(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174851
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】時計構成要素及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 19/28 20060101AFI20241210BHJP
G04B 3/04 20060101ALI20241210BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G04B19/28 A
G04B3/04 D
G04B3/04 G
G04B19/06 B
G04B19/06 G
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024090807
(22)【出願日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】23177386
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カリーヌ ビアンベニュ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー フルリ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-バティスト ロビン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】時計構成要素を製造する方法を提供する。
【解決手段】射出によって、少なくとも1つのベース面210と、ベース面から突出する少なくとも1つの突出部220と、を含むブランク200E1を形成する工程と、ベース面の少なくとも一部及び/又は突出部の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層を形成する工程と、少なくとも1つのコーティング層の少なくとも一部をレーザアブレーションによって除去する工程と、ベース面の少なくとも一部及び/又は突出部の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つのコーティング層の少なくとも一部をレーザ加工することによってテクスチャ加工する工程と、を含む方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計構成要素を製造する方法であって、
-特に射出によって、少なくとも1つのベース面(210)と、前記ベース面(210)から突出する少なくとも1つの突出部(220)と、を備えるブランク(200E1)を形成する工程(10)と、
-前記ベース面(210)の少なくとも一部及び/又は前記少なくとも1つの突出部(220)の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する工程(20)と、
-前記少なくとも1つのコーティング層(250)の少なくとも一部をレーザアブレーションによって除去する工程(30)と、
-前記少なくとも1つのコーティング層(250)によって以前に覆われていた前記ベース面(210)の少なくとも一部、及び/又は前記少なくとも1つのコーティング層(250)によって以前に覆われていた前記少なくとも1つの突出部(220)の少なくとも一部、及び/又は前記少なくとも1つのコーティング層(250)の少なくとも一部をレーザ加工することによってテクスチャ加工する工程(40)と、
を含む、方法。
【請求項2】
レーザアブレーションによって除去する前記工程(30)を実行して、
-前記ベース面(210)から前記コーティング(250)の合計厚み及び任意選択的に前記ブランク(200E1)の厚みを局所的に除去し、かつ/又は
前記コーティング(250)の前記合計厚みよりも小さい厚みの前記コーティング(250)を局所的に除去し、かつ/又は
-前記コーティング(250)の前記合計厚みよりも厳密に薄い前記コーティング(250)の可変厚みを局所的に除去する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの突出部(220)は、頂部(220s)を形成する少なくとも1つの表面と、前記頂部(220s)と前記ベース面(210)との間に配置された側部(220f)を形成する少なくとも1つの表面と、を備え、
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程は、前記ベース面(210)の少なくとも一部、前記少なくとも1つの突出部(220)の前記頂部(220s)を形成する前記表面の少なくとも一部、及び前記少なくとも1つの突出部(220)の前記側部(220f)を形成する前記表面の少なくとも一部を覆うコーティング(250)を形成するために提供され、
前記除去する工程(30)を実行して、前記ベース面(210)を覆う前記コーティング(250)を除去し、
前記テクスチャ加工する工程(40)を実行して、前記ベース面(210)の少なくとも一部をテクスチャ加工する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
レーザアブレーションによる除去の前記工程(30)及びレーザ加工によるテクスチャ加工の前記工程(40)は、少なくとも部分的に同時であり、かつ/又は1つの同じレーザ源(610)を用いて実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
レーザアブレーションによる除去の前記工程(30)及びレーザ加工によるテクスチャ加工の前記工程(40)は、超短パルスレーザ源(610)を用いて、好ましくはナノ秒の範囲、より好ましくはピコ秒の範囲、更により好ましくはフェムト秒の範囲のパルスを放出するように構成されたパルスレーザ源(610)を用いて実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)の後に、特に、前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)と前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)との間に実行される、前記ブランク(200E1)を機械加工及び/又は研削する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)と、前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)との間に実行される、前記ブランク(200E1)を仕上げ加工する工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、物理気相成長法(PVD)の工程、及び/又は化学気相成長法(CVD)の工程、及び/又は原子層堆積(ALD)の工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、セラミック材料の少なくとも1つの層及び/又は金属複合材を含む材料の少なくとも1つの層の前記形成を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、
-金属炭化物、特に炭化タングステン、及び/又は炭化チタン、及び/又は炭化ジルコニウム、及び/又は炭化タンタル、及び/又は炭化ニオブ、及び/又は炭化クロム、及び/又は炭化ハフニウム、及び/又は
-少なくとも1つの金属窒化物、特に窒化クロム、及び/又は窒化ホウ素、及び/又は窒化ジルコニウム、及び/又は窒化チタン、及び/又は窒化タンタル、及び/又は窒化ニオブ、及び/又は窒化ハフニウム、及び/又は
-合金中の、上記のような異なる金属炭化物の組み合わせ、及び/又は上記のような異なる金属窒化物の組み合わせ、及び/又は上記のような金属窒化物と上記のような金属炭化物との組み合わせ、
を少なくとも含む少なくとも1つの層の前記形成を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)の金属は、タングステン(W)、及び/又はチタン(Ti)、及び/又はジルコニウム(Zr)、及び/又はタンタル(Ta)、及び/又はニオブ(Nb)、及び/又はクロム(Cr)、及び/又はハフニウム(Hf)、又はチタン-アルミニウム(TiAl)、クロム-アルミニウム(CrAl)、若しくはハフニウム-チタン(HfTi)合金などのそれらの合金を含む群の一部である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記テクスチャ加工する工程(40)は、少なくとも1つのコーティング層(250)及び/又は前記ベース面(210)及び/又は前記突出部(220)をテクスチャ加工して、サテン仕上げ、及び/又はブラッシング、及び/又は釘付け、及び/又はサンレイブラッシング、及び/又は少なくとも1つのコート・ド・ジュネーブ、及び/又は円形グレーニング、及び/又はスポッティング、及び/又は任意のタイプの装飾、特に繰り返しパターンを有する任意のタイプの装飾を形成するように実行される、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
時計構成要素であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法による、ブランク(200E1)から形成された本体を備えるか、又は本体の形態をとる、タイムピースに取り付けられるように意図された時計構成要素。
【請求項14】
前記本体は、ベース面(210)と、前記ベース面(210)から突出し、頂部(220s)と、前記ベース面(210)と前記頂部(220s)との間に配置された少なくとも1つの側部(220f)とを含む少なくとも1つの突出部(220)と、を備え、前記頂部(220s)及び前記少なくとも1つの側部(220f)は、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法によって形成されたコーティング(250)によって覆われ、前記ベース面(220)は、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法によってテクスチャ加工されている、請求項13に記載の時計構成要素。
【請求項15】
ベゼル(200)、又はベゼルディスク、又は文字盤、又はリューズ、又は押しボタン、又は留め金カバーなどの時計装飾構成要素を形成する、請求項13又は14に記載の時計構成要素。
【請求項16】
前記少なくとも1つの突出部(220)は、少なくとも頂部(220s)と、前記突出部(220)の前記頂部(220s)と前記ベース面(210)との間に配置された側部(220f)と、を備え、前記少なくとも1つの側部(220f)は、前記ベース面(210)の法線(210n)に対して、好ましくは5°~25°、特に10°~20°のレリーフ角を有する、請求項13~15のいずれか一項に記載の時計構成要素。
【請求項17】
前記ブランク(200E1)は、セラミック材料及び/又は金属材料及び/又はサーメットを含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の時計構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、時計構成要素の製造に関し、特に、本発明は、レリーフ部品と、コーティングによって覆われた部品と、を有する時計構成要素の製造に関することができる。
【0002】
関連技術
レリーフ部品を有する時計構成要素の従来技術では、欧州特許出願公開第3892151号が知られており、コーティングによって覆われた部品を有し、レリーフの装飾インサートを含み得る時計構成要素を開示している。一方、この文献は、構成要素の特定の部品をテクスチャ加工するための解決策を何ら提案しておらず、構成要素のベース部品と比較して特定の外観を有するレリーフ部品を有する構成要素を何ら示唆していない。かかる時計構成要素(レリーフ部品でコーティングされた)は、タイムピースの可視部品として使用されることが多く、したがって、耐久性のある方法で、ユーザにとって最も美しい外観を確実にするために、正確かつ確実に実装する必要がある。国際公開第2018/109065号は、非導電性材料で作られた装飾要素又は時計の文字盤を製造する方法に関し、この方法では、非導電性材料で作られたベースを樹脂の犠牲層で覆い、エッチングし、次に機械的に平削りし、最後に樹脂の犠牲層を化学物質で溶解している。
【発明の概要】
【0003】
本発明の1つの目的は、上述の従来技術を改善することであり、具体的には、第1に、レリーフ部品、並びに異なる色及び/又は異なるテクスチャの部分を特徴とする時計構成要素を効率的に、迅速に、正確に、かつ確実に製造することを可能にする時計構成要素を製造する方法を提案して、経時的に持続する美しい外観をユーザに提供することである。本発明の1つの目的はまた、突出部品又はレリーフ部品と、異なる色及び/又は異なるテクスチャの部品と、を有する時計構成要素を提案して、経時的に持続する美しい外観と、パターンの多感覚読み取りを可能にする心地よい触覚感覚と、を有する時計構成要素をユーザに提供することである。
【0004】
そのために、本発明の第1の態様は、時計構成要素を製造する方法であって、
-少なくとも1つのベース面と、ベース面から突出する少なくとも1つの突出部とを含むか又は備えるブランクを、特に射出によって形成する工程と、
-ベース面の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つの突出部の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層を形成する工程と、
-当該少なくとも1つのコーティング層の少なくとも一部をレーザアブレーションによって除去する工程と、
-当該少なくとも1つのコーティング層によって以前に覆われていたベース面の少なくとも一部、及び/又は少なくとも1つのコーティング層によって以前に覆われていた当該少なくとも1つの突出部の少なくとも一部、及び/又は少なくとも1つのコーティング層の少なくとも一部をレーザ加工することによってテクスチャ加工する工程と、を含む。
【0005】
上記の実装形態による方法は、ベース面及び少なくとも1つの突出部をコーティングによって覆う工程を含み、次いで、コーティング又は少なくとも1つのコーティング層を除去し、構成要素の可視表面をテクスチャ加工する工程を含む。したがって、コーティング及び/又はテクスチャ加工の境界設定がレーザ加工によって行われているため、美しい外観及び/又は非常に高い実施精度を有する、突出部品又はレリーフ部品、コーティングによって覆われた部品、及びテクスチャ加工された部品を有する時計構成要素を提案することができる。また、高い耐摩耗性及び/又は高い硬度を有する、環境応力又は衝撃に対して耐性のあるブランク材料及び/又はコーティングを提案することができ、レーザ加工は、コーティング又は少なくとも1つのコーティング層を容易に除去することができ、かつ/又はブランク材料をテクスチャ加工することができる。ベース面の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つの突出部の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層を形成することが可能であり、すなわち、単一のコーティング層を形成することができるが、2つ、3つ、又は更に多くのコーティング層を形成することもできることに留意されたい。ブランクの全ての部分、又はユーザに可視である全ての部分を覆うために、特定のコーティング層を設けることができる。また、特定のコーティング層がブランクを部分的に覆うか、又はユーザに可視である部分を部分的に覆うようにすることもできる。
【0006】
製造方法及び/又は時計構成要素は、更に、以下の特徴のうちの1つ以上を、単独で又は組み合わせて有することができる。
【0007】
一実施形態によれば、レーザアブレーションによる除去の工程及びレーザ加工によるテクスチャ加工の工程は、少なくとも部分的に同時であり、かつ/又は同じレーザ源を用いて実行される。特に、コーティング全体が除去される部分では、コーティングを除去することが意図されるものと同じ、時計構成要素上のレーザビームの1回又は複数回のパス中に、以前にコーティングされた材料上にテクスチャが形成されるようにすることができる。換言すれば、除去の工程及びテクスチャ加工の工程は、同時であり、レーザビームの同じパスの間、同じ照射動作の間に実行される。コーティングされた領域の境界はテクスチャ加工された領域の境界に対応するため、非常に高い精度が得られ、コーティングされた領域とテクスチャ加工された領域との間にシフト又は「コーティングもテクスチャ加工もされていない」領域は存在しない。換言すれば、コーティングのレーザアブレーションは、テクスチャ加工を同時に実行し、これにより、コーティングされた表面から、露出されテクスチャ加工された表面に直接進むことが可能になる。換言すれば、レーザアブレーションによる除去の工程及びレーザ加工によるテクスチャ加工の工程は、少なくとも部分的に同時であり、すなわち、それらは同時に行われ、及び/又はレーザビームによる部品の照射(すなわち、1つの単一レーザビームのパス)は、当該少なくとも1つのコーティング層の除去と、(当該少なくとも1つのコーティング層によって以前に覆われていた)ベース面の少なくとも一部及び/又は(当該少なくとも1つのコーティング層によって以前に覆われていた)少なくとも1つの突出部の少なくとも一部及び/又は少なくとも1つのコーティング層の少なくとも一部のテクスチャ加工とを一度にもたらす。
【0008】
一実施形態によれば、レーザアブレーションによって除去する工程を実行して、
-ベース面からコーティングの合計厚み及び任意選択的にブランクの厚みを局所的に除去し、かつ/又は
-コーティングの合計厚みよりも薄い又は小さい厚みのコーティングを局所的に除去し、かつ/又は
-コーティングの合計厚みよりも厳密に薄い又は小さいコーティングの可変厚みを局所的に除去する。レーザ源を用いて行われるアブレーション及び/又はテクスチャ加工処理は、同じ構成要素に対して、多種多様な除去及び/又はテクスチャ加工を可能にする。特定の場所では、コーティング全体を除去するため、及び任意選択的に、ブランク材料をテクスチャ加工するために提供することができ、他の場所では、コーティングの一部、すなわち、特定のコーティング層のみを除去するために提供されることができ、更に他の場所では、コーティングの可変部分を除去するために提供されることができ、最終的に、更に他の場所では、コーティングをテクスチャ加工するために提供されることができる。
【0009】
好ましくは、除去する工程は、テクスチャ加工する工程で使用されるものと同じレーザ源と同時であり、かつ/又はそれを用いて行われる。特定の実施形態によれば、これらの2つの工程は、ベース面の少なくとも一部、少なくとも1つの突出部の頂部を形成する表面の少なくとも一部、及び少なくとも1つの突出部の側部を形成する表面の少なくとも一部を覆うコーティングに対して実施され、ベース面の少なくとも一部を覆うコーティングを除去すること、並びにベース面の少なくとも一部をテクスチャ加工することを目的とする。この実装形態によれば、少なくとも1つの突出部は、当該少なくとも1つのコーティング層によってコーティングされ(好ましくは完全にコーティングされ)、ブランクのベース面は、コーティングを有さず(好ましくは完全にコーティングを有さず)、ブランクのベース面は、テクスチャ加工される(好ましくは完全にテクスチャ加工される)。この実装形態によれば、最初にコーティングされたベース面のレベルで、材料の除去及びテクスチャ加工を実行したのは同じレーザ加工作業であり、コーティングの剥離された領域が同時にテクスチャ加工されるため、コーティングされた領域とテクスチャ加工された領域との間に遷移又はオフセットの領域はない。
【0010】
一実施形態によれば、レーザアブレーションによる除去の工程及び/又はレーザ加工によるテクスチャ加工の工程は、突出部品の側部に対して行われる。特に、レーザアブレーションによる除去の工程及び/又はレーザ加工によるテクスチャ加工の工程は、突出部品の側部上で実行することができ、後者は、ベース面の法線に対して、好ましくは5°~25°、特に10°~20°のレリーフ角(クリアランス角)を形成する。
【0011】
一実施形態によれば、側部のレーザテクスチャ加工は、突出部のベース面及び/又は頂面のレーザテクスチャ加工とは異なり得る。換言すれば、突出部の側部、ベース面及び/又は頂面のコーティング層及びブランク本体材料は、それぞれ異なるように、具体的に又は別々にテクスチャ加工される。
【0012】
一実施形態によれば、当該少なくとも1つの突出部は、例えば「O」(文字O)若しくは「0」(ゼロ)などの閉じたパターン、又は任意の他の閉じたパターン若しくは装飾を形成する。「閉じたパターン」という用語は、例えば「4」又は「9」などの閉じたパターン部分を含む任意のパターンを意味すると理解されるべきである。一実施形態によれば、閉じたパターンは、例えば、当該少なくとも1つのベース面と同じ高さに配置された、又は位置合わせされた内側表面を備えるか、又は有する。一実施形態によれば、コーティング層は、内側表面上に形成される。一実施形態によれば、内側表面上に形成されたコーティング層は、レーザアブレーションによって少なくとも部分的に除去され、及び/又はレーザ加工によって少なくとも部分的にテクスチャ加工される。好ましくは、内側表面は、当該内側表面上に形成されたコーティング層の少なくとも部分的な除去中に少なくとも部分的にテクスチャ加工される。したがって、内側表面上に形成されたコーティング層を少なくとも部分的にアブレーションする工程と、当該内側表面をテクスチャ加工する工程と、を同時に行うことができる。
【0013】
一実施形態によれば、当該少なくとも1つの突出部は、5mm未満、3mm未満、又は2mm未満だけ離間された少なくとも2つのレリーフを形成するか、又は有する。
【0014】
一実施形態によれば、レーザアブレーションによる除去の工程及び/又はレーザ加工によるテクスチャ加工の工程は、超短パルスレーザ源を用いて、好ましくはナノ秒のオーダー又は範囲、より好ましくはピコ秒のオーダー又は範囲、更により好ましくはフェムト秒のオーダー又は範囲のパルスを放出するように構成されたパルスレーザ源を用いて実行される。かかるレーザ源は、高精度で、及び/又は部品の残りの部分に熱的に影響を及ぼすことなく、処理を実行することを可能にする。典型的には、可動テーブル及び/又は可動ミラーを用いて、時計構成要素とレーザ源との間に相対運動を課すことができる。
【0015】
一実施形態によれば、製造方法は、ブランクを形成する工程の後、特にブランクを形成する工程と、当該少なくとも1つのコーティング層を形成する工程との間に実行される、ブランクを機械加工及び/又は研削する工程を含むことができる。典型的には、コーティングを形成する前に、時計構成要素の機能面の全部又は一部を機械加工/研削することができるが、他の時点で時計構成要素の表面を機械加工/研削することもできる。
【0016】
一実施形態によれば、製造方法は、ブランクを形成する工程の後、特にブランクを形成する工程と、当該少なくとも1つのコーティング層を形成する工程との間に実行される、ブランクを終了又は仕上げ加工する工程を含むことができる。仕上げ加工する工程は、典型的には、表面状態、特に粗さの変更、及び/又は光沢などの表面の外観の変更をもたらすことができる。典型的には、少なくとも1つのコーティング層を形成する前に、時計構成要素の可視表面の全て又は一部に仕上げ加工を施すことができるが、他の時点で時計構成要素の表面に仕上げ加工を施すこともできる。
【0017】
一実施形態によれば、少なくとも1つのコーティング層を形成する工程は、物理気相成長法(PVD:physical vapor deposition)の工程、及び/又は化学気相成長法(CVD:chemical vapor deposition)の工程、及び/又は原子層堆積(ALD:atomic layer deposition)の工程を含む。かかる方法により、非常に硬いコーティング層(例えば、500HV超、好ましくは1000HV超、又は好ましくは1500HV超の硬度)、及び/又は特定の色又は少なくともブランクのベース材料の色とは異なる色を有するコーティング層を形成することができる。換言すれば、少なくとも1つのコーティング層は、装飾層であり、その残りの部分は、(摩擦、衝撃、湿気などにさらされる)時計構成要素の外面を形成することが意図されている。
【0018】
一実施形態によれば、ブランクを形成する工程は、セラミック材料及び/又は金属材料及び/又はサーメットを含むブランクを形成するように実行される。サーメットは、典型的には、その中に金属相が存在するセラミック骨格を有する材料である。
【0019】
一実施形態によれば、少なくとも1つのコーティング層を形成する工程は、セラミック材料の少なくとも1つの層及び/又は金属複合材を含む材料の少なくとも1つの層の形成を含む。
【0020】
一実施形態によれば、少なくとも1つのコーティング層を形成する工程は、
-金属炭化物、特に炭化タングステン、及び/又は炭化チタン、及び/又は炭化ジルコニウム、及び/又は炭化タンタル、及び/又は炭化ニオブ、及び/又は炭化クロム、及び/又は炭化ハフニウム、及び/又は
-少なくとも1つの金属窒化物、特に窒化クロム、及び/又は窒化ホウ素、及び/又は窒化ジルコニウム、及び/又は窒化チタン、及び/又は窒化タンタル、及び/又は窒化ニオブ、及び/又は窒化ハフニウム、及び/又は
-合金中の、上記のような異なる金属炭化物の組み合わせ、及び/又は上記のような異なる金属窒化物の組み合わせ、及び/又は上記のような金属窒化物と上記のような金属炭化物との組み合わせ、を少なくとも含む少なくとも1つの層の形成を含む。
【0021】
一実施形態によれば、コーティング層の金属は、タングステン(W)、及び/又はチタン(Ti)、及び/又はジルコニウム(Zr)、及び/又はタンタル(Ta)、及び/又はニオブ(Nb)、及び/又はクロム(Cr)、及び/又はハフニウム(Hf)、及び/又は金(Au)、及び/又はパラジウム(Pd)、及び/又は白金(Pt)、又はチタン-アルミニウム(TiAl)、クロム-アルミニウム(CrAl)、若しくはハフニウム-チタン(HfTi)合金などのそれらの合金を含む群の一部である。
【0022】
一実施形態によれば、テクスチャ加工する工程は、少なくとも1つのコーティング層及び/又はベース面及び/又は突出部をテクスチャ加工して、サテン仕上げ、及び/又はブラッシング、及び/又は釘付け、及び/又はサンレイブラッシング、及び/又は少なくとも1つの「コート・ド・ジュネーブ」、及び/又は円形グレーニング及び/又はスポッティング、及び/又は任意のタイプの装飾、特に繰り返しパターンを有する任意のタイプの装飾を形成するために提供される。
【0023】
一実施形態によれば、当該少なくとも1つのベース面は、傾斜面又は曲面又は凸面である。特に、当該少なくとも1つのベース面は、非平坦であってもよい。一実施形態によれば、当該少なくとも1つの突出部は、傾斜面又は曲面又は凸面を有する。特に、当該少なくとも1つの上面は、非平坦であってもよい。
【0024】
本発明の第2の態様は、タイムピースを製造する方法であって、
-本発明の第1の態様による製造方法によって製造された時計構成要素を提供する工程と、
-タイムピースの可視部品に時計構成要素の少なくとも一部を位置付けるように、時計構成要素をタイムピースに組み付ける工程と、を含み、
-当該少なくとも1つのコーティング層は、少なくとも部分的に除去及び/又はテクスチャ加工されており、かつ/又は
-ベース面及び/又は少なくとも1つの突出部は、テクスチャ加工されている、方法に関することができる。
【0025】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による製造方法によってブランクから形成された本体を備えるか、又は本体の形態をとる、タイムピースに取り付けられるように意図された時計構成要素に関することができる。一実施形態によれば、時計構成要素は、複数の部品のアセンブリであってもよい。特に、時計構成要素は、単一部品として形成された時計ベゼルであり得、又は時計構成要素は、例えば、ベゼルリング(ベース)と、ベゼル上に取り付けられ、又は追跡され、又はセットされたベゼルディスクと、を含む時計ベゼルであり得る。
【0026】
一実施形態によれば、本体は、ベース面と、ベース面から突出し、頂部と、ベース面と頂部との間に配置された少なくとも1つの側部とを含む少なくとも1つの突出部又はレリーフ部と、を含む。頂部は、好ましくは、ベース面の表面に平行な表面を有するが、ベース面に平行でない表面を有することもできる。当該本体の当該突出部の頂部及び当該少なくとも1つの側部は、本発明の第1の態様による製造方法を使用して形成されたコーティングによって覆われ、当該本体のベース面は、本発明の第1の態様による製造方法によってテクスチャ加工されている。
【0027】
換言すれば、時計構成要素は、
本体を備え、該本体は、
-ベース面と、
-ベース面に対して少なくとも1つの突出部又はレリーフ部であって、頂部と、ベース面と頂部との間に配置された少なくとも1つの側部とを備える、少なくとも1つの突出部又はレリーフ部と、を備え、
頂部及び当該少なくとも1つの側部は、コーティング(少なくとも1つのコーティング層)によって覆われ、
ベース面はテクスチャ加工されており、
-ベース面は、頂部及び当該少なくとも1つの側部と同時にコーティングされており、
-ベース面のコーティングは、ベース面を(好ましくは同時に)テクスチャ加工するためにも使用されるレーザ加工によって除去されており、レーザ加工は、超短パルス(ナノ秒、ピコ秒又はフェムト秒の範囲)を放出するレーザ源を使用する。
上記の実装形態によれば、少なくとも1つのコーティングされた突出部(頂部及び側部を含む)、特にコーティングされた突出部品(頂部及び側部を含む)と、テクスチャ加工されたベース面と、を有し、これらの表面の間に中間遷移領域を有さない時計構成要素が得られる。
【0028】
一実施形態によれば、時計構成要素は、ベゼル、ベゼルディスク、文字盤、リューズ、押しボタン、又は留め金カバーなどの時計装飾構成要素を形成することができる。
【0029】
一実施形態によれば、少なくとも1つの突出部は、少なくとも頂部と、少なくとも1つの突出部の頂部とベース面との間に配置された側部と、を備え、当該少なくとも1つの側部は、ベース面の法線に対して、好ましくは5°~25°、特に10°~20°のレリーフ角を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の他の特徴及び利点は、いかなる限定もなしに例として与えられ、添付の図面によって示される本発明の一実施形態の以下の詳細な説明を読めば、より明確に明らかになるであろう。
【0031】
【
図1】この特定の例ではタイムピースのベゼルディスクを形成する、本発明による時計構成要素を備えるタイムピースの一部の斜視図である。
【0032】
【
図2】
図1のタイムピースのベゼルディスクの斜視図である。
【0033】
【
図3a】
図2のベゼルディスクを製造する方法の簡略図の第1の工程である。
【0034】
【
図3b】
図2のベゼルディスクの製造方法の簡略図の第2の工程である。
【0035】
【
図3c】
図2のベゼルディスクを製造する方法の簡略図の第3の工程である。
【0036】
【
図4】
図3aの製造方法の第1の工程における、
図2の軸II-IIに沿った
図2のベゼルディスクの断面図である。
【0037】
【
図5】
図3bの製造方法の第2の工程における
図4の断面である。
【0038】
【
図6】
図3cの製造方法の第3の工程の第1の変形例における
図4の断面である。
【0039】
【
図7】
図3cの製造方法の第3の工程の第2の変形例における
図4の断面である。
【0040】
【
図8】
図3cの製造方法の第3の工程の第3の変形例における
図4の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、タイムピースPの一部の斜視図であり、該タイムピースPは、一般的に、
-ケース100と、
-本発明による時計構成要素であって、この特定の例では、ベゼルリング230に固定され、歯付きであり、ケース100に回転可能に取り付けられたベゼルディスク200を含むベゼルを形成する、時計構成要素と、
-特に時間又は時刻の表示をユーザに提供するために、特にダイヤル、インデックス、針、及び数字を含み得るディスプレイインターフェース300と、を備える。
【0042】
図2は、
図1のタイムピースPのベゼルディスク200の斜視図を示している。ベゼルディスク200は、特に、
-ベース面210と、
-ここでは数字及びインデックスを形成する、ベース面210から突出する突出部220と、を備える。
図2の例では、ベゼルは回転部品であり、回転軸に対して傾斜したベース面210が円錐形であることに留意されたい。
図2のベゼルディスク200は、ユーザがベゼルを
図1のタイムピースPのケース100に対して回転させることを可能にするために、ここでは
図1に示すように歯付きである側面部品を備えるベゼルリング230に結合されるようになっている。当然ながら、ベゼルディスク200及び/又はより具体的にはベゼルリング230は、
図1のタイムピースPのケース100上のピボットリンケージに取り付けることを可能にするために、機械加工された機能表面を内側表面上に備えることができる。代替的に、ベゼルは、ケース100に取り付けることができる。
【0043】
本開示は、ベース上に突出部又はポジティブレリーフのパターンを有し、異なる色及び/又はテクスチャを有するベゼルディスク200の強化を提案することを目的とするが、
図1及び
図2は、明確にするために、これらの異なる色及び/又はテクスチャを示していない。この目的のために、製造された部品の表面間の異なる態様を示す
図3c(又は
図6~
図8)を参照する。
【0044】
したがって、本開示は、
図2のベゼルディスク200などの時計構成要素に関し、又は特に、例えばセラミック又はテクスチャ加工された金属などのベース上に突出部又はポジティブレリーフの色付きパターンを含むベゼル又は文字盤に関することができる。
【0045】
これを行うために、特にベゼルディスク200を得ることを目的として、本開示は、
図3a~
図3cに非常に概略的に示されており、以下に列挙される連続する工程、すなわち、
-(10-
図3a):特に射出によって、少なくともベース面210と、ベース面210から突出する少なくとも1つの突出部220とを含むブランク200E1を形成する工程と、
-(20-
図3b):ベース面210の少なくとも一部及び/又は突出部220の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層250を形成して、コーティングされたブランク200E2を得る工程と、
-(30-
図3c):当該少なくとも1つのコーティング層250の少なくとも一部をレーザアブレーションによって除去する工程と、好ましくは同時に(40):当該少なくとも1つのコーティング層250によって以前に覆われていたベース面210の少なくとも一部をレーザ加工によってテクスチャ加工して、ベゼルディスク200を得る工程と、を特に含む方法に関する。
【0046】
上述の製造方法の記載は、この方法の主要なステップを列挙しており、詳細には以下の特徴が提供される。
【0047】
したがって、第1の工程10では、突出部220を有するブランク200E1を得る。
【0048】
第1の実施形態及びブランク200E1を形成する工程10の第1のサブ工程によれば、ブランク200E1は、射出又はプレス加工タイプの成形方法によって得ることができる。
【0049】
射出される構成要素の材料は、金属、複合材料、サーメット、又は工業用セラミックであってもよい。有利には、工業用セラミックは、大部分又は主に(質量又はモルで)酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムから構成されてもよい。したがって、酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムは、セラミック中の主要な元素であり得る。当業者に知られているように、Hf、Y、Al、Si、Mg、Fe、Ni、Cr、Zn、Co、Mn、Cu、Ti、Ta、W、Ptなどの種々の元素をこの工業用セラミックに添加して、その性能を改善することができる。国際公開第2022/101450号に記載されているように、イットリア安定化ジルコニウム(2Y-ZrO2又は3Y-ZrO2)を時計構成要素ブランクに使用することができる。代替的に、使用される工業用セラミックは、例えば、ガラス、サファイア、又は鉱物材料から作製され得る。
【0050】
金属の場合、射出は、溶融状態又はガラス質状態(すなわち、溶融温度より低く、ガラス転移温度より高い射出温度)の金属合金を射出金型に射出することを含むことができる。その冷却後、例えば、金属ガラスなどの非晶質材料で作られた時計構成要素のブランク200E1を得ることができる。特に、ブランクの材料は、そのガラス形成能(GFA:glass forming ability)が時計構成要素の典型的な寸法で非晶質構造を得ることを可能にする任意の非晶質合金、特に、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)の元素及びそれらの合金又はブレンドの中からの少なくとも1つの金属で形成された金属ベースを含む非晶質金属合金であり得る。
【0051】
工業用セラミック又はサーメットの場合、ブランク200E1は、特に、射出後に得られたグリーン体を焼結する工程を含む射出法によって得られる。例えば、炭化タングステン、及び/又は炭化チタン、及び/又は炭化ジルコニウムタイプのセラミック相と、元素Ag、Pd、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、Auの1つ以上を含む金属結合剤とを含むサーメットを考慮することができる。
【0052】
別の実施形態によれば、ブランク200E1は、スタンピング、章動又はビーティングタイプによって、又はプレス加工によって得ることができる。
【0053】
これらのスタンピング部品は、好ましくは金属又は金属合金で作製される。
【0054】
更に別の実施形態によれば、ブランク200E1は、機械加工によって、特にセラミック若しくは金属要素又はサーメットのレーザ機械加工又は機械加工によって得ることができる。
【0055】
したがって、
図3aの図は、上記の技術のうちの1つを使用して形成されたブランク200E1を示している。
【0056】
部品を単一の部品として形成する(ブランク200E1が単一の部品として作製される)ようにすることができ、又は代替的に、単一の材料で作製されたベゼルリングと、単一の材料で作製された追加のベゼルディスク200とで複合された及び/又は組み立てられた部品を提供することができる。
【0057】
図4は、第1の工程の後の、この図の軸II-IIに沿った
図2のベゼルディスク200の断面を示している。段部200E1は、ベース面210から突出する突出部220を備え、突出部220は、頂部220sと、頂部220sとベース面210との間に配置された側部220fと、を備える。
【0058】
突出部220は、ベース面210から1mm未満、好ましくは0.5mm未満、非常に好ましくは0.3mm未満の距離又は高さにわたって、ベース面210への法線210nに沿って延在する。これらのパターンは、ブランク200E1のベース面210から少なくとも0.1mm、又は0.15mm、又は0.2mm、又は0.25mm、又は0.5mmの高さにわたって延在することができる。
【0059】
有利には、突出部220の側部220fは、更に、ベース面に対して90°とは異なる角度を形成する。
図4を参照すると、側部220fとベース面210に対する法線210nとの間の角度αは、15°に等しくすることができる。より一般的には、この角度αは、30°以下、又は25°以下、又は20°以下、又は15°以下、又は10°以下、又は5°以下である。代替的に、この角度αは0°に等しくてもよい。更に
図4において、ベース面210に対する法線と部品の下面に対する法線との間の角度bに留意されたい。この非限定的な例示的実施形態では、角度bは0°とは異なっており、すなわち、ベース面210は概ね傾斜している。
【0060】
ブランク200E1の形成の工程10の第2のサブ工程は、ベゼルディスク200のブランク200E1の底部を形成する表面とともに、内径及び/又は外径を形成する表面を、例えばフライス加工によって機械加工すること、特に研削することであり得る。
【0061】
当然ながら、本方法の工程のいずれかの後にこの工程を延長及び/又は完了することが可能である。特に、例えば、製造方法の終了ごとに歯付き側面部品230を機械加工することができる。
【0062】
ブランク200E1の形成の工程10の第3のサブ工程は、得られたブランク200E1の仕上げ加工を行うことであってもよい。
【0063】
これは、例えば、介在媒体によるブランク200E1の少なくとも1つの可視表面、好ましくはブランク200E1の全ての表面の表面状態の修正を得ることを可能にする仕上げ加工する工程であり得る。この工程は、例えば、ベゼルディスク200の少なくとも1つのブランク200E1、好ましくは多数のブランク200E1の、例えばバット内での、例えば振動、揺動、又は回転運動による衝撃によって、研磨混合物に機械的応力を加えること(摩擦仕上げ)を含むことができる。それはまた、例えば、限定するものではないが、ブランク200E1の少なくとも1つの可視表面、特にブランク200E1の全ての表面のタンブリング、及び/又はバレル研磨、及び/又はサンドブラスト、及び/又はショットブラスト、及び/又は湿式噴射を含む。
【0064】
代替的に、この工程は、金属部品のためのレーザ研磨又は電気化学研磨の工程を含んでもよい。
【0065】
次に、ブランク200E1の突出部220の頂部220s、特にその上面のラッピングを考慮することができる。
【0066】
製造方法は、コーティングされたブランク200E2を得るために、ブランク200E1の一部に少なくとも1つのコーティング層250を形成する工程20に続くことができる。詳細には、この工程は、
図3b又は
図5の断面に見ることができるように、突出部220を備えるブランク200E1の可視面上にコーティング250を形成する少なくとも1つの層を堆積させることであってもよい。好ましくは、堆積層の材料は、金属又は金属合金又はセラミックである。堆積物は、金属又はセラミックの外観を有することができる。この工程は、突出部220の上面、並びに当該突出部220の側部220f上にコーティングの少なくとも1つの層を形成することを可能にし、これは、側部がブランク200E1のベース面210上の法線210nに対して0°よりも大きい角度を形成するという事実によって有利に支持され得る。この工程はまた、突出部220が延在するベース面210上に少なくとも1つの層を形成することを可能にする。
【0067】
堆積方法は、密閉チャンバ510内で行うことができ、好ましくは物理気相成長法(PVD)によって実行される。代替的に、堆積は、化学気相成長法(CVD)又は原子層堆積(ALD)によって行うことができる。
【0068】
有利には、当業者に周知のかかる技術を使用して、例えば、窒化物(CrN、TiN、ZrN...)、炭酸塩複合材料(TiC、WC)、又は組み合わせ(TiCN、AlTiCN)を得ることができる。
【0069】
好ましくは、例えば、以下の金属炭化物又は金属窒化物の層が、本実施形態のために選択される。
-炭化タングステン、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化クロム、炭化ハフニウム。
-窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化クロム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム、窒化ホウ素。
【0070】
多種多様な提案が可能である。例えば、以下のような多数の組み合わせが考えられる。
-TiAlN/CrAlNのような2つの窒化物及び/又は金属合金炭化物の組み合わせ。
-ブロンズの金属光沢を得ることができる、HfTiCNのような窒化物と炭化物の組み合わせ。
【0071】
好ましくは、窒化クロムCrNの層が、その高い硬度(例えば、1000HV超、好ましくは1500HV超の硬度を得ることができる)のために、この実施形態のために選択されてもよい。より一般的には、コーティングを形成するために、又は可能であれば金属外観のコーティングを少なくとも部分的に形成するために、硬質セラミック系層が好ましい場合がある。
【0072】
もちろん、コーティングを形成するために、複数の重ね合わされた層の堆積を考慮してもよい。例えば、特定の効果を得るために、窒化ケイ素Si3N4の層を窒化チタンの層と組み合わせることができる。
【0073】
したがって、第2の主工程20は、異なる材料を含むか又は異なる材料からなる重ね合わされた層を堆積させることからなる一連のサブ工程を含むことができる。
【0074】
更に、他の層を考慮することもできる。例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC:diamond-like carbon)の名称で一般的に知られている炭素を含む又は炭素からなる層を堆積させることができる。代替的に、酸化物を含むか又は酸化物からなる層を堆積させることができる。
【0075】
特定の硬度及び/又は効果を得るために、これらが技術的に適合する場合、異なる層を組み合わせることが当然可能である。
【0076】
したがって、金属酸化物、特にTa2O5化学量論の酸化タンタルなどの酸化タンタル、又は酸化チタン、又は酸化ケイ素、又は酸化アルミニウム、又は金属合金酸化物、又は金属酸窒化物又は金属合金酸窒化物の少なくとも1つの層を堆積することを考慮することができる。
【0077】
図5は、
図4の一部を示しており、この部分は、コーティングされたブランク200E2を得るために、ベース面210全体及び全ての突出部220を覆うコーティング250の層を塗布するために、密閉チャンバ510内に配置されている。概略的に、ブランク200E2のベース材料はM1として表され、コーティング250又はコーティング層250の材料はM2として表され、少なくとも2つの材料(ベース材料M1、及び少なくとも1つのコーティング層の材料M2)を含むコーティングされたブランク200E2が得られることを明確に示している。
【0078】
コーティング250がブランク200E1の露出表面(典型的には全ての可視面)に塗布されると、異なる色及び/又は異なるテクスチャを有する追加の視覚効果を提供するために、これらの表面の一部にわたってこのコーティングを除去するための準備を行うことができる。
【0079】
この目的のために、第3の主工程30は、このベース面210のテクスチャ加工の第4の工程40と同時に、露出表面のうちの1つの上に配設された少なくとも1つの層をレーザ源610によって除去する。
【0080】
好ましくは、この第3の工程30の間に、ベース面210の全部又は一部からコーティングが除去される。
【0081】
代替的に又は追加的に、コーティングは、突出部220の表面の全て又は一部から除去される。
【0082】
少なくとも1つの堆積層を除去するこの工程30は、好ましくは、処理された表面のテクスチャ加工の工程40と同時である。
【0083】
使用されるレーザ源610は、好ましくは、ナノ秒、ピコ秒又はフェムト秒パルスを有するレーザなどの超短パルスを有するレーザ源610である。
【0084】
レーザ源610は、少なくとも1つの以前に堆積された層の厚みを超えることができる厚みにわたって材料を局所的に除去する。材料の除去は、時計構成要素を破損してはならないことに留意されたい。最大レーザアブレーション厚みは、材料及び/又は部品形状の関数として定義することができる。複数のパスを形成することも可能である。
【0085】
レーザ源610はまた、少なくとも1つの装飾層上及び/又は基板の露出表面上に美的レリーフを生成することができる。特に、レーザ源610は、事前にコーティングされた層をアンコーティングすることによって、基板の表面上に美的レリーフを生成することができる。少なくとも1つの表面のテクスチャ加工の一例は、サテン仕上げ、及び/又はブラッシング、及び/又は釘付け、及び/又はサンレイブラッシング、及び/又は少なくとも1つの「コート・ド・ジュネーブ」、及び/又は円形グレーニング及び/又はスポッティングを形成することによるものであり得る。
図3cは、ベース面210上に形成されたサンレイブラッシングを概略的に表している。
【0086】
図6に示す第1の実施形態によれば、レーザアブレーションは、少なくとも1つの堆積層の厚みに少なくとも等しい厚みにわたって、ベース面210上及びコーティングされたブランク200E2の側部上で実行され、このようにして露出されたベース面210の同時テクスチャ加工が、例えば、サンレイブラッシングを実行するなどして行われる(この図では、テクスチャ加工された領域は、それらの位置を明確に示すためにZTで示される)。ここでは、突出部220(その頂部220sもその側部220sも)は、レーザビームによって接触されない。したがって、レーザビームは、コーティング250の材料層M2を除去することと、コーティングされたブランク200E2のベース面210を装飾することと、の二重の機能を有する。
【0087】
特に
図7に示す第2の実施形態によれば、レーザアブレーションは、ベース面210の一部(
図7の左部分)にわたって実施することができ、
図7の右部分に示すように、レーザ源610を用いて、コーティングされたブランク200E2の材料M1にキャビティ又はスロットを機械加工及びテクスチャ加工することができる。この図では、テクスチャ加工された領域は、それらの位置を明確に示すためにZTで示されている。
【0088】
特に
図8に示す第3の実施形態によれば、レーザアブレーションは、可変であり得る厚みにわたって、ブランク上、突出部220上(及び/又はその側部上及び/又は基部上)で局所的に実行され得る。露出表面のテクスチャ加工は、同じ動作中に同じレーザを用いて部品上で局所的に行うことができる。
【0089】
図8に示すような可変厚みのアブレーションは、非常に有益な美的効果を有することができる。少なくとも1つの堆積層において、これは、例えば、色のグラデーションを導入することができる。全体として、これは、ハイライト及び深さの印象を提供することができる。この図において、テクスチャ加工された領域は、それらの位置を明確に示すためにZTで示されている。
工業用途
【0090】
本発明による製造方法及び/又は時計構成要素は、工業的に適用することができる。
【0091】
本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された本発明の種々の実施形態に対して、当業者に明らかな種々の変更及び/又は改良を行うことができることが理解されるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計構成要素を製造する方法であって、
-特に射出によって、少なくとも1つのベース面(210)と、前記ベース面(210)から突出する少なくとも1つの突出部(220)と、を備えるブランク(200E1)を形成する工程(10)と、
-前記ベース面(210)の少なくとも一部及び/又は前記少なくとも1つの突出部(220)の少なくとも一部を覆う少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する工程(20)と、
-前記少なくとも1つのコーティング層(250)の少なくとも一部をレーザアブレーションによって除去する工程(30)と、
-前記少なくとも1つのコーティング層(250)によって以前に覆われていた前記ベース面(210)の少なくとも一部、及び/又は前記少なくとも1つのコーティング層(250)によって以前に覆われていた前記少なくとも1つの突出部(220)の少なくとも一部、及び/又は前記少なくとも1つのコーティング層(250)の少なくとも一部をレーザ加工することによってテクスチャ加工する工程(40)と、
を含む、方法。
【請求項2】
レーザアブレーションによって除去する前記工程(30)を実行して、
-前記ベース面(210)から前記コーティング(250)の合計厚み及び任意選択的に前記ブランク(200E1)の厚みを局所的に除去し、かつ/又は
前記コーティング(250)の前記合計厚みよりも小さい厚みの前記コーティング(250)を局所的に除去し、かつ/又は
-前記コーティング(250)の前記合計厚みよりも厳密に薄い前記コーティング(250)の可変厚みを局所的に除去する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの突出部(220)は、頂部(220s)を形成する少なくとも1つの表面と、前記頂部(220s)と前記ベース面(210)との間に配置された側部(220f)を形成する少なくとも1つの表面と、を備え、
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程は、前記ベース面(210)の少なくとも一部、前記少なくとも1つの突出部(220)の前記頂部(220s)を形成する前記表面の少なくとも一部、及び前記少なくとも1つの突出部(220)の前記側部(220f)を形成する前記表面の少なくとも一部を覆うコーティング(250)を形成するために提供され、
前記除去する工程(30)を実行して、前記ベース面(210)を覆う前記コーティング(250)を除去し、
前記テクスチャ加工する工程(40)を実行して、前記ベース面(210)の少なくとも一部をテクスチャ加工する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
レーザアブレーションによる除去の前記工程(30)及びレーザ加工によるテクスチャ加工の前記工程(40)は、少なくとも部分的に同時であり、かつ/又は1つの同じレーザ源(610)を用いて実行される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
レーザアブレーションによる除去の前記工程(30)及びレーザ加工によるテクスチャ加工の前記工程(40)は、超短パルスレーザ源(610)を用いて、好ましくはナノ秒の範囲、より好ましくはピコ秒の範囲、更により好ましくはフェムト秒の範囲のパルスを放出するように構成されたパルスレーザ源(610)を用いて実行される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)の後に、特に、前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)と前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)との間に実行される、前記ブランク(200E1)を機械加工及び/又は研削する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ブランク(200E1)を形成する前記工程(10)と、前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)との間に実行される、前記ブランク(200E1)を仕上げ加工する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、物理気相成長法(PVD)の工程、及び/又は化学気相成長法(CVD)の工程、及び/又は原子層堆積(ALD)の工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、セラミック材料の少なくとも1つの層及び/又は金属複合材を含む材料の少なくとも1つの層の前記形成を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)を形成する前記工程(20)は、
-金属炭化物、特に炭化タングステン、及び/又は炭化チタン、及び/又は炭化ジルコニウム、及び/又は炭化タンタル、及び/又は炭化ニオブ、及び/又は炭化クロム、及び/又は炭化ハフニウム、及び/又は
-少なくとも1つの金属窒化物、特に窒化クロム、及び/又は窒化ホウ素、及び/又は窒化ジルコニウム、及び/又は窒化チタン、及び/又は窒化タンタル、及び/又は窒化ニオブ、及び/又は窒化ハフニウム、及び/又は
-合金中の、上記のような異なる金属炭化物の組み合わせ、及び/又は上記のような異なる金属窒化物の組み合わせ、及び/又は上記のような金属窒化物と上記のような金属炭化物との組み合わせ、
を少なくとも含む少なくとも1つの層の前記形成を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのコーティング層(250)の金属は、タングステン(W)、及び/又はチタン(Ti)、及び/又はジルコニウム(Zr)、及び/又はタンタル(Ta)、及び/又はニオブ(Nb)、及び/又はクロム(Cr)、及び/又はハフニウム(Hf)、又はチタン-アルミニウム(TiAl)、クロム-アルミニウム(CrAl)、若しくはハフニウム-チタン(HfTi)合金などのそれらの合金を含む群の一部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記テクスチャ加工する工程(40)は、少なくとも1つのコーティング層(250)及び/又は前記ベース面(210)及び/又は前記突出部(220)をテクスチャ加工して、サテン仕上げ、及び/又はブラッシング、及び/又は釘付け、及び/又はサンレイブラッシング、及び/又は少なくとも1つのコート・ド・ジュネーブ、及び/又は円形グレーニング、及び/又はスポッティング、及び/又は任意のタイプの装飾、特に繰り返しパターンを有する任意のタイプの装飾を形成するように実行される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
時計構成要素であって、請求項1に記載の製造方法による、ブランク(200E1)から形成された本体を備えるか、又は本体の形態をとる、タイムピースに取り付けられるように意図された時計構成要素。
【請求項14】
前記本体は、ベース面(210)と、前記ベース面(210)から突出し、頂部(220s)と、前記ベース面(210)と前記頂部(220s)との間に配置された少なくとも1つの側部(220f)とを含む少なくとも1つの突出部(220)と、を備え、前記頂部(220s)及び前記少なくとも1つの側部(220f)は、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法によって形成されたコーティング(250)によって覆われ、前記ベース面(220)は、請求項1に記載の製造方法によってテクスチャ加工されている、請求項13に記載の時計構成要素。
【請求項15】
ベゼル(200)、又はベゼルディスク、又は文字盤、又はリューズ、又は押しボタン、又は留め金カバーなどの時計装飾構成要素を形成する、請求項13又は14に記載の時計構成要素。
【請求項16】
前記少なくとも1つの突出部(220)は、少なくとも頂部(220s)と、前記突出部(220)の前記頂部(220s)と前記ベース面(210)との間に配置された側部(220f)と、を備え、前記少なくとも1つの側部(220f)は、前記ベース面(210)の法線(210n)に対して、好ましくは5°~25°、特に10°~20°のレリーフ角を有する、請求項13に記載の時計構成要素。
【請求項17】
前記ブランク(200E1)は、セラミック材料及び/又は金属材料及び/又はサーメットを含む、請求項13に記載の時計構成要素。
【外国語明細書】