IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマダインフラテクノス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特開-鋼橋の保全工法 図1
  • 特開-鋼橋の保全工法 図2
  • 特開-鋼橋の保全工法 図3
  • 特開-鋼橋の保全工法 図4
  • 特開-鋼橋の保全工法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017508
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】鋼橋の保全工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240201BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20240201BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20240201BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20240201BHJP
   B23P 6/04 20060101ALI20240201BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20240201BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E01D22/00 A
B24C1/10 E
B24C1/00 Z
B24C11/00 C
B23P6/04
E01D1/00 F
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120185
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】503055554
【氏名又は名称】ヤマダインフラテクノス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 博文
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】木下 幸治
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059GG39
2E176AA07
2E176BB01
(57)【要約】
【課題】鋼材に発生した亀裂に対して一時的ではなくもっと長期にわたって亀裂の再発生を防止することのできる鋼橋の保全工法を提供する。
【解決手段】既設の鋼橋の鋼材90に発生した亀裂110に対して、当該亀裂110の先端部に貫通孔100を形成して亀裂110の成長を抑制する鋼橋の保全工法であって、投射材を投射することによって前記貫通孔100を形成し、当該貫通孔100の周縁および内周面に圧縮残留応力を付与する貫通孔形成工程を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の鋼橋の鋼材に発生した亀裂の先端部に貫通孔を形成して亀裂の成長を抑制する鋼橋の保全工法であって、
前記鋼材に発生した亀裂の先端部周囲に投射材を投射して当該鋼材に前記貫通孔を形成すると共に当該貫通孔の周縁および内周面に圧縮残留応力を付与する貫通孔形成工程を含む
ことを特徴とする鋼橋の保全工法。
【請求項2】
前記貫通孔形成工程の前に、亀裂の先端部又は当該先端部の周囲に所定の孔径からなる誘導孔を、前記鋼材を貫通するように形成する誘導孔形成工程を含み、
前記貫通孔形成工程は、前記誘導孔の周囲に投射材を投射して当該誘導孔の孔径を拡大させて前記貫通孔とする
ことを特徴とする請求項1に記載の鋼橋の保全工法。
【請求項3】
前記投射材は、前記鋼材における疲労強度向上のためのショットピーニング処理で用いられるショットである
請求項1又は請求項2に記載の鋼橋の保全工法。
【請求項4】
前記鋼材表面の素地調整するためにブラスト処理を行うブラスト工程と、
前記鋼材表面に対して疲労強度向上のためにショットピーニング処理を行うピーニング工程と、
をさらに含み、
前記ピーニング工程に前記貫通孔形成工程が含まれる
請求項1又は請求項2に記載の鋼橋の保全工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の鋼橋の鋼材に発生した亀裂に対して、当該亀裂の先端部に貫通孔を形成して亀裂の成長を抑制する鋼橋の保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の鋼橋は、大重量物である車両の通行による振動や風雪等の天候の変化などによって経年劣化(疲労)し、用いられている鋼材に亀裂(疲労亀裂)が発生することがある。当該亀裂は放置すると端部が伸びて成長してしまうため、発見次第、できる限り早期の対処が求められている。
【0003】
鋼材の亀裂への対処としてはこれまでにもいくつか提案されてきている。以下に公知のものを記載する。
【0004】
亀裂を覆うように当て板をあてて亀裂の成長を防止する方法(当て板補修法)がある。これは、補修効果が高く、再度の亀裂の発生を防ぐ効果が高い。しかしながら、適正なサイズの当て板を準備してその当て板を固定するには、非常に手間がかかり、保全コストも高くなる。
【0005】
また、亀裂部分を除去し、溶接によって除去した部分を覆う再溶接法もある。しかしながら、かかる構成も補修が煩雑となり、保全コストも高くなる。
【0006】
また、亀裂が発生した部位が溶接部であった場合に、当該溶接部の亀裂を切削によって除去する切削除去法がある。かかる構成は、対処できる部位が限定されてしまう問題がある。また、除去した部位の強度が向上するわけではないため、亀裂が再び発生してしまうおそれがある。
【0007】
また、亀裂に沿ってピーニング処理を行うことによって亀裂を閉じるピーニング法がある。これは粉塵の飛散を防止する必要があるが、亀裂への対処とともに鋼材の疲労強度が向上する効果を見込むことができる。
【0008】
また、特許文献1に開示されているような、亀裂の先端部に孔(ストップホール)をあけることによって亀裂の成長を一時的に妨げるストップホール法がある。ストップホール法にあっては、亀裂を発見し次第ストップホールを形成すればよく、手間やコストがかからず一時的な対処法としては非常に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-7713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のストップホール法にあっては、あくまでも一時的な対処法に過ぎず、短期間でストップホールから亀裂が再発生してしまうことが多くある。
【0011】
そこで本発明は、鋼材に発生した亀裂に対して一時的ではなくもっと長期にわたって亀裂の再発を防止することのできる鋼橋の保全工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、既設の鋼橋の鋼材に発生した亀裂の先端部に貫通孔を形成して亀裂の成長を抑制する鋼橋の保全工法であって、前記鋼材に発生した亀裂の先端部周囲に投射材を投射して当該鋼材に前記貫通孔を形成すると共に当該貫通孔の周縁および内周面に圧縮残留応力を付与する貫通孔形成工程を含むことを特徴とする鋼橋の保全工法である。
【0013】
かかる構成にあっては、前記投射材の投射によって前記貫通孔(ストップホール)の周縁に圧縮残留応力が付与されるため、当該貫通孔から亀裂が再発することを効果的に防止することができる。
【0014】
また、前記貫通孔形成工程の前に、亀裂の先端部又は当該先端部の周囲に所定の孔径からなる誘導孔を、前記鋼材を貫通するように形成する誘導孔形成工程を含み、前記貫通孔形成工程は、前記誘導孔の周囲に投射材を投射して当該誘導孔の孔径を拡大させて前記貫通孔とする構成が提案される。
【0015】
かかる構成とすることで、貫通孔形成工程において投射材が鋼材に衝突して反射することにより、反射した投射材と投射された投射材とが衝突して投射効率が低下してしまうことを抑制することができる。また、前記誘導孔に沿って孔径が拡大するため、貫通孔が意図しない方向や位置に形成されてしまうといった不具合が生じることを防止することができる。
【0016】
また、前記投射材は、前記鋼材における疲労強度向上のためのショットピーニング処理で用いられるショットである構成が提案される。
【0017】
かかる構成とすることにより、鋼材に圧縮残留応力を効果的に付与することができる。
【0018】
また、前記鋼材表面の素地調整するためにブラスト処理を行うブラスト工程と、前記鋼材表面に対して疲労強度向上のためにショットピーニング処理を行うピーニング工程と、をさらに含み、前記ピーニング工程に前記貫通孔形成工程が含まれる構成が提案される。
【0019】
かかる構成とすることにより、本発明の鋼橋の保全工法にかかる工事の手間やコストを削減できる。また、ピーニング工程において穿孔された貫通孔の内周面は仕上げ処理等を行う必要がなく、より一層手間がかからない。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼橋の保全工法は、長期にわたって亀裂の再発を防止することができる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例にかかる鋼橋の保全塗装の手順を示すフロー図である。
図2】実施例にかかる循環式ブラスト装置を説明する概要説明図である。
図3】実施例にかかる亀裂に対してストップホールを形成する手順を示す説明図であり、(a)はストップホールを形成する前の状態であり、(b)はストップホールを形成した後の状態である。
図4】別の実施例にかかる説明図であり、(a)は誘導孔を形成した後の状態を示し、(b)は誘導孔を拡径してストップホールを形成した後の状態を示している。
図5】別の実施例において、誘導孔が形成された鋼材の縦断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる鋼橋の保全工法を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0023】
本実施例の鋼橋の保全工法は、既設の鋼橋を保全する目的で行われる再塗装(保全塗装)の一環として行われる。まず鋼橋の保全塗装について説明する。
【0024】
図1に示すように、鋼橋(鋼構造物)の保全塗装手順としては、まず保全塗装の対象となる鋼橋に足場を仮設する。これと共に、外部に粉塵が漏出しないように防塵シートを張設し、非塗装部分の養生を行い、ブラスト処理及びショットピーニング処理を行うための装置を設置する事前準備(S101)を行う。
【0025】
その後、前記鋼橋に塗布されている旧塗膜の種類や厚さ、あるいは該鋼橋の状況等を調査(S102)する。そして、調査結果に基づき、使用するグリット及びショットの種類や噴射速度等を決定する。ここで、選定するグリット(非球形)及びショット(球形)は、共にJIS Z 0311:2004に規定されている。
【0026】
そして前記S102において決定したグリットを用いて、まずブラスト処理を行う(S103)。具体的には、前記鋼橋における剥離対象の塗膜の剥離と素地調整を行う。かかるブラスト処理により、本発明におけるブラスト工程が構成される。なお、該ブラスト処理によって剥離した塗膜やサビ等、及び使用済みグリットが粉塵として発生するが、前記S101において防塵シートを張設しているため、外部に粉塵が漏出することはなく、該粉塵が作業現場に堆積していく。
【0027】
続いて、グリットを噴射したブラスト装置に対して、グリットに代えて前記S102によって決定したショットを装填して該ショットを噴射可能とする。かかる工程によりショット入れ替え工程が構成される。
【0028】
そして、前記ブラスト処理によって素地面が表出したブラスト処理済部分に対して、前記ショットに入れ替えた装置を用いてショットピーニング処理を行う(S104)。かかる処理により、素地面の疲労強度及び耐応力腐食割れ性が向上するピーニング工程が構成される。なお、該ショットピーニング処理によって発生した使用済みショットは、そのまま作業現場に、S103における使用済みグリットと混在しつつ粉塵として堆積していく。ところで、該ショットピーニング処理は前記ブラスト処理を行った全ての素地面に対して行ってもよいし、溶接箇所周辺や強度に不安のある箇所等に対して適宜部分的に行ってもよい。
【0029】
その後、前記ブラスト処理、及びショットピーニング処理を行った素地面の確認を行う(S105)。かかる確認は目視確認のみならず、例えばISO8501ブラスト写真帳による比較、あるいは表面粗さ測定器による粗さ確認等も含まれる。これによって未剥離の塗膜が残っていないか、あるいは素地面の粗さが規格内であるか、等の確認がなされ、不十分な箇所に対して的確な処理がなされることとなる。例えばブラスト処理を行うことのできない箇所は手工具等を用いて素地調整がなされる。
【0030】
こうして素地面の確認が済んだ部分に対して最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う(S106)。なお、かかる塗装は、例えば防錆塗装として下塗り塗装、該防錆塗装を保護する中塗り塗装、及び最終仕上げ塗装となる上塗り塗装のように複数回にわたって層状に塗装されることが一般的である。
【0031】
前記塗装作業が済むと、その確認(S107)が行われる。かかる確認は塗装が乾燥した後の膜厚確認だけでなく、例えば塗装作業中にウェットネスゲージを用いてウェット膜厚の確認等も含まれる。また、このような確認は前記最終仕上げ塗装となる上塗り塗装後のみならず、前記下塗り塗装、及び中塗り塗装時にも行われる。
【0032】
前記確認によって塗装作業が完了すると、現場の片付けを行う(S108)。具体的には、足場や防塵シート等の回収、及びブラスト-ショットピーニング噴射装置の撤収を行って保全塗装の完了となる。
【0033】
また、上記手順と共に、粉塵の回収工程を実行する(S110)。具体的には、前記ブラスト処理(S103)で発生した使用済みグリット、前記ショットピーニング処理(S104)で発生した使用済みショット、及び、各工程で生じた剥離物やサビ等を含む粉塵を分別しつつ回収していく。
【0034】
なお、回収した使用済みグリット、及び使用済みショットは共にJIS Z 0310:2004に規定する鉄製(金属系)研削材であるため、使用時に鋼橋と衝突してもアルマンダイトガーネットや製鉄スラグのように破砕することがなく、再利用可能である。中でも高炭素鋳鋼のものは600回程度再利用することができ、非常に経済的であると共に、剥離した塗膜やその他の異物と分別することで廃棄物の量を大幅に減少させることができる。
【0035】
以下、グリットとショットとを共通の装置で噴射することが可能であり、しかも使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜等を回収してそれぞれ分別することができる循環式ブラスト装置1を一例として説明する。
【0036】
図2に示すように、前記循環式ブラスト装置1は、作業対象となる鋼橋Kの作業現場αに隣接して設置される装置本体部2を備えている。さらに該装置本体部2は、圧送ホース4を具備し、該圧送ホース4の先端に噴射器3が接続されている。該噴射器3からはグリットやショットが噴射される。また、前記装置本体部2は、吸引ホース5を具備し、該吸引ホース5の先端が作業現場αに配置されている。これにより、該吸引ホース5を介して、作業現場αで発生した使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜やサビ等を含む異物からなる粉塵を吸引することができる。なお、粉塵が外部に漏出しないように、図示しない防塵シートが作業現場αには張設され、送風機や集塵装置等も適宜設置される。
【0037】
また、図2に示すように、前記循環式ブラスト装置1の装置本体部2には、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20とが互いに隣接して配設されている。さらに詳述すると、該グリットホッパータンク10は、グリット及び使用済みグリットを貯留しておく機能を有している。また、前記ショットホッパータンク20は、ショット及び使用済みショットを貯留しておく機能を有している。さらに、前記グリットホッパータンク10には、該グリットホッパータンク10内に貯留されたグリットを作業現場αまで圧送するためのグリット加圧タンク11が接続されている。また、同様に、前記ショットホッパータンク20には、該ショットホッパータンク20内に貯留されたショットを作業現場αまで圧送するためのショット加圧タンク21が接続されている。
【0038】
さらに、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、乾燥圧縮空気配管31を介して乾燥圧縮空気供給手段30が接続されている。かかる乾燥圧縮空気供給手段30は、乾燥した圧縮空気を供給するためのエアコンプレッサーとエアドライヤーとで構成されている。また、前記乾燥圧縮空気配管31には切換弁32が備えられており、乾燥圧縮空気を前記グリット加圧タンク11又はショット加圧タンク21に選択的に送給可能とされ、グリットに代えてショットを噴射可能に装填自在としている。
【0039】
また、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、前記圧送ホース4が接続されている。そして、かかる構成により、前記乾燥圧縮空気供給手段30から供給された乾燥圧縮空気による空気圧よってグリット又はショットが該圧送ホース4を介して噴射器3から噴射され、作業対象となる鋼橋Kにブラスト処理、あるいはショットピーニング処理が実行可能となっている。なお、これまでの機能を備えた循環式ブラスト装置1により、ブラスト-ショットピーニング噴射装置が構成されている。
【0040】
前記作業現場αに堆積した使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜等の異物を含む粉塵は、前記吸引ホース5の一端からまとめて吸引される。そして、該吸引ホース5によって吸引された粉塵Xは、分別室40内に到達する。
【0041】
また、前記分別室40には、ダストホース51が取り付けられており、該ダストホース51には、剥離塗膜回収部としてのダスト回収部50が接続されている。さらに、該ダスト回収部50には、粉塵吸引手段としての空気吸引装置60が接続されている。したがって、該空気吸引装置60の空気吸引力によって、前記粉塵Xが吸引可能となっている。
【0042】
ここで、前記分別室40の下流側には、排出部が設けられており、該排出部はダストホース51に接続されていると共に、前記ダスト回収部50を介して前記空気吸引装置60に接続されている。
【0043】
ここで、前記吸引ホース5から分別室40に導入された前記粉塵は、それぞれ前記空気吸引装置60の空気吸引力によって所定速度を保って進み、比重の軽い剥離した塗膜やサビ等の異物は空気流動に沿ってそのまま排出される。排出された異物は、前記ダストホース51を介してダスト回収部50に導入されてダスト回収部50内で堆積され、所望のタイミングで廃棄物袋52に排出されて産業廃棄物として処理される。
【0044】
また、前記使用済みグリット及び使用済みショットは鉄製(金属系)研削材であるため比重が重く、所定速度を与えられた状態では所定の反射板に衝突し、跳ね返る距離の相違に基づき、使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜を含む異物をそれぞれ分別することが可能となる。こうして分別された使用済みグリットは前記分別室40下側にある前記グリットホッパータンク10に戻され、再利用される。また同様にして、使用済みショットも該分別室40下側にある前記ショットホッパータンク20に戻されて再利用される。こうしてグリット及びショットを循環して使用し続けることができる。
【0045】
上記した実施例以外にも、適宜設計変更可能である。例えば、前記切換弁32は作業現場αにおける作業者Hが切り換え操作できるように作業現場α内に設けられていてもよいし、あるいは遠隔操作可能にしてもよい。また、噴射器3と吸引ホース5は別体でもよいし、一体型(バキュームブラストタイプ)でもよい。また、乾燥圧縮空気供給手段30をグリット加圧タンク11とショット加圧タンク21とにそれぞれ個別に設けるようにしてもよい。また、圧送ホース4はグリット用とショット用とに分けて設けてもよい。また、噴射器3も、同様にグリット用とショット用とに分けても構わない。また、分別室40は、グリットホッパータンク10及びショットホッパータンク20の直上に配置する必要はなく、位置は特に限定されない。また、流路41内にあって、気密空間を実現する手法は特に限定されない。例えば、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20内に連通しつつ各ホッパータンク10,20を気密状態としてもよいし、グリット又はショットを一時貯留するための専用タンクを配置し、所望のタイミングで各ホッパータンク10,20にグリット及びショットを供給するようにしてもよい。また、循環式ブラスト装置1内でのグリット量あるいはショット量が規定値よりも少なくなった場合には新品を供給することができるようにしておくことが望ましい。また、装置本体部2は例えば車両上に載置して移動可能としてもよい。
【0046】
さらに、本実施例においてはグリットやショットを分けることなく、角部や陵を有しながらも球面形状部分を有する共通投射材を用いてもよい。共通投射材としては例えばコンディションドカットワイヤショットが提案されうる。
【0047】
以下に本発明の要部について説明する。
【0048】
上述のS102(施工対象調査)において、鋼材に亀裂の発生が認められた場合、S103のブラスト処理又はS104のショットピーニング処理において行われる鋼材の表面処理と並行して亀裂への対処としてストップホールを形成する。
【0049】
すなわち、S103でストップホールを形成する場合には、鋼材表面のブラスト処理を行う際に、亀裂の発生部位においては当該亀裂の端部に当該ブラスト処理を行っている投射設備を用いてグリットを投射して貫通孔形状のストップホールを穿孔する。
【0050】
また、S104でストップホールを形成する場合には、鋼材表面のショットピーニング処理を行う際に、亀裂の発生部位においては当該亀裂の端部に当該ショットピーニング処理を行っている投射設備を用いてショットを投射して貫通孔形状のストップホールを穿孔する。
【0051】
いずれの場合も、ストップホールを形成した後に、当該ストップホールの孔縁のバリ取り等の仕上げ処理が必要であれば、適宜、実行する。
【0052】
このようにして、投射材を投射することによって貫通孔からなるストップホールを形成し、当該貫通孔の周縁に圧縮残留応力を付与する工程が本発明における貫通孔形成工程に相当する。
【0053】
形成されたストップホールには、孔縁及び内周面に圧縮残留応力が付与されており、従来のストップホール法に比べて疲労強度が高く、亀裂の再発を効果的に防止することができる。
【0054】
以下に、本実施例におけるストップホールの形成手法について説明する。
【0055】
図3に示すように、ストップホール100は鋼材90に発生した亀裂110の端部に形成される。
【0056】
ストップホール100を形成するためには、グリット、ショット、及び共通投射材のいずれが用いられても構わない。
【0057】
ここで、グリット、ショット、又は共通投射材の投射によって形成されたストップホール100の周縁には、圧縮残留応力が付与される。これによって鋼材90の当該ストップホール周縁における疲労強度が向上して亀裂の再発を効果的に防止することができる。
【0058】
一例として、試験体として厚み6mmの鋼材(SS400)を用意してグリットによって穿孔を試みた。試験条件は以下の通りである。
【0059】
投射材 スチールグリット 工事に使用するものと共通であって、JIS Z 0311:2004に従う。
投射条件
ノズル径 8mm
付与圧力 0.7MPa
投射距離 50mm
【0060】
上記の条件で実施した結果、約3分で貫通孔が形成された。また、形成された貫通孔から1mm離れた位置においては、表面からの深さ90μmでマイナス140MPa程度の最大圧縮残留応力が測定された。当該位置においては、深さ800μmまで圧縮残留応力が付与されていることが確認できた。
【0061】
形成された貫通孔から2mm離れた位置、及び3mm離れた位置においては、表面からの深さ160μmでマイナス170MPa程度の最大圧縮残留応力が測定された。当該位置においてはいずれも、表面からの深さ300μm程度で圧縮残留応力は確認できなくなった。
【0062】
さらに、投射材としてショットピーニング処理用のショットを投射してストップホールを設けた場合、当該ストップホールの内周面においては仕上げ処理が必要なかった。疲労試験においては応力範囲100MPa、60万回程度でストップホールの孔縁に亀裂が確認された。
【0063】
また、投射材としては、工事で使用するものと同一のラウンドカットワイヤ(粒径0.8mm以上1.0mm以下)が使用できる。
【0064】
以上に示す通り、投射材の投射によってストップホールを形成する本発明は非常に効果的であることがわかった。また、投射材としてはショットピーニング処理用のショットを用いることによってストップホールの内周面における仕上げ処理の手間などもかからず、効果も高い。
【0065】
また、本発明の鋼橋の保全工法にあっては、ストップホールとしての貫通孔を形成する前に、亀裂の先端部又は当該先端部の周囲に当該貫通孔よりも小径となる誘導孔を、鋼材を貫通するように予備的に形成する誘導孔形成工程を含むこともできる。この場合、貫通孔形成工程にあっては、誘導孔の周囲に投射材を投射することによって誘導孔の孔径を拡大させてストップホールとしての貫通孔とすることとなる。
【0066】
詳述すると、図4(a),図5に示すように、鋼材120に発生した亀裂130の端部に、まず小径の誘導孔140を貫通状に設ける。当該誘導孔140は公知のドリル等を用いて形成される。そして、誘導孔140に向かって投射材を投射することによって誘導孔140の孔径を拡大させて、図4(b)に示すように、誘導孔140を貫通孔としてのストップホール150とする。
【0067】
この場合でも、ストップホール150の孔縁部には圧縮残留応力が付与されて疲労強度の向上を図ることができる。
【0068】
このように、ストップホール150を形成する前に誘導孔140を予備的に形成することによって、反射した投射材と投射した投射材とが衝突して投射効率が低下してしまうことを抑制することができる。また、ストップホール150が意図しない方向へ形成されてしまったり、意図しない位置で形成されてしまったりすることを防止することができる。
【0069】
本発明の鋼橋の保全工法にあっては、ストップホールの孔縁部に圧縮残留応力が付与されるため、疲労強度が向上して一時的な補修ではなく長期間にわたって安全が確保できる効果が見込める。使用される投射材としては疲労強度向上のためのショットピーニング処理で用いられるショットであることが望ましい。
【0070】
上記実施例において、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 循環式ブラスト装置
40 分別室
50 ダスト回収部(剥離塗膜回収部)
60 空気吸引装置(粉塵吸引手段)
90,120 鋼材
100,150 ストップホール(貫通孔)
110,130 亀裂
140 誘導孔
K 鋼橋
図1
図2
図3
図4
図5