(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174951
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】量子通信システム、量子通信システムのための送信機、量子通信システムのための受信機、および量子通信システムを制御する方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/70 20130101AFI20241210BHJP
H04B 10/516 20130101ALI20241210BHJP
H04B 10/69 20130101ALI20241210BHJP
【FI】
H04B10/70
H04B10/516
H04B10/69
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153216
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2023023718の分割
【原出願日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】2203155.3
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロバート イアン ウッドワード
(72)【発明者】
【氏名】ユアン サン ロ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェームス シールズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】量子通信システム、量子通信システムのための送信機、量子通信システムのための受信機及び量子通信システムを制御する方法を提供する。
【解決手段】量子通信システムにおいて、送信機は、送信機コンポーネントを備え、送信機コンポーネントは、パルス放射源及び変調ユニットを備え、変調ユニットは、放射のパルスをランダムに符号化する。受信機は、受信機コンポーネントを備え、受信機コンポーネントは、ランダムに符号化されたパルスを復号する復調器と、復号されたパルスを検出する検出器を備える。送信機と受信機とは、制御ユニット及び最適化ユニットをさらに備え、制御ユニットは、制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を送信機コンポーネントおよび受信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用し、最適化ユニットは、制御パラメータのセットを調節する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信機コンポーネントを備える送信機と、前記複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、前記変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
複数の受信機コンポーネントを備える受信機と、前記複数の受信機コンポーネントは、前記ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、前記復号された複数のパルスを検出するように構成された複数の検出器を備え、
を備え、
量子通信システムは、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、前記制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を前記複数の送信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、前記最適化ユニットは、前記複数の制御パラメータのセットを調節した調節セットを得るように構成され、
前記複数の制御信号は、前記パルス放射源のための複数の電子制御信号であり、前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備え、
前記最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応する前記量子通信システムの品質を示すスコアを得ることと、前記スコアは強化学習アルゴリズムに関する報酬であり、
アクションを前記量子通信システムに適用して報酬関数を最大にすることを目標とするエージェントとして前記最適化ユニットを使用することにより、前記調節セットを得るために、反復プロセスにより、複数の制御パラメータの第2のセットを推定することと、
によって、強化学習アルゴリズムを使用して前記複数の制御パラメータを調節する、量子通信システム。
【請求項2】
前記最適化ユニットは、前記量子通信システムの品質を示す少なくとも1つの測定値から前記スコアを得るように構成される、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの測定値は、量子ビット誤り率(QBER)、セキュアビットレート(SBR)、前記符号化された複数のパルスの位相情報、前記受信機の前記複数の検出器において受信されたすべてのパルスのそれぞれの計数率であって所定の符号化を伴う複数のパルスのそれぞれの計数率、前記受信された複数のパルスの形状、または前記複数の検出器における前記複数のパルスの到着時間から選択される、請求項2に記載の量子通信システム。
【請求項4】
前記最適化ユニットは、目的関数を使用して前記少なくとも1つの測定値から前記スコアを計算するように構成される、請求項3に記載の量子通信システム。
【請求項5】
前記量子通信システムの品質を示す複数の測定値を得るために設けられた複数のセンサをさらに備える、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項6】
前記パルス放射源は、温度制御素子上に設けられ、前記制御ユニットは、制御信号を前記温度制御素子にさらに供給する、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項7】
前記複数の制御信号は、前記変調ユニットのための複数の電子制御信号をさらに備え、前記変調ユニットのための前記複数の電子制御信号は、前記変調ユニットのための前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項8】
前記複数の制御信号は、前記復調器のための複数の電子制御信号をさらに備え、前記復調器のための複数の電子制御信号は、前記復調器のための前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項9】
前記複数の制御信号は、前記複数の検出器のための複数の電子制御信号をさらに備え、前記複数の検出器のための複数の電子制御信号は、前記複数の検出器のための前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項10】
前記パルス放射源は、一次レーザおよび二次レーザを備え、前記一次レーザは、シーディングパルスを前記二次レーザに適用するように構成される、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項11】
前記複数の制御パラメータのセットは、前記一次レーザおよび前記二次レーザの両方のための制御パラメータを備える、請求項10に記載の量子通信システム。
【請求項12】
前記変調ユニットは、干渉計を備える位相変調ユニットである、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項13】
前記量子通信システムは、ポイントツーポイント量子通信システム、測定装置無依存量子通信システム、およびツインフィールド量子通信システムから選択される、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項14】
量子通信システムのための送信機であって、前記送信機は、複数の送信機コンポーネントを備え、前記複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、前記変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
前記送信機は、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、前記制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を前記複数の送信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、前記最適化ユニットは、前記複数の制御パラメータのセットを調節した調節セットを得るように構成され、
前記複数の制御信号は、前記パルス放射源のための複数の電子制御信号であり、前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備え、
前記最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応する前記量子通信システムの品質を示すスコアを得ることと、前記スコアは強化学習アルゴリズムに関する報酬であり、
アクションを前記量子通信システムに適用して報酬関数を最大にすることを目標とするエージェントとして前記最適化ユニットを使用することにより、前記調節セットを得るために、反復プロセスにより、複数の制御パラメータの第2のセットを推定することと、
によって、強化学習アルゴリズムを使用して前記複数の制御パラメータを調節する、送信機。
【請求項15】
量子通信システムのための受信機であって、前記受信機は、複数の受信機コンポーネントを備え、前記複数の受信機コンポーネントは、ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、前記復号された複数のパルスを検出するように構成された複数の検出器を備え、
前記受信機は、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、前記制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を前記複数の受信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、前記最適化ユニットは、前記複数の制御パラメータのセットを調節した調節セットを得るように構成され、
前記複数の制御信号は、パルス放射源のための複数の電子制御信号であり、前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備え、
前記最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応する前記量子通信システムの品質を示すスコアを得ることと、前記スコアは強化学習アルゴリズムに関する報酬であり、
アクションを前記量子通信システムに適用して報酬関数を最大にすることを目標とするエージェントとして前記最適化ユニットを使用することにより、前記調節セットを得るために、反復プロセスにより、複数の制御パラメータの第2のセットを推定することと、
によって、強化学習アルゴリズムを使用して前記複数の制御パラメータを調節する、受信機。
【請求項16】
量子通信システムを制御する方法であって、前記量子通信システムは、
複数の送信機コンポーネントを備える送信機と、前記複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、前記変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
複数の受信機コンポーネントを備える受信機と、前記複数の受信機コンポーネントは、前記ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、前記復号された複数のパルスを検出するように構成された複数の検出器を備え、
を備え、
前記量子通信システムは、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、前記制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を前記複数の送信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、前記最適化ユニットは、前記複数の制御パラメータのセットを調節した調節セットを得るように構成され、
前記方法は、
複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を前記複数の送信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用することと、前記複数の制御信号は、前記パルス放射源のための複数の電子制御信号であり、前記複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、形状、およびDCオフセットのうちの少なくとも1つを備え、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応する前記量子通信システムの品質を示す少なくとも1つの測定値からスコアを得ることと、前記スコアは強化学習アルゴリズムに関する報酬であり、
アクションを前記量子通信システムに適用して報酬関数を最大にすることを目標とするエージェントとして前記最適化ユニットを使用することにより、前記調節セットを得るために、反復プロセスにより、複数の制御パラメータの第2のセットを推定し、強化学習アルゴリズムを使用して前記複数の制御パラメータを調節することと、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、量子通信システム、量子通信システムのための送信機、量子通信システムのための受信機、および量子通信システムを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子通信システムでは、情報は、単一光子など符号化された単一量子によって送信機と受信機との間で送られる。各光子は、偏光などの光子の特性上に符号化され得る1ビットの情報を搬送する。
【0003】
量子鍵配送(Quantum key distribution、QKD)とは、多くの場合「アリス」と呼ばれる送信機と多くの場合「ボブ」と呼ばれる受信機の二者間での暗号鍵の共有をもたらす技法である。この技法の魅力は、多くの場合「イブ」と呼ばれる承認されていない盗聴者に、鍵の一部が知られた可能性があるかどうかのテストを提供するということである。量子鍵配送の多くの形態で、アリスとボブは、ビット値を符号化するための2つ以上の非直交基底を使用する。量子力学の法則によれば、イブが各々の符号化基底を事前に知ることなく光子を測定すると、一部の光子の状態の変化を不可避的に引き起こすとされている。これらの光子の状態の変化により、アリスとボブとの間で送信されるビット値に誤りが生じることになる。したがって、それらの共通のビット列の一部を比較することによって、アリスとボブは、イブが情報を得たかどうかを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】ポイントツーポイントQKDシステムの概略図である。
【
図2】制御電子回路を有するポイントツーポイントQKDシステムの概略図である。
【
図3】CWレーザを有するQKDエミッタの概略図である。
【
図4A】一次レーザおよび二次レーザシーディング配置構成を伴うQKDエミッタの概略図である。
【
図4B】対応する駆動信号および光出力の概略図である。
【
図5A】一次レーザおよび二次レーザ配置構成の概略図である。
【
図5】
図5Bは、持続時間t
mの制御利得の微小摂動下での一次レーザの光周波数のプロットであり、
図5Cは、一次レーザの摂動ありと摂動なしの光位相軌道のプロットであり、
図5Dは、二次レーザの出力パルスのプロットである。
【
図5E】一次レーザおよび二次レーザを駆動するための利得変調回路の概略図である。
【
図5F】一連の5つの時間依存プロットであり、一番上のプロットから順番に、一次レーザの変調、一次レーザのキャリア密度、一次レーザの出力、二次レーザの変調、および二次レーザの出力である。
【
図6】一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図7】一実施形態に係るポイントツーポイントQKDシステムである。
【
図8】遺伝的アルゴリズムを説明するための図である。
【
図9】一実施形態に係る測定装置無依存QKDシステムである。
【
図10】一実施形態に係るQKDシステムのエミッタの概略図である。
【
図11】一次(マスタ)レーザおよび二次(スレーブ)レーザのための駆動信号と、それらが位相変調器の光出力に対応する様子の概略図である。
【
図12】
図12Aは、レーザ離調周波数および注入比の関数としてのBB84 QKDプロトコルの実験的に測定されたQBERのマップであり、枠は、最適動作の有望領域を示し、
図12Bは、囲まれた領域を拡大したプロットである。
【
図13】位相コヒーレントパルスおよび位相ランダム化パルスのための位相コヒーレンスに対する最適化の進化を示すプロットである。最初の3世代の集団サイズは35であり、そして後続の世代では25に減る。10世代を完了するのにかかった時間は4時間である(個体の評価ごとに50s)。
【
図14】
図14Aは、(上位)QBERに対する最適化の進化と、5回の試行にわたって得られた平均QBERに基づいて計算された対応するセキュアキーレートとを示すプロットであり、
図14Bは、損失関数L
PRである。
図14Cは、パラメータ空間における集団の進化を示す(2次元のみ図示)。集団サイズは60であり、10世代を完了するのにかかった時間は2.5時間である(個体の評価ごとに14s)。
【
図15】ランダムな相対位相関係を示す異なるマスタレーザパルスによってシードされた2つの連続するパルス間の干渉からの強度分布を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
一実施形態では、量子通信システムが提供され、
複数の送信機コンポーネントを備える送信機と、複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
複数の受信機コンポーネントを備える受信機と、複数の受信機コンポーネントは、該ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、復号された複数のパルスを検出するように構成された複数の検出器を備え、
を備え、
本量子通信システムは、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を該複数の送信機コンポーネントおよび該複数の受信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、最適化ユニットは、複数の制御パラメータのセットを調節する(tune)ように構成され、
最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応する量子通信システムの品質を示すスコアを得ることと、
調節された複数の制御パラメータのセットを得るために、反復プロセスにより、好適なさらなる複数の制御パラメータのセットを推定することと、
によって制御パラメータを設定する。
【0006】
上記システムにより、複雑なQKDシステムのハードウェアの自己調節(self-tuning)が可能になる。これまでは、すべてのQKDハードウェアのための最適な制御パラメータおよび駆動信号の決定は手動で行われていた。この大部分は、知られているハードウェア仕様に基づいてシステム設計段階中に行われていたが、他のコンポーネントを環境の変化に応じてシステム動作中に調整する必要がある。状況は、コンポーネント間の固有のばらつきに起因してさらに複雑となり、すなわち、1つのQKDシステムが手動で完璧に最適化された場合でも、同様のコンポーネントを有するシステムのための最適なパラメータはわずかに異なる場合がある。これは、QKDシステムのための現在の製造プロセスが、デバイスごとの設定を微調整するための様々な手動タスクを含むことを意味する。そのような最適化は、光学素子、電子回路、およびQKDシステム設計の専門知識をもつ熟練したユーザを必要とする時間のかかるタスクである。この要件は、実際的にコストがかかり、製造拡張性に影響を及ぼす。
【0007】
さらに、進行中の研究は、より良好な性能を有し/コンポーネントがより少ない改良された新たなQKDシステム設計の開発に向かっている。しかしながら、これらの利点は、多くの場合、レーザダイナミクス(laser dynamics)および電気的に制御される光と物質の相互作用を正確に活用することによって達成されるので、結果として、そのような「改良された」設計(位相シーディングなど)は、手動の最適化タスクをより多く導入することによってQKD技術の製造段階を実際に複雑化する可能性がある。
【0008】
最適化のタスクは、根源的な問題が多くの結合変数および非線形挙動に関係している(例えば、レーザダイナミクスは根本的に非線形である)ので非常に複雑である。そのため、パラメータ空間すべてを走査するまたは順番に変数ごとに単純なフィードバックループを適用することによって簡単に最適性能を見つけることはできない(すなわち、問題は凸ではない(not convex))。完全なシステムの最適化には、多くの変数を同時に考慮するとともに全体的なQKD性能に影響を及ぼす複数の出力特性も測定する全体論的手法が必要になる。
【0009】
一実施形態では、最適化ユニットは、システムの品質を示す少なくとも1つの測定値からスコアを得るように構成される。これは、QKDシステムの物理的な測定値である。物理的な測定値は、例えばQBERなど、QKDシステムにおいて通常行われる測定から導出されてよいし、または例えば位相の測定をさらに行うために設けられた追加のハードウェアもしくはセンサから導出されてもよい。一実施形態では、システムの品質を示す測定値は、量子ビット誤り率「QBER」、セキュアビットレート「SBR」、符号化されたパルスの位相情報、受信機の複数の検出器において受信されたすべてのパルスの計数率であって所定の符号化を伴う複数のパルスの計数率、受信された複数のパルスの形状、または複数の検出器における複数のパルスの複数の到着時間から選択されてよい。
【0010】
一実施形態では、最適化ユニットは、目的関数を使用して品質測定値からスコアを計算するように構成される。
【0011】
さらなる実施形態では、複数の制御信号は、パルス放射源のための複数の電子制御信号であり、複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、電子制御信号の形状、および電子制御信号のDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える。パルス放射源は、温度制御素子上に設けられてよく、制御ユニットは、制御信号を該温度制御素子にさらに供給する。
【0012】
パルス放射源は、一次レーザおよび二次レーザを備えてよく、ここで、一次レーザはシーディングパルスを二次レーザに供給する。そのような状況では、複数の制御パラメータのセットは、一次レーザおよび二次レーザの一方または両方のための制御パラメータを備えてよい。
【0013】
一実施形態では、複数の制御信号は、変調ユニットのための複数の電子制御信号であり、複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、電子制御信号の形状、および電子制御信号のDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える。一実施形態では、変調器は干渉計を備える位相変調ユニットである。送信機はまた、光パルスを符号化するために使用される変調器に加えて1つまたは複数の強度変調器も有してよい。強度変調器のための制御信号も最適化ユニットを介して最適化されてよい。強度変調器および位相変調器の両方について、制御信号は、電子制御信号の強度、電子制御信号の形状、および電子制御信号のDCオフセットのうちの1つまたは複数を備えてよい。
【0014】
一実施形態では、複数の制御信号は、復調器のための複数の電子制御信号であり、複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、電子制御信号の形状、および電子制御信号のDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える。復調器は、復調器の少なくとも1つのアームに位相変調器が設けられた干渉計を備えてよい。
【0015】
一実施形態では、複数の制御信号は、複数の検出器のための電子制御信号であり、複数の電子制御信号に含まれる電子制御信号の強度、電子制御信号の形状、および電子制御信号のDCオフセットのうちの少なくとも1つを備える。
【0016】
さらなる実施形態では、最適化ユニットは、進化的アルゴリズムを使用して、調節された複数のパラメータを得るように構成される。例えば、進化的アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムであってよい。さらなる実施形態では、最適化ユニットは、強化学習を使用して、調節された複数のパラメータを得るように構成される。強化学習では、スコアは強化学習アルゴリズムのための報酬として作用する。最適化ユニットは、ソフトウェアまたはハードウェアにおいて具現化されてよい。最適化ユニットは、標準的なコンピュータであってよいし、またはハードウェア加速を使用して、例えばFPGAもしくは特注の電子回路を使用して実装されてよい。
【0017】
最適化ユニットは、送信機および受信機のうちの一方または両方に設けられてよい。また、送信機および/または受信機がそれら自体の最適化ユニットを有することも可能である。したがって、さらなる実施形態では、量子通信システムのための送信機が提供され、送信機は、複数の送信機コンポーネントを備え、複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
送信機は、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を該複数の送信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、最適化ユニットは、複数の制御パラメータのセットを調節するように構成され、
最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応するシステムの品質を示すスコアを得ることと、
調節された複数の制御パラメータのセットを得るために、反復プロセスにより、好適なさらなる複数の制御パラメータのセットを推定することと、
によって制御パラメータを設定する。
【0018】
さらなる実施形態では、量子通信システムのための受信機が提供され、受信機は、複数の受信機コンポーネントを備え、複数の受信機コンポーネントは、該ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、前記復号された複数のパルスを検出するように構成された検出器を備え、
受信機は、制御ユニットおよび最適化ユニットをさらに備え、制御ユニットは、複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を該複数の受信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用するように構成され、最適化ユニットは、複数の制御パラメータのセットを調節するように構成され、
最適化ユニットは、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応するシステムの品質を示すスコアを得ることと、
調節された複数の制御パラメータのセットを得るために、反復プロセスにより、好適なさらなる複数の制御パラメータのセットを推定することと、
によって複数の制御パラメータを設定する。
【0019】
さらなる実施形態では、量子通信システムを制御する方法が提供され、量子通信システムは、
複数の送信機コンポーネントを備える送信機と、複数の送信機コンポーネントは、パルス放射源および変調ユニットを備え、変調ユニットは、放射の複数のパルスをランダムに符号化するように構成され、
複数の受信機コンポーネントを備える受信機と、複数の受信機コンポーネントは、該ランダムに符号化された複数のパルスを復号するように構成された復調器と、復号された複数のパルスを検出するように構成された検出器を備え、
を備え、
本方法は、
複数の制御パラメータのセットによって規定される複数の制御信号を該複数の送信機コンポーネントおよび該複数の受信機コンポーネントのうちの少なくとも1つに適用することと、
複数の制御パラメータの第1のセットに対応するシステムの品質を示す少なくとも1つの測定値からスコアを得ることと、
調節された複数の制御パラメータのセットを得るために、反復プロセスにより、好適なさらなる複数の制御パラメータのセットを推定することと、
を備える。
【0020】
図1は、量子鍵配送(QKD)システムを示す。
図1の簡易化された構成は、光通信チャネル5(例えば、光ファイバまたは自由空間)によって接続された送信機1および受信機3を備える。
【0021】
送信機1(多くの場合「アリス」と呼ばれる)は、パルス放射源7および状態エンコーダ9を備える。送信機1は、一実施形態では、パルス放射源7のパルスレーザ放出および状態エンコーダ9(光を両方のビット値(0または1)を用いてランダム基底(例えば、XまたはY基底)で変調する)によって形成されるコヒーレント状態である量子状態を生成する。様々な異なる符号化方式(例えば、偏光符号化、タイムビン符号化等)が存在するが、QKDプロトコルはすべて、高速高品質状態生成に依拠する(すなわち、予想される符号化値と実際の符号化された値との間の誤差がごくわずかである)。
【0022】
符号化された光は、通信チャネル5に沿って送信されるが、ここで、パルス特性の一部を変化させる光学現象に遭う場合があり、例えば、分散によりパルスが広がり得る、偏光変動により偏光状態が変わり得る、チャネルタイミング遅延により予想パルス到着時間が変化し得る等である。
【0023】
受信機3(「ボブ」)では、量子状態が測定され、これには、復調器(図示せず)を使用して(例えば、量子状態に対して何らかのユニタリ操作を適用することによって)測定のための基底をランダムに選択し、次いで単一光子検出器(図示せず)を使用して信号を検出して量子状態測定11を形成することを伴う。様々な検出手法が存在するが、それらは通常、検出器雑音またはチャネルによって導入される他の雑音などの雑音源を拒絶しながら、符号化されたビット値を正確に決定する能力に依拠する。
【0024】
量子状態の生成、送信、および測定に続いて、アリスとボブとの間での認証された古典通信を伴う後処理段階が行われ、ここで彼らは、ふるい分け、情報整合(information reconciliation)、誤り訂正、および秘匿性増強を行うために自分達のランダムな選択のサブセットを明かす。この結果、両方の遠隔ノード上で情報が理論的にセキュアに量子鍵配送されることになり、これは次いで、例えばデータ暗号化のために他の機器に送出され得る。
【0025】
次に、偏光を使用する基本的な量子通信プロトコルについて説明する。しかしながら、これは限定を意味するものではなく、他のプロトコルを使用してもよいことに留意されたい。簡単にするために、このプロトコルは偏光ベースのプロトコルを指すが、位相ベースのプロトコルを使用してもよい。
【0026】
プロトコルは2つの基底を使用し、ここにおいて、各基底は2つの直交状態によって表される。この実施例の場合、H/VおよびD/Aの基底である。しかしながら、L/R基底を選択してもよい。
【0027】
プロトコルにおける送信者が、H、V、D、またはA偏光のうちの1つを有する状態を準備する。換言すれば、準備された状態は、2つの基底H/VおよびD/Aのうちの一方における2つの直交状態(HとVまたはDとA)から選択される。2つの基底のうちの一方で0および1の信号を送信すると考えることができ、例えば、H/V基底ではH=0、V=1、D/A基底ではD=0、A=1の信号を送信する。パルスは、平均して1光子以下を備えるように減衰される。よって、パルスに対して測定が行われた場合、パルスは破壊される。またパルスを分割することも不可能である。
【0028】
受信者は、H/V基底またはD/A基底から選択されたパルスの偏光のための測定基底を使用する。測定基底の選択は、能動的または受動的であり得る。受動的選択では、基底は、ビームスプリッタなどの固定コンポーネントを使用して選択される。「能動的」基底選択では、受信者は、例えば、電気制御信号を用いる変調器を使用して、どの基底で測定すべきかの判定を行う。受信者においてパルスの測定のために使用された基底が、パルスの符号化に使用された基底と同じである場合、受信者のパルスの測定は正確である。しかしながら、受信者がパルスの測定に他方の基底を選択した場合、受信者によって測定された結果に50%誤りがあることになる。
【0029】
鍵を確立するために、送信者および受信者は、符号化および測定(復号)に使用された基底を比較する。一致した場合、結果は保たれ、一致しなかった場合、結果は破棄される。上記方法は非常にセキュアである。盗聴者がパルスを傍受し測定した場合、盗聴者は、受信者に送信するための別のパルスを準備する必要がある。しかしながら、盗聴者は、正しい測定基底がわからず、そのため、パルスを正しく測定する可能性は50%しかない。盗聴者によって再作成されたパルスがあると、受信者に対する誤り率が大きくなり、これは盗聴者の存在を証明するために使用することができる。送信者および受信者は、誤り率(QBER)、ひいては盗聴者の存在を決定するために鍵の小部分を比較する。
【0030】
ただし、QKDシステムの上記説明は、基本動作について説明しているにすぎない。実際上では、中核となる量子状態生成/符号化/測定デバイスに加えて、チャネル妨害または現実世界のコンポーネントにおける非理想性を補償する(例えば、偏光調整、パワー調整、分散補償、タイミング補償等)ためのコンポーネントも含まれる。また、アリスとボブ(そしてそれらのすべての内部ハードウェア)が良好に同期されるのを確実にするために、すべての光電子ハードウェアの正確な電子制御も必要となる。
【0031】
図2は、現実世界の妨害が存在しても高性能動作を確実にするために重要なこれらの追加のコンポーネント/段階をより明示するQKDシステムを例示する。アリスおよび/またはボブのいずれかで行われる補償ならびに任意の順序で行われる補償により、厳密な実装形態は変わる可能性があることに留意されたい。不要な繰り返しを避けるため、適切な場合、
図1と同じ参照番号を使用している。さらに、
図2では、送信機、制御電子回路17、および信号補償ユニット13が設けられている。受信機には、制御電子回路19および信号補償ユニット15が設けられている。
【0032】
QKDを行うために幅広い光/電子システム設計が可能である。
図3は、そのような手法の一例を示している。ここで、送信機は、連続波(CW)レーザ21を備え、その次に、時間においてパルスをカーブアウト(carve out)し、パルス間の位相を符号化するための変調器23、25、および27が続く。第1の強度変調器23は、CW出力をパルスへと刻むために使用される。次いで、位相変調器25はパルスを符号化するために使用される。一実施形態において、位相変調器は、非対称マッハツェンダ干渉計(AMZI)を備え、AMZIのアームに位相変調コンポーネントが設けられている。次いで、第2の強度変調器27は、位相変調器25によって出力されたパルスを、平均して1光子以下を有するパルスに減衰させるために設けられる。さらなる実施形態では、第2の強度変調器はまた、多くのQKDプロトコルで必要とされるデコイ状態を実装するためにも使用される。デコイ状態は、他の符号化状態と同様であるが、振幅が低減されている(すなわち、デコイパルスのためにより少ない平均光子数が使用される)。これにより、光子数分割攻撃などの攻撃を回避するためにデコイ状態を使用することが可能になる。
【0033】
明確に規定された短い(例えば、ピコ秒単位の)パルスを達成するために、ハイダイナミックレンジを有する強度変調器23および27が使用される。位相の観点から、一実施形態では、QKDは各量子状態が位相ランダム化されることを必要とする。量子状態が2つのタイムビン間の位相によって符号化される位相符号化が使用される場合、2つのビン間の位相は正確に制御される。
【0034】
これは、すべての変調器23、25、および27、ならびにレーザ21からの非常にコヒーレントな安定した光の放出に厳しい要件を課す。変調器23、25、27、およびレーザ21に適用される電子駆動信号の正確な制御によって出力の品質を向上させることができる。例えば、レーザ21のバイアス付与/制御および変調器の制御を調節することによって出力の品質を向上させることができる。変調器は、正しく符号化された量子状態の列を生成するために適切な振幅およびタイミングを有するRF信号によって駆動されるというさらなる複雑さを有する。QKD送信機のいくつかの実施形態ではレーザもRF信号によって駆動される。「位相シーディング」配置構成(すなわち、利得スイッチ一次レーザ・二次レーザ配置構成)の場合、一次レーザおよび二次レーザの両方は、光パルスを生成する適用されるRF信号を有する。また、多くのカスタム可能なパラメータを有するさらなる電気制御信号、例えば、偏光コントローラ、減衰器等(図示せず)の他の信号補償デバイスのための制御信号なども調節する必要があり得る。
【0035】
図4Aは、「位相シーディング」を使用する代替の送信機設計を示す。位相シーディングQKD送信機では、複数の変調器が一次レーザ・二次レーザ配置構成に置き換わっている(それによって、一次レーザは二次レーザを注入同期し、一次レーザの電流は変調されて二次レーザに対して位相変調を課す)。これは、典型的に嵩高で高価であり、フォトニックチップ上への設計のチップスケール集積を妨げる変調器(ニオブ酸リチウムベースの変調器は光集積と互換性がないため)がなくなるという利点を有する。
図4Bは、そのような一次レーザおよび二次レーザを有する配置構成についての駆動方式を示す。
【0036】
図4Aおよび
図4Bの上記実施形態では、1つの一次パルスが2つの二次パルスをシードする配置構成を示している。
図5A~
図5Fは、レーザシーディングの裏側の物理的過程の一部を示している。ここでは、簡単にするために、1つの一次パルスが1つの二次パルスをシードする状況を説明する。
【0037】
図5A~
図5Fを使用して、超小型で高性能のQKD送信機の形成を可能にする特定のタイプの光源を説明する。
図5Aに示すこの光源は、利得スイッチングおよび光注入同期を使用してパルスを直接的に位相変調しており、外部の位相変調器は必要ない。
【0038】
光源はパルスされた二次レーザ103を備え、そこに一次レーザ101からのパルスが注入されて、光注入同期に基づいて二次レーザの出力パルス間の位相を規定する。一次レーザ101は、位相準備のタスクを行うが、二次レーザ103は、パルス生成のタスクを行う。
図5A~
図5Dの説明は、一次レーザの制御により焦点を置いている。
図5Eおよび
図5Fの説明は、二次レーザおよび2つのレーザの組合せにより焦点を置いている。
【0039】
図5Aに概略的に示すように、一次レーザダイオード101は、光サーキュレータ105を介して二次レーザダイオード103に接続される。サーキュレータは必須ではないことに留意されたい。さらなる実施形態は、レーザタイプ/パッケージングに依存して1つのレーザからの光を別のレーザに注入するための異なる方法を使用する。例えば、
図4Aは、レーザの一方側への直接注入と、他方側から得られる放出出力とを示している。このような配置構成は、例えば、レーザがキャビティの両側に部分的に反射する小平面を有するときに可能である。一次レーザダイオード101および二次レーザダイオード103は同一であってよく、単に明確にするために「一次」および「二次」という用語を使用しているだけであり、一次レーザダイオード101と二次レーザダイオード103との物理的相違を含意するものではないことに留意されたい。
【0040】
一次レーザ101は、位相準備のために使用され、準定常状態放出から長パルスを生成するために直接変調される。これらのパルスの各々は、二次またはパルス生成レーザ103を利得スイッチすることによって放出される2つ以上の短い二次光パルスのブロックをコヒーレントにシードする。位相準備レーザ101は、浅い強度変調を伴うナノ秒単位またはさらにはそれ以下の準定常状態の光パルスを生成するようにバイアスされ、これもまた光位相を修正する。1GHzを超えるクロックレートの場合、パルス幅は1ns未満である。利得スイッチパルス生成レーザ103は、位相準備レーザによって準備された光位相を引き継ぐ短い光パルスを放出する。各位相準備レーザパルスの持続時間は、異なる長さのパルス列をシードするために変えられ得る。
【0041】
二次パルス間の相対位相は、一次パルスの位相展開(phase evolution)に依存し、一次または位相準備レーザ101に印加される駆動電流を直接変調することによって任意の値に設定することができる。
【0042】
例えば、
図5Aの位相準備レーザの駆動信号に微小摂動を導入することによって、2つの二次パルス間の相対位相φ
1を得ることができる。同様に、一次レーザ101の駆動信号に2つの微小摂動を加えることによって、3つの二次パルス間の相対位相をφ
1およびφ
2に設定することができる。
【0043】
原理上、このような駆動信号における摂動により、一次パルスの強度および周波数に有害な変動が生じることになる。しかしながら、摂動信号に対応して二次レーザ103の利得をオフにスイッチすることによって、これを回避することができる。効果的に、二次レーザ103は、残留変調を拒絶するフィルタとしても動作する。
【0044】
位相準備レーザに印加される駆動信号に摂動を生じさせることによって光位相がどのように設定されるかを理解するために、中央周波数ν0で放出するしきい値より上の連続波レーザを考慮することが有用である。
【0045】
図5Bは、持続時間t
mの微小摂動下での位相準備レーザの光周波数のプロットである。
図5Cは、位相準備レーザの摂動ありと摂動なしの光位相軌道のプロットである。
【0046】
微小摂動が駆動信号に適用されると、光周波数が量Δνだけシフトし、位相展開の過程が変化する。摂動がスイッチオフされると、周波数は初期値ν
0に戻る。この摂動は以下の位相差を引き起こすことになり、
Δφ=2πΔνt
m
ここで、t
mは摂動の持続時間である。光注入により、この位相差は、
図5Dに示すパルス生成レーザによって放出される二次パルスのペア上に移行される。
【0047】
ここで摂動信号は、位相準備レーザに適用される電圧変調である。一次レーザダイオード101内のレーザ活性媒体の屈折率に対するキャリア密度の影響から光周波数変化が生じる。レーザキャビティの閉じ込め(confinement)により、光場がキャビティ内で前後に振動し、摂動の持続時間全体にわたり屈折率が変化することが可能になる。レーザキャビティに起因するエンハンスメントにより、位相変調半波長電圧を1V未満に保つことが可能になる。従来の位相変調器にはこのキャビティ特徴がないので、従来の位相変調器では、光が電気光学媒体を1回しか通過せず、よって相互作用距離をデバイス長に制限している。
【0048】
(従来のニオブ酸リチウム位相変調器が必要とするものよりもはるかに少ない1ボルト未満の)一次光源の電気コントローラ信号への小さい変化は、一次光源の出力の出力周波数に一時的変化を引き起こすことができ、これは次いで、二次レーザの光出力の出力位相を変化させる。
【0049】
本実施形態では、一次レーザ101は、ペアのシーケンスを備える光パルスのシーケンスを出力するように構成されている。一次レーザによって出力されるパルスの位相は、同じペアにおけるパルス間の位相が、位相差のセットの1つからランダムに選択され、異なるペアからのパルス間にランダムな位相差ができるように制御される。一実施形態では、位相差のセットは、0、π/2、-π/2、およびπのうちの1つから選択されてよい。
【0050】
一次レーザによってシードされる二次レーザ103は、一次レーザ101によって出力されるパルスのシーケンスと同じ位相差を有するパルスのペアのシーケンスを出力することになる。
【0051】
パルス注入シーディングは、二次レーザ103がレージングしきい値より上にスイッチされるたびに生じる。この場合、生成された二次光パルスは、注入された一次光パルスに対して固定位相関係を有する。注入された各一次光パルスについて1つのみの二次光パルスが生成されるので、二次レーザによって出力されるパルス間の位相関係は、二次レーザ内に注入されるパルス間の関係と同じである。
【0052】
図5Eおよび
図5Fと関連させて以下で説明する動作条件下で、二次レーザ103は、ペアのシーケンスを備える、新たなパルスのシーケンスを生成する。同じペアにおけるパルス間の位相は位相差のセットの1つからランダムに選択され、異なるペアからのパルス間にランダムな位相差がある。これらのパルスはまた、一次レーザ101によって出力されたパルスに対してより小さい時間ジッタτ’<τを有する。この低減されたジッタ時間は、二次光パルスの低時間ジッタに起因して干渉可視度を改善する。
【0053】
パルス注入シーディングが生じるためには、一次レーザ101からの光パルスの周波数は、ある範囲内で二次レーザ103の周波数に一致する必要がある。1つの実施形態では、一次レーザ101によって供給される光の周波数と二次レーザ103の周波数との差は、30GHz未満である。いくつかの実施形態では、二次レーザ103が分布帰還型(DFB:distributed feedback)レーザダイオードである場合、周波数の差は100GHz未満である。
【0054】
パルス注入シーディングの成功のためには、二次レーザ103の光キャビティに入る一次レーザ101の出力光パルスの相対パワーが、使用される光源のタイプに依存するある特定の限界内にある必要がある。1つの実施形態では、注入された光パルスの光パワーは、二次レーザ103の光出力パワーの少なくとも1000分の1である。1つの実施形態では、注入された光パルスの光パワーは、二次レーザ103の光出力パワーの少なくとも100分の1である。
【0055】
1つの実施形態では、二次レーザ103および一次レーザ101は、電気的に駆動される利得スイッチ半導体レーザダイオードである。1つの実施形態では、二次光源および一次光源は、同じ帯域幅を有する。1つの実施形態では、両方の光源は、10GHzの帯域幅を有する。1つの実施形態では、両方の光源は、2.5GHzの帯域幅を有する。ここで、帯域幅とは、直接変調されている利得スイッチレーザダイオードを用いて達成可能な最も高いビットレートを意味する。ある特定の帯域幅のレーザは、より低いクロックレートで動作することができる。
【0056】
図5Eは、一次レーザ503および二次レーザ502の両方が単一の利得変調ユニット509を用いて駆動される位相ランダム化光源500のための駆動方式の概略図である。利得変調ユニット509および遅延線510は、光パルスが受信される各時間期間中に1つのみの光パルスが生成されるように時変駆動信号を二次レーザ502に印加するように構成されたコントローラの一例である。一次レーザ503は、光接続505を介して二次レーザ502に接続される。光接続505は、導波路、例えば、光ファイバであり得る。代替的に、光パルスは、自由空間を通って一次レーザ503と二次レーザ502との間を移動してよい。光接続は、
図5Aの配置構成で設けられる光サーキュレータまたはビームスプリッタなどのさらなるコンポーネントを含んでよい。
【0057】
利得変調ユニット509は、光パルスを生成するために一次レーザ503および二次レーザ502の両方を駆動する。遅延線510は、装置を同期させるために使用される。遅延線は、例えば、固定長ケーブルであってよい。利得変調ユニットは、一次レーザ503に直接接続されている。例えば、一次レーザ503が半導体レーザである場合、利得変調回路は、一次レーザ503に電気的に接続される。利得変調ユニット509は、遅延線510を通して二次レーザ502に接続される。
【0058】
図5Fは、
図5Eに示す単一の利得変調方式のための時間的シーケンスを示す。上のグラフは、一次光源503に適用される利得変調を示す。レーザに印加される電流を垂直軸に示し、時間を水平軸に示す。利得変調は、矩形波の形態を有する時変駆動信号であり、これは一次光源に適用されると、キャリア密度をレージングしきい値より上および下に変化させる。換言すれば、利得変調は一連のパルスである。パルス間では、利得は最小値を有し、これは利得バイアスであり、点線によって示されている。この場合の波は、矩形波形である。例えば、正弦波または非周期的な時変信号など、異なる利得変調信号を使用することができる。この場合、電流は、電流変調パルスの合間でゼロに低減されず、バイアス値(点線で示す)に低減されるだけである。
【0059】
電流変調信号は、レーザに印加され、レーザの利得を周期的にレージングしきい値より上および下にスイッチする。2番目のグラフは、レーザのキャリア密度を垂直軸に示し、時間を水平軸に示す。レージングしきい値を、破線水平線で示す。電流変調パルスがレーザに印加されると、注入されたキャリアがキャリア密度を増加させ、光子密度が増加する。
【0060】
変調信号によって生成されるレーザ出力をその下のグラフに示す。垂直軸がレーザ強度を示し、水平軸に時間を示す。キャリア密度がレージングしきい値より上であるときに、レーザは光を出力する。レーザキャビティ内部での自然放出によって生成された光子が、刺激された放出によって十分に増幅されて出力信号を生成する。電流変調パルスの印加と出力光の生成との間の遅延の長さは、レーザタイプ、キャビティの長さ、およびポンピングパワーなどの、いくつかのパラメータに依存する。
【0061】
光子密度の急増により、キャリア密度の減少が生じる。これは次に光子密度を減少させ、これはキャリア密度を増加させる。この時点で、電流変調パルスは、DCバイアスレベルにスイッチバックして下がるように調時され、レーザ放出は迅速に停止する。したがってレーザ出力は、下のグラフに示すように短いレーザパルス列から成る。
【0062】
より長いパルスを生成するために、レージングしきい値により近くなるように利得バイアスが選択される。これは、キャリア密度がより早くにレージングしきい値と交差することを意味し、これは、発する時間をより多く光パルスに与える。最初に光強度がオーバーシュートし、迅速にキャリア密度を減少させる。これは次に、光子密度を減少させ、キャリア密度を増加させ、次に光強度を増加させる。この競争プロセスにより、パルスの開始時に光強度の振動が生じ、これは強く減衰し、強度が一定である安定状態を迅速にもたらす。振動を緩和振動と呼ぶ。電流パルスが終了し、電流を再びバイアス値にスイッチしたときに、レーザパルスは終了する。
【0063】
次のグラフは、一次レーザ503の出力を示す。キャリア密度がレージングしきい値より上に増加するたびに1つの光パルスが出力される。上述したように、利得が増加するときと光パルスが出力されるときとの間に遅延があり得る。一次レーザから出力された光パルスは、大きい時間ジッタτを有する。
【0064】
次のグラフは、二次レーザ502に適用される利得変調を示す。利得変調は、一次レーザ503に適用されたものと同じであるが、矢印でラベルが付けられた時間遅延が付加されている。利得変調は、二次レーザに印加される時変駆動信号である。換言すれば、二次レーザ502に適用される利得変調は、一次レーザ503に適用された利得変調に対して時間的にシフトされる。利得の各周期的増加が、一次レーザ503に適用されるのよりも後に二次レーザ502に適用される。この場合の遅延は、利得変調信号の周期の約半分である。遅延は、光パルスが注入された後に、利得の周期的増加が二次レーザ502に適用されることを意味する。そのため、利得増加が適用されるとき一次レーザ503からの光パルスは二次レーザのレーザキャビティ内に存在し、結果として得られる二次レーザ502が一次光パルスからの刺激された放出によって光パルスを生成する。これは、二次レーザからの生成された光パルスが、一次レーザから二次レーザ内に注入された光パルスに対して固定位相関係を有することを意味する。
【0065】
二次レーザ502は一次レーザからの光パルスが注入された後にレージングしきい値より上にスイッチされ、その結果、二次レーザからのパルスが、注入された光パルスによって引き起こされた刺激された放出によって開始される。二次レーザ502の利得バイアスの始まりのタイミングは、遅延線510を介して制御される。最後のグラフは、二次レーザ502の出力を示す。キャリア密度がレージングしきい値より上に増加するたびに1つのみの光パルスが出力される。ここでもまた、利得変調の増加と出力された光パルスとの間に遅延があり得る。二次レーザからの出力された光パルスの時間ジッタは、一次レーザからの光パルスのジッタのそれよりも低い。
【0066】
図5Eに示すシステムでは、利得変調ユニット509は、一次レーザからの各光パルスが入射する時間中に一度だけレージングしきい値より上にスイッチされるように、時変利得変調を二次光源502に適用する。二次レーザ502をスイッチすることは、一次レーザからの光パルスの到着と同期される。
【0067】
図5Fに示すシステムでは、時変利得変調信号は、矩形波形を有する。しかしながら、時変利得変調は、任意のパルス形状を有する信号を備えることができる。
【0068】
光源が利得スイッチ半導体レーザである場合、利得変調信号は、印加される電流もしくは電圧である。1つの実施形態では、利得変調信号は、矩形波形を有する印加される電流もしくは電圧である。代替の実施形態では、時変電流もしくは電圧は、周波数合成器によって生成された電気正弦波である。1つの実施形態では、利得変調信号の周波数は、4GHz以下である。1つの実施形態では、周波数は2.5GHzである。1つの実施形態では、周波数は2GHzである。
【0069】
利得スイッチ半導体レーザは、パルスが放出されるときの状態と「オフ」状態との間に良好な消光比を有する。それは、超短パルスを生成するために使用することができる。1つの実施形態では、二次レーザから出力された各パルスの持続時間は200ps未満である。1つの実施形態では、二次レーザから出力された各パルスの持続時間は50ps未満である。1つの実施形態では、二次レーザから出力された各パルスの持続時間は数ピコ秒のオーダである。1つの実施形態では、時変電流もしくは電圧が2GHzの周波数を有する矩形波電流もしくは電圧である場合、短い光パルスは500ps離れている。
【0070】
これらの図に示す光源において、一次レーザおよび二次レーザは、利得変調のために同じ電気ドライバを共有する。しかしながら、一次レーザおよび二次レーザは、別個の利得変調ユニット509によって駆動されてもよい。別個のユニットによって利得変調を駆動することによって、
図5Fに示すものよりも長い、一次レーザから出力される光パルスを生成することが可能であり、これは利得バイアス値がレージングしきい値により近いためである。これは、キャリア密度がより早くにレージングしきい値と交差することを意味し、これは、発する時間をより多く光パルスに与える。これはジッタを低減するために使用することもできる。
【0071】
本明細書に記載の制御パラメータの自己調節のために、一実施形態では、両方のレーザを駆動する制御信号の自律設定があり(すなわち、各レーザは、異なる最適DCバイアス、AC波形振幅、波形形状、および信号タイミングで設定される)、これに加え、各レーザは、良好な注入同期を達成するために(例えば、各レーザに取り付けられた温度コントローラを制御することによって)正確に波長設定することを必要とする。
【0072】
他のQKD送信機設計が可能であり、以下で説明する方法を多くの他のQKDシステム実施形態に適用することができる。
【0073】
上記では送信機のみについて言及した。しかしながら、複雑なマルチコンポーネント光電子設計がQKD受信機にも必要とされ、これらの受信機のための制御パラメータが調節された場合、より良好に動作する。
【0074】
図6は、制御信号を規定する制御パラメータを自動調節するための方法を示すフローチャートである。これにより電気制御信号の自律調節が可能になる。
【0075】
図6は、全体的なQKDシステム性能を評価するために1つまたは複数の目的関数(別名、適応度関数)を用い、次いで最適なQKD性能を得るためにこのスコアリングメトリックを使用してインテリジェントにパラメータを調整する自己調節型最適化システムを用いる方法を示す。
【0076】
S51において本方法を開始した後、QKDシステムは、ステップS53において、最初のパラメータを生成する。これらは、システムの事前知識に基づく「典型的な」パラメータであってよいし、または完全にランダムな値であってもよい。ステップS55において、パラメータがシステムに適用され(すなわち、これらの設定を実装するためにシステムのコンポーネントにデジタル/電気駆動信号が適用され)、ステップS57において、これらのパラメータで動作するシステムの品質を決定するために1つまたは複数の測定が行われる。
【0077】
測定S57は、過渡現象が収まるための時間を与えるための短い遅延後に行われてよい。一実施形態では、これらの測定は、(例えば、パワー/偏光/時間的挙動等を直接測定するために)QKDシステムに追加された専用のハードウェア/センサを使用して行われる。しかしながら、さらなる実施形態では、通常のQKD動作から(例えば、量子ビット誤り率(QBER)を抽出して、またはふるい分け、情報整合、誤り訂正、および秘匿性増強のステップ後に算出される、出力されたセキュアビットレート(SBR)を得て)測定値が抽出されてもよい。通常のQKD動作から収集された測定値と、例えばセンサ等の追加された専用のハードウェアからの測定値とを組み合わせることが可能である。
【0078】
次いで、ステップS59において、これらの測定値に基づいて「性能スコア」を算出する目的関数が実行される。このスコアは、パラメータがどの程度良い/悪いかの指示を与え、パラメータセットを比較する手段として意図されている。目的関数は、単純に単一の測定値、例えばセキュアビットレートであってよいし、またはスコアは、慎重に選択された数式に基づいて算出されてもよい。この関数は、いくつかの測定値における良い挙動に報酬を与えるとともに他の測定値における望ましくない出力にペナルティを課してよい。一実施形態では、S57において、例えばQBERおよびSERなどの単一の測定値が収集され、目的関数は、単にこの値を出力するか、または、スケーリング、例えば正規化を伴う値を出力する。しかしながら、ステップS57において2つ以上の測定が行われたとき、目的関数は、これらの測定値を組み合わせて単一のスコアを出力する。可能な目的関数の例には、正規化、加算、逆数値の加算、コスト関数等がある。目的値が測定値を組み合わせる場合、測定値は重み付けされてよい。目的関数で使用される異なる測定値は、最終スコアにおいてある特定の測定値により多く重要度が与えられ得るように、異なるように重み付けされてよい。
【0079】
最適化エンジンは、ステップS61においてこのスコアを使用して、何らかの内部ポリシー(新たな情報を得たら定期的に更新され得る)に基づいて、または最適化アルゴリズムを使用して、改良されたパラメータセットを算出する。次いでパラメータはハードウェアに適用され、このプロセスは繰り返し、異なるチャネル特性/予想していないハードウェア特性の変化がある場合でも、QKDシステムが常に最適に動作していることが確実になる。
【0080】
実際、適切に設計された最適化エンジンを用いると、QKDシステムは、ハードウェアが徐々に劣化していく場合でも性能を維持することができる。例えば、光コンポーネントは、時とともに劣化する恐れがあり、同じ光と物質の相互作用を達成するためにバイアス付与/セットポイントの変更が必要になるが、最適化のための目的関数ベースの手法でそのような本質的なコンポーネントの変化に自動的に対処する。
【0081】
図7は、さらなるセンサおよび最適化エンジン71、75(ハードウェアまたはソフトウェアにおいて実装することができる)を加えた
図2のQKDシステムの概略図である。送信機1には、さらなるセンサ73が設けられており、例えば、これらは、(生成された光信号の時間分解測定のための)フォトダイオード、光学スペクトルアナライザ、パワーメータ、またはさらには干渉計であってよく、この次には位相情報を測定するための光検出器が続く。送信機には、最適化を行うとともに制御電子回路17から出力される制御パラメータを調節するための最適化エンジン71が設けられている。目的関数の計算で使用される測定値の一部には、最適化エンジン71に送られる受信機3からの情報が必要である場合がある。受信機3もまた、受信機3の制御電子回路19によって出力される制御パラメータを調節するそれ自体の最適化エンジン75を有してよい。
【0082】
最適化手法は、送信機1および/または受信機3において測定を行い、次いで送信機1および/または受信機3においてパラメータ変更を適用してよいが、これは送信機ノード1と受信機ノード3との間の通信を必要とし、最適化プロセスの時間を増加させる場合がある。さらなる実施形態では、送信機1において測定が行われてよく、これらの測定値のみが送信機1の制御パラメータを調節するために使用される。同様に、受信機3において測定が行われてよく、これらの測定値のみが受信機3の制御パラメータを調節するために使用される。これにより送信機・受信機間の通信の必要が回避される。さらに、一実施形態では、過渡現象を回避するためにパラメータ設定と測定との間に強制的に整定時間があってよい。よって、最適化の実行は、QKD鍵を生成することができない時間ウィンドウを表し得る。
【0083】
最適化手法は、実際にはQKDシステム動作の様々な段階で適用することができる。例えば、最適化エンジンは、システム初期化段階中、すなわちオンになるときに実行されてよく、この場合、予め設定された性能レベルに到達したら、これらのパラメータを固定し、最適化エンジンをディスエーブルにすることができる。代替的に、最適化は予め設定された時間期間後に停止してもよい。
【0084】
最適化プロセスのタイミングがシステムの鍵送信能力に影響するのを回避するために、一実施形態では、最適化プロセスは、QKD性能がある特定のレベルを下回る(例えば、SBRが所与のリンクに対して予想されるものを下回る/QBERが高く上昇しすぎる)ときに実行される。さらなる実施形態では、最適化プロセスは、周期的に何らかの所定の時間間隔で、例えば、10分ごと、または毎時、または毎日、実行される。さらなる実施形態では、最適化プロセスのトリガ条件は、QKD制御ソフトウェアにおけるユーザにより選択可能な設定である。
【0085】
さらなる実施形態では、そのような「性能テスト」測定に通常のQKD動作を挟み込むことが可能であってよい。例えば、QKDハードウェアを駆動するRF電気信号を考える。通常の動作状況下では、電気信号が生成され、それにより該電気信号は、QKDプロトコルの部分として光を変調してビット/基底を符号化するようにコンポーネントを駆動する。RF信号の振幅が最適かどうか、またはそれの他の何らかの時間的特徴をテストするために、最適化エンジンは、Nパルスごとに異なる振幅を示させるように制御電子回路を駆動することができる(Nは、この最適化を実行する所望の周波数に依存する任意の整数であってよい)。次いで最適化エンジンは、これらの修正されたパルスに対して測定を行い、それらをスコアリングするが、他のパルスについては、QKD鍵を蒸留する(distil)ための標準QKDのために使用することができるように影響を受けない状態にしておく。この手法を用いると、最適化エンジンは、(Nが大きければ、例えば、最適化のために100ごとにのみパルスを使用するならば)QKD動作に著しく影響を与えることなく、最適な波形パラメータを特定する(そしてそれを見つけるためのテストを行う)ことができる。
【0086】
上記プロセスは、改良されたパラメータセットを過去のパラメータの目的関数スコアリングに基づいて選択するために、ステップS61において様々な技法を使用することができる。
【0087】
1つの実施形態では、最適化エンジンは、「強化学習」、つまり機械学習技法を実装することができる。この場合、最適化エンジンの部分は、アクションをQKDシステムに適用し、効果を観察することにより、その報酬関数(目的関数出力スコア)を最大にすることを目標とする「エージェント」としてみなすことができる。自動最適化のために含まれる変数の数に依存して、これは、ニューラルネットワークまたはさらには「深層」ニューラルネットワークを用いることができる。
【0088】
別の実施形態では、最適化エンジンは、進化的アルゴリズムなどの大域的最適化アルゴリズムを実装する。これは「粒子群最適化」または「遺伝的アルゴリズム」を含むことができる。そのような大域的最適化アルゴリズムの目標は、大域的に最適なパラメータをみつけることであり、そのようなアルゴリズムを多くの「極大値/極小値」を含み得る非凸問題に理想的にする。QKDシステム最適化は、レーザダイナミクスなどの根源的な物理的現象の非線形/結合性に起因して、そのような非凸問題である。
【0089】
一実施形態では、遺伝的アルゴリズム(GA)が使用される。GAは、その相対的な簡単さと、多変量の大きいパラメータ空間問題において大域的な最大値/最小値を見つける周知の能力に起因して、ここでは特に魅力がある。より詳細にいうと、GAは、ダーウィンの自然選択説から着想を得たヒューリスティック探索アルゴリズムであり、このアルゴリズムは、所与のタスクを行うのに「最も適応度の高い(fittest)」個体を決定するのに生物の進化の過程を模している。
【0090】
GAの中心概念が
図8に例示される。GAでは、考えられる各解(すなわちパラメータセット)が「個体」によって表される。各個体は、最適化すべき各パラメータ(例えば、
図8のパラメータA、B、C、およびD)の値に対応する「遺伝子」のセットを有する。ゴールは、最良性能を与える「最も適応度の高い」個体を決定することである。
【0091】
初めに、個体に遺伝子をランダムに割り当てることによって集団を初期化する。このステップの目的は、個体を可能な限り均一に探索空間に分布させ、個体が進化したとき有望領域を迅速に特定することができるようにすることである。次いで、世代における各個体の適応度が、目的によって規定された適応度関数によって評価される。自然界では、自然選択により、繁殖がより成功する形質をもつ個体が有利になる。GAでも同様に、個体は適応度スコアに基づく確率を有する親として選択され、スコアが高いほど、親として選択される可能性が高くなる。そして、2人の親からの遺伝子をランダムに交叉させることによって子がつくられる。十分な遺伝的多様性があると、局所最適解に向かう収束が防止され、これは、子の遺伝子が特定の確率でランダムに変化する突然変異により達成することができる。連続した世代にわたって、集団は、良い遺伝子を受け継ぎ、悪い遺伝子を排除することによって、最適状態に収束するまで進化する。収束の速度を上げるために、「エリート主義」の概念を適用することもでき、集団における最も適応度の高い個体(エリート)のクローンが、組み換え/突然変異なく次世代に作られる。
【0092】
再生可能な遺伝子の交叉、突然変異、およびエリート主義についての確率はすべて、考えられる最良のGA性能(例えば、ユーザにより設定可能であってよいし、または何らかの最適化ルーチンによって設定されるそれ自体)を与えるように構成され得ることに留意されたい。
【0093】
上記方法は、ハードウェア制御パラメータに適用されるが、ハードウェア制御パラメータは、デコイ状態/信号の光子束などの量および各状態/基底を選択する確率である理論的なQKDプロトコルパラメータとは同じではない。
【0094】
理論的な「QKDプロトコルパラメータ」は、上述したハードウェア制御パラメータとは非常に異なっている。QKDプロトコルパラメータは、QKDセキュリティ証明に基づいて完全に理論的に算出することができる。
【0095】
上記プロセスは、ハードウェアに焦点をおき、実験的なハードウェアの最適化に焦点をおき、完全自己調節型QKDシステム(すなわち、事前訓練ステップさえも用いない)に本手法をどのように適用できるかを説明している。
【0096】
上記最適化エンジンは、最適性能を達成するために難解な問題の多変量最適化を必要とする高度な光電子システムに適用することができる。しかしながら、QKDハードウェアは複雑であり、機能するのに量子状態の正確な生成、制御、および測定が必要となる場合が多いので、QKDシステムへの適用が非常に有益である。
【0097】
上記では、ポイントツーポイントQKDシステムに焦点をおいた。しかしながら、本技法を他のQKDプロトコル/システム設計に適用することができることに留意されたい。これには、測定装置無依存(MDI:measurement device independent)QKDおよびツインフィールド(TF:twin field)QKDなどのCV QKDおよび3ノードアーキテクチャが含まれる(
図9に概略的に示す)。これらの他のシステムのための厳密なハードウェア配置構成は種々であるが、様々な光電子コンポーネントのための最適な駆動パラメータを特定するという同じ問題が依然としてある。すべての場合において、QBERまたはSBRを目的関数(および他のプロトコル特有の測定値)の部分として使用することができる。
【0098】
QKD技術の採用が高まり続けるにつれて、よりロバストで確実なシステムの必要性も高まっている。QKDシステムの重要なコンポーネントの1つが、量子状態が準備される送信機である。利得スイッチレーザダイオードを有する光注入同期(OIL:optical injection locking)は、高速でロバストであり、かつコスト効率の良い量子送信機を実現する有望な技法として台頭した。そのようなシステムについて
図4および
図5を参照して上述した。OIL技法は、パルスタイミングジッタの低減、チャーピング抑制、および変調帯域幅拡大など、レーザ特性を向上させるとともに、レーザに印加された電気波形を変化させることによって位相情報を直接符号化することができる直接位相符号化も可能にし、それによって、従来の嵩高で高価な変調器の必要がなくなる。OILは、BB84、コヒーレント一方向(coherent-one-way)QKD、測定装置無依存(MDI)QKD、およびツインフィールド(TF)QKDを含む多くのQKDプロトコルに広く適用されている。OILにより、送信機が単一のチップ上に形成されることも可能になる。
【0099】
しかしながら、OILシステムの根源的なレーザダイナミクスは非常に複雑であり、複数の制御パラメータ間の相互作用を伴う。低雑音かつ高コヒーレンスの出力のための安定した同期条件を達成するために、複数のパラメータを同時に最適化しなければならないことは不可避である。さらに、同じモデルのレーザを用いても、製造中の自然的なばらつきおよびコンポーネントの公差から生じるわずかに異なる特性がどのレーザにもある。そのため、1つのシステムのために決定された最適なパラメータを別のシステムに直接適用できない場合が非常に多く、各システムを個別に最適化する必要を要する。
【0100】
図10は、この実施形態では機械知能を使用するOILレーザシステムの自律最適化を可能にする、GAに基づく自己調節型QKD送信機を示す。一実施形態では、本方法は、パルス間位相コヒーレンスおよびBB84プロトコルのためのQBERを最適化するために適用される。
【0101】
GAの中心概念を
図8と関連させて上で例示および説明している。一実施形態では、再生のための交叉率および突然変異率は、それぞれ50%および30%という典型的な値に設定される。さらなる実施形態では、突然変異した遺伝子が、世代におけるエリートの対応する遺伝子に近い値に変化する可能性は30%である。これは、探索空間の探索と活用を制御するためのさらなる自由度をもたらす。
【0102】
実験的なセットアップを
図10に示す。送信機は、OIL構成の2つの分布帰還型(DFB)レーザを備え、ここで、一次レーザからの光が、光サーキュレータを介して二次レーザのキャビティに注入される。可変光減衰器(VOA)が注入パワーを制御するために使用される。各レーザ波長は、コントローラを介して調節され得る一体型熱電冷却機を用いて温度安定化される。電流源からのRF信号およびDCバイアスが、2つのレーザを駆動するためにバイアスティーを使用して組み合わされる。一次レーザは、1GHzでパルス列を生成するように利得スイッチされる。パルス間で、一次レーザは、生成された各パルスがランダム位相を有することを確実にするために、レージングしきい値より下に駆動される。一次レーザパルスは二次レーザに注入され、該二次レーザは、2GHzで利得スイッチされ、約70psの持続時間の短パルスを生成する。2つのレーザのRF信号を
図11に示す。2つのレーザは、各一次パルスが、同じ大域的にランダムな位相を共有する単一のクロックサイクル(すなわち、単一の量子ビット)の前タイムビンと後タイムビンを形成する2つの二次レーザパルスをシードするように時間的に揃えられる。
【0103】
2つの二次レーザパルス間の相対位相を符号化するために、一次レーザのRF信号は、二次レーザパルス間の時間間隔中に微小振幅摂動を付加することによって変調される。摂動により一次レーザキャビティのキャリア密度が変化し、次にその放出周波数およびその位相展開が変化する。二次レーザパルスは注入された一次光子によってシードされているので、一次パルスの位相を引き継いでいる。一次レーザパルスにおける誘発された位相差は、続いて、連続する二次レーザパルス間の位相上に移行され、それによって直接位相符号化を実現する。適用される位相シフトは、電気摂動信号の振幅を変更することによって正確に制御することができる。量子チャネルへと送信する前にパルスを減衰させるためにVOAが使用される。
【0104】
受信機では、二次レーザパルス間の相対位相を復号するために非対称マッハツェンダ干渉計(AMZI)が使用される。AMZIの長いアームは、連続する二次レーザパルスの時間的分離と一致する500psの遅延を有する。連続する二次レーザパルスは、それらの相対位相に依存して建設的または相殺的に干渉することができ、このため、2つの出力ポートにビット「0」および「1」を割り当てることが可能になる。AMZI出力は、フォトダイオードまたは単一光子検出器を用いて測定される。GAは、レーザ電子回路のすべてを制御し、各パラメータの値を遠隔で設定することができる。次いで、各パラメータセットの出力が測定され、評価のためにアルゴリズムへのフィードバックとして作用する。
【0105】
GAによって最適化することができるレーザパラメータの一例が表1にリストにされている。概して、安定したOILを達成するために、温度およびバイアス電流に依存する、一次レーザおよびフリーランニング二次レーザ間での周波数離調と、一次レーザからの注入パワーとを慎重に選択する必要がある。OILのダイナミクスは、利得スイッチ動作を受けてより複雑になる。一次レーザからの注入パワーは、二次レーザの位相に対する自然放出雑音の影響を克服するために十分強いものである必要があるが、しかしながら、過剰な注入光は、望ましくない寄生効果を生み、性能を劣化させる恐れがある。さらに、一次レーザのバイアス電流は、位相ランダム化のためにレーザを各パルス間でしきい値より下に駆動することを可能にするレベルに設定されるべきであるが、一方で、パルスの位相および持続時間などの他の重要な出力特性にも影響を及ぼす。位相を移行するために、2つのレーザを時間的に揃える必要があり、一次レーザパルスの持続時間は、2つの連続する二次レーザパルスの生成をシードするのに十分長いものであるべきである。位相変調が考慮されるとき、実装される位相は、一次レーザの駆動信号に適用された振幅変調に依存する。そのため、OILの利点を活かすためにこれらのパラメータのすべてを調節する必要がある。
【0106】
図12Aおよび
図12Bに示すように、レーザダイナミクスの複雑さを調べるために、BB84 QKDプロトコルのためのQBERを、2つのレーザ間の周波数離調および注入比(注入された一次パワーとフリーランニング二次パワーとの比として定義される)の関数として、すべての他のパラメータは所定の最適値で固定された状態で測定した。有望動作領域が
図12A内の枠で示されており、
図12Bでさらに拡大されている。QBERは多くの要因によって影響を受けるが、
図12Aで観察できる干渉縞は、一次レーザと二次レーザとの間の位相関係の変化に起因するものと思われ、これにより、二次レーザパルス間の相対位相に符号化誤差が生じる。
図12Bから、最適領域のスパースネスを明確に観察することができる。QBERのマッピングには、2つのパラメータに限定しても、完了するまでに8時間以上かかる可能性がある。したがって、これにより、特に大きいパラメータ空間における最適な動作領域を決定するための効率的な方法の必要性が浮き彫りになる。
【0107】
連続するパルス間の相対位相で秘密ビットが符号化される位相符号化は、QKDプロトコルで幅広く使用され、したがって、パルス間の高い位相コヒーレンスがシステムの品質に寄与する。さらに、セキュアな量子通信のための重要な要件は、前タイムビンと後タイムビン(
図11)から構成される各量子ビットの位相が一様にランダムであることである。これにより、減衰されたパルスのコヒーレント状態を光子数状態として扱うことが可能になり、最も一般的な攻撃に対するセキュリティ証明を得ることができる。
【0108】
利得スイッチと組み合わせたOILは、これらの要件を満たすパルスを生成する非常に効率的な方法を表す。上述のように、利得スイッチにより、各一次パルスがランダム位相を搬送することが可能になるとともに、光注入シーディングにより、一次パルスに対する位相操作が、連続する二次レーザパルス間の相対位相にコヒーレントに移行されることが可能になる。
【0109】
位相コヒーレンスを調べるために、一次レーザを追加の変調なしにパルス化する。結果として、同じ一次パルスによってシードされた2つの二次レーザパルスは同相であり、建設的干渉および相殺的干渉を得ることができる。これと対照的に、異なる一次レーザパルスによってシードされた二次レーザパルスは、一定の位相関係を有さず、したがって、干渉により可視度が最小になるはずである。これらの条件を満たすために、以下の適応度関数が使用され、ここで、アルゴリズムは表1に示すパラメータを最適化することによって最大になることを目標とする。
【表1】
【数1】
ここで、V
coherent(V
random)は、位相コヒーレントな(位相ランダム化された)二次レーザパルスの干渉可視度である。
【0110】
連続した世代にわたる集団における最良の個体の性能がプロットされた
図13に最適化の結果を示す。最適化は、所与の範囲からの(すなわち、安全な動作範囲内の)パラメータにランダム値を割り当てることによって初期化される。進化の確率的性質およびランダムな初期条件により、各最適化は異なる軌跡を有する。したがって、この実施形態では、すべての特徴を捕捉してその反復性を検証するために、最適化が5回繰り返される。予想されるように、進化を通じて、アルゴリズムはシステムを動作させることを学習し、各新世代における個体は、それらの遺伝子の品質が向上するにつれて次第に有能になっていく。位相コヒーレントパルスの可視度が向上すると、位相ランダム化パルスの可視度も同時に世代にわたって抑制される。興味深いことに、可視度が世代にわたり着実に増加するときもあるし(試行2および4)、数世代にわたり局所最大値に留まることもある(試行3および5)。しかしながら、突然変異および交叉に起因して、アルゴリズムは、横ばいの後、突然改善して、より良好な動作領域を最終的に発見する。結果として、すべての試行が、位相コヒーレントパルスでは約97%、位相ランダム化パルスでは<2%(2%未満)の可視度に向かって収束し、これは他の方法であれば送信機を手動で調節することによって達成できる性能に一致する。これは、アルゴリズムがQKD符号化に好適な非常に位相コヒーレントなパルス対を生成するようにレーザを最適化し、それと同時に各量子ビットが大域的にランダムな位相を有することを確実にすることができることを示す。
【0111】
QBERは、実際上のQKDシステムの性能の主要尺度である。QBERを最小にすることは、これまでQKD動作のための不可欠なタスクであった。ここで、ランダムビットを二次レーザパルスに符号化する上述の直接位相変調方式(
図11)が実装される。(VOAによってエミュレートされた)16dBの損失を伴って光チャネルを移動した後、符号化されたパルスは、受信機AMZIによって復号され、単一光子検出器によって測定される。次いで、原理の証明BB84 QKDプロトコルが実施され、QBERが最適化される。同相コヒーレンス最適化として、量子ビットの位相が同時にランダム化されることを確実にしながらQBERを抑制することができるように、位相ランダム化を考慮に入れることが重要である。これを達成するために、
図11に例示されるように、2つの位相ランダム化パルス間の干渉から生じる強度(サイドピークと呼ぶ)が、2つの位相コヒーレントパルス間の建設的干渉の強度(信号ピークと呼ぶ)のちょうど半分であるということが活用される。これに基づいて、位相ランダム化「コスト関数」L
PRが規定され、最小にされる。
【数2】
ここで、
【数3】
は、取得期間にわたる信号ピーク(サイドピーク)から測定された平均光子計数である。L
PRをスケーリングするためにスケーリング係数αが1/10に選択され、それによりQBERおよび位相ランダム化の寄与率が適応度関数において同等にスコアリングされるようになり、以下のように規定される。
【数4】
【0112】
入力パラメータが表1にリストにされている。QBERの進化および対応するセキュアキーレート、ならびに5回繰り返した最適化試行のL
PRが
図14Aおよび
図14Bにプロットされている。位相コヒーレンス最適化と同様に、すべての最適化試行は最適なパラメータを最終的に突き止め、約2.5%のQBERに向けて収束する。
図14Cはさらに、最適化中の集団が進化する様子を例示する。パラメータ空間におけるランダム分布から始まり、個体は徐々に世代にわたり最適領域に向かって移動するが、探索を続けるためにパラメータ空間に散らばるものもある。位相ランダム化を検証するために、チャネル減衰をなくし、オシロスコープを用いて出力の強度確率分布を測定した。
図15に示すように、分布は、2つの位相ランダム化パルス間の干渉から予想される典型的なプロファイルを辿る。
【0113】
実際の実装の観点では、上述のGAベースの最適化技法を、追加のハードウェア修正を必要とせずにQKDシステムのソフトウェア層にシームレスに一体化することができる。特に、QBER最適化は、他の診断ツールを伴うことなく、QKD送信機および受信機内で実行されるように設計される。そのため、最適化プロシージャは自己完結型であり、複数のQKDシステムが並行して自動的に最適化されることが可能になる。この特徴は、特に、最適化がより困難である場合が多いチップベースのQKDシステムの場合に、QKDシステムの製造の規模を拡大するのに有用である。テスト機器およびQKD専門家が容易に利用可能でない現実世界の環境に配備されるQKDシステムでは、例えば、現場環境の様々な予期しない変化に起因してシステムパラメータが最適解から離調される場合に、上記プロセスにより、QKDシステムが現場で自己最適化されることが可能になり、継続的な最適性能が確実になる。これにより、システムが全体としてよりロバストになり、中断時間の可能性が減少する。
【0114】
最適化の性能に関して、収束の速度は、当面の問題の複雑さおよび遺伝的アルゴリズムの制御パラメータ構成に依存する。大域的最適解を効率的に突き止めるために、最適探索がランダムな突然変異に過度に依拠しないように、集団に、特に第1世代に、十分な遺伝子多様性がある必要がある。そのため、良い解の数が探索空間のサイズと比較して非常に少ない場合、多様性を維持し、局所最適解への収束を回避するために、大きい集団サイズが必要である。しかしながら、集団が大きくなるほど、収束時間も必然的に増加する。制御パラメータ構成は問題依存型であることが知られている。この特定の実施形態では、位相コヒーレンス最適化のための集団サイズを35に選択したが、QBER最適化のためにはそのパラメータ空間がより大きいことに起因して60に拡大した。これらの値は、妥当な時間内で反復可能な収束を与えるために経験的に決定されたものであり、さらなる最適化は可能であるがこの研究の範囲を超える。
【0115】
さらに、GAベースの自己調節技法はゴール志向型である。そのような最適化手法により、根源的な複雑なダイナミクスのアプリオリな知識を用いることなく最適動作を達成することが可能になる。
【0116】
特定の実施形態について説明したが、これらの実施形態は単に例として提示されており、本発明の範囲を限定することは意図していない。本明細書に記載の新規のデバイスおよび方法は、その他の様々な形態で具現化されることができ、さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、本明細書に記載のデバイス、方法、および製品の形態に様々な省略、置き換え、および変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲とその均等物は、本発明の範囲および要旨に含まれる形態または変形を網羅することを意図している。