12にコーティング液10(ナノバブル14が混入(溶存)されたコーティング液10)をコーティングする場合におけるコーティング液10自体のコーティング量を確実に低減させることができる。
【0104】
ナノバブル14が分散混入した後のコーティング液10は、その20℃における粘度が0.98~1.008mPa・sの範囲にある。更に、ナノバブル14が分散混入した後の20℃の前記粘度範囲のコーティング液10の内部におけるナノバブル14の上昇速度が0・000015~0.00005mm/minの範囲にある。ナノバブル14は、体積が極めて小さいため、コーティング液10中における上昇速度が極めて遅い。コーティング液10の内部におけるナノバブル14の上昇速度が0.00005mm/minを超過すると、コーティング液10中にナノバブル14を長時間留めておくことが難しく、コーティング液10からナノバブル14が目標滞留時間以内に揮発してしまう場合がある。
【0105】
コーティング液10の内部のナノバブル14に働く力としては、浮力及び抗力がある。浮力は、ナノバブル14の体積に比例(ナノバブル14の半径の3乗に比例)する。抗力は、ナノバブル14の断面積に比例(ナノバブル14の半径の2乗に比例)し、ナノバブル14の上昇速度の2乗に比例する。具体的に、ナノバブル14の半径をr、コーティング液10の密度をρ、重力加速度をg、コーティング液10の粘度をη、ナノバブル14の移動速度をuとした場合、ナノバブル14にはたらく浮力(ナノバブルの密度は無視する)は、アルキメデスの原理により式(1):F=4πr3ρg/3によって表される。
【0106】
又、ナノバブル14にはたらく抵抗力は、ストークスの定理により、式(2):F=6πηruによって表される。式(1)及び式(2)から、ナノバブル14のコーティング液10の内部における移動速度uは、式(3):u=(2/9)r2ρg/ηによって表される。コーティング液10中におけるナノバブル14の上昇速度は、式(3)から求めた。式(3)から明らかなように、ナノバブル14の半径r(粒径)が大きいほど、ナノバブル14のコーティング液10中における移動速度uが高くなる。
【0107】
1気圧下におけるナノバブル14の半径rをaとした場合、半径rと水深hは、式(4):r=a×{101325/(ρgh+101325)}1/3によって表される。式(3)及び式(4)から明らかなように、ナノバブル14は、コーティング液10の水深が浅くなるとその粒径が大きくなって、上昇速度が高くなる。
【0108】
仮説として、直径が1.0μm未満のナノバブル14は、塩析現象(Salting-Out現象)により溶解度が低下し、長期間安定して、コーティング液10の内部に存在することになる。塩析現象により、ナノバブル14が長期間安定的に存在し続けるならば、pHが7に近いナノバブル14を含有するコーティング液10が存在しないことになるが、中性液でも、安定的なナノバブル14が存在する事例がある。
【0109】
一般に、ナノバブル14とそれより大きなマイクロバブルとが混在した状態では、後者の大きなマイクロバブルの影響によってナノバブル14が浮上したり、外圧によるキャビテーション破壊の影響を受けたりすることにより、ナノバブル14の寿命が短くなる。しかしながら、ナノバブル混入装置15におけるナノバブル14の生成時には、直径が1.0μm以上の大きなマイクロバブルが生成されないため、生成されたナノバブル14の寿命をより長くすることができる。
【0110】
(被覆対象となる物品11(基材))
コーティング液10の被覆対象となる物品11は、金属成形品、プラスチック成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木成形品、紙製成形品、織布成形品、不織布成形品である。それら成形品の形状は任意(自由)である。金属成形品の材料としては、鉄、アルミニウム、ジュラルミン、ステンレススチール、銅、金、銀、チタン、ニッケル、合金等がある。それら材料からなる金属成形品の形状は、板、棒、その他の各種の立体形状がある。プラスチック成形品の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂等の公知の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂がある。それら材料からなるプラスチック成形品の形状は、フィルム状、シート状、板状、その他の各種の立体形状がある。
【0111】
(コーティング液10のコーティング(塗布)方法)
コーティング液10は、被覆対象となる物品11の面12にコーティング又は散布されることにより、水分と化学反応して単層又は複層の超薄膜の無機コーティング膜13を形成(成膜)する。尚、無機コーティング膜13の膜厚は、5nm~1μmの範囲、好ましくは、50nm~500nmの範囲の被膜として成膜される。各種物品11の面12に対するコーティング液10のコーティング方法には特に限定がなく、被覆対象の物品11の形状に適したコーティング方法によってコーティングされる。例えば、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ法、インクジェット法等によってコーティングする。コーティング液10のコーティング量(塗布量)について特に限定はなく、被覆対象となる物品11に要求される表面性能に対応してコーティング量を決定する。一般的には、固形分換算にて0.1~20g/m2である。コーティング量が0.1g/m2未満では、所望の特性を有する無機コーティング膜13が形成されず、一方、コーティング量が20g/m2を超えると無機コーティング膜13の膜厚が必要以上に増加し、無機コーティング膜13の柔軟性が失われる。
【0112】
尚、コーティング液10のコーティング工程よりも前段となる前処理工程として、物品11の面12に精製水等の水(H2O)を噴霧し、物品11の面12に水を付着させてもよい。このようにすることで、物品11の面12に付着させた水分とコーティング液10に含まれる成分との化学反応を促進させ、物品11の面12に迅速に無機コーティング膜13を生成することができ、物品11の面12に強固な無機コーティング膜13を生成することができる。
【0113】
又、コーティング液10のコーティング工程よりも前段となる前処理工程として、物品11の面12にプライマーとして無機ポリシラザンを主成分とするコーティング液をコーティングすることもできる。例えば、無機ポリシラザンの溶液(1wt%溶液)をコーティングした後にコーティング液10をコーティングした場合、単にコーティング液10のみをコーティングした場合と比較して、無機コーティング膜13の防錆性(耐久性)が向上する。
【0114】
(無機コーティング膜13の形成のメカニズム)
次に、物品11の面12に無機コーティング膜13が形成されるメカニズムを説明する。尚、コーティング工程によって物品11の面12にコーティング液10をコーティングした後、物品11の面12に紫外線を照射しつつ、物品11の面12の温度を400℃以上に加熱する。
【0115】
物品11の面12には、
図2(a)に示すように、結露や空気中の湿気によってわずかな水分(水滴)が付着している(水(H
2O)を噴霧する場合を含む)。物品11の面12にコーティング工程によってコーティング液10を薄膜状にコーティングすると、コーティング液10に含まれるポリシラザンを構成する-(SiR
1R
2-NR
3)-ユニット成分及び/又はシロキサンを構成する-(SiR
1R
2-NR
3)-ユニット成分が空気中の水分(H
20)と化学反応することで、物品11の面12にシロキサン結合(Si-O-Si)による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた有機複合構造(
図3に示す無機コーティング膜13の構造イメージの一例における-(Si(CH
3)
2-O-Si(CH
3)
2)-ユニット)を有する無機コーティング膜13(ガラス被覆層(非晶質(アモルファス)ガラス被膜))が生成される。尚、無機コーティング膜13は、略100%ガラス化(無機化)する。又、上記の化学反応で微量の気体(NH
3,H
2)が副次的に生成される。それらの気体は、物品11の面12に残らず大気中に揮発(放出)する。
【0116】
図2(b)に示すように、ポリシラザン及び/又はシロキサンを含むコーティング液10は、空気に接する表面層28において、空気中に含まれる水分と化学反応(脱アンモニア架橋)することで、無機コーティング膜13の副生成物である水素やアンモニア等のガスが面12から外気に揮発するとともに、無機コーティング膜13の面12側の被覆層29が形成(生成)される。
【0117】
物品11の面12にコーティングされたコーティング液10は、物品11の面12に接する背面層30において面12に付着した水分(水滴)又は面12に終端として存在しているヒドロキシル基-OH(
図3参照)と化学反応(脱アンモニア架橋)することで、水素やアンモニア等のガスが被覆層内を上昇し、面12から外気に揮発するとともに、無機コーティング膜13の背面側の被覆層31が形成(生成)される。
【0118】
最初にコーティング液10の表面層28及び背面層30においてガラス被覆層11,12が生成される。次に、表面層28側から背面層30側に向かって被覆層29,31(ガラス被覆層)が形成拡大するとともに、背面層30側から表面層28側に向かって被覆層29,31(ガラス被覆層)が拡大することで、順次中間層33の被覆層29(ガラス被覆層)が形成(生成)され、最終的に外気に接する表面層28と物品11の面12に接する背面層30と表面層28及び背面層30の間の中間層33とに無機コーティング膜13が形成(生成)される。
【0119】
尚、ポリシラザン及び/又はシロキサンから作られた無機コーティング膜13は、略100%のガラス被覆層である。無機コーティング膜13は、ポリシラザン及び/又はシロキサンを反応させて生成したSiO2を主成分とすることで、平面的に広がり易く、密度の高く高い硬度(鉛直硬度6H~9H程度)のガラス被膜層が形成され、ナノレベルの超薄膜構造になる。
【0120】
無機コーティング膜13は、コーティング液10がポリシラザン及び/又はシロキサンを含むことにより、ナノレベルの超薄膜に形成される。その膜厚は、5nm~1μmの範囲、好ましくは、50nm~500nmの範囲にある。無機コーティング膜13は、SiO2を主成分とする被覆膜であるにも関わらず、優れた柔軟性を有し、アンカー部36によるアンカー効果とも相俟って物品11の面12が布材等の変形を生じるものであったとしても剥離することはなく、物品11の面12の変形に追従して無機コーティング膜13の被覆状態を維持することができる。
【0121】
物品11の面12においてコーティング液10が硬化して作られた無機コーティング膜13の内部には、
図4に示すように、平均粒径D
90が、1μm未満のナノバブル14がそのまま残存して無機コーティング膜13に閉じ込められ、ナノバブル14が所定の濃度で分散混在(分散溶存)している。無機コーティング膜13の内部に分散混在するナノバブル14は、コーティング液10中に分散混入していた状態と同様に、高い気泡内圧を有する球体であり、ナノバブル14の平均粒径D
90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D
50が1nm以上500nmの範囲、より好ましくは、平均粒径D
50が1nm以上300nm未満の範囲にある。無機コーティング膜13の内部におけるナノバブル14の最大粒度分布は、50nm~500mの範囲、好ましくは、10nm~300nmの範囲にある。無機コーティング膜13におけるナノバブル14の含有率は、10~95vol.%の範囲、好ましくは、30~95vol.%の範囲、より好ましくは、50~95vol.%の範囲にある。無機コーティング膜13の1mm
2当たりのナノバブル14の総数は、10
7~10
12個の範囲にある。
【0122】
所定の膜厚(5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nm)にコーティングされたコーティング液10の内部に混入(溶解)するナノバブル14は、その粒径が前記範囲においてコーティング液10の背面層30(底部)から表面層28(頂部)に向かうにつれて次第に大きくなっている。従って、コーティング液10の背面層30(底部)に位置するナノバブル14の粒径が1番小さく、コーティング液10の表面層28(頂部)に位置するナノバブル14の粒径が1番大きく、コーティング液10の中間層33(中間部)に位置するナノバブル14の粒径が背面層30(底部)及び表面層28(頂部)に位置するナノバブル14のそれの中間の大きさである。
【0123】
尚、
図3の無機コーティング膜13の構造イメージの一例に示すように、アルキルシリケート縮合物が水分と化学反応することで生成される-(Si(OH)
2-O-Si(OH)
2)-ユニットを有する加水分解生成物によって各被覆層(表面層28、中間層33、背面層30)におけるシロキサン結合(Si-O-Si)による主鎖の一部との間で架橋反応が起こり、架橋構造34が形成されることにより、無機コーティング膜13は緻密かつ柔軟な構造となるものと想定される。又、架橋構造34が形成されることにより、無機コーティング膜13の表面にポリシラザン及び/又はシロキサンに由来する疎水性のメチル基(CH
3)と、アルキルシリケート縮合物の加水分解生成物に由来する親水性のヒドロキシル基(OH)を配位可能であると想定される。
【0124】
図2(c)に示すように、無機コーティング膜13によって被覆される前の物品11の面12には、鏡面加工等の特段の表層処理を行わない限り、製造工程等で生じる小傷等によってマイクロレベルの微細な多数の凹凸部35が形成されている。コーティング液10が物品11の面12にコーティングされるとともに凹凸部35の内部に入り込んだ状態で硬化することにより、それらの凹凸部35の内部に入り込んで硬化した無機コーティング膜13のアンカー部36がアンカー効果を発揮し、無機コーティング膜13が物品11の面12に対して一層強固に接着する。
【0125】
物品11の面12に凹凸部35が略ない平滑面である場合、コーティング液10をコーティングする前処理として、物品11の面12を目粗し処理を行うことによって物品11の面12に平均粗さ1~500μm程度の凹凸部35を形成してもよい。このように目粗し処理をすることで、無機コーティング膜13のアンカー部36によるアンカー効果を得ることができる。目粗し処理の後、エアガン等の空気噴射手段を用いて物品11の面12に発生した金属粉やプラスチック粉等を吹き飛ばす清浄処理を行う。清浄処理の後、所定時間を置くことで物品11の面12に結露等を生じさせ、自然由来の水分を付着させる。
【0126】
この場合、物品11の面12の目粗し処理及び清浄処理をした後、目粗しによって凹凸部35が形成された物品11の面12に霧吹き等の水分付与手段によって水分を積極的に付着させ、その後、コーティング液10をコーティングする。このようにすることで、物品11の面12に付着させた水分と、物品11の面12に接するコーティング液10との化学反応を促進することができる。尚、物品11の面12に目粗し処理を施すことなく、水分付与手段によって水分を付着させてもよい。
【0127】
(無機コーティング膜13による被覆層の形状)
所定の膜厚(5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nm)に形成された無機コーティング膜13の内部に混在(溶存)するナノバブル14は、その粒径が前記範囲において無機コーティング膜13の背面層30(底部)から表面層28(頂部)に向かうにつれて次第に大きくなっている。従って、無機コーティング膜13の背面層30(底部)に位置するナノバブル14の粒径が1番小さく、無機コーティング膜13の表面層28(頂部)に位置するナノバブル14の粒径が1番大きく、無機コーティング膜13の中間層33(中間部)に位置するナノバブル14の粒径が底部及び頂部に位置するナノバブル14のそれの中間の大きさである。
【0128】
ポリシラザン及び/又はシロキサンから作られた無機コーティング膜13によって被覆される前の物品11の面12に当初形成された凹凸部35が無機コーティング膜13によって被覆されることで、無機コーティング膜13の被覆前よりも被覆後の方が物品11の面12は平滑に形成される。
【0129】
図6は、サンプルA~サンプルEのコーティング液10及びサンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の配合割合、空孔率、ナノバブルの総数、ナノバブルの粒径を示す図であり、
図7は、サンプルF~サンプルHのコーティング液10及びサンプルF~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の配合割合、空孔率、ナノバブルの総数、ナノバブルの粒径を示す図である。
図8は、サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価を示す図であり、
図9は、サンプルF~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価を示す図である。
【0130】
コーティング液10の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が30~60wt%の範囲、アルキルシリケート縮合物の配合割合が10~15wt%の範囲、不活性有機溶剤の配合割合が30~60wt%の範囲にあるサンプルA~サンプルEを用意した。更に、コーティング液10の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が5~25wt%の範囲、アルキルシリケート縮合物の配合割合が10~15wt%の範囲、不活性有機溶剤の配合割合が60~80wt%の範囲にあるサンプルF~サンプルHを用意した。
【0131】
サンプルA~サンプルHのコーティング液10は、既述のポリシラザン及び/又はシロキサン、アルキルシリケート縮合物、不活性有機溶剤の中からそれぞれ選択された同一原料により構成されて原料の含有量の割合がそれぞれ調整されているとともに、コーティング液10の内部に球体形状のナノバブル14が分散混入(分散溶解)している。
【0132】
既述のコーティング方法によってサンプルA~サンプルHのコーティング液10を被覆対象となる物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12に略同一の厚み(5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nm)でムラなく均一にコーティングした後、物品11の面12に紫外線を照射しつつ、赤外線によって400℃以上に加熱して乾燥・硬化させ、サンプルA~サンプルHのコーティング液10から作られた膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmの無機コーティング膜13(略100%のガラス被覆層)で物品11の面12を被覆した。
【0133】
サンプルA~サンプルHのコーティング液10から物品11の面12に作られた無機コーティング膜13の内部には、球体形状のナノバブル14が分散混在(分散溶存)している。尚、コーティング液10は、ポリシラザン及び/又はシロキサンの配合割合(含有量)が多いほど粘度が高まることから、ポリシラザン及び/又はシロキサンの配合割合(含有量)が多いサンプルC~Dのコーティング液10については単層塗りとし、ポリシラザン及び/又はシロキサンの配合割合(含有量)が少ないサンプルA及びサンプルBのコーティング液10については複数層塗りすることにより、アルミ箔及び鋼板(金属成形品)の面12に対して略同一の膜厚にコーティングされてもよい。
【0134】
図6では、サンプルA~サンプルEのコーティング液10における有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)、アルキルシリケート縮合物、不活性有機溶剤の配合割合、コーティング液10における空孔率、コーティング液10の内部に混入(溶解)するナノバブル14の総数、コーティング液10の内部に混入(溶解)するナノバブル14の粒径を示すとともに、サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13における有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)、アルキルシリケート縮合物、不活性有機溶剤の配合割合、無機コーティング膜13における空孔率、無機コーティング膜13の内部に混在(溶存)するナノバブル14の総数、無機コーティング膜13の内部に混在(溶存)するナノバブル14の粒径を示す。
【0135】
図7では、サンプルF~サンプルHのコーティング液10における有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)、アルキルシリケート縮合物、不活性有機溶剤の配合割合、コーティング液10における空孔率、コーティング液10の内部に混入(溶解)するナノバブル14の総数、コーティング液10の内部に混入(溶解)するナノバブル14の粒径を示すとともに、サンプルF~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13における有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)、アルキルシリケート縮合物、不活性有機溶剤の配合割合、無機コーティング膜13における空孔率、無機コーティング膜13の内部に混在(溶存)するナノバブル14の総数、無機コーティング膜13の内部に混在(溶存)するナノバブル14の粒径を示す。サンプルA~サンプルHについて柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価を行った。
【0136】
(無機コーティング膜13の柔軟性の評価方法)
サンプルA~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の柔軟性の評価方法として、無機コーティング膜13によって面12を被覆した薄膜状のアルミ箔に、曲率半径R=5mm~10mm程度の曲面部を形成した後で、無機コーティング膜13に生じる形状変化の状況を目視で確認し、下記の基準で評価した。尚、〇は、クラックなし、△は、僅かにクラック発生、×は、多数のクラック発生である。
【0137】
(無機コーティング膜13の耐衝撃性の評価方法)
サンプルA~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の耐衝撃性の評価方法として、無機コーティング膜13によって面12を被覆した鋼板に、デュポン式衝撃試験機を使用して同じ条件下で衝撃を加えて、無機コーティング膜13に生じる形状変化の状況を目視で確認し、下記の基準で評価した。尚、〇は、クラックなし、△は、僅かにクラック発生、×は、多数のクラック発生である。
【0138】
(無機コーティング膜13の耐腐蝕性の評価方法)
サンプルA~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の耐腐蝕性の評価方法として、無機コーティング膜13によって面12を被覆した鋼板を飛散する異物等に曝される同じ環境下(製鉄所内のコークス炉近傍で、コークス炉ガスに曝される劣悪な環境下)で2か月常設配置し、表面に生じる発錆又は変色の状況を目視で確認し、下記の基準で評価した。尚、〇は、発錆又は変色なし、×は、発錆又は変色ありである。
【0139】
図6に示すサンプルAのコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が30wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が15wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が55wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が50vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm
2当たり)のナノバブル14の総数が10
7~10
11個/1ml(10
7~10
11個/1mm
2)、球体(球形)の状態でコーティング液10(無機コーティング膜13)の内部に分散混入(分散混在)するナノバブル14の粒径が1nm~500nmである。
【0140】
サンプルAのコーティング液10の内部には、1nm~500nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルAのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルAのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、1nm~500nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0141】
1nm~500nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が分散混入したサンプルAのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12の無機コーティング膜13は、その柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性が高く、柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価は〇である(
図10参照)。サンプルAのコーティング液10を使用することで、膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmと超薄膜であるにもかかわらず優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13が作られることが分かった。
【0142】
サンプルBとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が40wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が15wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が45wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が60vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が107~1011個/1ml(107~1011個/1mm2)、球体(球形)の状態でコーティング液10(無機コーティング膜13)の内部に分散混入(分散混在)するナノバブル14の粒径が1nm~600nmである。
【0143】
サンプルBのコーティング液10の内部には、1nm~600nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルBのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルBのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、1nm~600nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0144】
1nm~600nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が分散混入したサンプルBのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12の無機コーティング膜13は、その柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性が高く、柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価は〇である(
図10参照)。サンプルBのコーティング液10を使用することで、膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmと超薄膜であるにもかかわらず優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13が作られることが分かった。
【0145】
サンプルCとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が50wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が13wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が37wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が70vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が107~1012個/1ml(107~1012個/1mm2)、球体(球形)の状態でコーティング液10(無機コーティング膜13)の内部に分散混入(分散混在)するナノバブル14の粒径が50nm~700nmである。
【0146】
サンプルCのコーティング液10の内部には、50nm~700nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルCのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルCのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、50nm~700nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0147】
50nm~700nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が分散混入したサンプルCのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12の無機コーティング膜13は、その柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性が高く、柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価は〇である(
図10参照)。サンプルCのコーティング液10を使用することで、膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmと超薄膜であるにもかかわらず優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13が作られることが分かった。
【0148】
サンプルDとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が55wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が10wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が35wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が80vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブルの総数が108~1012個/1ml(108~1012個/1mm2)、球体(球形)の状態でコーティング液10(無機コーティング膜13)の内部に分散混在するナノバブル14の粒径が100nm~800nmである。
【0149】
サンプルDのコーティング液10の内部には、100nm~800nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルDのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルDのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、100nm~800nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0150】
100nm~800nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が分散混入したサンプルDのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12の無機コーティング膜13は、その柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性が高く、柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価は〇である(
図10参照)。サンプルDのコーティング液10を使用することで、膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmと超薄膜であるにもかかわらず優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13が作られることが分かった。
【0151】
サンプルEとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が60wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が10wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が30wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が95vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が108~1012個/1ml(108~1012個/1mm2)、球体(球形)の状態で無機コーティング膜13の内部に分散混在するナノバブル14の粒径が100nm~900nmである。
【0152】
サンプルEのコーティング液10の内部には、100nm~900nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルEのコーティング液10に混入(溶解)しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルEのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、100nm~900nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に溶存混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0153】
100nm~900nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が分散混入したサンプルEのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の面12の無機コーティング膜13は、その柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性が高く、柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性の評価は〇である(
図10参照)。サンプルEのコーティング液10を使用することで、膜厚が5nm~1μm、好ましくは、50nm~500nmと超薄膜であるにもかかわらず優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13が作られることが分かった。
【0154】
微細な多数の球体状(球形)のナノバブル14をサンプルA~サンプルEのコーティング液10に分散混入(分散溶解)することによって、コーティング液10の単位体積当たりにおけるコーティング液10自体の割合が少なくなり、サンプルA~サンプルEのコーティング液10を被覆対象となる物品11の面12にコーティングしたときのコーティング液10自体のコーティング量が減る。又、微細な多数のナノバブル14が分散混入したサンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13にそのナノバブル14が分散混在することによって、無機コーティング膜13の単位面積当たりにおける無機コーティング膜13自体の割合が少なくなり、被覆対象となる物品11の面12を被覆したときの無機コーティング膜13自体の被覆量が減る。
【0155】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13に分散混在する微細な多数のナノバブル14によって無機コーティング膜13の柔軟性が向上することの他、無機コーティング膜13に混在している気体がナノサイズであることから、その耐衝撃性や耐腐蝕性に影響を与えることはなく、サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13が超薄膜であるにもかかわらず、高い耐衝撃性有するとともに、高い耐腐蝕性を有し、剥がれやクラックの発生の可能性が極めて低いことが分かった。
【0156】
サンプルFとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が25wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が10wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が65wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が30vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が106~108個/1ml(106~108個/1mm2)、球体(球形)の状態で無機コーティング膜13の内部に分散混在するナノバブル14の粒径が100nm~900nmである。
【0157】
サンプルFのコーティング液10の内部には、100nm~900nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルFのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルFのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、100nm~900nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0158】
微細な多数の球体状(球形)のナノバブル14をサンプルFのコーティング液10に分散混入(分散溶解)することによって、コーティング液10の単位体積当たりにおけるコーティング液10自体の割合が少なくなり、サンプルFのコーティング液10を被覆対象となる物品11の面12にコーティングしたときのコーティング液10自体のコーティング量が減る。又、微細な多数のナノバブル14が分散混入したサンプルFのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13にそのナノバブル14が分散混在することによって、無機コーティング膜13の単位面積当たりにおける無機コーティング膜13自体の割合が少なくなり、被覆対象となる物品11の面12を被覆したときの無機コーティング膜13自体の被覆量が減る。
【0159】
サンプルGとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が10wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が15wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が75wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が40vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が106~109個/1ml(106~109個/1mm2)、球体(球形)の状態で無機コーティング膜13の内部に分散混在するナノバブル14の粒径が100nm~800nmである。
【0160】
サンプルGのコーティング液10の内部には、100nm~800nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルGのコーティング液10に混入しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルGのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、100nm~800nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0161】
微細な多数の球体状(球形)のナノバブル14をサンプルGのコーティング液10に分散混入(分散溶解)することによって、コーティング液10の単位体積当たりにおけるコーティング液10自体の割合が少なくなり、サンプルGのコーティング液10を被覆対象となる物品11の面12にコーティングしたときのコーティング液10自体のコーティング量が減る。又、微細な多数のナノバブル14が分散混入したサンプルGのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13にそのナノバブル14が分散混在することによって、無機コーティング膜13の単位面積当たりにおける無機コーティング膜13自体の割合が少なくなり、被覆対象となる物品11の面12を被覆したときの無機コーティング膜13自体の被覆量が減る。
【0162】
サンプルHとして用意したコーティング液10及びそのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する有機ケイ素材料(ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が5wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対するアルキルシリケート縮合物の配合割合が15wt%、コーティング液10(無機コーティング膜13)の全質量に対する不活性有機溶剤の配合割合が80wt%であり、コーティング液10(無機コーティング膜13)におけるナノバブル14の含有率が45vol.%、コーティング液10の1ml当たり(無機コーティング膜13の1mm2当たり)のナノバブル14の総数が107~1010個/1ml(107~1010個/1mm2)、球体(球形)の状態で無機コーティング膜13の内部に分散混在するナノバブル14の粒径が50nm~700nmである。
【0163】
サンプルHのコーティング液10の内部には、50nm~700nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混入(分散溶解)している。サンプルHのコーティング液10に混入(溶解)しているナノバブル14が負に帯電しているため、各ナノバブル14どうしが結合(合一)することはなく、ナノバブル14の粒径が大気泡になることはない。又、サンプルHのコーティング液10が硬化することから作られた無機コーティング膜13の内部には、50nm~700nmの粒径の球体状(球形)のナノバブル14が満遍なく均一に分散混在(分散溶存)している(閉じ込められている)。
【0164】
微細な多数の球体状(球形)のナノバブル14をサンプルF~サンプルHのコーティング液10に分散混入(分散溶解)することによって、コーティング液10の単位体積当たりにおけるコーティング液10自体の割合が少なくなり、サンプルF~サンプルHのコーティング液10を被覆対象となる物品11の面12にコーティングしたときのコーティング液10自体のコーティング量が減る。又、微細な多数のナノバブル14が分散混入したサンプルF~サンプルHのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13にそのナノバブル14が分散混在することによって、無機コーティング膜13の単位面積当たりにおける無機コーティング膜13自体の割合が少なくなり、被覆対象となる物品11の面12を被覆したときの無機コーティング膜13自体の被覆量が減る。
【0165】
しかし、サンプルFのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11の面12(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の無機コーティング膜13は、耐腐蝕性が高く、耐腐蝕性の評価が〇であるが、有機ケイ素材料(有機ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が不十分であることから、その柔軟性及び耐衝撃性に劣り、柔軟性及び耐衝撃性の評価が△である(
図11参照)。サンプルFの配合割合のコーティング液10を使用したとしても、柔軟性や耐衝撃性、耐腐蝕性の全てに優れた無機コーティング膜13を作ることが難しいことが分かった。
【0166】
又、サンプルGのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11の面12(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の無機コーティング膜13は、有機ケイ素材料(有機ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が少ないことが影響し、その柔軟性に劣り、柔軟性の評価が△であるとともに、その耐衝撃性及び耐腐蝕性が認められず、耐衝撃性及び耐腐蝕性の評価が×である(
図11参照)。サンプルGの配合割合のコーティング液10を使用したとしても、優れた柔軟性や耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13を作ることができないことが分かった。
【0167】
更に、サンプルHのコーティング液10をコーティングすることから作られた物品11の面12(アルミ箔及び鋼板(金属成形品))の無機コーティング膜13は、有機ケイ素材料(有機ポリシラザン及び/又はシロキサン)の配合割合が少ないことが影響し、その柔軟性及び耐衝撃性並びに耐腐蝕性が認められず、柔軟性や耐衝撃性、耐腐蝕性の評価が×である(
図11参照)。サンプルHの配合割合のコーティング液10を使用したとしても、優れた柔軟性や耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13を作ることができないことが分かった。
【0168】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、その内部に独立した超微細(平均粒径D90が1μm未満、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上500nm未満の範囲、好ましくは、平均粒径D50が1nm以上300nm未満の範囲)な多数の球体状のナノバブル14(球状スペース)が分散混在(分散溶存)しているから、超微細な多数のナノバブル14によって無機コーティング膜13の単位面積当たりにおける無機コーティング膜13自体の割合を少なくすることができ、被覆対象となる物品11の面12を被覆したときの無機コーティング膜13自体の被覆量が減り、物品11に対する無機コーティング膜13の被覆量を低減させることができるとともに、無機コーティング膜13にナノバブル14(球状スペース)が分散混在していない場合と比較し、その被覆量が減ることで物品11の面12の単位面積当たりのコーティング膜13の単価が低下し、無機コーティング膜13によって物品11の面12を廉価に被覆することができる。
【0169】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、それに球体状のナノバブル14(球状スペース)が分散混在していない場合と比較して単位面積当たりの質量が減少するから、それが被覆対象となる物品11の面12を被覆した場合において無機コーティング膜13を含む物品11の重量の増加を最小限にすることができる。例えば、無機コーティング膜13を被覆した物品11が自動車である場合、無機コーティング膜13を含む自動車の重量の増加を最小限にすることができ、自動車の燃費や加速性能の低下を防ぐことができる。
【0170】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、無機コーティング膜13におけるナノバブル14の含有率が含有率が10~95vol.%の範囲の範囲、好ましくは、30~95vol.%の範囲、より好ましくは、50~95vol.%の範囲にあり、無機コーティング膜13の1mm2当たりのナノバブル14の総数が107~1012個/1mm2の範囲にあるから、優れた柔軟性、耐衝撃性、耐腐蝕性を有する無機コーティング膜13によって被覆対象となる物品11の面12を被覆することができる。この無機コーティング膜13は、その膜厚が膜厚5nm~1μmの範囲、好ましくは、50nm~500nmの範囲にあるから、無機コーティング膜13にピンホールやスリット等の不具合が生じることはなく、長期間耐腐食性を維持することができる。
【0171】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、その膜厚が1μm以下、好ましくは、500nm以下であるから、被覆対象となる物品11に変形が生じたとしても、無機コーティング膜13がその変形に追従し、無機コーティング膜13による物品11の面12に対する被覆状態を長期間維持することができる。この無機コーティング膜13は、それに超微細気泡であるナノバブル14が分散混在(分散溶存)していたとしても、ガラスが主成分となった状態で硬化して略100%のガラス被覆層を形成するから、優れた耐衝撃性及び耐腐蝕性を有し、物品11の面12に対する被覆状態を長期間維持することができ、無機コーティング膜13によって物品11の面12を確実に保護することができる。
【0172】
尚、サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、
図7の相関関係に示すように、その膜厚が100nm~1μmの範囲において優れた耐衝撃性と優れた耐腐食性とを示す。無機コーティング膜13の膜厚が50nm未満の場合、コーティング液10と物品11の面12の水分との化学反応の際に、膜層に揮発ガスの揮発路が面12の鉛直方向に直線状に生成され、無機コーティング膜13にピンホールが生じる場合があるが、無機コーティング膜13の膜厚が50nm~500nmの場合、揮発ガスの揮発路が複雑な経路になるめ、無機コーティング膜13にピンホールが生じることはなく、耐腐食性を維持することができる。
【0173】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13の成分であるポリシラザン及びシロキサンは、官能基としてのメチル基(CH3)の含有率が50%以上に形成されることにより、無機コーティング膜13の表面側にシロキサン結合のケイ素(Si)に結びついた疎水性のメチル基(CH3)が多く配位された構造となり、無機コーティング膜13の表面における水接触角が大きくなるから、無機コーティング膜13に水分や異物が付着し難く、高い撥水性及び高い防汚効果を有する。この無機コーティング膜13は、その表面側に有機ポリシラザン及び/又はシロキサンに由来する疎水性のメチル基(CH3)と、アルキルシリケート縮合物の加水分解生成物に由来する親水性のヒドロキシル基(OH)が混在して配位されることにより、無機コーティング膜13の表面における排水性が向上し、高い防汚効果を有する。
【0174】
サンプルA~サンプルEのコーティング液10から作られた無機コーティング膜13は、その表面にナノレベルの微細な凹凸からなる凹凸部37(ディンプル)が形成された平滑面に形成することで、無機コーティング膜13の表面に水分や異物が付着し難く、高い撥水性及び高い防汚効果を有する。又、有機ポリシラザン及び/又はシロキサンの縮合反応が急激に起こるため、コーティング液10による無機コーティング膜13の形成時間を短くすることができる。
【符号の説明】
【0175】
10 コーティング液
11 物品
12 表面
13 無機コーティング膜
14 ナノバブル
15 ナノバブル混入装置
16 コーティング液貯水タンク
17 気体給気タンク
18 給水ポンプ
19 給気ポンプ
20 静止型流体混合装置(ナノバブル発生装置)
21 コーティング液収容槽
22 給水管路
23 給気管路
24 混合管路
25 供給管路
26 円筒ユニット
28 表面層
29 被覆層
30 背面層
31 被覆層
32 被覆層
33 中間層
34 架橋構造
35 凹凸部
36 アンカー部