(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174842
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】質量分析計及び方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20241210BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20241210BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01J49/02 700
H01J49/42 450
H01J49/00 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024088991
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】2308320.7
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】521073028
【氏名又は名称】エイチジーエスジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ホイズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ノイズを識別する。
【解決手段】方法であって、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することとを含む方法。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズを識別する方法であって、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、
電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、
前記時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することと
を含む方法。
【請求項2】
前記CDMS内を移動する前記イオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することは、前記CDMS内を移動する複数のイオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することを含み、任意選択的に、前記複数のイオンは、相互に異なる質量電荷比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CDMS内を移動する前記イオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することは、前記CDMS内を一定の速さで移動する前記イオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CDMS内を移動する前記イオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することは、前記CDMS内で調和運動を伴って移動する前記イオンによって前記誘導検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記時間領域信号を、前記一連の周波数-振幅対を含む前記周波数領域スペクトルに変換することは、高速フーリエ変換すなわちFFT等のフーリエ変換すなわちFTを使用して、前記時間領域信号を、前記一連の周波数-振幅対を含む前記周波数領域スペクトルに変換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することは、所定の周波数許容範囲内において、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することは、所定の振幅許容範囲内において、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することは、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対、好ましくは所定の第3の、より高い、又はその両方のその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を排除することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない前記特定の周波数-振幅対を排除することは、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対シグネチャを有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することは、所定の周波数許容範囲内において、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することは、所定の振幅許容範囲内において、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することは、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対にその所定の高調波周波数-振幅対、好ましくは所定の第2高調波周波数-振幅対のみを有する前記特定の周波数-振幅対を保持することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記一連の周波数-振幅対のうち前記一連の周波数-振幅対に、その高調波周波数-振幅対を有する前記特定の周波数-振幅対を保持することは、前記一連の周波数-振幅対のうち、前記一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対シグネチャを有する前記特定の周波数-振幅対を保持することを含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
保持された前記周波数-振幅対の周波数を使用して、且つ任意選択的にその高調波周波数-振幅対の周波数を使用して、前記イオンの質量電荷比を計算することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項16】
保持された前記周波数-振幅対の振幅を使用して、且つ任意選択的にその高調波周波数-振幅対の振幅を使用して、前記イオンの電荷を計算することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項17】
前記CDMS内を移動する前記イオンによって前記誘導電荷検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を取得することは、前記CDMSを使用して、前記CDMS内を移動する前記イオンによって前記誘導電荷検出器内に誘導される前記電荷を表す前記時間領域信号を収集することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記イオンの計算された質量電荷比、前記イオンの前記電荷、又はその両方を使用して、例えばリアルタイムで前記CDMSを制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータ、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法を行わせる命令を含むコンピュータプログラム、及びプロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法を行わせる命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体のうちの少なくとも1つ。
【請求項20】
電荷検出質量分析計すなわちCDMSであって、
第1静電電極及び第2静電電極を含む静電電極のセットと、誘導電荷検出器とを含む静電場イオントラップであって、前記誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される静電場イオントラップと、
請求項1に記載の方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータと
を含む電荷検出質量分析計すなわちCDMS。
【請求項21】
前記静電場イオントラップは、静電扇形場イオントラップを含むか、静電扇形場イオントラップであるか、又はその両方であり、前記静電電極のセットは、静電セクタのセットを含むか、静電セクタのセットであるか、又はその両方であり、任意選択的に、前記第1静電電極及び前記第2静電電極は、それぞれ第1静電セクタ及び第2静電セクタである、請求項20に記載のCDMS。
【請求項22】
前記イオン経路を少なくとも部分的に第1次元において制約するように配置される、第1焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを含み、好ましくは、前記第1次元は、前記誘導電荷検出器を介した前記イオン経路の方向に直交する、請求項21に記載のCDMS。
【請求項23】
前記イオン経路に導入されるイオンのイオンエネルギーを、例えば前記イオン経路に前記イオンをパルスで送ることによって増加させるように構成されたリフトデバイスを含み、任意選択的に、前記リフトデバイスは、前記イオン経路に導入される前記イオンをトラップするように構成される、請求項21又は22に記載のCDMS。
【請求項24】
前記静電場イオントラップは、静電線形場イオントラップを含むか、静電線形場イオントラップであるか、又はその両方であり、任意選択的に、前記第1静電電極は、第1反射又はミラー電極を含むか、第1反射又はミラー電極であるか、又はその両方であり、任意選択的に、前記第2静電電極は、第2反射又はミラー電極を含むか、第2反射又はミラー電極であるか、又はその両方である、請求項20に記載のCDMS。
【請求項25】
前記静電場イオントラップは、湾曲トラップを含むか、湾曲トラップであるか、又はその両方である、請求項20に記載のCDMS。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷検出質量分析計(CDMS:charge detection mass spectrometer)に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷検出質量分析(CDMS:Charge Detection Mass Spectrometry)は、高分子の複雑なスペクトルの逆畳み込み(デコンボリューション)を可能にする技法である。分子のサイズが増加するに従い、その分子が獲得する可能性がある異なる電荷状態の数が増加する。極限では、異なる質量を有する分子の電荷状態が重なり合うことにより、従来の質量分析計(MS:mass spectrometer)の質量対電荷m/zスケールに不鮮明な連続部分が生じる。こうした質量スペクトルは、個々の種が別個のピークとして目立たなくなるため、分析上有用な情報をほとんど又はまったくもたらさない。これは、高分子のエレクトロスプレーの場合に特に問題となり、それは、分子質量が増加するに従い、このイオン化技法が多くの異なる電荷状態をもたらすためである。イオンの質量対電荷m/zを決定するMSとは対照的に、CDMSは、イオンの質量対電荷m/z及び電荷zの両方を決定することによって質量を(すなわち単に質量対電荷m/zではなく)決定する。従来のCDMSでは、個々のイオンをイオントラップに注入し、誘導電荷検出管を通して前後に振動させる。特定のイオンは、誘導電荷検出管に入る際に小さい測定可能な電圧を誘起し、その振幅は、その電荷に比例する。測定された振動の周期時間により、特定のイオンの質量電荷比m/zがもたらされ、これらの2つの測定値の積により、特定のイオンの真の質量が得られる。イオントラップ内の多くの振動を可能にし、結果として得られる信号をフーリエ変換(FT:Fourier Transform)によって分析することにより、電荷の測定及び質量電荷比m/zの測定の両方の精度が向上する。真の質量の測定は、質量電荷比m/zのみを決定する直交加速飛行時間型(oa-TOF:orthogonal-acceleration time-of-flight)MS等の従来のMSとは対照的である。一般に、CDMSの精度は、2つの制限要因、すなわち電荷測定の不確かさを与える検出電子機器における電子ノイズ及び振動周期の変動を与える入射イオンのエネルギー拡散によって決まる。
【0003】
2012年、コンティノ(Contino)及びジャロルド(Jarrold)[1](非特許文献1)は、単一のイオンについての検出限界が30電気素量である電荷検出質量分析計(文脈から明らかであるCDMS、CDMS分析器としても知られる)を発表した。この論文は、その時点でのCDMSの包括的なレビューを与え、その全体が参照により本明細書に援用される。このCDMSは、デュアル半球偏向型分析器(HDA:Hemispherical Deflection Analyser)に連結されたエレクトロスプレー源、それに続く鏡像電荷検出器を組み込んだコーントラップを含んでいた。イオンは、トラップに入る前にデュアルHDAによってエネルギー選択された。トラップされたイオンの基本振動周波数は、高速フーリエ変換(FFT:fast Fourier transform)によって抽出された。振動周波数及び運動エネルギーは、トラップされたイオンの質量電荷比m/zを与えた。基本周波数におけるFFTの大きさは、電荷に比例した。特に、このCDMSは、単一のイオンについての30電気素量の検出限界を達成するように、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限し、それにより振動周波数の変動を減少させるエネルギーフィルタとしてデュアルHDAの使用を必要とした。しかしながら、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限することにより、CDMSのスループットが低下した。より低ノイズの電子機器により、2015年までに、キーファ(Keifer)、シンホルト(Shinholt)及びジャロルド(Jarrold)[2](非特許文献2)は、真の質量の決定に十分である、整数レベルよりも良好な改善された電荷精度を実証することになった。
【0004】
2018年、ホーガン(Hogan)及びジャロルド(Jarrold)[3](非特許文献3)は、その以前のCDMSのコーントラップよりもイオンエネルギーに関する振動周期への依存性が低い、セグメント化された静電線形イオントラップ(ELIT:Electrostatic Linear Ion Trap)を採用した。このCDMSは、デュアルHDAエネルギーフィルタの使用も必要としたが、イオンエネルギー拡散及び半径方向位置による振動周波数への有意な依存性が残っていた。特に、このCDMSについて、イオン振動周波数の運動エネルギー依存性は、1桁だけ減少し、これにより質量電荷比m/zの比決定の不確かさの1桁の減少をもたらしたはずである。しかしながら、イオン振動周波数の軌道依存性に起因して、4倍の改善のみが達成された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Charge detection mass spectrometry for single ions with a limit of detection of 30 charges - International Journal of Mass Spectrometry 345-347 (2013) 153-159
【非特許文献2】Charge Detection Mass Spectrometry with Almost Perfect Charge Accuracy - Anal. Chem. 2015, 87, 10330-10337
【非特許文献3】Optimized Electrostatic Linear Ion Trap for Charge Detection Mass Spectrometry - J. Am. Soc. Mass Spectrom. (2018) Oct; 29(10):2086-2095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、とりわけ、本明細書で特定されるか又は他に特定されるかにかかわらず、先行技術の欠点の少なくともいくつかを少なくとも部分的に排除又は軽減する方法、コンピュータ、コンピュータプログラム、命令及び/又はCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目的は、検出限界の改善を可能にする方法を提供することである。例えば、本発明の目的は、ダイナミックレンジの拡大を可能にする方法を提供することである。例えば、本発明の実施形態の目的は、イオンの質量対電荷、電荷及び/又は質量の精度及び/又は分解能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様は、ノイズを識別する方法であって、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、
電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、
時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、
一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することとを含む方法を提供する。
【0008】
第2態様は、第1態様による方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータ、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、コンピュータに、第1態様による方法を行わせる命令を含むコンピュータプログラム、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、コンピュータに、第1態様による方法を行わせる命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体のうちの少なくとも1つを提供する。
【0009】
第3態様は、電荷検出質量分析計すなわちCDMSであって、
第1静電電極及び第2静電電極を含む静電電極のセットと、誘導電荷検出器とを含む静電場イオントラップであって、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される静電場イオントラップと、
第1態様による方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータと
を含むCDMSを提供する。
【0010】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載の方法が提供される。コンピュータ、コンピュータプログラム、命令及び/又はCDMSも提供される。本発明の他の特徴は、従属請求項及び以下の説明から明らかになるであろう。
【0011】
方法
第1態様は、ノイズを識別する方法であって、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、
電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、
時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、
一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することとを含む方法を提供する。
【0012】
このように、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対がそこから排除される(本明細書では高調波フィルタリングと称する)ため、周波数領域スペクトルにおけるノイズが減衰する。すなわち、一連の周波数-振幅対のうち一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対は、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷(すなわち真陽性等の陽性)に対応する、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する他の周波数-振幅対からノイズ(すなわち偽陽性)として識別される(すなわち区別される、弁別される)。特に、本発明者は、電子ノイズ等のノイズに起因して誘導電荷検出器内に誘導される電荷が、通常、高次高調波を有しない単一の周波数-振幅対(すなわち基本波又は第1高調波)によって説明されることを確認した。対照的に、本発明者は、イオンに起因して誘導電荷検出器内に誘導される電荷が、通常、2つ以上の周波数-振幅対(すなわち基本波又は第1高調波及び少なくとも1つのより高次の高調波)によって説明されることを確認した。さらに、本発明者は、イオンの高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)をCDMS及び/又は誘導電荷検出器の設計、例えばジオメトリによって予め決定できることを確認した。換言すれば、時間領域信号中のノイズ成分は、周波数領域スペクトルから対応するノイズ周波数-振幅対を排除することによって時間領域信号から除去される。このように、ノイズが減衰するため、CDMSの検出限界が改善され、及び/又はCDMSのダイナミックレンジが拡大する。特に、一連の周波数-振幅対から特定の周波数-振幅対をノイズとして排除することによってこのノイズが除去されるため、一連の周波数-振幅対の保持された(すなわち排除されずに残っている)周波数-振幅対を用いて計算されるイオンの質量対電荷、電荷及び/又は質量の精度及び/又は分解能を改善することができる。
【0013】
特に、本発明者は、ノイズ、例えばトラッピング電位の印加に起因して且つ/又は誘導電荷検出器、その増幅器及び/若しくは関連する電子機器に生じるような電子ノイズが従来のCDMSの検出限界及び/又はダイナミックレンジを著しく制限すると判断した。適切なノイズ低減がなければ、イオンが誘導電荷検出器を通して移動する際にイオンから誘導される微小な電荷は、ノイズによって無効にされる(すなわちマスクされる、支配される、隠される)可能性があり、したがってCDMSの検出限界及び/又はダイナミックレンジを著しく制限する可能性がある。
【0014】
一般に、イオン又はイオンの集団は、CDMSの通常接地された静電場イオントラップに導入され、静電場イオントラップの電極のセットに印加される電位によってそこにトラップされる。イオン又はイオンの集団は、誘導電荷検出器を介して(すなわち通過して)、静電場イオントラップによって少なくとも部分的に画定されたイオン経路に沿って、例えばイオン経路に沿って振動するか又はその周りで振動しながら移動し、電荷(一般に信号)がそこに誘導されるようにする。誘導された信号のそれぞれの振幅は、イオンの電荷又はイオンの集団のそれぞれの電荷に比例し、それぞれの移動の周期時間は、イオンの質量電荷比m/z又はイオンの集団のそれぞれのイオンの質量電荷比m/zをもたらす。従来のCDMSでは、ノイズ、例えば電子ノイズは、誘導された電荷の測定される振幅を変更し、測定される移動の周期時間を変化させ、且つ/又はイオン若しくはイオンの集団の測定を妨げ、それにより測定精度に悪影響を及ぼし、したがって従来のCDMSの検出限界及び/又はダイナミックレンジを著しく制限する可能性がある。
【0015】
より詳細には、本発明者は、以下のように、好ましくは低減又は除去される少なくとも2つの異なるノイズ源、例えば電子ノイズ源を特定した。
I.トラッピング開始イベント(すなわち時点t0で静電場イオントラップに印加される電位)における電源のセット(すなわち高電圧電源)のスイッチングの立上りエッジに起因して、比較的大きいピックアップパルスが生じる可能性がある。
【0016】
II.電源のセットがその必要な電圧レベルに整定した後の収集時間中、電源のセットから電圧リップル及び/又は電子ノイズが注入される可能性がある。
特に、本発明者は、これらのノイズ源の両方が、例えばCDMSの静電電極間の電場領域からの容量性ピックアップが誘導電荷検出器自体に漏れ、それにより増幅器によって受信されるノイズ信号を誘導することからもたらされることを認識した。すなわち、ノイズ信号は、静電電極のセットの電場の変化の結果として誘導電荷検出器内に誘導される。誘導されたノイズ信号の原因となる変化の例としては、トラッピング開始イベント(すなわち時点t0で静電場イオントラップに印加される電位)における電源のセットのスイッチングの立上りエッジ、収集時間中の電源のセットからの電圧リップル及び/又は電子ノイズ並びにトラッピング終了イベントにおける電源のセットのスイッチングの立下りエッジが挙げられる。
【0017】
加えて及び/又は代わりに、本発明者は、第1態様による方法が、ノイズ源に依存せず(agnostic)、したがって時間変化信号の収集中にイオンが崩壊したときのイオン分解から等、任意のノイズ源から生じるノイズを識別するのに好適であることを認識した。このように、所定のノイズ源から生じるノイズに対する特別な処理を必要とすることなく、第1態様による方法によってノイズの減衰を概して処理することができる。このように、ノイズの減衰は、ノイズを識別する方法が概してノイズ源とは無関係に適用可能であるため、従来の方法と比較して簡略化される。加えて及び/又は代わりに、第1態様による方法は、ノイズを識別する方法が概してノイズ源とは無関係に適用可能であるため、必要とされる計算資源が従来の方法と比較して比較的低い。例えば、第1態様による方法は、以下により詳細に説明するように、リアルタイムで実施することができ、例えばデータ指向型収集(DDA:data directed acquisition)に好適である。
【0018】
ノイズの識別
第1態様は、ノイズを識別する方法を提供する。ノイズ、例えば電子ノイズは、不要な成分(望まれない成分としても知られる)である、時間領域信号中の不要な成分(すなわち偽陽性)を含み、且つ/又はそうした成分であることが理解されるべきである。ノイズは、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷から生じる、時間領域信号中の必要とされる成分(所望の成分としても知られる)(すなわち真陽性)から識別される(すなわち区別される、弁別される)ことが理解されるべきである。したがって、1つの例では、本方法は、時間領域信号中の不要な成分、例えばノイズを、時間領域信号中の、例えばCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷から生じる必要とされる成分から識別する方法を含み、且つ/又はそうした方法である。加えて及び/又は代わりに、1つの例では、本方法は、ノイズを排除する方法を含み、且つ/又はそうした方法である。
【0019】
ノイズの特定
より一般的には、第1態様は、ノイズを特定する方法であって、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、
電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、
時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、
一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対をノイズとして特定することとを含む方法を提供する。
【0020】
このように、一連の周波数-振幅対の特定の周波数-振幅対がノイズとして特定され、それにより例えばノイズの排除及び/又はノイズ源の調査が可能になる。
コンピュータ
本方法は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施される。好適なコンピュータは、既知である。1つの例では、本方法は、オフライン、アットライン、オンライン及び/又はリアルタイムで(すなわちCDMSを使用して、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を収集することに関して)コンピュータによって実施される。例えば、時間領域信号は、CDMSを使用して収集して、記憶装置に記憶し、続けて(すなわちその後)オフラインで本方法を使用して後処理することができる。例えば、時間領域信号は、CDMSを使用して収集して、記憶装置に記憶し、並行して(すなわち同時に)及び/又は続けてアットラインで本方法を使用して処理及び/又は後処理することができる。例えば、時間領域信号は、CDMSを使用して収集して、並行して(すなわち同時に)オンラインで本方法を使用して処理することができる。例えば、時間領域信号は、CDMSを用いて収集し、並行して(すなわち同時に)リアルタイムで(すなわち同じサンプル又は後続のサンプルのCDMSを用いた収集を制御するのに十分な速さで)本方法を用いて処理することができる。
【0021】
時間領域信号
本方法は、電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含む。
【0022】
時間領域信号は、時間変化信号(過渡信号としても知られる)を含み、且つ/又は時間変化信号であることが理解されるべきである。誘導電荷(すなわち誘導電荷検出器内に誘導される電荷)は、それに近接してイオンが存在することによって生じることが理解されるべきである。誘導電荷は、イオンの極性とは反対の極性を有することが理解されるべきである。誘導電荷の大きさは、イオンの電荷に比例することが理解されるべきである。時間領域信号の周波数(周波数成分としても知られる)は、周期的な運動、例えば一定速度でイオン経路の周りを連続的に若しくはイオン経路に沿ったイオン経路の周りの振動又はイオン経路に沿った往復運動等の振動の周波数に等しく、そこからイオンの質量対電荷を計算できることが理解されるべきである。時間領域信号の振幅は、イオンの電荷を表すことが理解されるべきである。ノイズは、時間領域信号の周波数及び/又は振幅に寄与し、したがって、ノイズは、検出限界、ダイナミックレンジ、質量対電荷精度及び/若しくは分解能、電荷精度及び/若しくは分解能並びに/又は質量精度及び/若しくは分解能を低下させることが理解されるべきである。
【0023】
CDMSに好適な誘導電荷検出器は、既知である。
1つの例では、イオンは、単一のイオンを含み、且つ/又は単一のイオンであり、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMS内を移動する単一のイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含む。このように、本方法は、単一のイオンの質量対電荷、電荷及び/又は質量の分析に好適である。
【0024】
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMS内を移動する、上記のイオンを含む複数のイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含み、任意選択的に、複数のイオンは、相互に異なる質量電荷比を有する。換言すれば、複数のイオンは、上記のイオンを含む。このように、本方法は、複数のイオンの質量対電荷、電荷及び/又は質量の分析、例えば複数のイオンのそれぞれの質量対電荷、電荷及び/又は質量の分析に(すなわち個別に)好適である。複数のイオンは、類似の又は異なる(すなわち同じ又は異なる質量対電荷、電荷及び/又は質量を有する)イオンを含み得ることが理解されるべきである。したがって、時間領域信号は、複数のイオンによって誘導されるそれぞれの電荷によって寄与され、それぞれのイオンのそれぞれの質量対電荷、電荷及び/又は質量は、そこから個別に決定できることが理解されるべきである。
【0025】
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMS内を移動するイオンを含むイオンの集団によって誘導電荷検出器内に誘導されるそれぞれの電荷を表す時間領域信号を取得することを含む。このように、本方法は、イオンの集団の質量対電荷、電荷及び/又は質量の分析、例えばイオンの集団のそれぞれの質量対電荷、電荷及び/又は質量の分析に(すなわち個別に)好適である。イオンの集団は、類似の又は異なる(すなわち同じ又は異なる質量対電荷、電荷及び/又は質量を有する)イオンを含み得ることが理解されるべきである。したがって、時間領域信号は、イオンの集団によって誘導されるそれぞれの電荷によって寄与され、それぞれのイオンのそれぞれの質量対電荷、電荷及び/又は質量は、そこから個別に決定できることが理解されるべきである。
【0026】
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、N回誘導電荷検出器を経由して(すなわち通過して及び/又は通して)CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含み、ここで、Nは、1以上の自然数であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500であるか又はそれを超える。一般に、イオンは、少なくとも1回の周回(軌道としても知られる)を通して、好ましくは少なくともN回の周回を通して、CDMSによって画定されるイオン経路の周りを移動し、ここで、Nは、1以上の自然数であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500であるか又はそれを超える。したがって、CDMSは、マルチターン(多重周回)CDMSとして知られている場合がある。一般的に、イオンが移動する周回の数を増加させ、したがって測定時間を長くすることにより、そこから決定される質量の不確かさが低減する。しかしながら、周回数を増加させることにより、分析時間も長くなる一方、残留ガス、他のイオン及び/又はCDMSの壁等との衝突等により、特定のイオンの損失の可能性が高くなる。真空度を例えば最大でも2.7×10-7Pa(2×10-9Torr)に、またはそれよりも改善することにより、残留ガスとの衝突による特定のイオンの損失の可能性を低減させることができ、それにより周回の数を増加させることができる。したがって、イオンが移動する周回の数は、それに応じてバランスをとることができる。
【0027】
好適なCDMSは、第3態様に関してより詳細に説明するように既知である。
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMS内を一方向に及び/又は一定速度で移動するイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含む。このように、本方法は、例えば、第3態様に関してより詳細に説明するように、軌道静電扇形場イオントラップに好適である。例えば、イオンは、一般に、静電扇形場イオントラップの周りを一方向に及び/又は一定速度で軌道を描いて回る。
【0028】
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMS内で調和運動を伴って及び/又は双方向に移動するイオンによって誘導検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することを含む。このように、本方法は、例えば、第3態様に関してより詳細に説明するように、ELIT及び/又はオービトラップ(Orbitrap)に好適である。例えば、イオンは、一般に、軸方向に調和運動を伴ってELIT内で双方向に振動する。例えば、イオンは、一般的に、オービトラップ(Orbitrap)内では、軸方向に単純な調和運動を伴って半径方向及び軸方向に振動する。
【0029】
変換
本方法は、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することを含む。一連の周波数-振幅対は、時間領域信号に存在する周波数を記述することが理解されるべきである。一連の周波数-振幅対は、例えば、時間領域信号に存在する周波数の数に応じて、1つ又は複数の周波数-振幅対を含むことが理解されるべきである。より多くの周波数-振幅対の振幅は、周波数領域スペクトルにおけるピークのピーク面積又はピーク高さを表し得ることが理解されるべきである。
【0030】
1つの例では、一連の周波数-振幅対は、S個の周波数-振幅対(Sは、1以上の自然数である)、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、40000、50000、60000、70000、80000、90000、100000又はそれを超える周波数-振幅対を含む。一般に、周波数-振幅対の数Sは、イオン及び/又はノイズの数とともに増加することが理解されるべきである。
【0031】
1つの例では、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することは、高速フーリエ変換、FFT等のフーリエ変換すなわちFT及び/又は両側ラプラス変換、メリン変換、ラプラス変換、フーリエ級数変換、サイン及び/又はコサイン変換、ハートレ変換、短時間フーリエ変換(又は短期間フーリエ変換)(STFT:short-time Fourier transform又はshort-term Fourier transform)、矩形マスク短時間フーリエ変換、チャープレット変換、分数次フーリエ変換(FRFT:fractional Fourier transform)、ハンケル変換、フーリエ-ブロス-イアゴルニッツァー変換及び/又は線形正準変換等のフーリエ関連変換を用いて、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することを含む。他の適切な変換も既知である。1つの好ましい例では、FTは、FFTを含み、且つ/又はFFTである。このように、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することは、効率的に実行することができ、必要な計算資源が比較的低い。
【0032】
1つの例では、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することは、最大エントロピー法を用いて、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することを含む。好適な最大エントロピー法は、既知である。
【0033】
1つの例では、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することは、上述したように、フーリエ変換すなわちFT及び最大エントロピー法を用いて、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することを含む。
【0034】
時間領域信号の前処理
1つの例では、本方法は、時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換する前に、時間領域信号を前処理することを含み、例えば、時間領域信号を前処理することは、ウインドウ処理(開始又は終了等の特定の時間範囲を除外すること、及び/又はイオンが移動しているとき等の対象となる特定の時間範囲のみを含むこと、及び/又は時間変化信号の収集中にイオンが崩壊したときのイオン分解時等の対象とならない特定の時間範囲を除外することなど)を含む、データクリーニング(不良データ及び/又は欠損データの発見、除去及び/又は置換等)、平滑化(高分散データの排除等)、トレンド除去(トレンドの除去等)、スケーリング又は正規化(境界の変更等)及び/又はフィルタリング(帯域通過フィルタリング、ハイパスフィルタリング及び/又はローパスフィルタリング等)を含む。このように、例えば、時間領域信号のアーチファクトを除去することができる。
【0035】
時間領域の信号の検査
1つの例では、本方法は、例えば、時間領域信号を複数の時間領域信号セグメントに(例えば、連続する時間窓又は移動する時間窓として)細分化することと、複数の時間領域信号セグメントを対応する複数の周波数領域スペクトルに変換することと、複数の周波数領域スペクトルを相互に比較することと、比較の結果に基づいて、対応する時間領域信号セグメントの1つ又は複数を破棄することとにより、時間の関数としての周波数領域スペクトルの整合性について時間領域信号を検査することを含む。このように、例えば、イオン分解を特定し、対応する時間領域信号セグメントの1つ又は複数を廃棄することができる。
【0036】
一連の周波数-振幅対の閾値処理
1つの例では、本方法は、閾値周波数、例えば所定の絶対又は相対閾値周波数(上位30%、20%又は10%等)以上の周波数を有する、一連の周波数-振幅対の1つ又は複数の周波数-振幅対を除去することを含む。このように、例えば、排除するステップの前に、一連の周波数-振幅対から、比較的高い周波数を有する周波数-振幅対を除去し、それにより排除する可能性がある周波数-振幅対の数を減少させる(すなわち計算を減少させる)ことができる。
【0037】
1つの例では、本方法は、閾値周波数、例えば所定の絶対又は相対閾値振幅(下位30%、20%又は10%等)以下の振幅を有する、一連の周波数-振幅対の1つ又は複数の周波数-振幅対を除去することを含む。このように、例えば、排除するステップの前に、一連の周波数-振幅対から、比較的低い振幅を有する周波数-振幅対を除去し、それにより排除する可能性がある周波数-振幅対の数を減少させる(すなわち計算を減少させる)ことができる。
【0038】
排除
本方法は、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含む。特定の周波数-振幅対の高調波は、従来通りに決定され、それぞれの高調波周波数-振幅対は、周波数-振幅対の周波数(典型的には基本波又は第1高調波)の整数倍に等しい(後述するように許容範囲内の)周波数を有することが理解されるべきである。
【0039】
特に、本発明者は、電子ノイズ等のノイズに起因して誘導電荷検出器内に誘導される電荷が、通常、高次高調波を有しない単一の周波数-振幅対(すなわち基本波又は第1高調波)によって説明されることを確認した。対照的に、本発明者は、イオンに起因して誘導電荷検出器内に誘導される電荷が、通常、2つ以上の周波数-振幅対(すなわち基本波又は第1高調波及び少なくとも1つのより高次の高調波)によって説明されることを確認した。さらに、本発明者は、イオンの高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)をCDMS及び/又は誘導電荷検出器の設計、例えばジオメトリによって予め決定できることを確認した。
【0040】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、一連の周波数-振幅対を通して反復することと、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しないそれぞれの特定の周波数-振幅対を排除することとを含む。
【0041】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、所定の周波数許容範囲内において、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含み、例えば、所定の周波数許容範囲は、絶対的(すなわち一定)又は相対的(すなわち周波数に比例)である。このように、特定の周波数-振幅対の高調波周波数に近接するそれぞれの周波数を有する周波数-振幅対を特定することができる。対照的に、特定の周波数-振幅対の高調波周波数に近接する周波数-振幅対が特定されない場合、特定の周波数-振幅を排除することができる。
【0042】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、所定の振幅許容範囲内において、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含み、例えば、所定の振幅許容範囲は、絶対的(すなわち一定)又は相対的(すなわち例えば特定の周波数-振幅対の振幅に比例)である。このように、特定の周波数-振幅対の振幅に対する相対的なそれぞれの振幅を有する周波数-振幅対を特定することができる。対照的に、周波数-振幅対が特定の周波数-振幅対の振幅に対する相対的な振幅を有しない場合、特定の周波数-振幅を排除することができる。特に、本発明者は、高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)の相対的な振幅が、CDMS内を移動するイオンの特徴である可能性があり、それを例えばモデリングによって計算できることを確認した。
【0043】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、一連の周波数-振幅対に所定の高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)を有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含む。特に、本発明者は、イオンの高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)をCDMS及び/又は誘導電荷検出器の設計、例えばジオメトリによって予め決定できることを確認した。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び第2高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波、第2高調波及び第3高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び第3高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び奇数高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び偶数高調波のみを含み得る。
【0044】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対、好ましくは所定の第3及び/又はより高いその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を排除することを含む。
【0045】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対シグネチャを有しない特定の周波数-振幅対を排除することを含む。
【0046】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない特定の周波数-振幅対を排除することは、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有しない1つの特定の周波数-振幅対、すべての特定の周波数-振幅対及び/又は特定の周波数-振幅対のみを排除することを含む。このように、例えば、ノイズから生じるような不要な周波数-振幅対をすべて除くことができる。
【0047】
保持
1つの例では、本方法は、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することを含む。このように、例えば、1つ又は複数のイオンから生じるような必要とされる周波数-振幅対を保持することができる。
【0048】
1つの例では、本方法は、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有するすべての特定の周波数-振幅対を保持することを含む。このように、例えば、1つ又は複数のイオンから生じるようなすべての必要とされる周波数-振幅対を保持することができる。
【0049】
加えて及び/又は代わりに、第1態様は、ノイズを識別する方法を提供し、本方法は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実施され、
電荷検出質量分析計すなわちCDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することと、
時間領域信号を、一連の周波数-振幅対を含む周波数領域スペクトルに変換することと、
一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する1つの特定の周波数-振幅対、すべての特定の周波数-振幅対及び/又は特定の周波数-振幅対のみを保持することとを含む。
【0050】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することは、所定の周波数許容範囲内において、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することを含み、例えば、所定の周波数許容範囲は、絶対的(すなわち一定)又は相対的(すなわち周波数に比例)である。このように、特定の周波数-振幅対の高調波周波数に近接するその周波数を有する周波数-振幅対を特定及び保持することができる。対照的に、特定の周波数-振幅対の高調波周波数に近接する周波数-振幅対が特定されない場合、特定の周波数-振幅を排除することができる。
【0051】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することは、所定の振幅許容範囲内において、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することを含み、例えば、所定の振幅許容範囲は、絶対的(すなわち一定)又は相対的(すなわち例えば特定の周波数-振幅対の振幅に比例)である。このように、特定の周波数-振幅対の振幅に対する相対的なその振幅を有する周波数-振幅対を特定することができる。対照的に、周波数-振幅対が特定の周波数-振幅対の振幅に対する相対的な振幅を有しない場合、特定の周波数-振幅を排除することができる。特に、本発明者は、高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)の相対的な振幅が、CDMS内を移動するイオンの特徴である可能性があり、それを例えばモデリングによって計算できることを確認した。
【0052】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することは、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその所定の高調波周波数-振幅対、好ましくは所定の第2高調波周波数-振幅対のみを有する特定の周波数-振幅対を保持することを含む。
【0053】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することは、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対に所定の高調波周波数-振幅対シグネチャを有する特定の周波数-振幅対を保持することを含む。
【0054】
1つの例では、一連の周波数-振幅対のうち、一連の周波数-振幅対にその高調波周波数-振幅対を有する特定の周波数-振幅対を保持することは、一連の周波数-振幅対に所定の高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)を有する特定の周波数-振幅対を保持することを含む。特に、本発明者は、イオンの高調波シグネチャ(すなわち周波数領域スペクトルに含まれる特定の高調波周波数-振幅対)をCDMS及び/又は誘導電荷検出器の設計、例えばジオメトリによって予め決定できることを確認した。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び第2高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波、第2高調波及び第3高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び第3高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び奇数高調波のみを含み得る。例えば、高調波シグネチャは、基本波又は第1高調波及び偶数高調波のみを含み得る。
【0055】
計算
1つの例では、本方法は、保持された周波数-振幅対の周波数を使用して、且つ任意選択的にそれぞれの高調波周波数-振幅対の周波数を使用して、イオンの質量電荷比を計算することを含む。
【0056】
1つの例では、本方法は、保持された周波数-振幅対の振幅を使用して、且つ任意選択的にそれぞれの高調波周波数-振幅対の振幅を使用して、イオンの電荷を計算することを含む。
【0057】
1つの例では、本方法は、イオンの計算された質量電荷比及びイオンの計算された電荷を使用して、イオンの質量を計算することを含む。
収集
1つの例では、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を取得することは、CDMSを使用して、CDMS内を移動するイオンによって誘導電荷検出器内に誘導される電荷を表す時間領域信号を収集することを含む。
【0058】
制御
1つの例では、本方法は、イオンの計算された質量電荷比及び/又はイオンの電荷を使用して、例えばリアルタイムでCDMSを制御することを含む。
【0059】
コンピュータ、コンピュータプログラム、非一時的コンピュータ可読記憶媒体
第2態様は、第1態様による方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータ;プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、コンピュータに、第1態様による方法を行わせる命令を含むコンピュータプログラム;並びに/又はプロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって実行されると、コンピュータに、第1態様による方法を行わせる命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0060】
CDMS
第3態様は、電荷検出質量分析計すなわちCDMSであって、
第1静電電極及び第2静電電極を含む静電電極のセットと、誘導電荷検出器とを含む静電場イオントラップであって、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される静電場イオントラップと、
第1態様による方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータとを含むCDMSを提供する。
【0061】
1つの例では、CDMSは、概して、国際公開第2022/049388A1号及び/又は国際公開第2022/214815A1号に記載されている通りであり、それらの主題は、参照により本明細書に援用される。
【0062】
静電場イオントラップ
CDMSは、第1静電電極及び第2静電電極を含む静電電極のセットを含む静電場イオントラップを含む。後述するように、静電場イオントラップは、例えば、静電扇形場イオントラップ及び/若しくは静電線形場イオントラップを含み、且つ/又は静電扇形場イオントラップ及び/若しくは静電線形場イオントラップであり得る。静電電極のセットは、第1静電電極及び第2静電電極(すなわち複数の静電電極)を含むことが理解されるべきである。1つの例では、静電電極のセットは、E個の静電電極を含み、Eは、2以上の自然数、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500であるか又はそれを超える。1つの例では、第1静電電極は、2つ以上の静電電極、例えば後述するように静電扇形電極の内側電極及び外側電極又はコーントラップ電極又はセグメント化電極等、反射又はミラー電極の積層体を含む。第2静電電極は、必要な変更を加えて第1静電電極に関して説明した通りであり得る。
【0063】
静電扇形場イオントラップ
1つの例では、静電場イオントラップは、静電扇形(セクタ;sector)場イオントラップを含み、且つ/又は静電扇形場イオントラップであり、例えば、第1静電電極は、第1静電扇形電極を含み、且つ/又は第1静電扇形電極であり、第2静電電極は、第2静電扇形電極を含み、且つ/又は第2静電扇形電極である。1つの例では、1つの円筒形、トロイダル又は球形の静電セクタにおいて、第1静電扇形電極は、内側電極であり、第2静電扇形電極は、外側電極であるか、又は第2静電扇形電極は、内側電極であり、第1静電扇形電極は、外側電極である。静電扇形場イオントラップは、周期的構造であり、閉じたイオン経路(軌道としても知られる)を少なくとも部分的に画定し、それにより、イオンは、その閉じたイオン経路の周りを繰り返し、例えば整数又は非整数の周回数で移動する(振動することとしても知られる)ことができることが理解されるべきである。一般に、イオンは、イオン経路の周りを少なくとも1周回、好ましくは少なくともN回の周回を通して移動し、ここで、Nは、1以上の自然数であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500であるか又はそれを超える。したがって、静電扇形場イオントラップは、マルチターン(マルチパスとしても知られる)静電扇形場イオントラップとして知られている場合があり、さらに、CDMSは、マルチターンCDMSとして知られている場合がある。概して、イオンが移動する周回の数を増加させ、したがって測定時間を長くすることにより、そのために決定される質量の不確かさが低減する。しかしながら、周回の数を増加させることにより、分析時間も長くなる一方、残留ガス、他のイオン及び/又はCDMSの壁等との衝突等により、特定のイオンの損失の可能性が高くなる。真空度を例えば最大でも2.7×10-7Pa(2×10-9Torr)に、またはそれよりも改善することにより、残留ガスとの衝突による特定のイオンの損失の可能性を低減させることができ、それにより周回の数を増加させることができる。したがって、イオンが移動する周回の数は、それに応じてバランスをとることができる。イオン経路の周りを移動するイオンの基本周波数f(及び/又はその高調波)は、質量電荷比m/zに依存し、誘導電荷検出器を使用して、後述するように測定される。静電扇形場イオントラップが一次に対して等時性である場合、質量の不確かさは、例えば、参考文献[3](非特許文献3)のELITと比較して、より詳細に後述するように低減する。
【0064】
静電扇形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成されることが理解されるべきである。すなわち、使用時、静電扇形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定する。少なくとも部分的とすることにより、イオン経路が静電扇形場イオントラップによって完全に画定され得るか、又は代わりに静電扇形場イオントラップによって部分的に画定され、1つ又は複数のイオン光学素子、例えばレンズ及び/又は磁石によって部分的に画定され得ることが理解されるべきである。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を画定する(すなわち全体的に画定する)ように構成される。イオン経路は、仮定的な完全イオンのイオン光軸であり、イオン光軸は、平面を画定する弓形の閉じた線であることが理解されるべきである。対照的に、エネルギー拡散は、イオン集団の角度及び空間偏差とともに、イオン経路がイオン光軸の周りで体積的に掃引するように、それぞれのイオン軌道がイオン光軸から平面内外に逸脱することを意味する。イオン経路のそれに直交する断面、例えばその形状及び/又は寸法は、イオン経路の周りで変化する可能性があることが理解されるべきである。特に、より詳細に後述するように、イオンは、イオン経路の周りで例えば交互に点焦点及び平行焦点となるようにされ得る一方、球形静電セクタは、例えば、少なくとも部分的に球形イオン経路を生じさせ得る。加えて及び/又は代わりに、イオン経路は、イオンビームとして説明及び/又は定義され得る。
【0065】
イオンは、イオンの瞬間的な運動方向が絶えず変化するにもかかわらず、軌道方向が一定であるという点で、イオン経路の周りを一定の向きで移動すると理解され、これは、便宜上、一方向と呼ばれ得る。対照的に、イオンは、非特許文献2及び非特許文献3のELIT等のELITでは、交互に反対の向きで前後に移動し、これは、便宜上、双方向又は往復運動と呼ぶことができ、それにより反対方向に移動するイオン間の相互の相互作用がもたらされ、それは、その中に複数のイオンを導入することを妨げる。より詳細には、典型的には、サンプルの不均質性に応じて、質量スペクトルを生成するために数千のイオンが測定される。非特許文献3の連続(又はランダム)トラッピングモードによれば、ELITがゼロ個のイオン、1つのイオン又は2つ以上のイオンを含む確率は、実現することができる単一イオンELITトラッピングイベントの最大数がちょうど37%(すなわち37%のデューティサイクル)であるようにポアソン分布によって与えられる。100msの長さのトラッピング期間について、単一イオントラッピングイベントの最適な割合は、ELITについて毎時約13,300個の単一イオンイベントの最大値に等しく、それにより、均質なサンプルのスペクトルは、最適な条件下において(すなわち信号が安定しており、単一イオントラッピングイベントの数が実現することができる最大値に近いとき)半時間未満で収集することができる。対照的に、静電扇形場イオントラップによって少なくとも部分的に画定される単方向の閉じたイオン経路を使用して、例えば詳細に後述するように複数のイオンのそれぞれの質量を同時に決定することができ、それによりELITと比較して収集時間が短縮される。特に、先に考察したように、静電扇形場イオントラップの空間電荷容量は、反射ベースのイオントラップと比較して増加し、単方向イオン経路は、複数のイオン間の相互の相互作用を低減させるか又は排除するため、イオンは、ミラーセクション内で周回するに従って低速まで減速しなければならない。さらに、所与のイオン経路長に対して、イオン経路の有効平均断面積、したがってその体積は、例えば、静電扇形場イオントラップに対するイオン経路により、概してイオンがイオン光軸に対して横方向に、例えば弧状に、扇状に広がることが可能になるため、静電扇形場イオントラップについてはELITについてよりも大きくなる。したがって、静電扇形場イオントラップは、イオンの運動エネルギーが比較的一定である一方、比較的多くのイオン、例えばELITと比較して1桁以上多くのイオンで満たすことができる。さらに、非特許文献2及び非特許文献3のELITの双方向又は往復イオン経路は、例えば、2つ以上のイオンがトラップされる場合、その荷電管内で重複信号が誘導され、それにより質量決定が妨げられる。対照的に、単方向イオン経路は、2つ以上のイオンによって誘導電荷検出器に重複信号が誘導される可能性が低減することを意味する。一般に、部分的に重複する誘導信号は、周波数領域で分離することができるが、例えば位相コヒーレントイオン、追い越しイオン又は反対方向に移動するイオンに起因して、完全に重複する誘導信号は、質量決定を妨げる可能性があることが理解されるべきである。したがって、位相コヒーレントイオンを回避するために、イオンパケット又は雲(クラウド)を避けることが好ましい一方、単方向経路は、反対方向に移動することを排除する。特に、より詳細に後述するように、複数のイオンは、相互に空間的及び/又は時間的に分離されるように導入することができ、それにより誘導電荷検出器で重複信号が誘導される可能性を低減させるか又はなくす。したがって、静電扇形場イオントラップ内のイオンの数をさらにちょうど10までも増加させることにより、且つデューティサイクルが37%のみに制限されないため、ELITに関して代わりに同じ質量スペクトルを1分未満で収集することができる。
【0066】
一般に、分析器の入口と出口との間のイオンの伝達のイオン光学的な記述は、伝達行列として又はレイトレーシングを介して表され得る。曲線座標系(x,y,z)は、光軸上にその原点を有し、zが光軸に沿うように定義され得る。等しい質量のイオンに対して、そのような伝達行列は、時間が関心事項である場合、
【0067】
【0068】
として表され得、式中、X及びAは、それぞれz軸に対する特定のイオンの位置(典型的には横方向偏差x、yに分解される)及び傾斜角(典型的には角度偏差α、βに分解される)を記述し、δK=(K/K0-1)及びδT=(T/T0-1)は、それぞれ相対エネルギー及び時間偏差であり、インデックスi及びi+1は、それぞれ入口及び出口におけるこれらの量を示す。K及びK0は、それぞれ参照イオン及び特定イオンのエネルギーであり、T及びT0は、それぞれ参照イオン及び特定イオンが分析器に入るか又は分析器から出る時間である。(X│X)及び(A│A)は、倍率項を表し、(X│A)及び(A│X)は、収束項を表す。これらの項をそれぞれゼロに等しくすることにより、平行から点、点から平行、点から点及び平行から平行のイオン光学系が提供される。(X│δK)、(A│δK)及び(δT│δK)は、エネルギー偏差に対する分散項を表す。代わりに、伝達行列は、例えば、横方向偏差x、y、角度偏差α、β及び/又は質量偏差γに関して表され得る。
【0069】
対象となる用途について、イオンは、比較的低いエネルギーを有する低強度源(すなわち低エネルギーイオン)から生じるが、比較的大きいエネルギー拡散δKを有する。
同じ質量電荷比m/zを有するが、異なるエネルギーを有するイオンは、(δT│δK)=0の場合、同時に分析器を通して移動する。こうした分析器は、エネルギー等時性である。1つの例では、│(δT│δK)│≦0.1であり、好ましくは│(δT│δK)│≦0.05であり、より好ましくは│(δT│δK)│≦0.01である。すなわち、分析器は、準エネルギー等時性であり得、それによりジオメトリの公差を緩和しながら比較的多数の周回が依然として可能になる。(δT│X)、(δT│A)、(X│δK)及び/又は(A│δK)の範囲は、同様に定義され得る。
【0070】
焦点面は、角度分布を有する光軸から送られたイオンが分析器を通過した後に焦点に導かれる位置であることが理解されるべきである。一次元xでは、これは、収差理論表記で(x│a)=0として数学的に表される。分析器は、焦点面で(x│a)=(y│b)=0である場合、無収差的に挙動する(すなわち無収差である)。
【0071】
より一般的に、同じ質量電荷比m/zを有するが、異なるエネルギー及び入口で異なる傾斜角を有するイオンは、(X│A)=(A│X)=(A│δK)=0の場合、エネルギー及び入口傾斜角とは無関係に出口を通して移動する。こうした分析器は、無収差及び無彩色収束であり、軌道は、鏡面対称である。1つの例では、│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)│≦0.1であり、好ましくは│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)│≦0.05であり、より好ましくは│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)│≦0.01である。すなわち、分析器は、準無収差及び/又は準無彩色であり得、それによりジオメトリの公差を緩和しながら比較的多数の周回が依然として可能になる。
【0072】
一般に、無彩色系は、横座標の伝達行列要素が運動量に依存しないものである。概して、等時性系は、系を通る軌道の通過時間が初期座標に依存しないものである。一次無彩色系も、純粋な運動量依存性を除いて等時性であることがよく知られている。逆も真である。この結果は、より高次に拡張される。色項がすべて特定の次数まで消滅する系では、通過時間が同じ次数までの横座標から独立するように条件を見出すことができる。同じ条件下では、逆も真である。
【0073】
しかしながら、(X│A)=(A│X)=0の空間収束要件は、各周回について特定のイオンに対して同一のイオン軌道を必要とする。対象となる用途について、空間収束要件は、特定のイオンが位相空間で安定的に移動することのみを仮定することによって緩和することができ、したがって、
-2≦(X│X)+(A│A)≦2
であることが必要である。
【0074】
このように、特定のイオンは、異なる周回中に異なる軌道上を移動する可能性がある。この緩和により、例えば、設計自由度を増加させ、且つ/又は構造誤差を許容することができ、代わりに及び/又は加えて、例えばイオン注入から生じる空間偏差及び/又は角度偏差に適応することができる。
【0075】
逆に、完全な空間的及び時間的収束により、周回数が増加するに従って特定のイオンを周回毎に同じ位置に且つ同じ傾斜角で戻すことにより、イオンビーム発散及び質量分解能劣化がなくなる。こうした完全な空間的及び時間的収束を有するTOF MS分析器ジオメトリが提案されており(マルタム(MULTUM)、マルタムII(MULTUM II)及び平面的な8の字)、そのいくつかは、[15]を参照してより詳細に後述するように構築され、この文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0076】
1つの例では、静電扇形場イオントラップは、第1静電セクタ及び第2静電セクタを含む静電セクタのセットを含む。第1静電セクタ及び第2静電セクタは、例えば、イオン経路が横断する無場領域(ドリフト空間としても知られる)によって相互に離隔されることが理解されるべきである。誘導電荷検出器は、無場領域に配置されることが理解されるべきである。誘導電荷検出器は、電場内に配置することができるが、電源からのノイズの直接容量結合は、検出を制限する。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、第1静電セクタ及び第2静電セクタを含む静電セクタのセットと、Q個の四重極レンズを含む電気四重極レンズのセットとを含み、ここで、Qは、1以上の自然数であり、例えば、Qは、静電セクタの数の4倍又は6倍である。一般に、四重極レンズは、1つの座標方向に合焦し、相互に直交する座標方向にデフォーカスする。したがって、単一の四重極レンズを使用して、例えばイオンビームをある点に収束させること又は2次元イメージを生成することはできない。しかしながら、2つの四重極レンズ(ダブレット)及び3つの四重極レンズ(トリプレット)等の四重極レンズの組合せを用いて2次元収束を行い得る。例えば、静電セクタの入口及び出口にそれぞれ対応して、2つの四重極レンズダブレットを配置し得る。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、電気四重極レンズ及び/又はRF電気レンズのセットを含まず、それにより複雑さが低減する。静電セクタは、半径方向に相互に間隔をおいて配置される、2つの相互に直交する次元に対応する曲率半径を有する2つの対応する電極を含み、対応する対向するDC電位がそこに印加され、それによりそこを通るイオン光軸を画定するトロイダル電場が提供され、イオン光軸(すなわち中心軌道)上の電位は、好ましくは、無場領域、例えば接地における電位と同じであることが理解されるべきである。静電扇形場イオントラップは、それに電気的に連結された電源、例えばDC電源のセットを含むことが理解されるべきである。
【0077】
加えて及び/又は代わりに、静電扇形場イオントラップは、第1セル及び第2セルを含むセル(ユニット又は要素としても知られる)のセットによって画定され得、第1セルは、ドリフト空間のセットと、第1静電セクタを含む静電セクタのセットと、任意選択的に四重極レンズのセットとを含む。第2セルは、第1セルに関して説明した通りであり得ることが理解されるべきである。セルの対称ジオメトリは、より容易に理解されるが、原理は、非対称形状セルまで及ぶ。4つのセルによって画定される静電扇形場イオントラップは、参考文献[15]のマルタム(MULTUM)及びマルタムII(MULTUM II)等、2つのセルの二重対称ジオメトリであると見なすことができる。参考文献[15]の平面的な8の字のジオメトリは、一見すると、2つのセルによって画定されるように見えるが、完全な収束は、2周回後に達成され、したがって、この平面的な8の字のジオメトリは、4つのセルによっても画定される。
【0078】
1つの例では、第1静電セクタは、円筒形、トロイダル若しくは球形の静電セクタを含み、且つ/又はそうした静電セクタである。円筒形静電セクタは、1つの次元のみに事実上単一の曲率半径を有する(相互に直交する次元における第2曲率半径は無限である)最も単純なジオメトリを提供するが、その直交次元、例えばy方向にイオンを閉じ込めず、したがって概して前記y方向(曲線座標)に電場を閉じ込めることを必要とする。円筒形静電セクタは、概して、電気四重極レンズとともに使用される。マルタム(MULTUM)及び参考文献[15]の平面的な8の字のジオメトリは、それぞれ4つ及び2つの円筒形静電セクタを含み、その各々がともに8つの電気四重極レンズを有する。トロイダル静電セクタは、2つの相互に直交する次元に2つの異なる曲率半径を有し、その比は、有効化のために定義しなければならず、電気四重極レンズが必要とされなくてもよいように両方の次元にイオンを閉じ込めることができる。トロイダル静電セクタは、2つの異なる曲率半径を有するため、その構造は、比較的複雑である。参考文献[15]のマルタムII(MULTUM II)及び参考文献[16]の偏菱形のジオメトリは、それぞれ4つのトロイダル静電セクタを含み、電気四重極レンズを必要としない。球形静電セクタは、トロイダル静電セクタの特別な場合であり、同じ2つの曲率半径を有し、電気四重極レンズが必要とされなくてもよいように両方の次元にイオンを閉じ込めることができる。参考文献[4]の8の字のジオメトリは、2つの球形静電セクタを含み、電気四重極レンズを必要としない。したがって、セルを球形静電セクタに基づくものとすることにより、円筒形静電セクタ又はトロイダルセクタに基づくセルと比較してイオン光学部品の数を減少させることができる。
【0079】
1つの例では、第1静電セクタは、45.0°超、好ましくは少なくとも60.0°、例えば60.0°超~270.0°の範囲、好ましくは90.0°~240.0°の範囲の偏向角ψ0を有する。1つの例では、第2静電セクタは、第1静電セクタに関して説明した通りであり、例えば同じ又は異なる偏向角ψ0を有する。1つの例では、静電セクタのセットの各静電セクタは、同じ偏向角ψ0を有する。このように、複雑さが低減し、及び/又は対称性が増加する。1つの例では、静電セクタのセットの交互の静電セクタは、同じそれぞれの偏向角ψ0を有する。
【0080】
1つの例では、静電セクタのセットは、360.0°超、好ましくは少なくとも390.0°、例えば360.0°超~720.0°の範囲、好ましくは390.0°~660.0°の範囲の総偏向角ψ0を有する。すなわち、イオン経路は、クロスオーバ(crossover)を含む。
【0081】
1つの例では、静電セクタのセットは、8つの45°トロイダル静電セクタのリングを含まないか又はそれらから構成されない。
1つの例では、第1静電セクタと第2静電セクタとは、例えば、直接、斜めに及び/又は直径方向に相互に対向しており、イオン経路及び/又はイオン光軸は、第1静電セクタの出口と第2静電セクタの入口との間で直線的である。1つの例では、第1静電セクタの出口と第2静電セクタの入口との間のイオン経路及び/又はイオン光軸は、無場領域にある。すなわち、第1静電セクタの出口と第2静電セクタの入口との間のイオン経路及び/又はイオン光軸は、例えば、四重極レンズを含まない。
【0082】
1つの例では、静電セクタのセットは、第1静電セクタ及び第2静電セクタのみを含み、好ましくは、第1静電セクタ及び第2静電セクタは、公称199.2°、例えば198.2°~200.2°の範囲内、好ましくは198.7°~199.7°の範囲内、より好ましくは199.0°~199.4°の範囲内、例えば199.2°の偏向角ψ0を有する、半径rの球形静電セクタであり、静電扇形場イオントラップは、公称5.9r(例えば、2%以内、好ましくは1%以内)の長さgrの4つの無場領域を含み、それにより参考文献[4]による3次元の8の字のジオメトリを提供する。
【0083】
1つの例では、静電扇形場イオントラップは、第1無場領域及び第2無場領域を含む無場領域(ドリフト領域としても知られる)のセットを含む。1つの例では、無場領域のセットを通るイオン経路の長さは、イオン経路の全長の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも65%である。このように、誘導充電器検出器は、イオン経路の約50%に沿って延在するように無場領域のセットに配置することができ、それにより測定デューティサイクルが増加する。
【0084】
1つの例では、第1静電セクタは、第1静電セクタに起因する場の境界を画定するように配置された第1シャントを含むシャントのセットを含む。このように、第1静電セクタに起因する端縁場を制御することができ、且つ/又は第1静電セクタに起因する電場から誘導電荷検出器を遮蔽させることができる。例えば、シャントは、誘導電荷検出器に結合されたノイズを数桁まで減衰させることができる。例えば、第1静電セクタに電気的に連結された100Vの電源は、1mV未満のRMSノイズを示し得る。シャントを使用することにより、このノイズは、約1μVのRMSまで減衰させることができ、したがって、典型的には0.6μV/電荷の感度を有する好適な電荷有感型増幅器と適合性があり得る。
【0085】
1つの例では、静電扇形場イオントラップ(すなわちその挙動)は、上記で考察したように、例えば1周回後及び/又は整数周回後、例えばエネルギーに関して一次に対して等時性である(すなわちエネルギー等時性)。このように、非特許文献3のELIT等のELITと比較して、質量電荷比m/zの不確かさが低減する。そうした静電扇形場イオントラップの例示的なジオメトリは、参考文献[4]の8の字、参考文献[15]のマルタム(MULTUM)、マルタムII(MULTUM II)及び平面的な8の字並びに参考文献[16]の偏菱形を含む。他のジオメトリも既知である。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、エネルギーに関して一次に対して等時性であり、二次に対する残差、例えば二次に対する放物線残差を有する。このように、イオンのエネルギー分散ΔEが小さいことによる質量電荷比m/zの不確かさがさらに低減する。二次空間収差により、軌道を描いて回る間のイオンの歳差運動がもたらされ、これは、例えば、円筒形静電セクタ及び/又はトロイダル静電セクタに基づく静電扇形場イオントラップにおける歳差運動から生じるイオン損失を防止するように、制約電場を使用して制御され得るか、又は例えば球形静電セクタに基づく静電扇形場イオントラップを可能にし得る。
【0086】
1つの例では、静電扇形場イオントラップは、少なくとも部分的に2つ又は3つの相互に直交する次元でイオン経路を画定するように構成される。例えば、静電扇形場イオントラップは、少なくとも部分的にx、z次元等の2つの相互に直交する次元でイオン経路を画定するように構成され得、イオン光軸が平面を画定する平面静電扇形場イオントラップと称され得る。位置、傾斜角及び/又はエネルギーの偏差により、イオンがイオン光軸から逸脱して、イオンビームを、例えば位相空間においてそれを横断する分布によって表し得ることが理解されるべきである。平面静電扇形場イオントラップの例には、参考文献[15]のマルタム(MULTUM)、マルタムII(MULTUM II)及び平面的な8の字並びに参考文献[16]の偏菱形が含まれる。そうした平面静電扇形場イオントラップの構造は、簡略化することができ、必要に応じて、四重極レンズを含む円筒形、トロイダル及び/又は球形の静電セクタに基づき得る。
【0087】
1つの例では、静電扇形場イオントラップによって画定されるイオン経路は、クロスオーバ又は点焦点、例えば参考文献[15]のマルタム(MULTUM)、マルタムII(MULTUM II)及び平面的な8の字並びに参考文献[4]の8の字を含む。このように、静電扇形場イオントラップは、エネルギーに関して等時性であり得るが、イオン経路の長さは、例えば、リングと比較して、静電扇形場イオントラップの所与の外周又は面積に対して増加した。
【0088】
静電線形場イオントラップ
1つの例では、静電場イオントラップは、静電線形場イオントラップ(ELIT)としても知られている静電線形場イオントラップを含み、且つ/又は静電線形場イオントラップであり、例えばその主題が参照により本明細書に援用される[2]、[3]、[17]及び[18]に記載されているように、第1静電電極は、第1反射又はミラー電極を含み、且つ/又は第1反射又はミラー電極であり、第2静電電極は、第2反射又はミラー電極を含み、且つ/又は第2反射又はミラー電極である。ELITは、既知であり、典型的にはコーントラップ又はセグメント化電極等、相互に対向する反射又はミラー電極の対を含む。2012年、コンティノ(Contino)及びジャロルド(Jarrold)[1](非特許文献1)は、単一のイオンについての検出限界が30電気素量である電荷検出質量分析計(文脈から明らかであるCDMS、CDMS分析器としても知られる)を発表した。このCDMSは、デュアル半球偏向型分析器(HDA)に連結されたエレクトロスプレー源、それに続く鏡像電荷検出器を組み込んだコーントラップを含んでいた。イオンは、トラップに入る前にデュアルHDAによってエネルギー選択された。トラップされたイオンの基本振動周波数は、高速フーリエ変換(FFT)によって抽出された。振動周波数及び運動エネルギーは、トラップされたイオンの質量電荷比m/zを与えた。基本周波数におけるFFTの大きさは、電荷に比例した。特に、このCDMSは、単一のイオンについての30電気素量の検出限界を達成するように、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限し、それにより振動周波数の変動を減少させるエネルギーフィルタとしてデュアルHDAの使用を必要とした。しかしながら、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限することにより、CDMSのスループットが低下した。より低ノイズの電子機器により、2015年までに、キーファ(Keifer)、シンホルト(Shinholt)及びジャロルド(Jarrold)[2](非特許文献2)は、真の質量の決定に十分である、整数レベルよりも良好な改善された電荷精度を実証することになった。
【0089】
2018年、ホーガン(Hogan)及びジャロルド(Jarrold)[3](非特許文献3)は、その以前のCDMSのコーントラップよりもイオンエネルギーに関する振動周期への依存性が低い、セグメント化された静電線形イオントラップ(ELIT)を採用した。このCDMSは、デュアルHDAエネルギーフィルタの使用も必要としたが、イオンエネルギー拡散及び半径方向位置による振動周波数への有意な依存性が残っていた。特に、このCDMSについて、イオン振動周波数の運動エネルギー依存性は、1桁だけ減少し、これにより質量電荷比m/zの比決定の不確かさの1桁の減少をもたらしたはずである。しかしながら、イオン振動周波数の軌道依存性に起因して、4倍の改善のみが達成された。
【0090】
静電線形場イオントラップは、周期的構造であり、閉じたイオン経路を少なくとも部分的に画定し、それにより、イオンは、その閉じたイオン経路に沿って繰り返し、例えば整数又は非整数の周回数で移動する(往復運動する又は振動することとしても知られる)ことができることが理解されるべきである。一般に、イオンは、イオン経路に沿って少なくとも1パス、好ましくは少なくともN回のパスを通して移動し、ここで、Nは、1以上の自然数であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500であるか又はそれを超える。したがって、静電線形場イオントラップは、マルチパス)静電線形場イオントラップとして知られている場合があり、さらに、CDMSは、マルチパスCDMSとして知られている場合がある。概して、イオンが移動するパスの数を増加させ、したがって測定時間を長くすることにより、そのために決定される質量の不確かさが低減する。しかしながら、パスの数を増加させることにより、分析時間も長くなる一方、残留ガス、他のイオン及び/又はCDMSの壁等との衝突等により、特定のイオンの損失の可能性が高くなる。真空度を例えば最大でも2.7×10-7Pa(2×10-9Torr)に、またはそれよりも改善することにより、残留ガスとの衝突による特定のイオンの損失の可能性を低減させることができ、それによりパスの数を増加させることができる。したがって、イオンが移動するパスの数は、それに応じてバランスをとることができる。イオン経路に沿って移動するイオンの基本周波数f(及び/又はその高調波)は、質量電荷比m/zに依存し、誘導電荷検出器を使用して、後述するように測定される。
【0091】
静電線形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成されることが理解されるべきである。すなわち、使用時、静電線形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定する。少なくとも部分的とすることにより、イオン経路が静電線形場イオントラップによって完全に画定され得るか、又は代わりに静電線形場イオントラップによって部分的に画定され、1つ又は複数のイオン光学素子、例えばレンズ及び/又は磁石によって部分的に画定され得ることが理解されるべきである。1つの例では、静電線形場イオントラップは、誘導電荷検出器を介したイオン経路を画定する(すなわち全体的に画定する)ように構成される。イオン経路のそれに直交する断面、例えばその形状及び/又は寸法は、イオン経路に沿って変化する可能性があることが理解されるべきである。加えて及び/又は代わりに、イオン経路は、イオンビームとして説明及び/又は定義され得る。
【0092】
イオンは、非特許文献2及び非特許文献3のELIT等のELITのイオン経路に沿って交互に反対の向きで前後に移動し、これは、便宜上、双方向又は往復運動と呼ぶことができ、それにより反対方向に移動するイオン間の相互の相互作用がもたらされ、それは、その中に複数のイオンを導入することを妨げることが理解されるべきである。
【0093】
湾曲トラップ
1つの例では、静電場イオントラップは、例えば米国特許出願公開第2022/0246414号明細書に記載されているように、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)によって販売されているオービトラップ(Orbitrap)質量分析計で利用されているタイプの湾曲トラップ(俗に「c-トラップ」と称される)を含み、且つ/又はそうした湾曲トラップである。湾曲トラップは、イオン出口に向かって凹状に湾曲した、略平行なロッド電極のセットから構成される。イオン蓄積部内のイオンの半径方向の閉じ込めは、ロッド電極の対向する対に対して、指定された位相関係で振動電圧を印加することによって達成することができ、軸方向の閉じ込めは、ロッド電極の軸方向外側に位置決めされたエンドレンズに静電圧を印加することによって実施することができる。
【0094】
誘導電荷検出器
CDMSは、誘導電荷検出器を含み、静電場イオントラップは、誘導電荷検出器を介した(すなわちそれを通した)イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。換言すれば、誘導電荷検出器は、イオン経路を少なくとも部分的に包囲するか又は取り囲む。
【0095】
一般に、イオンは、誘導電荷検出器を通して移動するときに電荷を誘導し、この電荷は、信号を出力する電荷有感型増幅器によって検出される。誘導電荷検出器は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータに通信可能に連結合可能な又は連結された電荷有感型増幅器及び任意選択的にデジタイザを含むことが理解されるべきである。イオンの質量は、例えば、フーリエ変換(FT)又は高速フーリエ変換(FFT)を使用するフーリエ解析、最小二乗法、フィルタ対角化法(FDM:Filter Diagonalization Method)及び/又は最大尤度法等によって信号を使用して決定することができる。1つの例では、信号は、分析のために増幅及び/若しくはデジタル化され得る時間領域信号を含み、且つ/又はそのような時間領域信号である。FFTを使用することにより、例えば時間領域でノイズよりも上昇しない電荷の検出が可能になり、LODが7e(電気素量)未満まで低下する。質量電荷比m/zは、関係:
【0096】
【0097】
により、基本周波数fの二乗に反比例し、
式中、Cは、イオンエネルギーと、静電扇形場イオントラップの次元との関数である定数である。典型的には、Cは、イオン軌道シミュレーションから又は既知の種を使用するデバイスの較正(校正)によって決定される。イオンの電荷zは、(イオンサイクルの数又はトラッピング時間が考慮されるとき)FFTの大きさに比例する。したがって、イオンの質量電荷比m/z及び電荷zを決定することにより、イオンの質量mは、乗算によって自明に計算され得る。
【0098】
1つの例では、誘導電荷検出器は、第1電荷検出器管を含む電荷検出器管の第1セットを含む。例えば、電荷検出器管は、無場領域の1つ又は複数、例えば無場領域のすべてに配置され得る。例えば、電荷検出器管の第1セットは、複数の電荷検出器管を含むセグメント化電荷検出器管を含み、且つ/又はそうしたセグメント化電荷検出器管であり得る。1つの例では、誘導電荷検出器は、電荷検出器管の第1セットを含む電荷検出器管のC個のセットを含み、ここで、Cは、1以上の自然数であり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であるか又はそれを超え、例えば、Cは、無場領域の数に等しい。このように、誘導電荷検出のデューティサイクルを増加させることができる。1つの例では、電荷検出器管の第1セットは、セグメント化電荷検出器管、例えば軸方向及び/若しくは半径方向にセグメント化された電荷検出器管を含み、且つ/又はそうした電荷検出器管である。セグメントが直列又はタンデムであるように電荷検出器管を軸方向にセグメント化することにより、セグメントの各々において、それを通して移動するイオンによって信号を連続的に誘導することができる。例えば、後述するように、セグメントの長さを、その幅の約2倍を超えて増大させることにより、誘導信号の大きさを実質的に増大させないが、複数のセグメント、したがって誘導信号は、測定統計を改善する。セグメントが平行であるように電荷検出器管を半径方向にセグメント化することにより、z次元(曲線座標)で実質的に一致するが、x及び/又はy次元で相互に分離される2つのイオンは、異なる半径方向セグメントで信号を誘導することができ、それにより、本来、2つのイオンが電荷検出管を通してともに移動することに起因する信号重複の可能性が低減する。このように、CDMSのイオン容量を増加させることができる。1つの例では、誘導電荷検出器の内部断面、例えば形状は、それを通るイオン経路の断面、例えば形状に対応し、例えば類似している。例えば、円筒形のボアを有する電荷検出器管は、略円筒形のイオン経路に好適であるが、第1電荷検出器管は、例えば、電気四重極レンズに入り、及び/若しくはそこから出る円錐台形のイオン経路に対応してテーパ状ボアを有するか、又は球形の静電セクタに入り、及び/若しくはそこから出るイオン経路に対して環状部若しくはテーパ状環状部を提供するように適合され得る。1つの例では、第1電荷検出器管は、外側電極及び内側電極を含み、それによりそこを通してイオン経路のための環状部又はテーパ状環状部を提供し、任意選択的に、それらの間に1つ又は複数の支持体を含み、その支持体は、例えば、それとのイオン衝突の可能性を低減させるように配置され、且つ/又はそのように構成された断面を有する。
【0099】
1つの例では、長さL及び幅Wを有する第1電荷検出器管は、3:2~8:2の範囲、好ましくは3:2~5:2の範囲内、例えば2:1の長さL対幅Wの比及び/又は少なくとも2:1である長さL対幅Wの比を有する。特に、誘導信号の大きさは、第1電荷検出器管をその幅に対してさらに長くすることによって実質的に増加しない。
【0100】
1つの例では、誘導電荷検出器を介したイオン経路の一部は、静電扇形場イオントラップによって画定されるイオン経路の30%~70%の範囲、好ましくは40%~60%の範囲、例えば50%である。このように、例えば、FTによって分析されるようなイオンの時間領域信号における信号処理アーチファクト等のアーチファクトが低減する。特に、誘導電荷検出器を介したイオン経路の部分が、静電扇形場イオントラップによって画定されるイオン経路の約50%である場合、FTによって時間領域信号を分析するときの偶数次高調波を低減させるか又はなくすことができる。理想的な50%デューティサイクル方形波は、そのFFTに偶数次高調波を有さず、高調波が少ないほど、基本ピークの大きさが大きくなる。基本ピークの大きさは、イオンの電荷に比例するため、大きさが増大することにより、基本ピークの信号対ノイズ比を増加させることによって電荷の不確かさを減少させることができる。
【0101】
1つの例では、CDMSは、イオン経路を、少なくとも部分的に、例えばイオン経路を横切る第1次元において制約するように配置されている、第1静電焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを含む。換言すれば、イオン経路は、例えば、一軸方向に圧縮することができる。1つの例では、静電焦点レンズのセットは、イオン経路を、少なくとも部分的に、例えばイオン経路を横切る第2次元において制約するように配置され、第1次元と第2次元とは、相互に直交している。換言すれば、イオン経路は、例えば、二軸方向に圧縮することができる。このように、静電焦点レンズのセットに起因して生じる空間収差(存在する場合)が有意でない一方、CDMSの構造を単純化することができる。加えて及び/又は代わりに、イオン経路を制約することによってイオン経路の断面積が低減するため、誘導電荷検出器の内部寸法、例えば内径を低減させることができ、それによりその立上り時間が改善される。1つの例では、第1次元は、誘導電荷検出器を介したイオン経路の方向に直交する。1つの例では、第1焦点レンズは、例えば、イオン経路のクロスオーバを横切って配置された円柱レンズ、アインツェルレンズ及び/若しくはプレートレンズを含み、且つ/又はそうしたレンズである。このように、ジオメトリを簡略化しながら、クロスオーバに関する対称性を維持することができる。例えば、アインツェルレンズは、少なくとも回転対称性を維持することができる。1つの例では、静電焦点レンズのセットは、イオン経路を、少なくとも部分的に、例えばイオン経路を横切る第2次元において制約するように配置され、第1次元と第2次元とは、相互に直交している。第1焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットは、例えば、RF場及び/又は磁場ではなく、イオン経路を少なくとも部分的に第1次元において制約するように配置されることが理解されるべきである。
【0102】
1つの例では、誘導電荷検出器を介したイオン経路の断面は、弓形であり、-3°~+3°の範囲、好ましくは-2°~+2°の範囲、より好ましくは-1°~+1°の範囲の中心角を有する。このように、イオンビームは、比較的狭いアークに閉じ込められ、それによりイオン経路の断面積が減少するため、誘導電荷検出器の内部寸法、例えば内径を低減させることができ、それによりその立上り時間が改善される。
【0103】
1つの例では、誘導電荷検出器は、接地電位で動作するように構成される。このように、そのノイズレベルが低減し、非常に低い誘導信号の検出が可能になる。
コントローラ
CDMSは、画定されたイオン経路内を移動するイオン集団(単一のイオン又は複数のイオン)のそれぞれの質量を、それぞれの信号の周波数及び大きさを使用して決定するように構成される、例えばプロセッサ及びメモリを含むコンピュータを含むコントローラを含み、それぞれの信号は、誘導電荷検出器内のイオン集団によって誘導される。特定のイオンは、誘導電荷検出器に入ると、小さい測定可能な電圧を誘導し(すなわち誘導信号)、その振幅は、その電荷に比例する。測定精度を向上させるために、この誘導信号は、増幅器によって増幅される。測定された振動の周期時間から特定のイオンの質量電荷比m/zが得られ、この2つの測定値の積が特定のイオンの真の質量を与える。イオントラップ内の多くの振動を許容し、結果として得られる信号をフーリエ変換(FT)で解析することにより、電荷測定と質量電荷比測定との両方の精度が向上する。
【0104】
電源のセット
CDMSは、静電場イオントラップに電気的に連結され、時点t0で静電場イオントラップに電位を印加するように構成される、第1電源を含む電源セットを含む。電源のセットの電源は、高電圧(HV:high voltage)電源であることが理解されるべきである。好適な電源は、既知である。
【0105】
1つの例では、電源のセットは、第1静電電極及び第2静電電極、例えば静電セクタのセットの内側電極及び外側電極にそれぞれ電気的に連結され、時点t0において、それらに電位及び相互に反転した(すなわち反対又は逆位相の)電位をそれぞれ印加するように構成された第1電源及び第2電源を含む。典型的には、静電セクタの内側電極及び外側電極に印加される電位は、相互に反対であるが、大きさが(例えば、95%以内で)類似しているが、必ずしも等しいとは限らない。
【0106】
1つの例では、CDMSは、第1焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを含み、電源のセットは、静電焦点レンズ、例えば第1焦点レンズのセットに電気的に連結された第3電源を含む。
【0107】
増幅器
CDMSは、誘導電荷検出器に電気的に連結され、それにより受信された信号を増幅するように構成された増幅器を含む。増幅器は、信号を受信する入力と、そこから増幅された信号を出力する出力とを有することが理解されるべきである。好適な増幅器は、既知である。
【0108】
イオン導入
1つの例では、CDMSは、イオン経路にイオンを導入するための手段を含む。1つの例では、イオンの導入は、無場領域を介したものであり、例えば[14]に記載されているような偏向電極を使用する等、x方向及び/又はy方向(曲線座標)のイオン変位を切り替えることによる。1つの例では、イオンの導入は、静電扇形場イオントラップを介したものであり、例えば[13]に記載されているように、第1静電セクタ、例えば第1静電セクタのみを切り替えるか、又は静電セクタのセット、例えば静電セクタの2つ以上又はすべてを、必要な変更を加えて切り替えることによる。第1静電セクタのみを切り替え、それにより残りの静電セクタをそれらのそれぞれの動作電位で動作させることにより、導入された第1イオンが第1静電セクタに近接するように到達するまでイオン経路を充填するように、イオン経路にイオンを連続的に導入することができ、導入された第1イオンが第1静電セクタに近接するように到達すると、第1静電セクタは、そのそれぞれの動作電位に戻されるように切り替えられる。例えば、8の字のジオメトリの場合、イオンは、8の字の上部の約3/4を充填するように導入され得る。逆に、静電セクタのセットのすべての静電セクタを切り替えることにより、必要な電源数が減少する一方、制御が簡略化する。1つの例では、静電扇形場イオントラップ、例えば第1静電セクタは、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口を含む。1つの例では、イオン入口は、第1静電セクタの外側電極を通る通路を含み、且つ/又はそうした通路である。
【0109】
エネルギーフィルタ
1つの例では、CDMSは、静電扇形場イオントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限するためのエネルギーフィルタ、例えば前述したようなデュアルHDAを含まない。非特許文献2及び非特許文献3のコーントラップ及びELITとは対照的に、静電扇形場イオントラップCDMSは、イオンエネルギー拡散並びに/又は半径方向及び/若しくは角度位置のイオンに対する偏差に対して比較的広い許容差を有する一方、この比較的広い許容差の外側のイオン、例えば高エネルギー又は軸外のイオンは、不安定であり、したがって他のイオンの質量決定に悪影響を及ぼすことなく静電扇形場イオントラップの壁と急速に衝突する。1つの例では、CDMSは、0.40%超、好ましくは少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%、最も好ましくは少なくとも2%、3%又は4%のエネルギーアクセプタンスを有する。1つの例では、CDMSは、最大で20%、好ましくは最大で15%、より好ましくは最大で10%のエネルギーアクセプタンスを有する。
【0110】
リフトデバイス
1つの例では、CDMSは、イオン経路に導入されるイオンのイオンエネルギーを増加させるように構成されたリフトデバイスを含む。1つの例では、リフトデバイスは、イオン経路に導入されるイオンをトラップするように構成される。このように、イオンは、静電扇形場イオントラップ内に、例えばその中に導入された複数のイオンを相互に空間的及び/又は時間的に分離するように導入するためにゲート制御され得、それにより、複数のイオンは、概して、その周りで同時に相互に空間的及び/又は時間的に分離して移動することができる。1つの例では、リフトデバイスは、イオン経路に導入されるイオンをコリメートするように構成され、それにより相互に空間的に分離されたイオンのペンシルを提供する。1つの例では、リフトデバイスは、複数P個のイオン(すなわちイオンの集団)を導入するように構成され、ここで、Pは、1よりも大きい自然数、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100又はそれを超えるイオンであり、好ましくは、Pは、少なくとも4であり、より好ましくは、Pは、少なくとも10、10、20、50、100又はそれを超えるイオンである。Pは、導入されたイオンの平均数であり、イオンの数は、典型的には、ポアソン分布を有し、イオンは、相互に空間的にランダムに分離され、それによりイオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散的な初期位置を採用し、すなわち相互に空間的及び/又は時間的に分離され、それにより、複数のイオンは、概して、相互に空間的及び/又は時間的にその周りで同時に分離されて移動することが理解されるべきである。高い強度限界では、磁気セクタの場合のように、イオンビームは、ビームに沿った直線距離当たりで多くのイオンを含む。スケールの他端では、イオンは、ポアソン分布に従って個々に注入される(ただし、空間電荷の考慮事項を除いて、イオンは、その挙動において依然としてビームである)。1つの例では、リフトデバイスは、イオンをイオン経路内にパルスで送ることによってイオンをイオン経路内に導入するように構成される。より一般的には、1つの例では、CDMSは、イオンをイオン経路に導入する手段を含み、この手段は、概して、リフトデバイスに関して説明した通りであるが、任意選択的にイオンエネルギーを増加させる。1つの例では、イオンをイオン経路に導入する手段は、複数P個のイオン(すなわち集団)をイオン経路に導入する手段を含み、ここで、Pは、1よりも大きい自然数であり、複数のイオンは、それぞれイオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散的な初期位置を採用し、それにより、複数のイオンは、概して、相互に空間的及び/又は時間的にその周りで同時に分離されて移動する。すなわち、イオン、例えば複数のイオンは、典型的には、四重極分析器、飛行時間型分析器等の従来の質量対電荷分析器又は3次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、線形四重極イオントラップ若しくはオービトラップ(Orbitrap)等のイオントラップ分析器等に導入するために収束されるように、空間的及び/又は時間的に収束されない。換言すれば、イオンを収束させる努力は行われない。むしろ、無秩序なイオン集団は、例えば、ガスセル内のイオンを熱化することによって提供されるようにイオン経路に導入され、これは、収束することなくイオンのエネルギー分布を低減させる。イオン経路内に導入される前に、これらのイオンがトラップされ、及び/又は(例えば、リフトデバイスを使用して)イオンのそれぞれのエネルギーが増加する場合、イオンは、イオン経路への導入時、空間的及び/又は時間的にイオンの無秩序及び/又は非相関を実質的に維持する電位勾配を印加することにより、イオン経路内に導入され得る。
【0111】
イオン源
1つの例では、CDMSは、イオン源、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI:electrospray ionisation)源又はナノスプレーイオン化源等の大気圧イオン化(API:atmospheric pressure ionisation)源を含む。他のイオン源も既知である。
【0112】
磁石
1つの例では、CDMSは、磁気偏向器又はセクタを含まない。すなわち、CDMSは、静電電極及び/又はセクタのみ、任意選択的に本明細書に記載するような電気四重極レンズ及び/又は電気レンズを含み得る。
【0113】
イオン処理
1つの例では、CDMSは、イオン処理のための静電扇形場イオントラップの上流及び/又は下流の1つ又は複数のデバイスを含み、イオン処理とは、例えば、試薬イオン又はプリカーサイオンとともにトラップされた試薬イオン等、外部から注入された粒子を使用したイオンの活性化、(例えば、外部から注入された)電子との相互作用、好ましくは(例えば、高速電子を含むエネルギー荷電粒子を使用する)電子脱離、プロトン付着又は電荷低減プロセスによるイオンの質量電荷比の操作、基底状態又は励起状態にあるイオンと(例えば、外部から注入された)中性分子との間の相互作用、光子との相互作用、補助AC波形又はRFトラッピング波形のデューティサイクル変動を使用するイオン運動の励起、AC波形又はデューティサイクル制御を使用するイオン単離、衝突活性化解離、イオン蓄積及び伝達である。処理は、同時に又は連続的に実行される上記機能の1つ又は複数を伴い得る。
【0114】
真空システム
1つの例では、CDMSは、例えば、静電扇形場イオントラップ及び誘導電荷検出器を内部に収容するチャンバと、真空ポンプと、コントローラとを含む真空システムを含む。1つの例では、チャンバは、例えば、最大で1.3×10-6Pa(1×10-8Torr)、好ましくは最大で6.7×10-7Pa(5×10-9Torr)、より好ましくは最大で2.7×10-7Pa(2×10-9Torr)又はそれより良好な真空を有する差動ポンプ式チャンバである。
【0115】
質量分析計
1つの例では、CDMSは、スタンドアロンCDMSを含み、且つ/又はスタンドアロンCDMSである。逆に、1つの例では、CDMSは、質量分析計に含まれ、例えばその中に一体的に(すなわち最初から)含まれるか、又はアップグレード若しくはレトロフィットとして含まれる。
【0116】
フラグメント化デバイス
1つの例では、CDMSは、フラグメント化デバイスを含む。フラグメント化デバイス。
【0117】
タンデム質量分析は、選択されたプリカーサイオンに対する構造情報及び増加した特異性(選択性としても知られる)をもたらす十分に確立された技法である。一般に、目標(すなわち選択された)質量電荷比m/zを有するイオン(すなわちプリカーサイオン)が単離され、続いてフラグメント化されて、フルスペクトルモードでイオンの構造に関する情報をもたらす。三重四重極(タンデム四重極としても知られる)実験では、標的フラグメントイオンがモニタリングされて、実験の特異性を増大させ、標的分子に関する高度に定量的な情報が得られる。タンデム質量分析実験は、四重極、イオントラップ、飛行時間、FTICR、磁気セクタ及びオービトラップ(Orbitrap)(RTM)機器を含む種々の質量分析計の組合せを使用して行われる。これらの実験のすべてについて、所望の単離ステップを行うために、選択されたプリカーサイオンの質量電荷比m/z(したがって質量)の知識が必要とされる。非常に高い質量のイオンの特定の場合、プリカーサイオンのみの質量電荷比m/zのエレクトロスプレーイオン化知識を利用することは、選択されたイオンの真の質量を決定するには不十分であり、なぜなら、このイオン化技法は、上述したように、分子質量が増加するに従って多くの異なる電荷状態をもたらすためである。したがって、続いて、フラグメント化して構造的及び/又は定量的情報を得るために、標的質量の高分子量種を選択することができる必要がある。本明細書に記載するように、CDMSは、これらの非常に大きいエレクトロスプレー生成されたイオンの質量を測定するための証明された技法である。ベナー(Benner)によって最初に記載されたコーントラップジオメトリ[17]とともにELIT[18]も利用するCDMS機器を使用して、フラグメント化研究が行われてきた。これらの研究では、コーントラップ及びELIT内でそれぞれ光フラグメント化が起こる。しかしながら、この手法は、生成された光フラグメント(すなわちプロダクトイオン)間のイオン運動エネルギーの共有をもたらし、それによりこれらの光フラグメントのいくつかがトラップ内で不安定になり(したがってこれらの光フラグメントの損失がもたらされ)、トラップ自体の最適な設計エネルギーからの逸脱に起因して、残りの光フラグメントの質量分解能が低下する。さらに、この手法は、これらのCDMSが単一のイオンの質量の決定に本質的に限定されているにもかかわらず、光フラグメント化される1つ又は複数のプリカーサイオンの選択を可能にしない。
【0118】
対照的に、フラグメント化デバイスを含むCDMSにより、プロダクトイオン(一般にプロダクトイオン、すなわち1つ又は複数のプロダクトイオン又は複数のプロダクトイオン)がイオン経路に再導入されて、イオンの混合物(すなわち異なる質量を有するイオンの混合物)のそれぞれの質量の決定、静電扇形場イオントラップデバイスの内部又は外部のフラグメント化のための単一の選択された種(すなわち単一のプリカーサイオン又は同じ質量を有する複数のプリカーサイオン)の単離が可能になり、それによりプロダクトイオンの全質量範囲にわたる真のタンデム質量分析実験が提供される。
【0119】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、フラグメント化技法、すなわち衝突誘起解離(CID:Collisional Induced Dissociation)、光に基づく光フラグメント化(ランプ又はレーザベース、UV、可視又は赤外線)、電子捕獲解離(ECD:Electron Capture Dissociation)、電子移動解離(ETD:Electron Transfer Dissociation)、電子誘起解離(EID:Electron Induced Dissociation)、表面誘起解離(SID:Surface Induced Dissociation)、共鳴誘起解離の1つ若しくは複数を含むRFイオントラップを含み、且つ/又はそうしたRFイオントラップである。他のフラグメント化技術も既知である。1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、プリカーサイオン及び/又はそのプロダクトイオンをトラップするための1つ又は複数の領域を含むことにより、プリカーサイオン及び/又はそのプロダクトイオンをトラップするように構成される。このように、プリカーサイオンは、(イオン経路から直接的又は間接的に)導入し、例えば第1領域内でトラップし、続いて、例えば第2領域にそこでのフラグメント化のために電位勾配を印加することによって移動させることができ、その後、プロダクトイオンは、同様に第1領域又は第3領域に戻され、任意選択的に、その中のそれぞれのエネルギーは、イオン経路に移動する前に増加する。
【0120】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、プロダクトイオンを所定の電位差で加速させることにより、イオン経路内に導入されるプロダクトイオンのイオンエネルギーを増加させる(より一般的には制御する)ように構成される。このように、プロダクトイオンのイオンエネルギーは、静電扇形場トラップの設計、例えば最適条件に対応するように制御することができ、それにより前述したように光フラグメント化を含む従来のCDMSの欠点を克服する。
【0121】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、バッファガスとの衝突冷却によってプロダクトイオンを熱化し、プロダクトイオンを質量決定のために静電扇形場トラップへの所望の運動エネルギーまで加速する(すなわちプロダクトイオンのイオンエネルギーを増加させる)ように構成される。
【0122】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に援用される米国特許第5847386号明細書に記載されているような例えば四重極、六重極又は八重極等の多極線形イオントラップであるRFイオントラップを含み、且つ/又はそうしたRFイオントラップである。1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に援用される米国特許第5206506号明細書に記載されているような積層電極デバイスを含み、且つ/又はそうした積層電極デバイスである。1つの例では、フラグメント化デバイスは、3D四重極イオントラップを含み、且つ/又は3D四重極イオントラップである。1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に援用される米国特許第7312442号明細書、米国特許第7755034号明細書、米国特許第6995366号明細書、欧州特許第1706890号明細書又は国際公開第2017/134436号に記載されているような線形イオントラップを含み、且つ/又はそうした線形イオントラップである。
【0123】
内部フラグメント化デバイス
1つの例では、静電扇形場イオントラップは、フラグメント化デバイスを介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される(フラグメント化デバイス及び誘導電荷検出器がイオン経路に沿って直列であるような誘導電荷検出器を介した場合と比較)。すなわち、フラグメント化デバイスは、イオン経路がフラグメント化デバイスを通過するように、例えば静電セクタのセットの第1静電セクタと第2静電セクタとの間にある。換言すれば、フラグメント化デバイスは、イオン経路がフラグメント化デバイスを通して連続的であるように、静電扇形場イオントラップに対して内部又はインラインにあるものとして説明され得る。すなわち、イオンがフラグメント化デバイスに入り、イオンがそこから出ることは、それぞれイオン経路から直接出ること及びイオン経路に直接入ることである。例えば、1つ又は複数のプリカーサイオンのそれぞれの質量は、例えば、第1態様に関して説明したように、フラグメント化デバイスが停止されている(すなわち1つ又は複数のプリカーサイオンがフラグメント化されずにイオン経路を通して移動することができるように第1状態で構成される)間に決定される。その後、フラグメント化デバイスが起動され(すなわち1つ又は複数のプリカーサイオンをフラグメント化するように第2状態に構成され)、その後、1つ又は複数のプリカーサイオンは、イオン経路がフラグメント化デバイスを通るため、イオン経路を通して移動したとき、その中でそれぞれのプロダクトイオンにフラグメント化される。その後、フラグメント化デバイスは、停止され、例えば第1態様に関して記載したように1つ又は複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量が決定される。1つの例では、フラグメント化デバイスは、後述するように、フラグメント化デバイスに入ったときにプリカーサイオンをトラップし、プリカーサイオンをフラグメント化し、それによりそこから複数のプロダクトイオンを提供し、任意選択的に、後述するように複数のプロダクトイオンをトラップし、複数のプロダクトイオンのそれぞれのイオンエネルギーを増加させるように構成され、その後、増加したそれぞれのイオンエネルギーを有する複数のプロダクトイオンは、複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するためにフラグメント化デバイスを出る。すなわち、プリカーサイオンは、トラップされ、フラグメント化され、結果として生じるプロダクトイオンのイオンエネルギーは、プロダクトイオンのそれぞれの質量をインラインで決定するために増加する。
【0124】
外部フラグメント化デバイス
1つの例では、CDMSは、イオン経路からフラグメント化デバイスにイオンを排出する手段を含む。すなわち、フラグメント化デバイスは、イオン経路がフラグメント化デバイスを通過しないように、静電扇形場イオントラップの外側にある。換言すれば、フラグメント化デバイスは、静電扇形場イオントラップに対して外部又はオフラインであるものとして説明され得る。すなわち、イオンがフラグメント化デバイスに入り、イオンがそこから出ることは、それぞれイオン経路から間接的に出ること及びイオン経路に間接的に入ることである。例えば、1つ又は複数のプリカーサイオンのそれぞれの質量は、例えば、第1態様に関して説明したように決定される。イオン経路は、フラグメント化デバイスを介さないため、フラグメント化デバイスは、起動停止又は起動することができる。続いて、プリカーサイオンは、イオン経路から、起動される(すなわち1つ又は複数のプリカーサイオンをフラグメント化するように第2状態に構成された)フラグメント化デバイスに排出され、その後、1つ又は複数のプリカーサイオンは、その中でそれぞれのプロダクトイオンにフラグメント化される。その後、プロダクトイオンがフラグメント化デバイスからイオン経路に注入され(すなわち導入され)、例えば第1態様に関して説明したように1つ又は複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量が決定される。1つの例では、イオンを排出する手段は、プリカーサをイオン経路からフラグメント化デバイスに排出するように構成され、フラグメント化デバイスは、後述するように、排出されたプリカーサイオンを、それがフラグメント化デバイスに入ったときにトラップし、プリカーサイオンをフラグメント化し、それによりそこから複数のプロダクトイオンを提供し、任意選択的に、後述するように複数のプロダクトイオンをトラップし、複数のプロダクトイオンのそれぞれのイオンエネルギーを増加させ、複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するために、増加したそれぞれのイオンエネルギーを有する複数のプロダクトイオンをイオン経路に注入(すなわち導入)するように構成される。すなわち、プリカーサイオンが排出され、プリカーサイオンがトラップされ、フラグメント化され、結果として生じるプロダクトイオンのイオンエネルギーがオフラインで増加し、プロダクトイオンがプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するためにイオン経路内に注入される。1つの例では、イオンをイオン経路からフラグメント化デバイスに排出する手段は、1つ若しくは複数の偏向電極及び/又は例えば後述するように直交Y方向に印加される偏向/収束場を含み、且つ/又はそうした電極及び/又は場である。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、排出されるイオンがイオン経路から出るためのイオン出口を含む。イオン出口は、イオン入口に関して説明した通りであり得る。1つの例では、イオン入口は、イオン出口を提供し、すなわち結合されたイオン入口/出口を提供する。
【0125】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、例えば、プリカーサイオンを静電扇形場イオントラップに導入することに関して説明したように、プロダクトイオンをイオン経路にパルスで送ることによってプロダクトイオンをイオン経路に導入するように構成される。このように、プロダクトイオンは、空間的に分離されたイオンのペンシルとして静電扇形場イオントラップに入り、それによりその質量決定を改善する。
【0126】
1つの例では、フラグメント化デバイスは、前述したように、イオン経路に導入されるイオンのイオンエネルギーを増加させるように構成されたリフトデバイスと組み合わされる。すなわち、フラグメント化デバイス及びリフトデバイスは、単一のデバイスとして組み合わされ得、その機能は、独立して又は依存して行われ得、例えばプリカーサイオンについてフラグメント化なしでリフトのみで行われ得るか、又はプロダクトイオンについてフラグメント化及びリフトありで行われ得る。
【0127】
イオン単離光学デバイス
1つの例では、CDMSは、フラグメント化デバイスによるフラグメント化のためにプリカーサイオンを単離するように構成されたイオン単離光学素子を含む。このように、例えば、空間的に分離されたプリカーサイオンのペンシル等の複数のプリカーサイオンのうち、CDMSによって決定された質量又は質量対電荷m/zを有する特定のプリカーサイオンは、その特定のプリカーサイオンについて構造情報を得ることができるように、フラグメント化デバイスによるフラグメント化のために選択され、それにより前述したように光フラグメント化を含む従来のCDMSの欠点を克服する。1つの例では、イオン単離光学素子は、フラグメント化デバイスによるフラグメント化のために、プリカーサイオン種(すなわち特定の質量又は特定の質量対電荷m/zを有する単一のプリカーサイオン又は複数のプリカーサイオン)を単離するように構成される。1つの例では、イオン単離光学素子は、単離すべきプリカーサイオン以外のイオンの損失を引き起こすことにより、例えばこれらの他のイオンをイオン単離光学素子及び/又は静電扇形場トラップ内で不安定にすることにより、プリカーサイオンを単離するように構成される。
【0128】
1つの例では、イオン単離光学素子は、四重極レンズ、アインツェルレンズ、偏向板を含み、且つ/若しくはそうしたものであり、及び/又は静電扇形場イオントラップによって提供されるか、又はそれらの組合せである。1つの例では、四重極レンズは、収束電圧、発散及び/又は偏向電圧を使用して、単離すべきプリカーサイオンを選択的に収束させ、単離すべきプリカーサイオン以外のイオンを選択的に発散させ、且つ/又は単離すべきプリカーサイオン若しくは単離すべきプリカーサイオン以外のイオンをそれぞれ選択的に偏向させることにより、プリカーサイオンを単離するように構成される。1つの例では、アインツェルレンズは、収束電圧を使用して、単離すべきプリカーサイオンを選択的に収束させることにより、プリカーサイオンを単離するように構成される。1つの例では、偏向板は、単離すべきプリカーサイオンを選択的に偏向させるか、又は単離すべきプリカーサイオン以外のイオンを選択的に偏向させるように構成される。1つの例では、静電扇形場イオントラップは、プリカーサイオンを、その質量対電荷m/zに従ってそれに印加される振動電圧によって単離して、プリカーサイオン以外のイオンがその中で不安定であるように選択されるように構成される。このように、質量対電荷m/z又はその高調波をすべて有する単一のプリカーサイオン又は複数のプリカーサイオンがそれぞれ単離される。1つの例では、イオン単離光学素子は、例えば、参照により全体が本明細書に援用される[19]でベレンチコフ(Verenchikov)によって記載されているように、静電扇形場イオントラップ内のプリカーサイオンの振動周波数、例えばその高調波に従い、その質量対電荷m/zに従って電界を印加することによってプリカーサイオンを単離するように構成される。より詳細には、ベレンチコフ(Verenchikov)[19]は、イオンが等時性オープントラップに通される、共鳴質量分析計と称するデバイスを提案した。オープントラップとは、イオンがトラップ内で第1方向に多数の振動を受けることを意味する。デバイスは、2次元電場を利用してこれらの2つの次元でイオンをトラップする一方、イオンは、すべて第3次元に進んで、デバイスから破壊検出器に出ることができる。イオン経路が閉じられないため、オープントラップという用語である。異なる質量電荷比m/zのn個のイオンのセットは、固有の振動周波数{f1,f2,…,fn}を有し、各周波数は、分析器を通る等時性通過時間の逆数である。選択された周波数Fの高周波偏向場を印加することにより、その周波数Fの高次の高調波を有するイオンのみがオープントラップを通過して検出器に到達することが可能になる(すなわち選択される)。すなわち、一意の周波数fiを有するイオンは、以下の条件:
F=N×fi 又は F=(N+0.5)×fi
を満たさなければならず、式中、Nは、整数であり、fiは、選択されたイオンの振動の周波数である。
【0129】
ベレンチコフ(Verenchikov)の特許は、イオンが電子増倍管(EMT:Electron Multiplier)又はマイクロチャネルプレート(MCP:Micro Channel Plate)等の破壊検出器によって検出される前に、イオンがデバイスを通して直交方向に進行する際に調整されることを可能にするために、オープントラップに必要な実質的に2次元の場を利用する。対照的に、第1態様及び第3態様によるCDMSは、閉じたトラップであり、特に誘導検出を伴う閉じた3次元イオントラップである。イオンは、静電扇形場トラップの無場領域に配置された偏向場によって調整することができ、[19]と同じ原理で固有の種(すなわちプリカーサイオン)の選択を可能にする。単離後、選択された種は、前述したように、フラグメント化デバイスにおける続くフラグメント化のために静電扇形場トラップの外に出すことができる。結果として得られたフラグメント又はプロダクトイオンの集団は、次いで、タンデム質量分析のために静電扇形場トラップに戻して再加速することができる。第1態様に関して説明したように、静電扇形場イオントラップは、比較的高い空間電荷容量を有し、歪みのないフラグメント集団の正確な同時質量決定を可能にする。
【0130】
MSn
1つの例では、CDMSは、さらなる構造解明のために第n世代プロダクトイオンを繰り返し単離及びフラグメント化することによってイオンのMSn実験を実行するように構成される。
【0131】
リアルタイム
1つの例では、質量の決定は、リアルタイムフーリエ変換処理を含む。このように、単離のために必要な共振周波数の早期標示を信号の検査から決定することができ、単離をより迅速に行うことができる。選択された種を効率的に単離することにより、実験サイクル時間を加速することができ、したがってCDMSチャンバ内の残留ガス分子との衝突に起因する所望の種の損失の可能性が低減する。
【0132】
定義
本明細書に記載する実施形態例の少なくともいくつかは、部分的又は全体的に専用ハードウェアを使用して構築することができる。本明細書で用いる「コンピュータ」、「コンポーネント」、「モジュール」又は「ユニット」という用語は、限定されないが、いくつかのタスクを実行するか又は関連する機能を提供する、個別又は集積コンポーネントの形態の回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)又は特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアデバイスを含み得る。いくつかの実施形態では、記載した要素は、有形で恒久的なアドレス指定可能な記憶媒体に存在するように構成され得、1つ又は複数のプロセッサ上で実行するように構成され得る。これらの機能的要素は、いくつかの実施形態では、例としてソフトウェアコンポーネント、オブジェクト指向ソフトウェアコンポーネント、クラスコンポーネント及びタスクコンポーネント、プロセス、関数、属性、プロシージャ、サブルーチン、プログラムコードのセグメント、ドライバ、ファームウェア、マイクロコード、回路、データ、データベース、データ構造、テーブル、アレイ及び変数などのコンポーネントを含み得る。実施形態例について、本明細書で考察したコンピュータ、コンポーネント、モジュール及びユニットに関して説明したが、こうした機能的要素は、組み合わせてより少ない要素にするか又は追加の要素に分離され得る。本明細書では、任意の特徴の様々な組合せについて説明したが、記載した特徴は、任意の適切な組合せで組み合わされ得ることが理解されるであろう。特に、任意の実施形態例の特徴は、適宜、そうした組合せが相互に排他的である場合を除き、他の任意の実施形態の特徴と組み合わせることが可能である。本明細書を通して、用語「含んでいる」又は「含む」という用語は、指定された構成要素を含むが、他の構成要素の存在を排除するものではないことを意味する。
【0133】
本発明がよりよく理解されるように、且つその例示的な実施形態をどのように実施することができるかを示すために、単なる例として添付の概略図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【
図1A】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図1B】
図1Aの例示的な実施形態によるCDMSに基づく、例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図2A】トロイダル扇形場を採用する従来の静電扇形場を概略的に示す。
【
図2B】トロイダル扇形場を採用する従来の静電扇形場を概略的に示す。
【
図3】端縁場を制御するためにシャントをさらに含む、例示的な実施形態の静電扇形場イオントラップを概略的に示す。
【
図4A】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図4B】CDMSについてのイオン軌道の軌跡の上方、側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図5A】軸方向(z)の次元にイオンを閉じ込めるために原点にレンズを含む、例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図5B】CDMSについてのイオン軌道の軌跡の上方、側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図5C】CDMSのためのイオンのSIMIONシミュレーションの斜視図である。
【
図5D】より詳細なCDMSの軸方向断面図である。
【
図5E】より詳細なCDMSの一部の破断斜視CAD画像である。
【
図5F】より詳細なCDMSの一部の分解斜視CAD画像である。
【
図5G】より詳細なCDMSの軸方向断面図である。
【
図6】従来のCDMSと比較した、
図5A~
図5CのCDMSについての理想からのイオンエネルギー偏差(%)の関数としての周波数の変化(%)のグラフである。
【
図7】例示的な実施形態によるCDMSについて、フーリエ変換におけるより高い高調波の強度を高めるための比較的狭い電荷検出管の利点を概略的に示す。
【
図8】例示的な実施形態によるCDMSについて、1分析器パス当たりの過渡信号の数を増加させるためのセグメント化された電荷検出管を概略的に示す。
【
図9】リフトデバイスを含む、例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図10】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図11】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図12】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図13】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図14】例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図15】例示的な実施形態による方法を概略的に示す。
【
図16】例示的な実施形態による共鳴質量分離器を概略的に示す。
【
図17A】原点にイオン分離光学素子を含む例示的な実施形態によるCDMSの、軸方向(z)の次元にイオンを閉じ込めるためにそのレンズに電圧を印加したときのイオン軌道の軌跡の側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図17B】レンズに分離電圧を印加したときのイオン軌道の軌跡の側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図17C】軸方向(z)の次元にイオンをさらに閉じ込めるためにレンズに後続して電圧を印加したときのイオン軌道の軌跡の側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図18】例示的な実施形態によるCDMS18を概略的に示す。
【
図19】例示的な実施形態によるCDMS19を概略的に示す。
【
図20】例示的な実施形態によるCDMS100を概略的に示す。
【
図21】CDMS分析器へのイオン移動のためのファスマテック(Fasmatech)カスタムエレクトロスプレーインタフェースを含む、例示的な実施形態によるCDMSを概略的に示す。
【
図23】
図21のCDMSの長手方向断面図をより詳細に概略的に示す。
【
図24】エムエスキューブ(MSCUBE)のサイマックス(SIMAX)ソフトウェアを使用した、
図21のCDMS分析器のイオンシミュレーションであり、セグメント化された電荷管の設計を示す。
【
図25】
図24のイオンシミュレーションを使用した、7000m/zの単一のイオンについてのFFT信号(周波数領域スペクトル)をシミュレートしたものであり、約3000FWHM(1秒間のトランジェント)の分解能で第1、第2及び第3高調波を示す。
【
図26】
図21のCDMSを使用して収集された典型的な単一FFTスペクトルであり、スペクトロスイスX2ブースタ(Spectroswiss X2 Booster)システムで「ピークバイピーク(Peak by Peak)」データ収集ソフトウェアを使用して収集された残存イオン及びその高調波成分を示す。
【
図27】m/z操作、3msの過渡信号の原理の証明のためにオシロスコープを使用した、
図21のCDMSを使用して収集されたミオグロビンイオンのFFTスペクトルである。
【
図28】
図21のCDMSを用いて収集された過渡信号であり、CDMSスペクトルに寄与する残存イオンを残して、どのように分析器の許容範囲外のイオンが急速に排除されるかを示す。
【
図29】例示的な実施形態による、スプリアスノイズピークを除去する高調波フィルタの動作を示す。
【
図30】異なる日に取得されて測定の再現性を示す、
図21のCDMSを使用して収集されたポリスチレンビーズの2つのテクニカルレプリケート(赤色、青色)を示す。
【
図31】
図21のCDMSを使用して収集された、30nmのポリスチレンビーズサンプル(8.2MDa)の質量ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0135】
図面の詳細な説明
本明細書に記載するCDMSは、例示的な実施形態により、
第1静電電極及び第2静電電極を含む静電電極のセットと、誘導電荷検出器とを含む静電場イオントラップであって、誘導電荷検出器を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される静電場イオントラップと、
第1態様による方法を実施するように構成される、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータとを含む。
【0136】
図1Aは、例示的な実施形態によるCDMS10を概略的に示し、
図1Bは、
図1AのCDMS10に基づく、例示的な実施形態によるCDMS20を概略的に示す。
図1Aは、より詳細には、コンティノ(Contino)及びジャロルド(Jarrold)[1](非特許文献1)によるCDMS10を概略的に示す。CDMS10は、エレクトロスプレー源1を含み、4つの差動ポンプ領域(I~IV)に分割される。第1領域Iは、イオンファンネル2を含み、第2領域II及び第3領域IIIは、それぞれ六重極イオンガイド3を含み、第4領域IVは、収束レンズ4を介したイオンのための2つの二者択一の経路と、直交リフレクトロン飛行時間型質量分析計(TOF-MS:time-of-flight mass spectrometer)5又はデュアル半球偏向型分析器(HDA)6、それに続く鏡像電荷検出器管を組み込むコーントラップ7とを提供する。コーントラップ7内のイオンの振動周波数は、イオンのm/zに関連するが、イオンの運動エネルギーにも依存する。m/z決定における不確かさを減少させるために、デュアルHDA6は、コーントラップ7内に導入するためのイオン運動エネルギーの狭い窓を選択するために採用された。HDA6は、2つの同心の半球電極からなり、それらは、それぞれ180°の偏向角ψ
0を有し、異なる電位で保持され、これにより1/r
2に比例する電場を生成する。
図1Aに示すように、2つの半球電極は、S字型のタンデム配置に置かれ、したがって開いた(閉じたと比較)イオン経路を画定し、イオンビームが出るときにその元の方向を維持することを可能にする。2つの半球電極に印加される電極電位により、いずれの運動エネルギーが通されるか、したがっていずれのイオンがフィルタリングされるかが決まる。これらの電極電位、さらに入口開口部及び出口開口部の位置及び直径を慎重に選択することにより、デュアルHDA6のエネルギー分解能が改善される。コーントラップ7は、直径6.35mmの開口部を有する、95.25mm離れて位置する2つの円錐形のエンドキャップからなり、それにより静電線形イオントラップを提供する。コーントラップ7に入るイオンの数は、2つ以上のイオンをトラップする確率が小さいように十分に低く維持された。電荷検出器管(長さ25.4mm、内径6.35mm)は、遮蔽されたシリンダ内に取り付けられた絶縁体によって中心軸に沿って保持された。イオンが検出管を通過するとき、大きさが等しいが、反対符号の鏡像電荷が誘起される。
【0137】
図1Bは、より詳細には、非特許文献3の円筒形のELITトラップ(すなわちCDMS20)の先行技術のジオメトリを概略的に示す。このELITは、電荷検出器管(C)が位置するエンドキャップ間の場フリー領域を作り出すために、接地されたシールドリング電極(GS)をそのそれぞれの入口において有する2つの相互に対向した等間隔の3つの電極ミラー(E1、E2、E3)を含む。リング電極V1、V2、V3にそれぞれ印加される電位V1、V2、V3は、平均130eV/z及び1eV/zのFWHMのガウスエネルギー分布を有する100個の軸方向のイオンについての最小振動周波数幅を生成するように最適化された。このELITは、CDMS10のコーントラップ7と比較した場合、実質的に改善されたエネルギー依存性を有し、CDMS10のコーントラップ7に取って代わる。すなわち、CDMS20は、イオンエネルギー拡散に起因する振動周波数の変動が最小に維持されるように、デュアル半球静電エネルギーセレクタからなる上流エネルギーフィルタリングデバイス(すなわちデュアルHDA6)も必要とする。イオンの低いエネルギーの広がりの選択により、CDMS20の全体的な透過が減少する。CDMS10と同様に、ELITに入るイオンの数は、2つ以上のイオンをトラップする確率が小さいように十分に低く維持された。
【0138】
図2A及び
図2Bは、トロイダル扇形電場を採用する従来の静電扇形電場を概略的に示す。
本発明の発明者は、静電場による飛行時間エネルギー収束を考慮したポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]によって最初に提案されたジオメトリを採用することにより、より良好なエネルギー収束特性を達成できることを認識した。特に、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、飛行時間が一次までの初期エネルギーの関数ではなくなり、質量電荷比m/zのみの関数である、線形ドリフト空間及び場の構成を考慮した。そうした構成は、等時性としても知られている。ほぼ等しいエネルギーのイオンについて、軌道がすべての質量について同一であるべきであるため、静電場が使用されるべきである。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、取扱いをトロイダル扇形電場に限定したが、以下に説明するように他の構成が可能である。
【0139】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)の研究は、飛行時間型質量分析の初期イオン条件を補償するために、特別な配置におけるトロイダル扇形電場の使用を提案した。
図2A及び
図2Bは、そうした配置の一般的な形態を示す。デバイスは、それぞれ電場について異なる曲率半径を有する、半径方向の観点(
図2A)と軸方向の観点(
図2B)との両方から考慮され、したがって、それらは、トロイダル扇形電場分析器として知られている。DC電位V1は、半径方向平面内に半径R1を有する内側電極に印加され、DC電位V2は、半径方向平面内に半径R2を有する外側電極に印加される。イオン光軸は、半径方向平面で半径R0を有する。デバイスは、それぞれ半径方向に幅u
0、軸方向に幅w
0を有するスリットによって有効に区切られた、半径方向に偏向角ψ
0、受容角2α
0を有し、軸方向に受容角2ωを有する。等時性平面は、デバイスの入口及び出口から距離g
rでイオン光軸に対して角度ηで配置され、そこでのイオンの点収束を提供する。この論文は、飛行時間(TOF:time-of-flight)分析器として操作されるように意図されたいくつかのジオメトリを提示し、それによりイオンのパケット(雲としても知られる)が入口開口部を通して注入され、電子増倍管又は同様の破壊検出器を使用して出口平面で検出される。電気扇形TOF分析器は、それらの無収差特性に起因して、TOF-SIMS機器等の撮像用途における用途を見出した[5]。しかしながら、それらは、それらのエネルギー収束特性が一次に限定されるため、直交加速(oa:orthogonal acceleration)TOF分析器の主流用途にそれほど適していない。これは、直交加速が、リフレクトロンベースのTOF分析器によってより良好に補償されるイオンビーム内の非常に大きいエネルギー拡散をもたらすためである[6]。CDMS機器の特定の場合には直交加速の必要性がないため、イオンエネルギーの変動は、上流ビーム調整によって決定されるビームエネルギーの長手方向の変動によってのみ与えられる。数パーセントの典型的なエネルギー変動は、静電扇形場イオントラップの一次エネルギー収束特性によって容易に適応させることができ、これは、非特許文献3で実証されたものよりも優れている。静電扇形場イオントラップは、イオンが加速エネルギーによって決まる実質的に一定の速度で移動するというさらなる利点を有する。これにより、イオンがミラーセクション内で向きを変える際に低速に減速しなければならない反射ベースのデバイスと比較した場合、セクタの空間電荷容量が改善される。
【0140】
TOF MSについてポシュヘンリーデル(Poschenrieder)によって提案された特定のジオメトリ(ただし、TOF MS注入及び検出には依然として問題がある)及びそれに対する改良は、本発明者によって初めて理解されるように、例示的な実施形態によるCDMSのための静電扇形場イオントラップを提供する。
【0141】
静電扇形場に入った後、イオンエネルギー
【0142】
【0143】
で質量mを有する理想的なイオンのイオン速度νは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の以下の式(7)によって一次に与えられる。
【0144】
【0145】
式中、
βは、イオンエネルギーEaまで加速されたイオンについての部分的イオンエネルギー拡散であり、ΔE<<Eaである場合、
β=ΔE/Ea
であり、uは、中心経路u0からのイオンの偏差であり、
h及びkは、
【0146】
【0147】
によって与えられる補助パラメータであり、式中、r0は、中心等電位面の半径方向半径であり、ρ0は、軸方向半径であり、
ψ0は、限界180°≦ψ0h≦360°の扇形場の偏向角であり、及び
α0は、入射角である。
【0148】
次いで、静電扇形場を通る飛行時間teは、
dte=r0(1+u)ds/v
の積分によって得られ、その一次は、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の以下の式(8)を与える。
【0149】
【0150】
入射角α0に対するteの依存性を排除することは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の以下の式(9):
【0151】
【0152】
を必要とし、この式は、場縁部からのソース点の距離grを定義する。grが正である場合、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(9)は、限界180°≦ψ0h≦360°の偏向角(扇形角としても知られる)ψ0を有する静電扇形場を記述する。この静電扇形場構成は、ψi=ψ0/2における中間像と、出口側の場縁部から距離gr’=grにおけるソース点に対して対称な第2像とを有する。
【0153】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(9)に従う静電扇形場は、同時に第2像で一次色収差がない。しかしながら、大きい横方向エネルギー分散が中間像に見出される可能性があるが、送信エネルギー拡散は、ここでは適切な絞りによって制限することができる。
【0154】
静電扇形場内の部分的イオンエネルギー拡散β=ΔE/Eaによる飛行時間Δteの分散は、以下のポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(10)によって与えられる。
【0155】
【0156】
長さDの線形ドリフト管に沿った分散ΔtDは、以下のポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(11)によって単純に与えられる。
【0157】
【0158】
静電扇形場がこの制約から逃れるには、Δte+ΔtD=0である必要があり、これにより以下のポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12によって与えられる収束条件に至る。
【0159】
【0160】
実際の線形ドリフト長Dは、入口側のgrと、出口側のgr’と、いくつかの追加のドリフト範囲dとを含み得る。
したがって、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12に従う静電扇形場は、全長Dの線形ドリフト範囲を含む任意の2つの点について飛行時間(等時性)のいかなるエネルギー依存分散もない。加えて、この静電扇形場は、場縁部から距離grにある点Gに対して色収差のない放射イメージングを提供する。
【0161】
半径方向の中間像と軸方向の中間像とがψi=ψ0/2で一致する無収差イメージングを用いる静電扇形場を検討する。gaが、トロイダル扇形場の指向性収束特性から、軸方向収束のための場スリットからの入口の距離を表す場合、場縁部からのソース点の距離grは、以下のポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式20によって与えられる。
【0162】
【0163】
したがって、h=k及びc=1となり、これは、球形コンデンサ場に対応する。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12及びD=2gr=2gaの設定から、以下のポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式21が得られる。
【0164】
【0165】
グラフ解により、以下の値が得られる。
ψ
0=199.2°
g
r=5.9r
この静電扇形場について、
図3に概略的に示すように、時間及び空間の収束が一致するように源及びその像が正確に一致する。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]は、この静電扇形場がTOF質量分析計に十分には適していないことに留意したが、逆に、本発明者は、この静電場が代わりに静電場イオントラップに適していることを認識した。特に、この静電扇形場は、エネルギーに関して完全に等時性であり、分解能は、スリット幅に依存しなくなる。偏向角ψ
0=199.2°及び距離g
r=5.9rについてのこれらの値は、グラフによって得られ、したがって、計算の算出方法は、洗練された解を提供し得ることに留意されたい。さらに、構築されたジオメトリは、ある程度まで及び/又は残留場若しくは端縁場を含む他の電場を補償するために、これらの値間の相互作用を可能にすることができる。しかしながら、距離g
rは、真の無収差性能を達成するために重要であり得る。
【0166】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)の論文[4]は、ビーム初期条件(すべてゼロから一次まで)に関する等時性(時間収差)に焦点を当てているが、その無収差(空間)の扱いは、はるかに限定的であった。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]は、「位置に関する角度」又は「エネルギーに関する角度」の空間収差を考慮していないように思われる。しかしながら、好ましくは、本明細書に記載するような比較的狭い電荷管の使用を可能にし、イオン経路から離れる方に動くイオンから生じるイオン損失を回避するために、CDMSの無収差(イメージング)要件は、CDMSの等時性要件と比較して二次的であり、すなわち、無収差の要件は、誘導電荷検出のための十分に安定したイオン軌道である。
【0167】
図3は、端縁場を制御するためのシャントをさらに含む、例示的な実施形態の静電扇形場イオントラップ30を概略的に示す。
図3~
図14では、デカルト座標系(x,y,z)を適宜採用している。
【0168】
この例では、静電扇形場イオントラップ30は、第1静電セクタ31A及び第2静電セクタ31Bを含む静電セクタ31のセットを含む。この例では、第1静電セクタ31Aは、球形の静電セクタである。この例では、第1静電セクタ31Aと第2静電セクタ31Bとは、相互に対向している。この例では、静電セクタ31のセットは、第1静電セクタ31A及び第2静電セクタ31Bのみを含む。この例では、第1静電セクタ31Aは、第1静電セクタ31Aによる場を画定するように配置された第1シャント32Aを含むシャント32のセットを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ30は、等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ30は、3つの相互に直交する次元でイオン経路IPを画定するように構成される。この例では、静電扇形場イオントラップ30によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ30は、特に第1静電セクタ31Aの外側電極に設けられた、イオン経路にイオンを導入するためのイオン入口33を含む。この例では、第1静電セクタ31Aは、ψ0=199.2°の偏向角を有する。この例では、無場領域は、中央クロスオーバ点(すなわち、原点は、点焦点が達成される原点)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、静電扇形場イオントラップ30は、原点を通るx軸を中心に回転対称性を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ30は、原点を通るy-z平面で対称である。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間(すなわち各々がgr=5.9rの長さを有する2つの無場領域)と、球形の静電セクタ31A、31Bとを含む。この例では、第1静電セクタ31Aの外側電極は、23mmの内半径を有し、第1静電セクタ31Aの内側電極は、17mmの外径を有し、それにより、それらの間に6mmの球状の半径方向間隙がある。第1シャント32Aは、幅4mmのトロイダル開口部を有し、それにより第1静電セクタ31A内への比較的大きい入口開口部を提示する。第2静電セクタ31Bは、概して、第1静電セクタ31Aに関して説明した通りであるが、イオン入口33を含まない。
【0169】
図3は、より詳細には、2つの対向する球形セクタ31A、31Bの特別な場合(半径方向場及び軸方向場について同じ曲率)を示し、球形セクタ31A、31Bの各々は、偏向角ψ
0=199.2°と、中央クロスオーバ点(すなわち点焦点)までの距離が5.9R
0(すなわちg
r=5.9r)である無場領域とを有する。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、この配置の閉じた経路が、従来のTOF分析のための注入及び検出に問題があることを証明し得ることを理解し、注入及び検出手段に対してより好適な開いた幾何学的解決策を提案することに進んだ。すなわち、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、イオンを導入するためのイオン入口33を提案しなかった。さらに、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、フーリエ変換質量分析計で採用されるような誘導検出のためのそうした分析器の使用を提案しなかった。本発明者の知る限り、フーリエ変換トラップにおけるイオンの小さい雲の誘導検出のためのトロイダル場の使用は、8つの45°のトロイダルセクタを使用する配置において、ウルニック(Wollnik)[7]によって最初に提案されたが、TOF MS分析器のためのリング形態で配置されている、本来、未知のジオメトリであった。また、後に、ヴェレンチコフ(Verenchikov)は、フーリエ変換検出を伴うトロイダル場の使用を提案した[8]。しかしながら、これらの2つの提案のいずれも、CDMSのためにそうしたジオメトリを使用することを考慮していなかった。
【0170】
図3の配置では、イオンは、第1静電セクタ31Aの電極の電位が接地レベルで保持されている間、第1静電セクタ31Aの外側電極の穴(すなわちイオン入口33)を通して注入される。トラップが満たされると、これらの電位は、その動作レベルまで上げられ、トラッププロセスが開始する。第1静電セクタ31Aの電極の電場を終わらせるためにシャント32A、32Bが追加され、これらがなければ、電場は、無場領域内に漏れ、静電扇形場イオントラップの動作を無効にすることになる。この特定のシャント形状は、当技術分野で知られており、1935年にヘルツォーク(Herzog)によって提案された(ヤヴォル(Yavor)p.230[9]を参照されたい)。
【0171】
図4Aは、例示的な実施形態によるCDMS4を概略的に示し、
図4Bは、CDMS4についてのイオン軌道の軌跡の上方、側方及び端部からの立面図を概略的に示す。
この例では、CDMS4は、静電扇形場イオントラップ40及び誘導電荷検出器400を含み、静電扇形場イオントラップ40は、誘導電荷検出器400を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0172】
静電扇形場トラップ40は、
図3に関して説明したような静電場イオントラップ30について説明した通りであり、その説明は、簡潔にするために省略する。同様の参照符号は、同様の完全体を示す。
【0173】
この例では、静電扇形場イオントラップ40は、第1静電セクタ41A及び第2静電セクタ41Bを含む静電セクタ41のセットを含む。この例では、第1静電セクタ41Aは、球形静電セクタである。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間と球形静電セクタとを含む。この例では、第1静電セクタ41Aと第2静電セクタ41Bとは、相互に対向している。この例では、静電セクタ41のセットは、第1静電セクタ41A及び第2静電セクタ41Bのみを含む。この例では、第1静電セクタ41Aは、第1静電セクタ41Aによる場を画定するように配置された第1シャント42Aを含むシャント42のセットを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ40は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ40は、3つの相互に直交する次元でイオン経路を画定するように構成される。この例では、静電扇形場イオントラップ40によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ40は、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口43を含む。この例では、第1静電セクタ41Aは、ψ0=199.2°の偏向角を有する。この例では、無場領域は、中心クロスオーバ点(すなわち原点)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、第2静電セクタ41Bは、第1静電セクタ41Aに関して説明した通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ40は、原点を通るx軸を中心とした回転対称性を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ40は、原点を通るy-z平面で対称である。この例では、誘導電荷検出器400は、第1電荷検出器管410A及び第2電荷検出器管410Bを含む電荷検出器管の第1セット410を含む。この例では、長さL及び幅Wを有する第1電荷検出器管は、3:2~5:2の範囲、例えば2:1の長さL対幅Wの比を有する。この例では、誘導電荷検出器400を介したイオン経路の一部は、静電扇形場イオントラップ40によって画定されたイオン経路の約50%である。
【0174】
シミオン(SIMION)[10]シミュレーションは、
図4Aに示すジオメトリで実行され、イオンは、
図4Bに概略的に示すように、それらの初期条件に応じて無期限にトラップすることができた。イオンが狭い軸方向範囲(小さいΔα)に制限される場合、結果として生じる軌道は、y-z平面内の有限弧を満たす。再び
図4Aを参照するとともに、入力イオン条件が軌道Tに沿ったイオンのビームの形態をとることに留意すると、半径方向の復元力が軸方向の復元力よりも強いことを理解することができる。デバイスは、原点を通るx軸を中心とした回転対称であり、そのため、大きい角度成分β又は軸方向の広がりΔαを有するイオンは、多くがイオン経路の周囲を通過して無場領域内の中空円錐形状及びセクタ内の球面を形成した後、イオン軌道に静電セクタ全体を充填させる。換言すれば、イオンは、(公称199.2°の偏向角ψ
0を有する静電セクタの球状電極間の間隙に対応する)ほぼ半球状のエンドキャップを有する、交差し、相互に対向する円錐体又はローブの対として説明され得る(理想的には無限小の厚さの)薄い壁内にトラップされる。(CDMSによって必要とされる)分析器を多数通過した後に採用された(灰色で示す)イオンビームIPの幾何学的投影を
図4Bに示す。
【0175】
図5Aは、軸方向のz次元にイオンを閉じ込めるために原点にレンズを含む、例示的な実施形態によるCDMS5を概略的に示し、
図5Bは、CDMS5のためのイオン軌道の軌跡の上方、側方及び端部からの立面図を概略的に示し、
図5Cは、CDMS5のためのイオンのシミオン(SIMION)シミュレーションの斜視図であり、
図5Dは、より詳細なCDMS5の軸方向断面図であり、
図5Eは、より詳細なCDMS5の一部の破断斜視CAD画像であり、
図5Fは、より詳細なCDMS5の一部の分解斜視CAD画像であり、
図5Gは、より詳細なCDMS5の軸方向断面図である。
【0176】
CDMS5は、概して、
図4A及び4Bに関して説明したようなCDMS4に関して説明した通りであり、その説明は、簡潔にするために省略する。同様の参照符号は、同様の完全体を示す。
【0177】
この例では、静電扇形電場イオントラップ50は、第1静電セクタ51A及び第2静電セクタ51Bを含む静電セクタ51のセットを含む。この例では、第1静電セクタ51Aは、球形静電セクタである。この例では、第1静電セクタ51Aと第2静電セクタ51Bとは、相互に対向している。この例では、静電セクタ51のセットは、第1静電セクタ51A及び第2静電セクタ51Bのみを含む。この例では、第1静電セクタ51Aは、第1静電セクタ51Aによる場を画定するように配置された第1シャント52Aを含むシャント52のセットを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ50は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ50は、3つの相互に直交する次元でイオン経路を画定するように構成される。この例では、静電扇形場イオントラップ50によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ50は、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口53を含む。この例では、第1静電セクタ51Aは、ψ0=199.2°の偏向角を有する。この例では、無場領域は、中心クロスオーバ点(すなわち原点)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、第2静電セクタ51Bは、第1静電セクタ51Aに関して説明した通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ50は、原点を通るx軸を中心とした回転対称性を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ50は、原点を通るy-z平面で対称である。この例では、誘導電荷検出器500は、第1電荷検出器管510A及び第2電荷検出器管510Bを含む電荷検出器管の第1セット510を含む。この例では、電荷検出器管の第1セット510は、10個のセグメントを含む軸方向にセグメント化された電荷検出器管を含む。この例では、長さL及び幅Wを有する第1電荷検出器管は、3:2~5:2の範囲、例えば2:1の長さL対幅Wの比を有する。この例では、誘導電荷検出器500を介したイオン経路の一部は、静電扇形場イオントラップ50によって画定されたイオン経路の約50%である。
【0178】
再び
図4Bを参照すると、回転表面は、いくつかのCDMSの構造に関係するときに潜在的なトポロジ的問題を引き起こす。イオンが中心軸(すなわちx軸)全体の周りを回転することができた場合、誘導電荷検出器500の中心又は内側電極並びに/又は第1静電セクタ51A及び/若しくは第2静電セクタ51Bの内側電極の支持体は、イオン軌道が3次元でこれらの内側電極を完全に囲むため、問題となる可能性がある。概して、支持体の追加によりイオンが支持体と衝突して、分析器内で可能な振動の数が減少する。支持体52AS等の1つ又は複数の支持体は、例えば、内側電極と外側電極との間を架橋することができ、イオン経路内のその断面積を小さくすることにより、支持体との衝突によるイオンの損失を低減させることができる。加えて及び/又は代わりに、支持体を回避するようにイオン経路を制約し得る。したがって、支持体との衝突のこの問題に対する解決策は、イオン経路を少なくとも部分的に第1次元において制約するように配置される、第1焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを含むことである。この例では、
図5Aにおいて、3つの電極を含む平面アインツェルレンズ54がクロスオーバ点におけるデバイスの中心に示されており、z方向(デカルト座標)に追加の収束を提供する。この第1焦点レンズが追加された後のイオンの幾何学的投影を
図5B(A)~(C)に示す。球形電極を通る断面を支持体52ASとともに
図5B(D)に示す。その結果、ここでは、イオンは、有限の角度に閉じ込められ、支持体52ASをイオンビームから離して配置することができ、それによりCDMSの構築が容易になる。
【0179】
図5Aは、デバイス構造のためのいくつかの典型的な値を有する好ましい実施形態を概略的に示す。非特許文献3の従来技術のELITトラップの直接比較を可能にするように、130eV/zのイオンエネルギーが選択されている。これらのデバイスの動作電圧(イオンエネルギー)を増加させることにより、より高い周波数と、結果としての信号対ノイズ及び分解能の改善とを得ることができることが理解されるべきである。こうした方法は、無場領域を高電位で動作させる必要があり、電源からのノイズ注入の可能性があるため、依然として使用されていない。
図5Aに示す実施形態では、2つの電荷管510A、510Bは、中央zレンズ54の両側で採用されている。再び
図3を参照すると、g
r=5.9rは、中心レンズの両側に比較的長い無場領域を与え、そのため、約100mmの長さの電荷管510A、510Bを採用することが可能になることが分かる。電荷管510A、510Bの断面を示す。これらの電荷管510A、510Bは、構造についてのトポロジ上の問題を提示せず、例えばワイヤエロージョン又は放電加工(EDM:Electrical Discharge Machining)として知られる技法を使用して容易に作製することができる。好適なセグメント化された電荷管については、
図8に関連して説明する。
【0180】
図5D~
図5Gは、CDMS5をより詳細に示す。この例では、第1静電セクタ51Aは、ψ
0=199.2°の偏向角を有する。この例では、第1静電セクタ51Aは、23mmの内半径及び28mmの外半径を有する外側球状電極51AOと、17mmの外半径を有し、外側球状電極51AOと同心の内側球状電極51AIとを含み、それにより、それらの間に6mmの球状の半径方向間隙がある。この例では、外側球状電極51AO及び内側球状電極51AIは、それぞれ同様に正方形の実質的に平面のフレームの中央に設けられ、304L又は316Lステンレス鋼(代わりに例えば金コーティングガラス)等のUHV適合性導電体から機械加工され、任意選択的に電解研磨される。この例では、シャント52Aは、同様にそうしたフレーム内に設けられる。各フレームは、外側球状電極51AO、内側球状電極51AI及びシャント52Aを横方向に位置合わせするために、4つの対応する絶縁体(例えば、アルミナ若しくはマコール(RTM)等のセラミック又はPTFE等のポリマー)ロッド55A~55D(55C及び55Dは図示せず)の上に取り付けるために、その基端角部に形成された4つの円形開口部を含む。絶縁体スペーサ56Aにより、外側球状電極51AOと内側球状電極51AIとが相互に軸方向に離隔している。5mmの壁厚を有する外側球状電極51AOは、それぞれのフレームから準半球状に膨出している。中実の内側球状電極51AIは、それぞれのフレームから準半球状に突出し、アインツェルレンズ54によって平坦化される際に8の字のイオン経路IPに障害物が存在しないように配置される、直径方向に対向する2つの支持体51ASによって支持されている。皿形のシャント52Aの内側電極は、それぞれのフレームから突出し、概して内側球状電極51AIのための支持体51ASに関して説明したように、2つの直径方向に対向する支持体52ASによって支持されており、それにより半径方向幅4mmの2つの準半円形開口部521A、521B(すなわちそれぞれ入口及び出口)を提供する。
【0181】
非特許文献3の従来技術のELITに対する本発明の性能の利点を表1に示す。CDMS5は、非特許文献3のELITと比較した場合、同等の角度及び空間アクセプタンスを有するが、単位時間当たりの過渡信号がより多く、エネルギーアクセプタンスが優れている。このエネルギーアクセプタンスが大きいことにより、より良好な分解能/感度特性をもたらすことができる。慎重な上流ビームコリメーション及び0.5eV/zのエネルギー拡散により、この実施形態では、数千のシングルパス質量分解能が期待される。
【0182】
【0183】
表1:非特許文献3の従来技術のELITと比較した、例示的な実施形態によるCDMS5の性能の利点。1ms当たり23.26の過渡信号は、各電荷管の10個のセグメントに基づく。セグメント化がなければ、1ms当たりの過渡信号の数は、2.326まで減少する。セグメント化がなくても、CDMS5は、競争力があり、より単純であり、例えば静電扇形場イオントラップ50に導入するためのイオン運動エネルギーの狭い窓を選択するために上流デュアルHADを必要としない。逆に、
図9に関連して説明するように、リフトデバイスを用いてさらに多数の過渡信号を達成することもできる。
【0184】
図5Cは、イオンの損失のない、数百周回後のCDMS5のイオンのシミオン(SIMION)シミュレーションである。アインツェルレンズは、
図4Bに示すように、CDMS4のイオンのシミオン(SIMION)シミュレーションと比較してイオン軌道を制約する。
【0185】
図6は、既知のCDMS、特に
図1BのCDMSと比較した、
図5A~
図5CのCDMS5についての理想(%)からのイオンエネルギー偏差の関数としての周波数の変化(%)のグラフである。より詳細には、シミオン(SIMION)シミュレーションを実施し、CDMS5のエネルギー収束特性を計算した。zレンズ54を追加しても、顕著なデバイス解像度の劣化が生じないことが分かった。このジオメトリの一次収束は、本質的に放物線状の残留収差をもたらすと予想され、この特性を
図6に示す。換言すれば、CDMS5の静電扇形場イオントラップ50は、二次での放物線状の残差を有して一次に対して等時性であり、±3%のイオンエネルギー偏差に対して約0.05%の周波数の変化を与える。比較すると、非特許文献3のELITトラップは、一次に対して等時性ではなく、代わりに一次において線形残差を有し、+3%のイオンエネルギー偏差に対して約0.275%の周波数の変化を与え、-3%のイオンエネルギー偏差に対して約-0.275%の周波数の変化を与える。したがって、CDMS5の静電扇形場イオントラップ50は、非特許文献3のELITトラップと比較して、エネルギー拡散に対する優れた耐性を示し、これが本発明の主な利点の1つである。
【0186】
図7のA及び
図7のBは、例示的な実施形態によるCDMSについて、フーリエ変換における高調波の強度を高めるための比較的狭い電荷検出管の利点を概略的に示す。
より詳細には、本発明のさらなる利点は、静電扇形場イオントラップの無収差又は準無収差収束特性によってもたらされる。これらの特性は、イオンビームが分析器を横断するときに狭い弧に閉じ込められることを意味する。狭いイオンビームは、イオンの検出のために同様に狭い電荷管を使用することが可能であることを意味する。
図7のA及び
図7のBは、狭い電荷管ほど、鋭い過渡信号をどのように生じさせるかを示す。この信号は、フーリエ理論の結果として、周波数が高いほど高調波成分が増加した。処理された波形の信号対ノイズ比は、周波数とともに増加し、フーリエ変換でより高い高調波を使用することにより、質量分析の分解能が改善することがよく知られている。
【0187】
図8は、誘導電荷検出器400及び500に関して概して説明したような誘導電荷検出器800を概略的に示し、これは、CDMS4及び/又はCDMS5等の例示的な実施形態によるCDMSについて、1分析器パス当たりの過渡信号の数を増加させるために、第1セグメント化電荷検出器管810A及び第2セグメント化電荷検出器管810Bを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット810を含む。この例では、第1セグメント化電荷検出器管810A及び第2セグメント化電荷検出器管810Bは、軸方向にセグメント化されており、その各々が10個のセグメントを含む。
【0188】
CDMS4及びCDMS5のジオメトリによってもたらされる比較的長い電荷管により、例えば軸方向電荷管セグメント化が可能になる。原則として、移動するイオンによって誘発される信号は、それが管幅の2倍の長さだけ前記管内に通過した後に無視できるほどであり、過度に長い管は、有用な信号を無駄にする。
図8は、1パス当たりの過渡信号の数を増加させるために、セグメント化をどのように採用することができるかを示す。こうしたセグメント化は、複数の増幅器の使用により、以前に提案されている[11]。このようなセグメント化は、依然として、
図8で接続されているような単一の増幅器の使用によって利点を提供することが知られている。この原理は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴機器で実証されており、例えばニコラエフ(Nikolaev)の研究[12]を参照されたい。
【0189】
さらに、静電扇形場イオントラップ40の3次元の8の字の経路、さらに静電扇形場イオントラップ40の制約された3次元の8の字の経路により、加えて及び/又は代わりに、前述したように半径方向の電荷管セグメント化が可能になる。
【0190】
図9は、リフトデバイス99を含む、例示的な実施形態によるCDMS9を概略的に示す。CDMS9は、概して、CDMS5に関して説明している。静電扇形場イオントラップ90及び誘導電荷検出器900は、ボックスとして概略的に示されており、このボックスは、例えば、CDMS5の静電扇形場イオントラップ50及び誘導電荷検出器500を表し得る。例示的な実施形態によるCDMSの静電扇形場イオントラップのスループットを向上させるために、比較的高いイオンビーム運動エネルギー、例えば100eV~1,000eVの範囲のイオンビーム運動エネルギーで動作させることが望ましい。高エネルギーで動作する利点は、エネルギー及び角度に関して取得が速くなり、収差が低くなることである。運動エネルギーを増加させる第1方法は、TOF分析器について一般的に行われるように、誘導電荷検出器900を高い加速電位(正イオンについては負電圧)でフローティングさせることである。しかしながら、CDMSの場合、電源に存在するいかなるノイズもCDMS分析器の非常に低い誘起信号を隠すことになる。したがって、接地電位で動作させる誘導電荷検出器は、隣接する接地プレートによってノイズから効果的に遮蔽し、(仮想接地である)増幅器段に直接連結することができるため、非常に好ましい。運動エネルギーを増加させる第2方法は、上昇した電位によって上流イオン光学部品をフローティングさせることである。これは、技術的に問題があることが知られており、パッシェンの法則から生じる電界破壊により部品の放電を引き起こす可能性がある。この影響は、RFイオンガイドが使用されることが多い数ミリバール(mBar)領域で特に問題であり、それにより印加電圧が約200Vに制限され、さらにイオンの運動エネルギーが制限される。この問題に対する解決策は、CDMSサイクルの充填部分間に管(コリメータ等)(すなわちリフトデバイス99)に高電位でパルスを流すことである。このように、コリメータ(又は他のイオン光学素子)は、電圧破壊が起こらない高真空で動作するため、問題のある放電を回避することができる。
図9は、静電扇形場イオントラップ90内のイオンの運動エネルギーを増加させるために、こうした上流コリメータ99をパルス方式でどのように動作させることができるかを示す。イオンは、ある程度の所定のエネルギーqV
eでコリメータ管99を満たす。時点t1では、コリメータ管99がイオンで満杯になると、増加した電位V
liftのパルスが送られる。これにより、イオンが空間的に分離されたイオンのペンシルとしてトラップ90に入る際にイオンのエネルギーが増加し、これは、依然として接地電位の電荷管900及びシールド(すなわちシャント)で操作される。イオンが導入される静電セクタは、イオンが導入されている間、一時的に接地電位でもあることが理解されるべきである。時点t2では、トラップ90が閉じられ、トラップサイクルが開始する。扇形電極は、トラッピングサイクル中、以下の式によってイオンエネルギーに関連する上昇した電圧V
iを有しなければならないことに留意されたい。
【0191】
【0192】
式中、i=1,2であり、運動エネルギーは、電子ボルトでT
oであり、これは、(V
e+V
lift)に等しい。
図10は、例示的な実施形態によるCDMS10を概略的に示す。この例では、CDMS10は、静電扇形場イオントラップ100及び誘導電荷検出器1000を含み、静電扇形場イオントラップ100は、誘導電荷検出器1000を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0193】
この例では、静電扇形場イオントラップ100は、参考文献[15]のマルタム(MULTUM)に関して記載されている通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ100は、4つの同様の円筒形静電セクタ101A~101Dを含む静電セクタ101のセットを含み、その各々がψ0=156.87°の偏向角及び50mmの偏向半径を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ100は、8つの電気四重極レンズ102A~102Hを含む電気四重極レンズ102のセットを含む。この例では、基本ユニットは、4つのドリフト空間と、2つの電気四重極レンズと、円筒形静電セクタとを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ100は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ100によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含み、それを通る3重の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して説明したように偏向によるものであるか、又はイオン入口を介したものであり得る。
【0194】
この例では、誘導電荷検出器1000は、概して誘導電荷検出器400、500及び800に関して説明したように、4つのセグメント化電荷検出器管1010A、1010B、1010C、1010Dを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット1010を含む。
【0195】
図11は、例示的な実施形態によるCDMS11を概略的に示す。この例では、CDMS11は、静電扇形場イオントラップ110及び誘導電荷検出器1100を含み、静電扇形場イオントラップ110は、誘導電荷検出器1100を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0196】
この例では、静電扇形場イオントラップ110は、参考文献[15]のマルタムリニアプラス(MULTUM Linear plus)に関して説明した通りであり、概してイオン注入(及び排出)を可能にする追加の電気四重極レンズを有する静電扇形場イオントラップ100に関して説明した通りである。
【0197】
この例では、誘導電荷検出器1100は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明したように、4つのセグメント化電荷検出器管1110A、1110B、1110C、1110Dを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット1110を含む。
【0198】
図12は、例示的な実施形態によるCDMS12を概略的に示す。この例では、CDMS12は、静電扇形場イオントラップ120及び誘導電荷検出器1200を含み、静電扇形場イオントラップ120は、誘導電荷検出器1200を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0199】
この例では、静電扇形場イオントラップ120は、参考文献[15]のマルタム(MULTUM)に関して説明した通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ120は、4つの同様のトロイダル静電セクタ121A~121Dを含む静電セクタのセット121を含み、その各々がψ0=157.10°の偏向角、50mmの偏向半径及び0.0337のC1値を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ120は、電気四重極レンズを含まない。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間と、トロイダル静電セクタとを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ120は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ120によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含み、それを通る3重の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して説明したように偏向によるものであるか、又はイオン入口を介したものであり得る。
【0200】
この例では、誘導電荷検出器1200は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明したように、4つのセグメント化電荷検出器管1210A、1210B、1210C、1210Dを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット1210を含む。
【0201】
図13は、例示的な実施形態によるCDMS13を概略的に示す。この例では、CDMS13は、静電扇形場イオントラップ130及び誘導電荷検出器1300を含み、静電扇形場イオントラップ130は、誘導電荷検出器1300を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0202】
この例では、静電扇形場イオントラップ130は、参考文献[15]の平面的な8の字に関して説明した通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ130は、2つの同様の円筒形静電セクタ131A及び131Bを含む静電セクタのセット131を含み、その各々がψ0=227.95°の偏向角及び50mmの偏向半径を有する。この例では、静電扇形場イオントラップ130は、8つの電気四重極レンズ132A~132Hを含む電気四重極レンズのセット132を含む。この例では、基本ユニットは、6つのドリフト空間と、4つの電気四重極レンズと、円筒形静電セクタとを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ130は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電扇形電場イオントラップ130によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含み、それを通る3重の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して説明したように偏向によるものであるか、又はイオン入口を介したものであり得る。静電扇形場イオントラップ130は、静電扇形場イオントラップ30、40及び50の3次元の8の字のジオメトリとは対照的に、既に平面的な8の字のジオメトリを有するため、前述したようなトポロジ的問題が生じない。
【0203】
この例では、誘導電荷検出器1300は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明したように、4つのセグメント化電荷検出器管1310A、1310B、1310C、1310Dを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット1310を含む。
【0204】
図14は、例示的な実施形態によるCDMS14を概略的に示す。この例では、CDMS14は、静電扇形場イオントラップ140及び誘導電荷検出器1400を含み、静電扇形場イオントラップ140は、誘導電荷検出器1400を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0205】
この例では、静電扇形場イオントラップ140は、参考文献[16]の偏菱形に関して説明した通りである。この例では、静電扇形場イオントラップ140は、2つの二重トロイダル静電セクタ142A、142Bを含む静電セクタのセット141を含み、その各々は、ψ0=156.2°の偏向角を有する第1トロイダル静電セクタ141Aと、ψ0=23.8°の偏向角を有する第2トロイダル静電セクタ141Aとを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ120は、電気四重極レンズを含まない。この例では、基本ユニットは、3つのドリフト空間と、2つのトロイダル静電セクタとを含む。この例では、静電扇形場イオントラップ140は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電扇形場イオントラップ140によって画定されるイオン経路は、クロスオーバを含まず、1つの対称面を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して説明したように偏向によるものであるか、又はイオン入口を介したものであり得る。
【0206】
この例では、誘導電荷検出器1400は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明したように、4つのセグメント化電荷検出器管1410A、1410B、1410C、1410Dを含むセグメント化電荷検出器管の第1セット1410を含む。
【0207】
CDMS4~CDMS9の任意のものがCDMS10の領域IIIの六重極3とインタフェースし、それによりCDMS10の領域IVを置き換えるか、又は領域IVの収束レンズ4とインタフェースし、それによりHAD6及び修正されたコーントラップを領域IVの鏡像電荷検出器7と置き換え、直交TOF-MS5は、任意選択的に取り除かれることが理解されるべきである。
【0208】
図15は、例示的な実施形態による方法を概略的に示す。特に、この方法は、イオンの質量を決定する方法である。本方法は、静電扇形場イオントラップにより、誘導電荷検出器を介して少なくとも部分的に静電扇形場イオントラップによって画定されるイオン経路の周囲でイオンを移動させること(S1501)を含む。本方法は、移動するイオンにより、誘導電荷検出器で信号を誘導すること(S1502)を含む。本方法は、誘導された信号を使用してイオンの質量を決定すること(S1503)を含む。本方法は、本明細書に記載したステップの任意のものを含み得る。
【0209】
図16は、参考文献[19]に記載されているような、例示的な実施形態による共鳴質量分離器(RMS:resonance mass separator)を概略的に示す。より詳細には、
図16は、円筒形セクタと、周期的アインツェルレンズ及び四重極レンズのセットとから構成される共鳴質量分離器におけるシミオン(SIMION)モデル及び螺旋イオン軌道を示す。モデルRMS130は、サクライ(Sakurai)ら(ニュークリアインスツルメントメソッド(Nucl. Instrum. Meth.) A427、1999年、p.182~186)と同様に、異なる半径を有する円筒形セクタ131及び132から構成される。円筒形セクタは、X-Y平面内に実質的に2次元の静電場を生成する。イオン経路133は、X-Y平面に対して小さい角度でイオンビーム(又は穏やかに束ねられたイオンパケット)を注入し、且つイオンを周期的アインツェルレンズ134のセット及び周期的四極レンズ135に閉じ込めることによって螺旋状に配置される。イオンは、X-Y平面における湾曲した楕円形の平均イオン経路投影と、ドリフトZ方向における比較的低速のイオンドリフトとから構成される螺旋イオン経路133をたどる。周期的レンズ134及び135は、適度なイオンパケット発散にもかかわらず、螺旋イオン経路に沿ってイオンビームを閉じ込める。モデル化されたRMSのパラメータは、以下の通りである。すなわち、イオン軌道は、170×250mmのセルに刻み込まれ、1回転当たりのイオン経路は、700mmであり、Z長は、40回転に適合するように200mmであり、全体でL=28mの全飛行経路を形成する。セクタは、6keVイオンビームを通過させるように励起され、それにより、m/z=1000での標的質量は、T
0=20μsで単一回転を通過し、800μsでRMSを通過する。イオンビームパラメータは、1mmのビーム直径、4mradの角度発散及びFWHM=20eVのエネルギー拡散(ガウス分布)であり、これは、ガス状RFガイドを通過して得ることができるイオンビームエミッタンスと比較して過剰である。AC励起が適用されない場合、1000amuのイオンは、損失なくRMSを通過する。AC励起
【0210】
【0211】
は、次いで、端縁場を考慮して、4mmのアパーチャ及び4mmの有効長を有する四重極レンズ135に適用される。AC信号が印加されると、分離器は、複数のm/z帯域をフィルタリングし、その形状は、AC振幅V0及び周波数F=(N+0.5)/T0によって決まる。
【0212】
図17A~
図17Cは、例示的な実施形態によるCDMS17を概略的に示す。CDMS17は、概して、CDMS4に関して説明した通りであり、フラグメント化デバイス(図示せず)と、原点にイオン単離光学素子とをさらに含む。収束レンズの中心要素は、CDMS4の対応する収束要素と比較して、高周波偏向場の導入を可能にするように変更されている。このジオメトリにおける効率的なトラップに必要とされるレンズのZ収束能力は、依然として保持されるが、追加の偏向/収束場が直交Y方向に導入される。タンデム質量分析を実施するために、単離すべき対象の標的種を最初に同定することが必要であるが、これは、
図17Aに示すように、CDMSの通常の電圧構成である。これは、充填ごとに実施される。CDMSについて可能な限り高い質量測定精度を達成するため、イオンは、周波数(m/zの関数)及び強度(信号強度の関数)を確認するために分析器の多くの往復を実行することが可能になる。所望のプリカーサ質量が特定されると、
図17Bに示すように、以下の形態:
V=V
0cos[2πFt]
の適切な振動電圧が中央レンズプレートに印加される。単離ステップを実施するのにかかる時間は、必要とされる分離の分解能によって決まる。この分解能は、トラップに含まれる異なる種についてのm/z依存振動周波数に関する最も近い距離によって決定することができる。選択された質量種が単離されると、その振動の周波数及び位相の知識により、イオンの光軸に沿ってトラップからイオンを導くようにトラップ電極を切り替えることが可能になる。扇形電極が切り替えられるときにイオンをトラップの外に正確に導くことができるように、中央レンズにおけるDC電圧を上昇させて、イオンを「Z」軸(
図17C)により緊密に閉じ込めることができる。イオンは、上流又は下流に外部フラグメント化デバイスまで送り返され得る。必要な変更を加えて、CDMS5、10、11、12、13、14及び16のためのフラグメント化デバイスを提供することができる。
【0213】
図18は、例示的な実施形態によるCDMS18を概略的に示す。CDMS18は、概して、CDMS12に関して説明した通りであり、フラグメント化デバイス185をさらに含む。この例では、静電扇形場イオントラップ180は、フラグメント化デバイス185を介したイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。必要な変更を加えて、CDMS4、5、10、11、13、14及び16のためのフラグメント化デバイスを提供することができる。
【0214】
図19は、例示的な実施形態によるCDMS19を概略的に示す。CDMS19は、概して、CDMS17に関して説明した通りであり、フラグメント化デバイス195は、CDMS9のリフトデバイス99に関して説明したようなリフトデバイスをさらに含む。このため、単離されたイオンは、したがって、上流に外部フラグメント化デバイス195まで送り返され、そこでフラグメント化され、プロダクトイオンは、プロダクトイオンと同様にイオン経路に導入される。
【0215】
図20は、概して、米国特許出願公開第2022246414号明細書の質量分析装置100に関して記載されているような、例示的な実施形態によるCDMS100を概略的に示す。米国特許出願公開第2022246414号明細書の質量分析装置100とは対照的に、例示的な実施形態によるCDMS100のデータシステム(すなわちコンピュータ)は、第1態様による方法を実施するように構成される。
【0216】
装置100は、分析されるサンプルからイオンを生成するイオン化源105を含む。本明細書で用いる場合の「イオン」という用語は、任意の荷電分子又は分子の集合体を指し、特に当技術分野でマクロイオン、荷電粒子及び荷電エアロゾルとも称され得る高分子量の実体を包含するように意図される。本発明の範囲を限定することなく、装置100によって分析することができるイオンには、タンパク質、タンパク質複合体、抗体、ウイルスカプシド、オリゴヌクレオチド及び高分子量ポリマーが含まれる。イオン化源105は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源の形態をとることができ、その場合、イオンは、電位が印加されたキャピラリからサンプル溶液の荷電液滴を噴霧することによって形成される。サンプルは、連続的な流れ、例えばクロマトグラフィカラムからの溶出液としてイオン化源105に供給することができる。
【0217】
イオン化源105によって生成されたイオンは、徐々に減圧された真空チャンバ内に配置された一連のイオン光学系を通して方向付けられ、収束される。
図1に示すように、イオン光学系は、イオン伝達管、積層リングイオンガイド、高周波(RF:radio-frequency)多重極及び静電レンズを含み得る。イオン光学系が収容されている真空チャンバは、圧力を所望の値で維持するように動作可能な任意の好適なポンプ又はポンプの組合せによって排気することができる。
【0218】
装置100は、m/zの値の選択された範囲内のイオンのみを透過させる四重極マスフィルタ(QMF:quadrupole mass filter)110をさらに含み得る。四重極マスフィルタの動作は、当技術分野でよく知られており、本明細書で詳細に考察する必要はない。一般的に、選択的に透過されるイオンのm/z範囲は、選択された範囲外のm/zを有するイオンに不安定な軌道を形成させる電場を確立するために、QMF110の電極に印加されるRF電圧及び分解直流(DC:direct current)電圧の振幅を適切に調整することによって設定される。透過したイオンは、その後、追加のイオン光学系(例えば、レンズ及びRF多重極)を横断し、イオン蓄積部115に入る。当技術分野で知られているように、イオン蓄積部115は、イオンをその内部に閉じ込めるために振動場と静電場との組合せを採用している。具体的な実装形態では、イオン蓄積部115は、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)によって販売されているオービトラップ(Orbitrap)質量分析計で利用されているタイプの湾曲トラップ(俗に「c-トラップ」と称される)の形態をとることができる。湾曲トラップは、イオン出口に向かって凹状に湾曲した、略平行なロッド電極のセットから構成される。イオン蓄積部115内のイオンの半径方向の閉じ込めは、ロッド電極の対向する対に対して、指定された位相関係で振動電圧を印加することによって達成することができ、軸方向の閉じ込めは、ロッド電極の軸方向外側に位置決めされたエンドレンズに静電圧を印加することによって実施することができる。
【0219】
イオン蓄積部115に入るイオンは、静電トラップにイオンが導入される前に、その運動エネルギーを減少させるために、指定された冷却期間、イオン蓄積部115内に閉じ込めることができる。指定された期間、イオン蓄積部内にイオンを閉じ込めることは、イオンの脱溶媒、すなわち分析対象イオンからの任意の残留溶媒部分の除去にも役立ち得る。本明細書において上記で考察したように、残留溶媒の存在により、分析中に質量シフトがもたらされる可能性があり、それは、m/z及び電荷を正確に測定する能力を妨げる。イオンの動力学的冷却及び脱溶媒を促進するために、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガスをイオン蓄積部の内部空間に添加することができるが、分析対象イオンの意図されないフラグメント化及び/又は静電トラップ120内へのガスの過剰な漏れを回避するために、冷却ガスの圧力を調節しなければならない。冷却期間の持続時間は、イオン蓄積部115に入るイオンの運動エネルギー、不活性ガス圧力及び静電トラップ120に注入されるイオンの所望の運動エネルギープロファイルを含む多くの要素によって決まる。冷却期間が完了した後、イオン蓄積部115に閉じ込められたイオンは、静電トラップ120の入口130にイオンを収束させ、導くように作用する入口レンズ125に向かってイオン蓄積部から放射状に放出することができる。イオン蓄積部115からのイオンの急速な放出は、イオン蓄積部内部の振動場を急速に崩壊させ、放出方向から離れて位置決めされたロッド電極にDCパルスを印加することによって行うことができる。
【0220】
CDMS技法を使用してイオン電荷を確実に測定するために、測定イベント中、特定のイオン種の個々のイオンのみが静電トラップ120に存在し得る。本明細書で用いる場合の「イオン種」という用語は、所与の元素/同位体組成及び電荷状態のイオンを指し、異なる元素/同位体組成のイオンは、異なるイオン種であるとみなされ、同じ元素組成であるが、異なる電荷状態のイオンも同様である。本明細書では、「イオン種」という用語は、「分析対象イオン」及び「対象となるイオン」という用語と同義に使用する。測定イベント中に同じイオン種の複数のイオンが存在する場合、(後述するように、イメージ電流検出器132によって生成された信号の振幅から決定される)測定された電荷状態は、個々のイオンの実際の電荷状態の倍数となる。この種の誤測定を避けるために、イオン蓄積部115内のイオン集団は、同じイオン種の2つのイオンがイオン蓄積部内に閉じ込められる可能性が許容可能な最小限で維持されるように、十分に小さく維持されるべきである。これは、イオン化源105によって生成されたイオンビームの減衰(より具体的には、イオンの高い損失が発生するように、上流のイオン経路に位置するイオン光学系を「離調する」こと)及び/又は充填時間(イオンがイオン蓄積部115に受け入れられる期間)の調節によって達成され得る。充填時間を制御するために、イオン蓄積部のイオン経路の上流に位置する1つ又は複数のイオン光学部品をゲートとして動作させて、イオン蓄積部115の内部空間へのイオンの通過を選択的に許容又は阻止することができる。
【0221】
静電トラップ120は、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)から「オービトラップ(Orbitrap)」の商標で市販されており、
図1に断面で示すタイプの軌道静電トラップの形態をとることができる。こうした軌道静電トラップは、円筒座標系でz軸として指定される中心長手軸を画定する内側スピンドル型電極135を含む。内側電極135に対して同軸に外側樽型電極140が位置決めされ、イオンが注入される略環状のトラッピング領域145をそれらの間に画定する。内側電極135及び外側電極140は、それぞれ(z=0として指定され、代わりに「赤道」と称される)横断面を中心として対称であり、横断対称面では、内側電極135は、R1の最大外側半径を有し、外側電極140は、R2の最大内側半径を有する。科学文献で広く考察されてきたように(例えば、参照により本明細書に援用されるマカロフ(Makarov)著、「静電型軸方向高調波軌道トラッピング:質量分析の高性能技術(Electrostatic Axially Harmonic Orbital Trapping:A High-Performance Technique of Mass Analysis)」、分析化学(Analytical Chemistry)、第72巻、第6号、p.1156~62(2000年)を参照されたい)、内側電極及び外側電極は、以下の関係を近似するトラッピング領域145内の静電電位U(r,z)を(電極の一方又は両方に静電電圧を印加したときに)確立するような形状とすることができる。
【0222】
【0223】
式中、r及びzは、円柱座標であり(r=0は、中心長手方向軸であり、z=0は、横断対称面である)、Cは、定数であり、kは、像面湾曲であり、Rmは、特徴的半径である。この電場は、四重極対数場とも称され得る。
【0224】
外側電極140は、横断対称面に沿って第1部150と第2部155とに分割されており、これらは、狭い絶縁ギャップによって相互に分離されている。この配置により、外側電極140を差動増幅器160とともにイメージ電流検出器として使用することができる。外側電極に近接してイオンが存在することにより、イオンの電荷に比例する大きさを有する(イオンの電荷とは反対の極性の)電荷が電極に誘導される。外側電極140の第1部150と第2部155との間のz軸に沿ったイオンの振動的な往復運動により、イメージ電流検出器132は、イオンの長手方向振動の周波数に等しい周波数及びイオンの電荷を表す振幅を有する時間変化信号(「過渡信号」と称される)を出力する。
【0225】
イオンは、外側電極240に形成された入口開口部130を通してトラッピング領域145内に接線方向に導入することができる。入口開口部130は、横断対称面から軸方向に(z軸に沿って)オフセットしており、それにより、イオンは、トラッピング領域145内に導入されたとき、対称面の方向に復元力を受け、それにより、イオンは、
図20に示すように、内側電極135の周りを、軌道を描いて回りながらz軸に沿って長手方向振動を開始する。四重極対数場の顕著な特徴は、その電位分布がr及びzに交差項を含まず、z次元の電位が排他的に二次関数的であることである。したがって、z軸に沿ったイオンの運動は、高調波振動子として説明され得(場がイオンに及ぼすz次元に沿った力は、横断対称面からのz軸に沿ったイオンの変位に正比例するため)、軌道運動から完全に独立している。このように、z軸に沿ったイオン振動の周波数ωは、単純に以下の関係によるイオンの質量電荷比(m/z)に関連する。
【0226】
【0227】
電荷状態及びm/zの測定と、それに続く生成物の質量の計算とは、過渡信号の収集及び処理によって進行する。検出器132による過渡信号の収集は、分析対象イオンの注入後に速やかに開始され、所定の過渡信号の長さだけ続けられる。m/z及び電荷状態の正確な測定に必要な過渡信号の長さは、分析対象と、静電イオントラップ120の物理的パラメータ及び動作パラメータとによって異なる。一般に、過渡信号は、信号がノイズから確実に識別されるように適切な持続時間である必要がある。典型的な分析対象イオンでは、市販の軌道トラップ質量分析計を使用して、500ミリ秒の過渡信号長で十分な信号対ノイズ比を得ることができると予想される。最大過渡信号長は、分析対象イオンが、バックグラウンドのガス原子/分子又は他のイオンと衝突することなく、トラッピング領域145内に安定してトラップされる持続時間によって制限され、これは、一部には、トラッピング領域圧力の関数であることが理解されるであろう。
【0228】
概要
ウイルス分子等の非常に大きい種(1MDa超)のエレクトロスプレーでは、可能な電荷状態が連続的に変化し、m/z比のみを検出する従来の質量分析器は、明確なスペクトルピークを与えることができず、有用な分析データをほとんど提供しない。CDMSは、イオンの個々(又は小さい集団)を注入し、m/z及びzの両方を測定することによってこの制限を克服し、これらの2つのパラメータの積によって真の質量(m)を測定することができる。質量分解能は、m/z分解能及び電荷(z)精度の両方に依存する。ここでは、こうした測定のために構成された199.2°のデュアル球形電気扇形イオントラップからの最初のCDMSスペクトルを提示する。このデバイスには、単純な構造でありながら、より高い実験スループットについて高い空間電荷容量を有するという利点がある。機器(
図21~
図23)は、カスタムAPIインタフェース、CDMS分析器及び増幅器-データ収集システムを含む。サイマックス(SIMAX)ソフトウェアを使用して、CDMS分析器を包括的にシミュレーションした。
【0229】
APIインタフェース(ファスマテック(Fasmatech))[参考文献20]
図21~
図23を参照すると、平均分子量が8.2MDaである、公称30nmの直径のポリスチレンビーズの多分散サンプルが分析された。イオンは、50/50MeOH/水溶液中、2×10
11粒子/mLの濃度で1μL/分において注入してエレクトロスプレーされた。脱溶媒は、加熱したキャピラリによって補助される。イオンは、エアロレンズ(Aerolens)内に渡され、そこで、イオンは、拡散損失を最小化し、メガダルトン種を六重極イオントラップに効率的に移動させるように設計された定常層流亜音速流プロファイルを達成する。六重極イオントラップは、熱化、貯蔵及び機器の次の段への後続の放出を可能にするようにセグメント化される。放出されたイオンパケットは、RFのみの六重極を介してさらに2段階の差動ポンピングを通過し、CDMS分析器に入る前に、分割されたシリンドリカルレンズによってステアリング及びコリメートされる。CDMS分析器は、概して、
図3~
図9、
図17A~
図17C及び
図19に関して説明した通りであり、簡潔にするためにその説明を繰り返さない。
【0230】
CDMS分析器
図22は、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[参考文献21]が、CDMS測定のために適合及び構成されたTOF分析器として最初に提案したデュアルセクタジオメトリを概略的に示す。大きいイオン容積は、この分析器の高い空間電荷容量につながる。より詳細には、
図22は、CDMS分析器の注入穴、イオン経路及び中心レンズを概略的に示す。電荷管のセグメント化は示していない。トラッピングは、上流インタフェースからイオンパケットが到着した時点でセクタ電圧を上昇させることにより開始される。CDMS分析器は、独自のエネルギーフィルタとして作用して、最初の数ミリ秒以内にその位相空間許容外のイオンを排除し、長命の残存イオンを、収集されたスペクトルに寄与するように残す。電荷管は、セグメント化され、後続のデータ分析に有用な特徴的高調波シグネチャを与えるように構成される。イオンが内側半球支持体に衝突することを防止するように、大きい弓状の逸脱を防ぐために中心レンズが採用されている。
【0231】
シミュレーション(サイマックス(SIMAX))[参考文献22]
CDMS分析器全体の洗練された電位アレイは、シミオン(SIMION)[参考文献4]を用いて生成された(
図24)。このアレイは、サイマックス(SIMAX)ソフトウェアにインポートされて、イオンアクセプタンス及びm/z分解能が調べられた。サイマックス(SIMAX)パッケージは、高速フーリエ変換質量スペクトルを生成するために、個々のイメージ電荷電極(電荷管)の指定を可能にする。サイマックス(SIMAX)の剛体球モデルを使用して、UHV圧力の影響が理解され、これは、10
-7Pa(10
-9mbar)のバックグラウンド圧力で8.2MDaイオンについて、約1秒間の過渡信号長でごくわずかであることがわかった。サイマックス(SIMAX)は、データ処理に使用された分析器の予測された高調波シグネチャを与えた(
図25)。シミュレーションされたm/z分解能は、ここに提示した実験結果と一致した。
【0232】
データ収集及び解析(スペクトロスイス(Spectroswiss))[参考文献24]
データは、電荷有感型前置増幅器と、信号コンディショニング増幅器及びFPGAチップ付き高性能デジタイザをスペクトロスイス(Spectroswiss)ソフトウェアとともに採用したスペクトロスイスFTMSブースタ(Spectroswiss FTMS Booster)X2とを用いて収集された(
図26)。過渡信号の長さは、1.5秒に設定され、収集は、CDMS分析器によって位相空間許容外のイオンが排除されるまで停止された。解析は、長命残存イオンに対して行われた。過渡信号は、短い過渡信号のチャンクで解析され、適切なFFT定量化に不可欠なイオン寿命が決定された。この初期のプロトタイプにおける構造的ノイズ信号は、電気的ピックアップによるため、生データにおいて明らかであった。分析器の特徴付けられた高調波シグネチャを使用して、最終データセットからこれらのスプリアス信号が排除された。前置増幅器とブースタとの組合せの電荷較正後、ポリスチレンビーズサンプルの真の質量ヒストグラムが生成された(
図31)。
【0233】
CDMS分析器結果
従来のm/zモードでミオグロビンのイオンパケットを分析することにより、分析器の動作の証明が確認された(
図27)。個々の電荷状態内の同位体のビーティングは、この収集モードでは、比較的低い分解能につながる過渡信号時間を制限する。メガダルトンイオンは、8.2MDa種について約5,000FWHMのm/z分解能に対応する最大1.5秒間トラップされた。サンプルの第1高調波のm/zエンベロープは、約7000m/zでピークに達し、これらの球状ビーズのレイリー限界にほぼ近い荷電を示した。分析器は、独自のエネルギーフィルタとして作用し、最初の数ミリ秒以内にその位相空間許容外のイオンを排除し、残存イオンを、収集されたスペクトルに寄与するように残す(
図28)。最終的な質量スペクトルは、既知の振幅の小信号を前置増幅器に注入することによって較正された。この場合の精度は、入力コンデンサの電気公差によって制限されるが、それは、現時点でわずか25%である。
【0234】
図29(上)は、例示的な実施形態による、ノイズの排除前の周波数領域スペクトルを示し、
図29(下)は、ノイズ排除後の周波数領域スペクトルを示す。
図29(下)は、高調波フィルタ(周波数の比率)を追加することでノイズ(灰色)が排除され、真のイオン信号(赤色)がより明らかになることを示す。この例では、所定の周波数許容範囲は、±0.01%である。
【0235】
図30は、異なる日に取得されて測定の再現性を示す、
図21のCDMSを用いて収集されたポリスチレンビーズの2つのテクニカルレプリケート(赤色、青色)を示す。
図31は、
図21のCDMSを用いて収集された、30nmのポリスチレンビーズサンプル(8.2MDa)の質量ヒストグラムである。
【0236】
好ましい実施形態を図示し、説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義され、且つ上述された本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変形形態及び変更形態がなされ得ることを理解するであろう。
【0237】
本出願に関連して本明細書と同時に又は本明細書よりも以前に出願され、本明細書とともに公衆の縦覧に供されるすべての論文及び文献に注意が向けられ、すべてのそうした論文及び文献の内容は、参照により本明細書に援用される。
【0238】
(任意の添付の請求項及び図面を含む)本明細書に開示した特徴のすべて及び/又はそのように開示した任意の方法若しくはプロセスのステップのすべては、そのような特徴及び/又はステップの多くてもいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わされ得る。
【0239】
(任意の添付の請求項及び図面を含む)本明細書で開示した各特徴は、別段の明示的な記載がない限り、同じ、均等な又は同様の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられ得る。したがって、別段の明示的な記載がない限り、開示した各特徴は、一般的な一連の均等な又は同様の特徴の単なる一例にすぎない。
【0240】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、(任意の添付の請求項及び図面を含む)本明細書に開示した特徴の任意の新規なもの若しくは任意の新規な組合せ又はそのように開示した任意の方法若しくはプロセスのステップの任意の新規なもの若しくは任意の新規な組合せに及ぶ。
【0241】
参考文献
【0242】
【外国語明細書】