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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175146
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20241211BHJP
   C08K 5/3432 20060101ALI20241211BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20241211BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20241211BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20241211BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K5/3432
C08K5/18
C08F214/26
F16J15/10 G
F16J15/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149140
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 佑介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 洋之
【テーマコード(参考)】
3J040
3J043
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3J040FA07
3J040HA06
3J043AA04
3J043DA02
4J002BD151
4J002EN077
4J002ES017
4J002EU066
4J002FD066
4J002FD157
4J002GQ00
4J100AC22Q
4J100AC22R
4J100AC26P
4J100CA05
4J100FA03
4J100FA21
4J100FA28
4J100JA28
(57)【要約】
【課題】シアノ基を架橋性基とする含フッ素エラストマーにおいて、この加硫物がプラズマ照射条件下で使用され、300℃以上といった高温条件下においてもすぐれた耐熱性を示すといった含フッ素エラストマーを提供する。
【解決手段】 (A)テトラフルオロエチレン60.0~80.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)19.8~35.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー100重量部当り、キナクリドン0.2~0.9重量部およびビスアミドキシム化合物または2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン0.2~5重量部を配合した含フッ素エラストマー組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラフルオロエチレン60.0~80.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)19.8~35.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー100重量部当り、キナクリドン0.2~0.9重量部およびビスアミドキシム化合物または2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン0.2~5重量部を配合した含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
(A)テトラフルオロエチレン60.0~68.8モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)31.0~35.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマーが用いられる請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
キナクリドン以外の充填剤を含有しない請求項1または2記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1、2または3の請求項に記載の含フッ素エラストマー組成物を加硫成形して得られた着色成形物。
【請求項5】
圧縮永久歪が300℃、500時間で50%以下であり、ゴム硬度(Duro A)が75以下である請求項4記載の着色成形物。
【請求項6】
着色成形物がシール材である請求項4記載の着色成形物。
【請求項7】
プラズマ照射用途に用いられる請求項6記載の着色シール材。
【請求項8】
半導体製造装置用として用いられる請求項7記載の着色シール材。
【請求項9】
シリコンウェハーの表面処理加工室の面シールとして用いられる請求項8記載の着色シール材。
【請求項10】
ゲートバルブ用途に用いられる請求項7記載の着色シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、半導体製造装置用シール等のプラズマ照射用途に好適に用いられる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用シールは、半導体の基板であるシリコンウェハー等の表面にエッチング加工あるいは薄膜を形成させるなどの処理をするための加工室等に用いられる面シールとして適用されるものであり、耐熱性、低ガス透過性、低発塵性(シールからの塵の発生が少ないこと)などが要求される。シリコンウェハーエッチング処理時などには、酸素あるいはCF4雰囲気下などでプラズマ照射されるため、酸素あるいはハロゲン等のガスが励起された状態となり、その結果半導体製造装置用シールは劣化し易く、またその表面が脆くなり、劣化物や脆化物が飛散して、シリコンウェハー上に付着するなどの不具合がみられる。
【0003】
ところで、半導体製造装置においては、300℃といった高温での使用要求に対して耐熱性にすぐれたシアノ基含有パーフルオロエラストマーなどが使用されている。一方、耐プラズマ性向上のために、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、珪酸アルミニウム等の無機充填剤を添加することが行われており、これら無機充填剤の添加はプラズマ照射環境下での重量減少の抑制に効果が認められるものの、チタン、バリウム、アルミニウムといった元素自体の存在が半導体業界では嫌われていることもあり、無機充填剤の使用を最低限とする材料であることが好ましい。
【0004】
ここで、含フッ素エラストマーである、フッ化ビニリデン[VdF]/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン[TFE]3元共重合体等のフッ素化されたフルオロエラストマーや、TFE/パーフルオロメチルビニルエーテル[PMVE]共重合体などの過フッ素化されたパーフルオロエラストマーは、耐熱性、耐薬品性などの点で他のゴムと比べて優れた性能を有していることから、自動車をはじめ各種工業分野でOリング、ガスケット、パッキン等のシール材の成型材料として広く使用されている。
【0005】
なかでも、パーフルオロモノマーであるTFE、HFP、PMVE等の重合体であるパーフルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマー以外の含フッ素エラストマーと比較して、より優れた耐熱性と耐薬品性とを有しており、半導体製造装置に用いられるOリングとして適している。ただし、単純にパーフルオロポリマーを架橋しただけでは、十分な耐熱性を確保できないことから、カーボン等ラジカルを補足する充填剤がそこに配合されるが、一方で耐プラズマ性を考慮した場合、こういった充填剤は異物としてコンタミ源となることから、プラズマが直接当たらない部位しか適用できないなどの制限がある。
【0006】
かかる制限に対し出願人は先に、半導体製造装置の高温使用環境において使用される、すぐれた耐熱性を示すシアノ基含有パーフルオロエラストマー(含フッ素エラストマー)およびその加硫剤として、(A)テトラフルオロエチレン72.8~74.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)26.8~24.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー100重量部当り、0.2~5重量部のビスアミドキシム化合物を加硫剤として配合せしめた含フッ素エラストマー組成物を提案している(特許文献1)。
【0007】
ここで開示されている発明では、TFE含量を72.8~74.0モル%と増加させることで耐プラズマ性を確保する一方、ゴム硬度が大変硬くなり、組付け時に問題が発生する可能性が高いといった課題がある。一般に、組付けに望ましい硬さ(Duro A, PEAK)は75以下が目安とされている。
【0008】
また一般的に、Oリングの使用寿命は、対象温度300℃で500時間後に圧縮永久歪70%以下、好ましくは50%以下が目安とされているが、そこに開示されているのは300℃または315℃で、70時間の値(ショアーA硬さ)が示されているにすぎない。
【0009】
特許文献2には、(a)臭素および/またはヨウ素含有架橋点形成化合物の存在下で含フッ素オレフィンを共重合反応させて得られたパーオキサイド架橋可能なテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体エラストマーまたはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン系共重合体エラストマー、(b)有機過酸化物架橋剤、(c)多官能性不飽和化合物共架橋剤および(d)トリアリルイソシアヌレート重合体を含有してなり、カーボンブラックおよび金属含有充填剤を含有しないフッ素ゴム組成物が開示されており、このフッ素組成物は良好な加硫物性を示す加硫物を与えるとされている。しかしながら、その実施例に示される加硫物の200℃、70時間における圧縮永久歪値あるいは250℃、70時間での空気老化試験の結果からみて、半導体用途などで要求される300℃における十分な耐熱性能を有しているとはいい難いものとなっている。
【0010】
一方、特許文献3には、含フッ素エラストマー100重量部に対して、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料およびアンスラキノン系顔料の少なくとも一種0.5~20重量部を含有してなり、加硫製品の耐プラズマ性を向上させる含フッ素エラストマー組成物が開示されているが、圧縮永久歪率の測定が200℃、70時間で行われていることから、300℃以上はもちろん、250℃近傍においても十分な耐熱性能を有しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009―161662号公報
【特許文献2】特開2005―344074号公報
【特許文献3】特許第4,720,501号公報
【特許文献4】特開2013―216771号公報
【特許文献5】特許第3,082,626号公報
【特許文献6】WO2008/041557
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、シアノ基を架橋性基とする含フッ素エラストマーにおいて、この加硫物がプラズマ照射条件下で使用され、300℃以上といった高温条件下においてもすぐれた耐熱性を示すといった含フッ素エラストマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる本発明の目的は、(A)テトラフルオロエチレン60.0~80.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)19.8~35.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー100重量部当り、キナクリドン0.2~0.9重量部およびビスアミドキシム化合物または2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン0.2~5重量部を配合した含フッ素エラストマー組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る含フッ素エラストマー組成物は、キナクリドンを特定量配合した上で、ビスアミドキシム化合物または2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを加硫剤として加硫成形することにより、300℃といった高温下での使用においても有効な半導体製造装置用シール材を形成させることができるといったすぐれた効果を奏する。得られたシール材は、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤を含有していなくともすぐれた耐熱性を示し、具体的には後記実施例に示される通り、300℃、168時間、300時間および500時間での圧縮永久歪値によって示されるような良好な高温耐熱性を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いられる含フッ素エラストマーは、(A)テトラフルオロエチレン60.0~80.0モル%、好ましくは60~68.8モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)19.8~35.0モル%、好ましくは31~35モル%、および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2~3.0モル%、好ましくは0.5~2.0モル%よりなる共重合組成を有する。
【0016】
(A)成分のテトラフルオロエチレンの共重合割合がこれよりも低いと、耐熱性の面で劣り、またシリコン、金属、シリカガラス等への粘着性が強くなり、一方これよりも高い共重合割合では、エラストマーというよりは樹脂的挙動を示すため、シール性能が悪化し、また加工性に劣るようになる。
【0017】
また、(B)成分のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)の共重合割合がこれよりも低いと、相対的にテトラフルオロエチレンの共重合割合が増加することもあって、共重合体が樹脂に近い状態となり、シール性能の低下が著しくなる。一方、これよりも共重合割合が高いと、特に粘着性が著しく悪化するようになる。
【0018】
(B)成分共単量体のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)としては、一般にはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が用いられる。また、パーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)としては、例えば次のようなものが用いられ、
これらの中で、特にCnF2n+1基がCF3基であるものが好んで用いられる。
【0019】
また、架橋サイト単量体としての(C)成分共単量体のパーフルオロ不飽和ニトリル化合物としては、次のようなものが用いられる。
【0020】
なお、(C)成分のパーフルオロ不飽和ニトリル化合物の共重合量は、架橋性基として必要な0.2~3.0モル%、好ましくは0.5~2.0モル%とされる。
【0021】
これら各単量体を用いての共重合反応は、一般にステンレス鋼製オートクレーブ中に水、パーフルオロオクタン酸アンモニウム等の含フッ素系乳化剤およびリン酸二水素カリウム等の緩衝剤を仕込んだ後、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)およびパーフルオロ不飽和ニトリル化合物を順次仕込み、約50~80℃に昇温させた後、過硫酸アンモニウム等のラジカル発生剤および亜硫酸ナトリウム等の還元剤より形成されるレドックス系開始剤を添加することにより行われる。反応圧力は、約0.75~0.85MPa程度に保たれることが好ましく、このため反応の進行と共に低下する反応容器内圧力を上げるため、これら3種の単量体混合物を追加分添しながら反応を行うことが好ましい。
【0022】
以上の成分を必須成分とする3元共重合体中には、共重合反応を阻害せずかつ加硫物性を損なわない程度(約20モル%以下)の他のフッ素化オレフィンや各種ビニル化合物などを共重合させることもできる。他のフッ素化オレフィンとしては、例えばフッ化ビニリデン、モノフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン等が用いられ、またビニル化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、トリフルオロスチレン等が用いられる。
【0023】
かかる3元共重合体よりなる含フッ素エラストマーには、キナクリドン(融点390℃)が含フッ素エラストマー100重量部当り0.2~0.9重量部、好ましくは0.2~0.8重量部、さらに好ましくは0.2~0.4重量部の割合で用いられる。キナクリドンがこれより少ない割合で用いられると、300℃以上といった高温条件下における耐熱性が劣るようになり、一方これより多い割合で用いられると、分散性に欠けるようになり、その結果目視できる凝集塊が生じ、ひいては破断起点となりうるようになってしまう。
【0024】
なお、特許文献4には、架橋性基としてシアノ基を有するパーフルオロエラストマー100重量部に、本発明においても加硫剤として用いるビスアミドキシム化合物加硫剤0.2~5重量部および融点300℃ 以上の着色剤0.005~0.3重量部を配合してなるパーフルオロエラストマー組成物が開示され、着色剤として、キナクリドンが挙げられている。この特許文献に開示された発明では、キナクリドンの添加が着色を目的とするに止まっており、実施例では本発明で規定する添加量を下回る0.1重量部が用いられた態様が示されているに過ぎず、そこには耐熱性の改善を目的とする本願発明の技術的思想は開示されているものではない。
【0025】
また、この特許文献では(B)成分であるパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)が30~24モル%の共重合組成を有するパーフルオロエラストマーが用いられており、これよりも共重合割合が高いと特に粘着性が著しく悪化するようになると述べられている。これに対して本発明では、特に粘着性を悪化させることなく(B)成分の好ましい範囲を31~35モル%に設定しており、これは(A)成分の好ましい範囲を60~68.8モル%と設定したことも関連している。
【0026】
含フッ素エラストマーには、特許文献5~6に記載される如き、一般式
HON=C(NH2)-(CF2)n-C(NH2)=NOH
n:1~10
で表わされる架橋性基としてシアノ基を含有するビスアミドキシム化合物または2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが加硫剤として、含フッ素エラストマー100重量部当り0.2~5重量部、好ましくは0.5~2重量部の割合で添加して用いられる。
【0027】
なお、この特許文献5の実施例に示されている組成物は、カーボンブラックが補強材として配合されているため、高度に清浄性が要求される用途等一部の用途においてはその適用が難しい可能性があり、また実施例中の275℃または300℃、70時間における圧縮永久歪の値から耐熱性に対するさらなる向上が求められる。また、特許文献6では、シリカを必須としており、やはり耐プラズマ性の点で課題が残っている。
【0028】
以上の必須成分よりなる含フッ素エラストマー組成物の調製は、例えば2本ロール等を用いて約30~100℃で混練することにより行われ、それの架橋は、約100~250℃で約10~120分間加熱することによって行われる。二次加硫を行う場合には、約150~300℃で行われ、下記実施例に記載される如く、段階的な昇温でオーブン加硫が行われることが好ましい。
【実施例0029】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0030】
参考例
内容積10Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、蒸留水5.0kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム90gおよびリン酸二水素カリウム78gを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換し、次いで減圧した。そこに、
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 130g
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕 130g
パーフルオロ(3-オキサ-8-シアノ-1-オクテン)〔CPeVE〕 15g
CF2=CFO(CF2)4CN
を順次仕込み、60℃に昇温させた後、過硫酸アンモニウム7gおよび亜硫酸ナトリウム1gを溶解させた0.3Lの水溶液を添加し、重合反応を開始させた。
【0031】
重合反応中、TFEを92~100g/hr、PMVEを92~100g/hr、CPeVEを3.9~4.3g/hrの分添速度でそれぞれ添加し、その間のオートクレーブの圧力を0.78~0.87MPaに保った。重合反応開始時から8.9時間後に分添を停止し、そのままの状態をさらに1時間保った。オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度25重量%の水性ラテックスを7.7kg得た。得られた水性ラテックスを26重量%塩化マグネシウム水溶液0.5Lとエタノール6Lと混合液中に加えて凝析させた後水洗し、110℃で10時間の乾燥を行って、白色のゴム状3元共重合体を2kg(収率99%)得た。
【0032】
このゴム状3元共重合体は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が88で、赤外線吸収スペクトルおよびNMR分析から、次のような組成であることが確認された。
TFE 65.4モル%
FMVE 33.3モル%
CPeVE 1.3モル%
【0033】
実施例1
テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)- パーフルオロ(3-オキサ-8-シアノ-1-オクテン)〔モル比65.4:33.3:1.3〕3元共重合体100重量部に、キナクリドン0.30重量部およびビスアミドキシム化合物(n=4)0.7重量部を加え、2本ロールミル上で30~100℃の温度で混練した。混練物を180℃で30分間プレス加硫(一次加硫)した後、次の条件下でのオーブン加硫(二次加硫)を行った。
90℃で4時間
90℃から204℃迄6時間かけて昇温
204℃で18時間
204℃から298℃迄3時間かけて昇温
298℃で8時間
【0034】
実施例2
実施例1において、ビスアミドキシム化合物の代わりに、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル) ヘキサフルオロプロパン3.0重量部が、またキナクリドン量が0.40重量部に、それぞれ変更されて用いられた。
【0035】
比較例1
実施例1において、キナクリドン量が0.05重量部に変更されて用いられた。
【0036】
比較例2
実施例1において、キナクリドン量が0.1重量部に変更されて用いられた。
【0037】
比較例3
実施例1において、キナクリドン量が1.0重量部に変更されて用いられた。
【0038】
実施例4
実施例2において、キナクリドンが用いられなかった。
【0039】
以上の各実施例および比較例で得られた加硫成形物について、次の各項目の測定を行った。
常態物性:JIS K6253-3(硬度)
JIS K6251(引張試験)
圧縮永久歪:ASTM Method B;P-24 Oリングについて、300℃で168、300、500
時間の条件下で測定
キナクリドンの分散性:2本ロールミル上で混練した後、混練物を2mmの厚みで分出
し、この混練物中1kgに目視できる凝集塊を評価
凝集塊は破断起点となりうることから、凝集塊1kg当り
5個以下をOK、6個以上をNGと評価
【0040】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。なお、比較例4の300℃、500時間後の圧縮永久歪は、Oリング表面がメルトしてしまい測定不可であった。


【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る含フッ素エラストマーに特定量のキナクリドンとビスアミドキシム化合物を配合してなる組成物を加硫成形して得られたOリング等のシール材は、300℃以上といった高温条件下においても変色あるいはブルームを生じることがなく、耐熱性に優れ、良好なシール性を保持し得る。
【0042】
そのため、プラズマ照射用途である半導体製造装置用のシール材等として有効に用いられる。また、シリコンウェハーの表面処理加工室の面シール、例えばチャンバーとチャンバーとの連結面あるいはチャンバーとゲート(扉)との接合面に適用され、真空を維持するためのOリングやパッキン等としても、有効に用いられる。