(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174841
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/195 20060101AFI20241210BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241210BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/195
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/175 503
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088981
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023092625
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 絵里子
(72)【発明者】
【氏名】永井 荘一
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】西脇 裕子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB30
2C056FA03
2C056FA10
2C056FC01
2C056HA15
2C056KB37
2C056KC10
2C056KC11
2C056KC21
2C056KD10
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD03
4J039AE04
4J039BA04
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA03
4J039EA41
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】水性インクを加温する機構を有する記録ヘッドを備える、小型化されたインクジェット記録装置を用いる場合に、累積の吐出回数が増加してもインクの吐出性が低下しにくいインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】顔料及び樹脂粒子を含有する水性インクと、インク収容部と、水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法である。インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされており、記録ヘッドが、記録ヘッド内の水性インクを加温する加温手段を有し、樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)が、顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び樹脂粒子を含有する水性インクと、前記水性インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、
前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、
前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、
前記記録ヘッドが、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する加温手段を有し、
前記樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)が、前記顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ないことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記顔料が、カーボンブラックである請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記水性インクが、さらに、スチレンに由来するユニットを有する水溶性樹脂を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記水溶性樹脂に占める、前記スチレンに由来するユニットの割合(質量%)が、10.0質量%以上である請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水性インクが、さらに、ウレア結合を有する水溶性ウレタン樹脂を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記水性インクが、さらに、水溶性有機溶剤を含有し、
前記水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値が、34.0以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記水性インク中の、前記樹脂粒子の含有量(質量%)が、前記顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.4倍以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記樹脂粒子のガラス転移温度(℃)が、前記記録ヘッド内の前記水性インクを前記加温手段によって加温した前記水性インクの温度(℃)よりも高い請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記インク収容部に比して容量が大きい第2のインク収容部、及び前記第2のインク収容部と前記インク収容部の間を前記水性インクが流通するチューブを備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
顔料及び樹脂粒子を含有する水性インクと、前記水性インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、
前記記録ヘッドが、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する機構を有し、
前記樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)が、前記顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ないことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在宅でのリモートワークの増加により、家庭用のインクジェット記録装置の需要が高まっている。また、家庭用とするために、インクジェット記録装置に対してはさらなる小型化が求められている。インクジェット記録装置の小型化には、記録ヘッド及びインク収容部の小型化が不可欠である。例えば、インク収容部と記録ヘッドを一体にして小型化した記録ユニットを搭載したインクジェット記録装置がある。
【0003】
このようなインクジェット記録装置は、より小型に設計できる観点から、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式の記録ヘッドを採用している。また、複数色のインクをそれぞれ吐出する吐出口列を同一の記録素子基板に設けることで、記録ヘッドを小型化する工夫がなされる。さらに、インク収容部に他の部材を介在させることなく記録ヘッドを貼り合わせて記録ユニットを小型化する。そして、インク収容部を熱可塑性樹脂で形成して記録ユニットを軽量化するとともに、キャリッジ部に求められる剛性を低減させて装置を小型化する。
【0004】
一方、その内部のインクを加温する機構を有する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置がある。このような記録装置では、インクを加温する機構により記録ヘッド内のインクの温度を適度な加温状態に保ち、吐出されるインク滴の体積ばらつきを抑制して画像ムラの発生を抑制する。インクの温度が記録中に所定の上限値を超えそうな場合には、記録ヘッド温度が低下するのを待った上で記録動作を開始するか、又は記録動作を中止する。記録ヘッドの温度が過度に上昇すると、インク中に泡が発生することがある。そして、発生した泡に起因してインクが不吐出になりやすく、画像の欠けが発生したり、記録ヘッドや記録装置が故障したりすることがある。
【0005】
また、小型化されたインクジェット記録装置の家庭での利用用途として、ビジネス書類の出力が増加している。このような用途でも用いられるインクジェット記録装置では、発色性に優れた画像を記録すべく、顔料を色材として含有する水性の顔料インクが広く用いられている。顔料は水に不溶であるため、水性のインク中では分散状態で存在している。熱エネルギーを付与して吐出する方式の記録ヘッドから水性の顔料インクを吐出すると、顔料の分散状態が不安定になって、熱エネルギーを発生させるヒーターにコゲが付着することがある。ヒーターにコゲが堆積すると、インクに付与される熱エネルギーが減少し、インクの吐出性が低下する。このため、吐出口からのインクの吐出回数の累積数に応じて、インクの吐出性が変化する。すなわち、累積の吐出回数が少ない吐出口からのインクの吐出性は良好である一方で、累積の吐出回数が多い吐出口からのインクの吐出性が低下した状態となり、このような相違が画像ムラなどの発生につながる。したがって、累積の吐出回数が吐出口ごとに相違するような場合であっても、インクの吐出性が変化しないことが要求されている。
【0006】
例えば、インクの吐出性及び顔料の分散性を安定化すべく水溶性樹脂を添加するとともに、ヒーターのコゲを除去すべく特定の界面活性剤をさらに添加した水性のインクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述のような構成を有する小型化に対応したインクジェット記録装置を使用し、特許文献1で提案されたインクの吐出性について評価した。その結果、累積の吐出回数の増加に伴って、一部の吐出口におけるインクの吐出性が低下することがわかった。
【0009】
また、本発明者らは、インクを加温する機構を有しない記録ヘッド、熱エネルギー以外のエネルギーを利用する記録ヘッド、インク収容部と一体化した記録ヘッド、及びインク収容部との間に放熱板を設けた記録ヘッドを用意した。そして、これらの記録ヘッドをそれぞれ備えるインクジェット記録装置を使用し、特許文献1で提案されたインクの吐出性について評価した。その結果、小型化に対応した前述のインクジェット記録装置を使用した場合と異なり、累積の吐出回数が増加しても、吐出口からのインクの吐出性が低下することはなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、水性インクを加温する機構を有する記録ヘッドを備える、小型化されたインクジェット記録装置を用いる場合に、累積の吐出回数が増加してもインクの吐出性が低下しにくいインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、顔料及び樹脂粒子を含有する水性インクと、前記水性インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部から供給される前記水性インクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく前記記録ヘッドが貼り合わされており、前記記録ヘッドが、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する加温手段を有し、前記樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)が、前記顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ないことを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水性インクを加温する機構を有する記録ヘッドを備える、小型化されたインクジェット記録装置を用いる場合に、累積の吐出回数が増加してもインクの吐出性が低下しにくいインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【
図3】記録ユニットの一例を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は分解した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0015】
熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式の記録ヘッドは、通常、記録ヘッドに取り付けられたセンサーで読み取られた温度に基づいて温度調節されている。このセンサーは、コストの都合上、すべての吐出口に対応して設けられておらず、一つの記録ヘッドにつき数個程度しか設けられていない。また、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるインク収容部に、放熱板などを介さずに、記録ヘッドが直接貼り合わされている場合、記録後には熱がこもりやすく、記録ヘッドの全体としての温度が下がりにくい。このため、使用した吐出口と使用していない吐出口とで、温度のばらつきが生じやすい。なかでも、記録ヘッドの中心部には熱がこもりやすく、温度が低下しにくいため、センサー付近の吐出口の温度が低下していても、それ以外の吐出口の温度は低下していない状態となっている場合がある。そのような状態で記録ヘッドの温度調節を行うと、温度が低下していない吐出口が過昇温状態となり、インク中の顔料の分散状態が不安定化する。分散状態が不安定化した顔料を含有するインクに熱エネルギーを付与すると、ヒーターにコゲが付着しやすくなる。その結果、吐出口からのインクの吐出回数の累積数に応じて、インクの吐出性が低下すると考えられる。
【0016】
ピエゾ素子の変形によりインクを吐出させる、いわゆるピエゾ方式の記録ヘッドの場合にはコゲが生じないため、コゲに起因してインクの吐出性が低下することはない。また、インク収容部と記録ヘッドの間に金属の放熱板を配置するなどして放熱性を高めた記録ユニットを使用する場合、吐出口に熱がこもりにくく、過昇温の状態にならないため、インクの吐出性は低下しにくい。
【0017】
本発明者らは、以下に示す(i)~(iii)の構成を備える、小型化に対応したインクジェット記録装置を使用して画像を記録する場合に、累積の吐出回数が増加してもインクの吐出性が低下するのを抑制すべく、種々の検討を行った。その結果、樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)が、顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ないインクを用いることで、ヒーターのコゲの堆積を抑制し、インクの吐出性の低下を抑制しうることを見出した。
(i)顔料及び樹脂粒子を含有するインクと、インクを収容するインク収容部と、インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドと、を備える。
(ii)インク収容部が、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。
(iii)記録ヘッドが、記録ヘッド内のインクを加温する機構を有する。
【0018】
樹脂粒子も、顔料と同様に、インクが過昇温状態となると分散状態が不安定化する。そして、分散状態が不安定化した状態の樹脂粒子を含有するインクに熱エネルギーを付与して吐出しようとすると、ヒーターの熱によってヒーターにコゲが付着しやすくなる。ここで、樹脂粒子のアニオン性基の量が、顔料のアニオン性基の量よりも少ないと、樹脂粒子のほうがよりコゲやすく、樹脂粒子に由来するコゲは、顔料に由来するコゲよりも先にヒーターに付着する。ヒーターに付着した樹脂粒子に由来するコゲは、ヒーターの熱エネルギーで容易に脱離し、付着と脱離の平衡状態になっている。このため、樹脂粒子に由来するコゲの上に顔料に由来するコゲが付着しても、顔料に由来するコゲは樹脂粒子に由来するコゲとともに容易に脱離するので、ヒーターのコゲの堆積が抑制される。その結果、累積の吐出回数が増加した場合であっても、インクの吐出性の低下が抑制されると考えられる。すなわち、樹脂粒子は、ヒーターに顔料が直接コゲ付くのを防止し、ヒーターを保護する役割を担っていると考えられる。樹脂粒子のアニオン性基の量が、顔料のアニオン性基の量以上であると、顔料が優先してコゲて、顔料に由来するコゲがヒーターに先に付着するため、インクの吐出性の低下を抑制することができない。
【0019】
<インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、インクと、インクを収容するインク収容部と、記録ヘッドと、を備えるインクジェット記録装置を使用する記録方法である。インクは、顔料及び樹脂粒子を含有する。記録ヘッドは、インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された部材である。そして、本発明のインクジェット記録方法は、吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。インク収容部は、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。記録ヘッドは、記録ヘッド内のインクを加温する機構を有する。そして、インク中の樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)は、インク中の顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ない。
【0020】
また、本発明のインクジェット記録装置は、インクと、インクを収容するインク収容部と、記録ヘッドと、を備える。インクは、顔料及び樹脂粒子を含有する。記録ヘッドは、インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された部材である。インク収容部は、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるとともに、他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。記録ヘッドは、記録ヘッド内のインクを加温する機構を有する。そして、インク中の樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)は、インク中の顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ない。
【0021】
(インクジェット記録装置)
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置70は、外装71と、外装71の上面に設けられたカバー部材72とを有する。カバー部材72は、上下方向に開閉可能な部材であり、上方向に開放することで、略直方体形状のインクジェット記録装置70の内部を見ることができる。
【0022】
図2は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構造を模式的に示す斜視図である。記録ヘッドとインク収容部が一体に形成された記録ユニット8は、キャリッジ(支持部材)81に搭載可能に構成されており、キャリッジ81上部に設けられているジョイント(不図示)と連結することで、キャリッジ上に設けられる。記録ユニット8は、可撓性部材であるチューブ82と連結しており、チューブ82の他端は第2のインク収容部であるメインタンク(第2のインク収容部)73と連結している。記録ユニット8がキャリッジ81に装着されると、記録ヘッド11(
図3)はジョイント及びチューブ82を介してメインタンク73と連通することになる。本実施形態のインクジェット記録装置70はシリアルスキャン方式の記録装置であり、ガイド軸によって、キャリッジ81が主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ81は、キャリッジモータ及びキャリッジモータ(いずれも不図示)の駆動力を伝達するベルトなどの駆動力伝達機構により、主走査方向に往復移動する。
【0023】
図3は、記録ユニットの一例を模式的に示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は分解した状態の斜視図である。
図3に示す記録ユニット8は、熱可塑性樹脂で形成された筐体であるインク収容部10と、記録ヘッド11とを有する。インク収容部10には、放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッド11が貼り合わされている。インク収容部10は熱可塑性樹脂で形成された筐体であるために軽量である。さらに、インク収容部10には、放熱板などの他の部材を介在させることなく記録ヘッド11が貼り合わされているため、記録ユニット8全体が小型化及び軽量化されている。このような記録ユニット8を用いることで、インクジェット記録装置全体を小型化及び軽量化することができる。放熱板としては、アルミナなどの金属酸化物などの材質で形成されているものを挙げることができる。
【0024】
記録ヘッド11には、インクを吐出する複数の吐出口や、インクを吐出するための熱エネルギーを発生させるエネルギー発生素子などが設けられている。エネルギー発生素子などは、例えば、電気配線部材14を通じて供給される電力によって駆動させることができる。エネルギー発生素子は熱エネルギーを発生させる素子であり、発生させた熱エネルギーの作用によって吐出口からインクを吐出させることができる。
【0025】
記録ヘッド11は、複数の吐出口で構成される複数の吐出口列が同一の記録素子基板に配列された吐出口面を有する。複数の吐出口列を同一の記録素子基板に配列することで、一つの記録ユニットで複数のインクを吐出することが可能であり、インクジェット記録装置の全体を小型化することができる。複数の吐出口列は、記録ユニットの往復移動方向(主走査方向)と直交する方向(副走査方向)に配列されていることが好ましい。また、複数の吐出口によって吐出口列を構成することで、記録ユニットの移動時に記録可能な部分が広くなるため、記録速度を速くすることができる。
【0026】
インク収容部10内には、スポンジ状のインク吸収体12a~12cが収納されている。また、インク収容部10の重力方向下方には、フィルタ13a~13cがそれぞれ配置されている。スポンジ状のインク吸収体12a~12cの毛管力を利用して負圧を発生させることで、吐出口からインクが漏出しないようにすることができる。また、フィルタ13a~13cを配置することで、ごみなどの微細な異物が吐出口に侵入するのを防止することができる。
【0027】
記録ヘッドは、記録ヘッド内のインクを加温する加温手段を有する。加温手段は、記録ヘッド内のインクを室温(25℃)などの記録環境温度よりも高い温度に加温しうる手段であればよい。このような加温手段としては、例えば、記録ヘッドに接触するように配設されるインク温度調整用のヒーターや、インク吐出用のヒーターなどを挙げることができる。インク吐出用のヒーターによってインクを加温するには、例えば、インクが吐出しない程度の電流を繰り返し通電すればよい。記録ヘッド内のインクの温度が30℃以上60℃以下となるように、加温手段でインクを加温することが好ましい。
【0028】
インクジェット記録装置は、さらに、サブタンクなどのインク収容部(第1インク収容部)に比して容量が大きいメインタンクなどの第2インク収容部、及び第2インク収容部とインク収容部の間をインクが流通するチューブを備えることが好ましい。家庭でのリモートワークにおける使用態様などを考慮すると、装置の小型化とともに、インクカートリッジの交換頻度の低減も重要である。このため、メインタンクなどの第2インク収容部をさらに設けることで、装置本体の大型化を回避しつつ、インク交換頻度を低減することができる。以下、記録ヘッドに貼り合わされたサブタンクなどの第1インク収容部のみをインク収容部として設けたインクジェット記録装置を「第1の装置構成」とも記す。また、サブタンクに比して容量が大きいメインタンクなどの第2インク収容部をインク収容部としてさらに設けたインクジェット記録装置を「第2の装置構成」とも記す。
【0029】
第2の装置構成の場合、第1の装置構成に比してインク交換頻度が低減されるため、メインタンク内に静置状態のインクが保持される期間が長くなる。また、顔料インクの場合、静置状態で保持される期間が長くなると、顔料が沈降しやすくなる。インクの固着による吐出性の低下は、流路内でインクが乾燥し、顔料が凝集することに起因して生ずるので、顔料の含有量が大きいインクを用いる場合ほど顕著になる。そして、使用状況によるが、第2の装置構成の固着回復性は、第1の装置構成の固着回復性よりも劣ることが多い。さらに、インクごとに固着回復性に差がある場合は、その差が大きくなる。このため、一般的には、第2の装置構成は第1の装置構成に比して廃インク量がさらに多くなるといった課題が生じやすい。これに対して、本発明のインクジェット記録方法では、用いるインク間の固着回復性の差が小さいため、第2の装置構成とした場合であっても廃インク量を低減することが可能であり、インク交換頻度の低減と廃インク量の低減を両立することができる。
【0030】
(水性インク)
本発明のインクジェット記録方法は、顔料及び樹脂粒子を含有するインクを使用し、吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。以下、インクを構成する成分などについて説明する。
【0031】
[色材]
インクの色材としては、顔料を用いる。顔料のアニオン性基の量(μmol/g)は、樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)よりも多いことを要する。顔料のアニオン性基は、後述する顔料の分散方式に対応する。例えば、樹脂を用いる分散方式であれば樹脂のアニオン性基の量を指し、顔料及び樹脂分散剤の合計の単位質量あたりのアニオン性基のマイクロモルの値で示す。また、自己分散方式であれば顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合したアニオン性基の量を指し、自己分散顔料の単位質量あたりのアニオン性基のマイクロモルの値で示す。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イミダゾロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、及びジオキサジン顔料などの有機顔料;を挙げることができる。カーボンブラックは、分解温度が非常に高く、耐熱性が良好であるため、ヒーターに強固にコゲ付きやすく、一度コゲ付くとヒーターから剥がれにくい。これに対して、有機顔料は耐熱性が低いため、ヒーターにコゲ付いても比較的剥がれやすい。このため、一般的には、カーボンブラックを顔料として含有するインクの吐出性は低下しやすい。但し、本発明のインクジェット記録方法では、顔料に由来するコゲよりも先に樹脂粒子に由来するコゲがヒーターに付着してヒーターを保護する。このため、カーボンブラックを顔料として含有するインクを用いても、インクの吐出性の低下を有効に抑制することができる。
【0033】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂(樹脂分散剤)を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを挙げることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、顔料の粒子表面に物理吸着させた樹脂分散剤によって分散させる「樹脂分散顔料」や、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合している「自己分散顔料」が特に好ましい。
【0034】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述の水溶性樹脂を用いることができる。樹脂分散顔料を用いる場合、インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0035】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0036】
顔料のアニオン性基の量(μmol/g)は、150μmol/g以上であることが好ましく、180μmol/g以上であることがさらに好ましい。顔料のアニオン性基の量が150μmol/g未満であると、顔料の分散状態が不安定になり、昇温した際に凝集しやすくなる。このため、アニオン性基の量がより少ない樹脂粒子が存在していても、顔料のほうが樹脂粒子よりも先にコゲて、ヒーターに顔料のコゲが付きやすくなることがあり、インクの吐出性の低下を抑制する作用が低下する場合がある。顔料のアニオン性基の量の上限は、230μmol/g以下であることが好ましい。顔料のアニオン性基の量は、樹脂分散顔料であれば、顔料と樹脂分散剤との質量比率、樹脂分散剤の酸価などにより調整することができる。また、自己分散顔料であれば、アニオン性基の密度により調整することができる。
【0037】
顔料を分散するための水溶性樹脂(樹脂分散剤)に加えて、樹脂分散剤とは異なる水溶性樹脂を含有するインクについて、顔料のアニオン性基の量を確認する方法を説明する。インクを濃縮又は希釈して、固形分(顔料、水溶性樹脂、樹脂粒子など)の含有量が10質量%程度である液体を調製する。この液体について、12,000rpmで1時間、遠心分離する。これにより、水溶性有機溶剤や分散に寄与しない樹脂などを含む液層と、顔料を含む固層と、が分かれるので、それぞれを回収する。顔料を含む固層に主として含まれる水溶性樹脂が樹脂分散剤であり、液層に主として含まれる樹脂が顔料の分散に寄与しない水溶性樹脂である。
【0038】
[樹脂粒子]
インクは、アニオン性基を有する樹脂粒子を含有する。アニオン性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及びホスホン酸基などを挙げることができる。本明細書における「樹脂粒子」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しない樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成した状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。一方、「水溶性樹脂」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しうる樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。「樹脂粒子」を「水分散性樹脂(水不溶性樹脂)」と言い換えることもできる。
【0039】
ある樹脂が「樹脂粒子」であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、判断対象の樹脂を含む液体(樹脂の含有量:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体をイオン交換水で10倍(体積基準)に希釈して試料を調製する。そして、試料中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されれば、その粒子は「樹脂粒子」(水分散性樹脂)であると判断する。一方、粒子径を有する粒子が測定されなければ、その樹脂は「樹脂粒子」ではない(「水溶性樹脂」である)と判断する。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59、とすることができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「ナノトラックUPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0040】
樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)は、顔料のアニオン性基の量(μmol/g)よりも少ない。これにより、顔料に由来するコゲよりも先に樹脂粒子に由来するコゲがヒーターに付着してヒーターを保護することが可能となり、顔料に由来するコゲがヒーターに直接付着するのを抑制することができる。
【0041】
樹脂粒子のアニオン性基の量(μmol/g)は、80μmol/g以上140μmol/g以下であることが好ましく、90μmol/g以上130μmol/g以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子のアニオン性基の量が80μmol/g未満であると、樹脂粒子の分散状態が不安定になり、過昇温した際に凝集しやすくなる。このため、ヒーター以外の吐出口内の箇所にもコゲが付着及び堆積することがあり、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。一方、樹脂粒子のアニオン性基の量が140μmol/g超であると、樹脂粒子の分散状態が過度に安定化し、樹脂粒子に由来するコゲがヒーターに付着しにくくなるため、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。
【0042】
顔料及び樹脂粒子のアニオン性基の量は、いずれも、コロイド滴定により測定した表面電荷量から算出することができる。後述する実施例においては、流動電位滴定ユニット(PCD-500)を搭載した電位差自動滴定装置(商品名「AT-510」、京都電子工業製)を使用し、電位差を利用したコロイド滴定によって顔料及び樹脂粒子の表面電荷量をそれぞれ測定した。より具体的には、顔料及び樹脂粒子を純水で約300倍(質量基準)にそれぞれ希釈した後、必要に応じて水酸化カリウムでpHを約10に調整し、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いて電位差滴定を行った。インクから適切な方法により抽出した顔料及び樹脂粒子を用いてアニオン性基の量を測定することも勿論可能である。
【0043】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg(℃))は、記録ヘッド内のインクを加温手段によって加温したインクの温度よりも高いことが好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度が、加温したインクの温度以下であると、インク中で樹脂粒子が溶解しやすくなり、吐出性が低下しやすくなる場合がある。樹脂粒子のガラス転移温度(Tg(℃))は、加温手段によって記録ヘッド内のインクを加温した際のインクの温度+40℃以下であることが好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度が加温したインクの温度に比べて過度に高いと、樹脂粒子の分散性が安定してヒーターにコゲが付着しにくくなるため、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。
【0044】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg(℃))は、示差走査熱量測定装置(DSC)を使用して測定することができる。具体的には、まず、樹脂粒子を60℃で乾固させて得た乾固物2mgをアルミニウム容器に封管する。そして、この乾固物について、示差走査熱量測定装置(DSC、商品名「Q1000」、TA instruments製)を使用すれば、樹脂粒子のガラス転移温度(Tg(℃))を測定することができる。ガラス転移温度を測定する際の温度プログラムは、例えば、以下に示す(1)及び(2)の手順とすればよい。
(1)200℃まで10℃/分で加熱した後、200℃から-50℃まで5℃/分で降温させる。
(2)次いで、-50℃から200℃まで10℃/分で昇温させながら熱分析する。
【0045】
インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。水性インク中の、樹脂粒子の含有量(質量%)は、顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.4倍以上であることが好ましい。上記の質量比率が0.4倍未満であると、樹脂粒子に由来するコゲによってもヒーターを保護しきれなくなり、顔料に由来するコゲがヒーターに付着しやすくなることがある。このため、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。上記の質量比率の上限については特に限定されないが、1.0倍以下であることが好ましい。樹脂粒子としては、アクリル樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、及びポリエステル樹脂粒子、などを挙げることができる。なかでも、アクリル樹脂粒子が特に好ましい。
【0046】
[水溶性樹脂]
インクには、水溶性樹脂を含有させることができる。インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。水溶性樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。水溶性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂などを挙げることができる。
【0047】
顔料としてカーボンブラックを用いる場合、インクは、スチレンに由来するユニットを有する水溶性樹脂を含有することが好ましい。スチレンはカーボンブラックと強く相互作用するため、スチレンに由来するユニットを有する水溶性樹脂はカーボンブラックに吸着し、カーボンブラックの分散性を安定化することができる。その結果、顔料に由来するコゲがヒーターに付きにくくなり、吐出性の低下をさらに抑制することができる。水溶性樹脂に占める、スチレンに由来するユニットの割合(質量%)は、10.0質量%以上であることが好ましい。スチレンに由来するユニットの占める割合が10.0質量%未満であると、顔料の分散性を安定化する作用が弱くなり、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。水溶性樹脂に占める、スチレンに由来するユニットの割合(質量%)は、50.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
[樹脂の構成]
樹脂粒子及び水溶性樹脂の好適な構成ユニットについて説明する。本明細書における「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーに由来するユニットを少なくとも持つ樹脂である。なお、以下の記載における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味する。
【0049】
〔アクリル樹脂〕
アクリル樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。親水性ユニットは、アニオン性基など親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー;これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマー;などを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。
【0050】
疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;などを挙げることができる。
【0051】
〔ウレタン樹脂〕
ウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)とを反応させて得ることができる。また、架橋剤や鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。なかでも、インクは、ウレア結合を有する水溶性ウレタン樹脂を含有することが好ましい。ウレア結合を有する水溶性のウレタン樹脂にヒーターから生じた熱エネルギーが付与されると、アミンが発生してインクのpHが局所的に上昇する。インクのpHが上昇すると顔料の分散性が安定化し、顔料に由来するコゲがヒーターに付着しにくくなり、インクの吐出性の低下を抑制する効果がさらに向上する。
【0052】
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートなどを用いることができる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、及び3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などを挙げることができる。
【0053】
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、及びα,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0054】
ポリオールは、その分子構造中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオールとしては、酸基を有しないポリオール及び酸基を有するポリオールなどを挙げることができる。
【0055】
酸基を有しないポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリカーボネートポリオールなどの数平均分子量450~4,000程度である長鎖ポリオールを挙げることができる。酸基を有するポリオールとしては、その分子構造中に、カルボン酸基、及びスルホン酸基、ホスホン酸基などの酸基を含むポリオールを挙げることができる。なかでも、酸基を有しないポリオールに加えて、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などの酸基を有するポリオールをさらに用いて合成されたウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0056】
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、及びジブタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、及びヒドラジンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアミドポリアミン、及びポリエチレンポリイミンなどの3官能以上のポリアミン;などを挙げることができる。なお、便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。
【0057】
通常、架橋剤はプレポリマーを合成する際に用いられる。また、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーを鎖延長する際に用いられる。架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長などの目的に応じて、水、ポリイソシアネート、ポリオール、及びポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させうる化合物を用いることもできる。
【0058】
[水性媒体]
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。なお、インクは、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、40.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。水溶性有機溶剤は、25℃における蒸気圧が水よりも低いものが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以上30.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値は、34.0以上であることが好ましい。比誘電率が比較的高い水溶性有機溶剤が多く存在すると、顔料の分散性が安定化し、顔料に由来するコゲがヒーターに付着しにくくなる。インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値が34.0未満であると、顔料の分散性がやや不安定になることがあり、インクの吐出性の低下を抑制する効果が低下する場合がある。インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値の上限については特に限定されないが、38.0以下であることが好ましい。
【0060】
インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値は、例えば、比誘電率40.0の水溶性有機溶剤15.0質量%と、比誘電率20.0の水溶性有機溶剤10.0質量%とを含有するインクの場合、下記式(A)のように算出することができる。なお、インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率の質量平均値を算出する際には、水の比誘電率は考慮しない。これは、小型のインクジェット記録装置に用いられる水性インクに汎用の水溶性有機溶剤は水よりも蒸気圧の低いものが汎用であり、吐出口付近でインクが固着した場合、水の蒸発が十分に進んでおり、液媒体のほとんどが水溶性有機溶剤となっているためである。
(40.0×15.0+20.0×10.0)/(15.0+10.0)=32.0 ・・・(A)
【0061】
水溶性有機溶剤の比誘電率は、誘電率計(例えば、商品名「BI-870」、BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION製など)を使用し、周波数10kHzの条件で測定することができる。25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率は、50質量%水溶液の比誘電率を測定し、下記式(1)から算出した値とする。通常「水溶性有機溶剤」は液体であるが、本発明においては、便宜上、25℃(常温)で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。
εsol=2ε50%-εwater ・・・(1)
εsol:25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率
ε50%:25℃で固体の水溶性有機溶剤の50質量%水溶液の比誘電率
εwater:水の比誘電率
【0062】
水性インクに汎用であり、25℃で固体である水溶性有機溶剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。ここで、25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を、50質量%水溶液の比誘電率から求める理由は次の通りである。25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、水性インクの構成成分となり得るもののなかには、50質量%を超えるような高濃度の水溶液を調製することが困難なものがある。一方、10質量%以下であるような低濃度の水溶液では、水の比誘電率が支配的となり、当該水溶性有機溶剤の確からしい(実効的な)比誘電率の値を得ることができない。そこで、本発明者らが検討を行った結果、25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、インクに用いることが可能なほとんどのもので測定対象の水溶液を調製することができ、かつ、求められる比誘電率も本発明の効果と整合することが判明した。このような理由から、50質量%水溶液を利用することとした。25℃で固体の水溶性有機溶剤であって、水への溶解度が低いために50質量%水溶液を調製できないものについては、飽和濃度の水溶液を利用し、上記εsolを求める場合に準じて算出した比誘電率の値を便宜的に用いることとする。
【0063】
水溶性有機溶剤の具体例としては、以下に示すものなどを挙げることができる(括弧内の数値は25℃における比誘電率を表す)。メタノール(33.1)、エタノール(23.8)、n-プロパノール(12.0)、イソプロパノール(18.3)、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなどの炭素数1乃至4の1価アルコール類。1,2-プロパンジオール(28.8)、1,2-ブタンジオール(22.2)、1,3-ブタンジオール(30.0)、1,4-ブタンジオール(31.1)、1,5-ペンタンジオール(27.0)、1,2-ヘキサンジオール(14.8)、1,6-ヘキサンジオール(7.1)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(28.3)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(24.0)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(23.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(18.5)などの2価アルコール類。1,2,6-ヘキサントリオール(28.5)、グリセリン(42.3)、トリメチロールプロパン(33.7)、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類。エチレングリコール(40.4)、ジエチレングリコール(31.7)、トリエチレングリコール(22.7)、テトラエチレングリコール(20.8)、ジプロピレングリコール(19.7)、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコールなどのアルキレングリコール類。エチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(11.0)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(9.8)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(12.4)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(8.5)などのグリコールエーテル類。数平均分子量200のポリエチレングリコール(18.9)、同600のポリエチレングリコール(11.5)、同1,000のポリエチレングリコール(4.6)、ポリプロピレングリコールなどの数平均分子量200乃至1,000のポリアルキレングリコール類。2-ピロリドン(28.0)、N-メチル-2-ピロリドン(32.0)、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(37.6)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルモルホリン、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(23.7)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(16.0)、尿素(110.3)、エチレン尿素(49.7)、トリエタノールアミン(31.9)などの含窒素化合物類。ジメチルスルホキシド(48.9)、ビス(2-ヒドロキシエチルスルホン)などの含硫黄化合物類。インクに含有させる水溶性有機溶剤としては、比誘電率が3.0以上であるもの、120.0以下であるもの、25℃での蒸気圧が水よりも低いものを用いることが好ましい。
【0064】
[界面活性剤]
インクは、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。また、インクは、曇点を有する界面活性剤を含有することが特に好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
[その他の成分]
インクには、さらに、必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。これらの添加剤や上述の界面活性剤は、比誘電率を算出する対象には含めない。
【0066】
[インクの物性]
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクである。したがって、信頼性の観点から、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましい。25℃におけるインクのpHは、7.0以上9.5以下であることが好ましく、8.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0068】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
水5.5gに濃塩酸5.0gを溶かした溶液を5℃に冷却した状態とし、この状態で4-アミノ-1,2-ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。この溶液の入った容器をアイスバスに入れ、撹拌して溶液の温度を10℃以下に保持しながら、5℃の水9.0gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かして得た溶液を加えた。15分間撹拌後、比表面積250m2/g、DBP吸油量140mL/100gのカーボンブラック6.0gを撹拌下で加えた。さらに15分間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過し、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させた。その後、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、顔料の粒子表面に-C6H3-(COOK)2基が結合した自己分散顔料を得た。適量の水を添加して顔料の含有量を調整し、顔料の含有量が15.0%である顔料分散液1を得た。自己分散顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0069】
(顔料分散液2)
酸価90mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン-アクリル酸共重合体を10%水酸化カリウム水溶液で中和した。カーボンブラック(商品名「Printex85」、オリオンエンジニアドカーボンズ製)15.0部、中和したスチレン-アクリル酸共重合体(固形分)4.5部、及びイオン交換水80.5部を混合して混合物を得た。サンドグラインダーを使用して得られた混合物を1時間分散した後、遠心分離処理して粗大粒子を除去した。さらに、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)で加圧ろ過して、カーボンブラックが樹脂によって水中に分散された状態の顔料分散液2を得た。顔料分散液2中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は4.5%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0070】
(顔料分散液3)
中和したスチレン-アクリル酸共重合体(固形分)の使用量を3.8部、イオン交換水の使用量を81.2部に変更したこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液3を得た。顔料分散液3中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は3.8%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、150μmol/gであった。
【0071】
(顔料分散液4)
中和したスチレン-アクリル酸共重合体(固形分)の使用量を5.2部、イオン交換水の使用量を79.8部に変更したこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液4を得た。顔料分散液4中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は5.2%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、230μmol/gであった。
【0072】
(顔料分散液5)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントブルー15:3を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様にして顔料分散液5を得た。顔料分散液5には、カウンターイオンがナトリウムイオンであるフタル酸基が顔料の粒子表面に結合した自己分散顔料が含まれており、顔料の含有量は15.0%であった。自己分散顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0073】
(顔料分散液6)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントブルー15:3を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液6を得た。顔料分散液6中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は4.5%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0074】
(顔料分散液7)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液7を得た。顔料分散液7中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は4.5%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0075】
(顔料分散液8)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液8を得た。顔料分散液8中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は4.5%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、200μmol/gであった。
【0076】
(顔料分散液9)
4-アミノ-1,2-ベンゼンジカルボン酸の量を0.5gとしたこと以外は、前述の顔料分散液1と同様にして、顔料の含有量が15.0%である顔料分散液9を得た。自己分散顔料のアニオン性基の量は、67μmol/gであった。
【0077】
(顔料分散液10)
中和したスチレン-アクリル酸共重合体(固形分)の使用量を2.0部、イオン交換水の使用量を83.0部に変更したこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散液10を得た。顔料分散液10中の顔料の含有量は15.0%、樹脂分散剤の含有量は2.0%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、89μmol/gであった。
【0078】
(顔料分散液11)
酸価400mgKOH/g、重量平均分子量6,000のスチレン-アクリル酸エチル-メタクリル酸共重合体を10%水酸化カリウム水溶液で中和した。カーボンブラック(商品名「Mogul L」、キャボット製)24.0部、中和したスチレン-アクリル酸エチル-メタクリル酸共重合体(固形分)8.0部、及びイオン交換水68.0部を混合して混合物を得た。この混合物を用いたこと以外は、前述の顔料分散液2と同様にして顔料分散11を得た。顔料分散液11中の顔料の含有量は24.0%、樹脂分散剤の含有量は8.0%であった。また、顔料のアニオン性基の量は、750μmol/gであった。
【0079】
<水溶性アクリル樹脂の調製>
表1に示す種類及び量のモノマーを常法にしたがって共重合して、水溶性アクリル樹脂1~5を合成した。酸価と等モル量の水酸化カリウムで樹脂中のカルボン酸基を中和した後、適量の純水を添加して、樹脂の含有量が20.00%であるアクリル樹脂1~5の水溶液を得た。表1中の略号の意味は以下に示す通りである。
・St:スチレン
・MMA:メタクリル酸メチル
・AA:アクリル酸
【0080】
【0081】
<水溶性ウレタン樹脂の調製>
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを用意した。この4つ口フラスコに、表2に示す種類及び量のポリイソシアネート、ポリオール、及びメチルエチルケトン300.0部を入れた。そして、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた。次いで、表2に示す量のポリアミンを添加し、80℃で反応させて反応液を得た。得られた反応液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら水酸化カリウム水溶液を添加して液体を得た。加熱減圧して得られた液体からメチルエチルケトンを留去し、ウレタン樹脂(固形分)の含有量が20.0%である、ウレタン樹脂1及び2の水溶液を得た。ウレタン樹脂の特性を表2に示す。ウレタン樹脂中のウレタン結合とウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の含有量(モル%)は、13C-NMRにより測定及び算出した。表2中の略号の意味は以下に示す通りである。
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・PPG:ポリプロピレングリコール(数平均分子量:1,000)
・DMPA:ジメチロールプロピオン酸
・EDA:エチレンジアミン
【0082】
【0083】
<樹脂粒子の合成>
(樹脂粒子1)
イオン交換水79.4部及び過硫酸カリウム0.2部を混合して溶液を調製した。また、ブチルメタクリレート16.7部、メタクリル酸0.4部、エチレングリコールジメタクリレート3.0部、及び反応性界面活性剤(商品名「アクアロンKH-05」、第一工業製薬製)0.3部を混合して乳化物を調製した。窒素雰囲気下、調製した乳化物を上記の溶液に1時間かけて滴下し、80℃で撹拌しながら重合反応を行った後、2時間撹拌した。室温まで冷却した後、イオン交換水及び水酸化カリウム水溶液を添加して、pH8.5の樹脂粒子1の水分散液を得た。得られた分散液中の樹脂粒子の含有量は15.0%であった。樹脂粒子1のアニオン性基の量は108μmol/g、樹脂粒子1のガラス転移温度は74℃であった。
【0084】
(樹脂粒子2)
メタクリル酸の使用量を0.3部に変更したこと以外は、樹脂粒子1と同様にして樹脂粒子2の水分散液を得た。得られた分散液中の樹脂粒子の含有量は15.0%であった。樹脂粒子2のアニオン性基の量は80μmol/g、樹脂粒子1のガラス転移温度は74℃であった。
【0085】
(樹脂粒子3)
メタクリル酸の使用量を0.5部に変更したこと以外は、樹脂粒子1と同様にして樹脂粒子3の水分散液を得た。得られた分散液中の樹脂粒子の含有量は15.0%であった。樹脂粒子3のアニオン性基の量は140μmol/g、樹脂粒子3のガラス転移温度は74℃であった。
【0086】
(樹脂粒子4)
オートクレーブ内に設置した反応容器に、ネオペンチルグリコール90部、ビスフェノールA10部、テレフタル酸50部、イソフタル酸50部、及びトリメリット酸7.6部の混合物を入れ、220℃で4時間加熱してエステル化反応を行った。次いで、240℃に昇温し、オートクレーブ内の圧力を90分間かけて13Paまで減圧した。240℃、13Paの減圧状態を5時間保ってエステル化(脱水縮合)反応を継続した後、オートクレーブ内に窒素ガスを導入して常圧に戻した。反応容器内の温度を220℃まで下げ、触媒(テトラ-n-ブチルチタネート)及びトリメリット酸2.4部を添加し、220℃で2時間加熱して、エステル交換反応を行った。触媒の使用量(mol)は、3×10-4×多価カルボン酸の合計使用量(mol)とした。その後、オートクレーブ内に窒素ガスを導入して加圧状態とし、シート状の樹脂を取り出した。取り出した樹脂を25℃まで冷却した後、クラッシャーで粉砕してポリエステル系樹脂を得た。
【0087】
容積2Lのビーカーに、撹拌機(商品名「トルネード撹拌機スタンダードSM-104」、アズワン製)をセットした。このビーカーにポリエステル系樹脂210g及びメチルエチルケトン(MEK)を入れ、30℃で撹拌してポリエステル系樹脂を溶解させた。次いで、ポリエステル系樹脂のすべての酸基に対応する酸価を基準とした中和率(モル%)に相当する使用量の5%水酸化カリウム水溶液を添加して30分間撹拌した。30℃で撹拌下、20mL/minの速度で脱イオン水500gを滴下した。その後、60℃に昇温してMEKを留去し、さらに水の一部も留去した。25℃まで冷却した後、150メッシュの金網でろ過し、脱イオン水にて固形分濃度を15%に調整して、樹脂粒子4の水分散液を得た。樹脂粒子4のアニオン性基の量は125μmol/g、樹脂粒子4のガラス転移温度は64℃であった。
【0088】
(樹脂粒子5)
撹拌機、温度計、及び還流管を備えた1Lのセパラブルフラスコを用意した。ポリカーボネート系ポリマーポリオール100g、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸4.2g、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート41g、トリエチルアミン2.2g、及びアセトン80gをフラスコに窒素を導入しながら入れた。ポリカーボネート系ポリマーポリオールとしては、商品名「T-5650E」(旭化成ケミカルズ製)を用いた。触媒(ジ(2-エチルヘキサン酸)すず(II))1滴を添加した後、昇温して3時間~15時間還流した。温度を40℃まで下げて保持した後、300rpmの速度で撹拌しながら水をゆっくり加えて微粒子化し、30分間加熱撹拌した。ジエチレントリアミン1.2gを添加して3~6時間加熱撹拌した後、有機溶剤を除去して、樹脂粒子5の水分散液を得た。得られた樹脂粒子5の水分散液中の樹脂粒子の含有量は15%であった。樹脂粒子5のアニオン性基の量は125μmol/g、樹脂粒子5のガラス転移温度は64℃であった。
【0089】
<アニオン性基の量の測定方法>
顔料及び樹脂粒子のアニオン性基の量は、いずれも、流動電位滴定ユニット(PCD-500)を搭載した電位差自動滴定装置を使用して測定した。具体的には、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いた電位差滴定により、アニオン性基の量をそれぞれ測定した。電位差自動滴定装置としては、商品名「AT-510」(京都電子工業製)を使用した。
【0090】
<インクの調製>
表3-1~3-3に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。表3-1~3-3中、「アセチレノールE60」は、ノニオン性界面活性剤(川研ファインケミカル製)の商品名である。表3-1~3-3中、「界面活性剤SF-1」は、特許文献1に記載された界面活性剤であり、C16H33-N-{(CH2CH2O)8-H}2で表される化合物である。表3-1~3-3中、水溶性有機溶剤に付した括弧内の数字は、比誘電率を示す。
【0091】
また、メインタンクを有する第2の装置構成のインクジェット記録装置を使用する記録方法を想定するために、以下のインクを用いた。すなわち、第2の装置構成の評価に用いるインクは、第1の装置構成の評価に用いるインクと比して、固形分(顔料、水溶性樹脂、樹脂粒子)が20%分、濃縮された状況を模した組成とした。つまり、固形分の含有量をあらかじめ高く設定してある。一方、実施例25、26、比較例3、6では、第1の装置構成のインクジェット記録装置を使用する記録方法を想定するために、濃縮された状況を模していない組成のインクを使用して評価した。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
<記録ユニット>
(記録ユニット1)
商品名「PIXUS TS5330S」(キヤノン製)の記録ユニットを用意した。この記録ユニット1は、熱エネルギーの作用により吐出する吐出口が形成された記録ヘッドを備えている。インク収容部は、熱可塑性樹脂で形成された筐体であり、インク収容部には他の部材を介在させることなく記録ヘッドが貼り合わされている。この記録ユニットを搭載する記録装置の記録ヘッドには、記録ヘッド内のインクを加温する機構が設けられており、記録ヘッドの両端2か所には記録ヘッド内のインクの温度を測定するセンサーが取り付けられている。
【0096】
(記録ユニット2)
商品名「GX6030」(キヤノン製)の記録ユニットを用意した。この記録ユニット2は、インク収容部に放熱板を介して記録ヘッドが貼り合わされていること以外は、前述の記録ユニット1と同様の構成を有する。
【0097】
<インクジェット記録装置>
インクジェット記録装置(商品名「PIXUS TS5330S」、キヤノン製)について、以下に示すように改造して、記録装置1及び2を用意した。
・記録装置1は、装置内に載置されるメインタンク(
図1及び2における73)を省いた「第1の装置構成」のタイプのインクジェット記録装置である。この記録装置は、商品名「PIXUS TS5330S」に、キャリッジ上のサブタンクとして上記で準備した記録ユニットを組み込んだものである。
・記録装置2は、商品名「PIXUS TS5330S」にメインタンク(
図1及び2における73)を設けるとともに、キャリッジ上のサブタンクとして上記で準備した記録ユニットを組み込んだ、「第2の装置構成」のタイプのインクジェット記録装置である。
【0098】
<評価>
表4に示す種類のインク、記録ユニット、及び記録装置の組み合わせとし、表4に示すインク温度(℃)になるように加温したインクを吐出して、インクの吐出性を評価した。具体的には、記録ヘッドに一定の駆動電圧を印加して吐出口から吐出されるインクの状態を、インクの吐出方向に直交する方向(横方向)からCCDカメラで撮影し、吐出速度を算出した。この際、ストロボの発光間隔と撮影間隔とを同期させ、ごく短い間隔でストロボを発光させた。この間に、吐出のための駆動電圧を印加し、その時点から所定の時間が経過した時点で、記録ヘッドの吐出口が設けられた面と吐出されたインク滴の重心との距離(μm)を撮影データから求めた。そして、求めた距離(μm)とストロボの発光間隔(μ秒)から吐出速度(m/s)を算出し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。結果を表4に示す。吐出速度の測定は、3個の吐出口について実施し、その平均を測定値とした。15,000Hzの吐出周波数でインクを連続吐出させ、初期の吐出速度と160分間吐出させた後の吐出速度の差を比較して評価した。なお、比較例6、参考例4、5ではインクを加温せずに吐出させた。以下に示す各項目の評価基準で、「AA」、「A」及び「B」を許容できるレベルとし、「C」及び「D」を許容できないレベルとした。
AA:吐出速度の差が0.5m/s以下であった。
A:吐出速度の差が0.5m/sを超えて1.0m/s以下であった。
B:吐出速度の差が1.0m/sを超えて2.0m/s以下であった。
C:吐出速度の差が2.0m/sを超えて3.0m/s以下であった。
D:吐出速度の差が3.0m/s超であった。
【0099】