(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175009
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】導電性密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3284 20160101AFI20241210BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20241210BHJP
F16J 15/324 20160101ALI20241210BHJP
【FI】
F16J15/3284
F16J15/3232 201
F16J15/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024158461
(22)【出願日】2024-09-12
(62)【分割の表示】P 2024543206の分割
【原出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2022172789
(32)【優先日】2022-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004358
【氏名又は名称】弁理士法人NYTパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】長浜谷 英明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 翔太
(57)【要約】
【課題】高速で回転する内周側部材に対しても導電性能を維持することができる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置(1)は、環状の部材である、導電性を有する弾性材料から形成された部分を有する導電性弾性体部(2)を備えている。導電性弾性体部(2)は、電動モータのシャフト(101)及びハウジング(102)に接触可能になっている。導電性弾性体部(2)は、電動モータのシャフト(101)とハウジング(102)との間に導電回路(3)を形成可能になっている。周速60m/s以下の電動モータのシャフト(101)の回転における、導電回路(3)のインピーダンスは、0.01Ω以上100Ω以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間を密封するための密封装置であって、
軸線周りに環状の部材である、導電性を有する弾性材料から形成された部分を有する導電性弾性体部を備え、
前記導電性弾性体部は、前記内周側部材及び前記外周側部材に接触可能になっており、前記内周側部材と前記外周側部材との間に導電回路を形成可能になっており、
周速60m/s以下の前記相対回転における、前記導電回路のインピーダンスは、0.01Ω以上100Ω以下である、
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記導電回路は、前記相対回転に基づく前記導電性弾性体部と前記内周側部材との接触を解消させる力を受けても、前記内周側部材との電気的な接触を維持しようとするようになっている、
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記導電性弾性体部は、-40°以上200°以下の耐熱性を有している、
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項4】
前記導電性弾性体部は、前記内周側部材に接触可能に形成された、前記軸線周りに環状の導通リップを有しており、
前記密封装置は、前記導通リップと前記内周側部材との間に介在する導電性を有する潤滑剤を更に有している、
ことを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項5】
前記導通リップは、前記潤滑剤を保持するための溝を少なくとも1つ有しており、
前記溝は、前記軸線周りに環状の溝であり、前記導通リップの前記内周側部材に接触する部分に形成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の密封装置。
【請求項6】
前記環状の空間を密封するための、前記軸線周りに環状の部材である密封装置本体部を更に備え、
前記導電性弾性体部は、前記密封装置本体部に取り付け可能になっている、
ことを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項7】
前記導電性弾性体部は、環状の補強環と、前記補強環に取り付けられた前記導電性を有する弾性材料から形成された本体部とを有しており、
前記本体部は、前記内周側部材に接触可能に形成された、前記軸線周りに環状の導通リップを有しており、
前記導通リップは、前記補強環の内周側の部分の内周側に設けられている、
ことを特徴とする請求項6に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等の電動モータが搭載されている車両では、モータから発生する誘導電流等によって電磁波ノイズが発生することがある。このような電磁波ノイズは、AMラジオや他の無線通信機器に通信障害をもたらす場合がある。また、このような電磁波ノイズによって、ベアリング等の金属部品に電食が生じる場合がある。このため、従来から、このような電磁波ノイズの除去のための工夫がなされている。例えば、モータの回転軸をシールするオイルシールを導電性ゴムからなるオイルシールとし、電磁波ノイズを回転軸からハウジングに逃がす技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁波ノイズによる問題の対策を図るための、このような導電性ゴムを有する従来のオイルシールに対しては、より高速で回転する回転軸に対しても導電性能を維持することができる構成が求められている。
【0005】
本発明の課題は、高速で回転する内周側部材に対しても導電性能を維持することができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る密封装置は、互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間を密封するための密封装置であって、軸線周りに環状の部材である、導電性を有する弾性材料から形成された部分を有する導電性弾性体部を備え、前記導電性弾性体部は、前記内周側部材及び前記外周側部材に接触可能になっており、前記内周側部材と前記外周側部材との間に導電回路を形成可能になっており、周速60m/s以下の前記相対回転における、前記導電回路のインピーダンスは、0.01Ω以上100Ω以下である、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電回路は、前記相対回転に基づく前記導電性弾性体部と前記内周側部材との接触を解消させる力を受けても、前記内周側部材との電気的な接触を維持しようとするようになっている。
【0008】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性弾性体部は、-40°以上200°以下の耐熱性を有している。
【0009】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性弾性体部は、前記内周側部材に接触可能に形成された、前記軸線周りに環状の導通リップを有しており、前記密封装置は、前記導通リップと前記内周側部材との間に介在する導電性を有する潤滑剤を更に有している。
【0010】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導通リップは、前記潤滑剤を保持するための溝を少なくとも1つ有しており、前記溝は、前記軸線周りに環状の溝であり、前記導通リップの前記内周側部材に接触する部分に形成されている。
【0011】
本発明の一態様に係る密封装置は、前記環状の空間を密封するための、前記軸線周りに環状の部材である密封装置本体部を更に備え、前記導電性弾性体部は、前記密封装置本体部に取り付け可能になっている。
【0012】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導電性弾性体部は、環状の補強環と、前記補強環に取り付けられた前記導電性を有する弾性材料から形成された本体部とを有しており、前記本体部は、前記内周側部材に接触可能に形成された、前記軸線周りに環状の導通リップを有しており、前記導通リップは、前記補強環の内周側の部分の内周側に設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る密封装置によれば、高速で回転する内周側部材に対しても導電性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された本発明の第1の実施の形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図3】内周側から見た導通リップの接触面の一部を示す図である。
【
図4】導通リップの断面図であり、
図4(A)は、
図3の線A-Aに沿う断面図であり、
図4(B)は、
図3の線B-Bに沿う断面図である。
【
図5】
図1に示す密封装置のねじ溝の変形例としてのねじ突起を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る密封装置の有する回転軸の周速に対する導電性能を示すグラフを示す図である。
【
図7】密封装置の導電回路のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置の一例を示す図である。
【
図8】互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された本発明の第2の実施の形態に係る密封装置の部分断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る密封装置の略構成を示すための軸線に沿う断面における断面図である。
【
図11】
図10に示す密封装置の導電性弾性体部の軸線に沿う断面における断面図である。
【
図12】互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された
図10に示す密封装置の部分断面図である。
【
図13】本発明の第4の実施の形態に係る密封装置の部分斜視図である。
【
図14】本発明の第5の実施の形態に係る密封装置の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1の部分断面図であり、
図2は、
図1に示す密封装置1の部分斜視図である。なお、
図1には、密封装置1の軸線xに沿う断面における断面(以下、単に断面ともいう。)の軸線xに対する一方が示されており、
図2には、密封装置1の一部が軸線xに沿う面において切断された状態で示されている。本実施の形態に係る密封装置1は、例えば、バッテリー電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HV)、燃料電池自動車(FCV)等の電気自動車(EV)等において、互いに相対的に回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間の密封を図るものである。内周側部材及び外周側部材は、例えば、電動モータを備える駆動装置の部材であり、内周側部材は例えば電動モータの回転軸であり、外周側部材は例えば電動モータの回転軸が通る駆動装置のハウジングである。本実施の形態においては、密封装置1は、
図1に示すように、駆動装置(不図示)の電動モータ(不図示)の回転軸であるシャフト101と、駆動装置のハウジング102との間の環状の空間104の密封を図るものとする。なお、密封装置1の適用対象はこのような駆動装置に限られない。
【0017】
図1,2に示すように、密封装置1は、軸線x周りに環状の部材である、導電性を有する弾性材料から形成された部分を有する導電性弾性体部2を備えている。導電性弾性体部2は、電動モータのシャフト101及びハウジング102に接触可能になっている。また、導電性弾性体部2は、電動モータのシャフト101とハウジング102との間に導電回路3を形成可能になっている。周速60m/s以下の電動モータのシャフト101の回転における、導電回路3のインピーダンスは、0.01Ω以上100Ω以下である。以下、密封装置1の構成について具体的に説明する。
【0018】
導電性弾性体部2は、電動モータのシャフト101の回転に基づく導電性弾性体部2とシャフト101との接触を解消させる力を受けても、シャフト101との電気的な接触を維持しようとするようになっている。従来の所謂ラジアルタイプの導電性を有する弾性材料から形成された導通リップは、適用対象の回転軸が高速で回転する場合、高速で回転する回転軸から、導通リップと回転軸との間の接触を解消させるように作用する力を受ける。回転軸が周速30m/s以上等の高速で回転する場合、この接触を解消させるような力を受けて、ラジアルタイプの従来の導通リップは、回転軸との接触面積が小さくなる場合があると考えられている。このため、回転軸が周速30m/s以上等の高速で回転する場合、ラジアルタイプの従来の導通リップにおいては、導通リップと回転軸との間の導電性が低下することがあると考えられている。なお、回転軸の周速は、回転軸の外周面が単位時間当たりに移動する距離である。より詳細には、回転軸の周速は、回転軸の外周面の一点が単位時間当たりに移動する距離である。
【0019】
これに対して、密封装置1は、導電性を有するグリース等の潤滑剤が介在することにより、シャフト101が高速で回転しても導電性弾性体部2とシャフト101との間の電気的な接触の維持が図られ、導電性弾性体部2が形成する導電回路3のインピーダンスは、60m/s以下の周速で電動モータのシャフト101が回転する場合においても、0.01Ω以上100Ω以下となるようになっている。このように、密封装置1は、電動モータのシャフト101が高速で回転する場合でも、インピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下の範囲にすることができ、導電性の低下を抑制することができるようになっている。
【0020】
図1,2に示すように、密封装置1は軸線x周りに環状の形状を有しており、ハウジング102に設けられた貫通孔103と、この貫通孔103を通ってハウジング102から出る電動モータのシャフト101との間の環状の空間104に取り付けられて、この空間104を密閉する。これにより、密封装置1は、ハウジング102内に在る潤滑油等の密封対象物が大気側へ漏洩することを防止する。図示の例では、
図1に示すように、符号Iで示す側が密封対象物側であり、符号Oで示す側が大気側である。また、
図1に示すように、空間104に取り付けられた密封装置1の軸線xは、シャフト101の軸線と一致又は略一致する。図示の例においては、密封装置1の軸線xは、シャフト101の軸線と一致している。
【0021】
密封装置1は、軸線x周りに環状の金属製の部材である補強環10と、補強環10に取り付けられた部材である導電性弾性体部2としてのシール本体20とを有している。補強環10は、例えば
図1,2に示すように、軸線xに沿って延びる筒状の部分である筒部11と、筒部11の大気側Oの端部(端部11a)から密封対象物側Iに折り返された環状の部分である屈曲部12と、屈曲部12の内周側の端部(端部12a)から内周側に延びる円環状の部分である円環部13とを有している。筒部11、屈曲部12、及び円環部13は、同一の金属材から一体に形成された補強環10の部分である。補強環10は、例えば環状の金属板をプレス加工することによって成形される。筒部11は、例えば
図1に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分であり、密封装置1がハウジング102の貫通孔103に取り付けられた使用状態において、密封装置1を貫通孔103に固定するような形状となっている。なお、補強環10の材料は金属材に限られない。
【0022】
シール本体20は、導電性を有する弾性材料から形成されており、この導電性を有する弾性材料が補強環10に架橋接着されて一体成形されている。シール本体20は、例えば、補強環10をインサート部品として、インサート成型により得られる成形体である。シール本体20を形成する導電性を有する弾性材料は、例えば、導電性ゴムである。また、シール本体20を形成する導電性を有する弾性材料は、例えば、-40°以上200°以下の耐熱性を有する材料であり、例えば、導電性のフッ素ゴム(FKM)である。シール本体20は、例えば
図1,2に示すように、補強環10の全体を覆うように補強環10に取り付けられており、シール部21と、基部22と、ガスケット部23と、カバー部24とを有している。シール部21は、導通リップ部30と、シールリップ部40とを有している。なお、シール部21、基部22、ガスケット部23、及びカバー部24は、同一の材料から一体に形成されたシール本体20の部分である。
【0023】
基部22は、補強環10の円環部13の内周側の端部及びその近傍に位置する部分であり、ガスケット部23は、補強環10の筒部11の外周面11bを覆う部分であり、カバー部24は、基部22とガスケット部23との間で補強環10を覆う部分である。ガスケット部23は、その外径が、ハウジング102の貫通孔103の内周面103aの径と同じか、それよりも大きくなっている。このため、密封装置1がハウジング102の空間104に取り付けられた場合、ガスケット部23は、補強環10の筒部11とハウジング102との間で径方向に圧縮されて、密封装置1がハウジング102に固定され、また、ハウジング102の貫通孔103の内周面103aと密封装置1との間が密閉される。
【0024】
上述のように、シール部21は、
図1,2に示すように、基部22から二股に分岐した部分であり、軸線xに沿って互いに背向して延びる導通リップ部30とシールリップ部40とを有している。導通リップ部30は、シャフト101の外周面101aに接触可能に、基部22の大気側Oの端から大気側Oに向かって延びている。また、シールリップ部40は、シャフト101の外周面101aに接触可能に、基部22の密封対象物側Iの端から密封対象物側Iに向かって延びている。導通リップ部30は、例えば、軸線xに平行又は略平行に延びており、また、シールリップ部40は、例えば、軸線xに平行又は略平行に延びている。
【0025】
図1,2に示すように、シールリップ部40は、密封対象物側Iの端部にシールリップ41を有している。シールリップ41は、軸線xを中心又は略中心とする円環又は略円環に沿って延びる部分であり、断面の形状が、内周側に向かって凸の楔形状となっている。シールリップ部40は、シールリップ41においてシャフト101の外周面101aに接触するような形態を有している。
【0026】
具体的には例えば、シールリップ41は、
図2に示すように、上述の楔形状の断面を形成する、密封対象物側面42と、大気側面43とを有している。密封対象物側面42は、内周側及び密封対象物側Iに面する環状の面であり、大気側面43は、内周側及び大気側Oに面する環状の面である。密封対象物側面42と大気側面43とは、
図1,2に示すように、内周側において互いに交わっており、交差部に円環又は略円環を描く先端44を形成している。
【0027】
大気側面43には、流体戻し部としての複数のねじ溝45が設けられている。これらのねじ溝45は、大気側面43から凹む溝であり、先端44を起点として、シャフト101の回転方向に傾斜する溝である。ねじ溝45は、シャフト101が回転することによって、大気側面43の側から密封対象物側面42の側に向けた気流を発生させ、先端44を超えて大気側Oに滲み出た密封対象物(図示せず)を密封対象物側Iに戻すねじポンプ作用を生じさせる。なお、大気側面43は、ねじ溝45に変えて、
図5に示すねじ突起46を有していてもよい。ねじ突起46は、大気側面43から突出する突起であり、先端部44を起点として、シャフト101の回転方向に傾斜する突起である。
【0028】
図1,2に示すように、シールリップ部40は、シールリップ41が先端44及びその近傍で、所定の締め代を持って、シャフト101の外周面101aに接触するように形成されている。また、シールリップ部40には、シールリップ41に背向する位置に、ガータスプリング47が設けられている。ガータスプリング47は、シールリップ41を内周側に押す緊迫力をシールリップ部40に与えており、シールリップ41をシャフト101の外周面101aに押し付ける緊迫力を高めている。
【0029】
導通リップ30部は、例えば
図1,2に示すように、大気側Oの端部に導通リップ31を有している。導通リップ31は、軸線xを中心又は略中心とする円環又は略円環に沿って延びる部分であり、断面の形状が、例えば、内周側に向かって凸の矩形状又は台形状となっている。導通リップ部30は、導通リップ31においてシャフト101の外周面101aに接触するような形態を有している。
【0030】
具体的には例えば、導通リップ31は、
図1,2に示すように、上述の矩形状又は台形状の断面を形成する、環状の接触面32を有している。接触面32は、シャフト101の外周面101aに面接触するようになっており、例えば、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒面又は略円筒面である。接触面32は、円筒面又は略円筒面に限られず、他の形状の面であってもよい。接触面32は、例えば、断面において内周側に凸の湾曲線を描く、環状の面であってもよい。この場合、使用状態において、接触面32がシャフト101の外周面101aに沿って変形することで、シャフト101の外周面101aに対する接触領域を拡大又は維持することができる。
【0031】
図3は、内周側から見た導通リップ31の接触面32の一部を示す図であり、
図4(A)は、
図3の線A-Aに沿う断面図であり、
図4(B)は、
図3の線B-Bに沿う断面図である。
図2,3,4(A),4(B)に示すように、接触面32には、軸線x周りに環状のグリース溝33が複数設けられている。グリース溝33は、
図4(A),(B)に示すように、接触面32から外周側に凹む溝であり、例えば軸線xを中心軸又は略中心軸とする円環又は略円環に沿って延びる環状の溝である。また、グリース溝33は、例えば、軸線x方向に等間隔又は略等間隔で設けられている。図示の例においては、3つのグリース溝33が設けられているが、グリース溝33の数は3つに限られず、1つ又は2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0032】
図3,4(A),4(B)に示すように、グリース溝33には、潤滑剤としてのグリースGが収容されて保持される。グリース溝33に保持されるグリースGは、導電性を有するグリースである。グリース溝33の形状は、グリースGの保持に適した形状が好ましい。例えば、グリース溝33の深さは、グリースGを保持できる深さであることが好ましい。また、グリース溝33の断面形状は、例えば
図4(A),(B)に示すような放物線形状である。なお、グリース溝33の断面形状は、この放物線形状に限られず、矩形形状や湾曲形状等の他の形状であってもよい。
【0033】
また、
図2,3,4(B)に示すように、導通リップ31の接触面32には、連絡溝34が複数設けられている。連絡溝34は、接触面32の軸線x方向の幅全体に亘って軸線xに沿って延びる、接触面32から外周側に凹む溝であり、グリース溝33に交差して連通し、シャフト101と導通リップ部30とシールリップ部40との間に生ずる空間S(
図1参照)と大気側Oの空間とを連通するようになっている。連絡溝34は、例えば、軸線xに平行又は略平行に延びており、また、軸線x周りに等角度間隔又は略等角度間隔で設けられている。
【0034】
グリースGは、例えば、グリース溝33内にのみ充填され、連絡溝34には充填されない。これによってグリースGはグリース溝33内にとどまり、連絡溝34に進入しにくくなっている。もっともシャフト101の回転によって連絡溝34にグリースGが運ばれてしまうこともあり得るが、連絡溝34をある程度周方向に幅広に形成したり深く形成したりすることで、連絡溝34にグリースGが詰まらないようにすることが可能である。このため、例えば、連絡溝34の溝幅や深さは、グリースGが連絡溝34に詰まることがないような値に定められている。なお、連絡溝34の溝幅は、軸線x周りの方向である周方向における連絡溝34の幅である。
【0035】
後述するように、連絡溝34は、シャフト101と導通リップ部30とシールリップ部40との間に生ずる空間S(
図1参照)が負圧になることを抑制する作用を奏する。この空間Sが負圧になることを抑制する作用を奏するものであれば、連絡溝34の形状や大きさ、数等の連絡溝34の形態は、種々の形態であってよい。
【0036】
図1,2,4(A),4(B)に示すように、導通リップ部30には、導通リップ31に背向する位置に、ガータスプリング35が設けられている。ガータスプリング35は、導通リップ31を内周側に押す緊迫力を導通リップ部30に与えており、導通リップ31をシャフト101の外周面101aに押し付ける緊迫力を高めている。
【0037】
上述のように、導通リップ31の接触面32は、シャフト101の外周面101aに面接触するようになっている。これにより、後述するように、グリース溝33に保持されたグリースGは、接触面32がシャフト101の外周面101aに接触した際に、両者間に充填される。このため、導通リップ31の接触面32の軸線x方向における幅(軸方向長さ)は、接触面32とシャフト101の外周面101aとの間に充填されるグリースGの広がり(面積)や充填率等が、後述する導通リップ31とシャフト101との間の導通性を好ましいものとするような値に設定されていることが好ましい。
【0038】
例えば、接触面32の軸方向長さは、軸線x方向に並べるグリース溝33の溝幅や数、あるいは形状等に基づいて設定される。
図1,2,4(A),4(B)に示すように、図示の例においては、導通リップ31の接触面32の軸方向長さは、ガータスプリング35の直径寸法以上の長さとなっている。接触面32の軸方向長さは、グリース溝33を設けることができる限り、ガータスプリング35の直径と同じ長さであってもよく、ガータスプリング35の直径よりも短い長さであってもよい。
【0039】
密封装置1は、グリースGを使用に際して不可欠な要素としている。このため、例えば、グリース溝33は、接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGを充填し得るようにグリースGを予め保持している。したがって、密封装置1は、接触面32に設けられたグリース溝33内にグリースGを予め保持し、接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGを充填するグリース供給部36を構成している。
【0040】
密封装置1のシール本体20は、導電性ゴムから成形された一体構造物であり、補強環10を覆っている。また、導通リップ31の接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にはグリースGが膜状に介在しており、グリースGは導電性を有する。このため、密封装置1においては、グリースG及び補強環10を含むシール本体20を通って、シャフト101にグリースGを介して接触する導通リップ31及びシールリップ41からガスケット部23を経てハウジング102に至る導通回路3(
図1参照)が構成される。つまり、密封装置1の導電性弾性体部2(シール本体20)が形成する導電性の導電回路3は、グリースG及びシール本体20によって、加えて、グリースGと補強環10及びシール本体20とによって構成される。
【0041】
次いで、上述の構成を有する密封装置1の作用について説明する。駆動装置のハウジング102の貫通孔103とシャフト102との間に取り付けられた使用状態の密封装置1において、導通リップ31とシールリップ41とはシャフト101の外周面101aに接触し、密封対象物を密封対象物側Iに密封し、密封対象物側Iからの密封対象物の漏れ出しを防止する。この密封において、シールリップ41は、密封対象物側Iからの密封対象物の漏れ出しを防止する主たるシール機能を果たす。導通リップ31は、密封対象物がシールリップ41から漏れ出た場合に、この密封対象物を接触面32とシャフト101の外周面101aとの間の密閉によってせき止める従たるシール機能を果たす。導通リップ31は、大気側Oから密封対象物側Iへの雨水や泥水、ダスト等の異物の進入を抑制するダストリップとしても機能する。
【0042】
電気自動車(EV)等の電動モータが搭載されている車両では、モータから発生する誘導電流等によって電磁波ノイズが発生することがある。また、電動モータ等の電動機に供給する電流制御用のインバータのオンオフ動作、あるいは電動機自身の誘導電圧等によって電磁波ノイズが発生することがある。電磁波ノイズは、例えばシャフト101に伝達され、シャフト101をアンテナとして放射される。こうして放射された電磁波ノイズは、車載ラジオや車載無線機に通信障害をもたらし、また、各種の電子機器に誤作動を生じさせることがある。また、このような電磁波ノイズは、金属部品に電食を引き起こすことがある。
【0043】
密封装置1は、導電性ゴムが成形されて作られたシール本体20が導通回路3を構成し、シャフト101に伝達された電磁波ノイズをハウジング102に流す。これによって電子機器に通信障害や誤動作が発生すること、金属部品に電食が発生することを防止することができる。
【0044】
上述したように、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間にはグリースGが充填されており、接触面32とシャフト101との間にはグリースGの被膜が介在しており、このグリースGの被膜は導電回路3の一部を構成する。このため、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間の隙間を低減すること又は無くすことができ、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間の導電性を高めることができる。これにより、導通回路3は、シャフト101に伝達された電磁波ノイズのハウジング102への流量を増大させることができ、電磁波ノイズに基づく不具合の発生をより低減することができる。
【0045】
また、シャフト101が高速で回転する場合、シャフト101の回転に基づく導通リップ31とシャフト101との接触を解消させる力を導通リップ部30は受ける。このため、シャフト101が高速で回転する場合、例えば、シャフト101が周速30m/s以上の高速で回転する場合、導通リップ31の接触面32がシャフト101の外周面101aから離れて隙間が生じる場合がある。これに対して、密封装置1においては、導通リップ31の接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGが充填されており、接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGの被膜が介在している。このため、シャフト101の高速回転時に、導通リップ31の接触面32とシャフト101の外周面101aとの間において電気の伝導を断つ隙間が生じたとしても、この隙間はグリースGによって埋められる。このため、シャフト101が高速で回転する場合でも、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間の導電性能が維持され、シャフト101に伝達された電磁波ノイズのハウジング102への流量を維持することができる。
【0046】
このため、
図6に示すように、密封装置1においては、電動モータのシャフト101の周速60m/s以下の回転において、導電回路3のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下とすることができる。これにより、密封装置1は、電動モータのシャフト101が高速で回転する場合でも、導電回路3のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下の範囲にすることができ、導電性の低下を抑制することができる。
【0047】
密封装置1の導電回路3のインピーダンスは、例えば、
図7に示すようなインピーダンス測定装置200によって測定することができる。インピーダンス測定装置200は、インピーダンスアナライザ201を有している。インピーダンス測定装置200において、インピーダンスアナライザ201の一方の端子は、例えば銅板等の導電性の導電性部材202を介してシャフト101に接触され、インピーダンスアナライザ201の他方の端子は、導電性の導電性部材203を介してハウジング102に固定されている。シャフト101は、導電性の部材202に対して摺動可能となっている。なお、インピーダンス測定装置200においては、シャフト101に変えて、シャフト101の形状を模した部材を用いてもよく、同様に、ハウジング102に変えて、ハウジング102の形状を模した部材を用いてもよい。
【0048】
インピーダンス測定装置200を用いた密封装置1の導電回路3のインピーダンスの測定は、シャフト101を周速0~60m/sの間の回転速度で回転させ、この回転速度における導電回路3のインピーダンスをインピーダンスアナライザ201によって検出することにより行う。これにより、周速0~60m/sのシャフト101の回転速度における導電回路3のインピーダンスが得られる。上述のように、周速0~60m/sのシャフト101の回転速度における導電回路3のインピーダンスの測定値は、
図6に示すように、0.01Ω~100Ωとなる。
【0049】
インピーダンス測定装置200による導電回路3のインピーダンスの測定の条件は、例えば、インピーダンスアナライザ201の測定周波数が500kHzであり、電圧振幅が5Vである。
【0050】
また、シールリップ41の先端44及びその近傍は、密封対象物側Iに在る潤滑油等の密封対象物によって潤滑される。これに対して導通リップ31の接触面32の方は、密封対象物側Iの密封対象物による潤滑を期待することができない。そこで密封装置1の導通リップ31は、接触面32にグリース溝33を設けてグリースGを保持し、シャフト101が回転した際、グリース溝33内のグリースGをシャフト101との間に充填するようにしている。これによって接触面32をグリースGによって潤滑し、接触面32及びシャフト101を摩耗や損傷から保護することができる。
【0051】
また、シャフト101が回転した際、シールリップ41に設けたねじ溝45又はねじ突起46は、密封対象物側Iから先端44を超えて大気側Oに滲み出た密封対象物をねじポンプ作用によって密封対象物側Iに戻す。その一方でねじポンプ作用は、シャフト101と導通リップ部30とシールリップ部40との間の空間Sを負圧にしようとする。仮に空間Sが負圧になったと仮定すると、導通リップ31及びシールリップ41がより強くシャフト101に押し付けられる。このとき、特に、導通リップ31とは異なり、シャフト101との間にグリースGの被膜が形成されていないシールリップ41の先端44及びその近傍には異常摩擦が発生する場合がある。
【0052】
密封装置1においては、ねじ溝45又はねじ突起46によるねじポンプ作用が生じたとき、導通リップ31の接触面32に設けられた連絡溝34を通って、大気側Oの空気が空間Sに導入される。これによって空間Sは負圧にならず、または、空間Sの負圧は大きくならず、空間Sが負圧になった場合に引き起こされるシールリップ41の異常摩擦を防止することができる。
【0053】
次いで、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置4について説明する。
図8は、互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された本発明の第2の実施の形態に係る密封装置4の部分断面図であり、
図9は、
図8に示す密封装置4の部分斜視図である。本実施の形態において、密封装置4は、密封装置1と同様に、
図8に示すように、駆動装置(不図示)の電動モータ(不図示)の回転軸であるシャフト101と、駆動装置のハウジング102との間の環状の空間104の密封を図るものとする。なお、密封装置4の適用対象はこのような駆動装置に限られない。以下、密封装置4について、上述の密封装置1と同じ構成又は同様の機能を有する構成については、密封装置1と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
図8,9に示すように、密封装置4は、密封装置1の補強環10とは異なる形状の補強環15を有しており、補強環15の断面形状はL字形状となっている。補強環15は、具体的には例えば、筒部11と、筒部11の密封対象物側Iの端部11cから内周側に延びる円環状の部分である円環部16とを有している。
【0055】
また、補強環15の形状に対応して、密封装置4は、密封装置1のシール本体20とは異なる形状のシール本体25を有している。具体的には、例えば
図8,9に示すように、密封装置4のシール本体25において、シール部21は、密封装置1のシール部21とは異なり、基部22から密封対象物側Iに延びるシールリップ部40を有していない。密封装置4のシールリップ部40において、シールリップ48は、基部22の内周側の端部に形成されている。また、密封装置4のシールリップ部40は、ガータスプリング47を有していない。
【0056】
密封装置4のシールリップ48は、導通リップ31と同様に、シャフト101に接触可能に形成された面状のシール面49を有している。シール面49は、例えば
図9に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒面又は略円筒面である。なお、シールリップ48には、導通リップ31の接触面32とは異なり、グリース溝33及び連絡溝34は設けられていない。また、密封装置1のシールリップ41とは異なり、シールリップ48には、ねじ溝45もねじ突起46も設けられていない。つまりシールリップ48には、ねじポンプ作用を奏する流体戻し部が設けられていない。このため、密封装置4においては、導通リップ部30とシールリップ48との間に生ずる空間Sが負圧になることはないので、導通リップ31の接触面32にも連絡溝34が設けられていない。なお、密封装置4の導通リップ31の接触面32に、連絡溝34が設けられていてもよい。
【0057】
上述の構成を有する密封装置4は、電磁波ノイズ対策及び潤滑機能に関して、密封装置1と同様に作用する。つまり、密封装置4のシール部21は、導通リップ31とシールリップ48とがシャフト101に接触して、密封対象物側Iからの密封対象物の漏れ出しを防止する。このときシールリップ48は、密封対象物側Iからの流体の漏れ出しをシール面49によって防止する主たるシール機能を果たす。導通リップ31は、シールリップ48から漏れ出てしまった流体を接触面32によってせき止める従たるシール機能を果たす。また、導通リップ31は、大気側Oから密封対象物側Iへの異物の進入を抑制するダストリップとしても機能する。
【0058】
また、密封装置4においても、密封装置1と同様に、導電性弾性体部2(シール本体25)が形成する導電性の導電回路3が、グリースG及びシール本体25によって、加えて、グリースGと補強環15及びシール本体25とによって構成され、シャフト101に伝達された電磁波ノイズをハウジング102に流す。これによって電子機器に通信障害や誤動作が発生すること、金属部品に電食が発生することを防止することができる。
【0059】
密封装置4においても、密封装置1と同様に、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間にはグリースGが充填されており、接触面32とシャフト101との間にはグリースGの被膜が介在している。このため、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間において電気の伝導を断つ隙間を低減すること又は無くすことができ、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間の導電性を高めることができる。これにより、導通回路3は、シャフト101に伝達された電磁波ノイズのハウジング102への流量を増大させることができ、電磁波ノイズに基づく不具合の発生をより低減することができる。
【0060】
また、密封装置4においても、導通リップ31の接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGが充填されており、接触面32とシャフト101の外周面101aとの間にグリースGの被膜が介在している。このため、シャフト101の高速回転時に、導通リップ31の接触面32とシャフト101の外周面101aとの間に隙間が生じたとしても、この隙間はグリースGによって埋められる。このため、シャフト101が高速で回転する場合でも、導通リップ31の接触面32とシャフト101との間の導電性能が維持され、シャフト101に伝達された電磁波ノイズのハウジング102への流量を維持することができる。
【0061】
このため、密封装置4においても、
図6に示すように、電動モータのシャフト101の周速60m/s以下の回転において、導電回路3のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下とすることができる。これにより、密封装置4は、電動モータのシャフト101が高速で回転する場合でも、導電回路3のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下の範囲にすることができ、導電性の低下を抑制することができる。
【0062】
次いで、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置5について説明する。
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る密封装置5の略構成を示すための軸線xに沿う断面における断面図であり、
図11は、密封装置5の導電性弾性体部6の軸線x沿う断面における断面図である。また、
図12は、互いに相対回転する内周側部材と外周側部材との間の環状の空間に配置された密封装置5の部分断面図である。本実施の形態において、密封装置5は、密封装置1と同様に、
図12に示すように、駆動装置(不図示)の電動モータ(不図示)の回転軸であるシャフト101と、駆動装置のハウジング102との間の環状の空間104の密封を図るものとする。なお、密封装置5の適用対象はこのような駆動装置に限られない。
【0063】
なお、
図10、
図11、及び
図12に示すように、軸線x方向において矢印a方向の側(軸線方向において一方の側)が大気側O(外側)であり、軸線x方向において矢印b方向の側(軸線方向において他方の側)が密封対象流体側I(内側)である。また、軸線xに垂直な方向(径方向)において、軸線xから離れる方向(矢印c方向)の側が外周側であり、軸線xに近づく方向(矢印d方向)の側が内周側である。
【0064】
図10~12に示すように、密封装置5は、軸線x周りに環状の部材である、導電性を有する弾性材料から形成された導電性弾性体部6を備えている。導電性弾性体部6は、電動モータのシャフト101及びハウジング102に接触可能になっている。また、導電性弾性体部6は、電動モータのシャフト101とハウジング102との間に導電回路8を形成可能になっている。周速60m/s以下の電動モータのシャフト101の回転における、導電回路8のインピーダンスは、0.01Ω以上100Ω以下である、以下、密封装置5の構成について具体的に説明する。
【0065】
導電性弾性体部6は、電動モータのシャフト101の回転に基づく導電性弾性体部6とシャフト101との接触を解消させる力を受けても、シャフト101との電気的な接触を維持しようとするようになっている。上述のように、従来の所謂ラジアルタイプの導電性を有する弾性材料から形成された導通リップは、適用対象の回転軸が高速で回転する場合、高速で回転する回転軸から、導通リップと回転軸との間の接触を解消させるように作用する力を受ける。回転軸が周速30m/s以上等の高速で回転する場合、この接触を解消させるような力を受けて、ラジアルタイプの従来の導通リップは、回転軸との接触面積が小さくなる場合があると考えられている。このため、回転軸が周速30m/s以上等の高速で回転する場合、ラジアルタイプの従来の導通リップにおいては、導通リップと回転軸との間の導電性が低下することがあると考えられている。
【0066】
これに対して、密封装置5の導電性弾性体部6は、シャフト101が高速で回転しても導電性弾性体部6とシャフト101との間の電気的な接触の維持が図られ、導電性弾性体部6が形成する導電回路8のインピーダンスは、60m/s以下の周速で電動モータのシャフト101が回転する場合においても、0.01Ω以上100Ω以下となるようになっている。このように、密封装置5は、電動モータのシャフト101が高速で回転する場合でも、インピーダンスを0.01Ω以上100Ω下の範囲にすることができ、導電性の低下を抑制することができるようになっている。
【0067】
図10に示すように、密封装置5は、密封装置本体部7を備えている。密封装置本体部7は、補強環50と、補強環50に取り付けられたゴム状の弾性体により形成される部材であるシール本体60とを備えている。補強環50は、軸線xに沿って延びる筒状の部分である筒部51と、筒部51の大気側Oの端部(端部51a)から大気側Oに折り返された環状の部分である屈曲部52と、屈曲部52の内周側の端部(端部52a)から内周側に延びる円環状の部分である円環部53とを有している。筒部51、屈曲部52、及び円環部53は、同一の金属材から一体に形成された補強環50の部分である。補強環50は、例えば環状の金属板をプレス加工することによって成形される。筒部51は、例えば
図10,12に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分を有しており、密封装置5がハウジング102の貫通孔103に取り付けられた使用状態において、密封装置5を貫通孔103に固定するような形状となっている。なお、補強環50の材料は金属材に限られない。
【0068】
シール本体60は、導電性を有する弾性材料よりも導電性の低い弾性材料、具体的には、導電性を有しない弾性材料から形成されており、この弾性材料が補強環50に架橋接着されて一体成形されている。シール本体60は、例えば、補強環50をインサート部品として、インサート成型により得られる成形体である。シール本体60は、例えば
図10に示すように、補強環50の全体を覆うように補強環50に取り付けられており、シール部61と、基部62と、ガスケット部63と、カバー部64とを有している。また、シール部61は、シールリップ部65と、ダストリップ部66とを有している。なお、シール部61、基部62、ガスケット部63、及びカバー部64は、同一の材料から一体に形成されたシール本体60の部分である。
【0069】
基部62は、補強環50の円環部53の内周側の端部及びその近傍に位置する部分であり、ガスケット部63は、補強環50の筒部51の外周面51bを覆う部分であり、カバー部64は、基部62とガスケット部63との間で補強環50を覆う部分である。ガスケット部63は、その外径が、ハウジング102の貫通孔103の内周面103aの内径と同じか、それよりも大きくなっている部分(接触部63a)を有している。このため、密封装置5がハウジング102の空間104に取り付けられた場合、ガスケット部63の接触部63aは、補強環50の筒部51とハウジング102との間で径方向に圧縮されて、密封装置5がハウジング102に固定され、また、ハウジング102の貫通孔103の内周面103aと密封装置5との間が密閉される。
【0070】
シール部61において、シールリップ部65とダストリップ部66とは、
図10,12に示すように、基部62から軸線xに沿って互いに背向して延びている。シールリップ部65は、例えば、シャフト101の外周面101aに接触可能に、基部62の密封対象物側Iの端から密封対象物側Iに向かって延びている。ダストリップ部66は、例えば、シャフト101の外周面101aに接触可能に、基部62の大気側Oの端から大気側O及び内周側に向かって延びている。シールリップ部65は、密封対象物の漏れを防止するようになっており、また、ダストリップ部66は、大気側Oから密封対象物側Iへの雨水や泥水、ダスト等の異物の進入を防止するようになっている。また、シールリップ部65には、シールリップ部65をシャフト101の外周面101aに押し付ける緊迫力を高めるガータスプリング67が取り付けられている。
【0071】
図10及び
図11に示すように、導電性弾性体部6は、補強環70と、補強環70に取り付けられた部材である本体部80とを有している。本体部80は、ゴム状の導電性を有する弾性材料から形成される部材である。本体部80の導電性の弾性材料は、例えば、導電性ゴムである。また、本体部80を形成する導電性を有する弾性材料は、例えば、-40°以上200°以下の耐熱性を有する材料であり、例えば、導電性のフッ素ゴム(FKM)である。本体部80は、この導電性を有する弾性材料が補強環70に架橋接着されて一体成形されている。本体部80は、例えば、補強環70をインサート部品として、インサート成型により得られる成形体である。
【0072】
補強環70は、例えば
図10,11に示すように、軸線xに沿って延びる筒状の部分である筒部71と、筒部71の大気側Oの端部(端部71a)から内周側に延びる円環状の部分である円環部72とを有している。筒部71及び円環部72は、同一の金属材から一体に形成された補強環70の部分である。補強環70は、例えば環状の金属板をプレス加工することによって成形される。筒部71は、例えば
図10,11に示すように、軸線xを中心軸又は略中心軸とする円筒状又は略円筒状の部分を有しており、密封装置5がハウジング102の貫通孔103に取り付けられた使用状態において、導電性弾性体部6を密封装置本体部7と貫通孔103との間に固定するような形状となっている。なお、補強環70の材料は金属材に限られない。
【0073】
筒部71は、具体的には、
図10,12に示すように、密封装置5において、密封装置本体部7の補強環50の筒部51の外周側に位置して、補強環50の筒部51との間にシール本体60のガスケット部63を挟んで圧縮するような形状を有している。円環部72は、
図10,12に示すように、導電性弾性体部6が密封装置本体部7に組付けられている状態(組付け状態)において、密封装置本体部7のシール本体60の大気側Oのカバー部64に大気側Oから接触するような形状を有している。また、円環部72は、例えば
図10,12に示すように、密封装置本体部7の補強環50の円環部53よりも内周側に延びている。
【0074】
また、補強環70は、密封装置5の大気側Oの部分において、導電性弾性体部6を密封装置本体部7に接合可能に形成されている密封装置接合部73を有している。密封装置接合部73は、例えば、筒部接合部74と円環部接合部75とを有している。
【0075】
筒部接合部74は、例えば、密封装置本体部7のシール本体60のガスケット部63の一部と接合することができるように形成されている。筒部接合部74は、具体的には例えば、
図10,12に示すように、導電性弾性体部6が密封装置本体部7に組付けられている組付け状態において、ガスケット部63の接触部63aよりも大気側Oの部分に形成されている部分である筒部被接合部63bを補強環50の筒部51との間で圧縮して、密封装置本体部7と接合することができるような形状を有している。筒部接合部63bは、例えば、
図10,12に示すように、ガスケット部63の接触部63aと筒部接合部63bとの間の部分(被係合部63c)よりも外周側に突出しており、また、接触部63aよりも外周側に突出していない。
【0076】
また、例えば、筒部接合部74には、ガスケット部63の被係合部63cにおいてガスケット部63と係合する筒部係合部76が形成されている。筒部係合部76は、組付状態において、ガスケット部63の被係合部63cに外周側から接触又は対向し、軸線x方向において筒部接合部63bに係合する。
【0077】
円環部接合部75は、例えば、密封装置本体部7のシール本体60のカバー部64の大気側Oの部分(大気側カバー部64a)に接合可能に形成されている。円環部接合部75は、具体的には例えば、
図10~12に示すように、大気側カバー部64aに形成されている円環部被接合部68に接合することができる形状を有している。円環部接合部75は、具体的には例えば、
図10~12に示すように、補強環70の円環部72の密封対象物側Iに面する面(面72a)から密封対象物側Iに突出する部分であり、円環部被接合部68は、具体的には例えば、
図10,12に示すように、円環部接合部75と係合可能に円環部接合部75を収容可能に、大気側カバー部64aに形成された密封対象物側Iに凹む部分である。円環部接合部75は、円環部被接合部68に収容されて、円環部被接合部68と係合される。
【0078】
本体部80は、
図11に示すように、導通リップ81と、基部82と、連結部83とを有している。導通リップ81、基部82、及び連結部83は夫々、同一の材料から形成された本体部80の部分である。基部82は、補強環70の円環部72の内周側の端部(端部72b)及びその近傍に取り付けられている部分であり、基部82から内周側に向かって導通リップ81が延びている。
【0079】
導通リップ81は、
図12に示すように、駆動装置のハウジング102の貫通孔103とシャフト102との間に取り付けられた密封装置5において、シャフト101の外周面101aに接触するように形成されている。導通リップ81は、径方向において外周側に向かう外力に対して剛性が高くなるような形態を有している。導通リップ81は、例えば
図12に示すように、補強環70の円環部72の端部72b又は基部82と、シャフト101の外周面101aとの径方向における間に位置するように形成されており、径方向において外周側に向かう外力に対して剛性が高くなるような形状となっている。また、導通リップ81は、例えば
図10,11に示すように、駆動装置に取り付けられていない自由状態において、基部82から大気側O(矢印a方向側)及び内周側(矢印d方向側)に向かって延びており、導通リップ81の先端の部分(先端部81a)が、径方向において補強環70の円環部72の端部72b又は基部82と対向するように延びている。なお、導通リップ81には、シャフト101の外周面101aとの接触面に凹凸が設けられていてもよい。
【0080】
連結部83は、駆動装置のハウジング102の貫通孔103とシャフト102との間に取り付けられた密封装置5において、導通リップ81が基部82を介してハウジング102に連結されるように形成された部分である。連結部83は、例えば
図11に示すように、補強環70の円環部72の大気側Oに面する面(面72c)と、補強環70の筒部71の外周側に面する面(面71b)の大気側Oの一部に亘って広がっている。また、連結部83は、外周側の端部(端部83a)において、ハウジング102の貫通孔103の内周面103aに接触可能になっている。端部83aは、例えば
図11に示すように、補強環70の筒部71よりも外周側に突出しており、または、補強環70の筒部71と同じ径方向の位置まで外周側に突出している。
【0081】
上述のように、導電性の弾性材料から形成される本体部80は、導通リップ81がシャフト101の外周面101aに接触し、連結部83の端部83aがハウジング102の貫通孔103の内周面103aに接触することで、シャフト101とハウジング102との間に導電性弾性体部6による導電回路8が形成される。
【0082】
次いで、上述の構成を有する密封装置5の作用について説明する。駆動装置のハウジング102の貫通孔103とシャフト102との間に取り付けられた使用状態の密封装置5において、シールリップ部65は、シャフト101の外周面101aに接触し、密封対象物を密封対象物側Iに密封し、密封対象物側Iからの密封対象物の漏れ出しを防止する。また、密封装置5の使用状態において、ダストリップ部66は、シャフト101の外周面101aに接触し、大気側Oから密封対象物側Iへの雨水や泥水、ダスト等の異物の進入を防止する。
【0083】
上述のように、電気自動車(EV)等の電動モータが搭載されている車両では、モータから発生する誘導電流等によって電磁波ノイズが発生することがある。また、電動モータ等の電動機に供給する電流制御用のインバータのオンオフ動作、あるいは電動機自身の誘導電圧等によって電磁波ノイズが発生することがある。密封装置5は、導電性弾性体部6の導電性の弾性材料が成形されて作られた本体部80が導通回路8を形成し、シャフト101に伝達された電磁波ノイズをハウジング102に流す。これによって電子機器に通信障害や誤動作が発生すること、金属部品に電食が発生することを防止することができる。
【0084】
シャフト101が高速で回転する場合、シャフト101の回転に基づく導通リップ81とシャフト101との接触を解消させる方向に働く力を導通リップ81は受けるが、上述したように、導通リップ81は、径方向において外周側に向かう外力に対して剛性が高くなるような形状を有している。このため、シャフト101が高速で回転する場合、例えば、シャフト101が周速30m/s以上の高速で回転する場合、導通リップ81の先端部81aとシャフト101の外周面101aとの間に隙間を生じさせるような方向に働く力が発生する場合があるが、密封装置5において、導通リップ81は径方向において外周側に向かう外力に対して剛性が高くなっている。このため、シャフト101の高速回転時に、導通リップ81の接触面(先端部81a)とシャフト101の外周面101aとの間において電気の伝導を断つ隙間が生じることが防止されている。このように、シャフト101が高速で回転する場合でも、導通リップ81の先端部81aとシャフト101との間の導電性能が維持され、シャフト101に伝達された電磁波ノイズのハウジング102への流量を維持することができる。
【0085】
このため、
図6に示すように、密封装置5においては、電動モータのシャフト101の周速60m/s以下の回転において、導電回路8のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下とすることができる。これにより、密封装置5は、電動モータのシャフト101が高速で回転する場合でも、導電回路8のインピーダンスを0.01Ω以上100Ω以下の範囲にすることができ、導電性の低下を抑制することができる。なお、密封装置5の導電回路8のインピーダンスも、密封装置1と同様に測定することができ、例えば、
図7に示すようなインピーダンス測定装置200によって測定することができる。
【0086】
また、密封装置5によれば、シャフト101とハウジング102との間の環状の空間104に密封装置5を設置する際に、導電性弾性体部6と密封装置本体部7とを組み付けたまま設置することができる。導電性弾性体部6の導通リップ81を含む本体部80は、導電性を有する弾性材料による成形体であるため、導電性のブラシや繊維により形成されていた従来の導電性の摺動部材と比較して、本体部80の変形が抑制される。このため、導電性弾性体部6は、密封装置本体部7への取り付けが容易であり、シャフト101とハウジング102との間の環状の空間104への取り付けが容易である。また、導電性弾性体部6は、筒部接合部74と、円環部接合部75とを有することにより、密封装置本体部7への取り付け及び位置決めを容易に行うことができる。
【0087】
上述のように、本発明に第3の実施の形態に係る密封装置5によれば、高速で回転するシャフト101に対しても導電性能を維持することができる。
【0088】
次いで、本発明の第4の実施の形態に係る密封装置5Aについて説明する。以下、上述の第3の実施の形態に係る密封装置5の導電性弾性体部6及び密封装置本体部7と同一の又は類似する機能を有する構成に対しては同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0089】
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る密封装置5Aの部分斜視図である。密封装置5Aは、導電性弾性体部6Aと、密封装置本体部7Aとを備えている。
図13に示すように、密封装置5Aは、主に、円環部接合部の構成、及び円環部被接合部構成が、上述の密封装置5に対して異なる。具体的には、導電性弾性体部6Aの円環部接合75Aは、導電性弾性体部6Aにおいて内周側寄りに設けられている。具体的には例えば、
図13に示しように、円環部接合部75Aは、本体部80の基部82において、筒部接合部74又は筒部係合部76に対向する位置に形成されており、基部82の密封対象物側Iの端部の外周側の部分から外周側に突出している。密封装置本体部7Aは、本体部80の円環部接合部75Aに接合可能な形態となっている。具体的には例えば、
図13に示すように、密封装置本体部7Aのシール本体60の基部62は、導電性弾性体部6Aと密封装置本体部7Aとが組み付けられた状態において、内周側方向(矢印d方向)に向かって本体部80の円環部接合部75Aに押し付けられる形状を有している。つまり、密封装置本体部7Aのシール本体60の基部62には、導電性弾性体部6Aと密封装置本体部7Aとが組み付けられた状態において、内周方向(矢印d方向)に向かって本体部80の円環部接合部75Aに押し付けられるように形成された円環部被接合部68Aが設けられている。また、密封装置本体部7Aのシール本体60には、ダストリップが設けられていない。
【0090】
本発明の第4の実施の形態に係る密封装置5Aにおいては、
図13に示すように、導電性弾性体部6Aの筒部接合部74及び筒部係合部76と、導電性弾性体部6Aの円環部接合部75Aとの間に、密封装置本体部7Aのシール本体60の基部62及び大気側カバー部64aが収容されて係合されて、導電性弾性体部6Aと密封装置本体部7Aとが互いに組み付けられるようになっている。本発明の第4の実施の形態に係る密封装置5Aにおいても、上述の密封装置5と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【0091】
次いで、本発明の第5の実施の形態に係る密封装置5Bについて説明する。以下、上述の第3,4の実施の形態に係る密封装置5,5Aの導電性弾性体部6,6A及び密封装置本体部7,7Aと同一の又は類似する機能を有する構成に対しては同一の符号を付してその説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0092】
図14は、本発明の第4の実施の形態に係る密封装置5Bの部分斜視図である。密封装置5Bは、導電性弾性体部6Bと、密封装置本体部7Bとを備えている。
図14に示すように、密封装置5Bは、主に、導電性弾性体部の本体部、円環部接合部の構成、及び円環部被接合部構成が、上述の密封装置5,5Aに対して異なる。例えば
図14に示すように、導電性弾性体部6Bの本体部80Bは、補強環70の密封対象物側Iに面する面72cに取り付けられている。具体的には例えば、
図14に示すように、本体部80Bの連絡部83Bが、補強環70の面72cの内周側の部分に取り付けられており、連絡部83Bの外周側の端と、補強環70の筒部71との間に環状の空間(空間69)が形成されている。また、
図14に示すように、本体部80Bには基部が設けられておらず、連絡部83Bの内周側の端から導通リップ81が延びている。
【0093】
また、
図14に示すように、密封装置本体部7Bの大気側カバー部64aには、内周側に、本体部80Bの連絡部83Bを収容可能に形成された環状の凹部が形成されており、ガスケット部63の筒部被接合部63bの下の部分が大気側Oに突出して、ガスケット部63と大気側カバー部64aとの部分に環状の突出部である突出部64bが形成されている。この突出部64bは、
図14に示すように、導電性弾性体部6Bと密封装置本体部7Bとが組み付けられた状態において、導電性弾性体部6Bの連絡部83Bの外周側の端(端83b)と補強環70の筒部71との間の環状の空間69に収容可能な形状となっている。また、密封装置本体部7Bのシール本体60には、ダストリップが設けられていない。
【0094】
また、具体的には
図14に示すように、円環部接合部75Bは、導電性弾性体部6Bの本体部80Bの連結部83Bの外周側に面する端83bによって形成されており、円環部被接合部68Bは、密封装置本体部7Bのシール本体60の環状の突出部64bの内周側に面する環状の面によって形成されている。つまり、導電性弾性体部6Bと密封装置本体部7Bとが組み付けられた状態において、空間69に突出部64bは収容されて、本体部80Bの連結部83Bの外周側に面する端83b(円環部接合部75B)は、導電性弾性体部6Bの補強環70の筒部71との間で、突出部64bの内周側の面(円環部被接合部68B)を径方向において圧縮するようになっている。このように、円環部接合部75Bは、円環部被接合部68Bに接合可能な形態となっている。
【0095】
本発明の第5の実施の形態に係る密封装置5Bにおいては、
図14に示すように、導電性弾性体部6Bの筒部接合部74及び筒部係合部76と、導電性弾性体部6Bの円環部接合部75Bとの間(空間69)に、密封装置本体部7Bのシール本体60の突出部64bが収容されて係合されて、導電性弾性体部6Bと密封装置本体部7Bとが互いに組み付けられるようになっている。本発明の第5の実施の形態に係る密封装置5Bにおいても、上述の密封装置5と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【0096】
なお、密封装置5Bにおいて、導電性弾性体部6Bの補強環70の材料は、金属材であり、また、補強環70の筒部71は、使用状態においてハウジング102の貫通孔103の内周面103aに接触するようになっており、導電回路8は、
図14に示すように、本体部80B及び金属製の補強環70によって形成される。
【0097】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る密封装置1,4,5,5A,5Bに限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0098】
1,4,5,5A,5B…密封装置、2,6,6A,6B…導電性弾性体部、3,8…導電回路、7,7A,7B…密封装置本体部、10,15,50…補強環、11,51…筒部、11a,11c,51a…端部、11b,51b…外周面、12,52…屈曲部、12a,52a…端部、13,16,53…円環部、20,25,60…シール本体、21,61…シール部、22,62…基部、23,63…ガスケット部、63a…接触部、63b…筒部被接合部、63c…被係合部、24,64…カバー部、64a…大気側カバー部、64b…突出部、66…ダストリップ部、68,68A,68B…円環部被接合部、69…空間、30…導通リップ部、31…導通リップ、32…接触面、33…グリース溝、34…連絡溝、35…ガータスプリング、36…グリース供給部、40,65…シールリップ部、41,48…シールリップ、42…密封対象物側面、43…大気側面、44…先端、45…ねじ溝、46…ねじ突起、47,67…ガータスプリング、49…シール面、70…補強環、71…筒部、71a…端部、71b…面、72…円環部、72a,72c…面、72b…端部、73…密封装置接合部、74…筒部接合部、75,75A,75B…円環部接合部、76…筒部係合部、80,80B…本体部、81…導通リップ、81a…先端部、82…基部、83,83B…連結部、83a…端部、83b…端、101…シャフト、101a…外周面、102…ハウジング、103…貫通孔、103a…内周面、104…空間、200…インピーダンス測定装置、201…インピーダンスアナライザ、202,203…導電性部材、I…密封対象側、G…グリース、O…大気側、S…空間、x…軸線