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特開2024-174906運動系の疾患の治療のために有用な組成物
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  • 特開-運動系の疾患の治療のために有用な組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174906
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】運動系の疾患の治療のために有用な組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/38 20150101AFI20241210BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K35/38
A61P19/02
A61P19/04
A61K35/35
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024145223
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2022208183の分割
【原出願日】2017-10-25
(31)【優先権主張番号】1660464
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】519155653
【氏名又は名称】スカーセル セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラフォン, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】クーロン, ベルナール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ウマにおいて、運動系の疾患の治療又は予防に有用な組成物を提供する。
【解決手段】ウマにおける運動系の疾患の予防又は治療における使用のための、頬側細胞を含む組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウマにおける運動系の疾患の予防又は治療における使用のための、頬側細胞を含む組成物。
【請求項2】
ウマにおける腱炎の予防又は治療における、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
屈筋腱、特に指骨の浅い若しくは深い屈筋腱の腱炎、又は伸筋腱、特に指骨の外側若しくは指骨の前部の伸筋腱の腱炎の予防又は治療における、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
ウマにおける関節症の予防又は治療における使用のための、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
骨軟骨症又は関節症の予防又は治療における、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
馬が跛行を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
頬、舌、口蓋、唇粘膜、舌下粘膜、又は歯肉の細胞を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
歯肉試料の培養から誘導される、請求項1から7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
歯肉線維芽細胞を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
500万から4000万個の頬側細胞を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
細胞が異種性であり、これはそれらが、組成物が使用されるものとは別のウマから採取されることを意味する、請求項1から10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
細胞が自家性であり、これはそれらが、組成物が使用されるものと同じウマから採取されることを意味する、請求項1から10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にウマにおいて、運動系の疾患の治療又は予防に有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フランスにおいては、約28000頭の競走馬を含めて、ウマの総数は約350000頭である。それらの20から30%が腱障害を有する。もし競馬だけを考えるならば、これは年間約8000の事例を表している。
【0003】
抗炎症薬に基づいた従来の治療法は、6ヶ月から1年の休息を伴う長期の自然治癒と比較して、真の利益をもたらすことはない。さらに、これらの治療法は本質的に対症療法であり、腱を治癒しない。
【0004】
従って、元の腱に近づく腱の治癒を得るために、幹細胞、特に骨髄、臍帯又は脂肪組織由来の幹細胞を使用することが提案されている。
【0005】
しかしながら、脂肪組織細胞は、骨髄細胞よりも分化が少ないように見える。さらに、臍帯由来の幹細胞の信頼性は、実のところ確立されていない。
【0006】
従って、骨髄間葉系幹細胞が、現在、ウマの腱炎のための標準治療として使用されている(Godwin et al. (2012) Equine Veterinary Journal 44:25-32)。
【0007】
しかしながら、骨髄試料採取は比較的面倒な手順である。さらに、骨髄間葉系幹細胞は、本質的に自家使用のために検証されており、このことは細胞が、それらが投与される動物から採取されることを意味し、これはこの方法のコストを増大させる。
【0008】
それゆえ、実施することがより簡単でより安価である、代替治療法を有することは興味深いであろう。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、異種歯肉線維芽細胞に基づく組成物の、腱炎又は骨軟骨症を患っているウマへの投与が、これらの疾患を治療することを可能にしたという、発明者らによる予想外の発見から生じる。
【0010】
有利には、歯肉線維芽細胞は、容易に採取及び調製される。さらに、それらは異種使用という観点からも有効である。
【0011】
従って、本発明は、個体、特にウマにおける運動系の疾患の予防又は治療における使用のための、頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞を含む組成物に関する。
【0012】
さらに、本発明はまた、予防的又は治療的に有効な量で、頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞の組成物を個体に投与することを含む、個体、特にウマにおける運動系の疾患を予防又は治療する方法に関する。
【0013】
本発明はまた、個体、特にウマにおける運動系の疾患を治療するための医薬の調製のための、頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞を含む組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、歯肉線維芽細胞の組成物の注射前(D0)及び注射後3ヶ月(D0+3ヶ月)の、この腱の腱炎を伴う4頭の馬の浅い屈筋腱の超音波写真を示す。周囲よりも暗い、腱病変のある領域は、白い円で囲まれている。注射器による組成物の注射が、病巣内で行われる(矢印)。3ヵ月後、腱は均質な外観を呈し、病変が治療されたことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で意図されているように、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」又は「含む(containing)」という意味を有し、それは、対象物が1つ又は複数の要素を「含む」とき、言及されたもの以外の他の要素もその対象物に含まれ得ることを意味する。対照的に、対象物が1つ又は複数の要素「からなる(consist of)」と言われるとき、その対象物は列挙された要素に限定され、言及されたもの以外の他の要素を含むことはできない。
【0016】
運動系の疾患
本明細書で意図されるように、運動系の疾患、特にウマの疾患は、特に骨関節疾患又は筋骨格系疾患、特に肢の疾患を指す。
【0017】
ウマの運動系の疾患はとりわけ、“Maladie des Chevaux” (1994) Institut du cheval, France Agricole Editionsに記載されている。
【0018】
好ましくは、本発明に従った運動系の疾患は、腱障害又は腱損傷、特に腱炎である。
【0019】
より好ましくは、本発明に従った運動系の疾患は、特にウマにおける、屈筋腱、特に指骨の浅い若しくは深い屈筋腱の腱炎、又は伸筋腱、特に指骨の外側若しくは指骨の前部の伸筋腱の腱炎である。
【0020】
本明細書で意図されているように、浅い屈筋腱は貫通腱(perforated tendon)とも呼ばれ、指骨の深い腱も貫通腱(perforating tendon)と呼ばれる。
【0021】
また好ましくは、本発明に従った運動系の疾患は関節症(arthropathy)である。
【0022】
より好ましくは、本発明に従った運動系の疾患は、特にウマにおける骨軟骨症又は関節症(arthrosis)である。
【0023】
本明細書において意図されるように、関節症は変形性関節症と同義である。
【0024】
好ましくは、骨軟骨症又は関節症は、特にウマにおける、骨結節、離断性骨軟骨炎、又は骨嚢胞に関連する。
【0025】
好ましくはまた、本発明に従った骨軟骨症又は関節症は、ウマの、球関節(ball)、膝、近位レベルの踵関節、遠位レベルの踵関節、又はつなぎにおいてである。
【0026】
個体
好ましくは、本発明に従った個体は動物、特に家畜であり、より好ましくは、ウマ科、特にウマ、ラクダ科、特にラクダ、ヒトコブラクダ又はラマ、イヌ科、特にイヌ、ネコ科、特にネコ、及びダチョウからなる群から選択される。
【0027】
本発明に従った個体は、オス又はメスであり得る。
【0028】
好ましくは、本発明に従った個体は、馬、特に競技馬、より具体的には競走馬、速歩馬、駆動馬、跳躍馬、馬場馬術馬、クロスカントリー馬、総合馬術馬、持久力馬又はポロ馬である。
【0029】
本発明に従ったウマは、子馬、特に1歳馬、成体馬又は年寄りの馬であってもよい。
【0030】
好ましくは、本発明に従った個体は、跛行、特に前脚又は後脚の跛行を有する馬である。
【0031】
組成物
本明細書において意図されるように、「頬側細胞」という表現は、「口腔の細胞」又は「口腔粘膜の細胞」と同等である。
【0032】
好ましくは、本発明に従った頬側細胞は、頬の粘膜、舌、口蓋、唇粘膜、舌下粘膜、又は歯肉の細胞である。
【0033】
好ましくは、本発明による組成物は、歯肉試料の培養から誘導される。
【0034】
好ましくは、本発明による組成物は、歯肉線維芽細胞を含むか又はそれからなる。これは歯肉線維芽細胞の組成物と呼ばれる。本発明による組成物は、特に歯肉線維芽細胞の培養物、おそらくは濃縮物、又は歯肉線維芽細胞の懸濁液であり得る。
【0035】
歯肉線維芽細胞を採取し、培養し、保存するための手順は当業者によく知られており、特に、Naveau et al. (2006) J. Periodontol. 77:238-47及びGogly et al. (2007) Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 27:1984-90、並びに下記の実施例に記載されている。特に、歯肉線維芽細胞は、歯肉の試料又は生検を、おそらくは試料又は生検を酵素消化し、それを構成する歯肉線維芽細胞を放出させた後に、培養することによって得ることができる。従って、歯肉の試料又は生検の培養から生じる細胞は、本質的に歯肉線維芽細胞である。
【0036】
本発明の一実施態様において、本発明に従った歯肉線維芽細胞は、間葉系幹細胞を含む。当業者はよく理解するであろうように、間葉系幹細胞は、頬側間葉系幹細胞であり、これは口腔又は口腔粘膜、特に頬の粘膜、舌、口蓋、唇粘膜、舌下粘膜、又は歯肉のものを意味する。
【0037】
本発明の別の実施態様において、本発明に従った歯肉線維芽細胞は、間葉系幹細胞を含まないか、又は本質的に含まない。
【0038】
有利には、歯肉線維芽細胞は、容易に採取及び培養することができる。さらに、歯肉線維芽細胞は、速い増殖速度を有する。
【0039】
当業者はよく理解しているように、本発明による組成物は、本発明に従った頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞を予防的又は治療的に有効な量で含む。好ましくは、本発明による組成物は、本発明に従った500万から4000万個の頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞、より好ましくは、本発明に従った1000万から3000万個の頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞、さらにより好ましくは、本発明に従った1500万から2500万個の頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞、最も好ましくは、本発明に従った約2000万個の頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞を含む。本発明に従った頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞の定量は、当業者に知られている、哺乳動物細胞を計数するための任意の方法によって、特に細胞計数機を使用して実施することができる。
【0040】
好ましくは、本発明に従った頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞は異種性であり、これはそれらが、組成物が使用されるものとは別の個体、特に別のウマから採取されることを意味する。当業者はよく理解するであろうように、細胞が採取される個体と細胞が投与される個体とが、好ましくは同じ種である。
【0041】
また好ましくは、本発明に従った頬側細胞、特に歯肉線維芽細胞は自家性であり、これはそれらが、組成物が使用されるものと同じ個体、特に同じウマから採取されることを意味する。
【0042】
好ましくは、本発明による組成物は、治療される身体部位の近く又はその部位に投与され、より好ましくは治療される病変に投与される。投与は、細胞の投与に適した当業者に知られている任意の方法によって実施することができる。しかしながら、組成物は、特に治療されるべき病巣に注射されることが好ましい。好ましくは、本発明による組成物は、ウマにおいて、特に超音波誘導によって、治療される腱炎部位、より好ましくは腱病変に注射されるか、又は骨軟骨症若しくは関節症を伴う関節内若しくは関節に注射される。
【0043】
好ましくは、本発明に従った個体を予防又は治療する方法は以下の工程:
- 歯肉線維芽細胞を個体から採取する工程;
- 歯肉線維芽細胞を培養する工程;
- 歯肉線維芽細胞又は歯肉線維芽細胞の培養物を個体又は別の個体に投与する工程
を含む。
【0044】
本発明は、以下の図及び実施例によって、非限定的にさらに説明されるであろう。
【実施例0045】
実施例1:腱炎の治療
投与のための歯肉線維芽細胞の調製
約50mgの歯肉の生検をウマ(ウマ0)のメスで行い、次いで酵素的に消化して歯肉線維芽細胞の懸濁液を得る。懸濁液を計数した後、75cmのフラスコに、完全培地(DMEM 4.5g/lのグルコース+Glutamax(Gibco(登録商標))、ウシ胎児血清(FCS)(Gibco(登録商標))20%、抗生物質/抗真菌剤の存在下)に3x10個の歯肉線維芽細胞を播種し、培地を定期的に交換することにより、5%CO雰囲気中で90%コンフルエンスまで37℃でインキュベートする。
【0046】
次いで、歯肉線維芽細胞が回収される。5x10個の歯肉線維芽細胞を使用して、150cmのフラスコ中の25mlの完全培地に播種する。次いで、90%コンフルエンスに達するまで、培養培地を定期的に交換することにより、5%CO雰囲気下、37℃でインキュベーションを実施する。これが、初代継代を形成する。
【0047】
2つの他の継代が作製される。3回目の継代で、約20×10個の歯肉線維芽細胞を回収し、遠心分離し、抗生物質/抗真菌薬を含まない10mlのDMEM 0%FCS培地で洗浄し、遠心分離し、約3mlの容量に溶解する。次いで、歯肉線維芽細胞を投与用注射器に吸引し、投与するまで4℃に保つ。
【0048】
歯肉線維芽細胞の投与
おそらくは跛行に関連した浅い屈筋腱の腱炎を有する4頭のウマ(ウマ1、2、3、及び4)が、上記に示したように調製された異種歯肉線維芽細胞の注射を受けた。腱の損傷部位は、超音波検査によって確認されている(図を参照)。それは、その周囲と比較してより濃い(暗い)領域として見える。
【0049】
約20×10個の歯肉線維芽細胞の注射は、超音波誘導によって病変内に直接行われる(病変内注射)。
【0050】
結果
注射の3ヶ月後、治療部位の超音波観察が行われる(図を参照)。明らかな腱病変は残っていない:治療部位は、超音波検査により均一に見える。動物の運動は正常である。
【0051】
実施例2:骨軟骨症の治療
実施例1に記載したように調製した歯肉線維芽細胞を、跛行と関連した球関節の骨軟骨症を伴うウマ(ウマ5)の球関節に直接注射する。
【0052】
注射後約1週間で、跛行の消失が観察される。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウマにおける運動系の疾患の予防又は治療における使用のための、頬側細胞を含む組成物。
【外国語明細書】