IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧

特開2024-175022N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175022
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20241210BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C12P13/00
C12N1/21 ZNA
C12N9/14
C12N1/21
C12P13/00 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024158876
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2023104443の分割
【原出願日】2019-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2018077741
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】檀上 景子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 淳
(72)【発明者】
【氏名】野崎 博之
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酵素的方法によるN-アシル-アミノ基含有化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基およびアミノ基をATP依存的様式において結合させてアミド結合を形成する能力を有する酵素の存在下において、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物を反応させて、N-アシル-アミノ基含有化合物を生成することを含む、N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基およびアミノ基をATP依存的様式において結合させてアミド結合を形成する能力を有する酵素の存在下において、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物を反応させて、N-アシル-アミノ基含有化合物を生成することを含む、N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法。
【請求項2】
前記酵素が植物または微生物由来酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酵素がGH3タンパク質である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、グループI、グループII、またはグループIIIのいずれかのグループに属するGH3タンパク質である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
GH3タンパク質が、下記:
(A)配列番号9、1~8からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号9、1~8からなる群から選ばれるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C)配列番号9、1~8からなる群から選ばれるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;
からなる群から選ばれる、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記酵素がPaaKタンパク質である、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
PaaKタンパク質が、下記:
(A’)配列番号10または11のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B’)配列番号10または11のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C’)配列番号10または11のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;
からなる群から選ばれる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アミノ基含有化合物が、アニオン性基を有するアミノ基含有化合物である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
アミノ基含有化合物が、アミノ酸またはペプチドである、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
アミノ基含有化合物が、α-アミノ酸、β-アミノ酸、またはγ-アミノ酸、あるいはこれらのジペプチドである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
アミノ酸がL-アミノ酸またはD-アミノ酸である、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
アミノ基含有化合物が、以下:
(1)(a)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選ばれるα-アミノ酸;
(b)β-アラニン;
(c)γ-アミノ酪酸;ならびに
(d)サルコシン;
からなる群より選ばれるアミノ酸;
(2)タウリン;ならびに
(3)アスパルチルフェニルアラニン、グリシルグリシン、およびアラニルヒスチジンからなる群より選ばれるジペプチド;
からなる群から選ばれる、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
カルボキシル基含有化合物が脂肪酸である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
脂肪酸が、炭素原子数6~18の脂肪酸である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
脂肪酸が、炭素原子数6~12の脂肪酸である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
脂肪酸が飽和脂肪酸である、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
前記酵素が精製酵素である、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記酵素の存在下における反応が、前記酵素を産生する形質転換微生物またはその処理物を用いて行われる、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記形質転換微生物が、下記(i)~(iii)のいずれかの微生物である、請求項18記載の方法:
(i)前記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む異種発現単位を含む微生物;
(ii)前記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を非天然ゲノム領域または非ゲノム領域に含む微生物;あるいは
(iii)前記酵素をコードするポリヌクレオチドを、複数のコピー数において発現単位に含む微生物。
【請求項20】
前記微生物が腸内細菌科に属する細菌である、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
前記細菌がエシェリヒア・コリである、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アシル-アミノ基含有化合物(例、Nα-アシルアミノ酸)は、香粧品素材(例、界面活性剤)等として用いられている。N-アシル-アミノ基含有化合物の化学的合成(例、ショッテン・バウマン反応)は、合成反応の副産物による環境負荷の課題を有する。そこで、N-アシル-アミノ基含有化合物の酵素的合成が求められている。N-アシル-アミノ基含有化合物の酵素的合成に関する先行技術がいくつか報告されている。
【0003】
特許文献1では、Bacillus subtilisのサーファクチン生合成酵素を利用した糖からのNα-アシルアミノ酸発酵が報告されている。しかし、Nα-アシルグルタミン酸の生成量は116.8mg/Lと微量であるため、この発酵は工業的スケールでの製造には適していない。
【0004】
特許文献2では、ヒト由来アミノ酸N-アシルトランスフェラーゼ、E.coli由来アシルCoA合成酵素を利用して、アミノ酸と脂肪酸からNα-アシルグリシンを合成する方法について報告されている。しかし、この方法では脂肪酸に直接アミノ酸を結合させることができず、2段階の酵素反応が必要となるため、単一の酵素を利用する反応と比較すると制御が複雑になるという課題がある。
【0005】
非特許文献1では、ブタ腎臓由来アシラーゼを用いて、グリセロールを含む溶液中で、アミノ酸と脂肪酸からNα-アシルアミノ酸を合成する方法が報告されている。本方法は、グリセロールを含む溶液中では、アシラーゼによるNα-アシルアミノ酸の加水分解反応が進行しにくいことを利用している。しかし、グリセロールの大量使用が要求される点、およびグリセロールを含まない水系溶媒中でのNα-アシルアミノ酸合成は低収率となる点に鑑みて、この方法は、工業的製造では低効率となる。
【0006】
非特許文献2では、Streptomyces mobaraensis由来アシラーゼを用いて、グリセロールを含む溶液中で、アミノ酸と脂肪酸からNα-アシルアミノ酸を合成する方法が報告されている。しかし、グリセロールを含まない水系溶媒中でのNα-アシルアミノ酸合成は報告されていないため、この方法の工業的製造への効率性は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/131002号
【特許文献2】国際公開第2015/028423号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wada et al.,Journal of the American Oil Chemists’ Society,2002,79(1), pp 41-46
【非特許文献2】Koreishi et al.,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2006,54(1),pp 72-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酵素的方法によるN-アシル-アミノ基含有化合物の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、カルボキシル基およびアミノ基をATP依存的様式において結合させてアミド結合を形成する能力を有する酵素が、脂肪酸を含めたカルボキシル基含有化合物およびアミノ基含有化合物からN-アシル-アミノ基含有化合物を効率的に生成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕カルボキシル基およびアミノ基をATP依存的様式において結合させてアミド結合を形成する能力を有する酵素の存在下において、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物を反応させて、N-アシル-アミノ基含有化合物を生成することを含む、N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法。
〔2〕前記酵素が植物または微生物由来酵素である、〔1〕の方法。
〔3〕前記酵素がGH3タンパク質である、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕前記酵素が、グループI、グループII、またはグループIIIのいずれかのグループに属するGH3タンパク質である、〔1〕~〔3〕のいずれかの方法。
〔5〕GH3タンパク質が、下記:
(A)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;
からなる群から選ばれる、〔1〕~〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕前記酵素がPaaKタンパク質である、〔1〕または〔2〕の方法。
〔7〕PaaKタンパク質が、下記:
(A’)配列番号10または11のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B’)配列番号10または11のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C’)配列番号10または11のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;
からなる群から選ばれる、〔6〕の方法。
〔8〕アミノ基含有化合物が、アニオン性基を有するアミノ基含有化合物である、〔1〕~〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕アミノ基含有化合物が、アミノ酸またはペプチドである、〔1〕~〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕アミノ基含有化合物が、α-アミノ酸、β-アミノ酸、またはγ-アミノ酸、あるいはこれらのジペプチドである、〔9〕の方法。
〔11〕アミノ酸がL-アミノ酸またはD-アミノ酸である、〔9〕または〔10〕の方法。
〔12〕アミノ基含有化合物が、以下:
(1)(a)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選ばれるα-アミノ酸;
(b)β-アラニン;
(c)γ-アミノ酪酸;ならびに
(d)サルコシン;
からなる群より選ばれるアミノ酸;
(2)タウリン;ならびに
(3)アスパルチルフェニルアラニン、グリシルグリシン、およびアラニルヒスチジンからなる群より選ばれるジペプチド;
からなる群から選ばれる、〔1〕~〔11〕のいずれかの方法。
〔13〕カルボキシル基含有化合物が脂肪酸である、〔1〕~〔12〕のいずれかの方法。
〔14〕脂肪酸が、炭素原子数6~18の脂肪酸である、〔13〕の方法。
〔15〕脂肪酸が、炭素原子数6~12の脂肪酸である、〔14〕の方法。
〔16〕脂肪酸が飽和脂肪酸である、〔14〕または〔15〕の方法。
〔17〕前記酵素が精製酵素である、〔1〕~〔16〕のいずれかの方法。
〔18〕前記酵素の存在下における反応が、前記酵素を産生する形質転換微生物またはその処理物を用いて行われる、〔1〕~〔17〕のいずれかの方法。
〔19〕前記形質転換微生物が、下記(i)~(iii)のいずれかの微生物である、〔18〕の方法:
(i)前記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む異種発現単位を含む微生物;
(ii)前記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を非天然ゲノム領域または非ゲノム領域に含む微生物;あるいは
(iii)前記酵素をコードするポリヌクレオチドを、複数のコピー数において発現単位に含む微生物。
〔20〕前記微生物が腸内細菌科に属する細菌である、〔18〕または〔19〕の方法。
〔21〕前記細菌がエシェリヒア・コリである、〔20〕の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、アミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物とのアミド結合によるN-アシル-アミノ基含有化合物生成反応を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、N-アシル-アミノ基含有化合物の製造方法を提供する。本発明の方法は、酵素の存在下において、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物を反応させて、N-アシル-アミノ基含有化合物を生成することを含む。
【0014】
本発明の方法で用いられる酵素は、カルボキシル基およびアミノ基をATP依存的様式において結合させてアミド結合を形成する能力を有する。本発明の方法で用いられる酵素は、カルボキシル基含有化合物をアデニル化により活性化し、アミノ基含有化合物がこのアデニル化中間体を求核攻撃する機構によりアミド結合を形成すると考えられる。
【0015】
本発明の方法で用いられる酵素は、植物または微生物由来であってもよい。本発明の方法で用いられる酵素が由来する植物としては、例えば、裸子植物門、被子植物門、シダ植物門、ヒカゲノカズラ植物門、ツノゴケ植物門、マゴケ植物門、ゼニゴケ植物門、車軸藻綱、接合藻綱、緑藻植物門、灰色植物門、紅色植物門に属する植物が挙げられ、より具体的には、シロイヌナズナ属(Arabidopsis;例、Arabidopsis thaliana)、イネ属(Oryza;例、Oryza sativa)、トウガラシ属(Capsicum;例、Capsicum chinense)、ダイズ属(Glycine;例、Glycine max)、ナス属またはトマト属(SolanumまたはLycopersicon;例、Solanum lycopersicumまたはLycopersicon esculentum)、タバコ属(Nicotiana;例、Nicotiana tabacum)、ニセツリガネゴケ属(Physcomitrella;例、Physcomitrella patens)、ミカン属(Citrus;例、Citrus madurensis)、マツ属(Pinus;例、Pinus pinaster)、アブラナ属(Brassica;例、Brassica napus)、ワタ属(Gossypium sp.)、ブドウ属(Vitis;例、Vitis vinifera)、ウマゴヤシ属(Medicago;例、Medicago truncatula)、ヤマナラシ属(Populus)、コムギ属(Triticum;例、Triticum aestivium)、トウモロコシ属(Zea;例、Zea mays)、オオムギ属(Hordeum;例、Hordeum vulgare)、モロコシ属(Sorghum;例、Sorghum bicolor)が挙げられる。本発明の方法で用いられる酵素が由来する微生物としては、シストバクター属(Cystobacter;例、Cystobacter fuscus)、シネココッカス属(Synechococcus;例、Synechococcus sp.)、パントエア属(Pantoea;例、Pantoea agglomerans)、シュードモナス属(Pseudomonas;例、Pseudomonas savastanoi)が挙げられる。
【0016】
本発明の方法で用いられる酵素は、GH3タンパク質であってもよい。「GH3タンパク質」とは、ジャスモン酸、オーキシン類(インドール-3-酢酸)、サリチル酸、置換ベンゾエート等のカルボキシル基含有植物ホルモンのアミド化に機能する酵素群およびそれらのホモログをいう。構造的特徴として、「GH3タンパク質」とは、GH3スーパーファミリードメインを含有するタンパク質をいう。GH3スーパーファミリードメインは、配列データベースで定義されたものから検索可能であり、例えば、NCBIのConserved domainsデータベース上で「GH3 superfamily」と定義されるドメインを有するタンパク質として検索可能である。
【0017】
GH3タンパク質のうち、特に植物由来GH3タンパク質は、配列類似性および基質特異性に基づいて、グループI、グループII、およびグループIIIに分類できる(J.Biol.Chem.,2010,285,29780-29786、Plant Cell.,2005,17(2).616-627)。
【0018】
グループIは、主としてジャスモン酸を基質とする酵素として見出された酵素群である。グループIに属する酵素としては、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来酵素(例、AtGH3-10、AtJAR1〔AtGH3-11とも呼ぶ〕)、イネ(Oryza sativa)由来酵素(例、OsAK071721、OsBAA96221)、トマト(Lycopersicon esculentum)由来酵素(例、LeBTO13697、LeU144810)、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)由来酵素(例、PpABO61221)が挙げられる。
【0019】
グループIIは、主としてインドール酢酸、またはサリチル酸を基質とする酵素として見出された酵素群である。グループIIに属する酵素としては、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来酵素(例、AtGH3-1、AtGH3-2、AtGH3-3、AtGH3-4、AtGH3-5、AtGH3-6、AtGH3-9、AtGH3-17)、イネ(Oryza sativa)由来酵素(例、OsBAB63594、OsBAB92590、OsGH3-8〔OsBAC79627とも呼ぶ〕)、トウガラシ(Capsicum chinense)由来酵素(例、CcAY525089)、ダイズ(Glycine max)由来酵素(例、GmGH3)、トマト(Lycopersicon esculentum)由来酵素(例、LeBT013446)、タバコ(Nicotiana tabacum)由来酵素(例、NtAF123503)が挙げられる。
【0020】
グループIIIは、主として置換ベンゾエートを基質とする酵素として見出された酵素群である。グループIIIに属する酵素としては、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来酵素(例、AtGH3-7、AtGH3-8、AtGH3-12、AtGH3-13、AtGH3-14、AtGH3-15、AtGH3-16、AtGH3-18、AtGH3-19)が挙げられる。
【0021】
GH3タンパク質のうち、微生物由来GH3タンパク質としては、例えば、シストバクター・フスクス(Cystobacter fuscus)由来酵素(例、CfHP〔WP_002626336〕)、シネココッカスsp.(Synechococcus sp.)由来酵素(例、SsGH3〔GH3オーキシン応答性プロモータースーパーファミリー〕)が挙げられる。
【0022】
GH3タンパク質は、下記であってもよい:
(A)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C)配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質。
【0023】
本発明の方法で用いられる酵素は、PaaKタンパク質であってもよい。「PaaKタンパク質」とは、フェニル酢酸をフェニル酢酸CoAに変換する機能を有する酵素群およびそれらのホモログをいう。構造的特徴として、「PaaKタンパク質」とは、PaaKスーパーファミリードメインを含有する酵素群である。PaaKスーパーファミリードメインは、配列データベースで定義されたものから検索可能であり、例えば、NCBIのConserved domainsデータベース上で「PaaK superfamily」と定義されるドメインを有するタンパク質として検索可能である。PaaKタンパク質は、配列データベースにおいてGH3タンパク質のホモログとしても見出されることがあり、GH3タンパク質と、例えば、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上のアミノ酸配列同一性を有していてもよい。
【0024】
PaaKタンパク質としては、例えば、インドール酢酸にリジンを結合するインドール酢酸-リジンシンテターゼ(IAAL)が挙げられる。例えば、シュードモナス・サバスタニ(Pseudomonas savastanoi)由来酵素(例、PsIAAL)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)由来酵素(例、PaHP〔WP_031591948〕)が挙げられる。
【0025】
PaaKタンパク質は、下記であってもよい:
(A’)配列番号10または11のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B’)配列番号10または11のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C’)配列番号10または11のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質。
【0026】
タンパク質(B)および(B’)では、アミノ酸残基の欠失、置換、付加および挿入からなる群より選ばれる1、2、3または4種の変異により、1個または数個のアミノ酸残基を改変することができる。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。用語「1または数個」は、タンパク質の活性を大きく損なわない個数を示す。用語「1または数個」が示す数は、例えば1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~30個、さらにより好ましくは1~20個、特に好ましくは1~10個または1~5個(例、1個、2個、3個、4個、または5個)である。
【0027】
タンパク質(C)および(C’)では、配列番号1~9からなる群から選ばれるアミノ酸配列または配列番号10または11のアミノ酸配列との同一性%は、90%以上である。好ましくは、同一性は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。ポリペプチド(タンパク質)の同一性%の算出は、アルゴリズムblastpにより行うことができる。より具体的には、ポリペプチドの同一性の算定%は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において提供されているアルゴリズムblastpにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11 Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて行うことができる。ポリヌクレオチド(遺伝子)の同一性%の算出は、アルゴリズムblastnにより行うことができる。より具体的には、ポリヌクレオチドの同一性%の算定は、NCBIにおいて提供されているアルゴリズムblastnにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて行うことができる。
【0028】
「N-アシラーゼ活性」とは、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物を基質としてN-アシル-アミノ基含有化合物を生成する活性をいう。GH3タンパク質およびPaaKタンパク質について、(A)~(C)および(A’)~(C’)のタンパク質は、N-アシラーゼ活性を有することから、アミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物からN-アシル-アミノ基含有化合物を生成することができる。(B)、(B’)、(C)、および(C’)のタンパク質はそれぞれ、特定の測定条件で活性を測定した場合、もとのアミノ酸配列に対応する(A)または(A’)のタンパク質の活性を基準として、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または同等(すなわち、100%)以上の活性を有していてもよい。このような特定の測定条件としては、次の条件を採用することができる。(A)または(A’)のタンパク質(以下、「野生型酵素」と呼ぶ)、ならびに(B)、(B’)、(C)、または(C’)のタンパク質(以下、「改変酵素」と呼ぶ)を精製酵素として調製し、50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸(例、グリシン、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸)、5mM 脂肪酸ナトリウム(例、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム)、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、50μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.2mLの反応液を25℃で24時間インキュベートし、反応終了後、0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-アシルアミノ酸(例、Nα-カプリロイルグリシン、Nα-カプリノイルグリシン、Nα-ラウロイルグリシン、Nα-カプリロイル-L-グルタミン酸、Nα-カプリノイル-L-グルタミン酸、Nα-ラウロイル-L-グルタミン酸、Nα-カプリロイル-L-アスパラギン酸、Nα-カプリノイル-L-アスパラギン酸、Nα-ラウロイル-L-アスパラギン酸)と一致する分子量のシグナルを測定することによりN-アシラーゼ活性を評価する。
【0029】
タンパク質(B)、(B’)、(C)、および(C’)は、目的特性を保持し得る限り、触媒ドメイン中の部位、および触媒ドメイン以外の部位に、変異が導入されていてもよい。目的特性を保持し得る、変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかである。具体的には、当業者は、1)同種の特性を有する複数のタンパク質のアミノ酸配列を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、本発明で用いられるタンパク質のアミノ酸配列において変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置を特定できる。
【0030】
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。本明細書中で用いられる場合、用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0031】
本発明で用いられるタンパク質はまた、異種部分とペプチド結合を介して連結された融合タンパク質であってもよい。このような異種部分としては、例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep-tag II等のタグ部分;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、およびこれらの変異型等の目的タンパク質の精製に利用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus-tag)、シャペロンとして働くペプチド成分(例、トリガーファクター)、他の機能を有するペプチド成分(例、全長タンパク質またはその一部)、ならびにリンカーが挙げられる。
【0032】
本発明の方法に用いることができるアミノ基含有化合物は、窒素原子が1個または2個の水素原子と結合したアミノ基を含有する有機化合物、または窒素原子が水素原子と結合していないアミノ基を含有する有機化合物のいずれであってもよい。アミノ基含有化合物としては、酵素の基質特異性等の観点から、窒素原子が1個または2個の水素原子と結合したアミノ基を含有する化合物が好ましく、窒素原子が2個の水素原子と結合したアミノ基を含有する化合物がより好ましい。
【0033】
本発明の方法に用いることができるアミノ基含有化合物は、アニオン性基を有するアミノ基含有化合物が好ましい。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基が挙げられる。
【0034】
アニオン性基としてカルボキシル基を有するアミノ基含有化合物としては、例えば、アミノ酸およびペプチドが挙げられる。
【0035】
アミノ酸としては、例えば、α-アミノ酸、β-アミノ酸、およびγ-アミノ酸が挙げられる。α-アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンが挙げられる。β-アミノ酸としては、例えば、β-アラニンが挙げられる。γ-アミノ酸としては、例えば、γ-アミノ酪酸が挙げられる。アミノ酸のアミノ基は、窒素原子が2個の水素原子と結合したアミノ基、窒素原子が1個の水素原子と結合したアミノ基、および窒素原子が水素原子と結合していないアミノ基のいずれであってもよい。窒素原子が1個の水素原子と結合したアミノ基を含有するアミノ酸としては、例えば、サルコシン、N-メチル-β-アラニン、N-メチルタウリン、プロリンが挙げられる。アミノ酸は、L-アミノ酸またはD-アミノ酸のいずれであってもよい。
【0036】
ペプチドは、上述したアミノ酸がアミド結合により連結された構造を有する化合物である。ペプチドとしては、例えば、2~10個のアミノ酸がアミド結合により連絡された構造を有するオリゴペプチド(例、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド)、および11個以上のアミノ酸がアミド結合により連結された構造を有するポリペプチド(タンパク質)が挙げられる。ジペプチドとしては、例えば、アスパルチルフェニルアラニン、グリシルグリシン、およびβ-アラニルヒスチジン、アラニルグルタミンが挙げられる。
【0037】
アニオン性基としてスルホン酸基を有するアミノ基含有化合物としては、例えば、タウリン、N-メチルタウリン、システイン酸が挙げられる。
【0038】
アニオン性基として硫酸基を有するアミノ基含有化合物としては、例えば、O-スルホセリン、O-スルホスレオニンが挙げられる。
【0039】
アニオン性基としてリン酸基を有するアミノ基含有化合物としては、例えば、エタノールアミンリン酸、ホスホセリン、ホスホスレオニンが挙げられる。
【0040】
本発明の方法に用いることができるカルボキシル基含有化合物は、置換されていないカルボキシル基(例、遊離型、イオン、塩)を含有する化合物である。カルボキシル基含有化合物としては、例えば、脂肪酸、芳香族カルボン酸、インドールカルボン酸が挙げられる。
【0041】
脂肪酸は、例えば炭素原子数6~18の脂肪酸、好ましくは炭素原子数6~16の脂肪酸、より好ましくは6~14の脂肪酸、さらにより好ましくは炭素原子数6~12の脂肪酸であってもよい。炭素原子数6~18の脂肪酸としては、例えばカプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ウンデシル酸(C11)、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸(以上、C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、リノール酸、バクセン酸、オレイン酸(以上、C18)が挙げられ(括弧内は炭素原子数を示す。)、その他に、ヤシ油脂肪酸、パーム脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸等の混合脂肪酸も使用可能である。
【0042】
脂肪酸は、飽和脂肪酸が好ましい。上記脂肪酸のうち飽和脂肪酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸が挙げられる。
【0043】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、ケイ皮酸が挙げられる。
【0044】
本発明の方法で製造されるN-アシル-アミノ基含有化合物は、上記アミノ基含有化合物のアミノ基と上記カルボキシル基含有化合物のカルボキシル基とがアミド結合を形成した構造を有する化合物である。上記N-アシル-アミノ基含有化合物は、上記酵素の存在下において、上記アミノ基含有化合物および上記カルボキシル基含有化合物の反応により生成される。カルボキシル基と反応するアミノ基は、上記アミノ基含有化合物のいずれの位置にあってもよく、例えば、α位、β位、γ位、δ位、ε位のいずれであってもよい。
【0045】
本発明の方法で用いられる酵素として、天然タンパク質または組換えタンパク質を利用することができる。組換えタンパク質は、例えば、無細胞系ベクターを用いて、または本発明で用いられる酵素を産生する微生物から得ることができる。本発明で用いられる酵素は、未精製、粗精製または精製酵素として利用することができる。これらの酵素としては、反応において、固相に固定された固相化タンパク質として利用されてもよい。
【0046】
本発明の方法で用いられる酵素を公知の方法で単離し、必要に応じて更に精製することにより、目的とする酵素が得られる。酵素を産生する微生物としては、酵素の大量入手等の観点より、形質転換微生物が好ましい。本発明では、用語「形質転換」は、宿主細胞に対するポリヌクレオチドの導入のみならず、宿主細胞におけるゲノムの改変もまた意図される。
【0047】
形質転換微生物の培養条件としては、特に限定されず、宿主に応じて標準的な細胞培養条件を用いることができる。形質転換微生物を培養するための培地は公知であり、例えば、LB培地などの栄養培地や、M9培地などの最小培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加して用いることができる。
培養温度としては、4~40℃が好ましく、10~37℃がより好ましい。培養時間としては、5~168時間が好ましく、8~72時間がより好ましい。ガス組成としては、CO濃度が約6%~約84%であることが好ましく、pHが、約5~9であることが好ましい。また、宿主細胞の性質に応じて好気性、無酸素性、又は嫌気性条件下で培養を行うことが好ましい。
【0048】
培養方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。宿主細胞に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌を行ってもよく、通気を行ってもよい。このような培養方法としては、例えば、バッチ培養法、流加培養法、連続培養法が挙げられる。形質転換体微生物により産生される特定のタンパク質の発現がlacプロモーター等の誘導的プロモーターの制御下にある場合、培養培地中に、例えばIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)等の誘導剤を添加して、タンパク質の発現を誘導してもよい。
【0049】
産生された目的酵素は、形質転換微生物の抽出物から公知の塩析、等電点沈殿法もしくは溶媒沈殿法等の沈殿法、透析、限外濾過もしくはゲル濾過等の分子量差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の疎水度の差を利用する方法やその他アフィニティークロマトグラフィー、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、等電点電気泳動法等、またはこれらの組み合わせにより、精製および単離することが可能である。目的酵素を分泌発現させた場合には、形質転換微生物を培養して得られた培養液から、菌体を遠心分離等で除くことで目的酵素を含む培養上清が得られる。この培養上清からも目的酵素を精製および単離することが可能である。
【0050】
上記酵素の存在下における反応は、前記酵素を産生する形質転換微生物またはその処理物(例、微生物の破砕物、溶菌物、凍結乾燥物)を用いて行われてもよい。
【0051】
好ましくは、本発明で用いられる上記酵素をコードするポリヌクレオチドは、以下(a)~(d)からなる群より選ばれるポリヌクレオチドであってもよい:
(a)配列番号12~22からなる群から選ばれる塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12~22からなる群から選ばれる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつN-アシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号12~22からなる群から選ばれる塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつN-アシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;ならびに
(d)(a)~(c)からなる群より選ばれるポリヌクレオチドの縮重変異体。
【0052】
上記ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。配列番号12~22の塩基配列はそれぞれ、配列番号1~11のアミノ酸配列をコードする。
【0053】
上記ポリヌクレオチド(b)において、用語「ストリンジェント条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、ストリンジェント条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50~65℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。
【0054】
上記ポリヌクレオチド(c)では、配列番号12~22の塩基配列に対する塩基配列の同一性%は、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。
【0055】
上記ポリヌクレオチド(d)において、用語「縮重変異体」とは、変異前のポリヌクレオチド中の所定のアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンが、同一アミノ酸残基をコードする別のコドンに変更されたポリヌクレオチド変異体をいう。このような縮重変異体はサイレント変異に基づく変異体であることから、縮重変異体によりコードされるタンパク質(酵素)は、変異前のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質(酵素)と同一である。
【0056】
好ましくは、縮重変異体は、それが導入されるべき宿主細胞のコドン使用頻度に適合するようにコドンが変更されたポリヌクレオチド変異体である。ある遺伝子を異種宿主細胞(例、微生物)で発現させる場合、コドン使用頻度の相違により、対応するtRNA分子種が十分に供給されず、翻訳効率の低下および/または不正確な翻訳(例、翻訳の停止)が生じることがある。例えば、エシェリヒア・コリでは、表1に示される低頻度コドンが知られている。
【0057】
【表1】
【0058】
したがって、本発明では、後述するような宿主細胞のコドン使用頻度に適合する縮重変異体を利用することができる。例えば、縮重変異体は、アルギニン残基、グリシン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、およびプロリン残基からなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸残基をコードするコドンが変更されたものであってもよい。より具体的には、縮重変異体は、低頻度コドン(例、AGG、AGA、CGG、CGA、GGA、AUA、CUA、およびCCC)からなる群より選ばれる1種以上のコドンが変更されたものであってもよい。好ましくは、縮重変異体は、以下からなる群より選ばれる1種以上(例、1種、2種、3種、4種、または5種)のコドンの変更を含んでいてもよい:
i)Argをコードする4種のコドン(AGG、AGA、CGG、およびCGA)からなる群より選ばれる少なくとも1種のコドンの、Argをコードする別のコドン(CGU、またはCGC)への変更;
ii)Glyをコードする1種のコドン(GGA)の、別のコドン(GGG、GGU、またはGGC)への変更;
iii)Ileをコードする1種のコドン(AUA)の、別のコドン(AUU、またはAUC)への変更;
iv)Leuをコードする1種のコドン(CUA)の、別のコドン(UUG、UUA、CUG、CUU、またはCUC)への変更;ならびに
v)Proをコードする1種のコドン(CCC)の、別のコドン(CCG、CCA、またはCCU)への変更。
縮重変異体がRNAの場合、上記のとおりヌクレオチド残基「U」が利用されるべきであるが、縮重変異体がDNAの場合、ヌクレオチド残基「U」の代わりに「T」が利用されるべきである。宿主細胞のコドン使用頻度に適合させるためのヌクレオチド残基の変異数は、変異前後で同一のタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、1~400個、1~300個、1~200個、または1~100個である。
【0059】
低頻度コドンの同定は、当該分野で既知の技術を利用することにより、任意の宿主細胞の種類およびゲノム配列情報に基づいて容易に行うことができる。したがって、縮重変異体は、低頻度コドンの非低頻度コドン(例、高頻度コドン)への変更を含むものであってもよい。また、低頻度コドンのみならず、生産菌株のゲノムGC含量への適合性などの要素を考慮して変異体を設計する方法が知られているので(Alan Villalobos et al., Gene Designer: a synthetic biology tool for constructing artificial DNA segments, BMC Bioinformatics. 2006 Jun 6;7:285.)、このような方法を利用してもよい。このように、上述の変異体は、それが導入され得る任意の宿主細胞(例、後述するような微生物)の種類に応じて適宜作製できる。
【0060】
上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、好ましくは、上記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を含む微生物である。
【0061】
本発明において、用語「発現単位」とは、タンパク質として発現されるべき所定のポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む、当該ポリヌクレオチドの転写、ひいては当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の産生を可能にする最小単位をいう。発現単位は、ターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。発現単位は、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。発現単位はまた、宿主細胞に対して同種(homologous)(すなわち、固有(inherent))であっても、異種(heterologous)(すなわち、非固有)であってもよい。発現単位はまた、タンパク質として発現されるべき1つのポリヌクレオチド、およびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位(すなわち、モノシストロニックmRNAの発現を可能にする発現単位)、またはタンパク質として発現されるべき複数のポリヌクレオチド(例えば2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらにより好ましくは5以上、特に好ましくは10以上のポリヌクレオチド)、およびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位(すなわち、ポリシストロニックmRNAの発現を可能にする発現単位)であってもよい。発現単位は、微生物(宿主細胞)においてゲノム領域(例、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドが固有に存在する天然ローカスである天然ゲノム領域、もしくは当該天然ローカスではない非天然ゲノム領域)、または非ゲノム領域(例、細胞質内)に含まれることができる。発現単位は、1または2以上(例、1、2、3、4、または5)の異なる位置においてゲノム領域中に含まれていてもよい。非ゲノム領域に含まれる発現単位の具体的な形態としては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、および人工染色体が挙げられる。
【0062】
発現単位を構成するプロモーターは、その下流に連結されたポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質(酵素)を宿主細胞で発現させることができるものであれば特に限定されない。例えば、プロモーターは、宿主細胞に対して同種であっても異種であってもよい。例えば、組換えタンパク質の産生に汎用される構成または誘導プロモーターを用いることができる。このようなプロモーターとしては、例えば、PhoAプロモーター、PhoCプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、PRプロモーター、PLプロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーターが挙げられる。好ましくは、宿主細胞で強力な転写活性を有するプロモーターを用いることができる。宿主細胞で強力な転写活性を有するプロモーターとしては、例えば、宿主細胞で高発現している遺伝子のプロモーター、およびウイルス由来のプロモーターが挙げられる。
【0063】
一実施形態では、上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、(i)上記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む異種発現単位を含む微生物であってもよい。用語「異種発現単位」とは、発現単位が宿主細胞に対して異種であることを意味する。したがって、本発明では、発現単位を構成する少なくとも1つのエレメントが宿主細胞に対して異種である。宿主細胞に対して異種である、発現単位を構成するエレメントとしては、例えば、上述したエレメントが挙げられる。好ましくは、異種発現単位を構成する、目的酵素をコードするポリヌクレオチド、もしくはプロモーターの一方、または双方が、宿主細胞に対して異種である。したがって、本発明では、目的酵素をコードするポリヌクレオチド、もしくはプロモーターの一方、または双方が、宿主細胞以外の生物(例、原核生物および真核生物、または微生物、昆虫、植物、および哺乳動物等の動物)もしくはウイルスに由来するか、または人工的に合成されたものである。異種発現単位としては、発現単位を構成する少なくとも1つのエレメントが宿主細胞に対して異種である異種発現単位が好ましい。
【0064】
(i)の微生物は、発現単位を構成するタンパク質が宿主細胞に対して異種であってもよい。このような微生物としては、例えば、下記(A’’)~(C’’)のいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を含む微生物が挙げられる:
(A’’)配列番号1~11からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(B’’)配列番号1~11からなる群から選ばれるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質;または
(C’’)配列番号1~11からなる群から選ばれるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N-アシラーゼ活性を有するタンパク質。
【0065】
別の実施形態では、上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、(ii)上記酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を非天然ゲノム領域または非ゲノム領域に含む微生物であってもよい。
【0066】
さらに別の実施形態では、上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、(iii)上記酵素をコードするポリヌクレオチドを、複数のコピー数において発現単位に含む微生物であってもよい。複数のコピー数は、例えば2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらにより好ましくは5以上、特に好ましくは10以上のコピー数であってもよい。
【0067】
さらに別の実施形態では、上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、(iv)上記酵素の発現を増強するように、固有の発現単位(例、プロモーター領域)において変異が導入された非天然の発現単位を含む微生物、または(v)上記酵素の活性が向上するように上記酵素をコードするポリヌクレオチドに対してゲノム編集等の技術により変異が導入された非天然の発現単位を含む微生物であってもよい。
【0068】
好ましくは、上記酵素の活性が野生型微生物に比し向上した形質転換微生物は、(i)~(iii)のいずれかの微生物である。
【0069】
本発明において、形質転換微生物として使用される宿主細胞としては、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌等の細菌、および真菌が挙げられる。細菌はまた、グラム陽性菌であってもグラム陰性菌であってもよい。グラム陽性細菌としては、例えば、バシラス(Bacillus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌が挙げられる。バシラス(Bacillus)属細菌としては、枯草菌(Bacillus subtilis)が好ましい。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)が好ましい。グラム陰性細菌としては、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌が挙げられる。エシェリヒア(Escherichia)属細菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が好ましい。パントエア(Pantoea)属細菌としては、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)が好ましい。真菌としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属の微生物が好ましい。サッカロミセス(Saccharomyces)属の微生物としては、サッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属の微生物としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が好ましい。
【0070】
本発明において、形質転換微生物として使用される宿主細胞としては、例えば、アシルアミノ酸、脂肪酸、またはアミノ酸の分解系が弱化または欠損した宿主であってもよい。上記分解系が弱化または欠損した宿主としては、例えば、上記分解系に関連する酵素等のタンパク質が弱化または欠損した宿主、上記分解系に関連する酵素等のタンパク質の阻害因子を産生する宿主が挙げられる。上記分解系に関連する酵素等のタンパク質が弱化または欠損した宿主としては、例えば、宿主ゲノム中に上記タンパク質の発現量を低下または欠失させる変異を含む宿主、宿主ゲノム中に上記タンパク質の活性を低下または欠失させる変異を含む宿主が挙げられる。上記分解系に関連する酵素等のタンパク質の阻害因子を産生または強化する宿主としては、例えば、上記阻害因子の発現単位が形質転換により導入された宿主、宿主ゲノム中に上記阻害因子の発現量を強化させる変異を含む宿主、宿主ゲノム中に上記阻害因子の活性を強化させる変異を含む宿主が挙げられる。アシルアミノ酸の分解系に関連する酵素等のタンパク質としては、例えば、アシラーゼ、脂肪酸の分解系に関連する酵素等のタンパク質としては、例えば、アシルCoA合成酵素が挙げられる。
【0071】
本発明において、形質転換微生物として使用される宿主細胞としては、酵素反応の基質の供給効率を向上させて生成効率を向上させるために、例えば、アミノ酸と脂肪酸の取り込み能が強化された宿主であってもよい。上記取り込み能が強化された宿主としては、例えば、上記取り込み能に関連する酵素等のタンパク質を産生または強化する宿主が挙げられる。上記取り込み能に関連する酵素等のタンパク質を産生または強化する宿主としては、例えば、上記タンパク質の発現単位が形質転換により導入された宿主、宿主ゲノム中に上記タンパク質の発現量を強化させる変異を含む宿主、宿主ゲノム中に上記タンパク質の活性を強化させる変異を含む宿主が挙げられる。
【0072】
本発明で用いられる形質転換微生物は、当該分野において公知の任意の方法により作製することができる。例えば、上述したような形質転換微生物は、発現ベクターを用いる方法(例、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法)、またはゲノム改変技術により作製することができる。発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じる組込み型(integrative)ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれることができる。一方、発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じない非組込み型ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれず、宿主細胞内において、発現ベクターの状態のまま、ゲノムDNAから独立して存在できる。あるいは、ゲノム編集技術(例、CRISPR/Casシステム、Transcription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN))によれば、発現単位を宿主細胞のゲノムDNAに組み込むこと、および宿主細胞が固有に備える発現単位を改変することが可能である。
【0073】
発現ベクターは、発現単位として上述した最小単位に加えて、宿主細胞で機能するターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する耐性遺伝子が挙げられる。
【0074】
発現ベクターはまた、宿主細胞のゲノムDNAとの相同組換えのために、宿主細胞のゲノムとの相同組換えを可能にする領域をさらに含んでいてもよい。例えば、発現ベクターは、それに含まれる発現単位が一対の相同領域(例、宿主細胞のゲノム中の特定配列に対して相同なホモロジーアーム、loxP、FRT)間に位置するように設計されてもよい。発現単位が導入されるべき宿主細胞のゲノム領域(相同領域の標的)としては、特に限定されないが、宿主細胞において発現量が多い遺伝子のローカスであってもよい。
【0075】
発現ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、または人工染色体であってもよい。発現ベクターはまた、組込み型(integrative)ベクターであっても非組込み型ベクターであってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクター、またはRNAベクター(例、レトロウイルス)であってもよい。発現ベクターはまた、汎用されている発現ベクターであってもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、pUC(例、pUC19、pUC18)、pSTV、pBR(例、pBR322)、pHSG(例、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398)、RSF(例、RSF1010)、pACYC(例、pACYC177、pACYC184)、pMW(例、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218)、pQE(例、pQE30)、pET(例、pET28a)およびその誘導体が挙げられる。
【0076】
本発明の方法において用いられる基質であるアミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物は、上記酵素を含む反応系(例、上記酵素を含む水溶液、上記酵素を産生する形質転換微生物を含む培養液、上記酵素を産生する形質転換微生物の処理物)に添加することができる。あるいは、本発明の方法では、別の反応系において生成したアミノ基含有化合物またはカルボキシル基含有化合物を基質として利用することもできる。
【0077】
本発明の方法が上記酵素自体(例、精製酵素)を用いて行われる場合、反応系としては、上記酵素を含む水溶液を用いることができる。水溶液としては、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液が挙げられる。pHは、例えば、約5~10が好ましい。反応系における酵素、ならびにアミノ基含有化合物およびカルボキシル基含有化合物(基質)の量、ならびに反応時間は、生成されるべきN-アシル-アミノ基含有化合物の量に応じて、適宜調節することができる。反応温度は、反応が進行する限り特に限定されないが、20~40℃が好ましい。
【0078】
本発明の方法は、ATP再生系との組合せで行われてもよい。本発明の方法が上記酵素自体(例、精製酵素)を用いて行われる場合、ATP再生系との組合せとしては、例えば、ATP再生酵素との組合せ(例、混合)による反応が挙げられる。ATP再生酵素としては、例えば、ポリリン酸キナーゼ、ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とポリリン酸キナーゼとの組み合わせ、ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とアデニル酸キナーゼとの組み合わせが挙げられる。本発明の方法が前記酵素を産生する形質転換微生物またはその処理物を用いて行われる場合、ATP再生系との組合せとしては、例えば、ATP供給能を増強した微生物を宿主として用いることが挙げられる。ATP供給能を増強した微生物としては、例えば、上述したATP再生酵素を産生または強化する微生物が挙げられる。ATP再生酵素を産生または強化する微生物としては、例えば、ATP再生酵素の発現単位が形質転換により導入された宿主、宿主ゲノム中にATP再生酵素の発現量を強化させる変異を含む宿主、宿主ゲノム中にATP再生酵素の活性を強化させる変異を含む宿主が挙げられる。
【0079】
N-アシル-アミノ基含有化合物の製造の確認は、適宜行うことができる。例えば、このような確認は、反応系に反応停止液(例、1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール水溶液)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析することにより行うことができる。
【実施例0080】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1:アシルアミノ酸合成酵素の発現および精製
1)アシルアミノ酸合成酵素発現プラスミドの構築
Arabidopsis thaliana由来jasmonic acid-amido synthetase JAR1(AtJAR1、Q9SKE2、配列番号3)、Arabidopsis thaliana由来indole-3-acetic acid-amido synthetase GH3.6(AtGH3-6、Q9LSQ4、配列番号1)、Arabidopsis thaliana由来indole-3-acetic acid-amido synthetase GH3.5(AtGH3-5、O81829、配列番号4)、Arabidopsis thaliana由来GH3-10(AtGH3-10、OAO98077、配列番号5)、Arabidopsis thaliana由来4-substituted benzoates-glutamate ligase GH3.12(AtGH3-12、Q9LYU4、配列番号6)、Arabidopsis thaliana由来indole-3-acetic acid-amido synthetase GH3.17(AtGH3-17、Q9FZ87、配列番号7)、Cystobacter fuscus由来hypothetical protein(CfHP、WP_002626336、配列番号9)、Synechococcus sp. PCC 7335由来GH3 auxin-responsive promoter superfamily(SsGH3、WP_006458022、配列番号8)、Pseudomonas savastanoi由来indoleacetate-lysine synthetase(PsIAAL、P18204、配列番号10)、Pantoea agglomerans由来hypothetical protein(PaHP、WP_031591948、配列番号11)の遺伝子について、E.coliでの発現用にコドンを最適化し、pET-28a(+)(Merck)のマルチクローニングサイト内のNdeIおよびXhoIサイトに挿入したプラスミドDNAをユーロフィンジェノミクス社から購入した。プラスミドをそれぞれ、pET-28a-AtJAR1、pET-28a-AtGH3-6、pET-28a-AtGH3-5、pET-28a-AtGH3-10、pET-28a-AtGH3-12、pET-28a-AtGH3-17、pET-28a-CfHP、pET-28a-SsGH3、pET-28a-PsIAAL、pET-28a-PaHPと命名した。本プラスミドでは、N末端側にHis-tagおよびトロンビン切断部位が融合したタンパク質が発現される。
【0082】
Oryza sativa由来probable indole-3-acetic acid-amido synthetase GH3.8(OsGH3-8、A3BLS0、配列番号2)の遺伝子について、E.coliでの発現用にコドンを最適化した合成DNAをGenScript社より購入した。合成DNAをNdeI、EcoRIで制限酵素処理し、同様にNdeI、EcoRIで処理したpET28a(+)(Merck)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、カナマイシン耐性株の中から目的のプラスミドを抽出し、pET-28a-OsGH3-8と命名した。本プラスミドでは、N末端側にHis-tagおよびトロンビン切断部位が融合したタンパク質が発現される。
【0083】
2)アシルアミノ酸合成酵素の発現
プラスミドpET-28a-AtJAR1、pET-28a-AtGH3-6、pET-28a-OsGH3-8、pET-28a-AtGH3-5、pET-28a-AtGH3-12、pET-28a-AtGH3-17、pET-28a-PsIAAL、pET-28a-PaHPをE.coli BL21(DE3)に導入し、形質転換体を25mg/Lのカナマイシンを含むLB100mLに植菌し、坂口フラスコを用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.6に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
【0084】
プラスミドpET-28a-CfHPをE.coli BL21(DE3)に導入し、形質転換体を25mg/Lのカナマイシンを含むLB100mLに植菌し、坂口フラスコを用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.2に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
【0085】
プラスミドpET-28a-AtGH3-10をE.coli BL21(DE3)に導入し、形質転換体を25mg/Lのカナマイシンを含むTB100mLに植菌し、坂口フラスコ用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.4に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
【0086】
プラスミドpET-28a-SsGH3をE.coli BL21(DE3)に導入し、形質転換体を25mg/Lのカナマイシンを含むTB100mLに植菌し、坂口フラスコ用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.2に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
【0087】
3)アシルアミノ酸合成酵素の精製
培養終了後、得られた培養液より菌体を遠心分離により集め、20mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、0または10mM Imidazoleにて洗浄、懸濁し、超音波破砕を行った。遠心分離により破砕液から菌体残渣を除き、得られた上清を可溶性画分とした。得られた可溶性画分を、20mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、0または10mM Imidazoleで平衡化したHis-tagタンパク質精製カラムHis TALON superflow 5ml Cartridge(Clontech)に供して担体に吸着させた。担体に吸着しなかったタンパク質(非吸着タンパク質)を20mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、0または10mM Imidazoleを用いて洗い流した後、20mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、150mM Imidazoleを用いて、5mL/minの流速で吸着したタンパク質の溶出を行った。得られた画分を回収し、20mM Tris-HCl(pH8.0)とAmicon Ultra-15 10kDa(Merck)を用いて濃縮とバッファー交換を行った。必要に応じて、培養液量を増やして精製を行った。
【0088】
実施例2:アシルアミノ酸合成酵素を用いたN-カプリノイルアミノ酸の合成
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸、5mM カプリン酸ナトリウム、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、50μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.2mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。反応終了後、0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-カプリノイルアミノ酸と一致する分子量のシグナルを検出した。
【0089】
UPLC-MS分析条件は以下の通りである。
装置:ACQUITY UPLC(Waters)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm 2.1×100mmColumn(Waters)
移動相A:0.1% ギ酸
移動相B:アセトニトリル
グラジエント:
【0090】
【表2】
【0091】
流速:0.6mL/min
インジェクション量:2μL
カラム温度:40℃
イオン化法:ESI-ネガティブ
【0092】
UPLC-MS分析の結果、以下の表3に示す酵素とアミノ酸を組み合わせた反応液において、該当するN-カプリノイルアミノ酸と一致する分子量のシグナルが確認された。
【0093】
【表3】
【0094】
実施例3:アシルアミノ酸合成酵素を用いたN-カプリノイル-アミノ酸誘導体、N-カプリノイル-D-アミノ酸、およびN-カプリノイル-ペプチドの合成
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸誘導体、またはD-アミノ酸、またはペプチド、5mM カプリン酸ナトリウム、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、50μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.2mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。反応終了後、0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-カプリノイルアミノ酸誘導体、またはN-カプリノイル-D-アミノ酸、またはN-カプリノイル-ペプチドと一致する分子量のシグナルを検出した。UPLC-MS分析条件は実施例2に記載の通りである。
【0095】
UPLC-MS分析の結果、以下の表4に示す酵素とアミノ酸誘導体、またはD-アミノ酸、またはペプチドを組み合わせた反応液において、該当するN-カプリノイル-アミノ酸誘導体、またはN-カプリノイル-D-アミノ酸、またはN-カプリノイル-ペプチドと一致する分子量のシグナルが確認された。
【0096】
【表4】
【0097】
実施例4:アシルアミノ酸合成酵素を用いたN-ラウロイルアミノ酸、N-ラウロイル-アミノ酸誘導体の合成
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸、またはアミノ酸誘導体、5mM ラウリン酸ナトリウム、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、200μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.2mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。反応終了後、0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-ラウロイルアミノ酸、N-ラウロイル-アミノ酸誘導体と一致する分子量のシグナルを検出した。UPLC-MS分析条件は実施例2に記載の通りである。
【0098】
UPLC-MS分析の結果、以下の表5に示す酵素とアミノ酸、またはアミノ酸誘導体を組み合わせた反応液において、該当するN-ラウロイルアミノ酸、N-ラウロイル-アミノ酸誘導体と一致する分子量のシグナルが確認された。
【0099】
【表5】
【0100】
実施例5:アシルアミノ酸合成酵素を用いたN-アシルアミノ酸の合成
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸、5mM 脂肪酸ナトリウム、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、200μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.1mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。アミノ酸は、AtGH3-6、OsGH3-8、AtGH3-5、AtGH3-12ではL-Asp、CfHPではGlyまたはL-Alaを用いた。反応終了後、0.4mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、UV210nm検出により生成したN-アシルアミノ酸を定量した。UPLC-MS分析条件は実施例2に記載の通りである。分析の結果、AtGH3-6を用いた場合、Nα-カプリロイル-L-アスパラギン酸は3.9mM、Nα-カプリノイル-L-アスパラギン酸は4.5mM、Nα-ラウロイル-L-アスパラギン酸は2.2mM、OsGH3-8を用いた場合、Nα-カプリロイル-L-アスパラギン酸は4.3mM、Nα-カプリノイル-L-アスパラギン酸は4.6mM、Nα-ラウロイル-L-アスパラギン酸は3.5mM、AtGH3-5を用いた場合、Nα-カプリロイル-L-アスパラギン酸は4.1mM、Nα-カプリノイル-L-アスパラギン酸は4.6mM、Nα-ラウロイル-L-アスパラギン酸は2.5mM、AtGH3-12を用いた場合、Nα-カプリロイル-L-アスパラギン酸は1.6mM、Nα-カプリノイル-L-アスパラギン酸は0.6mM、Nα-ラウロイル-L-アスパラギン酸は0.2mM、CfHPを用いた場合、Nα-カプリロイルグリシンは4.5mM、Nα-カプリノイルグリシンは4.6mM、Nα-ラウロイルグリシンは0.1mM、Nα-カプリロイル-L-アラニンは3.1mM、Nα-カプリノイル-L-アラニンは3.6mM、Nα-ラウロイル-L-アラニンは0.4mMが検出された。
【0101】
実施例6:アシルアミノ酸合成酵素を用いたN-アシルアミノ酸の合成
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸、5mM 脂肪酸ナトリウム(パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムは3mM)、10mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、200μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.1mLの反応液を25℃で24時間振とうさせた。パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムを用いた場合には、反応液に終濃度10%(v/v)のメタノールを含有していた。アミノ酸は、AtGH3-6、OsGH3-8、AtGH3-5、AtGH3-12ではL-Asp、AtJAR1ではL-Ile、AtGH3-10、SsGH3ではL-Ala、AtGH3-17ではL-Glu、CfHPではGly、PsIAALではL-Lys、PaHPではL-Cysを用いた。反応終了後、0.4mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-アシルアミノ酸と一致する分子量のシグナルを検出した。
【0102】
UPLC-MS分析条件は以下の通りである。
装置:ACQUITY UPLC(Waters)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm 2.1×100mmColumn(Waters)移動相A:0.1% ギ酸
移動相B:アセトニトリル
グラジエント:
【0103】
【表6】
【0104】
流速:0.6mL/min
インジェクション量:2μL
カラム温度:40℃
イオン化法:ESI-ネガティブ
【0105】
UPLC-MS分析の結果、以下の表7に示す酵素と脂肪酸ナトリウムを組み合わせた反応液において、該当するN-アシルアミノ酸と一致する分子量のシグナルが確認された。
【0106】
【表7】
【0107】
実施例7:アシルアミノ酸合成酵素のATP依存性解析
50mM Tris-HCl、5mM アミノ酸、5mM カプリン酸ナトリウム、10mM または0mM ATP、10mM MgCl、1mM DTT、50μg/mL 精製酵素、pH8.0、0.25mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。アミノ酸は、AtGH3-6ではL-Asp、CfHPではGlyを用いた。反応終了後、0.2mLの反応液に0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、UV210nm検出により生成したN-カプリノイルアミノ酸を定量した。UPLC-MS分析条件は実施例2に記載の通りである。分析の結果、ATP存在下においては、AtGH3-6で3.8mM、CfHPで5.2mMのN-カプリノイルアミノ酸が検出されたが、ATP非存在下ではAtGH3-6、CfHPいずれを用いた場合においてもN-カプリノイルアミノ酸と一致する分子量のシグナルは検出されなかった。
【0108】
実施例8:アシルアミノ酸合成酵素発現菌体を用いたN-カプリロイルアミノ酸の合成
(1)各種菌体液の調製
BL21(DE3)/pET-28a-AtGH3-6、BL21(DE3)/pET-28a-OsGH3-8、BL21(DE3)/pET-28a-AtGH3-5、BL21(DE3)/pET-28aを25mg/Lのカナマイシンを含むLB 100mLに植菌し、坂口フラスコを用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.6に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
BL21(DE3)/pET-28a-CfHPを25mg/Lのカナマイシンを含むLB 100mLに植菌し、坂口フラスコを用いて37℃で振とう培養を行った。OD610が0.2に到達したら1mM IPTGを添加し、15℃で24時間振とう培養を行った。
【0109】
(無細胞抽出液の調製)
培養終了後、得られた培養液5mLより菌体を遠心分離により集め、20mM Tris-HCl(pH7.6)で洗浄した後、BugBuster(登録商標)Master Mix(Merck)1mLに菌体を懸濁した。10~20分間室温でインキュベートした後、遠心分離により上清を回収し、無細胞抽出液とした。
(洗浄菌体液の調製)
培養終了後、得られた培養液5mLより菌体を遠心分離により集め、20mM Tris-HCl(pH7.6)で洗浄した後、20mM Tris-HCl(pH7.6)1mLに菌体を懸濁し、洗浄菌体液とした。
(菌体液の調製)
培養終了後、得られた培養液15mLを遠心分離により濃縮して3mLとし、菌体液とした。
【0110】
(2)各種菌体液を用いたN-カプリロイルアミノ酸の合成反応
33.3mM Tris-HCl、3.3mM アミノ酸、3.3mM カプリル酸ナトリウム、6.7または0mM ATP、6.7mM MgCl、0.7mM DTT、30μL菌体液等(無細胞抽出液、洗浄菌体液、菌体液)、pH8.0、0.3mLの反応液を25℃で24時間インキュベートした。アミノ酸として、AtGH3-6、OsGH3-8、AtGH3-5ではL-Asp、CfHPではGlyまたはL-Alaを用いた。反応終了後、0.2mLの反応液に0.8mLの反応停止液(1%(v/v)リン酸、75%(v/v)メタノール)を添加し、混合液をフィルターろ過後にUPLC-MS分析に供し、N-カプリロイルアミノ酸と一致する分子量のシグナルを検出した。UPLC-MS分析条件は実施例2に記載の通りである。UPLC-MS分析の結果、以下の表8に示す菌体液等を用いた反応液において、該当するN-カプリロイルアミノ酸と一致する分子量のシグナルが確認された。
【0111】
【表8】
【0112】
精製酵素を用いた反応においてはATP非存在下ではN-アシルアミノ酸の生成は認められなかったが(実施例7)、菌体液を用いた反応においてはATP非存在下でもN-アシルアミノ酸の生成が確認されたため、菌体中に含まれるATPを利用して酵素反応が進行したと考えられる。
【0113】
UV210nm検出により生成したN-アシルアミノ酸を定量した結果、CfHPではGlyを基質とした場合、洗浄菌体液で2.8mM、菌体液(ATP存在下)で2.2mM、菌体液(ATP非存在下)で2.6mM、L-Alaを基質とした場合、洗浄菌体液で2.4mM、菌体液(ATP存在下)で0.9mM、菌体液(ATP非存在下)で1.0mMのN-カプリロイルアミノ酸が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、香粧品素材(特に、界面活性剤)等に利用可能なN-アシル-アミノ基含有化合物の製造のために有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0115】
配列番号1~11はそれぞれ、AtGH3-6、OsGH3-8、AtJAR1(AtGH3-11)、AtGH3-5、AtGH3-10、AtGH3-12、AtGH3-17、SsGH3、CfHP(WP_002626336)、PsIAAL、およびPaHP(WP_031591948)のアミノ酸配列を示す。
配列番号12~22はそれぞれ、エシェリヒア・コリ発現用にコドンを最適化した配列番号1~11のアミノ酸配列をコードする塩基配列を示す。
【配列表】
2024175022000001.xml