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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175085
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】皮膚用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241210BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/41 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/9783 20170101ALI20241210BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241210BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/567 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/24 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/27 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/605 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 36/906 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/40 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/435 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/415 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20241210BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241210BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241210BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241210BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241210BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P17/02
A61P43/00 111
A61P43/00 107
A61K31/41
A61P39/06
A61P43/00
A61Q19/00
A61Q19/08
A61P17/00
A61K48/00
A61K8/9783
A61K8/9789
A61K31/12
A61K31/155
A61K31/567
A61K36/185
A61K36/24
A61K36/27
A61K36/28
A61K36/605
A61K36/73
A61K36/82
A61K36/906
A61K8/35
A61K8/40
A61K8/49
A61K8/63
A61K31/352
A61K31/435
A61K31/415
A61K31/4178
A23L33/10
A23L33/105
C12Q1/6876 Z
C12N5/071
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/53 M
G01N33/53 D
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024161580
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2023002222の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2019059616
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518050986
【氏名又は名称】株式会社イーダーム
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100201020
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140350
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和宏
(72)【発明者】
【氏名】西村 栄美
(57)【要約】
【課題】皮膚創傷治癒を促進するための方法、および皮膚創傷治癒の促進に用いるための組成物を提供すること、潰瘍・褥瘡予防または改善に有用な方法、または組成物を提供すること、また、皮膚老化を抑制するための方法、および皮膚老化の抑制に用いるための組成物を提供すること、抗がん剤による皮膚障害を予防または改善に有用な組成物を提供すること、さらに、表皮幹細胞の再生能力を高めるための方法、および表皮幹細胞の再生能力を高めるための組成物を提供すること。
【解決手段】細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の競合的増幅能を促進する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする組成物を用いることにより、皮膚創傷治癒の促進、抗がん剤からの保護、皮膚老化の抑制を行い、表皮幹細胞の再生能力を高めることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍若しくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
皮膚老化の抑制に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項3】
表皮幹細胞の再生能力を高めるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項4】
抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項5】
抗シワに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項6】
抗シワが、皮膚弾力性の改善、角層機能の改善、皮膚保湿能の改善、および皮膚バリア機能の改善からなる群より選ばれる少なくとも一つによるものである請求項5記載の組成物。
【請求項7】
抗シミに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項8】
肌荒れの改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項9】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、さらに表皮幹細胞の自己複製能を維持するものである、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
NADPHオキシダーゼ阻害剤が、アポシニン、エブセレン、Diphenyleneiodonium (DPI)、GKT137831、AEBSF、GK-136901、ML171、Coenzyme Q10(CoQ10)、VAS2870およびVAS3947から成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
COX阻害剤が、セレコキシブ、デラコキシブ、トルフェナミク酸、ニフル酸、FR122047、LM-1685、SC-791、BTB02472、ニメスリド、SPB04674、クルクミン、ジクロフェナク、4’-ヒドロキシジクロフェナク、DuP-697、エブセレン、ETYA、フルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、メロキシカム、NPPB、NS-398、プテロスチルベン、レスベラトロール、SC-560、SKF-86002、TXA(トラネキサム酸)、TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)、アスタキサンチン、および硫化スリンダクから成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
iNOS阻害剤が、1400W、L-NIL、アミノグアニジン、BYK190123、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714((1S,5S,6R,7R)-7-クロロ-3-イミノ-5-メチル-2-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタンヒドロクロリド)、AMT塩酸塩(2-アミノ-5,6-ジヒドロ-6-メチル-4H-1,3-チアジン塩酸)、AR-C102222、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、L-NIO、デキサメタゾン、エストロゲン、アスタキサンチン、およびアピゲニンから成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項14】
ROCK阻害剤が、Y-27632、リパスジル(K-115)、チアゾビビン(Thiazovivin)、ファスジル(HA-1077)、GSK429286A、RKI-1447、GSK269962、ネタルスジル(AR-13324)、Y-39983、ZINC00881524、KD025、ヒドロキシファスジル(HA-1100)、GSK180736AおよびAT13148から成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項15】
エストロゲン様物質が、エストロゲン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ダイズエキス、イソフラボン、ヒオウギエキス、プエラリアミリフィカ根エキスから成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項16】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質が、好中球エラスターゼ(ELANE)阻害剤およびマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤から成る群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
ELANE阻害剤が、シベレスタットナトリウム水和物(Monosodium N-{2-[4-(2,2-dimethylpropanoyloxy)-phenylsulfonylamino]benzoyl}aminoacetate tetrahydrate)、ONO-6818(2-(5-Amino-6-oxo-2-phenylhydropyrimidinyl)-N-[2-(5-tert-butyl-1,3,4-oxadiazol-2-yl)-1-(methylethyl)-2-oxoethyl]acetamide)、α1アンチトリプシン(α1-AT)、デペレスタット(Depelestat)、ニールワン(三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na)、シソ葉発酵物、パセリ発酵物、ピーマン発酵物、ELANEに対する抗体、ELANEをコードする遺伝子に対するsiRNA、およびELANEをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドから成る群より選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
MMP阻害剤が、マリマスタット(Marimastat)、バチマスタット(Batimastat)、PD166793、Ro32-3555、WAY170523、UK370106、TIMP1、TIMP2、TIMP3、およびTIMP4から成る群より選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
ゲノムストレスが、紫外線、放射線もしくは抗癌剤によるDNA損傷ストレス、または細胞分裂に伴う複製ストレスのいずれかである、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項21】
皮膚老化が、以下の(a)~(f)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項2記載の組成物。
(a)表皮、真皮および/または脂肪織の菲薄化、脆弱化、萎縮または張りの低下
(b)表皮バリア機能低下または皮膚の乾燥
(c)基底膜部のヘミデスモソームの減少または未熟化
(d)真皮上層の繊維芽細胞の消失、または皮膚の乾燥による縮緬ジワもしくは小ジワ
(e)真皮のコラーゲン減少によるシワの生成
(f)シミ、老人性色素斑、または脱色素斑
【請求項22】
シワの抑制に用いるための、請求項2に記載の組成物。
【請求項23】
医薬組成物である、請求項1~22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項24】
薬学的に許容可能な賦形剤を含有する、請求項1~23のいずれか一項記載の組成物。
【請求項25】
塗布剤である、請求項1~24のいずれか一項記載の組成物。
【請求項26】
化粧品組成物である、請求項1~22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項27】
有効成分を0.01~15重量%で含有する、請求項26記載の化粧品組成物。
【請求項28】
スキンケアに用いるための組成物である、請求項26または27記載の化粧品組成物。
【請求項29】
皮膚抗老化剤、皮膚色調剤、抗炎症剤および日焼け防止剤のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項26~28のいずれか一項記載の化粧品組成物。
【請求項30】
皮膚創傷治癒の促進もしくは皮膚潰瘍の予防もしくは改善、皮膚老化の抑制、細胞競合の制御、表皮幹細胞の再生能力の改善、抗がん剤による皮膚障害の予防もしくは改善、抗シワ、および/または肌荒れの改善に有効な物質をスクリーニングするための方法であって、
i)in vitroで細胞と試験物質とを接触させる工程、
ii)細胞におけるCOL17A1の発現を測定する工程、および
iii)該試験物質がCOL17A1の発現を上昇させるか否かを決定する工程
を含む、方法。
【請求項31】
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、皮膚老化の評価方法。
【請求項32】
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、皮膚老化の評価方法に用いるためのキット。
【請求項33】
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の評価方法。
【請求項34】
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞の評価方法に用いるためのキット。
【請求項35】
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の選別方法。
【請求項36】
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞の選別方法に用いるためのキット。
【請求項37】
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを用いてCOL17A1の発現量を測定し、COL17A1の発現量が高い表皮幹細胞を選別する工程を含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法。
【請求項38】
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法に用いるためのキット。
【請求項39】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、機能性食品または美容サプリメント。
【請求項40】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、請求項39記載の機能性食品または美容サプリメント。
【請求項41】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、アスタキサンチン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキスから成る群より選択される、請求項39または40記載の機能性食品または美容サプリメント。
【請求項42】
経口摂取するためのものである、請求項39~41のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
【請求項43】
錠剤、粉末、半固体、ゼリーまたは液体の形態である、請求項39~42のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
【請求項44】
皮膚抗老化剤、ビタミン剤、コラーゲンおよびミネラルのうちの少なくとも1つを更に含む、請求項39~43のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
【請求項45】
COL17A1を発現する単離された細胞を含む、細胞組成物。
【請求項46】
細胞が表皮角化細胞、または粘膜上皮角化細胞である、請求項45記載の細胞組成物。
【請求項47】
移植に用いるための、請求項45または46記載の細胞組成物。
【請求項48】
皮膚の疾患または傷害の治療に用いるための、請求項45~47のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項49】
少なくとも1×10個の細胞を含む、請求項45~48のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項50】
少なくとも50%の細胞がCOL17A1を発現する、請求項45~49のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項51】
細胞が幹細胞由来の細胞である、請求項45~50のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項52】
細胞が凍結されている、請求項45~51のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項53】
細胞が1つの容器に収められている、請求項45~52のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項54】
細胞が、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質を用いて処理された細胞である、請求項45~53のいずれか一項記載の細胞組成物。
【請求項55】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、請求項53記載の細胞組成物。
【請求項56】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、アスタキサンチン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、請求項54または55記載の細胞組成物。
【請求項57】
請求項45~56のいずれか一項記載の細胞組成物を含む、細胞シート。
【請求項58】
細胞競合の制御に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項59】
ケラチノサイトを3次元培養することにより、ケラチノサイトにおける細胞競合を評価する方法。
【請求項60】
ケラチノサイトおよび3次元培養デバイスを含む、ケラチノサイトにおける細胞競合の評価方法に用いるためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に対して有益な効果を有する組成物に関する。詳細には、皮膚創傷治癒の促進効果、皮膚老化の抑制効果、および/または表皮幹細胞の再生能力を高める効果を有する組成物に関する。また、本発明は、より詳細には、医薬組成物、化粧品組成物および美容サプリメントの領域に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の器官/臓器の老化は、その構造的および機能的な低下をもたらす多段階のプロセスである。消耗/ストレスを受けた細胞の正確な運命については、細胞の老化および/または幹細胞の消耗が細胞の動態として関係づけられているが、詳しくは判明していない。概して、老化中の組織/器官を構成する細胞のin vivo動態は、ほとんど知られていない。哺乳類の毛嚢(皮膚のミニオルガン)に関する以前の研究において、毛嚢の老化の進行における幹細胞老化の中心的な役割と、加齢に関連する毛の薄化および白毛化につながる老化に関連した毛包のミニチュア化を引き起こす「幹細胞中心性の器官老化プログラム」の存在が実証されている(非特許文献1、特許文献2)。これは、皮膚などの大きな固形臓器(器官)に、臓器老化の細胞動態を支配する独特な老化プログラムが存在するか否かという、新たな根本的疑問を提起した。
【0003】
細胞競合現象は、胚の発生や癌の発生などの際に、上皮組織において生じる不適当な変異細胞を排除していることが主にショウジョウバエで報告されている。幹細胞は、いくつかの上皮組織において、確率論的な幹細胞の喪失と置換を特徴とする「中立的幹細胞競合」を行っていることが知られているが、完全にランダムにおこる細胞運命の選択なのか、あるいはそれが細胞間の違いにもとづいて引き起こされる細胞競合がランダムにおこったものか、これまでその実体は明らかではなかった。また、表皮においては表皮幹細胞(ケラチノサイト(角化細胞)の幹細胞、表皮基底細胞)の対称細胞分裂(SCD)と非対称細胞分裂(ACD)がバランスを取りながら表皮の恒常性を維持している。しかし、哺乳動物の器官の生理的な恒常性維持や老化、および重層上皮の細胞動態において、細胞競合の特異的な関与や役割は、これまで不明であった。
【0004】
ヒトの皮膚は、年齢とともに、皮膚萎縮(菲薄化)、脆弱化、乾燥、色素沈着異常および皮膚創傷治癒の遅延、易刺激性を呈する。その過程で、皮膚はその表皮および真皮の厚さ、表皮突起、表皮ケラチノサイト、および機能的な皮膚線維芽細胞の蓄えを失う。ヒトの老化した皮膚の脆弱化は部分的に、真皮-表皮接合部、特にヘミデスモソーム(HD)成分(上皮細胞を基底膜の細胞外マトリックスに連結する構造)のリモデリングに帰される。実際、ヒトの老化した皮膚におけるXVII型コラーゲン(COL17A1/BP180/BPAG2/17型コラーゲン)などのHD成分の不安定化が報告されている。さらに、COL17A1遺伝子の欠損は、比較的軽度の皮膚の脆弱化、萎縮、皮膚色素沈着異常(多形皮膚萎縮症)および脱毛症を特徴とする、接合部表皮水疱症(JEB)の稀な形態である、良性汎発性萎縮型表皮水疱症(GABEB)を引き起こす。その表現型と一致して、以前の研究は、マウスにおけるCol17a1遺伝子欠損が、毛包細胞の消失を伴う毛包老化を引き起こすことを示している(非特許文献2、特許文献1)。しかし、皮膚の表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現量と一般的な健常人皮膚にみられる老化形質の発現(皮膚萎縮、脆弱性、バリア機能低下、色素異常、脱毛など)との関連は不明で、表皮幹細胞内のCOL17A1発現による皮膚の若さの維持や老化、再生(創傷治癒)への関与やその役割、COL17A1発現量と幹細胞の競合的自己複製能との相関、さらにCOL17A1による幹細胞競合が幹細胞の品質(若さ)を維持していることは明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-161509
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2017122668
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Matsumura, H. et al. Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis. Science 351, aad4395 (2016).
【非特許文献2】Tanimura et al., Cell Stem Cell Vol.8, February 2011, pp.177-187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚潰瘍の予防・改善、つまり皮膚創傷治癒促進するための方法ならびに組成物を提供することを目的の一つとする。がん治療に伴う皮膚障害を軽減または予防する方法ならびに組成物も目的の一つとする。また、本発明は、皮膚老化を抑制するための方法、および皮膚老化の抑制に用いるための組成物、皮膚の付属器である毛包老化を抑制するための組成物を提供することも目的の一つとする。さらに、本発明は、表皮幹細胞の再生能力を高めるための方法、表皮幹細胞(毛包幹細胞も含みうる)の再生能力を高めるための組成物、および幹細胞競合を制御するため組成物ならびに方法を提供することも目的の一つとしている。
【0008】
加えて、本発明は、がん治療に伴う皮膚障害の軽減または予防、皮膚創傷治癒の促進、皮膚老化の抑制、細胞競合の制御、および/または表皮幹細胞の再生能力の改善に有効な物質をスクリーニングするための方法を提供することも目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
遺伝的および環境的背景が同一のマウスを用いて哺乳類の器官の老化メカニズムを明らかにするため、老化したヒトの皮膚に見られるような、加齢に伴う皮膚の萎縮、脆弱化、色素沈着異常、および障害した創傷治癒を呈するC57BL6近交系マウスの尾部皮膚を利用した。本発明者は、COL17A1媒介性の表皮幹細胞の増殖とリンクした表皮細胞競合動態によって皮膚のホメオスタシスが維持され、それによって皮膚器官の老化が制御されることを見出した。また、本発明者は、老化中のマウスの表皮幹細胞のin vivo細胞運命追跡分析を行い、表皮中のCOL17A1highおよびCOL17A1lowクローンの不均一な出現が、COL17A1媒介性のSCDを通して、それらの相互の細胞競合を促し、COL17A1lowクローンの排除と結びついたCOL17A1high表皮幹細胞クローンの増殖を促進することを明らかにした。さらに、本発明者は、表皮幹細胞競合ダイナミクスが、皮膚再生能力の低下および表皮メラノサイトならびに真皮間葉細胞の減少を伴う表皮老化プロセスを媒介し、それによって皮膚器官自体の老化を調整することを示した。また、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現を強制的に維持し表皮幹細胞の競合的自己複製能を保つことにより、皮膚老化の予防と創傷治癒の改善に成功し、COL17A1が表皮幹細胞の競合および異種細胞の維持を通じて皮膚器官の老化を調整することを示した。
【0010】
細胞競合は、不適切な細胞の排除に関係づけられているが、哺乳類の器官の老化におけるその役割は、これまでほとんど知られていなかった。本発明者は、皮膚のホメオスタシスと老化のための細胞競合を促進するために、表皮の幹細胞が、HD成分であるXVII型コラーゲン(COL17A1)の安定性を介して、それらの細胞適合性/ストレスを感知することを明らかにした。in vivo細胞運命追跡、クローン分析、およびin vitro三次元モデリングにより、COL17A1high表皮幹細胞が、COL17A1依存性の対称細胞分裂を介してクローン性に増殖し、それにより、ホメオスタシスを維持するために皮膚からCOL17A1low/-の消耗した細胞を排除することが明らかとなった。競合によるそれらの優性な拡大は、それら自身のCOL17A1レベルを最終的には最小化して、自己再生能力だけでなく、隣接する表皮メラノサイトおよび真皮線維芽細胞の再生能力をも低下させ、皮膚の萎縮、色素沈着異常および創傷治癒不良を引き起こす。さらに、表皮におけるCOL17A1発現の強制的な維持は、皮膚老化の表現型をレスキューする。これらの知見は、治療介入のための新たな道を開くものである。本発明は、これらの知見を基礎とするものであり、具体的には以下の事項に関する。
【0011】
[態様1]
皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍若しくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様2]
皮膚老化の抑制に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様3]
表皮幹細胞の再生能力を高めるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様4]
抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様5]
抗シワに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様6]
抗シワが、皮膚弾力性の改善、角層機能の改善、皮膚保湿能の改善、および皮膚バリア機能の改善からなる群より選ばれる少なくとも一つによるものである態様5記載の組成物。
[態様7]
抗シミに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様8]
肌荒れの改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様9]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、さらに表皮幹細胞の自己複製能を維持するものである、態様1~8のいずれか一項記載の組成物。
[態様10]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、態様1~9のいずれか一項記載の組成物。
[態様11]
NADPHオキシダーゼ阻害剤が、アポシニン、エブセレン、Diphenyleneiodonium (DPI)、GKT137831、AEBSF、GK-136901、ML171、Coenzyme Q10(CoQ10)、VAS2870およびVAS3947から成る群より選択される、態様10記載の組成物。
[態様12]
COX阻害剤が、セレコキシブ、デラコキシブ、トルフェナミク酸、ニフル酸、FR122047、LM-1685、SC-791、BTB02472、ニメスリド、SPB04674、クルクミン、ジクロフェナク、4’-ヒドロキシジクロフェナク、DuP-697、エブセレン、ETYA、フルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、メロキシカム、NPPB、NS-398、プテロスチルベン、レスベラトロール、SC-560、SKF-86002、TXA(トラネキサム酸)、TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)、ニンジンエキス、および硫化スリンダクから成る群より選択される、態様10記載の組成物。
[態様13]
iNOS阻害剤が、1400W、L-NIL、アミノグアニジン、BYK190123、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714((1S,5S,6R,7R)-7-クロロ-3-イミノ-5-メチル-2-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタンヒドロクロリド)、AMT塩酸塩(2-アミノ-5,6-ジヒドロ-6-メチル-4H-1,3-チアジン塩酸)、AR-C102222、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、L-NIO、デキサメタゾン、エストロゲン、アスタキサンチン、およびアピゲニンから成る群より選択される、態様10記載の組成物。
[態様14]
ROCK阻害剤が、Y-27632、リパスジル(K-115)、チアゾビビン(Thiazovivin)、ファスジル(HA-1077)、GSK429286A、RKI-1447、GSK269962、ネタルスジル(AR-13324)、Y-39983、ZINC00881524、KD025、ヒドロキシファスジル(HA-1100)、GSK180736AおよびAT13148から成る群より選択される、態様10記載の組成物。
[態様15]
エストロゲン様物質が、エストロゲン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ダイズエキス、イソフラボン、ヒオウギエキス、プエラリアミリフィカ根エキスから成る群より選択される、態様10記載の組成物。
[態様16]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、態様1~9のいずれか一項記載の組成物。
[態様17]
細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質が、好中球エラスターゼ(ELANE)阻害剤およびマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤から成る群より選択される、態様1~9のいずれか一項記載の組成物。
[態様18]
ELANE阻害剤が、シベレスタットナトリウム水和物(Monosodium N-{2-[4-(2,2-dimethylpropanoyloxy)-phenylsulfonylamino]benzoyl}aminoacetate tetrahydrate)、ONO-6818(2-(5-Amino-6-oxo-2-phenylhydropyrimidinyl)-N-[2-(5-tert-butyl-1,3,4-oxadiazol-2-yl)-1-(methylethyl)-2-oxoethyl]acetamide)、α1アンチトリプシン(α1-AT)、デペレスタット(Depelestat)、ニールワン(三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na)、シソ葉発酵物、パセリ発酵物、ピーマン発酵物、ELANEに対する抗体、ELANEをコードする遺伝子に対するsiRNA、およびELANEをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドから成る群より選択される、態様17記載の組成物。
[態様19]
MMP阻害剤が、マリマスタット(Marimastat)、バチマスタット(Batimastat)、PD166793、Ro32-3555、WAY170523、UK370106、TIMP1、TIMP2、TIMP3、およびTIMP4から成る群より選択される、態様17記載の組成物。
[態様20]
ゲノムストレスが、紫外線、放射線もしくは抗癌剤によるDNA損傷ストレス、または細胞分裂に伴う複製ストレスのいずれかである、態様1~9のいずれか一項記載の組成物。
[態様21]
皮膚老化が、以下の(a)~(f)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、態様2記載の組成物。
(a)表皮、真皮および/または脂肪織の菲薄化、脆弱化、萎縮または張りの低下
(b)表皮バリア機能低下または皮膚の乾燥
(c)基底膜部のヘミデスモソームの減少または未熟化
(d)真皮上層の繊維芽細胞の消失、または皮膚の乾燥による縮緬ジワもしくは小ジワ
(e)真皮のコラーゲン減少によるシワの生成
(f)シミ、老人性色素斑、または脱色素斑
[態様22]
シワの抑制に用いるための、態様2に記載の組成物。
[態様23]
医薬組成物である、態様1~22のいずれか一項記載の組成物。
[態様24]
薬学的に許容可能な賦形剤を含有する、態様1~23のいずれか一項記載の組成物。
[態様25]
塗布剤である、態様1~24のいずれか一項記載の組成物。
[態様26]
化粧品組成物である、態様1~22のいずれか一項記載の組成物。
[態様27]
有効成分を0.01~15重量%で含有する、態様26記載の化粧品組成物。
[態様28]
スキンケアに用いるための組成物である、態様26または27記載の化粧品組成物。
[態様29]
皮膚抗老化剤、皮膚色調剤、抗炎症剤および日焼け防止剤のうちの少なくとも1つを更に含む、態様26~28のいずれか一項記載の化粧品組成物。
[態様30]
皮膚創傷治癒の促進もしくは皮膚潰瘍の予防もしくは改善、皮膚老化の抑制、細胞競合の制御、表皮幹細胞の再生能力の改善、抗がん剤による皮膚障害の予防もしくは改善、抗シワ、および/または肌荒れの改善に有効な物質をスクリーニングするための方法であって、
i)in vitroで細胞と試験物質とを接触させる工程、
ii)細胞におけるCOL17A1の発現を測定する工程、および
iii)該試験物質がCOL17A1の発現を上昇させるか否かを決定する工程
を含む、方法。
[態様31]
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、皮膚老化の評価方法。
[態様32]
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、皮膚老化の評価方法に用いるためのキット。
[態様33]
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の評価方法。
[態様34]
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞の評価方法に用いるためのキット。
[態様35]
細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の選別方法。
[態様36]
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞の選別方法に用いるためのキット。
[態様37]
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを用いてCOL17A1の発現量を測定し、COL17A1の発現量が高い表皮幹細胞を選別する工程を含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法。
[態様38]
COL17A1に対する抗体、又はCOL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ若しくは当該遺伝子増幅用プライマーを含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法に用いるためのキット。
[態様39]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、機能性食品または美容サプリメント。
[態様40]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、態様39記載の機能性食品または美容サプリメント。
[態様41]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、態様39または40記載の機能性食品または美容サプリメント。
[態様42]
経口摂取するためのものである、態様39~41のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
[態様43]
錠剤、粉末、半固体、ゼリーまたは液体の形態である、態様39~42のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
[態様44]
皮膚抗老化剤、ビタミン剤、コラーゲンおよびミネラルのうちの少なくとも1つを更に含む、態様39~43のいずれか一項記載の機能性食品または美容サプリメント。
[態様45]
COL17A1を発現する単離された細胞を含む、細胞組成物。
[態様46]
細胞が表皮角化細胞または粘膜上皮角化細胞である、態様45記載の細胞組成物。
[態様47]
移植に用いるための、態様45または46記載の細胞組成物。
[態様48]
皮膚の疾患または傷害の治療に用いるための、態様45~47のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様49]
少なくとも1×10個の細胞を含む、態様45~48のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様50]
少なくとも50%の細胞がCOL17A1を発現する、態様45~49のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様51]
細胞が幹細胞由来の細胞である、態様45~50のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様52]
細胞が凍結されている、態様45~51のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様53]
細胞が1つの容器に収められている、態様45~52のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様54]
細胞が、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質を用いて処理された細胞である、態様45~53のいずれか一項記載の細胞組成物。
[態様55]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、態様53記載の細胞組成物。
[態様56]
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、態様54または55記載の細胞組成物。
[態様57]
態様45~56のいずれか一項記載の細胞組成物を含む、細胞シート。
[態様58]
細胞競合の制御に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[態様59]
ケラチノサイトを3次元培養することにより、ケラチノサイトにおける細胞競合を評価する方法。
[態様60]
ケラチノサイトおよび3次元培養デバイスを含む、ケラチノサイトにおける細胞競合の評価方法に用いるためのキット。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】若齢(7~8週齡、n=50)および老齢(22~25ヶ月齡、n=50)のマウスの尾部におけるHDおよび基底膜成分、COL17A1、ITGA6、PLECTIN、ITGB4、COL7A1およびITGB1の蛍光強度を定量化したグラフ。COL17A1とPLECTINの発現は、老化した皮膚において有意に減少している。
図2】若齢(8週齡、n=3)および老齢(22ヶ月齢、n=3)のマウスからの尾部基底細胞における基底膜のHD数を定量化したグラフ。生理的な加齢により、尾部基底細胞におけるHDの数が有意に減少している。
図3】老化中の尾部表皮のホールマウント画像における単色クローンの面積(μm)(左)および数(右)を定量化したグラフ(4.5ヶ月齢、n=5画像;15ヶ月齢、n=4画像;24ヶ月齢、n=7画像)。
図4】若齢(11週齡)および老齢(28ヶ月齢)のタモキシフェン(TAM)処理Epi-Confettiマウス由来の多色標識尾部基底ケラチノサイトにおけるCOL17A1の免疫染色像。
図5図4の複数の領域(11週齢、n=13クローン;28ヶ月齢、n=12クローン)におけるCOL17A1の強度と角化細胞のクローンサイズとの間の分布を定量化したグラフ。
図6】TAM投与後2日目(D2)および28日目(D28)における対照(Cont)マウス(D2、n=4;D28、n=5)およびCol17a1 cKOマウス(D2、n=3;D28、n=5)における浮遊クローンを定量化したグラフ。
図7】若齢マウス(7週齡、n=3)および老齢(25ヶ月齢、n=3)マウスの尾部表皮角化細胞のコロニー形成を分析したグラフ。加齢に伴って、コロニーの数およびサイズが有意に減少している。
図8】野生型(8週齡、n=3)およびhCOL17A1 tg(8週齡、n=3)マウスの尾部表皮角化細胞のコロニー形成を分析したグラフ。hCOL17A1 tgの発現は、初代尾部表皮角化細胞におけるコロニーの数およびサイズを有意に増加させた。
図9】加齢に伴う色素細胞の変化をあらわすグラフ。加齢による表皮内の色素細胞の消失によって皮膚の色素異常(沈着と脱失が混在)が生じるが(左、中央)、COL17A1の強制的維持によって色素細胞が維持されるため色素異常も抑制される(右)。
図10】野生型およびhCOL17A1tgにおけるPDGFRa+細胞の数を示したグラフ。加齢による基底膜(BM)直下のPDGFRa+細胞の減少(左)とCOL17A1の強制的維持によるその抑制(右)が示されている。
図11】0日目(D0)、14日目(D14)および21日目(D21)における修復されていない創傷領域を定量化したグラフ。生理的加齢(左)またはCol17a1もしくはItga6の欠乏(右)は創傷修復を有意に遅くさせる。
図12】0日(D0)、14日目(D14)および21日目(D21)における修復されていない創傷領域を定量化したグラフ。hCOL17A1の発現(左)、アポシニンもしくはY-27632の投与(右)は創傷修復を有意に促進した。
図13】コロニー形成アッセイの結果を示すグラフ。コロニーの数(n=3ウェル)はY-27632処理により、対照(Cont)に比べて有意に増加した(左)。また、直径2mm超のコロニーの数(n=3ウェル)は、Y-27632またはアポシニンの処理により有意に増加していた(右)。
図14】コロニー形成アッセイの結果を示すグラフ。上位5コロニーの平均サイズ(n=3ウェル)は、Y-27632またはアポシニンの処理により、対照(Cont)に比べて有意に増加していた。
図15】COL17A1発現のHCS解析(COL17A1が介在する競合的自己複製促進剤のスクリーニングのStep1に相当)のグラフ。HCSにおいてアポシニンまたはエブセレンの処理により、コントロールに比べてCOL17A1量が有意に増加していた。
図16】コロニー形成アッセイ(COL17A1発現が介在する競合的自己複製促進剤のスクリーニングのStep2に相当)の写真と結果を分析したグラフ。アポシニンまたはエブセレンの処理によって、1ウェルあたりのコロニーの数および面積がコントロールに比べて顕著に増加していた。
図17】抗がん剤および各種ストレスによるCOL17A1発現の低下。上図:C57BL/6マウスにハイドロキシウレア(HU)を連続投与して3か月後の皮膚におけるCOL17A1の発現を調べた免疫染色像。中左図:HaCaT細胞に紫外線を照射して24時間後のCOL17A1量を調べたウエスタンブロッティング像。中図:HaCaT細胞に放射線を照射して72時間後のCOL17A1量を調べたウエスタンブロッティング像。中右図:HaCaT細胞を過酸化水素処理して24時間後のCOL17A1量を調べたウエスタンブロッティング像。下図:HaCaT細胞をEGF受容体阻害薬(PD168393)で処理したときのCOL17A1量を調べたウエスタンブロッティング像。
図18】抗がん剤によって生じる皮膚障害のCOL17A1過剰発現による改善作用を示すグラフ。
図19】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤による、抗がん剤投与によって生じた皮膚障害の改善作用を示すグラフ。左図:7週齢のC57BL/6マウスにEGF受容体阻害薬(エルロチ二ブ)を連続投与して12日目のTEWLを示すグラフ。右図:6か月齢のC57BL6マウスにEGF受容体阻害薬(エルロチニブ)を連続投与して7日目のTEWLを示すグラフ。
図20】高齢マウスの頸部ー背側上部皮膚において誘発される皮膚障害(乾燥性湿疹・脱毛)モデルにおけるアポシニンの予防ならびに治療効果を示す図。
図21】表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質による紫外線照射に対する角層水分量保持作用(上)とTEWL増加の抑制作用(下)を示す棒グラフ。
図22】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤による紫外線照射によって生じたTEWL増加の抑制作用を示す棒グラフ(上)と肌の弾力低下の改善作用を示す棒グラフ(下)。
図23】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤と比較剤の長期継続塗布による肌弾力の向上作用を示すグラフ(上)。表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤と比較剤の長期継続塗布したときのTEWLを示す棒グラフ(下)。シワの改善剤として知られるレチノールは長期塗布によりTEWLが著しく上昇する。一方、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質のTEWL値はコントロールと大差なく、皮膚のバリア機能を保持しつつ、肌弾力を改善する作用があると考えられる。
図24】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤と比較剤による、紫外線照射によって生じたシワの改善作用を示す高解像度撮影写真とシワを着色した像(上)また、シワ総体積(mm3)と総シワ平均深さ(μm)を示す棒グラフ。
図25】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤を長期塗布したときのTEWLを示す棒グラフ。シワの改善剤として知られるレチノールは長期塗布によりTEWLが著しく上昇する。一方、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質のTEWL値はコントロールと大差なく、皮膚のバリア機能を保持しつつ、シワを改善する作用があると考えられる。
図26】表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質と比較剤による、紫外線照射によって生じた皮膚の柔軟性低下の改善作用を示す棒グラフ。
図27】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤(アポシニン)による、SDSによって誘発した肌荒れの改善作用を示す高解像度撮影写真とキメを着色した像。グラフは肌表面の粗さの指標である「Ra(算術平均粗さ)」と「Rz(十点平均粗さ)」を示すもの。
図28】表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質(アポシニン)による、SDSによって誘発したTEWLの亢進を抑制する作用を示す棒グラフ。
図29】表皮幹細胞の表皮幹細胞の競合的増幅剤(エブセレン)による、SDSによって誘発した肌荒れの改善作用を示す高解像度撮影写真とキメを着色した像。グラフは肌表面の粗さの指標である「Ra(算術平均粗さ)」と「Rz(十点平均粗さ)」を示す。
図30】表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質(エブセレン)による、SDSによって誘発したTEWLの亢進を抑制する作用を示す棒グラフ。
図31】表皮幹細胞の競合的増幅剤(アポシニン、エブセレン、セレコキシブ)によるSDSによって誘発した一次刺激性の皮膚障害(肌荒れ)と色素沈着に対する効果を示す写真。SDS処理により強度の発赤や乾燥を生じるが、表皮幹細胞の競合的増幅剤の塗布によって顕著に軽減された。SDS処理開始後16日目において、アポシニン塗布部は治癒したことがわかるが、コントロールでは色素沈着が生じている。
図32】表皮幹細胞の競合的増幅剤(アポシニン、エブセレン、セレコキシブ)による、SDSによって惹起したヒト肌荒れの改善作用を示す高解像度撮影写真とキメを着色した像。グラフは肌表面の粗さの指標である「Ry(最大高さ)」と「Rz(十点平均粗さ)」について測定日コントロールから差し引いた値を「ΔRz」「ΔRy」として示したもの。
図33】表皮幹細胞の競合的増幅剤(アポシニン、エブセレン、セレコキシブ)による、SDSによって惹起したヒト肌荒れに伴うTEWLの亢進を抑制する作用を示すグラフ。グラフのエラーバーはS.D.(standard deviation)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記のとおり、本発明者は、皮膚の老化と再生にCOL17A1(XVII型コラーゲン)が関与していることを見出し、皮膚創傷治癒の促進、皮膚老化の抑制、細胞競合の制御、および表皮幹細胞の再生能力の向上のために有用な組成物を同定した。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
皮膚創傷治癒
皮膚の創傷は、外傷、切り傷、火傷、血液循環不良、床ずれによる潰瘍、糖尿病などといった様々な理由で生じ、正常な機能や皮膚の構造が一時的に損なわれる。身体がこれらの創傷を治癒させることができなければ慢性化し、いずれは化膿することになる。皮膚創傷は、急性皮膚創傷と慢性皮膚創傷に分類される。急性皮膚創傷は,新鮮外傷や手術創など,創傷治癒機転が正常に働く創のことをいい、慢性皮膚創傷は,正常な創傷治癒機転が働かない何らかの原因を持つ創のことをいう。慢性皮膚創傷の治癒を遷延させる原因としては、基礎疾患など全身的な要因と局所的な要因との大きく2つに分けられる。患者の1%が慢性皮膚創傷を生じるが、これらの創傷のうち半数は完治しない。
【0015】
皮膚は人体の最大の面積を占める器官であり、外界に対する天然のバリアとなり、内部にある組織を摩耗や感染症から防いでいる。皮膚は一般に、表皮、真皮、皮下組織の3層に分類される。表皮が、最も外側の層であり、ケラチノサイト(角化細胞)のほか、メラノサイト(色素細胞)などを含んでいる。ケラチノサイトは表皮を形成し、多層に並び、身体の外表面を覆っている。メラノサイトは表皮基底層に分布し、周囲の角化細胞にメラニン色素を与え、色素細胞の分布ならびにメラニン色素の量やメラニンのタイプにより皮膚の色調を決めている。
【0016】
表皮はさらに、深部から、基底層(基底細胞層)、有棘層(有棘細胞層)、顆粒層(顆粒細胞層)、角層(角質細胞層)の4層に分類される。基底層は、角化細胞の幹細胞を含む1層の基底細胞からなる。基底層は、隣接する細胞や基底細胞下にある基底膜と結合するための構造として、デスモソーム、ギャップジャンクション(裂隙接合)、ヘミデスモソームを有している。有棘層は、5~10層からなる。この層では、細胞が互いに棘でつながっているようにみえるため、有棘細胞と呼ばれる。顆粒層は、2~3層からなる。好塩基性でプロフィラグリンに富むケラトヒアリン顆粒を含むため、この名称で呼ばれる。角層は角質層とも呼ばれ、約10層からなる。脱核し、死んだ角化細胞は膜状となり、落ち葉を敷きつめたように重層化する。手掌足底では角層がきわめて厚く、その直下に透明層(stratum lucidum)を有する。角質細胞の細胞質内は、凝集したケラチン繊維で満たされている。さらに表皮に連続して毛包や汗腺が存在し、皮膚の付属器として毛を生やしたり汗の排出を行っている。
【0017】
表皮の基底層に存在する表皮幹細胞は表皮再生の原動力となり、基底膜に対して水平に分裂する均等分裂、または縦の分裂による不均等分裂をバランス良く行う。そして、自己複製を行いながら分化した表皮ケラチノサイトを皮膚表面に向かって供給することで、表皮の構築を維持している。ケラチノサイトは、表皮の大部分の細胞を構成している。皮膚表面の角層に見られる細胞は、ほぼ全てが死んでいる細胞であり、これらの死細胞が剥がれ落ちると、下層から新しいケラチノサイトが上がってきて置き換わる。この下から持ち上がってくるプロセスは、常に繰り返されており、皮膚表面全体が、15~30日で新しいものに更新される。
【0018】
表皮層の下には基底膜があり、その下の真皮層と隔てている。真皮層は、線維芽細胞や血管、免疫細胞、皮膚付属器(毛包、汗腺)と、これらの細胞を支持する細胞外マトリックスから構成されている。血管は皮膚に栄養を与え、免疫細胞は皮膚を保護し、線維芽細胞はコラーゲンタンパク質を産生し強度を与え、またエラスチンタンパク質も産生して伸縮性を与えている。
【0019】
皮膚の最深部には皮下組織がある。皮下組織は真皮層の下の脂肪の層であり、その下にある筋肉や骨に対して衝撃を吸収し、感染から防御するもう一つのバリアとして機能している。
【0020】
外傷、感染症、抗がん剤、加齢による皮膚萎縮、バリア機能の破綻、その他の皮膚疾患により、皮膚の表皮層が壊されると創傷が形成され、皮膚の下層に障害が生じるようになると創傷の重篤度が高くなる。創傷が正常に治癒するには、炎症、増殖、リモデリングの3つのステップが必要である。炎症はおよそ4日間持続する。この期間に起きる主なことは、フィブリンマトリックスが作られ、血餅が形成されて傷をカバーし保護することである。増殖期には、炎症シグナルが、多くのタイプの細胞を創傷部に呼び寄せる。呼び寄せられる細胞としては、線維芽細胞や血管内皮細胞がある。線維芽細胞はコラーゲンを産生し、また筋線維芽細胞に変身して、創傷を閉鎖することができる。血管内皮細胞は創傷の周囲に新たな血管を作る。これらの細胞活動によって、血餅のすぐ下に「肉芽組織」と呼ばれる組織が作られる。肉芽組織は、組織障害に対する修復・炎症反応として作られる新生組織のことをいい、新生血管、結合組織、線維芽細胞、炎症性細胞などによって構成されている。次に、欠損部周囲表皮や皮膚付属器から表皮の再生が起こり、ケラチノサイトが創傷縁部から創傷部に移動し、また毛包基部からも移動する。付属器の残存しない深い皮膚欠損では、創面が肉芽組織で置換された後に周囲から表皮が伸張してくる。肉芽組織の上でケラチノサイトが細胞分裂して、表皮を1つにまとめる。リモデリング段階ではこのプロセスが連続して起こり、創部の周辺または残存する付属器から表皮角化細胞が遊走してくると表皮が回復し、ケラチノサイトと線維芽細胞が新しく出来た基底膜のマトリックスタンパク質を産生し、表皮と真皮の間の境界面が再生される。
【0021】
重度の深部熱傷や切傷の場合など、真皮の深部から脂肪組織に至るまで損傷を受けた場合には毛包と汗腺も破壊されることがあり、表皮の修復に使えるケラチノサイトの数が少なくなる。その結果、全層創傷は治癒するのに時間がかかり、皮膚移植(植皮術)、表皮シートなどの培養皮膚を用いた治療や表皮ケラチノサイトのスプレーによる移植が必要になる場合がある。
【0022】
皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための組成物
本発明の実施形態の一つは、皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、細胞(表皮幹細胞)におけるDNA損傷(DNA損傷応答またはDNA損傷そのもの)を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物に関する。
【0023】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質
本発明者は、上記のとおり、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現を強制的に維持することにより、皮膚老化の予防と創傷治癒の改善若しくは促進、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡の予防若しくは改善に成功し、COL17A1が表皮幹細胞の競合および異種細胞の維持を通じて皮膚器官の老化を調整することを示した。本発明者は、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤のマリマスタットが、COL17A1を安定化させ、紫外線が誘導するCOL17A1の下方抑制をブロックすることも明らかにしている。また、本発明者は、in vitroでケラチノサイトにおけるCOL17A1発現を維持または誘導し、かつ培養ケラチノサイトにおいて自己複製能を維持促進する化学物質として、ROCK阻害剤(Y27632)とNADPHオキシダーゼ阻害剤(アポシニン)を同定した。
【0024】
さらに、本発明者は、Y27632(ROCK阻害剤)およびアポシニン(NADPHオキシダーゼ阻害剤)の両薬剤が、ヒトCOL17A1を過剰発現するトランスジェニックマウスと同様に、創傷修復プロセスを有意に促進することをin vitroとin vivoの両方で示した。よって、当業者には、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、または細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質を用いて、皮膚創傷治癒を促進、改善、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡を予防若しくは改善しうることが理解される。さらに、本発明においては、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質 、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を用いて、皮膚創傷治癒を促進、改善、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡を予防若しくは改善しうることが理解される。
【0025】
COL17A1(XVII型コラーゲン/BP180/BPAG2)は、膜貫通タンパク質型の細胞接着分子であり、上皮組織の細胞結合の1つであるヘミデスモソーム(半接着斑)のタンパク質である。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質としては、例えば、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、およびCOX阻害剤が挙げられるが、これらに限定はされない。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質には、COL17A1をコードするDNAまたはRNAも含まれる。COL17A1をコードするDNAまたはRNAは適当なベクターを用いて細胞内に導入されてもよい。
【0026】
ROCK阻害剤としては、例えば、Y27632、チアゾビビン(Thiazovivin)、ファスジル(HA-1077)、GSK429286A、RKI-1447、GSK269962、ネタルスジル(AR-13324)、Y-39983、ZINC00881524、KD025、リパスジル(K-115)、ヒドロキシファスジル(HA-1100)、GSK180736A、AT13148が挙げられるが、これらに限定はされない。NADPHオキシダーゼ阻害剤としては、例えば、アポシニン、エブセレン、Diphenyleneiodonium (DPI)、GKT137831、AEBSF、GK-136901、ML171、Coenzyme Q10(CoQ10)、VAS2870、VAS3947が挙げられるが、これらに限定はされない。アポシニン類を含むラフマエキスなどの植物エキスも含む。
【0027】
本発明における植物エキスのうち、ラフマ抽出物(商品名:ベネトロン)、桑抽出物(商品名:クワ葉エキス末)、ギムネマ抽出物(商品名:ギムネマエキス末)、茶抽出物(商品名:ティアカロン90)、ビワ葉抽出物(商品名:ビワ葉エキス末)、マリアアザミ抽出物(商品名:マリアアザミエキス末)、黒ウコン抽出物(商品名:サートマックス)は、株式会社常磐植物化学研究所製であり、入手可能である。セイヨウオオバコ種子エキス(商品名:アブソレージ)、コーヒー種子エキス(商品名:カフェノアージュ)、ソメイヨシノ葉エキス(商品名:サクラエキスB)、メリアアザジラクタ葉エキス(商品名:ニームリーフリキッドB)、マンダリンオレンジ果皮エキス(商品名:マンダリンクリア)、ラベンダー花エキス(商品名:エコファーム ラベンダーB)、クララ根エキス(商品名:ファルコレックス クララB)、コメヌカエキス(商品名:ファルコレックス コメヌカBK)、カニナバラエキス(商品名:ファルコレックス ノバラB)、ハメマリス葉エキス(商品名:ファルコレックス ハメマリスB)、ユーカリ葉エキス(商品名:ファルコレックス ユーカリB)、サンザシエキス(商品名:ファルコレックス サンザシB)は、一丸ファルコス株式会社プロダクトガイドに収載されており、容易に入手することができる。
【0028】
iNOS阻害剤は、選択的iNOS阻害剤、非選択的iNOS阻害剤のどちらも使用されうるが、例えば、副作用の観点からは選択的iNOS阻害剤が好ましい。
iNOS阻害剤としては、例えば、1400W、L-NIL、アミノグアニジン、BYK190123、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714(融合ピペリジン誘導体;(1S,5S,6R,7R)-7-クロロ-3-イミノ-5-メチル-2-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタンヒドロクロリド)、AMT塩酸塩(2-アミノ-5,6-ジヒドロ-6-メチル-4H-1,3-チアジン塩酸)、AR-C102222、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、L-NIO、デキサメタゾン、エストロゲン、アスタキサンチン、ならびにiNOS発現抑制剤のアピゲニンが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0029】
COX阻害剤としては、例えば、セレコキシブ、デラコキシブ、 トルフェナミク酸、 FR122047、LM-1685、SC-791、BTB02472、ニメスリド、SPB04674、クルクミン、ジクロフェナク、4’-ヒドロキシジクロフェナク、DuP-697、エブセレン、ETYA、フルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、メロキシカム、ニフル酸、NPPB、NS-398、プテロスチルベン、レスベラトロール、SC-560、SKF-86002、TXA(トラネキサム酸)、TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)、ニンジンエキス、アスタキサンチン、硫化スリンダクが挙げられるが、これらに限定はされない。COX阻害剤は選択的COX阻害剤、非選択的COX阻害剤のどちらも使用されうるが、例えば、副作用の観点からは選択的COX-2阻害剤が好ましい。
【0030】
エストロゲン様物質としては、例えばエストロゲン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ダイズエキス、イソフラボン、ヒオウギエキス、プエラリアミリフィカ根エキスなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質
細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質としては、例えば、好中球エラスターゼ(ELANE)阻害剤およびMMP阻害剤が挙げられる。
ELANE阻害剤としては例えば、シベレスタットナトリウム水和物(Monosodium N-{2-[4-(2,2-dimethylpropanoyloxy)-phenylsulfonylamino]benzoyl}aminoacetate tetrahydrate;エラスポールとも呼ばれる)、ONO-6818(2-(5-Amino-6-oxo-2-phenylhydropyrimidinyl)-N-[2-(5-tert-butyl-1,3,4-oxadiazol-2-yl)-1-(methylethyl)-2-oxoethyl]acetamide)、α1アンチトリプシン(α1-AT;A1AT)、デペレスタット(Depelestat;EPI-hNE4またはDX-890とも呼ばれる)、ニールワン(三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na)、シソ葉の発酵物(特開2006-61091号公報)、パセリの発酵物(特開2006-75085号公報)、ピーマンの発酵物(特開2006-76926号公報)を含有するエラスターゼ活性阻害剤が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
ELANE阻害剤は、ELANEに対する抗体、ELANEをコードする遺伝子に対するsiRNA、ELANEをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどであってもよい。MMP阻害剤としては例えば、マリマスタット(Marimastat)、バチマスタット(Batimastat)、PD166793、Ro32-3555、WAY170523、UK370106、TIMP1、TIMP2、TIMP3、TIMP4などを挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0033】
表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質
本発明者は、表皮幹細胞の維持は、COL17A1の発現および維持によって可能となり、表皮幹細胞の自己複製能力に基づくことを発見した。従って、本発明において表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質は、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、およびCOX阻害剤のほか、成長因子や植物抽出物などを挙げることができる。例えば、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、アスタキサンチン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスなどが挙げられる。
【0034】
これらの物質により、表皮幹細胞の自己複製能が維持又は促進される。生体内、または3次元培養表皮においては、十分量のCOL17A1を発現している表皮幹細胞が、周囲のCOL17A1を低発現する表皮幹細胞との間で競り合いながら、競合的に表皮内を占拠して増幅していく。したがって、COL17A1の発現に基づく自己複製能を「競合的自己複製能」と呼ぶ。表皮幹細胞の自己複製能は、例えば表皮幹細胞の競合的自己複製能が挙げられ、上記の物質を『表皮幹細胞の競合的増幅剤』と呼ぶことも出来る。
【0035】
細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質
また、本発明者は、COL17A1の発現が様々なストレスにより低下することを見出した。
本発明において、抑制の対象となるストレスは、ゲノムストレス(遺伝毒性ストレス)および酸化ストレスであり、ゲノムストレスには、紫外線、放射線ストレス、または抗がん剤によるDNA損傷ストレスなどの遺伝毒性ストレス、あるいは、細胞分裂に伴う複製ストレスがある。細胞の機能は、いずれもDNAに損傷をあたえるストレスや分子標的薬による自己複製シグナルの遮断により低下する。よって、当業者には、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を用いて、皮膚創傷治癒を促進、改善しうることが理解される。
【0036】
細胞におけるDNA損傷を抑制する物質
DNA損傷を抑制する物質としては、例えば、サルカンドラグラブラ(Sarcandra glabra)抽出物、サラカディベス(Saraca dives)抽出物、クドラニアプベセンス(Cudrania pubescens)抽出物、タキソディウムディスティチュム(Taxodium distichum)抽出物、ルビジアオクトバリス(Ludwigia octovalis)抽出物、ドイチャンタストンキネンシス(Deutzianthus tonkinensis)抽出物、アルコルネアトレビオイデス(Alchornea trewioides)抽出物、ベルケミアポリフィラ(Berchemia polyphylla)抽出物、グロチディオンプベルム(Glochidion puberum)抽出物、ササフラスツム(Sassafras tzumu)抽出物(特開2008-247854を参照)、キナ抽出物、コンフリー抽出物、コーヒーノキ抽出物、カッコン抽出物、ゴボウ抽出物、オウレン抽出物、クララ抽出物、クロレラ抽出物、ラベンダー抽出物、メマツヨイグサ抽出物、バラ抽出物、アマチャヅル抽出物、エンメイソウ抽出物、オドリコソウ抽出物、カロット抽出物、シナノキ抽出物、ジユ抽出物、ハス抽出物、茶抽出物、またはオクラ抽出物(WO2013/031003を参照)などを用いることができる。
【0037】
DNA損傷を抑制する物質のDNA損傷抑制能は、コメットアッセイ(COMET assay)やDNA損傷応答にて誘導されるDNAダメージフォーカスを検出するアッセイなどの当業者に公知の任意の方法を用いて評価することができる。なお、DNA損傷を抑制する物質として、DNA損傷修復を促進する物質を用いてもよい。DNA損傷修復を促進する剤としては、例えば、スギノリ(Gigartinatenella)抽出物(特開2006-273761を参照)、またはキナ抽出物(WO2013/031003を参照)などを用いることができる。DNA損傷修復を促進する剤のDNA損傷修復能は、宿主細胞回復法(Host-cell reactivation assay)などの当業者に公知の任意の方法を用いて評価することができる。細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質としては、例えば、抗酸化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、放射線防護剤、DNA損傷修復促進剤が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0038】
皮膚老化の抑制に用いるための組成物
本発明の実施形態の一つは、皮膚老化の抑制に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物に関する。
本発明の実施形態の一つは、特に、表皮老化の抑制に用いるための組成物でありうる。本発明の実施形態の一部は、特に、毛包を含む皮膚の老化の抑制に用いるための組成物でありうる。また、本発明の実施形態の一部は、特に、毛包を除く皮膚の老化の抑制に用いるための組成物でありうる。
【0039】
なお、皮膚老化の抑制に用いるための組成物は、前記「皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍もしくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための組成物」の項に記載した有効成分を含むものであり、以下、本明細書において組成物の有効成分は上記と同様に適用することができる。
【0040】
皮膚は、加齢に伴い個体を外界から隔てる役割や再生能力が低下する。皮膚の機能は、表皮の基底層に存在する表皮幹細胞とその正常分化によって維持されている。表皮幹細胞の子孫細胞が皮膚表面に対して垂直に接着して配列し一定以上の厚みをもった層を形成して正常角化することにより、皮膚の再生能力を保ちながらも、外界へのバリアとしてびらんや潰瘍を生じにくい強さを保持している。しかし、加齢によって、または様々なストレスによりそれらの役割が果たせなくなる変化として共通の特性を示すようになり、これらを総称して皮膚の老化と呼ぶ。
【0041】
老化に伴って、外観的には、皮膚のキメの細かさがなくなり、不均一となり、ちりめんジワや小じわを生じる。表皮のバリア機能が低下し乾燥しやすくなるほか、表皮、真皮および/または脂肪織が菲薄化または脆弱化し、これにより発赤、湿疹、ただれ、びらんや潰瘍を生じやすくなる。また、皮膚の色素の濃淡が目立つようになる。一般的には、真皮のコラーゲンの減少によるシワの生成、表皮や真皮、脂肪織の菲薄化(萎縮)、張りの低下や脆弱化を認めるほか、シミ、老人性色素斑または脱色素斑が、老化した皮膚の特徴としてよく知られている。本発明者は、マウスとヒトの老化皮膚での共通項として、組織学的に表皮の萎縮、色素細胞の減少、基底膜部のへミデスモソーム成分の減少または未熟化、とくにCOL17A1の低下やヘミデスモソームの減少、そして真皮上層の繊維芽細胞の消失、または皮膚の乾燥による縮緬ジワ、小ジワなどが見られ、真皮上層のPDGFRα間葉系細胞の減少も認めた。
【0042】
COL17A1を欠損すると皮膚が脆弱になることが知られているが、老人皮膚でシワやびらんがおこりやすく、また潰瘍がおこりやすいことが上記の知見により説明されうる。よって、当業者には、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を用いて、皮膚の老化を抑制しうることが理解される。
【0043】
本発明の実施形態の一つは、以下の皮膚老化に対して用いるための組成物である。
(a)表皮、真皮および/または脂肪織の菲薄化、脆弱化、萎縮または張りの低下
(b)表皮バリア機能低下または皮膚の乾燥
(c)基底膜部のヘミデスモソームの減少または未熟化
(d)真皮上層の繊維芽細胞の消失、または皮膚の乾燥による縮緬ジワもしくは小ジワ
(e)真皮のコラーゲン減少によるシワの生成
(f)シミ、老人性色素斑、または脱色素斑
本発明の実施形態の一つは、特に、シワの抑制に用いるための組成物である。
【0044】
本発明の実施形態の一つは、表皮幹細胞の再生能力または競合的自己複製能を維持するための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物に関する。本明細書の文脈において、皮膚老化は、表皮の菲薄化、バリア機能低下、乾燥、基底膜部の脆弱化、真皮のコラーゲン減少によるシワの生成、表皮、真皮および/もしくは脂肪織の菲薄化、萎縮、張りの低下、脆弱化、シミもしくは老人性色素斑のうち1または複数を伴う。表皮幹細胞は、表皮基底層に存在し、新しい表皮角化細胞を供給する幹細胞であり、肌の新陳代謝に重要な役割を果たし、肌表面を健やかな状態に保つ働きを有している。加齢や様々なゲノムストレス、酸化ストレス、分子標的による急激な自己複製シグナルの遮断によって表皮幹細胞が老化すると、表皮幹細胞の本来の自己複製能力が低下し、最終分化により失われやすくなる。
【0045】
上記のとおり、本発明者は、COL17A1媒介性の表皮幹細胞の増殖とリンクした表皮細胞競合動態によって皮膚のホメオスタシスが維持され、それによって皮膚器官の老化が制御されることを明らかにした。COL17A1の発現が高い表皮幹細胞は、再生能力が高いと言える。よって、当業者には、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を用いて、表皮幹細胞の再生能力を高めうることが理解される。表皮幹細胞の再生能力を高めて、新しい表皮角化細胞の供給を維持もしくは改善することにより、皮膚老化が抑制され、肌表面の状態が維持もしくは改善される。
【0046】
抗シワ用組成物
本発明の実施形態の一つは、抗シワに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物である。抗シワとしては、皮膚弾力性の改善、角層機能の改善、皮膚保湿能の改善、および皮膚バリア機能の改善からなる群より選ばれる少なくとも一つが挙げられる。
【0047】
皮膚弾力の改善
本発明において、皮膚弾力とは、柔軟性(柔らかさ)と弾力(伸びた皮膚が一定時間内にバネのように元に戻る程度)などの力学的な性質のことをいう。皮膚弾力は、肌年齢の一つの指標とされており、潤いがあり、弾力のあるバネのような肌は、「柔らかく」かつ「ハリがある」と感じられる。皮膚弾力性の低下には紫外線が影響すると考えられており、顔面をはじめとする紫外線に曝される露光部では弾力の低下が顕著にみられる。肌弾力は粘弾性ともいわれ、皮膚に力を加えて変形させたあと、皮膚が元の位置に戻るまでの過程を計測することで、CutometerMPA580(独Courage+Khazaka製、株式会社インテグラル)を用いて定量的に測定することができる。Cutometerは皮膚科学や香粧品科学の分野において一般的に用いられている機器であり、その原理は、直径2mmの穴の開いたプローブを用いて陰圧をかけて皮膚を吸引した後、陰圧を解除して皮膚の戻り具合を計測し粘弾性を測定するものである。解析には下記の値を用い、一般的に値が大きいほど弾力性に優れると考えられており、加齢に伴って減少する。
【0048】
Ur/Uf値(R7):最大伸長値(UfまたはR0)および緩和時の弾性伸びの高さ(Ur)を用いて示される弾力性の指標で、最大伸長に対する皮膚の瞬間的な戻り率を示す。
Ur/Ue(R5):緩和時の弾性伸びの高さ(Ur)およびプローブに吸い込まれた際の弾性伸びの高さ(Ue)を用いて示される弾力性の指標で、最大伸長に対する皮膚の瞬間的な戻り率を示し、正味の弾性と考えられる。
Ua/Uf(R2): 最大伸長値(Uf)およびUaを用いて示される弾力性の指標で、最大伸長に対する皮膚の瞬間的な戻り率を示し、総弾性とも呼ばれる。UaはUfとR1(最初の測定サイクル後の残存歪の高さ)の差である。
【0049】
角層機能の改善
角層機能の改善とは、皮膚に適用した際に、角質水分量を増やす又は保持する保湿能の向上、外界からの異物の侵入を抑制するバリア機能の向上であり、角質機能改善剤は、これらのいずれかの効果を発揮し得るものをいう。
【0050】
皮膚保湿能の改善
本発明において「保湿能」は角質水分量の保持をいい、角質水分量が多いほど保湿能に優れる。皮膚保湿能の改善剤は、これらの角質水分量を保持し得るものをいう。
【0051】
皮膚バリア機能の改善
また、「バリア機能」は、経皮水分蒸散の抑制をいい、経皮水分蒸散量(TEWL)が小さいほどバリア機能に優れる。
皮膚バリア機能は、体内から水分が蒸散したり、体外からの異物侵入を防ぐ働きをもち、紫外線照射によりその機能は低下する。一般に角層水分量やTEWL、表皮の厚さが皮膚バリア機能の指標とされ、紫外線による皮膚障害の程度を示す指標になる。皮膚バリア機能の改善剤は、水分蒸散防止及び体外からの異物侵入防止のいずれかの効果を発揮しうるものをいう。
【0052】
肌荒れの改善
肌荒れとは一般的に、キメが整ってうるおっている健康な肌に対して、肌表面からなめらかさが失われ、カサつきやトラブルがあらわれる状態をいう。肌が荒れた感じや赤み、凹凸ができるなどの表面的なトラブルをはじめ、痒みを伴う場合もある。肌荒れは皮膚バリア機能の低下と密接に関係することが知られている。このため、皮膚バリア機能の指標となるTEWLの測定により、定量的に肌荒れ症状を解析評価する方法が行われている。さらに、肌荒れに伴って角質層表面の粗さ(凹凸)が生じることから、皮膚のISO標準表面粗さパラメータである算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz)などの数値から肌荒れを定量的に解析することができる。皮膚表面の撮影は三次元高解像度撮影装置PRIMOS-CRを用いて行い、表面の解析は専用ソフトウェア(Primos OMC3_22)を用いて行うことができる。本発明者は、ヒトにおける化学物質による皮膚障害のスタンダードになる肌荒れモデルを用い、人工的に誘発した肌荒れに伴うTEWLの上昇の抑制、皮膚表面の粗さを改善することにより、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質が肌荒れを改善することを見出した。
【0053】
従って、本発明の実施形態の一つは、肌荒れの改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物を提供する。
肌荒れとしては、皮膚のなめらかさ、湿度、凹凸のない外観や手触りが失われた状態で、しばしば乾燥、痒み、発赤、びらんなどを伴う状態が挙げられ、本発明の組成物は、上記症状又は状態を改善することができる。
【0054】
抗シミ用組成物
シミとは、皮膚内で作られるメラニンという色素が沈着したものを意味する。紫外線を浴び続けることでできる「日光黒子」(老人性色素斑)が一般的であるが、その他に、雀卵斑(そばかす)、炎症後色素沈着、肝斑など、色素の均一性が崩れた状態を広く意味する。従って、「抗シミ」とは、色素の均一性を保持することを意味する。
本発明においては、抗シミに用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物を提供する。
【0055】
抗がん剤による皮膚障害の予防・改善剤
本発明の実施形態の一つは、抗がん剤治療に伴って生じる皮膚障害を予防または改善するための方法および組成物に関する。
【0056】
抗がん剤による治療の副作用として皮膚障害(皮膚毒性)が高頻度で出現する。皮膚の乾燥に加えて、手足症候群(手掌・足底発赤知覚不全症候群)、色素沈着、爪の変化、老化様の皮膚障害などが知られている。従来より用いられてきた代謝拮抗薬、アルキル化剤、プラチナ製剤によって、皮膚の乾燥、萎縮、脆弱性、バリア機能低下、色素異常、脱毛等が見られる。近年、がん細胞と正常細胞の違いに着目し、がん細胞に特異的に発現する分子を選択的に攻撃する分子標的薬が開発され、乳がんや肺がんなど様々ながんにおいて用いられ、従来の抗がん剤に代わりつつある。
【0057】
抗がん剤において共通して認められる皮膚障害(皮膚の乾燥、萎縮、手足症候群、色素異常、脱毛など)に加えて、分子標的薬(様々なマルチチロシンキナーゼ阻害剤、EGF受容体阻害剤など)による皮膚毒性によって紅斑丘疹、ざ瘡様皮疹、脂漏性皮膚炎、毛や爪の色素増強、爪囲炎、皮膚乾燥・亀裂、乾皮症、そう痒、強いひりつき感などが高頻度で見られる。また、新しい免疫療法薬(免疫チェックポイント阻害剤)においても皮膚障害の出現がみとめられる。これら分子標的薬による皮膚障害は安易に有害と見なされず、がん細胞と共通の分子を発現する皮膚細胞に対する薬理作用の表れ、あるいは抗がん剤の効果の指標としても評価されており、保湿剤等による対症療法を続けながら抗がん治療が継続される。しかし、患者にとって大きな精神的苦痛や負担をもたらし、自ら治療を断念してしまうケースも少なくない。また高度の皮膚障害により抗がん剤(化学療法や分子標的薬)投与中止に至るケースも多いが、適切な予防方法や局所での治療方法が存在しない。
【0058】
これまでに表皮幹細胞におけるCOL17A1発現の発現が多くの様々な抗がん剤によって変化することや、分子標的薬による発現低下やその抑制方法、抗がん剤との関係はこれまで不明で、皮膚に保湿剤やステロイド剤を塗布するなどの対症療法的な試行錯誤はなされているものの、がん治療に伴う皮膚障害を予防または改善する上で有効な方法は開発されていない。
【0059】
本発明においてはハイドロキシウレア等の抗がん剤のみならずEGF受容体阻害薬などの分子標的薬によっても、COL17A1の発現低下を来たし幹細胞の競合的自己複製能力が低下することを明らかにした。
そこで本発明は、抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に用いるための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物を提供する。
【0060】
本発明に係る皮膚障害の予防・改善剤は、実施形態の一つにおいて、細胞におけるCOL17A1の発現と自己複製能を維持する物質を有効成分として含有することを特徴とするものであってもよい。より具体的には、本発明に係る皮膚障害の予防・改善剤は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質として、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、および/またはCOX阻害剤を含みうる。さらに具体的には、本発明に係る皮膚障害の予防・改善剤は、細胞におけるCOL17A1の発現維持し自己複製能を維持する物質として、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、アスタキサンチン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスを含みうる。
【0061】
植物抽出物
本発明においては、各種植物抽出物を、前述した用途(下記)に使用することができる。
・皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍の予防・若しくは改善
・皮膚老化の抑制
・表皮幹細胞の再生能力を高める
・抗がん剤による皮膚障害の予防または改善
・抗シワ(皮膚弾力性の改善、角層機能の改善、皮膚保湿能の改善、および皮膚バリア機能の改善)
・抗シミ
さらに本発明においては、植物抽出物は、COL17A1促進剤、脱毛・白髪抑制剤として使用することもできる。
【0062】
本発明に用いられる植物抽出物の原料としては、ラフマ(Apocynum venetum)、桑(Morus alba)、ギムネマ(Gymnema sylvestre)、茶(Camellia sinensis)、マリアアザミ(Silybum marianum)、ビワ葉(Eriobotrya japonica)、黒ウコン(Kaempferia parviflora)、オタネニンジン(Panax ginseng)、アシュワガンダ(Indian ginseng)などが挙げられる。これらの植物の使用部位は、上記効果を得ることができる限りにおいて限定されるものではない。
【0063】
各植物抽出物の抽出方法は特に制限されず、当業者に周知の方法にしたがって行うことができる。抽出溶媒としては、水、アルコール系溶媒、およびアセトン、エステル類、多価アルコール類、エーテル類等の有機溶媒を用いることができる。よって、例えば、上記植物原料のエタノール抽出物、熱水抽出物、1,3-ブチレングリコール抽出物などが調製されうる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。抽出溶媒の量、抽出温度、抽出時間および抽出方法は、上記効果を発揮する本組成物を得ることができる限りにおいて限定されるものではない。
【0064】
抽出物は、得られた抽出液を濾過し得られた濾液そのもの、濾液を濃縮した濃縮液、濃縮液を乾燥して得られる乾燥物、これらの粗精製物又は精製物であってもよい。濃縮方法、乾燥方法は任意の方法で行うことができる。必要な場合にはデキストリンなどの賦形剤を入れてもよい。精製を行う場合は、合成吸着樹脂、活性炭、イオン交換樹脂、カラムクロマトグラフィー、再結晶など当業者に既知の手段に従って行うことができる。
また、本組成物は食品組成物、医薬品組成物、又は化粧品組成物としての形態をとり、特に食品組成物の場合、機能性表示食品、健康食品としての形態をとりうる。
【0065】
医薬組成物
本発明に係る組成物は、医薬組成物でありうる。本発明の実施形態の一つは、皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍若しくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための医薬組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0066】
本発明に係る医薬組成物は、急性皮膚創傷の治療、または慢性皮膚創傷の予防もしくは治療に使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、皮膚創傷治癒の促進、または皮膚潰瘍若しくは褥瘡の予防若しくは改善に用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0067】
また、本発明の実施形態の一つは、皮膚老化の抑制に用いるための医薬組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0068】
本発明に係る医薬組成物は、皮膚老化の進行を伴う疾患の皮膚症状の予防もしくは治療に使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、皮膚老化の抑制に用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
また、本発明の実施形態の一つは、表皮幹細胞の再生能力を高めるための医薬組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0069】
本発明に係る医薬組成物は、表皮幹細胞の再生能力の低下を伴う疾患の皮膚症状の予防もしくは治療に使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、表皮幹細胞の再生能力(自己複製能)を高めるための医薬、または再生医療製品(加工細胞、加工細胞シートなど)の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0070】
さらに、本発明の実施形態の一つは、表皮幹細胞の再生能力(自己複製ならびに維持)を損なう分子標的薬に抵抗する物質であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0071】
また、本発明の実施形態の一つは、抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に用いるための医薬成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0072】
本発明に係る医薬組成物は、抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、抗がん剤による皮膚障害の予防または改善に用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0073】
また、本発明の実施形態の一つは、抗シワに用いるための医薬成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0074】
本発明に係る医薬組成物は、抗シワに使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、抗シワに用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0075】
また、本発明の実施形態の一つは、肌荒れの改善に用いるための医薬成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0076】
本発明に係る医薬組成物は、肌荒れの改善に使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、肌荒れの改善に用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0077】
本発明に係る医薬組成物は、抗シミに使用することができる。別の言い方をすれば、本発明の実施形態の一つは、抗シミに用いるための医薬の製造における、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質の使用に関する。
【0078】
本発明に係る医薬組成物において、有効成分として働く物質としては、例えば、本明細書の他の部分に記載のようなROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、COX阻害剤、およびELANE阻害剤等、より具体的には、Y27632、アポシニン、およびシベレスタットなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0079】
本発明に係る医薬組成物は、錠剤、粉末、液体、半固体などの任意の形態をとることができる。本発明に係る医薬組成物は、皮膚を通して、あるいは皮膚病巣に直接加える局所治療に用いる塗布剤のような外用薬であってもよく、基剤に各種の主剤を配合して調製されうる。本発明に係る医薬組成物は、上記の有効成分に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤、添加剤、緩衝剤、等張調節のための塩類、抗酸化剤、保存剤、薬剤安定剤等を含みうる。賦形剤としては、例えば、水、精製水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、沈降シリカ、蜂蜜、コメデンプン、トラガントが挙げられるが、これらに限定はされない。また、本発明に係る医薬組成物には、他の活性成分が配合されていてもよい。各成分の配合量は、医薬として許容される範囲で適宜決定することができる。また、組成物の投与量は、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。例えば、有効成分は、0.01~15重量%、例えば、0.1~5重量%とすることもできる。
【0080】
投与経路についても、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。本発明に係る医薬組成物は、ドレッシング材のような創傷被覆材に含まれていてもよい。ドレッシング材は、湿潤環境を維持して創傷治癒に最適な環境を提供することのできる医療材料である。
【0081】
本発明の実施形態の一つは、哺乳動物における皮膚創傷治癒を促進するための方法、皮膚潰瘍若しくは褥瘡の予防若しくは改善するための方法、皮膚老化を抑制するための方法、表皮幹細胞の再生能力を高めるための方法、抗がん剤による皮膚障害を予防または改善するための方法、抗シワ方法、抗シミ方法、および/または肌荒れの改善方法に関する。
【0082】
このような方法は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する工程、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する工程、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する工程、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する工程を含みうる。本発明の実施形態の一つは、より具体的には、例えば、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、および/またはCOX阻害剤等を哺乳動物に投与することを含みうる。
【0083】
哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、ウマ、ウシ、ブタ、ミンク、キツネ、テン、タヌキ、チンチラ、ラッコ、カワウソ、ビーバー、アザラシなどが含まれる。投与量は、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる(前記と同様)。投与経路についても、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。好ましい投与経路としては、例えば、液剤、ローション剤、クリーム剤の皮膚への塗布または噴霧、あるいは、液剤の皮下注射、固形剤、液剤の経口投与を挙げることができる。本開示に係る組成物を含有する貼付剤を調製して皮膚に適用してもよい。
【0084】
色素異常予防改善剤
本発明の実施形態の一つは、老化した皮膚における色素異常を予防または改善するための方法および組成物に関する。このような方法は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する工程、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する工程、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する工程、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する工程を含みうる。また、このような組成物は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を含みうる。
【0085】
本発明の実施形態の一つは、皮膚の加齢変化による縮緬ジワや小じわ、乾燥やただれを予防または改善するための方法および組成物に関する。このような方法は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する工程、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する工程、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する工程、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する工程を含みうる。また、このような組成物は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を含みうる。
【0086】
幹細胞競合制御剤
本発明の実施形態の一つは、表皮幹細胞における細胞競合の制御に用いるための方法および組成物に関する。本発明者は、COL17A1が細胞競合に関与する重要な因子であることを見出した。よって、本発明に係る方法は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する工程、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する工程、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する工程、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する工程を含みうる。また、本発明に係る組成物は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、細胞におけるゲノムストレスもしくは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を含みうる。また、当業者には、COL17A1を阻害することにより、細胞競合を負に制御できることも理解される。
【0087】
美容サプリメントまたは機能性食品
本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現とそれに基づく競合的自己複製能を維持しうる物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を含有する美容サプリメント又は機能性食品に関する。本発明に係る美容サプリメントまたは機能性食品は、実施形態の一つにおいて、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質を有効成分として含有することを特徴とするものであってもよい。より具体的には、本発明に係る美容サプリメントまたは機能性食品は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質として、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、および/またはCOX阻害剤を含みうる。さらに具体的には、本発明に係る美容サプリメントまたは機能性食品は、細胞におけるCOL17A1の発現を維持し自己複製能を維持する物質として、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスを含みうる。
【0088】
本発明に係る美容サプリメントまたは機能性食品は、錠剤、粉末、半固体、ゼリーまたは液体などの任意の形態をとりうる。本発明に係る美容サプリメントは、皮膚抗老化剤、ビタミン剤、コラーゲンおよびミネラルのうちの少なくとも1つを更に含んでもよい。本発明に係る美容サプリメントまたは機能性食品は、例えば、1日1~3回、食前、食中、食後に経口摂取するものとして調製されうる。
【0089】
化粧品組成物
本発明の実施形態の一つは、化粧品組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現とそれに基づく競合的自己複製能を維持しうる物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および/または細胞におけるDNA損傷を抑制する物質を有効成分として含有することを特徴とする、化粧品組成物に関する。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質としては、本明細書の他所にも記載のとおり、例えば、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、およびCOX阻害剤などがあるが、これらに限定はされない。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質としては、例えば、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、アスタキサンチン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキスが使用されうる。
【0090】
実施形態の一つにおいて、本開示に係る化粧品組成物は、スキンケアに用いるための組成物である。実施形態の一つにおいて、本開示に係る化粧品組成物は、皮膚表面への適用のための組成物に関する。本組成物は、限定はされないが、溶液、懸濁液、ローション、クリーム、ゲル、化粧水、スティック、ペンシル、スプレー、エアゾール、軟膏、クレンジング洗剤液およびクレンジング棒状固形物、シャンプーおよびヘアコンディショナー、パスタ、フォーム、パウダー、ムース、髭剃りクリーム、ワイプ、ストリップ、パッチ、電動パッチ、創傷被覆材および粘着性包帯、ヒドロゲル、フィルム形成製品、顔および皮膚マスク(不溶性シートを有するおよび有さない)、ファンデーション、アイライナーおよびアイシャドウなどのメイクアップ用品などの様々な製品形態をとり得る。
【0091】
本開示に係る化粧品組成物は、0.01~15重量%、例えば、0.1~5重量%の細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質(Y27632、アポシニンなど)を含有してもよい。
【0092】
本開示に係る化粧品組成物は、皮膚抗老化剤、皮膚色調剤、抗炎症剤、日焼け止め剤のうちの少なくとも1つを更に含んでいてもよい。皮膚抗老化剤としては、例えば、抗老化作用を有するペプチド(WO2014157485A1)が挙げられるが、これに限定はされない。好適な皮膚色調剤としては、糖アミン、アルブチン、デオキシアルブチン、ヘキシルレゾルシノール、コウジ酸、ヘキサミジン化合物、サリチル酸、並びにプロピオン酸レチノールおよびプロピオン酸レチニルを含むレチノイドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
好適な抗炎症剤としては、非ステロイド系抗炎症剤(イブプロフェン、ナプロキセンなどのNSAIDS)、グリチルリチン酸(グリチルレチン酸グリコシドとしても既知である)、およびグリチルリチン酸ジカリウムなどの塩、グリシルレテン酸(glycyrrhetenic acid)、甘草抽出物、ビサボロール(例えば、アルファビサボロール)、マンジスタ(アカネ属の植物、特にインドアカネ(Rubia cordifolia)から抽出される)、およびガッグル(guggal)(コンミフォラ属の植物、特にグッグル(Commiphora mukul)から抽出される)、コーラノキ抽出物、カミツレ、ムラサキツメクサ抽出物、およびムチサンゴ抽出物(ヤギ目の植物からの抽出物)、上記のいずれかの誘導体、およびこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0094】
好適な日焼け止め剤は、2-エチルヘキシル-p-メトキシシンナメート、4,4'-t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、オクチルジメチル-p-アミノ安息香酸、ジガロイルトリオレエート、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、エチル-4-(ビス(ヒドロキシプロピル)アミノベンゾエート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシルサリチレート、グリセリル-p-アミノベンゾエート、3,3,5-トリ-メチルシクロヘキシルサリチレート、アントラニル酸メチル、p-ジメチル-アミノ安息香酸またはアミノベンゾエート、2-エチルヘキシル-p-ジメチルアミノベンゾエート、2-フェニルベンゾイミダゾール-5-スルホン酸、2-(p-ジメチルアミノフェニル)-5-スルホンベンゾオキサゾイン酸、オクトクリレン、酸化亜鉛、ベンジリデンカンファーおよびその誘導体、二酸化チタン、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0095】
本開示に係る化粧品組成物は、化粧品分野において従来から使用され、本開示に係る組成物の特性には影響を及ぼさない、少なくとも一種の添加剤、例えば、増粘剤、香料、真珠光沢剤、保存料、日焼け防止剤、陰イオンもしくは非イオンもしくは陽イオンあるいは両性ポリマー、タンパク質、タンパク質加水分解物、例えば18-メチルエイコサン酸、ビタミン、パンテノール、シリコン、植物油、動物油、鉱物油または合成油等の脂肪酸、ゲル化剤、酸化防止剤、溶媒、フィルター、スクリーニング剤、臭気吸収剤、着色料、研磨剤、吸収剤、芳香剤などの美容成分、色素、顔料/着色剤、精油、アンチケーキング剤、消泡剤、抗菌剤、結合剤、生物学的添加剤、緩衝剤、充填剤、キレート化剤、化学添加剤、美容収斂剤、美容殺生物剤、変性剤、薬物収斂剤、皮膚軟化剤、外用鎮痛剤、フィルム形成剤または材料、乳白剤、pH調整剤、保存剤、噴霧剤、還元剤、捕捉剤、皮膚冷却剤、皮膚保護剤、増粘剤粘度調節剤、ビタミン、およびこれらの組み合わせも含んでもよい。これらの添加剤は、組成物の総重量に関し、限定されないが、好ましくはまたは有利には0から50重量%、5から40重量%または30から50重量%の範囲に収まる割合で、本開示に係る組成物中に存在し得る。
【0096】
本開示に係る化粧品組成物は、皮膚への局所適用のために、特に、水性または油性溶液、ローションまたはセラム型の分散物、水相中への脂肪相の分散(O/W)またはその逆(W/O)によって得られる、ミルク型の液体または半液体の稠度を有する乳液、水性もしくは無水ゲルまたはクリーム型の軟稠度を有する懸濁液または乳液、他にはマイクロカプセルもしくは微粒子、イオンおよび/または非イオン型の小胞分散物、或いは泡状の形態を有し得る。これらの組成物は、通常の方法に従って調製される。組成物は、5から99.5%の間の水相を有することが好ましい。
【0097】
本開示に係る化粧品組成物のpHは、限定されないが、一般的には2から12の間であり、好ましくは3から9の間である。pHは、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミンもしくは1,3-プロパンジアミン等の第1級、第2級もしくは第3級(ポリ)アミンの塩基(有機または無機)を組成物に添加することにより、またはリジンもしくはアルギニンのような塩基性アミノ酸もしくはポリアミノ酸を伴って、あるいは、無機酸もしくは有機酸、好ましくは、例えばクエン酸等のカルボン酸を添加することにより、目標値に調製され得る。
【0098】
本開示に係る化粧品組成物は、特に、顔、手、足、主要な身体構造上のひだもしくは体を、洗う、保護する、処理するもしくはケアするためのクリーム(例えば、デイクリーム、ナイトクリーム、アンチエイジングクリーム、保湿クリーム、メイクアップ除去用クリーム、ファンデーションクリーム、またはサンクリーム)、リキッドファンデーション、メイクアップ除去用ミルク、保護用もしくはケア用ボディミルク、サンミルク、ローション、皮膚をケアするためのゲルまたはフォーム、例えばクレンジングローション、サンローション、人工日焼けローション、入浴用組成物、殺菌剤を含む脱臭組成物、アフターシェーブゲルまたはローション、脱毛クリーム、虫刺されに対応するための組成物を構成する。
【0099】
本開示に係る化粧品組成物は、処置期間中、少なくとも1日1回、1日2回、または1日により頻繁に適用され得る。1日2回適用する場合、1回目と2回目の適用には、例えば、少なくとも1~12時間の間隔をあける。典型的には、組成物は、朝および/または就寝前の夜に適用され得る。
【0100】
スクリーニング方法
皮膚創傷治癒の促進もしくは皮膚潰瘍の予防もしくは改善に有効な物質、皮膚老化の抑制に有効な物質、細胞競合の制御、表皮幹細胞の再生能力の改善(向上、増強)、抗がん剤による皮膚障害の予防もしくは改善、抗シワ、抗シミ、および/または肌荒れの改善に有効な物質をスクリーニングするための方法に関する。ここで、皮膚老化の抑制は、皮膚の付属器である毛包の老化の抑制であってもよい。このようなスクリーニング方法は、以下の工程i~iiiを含みうる:
i)in vitroで細胞と試験物質とを接触させる工程、
ii)細胞におけるCOL17A1の発現を測定する工程、および
iii)該試験物質がCOL17A1の発現を上昇させるか否かを決定する工程。
ここで、COL17A1の発現の測定は、当業者に公知の任意の方法を用いて行うことができる。上記のスクリーニング方法によって同定された物質は、本発明に係る、皮膚創傷治癒の促進に用いるための成分、皮膚老化の抑制に用いるための成分、細胞競合の制御に用いるための成分、表皮幹細胞の再生能力を高めるための成分、抗がん剤による皮膚障害を予防もしくは改善するための成分、抗シワ成分、抗シミ成分、および/または肌荒れの改善のための成分として有用である。また、本発明に係る、哺乳動物における皮膚創傷治癒を促進するための方法、皮膚老化を抑制するための方法、表皮幹細胞の再生能力を高めるための方法、抗がん剤による皮膚障害を予防もしくは改善するための方法、抗シワ方法、抗シミ方法、および/または肌荒れの改善の方法において、該哺乳動物に投与する物質としても有用である。
【0101】
上記のスクリーニング方法は、試験物質がコロニー形成を促進するか否かを決定する工程をさらに含んでいてもよい。COL17A1の発現評価とコロニー形成アッセイを組み合わせることによって、COL17A1-の継続的発現を維持するによる自己複製能維持剤を評価することにより、“幹細胞競合を介する幹細胞増幅”を促す剤がスクリーニングされうる。すなわち、実施態様の一つにおいて、スクリーニング方法は、以下の工程i~ivを含みうる:
i)in vitroで細胞と試験物質とを接触させる工程、
ii)細胞におけるCOL17A1の発現を測定する工程、
iii)該試験物質がCOL17A1の発現を上昇させるか否かを決定する工程、および
iv)該試験物質がコロニー形成を促進するか否かを決定する工程。
【0102】
皮膚老化の評価方法および評価キット
本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、皮膚老化の評価方法に関する。本発明者は、老化した表皮細胞においてCOL17A1の発現が低下していることを見出した。よって、COL17A1を皮膚老化の評価用マーカーとして用いることが可能であり、表皮細胞におけるCOL17A1の発現を測定することにより、皮膚の老化を評価することができる。表皮細胞におけるCOL17A1の発現の測定は、COL17A1に対する抗体(抗COL17A1抗体)を用いたウェスタンブロッティングや抗体染色、COL17A1をコードする遺伝子のRT-PCRによるmRNAの測定など、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。測定結果を、対照と比較することにより、あるいは経時的に比較することにより、皮膚の老化を評価することができる。例えば、比較の結果、COL17A1の発現量が低下している場合には、皮膚老化が進行していると判断される。
【0103】
また、本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、皮膚老化の評価方法に用いるためのキットに関する。本キットは、例えば、COL17A1を特異的に認識する抗体を含む。このような抗体は直接標識されたものであっても、あるいは標識された二次抗体によって認識されるものであっても良い。標識は例えば、酵素活性による発色や化学発光に基づくものであり得る。また、本キットは、例えば、COL17A1の転写産物を検出するためのオリゴヌクレオチド(プローブ、プライマー)を含んでいてもよい。そのようなオリゴヌクレオチドは、転写産物とのハイブリダイゼーションによる検出や、PCRなどの増幅反応において利用することができる。よって、本発明の実施形態の一つは、COL17A1を検出するための抗体(抗COL17A1抗体)、COL17A1をコードする遺伝子に対するプローブまたはプライマーを含む、皮膚老化の評価方法に用いるためのキットに関する。さらに、本キットには、p16Ink4aなどの他のマーカータンパク質の発現量を測定するための成分(抗体、プローブ、プライマーなど)を含んでいてもよい。
【0104】
表皮幹細胞の評価方法および評価キット
本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の評価方法に関する。本発明者は、表皮幹細胞の増殖能とCOL17A1の発現量に相関があることを見出した。よって、COL17A1を表皮幹細胞の評価用マーカーとして用いることが可能であり、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現を測定することにより、表皮幹細胞を評価することができる。COL17A1を高レベルに発現している表皮幹細胞は、増殖能が高いため、培養に用いるのに適した細胞であると評価することができる。表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現の測定は、抗COL17A1抗体を用いたウェスタンブロッティング、抗体染色、ELISA、FACSなど、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。また、本発明者は、老化した表皮幹細胞においてCOL17A1の発現が低下していることを見出した。よって、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現量を測定することにより、表皮幹細胞の老化について評価することができる。なお、表皮幹細胞の老化とは、加齢ならびに、様々なゲノムストレス、酸化ストレスによって表皮幹細胞の本来の自己複製能力が低下し、最終分化によって失われやすくなる現象を指す。例えば、標準として設定された値との比較の結果、COL17A1の発現量が高いとみなされる場合には、培養や再生医療製品に用いるのに適した細胞であると判断される。
【0105】
また、本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の評価方法に用いるためのキットに関する。本キットは、例えば、COL17A1を特異的に認識する抗体、COL17A1をコードする遺伝子に対するプローブ、またはCOL17A1をコードする遺伝子の増幅用プライマーを含むことができる。よって、本発明の実施形態の一つは、COL17A1を検出するための抗体、プローブまたはプライマーを含む、表皮幹細胞の評価方法に用いるためのキットに関する。
【0106】
表皮幹細胞の選別方法および選別キット
本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の選別方法に関する。本発明者は、表皮幹細胞の増殖能とCOL17A1の発現量に相関があることを見出した。COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞は、増殖能が高いため、培養に用いるのに適した細胞であると言える。よって、COL17A1を表皮幹細胞の増殖能の評価用マーカーとして用いることが可能であり、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現を測定し、COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞を選別することは、その後、培養や移植を行う際に有益となりうる。COL17A1を高発現する細胞の選別は、当業者に公知の任意の方法、例えば、FACSを用いた手法により行うことができる。
【0107】
また、本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1の発現を指標とする、表皮幹細胞の選別方法に用いるためのキットに関する。本キットは、例えば、前記と同様に、COL17A1を特異的に認識する抗体、プローブまたはプライマーを含むことができる。よって、本発明の実施形態の一つは、COL17A1を検出するための抗体、プローブまたはプライマーを含む、表皮幹細胞の選別方法に用いるためのキットに関する。
【0108】
表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法および評価キット
本発明の実施形態の一つは、COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞を選別する工程を含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法にも関する。COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞は、増殖能が高いため、そのような細胞を選別することにより、効率的に表皮幹細胞および/または表皮細胞を増幅することができる。COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞は、発現量が老化の進んだ細胞における発現と比較して量的に高いことを意味する。例えば、FACSを用いた手法や、ビーズを用いた手法により単離することができる。このような増幅方法を用いて、ex vivoで細胞シートが作製されうる。
【0109】
また、本発明の実施形態の一つは、COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞を選別する工程を含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法に用いるためのキットに関する。本キットは、例えば、前記と同様にCOL17A1を特異的に認識する抗体、プローブまたはプライマーを含むことができる。よって、本発明の実施形態の一つは、COL17A1を検出するための抗体、プローブまたはプライマーを含む、表皮幹細胞および/または表皮細胞の増幅方法に用いるためのキットに関する。
【0110】
細胞競合の評価方法および評価キット
本発明の実施形態の一つは、細胞におけるCOL17A1などの細胞競合に関わる分子の発現を修飾する分子の発現量を一部の細胞において変化させ、細胞競合に関わる分子や、その細胞競合を促進したり減弱させるなどの変化をきたす物質、競合の効率や速度を変化させる物質の評価方法に関する。本発明者は、表皮幹細胞の細胞競合にCOL17A1の発現量が相関することを見出した。COL17A1の発現量の高い表皮幹細胞は、細胞競合上、有利となる。また、細胞競合の評価は、ケラチノサイト(培養角化細胞、角化細胞株のHaCat細胞やPam212細胞を含む)などの重層扁平上皮を形成する上皮細胞の3次元培養を用いて行うことができる。COL17A1の発現量の高い細胞は、当該細胞と比較してCOL17A1の発現量が低い細胞よりも優位に細胞増殖するため、細胞競合能が高いと評価することができる。
【0111】
また本発明においては、角化細胞の3次元培養で細胞競合を評価し、これを制御する化合物や抽出物、核酸などの探索を行うことができる。よって、本発明の実施形態の一つは、ケラチノサイトにおける細胞競合の評価方法に関し、特に、角化細胞(株)の3次元培養における細胞競合を指標とする、細胞競合を制御する物質のスクリーニング方法にも関する。
【0112】
また、本発明の実施形態の一つは、角化細胞(ケラチノサイト)における細胞競合の評価方法に用いるためのキットに関する。本キットは、例えば、COL17A1などの細胞競合関連分子や癌関連遺伝子の発現を変化させる核酸、例えばRNA干渉に用いるための核酸(COL17A1をコードする遺伝子に対するsiRNA、shRNA等)のほか、遺伝子導入試薬、レンチウイルスやレトロウイルス、COL17A1を特異的に認識する抗体など免疫染色に用いる抗体、3次元培養用のデバイスを含むことができる。よって、本発明の実施形態の一つは、角化細胞における細胞競合の評価に関わる細胞株、ウイルス、抗体、デバイスを含む、細胞競合の評価方法に用いるためのキットに関する。また、本キットは、3次元培養を行うための角化細胞株(例えば、HaCaT細胞)を含んでいてもよい。
【0113】
細胞組成物
本発明の実施形態の一つは、単離された、COL17A1を発現する細胞を含む、細胞組成物(細胞集団)に関する。COL17A1を発現する細胞の単離は、当業者に公知の任意の方法、例えば、FACSやビーズを用いた手法により行うことができる。また、本発明の細胞組成物には、上皮シートやオルガノイドなど3次元構造を持つものが含まれていてもよい。
【0114】
本細胞組成物中の細胞は、COL17A1を高レベルに発現していることが望ましい。従って、本発明の細胞組成物は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質を用いて処理されたものを含む。COL17A1を高レベルに発現している細胞(COL17A1highの細胞)は例えば、FACSを用いて単離することができる。ここで、発現レベルをあらわす「high」または「hi」という用語は当技術分野において周知であり、「COL17A1high」は、分析対象とされる細胞集団の中での比較で、COL17A1の発現量が高いレベルであることをあらわす。本開示の文脈では、「high」または「hi」は対象とされる細胞集団の中で、発現量が上位50%以内、例えば、3%、5%、10%、15%、20%、30%、または40%以内をあらわすとみなされうる。なお、本細胞組成物中の細胞は、例えば、表皮角化細胞または粘膜上皮角化細胞でありうるが、他の細胞が含まれていてもよい。本細胞組成物中の細胞は、例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の細胞がCOL17A1を発現する細胞でありうる。本細胞組成物には、少なくとも1×103個、1×104個、1×105個、1×106個、1×107個、または1×108個の細胞が含まれうる。
【0115】
本細胞組成物は、移植に用いるための細胞組成物でありうる。本細胞組成物は、皮膚の疾患または傷害の治療に用いるための細胞組成物でありうる。本細胞組成物中の細胞は、幹細胞由来の細胞でありうる。本細胞組成物中の細胞は、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質を用いて、COL17A1の発現が誘導または維持された細胞であってもよい。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質は、ROCK阻害剤、NADPHオキシダーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、およびCOX阻害剤のうちの少なくとも1つでありうる。細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質は、Y27632またはアポシニンであってもよい。
【0116】
本細胞組成物中の細胞は、凍結されていてもよい。本細胞組成物は1つの容器に収められていてもよい。
【0117】
細胞シート
本発明の実施形態の一つは、COL17A1を発現する細胞を含む細胞シートに関する。このような細胞シートは、COL17A1を発現する細胞を単離し、培養することによって、作製されうる。このような細胞シートは、患者の疾患または傷害の治療に用いるために、患者に移植することができる。細胞シートは、自家移植用または他家移植用でありうる。
【0118】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例0119】
実施例1:加齢に伴う皮膚でのCOL17A1タンパク質発現の低下
マウスの尾部の皮膚は、背部の皮膚とは異なり、層状化した表皮細胞層、表皮メラノサイトのヒト表皮の組織学的分析において観察されるように、老化したマウスの尾部皮膚も、鱗状の表皮における有棘細胞層の数の減少を伴う萎縮を特徴とする。若いマウスの基底層細胞は、基底膜に対して長方形で縦長の形状を有するが、老化した基底層細胞は、より丸みを帯びた形態または、より平坦な形態を有する。老化した皮膚では、基底層細胞の総数ならびにMCM2非休止期基底細胞の有意な減少が見られ、表皮中の幹細胞およびそれらの細胞分裂が加齢によって減少することが示されている。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた表皮基底層細胞と表皮-真皮接合部の超微細構造解析により、基底細胞層を基底板に固定している電子密度の高い領域(hemidesmosome;HD)の数が加齢により有意に減少することが明らかになった。また、老化した尾部皮膚の透明帯(lamina lucida;LL)では基底層細胞からの細胞剥離が頻繁にみられ、基底細胞層からの老化によるHDの減少と関連している。
【0120】
したがって、本発明者はHD成分が皮膚老化プロセスに直接関与しているとの仮説を立てた。これを検証するために、若年マウスおよび高(週)齢マウスの尾部表皮において、種々のHD成分および主要な細胞接着分子であるインテグリンβ1(ITGB1)の発現を分析した。結果として、COL17A1の免疫染色レベルは老化によって有意に減少することが明らかとなった(図1)。これに一致して、高齢皮膚の真皮-表皮接合部のLLにおけるCOL17A1のシグナルが有意に低下していることが免疫電子顕微鏡分析からも明らかになった。また、全身の免疫染色により、高齢皮膚におけるCOL17A1およびITGA6の不均質な分布が明らかになった。特に、ITGA6を発現するCOL17A1陰性細胞領域が、高齢の尾部表皮の二重陰性細胞領域に加えて見出された。これは、COL17A1タンパク質の発現が最も不安定であり、結果として、COL17A1が不十分であると、加齢に伴って他のHD成分も最終的に不安定化することを示している。
【0121】
HD成分の安定性におけるCOL17A1の役割を調べるために、若齢と高齢のマウス皮膚でのHDの数を分析した(図2)。さらに、COL17A1のタンパク質分解は、マウスにおけるX線照射や、TTD早老症マウスにおけるゲノム不安定性などの持続的DNA損傷応答によっても誘導される。同様に、紫外光(UV)照射により、in vitroおよびin vivoでいくつかの基底層ケラチノサイトにおけるCOL17A1発現のダウンレギュレーションも示される。結果として、皮膚のUV照射はHDの不安定化を引き起こした。これらのデータはあわせて、COL17A1が「幹細胞チェックポイント分子」としてDNA損傷応答をモニターするストレス/適合性センサーとして機能し、幹細胞が自己複製または分化するか否かを決定していることを示唆している。このストレス感知メカニズムは、老化した表皮基底層中に存在するCOL17A1発現レベルの異なる表皮幹細胞クローンの自己複製能力に違いを生じさせうる。
【0122】
実施例2:皮膚老化過程におけるCOL17A1 表皮幹細胞のクローン性の増殖
加齢に伴って現れる表皮幹細胞クローンの動態を可視化し、COL17A1欠損クローンの運命を追跡するために、K14-CreERT2; R26R Brainbow 2.1マウスを用いた薬剤誘導性マルチカラー標識による基底層ケラチノサイト系譜トレース系を生成した。この系は、Cre-LoxP媒介組換えによる基底幹/前駆細胞の確率論的なマルチカラー標識を可能とする。タモキシフェン(TAM)投与後、GFP、RFP、YFPまたはCFP発現細胞が、若年(4.5ヶ月)の尾部皮膚において確率論的に見出された。対照的に、単一色のケラチノサイトクローン領域が、クローンの総数の減少を伴って、加齢により有意に増加し(図3)、これは、一部の幹細胞が生理学的老化の間に他の多くの細胞を犠牲にしてクローン増殖することを示している。
【0123】
次に、COL17A1の発現レベルの異なる基底細胞の不均一性が、加齢中の基底層における幹細胞の競合を誘導する可能性を試験するために、若年(11ヶ月齢)および老齢(28ヶ月齢)マウスの尾部毛包間表皮(IFE)において、マルチカラー標識幹細胞クローンによるCOL17A1の発現レベルを観察した。図4に示されるように、老化した皮膚では、幹細胞クローンを表す単色の基底層細胞におけるCOL17A1発現が一般に減少しているが、若いマウスの基底層細胞におけるCOL17A1の発現は、各クローンにおいてCOL17A1発現レベルが異なり、一般に老化に伴って減少していた。基底層ケラチノサイトのクローンサイズとCOL17A1発現レベルとの詳細な比較から、基底層細胞のクローンサイズは、高齢マウス皮膚におけるCOL17A1の発現レベルと正の相関があることが明らかになった(図5)。これは、より高レベルのCOL17A1発現を維持する幹細胞クローンが、より高いクローン原性を呈し、生理学的な老化プロセスの間に表皮基底層において支配的となることを示している。さらに、高齢皮膚の基底層細胞において、アポトーシス細胞死またはいわゆる“細胞老化”した細胞の有意な誘導は見られなかった。これらのデータは、COL17A1high表皮幹細胞が、COL17A1low細胞と競合して、表皮老化に耐えていることを示唆している。
【0124】
実施例3:表皮幹細胞の競合を引き起こすCOL17A1の差次的発現
COL17A1low/-クローンの出現が、in vivoにおいて隣接する周囲のCOL17A1highクローンとの細胞競合を直接的に引き起こすかどうかを調べるために、本発明者は、基底層ケラチノサイトに特異的なマルチカラー標識系と組み合わせた薬物誘導性Col17a1遺伝子ノックアウト(cKO)マウスを作製した。低用量のTAM投与を用いたCOL17A1欠損の稀な誘導によって、ノックアウト誘導後の2日目に尾部の表皮に単色標識Col17a1欠損ケラチノサイトクローンが見られた。対照マウスでは、これらのクローンは14日目でサイズが増加し、その後、28日目で単色のカラム(基底クローン)を形成していた。対照的に、多くのCol17a1欠損基底層ケラチノサイトクローンは、高レベルのCOL17A1発現を有する非標識基底層ケラチノサイトクローンに囲まれ、14日目あたりで剥離し、28日目までに敗者(loser)細胞クローン(浮遊クローン)となった(図6)。これに一致して、マウス尾部のホールマウント解析は、Col17a1欠損細胞クローンの皮膚からの顕著な排除を明らかにした。これらのデータは、COL17A1を発現する表皮幹細胞がニッチ内のCOL17A1欠損表皮幹細胞と競合し、COL17A1が表皮における細胞競合メカニズムを介して皮膚のホメオスタシスと老化過程を媒介していることを示している。
【0125】
COL17A1の発現差が表皮における細胞競合を直接媒介しているかどうかをさらに調べるために、3D培養したHaCaTヒトケラチノサイトにおいて短鎖ヘアピン(sh)RNAを発現させることにより、新規のin vitro細胞競合アッセイ系を確立した。shCOL17A1を発現するEmGFPCOL17A1安定HaCaT細胞ならびに、shScrambleを発現する対照のEmGFPCOL17A1のHaCaT細胞を作製し、3D培養系で培養した。shScrambleとshCOL17A1発現HaCaT細胞はいずれも、3次元培養表皮における構造、層別化、増殖数またはアポトーシス細胞において明らかな違いを示さなかった。一方、COL17A1EmGFP細胞と野生型(COL17A1)細胞との1:10の比での共培養は、shCOL17A1発現細胞を有意に排除した。しかし、COL17A1発現細胞の有意な排除は、1:3の比では検出されなかった。これらのデータは、Col17a1欠損基底層細胞が、十分な数の周囲の野生型細胞によって、敗者細胞として基底層から排除されることを示している。まとめると、これらのデータは、ヒト表皮の生理学的な加齢プロセスにおいてCOL17A1媒介性の細胞競合が起こっている、表皮幹細胞が発現するCOL17A1が近隣の表皮幹細胞集団との間において競合的自己複製能を付与したことを示唆している。
【0126】
実施例4:COL17A1媒介SCDによる表皮ホメオスタシスの維持
COL17A1媒介性の細胞競合メカニズムを理解するために、本発明者は、COL17A1がCOL17A1表皮幹細胞のクローン増殖を理論的に維持するSCDを促進すると仮定した。この仮説を試験するために、in vivoで基底層細胞の分裂軸を分析した。正常な基底層細胞は、ほとんどが基底膜に対して平行な細胞分裂を示したが、Col17a1欠損基底層ケラチノサイトは、垂直な細胞分裂を異常に誘導し、基底層細胞と基底層の上に位置する子孫層とを生成した。これは、COL17A1がSCDを媒介することを示し、COL17A1媒介SCDが、HDの喪失または減少したCol17a1欠損基底層細胞を押しやり、基底膜から分離させることを示唆している。実際、Col17a1欠損ケラチノサイトは最終的に、基底層IFEから剥離する。
【0127】
したがって、これらのデータは、COL17A1勝者(winner)細胞のクローン増殖を促進するCOL17A1依存的SCDが、加齢過程において細胞競合を引き起こすことを示している。重要なことに、老化した表皮の基底層細胞は、垂直な細胞分裂の割合が増加しており、COL17A1の発現レベルがしばしば低下していた。これは、最終的に高齢の皮膚領域においてCOL17A1発現の喪失を伴う細胞分裂障害による表皮萎縮(菲薄化)を引き起こす。際だって対照的なことに、基底層細胞がCOL17A1発現を維持しているCOL17A1トランスジェニック(tg)マウスの表皮基底層細胞は、基底膜に対して水平方向の細胞分裂を維持していた。これらのデータは、COL17A1媒介性のSCDが、細胞競合の機械的な駆動力を生成し、成人の表皮における細胞の水平方向への広がりと基底膜領域の占有による結果として、競合的自己複製現象を介して表皮の老化に耐えていることを示している。
【0128】
なお、造血幹細胞において特定の幹細胞クローンの増幅が優位におこり他の幹細胞クローンが消えていく現象が知られ、幹細胞の自己複製が競合的におこる現象(競合的自己複製)が知られている。これに関わる分子も明らかにされつつある。しかし、表皮において生理的な条件下における『競合的自己複製』の実態については知られておらず、これを担う分子についても明らかにされていなかった。
【0129】
COL17A1が媒介するSCDが、表皮幹細胞クローンのクローン増殖を維持するかどうかを試験するために、尾部表皮における細胞を含む上皮幹細胞の自己再生能を評価するためのゴールドスタンダードと言えるin vitroアッセイである、コロニー形成アッセイを使用した。低レベルのCOL17A1を発現する老化した表皮ケラチノサイトは、コロニー形成能が低下し、より若年の尾のケラチノサイトと比較して、より小さなコロニーを生成した(図7)。対照的に、マウスの基底層ケラチノサイトにおけるhCOL17A1の強制発現は、対照マウスよりも有意に大きなコロニーサイズと数で、表皮幹細胞のクローン形成能を促進した(図8)。
【0130】
これらのデータは、COL17A1が表皮幹細胞の増殖能力を介してクローン増殖を媒介することを示している。これと一致して、tgマウスにおけるCOL17A1の発現は、加齢に関連する表皮の菲薄化と、加齢に関連する剥離を有意にレスキューした。まとめると、コロニーアッセイにおける対称性細胞分裂(SCD)を継続的に行う表皮幹細胞のCOL17A1依存性の増殖能力は、表皮のホメオスタシスおよび加齢中の細胞競合におけるCOL17A1high幹細胞クローンのより高い適合性を説明し、競合的自己複製能を持つと言える。
【0131】
実施例5:COL17A1発現表皮幹細胞によるヘテロタイプな細胞系譜の維持
皮膚老化は、表皮の老化だけでなく、メラニン細胞関連の色素沈着異常および真皮の変化によっても特徴付けられる。皮膚老化における表皮幹細胞老化の機能的意義を研究するために、生理的老化が、尾の表皮における表皮色素沈着異常を誘導するか否かを評価した。生理的老化は徐々に皮膚色素沈着異常(低い色素沈着と高い色素沈着の領域を伴う不均一な皮膚色素沈着)を誘発し、最終的に、尾部皮膚に低色素沈着を誘導することが観察された。尾のホールマウントの詳細な顕微鏡観察により、色素沈着パターンが加齢に伴って不均一になることがわかった。表皮におけるメラノサイト系細胞の分布を視覚化するために、本発明者はDopachrome tautomerase(Dct)プロモーター制御ヒストン-H2B GFP(Dct-H2B GFP)tgマウスの尾部皮膚を分析した。切片およびホールマウント解析では、若年マウスの尾部においてH2B GFP表皮メラノブラスト/メラノサイトが観察されたが、これらの細胞は老化した尾の表皮では年齢依存的に消失することが示された。これに一致して、若年および老化した全表皮細胞のマイクロアレイ分析は、メラノサイト遺伝子を老化中の上位の主要変化としてランク付けした。重要なことに、12ヶ月齢の尾の基底層領域には、高度に色素沈着したメラノサイトが観察され、これらの細胞は時折、基底層上部領域に存在しており、それらが基底層から剥離して皮膚から排除されていることを示唆している。
【0132】
次に、表皮角化細胞の幹細胞老化によって表皮メラノサイトの変化が誘導されるかどうかを調べるために、表皮基底層細胞のCol17a1および/またはItga6欠損によるHD成分の消失が、早期に皮膚色素沈着異常を誘導するかどうかを検討した。経時的分析は、Col17a1欠損がHD不安定性を誘発することにより、比較的軽度の色素沈着異常を誘導し、Col17a1およびItga6遺伝子が相乗的に顕著な色素沈着異常を誘発することを明らかにした。実際、Dct-H2B GFPでタグ付けした表皮メラノサイトは、Col17a1またはItga6遺伝子を欠損させると、皮膚から枯渇した。
【0133】
慢性的なUVB照射は、マウスおよびヒトの表皮における皮膚色素沈着異常ならびにHD損傷を誘発する。本発明者は次に、慢性的なUVB曝露が、皮膚色素沈着異常およびHD損傷、ならびに尾部表皮におけるその関連表現型を誘導するかどうかを検討した(図9)。UVB照射の繰り返しにより誘発される皮膚の色素沈着過剰に続き、表皮色素沈着異常が、Col17a1またはITGA6 cKOマウスと同様に、最終のUVB照射の後1ヶ月以内に誘導された。TEMおよび免疫TEMを用いた超微細構造解析により、UVB照射は、成熟HDの形成を阻害し、Col17a1 cKOと同様に、COL17A1のシグナルを減少させることが明らかになった。
【0134】
これらのデータはあわせて、慢性的UVB媒介性のHD損傷が、COL17A1発現性表皮ケラチノサイトの障害により、表皮性色素沈着異常を誘発することを示している。さらに、マウスの基底層ケラチノサイトにおけるCOL17A1の過剰発現は、巨視的および微視的な色素沈着異常表現型、ならびにKIT表皮メラノサイトの年齢に関連した減少を有意に救済した(図9)。まとめると、これらのデータは、経時的老化および光老化の際に、表皮内のメラノサイトが、表皮内の隣接するCOL17A1発現性の表皮幹細胞によって維持されることを示している。
【0135】
皮膚の再生能力は加齢によって低下する。本発明者は、加齢による表皮幹細胞の変化が、表皮幹細胞のクローン化を経て進む皮膚創傷治癒にどう関わるか、真皮の線維芽細胞に影響するかどうかを試験した(図10)。PDGFRα陽性の間葉系細胞の分析は、老化によって表皮のすぐ下に位置する集団が有意に減少すること、また、hCOL17A1の強制発現がPDGFRα陽性細胞の年齢に関連した消失を救済することを示した。これらのデータは、COL17A1媒介性の表皮幹細胞の維持が、表皮真皮接合部の安定性を強化し、その破綻がひきおこす皮膚の萎縮やちりめんジワ、皮膚老化を含む皮膚器官の老化に抵抗することを示唆している。
【0136】
実施例6:HDが皮膚器官再生の鍵である
上記の仮説を検証するために、本発明者は、老齢野生型マウスの尾部皮膚を使用して、全層創傷治癒実験を行った。創傷領域の測定は、生理学的老化が創傷治癒過程を有意に遅延させることを示した。本発明者は次に、Col17a1またはITGA6欠損皮膚を分析し、どちらも有意に遅延した創傷修復を示すことを見出したが(図11)、これは、HDの不安定性が生理的な老化における創傷治癒不良につながることを示している。またマウスの基底層ケラチノサイトによるhCOL17A1の強制発現は、創傷治癒を促進した(図12)。これらのデータは、表皮幹細胞のCOL17A1媒介性のクローン増殖が、皮膚ホメオスタシスの幹細胞競合のためだけでなく、全層皮膚創傷治癒の再生のためにも不可欠であることを示している。
【0137】
COL17A1の過剰発現は皮膚創傷治癒を促進することから、本発明者は、in vitroでケラチノサイトにおけるCOL17A1発現を誘導する新規化合物を探索した。表1および図15に示すように、本発明者は培養ケラチノサイトにおいてCOL17A1の発現を誘導する2つの化学物質、Y27632およびアポシニン(Apocynin)を同定した。これらの化合物の効果がSCDを呈する表皮幹細胞の競合的自己複製能の増加によって媒介されることをin vitroで確認するために、本発明者は、ヒト表皮ケラチノサイトを用いたコロニー形成アッセイを行った。これに一致して、コロニー数はY-27632によって有意に増加し、コロニーサイズは両方の薬剤によって有意に増加した(表1、図13および図14)。
【0138】
in vivoでの有益な効果を確認するために、これらの薬物をネズミの尾の皮膚の全層創傷に投与した。両方の薬剤が、ヒトCOL17A1を過剰発現するtgマウスと同様に、創傷修復プロセスを有意に促進した(図12)。以上の結果からCOL17A1誘導性の薬剤が、表皮幹細胞の増殖による創傷縁部の再上皮化の促進を介して皮膚創傷治癒を促進することを示しており、これらの知見は、皮膚再生を促進するための新薬へと繋がる新たな道をひらくものであると言える。
【0139】
実施例7:表皮幹細胞の競合的自己複製能を維持促進する物質の探索
COL17A1の発現を誘導または維持する物質のさらなる探索を行った。ヒト表皮角化細胞を384ウェルプレートに播種したうえで試薬を加えて48時間培養し、抗COL17A1抗体ならびに蛍光標識した2次抗体にて蛍光免疫染色を行なったのち、ハイコンテンツイメージングシステムにて細胞あたりの蛍光強度を検出した(HCS:ハイコンテンツスクリーニング)。また、一部の物質についてはウェスタンブロッティング(WB)による分析も行った。DAPIによる細胞数の計測に加え、COL17A1の発現量を定量した。
【0140】
その結果、COL17A1の発現を介して表皮幹細胞の自己複製能力を維持する物質群を同定したが、ステロイドのほか細胞毒性を示す物質など一過性にCOL17A1の発現を上昇させるものの、長期的には自己複製能を減弱させる物質との区別が不十分であり、それらをCOL17A1の発現計測では除外できない。そこで、コロニー形成アッセイと組み合わせることにより、COL17A1を介した競合的自己複製能を長期促進する物質の選出に成功した。結果を図15と表1、表2に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
表1において、COL17A1発現量(コントロール比)における二重丸2つ(◎◎)は、発現量が2.0倍以上の増加を表し、二重丸1つ(◎)は、1.2倍以上の増加を表し、丸(〇)は、1.0-1.2倍の維持を表す。コロニー数またはコロニー面積のコントロール比において二重丸2つ(◎◎)は、1.2倍以上の増加を表し、二重丸1つ(◎)は、1.0-1.2倍の維持、Xは1.0以下を表す(以下同様)。ND(Not done)は、未解析を表す。
【0143】
表皮幹細胞が発現しているCOL17A1の発現を誘導または維持する物質のなかに、コロニー形成能力、つまり表皮幹細胞の自己複製能力を高めるものを多く認めた(図16、表1、表2)。一方で、ストレス反応性のCOL17A1発現変動との区別が難しい物質や、安定的にコロニー形成能力を低下させる物資も存在した。したがって、COL17A1の発現解析とコロニー形成能力の両方を組みあわせることで、生体内で『競合的自己複製能』を持つ物質を選択することが出来る。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
COL17A1の発現量の低下をみとめる抗がん剤及び分子標的薬を表3にまとめた。代謝拮抗薬やアルキル化剤など従来からの化学療法剤によってCOL17A1の発現が変動する。とくにがん細胞を標的とした分子標的薬によってCOL17A1の発現が顕著に低下する(表3)。
【0147】
実施例8:抗がん剤および各種ストレスによるCOL17A1の低下
7週齢のC57BL6マウスに抗がん剤ハイドロキシウレアを月3回投与し、3か月後に組織を回収して、COL17A1の抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、ハイドロキシウレアを投与したマウスでは基底層におけるCOL17A1の発現が顕著に低下していた(図17)。また、ヒト表皮角化細胞であるHaCaT細胞に放射線(20Gy、30Gy)、紫外線(20mJ、30mJ)を照射してそれぞれ、24時間後、72時間後に細胞を回収して、COL17A1に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。その結果、放射線照射、紫外線照射いずれにおいても顕著なCOL17A1タンパク量の低下がみられた。さらにHaCaT細胞に酸化ストレスを惹起する過酸化水素を投与して、同様にCOL17A1の発現を解析したところ、顕著な低下がみられた(図17)。
【0148】
以上のことから、抗がん剤、紫外線、放射線、酸化ストレスなど各種ストレスによってCOL17A1の発現が低下することが明らかとなった。
【0149】
実施例9:抗がん剤によって生じる皮膚障害のCOL17A1過剰発現による改善試験
ヒトCOL17A1を過剰発現するトランスジェニックマウス(COL17A1-Tg)とコントロールマウス(Control)(約18ヶ月齢)を実験環境への馴化を行った後、麻酔下で背部の毛を抜毛し、下記6群に群分けを行った。
・ ControlマウスEGF受容体阻害薬非投与群 (n=3)
・ COL17A1-TgマウスEGF受容体阻害薬非投与群(n=3)
・ ControlマウスEGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与群 (n=4)
・ COL17A1-TgマウスEGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与群 (n=4)
・ ControlマウスEGF受容体阻害薬(ゲフィチニブ)投与群 (n=3)
・ COL17A1-TgマウスEGF受容体阻害薬(ゲフィチニブ)投与群 (n=3)
【0150】
抗がん剤の一種でEGF受容体分子標的薬のエルロチニブまたはゲフィチニブは5mg/mlの濃度で0.5%メチルセルロース溶液に溶解し、試験開始から毎日50mg/kg/dayとなるように腹腔内注射により投与した。コントロールの非投与群には、溶媒の0.5%メチルセルロース溶液を同様に投与した。エルロチニブまたはゲフィチニブ投与を開始して7日目の各群のマウスについて、経表皮水分蒸散量(TEWL)を各群のマウスについて測定した。測定は、Tewameter TN300(独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて、マウス背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)について行った。
【0151】
図18に試験結果を示す。図18の結果より、エルロチニブまたはゲフィチニブを投与したControlマウスでは有意にTEWLが増加していたが、それと比較してCOL17A1を過剰に発現するTgマウスではエルロチニブまたはゲフィチニブを投与下においても、有意に低いTEWL値を示し、皮膚障害が軽減されていることが示唆された。このことから抗がん剤投与によって惹起された皮膚障害は、COL17A1の過剰発現によって表皮幹細胞の自己複製能を促進されることにより顕著に改善されることがわかる。
【0152】
実施例10:抗がん剤投与による皮膚障害の表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質による改善試験
C57BL6Nマウス雌性(7週齢または6か月齢)を実験環境への馴化を行った後、麻酔下で背部の毛を抜毛し、体重値がほぼ均一となるように、下記6群(n=4)に群分けを行った。
・7週齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)非投与群
・7週齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与+コントロール溶媒塗布群
・7週齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与+アポシニン200 μM塗布群
・6か月齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)非投与群
・6か月齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与+コントロール溶媒塗布群
・6か月齢/EGF受容体阻害薬(エルロチニブ)投与+アポシニン200 μM塗布群
【0153】
エルロチニブは5mg/mlの濃度で0.5%メチルセルロース溶液に溶解し、試験開始から毎日50mg/kg/dayとなるように腹腔内注射により投与した。コントロールの非投与群には、溶媒の0.5%メチルセルロース溶液を同様に投与した。コントロール溶媒塗布群とアポシニン200 μM塗布群には各調製物の水溶液を1日1回、背部に週5回塗布した。コントロール溶媒塗布群には、アポシニンの溶媒(50%エタノール/PBS)を同様に塗布した。7週齢マウスについてはエルロチニブ投与を開始して7日目、6か月齢マウスについては12日目のTEWLを各群のマウスについて測定した。測定は、Tewameter TN300(独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて、マウス背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)について行った。
【0154】
図19に試験結果を示す。図19の結果より、エルロチニブを投与したマウスでは顕著にTEWLが増加していたが、エルロチニブを投与下においてもアポシニンを塗布した群では、有意にTEWLが低下し、皮膚障害が軽減されていた。このことから分子標的薬投与によって惹起された皮膚障害は、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質によって顕著に改善されることがわかる。
【0155】
実施例11:高齢マウスの皮膚障害の表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質による改善試験
高齢マウスの頸部ー背側上部皮膚において高濃度エタノール(100%)によって誘発される刺激性皮膚障害(乾燥性湿疹・脱毛)モデルについて、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質(アポシニン)を継続的に塗布した。その結果、図20に示すように皮膚障害が顕著に軽減され、顕著に予防ならびに治療効果が得られた。
【0156】
実施例12:バリア機能改善試験
皮膚バリア機能は、皮膚が果たす主要機能であり、体内から水分が蒸散したり、体外からの異物侵入を防ぐ働きをもっているが、紫外線照射により反応性に表皮が厚くなると同時にバリア機能が低下する。一般に角層水分量やTEWLが皮膚バリア機能の評価に用いられ、反応性の表皮の厚みと合わせて、紫外線や抗がん剤などによる皮膚障害の程度を反映する指標とされている。
【0157】
ヘアレスマウスHOS:HR-1雌性(7週齢)を実験環境への馴化を行った後、体重値がほぼ均一となるように、下記6群に群分けを行った。
・ 紫外線非照射群(n=2)
・ 紫外線(UVB)照射+溶媒塗布群(n=4)
・ 紫外線(UVB)照射+アポシニン200 nM塗布群(n=4)
・ 紫外線(UVB)照射+アポシニン200 μM塗布群(n=4)
・ 紫外線(UVB)照射+Y-27632 2 μM塗布群(n=4)
・ 紫外線(UVB)照射+Y-27632 20 μM塗布群(n=4)
【0158】
このとき、上記溶液塗布群には、ヘアレスマウスに各調製物の水溶液を紫外線照射前日から1日1回、毎日背部に5日間塗布した。また、「紫外線+溶媒塗布群」では、上記実施例1の調製物の溶媒(50%エタノール/PBS)を同様に塗布した。UVB照射はヤヨイ社製紫外線照射装置(Y-UV-Lab-K-D5灯型)を使用し、一日1回150mJ/cm の強度で照射した。紫外線照射を開始して4日目の照射部位の角層水分量およびTEWLを各群のマウスについて測定した測定は、Corneometer CM825およびTewameter TN300(独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて、マウス背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)について行った。
【0159】
図21は、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質による紫外線照射に対する角層水分量保持作用を示す。紫外線照射後の角層水分量は、紫外線照射なしのコントロール群と比較して有意に低い値を示したが、アポシニン200μM投与群、Y-27632 2μM 、20μM投与群では、有意に高い角層水分量を示した。これにより、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質は、紫外線照射に対して、角層水分量を保持させる作用を有することが明らかとなった。
さらに、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質による紫外線照射に対するTEWL抑制作用を解析した。図21に示すように、紫外線照射後のTEWLは、紫外線照射なしのコントロール群と比較して有意に高い値を示したが、アポシニン200μM投与群、Y-27632 20μM投与群では、有意に低いTEWLを示した。これにより、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質は、紫外線照射によるTEWLの増大を抑制する作用を有することが明らかとなった。
【0160】
実施例13:皮膚弾力性(肌のハリ)改善評価
紫外線や加齢により真皮の状態が変化ことで、皮膚は弾力(=ハリ)を失い、シワやたるみが生じる。皮膚の弾力を確認する指標には、皮膚を引っ張ったときの伸びや放したときの戻りなどがあり、加齢により複数の弾力性指標が低下することがわかっている。皮膚の弾力性の増加は、皮膚のシワ、たるみ又はハリの改善効果につながると考えられる。
【0161】
ヘアレスマウスHOS:HR-1雌性(7週齢)を実験環境への馴化を行った後、体重値がほぼ均一となるように、下記3群(n=4)に群分けを行った。
・ 紫外線非照射群
・ 紫外線(UVA+UVB)照射+溶媒塗布群
・ 紫外線(UVA+UVB)照射+アポシニン200 μM塗布群
【0162】
このとき、上記溶液塗布群には、各調製物の水溶液をUV照射前日から1日1回、背部に週3回5週間塗布した。また、「紫外線+溶媒塗布群」では、アポシニンの溶媒(50%エタノール/PBS)を同様に塗布した。UVB照射はヤヨイ社製紫外線照射装置(Y-UV-Lab-K-D5灯型)を使用し、週3回UVAを2J/cm 、UVBを150mJ/cm の強度で5週間照射した。
【0163】
紫外線照射を開始して5週間目の各群の背部(背骨中央部に対して左右対称に二カ所)の皮膚弾力測定を行った。 皮膚の弾力性は、Cutometer MPA580 (独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて測定し(パラメータ設定:300mba、オン時間2秒、オフ時間2秒)、3回の測定値の平均値を解析に使用した。 マウス背部の皮膚を2秒間吸引してから、2秒後に吸引を解除することにより、吸引直後と吸引解除直前と吸引解除直後のそれぞれの時点で皮膚が伸びた長さを測定し、吸引初期の急速な伸展性(Ue:単位mm)、吸引解除直前の最大皮膚伸展度(Uf:単位mm)、吸引解除直後の急速回復量(Ur:単位mm)とした。 正味の弾力の指標として、R5=Ur/Ueを、弾力性の指標として、R7=Ur/Ufを用いた。
【0164】
図22に示される通り、紫外線照射によって皮膚の弾力の値は有意に低下するが、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質を塗布した試験群では、比較群に比べて、有意に皮膚の弾力を改善した。皮膚の弾力の増加は、皮膚のシワ、たるみ又はハリの改善効果につながると考えられる。このことから、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質を塗布することにより、皮膚のシワ、たるみ又はハリ改善効果が得られることが示唆された。
【0165】
実施例14:長期塗布による皮膚弾力性(肌のハリ)向上性評価
表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質による肌のハリの改善効果について、ヘアレスマウスHOS:HR-1雌性(7週齢)を実験環境への馴化を行った後、体重値がほぼ均一となるように、下記3群(n=2)に群分けを行った。
・ コントロール(溶媒)塗布群
・ アポシニン200μM塗布群
・ レチノール0.1%塗布群
【0166】
このとき、上記溶液塗布群には、各調製物の水溶液を1日1回、背部に週3回7週間塗布した。塗布を開始して7週間後(53日目)の各群の背部(背骨中央部に対して左右対称に二カ所)において、TEWL測定と皮膚弾力測定を行った。TEWL測定は、Tewameter TN300(独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて、マウス背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)について行った。皮膚の弾力性は、Cutometer MPA580 (独Courage+Khazaka社製、株式会社インテグラル)を用いて測定し(パラメータ設定:300mba、オン時間2秒、オフ時間2秒)、3回の測定値の平均値を解析に使用した。 マウス背部の皮膚を2秒間吸引してから、2秒後に吸引を解除することにより、吸引直後と吸引解除直前と吸引解除直後のそれぞれの時点で、皮膚が伸びた長さを測定し、吸引解放時の皮膚の戻り(Ua:単位mm)、吸引初期の急速な伸展性(Ue:単位mm)吸引解除直前の最大皮膚伸展度(Uf:単位mm)、吸引解除直後の急速回復量(Ur:単位mm)とした。正味の弾力の指標として、R5=Ur/Ueを、弾力性の指標として、R7=Ur/Ufを設定した。総弾性の指標として、R2=Ua/Ufを設定した。
【0167】
図23に示される通り、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質を長期に継続的に塗布した試験群では、比較したレチノールに比べて、3つの指標すべてにおいて、有意に皮膚の弾力性を改善した。さらに、レチノールは継続塗布によって皮膚のTEWLを著しく増加させ、バリア機能を抑制する作用があると考えられるが、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質においては、正常なバリア機能が維持されており、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質の継続塗布は皮膚のバリア機能を正常に保ちつつ、弾力を増加させ、皮膚のしわ、たるみ又はハリの予防、改善効果をもたらすと考えられる。
【0168】
実施例15:シワ改善試験
紫外線(UVA)長期照射によってシワの形成を誘発したマウスモデルにおいて、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質によるシワの改善効果をみた。
【0169】
ヘアレスマウスHOS:HR-1雌性(7週齢)を実験環境への馴化を行った後、体重値がほぼ均一となるように、下記3群に群分けを行った。
・ 紫外線非照射群 (n=2)
・ 紫外線(UVA+UVB)照射+溶媒塗布群 (n=4)
・ 紫外線(UVA+UVB)照射+アポシニン200μM塗布群(n=4)
・ 紫外線(UVA+UVB)照射+レチノール0.1%塗布群(n=2)
【0170】
このとき、上記溶液塗布群には、ヘアレスマウスに各調製物の水溶液をUV照射前日から1日1回、背部に週3回5週間塗布した。また、「紫外線+溶媒塗布群」では、アポシニンの溶媒(50%エタノール/PBS)を同様に塗布した。シワの改善に効果があるとされるレチノールを比較対照群として0.1%の濃度で同様に塗布した。UVB照射はヤヨイ社製紫外線照射装置(Y-UV-Lab-K-D5灯型)を使用し、週3回UVAを20J/cm、UVBを100mJ/cmの強度で4週間照射した。
紫外線照射を開始して1週目から4週目までの各群のマウスについて、背部を高解像度三次元画像解析装置PRIMOS-CR(米Canfield Scientific社製、株式会社インテグラル)で撮影した。得られた像をもとに、Primos OMC3_22ソフトウェアでシワ総体積(mm3)と総シワ平均深さ(μm)を測定した。皮膚の柔軟性は、Cutometer MPA580 (独Courage+Khazaka社、株式会社インテグラル)を用いて測定し、R0の値を皮膚柔軟性とした。R0の値は、角質の状態を反映し、皮膚の柔軟性の指標となる。TEWLは各群の背部(背骨中央部に対して左右対称に二カ所)についてTewameter TN300 (独Courage+Khazaka社、株式会社インテグラル)を用いて計測した。
【0171】
図24に示される通り、紫外線照射によって皮膚のシワは有意に増加するが、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質を塗布した試験群では、コントロール群に比べて、シワの形成が抑制されており、その度合いはレチノールよりも顕著であった。このときのシワ総体積(mm3)と総シワ平均深さ(μm)を計測したところ、図24に示される通り、紫外線照射によって皮膚のシワは有意に増加するが、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質を塗布した試験群では著しく改善した。このことから、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質を塗布することにより、皮膚のシワ改善効果が得られることが示唆された。
【0172】
また、経表皮水分蒸散量(TEWL)を各群のマウスについて測定したところ、レチノールを塗布した群では、他の群と比較して顕著なTEWLの増加がみられた(図25)。一方で、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質を塗布した群ではTEWL値はコントロールと差がなく、正常なバリア機能を保持しつつ、シワを軽減することが示唆された。
【0173】
レチノールにおけるTEWLの著しい亢進がみられたことから、角層の状態を反映するとされる皮膚柔軟性(R0)を各群のマウスについて測定した。その結果、UV照射によって皮膚の柔軟性の値は有意に低下するが、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質を塗布した試験群では、比較対象のレチノールに比べて、有意に皮膚の柔軟性を改善した(図26)。このことから、表皮幹細胞の細胞競合能を促進する物質はレチノールと比較して、角層の状態を良好に維持しながらシワを改善する作用があることが明らかとなった。
【0174】
実施例16:肌荒れ改善試験(アポシニン)
10%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で誘発させた肌荒れモデル(化学物質による皮膚障害のスタンダードとなる試験)を用い、表皮幹細胞の競合的自己複製能を促進する物質(アポシニン)を投与して、肌荒れ予防又は改善剤の肌荒れ改善効果を評価した。
【0175】
ヘアレスマウスHOS:HR-1雌性(7週齢)を実験環境への馴化を行った後、体重値がほぼ均一となるように、下記3群に群分けを行った。
・SDS非処理群 (n=2)
・SDS処理+溶媒塗布群(n=4)
・SDS処理+アポシニン 200μM塗布群(n=4)
【0176】
ヘアレスマウス背部に、10%SDS溶液(70%エタノールに溶解)500μLをしみこませた綿花を1日目、2日目、3日目、4日目に30分間ずつ貼付した。アポシニンは、試験前日から4日目まで毎日背部に塗布した。試験開始を開始して3日目の各群のマウスについて、上記と同様に背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)についてTEWLを測定した。また8日目に、高解像度三次元画像解析装置PRIMOS-CR(米Canfield Scientific社製、株式会社インテグラル)で撮影し、得られた像をもとに、TEWLを測定した部位と同じ背骨中央部から対称に左右2カ所(各10mmx10mm)について、Primos OMC3_22ソフトウェアを用いて「Ra(算術平均粗さ)」、「Rz(十点平均粗さ)」と呼ばれる肌の表面粗さを表す高さ方向のパラメータで肌荒れの程度を計測した。
【0177】
図27、28に示す試験結果より、SDS処理したコントロールでは、有意にTEWLが上昇し、肌荒れの指標となるRaおよびRzの値が増加しており、著しく肌荒れが誘発されていた。一方、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(アポシニン)を塗布したマウスでは、溶媒を塗布したコントロール群と比較して、有意に背部のTEWLが低下し、背部の表面のRa値およびRz値も有意に減少していた。
【0178】
以上の結果より、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(アポシニン)には、顕著な肌荒れ予防又は肌荒れ改善作用が認められた。
【0179】
実施例17:肌荒れ改善試験(エブセレン)
10%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で誘発させた肌荒れモデルを用い、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(エブセレン)を投与して、肌荒れ予防又は改善剤の肌荒れ改善効果を評価した。
【0180】
ヘアレスマウス背部に、10%SDS溶液(70%エタノールに溶解)500μLを浸透せた綿花を1日目、2日目、3日目、4日目に30分間貼付した。エブセレンは、試験前日から4日目まで毎日背部に塗布した。試験開始を開始して8日目の各群のマウスについて、上記と同様に背部の特定の部位(背骨中央部から対称に左右2カ所)についてTEWLを測定した。同時に、高解像度三次元画像解析装置PRIMOS-CR(米Canfield Scientific社製、株式会社インテグラル)で撮影し、得られた像をもとに、TEWLを測定した部位と同じ背骨中央部から対称に左右2カ所(各10mmx10mm)について、Primos OMC3_22ソフトウェアを用いて「Ra(算術平均粗さ)」と「Rz(十点平均粗さ)」と呼ばれる表面粗さを表す高さ方向のパラメータで肌荒れの程度を計測した。
【0181】
図29,30に示す試験結果より、SDS処理したコントロールでは、有意にTEWLが上昇し、肌荒れの指標となるRaおよびRzの値が増加しており、著しく肌荒れが誘発されていた。一方、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(エブセレン)を塗布したマウスでは、溶媒を塗布したコントロール群と比較して、有意に背部のTEWLが低下し、背部の表面のRa値およびRz値も有意に減少していた。
【0182】
以上の結果より、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(エブセレン)には、顕著な肌荒れ予防又は肌荒れ改善作用が認められた。
【0183】
実施例18:ヒト肌荒れ改善試験
被験者2名について、10%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で誘発させた肌荒れ試験(ヒトにおける化学物質による皮膚障害のスタンダードとなる試験)を用い、表皮幹細胞の自己複製能を促進する物質(アポシニン、エブセレン、セレコキシブ)を投与して、肌荒れ予防又は改善剤の肌荒れ改善効果を評価した。
【0184】
被験者の前腕内側部に1.5cm四方の四角形の部位を6カ所設け、それぞれに下記の処理を行った。
・SDS非処理(70%エタノール処理)群
・SDS処理+溶媒(50%エタノール/PBS)塗布群
・SDS処理+アポシニン (200μM)溶液塗布群
・SDS処理+エブセレン(0.25%)溶液塗布群
・SDS処理+セレコキシブ(2%)溶液塗布群
【0185】
被験部に、10%SDS溶液(70%エタノールに溶解)500μLを浸透させた綿花を0日目、1日目に30分間ずつ貼付した。アポシニンは、0日目のSDS処理前、処理後に塗布のあと、9日目まで毎日1回被験部に塗布した。各被験部についてSDS処理前、処理後、1日目から7日目まで毎日TEWLを測定した。各部位について、測定日のTEWL値からSDS処理前のTEWL値を差し引いた値を「ΔTEWL」とし、この値を評価の対象とした。また、デジタルカメラでおよび高解像度三次元画像解析装置PRIMOS-CR(米Canfield Scientific社製、株式会社インテグラル)で被験部を撮影した。PRIMOS撮影画像についてはPrimos OMC3_22ソフトウェアを用いて「Ry(最大高さ)」と「Rz(十点平均粗さ)」と呼ばれる表面粗さを表す高さ方向のパラメータで肌荒れの程度を計測した。各部位について、測定日RzまたはRy値からSDS非処理のコントロールのRzまたはRy値を差し引いた値を「ΔRz」「ΔRy」とし、この値を評価の対象とした。
【0186】
図31-33に試験結果を示す。図31に示すように、SDS処理後コントロールおよび各溶液を塗布した患部で発赤と肌荒れが明確にみられるが、7日目にはコントロール溶液を塗布した患部では発赤と肌荒れが続いているものの、アポシニン、エブセレン、セレコキシブの塗布部では顕著にそれらの軽減がみられた。さらに16日目において、コントロールでは患部に色素の沈着がみられたが、アポシニンを塗布した患部では色素の沈着は殆どみられなかった。また図32に示すように、SDSによって惹起された肌荒れによりΔTEWLの値が著しく増加するが、アポシニン、エブセレン、セレコキシブの塗布によってΔTEWLの値は顕著に低下していた。さらに図33の結果にみられるように、肌表面の高解像度写真をもとに肌のキメを解析すると、SDS処理のコントロールでは肌荒れが顕著に誘発されているのがわかるが、アポシニン、エブセレン、セレコキシブの塗布によってそれらが著しく軽減されることがわかる。さらに肌表面の粗さを示し、肌荒れの指標となるΔRz値およびΔRy値がSDS処理のコントロールでは有意に増加するが、アポシニン、エブセレン、セレコキシブを塗布した患部ではこれらのΔRz値およびΔRy値が有意に減少していた。このことからSDS溶液によって著しく誘発された肌荒れならびに色素沈着は、表皮幹細胞の競合的自己複製能を促進する物質によって顕著な改善効果を有することがわかる。
【0187】
図31-33の結果より、表皮幹細胞の競合的自己複製能を促進する物質には、ヒトにおいても顕著な肌荒れの予防又は改善作用が認められ、化学物質などによる皮膚障害の予防と治療に有効であると考えられた。
【0188】
製造例1
(1)ラフマ(Apocynum venetum)抽出物の製造
ラフマ抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。ラフマ(Apocynum venetum)の乾燥葉を粉砕し、その粉砕物に60%エタノールを加え、加熱環流後、ろ過し抽出液を得た。抽出残渣を再度60%エタノールにて加熱環流した後、ろ過し抽出液を得た。1回目の抽出液と2回目の抽出液をあわせ、減圧濃縮後、pHを3に調整し、一晩攪拌した。ろ過し不溶物を除去し、得られたろ過液を合成吸着樹脂に通液させ、水洗した後に70%エタノールで脱離した画分を集め、減圧濃縮、スプレー乾燥を行い、ラフマ抽出物を得た。
【0189】
(2)桑(Morus alba)抽出物
桑抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。桑(Morus alba)の葉に50%エタノールを加え、加熱還流後、ろ過し抽出液を得た。抽出液を減圧濃縮した後、賦形剤を入れて、乾燥を行い、桑抽出物を得た。
【0190】
(3)ギムネマ(Gymnema sylvestre)抽出物の製造
ギムネマ抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。ギムネマ(Gymnema sylvestre)葉の粉砕物を70%エタノールで加熱還流抽出し、ろ過し抽出液を得た。得られた抽出液を減圧濃縮したあと、減圧乾燥し、ギムネマ抽出物を得た。
【0191】
(4)茶(Camellia sinensis)抽出物
茶抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。茶(Camellia sinensis)葉を熱水抽出し、ろ過し抽出液を得た。得られた抽出液を吸着樹脂で精製を行ったあと、減圧濃縮し、乾燥を経て、茶抽出物を得た。
【0192】
(5)マリアアザミ(Silybum marianum)抽出物
マリアアザミ抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。マリアアザミ(Silybum marianum)ソウ果(脱脂滓)を90~95%エタノールで加熱還流抽出し、ろ過し抽出液を得た。抽出液を減圧濃縮し、エタノールで精製したあと、減圧濃縮、温風乾燥を経て、マリアアザミ抽出物を得た。
【0193】
(6)ビワ(Eriobotrya japonica)葉抽出物
ビワ葉抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。ビワ(Eriobotrya japonica)葉の粉砕物を80%エタノールで加熱還流抽出し、ろ過し抽出液を得た。得られた抽出液に活性炭を入れて、脱色工程を行ったあと、脱色液を減圧濃縮、減圧乾燥し、ビワ葉抽出物を得た。
【0194】
(7)黒ウコン(Kaempferia parviflora)抽出物の製造
黒ウコン抽出物は(株)常磐植物化学研究所製のものを用いた。黒ウコン(Kaempferia parviflora)根茎の乾燥チップをミキサーにより粉砕し、その粉砕物に80%エタノールを加え、加熱還流後、ろ過し抽出液を得た。抽出残渣を再度80%エタノールにて、加熱還流した後、ろ過し抽出液を得た。1回目の抽出液と2回目の抽出液をあわせ、減圧濃縮した後、賦形剤を入れて、減圧乾燥を行い、黒ウコン抽出物を得た。
【0195】
製造例2
表4に示す植物エキスを、各種植物のそれぞれの部位から所定の抽出溶媒を用いて抽出した。
【0196】
【表4】
【0197】
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。なお、本願は、特願2019-59616号(出願日:2019年3月27日)の優先権を主張する出願であり、これは引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0198】
上記のとおり、本発明者は、皮膚の老化と再生、さらに抗がん剤や放射線による皮膚障害にCOL17A1(XVII型コラーゲン)が関与していることを見出し、皮膚創傷治癒の促進、皮膚老化の抑制、細胞競合の制御、および表皮幹細胞の再生能力の向上のために有用な組成物を同定した。抗がん剤による皮膚障害による治療継続が大きな課題となっており、予後に関わる問題となっている。がん治療を継続しながら仕事を継続するがん患者は年々増加しており、アピアランスケアのニーズは極めて高い。本願に開示の組成物、細胞および方法は、抗がん剤治療の継続、外科医療、再生医療、美容等の分野において、有効に利用されうる。
図1
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【手続補正書】
【提出日】2024-09-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミまたは色素沈着を抑制するための組成物であって、細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質、細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質、表皮幹細胞の自己複製能を維持する物質、細胞におけるゲノムストレスまたは酸化ストレスを抑制する物質、および細胞におけるDNA損傷を抑制する物質から成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
シミまたは色素沈着が抗がん剤、紫外線、放射線、および/または酸化ストレスにより引き起こされる色素異常によるものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、NADPHオキシダーゼ阻害剤、COX阻害剤、iNOS阻害剤、ROCK阻害剤およびエストロゲン様物質から成る群より選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
NADPHオキシダーゼ阻害剤が、アポシニン、エブセレン、Diphenyleneiodonium (DPI)、GKT137831、AEBSF、GK-136901、ML171、Coenzyme Q10(CoQ10)、VAS2870およびVAS3947から成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項5】
COX阻害剤が、セレコキシブ、デラコキシブ、トルフェナミク酸、ニフル酸、FR122047、LM-1685、SC-791、BTB02472、ニメスリド、SPB04674、クルクミン、ジクロフェナク、4’-ヒドロキシジクロフェナク、DuP-697、エブセレン、ETYA、フルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、メロキシカム、NPPB、NS-398、プテロスチルベン、レスベラトロール、SC-560、SKF-86002、TXA(トラネキサム酸)、TXC(トラネキサム酸セチル塩酸塩)、アスタキサンチン、および硫化スリンダクから成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項6】
iNOS阻害剤が、1400W、L-NIL、アミノグアニジン、BYK190123、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714((1S,5S,6R,7R)-7-クロロ-3-イミノ-5-メチル-2-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタンヒドロクロリド)、AMT塩酸塩(2-アミノ-5,6-ジヒドロ-6-メチル-4H-1,3-チアジン塩酸)、AR-C102222、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、L-NIO、デキサメタゾン、エストロゲン、アスタキサンチン、およびアピゲニンから成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項7】
ROCK阻害剤が、Y-27632、リパスジル(K-115)、チアゾビビン(Thiazovivin)、ファスジル(HA-1077)、GSK429286A、RKI-1447、GSK269962、ネタルスジル(AR-13324)、Y-39983、ZINC00881524、KD025、ヒドロキシファスジル(HA-1100)、GSK180736AおよびAT13148から成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項8】
エストロゲン様物質が、エストロゲン、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ダイズエキス、イソフラボン、ヒオウギエキス、プエラリアミリフィカ根エキスから成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項9】
細胞におけるCOL17A1の発現を誘導または維持する物質が、アポシニン、エブセレン、セレコキシブ、アピゲニン、Y-27632、リパスジル、1400W、エチニルエストラジオール、ビオカニンA、ネクロスタチン1、ラフマ抽出物、桑抽出物、ギムネマ抽出物、茶抽出物、ビワ葉抽出物、マリアアザミ抽出物、黒ウコン抽出物、セイヨウオオバコ種子エキス、コーヒー種子エキス、ソメイヨシノ葉エキス、メリアアザジラクタ葉エキス、マンダリンオレンジ果皮エキス、ラベンダー花エキス、クララ根エキス、コメヌカエキス、カニナバラ果実エキス、ハメマリス葉エキス、ユーカリ葉エキス、サンザシエキス、ニンジンエキスから成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項10】
細胞におけるCOL17A1の分解を抑制する物質が、好中球エラスターゼ(ELANE)阻害剤およびマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤から成る群より選択される、請求項記載の組成物。
【請求項11】
ELANE阻害剤が、シベレスタットナトリウム水和物(Monosodium N-{2-[4-(2,2-dimethylpropanoyloxy)-phenylsulfonylamino]benzoyl}aminoacetate tetrahydrate)、ONO-6818(2-(5-Amino-6-oxo-2-phenylhydropyrimidinyl)-N-[2-(5-tert-butyl-1,3,4-oxadiazol-2-yl)-1-(methylethyl)-2-oxoethyl]acetamide)、α1アンチトリプシン(α1-AT)、デペレスタット(Depelestat)、ニールワン(三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na)、シソ葉発酵物、パセリ発酵物、ピーマン発酵物、ELANEに対する抗体、ELANEをコードする遺伝子に対するsiRNA、およびELANEをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドから成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
MMP阻害剤が、マリマスタット(Marimastat)、バチマスタット(Batimastat)、PD166793、Ro32-3555、WAY170523、UK370106、TIMP1、TIMP2、TIMP3、およびTIMP4から成る群より選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
ゲノムストレスが、紫外線、放射線もしくは抗癌剤によるDNA損傷ストレス、または細胞分裂に伴う複製ストレスのいずれかである、請求項1~12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
医薬組成物である、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
薬学的に許容可能な賦形剤を含有する、請求項1~14のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
経口投与用である、請求項1~15のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
塗布剤である、請求項1~15のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
化粧品組成物である、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項19】
スキンケアに用いるための組成物である、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
皮膚抗老化剤、皮膚色調剤、抗炎症剤および日焼け防止剤のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項18または19記載の組成物。
【請求項21】
美容サプリメントである、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項22】
経口摂取するためのものである、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
シミまたは色素沈着を抑制するための組成物であって、アポシニンを有効成分として含有することを特徴とする、組成物。