(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174908
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】所望の粒子径分布および形態の薬物結晶を作製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
A61K 31/56 20060101AFI20241210BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/56
A61K47/32
A61K47/34
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024146085
(22)【出願日】2024-08-28
(62)【分割の表示】P 2021559798の分割
【原出願日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】62/832,179
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517093511
【氏名又は名称】ユープラシア ファーマシューティカルズ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グーダルジ,アザデ
(72)【発明者】
【氏名】ロス,トロイ
(72)【発明者】
【氏名】ゲインズ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ステツコ,ギナ
(72)【発明者】
【氏名】マロン,アマンダ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】狭い粒子径分布ならびに所望の寸法および形態を有する薬物結晶を形成するプロセスを提供する。
【解決手段】所望の粒子径分布および形態のコルチコステロイドの結晶を提供するためのプロセスであって、1超且つ20未満のアスペクト比を有する再結晶化された超大型の柱状結晶を提供するステップであって、所定の柱状結晶のアスペクト比が、長さ方向軸に垂直な横断面の最短寸法に対する長さ方向軸に沿った最長寸法の比であるステップと、前記再結晶化された超大型の柱状結晶を短くして、目標寸法を有する粒子径調整された結晶の集合体を提供するステップであって、前記再結晶化された超大型の柱状結晶を短くすることが、前記長さ方向軸に垂直な前記横断面の寸法を保持しながら、それぞれの前記長さ方向軸に沿って前記再結晶化された超大型の柱状結晶の少なくとも一部をセグメント化することを含むステップと、を含むプロセスとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の粒子径分布および形態の結晶を提供するためのプロセスであって、
1超および20未満のアスペクト比を有する再結晶化された柱状結晶を提供するステッ
プであって、所定の柱状結晶のアスペクト比が、長さ方向軸に垂直な横断面の最短寸法に
対する長さ方向軸に沿った最長寸法の比であるステップと、
前記再結晶化された柱状結晶を粒子径調整して、目標寸法を有する粒子径調整された結
晶の集合体を提供するステップであって、前記粒子径調整が、前記長さ方向軸に垂直な前
記横断面の寸法を保持しながら、それぞれの前記長さ方向軸に沿って前記再結晶化された
柱状結晶の少なくとも一部をセグメント化することを含むステップと、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記再結晶化された柱状結晶が、以下の基準:
(i)前記再結晶化された柱状結晶の90質量%が、1200ミクロン以下であること
;
(ii)前記再結晶化された柱状結晶の50質量%が、350±180ミクロン未満で
あること;
(iii)前記再結晶化された柱状結晶の10質量%以下が、50ミクロン未満である
こと;および、
(iv)前記再結晶化された柱状結晶の全体積の75%以上が、1~5のアスペクト比
を有すること、
のうちの1つ以上をさらに満たす、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記再結晶化された柱状結晶が、以下の基準:
(i)前記再結晶化された柱状結晶の50質量%が、80~600ミクロンの範囲内で
あること;
(ii)前記再結晶化された柱状結晶の75質量%が、50~800ミクロンの範囲内
であること;および、
(ii)前記再結晶化された柱状結晶の90質量%が、20~1100ミクロンの範囲
にあること、
のうちの1つ以上をさらに満たす、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記粒子径調整された結晶の前記集合体が、以下の目標寸法:
(i)前記粒子径調整された結晶の90質量%が、190ミクロン以下であること;
(ii)前記粒子径調整された結晶の50質量%が、90±20ミクロン未満であるこ
と;
(iii)前記粒子径調整された結晶の10質量%以下が、30ミクロン未満であるこ
と;
(iv)前記粒子径調整された結晶の全体積の75%以上が、1~3のアスペクト比を
有すること、
のうちの1つ以上を満たす、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記粒子径調整された結晶の前記集合体が、以下の目標寸法:
(i)前記粒子径調整された結晶の50質量%が、35~130ミクロンの範囲である
こと;
(ii)前記粒子径調整された結晶の75質量%が、30~145ミクロンの範囲であ
ること;および、
(ii)前記粒子径調整された結晶の90質量%が、25~170ミクロンの範囲であ
ること、
のうちの1つ以上を満たす、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記粒子径調整が、ロータ/ステータ型ホモジナイザにおいて前記再結晶化された柱状
結晶の前記長さ方向軸を短くして、短くなった結晶を提供することを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記粒子径調整が、前記短くなった結晶を篩分けして、篩分けされた結晶を提供するこ
とをさらに含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記篩分けされた結晶が、界面活性剤と、水、メタノール、エタノールおよびイソプロ
パノールからなる群から選択される1種以上の溶媒と、を含むリンス液で1回以上リンス
される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記リンス液が、0.05~1%(w/w)のポリソルベート80を含む、請求項8に
記載のプロセス。
【請求項10】
前記結晶が、薬学的活性成分(API)の結晶である、請求項1から9のいずれか一項
に記載のプロセス。
【請求項11】
前記結晶が、フルチカゾンプロピオン酸エステルの結晶である、請求項1から9のいず
れか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記粒子径調整された結晶が、流動床コーティング装置によってポリマー膜でさらに個
々にコーティングされる、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ポリマー膜が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコー
ル酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(トリメチレンカーボ
ネート)(pTMC)またはそれらの組み合わせから形成される、請求項12に記載のプ
ロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、持続放出製剤を提供するためにコーディングされるのに特に適する特定の粒
子径分布および形態の薬物結晶を製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物結晶は、薄いポリマー膜に完全にコーティングまたはカプセル化され、持続的にゆ
っくりと放出され得る。特許文献1は、関節または他の身体部分に注射でき、それによっ
てフルチカゾンプロピオン酸エステルが長期間にわたって局所的に放出されるが、低い全
身曝露によって臨床的に顕著なHPA軸の抑制を生じさせない、ポリビニルアルコール被
覆フルチカゾンプロピオン酸エステル結晶を開示している。
【0003】
薬物結晶を含む個々の固体粒子をコーティングまたはカプセル化するために、流動床装
置が一般的に使用される。かかる装置は、差動空気流(differential ai
r flow)を利用して固体粒子を浮遊させつつ、ノズルから霧化されたコーティング
材料(例えばポリマー溶液の液滴)を噴霧して固体粒子を個々にコーティングする。
【0004】
流動床装置は、コーティングされる薬物結晶が制御された再現性のある均一な粒子径分
布を有するとき、最適に機能する。粒子径の不均一な分布は、フローティングパラメータ
の最適化プロセスに影響を及ぼす。例えば、コーティングパラメータが小さい粒子が浮遊
するよう最適化されているとき、大きい粒子は不動のままである。逆に、パラメータが大
きな粒子に対して最適化されているとき、小さな粒子は側壁に大きな衝撃で衝突すること
によって破砕し、および/または、不均一なコーティング被覆率で凝集することがあり得
る。微細な粒子(「微粒子」)、例えば平均直径の15%未満の微粒子は、装置のフィル
タを詰まらせることによってさらなる問題を引き起こす可能性があり、および/または、
凝集によってコーティングの品質を変化させる可能性がある。粒子の形状もまた、粒子の
浮力および浮遊能力に影響を及ぼすため、コーティングの品質に影響を及ぼす。
【0005】
したがって、当技術分野では、所望の制御可能な粒子径分布および形態を有する薬物結
晶を再現可能に提供することに対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明では、流動床法による均一なコーティングに適した、所望の粒子径、形状および
粒子径分布を有する複数のまたは一群の薬物結晶が提供される。また、その製造方法も開
示される。
【0008】
特定の実施形態では、薬物結晶は、立方体様の形態(すなわち、すべての寸法が同等の
粒子径)および50~250μmの範囲の狭い粒子径分布を有するフルチカゾンプロピオ
ン酸エステル(FP)結晶である。
【0009】
本明細書に記載の方法およびプロセスは、フルチカゾンプロピオン酸エステルなどのフ
ルチカゾンエステルに限定されないことに留意されたい。むしろ、1つ以上の実施形態に
従い、他の薬物原料、特に長さ方向の結晶成長を優先する難溶性薬物(コルチコステロイ
ドなど)の再結晶および粒子径変更が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態による、粒子径調整された薬物結晶の集団を調製するプロセスのフローチャートを示す。
【0011】
【
図2A-C】目標寸法を有する薬物結晶に粒子径調整される前の、厚く細長い柱状の結晶に再結晶された、原料の取得したままの薬物材料または活性医薬成分(API)を示す。
【0012】
【
図3】フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)の単斜晶形態Iを示す。
【0013】
【
図4】厚く細長い結晶を製造するための結晶成長メカニズムを概略的に示す。
【0014】
【
図5】等温条件下で得られた再結晶化FP結晶のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を小スケールおよび大スケールでそれぞれ示す。
【
図6】等温条件下で得られた再結晶化FP結晶のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を小スケールおよび大スケールでそれぞれ示す。
【0015】
【
図7】別の等温条件下で得られた再結晶化FP結晶のSEM画像を小スケールおよび大スケールでそれぞれ示す。
【
図8】別の等温条件下で得られた再結晶化FP結晶のSEM画像を小スケールおよび大スケールでそれぞれ示す。
【0016】
【
図9】原料薬物材料(市販供給源)および一実施形態による再結晶化FP結晶のX線回折パターンを示す。
【0017】
【
図10】ベンチトップ型のロータ/ステータ型ホモジナイザを示す。
【0018】
【
図11】粒子径調整された(粉砕後に篩分けされた)薬物結晶のSEM画像を示す。
【0019】
【
図12】一実施形態による、粒子径調整された薬物結晶の粒子径分布を示す。
【0020】
【
図13】市販供給源のFP結晶と、本開示の一実施形態に従い得られた粒子径調整された薬物結晶とを横並びにした比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書には、特定の目標粒子径分布および形態を有するバルク結晶を提供するための
プロセスが記載される。本プロセスは、(1)1超および20未満のアスペクト比を有す
る再結晶化された柱状結晶を提供するステップであって、所定の柱状結晶のアスペクト比
が、長さ方向軸に垂直な横断面の最短寸法に対する長さ方向軸に沿った最長寸法の比であ
るステップと、(2)再結晶化された柱状結晶を粒子径調整して、特定の目標寸法を有す
る粒子径調整された結晶の集合体を提供するステップであって、粒子径調整のステップが
、長さ方向軸に垂直な横断面の寸法を保持しながら、それぞれの長さ方向軸に沿って再結
晶化された柱状結晶の少なくとも一部をセグメント化(分割)することを含むステップと
、を含む。
【0022】
本プロセスは、任意の結晶に適用可能であるが、バルク薬物結晶、すなわち単分散した
粒子径、形状および質量分布を有する粒子径調整された薬物結晶の集合体を生成するのに
特に適しており、それらの結晶を流動床型のコーティング装置によってコーティングする
のに特に適したものにする。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態によるプロセスを概略的に示す。プロセス(100)は、
市販供給源(110)由来のAPIなどの原料薬物を利用するが、それは典型的には微粒
子化された結晶(例えば5ミクロン未満)である。次いで、取得したままのAPI(11
0)を再結晶化(120)して、1超20未満の範囲のアスペクト比を有する柱状結晶を
提供するが、ここで、所定の結晶のアスペクト比は、長さ方向軸に垂直な横断面の最短寸
法に対する長さ方向軸に沿った最長寸法の比である。再結晶化された柱状結晶はその後、
目標寸法のバルク薬物結晶を提供するために粒子径調整(130)される。粒子径調整ス
テップは、再結晶化された柱状結晶の少なくとも一部が長さ方向軸に沿って優先的にセグ
メント化される、すなわち、長さ方向軸に垂直な横断面の寸法が保持される粉砕を含む。
セグメント化された結晶を篩分けし、特定の目標寸法を満たす結晶を回収する。得られた
バルク薬物結晶(140)は、本明細書で定義される狭い粒子径分布を有する粒子径調整
された結晶の集合体を含む。特に、バルク薬物結晶は、略均一な形状、粒子径および質量
分布を有し、流動床コーティングに適している。
【0024】
特定の実施形態では、粒子径調整された結晶は、再結晶化された柱状結晶からは短くな
るが、再結晶化された柱状結晶の長さ方向軸に垂直な横断面の寸法は保持される。特定の
実施形態では、粒子径調整された結晶は、1~3の範囲のアスペクト比を有する。より具
体的な実施形態では、粒子径調整された薬物結晶は、立方体形状であり、約1のアスペク
ト比を有する。本明細書で使用される場合、「略均一」の「略同じ」とは、25%以下、
または好ましくは15%以下、または好ましくは5%以下の差異であることを指す。
【0025】
図2A~
図2Cは、原料薬物材料(例えば
図2Aに示される市販の結晶性フルチカゾン
プロピオン酸エステル)を最初に大きな円柱状結晶に再結晶化し(
図2B)、続いて本明
細書で定義されるように、狭い粒子径分布の粒子径調整された結晶に粒子径調整する(例
えば再結晶化された柱状結晶を短くし、篩分けする)(
図2C)具体的な実施形態を示す
。
【0026】
粒子径調整工程を効果的に実施するためには、粒子径調整の対象になる再結晶化された
柱状結晶が、まず、特定の目標寸法を満たすことが重要である。より具体的な実施形態で
は、再結晶化された柱状の薬物結晶の目標寸法は、以下の基準のうちの1つ以上を満たす
:(i)全質量の90%が1200ミクロン以下であること(D90);(ii)全質量
の50%が350±180ミクロン未満であること(D50);(iii)全質量の10
%以下が50ミクロン未満であること(D10);(iv)薬物結晶の全体積の75%以
上が1~5のアスペクト比を有すること。
【0027】
他のより具体的な実施形態では、再結晶化された柱状結晶は、その最短寸法が少なくと
も10~500ミクロンである。
【0028】
本明細書で使用される場合、レーザー回折は、サンプルまたは粒子の集合体(例えば再
結晶化された柱状結晶および粒子径調整された結晶)の粒子径および粒子径分布を測定お
よび分析するために使用される方法論である。より具体的には、D10値は、サンプルの
質量の10%がこの値未満の直径を有する粒子で構成される直径を指す。同様に、D50
値は、サンプルの質量の50%がこの値より小さく、サンプルの質量の50%がこの値よ
り大きい、粒子の直径である。
【0029】
ヒストグラムにおいて、D10、D50およびD90は、粒子径における累積質量の1
0%、50%および90%についての切片である。密度はすべての粒子で同じであるため
、質量と体積とは線形関係にあり、したがって前記の%は同じままである。使用される方
法は、体積の累積分布も示す。
【0030】
さらにより具体的な実施形態では、粒子径調整ステップは、ロータ/ステータ型ホモジ
ナイザで柱状結晶を粉砕することを含む。典型的には、ロータ/ステータ型ホモジナイザ
は、回転するインナーロータと、固定されたアウターシースと、キャリア液体媒体と、固
体媒体(例えば再結晶化された柱状結晶)とを備える。
【0031】
さらにより具体的な実施形態では、粒子径調整ステップは、薬物結晶を篩分けるステッ
プをさらに含む。
【0032】
特定の実施形態では、得られた粒子径調整された結晶は、以下の1つ以上の基準を満た
す粒子径を有する:(i)全質量の90%(D90)が190ミクロン以下であること;
(ii)全質量の50%(D50)が90±20ミクロン未満であること;(iii)全
質量の10%(D10)以下が30ミクロン未満であること;(iv)薬物結晶のバルク
または集合体の全体積の75%以上が1~3のアスペクト比を有すること。
【0033】
本明細書に開示されるプロセスは、流動床法によってコーティングすることができるA
PI(すなわち薬物結晶)の結晶の、再結晶化および粒子径調整に特に適している。
【0034】
したがって、さらなる実施形態は、各々がポリマーの薄膜でコーティングされているコ
ーティングされた薬物結晶の集合体を提供する。適切なポリマーとしては、ポリビニルア
ルコール、ならびにポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)
、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリ(トリメチレンカーボネート)(pTMC
)などの生分解性ポリエステルが挙げられる。コーティングに好ましいポリマーは、ポリ
ビニルアルコールである。薄膜の厚さは約1~10ミクロンである。
【0035】
具体的な特徴について、以下でさらに詳細に説明する。
【0036】
再結晶化
再結晶化は、目標寸法の粒子径調整された結晶を提供するために、さらに粒子径調整(
例えば短くする)することができる、大きい、超大型の結晶(supersized crystals)を最初に生成させることによる必要不可欠なステップである。適切には、超大型の結晶は、長さ方向への優先的な結晶成長によって柱状の結晶形状(「柱状結晶」とも呼ばれる)を有する。本明細書で使用される場合、「柱状結晶」は、広義には柱に似た結晶形状を指し、すなわち、前記結晶は、優先的な軸と、この優先的な軸に沿った(例えば優先的な軸に垂直な)略同じ形状およびサイズの横断面を有する。
【0037】
本明細書に開示されるように、柱状結晶の大部分(少なくとも90%)は、50~25
0ミクロンの範囲の厚さ(すなわち長さ方向軸に垂直な横断面の最短寸法)、ならびに1
超および20未満の範囲のアスペクト比を有する。柱状結晶は、ミリメートルまで、また
はセンチメートルまでの長さであり得る。これらの柱状結晶は、超大型の結晶と呼ばれる、なぜなら、50~250ミクロンの範囲の目標寸法を有する立方体状の目標形態に再
度、粒子径変更できる厚さおよび長さの両方を有するためである。
【0038】
従来の再結晶化では、結晶成長の停滞に起因して、超大型の結晶を容易に得ることができない。
図3は、フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)の単斜晶形Iを示す。結晶構造は、a-b面(横断面)と比較し、c軸(縦方向)に沿った優先的な結晶成長を示す。しかしながら、この優先的な成長は、a-b面が10~15ミクロンを超える幅で成長することができる前に停滞する傾向がある。実際、共溶媒、貧溶媒(直接および逆の方法)、核生成および成長時の表面/界面改質剤、低速および高速冷却などの、典型的な既知の再結晶化法は、少なくとも1つの寸法が目標寸法を満たさない薄い針状結晶の生成しかできない。
【0039】
従来の再結晶とは対照的に、本開示の実施形態によれば、市販のFP結晶は、メタノー
ルから、超大型の結晶に再結晶化させることができる。再結晶化の時間および条件(例
えば温度)を制御することにより、c軸成長が減速した後であっても、結晶をa-b面に
沿ってより厚く成長させることができる。
図4は、成長のメカニズムを概略的に示す。得
られた超大型の結晶(200)は、長さ方向軸に沿った最長寸法(L)および横断面の最短寸法(D)を有する。アスペクト比はL/Dである。適切には、最短寸法(D)は、粒子径調整された薬物結晶の少なくとも1つの目標寸法と略同じであり得、それにより、超大型の結晶の主に長さ方向に沿って破壊することによって粒子径変更が容易になる。
【0040】
特定の実施形態では、再結晶化された柱状の薬物結晶の目標寸法は、以下の基準のうち
の1つ以上を満たす:(i)全質量の90%が1200ミクロン以下(D90)であるこ
と;(ii)全質量の50%が350±180ミクロン未満(D50)であること;(i
ii)全質量の10%以下が50ミクロン未満(D10)であること;(iv)薬物結晶
の全体積の75%以上が1~5のアスペクト比を有すること。
【0041】
粒子径調整
目標寸法を得るために、超大型の結晶は、場合により、篩分けおよびリンスのさらなるステップを伴い、ロータ/ステータ型ホモジナイザで粉砕することによって適切に粒子径調整される。
【0042】
従来、大きな結晶はジェットミルまたはピンミルによって粒子径調整される。しかしな
がら、それらは、多量の微粒子を有する不均一な結晶を生成させる傾向がある。c軸エピ
タキシャル成長を有する結晶(例えばFP結晶)は非常に脆く、従来のジェットまたはピ
ンによる粉砕では、必然的に目標寸法を満たさない非常に微細な粉末を生成させる。
【0043】
一実施形態によれば、ロータ/ステータ型ホモジナイザを利用することで、従来の粒子
径変更プロセスの技術的限界に対処する。ロータ/ステータ型ホモジナイザは、典型的に
は、回転するインナーロータと、固定されたアウターシースと、キャリア液体媒体と、固
体媒体とを備える。この型のホモジナイザは、微粒子またはエマルジョンを製造するため
に従来使用されている。
【0044】
驚くべきことに、動作パラメータを制御することにより、再結晶化ステップから得られ
た超大型の結晶を、長さ方向軸(例えばc軸)に沿って均一に破壊できるが、最短寸法(幅)が略変化しないことを見出した。特に、回転ヘッドの構成(微細、中程度または粗い、の任意の組み合わせ)、回転速度(3000~26000rpmの範囲)、固形分含量(5~50%w/vの再結晶化された柱状結晶)、キャリア流体の種類、およびロータ/ステータを通過する回数(1~10回)を最適化することにより、厚く細長い結晶が、主にc軸に沿って穏やかに破壊され(短くされ)、非常に微細な粒子の形成による損失が最小限に抑えられる。
【0045】
キャリア流体は、水、1種以上の極性有機溶媒(例えばアセトン)、1種以上のプロト
ン性溶媒(例えばメタノール、エタノールまたはイソプロパノール)、またはそれらの組
み合わせを含み得る。場合により、界面活性剤がキャリア流体中に存在してもよい。適切
な界面活性剤としては、ポリソルベートなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。より
具体的な実施形態では、ポリソルベート80(例えば0.1~0.5%w/v)である。
【0046】
必要に応じて、粒子径調整は、粉砕された(例えば短くされた)結晶を篩分けして粒子
径分布をさらに狭めることをさらに含んでもよい。様々な実施形態では、粉砕された結晶
は、1つ以上の篩を通して篩分けされて、微粒子または残りの大きな結晶を除去すること
ができる。典型的には、2つの別々の篩分けステップにより、再現可能なスケールで狭い
粒子径分布を生成させることができる。
【0047】
さらに、篩分けした結晶をリンスし、微粒子をさらに除去することができる。典型的に
は、篩分けした結晶を、界面活性剤、水、および場合によりメタノール、エタノール、イ
ソプロパノールなどの1種以上の水混和性溶媒を含むリンス液で1回以上リンスする。適
切な界面活性剤としては、ポリソルベート80などのポリソルベートが挙げられる。特定
の実施形態において、界面活性剤は、リンス液中に0.05~1.0%の量で存在する。
例えば、リンス液は、0.5%ポリソルベート80溶液であり得る。
【0048】
特定の実施形態では、本明細書に開示されるプロセスによって得られる粒子径調整され
た薬物結晶は、以下の統計的基準のうちの1つ以上を満たす薬物結晶の集合体である:(
i)全質量の90%(D90)が190ミクロン以下であること;(ii)全質量の50
%(D50)が90±20ミクロン未満であること;(iii)全質量の10%(D10
)以下が30ミクロン未満である;(iv)薬物結晶のバルクまたは集合体の全体積の7
5%以上が1~3のアスペクト比を有すること。
【実施例0049】
実施例1
フルチカゾンプロピオン酸エステルの再結晶化
45℃の等温下でのゆっくりとした蒸発
フルチカゾンプロピオン酸エステルを、メタノール中10~15mg/mlの濃度から
、小スケールおよび大スケールの両方で再結晶化した。例えば72時間のゆっくりとした
蒸発の間、温度を45℃で一定に維持した。小スケールは20ml~2Lの溶液で実施し
た一方、大スケールは20~100Lで実施した。
図5は、小スケールでの再結晶化粒子
のSEM画像を示し、一方、
図6は、大スケールでの画像を示す。示されるように、小ス
ケールおよび大スケールの両方で、さらなる粒子径変更に適する厚い細長い結晶が生成さ
れた。
【0050】
実施例2
フルチカゾンプロピオン酸エステルの再結晶化
25℃の等温下でのゆっくりとした蒸発
フルチカゾンプロピオン酸エステルを、20mL~2Lの小スケールおよび20~10
0Lの大スケールの両方において、メタノール中10~15mg/mlの濃度から再結晶
化した。例えば20時間のゆっくりとした蒸発の間、温度を25℃で一定に維持した。図
7は、小スケールで生成された粒子のSEM画像を示し、
図8は、大スケールでのSEM
を示す。
【0051】
異なる大スケールのバッチを実行し、再結晶化方法の再現性を見た。4つの大スケール
のバッチにおける、レーザー回折による粒子径分析の結果を以下に示す:
【0052】
【0053】
レーザー回折法は、結果を算出する際に、等価な球を仮定する。画像解析におけるアス
ペクト比は、3~50の範囲のアスペクト比を示すが、アスペクト比の大部分は5~20
の範囲にある。
【0054】
再結晶したフルチカゾンプロピオン酸エステルは、USP規格に準拠しており、フルチ
カゾンプロピオン酸エステルの元の市販形態と同じ形態Iの多形結晶形態であることが確
認された。
図9は、取得したままの(形態Iの)、および再結晶化された、FP結晶のX
線回折パターンを比較する。示されるように、形態Iの多形は、再結晶後に変化しなかっ
た。
【0055】
実施例3
再結晶化したフルチカゾンプロピオン酸エステルの粒子径変更
実施例1または2によって製造された再結晶化フルチカゾンプロピオン酸エステル結晶
を、ロータ/ステータ型ホモジナイザで粉砕した。
図10は、ベンチトップモデルのロー
タ/ステータ型ホモジナイザを示す。
【0056】
動作パラメータの例示的なセットは以下の通りである。
5~10%固体媒体
キャリア流体:USP水中0.1%~0.5%ポリソルベート80(界面活性剤)
ロータ速度:15000~20000rpm(粉砕は3000~26000rpmの範
囲で動作可能)
ロータ構成:粗、中程度、もしくは微細、または2つ以上のロータの組み合わせを含む
このサイクルの実行回数:最大5回
【0057】
次に、粉砕した結晶を2つの別々の篩に通して篩分けし、微粒子または残留する大きな
結晶を除去した。
図11は、粒子径変更された(粉砕およびそれに続く篩分け)薬物結晶
のSEM画像を示す。
【0058】
図12は、Malvernの粒子径分析計を使用した全体の粒子径分布を示す。図示さ
れるように、得られた薬物結晶は比較的狭い分布を有し、微細な材料が最小量であり、極
微細な材料は存在しない(9μm未満の粒子は存在しない)。
【0059】
図13は、粒子径が非常にばらついている市販供給源のFP結晶と、本開示の一実施形
態に従って形成された目標寸法を有するFP薬物結晶とを並べて比較した図である。
【0060】
実施例4
薬物放出挙動
薬物結晶の狭い粒子径分布は、コーティングプロセス、ひいてはカプセル化された薬物
の放出プロファイルを改善した。特に、コーティング前に薬物結晶から微粒子を除去する
ことによって、コーティングの品質および効率の両方が改善された。薬物放出挙動のイン
ビボ試験は、狭い粒子径分布(例えばD50は50~250ミクロンの範囲内)のコーテ
ィングされた粒子からの放出が、広い粒子径分布を有するコーティングされた粒子と比較
して、より遅く、より安定であることを示した。
【0061】
上述した様々な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。
本明細書で言及され、および/または出願データシートに列挙された米国特許、米国特許
出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物([リスト挿入]
を含むが、これに限定されない)はすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれ
る。実施形態の態様は、必要に応じて、さらなる実施形態を提供するために様々な特許、
出願および刊行物の概念を使用するように修飾することができる。
【0062】
これらおよび他の変更は、上記の詳細な説明に照らして実施形態に対して行うことがで
きる。一般に、以下の特許請求の範囲において使用される用語は、特許請求の範囲を、明
細書および特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定すると解釈されるべきでは
なく、かかる特許請求の範囲が規定する権利の均等物の全範囲と共に、全ての可能な実施
形態を含むと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示によって限定
されない。
【0063】
本願は、2019年4月10日に出願された米国仮出願第62/832,179号の優
先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
前記篩分けされた結晶が、界面活性剤と、水、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される1種以上の溶媒と、を含むリンス液で1回以上リンスされる、請求項7に記載のプロセス。
前記ポリマー膜が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(トリメチレンカーボネート)(pTMC)またはそれらの組み合わせから形成される、請求項10に記載のプロセス。